説明

ポリエステルモノフィラメントおよび工業用織物

【課題】耐加水分解性に優れると共に、従来のポリエステルモノフィラメントと比較し、極めて良好な耐摩耗性を有し、工業用織物の構成素材として好適なポリエステルモノフィラメントおよびこれを用いた工業用織物を提供する。
【解決手段】(A)ポリエステル80重量%〜99.5重量%と、(B)スチレン系ポリマ、オレフィン系ポリマ、およびメタクリレート系ポリマから選ばれた少なくとも1種の熱可塑性樹脂0.5重量%〜20重量%との合計100重量部に対し、(C)平均粒子径が0.2〜1.0μm、かつd25/d75(d25:粒子の体積基準の積算分布において、大粒径側から全体積の25%における粒径、d75:粒子の体積基準の積算分布において、大粒径側から全体積の75%における粒径)で表される粒度分布比が2.5以下の無機粒子1〜15重量部を含有するポリエステル組成物からなるモノフィラメントであって、末端カルボキシル基濃度が10当量/10g以下であることを特徴とするポリエステルモノフィラメント。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステルモノフィラメントおよび工業用織物に関するものである。さらに詳しくは、耐加水分解性に優れると共に、従来のポリエステルモノフィラメントと比較し、極めて良好な耐摩耗性を有し、工業用織物の構成素材として好適なポリエステルモノフィラメントおよびこれを用いた工業用織物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルは優れた機械的特性を有しているため、従来より各種工業用部品、衣料用および工業用繊維材料、各種織物用途などに広く使用されてきている。
【0003】
例えばポリエステルからなる繊維のうち、ポリエチレンテレフタレートモノフィラメントは、抄紙ドライヤーカンバス、抄紙ワイヤー、各種ブラシ、筆毛、印刷スクリーン用紗、釣り糸、ゴム補強用繊維材料などに広く好適に用いられてきているが、特に抄紙工程に用いられる工業用織物の抄紙ワイヤーや抄紙ドライヤーカンバスなどに多く利用されている。
【0004】
しかるに、抄紙用の工業用織物などは、実際に使用される際、いずれも駆動ロールや制御ロール、また製造品などに含まれる硬度の高い微粒子などと接触して摩耗することから、それらの構成素材には優れた耐摩耗性が要求されている。
【0005】
特に、製紙業界においては、従来は酸性紙が主として製造されていたが、紙の経日劣化の問題が顕著になるに従い、近年では、中性紙への転換が盛んに行なわれるようになってきており、この酸性紙から中性紙への転換にともない、填料と呼ばれる紙への充填材が、従来のタルクから炭酸カルシウムに変更されるようになり、ここで用いられる填料の変更が、抄紙工程で使用される織物である抄紙ワイヤーや抄紙ドライヤーカンバスの寿命に影響を及ぼすようになってきた。
【0006】
すなわち、炭酸カルシウム粒子はタルク粒子に比較して粒子硬度が高いため、抄紙工程に使用される織物の構成素材であるポリエステルモノフィラメントの摩耗劣化を早めてしまい、織物の寿命が短くなるという問題が顕著となってきているのである。
【0007】
一方、これら填料と抄紙用織物との接触による摩耗劣化を改善する方法としては、ナイロンモノフィラメントをこれら抄紙用織物に使用することが知られている。
【0008】
しかしながら、ナイロンモノフィラメントを用いた抄紙用織物は、摩耗し難いという利点を有するものの、ポリエステルモノフィラメントからなる織物と比較して、抄紙時の水分の影響により、織物の寸法が大きく変化することなど、寸法安定性に致命的な欠点があることから、抄紙工程の全工程には使用できないのが実情であった。
【0009】
また、抄紙ドライヤーカンバスにおいては、従来では、その使用環境が高温多湿になることから、ポリエステルモノフィラメントが加水分解劣化することにより織物の強度低下を来たし、耐久寿命が小さいことが大きな問題とされていたが、近年では、ポリエステルモノフィラメントからなる織物が加水分解劣化によって寿命を迎えるよりも早く、炭酸カルシウムやカオリンなどの硬い無機顔料からなる填料を含有またはコーティングした紙製品との接触によって著しく摩耗劣化し、織物として使用に耐えない状態になることが新たな問題として顕在化し始めており、寸法安定性が良好なポリエステルモノフィラメントの耐摩耗性の改良がしきりに望まれるようになってきた。
【0010】
以上のような状況から、ポリエステルモノフィラメントの耐摩耗性良技術が従来より多く提案されている。
【0011】
例えば、ポリエチレンテレフタレートに熱可塑性エラストマである熱可塑性ポリウレタンを含有させたモノフィラメントを使用した耐摩耗性の改良された抄紙用織物(例えば、特許文献1参照)が提案されているが、この抄紙用織物は、ポリエチレンテレフタレートの溶融紡糸温度で、使用する熱可塑性ポリウレタン樹脂から、ウレタン結合およびエーテル鎖の熱分解が発生するため、得られるモノフィラメントは工業用として十分な引張強度を有するものではないという問題があった。
【0012】
また、ポリエステルに、無機酸化物、水酸化物、炭酸塩、重炭酸塩、窒化物および炭化物からなる群から選択された20nm〜100nmの厚みと20:1以下のアスペクト比を有する非層状小板形粒子を配合することにより、ポリエステル繊維の耐摩耗性を向上する技術(例えば、特許文献2参照)、あるいはポリエステルに加水分解安定剤と平均粒径が100nm以下のケイ素、アルミニウムおよび/またはチタンの酸化物を配合したポリエステル繊維の使用により工業用布の耐摩耗性を向上する技術(例えば、特許文献3参照)が提案されているが、これらのポリエステル繊維は、工業用として十分な引張強度を有するものの、添加する非層状小板形粒子あるいは金属酸化物の径が小さいために十分な耐摩耗性が得られず、工業織物用としては実用的ではないという問題を残していた。
