説明

ポリエステルペレットの乾燥方法

【課題】結晶化速度の遅いポリエステルペレットを、ポリエステルペレットのブロッキング、缶壁への融着を抑えつつ、結晶化を促進させる方法を提供する。
【解決手段】ポリエステルペレットを回分式の装置を用いて乾燥するに際して、未結晶ポリエステルペレットに対して、結晶化済みポリエステルペレットを全ペレットの3質量%以上混合する。好ましい混合比率は製品収率の観点から10質量%以下である。乾燥は昇温結晶化温度以上で3〜8時間程度行うのが一般的である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶化速度の遅いポリエステルペレットを簡便に効率よく乾燥する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレート(以下PETと略す)に代表されるポリエステル樹脂は、機械的特性、化学的安定性、透明性等に優れ、かつ、安価であり、各種のシート、フィルム、容器等として幅広く用いられており、特に、炭酸飲料、果汁飲料、液体調味料、食用油、酒、ワイン用等の中空容器(ボトル)用途の伸びが著しい。PET製ボトルは、一般にPETペレットを射出成形または押出成形によりプリフォームに成形し、続いて、このプリフォームを金型内で延伸ブロー成形する方法で製造されている。ところで、近年、ポリ塩化ビニル製ボトルの代替として、ダイレクトブロー成形によるPET製ボトルが注目されている。その中でも、イソフタル酸やシクロヘキサンジメタノールなどを共重合したPETは、結晶性が抑制されているため、肉厚成形品にしても成形時の白化が起きにくく近年需要が拡大している。
【0003】
しかし、このような共重合ポリエステルは結晶化速度が遅いため、回分式の乾燥設備を用いてポリエステルのガラス転移点以上の温度で乾燥を行う際に、ポリエステルペレット同士がブロッキングしたり、装置内壁へ融着するという問題がある。また、上記のようなブロッキングや融着を防ぐべく、装置の温度を緩やかに昇温することでブロッキングや融着を防止する方法があるが、乾燥や結晶化工程に要する時間が大幅に増加する。一方、連続的にポリエステルペレットを乾燥する方法として、乾燥機内部に攪拌軸を有する攪拌機を設置し、機械的衝撃を直接加えることより、ブロッキングを防止する方法が提案されている(特許文献1)。しかし、この方法では、ペレットが変形したり、ダストが多量に発生する等の問題があった。
【0004】
【特許文献1】特開平11−279829号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような問題を解決し、結晶化速度の遅いポリエステルペレットを効率良く乾燥する方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は鋭意研究を重ねた結果、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明の要旨は、ポリエステルペレットを回分式の装置を用いて乾燥するに際して、未結晶ポリエステルペレットに対して、結晶化済みポリエステルペレットを全ペレットの3質量%以上混合することを特徴とするポリエステルペレットの乾燥方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、結晶化速度の遅いポリエステルペレットを、ポリエステルペレットのブロッキング、缶壁への融着を抑えつつ、結晶化を促進させることができ、結果として、効率よく乾燥することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0009】
本発明に使用するポリエステルは、結晶性を有するものであればよい。結晶性の有無は、例えば、DSCで測定可能な結晶融解熱量の有無により判定できる。ポリエステルを構成するモノマーは特に限定されないが、酸成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸、無水フタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸を主体とするものが用いられ、必要に応じてアジピン酸、セバシン酸、ドデカン二酸などの脂肪族ジカルボン酸、さらには、トリメリット酸、ピロメリット酸などの三価以上のカルボン酸を併用することができる。
【0010】
また、アルコール成分としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコールなどの脂肪族グリコールを主体とするものが用いられ、必要に応じて1,4−シクロヘキサンジメタノールなどの脂環族のアルコール、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物やビスフェノールSのエチレンオキサイド付加物などの芳香族系のアルコールを併用することができる。さらには、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトールなどの三価以上のアルコールを併用することができる。
【0011】
また、必要に応じて、4−ヒドロキシ安息香酸、ε−カプロラクトンなどのヒドロキシカルボン酸を併用してもよい。
【0012】
本発明においては、結晶化済みのポリエステルペレットを、全仕込み量に対して3質量%以上混合する必要がある。3質量%未満では、ポリエステルペレットのブロッキング、缶壁への融着を解消する効果が低い。なお、10質量%を超えるとブロッキング解消の効果は飽和しており、製品の収率が下がる傾向にあるので、10質量%以下とすることが好ましい。
【0013】
本発明における結晶化済みポリエステルペレットの混合方法は特に限定されるものではないが、払出し時に結晶化済みポリエステルペレットを缶内に残し、未結晶チップを新たに投入する方法が挙げられる。また、結晶化済みポリエステルペレットと結晶化ポリエステルペレットとは、同種のものでも異種のものでもよい。異種のポリエステルペレットを用いれば、乾燥と同時にペレットブレンドを行うことができる。
【0014】
