説明

ポリエステルモノフィラメントおよびその製造方法

【課題】細繊度、高強度、高モジュラスで、スクリーン紗に使用した際に寸法安定性に優れ、かつパーン引けやスナールなどの問題がなく優れた紗品位となるポリエチレンテレフタレート系ポリエステル複合ポリエステルモノフィラメントを提供する。
【解決手段】芯成分の高粘度ポリエステル、鞘成分の低粘度ポリエステルが芯鞘型に複合されたポリエステルモノフィラメントであって、次の(a)〜(e)を満足するポリエステルモノフィラメント。(a)繊度3.0〜13.0dtex。(b)破断強度6.0〜9.3cN/dtex。(c)10%伸長時の強度5.0〜9.0cN/dtex。(d)繊維長手方向の湿熱応力差3.0cN以下。(e)残留トルク値4コ/m以下。製法は特定条件での直接紡糸延伸法が好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、精密印刷向けスクリーン紗用途に適したポリエステルモノフィラメント、詳しくは、ポリエチレンテレフタレート系複合ポリエステルモノフィラメントおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、印刷用のスクリーン紗としては絹などの天然繊維やステンレスなどの無機繊維からなるメッシュ織物が広く使用されてきたが、近年、柔軟性や耐久性があり、かつ寸法安定性のあるナイロンやポリエステルなどの有機繊維からなるメッシュ織物が使用されることが多くなっている。そのなかで現在、ポリエステルモノフィラメントからなるスクリーン紗はナイロンからなるものと比較して水分の影響も少なく、また価格面からも有利であるためとりわけ広く利用されてきている。
【0003】
しかしながら、最近の家電や携帯電話、パソコン向けなどの電子回路の印刷分野などにおいては印刷精度向上に対する要求が厳しくなってきていることから、メッシュがより細かく、紗張りなどにおいて伸びの少ない寸法安定性に優れたスクリーン紗が要求されてきている。すなわちスクリーン紗用原糸に対しては細繊度化、高強度、高モジュラスが求められている。
【0004】
一般に、ポリエステル繊維を高強度、高モジュラス化するためには、原糸の製造工程において高倍率で延伸を行い、高配向、高結晶化すれば良いことが判っているが、高倍率延伸を実施すると、急激な構造変化により繊維内部に力学的な歪み、すなわち応力が発生し蓄積される。この力学的歪みは時間とともに減少していく傾向にあり、これを応力緩和と称しているが、この応力緩和は高倍率延伸で得られた繊維をボビンに巻き取した際にはパーンパッケージ全体に均一に進まないことが多く、応力緩和の進んでいない部分は筋状の光沢異常となって現れてくる。この異常をパーン引けと称している。
【0005】
現在、スクリーン紗は製織後乳剤を塗布してそれを感光、硬化させることにより、電子回路を写し取るという工程を経て印刷用となる。このため、乳剤を感光、硬化させる際に、照射光のハレーションが発生すると印刷精度の悪化を招くことから、製織後淡色系染料にて染色することでハレーションの発生を軽減させている。しかしながら前述のパーン引けの部分は染色後においても筋状の異常部分として残ってしまうため、スクリーン紗の品位を低下させるのみならず、正常部分との光沢差が発生し乳剤感光時に感光斑などを発生させる原因となってしまい、ひいては印刷精度の低下が発生しハイメッシュ化による高精度印刷には適さない品位のものとなってしまう。
【0006】
また、精密印刷向けの高品位スクリーン紗を得るためには、ポリエステルモノフィラメントに付随するスナールが問題となることが判っている。詳しくは、通常スクリーン紗の製織工程において経糸は約600〜800本単位の部分整経機にて200m/分〜500m/分の解舒速度で整経ドラムに巻き取られる。この整経工程において、工程上やむを得ない運転の一時停止等によりオーバー解舒となり「糸だるみ」が発生、さらにフィラメント同士で絡み合い、撚糸となって固定される。これがいわゆるスナールである。再度の運転時、この形状を維持したまま整経ドラムに巻き込まれることで、製織時に経糸切れを多発させ、一部は紗内へ織り込まれる事により紗品位を著しく低下させる。整経解舒時には通常リングテンサー、ワッシャーテンサー等にて解舒張力が5〜10gに設定されているが、この張力調整によるスナール抑制は極めて効果が低いことが確認されている。更にポリエステルモノフィラメントの繊度が13dtex以下のような細繊度では悪化傾向を示すことが認められた。
【0007】
ここにスナール体質とは、未延伸糸を通常の延伸機(ドローツイスター)にて延伸する際に、トラベラーの回転により糸が加撚された結果であると考えられる。
【0008】
従来、ポリエステルモノフィラメントの製造においては、一旦紡糸し巻き取った未延伸糸を、公知の延伸機(ドローツイスター)を用いて500〜1500m/分の速度で一段または多段にて延伸してパーン状に巻き取る方法が提案されている(特許文献1〜4参照)。しかしながら、ドローツイスターでは一般的に、糸条をリングによってボビン方向にトラバースさせ、リング状にボビン周方向に回転自在に取り付けられたトラベラーによって糸条の走行方向を90°方向転換しボビンに巻き付けるが、このトラベラーのしごきによって巻取張力が高くなり、パッケージ端部とパッケージ中央で糸条の残留収縮応力の緩和の度合いが異なり、パーン引けを回避することはできない。また、延伸機(ドローツイスター)によって糸が加撚されるため、スナールの問題を回避することはできない。
【0009】
また、未延伸糸を公知の延伸機(ドローツイスター)を用いて延伸してパーン状に巻き取る方法において、パーンパッケージの端部面積の割合を極力小さくした形状とすることで、パッケージ端部とパッケージ中央での糸条の残留収縮応力差を抑え、パーン引けを回避する方法が提案されている(特許文献5、6参照)。しかしながらこの方法は、実質的には一段延伸であるため、本願の目的とするような高強度、高モジュラスのポリエステルモノフィラメントを得ることはできない。その上、延伸機(ドローツイスター)によって糸が加撚されるため、スナールの問題を回避することはできない。
【0010】
また、ポリエステルモノフィラメントの他の製造方法としては、紡糸した未延伸糸を一旦巻き取ることなく直接延伸して巻き取る、いわゆる直接紡糸延伸法が知られており、従来例では3000m/分以上の速度で張力付与ロール、加熱供給ロール、加熱延伸ロールおよび非加熱のゴデットロールからなる延伸系において、加熱延伸ロールと非加熱のゴデットロールの間で糸条に0.1%〜10%のストレッチを与え、ドラム巻きする方法が提案されている(特許文献7参照)。また別に、同様の方法にて直接紡糸延伸した後にボビン巻きする方法が提案されている(特許文献8参照。)。しかしながら、これらの方法は、いずれも実質的に一段延伸であるため、本願の目的とするような高強度、高モジュラスのポリエステルモノフィラメントを得ることはできない。その上、最終ホットロールの後の非加熱のゴデットロールが1セット、もしくは存在しないため、最終ホットロールと非加熱のゴデットロールの間にかけるべき高張力と、巻取時にかけるべき低張力を両立することができないため、本願が目的とするような高モジュラスと応力緩和の均一性、すなわちパーン引けの回避を両立することはできない。
【0011】
このように従来技術では原糸の高強度、高モジュラス化と、パーン引けの防止という相反する課題を解決するには至っていなかったのである。
したがって、精密印刷向けのスクリーン紗を得るために必要な特性、すなわち細繊度、高強度、高モジュラスで、スクリーン紗に使用した際に寸法安定性に優れ、かつパーン引けやスナールなどの問題がなく優れた紗品位となるポリエステルモノフィラメントの出現が強く求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2004−232182号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開2003−213520号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】特開2003−213527号公報(特許請求の範囲)
【特許文献4】特開2003−213528号公報(特許請求の範囲)
【特許文献5】特開2001−355123号公報(特許請求の範囲)
【特許文献6】特開2001−279526号公報(特許請求の範囲)
【特許文献7】特開平5−295617号公報(特許請求の範囲)
