説明

ポリエステル仮撚糸及びそれを用いてなる貼布剤用編地

【課題】 薄くて低応力で伸長し、かつ復元力を要する編地に用いうる、環境低負荷性のポリエステル仮撚糸、並びに、該ポリエステル仮撚糸を用いた貼布剤編地を提供する。
【解決手段】 芯部がポリ乳酸、鞘部が芳香族ポリエステルで構成され、芯/鞘質量比率が20/80〜70/30であるポリエステル芯鞘型複合フィラメントからなる仮撚糸であって、繊度が30〜70dtexであり、伸縮復元率が35〜45%であるポリエステル仮撚糸、及び該ポリエステル仮撚糸を用いてなる編地であって、特定の物性を有する貼布剤用編地。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル仮撚糸及びそれを用いてなる貼布剤用編地に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、合成繊維マルチフィラメント、中でも特にポリエチレンテレフタレート(PET)を用いた仮撚糸は、汎用性の点から幅広く用いられており、様々な分野で利用されてきた。
【0003】
しかしながら、PETは石油由来のものであり、廃棄しても自然界では分解され難いため、その生産や廃棄処理で消費するエネルギーが大きく、環境に与える影響が大きいことに加え、化石燃料の枯渇問題もクローズアップされている。
【0004】
この環境問題を解決すべく、近年、植物由来で生分解性を有する脂肪族ポリエステル、特にポリ乳酸を原料とした繊維の開発が進められており、これを用いた仮撚糸の使用も拡大傾向にある。
【0005】
しかしながら、ポリ乳酸仮撚糸はその特性上、高温での仮撚加工が難しく、PET仮撚糸と比べて低温の仮撚加工を必要とするため、伸縮性の向上が図れず、用途が限られるという問題があった。
【0006】
この問題を解決するために、特許文献1に、芯部に脂肪族ポリエステルが、鞘部に高融点結晶性ポリエステル芯鞘複合繊維が配されたフィラメントからなり、特定の伸縮復元特性及び沸騰水収縮特性を満足する、耐熱性に優れた捲縮糸が開示されている。この捲縮糸は、優れた耐熱性、耐摩耗性及び嵩高性を有し、伸縮性の点でも従来ポリ乳酸仮撚糸と比べ改善されている。
【特許文献1】特開2005−232627号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記捲縮糸の用途は、専ら一般衣料に限られ、特殊な用途には用いることができないという課題を残している。すなわち、当該捲縮糸は、例えば、貼布剤用編地のように薄くて低応力で伸長し、かつ復元力を要する布帛に使用するには適さないという欠点がある。
【0008】
本発明は、上記のような従来技術の欠点を解消するものであり、薄くて低応力で伸長し、かつ復元力を要する編地に用いうる、環境低負荷性のポリエステル仮撚糸、並びに、該ポリエステル仮撚糸を用いた貼布剤編地を提供することを技術的な課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、芯部がポリ乳酸、鞘部が芳香族ポリエステルで構成されるポリエステル芯鞘型複合フィラメントからなる仮撚糸及び該仮撚糸を用いてなる編地を、特定の物性を有するようにすることで、前記課題を解決できるという知見を得て、本発明に到達した。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の構成を要旨とするものである。
(1)芯部がポリ乳酸、鞘部が芳香族ポリエステルで構成され、芯/鞘質量比率が20/80〜70/30であるポリエステル芯鞘型複合フィラメントからなる仮撚糸であって、繊度が30〜70dtexであり、伸縮復元率が35〜45%であることを特徴とするポリエステル仮撚糸。
(2)上記記載のポリエステル仮撚糸を用いてなる編地であって、目付けが80〜140g/mであり、定伸長時伸長力がウエール方向において10N以下で、コース方向において6N以下であり、さらに、伸長弾性率がウエール方向、コース方の何れにおいても80%以上であることを特徴とする貼布剤用編地。
【発明の効果】
【0011】
本発明のポリエステル仮撚糸は、環境への負荷が小さく、所定の芯/鞘質量比率、繊度及び伸縮復元率を有するため伸長性・復元性に優れている。したがって、本発明のポリエステル仮撚糸は、一般衣料だけでなく、特殊用途にも用いることができ、特に特定の物性を満足する編地にすることで、貼布剤に好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0013】
