説明

ポリエステル樹脂フィルムの製造方法、およびこの製造方法により製造されたポリエステル樹脂フィルム、反射防止フィルム、拡散フィルム

【課題】厚みムラの発生を抑制したポリエステル樹脂フィルムの製造方法、この製造方法により製造されたポリエステル樹脂フィルムを提供する。
【解決手段】ポリエステル樹脂をシート状に溶融押出しし、キャスティングドラム12上で冷却固化した後、縦方向に縦延伸を、続いて横延伸装置30を通過させることにより横方向に横延伸を、行うポリエステル樹脂フィルムの製造方法において、前記縦延伸後のフィルムの結晶化度をXc(%)、前記縦延伸後のフィルムの結晶化温度をTc(℃)、前記横延伸装置の延伸ゾーン入口でのフィルム表面温度をTs(℃)、前記横延伸装置の延伸ゾーン出口でのフィルム表面温度Te(℃)が以下の式を満たすことを特徴とするポリエステル樹脂フィルムの製造方法である。
Tc≦(Ts+Te)/2+2.66Xc≦Tc+60 ・・・(1)
2≦Xc≦30 ・・・(2)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル樹脂フィルムの製造方法に係り、特に、優れた透明性を有する光学用途に適用するポリエステル樹脂フィルムの製造方法、この製造方法により製造されたポリエステル樹脂フィルム、およびこのポリエステル樹脂フィルムを基材に用いた反射防止フィルム、拡散フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、パーソナルコンピュータの普及、特に携帯性の良いノート型パソコンや省スペースのデスクトップ型パソコンの普及が著しい。また、家庭用薄型大画面テレビとして液晶テレビが普及しつつある。それに伴い液晶ディスプレイの需要が増し、かつ大画面化が進められている。
【0003】
これらに用いられる各種の光学用フィルムとして、例えば、テレビ画面に太陽光などの光が反射し、画面が見えにくくなることを防ぐため、反射防止フィルムが用いられている。この反射防止フィルムは、主に、透明支持体に、金属酸化物の透明薄膜を積層させた多層体として形成されている。また、液晶表示装置のバックライトユニットには、光源から照射された光線を液晶層前面に照射するため、拡散シートが用いられている。この拡散シートは、透明支持体に、炭酸カルシウム、二酸化珪素などの微粒子を分散させた光拡散層が積層されたものが一般的に用いられている。
【0004】
このように、光学フィルムは、透明支持体に各層を塗布することで、形成されている。そして、透明支持体に厚みムラが存在すると、その後の塗布工程において、塗布ムラが生じる場合がある。塗布ムラが生じると、光の強弱により、画面のムラが発生するため、透明支持体は均一の膜厚であることが好ましい。
【0005】
このように透明支持体の膜厚を均一にするために、特許文献1には、ダイから吐出した溶融樹脂を複数の冷却ドラムを用いて熱可塑性フィルムを製造する方法において、少なくとも一つの冷却ドラムの表面温度を、熱可塑性フィルムの移動方向の上流側の冷却ドラムより高い温度に制御することを特徴とする製造方法が記載されている。
【特許文献1】特開2006−327160号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、近年、ノート型パソコン、液晶テレビなどの普及により、これらに用いられる光学フィルムの品質として益々高度なものが要求されている。したがって、特許文献1の製造方法による厚みムラの抑制では十分ではなくなっており、更なる改良が望まれている。
【0007】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、走行方向(MD)の厚みムラの発生を抑制したポリエステル樹脂フィルムの製造方法、この製造方法により製造されたポリエステル樹脂フィルム、およびこのポリエステル樹脂フィルムを基材に用いた反射防止フィルム、拡散フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の請求項1は、前記目的を達成するために、ポリエステル樹脂をシート状に溶融押出しし、キャスティングドラム上で冷却固化した後、縦方向に縦延伸を、続いて横延伸装置を通過させることにより横方向に横延伸を、行うポリエステル樹脂フィルムの製造方法において、前記縦延伸後のフィルムの結晶化度をXc(%)、前記縦延伸後のフィルムの結晶化温度をTc(℃)、前記横延伸装置の延伸ゾーン入口でのフィルム表面温度をTs(℃)、前記横延伸装置の延伸ゾーン出口でのフィルム表面温度Te(℃)が以下の式を満たすことを特徴とするポリエステル樹脂フィルムの製造方法を提供する。