【特許文献8】特開2004−225224号公報(特許請求の範囲)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、上記従来の問題点を解決しようとするものであり、細繊度、高強度、高モジュラスで、スクリーン紗に使用した際に寸法安定性に優れ、かつパーン引けやスナールなどの問題がなく優れた紗品位となるポリエステルモノフィラメント、詳しくは、ポリエチレンテレフタレート系複合ポリエステルモノフィラメントを糸切れが少なく工程的に安定して提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、上記の課題を解決するため、ポリエステルモノフィラメントの製造において、ボビン巻きのパッケージ形状と多段延伸後の巻取条件を適正化することで、高強度、高モジュラスと、繊維長手方向の湿熱応力差、スナール抑制の両立、すなわちスクリーン紗とした際に、優れた寸法安定性とパーン引けやスナール等ない優れた紗品位を両立できることを見出し、本発明に到達した。
【0015】
すなわち、本発明は上記の目的を達成するため、次の構成を採用するものである。
(1)芯成分の高粘度ポリエステルと、鞘成分の低粘度ポリエステルが芯鞘型に複合されたポリエステルモノフィラメントであって、次の(a)〜(e)の構成要件を全て満足することを特徴とするポリエステルモノフィラメント。
(a)繊度が3.0〜13.0dtexであること。
(b)破断強度が6.0〜9.3cN/dtexであること。
(c)10%伸長時の強度が5.0〜9.0cN/dtexであること。
(d)繊維長手方向の湿熱応力差が3.0cN以下であること。
(e)残留トルク値が4コ/m以下であること。
(2)芯成分の高粘度ポリエステルと、鞘成分の低粘度ポリエステルの2成分を芯鞘型に複合して紡糸口金から溶融押出しして、冷却固化した後、得られた未延伸糸を一旦巻き取ることなく連続して延伸し巻き取る直接紡糸延伸法によりポリエステルモノフィラメントを製造するに際して、次の(f)〜(i)の工程要件を全て満足することを特徴とする(1)記載のポリエステルモノフィラメントの製造方法。
(f)芯成分を構成する高粘度ポリエステルの固有粘度が0.70〜2.00であり、鞘成分を構成する低粘度ポリエステルの固有粘度が0.40〜0.70であり、さらに芯成分ポリエステルと鞘成分ポリエステルの固有粘度差を0.20〜1.00である。
(g)未延伸糸を、ホットロールを3セット以上有する多段延伸工程により4.0〜7.0倍で多段延伸した後に、最終ホットロールと非加熱のゴデットロールの間で−2%〜8%でリラックス処理を行う。
(h)最終ホットロールにより熱処理された糸条を、2個以上の非加熱のゴデットロールを介して巻き取る。
(i)非加熱のゴデットロールを出て走行する糸条の進行方向に対して、回転軸が直角となるようスピンドルを配置し、該スピンドルをスピンドル回転軸方向にトラバース動作させることで、スピンドルに装着されたボビン上に糸条をパッケージの両端部がテーパー状となるように巻き上げ、パーンのパッケージ形状を下記式とする。
0.1L≦Lt≦0.4L
ここで、L:パーンにおいて糸が巻き取られている部分の長さ、Lt:パーンパッケージにおけるテーパー部分の長さ、をそれぞれ表す。
(j)巻取張力を0.1〜0.4g/dtexに制御する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、従来技術では成し得なかった精密印刷向けスクリーン紗用途に適したポリエチレンテレフタレート系複合ポリエステルモノフィラメントが得られる。更に詳しくは、本発明によれば、ポリエステルモノフィラメントの製造において、ボビン巻きのパッケージ形状と多段延伸後の巻取条件を適正化することで、高強度、高モジュラスと、繊維長手方向の湿熱応力差、スナール抑制の両立、すなわちスクリーン紗とした際に、優れた寸法安定性とパーン引けやスナール等ない優れた紗品位を両立できるポリエステルモノフィラメントが得られ、その製造に際して糸切れが少なく工程的に安定した製糸性が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明におけるパーンのパッケージ形状の一例を示す図。
【図2】本発明で用いられる製糸工程(直接紡糸延伸法)の一例を示す側面図。
【図3】本発明の実施例で用いる直接紡糸延伸装置の概略図。
【図4】本発明の比較例で用いる延伸装置の概略図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明のポリエステルモノフィラメントについて説明する。
本発明のポリエステルモノフィラメントは、その横断面において芯成分が鞘成分により覆われ、芯成分が表面に露出していないように配置された芯鞘型複合ポリエステルモノフィラメントである。
【0019】
一般に、ポリエステル繊維を高強度、高モジュラス化するためは、原糸の製造過程において高倍率で延伸を行い、高配向、高結晶化すれば良いことが判っているが、スクリーン紗の製造工程は高密度の織物を高速で製織するため、極めて多数回、筬などの強い摩擦にさらされることとなり、表面の結晶化の進行と相まってフィラメント表面の一部が削り取られ、ヒゲ状あるいは粉状のかす、いわゆるスカムが発生しやすいが、この現象は高配向、高結晶化したものほど重度となる傾向にある。このスカムは量的に少量であっても織機に飛散し、その一部はスクリーン紗の中に織り込まれる危険性がある。こうなると精密印刷用のハイメッシュ織物においては、メッシュの詰まりという致命的な欠陥となる恐れがあり、スカムの発生防止はスクリーン紗においては重要な課題である。
【0020】
本発明のポリエステルモノフィラメントは、良好な耐スカム性を得るという観点から鞘成分に用いるポリエステルの固有粘度を芯成分ポリエステルの固有粘度より低くする必要があり、その差を0.20〜1.00にすることが好ましい。固有粘度の差を0.20以上とすることで鞘成分のポリエステル、すなわちポリエステルモノフィラメント表面の配向度および結晶化度を抑えることができ、良好な耐スカム性を得ることができる。また、溶融紡糸の口金吐出孔内壁面におけるせん断応力を鞘成分が担うため、芯成分が受けるせん断力は小さくなる。これにより芯成分は分子鎖配向度が低く、かつ均一な状態で紡出されるため、最終的に得られるポリエステルモノフィラメントの強度が向上する。一方、ポリエステルモノフィラメントが高強度を有するためには鞘成分の配向も適度に必要となるため、固有粘度の差が1.00より大きいと満足する原糸強度が得られない。さらに好ましいポリエステルの固有粘度差は0.30〜0.70である。
【0021】
本発明におけるポリエステルの固有粘度は、芯成分の高粘度ポリエステルにおいては0.70〜2.00の範囲であることが好ましい。固有粘度を0.70以上とすることにより、十分な強度と伸度を兼ね備えたポリエステルモノフィラメントを製造することが可能となる。より好ましい固有粘度は0.80以上である。また、固有粘度の上限は溶融押出し等の成形の容易さの点から2.00以下が好ましく、さらに製造コストや工程途中の熱や剪断力によって起きる分子鎖切断による分子量低下の影響を考慮すると、より好ましくは1.50以下である。
【0022】
一方、鞘成分の低粘度ポリエステルは、固有粘度を0.40以上にすることにより安定した製糸性が得られる。より好ましい固有粘度は0.50以上である。また、良好な耐摩耗性、すなわち耐スカム性を得るためには、低粘度ポリエステルの固有粘度は0.70以下であることが好ましい。
【0023】
ここで、本発明のポリエステルモノフィラメントのポリエステルとしては、ポリエチレンレンテレフタレート(以下、PETと称する)を主成分とするポリエステルが用いられる。
【0024】
本発明で用いるPETとしては、テレフタル酸を主たる酸成分としエチレングリコールを主たるグリコール成分とする、90モル%以上がエチレンテレフタレートの繰り返し単位からなるポリエステルを用いることができる。ただし、10モル%未満の割合で他のエステル結合を形成可能な共重合成分を含むものであっても良い。このような共重合成分としては、例えば、酸性分として、イソフタル酸、フタル酸、ジブロモテレフタル酸、ナフタリンジカルボン酸、オクトエトキシ安息香酸のような二官能性芳香族カルボン酸、セバシン酸、シュウ酸、アジピン酸、ダイマ酸のような二官能性脂肪族カルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸などのジカルボンサン類が挙げられ、また、グリコール成分としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ビスフェノールAや、シクロヘキサンジメタノール、ポリエチレングリコールやポリプロピレングリコールなどのポリオキシアルキレングリコールなどを挙げることができるが、これらに限られるものではない。