【0013】
さらに、少なくとも一つのスルホン酸基またはスルホン酸金属塩基をもつ化合物を共重合してなる芳香族ポリエステルに、酸化ジルコニウム粒子を添加してなる耐摩耗性に優れた繊維を製造しうるポリエステル組成物(例えば、特許文献4参照)が提案されているが、この組成物から得られたモノフィラメントは、若干の耐摩耗性向上効果は認められるものの、添加したジルコニウム粒子が凝集することに起因して、線径変動が大きくなるため、工業用織物として必要な表面平滑性を満足し得ないという問題を有していた。
【0014】
また、本発明者等もポリエステルモノフィラメントの耐摩耗性を改善する技術として、ポリエステル系樹脂に対し、平均粒子径が0.2〜1.0μmで、d25/d75で表される粒度分布比が2.5以下の無機粒子1〜15重量%を含有した樹脂組成物からなる耐摩耗性を改善したポリエステルモノフィラメント(例えば、特許文献5参照)を提案している。
【0015】
しかるに、上述してきた各耐摩耗性改善技術は、いずれもポリエステル繊維の耐摩耗性を改善する技術としては相応の効果を発揮するものの、抄紙工程で使用される工業用織物の構成素材、特に抄紙ドライヤーカンバス用途のポリエステルモノフィラメントとして使用する場合においては、耐加水分解性能の改善効果が十分とは言えず、いずれも抄紙ドライヤーカンバス用途に用いるモノフィラメントとしては好ましくない技術であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開平2−80688号公報
【特許文献2】特開2007−23474号公報
【特許文献3】特開2006−63511号公報
【特許文献4】特開平5−171014号公報
【特許文献5】特開2008−266873号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
以上のような状況を鑑み、本発明は、従来技術における問題点の解決を課題として検討した結果達成されたものであり、その目的とするところは、ポリエステルモノフィラメントの耐摩耗性を改善すると共に、高温多湿の条件下で使用した場合においても長期に渡る優れた耐加水分解性をも兼ね備え、工業用織物の構成素材として好適に使用し得るポリエステルモノフィラメントおよびこれを使用した工業用織物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記目的を達成するため本発明によれば、(A)ポリエステル80重量%〜99.5重量%と、(B)スチレン系ポリマ、オレフィン系ポリマ、およびメタクリレート系ポリマから選ばれた少なくとも1種の熱可塑性樹脂0.5重量%〜20重量%との合計100重量部に対し、(C)平均粒子径が0.2〜1.0μm、かつd25/d75(d25:粒子の体積基準の積算分布において、大粒径側から全体積の25%における粒径、d75:粒子の体積基準の積算分布において、大粒径側から全体積の75%における粒径)で表される粒度分布比が2.5以下の無機粒子1〜15重量部を含有するポリエステル組成物からなるモノフィラメントであって、末端カルボキシル基濃度が10当量/10g以下であることを特徴とするポリエステルモノフィラメントが提供される。
【0019】
ここで、本発明のポリエステルモノフィラメントにおいては、
前記(A)ポリエステル、(B)熱可塑性樹脂および(C)無機粒子を含有するポリエステル組成物からなるモノフィラメントであって、さらに未反応の状態のカルボジイミド化合物0.01重量部〜1.5重量部を含有すること、
前記(A)ポリエステルがポリエチレンテレフタレートであること、
前記(B)熱可塑性樹脂におけるスチレン系ポリマがシンジオタクチック構造を有するスチレン系ポリマであること、
前記(B)熱可塑性樹脂におけるオレフィン系ポリマがポリエチレンまたはポリプロピレンであること、
前記(B)熱可塑性樹脂におけるメタクリレート系ポリマがポリメチルメタクリレートであること、および
前記(C)の無機粒子が、炭酸カルシウム、二酸化チタンおよび二酸化ケイ素から選ばれた少なくとも1種であること、
が、いずれも好ましい条件として挙げられ、これらの条件を満足することによって、より一層の優れた効果の発揮が期待でき、
また、本発明の工業用織物は、前記ポリエステルモノフィラメントを経糸および/または緯糸の少なくとも一部に使用したことを特徴とし、なかでも抄紙ドライヤーカンバス、抄紙ワイヤー、サーマルボンド法不織布熱接着工程用ネットコンベア、乾燥機および熱処理機内搬送用ベルトもしくはフィルターなどの用途に使用した場合には、優れた耐摩耗性を具現するばかりか、必要十分な耐加水分解性能をも兼ね備えることから、本発明によれば、極めて好適に利用し得る工業用織物の取得を可能とすることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、以下に説明する通り、従来のポリエステルモノフィラメントに比較し、より一層の優れた耐摩耗性を有するばかりか、高い耐加水分解性能をも兼ね備えることから、工業用織物の中でも、特に抄紙用織物の構成素材として好適なポリエステルモノフィラメントおよび工業用織物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
【0022】
