説明

ポリエステルフィルム貼り付け金属板用グラビアインキ

【課題】紫外線照射下であっても耐熱水性が低下し難く、かつ十分な成膜性、隠蔽性、耐ブロッキング性を有した白インキの提供。
【解決手段】基材のポリエチレンテレフタレートフィルムと構造的に接着性の優れるポリエステルポリオールを、ポリウレタン樹脂全量に対し、重量固形分比で20重量%以上ませることで、紫外線照射下でポリウレタン樹脂が部分的に分解した場合であっても、PETフィルムとポリエステルポリオール部の接着力が保たれることで、白インキの耐熱水性の低下を抑えることができることを見出した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステルフィルム貼り合わせ金属板用グラビアインキ(以下、「ラミネート缶用グラビアインキ」ということがある)、及び該インキを塗布したポリエステルフィルムと金属板とを接着してなるポリエステルフィルム貼り合わせ金属板(以下、「ラミネート金属板」ということがある)に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、飲料缶または食缶の金属製缶の外面に、あらかじめ印刷されたフィルムに接着剤をプレコートし、金属製缶用の金属板に熱ラミネートする方法が行われている。このような金属缶用ラミネート積層体においては、意匠性の観点から金属板特有の鼠色が嫌われることが多い。このためポリエステルフィルムと金属板の層間に、高濃度の酸化チタンを含有する白インキを形成し、金属板特有の鼠色を包み隠す方法が取られている。
【0003】
ここで白インキにはアルミナおよびシリカにより処理された酸化チタンが、用いられることが通常である。理由として、アルミナ処理のみが施された酸化チタンでは、光触媒活性が、アルミナおよびシリカにより処理された酸化チタンに比べて強いため、紫外線照射下でインキ中の樹脂を分解し易く、耐熱水性の低下を招き易いためである。
【0004】
一方、シリカ処理のみがなされた酸化チタンは、ウレタン樹脂と吸着し易いことが問題となる。すなわち、シリカ処理のみがなされた酸化チタンを使用すると、ウレタン樹脂が顔料分散に費やされ、インキ皮膜の形成に寄与できないため、十分な成膜性を得られず、印刷時にインキがガイドロールに取られる等のトラブルが発生する。
【0005】
そのため、樹脂の柔軟性を上げることで、インキ皮膜の成膜性を上げることが可能だが、柔軟性が高すぎると、耐ブロッキング性が低下し、印刷物の巻取り時にブロッキングが発生する等のトラブルが発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003‐306628
【特許文献2】特開2003‐306629
【特許文献3】特開平07‐216280
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、紫外線照射下であっても耐熱水性が低下し難く、かつ十分な成膜性、隠蔽性、耐ブロッキング性を有した白インキを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討を行った結果、ポリエチレンテレフタレートフィルム(以下PETフィルム)に接着性の優れるポリエステルポリオールを、ポリウレタン樹脂全量に対し、重量固形分比で20重量%以上含ませると、紫外線照射下でポリウレタン樹脂が部分的に分解した場合であっても、PETフィルムとポリエステルポリオール部の接着力が保たれるため、耐熱水性の低下を抑えることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、ポリウレタン樹脂(A)と、アルミナ処理のみが施された酸化チタン(B)とを、含むポリエステルフィルム貼り付け金属板用グラビアインキであって、
前記ポリウレタン樹脂(A)が、
数平均分子量1000〜2500のポリエステルポリオール
および
ポリイソシアネート
から合成されてなり、
数平均分子量1000〜2500のポリエステルポリオールが、
ポリウレタン樹脂(A)全量に対して、重量固形分比で、20重量%以上
含むことを特徴とするポリエステルフィルム貼り付け金属板用グラビアインキに関するものである。
【0010】
さらに、本発明は、前記酸化チタン(B)が、平均粒子径0.25μm以上0.30μm以下であることを特徴とする上記のポリエステルフィルム貼り付け金属板用グラビアインキに関するものである。
【発明の効果】
【0011】
