説明

ポリエステル樹脂及びこれを含むトナー

電子写真像形成工程または静電印刷工程に用いられるトナー及び前記トナー用のポリエステル樹脂が開示される。前記ポリエステル樹脂は、芳香族二塩基酸成分及び3価以上の多価酸成分を含む酸成分と、脂肪族、芳香族または脂環族ジオール成分、及び3価以上の多価アルコール成分を含むアルコール成分と、数平均分子量が1,800〜2,500であり、水酸基価が40〜55KOHmg/gのポリオレフィンポリオールと、80〜110℃の融点を有するワックスと、を含み、前記ポリオレフィンポリオールの量はポリエステル樹脂全体に対して0.1〜2重量%であり、前記ワックスの量はポリエステル樹脂全体に対して0.5〜15重量%である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は2007年11月21日付けで出願された大韓民国特許出願10−2007−119229号の優先権を請求するものであり、前記出願の全体の内容が取り込まれている。本発明はポリエステル樹脂及びこれを含むトナーに係り、さらに詳しくは、電子写真像形成工程または静電印刷工程に用いられるトナー及び前記トナーにバインダーとして含まれ、ポリオレフィンポリオール及び低融点のワックスを含むポリエステル樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、電子写真像形成工程または静電印刷工程は、(1)静電記録媒体、例えば、有機光導伝体(OPC:Organic Photoconductor)ドラムの表面上に、記録される像に対応する静電気的に荷電された像または電子伝導性像(すなわち「潜在性像」)を形成する過程と、(2)荷電されたトナーにより前記潜在性像を現像する過程と、(3)現像されたトナー像を紙、記録フィルムなどの記録媒体に転写する過程、及び(4)前記記録媒体上の転写された像を熱圧着ローラーにより固定する過程を含む。電子写真像形成工程または静電印刷工程などの像形成工程は、印刷物を高速にて得ることができ、記録物質の表面に形成される像が安定している他、像形成装置が操作し易いといったメリットを有する。これらの理由から、前記像形成工程は複写機及びプリンターの分野において汎用されている。
【0003】
前記現像工程に用いられるトナーは、1成分系のトナーと2成分系のトナーなどに大別される。2成分系のトナーは、バインダー樹脂、着色剤、荷電制御剤、その他の添加剤及びドラムの上に形成された潜在性像を現像し、且つ、現像された像を転写するための磁性体を含む。通常、トナーは、トナー成分を溶融、混練、分散させ、混練された成分を微粉砕及び分級することにより粒状に製造される。前記トナーの主成分の一つであるバインダー樹脂は、分散時における着色剤の分散性、定着性、耐オフセット性、貯蔵安定性、その他の電気的な性質に優れていることが求められる。また、バインダー樹脂は優れた透明性を有することが求められ、しかも、少量の着色剤を使用する場合であっても鮮やかな画像を形成しなければならない。なお、前記バインダー樹脂は色調再現幅が広いこと、複写または印刷された像の画像濃度を向上させること、及び環境に優しいことが望まれる。
【0004】
前記バインダー樹脂として、ポリスチレン樹脂、スチレン−アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂などが通常使用されている。最近、ポリエステル樹脂はその優れた定着性、及び良好な透明性などを有することから、バインダー樹脂として一層汎用されている。また、トナーの耐オフセット性を改善するために、一般的にトナーにワックスを添加する。しかしながら、ワックスとポリエステル樹脂との相溶性が良好ではなく、トナー中においてワックスをポリエステル樹脂と一緒に均一に混合できない。この問題を解決するために、大韓民国特許公開第10−2004−0010752号公報は、脂肪族エステル、脂肪族酸及びアルコールからなるカルナウバワックスの存在下で重合されたポリエステル樹脂を開示している。しかしながら、この場合、樹脂の重合反応時にワックスが劣化、炭化、又は熱分解したり、また、樹脂重合時、トナー製造または印刷時にワックスの臭気が発生して悪影響を与えることがある。また、大韓民国特許公開第10−2005−0085116号公報は、置換基を有するワックスを樹脂に分散させたり、置換基を有するワックスと反応されたポリエステル樹脂を開示している。ところが、この場合、ワックス分散性が満足のいくものではないか、または反応されたワックスがトナー定着工程時に離型効果を十分に発揮することができない。さらに、米国特許7,226,984号公報においては、カルボキシル基で改質されたポリオレフィンまたはヒドロキシ基末端のポリアルカジエンをポリエステル樹脂構造内に導入させて、トナーの定着性を向上させることが開示されている。