【0009】
Tc≦(Ts+Te)/2+2.66Xc≦Tc+60 ・・・(1)
2≦Xc≦30 ・・・(2)
請求項1によれば、横軸延伸を行う延伸ゾーンの温度条件、および縦延伸後のフィルムの結晶化度を所定の範囲内とすることにより、走行方向の厚みムラ(以下、「MD厚みムラ」ともいう。)の矯正現象を起こすことができる。つまり、横延伸の際、MD厚みムラを改善し、均一な膜厚とすることができる。さらに、結晶化度を上記(2)の範囲内とすることにより、このMD厚みムラの矯正現象を最大限に引き出すことができる。式(1)が、Tcより小さいと、横延伸装置内において、収縮・伸張現象が余計に起こり、MD厚みムラの矯正効果が小さくなる。また、Tc+60を超えると逆に収縮・伸長現象がほとんど起こらなくなるため、これもまた、MD厚みムラの矯正効果が小さくなる。
【0010】
また、式(2)が、2より小さいと横延伸装置内の温度条件をどのように設定しても収縮・伸長現象が余計に起こり、MD厚みムラの矯正効果が小さくなる。また、30以上になると、横延伸装置内の温度条件をどのように設定しても、収縮・伸長現象がほとんど起こらなくなり、これもまた、MD厚みムラの矯正効果が小さくなる。
【0011】
請求項2は請求項1において、前記縦延伸の倍率が2.0倍以上5.0倍以下、前記横延伸の倍率が2.5倍以上5.5倍以下であることを特徴とする。
【0012】
請求項2は、縦延伸の倍率と横延伸の倍率を規定したものである。本発明の製造方法においては、縦延伸の倍率は、2.0倍以上5.0倍以下であり、横延伸の倍率は、2.5倍以上5.5倍以下である。この範囲で、製造することにより、横延伸装置内での横延伸の際に、MD厚みムラを矯正することができる。縦延伸倍率が2.0倍より小さいと、収縮・伸長現象が余計に起こるため、MD厚みムラ矯正効果が小さくなる。また、5.0倍以上になると、収縮・伸長現象がほとんど起こらなくなり、これもまたMD厚みムラ矯正効果が小さくなる。また横延伸倍率が2.5倍より小さいと、収縮・伸長現象が起こりにくくなり、MD厚みムラ矯正効果が小さくなる。また、5.5倍以上になると、フィルムが破断しやすくなる。
【0013】
請求項3は請求項1または2において、前記横延伸装置の延伸ゾーン入口でのフィルム表面温度Ts(℃)がTg−10℃以上Tc+30℃以下であることを特徴とする。なお、Tgとは前記ポリエステル樹脂のガラス転移温度を指す。
【0014】
請求項3は、横延伸装置の延伸ゾーン入口でのフィルムの表面温度を規定したものである。入口での温度をTg−10℃以上Tc+30℃以下とすることにより、フィルムが延伸しやすい状態で延伸ゾーンを通過することができるので、容易に延伸することができる。入口での温度がTg−10℃より低いと、フィルムが硬く伸びにくいため、フィルムが破断してしまう。また、Tc+30℃を超えると、延伸前に結晶化しすぎてしまうため、フィルムが硬くなり伸びにくくなるため、フィルムが破断してしまう。
【0015】
請求項4は請求項1から3において、前記横延伸装置の延伸ゾーン出口でのフィルム表面温度Te(℃)がTc−20℃以上Tc+100℃以下であることを特徴とする。
【0016】
請求項4は、横延伸装置の延伸ゾーン出口でのフィルムの表面温度を規定したものである。出口での温度をTc−20℃以上Tc+100℃以下とすることにより、フィルムが延伸しやすい状態で延伸ゾーンを通過することができるので、容易に延伸することができる。出口の温度が、Tc−20℃より低いと延伸中にフィルムが十分結晶化されずフィルムの硬化が起きにくくなり厚みムラが矯正されにくい。また、Tc+100℃より高いと、非晶部の緩和が進みすぎてフィルムが軟化し、厚みムラが矯正されにくい。
【0017】
請求項5は請求項1から4において、前記横延伸後のフィルムの走行方向10m間の厚みムラが、フィルム厚みに対し8%以下であることを特徴とする。
【0018】
請求項5によれば、フィルムの10m間の厚みムラをフィルム厚みに対し、8%以下とすることにより、その後の塗布工程において、均一な塗布膜を形成することができる。
【0019】
請求項6は請求項1から5において、前記ポリエステル樹脂は、ポリエチレンテレフタレート樹脂であることを特徴とする。
【0020】
本発明は、ポリエステル樹脂がポリエチレンテレフタレート樹脂である場合に特に有効である。
【0021】
請求項7は、請求項1から6いずれかに記載の製造方法で製造されたポリエチレンテレフタレート樹脂フィルムを提供する。
【0022】
請求項8は、請求項7に記載のポリエステル樹脂フィルムを基材に用いたことを特徴とする反射防止フィルムを提供する。
【0023】
請求項9は、請求項7に記載のポリエステル樹脂フィルムを基材に用いたことを特徴とする拡散フィルムを提供する。
【0024】
本発明の製造方法により得られたポリエステル樹脂フィルムは、MD厚みムラが小さく、その後の塗布工程においても、均一な膜厚の塗布膜を形成することができるため、光学用フィルムの基材として、特に、反射防止フィルム、拡散フィルムとして好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、縦延伸後のフィルムの結晶化度、および横延伸装置内の温度条件を所定の範囲内とすることにより、フィルムの走行方向の厚みムラを改善することができる。また、均一な膜厚のフィルムを製造することができるため、光学用フィルム、特に反射防止フィルム、拡散フィルムの基材として好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、添付図面により本発明のポリエステル樹脂フィルムの製造方法の好ましい実施の形態について詳説する。
【0027】
図1はポリエステル樹脂フィルムの製造装置の概略を示す図で、この図において、10はポリエステル樹脂シートを製膜する製膜工程部、20はこの製膜工程部10で製膜されたポリエステル樹脂シートを縦方向に延伸する縦延伸機、30は縦延伸機20で縦方向に延伸された縦延伸ポリエステル樹脂フィルムを横方向に延伸する横延伸機、40は横延伸機30で延伸されたポリエステル樹脂フィルムを巻き取る巻取り機である。そして、製膜工程部10にはダイ11、キャスティングドラム12が設けられ、縦延伸機20が設けられている。
【0028】
また、本発明においては、製膜工程後、縦延伸工程前のフィルムを「ポリエステル樹脂シート」、縦延伸工程後のフィルムを「縦延伸ポリエステル樹脂フィルム」、横延伸工程後、つまり縦延伸と横延伸の二軸延伸後のフィルムを「ポリエステル樹脂フィルム」という。
【0029】
[製膜工程]
まず、製膜工程について説明する。ポリエステル樹脂を十分乾燥後、例えば、融点+10〜50℃の温度範囲に制御された押出機(図示せず)、フィルター(図示せず)及びダイ11を通じてシート状に溶融押し出しし、回転するキャスティングドラム12上にキャストして急冷固化することによりポリエステル樹脂シートを得る。
【0030】
[縦延伸工程]
次に縦延伸工程について説明する。縦延伸工程を実施する縦延伸機について図2を参照して説明する。図2は縦延機の概略図である。なお、縦延伸機は図2に記載されている装置に限定されず、通常、フィルムの縦延伸に用いられている装置を使用することもできる。図2において、縦延伸機20は、周速が異なる加熱延伸ロール23と冷却延伸ロール24とが設けられるとともに、加熱延伸ロール23の上方に遠赤外線ヒータ25が設けられている。縦延伸工程で未延伸のポリエステル樹脂シートを縦延伸した後、ガラス転移点以下に冷却する。
【0031】
以上のような縦延伸機で縦延伸工程が行われるが、この縦延伸工程は、縦延伸ポリエステル樹脂フィルムの加熱手段として遠赤外ヒータを用い、縦延伸ポリエステル樹脂フィルムを得るものである。
【0032】
縦延伸工程において、縦延伸倍率2.0倍以上5.0倍以下となるように延伸することが好ましい。縦延伸倍率が2.0倍未満の場合、横延伸工程において、収縮・伸長現象が余計に起こるためMD厚みムラ矯正効果が小さくなるため、好ましくない。また、5.0倍を超えると逆に、収縮・伸長効果がほとんど起こらなくなるため、MD厚みムラ矯正効果が小さくなり、好ましくない。縦延伸倍率は、より好ましくは2.2倍以上4.8倍以下、さらに好ましくは2.4倍以上4.5倍以下、さらに好ましくは2.5倍以上4.0倍以下である。
【0033】