紫外線照射下であっても耐熱水性が低下し難く、かつ十分な成膜性、隠蔽性、耐ブロッキング性を有した白インキを提供できるようになった。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、具体的に、本発明を説明する。
本発明において使用されるポリウレタン樹脂(A)について説明する。
該ポリウレタン樹脂は、数平均分子量1000〜2500のポリエステルポリオールを20重量%以上含み、必要に応じてその他水酸基を有する化合物、イソシアネート化合物、鎖伸長剤、および必要に応じて末端封鎖剤などを反応して得ることができる。有機溶剤にエステル、ケトン、アルコールなどの溶剤に可溶なポリウレタン樹脂である。なおポリエステルの数平均分子量(以下「Mn」と言うことがある)は水酸基価からポリマーが全てジオール分子であると仮定し、計算により求めた。
【0013】
本発明の課題解決のためには、基材であるポリエステルフィルムとの密着性という点から、ポリウレタン樹脂中に必ずポリエステルポリオールが含まれていることが必要である。さらに数平均分子量1000未満のポリエステルポリオールが過剰に含まれるとウレタン結合の密度が高くなり、硬く柔軟性のないインキ皮膜となるため、酸化チタンの種別に係わらず十分な成膜性が得られない。また数平均分子量が2500を超えるポリエステルポリオールが過剰に含まれると、ウレタン結合やウレア結合の結合密度が低下し、柔軟性は上がるが、耐ブロッキング性が低下することとなる。従ってポリウレタン樹脂中には数平均分子量1000〜2500のポリエステルポリオールが含まれていることが必要である。
【0014】
さらに、前記数平均分子量1000〜2500のポリエステルポリオールが、ポリウレタン樹脂(A)全量に対して、重量固形分比で20重量%以上含まれていることが必要である。20重量%未満だと、紫外線照射下でポリウレタン樹脂が部分的に分解した場合に、耐熱水性の低下を抑えることができないためである。
【0015】
本発明のポリウレタン樹脂(A)に使用される前記ポリエステルポリオールとしては、エチレングリコール、1,2―プロパンジオール、1,3―プロパンジオール、2メチル−1,3プロパンジオール、2−ブチル−2−エチル−1,3プロパンジオール、1,3―ブタンジオール、1,4―ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ペンタンジオール、3−メチル−1,5ペンタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、1,4−ブチンジオール、1,4―ブチレンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、1,2,6−ヘキサントリオール、1,2,4−ブタントリオールソルビトール、ペンタエスリトールなどの飽和または不飽和の低分子ポリオール類を、アジピン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、マレイン酸、フマル酸、こはく酸、しゅう酸、マロン酸、グルタル酸、ピメリン酸、スペリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸などの多価カルボン酸あるいはこれらの無水物とを脱水縮合または重合させて得られる数平均分子量1000〜2500のポリエステルポリオールが挙げられる。
【0016】
さらに環状エステル化合物、例えばポリカプロラクトン、ポリバレロラクトン、ポリ(β−メチル−γ−バレロラクトン)等のラクトン類、を開環重合して得られる数平均分子量1000〜2500ポリエステルポリオールも使用することができる。
本発明のポリウレタン樹脂(A)に必要に応じて使用される併用ポリオールとしては、ポリウレタン樹脂の製造に一般的に用いられる各種公知のポリオールを用いることができ、1種または2種以上を併用してもよい。
【0017】
例えば、数平均分子量1000未満のポリエステルポリオール(1);
数平均分子量が2500を超えるポリエステルポリオール(2);
酸化メチレン、酸化エチレン、テトラヒドロフランなどの重合体または共重合体のポリエーテルポリオール類(3);
エチレングリコール、1,2―プロパンジオール、1,3―プロパンジオール、2メチル−1,3プロパンジオール、2−ブチル−2−エチル−1,3プロパンジオール、1,3―ブタンジオール、1,4―ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ペンタンジオール、3−メチル−1,5ペンタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、1,4−ブチンジオール、1,4―ブチレンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、1,2,6−ヘキサントリオール、1,2,4−ブタントリオールソルビトール、ペンタエスリトールなどの飽和または不飽和の低分子ポリオール類(4);