本発明のポリエステルモノフィラメントを構成する(A)ポリエステルは、ジカルボン酸と、グリコールからなるポリエステルである。ジカルボン酸成分としては、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、イソフタル酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸などが挙げられる。また、グリコール成分としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。これらのジカルボン酸成分とグリコール成分とを適宜組み合わせて使用することができる。また、上記のジカルボン酸成分の一部を、アジピン酸、セバシン酸、ダイマー酸、スルホン酸金属塩置換イソフタル酸などで置き換えてもよく、また、上記のグリコール成分の一部をジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジオール、ポリアルキレングリコールなどで置き換えてもよい。更に、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、トリメリット酸、トリメシン酸、硼酸などの鎖分岐剤を少量併用することもできる。
【0023】
これらの内でも、ジカルボン酸成分の90モル%以上がテレフタル酸からなり、グリコール成分の90モル%がエチレングリコールからなる、ポリエチレンテレフタレート(以下、PETという)が好適である。
【0024】
本発明の効果を効率よく発現させるために、ポリエステル中にリン化合物を、リン原子として50ppm以下で、かつ一般式5×10−3≦P≦M+8×10−3(式中のPはポリエステルを構成する二塩基酸に対するリン原子のモル%であり、Mはポリエステル樹脂中の金属で、周期律表II族、VII 族、VIII族でかつ第3,4周期の内より選択された1種もしくは2種以上の金属原子のポリエステルを構成する二塩基酸に対するモル%である。また、M=0であってもよい)の範囲内の量含有させることができる。
【0025】
さらに、本発明で用いる(A)ポリエステルには、上記のポリエステルの2種類以上のブレンドポリマーが含まれるものであり、更には上記のポリエステル以外の樹脂、例えばポリアミド、ポリエステルアミド、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ポリカーボネート、ポリウレタン樹脂、ポリアクリレート、およびフッ素樹脂などを、本発明の特性を疎外しない範囲で必要に応じてブレンドしたものでもよい。
【0026】
ここで、本発明で用いる(A)ポリエステルの極限粘度は、通常は0.6以上であればよいが、0.7以上の場合には、強度に優れるため特に好ましい。なお、極限粘度はオルソクロロフェノール溶液中25℃で測定した粘度より求めた極限粘度であり、〔η〕で表わされる。これらのポリエステルの製造は、公知の溶融重縮合方法あるいは溶融重縮合と固相重縮合を組み合わせて行なうことができる。
【0027】
本発明で用いられる(B)熱可塑性樹脂におけるスチレン系ポリマとしては、アタクチック構造ポリスチレン、アイソタクチック構造ポリスチレン、シンジオタクチック構造ポリスチレン(以下、SPSという)、ポリ−p−メチルスチレン、スチレンとp−メチルスチレンとの共重合体などを挙げることができる。また、好ましくは、これらスチレン系ポリマの中でも、ポリマの50重量%以上がシンジオタクチック構造を有するスチレン系ポリマを用いることが、製造時の工程通過性が良好になるため好ましく、ポリマの90重量%以上がシンジオタクチック構造を有するSPSである場合には、よりすぐれた効果を期待することができる。
【0028】
また、オレフィン系ポリマとしては、環状オレフィン系重合体、ポリエチレン(以下、PEという)、ポリプロピレン(以下、PPという)、ポリメチルペンテン、ポリブテン−1、ポリペンテン、ポリ−3−メチルブテン−1、ポリ−4−メチルペンテン−1などを挙げることができるが、これらの中でも溶融紡糸時の安定性の点から、PE、PPが特に好ましく用いられる。
【0029】
さらに、メタクリレート系ポリマとしては、ポリメチルメタクリレート(以下、PMMAという)、ポリエチルメタクリレート、ポリn−プロピルメタクリレート、ポリn−ブチルメタクリレート、ポリn−オクチルメタクリレート、ポリn−デシメタクリレート、ポリn−テトラデシルメタクリレートなどを挙げることができるが、これらの中でも特にPMMAが最も好ましい効果を招くものである。
【0030】
上述したこれら(B)熱可塑性樹脂の(A)ポリエステルへの配合は、1種類以上であれば良く、それぞれの(B)熱可塑性樹脂同士のブレンド比率は任意に選択でき、(A)ポリエステルに対するブレンドされた(B)熱可塑性樹脂の配合率は、本発明の範囲内であれば所望とする効果を発揮することができる。
【0031】
そして、上記の(B)熱可塑性樹脂の中でも、ポリエステルモノフィラメントの強度および耐加水分解性改善の点からは、特にスチレン系ポリマであるSPSを使用することにより、最も好ましい効果の発現が期待できる。
【0032】
ここで、本発明のポリエステルモノフィラメントを構成する(A)ポリエステルと(B)熱可塑性樹脂との合計100重量部中における(B)熱可塑性樹脂の配合量は、0.5重量%〜20重量%、好ましくは1重量%〜15重量%であり、(B)熱可塑性樹脂が0.5重量%未満では、十分な耐加水分解性を有するポリエステルモノフィラメントを得ることができないため好適でない。
【0033】
また、(B)熱可塑性樹脂が20重量%を越える場合は、得られるポリエステルモノフィラメントの強度が不足するばかりか、製糸性に悪影響を及ぼすなどの結果に繋がるため好ましくない。
【0034】
次に、本発明で使用する(C)無機粒子に関し詳述する。
【0035】
本発明の(C)無機粒子としては、例えば、炭酸カルシウム、二酸化チタン、二酸化ケイ素、チッ化ケイ素、クレー、タルク、カオリンおよびジルコニウム酸などが挙げられるが、それらの中でも、炭酸カルシウムおよび二酸化ケイ素を用いた場合に特に優れた耐摩耗性が得られ好的な効果の発現が期待できる。
【0036】
本発明において、ポリエステルモノフィラメントに含有させる(C)無機粒子の含有量は、(A)ポリエステルおよび(B)熱可塑性樹脂の合計100重量部に対して1〜15重量部であることが好ましく、さらには2〜8重量部である場合が、より優れた効果の発現に繋がる。