【0005】
トナー用のポリエステル樹脂の製造には、ゲルマニウム系の触媒、アンチモン系の触媒、錫系の触媒などが使用されてきている。しかしながら、これらの触媒は活性が低くて多量使用されるため、前記触媒は環境の点から好ましくない。従来の触媒は触媒固有の着色性(例えば、アンチモン系の触媒は灰色の着色性)によりポリエステル樹脂の透明性を低下させる。この理由から、テトラエチルチタナート、アセチルトリプロピルチタナート、テトラプロピルチタナート、テトラブチルチタナート、ポリブチルチタナート、エチルアセトアセチックエステルチタナート、イソステアリルチタナート、チタンジオキシド、TiO/SiO共沈殿剤、TiO/ZrO共沈殿剤などのチタン系の触媒を用いて、触媒活性及び樹脂の透明性を改善する方法が試みられている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明の目的は、ワックスとの相溶性に優れたポリエステル樹脂及びこれを含むトナーを提供するところにある。
【0007】
本発明の他の目的は、貯蔵安定性、定着温度領域及び画像濃度に優れており、ワックスが均一に分散されるトナーを提供するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明は、芳香族二塩基酸成分及び3価以上の多価酸成分を含む酸成分と、脂肪族、芳香族または脂環族ジオール成分、及び3価以上の多価アルコール成分を含むアルコール成分と、数平均分子量が1,800〜2,500であり、水酸基価が40〜55KOHmg/gのポリオレフィンポリオールと、80〜110℃の融点を有するワックスと、を含み、
前記ポリオレフィンポリオールの量はポリエステル樹脂全体に対して0.1〜2重量%であり、前記ワックスの量はポリエステル樹脂全体に対して0.5〜15重量%であるポリエステル樹脂を提供する。
【0009】
また、本発明は、(a)酸成分、アルコール成分、及びポリオレフィンポリオールでエステル化反応またはエステル交換反応を行うステップと、(b)前記エステル化反応またはエステル交換反応の生成物を、ワックスの存在下で重縮合させるステップと、を含むポリエステル樹脂の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係るポリエステル樹脂は、ワックス相溶化剤の機能をする低分子量ポリオレフィンポリオールをアルコール成分として含み、樹脂重合時に樹脂に分散される低融点のワックスを含む。このため、本発明に係るポリエステル樹脂はワックスとの相溶性に優れている。前記ポリエステル樹脂から製造されたトナーは貯蔵安定性、定着温度領域及び画像濃度の面で好ましい特性を有し、しかも、ワックスはトナー中において均一に分散可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のより完全な理解及びこれに付随する多くの利点は、下記の詳細な説明を参照して一層詳述される。
【0012】
本発明に係るポリエステル樹脂は、酸成分及びアルコール成分を含む。前記酸成分は芳香族二塩基酸成分及び3価以上の多価酸を含み、必要に応じて、脂環族二塩基酸成分及び脂肪族二塩基酸成分をさらに含むことができる。前記芳香族二塩基酸成分は、通常的にポリエステル樹脂の製造に用いられる、芳香族二塩基酸、このアルキル(例えば、メチル、エチル、プロピルなど)エステル及びその酸無水物を含む。前記芳香族二塩基酸の例としては、テレフタル酸、イソフタル酸、5−スルホイソフタル酸ナトリウム塩、フタル酸などが挙げられる。前記芳香族二塩基酸のアルキルエステルとしては、ジメチルテレフタラート、ジメチルイソフタラート、ジエチルテレフタラート、ジエチルイソフタラート、ジブチルテレフタラート、ジブチルイソフタラート、ジメチル5−スルホイソフタラートナトリウム塩などが挙げられる。前記芳香族二塩基酸とこのアルキルエステルは単独にてまたは混合して使用可能である。前記芳香族二塩基酸は疎水性のベンゼン環を含むことから、トナーの耐湿性を向上させ、生成される樹脂のガラス転移温度(以下、Tgと称する。)を増加させ、結果的にトナーの貯蔵安定性を向上させる。
【0013】