【0018】
前記低分子ポリオール類(2)などと、例えばジメチルカーボネート、ジフェニルカーボネート、エチレンカーボネート、ホスゲン等との反応によって得られるポリカーボネートポリオール類(5);
ポリブタジエングリコール類(6);
ビスフェノールA に酸化エチレンまたは酸化プロピレンを付加して得られるグリコール類(7);
1分子中に1個以上のヒドロキシエチル、アクリル酸ヒドロキシプロプル、アクリルヒドロキシブチル等、或いはこれらの対応するメタクリル酸誘導体等と、例えばアクリル酸、メタクリル酸又はそのエステルとを共重合することによって得られるアクリルポリオール(8)
などが挙げられる。
【0019】
本発明のポリウレタン樹脂(A)に使用されるジイソシアネート化合物としては、ポリウレタン樹脂の製造に一般的に用いられる各種公知の芳香族ジイソシアネート、脂肪族ジイソシアネート、脂環族ジイソシアネートなどが挙げられる。例えば、1,5―ナフチレンジイソシアネート、4,4'―ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4'―ジフェニルジメチルメタンジイソシアネート、4,4'―ジベンジルイソシアネート、ジアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、テトラアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、1,3―フェニレンジイソシアネート、1,4―フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、m−テトラメチルキシリレンジイソシアネート、ビス−クロロメチル−ジフェニルメタン−ジイソシアネート、2,6−ジイソシアネート−ベンジルクロライド、ブタン―1,4―ジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソプロピレンジイソシアネート、メチレンジイソシアネート、2,2,4―トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、シクロヘキサン―1,4―ジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジメリールジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン―4,4'―ジイソシアネート、1,3―ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート、ダイマー酸のカルボキシル基をイソシアネート基に転化したダイマージイソシアネート等があげられる。これらのジイソシアネート化合物は単独で、または2 種以上を混合して用いることができる。
【0020】
本発明のポリウレタン樹脂(A)に使用される鎖伸長剤としては、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、イソホロンジアミン、ジシクロヘキシルメタン―4,4’―ジアミンなどの他、2―ヒドロキシエチルエチレンジアミン、2―ヒドロキシエチルプロピルジアミン、2―ヒドロキシエチルプロピレンジアミン、ジ― 2―ヒドロキシエチルエチレンジアミン、ジ―2―ヒドロキシエチレンジアミン、ジ―2 ―ヒドロキシエチルプロピレンジアミン、2―ヒドロキシピロピルエチレンジアミン、ジ― 2―ヒドロキシピロピルエチレンジアミン、ジ―2―ヒドロキシプロピルエチレンジアミンなど分子内に水酸基を有するアミン類も用いることが出来る。これらの鎖伸長剤は単独で、または2 種以上を混合して用いることができる。
【0021】
また、反応停止を目的とした末端封鎖剤として、一価の活性水素化合物を用いることもできる。かかる化合物としてはたとえば、ジ−n−ブチルアミン等のジアルキルアミン類やエタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類があげられる。更に、特にポリウレタン樹脂中にカルボキシル基を導入したいときには、グリシン、L − アラニン等のアミノ酸を反応停止剤として用いることができる。これらの末端封鎖剤は単独で、または2 種以上を混合して用いることができる。
【0022】