本発明のポリエステル仮撚糸は、芯部がポリ乳酸、鞘部が芳香族ポリエステルで構成されるポリエステル芯鞘型複合フィラメントからなる仮撚糸である。本発明の仮撚糸は、織編物を構成する糸として好適であり、一般衣料に限らず、貼布剤用編地など特殊な用途にも好適である。なお、貼布剤とは、編地に薬剤を塗布又は含浸してなる外用剤のことであり、患部に貼って皮膚から薬剤成分を吸収することで、炎症を治療するものである。
【0014】
上記ポリエステル芯鞘型複合フィラメントの芯部を構成するポリ乳酸としては、ポリL−乳酸、ポリD−乳酸、L−乳酸とD−乳酸との共重合体、L−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体、D−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体、L−乳酸とD−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体との群から選ばれる重合体があげられる。
【0015】
乳酸の単独重合体であるポリL−乳酸及びポリD−乳酸の融点はそれぞれ約180℃であるが、乳酸系重合体として上記共重合体を用いる場合には、機械的強度、融点などを考慮して共重合体成分の共重合比を決定することが好ましい。例えば、L−乳酸とD−乳酸との共重合体の場合にはL−乳酸とD−乳酸とのいずれか一方が90モル%以上100モル%未満、他方が0モル%を超え10モル%以下の範囲にすることが好ましく、また、L−乳酸又はD−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体の場合には、例えば上記乳酸を90モル%以上100モル%未満、共重合成分であるヒドロキシカルボン酸を、0モル%を超え10モル%以下の範囲にすることが好ましい。
【0016】
乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体におけるヒドロキシカルボン酸としては、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシペンタン酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシヘプタン酸、ヒドロキシオクタン酸などがあげられる。これらの中でも、コストが安価である点からヒドロキシカプロン酸又はグリコール酸が特に好ましい。
【0017】
一方、ポリエステル芯鞘型複合フィラメントの鞘部を構成する芳香族ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレートなどのポリアルキレンテレフタレートを主体としたポリエステルをあげることができる。この芳香族ポリエステルは、イソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸や、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノールなどの脂肪族ジオールや、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシペンタン酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシヘプタン酸、ヒドロキシオクタン酸などのヒドロキシカルボン酸などを共重合していてもよい。
【0018】
そして、上記ポリ乳酸、芳香族ポリエステルには、本質的な特性を損なわない範囲内で、酸化チタンなどの艶消し剤の他、帯電防止剤、紫外線吸収剤、顔料、難燃剤、抗菌剤、消臭剤、導電性付与剤などの成分が含有されていてもよい。
【0019】
本発明におけるポリエステル芯鞘型複合フィラメントは、上記のように芯部がポリ乳酸、鞘部が芳香族ポリエステルで構成されるものであるが、その際の芯/鞘質量比率としては、20/80〜70/30であることが必要である。芯/鞘質量比率がこの範囲内にあると、高捲縮で堅牢度に優れた仮撚糸が得られる。芯/鞘質量比率の20/80を下回って芯部の質量比率が低いと、ポリ乳酸の含有量が低減するため、環境への負荷が増大する。一方、芯/鞘質量比の70/30を超えて芯部の質量比が高いと、芯部への強度依存が高まるため、仮撚糸の強度が低下すると共に伸縮復元率も低下する。そうすると、編地の強度が低下すると共に定伸長時伸長力が高まってしまうので、貼布剤に用い難くなる。さらに、仮撚加工の際に鞘部に亀裂が生じる場合もある。
【0020】
本発明のポリエステル仮撚糸は、このようなポリエステル芯鞘型複合フィラメントからなるものであり、繊度及び伸縮復元率が特定範囲にあることが必要である。
【0021】
まず、繊度としては、30〜70dtexであることが必要である。この場合の繊度はトータル繊度を指す。繊度がこの範囲を外れると、編地の厚みを適度なものとすることができなくなり、特に貼布剤に用いた場合、高級感や貼布剤を患部に貼っていることを忘れる程のフィット感を具現することができなくなる。