【0037】
ここで(C)無機粒子の含有量が1重量部未満では、耐摩耗性が不十分であり、また15重量部を越えると、モノフィラメントの製造時に延伸切れが発生するなどの操業性の悪化を招くばかりか、モノフィラメントの引張強度が低下してしまうため好ましくない。
【0038】
本発明で使用する(C)無機粒子の平均粒子径は、0.2〜1.0μmであることが必要であり、さらに上述した粒度分布比が2.5以下であることが必要である。粒度分布比は、粒度分布のシャープさを表す1より大きい指標であって、その値が1に近いほど分布がシャープであることを示す。
【0039】
本発明のポリエステルモノフィラメントの好適な用途である抄紙用織物における填料や無機顔料による織物の摩耗とは、単なる織物表面のダメージではなく、織物を構成する繊維を摩滅していくような激しい摩耗である。
【0040】
本発明者らはこのような摩耗を大きく軽減するために、上記の平均粒径と粒度分布比が必須であることを発見した。
【0041】
すなわち、このような激しい摩耗は、填料や無機顔料が繊維の表面をすり減らす現象であるが、微視的には填料や無機顔料の粒子が、繊維表層を圧縮、切削、打撃することなどの攻撃による繊維表層の破壊と剥離であることを把握し、以下の改良技術が有効であることを見出したのである。
【0042】
それは第一に、繊維中に無機粒子を配合することで繊維表層に存在する無機粒子が直接、填料や無機顔料の攻撃を受け、繊維基質の破壊を抑制すること、第二に、無機粒子が過度に大きい場合、このような填料や無機顔料の攻撃により無機粒子が破壊されやすく耐摩耗性には有効でなく、填料や顔料粒子の攻撃に耐え得る上限サイズの無機粒子が存在すること、第三に、無機粒子が過度に小さい場合、填料や無機顔料の攻撃から繊維基質を防御できないことから耐摩耗効果が不十分となるため、填料や顔料粒子の攻撃に耐え得る下限サイズの無機粒子が存在することが肝要である。
【0043】
上記の平均粒子経と粒度分布比は、以上の実験と考察に基づき求められた臨界的な値である。
【0044】
また、本発明で使用する無機粒子の平均粒子径は、好ましくは0.3〜0.7μmであり、優れた耐摩耗性を具備させるためには、上記のように、ある程度の粒子径が必要であり、かつ、逆に大きすぎるとモノフィラメントに粗大な突起が発生して、工業用織物用途として重要となるモノフィラメントの線径変動率が大きくなり、織物の表面平滑性を低下させるばかりか耐摩耗性をも低下させることに繋がる。
【0045】
さらに、本発明で使用する無機粒子の粒度分布比は2.0以下、さらには1.7以下であることが特に好ましい。
【0046】
粒度分布比を2.0以下とすることにより、モノフィラメントとした場合に粗大突起を形成しにくく、脱落を生じる不具合も少なくなるため特に好ましい。
【0047】
また、本発明で使用する無機粒子は、凝集性の制御あるいはポリエステル組成物との親和性向上のために、分散剤や表面処理剤を使用してもかまわない。このような分散剤または表面処理剤としては、シランカップリング剤、チタンカップリング剤や、カルボン酸、リン酸、スルホン酸等のエステルまたはその金属塩、あるいはポリアクリル酸およびその誘導体とその金属塩等を挙げることができる。これらのうち、ポリアクリル酸あるいはポリアクリル酸とその誘導体の共重合物およびその金属塩が特に好ましい。
【0048】
本発明のポリエステルモノフィラメントは、末端カルボキシル基濃度が10当量/10g以下であることを特徴とする。さらには末端カルボキシル基濃度が5当量/10g以下であることがより好ましい。
【0049】
ここで、ポリエステルモノフィラメントの末端カルボキシル基濃度が10当量/10gを越える場合は、耐加水分解性が不十分となるため好ましくない。
【0050】
なお、本発明のポリエステルモノフィラメントの末端カルボキシル基濃度の測定は、PohlによりANALYTICAL CHEMISTRY 第26巻、1614頁に記載された方法で測定したものであり、本発明のポリエステルモノフィラメントからポリエステルだけを分析前に分離することなく、本発明のポリエステルモノフィラメントそのものを分析に供して測定することができる。
【0051】
本発明の末端カルボキシル基濃度が10当量/10g以下のポリエステルモノフィラメントを得るには、末端カルボキシル基濃度が10当量/10gより多いポリエステル組成物に対し、ポリエステル組成物の溶融状態で原料となるポリエステルの末端カルボキシル基濃度および反応条件などから、末端カルボキシル基濃度が10当量/10g以下になるようにカルボジイミド化合物を反応させることが必要である。
【0052】
なおここで、ポリエステルモノフィラメントの耐加水分解性能をより長期に渡り持続させるためには、反応後のポリエステル組成物中のカルボジイミド化合物が、0.01重量部〜1.5重量部の範囲で未反応の状態で残存するようにカルボジイミド化合物を反応させることが好ましい。
【0053】
なお、本発明のポリエステルモノフィラメント中の未反応の状態のカルボジイミド化合物の含有量は次の方法で測定したものである。
(1)100mlメスフラスコに試料約200mgを秤取する、(2)ヘキサフルオロイソプロパノール/クロロホルム(容量比1/1)2mlを加えて試料を溶解させる、(3)試料が溶解したら、クロロホルム8mlを加える、(4)アセトニトリル/クロロホルム(容量比9/1)を徐々に加えポリマを析出させながら100mlとする、(5)試料溶液を目開き0.45μmのディスクフィルターで濾過し、HPLCで定量分析する。
【0054】
HPLC分析条件は次の通りである。
カラム:Inertsil ODS−2 4.6mm×250mm移動相:アセトニトリル/水(容量比94/6)
流 量:1.5ml/min.