また、縦延伸後のフィルムの結晶化度Xcは、2%以上30%以下である。好ましくは、3%以上25%以下であり、より好ましくは4%以上22%以下、さらに好ましくは5%以上20%以下である。縦延伸後のフィルムの結晶化度を上記範囲とすることにより、次の横延伸工程において、MD厚みムラの矯正現象を引き出すことができる。縦延伸後のフィルムの結晶化度が、2%より小さいと横延伸装置内の温度条件をどのように設定しても収縮・伸長現象が余計に起こってしまい、MD厚みムラ矯正効果が小さくなる。また、30%より大きいと、逆に横延伸装置内の温度条件をどのように設定しても収縮・伸長現象がほとんど起こらなくなり、MD厚みムラ矯正効果が小さくなる。
【0034】
なお、結晶化度については、フィルムの密度から算出することができる。すなわち、フィルムの密度X(g/cm3)、結晶化度0%での密度Yg/cm3、結晶化度100%での密度Zg/cm3を用いて下記計算式より結晶化度Xc(%)を導出することができる。
【0035】
Xc={Z×(X−Y)}/{X×(Z−Y)}×100
なお、密度の測定は、JIS K7112に準じて測定を行うことができる。
【0036】
以上のような特定の条件で縦延伸された縦延伸ポリエステル樹脂フィルムは、横延伸工程に送られ横延伸される。
【0037】
[横延伸工程]
次に横延伸工程について説明する。横延伸工程を実施する横延伸機について図3を参照して説明する。図3は横延伸機の概略図である。この図において、31はテンターで、このテンター31は、熱風などにより個々に温調可能で遮風カーテン32で区分された多数のゾーンからなり、入口より、予熱ゾーンT1、横延伸ゾーンT2、T3、T4、T5、熱固定ゾーンT6、T7、T8、熱緩和ゾーンT9〜Tn−3及び冷却ゾーンTn−2〜Tnが配置されている。
【0038】
以上のような横延伸機で横延伸工程が行われるが、横延伸工程は、縦延伸ポリエステル樹脂フィルムをテンター内に通し、横延伸ゾーンで縦延伸ポリエステル樹脂フィルムに熱をかけることで横延伸を行う。
【0039】
横延伸の温度は、前記縦延伸後のフィルムの結晶化温度をTc(℃)、テンター31内の横延伸ゾーンの入口(図3においてはT2の入口)でのフィルム表面温度をTs(℃)、横延伸ゾーンの出口(図3においてはT5の出口)でのフィルム表面温度をTe(℃)としたとき、下記(1)式を満たす温度で行う。
【0040】
Tc≦(Ts+Te)/2+2.66Xc≦Tc+60 ・・・(1)
上記式(1)を満たす条件で、横延伸を行うことにより、テンター31内で起こるMD方向の収縮・伸長現象によるMD方向の厚みムラ矯正現象を最大限に引き出すことができる。したがって、横延伸工程により、MDの厚みムラを改善することができる。上記式(1)の範囲は、Tc+10以上Tc+55以下が好ましく、より好ましくはTc+15以上Tc+50以下、さらに好ましくはTc+20以上Tc+45以下である。式(1)がTcより小さいと、テンター31内で、収縮・伸長現象が余計に起こってしまし、MD厚みムラ矯正効果が小さくなる。また、Tc+60より大きくなると、逆に収縮・伸長現象がほとんど起こらなくなるため、MD厚みムラ矯正効果が小さくなる。
【0041】
また、横延伸ゾーン入口でのフィルム表面温度Tsは、Tg−10℃以上Tc+30℃以下であることが好ましい。より好ましくはTg−5℃以上Tc+20℃以下であり、さらに好ましくはTg℃以上Tc+15℃以下、さらに好ましくはTg+5℃以上Tc+10℃以下である。入口でのフィルム表面温度を上記範囲内とすることにより、フィルムが伸び易い状態で横延伸されるため、横延伸時にMD方向の厚みムラの矯正現象を起こすことができる。入口での表面温度Tsが、Tg−10℃より低い場合は、フィルムが硬く伸びにくいため、フィルムが破断してしまう。また、Tc+30℃を超える場合は、延伸前に結晶化しすぎるため、フィルムが硬く伸びにくくなるためフィルムが破断してしまうため、好ましくない。
【0042】
さらに、横延伸ゾーン出口でのフィルム表面温度Teは、Tc−20℃以上Tc+100℃以下であることが好ましい。より好ましくはTc−10℃以上Tc+90℃以下、さらに好ましくはTc℃以上Tc+80℃以下、さらに好ましくはTc+10℃以上Tc+70℃以下である。出口でのフィルム表面を上記範囲内とすることにより、フィルムが延伸しやすい状態で延伸ゾーンを通過することができるので、容易に延伸することができる。出口でのフィルム表面温度TeがTc−20℃より低い場合は、延伸中にフィルムが十分結晶化されずフィルムの硬化が起きにくくなり厚みムラが矯正されにくく、Tc+100℃を超える場合は、非晶部の緩和が進みすぎてフィルムが軟化し、厚みムラが矯正されにくいため好ましくない。