本発明に用いられる脂環族二塩基酸成分において、脂環族基は、好ましくは、5〜20の炭素数を有する。前記脂環族二塩基酸成分の例としては、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、これらのアルキル(例えば、メチル、エチル、プロピルなど)エステル及びその酸無水物を含み、これらは単独にてまたは混合して使用可能である。また、前記脂環族基の環の1以上の水素がアルキル基などで置換されていてもよい。前記脂環族二塩基酸成分は、130℃以下の低温領域においてはポリエステル樹脂の溶融粘度を低め、170℃以上の高温領域においてはポリエステル樹脂の溶融粘度を増加させるため、トナーは広い定着領域を有する。また、脂環族二塩基酸成分が親油性を有することから、トナーは良好な耐湿性を有し、これにより、良好な画像濃度を有する。さらに、脂環族基の環状構造は樹脂の耐加水分解性及び熱安定性を向上させて、トナー製造時の分子量低下を抑制する。このため、トナーは広い温度領域において良好な定着特性を有する。
【0014】
3価以上の多価酸成分の例としては、トリメリット酸、ピロメリット酸、1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸、2,5,7−ナフタレントリカルボン酸、1,2,4−ナフタレントリカルボン酸、1,2,5−ヘキサントリカルボン酸、1,2,7,8−オクタンテトラカルボン酸、これらのアルキルエステル及びその酸無水物などの多価カルボン酸が挙げられる。これらの3価以上の多価カルボン酸成分は単独にてまたは混合して使用可能である。3価以上のカルボン酸成分は生成された樹脂のガラス転移温度(Tg)を上昇させ、且つ、樹脂の凝集性を向上させる結果、トナーが向上した耐オフセット性を有する。
【0015】
本発明に係るポリエステル樹脂用の酸成分は、必要に応じて、脂肪族二塩基酸、このアルキルエステル及び/またはこれらの酸無水物をさらに含むことができる。前記脂肪族二塩基酸成分は炭素数2〜20の線状または枝状構造を有し、脂肪族二塩基酸成分の例としては、フタル酸、セバシン酸、イソデシルサクシン酸、マレイン酸、フマル酸、アジピン酸、アゼライン酸など及びモノメチルエステル、モノエチルエステル、及びジメチルエステルまたはジエチルエステルなどのこれらのアルキルエステル、及びこれらの酸無水物などが挙げられる。
【0016】
本発明に係るポリエステル樹脂用のアルコール成分は、脂肪族ジオール、芳香族ジオール、または脂環族ジオールを含むジオール成分と、3価以上の多価アルコール成分を含む。前記脂肪族ジオールの例としては、1,2−プロパンジオール(1,2−プロピレングリコール)、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,4−ブタンジオールなどの炭素数2〜10の線状または枝状脂肪族ジオールを含む。前記脂環族ジオール成分の例としては、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、スピログリコール、水素化ビスフェノールA、水素化ビスフェノールAのエチレンオキシド付加物及び水素化ビスフェノールAのプロピレンオキシド付加物などが挙げられる。前記脂環族ジオール成分は、脂環族基に5〜20の炭素数を有することが好ましい。
【0017】
前記3価以上の多価アルコールの例としては、ソルビトール、1,2,3,6−ヘキサンテトロール、1,4−ソルビタン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、スクローズ、1,2,4−ブタントリオール、1,2,5−ペンタントリオール、グリセロール、2−メチルプロパントリオール、2−メチル−1,2,4−ブタントリオール、トリメチオールエタン、トリメチオールプロパン、1,3,5−トリヒドロキシメチルベンゼンなどが挙げられる。3価以上の多価アルコールは単独にてまたは混合して使用可能である。3価以上の多価アルコールは樹脂のTgを上昇させて樹脂の凝集性を向上させる結果、トナーが改善された貯蔵安定性を有する。
【0018】
本発明のポリエステル樹脂用のアルコール成分の一つである芳香族ジオールは、樹脂のTgを上昇させ、トナーの貯蔵安定性を向上させる他、トナーの低温及び/または高温定着性を向上させる。前記芳香族ジオールの好適な例としては、ビスフェノールA誘導体を含むものが挙げられ、例えば、ポリオキシエチレン−(2,0)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン−(2,0)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン−(2、2)−ポリオキシエチレン−(2,0)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシエチレン−(2,3)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン−(6)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン−(2,3)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン−(2,4)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン−(3,3)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシエチレン−(3,0)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシエチレン−(6)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンなどが挙げられる。前記芳香族ジオールは単独にてまたは混合して使用可能である。また、前記ビスフェノールA誘導体芳香族ジオールの85重量%超において、ビスフェノールA誘導体に付加されたエチレンオキシド及び/またはプロピレンオキシドのモル数が2であることが好ましい。前記ビスフェノールA誘導体芳香族ジオールの0.2重量%未満において、ビスフェノールA誘導体に付加されたエチレンオキシド及び/またはプロピレンオキシドのモル数が1であることが好ましい。
【0019】
本発明に係るポリエステル樹脂において、前記酸成分及びアルコール成分の量はバインダー樹脂の要求特性に応じて適切に調節可能である。具体的に、酸成分全体に対して、前記芳香族二塩基酸成分の量は60〜99.5モル%、好ましくは、80〜97.5モル%であり、前記3価以上の多価酸成分の量は0.5〜20モル%、好ましくは、1〜10モル%である。また、ポリエステル樹脂用の酸成分として、前記脂環族二塩基酸成分が用いられる場合、脂環族二塩基酸成分の量は酸成分全体に対して、0〜20モル%、好ましくは、1〜10モル%である。ポリエステル樹脂用の酸成分として、前記脂肪族二塩基酸成分が用いられる場合、脂肪族二塩基酸の量は酸成分全体に対して、1〜10モル%である。
【0020】
また、前記ポリオレフィンポリオールを除く残りのアルコール成分全体に対して、脂肪族、芳香族または脂環族ジオール成分の量は80〜99モル%であり、3価以上の多価アルコール成分の量は1〜20モル%である。前記ポリオレフィンポリオールを除く残りのアルコール成分全体に対して、前記脂肪族ジオールの量は0〜99モル%、好ましくは、9〜97モル%であり、前記芳香族ジオールの量は0〜90モル%、好ましくは、1〜80モル%であり、前記脂環族ジオールの量は0〜50モル%であり、好ましくは、1〜30モル%である。もし、前記酸成分及びアルコール成分の量が前記範囲ではない場合、製造されたポリエステル樹脂がトナー用のバインダーとして求められる物性を有さない恐れがある。
【0021】
本発明のポリエステル樹脂は、ワックスの分散性を向上させるためのワックス相溶化剤として、樹脂構造内にポリオレフィンポリオールを含む。好ましくは、ポリオレフィンポリオールの数平均分子量が1,800〜2,500であり、ポリオレフィンポリオールの水酸基価が40〜55KOHmg/gである。ポリオレフィンポリオールは水素化されたポリブタジエンポリオールであることがさらに好ましい。低分子量ポリオレフィンポリオールの量は、ワックス成分を含むポリエステル樹脂全体に対して、0.1〜2.0重量%、好ましくは、0.3〜1.0重量%である。前記ポリオレフィンポリオールの量が上述した範囲を下回るか、あるいは、その数平均分子量が上述した範囲を下回ると、ワックスの分散性を向上させることが困難である。その一方、ポリオレフィンポリオールの量が上述した範囲を上回るか、あるいは、数平均分子量が上述した範囲を上回る場合には、樹脂のTgが低下してトナーの貯蔵安定性及び粉砕性が不良になる恐れがある。前記ポリオレフィンポリオールの水酸基価(KOHmg/g)が上述した範囲を下回る場合にはポリオレフィンポリオールの分子量が増加し過ぎてしまう。一方、水酸基価が上述した範囲を上回るとポリオレフィンポリオールの分子量が減少し過ぎてしまう。
【0022】