【0025】
また、艶消剤として二酸化チタン、滑剤としてシリカやアルミナの微粒子、抗酸化剤としてヒンダードフェノール誘導体、さらには難燃剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤および着色顔料等を必要に応じてPETに添加することができる。
【0026】
また、芯成分のPETはポリエステルモノフィラメントの強度を主に担うため、通常ポリエステル繊維に添加される酸化チタンに代表される無機粒子の添加物は0.5wt%未満であることが好ましい。一方、鞘成分のPETはポリエステルモノフィラメントの耐摩耗性を主として担うため酸化チタンに代表される無機粒子を0.1wt%〜0.5wt%程度添加させることが好ましい。
【0027】
次に、本発明のポリエステルモノフィラメントの形状について説明する。
本発明のポリエステルモノフィラメントは、先に述べたように、その横断面において芯成分が鞘成分により覆われ、芯成分が表面に露出していないように配置された芯鞘型複合ポリエステルモノフィラメントである。ここで芯鞘型とは芯成分が鞘成分により完全に覆われていれば良く、必ずしも同心円状に配置されている必要はない。なお、断面形状については丸、扁平、三角、四角、五角など幾つもの形状があるが、安定した製糸性および高次加工性を得やすいという点や、スクリーン紗の目開きの安定性などにより丸断面が好ましい。
【0028】
本発明においては、芯成分、鞘成分ともにポリエステルであるため、ポリエステル/ナイロン複合糸に度々発生するような複合界面での剥離という減少は起きにくい。しかしながら鞘成分によるスカム抑制効果と芯成分による高強度化を両立するという点で、芯成分:鞘成分の複合比は60:40〜95:5の範囲とすることが好ましく、より好ましい複合比は、70:30〜90:10の範囲である。
ここで、本発明で定義する複合比とは、ポリエステルモノフィラメントの横断面写真においてポリエステルモノフィラメントを構成する2種のポリエステルの横断面積比率である。
【0029】
本発明のポリエステルモノフィラメントの繊度は、3.0dtex〜13.0dtexの範囲であることが重要である。精密印刷に適した#400(1インチ=2.54cm当たり400本)以上のハイメッシュスクリーン紗を得るためには、繊度として13.0dtex以下である。従来、中程度のメッシュ数のスクリーン紗は#120〜300であり、これらに対して繊度15〜25dtexのポリエステルモノフィラメントが使用されている。しかしながら、#400以上のハイメッシュスクリーン紗の場合、1本あたりのメッシュ格子間隔は非常に小さいものとなるため、繊度15〜25dtexのポリエステルモノフィラメントを使用した場合、1格子当たりのオープニング(目開き)が非常に小さくなるため、筬とポリエステルモノフィラメントの擦過によってスカムが発生し易くなり、結果として#400以上のスクリーン紗が得られないこととなる。したがって本発明のポリステルモノフィラメントの繊度の上限としては13.0dtexであり、#450以上のスクリーン紗では8.0dtex以下、#500以上のスクリーン紗では6.0dtex以下であることが好ましい。また、繊度の下限としては、製織性、特にスルーザ織機における緯糸の飛送性の点で3.0dtex以上であり、より好ましくは4.0dtex以上である。上記のような繊度を達成するためには、ポリエステルモノフィラメントの製造において、吐出量および紡糸口金を適宜変更すればよい。
【0030】
次に、本発明のポリエステルモノフィラメントの物性について述べる。
スクリーン印刷では、一般的に印刷パターンの精度を向上させるために、紗張りテンションを高くし、スクリーン紗と被印刷物の距離を小さくする方法が採られている。紗張りの際、テンションを高くするためにはポリエステルモノフィラメント1本あたりの強力を向上させる。
【0031】
また、印刷業界の要求は厳しく、細繊度でハイメッシュ、すなわち、織密度の高いメッシュ織物を要求している製織過程で糸にかかる張力は必ずしもその繊度に比例するわけではなく、ポリエステルモノフィラメント1本当たりの強力が高いことが必要であり、細くなればなるほど、より破断強度の高いものとする必要がある。
【0032】
ここで、本発明のポリエステルモノフィラメントは、高精度印刷に適した高強力モノフィラメントであり、破断強度を6.0cN/dtex以上、10%伸長時の強度(モジュラス)を5.0cN/dtex以上とすることにより、製織性の低下や紗伸びなどの発生を抑え、高い寸法安定性を得ることができる。また、前記したように紗張りのテンションをより高くし、より精密な印刷を可能にするには、破断強度を7.0cN/dtex以上とすることが好ましく、より好ましくは8.0cN/dtex以上とすることである。また、10%伸長時の強度(モジュラス)は好ましくは6.0cN/dtex以上、より好ましくは7.0cN/dtex以上とするのがよい。一方、耐スカム性の点で配向や結晶化度を抑える必要があるため、破断強度は9.3cN/dtex以下であり、9.0cN/dtex以下であることが好ましい。また、10%伸長時の強度(モジュラス)は9.0cN/dtex以下でがあり、8.7cN/dtex以下であることが好ましい。上記のような破断強度および10%伸長時の強度(モジュラス)を達成するためには、後述のとおり、高粘度のポリエステルを使用し溶融紡糸して、未延伸糸を高倍率多段延伸した後、最終ホットロールと非加熱のゴデットロールの間で適正な範囲で正負のリラックス処理を行えばよい。
【0033】
次に、本発明におけるポリエステルモノフィラメントは、繊維長手方向における湿熱収縮時の応力差が3.0cN以下である。本発明において要求される高強度、高モジュラスのスクリーン紗用ポリエステルモノフィラメントを得るために高延伸倍率を実施すると、急激な構造変化によって繊維内部に応力が発生し、かつその応力の緩和はパーンおいては均一に進まず、その差異がパーン引けの原因となることは先に述べた。その応力緩和の状態は、その繊維を湿熱収縮させた際に発生する応力を測定することで確認できるが、その湿熱収縮時の応力が繊維長手方向で差異が認められるということは、ある部分は応力緩和が進んでおり、一方ある部分は応力緩和が進んでいないことを示している。その応力の差、すなわち繊維長手方向での湿熱収縮時の応力差がある一定の限界、すなわち3.0cNを超えるとパーン引けが認められるようになるため、これによりスクリーン紗の品位低下を招いてしまうのである。したがって、繊維長手方向での湿熱収縮時の応力差を3.0cN以下とすることでパーン引けの発生を抑制することができるため、本願の目的とする優れた寸法安定性を有し、かつパーン引けなどの品位の問題もなく高品位で精密印刷に好適なスクリーン紗用途原糸を得ることが可能となる。さらにこの応力差を2.0cN以下とすることで、より高いパーン引け抑制効果を得ることができるため好ましい。上記のような繊維長手方向での湿熱収縮時の応力差を達成するためには、後述のとおり、ポリエステルモノフィラメントの繊維内部において応力の緩和が均一となるような条件にて巻き取ることが重要である。
【0034】
また、本発明のポリエステルモノフィラメントは、残留トルク試験で得られる残留トルク値が4コ/m以下であることである。該残留トルク値が4コ/mを超えると、整経工程で、解舒スナールが発生することにより、ポリエステルモノフィラメントが整経ドラム内へ巻き込まれる現象を抑制できず、本発明の目的である高品位のスクリーン紗を達成することはできない。該値は少なければ少ないほど、すなわち0に近づけば近づくほど好ましく、好ましくは3コ/m以下、より好ましくは2コ/m以下であるのがよい。上記のような残留トルク値を達成するためには、後述のとおり、未延伸糸を通常の延伸機にて延伸する2工程法ではなく、紡糸口金から吐出された糸条を一旦巻き取ることなく、引き続き延伸を行う直接紡糸延伸法(以下、DSD法と称することがある。)にて製造すればよい。
【0035】
次に本発明のポリエステルモノフィラメントの好ましいパッケージ形状について説明する。
繊維の巻取方法にはボビン巻きやドラム巻きなどが一般的に用いられるが、巻取張力を低く設定でき高倍率延伸により発生した応力緩和を進め易い点、高次加工工程での解舒性が良好で高次通過性が安定している点、型くずれ、糸落ちなどがなくパッケージが安定している点、設備的および作業的に細繊度化にも対応しやすい点などにより、ボビン巻きとなす方がより好ましい。