【0022】
一方、伸縮復元率としては、35〜45%であることが必要である。伸縮復元率が35%未満であると、身体の屈曲部、例えば膝や肘などに貼布剤を貼ると、膝や肘を曲げた際貼布剤は伸びたままとなり、フィット感がなくなる。一方、45%を超えると、キックバック性が強くなり、いわゆるゴムフィルムを貼り付けたような感覚となってしまう。
【0023】
なお、本発明にいう伸縮復元率とは、JIS L1013 8.12に準じて測定される値であり、測定試料として、95℃の熱水中に10分間浸漬し、十分に乾燥した後のポリエステル仮撚糸を用いる。
【0024】
本発明のポリエステル仮撚糸は、前述したように、織編物を構成する糸として好適であり、特に当該織編物は、貼布剤用編地として好適に使用できる。そこで、この貼布剤用編地について説明する。
【0025】
本発明のポリエステル仮撚糸を用いた貼布剤用編地(以下、本発明の貼布剤用編地ということがある)において、当該ポリエステル仮撚糸の含有量としては、特に限定されるものでない。しかし、本発明の効果をより有効なものとする観点から、40質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましい。
【0026】
本発明の貼布剤用編地は、目付けとして80〜140g/mが好ましい。目付けが80g/m未満であると、貼布剤を製造するプロセスでトラブルを招きやすくなる傾向にある。一方、140g/mを超えると、編地が厚くなる傾向にあり、高級感や貼布剤を患部に貼っていることを忘れる程のフィット感を具現することができなくなる傾向にある。
【0027】
なお、本発明の貼布剤用編地の厚みとしては、400〜700μm程度が好ましい。
【0028】
また、本発明の貼布剤用編地においては、定伸長時伸長力がウエール方向において10N以下で、コース方向において6N以下であることが好ましい。ウエール、コース方向の何れか一方が上記範囲を満足しない場合、肘、膝など屈伸する部位に貼布剤を貼り付けた際、締め付け感を感じることがあり好ましくない。なお、定伸長時伸長力とは、JIS L1018 8.14.1に準じて測定される値であり、理論上小さい程好ましい。
【0029】
さらに、本発明の貼布剤用編地においては、伸長弾性率がウエール方向、コース方の何れにおいても80%以上であることが好ましい。伸長弾性率が上記何れかの方向で80%未満であると、患部に張り付けた貼布剤がたるむ場合があり好ましくない。なお、伸長弾性率とは、JIS L1018 8.15.1A法(定伸長法)に準じて測定される値である。
【0030】
ここで、上記定伸長時伸長力及び伸長弾性率の試験条件としては、何れもカットストリップ法に準じ、試験幅5cm、つかみ間の距離20cmで50%伸長まで引き伸ばす。
【0031】
次に、本発明のポリエステル仮撚糸の製法例につき、図面を用いて説明する。
【0032】
図1は、本発明のポリエステル仮撚糸の一製法例を示す概略工程図である。図1において、まず、芯部がポリ乳酸、鞘部が芳香族ポリエステルで構成される複合繊維からなる芯鞘複合糸を供給糸1として用い、この供給糸1をスプール2から引き出した後、ガイド3を通過させる。供給糸1として用いる芯鞘複合糸は、延伸糸、高配向未延伸糸のいずれでもよいが、結晶配向の低い高配向未延伸糸が好ましい。
【0033】
供給糸1は、その後、フィードローラー4、ヒーター5、仮撚施撚体6及び第1デリベリローラー7を順次通過する過程で仮撚加工され、本発明のポリエステル仮撚糸としてパッケージ9に巻き取られる。
【0034】
また、必要に応じて、トルク低減などを目的として、図2のように、第1デリベリローラー7の下流に第2ヒーター8を設置し、第1デリベリローラー7を通過した後、すなわち、仮撚加工した後に熱処理してもよい。
【0035】
本発明のポリエステル仮撚糸は、このように供給糸1を仮撚加工することで得られるが、その仮撚加工の具体的な条件として、下記式を同時に満足することが好ましい。
【0036】
【数1】

【0037】
なお、仮撚係数Kは、次式で表される。
【0038】
【数2】

【0039】
上記(1)式において、仮撚係数が23000未満であると、仮撚糸の伸縮復元率が低下する傾向にあり好ましくない。一方、30000を超えると、仮撚糸に毛羽が発生しやすくなり好ましくない。
【0040】
また、上記(2)式において、仮撚ヒーター温度が120℃未満であると、仮撚糸の捲縮堅牢性が低下する傾向にあり好ましくない。一方、140℃を超えると、芯部を構成するポリ乳酸がやや脆化し、その結果、仮撚糸の伸縮復元率が低下する傾向にあり好ましくない。