本発明のポリエステル樹脂は、トナーの定着性及び耐オフセット性を向上させるために、樹脂内にワックスをさらに含む。前記ワックスの量は、ワックスを含むポリエステル樹脂全体に対して、0.5〜15重量%であることが好ましい。ワックスの量が上述した範囲を下回る場合にはトナーの低温定着性及び耐オフセット性が低下する恐れがある。一方、ワックスの量が上述した範囲を上回る場合には、ワックスは樹脂内に適切に分散できない結果、良好なトナー画像が得難い。ワックスの融点は低いことが求められ、特に、80〜110℃である。もし、融点が80℃未満であれば、ワックスの分散性に劣り、融点が110℃を超えるとトナーの定着性及び耐オフセット性が十分に向上しなくなる恐れがある。また、樹脂内において、ワックスは、好ましくは、2μm以下の直径、さらに好ましくは、1μm以下の直径を有するように分散される。例えば、ワックス成分の直径は0.01〜1μmであってもよい。分散されたワックス成分の直径が2μmを超えると、トナーの帯電特性及び貯蔵安定性が不良であるため良好なトナー画像が得難い。本発明においては、融点が80〜110℃範囲のワックスが制限なしに使用可能である。ワックスは合成ワックス及び/または天然ワックスであってもよい。合成ワックスの例としては、ポリエチレンワックス及びポリプロピレンワックスなどのポリオレフィンワックスが挙げられる。天然ワックスの例としては、カルナウバワックス、モンタン系エステルワックス、蜜蝋及び/またはライスワックスなどが挙げられる。
【0023】
本発明に係るポリエステル樹脂は、通常のポリエステル樹脂と同様に、(a)エステル化反応またはエステル交換反応、(b)ワックス成分を混合しながら行われる重縮合反応といった2段階を経て製造される。本発明によりポリエステル樹脂を製造するためには、先ず、前記酸成分及びポリオレフィンポリオールを含む前記アルコール成分を反応器に充填させて加熱して、エステル化反応またはエステル交換反応を行う。ここで、酸成分使用量全体(A)に対するアルコール成分使用量全体(G)のモル比(G/A)は1.05〜2.0であることが好ましい。前記モル比(G/A)が1.05未満である場合、重合反応時に未応酸成分が残留して樹脂の透明性が低下する。前記モル比(G/A)が2.0を超える場合、重合反応速度が遅すぎて樹脂の生産性が低下する恐れがある。
【0024】
前記エステル化反応またはエステル交換反応は、通常のチタン系触媒、例えば、テトラエチルチタナート、アセチルトリプロピルチタナート、テトラプロピルチタナート、テトラブチルチタナート、ポリブチルチタナート、エチルアセトアセチックエステルチタナート、イソステアリルチタナート、チタンジオキシド、TiO/SiO共沈殿剤、TiO/ZrO共沈殿剤などの存在下で行うことができる。ここで、重金属系触媒(例えば、アンチモン系、錫系)は環境の点から使用しないことが好ましい。必要に応じて、通常の安定剤を使用することができる。前記エステル化反応またはエステル交換反応は、例えば、窒素気流下、230〜260℃の反応温度において、反応物から生成される水またはアルコールを通常の方法により除去しながら行ってもよい。
【0025】
前記エステル化反応またはエステル交換反応後、エステル化反応またはエステル交換反応の反応物に対する重縮合反応を行う。前記重縮合反応もまた、通常の条件下で行うことができる。例えば、240〜260℃の温度、好ましくは、250℃未満の温度及びチタニウム系触媒の存在下において、(a)1段階(初期)の重縮合反応を高真空下、および高速撹拌条件下で行い、(b)次いで、窒素を反応器に充填して反応圧力を常圧に調節した後、高速撹拌条件下でさらに反応を行い、(c)最後に常圧に維持しながら、低速撹拌状態で反応をさらに行うことによりポリエステル樹脂を製造することができる。前記重縮合反応中にグリコールなどの副産物は蒸留により除去される。前記初期重縮合反応において、高真空条件は100mmHg以下、好ましくは、30mmHg以下である。このような高真空条件に起因して重縮合反応システムから低沸点を有する副産物を有効に除去することができる。前記重縮合反応はワックスの存在下で行われて本発明のポリエステル樹脂を製造することができる。好ましくは、ワックスを重縮合反応の末期に添加する。さらに好ましくは、ワックスを重縮合反応が完結される10分〜1時間前に投入して混合する。
【0026】
本発明に係るポリエステル樹脂のガラス転移温度(Tg)は55〜75℃であることが好ましい。Tgが55℃未満であれば、トナーの粉砕性及び貯蔵安定性が低下する恐れがある。Tgが75℃を超えるとトナーの低温定着性が低下し、優れたトナー画像が得難い。ポリエステル樹脂の好適な軟化温度は120〜200℃であり、140〜180℃であることがさらに好ましい。前記軟化温度が120℃未満であれば、Tgが低くなる結果、トナーの貯蔵安定性が低下するため、貯蔵中にトナー粒子が凝集する恐れがあり、高温下でオフセットが発生する恐れがある。前記軟化温度が200℃を超えるとトナーの低温定着性が低下してオフセットが発生する恐れがある。また、前記ポリエステル樹脂の酸価は30KOHmg/g以下であることが好ましく、1〜30KOHmg/gであることがさらに好ましく、最も好ましくは、1〜20KOHmg/gである。前記酸価が30KOHmg/gを超えると樹脂の貯蔵及び/または搬送時または印刷機の現像機内においてポリエステル樹脂の貯蔵安定性が不良になる恐れがある。前記ポリエステル樹脂内においてゲルの量がポリエステル樹脂全体に対して2〜30重量%であることが好ましい。前記ゲル含量が2重量%未満であれば、トナーの耐オフセット性が低下する。ゲル含量が30重量%を超えるとトナーの低温定着特性が低下して優れたトナー画像が得難い。