【0036】
高倍率延伸によって発生した力学的な歪み、すなわち応力は、繊維がボビンに巻き取られた直後から緩和し始めるが、その緩和はパーンパッケージ全体に均一に起こるのではなく、パッケージのテーパー部分と他の部分では進み方に差異があり、テーパー部分の方がより応力が残留しやすいことが判っている。したがって許す限りパッケージのテーパー部分の割合を小さくすることによってこの差異を小さくすることができ、ひいてはパーン引けの発生を抑制することができる。
【0037】
しかしながらパーンパッケージの形状は、先に述べた解舒性や型くずれなどと密接な関係があるため、型くずれの防止とパーン引けの防止の観点から、そのパッケージ形状を下記(1)式とするのが好ましい。
0.1L≦Lt≦0.4L ・・・式(1)
(ここでLはパーンにおいて糸が巻き取られている部分の長さを、Ltはパーンパッケージにおけるテーパー部分の長さをそれぞれ表す。)Ltを0.4L以下とすることで、パーン引けの抑制効果が得られて好ましく、0.3L以下がより好ましい。図1に、本発明におけるパーンのパッケージ形状の一例を示す。
【0038】
次いで、本発明のポリエステルモノフィラメントの好ましい製造方法について説明する。
本発明のポリエステルモノフィラメントは、芯成分である高粘度PETと鞘成分である低粘度PETをそれぞれ溶融し押出し、複合紡糸機を用い、所定の複合パックに送り、パック内で両ポリマーを濾過した後、紡糸口金で芯鞘型に貼り合わせて複合紡糸し、紡糸口金から吐出された糸条を一旦巻き取ることなく引き続き延伸を行う直接紡糸延伸法(以下、DSD法と称する)によって製造することができる。
【0039】
本発明の製造法における特徴は、第1に、紡糸口金から吐出された糸条を一旦巻き取ることなく、ホットロールを3セット以上有する多段延伸工程により4.0倍〜7.0倍に多段延伸した後に、最終ホットロールと非加熱のゴデットロールの間で−2〜8%のリラックス処理を行うことである。
【0040】
本発明の多段延伸とは多段に組み合わされたホットロールの回転数を変更することにより、未延伸糸を4.0倍〜7.0倍に延伸する工程をいう。本発明の目的である高強度、高モジュラスを達成するためには未延伸糸を高倍率延伸することが必要となるが、2セットのホットロールで1段延伸にてこれを行うと、延伸張力が増大するため、糸斑が増大したり、糸切れが多発したりする等の問題が発生するため、多段のロールを組み合わせることにより行う必要がある。但し、コスト、装置スペースおよび操作性を考えるとホットロールの数は3〜6セットとすることが好ましい。なお、ホットロールについては1ホットロール−1セパレートロールの構成、あるいは2ホットロール構成(いわゆるデュオタイプ)の何れを用いても良く、2ホットロールで1セットとカウントするものである。
また、本発明に用いるホットロールの表面状態は特に限定されるものではない。
【0041】
本発明における多段延伸のトータル延伸倍率は4.0倍〜7.0倍とすることが好ましい。延伸倍率を4.0倍未満とした場合、得られる延伸糸の繊維構造が低配向となるため、高強度ポリエステルモノフィラメントを得ることが困難となる。7.0倍を超える倍率で行った場合、延伸張力が極めて高くなるため、糸切れが多発し、製糸性が悪化するだけでなく、残留応力の増加によるパーン引けの悪化を助長する。したがって、多段延伸の際の延伸倍率は4.0倍〜7.0倍とすることが好ましく、より好ましくは4.5倍〜6.5倍、更に好ましくは5.0倍〜6.0倍とすることである。
【0042】
本発明におけるリラックス処理とは、最終ホットロールと非加熱のゴデットロールの間でロールの回転数を変更することによって行われる。
通常、リラックス熱処理と言われる技術は2セットのホットロール間で行われ、十分に結晶化を行い、繊維構造を固定し、延伸糸の熱収縮率の低下を目的とした技術であり、本技術のリラックス処理とは技術内容およびその目的が異なる、
本発明のリラックス処理は、ポリエステルモノフィラメントの非晶部分の配向制御、すなわちモジュラスの制御(高モジュラス化)を目的としており、−2%〜8%の範囲のリラックス率をとることである。具体的には最終ホットロール速度(V)と非加熱のゴデットロール速度(V)の速度比(V/V)が0.92〜1.02となるようにする。リラックス率を−2%未満とした場合、ロール間の張力が高くなるため糸切れが多発する。一方、リラックス率が8%を超える範囲で行うと非晶部分の配向が低下するため高モジュラスのポリエステルモノフィラメントを得ることができない。より好ましいリラックス率の範囲は−1%〜3%である。
【0043】
本発明の製造法における特徴は、第2に、最終ホットロールにより熱処理された糸条を、2個以上の非加熱のゴデットロールを介して巻き取ることである。
本発明の目的である高強度、高モジュラスを達成するためには、前述のとおり最終ホットロールと非加熱のゴデットロールの間でリラックス処理を行う。一方、後述のとおりパーン引けを回避する点で非加熱のゴデットロールを出た糸条をパーンに巻き取る際の巻取張力は、極力低いことが好ましいが、本発明のような細繊度糸条の低張力巻取は非常に困難である。したがって、両者の要求を満足するためには非常に高度な張力管理が要求される。
【0044】
そこで、本発明のポリエステルモノフィラメントを製造するにあたっては、最終ホットロール後に非加熱のゴデットロールを2個以上設ける構成とするのが好ましい。最終ホットロールから巻取までの間に2個以上のゴデットローラを設けると、最終ホットロール−非加熱のゴデットロール間でリラックス処理により物性を固め、次に複数の非加熱のゴデットロール間で、熱セットされた糸条を冷却すると共に、ロール間に速度差を設けることで繊維構造を一定レベル緩和させることができる上に高度な張力調整が可能となるため、非加熱のゴデットロール−巻取間での物性変化が無く、糸条にかかる張力を容易に調整することができ、安定した低張力巻取が可能となるのである。
【0045】
また、本発明に用いる非加熱のゴデットロールの表面状態は特に限定されるものではないが、糸条把持性を維持するためには、鏡面や溝付き鏡面ロールであることが好ましい。梨地ロールも使用可能であるが、高度な張力管理が要求される。仮に非加熱のゴデットロール上で糸条のスリップが発生した場合、糸条のリラックス処理不足や長手方向での繊度斑を誘発し、強度、モジュラス低下や糸切れを引き起こす。
ここでいう鏡面とは、ローラの表面粗度が1S以下のものであり、梨地とは表面粗度が2〜4Sのものを指す。表面粗度とは、JIS−B−0601に記載される最大高さ(Rmax)の区分である。鏡面または溝付き鏡面とすることにより、糸条を効率的に把持することができる。そのため、糸条はロールの前後で一定の張力を保って安定した走行が可能となり、糸条の長手方向での物性ばらつきの小さい良好な品質の製品を得易くなる。
【0046】
本発明の製造法における特徴は、第3に、非加熱のゴデットロールを出て走行する糸条の進行方向に対して、回転軸が直角となるようスピンドルを配置し、該スピンドルをスピンドル回転軸方向にトラバース動作させることで、スピンドルに装着されたボビン上に糸条をパッケージの両端部がテーパー状となるように巻き上げ、パーンのパッケージ形状を(1)式とすることである。前述のとおり、本発明のポリエステルモノフィラメントにおいてパーン引けを抑制するためには、パーンパッケージの形状において許す限りテーパー部分の割合を小さくすることによって、残留応力の差異を小さくすることが好ましい。ここで、パーンを上記の形状にて巻き取るにあたっては、通常の2工程法のおける延伸機のように、ロールを出て走行する糸条がガイド類(トラベラー)による屈曲を経てパッケージに巻き取られるような構成では糸削れが発生する頻度が高い。さらにガイド類(トラベラー)のしごきによって巻取張力が高くなると、パーン引けの発生が顕著になってしまう。そこで、本発明においては走行する糸条の進行方向に対して、回転軸が直角となるようスピンドルを配置し、該スピンドルに装着されたボビン上に糸条を巻き取る構成とすることにより糸削れ、パーン引けを回避することが可能となる。また、パッケージの両端部をテーパー状に巻き上げるにあたっては、ボビンを装着したスピンドルをトラバース動作させ、その制御を巻き始めから巻き終わりに向けてトラバース幅を徐々に減じるようにすればよい。トラバース制御は、トラバースの反転位置の繰り返し精度が低いと、パッケージ端部で糸条がオーバーランして糸落ちにつながってしまうため、十分に高い位置制御精度をもつ制御装置によって構成するのが好ましい。
【0047】