【0043】
また、横延伸ゾーンにおいても横延伸する倍率は、2.5倍以上5.5倍以下であることが好ましい。上記範囲の倍率で横延伸を行うことにより、MD方向の厚みムラを大きく改善することができる。好ましくは、2.7倍以上5.3倍以下、より好ましくは2.8倍以上5.2倍以下、更に好ましくは3.0倍以上5.0倍以下である。横延伸倍率が2.5倍未満の場合は、収縮・伸長現象が起こりにくくなりMD厚みムラ矯正効果が小さくなる。また、5.0倍以上になると、フィルムの破断限界に達するため、フィルムが破断してしまう。
【0044】
横延伸ゾーンで横延伸した後、熱固定ゾーンで融点(Tm)−30℃以上融点(Tm)−5℃以下の範囲で熱固定処理を行う。熱固定温度が融点(Tm)−30℃未満の場合、ポリエステル樹脂フィルムが劈開しやすくなるため、光学用フィルムとしては、次工程以降の加工で破損等生じて耐えられないものとなる。一方、熱固定温度が融点(Tm)−5℃を超える場合、フィルム搬送中に部分的なたるみが生じてスリキズ故障などの原因となり、製造安定性がよくない。
【0045】
[巻き取り工程]
以上のようにして、厚みムラの小さい、光学用フィルムとして有用なポリエステル樹脂フィルムを得ることができ、このポリエステル樹脂フィルムは巻取機で巻き取られる。
【0046】
なお、ガラス転移点Tg(℃)、縦延伸後のフィルムの結晶化温度Tc(℃)の測定方法を以下に示す。
【0047】
ガラス転移点Tg(℃)は、例えば、示差走査型熱量計は、DSC−50((株)島津製作所製)を用いて測定することができる。測定方法は、あらかじめ秤量したポリエステル樹脂のペレット8mgを測定器にセットし、10℃/minの昇温速度で300℃まで昇温する。この時のガラス転移点のピーク温度をガラス転移温度とし、求めることができる。
【0048】
縦延伸後のフィルムの結晶化温度Tc(℃)についても同様の測定器や方法で求めることができる。すなわち、あらかじめ秤量した縦延伸後のフィルム8mgを測定器にセットし、10℃/minの昇温速度で300℃まで昇温する。この時の昇温結晶化ピーク温度を結晶化温度とし、求めることができる。
【0049】
なお、示差走査型熱量計を用いて測定した熱量と温度の関係を示すグラフの一例を図4に示す。
【0050】
[ポリエステル樹脂材料]
次に、本発明のポリエステル樹脂フィルムの製造方法に用いられる材料について説明する。本発明において使用されるポリエステル樹脂は、ジオールとジカルボン酸とから重縮合により得られるものである。ジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸などで代表されるものである。また、ジオールとしてはエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラメチレングリコール、シクロヘキサンジメタノールなどで代表されるものである。具体的には、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリテトラメチレンテレフタレート、ポリエチレン−P−オキシベンゾエート、ポリ−1,4−シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートなどを挙げることができ、ポリエチレンテレフタレートが好ましく用いられる。これらのポリエステルは、ホモポリマーであっても、成分が異なるモノマーとの共重合体あるいはブレンド物であっても良い。共重合成分としては、例えば、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ポリアルキレングリコールなどのジオール成分、アジピン酸、セバチン酸、フタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸などのカルボン酸成分などが挙げられる。
【0051】