試料量:20μl検出器:UV(280nm)。
【0055】
本発明のポリエステルモノフィラメントが含有する未反応のカルボジイミド化合物としては、1分子中に1個または2個以上のカルボジイミド基を有する化合物であればいかなるものでもよく、例えば、N,N´−ジ−o−トリイルカルボジイミド、N,N´−ジフェニルカルボジイミド、N,N´−ジオクチルデシルカルボジイミド、N,N´−ジ−2,6−ジメチルフェニルカルボジイミド、N−トリイル−N´−シクロヘキシルカルボジイミド、N,N´−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−2,6−ジ−tert. −ブチルフェニルカルボジイミド、N−トリイル−N´−フェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−p−ニトロフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−p−アミノフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−p−ヒドロキシフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−シクロヘキシルカルボジイミド、N,N´−ジ−p−トリイルカルボジイミド、p−フェニレン−ビス−ジ−o−トリイルカルボジイミド、p−フェニレン−ビス−ジシクロヘキシルカルボジイミド、ヘキサメチレン−ビス−ジシクロヘキシルカルボジイミド、エチレン−ビス−ジフェニルカルボジイミドや、下記一般式〈I〉で示される芳香族ポリカルボジイミドなどが挙げられる。
【0056】
【化1】

【0057】
(ただし、式中のRは水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を示し、nは2〜20の整数を示す)。
【0058】
本発明では、これらのカルボジイミド化合物の中から1種または2種以上の化合物を任意に選択してポリエステルに含有させればよいが、ポリエステル組成物に添加後の安定性の観点から、芳香族骨格を有する化合物が有利な傾向にあり、中でもN,N´−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−2,6−ジ−tert. −ブチルフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−2,6−ジメチルフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−o−トリイルカルボジイミドなどが有利な傾向にあり、特にN,N´−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド(以下、TICという)が反応性に優れていることから最も好適に用いられ、またTICと上記一般式〈I〉で示される芳香族ポリカルボジイミドとを併用する場合には、さらなる耐加水分解性の向上効果が認められるため一層好ましい。
【0059】
本発明のポリエステルモノフィラメントに含有される未反応の状態のカルボジイミド化合物は、(A)ポリエステルと(B)熱可塑性樹脂との合計100重量部に、(C)無機粒子1〜15重量部を含有せしめたポリエステル組成物に対し、0.01重量部〜1.5重量部であることが好ましく、特に0.05〜1.2重量部である場合さらに好ましい効果の発現が期待できる。
【0060】
すなわち、カルボジイミド化合物の含有量が0.01重量部未満の場合は、耐加水分解性向上効果が不十分であり、逆に1.5重量部を越える場合は、ポリエステルモノフィラメントの物性を損なうばかりか、ポリマ中よりカルボジイミド化合物がブリードアウトしやすくなり、さらには溶融紡糸時にエクストルダーなど紡糸機への原料供給不良などの問題が生じるため好ましくない。
【0061】
なお、上述した本発明のポリエステルモノフィラメントには、耐加水分解性以外の機能の付与として防汚性(撥水・撥油性)を発現させる目的で公知の各種フッ素樹脂を含有することもでき、また耐乾熱性付与の目的のため公知の酸化防止剤を含有させることも可能である。
【0062】
上記の構成からなる本発明のポリエステルモノフィラメントは、優れた耐摩耗性能を有すると共に、抄紙工程に用いられる織物を構成するポリエステルモノフィラメントに求められる十分な耐加水分解性を有し、各種工業用繊維材料や織物に好適に利用できるものであり、このポリエステルモノフィラメントを用いた工業用織物は、本発明のモノフィラメントの優れた耐摩耗性および耐加水分解性から抄紙ドライヤーカンバス、抄紙ワイヤー、サーマルボンド法不織布熱接着工程用ネットコンベア、乾燥機および熱処理機内搬送用ベルトさらにはフィルターなどとして非常に好ましいものである。
【0063】
なお、本発明でいう工業用織物とは、本発明のポリエステルモノフィラメントを織物の経糸および/または緯糸の少なくとも一部に用いた織物のことを意味する。
【0064】
本発明のポリエステルモノフィラメントは、その用途や特性を満足させるため、繊維軸方向に垂直な断面の形状を円形、楕円形、扁平、正多角形および不定形な形状を含む多角形といかなる形状をも取り得るものであり、必要に応じて複合繊維であってもよい。なお、ここでいう扁平とは楕円もしくは長方形のことを意味するが、数学的に定義される正確な楕円、長方形以外に概ね楕円、長方形またはこれに類似した形状を含み、正多角形とは数学的に定義される正多角形以外に、概ねこれに類似した形状を含むものである。
【0065】
また、本発明のポリエステルモノフィラメントの直径は、その使用用途に合わせ適宜選択することができるが、通常は0.05〜5mm程度の範囲のものが好適に使用される。
【0066】