本発明の製造法における特徴は、第4に、巻取張力を0.1g/dtex〜0.4g/dtexの範囲で制御することである。一般に、巻取張力が高いとパーンパッケージの端部と中央で糸条の残留収縮応力の緩和差が大きくなり、パーン引けの問題が起こりやすい。本発明においては巻取張力を0.4g/dtex以下に設定することでパーン引けを回避することが可能となる。また、巻取張力を0.1g/dtex以上に設定することにより、非加熱のゴデットロールから巻取機間の糸揺れを低減することができ、巻取速度を上げた場合でも安定して糸条を巻き取ることができる。より好ましい巻取張力は、0.2g/dtex〜0.3g/dtexである。巻取張力を制御するにあたっては、公知の巻取制御装置を用いて、張力センサによって検出された走行糸条の張力を一定とするように、ボビンが装着されたスピンドルモータの回転数を制御すればよい。
【0048】
上記の技術を満足することによって、本発明のポリエステルモノフィラメントが製造可能となり、高強度、高モジュラスによる優れた寸法安定性を有しつつもパーン引け、スナール等の問題のない、紗品位の優れた高精度スクリーン印刷に好適なハイメッシュスクリーン紗が達成されるものである。
【0049】
本発明のポリエステルモノフィラメントの製造方法の一例として、次に、非加熱の第1ゴデットロール、第1ホットロール、第2ホットロール、第3ホットロールおよび2個の非加熱のゴデットロールを介する方法について詳しく説明する。
【0050】
本発明のポリエステルモノフィラメントを溶融紡糸する上では、芯成分である高粘度PETと鞘成分である低粘度PETをそれぞれ280℃〜300℃の範囲の温度で溶融することが好ましい。PETを溶融する方法として、プレッシャーメルター法およびエクストルーダー法が挙げられるが、均一溶融と滞留防止の観点から、エクストルーダー法による溶融が好ましい。
【0051】
別々に溶融されたポリマーは、別々の配管を通り、計量された後、紡糸口金パックへ流入される。この際、熱劣化を抑制する観点から、配管通過時間は30分以内であることが好ましい。パックへ流入された両ポリマーは、前述の紡糸口金により合流され、芯鞘型の形態に複合され、紡糸口金から吐出される。この際の紡糸温度は、280〜300℃の範囲が適当である。紡糸温度がこの範囲であれば、PETの特徴を活かしたポリエステルモノフィラメントが製造できる。
【0052】
次に紡出引取の際、繊度3.0dtex〜13.0dtexのポリエステルモノフィラメントを得るべく定法で紡糸すると、紡出糸条が細いために冷却され易く、変形抵抗力が大きくなるために繊維配向が大きくなり、高倍率延伸が困難となるため、紡糸口金直下の雰囲気温度を260℃以上に加熱保温することが好ましい。
【0053】
また、非加熱のゴデットロールによる引取速度は、300m/分〜1500m/分の範囲とすることが好ましく、より好ましくは500m/分〜1000m/分の範囲とすることである。該引取速度を300m/分〜1500m/分の範囲とすると、紡糸線上で未延伸糸の繊維配向が形成されること無く、高倍率延伸が可能となり、生産性も良好に高強度ポリエステルモノフィラメントを得ることが可能となる。
【0054】
延伸、巻取工程としては、紡出された糸条をホットロールと非加熱のゴデットロールを介して多段延伸、リラックス処理し、パーン状に巻き取る。
【0055】
多段延伸の際、ホットロールの温度条件は走行糸条がロールに融着しない程度の温度を適宜用いることが可能であるが、通常第1ホットロールは芯成分ポリエステルのガラス転移温度+10℃〜30℃とし、第2ホットロール以降は徐々に温度を増加していくことが適正である。但し、最終ホットロール前のロール温度は、最終ホットロール温度以下とすることが好ましい。
【0056】
また、本発明の最終ホットロール温度は130℃〜230℃の範囲とするのが好ましい。最終ホットロール温度を130℃以下とすると、既記した配向の制御が困難になる上、繊維の結晶化が進みにくく、高強度ポリエステルモノフィラメントが得られない。一方、230℃を超えた場合には最終ホットロールでの融着が起こりやすく、製糸性が悪化するため好ましくない。より好ましい最終ホットロール温度は200℃〜220℃の範囲である。
【0057】
巻取速度は、通常2500〜5000m/分の範囲において製造可能であり、工程安定性を考慮すると巻取速度は2700〜4500m/分の範囲であることがより好ましい態様である。
【0058】
なお、本発明を実施するにあたり、工程の何れかの部分において、得られるポリエステルモノフィラメントの平滑性、耐摩耗性、制電性を向上させる目的で、適当な仕上げ剤(油剤)を付与することが好ましい。給油方式としては給油ガイド方式、オイリングロール方式、スプレー方式などを挙げることができ、紡糸から巻取までの間で複数回給油しても構わない。
【0059】
図2は、本発明で用いられる製糸工程(直接紡糸延伸法)の一例を示す側面図である。
図2において、紡糸口金1から吐出された糸条は、冷却後、油剤付与装置4によって油剤が付与される。次いで、速度300m/分〜1500m/分の範囲で非加熱の第1ゴデットロール5に引取られ、温度90℃〜110℃の範囲、速度300m/分〜1500m/分の範囲で、鏡面の第1ホットロール6上に数ターン巻き付けられて予熱された後、第2ホットロール7との間で延伸される。次いで、第2ホットロール7と第3ホットロール8との間で延伸される。このとき、トータルの延伸倍率は4.0倍〜7.0倍である。さらに、温度130℃〜230℃の範囲の第3ホットロール8上に数ターン巻き付けられて熱セットされ、ホットロール8より−2〜8%遅い速度で回転するゴデットローラ9、10へ引き回される。熱セットされた糸条は、ゴデットローラ9、10によって冷却されるとともに張力が調整され、巻取機で速度2500〜5000m/分の範囲でパッケージ12に巻き付けられる。巻取機においては、パッケージ12が装着されているスピンドルの回転数を制御することによって、パッケージ巻取張力が0.1g/dtex〜0.4g/dtexの範囲に調整される。
【0060】
本発明のポリエステルモノフィラメントは細繊度である上に、高強度、高モジュラスと、繊維長手方向の湿熱応力差、スナール抑制の両立、すなわちスクリーン紗とした際に、優れた寸法安定性とパーン引け、スナール等のない優れた紗品位を両立できるため、よりハイメッシュでスクリーン紗の紗品位要求が厳しい用途、例えば、コンパクトディスクのレーベルなどのグラフィックデザイン物や電子基盤回路などの高精密印刷に好適に用いることができる。スクリーン紗としては、このまま単独で経糸や緯糸に用いてもよく、他の繊維と交織して用いてもよく、本発明のポリエステルモノフィラメントの特長を発揮させるいかなる方法を用いても何ら差し支えない。
【実施例】
【0061】
以下、本発明のポリエステルモノフィラメントについて実施例をもって具体的に説明する。実施例の測定値は、次の方法で測定した。
【0062】
(1)固有粘度(IV)
定義式のηrは、25℃の温度の純度98%以上のo−クロロフェノール(以下、OCPと略記する。)10mL中に試料ポリマーを0.8g溶かし、25℃の温度にてオストワルド粘度計を用いて相対粘度ηrを下式により求め、固有粘度(IV)を算出した。
ηr=η/η=(t×d)/(t×d
固有粘度(IV)=0.0242ηr+0.2634
ここで、
η:ポリマー溶液の粘度
η:OCPの粘度
t:溶液の落下時間(秒)
d:溶液の密度(g/cm
:OCPの落下時間(秒)
:OCPの密度(g/cm) 。
【0063】
(2)繊度
糸条を500mかせ取り、かせの質量(g)に20を乗じた値を繊度とした。
【0064】
(3)破断強度(cN/dtex)と10%伸長時の強度(モジュラス)(cN/dtex)
JIS L1013(1999)に従い、オリエンテック製テンシロンUCT−100を用いて測定した。
【0065】
(4)繊維長手方向の湿熱収縮応力差(cN)
東レ(株)製フィラメントサーマルアナライシスシステム(略称:FTA−500)を用い、下記の測定条件にて測定を行い、熱収縮により繊維に発生する収縮応力を張力計で連続的に測定しチャート化した上で、最大応力と最小応力の差異を読みとった。
湿熱温度:100℃
給糸張力:20g
給糸速度:10m/分
測定糸長:400m 。
【0066】
(5)残留トルク値(コ/m)