本発明のポリウレタン樹脂(A)は、従来公知の方法、例えば、特開昭62−153366号公報、特開昭62−153367号公報、特開平1−236289号公報、特開平2−64173号公報、特開平2−64174 号公報、特開平2−64175号公報などに開示されている方法により得ることができる。具体的には、数平均分子量1000〜2500のポリエステルポリオール及び必要に応じて併用ポリオールをイソシアネート基が過剰となる割合で反応させ、末端イソシアネート基のプレポリマーを得、得られるプレポリマーを、適当な溶剤中、例えば、トルエン、キシレン等の芳香族系溶剤;酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチルなどのエステル系溶剤; アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶剤; メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n − ブタノールなどのアルコール系溶剤; メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサンなどの炭化水素系溶剤;あるいはこれらの混合溶剤の中で、鎖伸長剤および(または)末端封鎖剤と反応させる二段法、あるいはポリプロピレングリコール(PPG)および併用ポリオール、ジイソシアネート化合物、鎖伸長剤および(または) 末端封鎖剤を上記のうち適切な溶剤中で一度に反応させる一段法により製造される。
【0023】
これらの方法のなかでも、均一なポリウレタン樹脂を得るには、二段法によることが好ましい。また、ポリウレタン樹脂を二段法で製造する場合、鎖伸長剤および/または末端封鎖剤のアミノ基の合計(当量比)が1/0.9〜1.3の割合になるように反応させることが好ましい。イソシアネート基とアミノ基との当量比が1/1.3より小さいときは、鎖伸長剤および/または末端封鎖剤が未反応のまま残存し、ポリウレタン樹脂が黄変したり、印刷後臭気が発生したりする場合がある。
【0024】
このようにして得られるポリウレタン樹脂の重量平均分子量は、15,000〜100,000 の範囲内とすることが好ましい。ポリウレタン樹脂の重量平均分子量が15,000 未満の場合には、得られるインキの組成物の耐ブロッキング性、印刷被膜の強度や耐油性などが低くなる傾向があり、100,000を超える場合には、得られるインキ組成物の粘度が高くなり、印刷被膜の光沢が低くなる傾向がある。
【0025】
本発明のポリウレタン樹脂(A)のインキにおける含有量は、インキの被印刷体への接着性を十分にする観点からインキの総重量に対して4重量% 以上、適度なインキ粘度やインキ製造時・印刷時の作業効率の観点から25重量% 以下が好ましく、更には6〜15重量% の範囲が好ましい。
【0026】
次に本発明において使用されるアルミナ処理のみが施された酸化チタン(B)について説明する。
アルミナ処理のみが施された酸化チタン(B)は、不純物として微量なシリカ等が確認される場合があるものの、実質的にはアルミナのみが酸化チタン表面で確認される酸化チタンである。アルミナの処理量については特に制限はなく、石原産業株式会社製、タイペークCR−50、CR−58、CR−67、R580;テイカ株式会社製、チタニックスJR301、JR405、JR600A、600E等が好適に用いられる。
【0027】
さらに、酸化チタン(B)の粒子径について説明する。酸化チタン粒子の直径が0.25μm未満の場合は、金属板特有の鼠色を十分に包み隠すことができず、0.30μmを超える場合には顔料特有の黄味が現れる。従って意匠性の観点から0.25μm以上0.30μm以下の酸化チタンを用いることが望ましい。
【0028】
顔料を有機溶剤に安定に分散させるには、前記樹脂単独でも分散可能であるが、さらに顔料を安定に分散するため分散剤を併用することもできる。分散剤としては、アニオン性、ノニオン性、カチオン性、両イオン性などの界面活性剤を使用することができる。分散剤は、インキの保存安定性の観点からインキの総重量に対して0.05重量%以上、ラミネート適性の観点から5重量%以下でインキ中に含まれることが好ましく、さらに好ましくは、0.1〜2重量%の範囲である。
【0029】