【0041】
ポリ乳酸は、融点が約180℃であり、軟化点はそれよりはるかに低い。したがって、一般のポリ乳酸繊維糸条を仮撚加工する際は、通常、仮撚ヒーター温度を100℃近辺に設定する必要がある。これは、100℃を超えるとフィラメント間が膠着するためである。しかしながら、本発明では、供給糸として、融点及び軟化点が比較的高い芳香族ポリエステルを鞘部に配した芯鞘複合糸を用いるため、仮撚ヒーター温度が100℃を超えてもフィラメント間が膠着しない。本発明者らの研究によれば、理由は定かでないが、仮撚ヒーター温度につき、120℃という温度を境として仮撚糸の捲縮堅牢性が急激に向上することが確認でき、さらに、120℃以上であってもなおフィラメント間が膠着しないことが確認できた。
【0042】
また、上記(3)式において、熱処理時間が0.4秒未満であると、適切な仮撚ヒーター温度の設定が困難となる傾向にあり好ましくない。なお、熱処理時間の上限としては、2.0秒が好ましい。2.0秒を超えると、ヒーターが長くなるため機台設置にかかるスペースの確保が困難となる傾向にあり好ましくない。
【0043】
さらに、本発明の貼布剤用編地の製法例を説明する。
【0044】
本発明の貼布剤用編地を得るには、まず、上記ポリエステル仮撚糸を用いて生機を作製する。生機作製には、市販の編機を用いればよく、機種は任意でよいが、針密度については26〜32本/2.54cmが好ましい。
【0045】
そして、得られた生機を染色加工することで、本発明の貼布剤用編地を得ることができる。染色加工としては、基本的に精練、乾燥、プレセットを順次行えばよく、必要に応じて染色や付帯加工を行えばよい。染色は、通常プレセット後に行い、用いる染料としては、分散染料が好ましい。染色温度としては、100〜130℃が好ましく、より好ましくは110〜130℃、特に好ましくは120〜130℃である。染色温度が高い程、発色性を向上させることができる。一方、付帯加工としては、帯電防止剤、柔軟剤、撥水剤、防汚剤、深色化剤、吸水剤などを用いた処理が採用できる。付帯加工は、染色加工工程の何れの段階においても実施可能なだけでなく、例えば染色と同時に行うことも可能である。
【0046】
染色や付帯加工を行った後は、最終の工程としてファイナルセットするのが好ましい。
【実施例1】
【0047】
次に、本発明を実施例によってさらに具体的に説明する。なお、以下の実施例などにおける各物性値は、次の方法にて測定を行った。下記以外の物性値については、前記に準じた。
(1)繊度繊度(dtex)
JIS L1013 8.3.1B法(簡便法)に準じて測定した。
(2)強度(cN/dtex)、伸度(%)
JIS L1013 8.5.1標準時試験に準じて測定した。なお、試験の種別としては定速伸長形を採用する。
(3)トルク
試料をU字状に吊り下げ、その下端1mの位置にフックを掛けて保持し、試料を張るためにその両上端にそれぞれ1/34(cN/dtex)[1/30(g/d)]の荷重を掛ける。次に、その荷重を掛けた状態で、試料の両上端の近傍をそれぞれ固定具で固定し、その後に荷重を解放する。そして、U字状をした試料の下端に1/340(cN/dtex)[1/300(g/d)]の荷重を掛ける。すると、試料がU字をねじる方向に旋回するため、その試料が旋回を停止した時の1m当たりの撚数を求め、その撚数をトルクとした。
(4)毛羽
仮撚糸パッケージの毛羽について、目視により以下の3段階で評価した。
○:問題なし、△:毛羽ややあり、×:毛羽多い
【0048】
(実施例1、参考例1、比較例1〜4)
ポリ乳酸(PLA)として、相対粘度1.850、融点168℃、L−乳酸単位98.8モル%、D−乳酸単位1.2モル%のものを用いた。一方、芳香族ポリエステルとして、相対粘度1.336、融点230℃のイソフタル酸8モル%共重合した共重合PETを用いた。そして、両ポリエステルを減圧乾燥した後、同心芯鞘型複合溶融紡糸装置に供給して溶融紡糸を行った。このとき、ポリ乳酸が芯部、芳香族ポリエステルが鞘部となるように配し、比較例3のみ芯/鞘複合比(質量比)を75/25、それ以外は芯/鞘複合比(質量比)を50/50、とし、紡糸温度260℃、紡糸速度3050m/分で溶融紡糸を行い、90dtex/36fの芯鞘複合糸(高配向未延伸糸)を得た。
【0049】
この芯鞘複合糸を供給糸1とし、図1に示す工程に準じて、表1記載の条件にて仮撚加工して、本発明の実施例及び参考例のポリエステル仮撚糸と、比較用の仮撚糸とを得た。
【0050】
次に、前記それぞれの仮撚糸を用いて、福原製丸編機(針密度28本/2.54cm)でインターロック組織の生機を作製した。なお、実施例1にかかる生機の目付けは、82g/mであった。
【0051】