測定試料とするポリエステルモノフィラメントを、解舒撚りが加わらないように、また撚りもどりが起こらないようにして、ピンを支点に試料をU字に二つ折りにし、0.1cN/dtexの初荷重下でその試料長が1mになるように両上端を固定した。支えピンの試料部分に0.4cN/dtexの微荷重をかけてから測定試料から支えピンを外し、懸垂状態のまま自己旋回させた。自己旋回が止まってから検撚し、旋回数を測ってトルク値とした。同一試料に対して10回測定し、その平均値を算出し単位を「コ/m」で表した。ただし、測定雰囲気は温度20℃、相対湿度65%とした。
【0067】
(6)操業性(製糸性)
32錘建て直接紡糸延伸機を用いて、168時間(7日間)連続紡糸を行い、製糸性(糸切れ率)を次の4段階で評価した。合格レベルは、○以上である。
○○:糸切れ率が3.0%未満
○ :糸切れ率が3.0%以上5.0%未満
△ :糸切れ率が5.0%以上7.0%未満
× :糸切れ率が7.0%以上 。
【0068】
(7)スクリーン紗品位
経糸、緯糸共に本発明の各実施例および各比較例のポリエステルモノフィラメントを用いて、スルーザ型織機により織機の回転数200回転/分として下記のスクリーン紗(#400)を製織した。
経密度 :400本/2.54cm
緯密度 :400本/2.54cm
得られたスクリーン紗を速度2m/分で走行させ、目視で熟練した検査技術者が検反し、スクリーン紗の検反規定に沿ってパーン引けおよび紗品位の評価を行った。その後、1000枚印刷時の寸法安定による印刷パターンの歪みを観察し、次の4段階で総合的に評価した。合格レベルは○以上である。
○○:パーン引け等の紗品位の欠点がなく、寸法安定性が極めて良好
○ :パーン引け等の紗品位の欠点がなく、寸法安定性が良好
△ :パーン引け等の紗品位の欠点はないが、寸法安定性が不良
もしくは、パーン引け等の紗品位の欠点はあるが、寸法安定性が良好
× :パーン引け等の紗品位の欠点があり、寸法安定性が不良 。
【0069】
(実施例1〜13、比較例1〜16)
本実施例と比較例については、表1〜表5のとおりの製造条件で、DSD法および2工程法にてポリエステルモノフィラメントを得た。なお、表中ではホットロールをHR、ゴデットロールをGRと称する。
【0070】
実施例1
芯成分として固有粘度1.00のPET(ガラス転移温度80℃)と鞘成分として固有粘度0.50のPETを、エクストルーダーを用いてそれぞれ295℃の温度で溶融後、ポリマー温度290℃で、複合比が芯成分:鞘成分=80:20となるようにポンプ計量を行い、芯鞘型となるよう公知の複合口金に流入させた。口金にかかる圧力は各ポリマーそれぞれ15MPaであった。また、各ポリマーの配管通過時間はそれぞれ15分であった。口金から吐出された糸条は、図2の設備を用いて紡糸・延伸した。すなわち、紡糸口金1から吐出されたポリエステルモノフィラメント糸条を紡糸口金直下の雰囲気温度が290℃となるよう、加熱体2により積極的に加熱保温し、その後、糸条冷却送風装置3により冷却し、油剤付与装置4により仕上げ剤を付与した後、500m/分の速度で非加熱の第1ゴデットロール5に引き取り、一旦巻き取ることなく505m/分の速度で90℃の温度に加熱された第1ホットロール6、2092m/分の速度で90℃の温度に加熱された第2ホットロール7、2929m/分の速度で220℃の温度に加熱された第3ホットロール8に引き回し、延伸、熱セットを行った。さらに、2944m/分、2958m/分の速度で2個の表面粗度0.8S、非加熱のゴデットロール9、10に引き回した後、巻取張力が0.2g/dtexとなるようにスピンドル回転数を制御して、パーンの形状がLt=0.2Lとなるようにパッケージ12に巻き取り、6.0dtexのポリエステルモノフィラメントを得た。このポリエステルモノフィラメントの特性評価結果は表1のとおりであり、非常に優れた製糸性およびスクリーン紗品位が得られた。
【0071】
実施例2
吐出量を変えて繊度を変更したこと以外は、実施例1と同様にして10.0dtexのポリエステルモノフィラメントを得た。得られたポリエステルモノフィラメントの特性評価指標は表1のとおりであり、製糸性は実施例1と同等に非常に優れていたが、繊度が大きくなったためスクリーン紗とした際にオープニングが小さいものとなり、スクリーン紗品位は実施例1に一歩譲るものとなった。
【0072】
実施例3
吐出量を変えて繊度を変更したこと以外は、実施例1と同様にして3.0dtexのポリエステルモノフィラメントを得た。得られたポリエステルモノフィラメントの特性評価指標は表1のとおりであり、繊度が非常に小さくなったために製糸性は実施例1に一歩譲るものとなった。スクリーン紗品位についても緯糸の飛送性が悪く製織時に緯糸切れ発生したため、実施例1に一歩譲るものとなった。
【0073】
実施例4
芯成分ポリエステル(ガラス転移温度80℃)の固有粘度を1.50としたこと以外は、実施例1と同様にして6.0dtexのポリエステルモノフィラメントを得た。得られたポリエステルモノフィラメントの特性評価指標は表1のとおりであり、固有粘度が大きくなったために紡糸張力がやや大きくなり製糸性は実施例1に一歩譲るものとなった。また残留応力が大きくなったことでパーン引けが発生しやすくなり、スクリーン紗品位についても実施例1に一歩譲るものとなった。
【0074】
実施例5
芯成分ポリエステル(ガラス転移温度80℃)の固有粘度を0.80とし、トータル延伸倍率を4.2倍、第3ホットロール−第2ゴデットロール間のリラックス率を1.4%となるように吐出量、各ロール速度および第3ホットロール温度を変更した以外は実施例1と同様にして6.0dtexのポリエステルモノフィラメントを得た。得られたポリエステルモノフィラメントの特性評価指標は表1のとおりであり、製糸性は実施例1同等非常に優れたものとなったが、芯成分の固有粘度が小さくなったために強度、モジュラスが低下し、寸法安定性の点でスクリーン紗品位は実施例1に一歩譲るものとなった。
【0075】
実施例6
トータル延伸倍率が6.8倍となるように吐出量および各ロール速度を変更した以外は実施例1と同様にして6.0dtexのポリエステルモノフィラメントを得た。得られたポリエステルモノフィラメントの特性評価指標は表1のとおりであり、延伸倍率が大きくなったために延伸張力が増加し、製糸性は実施例1に一歩譲るものとなった。また、残留応力が大きくなったことでパーン引けが発生しやすくなり、スクリーン紗品位についても実施例1に一歩譲るものとなった。
【0076】
実施例7
トータル延伸倍率を4.6倍、第3ホットロール−第2ゴデットロール間のリラックス率を5.0%となるように吐出量、各ロール速度および第3ホットロール温度を変更した以外は実施例1と同様にして6.0dtexのポリエステルモノフィラメントを得た。得られたポリエステルモノフィラメントの特性評価指標は表1のとおりであり、製糸性は実施例1と同等に非常に優れていたが、延伸倍率、リラックス率を変更したことにより強度、モジュラスが低下し、寸法安定性の点でスクリーン紗品位は実施例1に一歩譲るものとなった。
【0077】
【表1】

【0078】
実施例8
第3ホットロール−第2ゴデットロール間のリラックス率を−1.5%となるように吐出量および各ロール速度を変更した以外は実施例1と同様にして、6.0dtexのポリエステルモノフィラメントを得た。得られたポリエステルモノフィラメントの特性評価指標は表2のとおりであり、第3ホットロール−第2ゴデットロール間の張力が大きくなったために製糸性は実施例1に一歩譲るものとなった。また、残留応力が大きくなったことでパーン引けが発生しやすくなり、スクリーン紗品位についても実施例1に一歩譲るものとなった。
【0079】
実施例9
第3ホットロール−第2ゴデットロール間のリラックス率を8.0%となるように吐出量および各ロール速度を変更した以外は実施例1と同様にして、6.0dtexのポリエステルモノフィラメントを得た。得られたポリエステルモノフィラメントの特性評価指標は表2のとおりであり、製糸性は実施例1同等に非常に優れるものとなったが、リラックス率が大きくなったことで強度、モジュラスが低下し、寸法安定性の点でスクリーン紗品位は実施例1に一歩譲るものとなった。
【0080】
実施例10
パーンの形状がLt=0.4Lとなるようにパッケージを巻き取った以外は実施例1と同様にして、6.0dtexのポリエステルモノフィラメントを得た。得られたポリエステルモノフィラメントの特性評価指標は表2のとおりであり、製糸性は実施例1同等に非常に優れるものとなったが、パッケージのテーパー部分と他の部分で残留応力の緩和の進み方に差異が生じたことでパーン引けが発生しやすくなり、スクリーン紗品位については実施例1に一歩譲るものとなった。
【0081】
実施例11