本発明のインキに必要に応じて併用される樹脂の例としては、本発明以外のポリウレタン樹脂、塩化ビニル− 酢酸ビニル共重合樹脂、塩素化ポリプロピレン樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリアミド樹脂、ニトロセルロース樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキッド樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ロジン系樹脂、ロジン変性マレイン酸樹脂、ケトン樹脂、環化ゴム、塩化ゴム、ブチラール、石油樹脂などを挙げることができる。併用樹脂は、単独で、または2種以上を混合して用いることができる。併用樹脂の含有量は、インキの総重量に対して1〜25重量%が好ましく、更に好ましくは2〜15重量%である。
【0030】
本発明のインキは、樹脂、顔料などを有機溶剤中に溶解および/または分散することにより製造することができる。具体的には、アルミナ処理のみが施された酸化チタン(B)をポリウレタン樹脂(A)により有機溶剤に分散させた顔料分散体を製造し、得られた顔料分散体に、必要に応じて他の化合物などを配合することによりインキを製造することができる。
【0031】
顔料分散体における顔料の粒度分布は、分散機の粉砕メディアのサイズ、粉砕メディアの充填率、分散処理時間、顔料分散体の吐出速度、顔料分散体の粘度などを適宜調節することにより、調整することができる。分散機としては、一般に使用される、例えば、ペイントシェイカー、ローラーミル、ボールミル、ペブルミル、アトライター、サンドミルなどを用いることができる。
【0032】
インキ中に気泡や予期せずに粗大粒子などが含まれる場合は、印刷物品質を低下させるため、濾過などにより取り除くことが好ましい。濾過器は従来公知のものを使用することができる。
【0033】
前記方法で製造されたインキの粘度は、顔料の沈降を防ぎ、適度に分散させる観点から10mPa ・s以上、インキ製造時や印刷時の作業性効率の観点から1000mPa・s以下の範囲であることが好ましい。なお、上記粘度はトキメック社製B型粘度計で25℃におい測定された粘度である。インキの粘度は、使用される原材料の種類や量、例えばポリウレタン樹脂、着色剤、有機溶剤などを適宜選択することにより調整することができる。また、インキ中の顔料の粒度および粒度分布を調節することによりインキの粘度を調整することもできる。
【0034】
次に、本発明のインキを用いた本発明のポリエステルフィルム貼り合わせ金属板について説明する。
本発明のポリエステルフィルム貼り合わせ金属板において、金属板と貼り合わせるポリエステルフィルムは、ポリエステルフィルムであればよいが、エステル反復単位の75〜100%がエチレンテレフタレート単位からなるものが好適である。エチレンテレフタレート単位以外のエステル単位としては、フタル酸、イソフタル酸、コハク酸、アジピン酸等のエステル単位を挙げることができる。ポリエステルフィルムは、本発明のインキ、更には接着剤との付着性を向上させるために、その表面はコロナ放電処理等の表面処理を施したものが好ましい。
【0035】
本発明のポリエステルフィルム貼り合わせ金属板に使用される金属板としては、熱延鋼板、冷延鋼板;溶融亜鉛メッキ鋼板、電気亜鉛メッキ鋼板、鉄−亜鉛合金メッキ鋼板、亜鉛−アルミニウム合金メッキ鋼板、ニッケル−亜鉛合金メッキ鋼板、ニッケル−錫合金メッキ鋼板、ブリキ、クロムメッキ鋼板、アルミニウムメッキ鋼板、ターンメッキ鋼板、ニッケルメッキ鋼板などの各種メッキ鋼板; ステンレススチール、ティンフリースチール、アルミニウム板、銅板、チタン板などの金属素材、及び必要に応じて、これらの金属素材に化成処理、例えば、リン酸塩処理、クロメート処理、複合酸化膜処理などを行ったものを用いることができる。
【0036】
本発明のポリエステルフィルム貼り合わせ金属板は、例えば、下記方法によって製造することができる。まず、厚さ5〜30μm程度のポリエステルフィルムのコロナ放電処理面に、前記本発明のインキをグラビア印刷方式にて乾燥膜厚0.3〜3μm程度となるように塗布し、必要に応じてタックフリーの状態になるまで40〜80℃の温度で乾燥させる。ついで、上記のようにして得られたインキ層を形成したポリエステルフィルムの印刷表面に、スプレーコーティング、ロールコーティング、グラビアコーティングなどそれ自体既知の塗装手段にてにより接着剤を塗布し、150〜200℃の温度で乾燥させる。上記のようにして得られたグラビアインキ層、接着剤層を有するポリエステルフィルムを、金属板と貼り合わせ、約150℃〜250℃の温度で短時間(通常、2秒以下程度)で加熱ラミネートすることによって製造することができる。
【0037】
本発明のポリエステルフィルム貼り合わせ金属板は、飲料缶、食缶、雑缶、5ガロン缶などの缶用途やキャップなどの金属蓋用途に適する。さらに、魔法ビン、冷蔵庫外面などの家庭用機器の外面などにも適用できる。