これらの生機を用いて、80℃で20分間精練(処理液:ノニオン系活性剤濃度1g/L、ソーダ灰濃度5g/L)した後乾燥し、プレセットした。さらに、液流染色機を用いて下記染色処方にて130℃で30分間染色し、さらに70℃×20分間還元洗浄(処理液:ソーダ灰2g/L、ハイドロサルファイト1g/L、ノニオン界面活性剤(サンモールFL:日華化学株式会社製)1g/L)した。次いで、乾燥、ファイナルセットを行って編地を得た。
【0052】
《染色処方》
染料:Kiwalon Polyester Black SK−269 Liquid(紀和化学社製) 5%omf
助剤:ディスパーTO(明成化学社製) 1.0g/L
pH調整剤:酢酸(濃度48質量%) 0.2cc/L
【0053】
以上に基づく結果を表1に示す。
【0054】
【表1】

【0055】
表1から明らかなように、実施例1にかかる本発明のポリエステル仮撚糸を用いた編地は、薄くて低応力で伸長し、しかも復元力にも優れているため、貼布剤に好適に用いうるものであった。また、植物由来のポリ乳酸を使用しているため、環境への影響も小さいものであった。
【0056】
参考例1にかかるポリエステル仮撚糸は、本発明の構成要件を満足しうるものであったが、製造時の仮撚係数が大きすぎたため強度が低くなり、仮撚糸に毛羽が多数発生したため、製編の際に解舒不良が発生し、編機の停台が多発した。また、編地は、物性の観点からは特段問題ないものの、緯段、止段などが散見されたため、品位の点で問題が残った。
【0057】
比較例1ではヒーター温度が低すぎたため、比較例2ではヒーター温度が高すぎたため、比較例4では製造時の仮撚係数が小さすぎたため、何れの編地も定伸長時伸長力及び伸長弾性率の点で問題が残った。また、比較例3では、芯鞘複合糸を構成する複合繊維の芯部質量比率が高すぎたため、仮撚加工時に鞘部に亀裂が生じ、仮撚糸が製編に耐えうるだけの耐久性を具備できなかった(それ故、製編を中止した)。なお、当然のことながら、供給糸1を構成する複合繊維と、それに対応した仮撚糸を構成するポリエステル芯鞘型複合フィラメントとの間では、ポリ乳酸、芳香族ポリエステルにかかる芯/鞘質量比率が一致する。
【0058】
(比較例5、6)
比較例5では、前記したポリ乳酸を単独で使用し、ポリ乳酸からなる90dtex/36fの高配向未延伸糸を得た。また、比較例6では前記した芳香族ポリエステルを単独で使用し、芳香族ポリエステルからなる90dtex/36fの高配向未延伸糸を得た。
【0059】
これを供給糸として、それぞれ図1に示す工程に従い、表1の各条件にて仮撚加工し、比較用の仮撚糸を得た。
【0060】
この比較用の仮撚糸を用いて実施例1と同様に行い、比較用の編地を得た。その結果を表1に示す。
【0061】
表1から明らかなように、比較例5にかかる編地は、定伸長時伸長力及び伸長弾性率の点で問題が残った。また、比較例6にかかる編地は、物性の点では特段問題ないものの、石油由来の芳香族ポリエステルを使用しているため、環境への影響が大きいものであった。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明のポリエステル仮撚糸の一製法例を示す概略工程図である。
【図2】本発明のポリエステル仮撚糸の他の製法例を示す概略工程図である。
【符号の説明】
【0063】
1 供給糸
2 スプール
3 ガイド
4 フィードローラー
5 ヒーター
6 仮撚施撚体
7 第1デリベリローラー
8 第2ヒーター
9 パッケージ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯部がポリ乳酸、鞘部が芳香族ポリエステルで構成され、芯/鞘質量比率が20/80〜70/30であるポリエステル芯鞘型複合フィラメントからなる仮撚糸であって、繊度が30〜70dtexであり、伸縮復元率が35〜45%であることを特徴とするポリエステル仮撚糸。
【請求項2】
請求項1記載のポリエステル仮撚糸を用いてなる編地であって、目付けが80〜140g/mであり、定伸長時伸長力がウエール方向において10N以下で、コース方向において6N以下であり、さらに、伸長弾性率がウエール方向、コース方の何れにおいても80%以上であることを特徴とする貼布剤用編地。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−231600(P2008−231600A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−70595(P2007−70595)
【出願日】平成19年3月19日(2007.3.19)
【出願人】(399065497)ユニチカファイバー株式会社 (190)
【Fターム(参考)】