【0027】
本発明に係るポリエステル樹脂はトナー用のバインダー樹脂の主成分として使用可能である。必要に応じて、本発明のポリエステル樹脂はスチレン系樹脂またはスチレン−アクリル系樹脂などの他の従来の樹脂と併用してもよい。トナーにおけるバインダー樹脂の量は、好ましくは、30〜95重量%、より好ましくは、35〜90重量%である。バインダー樹脂の量が30重量%未満であれば、トナーの耐オフセット性が低下することがある。バインダー樹脂の量が95重量%を超えるとトナーの帯電安定性が低下する恐れがある。本発明に係るポリエステル樹脂はトナー用の着色剤と併用してもよい。着色剤または顔料の例としては、カーボンブラック、ニグロシン染料、ランプブラック、スダンブラックSM、ネーブルイエロー、ミネラルファストイエロー、リソールレッド、パーマネントオレンジ4Rなどが挙げられる。また、本発明のポリエステル樹脂は従来のワックス、荷電制御剤、磁性体(例えば、磁性粉末)などの通常のトナー用の添加剤と併用することができる。前記荷電制御剤の例としては、ニグロシン、アルキル含有アジン系の染料、塩基性染料、モノアゾ染料及びこの金属錯体、サリチル酸及びこの金属錯体、アルキルサリチル酸及びこの金属錯体、ナフト酸及びこの金属錯体などが挙げられる。前記磁性粉末の例としては、フェライト、マグネタイトなどが挙げられる。
【0028】
本発明のポリエステル樹脂を含むトナーは、通常の方法により製造可能である。例えば、先ず、バインダー樹脂の軟化温度よりも15〜30℃高い温度においてポリエステル樹脂(バインダー樹脂)、着色剤及びその他の添加剤を、一軸押出機または二軸押出機またはミキサーを用いて混合及び混練し、混練された混合物を粉砕して粒状のトナーを製造することができる。トナーの平均粒子サイズは、通常、5〜10μmであり、7〜9μmであることが好ましい。また、粒子のサイズが5μm未満であるトナー微粒子の量がトナー全体の3重量%未満であることがさらに好ましい。
【実施例】
【0029】
下記の実施例及び比較例は本発明を一層具体的に説明するためのものであり、本発明がこれらの例により限定されるものではない。下記の実施例及び比較例において、物理的な特性は下記のようにして評価された。
【0030】
(1)ガラス転移温度(Tg、℃):ガラス転移温度は示差走査熱量計(製造元:TAインスツルメンツ)を用いて、溶融された試料を急冷させた後に試料の温度を10℃/分にて昇温させて測定した。Tgは吸熱曲線及びベースラインの各接線の中央値から決定した。
【0031】
(2)軟化温度(℃):軟化温度は流動試験機(CFT−500D、製造元:株式会社島津製作所)を用いて決定し、1.0Φ×10mm(高さ)ノズル、10kgf荷重及び6℃/分の温度上昇率の条件下で、1.5g試料の半分が流れ出る瞬間の温度を軟化温度(℃)とした。
【0032】
(3)酸価(KOHmg/g):樹脂をジクロロメタンに溶解させた後に冷却させ、0.1NのKOHメタノール溶液により滴定した。
【0033】
(4)ゲルの量(重量%):ゲルの量は、樹脂100重量%中において、テトラヒドロフラン(THF)に未溶解の樹脂の量(重量%)にて示される。このテストはポリエステル樹脂の架橋密度を測定する。特に、ポリエステル樹脂0.1g(0.001g単位まで正確に測定する)をテトラヒドロフラン(THF)100mlに入れ、2時間撹拌しながら溶解させた後、22時間放置した。前記溶液を200メッシュのステンレススチールフィルターでろ過して、残留樹脂の量を100分率にて計算した。
【0034】
(5)貯蔵安定性:トナー100gをガラス瓶に入れた後にガラス瓶を密閉した。50℃において48時間経過後、トナーの凝集を目視にて観察した。凝集の度合いは下記のようにして評価した。
◎:凝集が全く見られず、貯蔵安定性が良好である。
○:わずかな凝集が見られるが、貯蔵安定性が良好である。
×:激しい凝集が見られ、貯蔵安定性が不良である。
【0035】
(6)最小定着温度及びオフセット温度:製造されたトナーを白紙の上にコーティングし、シリコンオイル塗布のヒートローラーに前記紙を200mm/秒の速度にて通させた。90%を超えるトナーが定着されるときのヒートローラーの最小温度を最小定着温度として定義した。90%を超えるトナーが定着されるときのヒートローラーの最大温度をオフセット温度として定義した。50℃から230℃の温度範囲においてヒートローラーを調節して最小定着温度とオフセット温度を測定した。最小定着温度とオフセット温度との間の温度領域を定着温度領域として定義した。