【実施例】
【0038】
本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。本発明おいて、特に、断らない限り、「部」は「重量部」、「%」は「重量%」である。
なお、水酸基は、樹脂1g中に含有する水酸基を中和するのに必要とする水酸化カリウムのmg数で、JISK0070に従って行った値である。
また、アミン価は、樹脂1g中に含有するアミノ基を中和するのに必要とする塩酸に当量の水酸化カリウムのmg数である。アミン価の測定方法については、後述のとおり行なった。
重量平均分子量は、GPC(ゲルパーミエションクロマトグラフィー)装置を用いて分子量分布を測定し、ポリスチレン換算分子量として求めた。
粘度は、トキメック社製B 型粘度計で25℃において測定した。
【0039】
(合成例1)
アジピン酸と3−メチル−1,5−ペンタジオールから得られる数平均分子量2000のポリエステルジオール(以下「PMPA2000」) 200部、イソホロンジイソシアネート(以下「IPDI」)40部および酢酸エチル120部を窒素気流下に80℃ で4時間反応させ、末端イソシアネートプレポリマーの溶剤溶液360部を得た。次いでイソホロンジアミン(以下「IPDA」)28.1部、ジ−n−ブチルアミン(以下「DBA」)0.2部、酢酸エチル253部およびイソプロピルアルコール253部を混合したものに、得られた末端イソシアネートプレポリマー溶液を室温で徐々に添加し、次に50℃ で1時間反応させ、固形分30% 、アミン価4.1mgKOH/樹脂1gのポリウレタン樹脂溶液A1を得た。
ここでアミン価については、特開2003−306629に記載の方法を用いて測定を行った。
【0040】
(合成例2〜19)
予め、アジピン酸と3−メチル−1,5−ペンタジオールから得られる数平均分子量500、1000、3000または5000のポリエステルジオール(「PMPA500」「PMPA1000」「PMPA3000」「PMPA5000」)を合成し、表1に示す原料を用い、合成例1と同様の方法により、ポリウレタン樹脂溶液A2〜A19を得た。
なお、表1中の
「PPA」とはアジピン酸と1,2―プロパンジオールとから得られる
ポリエステルジオール、
「PCL」とはポリカプロラクトンジオール、
「PPG」とはポリプロピレングリコール
を指す。また本発明に使用したポリオールの数平均分子量は、水酸基価からポリマーが全てジオール分子であると仮定し、計算により求めた。
【0041】
【表1】

【0042】
(実施例1)
タイペークCR−67(石原産業株式会社製)45部、ポリウレタン樹脂A1を37部、メチルエチルケトン15部、イソプロピルアルコール3部の混合物を、ペイントコンディショナーで2時間混練し、実施例1の金属板用グラビアインキC1を得た。
【0043】
(実施例2〜18)
表2に示す顔料、ポリウレタン樹脂(A)を用い、実施例1と同様の方法、配合比により、金属板用グラビアインキC2〜C18を得た。
【0044】
(比較例1〜12)
表3に示す顔料、ポリウレタン樹脂(A)を用い、実施例1と同様の方法、配合比により、金属板用グラビアインキC19〜30を得た。
金属板用グラビアインキC1〜C30を用いて、成膜性の評価を行い、結果を表2、3に示した。評価方法については、後述の通り行った。
【0045】
金属板用グラビアインキC1、100部を、混合溶剤(メチルエチルケトン40%、イソプロピルアルコール30% 、酢酸プロピル20%、酢酸エチル10%)により 、粘度が17秒(25℃、ザーンカップNo.3)となるように希釈し、金属板用グラビアインキC1の希釈インキを得た。
同様の方法で金属板用グラビアインキC2〜C30それぞれの希釈インキを得た。
【0046】
該希釈インキを使用し、版深25μのベタ版を備えたグラビア印刷機により、厚さ12μmのコロナ放電処理ポリエチレンテレクタレートフィルム「E5100」(東洋紡績株式会社製)のコロナ放電処理面に印刷し、印刷物D1〜D30を得た。
【0047】
該印刷物D1〜D30を用いて、耐ブロッキング試験を行い、結果を表2、3に示した。試験方法、評価基準については、後述の通りに行なった。
【0048】
次に、前記印刷物D1〜D30の印刷面に、熱硬化性エポキシ樹脂系接着剤を乾燥塗膜重量が10g/m2となるように塗布し、予備乾燥させた。次いで、缶用金属板としてティンフリースチール板を用い、接着剤層が設けられた前記印刷フィルムと缶用金属板とを接着層が缶用金属板と接するように重ね合わせ、ラミネーターを用いてロール圧5kg/cm2 、ロール温度200℃にて加熱ラミネートし、さらに230℃で2分間加熱処理を施しポリエステルフィルム貼り合わせ金属板E1〜E30を得た。