ポリエステルの乾燥温度、乾燥時間については、特に限定されるものではないが、一般に、ポリエステルの乾燥は、ガラス転移点より低い温度で予備乾燥を3〜8時間程度行い、DSCで検出される昇温結晶化温度以上の温度で「本乾燥」を3〜8時間程度行うのが一般的である。そして、前記した「本乾燥」時に結晶化が促進される。
【0015】
したがって、本発明において、「未結晶ポリエステルペレット」とは、重合終了後にカッティングによってペレット形状とされた後、前述の「本乾燥」を施されていないポリエステルペレットを指す。一方、「結晶化済みポリエステルペレット」とは、「本乾燥」により、結晶性の十分に促進されたペレットをいう。
【0016】
ポリエステルペレットの乾燥に用いる回分式の装置としては、特に限定されないが、例えば、タンブラー型や横型円筒型などの装置が挙げられる。装置本体を一定方向に回転さることでブロッキングを防止しつつ乾燥することが一般的である。また、装置本体は、二重缶構造とし、加熱媒体として温水や蒸気、または、熱媒などを用いる方法が一般的である。また、乾燥時の除湿効率を高めるため、減圧乾燥することが好ましく、減圧発生装置として真空ポンプやエゼクターなどを用いるのが一般的である。
【0017】
ポリエステルペレットの形状は、重合缶からの払出し口金の形状や、ペレットのカッティング装置により大きさや形状が変わるため、特に限定はされないが、断面形状としては、円形、四角形、長方形、円筒形、楕円形などのものが挙げられ、また、水中カッター等によって得られる球形のものでもよく、大きさとしては、縦1〜15mm、横1〜15mm、高さ1〜15mmの程度のものであれば本発明の乾燥方法を適用できる。
【0018】
本発明における乾燥後のポリエステルチップの水分率は特に限定されないが100ppm以下、より好ましくは50ppm以下とすることが好ましい。
【実施例】
【0019】
次に、実施例によって、本発明を具体的に説明する。
【0020】
なお、実施例中の評価及び測定方法は次の通りである。
【0021】
(a)払出し性
乾燥後、乾燥機からのポリエステルペレット抜き取り時の抜き取り口の詰まりの有無を目視で確認した。(○を合格とした。)
○:詰まりなし。
×:詰まりが発生した。
【0022】
(b)融着、付着
乾燥後のポリエステルペレット同士の融着の有無と、乾燥機の内壁へのポリエステルペレットの融着の有無を目視で確認した。(○を合格とした)
○:融着がなかった。
×:融着があった。
【0023】
(c)製品の収率
収率(%)={〔払出し量〕−〔結晶ポリエステルペレットの投入量〕−〔ブロッキング、融着ポリエステルペレット量〕}/払出し量×100
○:収率が90%以上であった。
△:収率が80%以上90%未満であった。
×:収率が80%未満であった。
【0024】
(d)水分率
三菱化学社製水分気化装置VA−06型と、同社水分測定装置CA−06型を用いて測定した。
○:水分率が50ppm未満であった。
×:水分率が50ppm以上であった。
【0025】
(e)極限粘度
フェノールと四塩化エタンとの当重量混合物を溶媒とし、温度20℃で測定した。
【0026】
実施例1
タンブラー型の乾燥機内にイソフタル酸を5モル%共重合したポリエチレンテレフタレート(極限粘度0.72)の未結晶ポリエステルペレット960kg、同組成、同極限粘度の結晶化済みポリエステルペレット40kg(4質量%)を投入し10rpmで攪拌した。
缶内の減圧にはエゼクター使用し、1hpaを乾燥終了まで維持した。
昇温は1時間かけて80℃まで昇温し、5時間保持させた。その後、1時間かけて130℃に昇温し、8時間保持させた。
【0027】
ポリエステルペレットの払出しは、順調で詰まることなく払出しをすることができた。製品量は1000kgであった。ポリエステルペレット同士の融着やブロッキングはなく、乾燥機の内壁にはポリエステルペレットは付着していなかった。
【0028】
実施例2〜5
樹脂の種類、極限粘度、未結晶ポリエステルペレットの混合量を表1のように変えた以外は、実施例1と同様にしてペレットの乾燥を行った。
【0029】
実施例6
シクロヘキサンジメタノールを8モル%共重合したポリエチレンテレフタレート(極限粘度0.79)、の未結晶ポリエステルペレット920kg、同組成、同極限粘度の結晶化済みペレット80kgを用いた以外は実施例1と同様にしてペレットの乾燥を行った。
【0030】
実施例7
イソフタル酸を8モル%共重合したポリエチレンテレフタレート(極限粘度0.55)の未結晶ポリエステルペレットを920kg、結晶化済みポリエチレンテレフタレートホモポリマー(極限粘度0.56)のペレット80kgを用いた以外は実施例1と同様にしてペレットの乾燥を行った。
【0031】
比較例1
イソフタル酸を5モル%共重合したポリエチレンテレフタレート(極限粘度0.72)の未結晶ポリエステルペレットのみをタンブラーに投入し、実施例1と同様の条件で乾燥を試みた。
【0032】
比較例2
イソフタル酸を15モル%共重合したポリエチレンテレフタレート(極限粘度0.83)の未結晶ポリエステルペレットのみをタンブラーに投入し、実施例1と同様の条件で乾燥を試みた。
【0033】
実施例及び比較例で得られた評価結果を表1に示す。
【0034】
【表1】

【0035】
実施例1〜7は、ポリエステルペレット同士の融着や乾燥機内壁への付着もなく、乾燥ポリエステルペレットを得ることができた。このうち、実施例2および5では収率はやや低下したが、実用上問題ない範囲であった。
【0036】
比較例1、2では、結晶化済みポリエステルペレットを混合していないため、ブロッキングがひどく製品の収率が著しく低くなった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルペレットを回分式の装置を用いて乾燥するに際して、未結晶ポリエステルペレットに対して、結晶化済みポリエステルペレットを全ペレットの3質量%以上混合することを特徴とするポリエステルペレットの乾燥方法。


【公開番号】特開2007−23153(P2007−23153A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−207069(P2005−207069)
【出願日】平成17年7月15日(2005.7.15)
【出願人】(000228073)日本エステル株式会社 (273)
【Fターム(参考)】