【0036】
(7)トナー画像濃度:テフロン塗布のヒートローラー及び温度制御機付きの、40枚/分の印刷速度を有する黒白プリンターを用いて、OHPフィルムまたは紙の上に100枚の画像を印刷した。そして、画像の流れと100枚の画像濃度(ソリッド面積画像)をマクベス反射濃度計のRD918で測定し、その平均値を下記のようにして評価した。
◎:画像濃度が1.4以上である。
○:画像濃度が1.2以上である。
×:画像濃度が1.2未満である。
【0037】
(8)ワックス分散性:トナー原料(樹脂、着色剤及びその他の添加剤)を混練機を用いて混練し、混練された混合物を板状に押出して常温下で固化させた。固化されたトナーの断面を走査電子顕微鏡(SEM)により観察し、下記のようにして評価した。
◎:ワックス分散が良好であり、且つ、ワックス粒径が2ミクロン以下である。
○:ワックス分散が良好であり、且つ、ワックス粒径が2ミクロン超である。
×:ワックス分散が不良であり、且つ、ワックス粒径が2ミクロン超である。
【0038】
(9)ワックスの量:示差走査熱量計(製造元:TAインスツルメンツ)を用いて、トナー試料の温度を10℃/分にて昇温しつつ、トナー試料の溶融による吸熱ピークの面積を測定した。測定されたピーク面積を純粋ワックスによる吸熱ピークの面積と比較して、トナー内のワックスの量を測定した。
◎:投入された全体ワックス含量に対するトナー内ワックス残量が80%超である。
○:投入された 全体ワックス含量に対するトナー内ワックス残量が60%超である。
×:投入された 全体ワックス含量に対するトナー内ワックス残量が40%超である。
【0039】
[実施例1−7及び比較例1−9]
A.ポリエステル樹脂の製造
撹拌機と流出コンデンサーを取り付けた2Lの反応器に、テレフタル酸565g、ジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシラート80g、無水トリメリット酸38g、エチレングリコール164g、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンプロピレンオキシド付加物330g、1,4−シクロヘキサンジメタノール138g、グリセロール22gと水素化されたポリブタジエンポリオールを充填させた。窒素気流下で反応器の温度を250℃まで徐々に上昇させ、副産物である水を反応器の外部に流出させながら、エステル化反応を行った。前記水の発生及び流出が終了された後、反応物を撹拌機、冷却コンデンサー及び真空システムが取り付けられた重縮合反応器に搬送した。そして、TiO/SiO共沈殿剤を酸成分全体に対して200ppm添加した。反応器の温度を250℃まで上昇させ、反応器の圧力を30分間50mmHgまで減圧しながら、低真空下において反応させて、過量のジオール成分を流出させた。次いで、反応器の圧力を0.1mmHgまで徐々に減圧し、高真空下において所定の撹拌トルクを示すまで反応を行った。縮重合反応終結10分〜1時間前にワックスを投入し、撹拌して混合した。得られたポリエステル樹脂のTgは58〜67℃であり、樹脂の軟化温度は150〜165℃であり、樹脂の酸価は1〜20KOHmg/gであり、樹脂中のゲルの量はポリエステル樹脂全体に対して2〜15重量%であった。
【0040】
前記反応に用いられたポリブタジエンポリオールとワックスの種類及び含量を下記表1に示す。表1中、ポリブタジエンポリオールとワックスの量はポリエステル樹脂全体の理論生産量に対するものである。表1中、HPBDは水素化されたポリブタジエンポリオールを示し、HPBDAは数平均分子量が約1,300(水酸基価が75KOHmg/g)の水素化されたポリブタジエンポリオール、HPBDBは数平均分子量が約1,800〜2,500(水酸基価が40〜55KOHmg/g)の水素化されたポリブタジエンポリオール、HPBDCは数平均分子量が約4,000(水酸基価が25KOHmg/g)の水素化されたポリブタジエンポリオールを示す。表1中、ワックスA〜FはTm(融点)がそれぞれ80℃、88℃、99℃、107℃、126℃及び150℃であるポリエチレンワックスを意味し、括弧内の数値は、樹脂の重合過程ではないトナーの製造過程中に投入されたワックスを意味する。
【0041】
B.トナーの製造