上記ポリエステルの製造におけるエステル化反応、エステル交換反応にはそれぞれ公知の触媒を使用することができる。エステル化反応は特に触媒を添加しなくても進行するが、エステル交換反応に時間がかかるため、ポリマーを高温で長時間保持しなければならず、結果、熱劣化を生じるなどの不都合がある。そこで、下記に示すような触媒を加えることによりエステル交換反応を効率よく進めることができる。
【0052】
例えば、エステル交換反応の触媒としては、酢酸マンガン、酢酸マンガン4水和物、酢酸コバルト、酢酸マグネシウム、酢酸マグネシウム4水和物、酢酸カルシウム、酢酸カドミウム、酢酸亜鉛、酢酸亜鉛2水和物、酢酸鉛、酸化マグネシウム、酸化鉛等が一般に使用される。これらは単独に使用しても混合して使用しても良い。
【0053】
また、溶融押出されるポリエステル樹脂の比抵抗は、5×106〜3×108Ω・cmに調整されている。比抵抗が5×106Ω・cm未満であると、黄色味が増加するとともに、異物の発生が多くなり好ましくない、また、比抵抗が3×108Ω・cmを超えると、エア巻込み量が大きくなりフィルム面に凹凸が発生するものである。
【0054】
このポリエステル樹脂の比抵抗を調整するには、前記金属触媒含有量を調整することにより行う。一般に、ポリマー中の金属触媒含有量が多いほどエステル交換反応が速く進行し、比抵抗値も小さくなるのであるが、金属触媒含有量が多すぎるとポリマー中に均一に溶けなくなり、凝集異物発生の原因になる。
【0055】
また、ポリエステル樹脂中には、重合段階でリン酸、亜リン酸及びそれらのエステル並びに無機粒子(シリカ、カオリン、炭酸カルシウム、二酸化チタン、硫酸バリウム、アルミナなど)が含まれていても良い。また、重合後ポリマーに無機粒子等がブレンドされていても良い。さらに、公知の熱安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、滑剤、紫外線吸収剤、蛍光増白剤、顔料、遮光剤、フィラー類、難燃化剤等を添加しても良い。
【0056】
[ポリエステル樹脂フィルム]
上記の製造方法により製造されたポリエステル樹脂フィルムは、フィルムの走行方向10m間の厚みムラが、フィルム厚みに対し8%以下であることが好ましい。より好ましくは6%以下、さらに好ましくは5%以下、更に好ましくは4%以下である。本発明の製造方法により製造されたポリエステル樹脂フィルムは、横延伸時にMD方向の厚みムラ矯正現象が起こるため、上記範囲内の厚みムラのフィルムを製造することができる。
【0057】
なお、厚みムラは次の方法により求めた。フィルムの幅方向中央部分を長手方向に10m切り出し、長手方向に1mmごとに厚みを測定した。厚みの最大値をThmax、最小値をThmin、平均値をThavとし、下記計算式から厚みムラを算出した。
【0058】
厚みムラ=(Thmax−Thmin)/Thav×100
本発明の製造方法により製造されたポリエステル樹脂フィルムは、MD厚みムラが小さいため、基材として用いると、その後の塗布工程において、均一な膜厚の塗布膜を形成することができる。したがって、光学フィルム、特に、反射防止フィルム、拡散フィルムとして好適に用いることができる。反射防止フィルムは、ブラウン管表示装置(CRT)、LCD、PDPなどのディスプレイの前面板(光学フィルタ)に貼って、反射防止層により光干渉を利用し、画面の表面反射・映り込みを抑え、反射光を低減する効果を持つものである。また、拡散フィルムとは、液晶用バックライトを構成する材料の一つであり、光を散乱・拡散させる半透明なフィルム(シート又は板)である。蛍光管からの光をLCD前面に均一に伝えるために使用されている。
【実施例】
【0059】
以下に、実施例により本発明の実質的な効果を説明するが本発明はこれに限定されるものではない。図5に、本発明の実施例の試験条件および結果を示す。なお、図5中における樹脂Aの原料はポリエチレンテレフタレートであり、樹脂Bの原料はポリエチレンナフタレートである。また、図5中の評価は、以下の基準により評価した。
【0060】
<MD方向厚みムラ>
○・・・良好(フィルム厚みに対して7%以下)
△・・・やや悪いが実害はなく許容範囲内(フィルム厚みに対して7%を超え8%以下)
×・・・実害あり(フィルム厚みに対して8%を超える)
<フィルム破れに対する工程安定性>
○・・・良好
△・・・やや悪いが実害はなく許容範囲内
×・・・実害あり