次に、本発明のポリエステルモノフィラメントの製造方法としては、従来公知の方法にて製造が可能である。
【0067】
例えば、本発明の(A)ポリエステルと(B)熱可塑性樹脂を所望の混合比率で事前に計量混合したポリエステル組成物に対し、ポリエステルモノフィラメントの溶融紡糸工程で(C)無機粒子を粉末状、スラリー状またはペースト状などの状態で添加する方法、溶融紡糸を行う紡糸機へ原料を供給する前に、自動計量混合機を用い(A)ポリエステル、(B)熱可塑性樹脂および(C)無機粒子を計量混合する方法などが挙げられる。
【0068】
その他、無機粒子があらかじめブレンド添加された(A)ポリエステルおよび/または(B)熱可塑性樹脂を用いる方法、無機粒子を(A)ポリエステルや(B)熱可塑性樹脂に所望の配合比で事前に溶融混合した(A)ポリエステルマスターバッチ(以下、マスターバッチはMBという)および/または(B)熱可塑性樹脂MBとして添加する方法など、いかなる添加方法であっても無機粒子の配合率が本発明の範囲内になるように調整をすれば、必要十分な耐摩耗性向上効果の発揮が可能となる。
【0069】
なおここで、原料の取り扱いや生産効率の観点からは、(C)無機粒子を(A)ポリエステルに高濃度で配合させたポリエステルMBとして添加することがより好ましい。
【0070】
次いで、カルボジイミド化合物と前記ポリエステル組成物との混合・反応は、重縮合反応終了直後の溶融状態のポリエステルにカルボジイミド化合物を添加し、撹拌・反応させる方法、ポリエステルチップにカルボジイミド化合物を添加・混合した後に反応缶やエクストルダーなどの紡糸機で混練・反応させる方法、および紡糸機でポリエステルにカルボジイミド化合物を連続的に添加し、混練・反応させる方法などにより行なうことができる。
【0071】
その中でも操業の簡便さから、上記(A)ポリエステルおよび(B)熱可塑性樹脂およびカルボジイミド化合物を適宜所望の範囲であらかじめ混合したポリエステル原料混合物を用い、エクストルダーなどの紡糸機で混練・反応させる方法、または上記(A)ポリエステルおよび(B)熱可塑性樹脂、(C)無機粒子を適宜所望の範囲で混合したポリエステル原料混合物を、通常の溶融紡糸に使用されるエクストルダー型紡糸機などに供給すると同時に、エクストルダーなどの入り口またはベント部などから所定量のカルボジイミド化合物を連続的に供給しながら、紡糸機で混練・反応させる方法が好ましく用いられ、混練・反応後の溶融ポリエステルポリマを紡糸機先端に設けられた紡糸口金から押し出し、公知の方法で冷却、延伸、熱セットを行なうことにより、本発明のポリエステルモノフィラメントを効率よく製造することができる。
【0072】
かくしてなる本発明のポリエステルモノフィラメントは、従来のポリエステルモノフィラメントにはない優れた耐摩耗性を有すると共に、優れた耐加水分解性をも具備し、工業用織物用の構成素材として好適に利用することができ、中でも優れた耐加水分解性を有することから、抄紙ドライヤーカンバス、抄紙ワイヤー、サーマルボンド法不織布接着工程用ネットコンベア、乾燥機および熱処理機内搬送用ベルトさらにはフィルターなどとして極めて優れた特性を発揮するものであるといえる。
【実施例】
【0073】
以下、本発明のポリエステルモノフィラメントの実施例に関しさらに詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0074】
また、上記および下記に記載の本発明のポリエステルモノフィラメントにおける、無機粒子の平均粒子径ならびに粒度分布、引張強度、製糸性、耐加水分解性試験および耐摩耗性試験などの評価は以下の方法により測定、評価したものである。
【0075】
(1)無機粒子の平均粒子径ならびに粒度分布
原料粒子の場合はエチレングリコール分散液を水に希釈し、繊維中の粒子の場合は繊維をオルソクロロフェノールに溶解した粒子分散液を準備し、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置(堀場製作所製LA700)を用いて、平均粒子径ならびに粒度分布の測定を行った。粒度分布については、光線透過率80〜95%になるように水希釈濃度を調整し、測定温度25℃、循環速度570ml/min で測定した等価球形分布における積算体積分率50%の粒子径を凝集粒子径(=平均粒子径)とし、大粒径粒子側から25%、75%の粒子径をそれぞれd25、d75とした。
【0076】
(2)モノフィラメントの引張強度(cN/dtex)
JIS2003 L1013 8.5項に準じて測定した。すなわち、ポリエステルモノフィラメント50mを綛状に取り、試料長50cmにカット(100本)したサンプルから任意に10本を取りだし、これを20℃、65%RHの温湿度調整室内で、(株)オリエンテック社製”テンシロン”UTM−4−100型引張試験機を用い、試長:250mm、引張速度:300mm/分の条件で、引張強力(N)の平均値を測定し、引張強度(cN/dtex)を算出した。
【0077】
(3)製糸性(操業性)
24時間の連続紡糸を行ない、以下の基準で判定した。
○(良好)…原料の噛込み不良による製糸不能状態や製糸中の糸切れが全くない、また、モノフィラメント平均直径に対して、+10%を超えるような、繊維軸方向の極短い長さの直径増大変動異常部(以下、コブ糸という)の発生が10回/トン未満であった。
なお、コブ糸の回数は、紡糸押出し総ポリマ重量(kg)/1000kg×コブ糸回数にて算出した。
×(不良)…原料の噛込み不良による製糸不能状態になるまたは製糸中に糸切れが発生する、またコブ糸が10回/トン以上発生した、の2基準で評価した。
【0078】
(4)耐加水分解性試験