製造されたポリエステル樹脂53重量部、磁性体及び着色剤であるマグネタイト45重量部、及び荷電制御剤であるアゾ染料系の金属錯体2重量部を混合機により混合し、押出機において溶融混練した。次いで、押出された混合物をジェットミル粉砕機により微粉砕し、粉砕された粒子を風力分級機により分級した。次いで、粒子をシリカ1重量部及びチタンジオキシド0.2重量部にてコーティング処理して、体積平均粒子径が8〜9μmのトナー粒子を得た。製造したトナーのワックス分散性、貯蔵安定性、最小定着温度、オフセット温度、定着温度領域及びトナー画像濃度を測定して表1に示した。
【0042】
【表1】

【0043】
表1に示すように、数平均分子量が約1,800〜2,500(水酸基価が40〜55KOHmg/g)のHPBDの量が樹脂全体に対して0.1〜2重量%であり、ワックスの量が樹脂全体に対して0.5〜15重量%である本発明の実施例1〜7において、ワックス分散性、粉砕性、貯蔵安定性、定着温度領域及び長期印刷に対する画像が良好である。これに対し、比較例1〜3に示すように、HPBD(ワックス相溶化剤)が用いられないか、あるいは、数平均分子量が約1,300(水酸基価が75KOHmg/g)のHPBDが用いられる場合、ワックス分散性及びトナーの画像が良好ではない。比較例2〜4において、過量のHPBDが用いられるか、あるいは、数平均分子量が約4,000(水酸基価が25KOHmg/g)のHPBDが用いられる場合、樹脂のTgが低下し、これにより、ワックス分散性及び貯蔵安定性が低下する。ワックスの量が少な過ぎる比較例5において、トナー画像及び定着温度領域が良好ではない。過量のワックスが用いられる比較例6において、ワックス分散性及び貯蔵安定性が低下して、トナー画像が良好ではない。ワックスが樹脂の重合過程ではなくトナー製造過程中に添加された比較例7において、ワックス分散性が低下してトナー画像及び定着領域が良好ではない。高融点ワックスが用いられる比較例8及び9において、ワックスの溶融温度が高いため樹脂の離型及び溶融特性が低下する結果、定着温度領域及び画像濃度が低下する。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明のトナーは貯蔵安定性、定着温度領域、画像濃度などの点で好ましい特性を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族二塩基酸成分、及び3価以上の多価酸成分を含む酸成分と、
脂肪族、芳香族または脂環族ジオール成分及び3価以上の多価アルコール成分を含むアルコール成分と、
数平均分子量が1,800〜2,500であり、水酸基価が40〜55KOHmg/gのポリオレフィンポリオールと、
80〜110℃の融点を有するワックスと、を含み、
前記ポリオレフィンポリオールの量はポリエステル樹脂全体に対して0.1〜2重量%であり、前記ワックスの量はポリエステル樹脂全体に対して0.5〜15重量%である、ポリエステル樹脂。
【請求項2】
前記ポリオレフィンポリオールは水素化されたポリブタジエンポリオールである、請求項1に記載のポリエステル樹脂。
【請求項3】
前記ワックスは、ポリオレフィンワックス、カルナウバワックス、モンタン系エステルワックス、蜜蝋、及びライスワックスよりなる群から選ばれるものである、請求項1に記載のポリエステル樹脂。
【請求項4】
前記ワックスは、ポリエステル樹脂内において2μm以下の直径を有するように分散している、請求項1に記載のポリエステル樹脂。
【請求項5】
(a)芳香族二塩基酸成分及び3価以上の多価酸成分を含む酸成分、脂肪族、芳香族または脂環族ジオール成分、及び3価以上の多価アルコール成分を含むアルコール成分、及び数平均分子量が1,800〜2,500であり、水酸基価が40〜55KOHmg/gのポリオレフィンポリオールを用いてエステル化反応またはエステル交換反応を行うステップと、
(b)前記エステル化反応またはエステル交換反応の反応生成物を、80〜110℃の融点を有するワックスの存在下で重縮合反応を行うステップと、
を含むポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項6】
請求項1に記載のポリエステル樹脂を含むトナー。



【公表番号】特表2011−504200(P2011−504200A)
【公表日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−534866(P2010−534866)
【出願日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際出願番号】PCT/KR2008/004068
【国際公開番号】WO2009/066850
【国際公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【出願人】(500116041)エスケー ケミカルズ カンパニー リミテッド (49)
【Fターム(参考)】