パーンの形状がLt=0.1Lとなるようにパッケージを巻き取った以外は実施例1と同様にして、6.0dtexのポリエステルモノフィラメントを得た。得られたポリエステルモノフィラメントの特性評価指標は表2のとおりであり、製糸性は巻取中の糸落ちが発生し易くなったことで実施例1に一歩譲るものとなったが、スクリーン紗品位については実施例1同等に非常に優れたものとなった。
【0082】
実施例12
巻取張力が0.4g/dtexとなるようにスピンドル回転数を制御して巻き取った以外は実施例1と同様にして6.0dtexのポリエステルモノフィラメントを得た。得られたポリエステルモノフィラメントの特性評価指標は表2のとおりであり、製糸性は実施例1同等に非常に優れたものとなったが、巻取張力が高くなったことで残留応力が大きくなり、パーン引けが発生しやすくなったためにスクリーン紗品位については実施例1に一歩譲るものとなった。
【0083】
実施例13
巻取張力が0.1g/dtexとなるようにスピンドル回転数を制御して巻き取った以外は実施例1と同様にして6.0dtexのポリエステルモノフィラメントを得た。得られたポリエステルモノフィラメントの特性評価指標は表2のとおりであり、製糸性は巻取張力が小さくなったことでロール上の糸条走行性が不安定となり実施例1に一歩譲るものとなったが、スクリーン紗品位については実施例1同等に非常に優れたものとなった。
【0084】
【表2】

【0085】
比較例1
吐出量を変えて繊度を変更したこと以外は、実施例1と同様にして15.0dtexのポリエステルモノフィラメントを得た。得られたポリエステルモノフィラメントの特性評価指標は表3のとおりであり、製糸性は実施例1と同等に非常に優れていたが、繊度が大きくなったためスクリーン紗とした際にオープニングが非常に小さいものとなり、スクリーン紗品位は実施例1に及ばないものとなった。
【0086】
比較例2
吐出量を変えて繊度を変更したこと以外は、実施例1と同様にして2.0dtexのポリエステルモノフィラメントを得た。得られたポリエステルモノフィラメントの特性評価指標は表3のとおりであり、繊度が非常に小さくなったために製糸性は実施例1に大きく及ばないものとなった。スクリーン紗品位についても緯糸の飛送性が悪く製織時に緯糸切れ多発したため、実施例1に及ばないものとなった。
【0087】
比較例3
芯成分ポリエステルの固有粘度を2.50としたこと以外は、実施例1と同様にして6.0dtexのポリエステルモノフィラメントを得た。得られたポリエステルモノフィラメントの特性評価指標は表3のとおりであり、固有粘度が大きくなったために紡糸張力が過大となり、製糸性は実施例1に大きく及ばないものとなった。また残留応力が大きくなったことでパーン引けが発生しやすくなり、スクリーン紗品位についても実施例1に及ばないものとなった。
【0088】
比較例4
芯成分ポリエステルの固有粘度を0.50とし、鞘成分ポリエステルの固有粘度を0.30とし、トータル延伸倍率を4.2倍、第3ホットロール−第2ゴデットロール間のリラックス率を1.4%となるように吐出量、各ロール速度および第3ホットロール温度を変更した以外は実施例1と同様にして6.0dtexのポリエステルモノフィラメントを得た。得られたポリエステルモノフィラメントの特性評価指標は表3のとおりであり、両成分の固有粘度が小さくなったために糸の強度が極小となり、製糸性は実施例1に大きく及ばないものとなり、スクリーン紗品位についても寸法安定性の点で実施例1に及ばないものとなった。
【0089】
比較例5
トータル延伸倍率が7.5倍となるように吐出量および各ロール速度を変更した以外は実施例1と同様にして6.0dtexのポリエステルモノフィラメントを得た。得られたポリエステルモノフィラメントの特性評価指標は表3のとおりであり、延伸倍率が大きくなったために延伸張力が過大となり、製糸性は実施例1に及ばないものとなった。また、残留応力が大きくなったことでパーン引けが発生しやすくなり、スクリーン紗品位についても実施例1に及ばないものとなった。
【0090】
比較例6
トータル延伸倍率を3.5倍、第3ホットロール−第2ゴデットロール間のリラックス率を5.0%となるように吐出量、各ロール速度、第3ホットロール温度を変更した以外は実施例1と同様にして6.0dtexのポリエステルモノフィラメントを得た。得られたポリエステルモノフィラメントの特性評価指標は3のとおりであり、製糸性は実施例1と同等に非常に優れていたが、延伸倍率、リラックス率を変更したことにより強度、モジュラスが低下し、寸法安定性の点でスクリーン紗品位は実施例1に及ばないものとなった。
【0091】
比較例7
第3ホットロール−第2ゴデットロール間のリラックス率を−2.5%となるように吐出量および各ロール速度を変更した以外は実施例1と同様にして、6.0dtexのポリエステルモノフィラメントを得た。得られたポリエステルモノフィラメントの特性評価指標は表3のとおりであり、第3ホットロール−第2ゴデットロール間の張力が過大となり、製糸性は実施例1に大きく及ばないものとなった。また、残留応力が大きくなったことでパーン引けが発生しやすくなり、スクリーン紗品位についても実施例1に及ばないものとなった。
【0092】
比較例8
第3ホットロール−第2ゴデットロール間のリラックス率を10.0%となるように吐出量および各ロール速度を変更した以外は実施例1と同様にして、6.0dtexのポリエステルモノフィラメントを得た。得られたポリエステルモノフィラメントの特性評価指標は表3のとおりであり、製糸性は実施例1同等に非常に優れるものとなったが、リラックス率が大きくなったことで強度、モジュラスが大きく低下し、寸法安定性の点でスクリーン紗品位は実施例1に及ばないものとなった。
【0093】
【表3】

【0094】
比較例9
パーンの形状がLt=0.6Lとなるようにパッケージを巻き取った以外は実施例1と同様にして、6.0dtexのポリエステルモノフィラメントを得た。得られたポリエステルモノフィラメントの特性評価指標は表4のとおりであり、製糸性は実施例1同等に非常に優れるものとなったが、パッケージのテーパー部分と他の部分で残留応力の緩和の進み方に差異が生じたことでパーン引けが発生しやすくなり、スクリーン紗品位については実施例1に及ばないものとなった。
【0095】
比較例10
パーンの形状がLt=0.04Lとなるようにパッケージを巻き取った以外は実施例1と同様にして、6.0dtexのポリエステルモノフィラメントを得た。得られたポリエステルモノフィラメントの特性評価指標は表4のとおりであり、製糸性は巻取中の糸落ちが多発したことで実施例1に及ばないものとなったが、スクリーン紗品位については実施例1同等に非常に優れたものとなった。
【0096】
比較例11
巻取張力が0.5g/dtexとなるようにスピンドル回転数を制御して巻き取った以外は実施例1と同様にして6.0dtexのポリエステルモノフィラメントを得た。得られたポリエステルモノフィラメントの特性評価指標は表4のとおりであり、製糸性は巻取張力が大きくなったために糸切れ発生し実施例1に及ばないものとなり、また巻取張力が高くなったことで残留応力が大きくなり、パーン引けが発生しやすくなったためにスクリーン紗品位についても実施例1に及ばないものとなった。
【0097】
比較例12
巻取張力が0.05g/dtexとなるようにスピンドル回転数を制御して巻き取った以外は実施例1と同様にして6.0dtexのポリエステルモノフィラメントを得た。得られたポリエステルモノフィラメントの特性評価指標は表4のとおりであり、製糸性は巻取張力が非常に小さくなったことでロール上の糸条走行性が不安定となり、実施例1に大きく及ばないものとなったが、スクリーン紗品位については実施例1同様に非常に優れたものとなった。
【0098】
比較例13
比較例13については第3ホットロール後の非加熱のゴデットロールを1個にした以外は実施例1と同様にして6.0dtexのポリエステルモノフィラメントを得た。得られたポリエステルモノフィラメントの特性評価指標は表4のとおりであり、非加熱のゴデットロールを1個にしたことで低張力巻取での張力調整が困難となり、糸条走行性が不安定となったため製糸性は実施例1に及ばないものとなった。また、非加熱のゴデットロール上で糸条がスリップすることにより、第3ホットロール−ゴデットロール間で必要以上のリラックス処理がなされ、強度、モジュラスが低下し、寸法安定性の点でスクリーン紗品位も実施例1に及ばないものとなった。
【0099】
比較例14