ポリエステルモノフィラメントを100リットルオートクレーブに入れ、121℃の飽和水蒸気で12日間連続処理した後、処理後のモノフィラメントおよび未処理(処理前)のモノフィラメントの強力を上記の引張強力と同一の測定により求め、処理前後のモノフィラメントの強力保持率を算出し、耐加水分解性の尺度とした。なお、算式は強力保持率(%)=(処理後モノフィラメントの強力÷処理前モノフィラメントの強力)×100であり、強力保持率が高いほど耐加水分解性が優れることを示す。
【0079】
(5)耐摩耗性試験
ポリエステルモノフィラメントの一方の先端に0.20cN/dtexの荷重をかけると共に、他方の先端を摺動装置につなぎ、炭酸カルシウム粉末中にてSUS製摩擦子と直交、接触させて、試料を往復120回/minの速度で摺動させ、試料が破断するまでの摺動回数を破断回数として測定した。そして、同一試料につき各5本のポリエステルモノフィラメントについて夫々破断するまでの破断回数/往復を測定して、その平均値にて耐摩耗性を評価した。ポリエステルモノフィラメントが切断するまでの破断回数が大きいほど、耐摩耗性に優れていることを示す。
【0080】
[実施例1]
ポリエステルとして、特開昭56−85704公報に記載の方法に準じて得た極限粘度0.93、末端カルボキシル濃度15当量/10gのPET乾燥チップ、熱可塑性樹脂としてポリマを構成するモノマの99重量%以上がスチレンでポリマの99重量%以上がシンジオタクチック構造を有するSPSチップ(出光石油化学(株)ザレック(登録商標))、無機粒子として二酸化ケイ素を20重量%含有する極限粘度0.63のPET MBを用い、かかるPET、SPSおよびPET MBを、重量比でPET:SPS:PET MB=77:3:20の割合で混合したポリエステル混合原料を準備した。
【0081】
次いで、カルボジイミド化合物としてTIC(ラインケミー社製Stabaxol(登録商標)I)を撹拌装置付き加熱溶解槽で80℃にて溶解し、このTIC溶液を上記ポリエステル混合原料と同時にエクストルダー紡糸機供給口から1.50%供給し、紡糸機温度290℃にて混練溶融し、溶融ポリエステル組成物を紡糸ノズルから押し出した後、ただちに温度80℃の温水中で冷却固化させた未延伸糸を得た。
【0082】
引き続き、上記未延伸糸を常法に従って、トータル倍率5.5倍に延伸、熱セットを行ない、直径0.50mmの(A)ポリエステル:97重量%、(B)熱可塑製樹脂SPS:3重量%、(C)無機粒子(二酸化ケイ素):4重量部および未反応TIC:0.144重量部を含有する末端カルボキシル基濃度が3eq/10gのポリエステルモノフィラメントを得た。
【0083】
得られたポリエステルモノフィラメント中の無機粒子の平均粒子径および粒度分布比、末端カルボキシル基濃度、未反応TIC含有量、引張強度、製糸性、耐加水分解性試験後強力保持率、耐摩耗性試験破断回数などを評価した結果を表1に示す。
【0084】
[実施例2〜6、12〜14および比較例3〜7]
実施例1と同一の(A)ポリエステル原料、(C)無機粒子として二酸化ケイ素を含有するPET MBを用い、無機粒子の含有量、(B)熱可塑性樹脂の含有量および種類、TIC添加量を表1〜表3に示すように変更し、直径0.50mmのポリエステルモノフィラメントを得た。
【0085】
得られた各ポリエステルモノフィラメント中の無機粒子の平均粒子径および粒度分布比、末端カルボキシル基濃度、未反応TIC含有量、引張強度、製糸性、耐加水分解性試験後強力保持率、耐摩耗性試験破断回数などを評価した結果を表1〜3に示す。
【0086】
なお、実施例12〜14においては、(B)熱可塑製樹脂として、PEは三井石油化学工業(株)ハイゼックス(登録商標)、PPはチッソ(株)チッソポリプロ(登録商標)、PMMAは住友化学工業(株)スミペックス(登録商標)をそれぞれ用いた。
【0087】
[実施例7、比較例8および9]
実施例1と同様の(A)ポリエステルおよび(B)熱可塑性樹脂SPSおよびTIC、また、(C)無機粒子(二酸化ケイ素)の平均粒子径および粒度分布を変更したPET MB(二酸化ケイ素20重量%含有MB)を用いて得た0.50mmのポリエステルモノフィラメントの無機粒子の平均粒子径および粒度分布比、末端カルボキシル基濃度、未反応TIC含有量、引張強度、製糸性、耐加水分解性試験後強力保持率、耐摩耗性試験破断回数などを評価した結果を表1および4に示す。
【0088】
[実施例8〜11、比較例10および11]
実施例1と同様の(A)ポリエステルおよび(B)熱可塑性樹脂SPSおよびTIC、また、(C)無機粒子を炭酸カルシウムに変更したPET MB(炭酸カルシウム含有量20重量%含有MB)を用いて得た0.50mmのポリエステルモノフィラメント中の無機粒子の平均粒子径および粒度分布比、末端カルボキシル基濃度、未反応TIC含有量、引張強度、製糸性、耐加水分解性試験後強力保持率、耐摩耗性試験破断回数などを評価した結果を表2および4に示す。
【0089】
[比較例1および2]
実施例1と同様の(A)ポリエステルを用い、(B)熱可塑性樹脂および(C)無機粒子を非使用、また(B)熱可塑性樹脂としてSPSのみを使用して得た0.50mmのポリエステルモノフィラメント中の無機粒子の平均粒子径および粒度分布比、末端カルボキシル基濃度、未反応TIC含有量、引張強度、製糸性、耐加水分解性試験後強力保持率、耐摩耗性試験破断回数などを評価した結果を表3に示す。
【0090】
【表1】

【0091】
【表2】

【0092】
【表3】

【0093】
【表4】

【0094】
表1および表2の結果から明らかなように、本発明によるポリエステルモノフィラメント(実施例1〜14)は、いずれも耐摩耗性が高く、かつ工業用織物として求められる引張強度ならびに高い耐加水分解性能を有していることがわかる。
【0095】