次に、前記ポリエステルフィルム貼り合わせ金属板E1〜E30を使用し、隠蔽性及び紫外線照射前後での耐熱水性試験を行なった。結果は表2に示した。なお、評価方法は後述の通りに行なった。
【0049】
<成膜性試験>
金属板用グラビアインキ30gを10cm×10cmの型に流し込み、25℃、50%RHの条件で有機溶剤を揮発させ、インキ皮膜外観を目視で評価した。
○ ;皮膜表面が滑らかである
○△;皮膜表面に小さなびび割れが存在する
△ ;皮膜表面に大きなひび割れが存在するが、皮膜は分断していない
△×;皮膜表面に大きいひび割れが存在し、皮膜が部分的に分断している
× ;皮膜が全面的に分断している
実用レベルは、○〜○△であり、△以下であると印刷機のガイドロール等にインキが取られるトラブルが発生しやすい。
【0050】
<隠蔽性>
印刷物を貼り合わせ金属板を印刷面から目視にて観察し、金属色が目立たなくなる程度を評価した。
○ ;金属色が目立たない
△ ;金属色がほとんど目立たない
× ;金属色が目立つ
実用レベルは○〜△であり、意匠性を高めると言う観点では、○であることが望ましい。
【0051】
<耐ブロッキング試験>
印刷面と非印刷面が接触するようにフィルムを重ね合わせ、10kgf/cm2の加重をかけ、40℃、80%RHの環境下に12時間経時させ、取り出し後、非印刷面へのインキの転移の状態を、5段階評価した。
○ :非印刷面へのインキの転移量0%
○△;転移量10%未満
△ ;転移量10%以上20 未満%
△×;転移量20%以上30%未満
× ;転移量30%以上
実用レベルは、○〜△であり、○△以上であることが好ましい。
【0052】
<紫外線照射前の耐熱水性試験>
ポリエステルフィルム貼り合わせ金属板を125℃ 、30分のレトルト処理を行い、外観(フィルムの剥離、ブリスターの発生、フィルムの皺等)を目視にて、5段階評価をした。
○ ;フィルムの剥離、ブリスター及び皺の発生が見られない
○△;僅かな皺が見られる
△ ;皺が発生する
△×;皺の他にブリスターが発生する
× ;フィルムが剥離するも
実用レベルは、○〜△であり、○△以上であることがより好ましい。
【0053】
<紫外線照射後の耐熱水性試験>
ポリエステルフィルム貼り合わせ金属板の印刷面にフェドメーター(紫外線カーボンアーク灯式耐光性試験機)で紫外線を40時間照射し、照射後に前記耐熱水性試験を実施した。評価方法は前記の通り。また、紫外線照射の条件は、JIS L0842−7.2、JIS B7751 に従った。
【0054】
【表2】

【0055】
【表3】

【0056】
実施例より、数平均分子量1000〜2500のポリエステルポリオールを20重量%以上含むすべての場合において、実用レベルの成膜性と耐ブロッキング性を有しつつ、紫外線照射前後での耐熱水性が際立って向上している。またアルミナ処理のみの酸化チタンを使用することで成膜性が際立って向上している。
一方、比較例より、数平均分子量1000〜2500のポリエステルポリオールを20重量%以上含んでいない場合では、実用レベルの成膜性、耐ブロッキング性、紫外線照射前後での耐熱水性を兼ね備えることが出来ていない。アルミナ処理のみの酸化チタンを使用しない場合では成膜性が劣ることが明らかである。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリウレタン樹脂(A)と、アルミナ処理のみが施された酸化チタン(B)とを、含むポリエステルフィルム貼り付け金属板用グラビアインキであって、
前記ポリウレタン樹脂(A)が、
数平均分子量1000〜2500のポリエステルポリオール
および
ポリイソシアネート
から合成されてなり、
数平均分子量1000〜2500のポリエステルポリオールが、
ポリウレタン樹脂(A)全量に対して、重量固形分比で、20重量%以上
含むことを特徴とするポリエステルフィルム貼り付け金属板用グラビアインキ。
【請求項2】
前記酸化チタン(B)が、平均粒子径0.25μm以上0.30μm以下であることを特徴とする請求項1記載のポリエステルフィルム貼り付け金属板用グラビアインキ。


【公開番号】特開2012−188587(P2012−188587A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−54527(P2011−54527)
【出願日】平成23年3月11日(2011.3.11)
【出願人】(000222118)東洋インキSCホールディングス株式会社 (2,229)
【Fターム(参考)】