比較例14については特開平5−295617号公報の実施例1を参考にして製造方法を変更し、表4のとおりの製造条件にて実験を行った。固有粘度1.00のPETと固有粘度0.50のPETを、エクストルーダーを用いてそれぞれ295℃の温度で溶融後、ポリマー温度290℃で、複合比が芯成分:鞘成分=80:20となるようにポンプ計量を行い、芯鞘型となるよう公知の複合口金に流入させた。口金にかかる圧力は各ポリマーそれぞれ15MPaであった。また、各ポリマーの配管通過時間はそれぞれ15分であった。口金から吐出された糸条は、図3の設備を用いて紡糸・延伸した。すなわち、紡糸口金13から吐出された糸条を紡糸口金直下の雰囲気温度が290℃となるよう、加熱体14により積極的に加熱保温し、その後、糸条冷却送風装置15により冷却し、油剤付与装置16により仕上げ剤を付与した後、1200m/分の速度で非加熱の第1ゴデットロール17に引き取り、一旦巻き取ることなく1205m/分の速度で92℃の温度に加熱された第1ホットロール18、3950m/分の速度で135℃の温度に加熱された第2ホットロール19に引き回し、延伸、熱セットを行った。さらに、4050m/分の速度で表面粗度0.8S、非加熱のゴデットロール20に引き回した後、巻取張力が0.2g/dtexとなるようにスピンドル回転数を制御して、パーンの形状がLt=0.2Lとなるようにパッケージ22に巻き取り、6.0dtexのポリエステルモノフィラメントを得た。このポリエステルモノフィラメントの特性評価結果は表4のとおりであり、非加熱のゴデットロールが1個(1セット)であるため低張力巻取での張力調整が困難となり、糸条走行性が不安定となったため、製糸性は実施例1に及ばないものとなった。また、スクリーン紗品位については、1段延伸である上に延伸倍率が低いため、強度が低い、すなわちスクリーン紗の寸法安定性が悪く、また、第2ホットロール−ゴデットロール間のリラックスが十分でないため残留応力が大きく、パーン引けが発生しやすくなったために、実施例1に大きく及ばないものとなった。
【0100】
【表4】

【0101】
比較例15および比較例16については、製造方法を変更して実験を行った。表5のとおりの製造条件にて2工程法でポリエステルモノフィラメントを得た。
【0102】
比較例15
比較例15においては、固有粘度0.80のPET(ガラス転移温度80℃)と固有粘度0.50のPETを、エクストルーダーを用いてそれぞれ295℃の温度で溶融後、ポリマー温度290℃で、複合比が芯成分:鞘成分=80:20となるようにポンプ計量を行い、芯鞘型となるよう公知の複合口金に流入させた。これを紡糸口金直下の雰囲気温度が290℃となるよう積極的に加熱保温し、紡糸速度1200m/分で引取り、24.5dtexの芯鞘型ポリエステルモノフィラメント未延伸糸を得た。さらに該未延伸糸を環境温度25℃×2日間エージングした後、図4に示す延伸機を用い、非加熱に設定した第1ホットロール25、90℃の温度に加熱された第2ホットロール26、130℃の温度に加熱された第3ホットロール27、第2ホットロール−第3ホットロール間延伸倍率3.2倍で延伸、熱処理し、さらに第3ホットロール−非加熱の表面粗度0.8Sの第1、第2ゴデットロール28、29の間で1.4%リラックス処理して、6.0dtexのポリエステルモノフィラメントを得た。該ポリエステルモノフィラメントの特性評価結果は表5のとおりであり、製糸性は実施例1同等に非常に優れたものであったが、スクリーン紗品位については延伸機における巻取張力が大きくなったために、残留応力が大きくパーン引けが発生し、また糸が加撚されたためスナールが発生し実施例1に及ばないものとなった。
【0103】
比較例16
比較例16においては、固有粘度1.00のPETと固有粘度0.50のPETを、エクストルーダーを用いてそれぞれ295℃の温度で溶融後、ポリマー温度290℃で、複合比が芯成分:鞘成分=80:20となるようにポンプ計量を行い、芯鞘型となるよう公知の複合口金に流入させた。これを紡糸口金直下の雰囲気温度が290℃となるよう積極的に加熱保温し、紡糸速度1000m/分で引取り、26.4dtexの芯鞘型ポリエステルモノフィラメント未延伸糸を得た。さらに該未延伸糸を環境温度25℃×2日間エージングした後、図4に示す延伸機を用い、90℃の温度に加熱された第1ホットロール25、90℃の温度に加熱された第2ホットロール26、第1ホットロール−第2ホットロール間延伸倍率2.9倍で延伸後、さらに200℃の温度に加熱された第3ホットロール27にて、第2ホットロール−第3ホットロール間延伸倍率1.6倍で延伸、熱処理し、さらに第3ホットロール−非加熱の表面粗度0.8Sの第1、第2ゴデットロール28、29の間で5.0%リラックス処理して、6.0dtexのポリエステモノフィラメントを得た。該ポリエステルモノフィラメントの特性評価結果は表5のとおりであり、製糸性は実施例1同等に非常に優れたものであったが、スクリーン紗品位については延伸機における巻取張力が大きくなったために残留応力が大きくパーン引けが発生し、また糸が加撚されたためスナールが発生し実施例1に及ばないものとなった。
【0104】
【表5】

【符号の説明】
【0105】
L :パーンにおいて糸が巻き取られている部分の長さ
Lt:パーンパッケージにおけるテーパー部分の長さ
1:紡糸口金
2:加熱体
3:糸条冷却送風装置
4:油剤付与装置
5:第1ゴデットロール
6:第1ホットロール
7:第2ホットロール
8:第3ホットロール
9:第2ゴデットロール
10:第3ゴデットロール
11:糸条巻取装置
12:パッケージ
13:紡糸口金
14:加熱体
15:糸条冷却送風装置
16:油剤付与装置
17:第1ゴデットロール
18:第1ホットロール
19:第2ホットロール
20:第2ゴデットロール
21:糸条巻取装置
22:パッケージ
23:未延伸糸
24:供給ロール
25:第1ホットロール
26:第2ホットロール
27:第3ホットロール
28:第1ゴデットロール
29:第2ゴデットロール
30:パッケージ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯成分の高粘度ポリエステルと、鞘成分の低粘度ポリエステルが芯鞘型に複合されたポリエステルモノフィラメントであって、次の(a)〜(e)の構成要件を全て満足することを特徴とするポリエステルモノフィラメント。
(a)繊度が3.0〜13.0dtexであること。
(b)破断強度が6.0〜9.3cN/dtexであること。
(c)10%伸長時の強度が5.0〜9.0cN/dtexであること。
(d)繊維長手方向の湿熱応力差が3.0cN以下であること。
(e)残留トルク値が4コ/m以下であること。
【請求項2】
芯成分の高粘度ポリエステルと、鞘成分の低粘度ポリエステルの2成分を芯鞘型に複合して紡糸口金から溶融押出しして、冷却固化した後、得られた未延伸糸を一旦巻き取ることなく連続して延伸し巻き取る直接紡糸延伸法によりポリエステルモノフィラメントを製造するに際して、次の(f)〜(i)の工程要件を全て満足することを特徴とする請求項1記載のポリエステルモノフィラメントの製造方法。
(f)芯成分を構成する高粘度ポリエステルの固有粘度が0.70〜2.00であり、鞘成分を構成する低粘度ポリエステルの固有粘度が0.40〜0.70であり、さらに芯成分ポリエステルと鞘成分ポリエステルの固有粘度差を0.20〜1.00である。
(g)未延伸糸を、ホットロールを3セット以上有する多段延伸工程により4.0〜7.0倍で多段延伸した後に、最終ホットロールと非加熱のゴデットロールの間で−2%〜8%でリラックス処理を行う。
(h)最終ホットロールにより熱処理された糸条を、2個以上の非加熱のゴデットロールを介して巻き取る。
(i)非加熱のゴデットロールを出て走行する糸条の進行方向に対して、回転軸が直角となるようスピンドルを配置し、該スピンドルをスピンドル回転軸方向にトラバース動作させることで、スピンドルに装着されたボビン上に糸条をパッケージの両端部がテーパー状となるように巻き上げ、パーンのパッケージ形状を下記式とする。
0.1L≦Lt≦0.4L
ここで、L:パーンにおいて糸が巻き取られている部分の長さ、Lt:パーンパッケージにおけるテーパー部分の長さ、をそれぞれ表す。
(j)巻取張力を0.1〜0.4g/dtexに制御する。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−180484(P2010−180484A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−22847(P2009−22847)
【出願日】平成21年2月3日(2009.2.3)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】