一方、本発明外のポリエステルモノフィラメントは、製糸性、耐加水分解性能および耐摩耗性などが不十分であり、工業用織物を構成するポリエステルモノフィラメントしては、いずれも好ましくないものとなることが明らかである。
【0096】
すなわち、(C)無機粒子を含有しない比較例1および2のポリエステルモノフィラメントは、耐加水分解性能は優れるものの、耐摩耗性が低いものとなった。
【0097】
また、(C)無機粒子の含有量が本発明外の比較例3および4では、無機粒子の含有量が多い比較例3は、ポリエステルモノフィラメント中の無機粒子が多すぎることに起因し、製糸中の延伸切れが多発、さらにはコブ糸も多発するなど製糸性が極めて悪い結果となった。一方、無機粒子が少ない比較例4は、耐摩耗性が不十分なポリエステルモノフィラメントしか得ることができなかった。
【0098】
TICを添加しなかった比較例5では、耐摩耗性能は優れるものの、耐加水分解性能が極めて低く、抄紙工程で使用する工業用織物の構成素材、特に抄紙ドライヤーカンバス用途として用いるポリエステルモノフィラメントとしては使用に耐えないものとなった。
【0099】
(B)熱可塑性樹脂としてSPSの含有量を本発明外とした比較例6および7では、(B)熱可塑性樹脂が少ない比較例6の場合は、耐加水分解性能が不十分となった。一方、(B)熱可塑性樹脂であるSPSの添加量が多すぎる比較例7の場合は、ポリエステル組成物をエクストルダーで溶融混練した後、紡糸機の先端に設置された紡糸口金孔から紡出する溶融ポリマが、多量すぎるSPSの溶融による増粘の結果と考えられる太細の状態となり、未延伸糸の延伸が行なえず紡糸不能の結果となった。
【0100】
また、ポリエステルモノフィラメント中の(C)無機粒子の平均粒子径や粒度分布比が本発明外となる比較例8から11の場合、含有する無機粒子の種類に関わらず、製糸性の不良や耐摩耗性能の低下など好ましくない結果を招くものとなった。
【産業上の利用可能性】
【0101】
以上説明したように、本発明のポリエステルモノフィラメントは、従来のポリエステルモノフィラメントにはない優れた耐摩耗性能を有すると共に極めて高い耐加水分解性能をも兼ね備えているばかりか、工業用織物用ポリエステルモノフィラメントとしての十分な強度をも兼ね備えていることから、特に抄紙ドライヤーキャンバス、抄紙ワイヤー、サーマルボンド法不織布熱接着用ネットコンベア、乾燥機および熱処理機内搬送用ベルトもしくはフィルターなどの工業用織物の構成素材として好適に利用することがきる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリエステル80重量%〜99.5重量%と、(B)スチレン系ポリマ、オレフィン系ポリマ、およびメタクリレート系ポリマから選ばれた少なくとも1種の熱可塑性樹脂0.5重量%〜20重量%との合計100重量部に対し、(C)平均粒子径が0.2〜1.0μm、かつd25/d75(d25:粒子の体積基準の積算分布において、大粒径側から全体積の25%における粒径、d75:粒子の体積基準の積算分布において、大粒径側から全体積の75%における粒径)で表される粒度分布比が2.5以下の無機粒子1〜15重量部を含有するポリエステル組成物からなるモノフィラメントであって、末端カルボキシル基濃度が10当量/10g以下であることを特徴とするポリエステルモノフィラメント。
【請求項2】
前記(A)ポリエステル、(B)熱可塑性樹脂および(C)無機粒子を含有するポリエステル組成物からなるモノフィラメントであって、さらに未反応の状態のカルボジイミド化合物0.01重量部〜1.5重量部を含有することを特徴とする請求項1記載のポリエステルモノフィラメント。
【請求項3】
前記(A)ポリエステルがポリエチレンテレフタレートであることを特徴とする請求項1または2に記載のポリエステルモノフィラメント。
【請求項4】
前記(B)熱可塑性樹脂におけるスチレン系ポリマがシンジオタクチック構造を有するスチレン系ポリマであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリエステルモノフィラメント。
【請求項5】
前記(B)熱可塑性樹脂におけるオレフィン系ポリマがポリエチレンまたはポリプロピレンであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリエステルモノフィラメント。
【請求項6】
前記(B)熱可塑性樹脂におけるメタクリレート系ポリマがポリメチルメタクリレートであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリエステルモノフィラメント。
【請求項7】
前記(C)の無機粒子が、炭酸カルシウム、二酸化チタンおよび二酸化ケイ素から選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のポリエステルモノフィラメント。
【請求項8】
請求項1〜7いずれか1項に記載のポリエステルモノフィラメントを経糸および/または緯糸の少なくとも一部に用いたことを特徴とする工業用織物。
【請求項9】
抄紙ドライヤーカンバス、抄紙ワイヤー、サーマルボンド法不織布熱接着工程用ネットコンベア、乾燥機および熱処理機内搬送用ベルトもしくはフィルターであることを特徴とする請求項8に記載の工業用織物。

【公開番号】特開2010−180500(P2010−180500A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−24433(P2009−24433)
【出願日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【出願人】(000219288)東レ・モノフィラメント株式会社 (239)
【Fターム(参考)】