図5に示すように、式(1)を満たさない比較例1、2はMD方向の厚みムラがフィルム厚みに対して8%を超えて発生しており、実用化レベルのフィルムが製造できなかった。また、結晶化度が1.5%であり2%未満の比較例3についても、同様に実用化レベルのフィルムが製造できなかった。
【0061】
本発明の条件により試験を行った実施例1〜6は良好な面状のフィルムを製造することができた。また、延伸倍率が大きいまたは少ない実施例7、8はMD方向厚みムラの発生がやや見られるが、実用上問題ないレベルであった。横延伸時のフィルムの表面温度が高いあるいは低い実施例9から12についても、MD方向厚みムラの発生が見られるたが、問題ないレベルであった。また、横延伸ゾーン入口での温度を安定させることにより、工程安定性が増すことが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】ポリエステル樹脂フィルムの製造装置の概略図である。
【図2】縦延伸工程を実施する縦延機の概略図である。
【図3】横延伸工程を実施する横延機の概略図である。
【図4】熱量と温度の関係を示すグラフの一例を示す図である。
【図5】本実施例の結果を示す表図である。
【符号の説明】
【0063】
10…製膜工程部、11…ダイ、12…キャスティングドラム、20…縦延伸機、23…加熱延伸ロール、24…冷却延伸ロール、30…横延伸機、31…テンター、32…遮風カーテン、40…巻取り機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル樹脂をシート状に溶融押出しし、キャスティングドラム上で冷却固化した後、縦方向に縦延伸を、続いて横延伸装置を通過させることにより横方向に横延伸を、行うポリエステル樹脂フィルムの製造方法において、
前記縦延伸後のフィルムの結晶化度をXc(%)、前記縦延伸後のフィルムの結晶化温度をTc(℃)、前記横延伸装置の延伸ゾーン入口でのフィルム表面温度をTs(℃)、前記横延伸装置の延伸ゾーン出口でのフィルム表面温度Te(℃)が以下の式を満たすことを特徴とするポリエステル樹脂フィルムの製造方法。
Tc≦(Ts+Te)/2+2.66Xc≦Tc+60 ・・・(1)
2≦Xc≦30 ・・・(2)
【請求項2】
前記縦延伸の倍率が2.0倍以5.0倍以下、前記横延伸の倍率が2.5倍以上5.5倍以下であることを特徴とする請求項1に記載のポリエステル樹脂フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記ポリエステル樹脂のガラス転移温度をTg(℃)としたとき、前記横延伸装置の延伸ゾーン入口でのフィルム表面温度Ts(℃)がTg−10℃以上Tc+30℃以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のポリエステル樹脂フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記横延伸装置の延伸ゾーン出口でのフィルム表面温度Te(℃)がTc−20℃以上Tc+100℃以下であることを特徴とする請求項1から3いずれかに記載のポリエステル樹脂フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記横延伸後のフィルムの走行方向10m間の厚みムラが、フィルム厚みに対し8%以下であることを特徴とする請求項1から4いずれかに記載のポリエステル樹脂フィルムの製造方法。
【請求項6】
前記ポリエステル樹脂は、ポリエチレンテレフタレート樹脂であることを特徴とする請求項1から5いずれかに記載のポリエステル樹脂フィルムの製造方法。
【請求項7】
請求項1から6いずれかに記載の製造方法で製造されたポリエステル樹脂フィルム。
【請求項8】
請求項7に記載のポリエステル樹脂フィルムを基材に用いたことを特徴とする反射防止フィルム。
【請求項9】
請求項7に記載のポリエステル樹脂フィルムを基材に用いたことを特徴とする拡散フィルム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−238564(P2008−238564A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−82007(P2007−82007)
【出願日】平成19年3月27日(2007.3.27)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】