説明

ポリエステル樹脂水性分散体およびその製造方法

【課題】 含有する有機溶剤を低減させ、低温下での長期保存によって凝集を起こすことなく、すぐれた塗工被膜を得ることができるポリエステル樹脂水性分散体を提供する。
【解決手段】 数平均分子量が10,000以上のポリエステル樹脂であり、転相乳化で分散されるポリエステル樹脂水性分散体であって、有機溶剤を留去した後に、塩基性化合物の添加を行い、pHが6以上であり、分散させたポリエステル樹脂水性分散体の初期固形分濃度に対して、密閉状態で5℃、1ヶ月保存した後のポリエステル樹脂水性分散体の固形分濃度の変化率が−5%未満であることを特徴とするポリエステル樹脂水性分散体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転相乳化で分散されるポリエステル樹脂水性分散体であって、有機溶剤を留去した後に、塩基性化合物の添加を行い、5℃、1ヶ月保存した後の固形分
濃度の変化が少ないポリエステル樹脂水性分散体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリエステル樹脂は、被膜形成用樹脂として、被膜の加工性、有機溶剤に対する耐性(耐溶剤性)、耐候性に優れており、PET、PBT、塩化ビニル、各種金属等の成形品やフィルムへの密着性に優れていることから、塗料、インキ、接着剤、コーティング剤等に用いる樹脂として、有機溶剤に溶解したものが非常に多く使用されている。
【0003】
また、近年、環境保護、消防法による危険物規制、職場環境の改善等の理由で、有機溶剤の使用を抑制する傾向にあり、前記の用途に使用できるポリエステル樹脂を、水性媒体に微分散させた、ポリエステル樹脂水性分散体を供給することが求められており、その開発が盛んにおこなわれている。
【0004】
たとえば、ポリエステル樹脂のカルボキシル基を塩基性化合物で中和することにより、水性媒体中に分散させた、ポリエステル樹脂水性分散体が提案されており、かかる水性分散体を用いると加工性、耐水性、耐溶剤性等の性能に優れた被膜を形成できるとの開示があるが、樹脂被膜の加工性等の性能が不十分であった(特許文献1)。
【0005】
また、環境保護や職場環境改善の立場からポリエステル樹脂水性分散体中の有機溶剤量のさらなる低減が望まれ、水性分散体中の有機溶剤量を極限にまで低減させたが、低温で長期保存を行ったり、攪拌や塗工の際に継続的に剪断力を受けることで、水性分散体中のポリエステル樹脂が経時で凝集し、沈殿物が塗工被膜中に混入すると被膜の欠陥となり、問題となっていた。(特許文献2、特許文献3)
【特許文献1】特開2002−173582号公報
【特許文献2】国際公開第2004037924号パンフレット
【特許文献3】特開2007−31509号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、含有する有機溶剤を低減させても、低温下での長期保存、によって凝集を起こすことなく、すぐれた塗工被膜を得ることができるポリエステル樹脂水性分散体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記の課題を解決するために、鋭意研究を重ねた結果、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明の要旨は、以下のとおりである。
[1] 数平均分子量が10,000以上のポリエステル樹脂であり、転相乳化で分散されるポリエステル樹脂水性分散体であって、有機溶剤を留去した後に、塩基性化合物の添加を行い、pHが6以上であり、分散させたポリエステル樹脂水性分散体の初期固形分濃度に対して、密閉状態で5℃、1ヶ月保存した後のポリエステル樹脂水性分散体の固形分濃度の変化率が−5%未満であることを特徴とするポリエステル樹脂水性分散体。
[2] ポリエステル樹脂が多塩基酸成分と多価アルコール成分とより構成され、酸価が2〜10mgKOH/gであり、ガラス転移温度が30℃以下であることを特徴とする[1]のポリエステル樹脂水性分散体。
[3] 塩基性化合物が沸点150℃以下の有機アミン、および/または、アンモニアであることを特徴とする[1]又は[2]のポリエステル樹脂水性分散体。
[4] 留去した後の有機溶剤の残存率が3質量%以下であることを特徴とする[1]〜[3]のポリエステル樹脂水性分散体。
[5] 有機溶剤を留去した後の水性分散体に対し、攪拌した状態で塩基性化合物を添加することを特徴とする[1]〜[4]のポリエステル樹脂水性分散体の製造方法。
[6] 有機溶剤を留去した後の水性分散体100質量部に対して、塩基性化合物を0.01質量部以上添加することを特徴とする請求[1]〜[5]のポリエステル樹脂水性分散体の製造方法。
[7] 有機溶剤を留去した後の水性分散体100質量部に対して、塩基性化合物を0.03質量部以上添加することを特徴とする[1]〜[6]のポリエステル樹脂水性分散体の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明のポリエステル樹脂水性分散体は、加工性等の性能に優れた被膜を形成できるため、有用である。さらには、有機溶剤の含有率を極力低減した上に、低温下で長期保存を行っても保存安定性に優れるポリエステル樹脂水性分散体とすることができるため、産業上の利用価値は極めて高い、
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明について説明する。
【0010】
はじめに、本発明におけるポリエステル樹脂の構成成分について説明する。
【0011】
ポリエステル樹脂を構成する酸成分としては、芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸、脂環式ジカルボン酸、3官能以上のカルボン酸等の、末端に2個以上のカルボキシル基を有する多塩基酸が挙げられる。芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、無水フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ビフェニルジカルボン酸などが挙げられ、脂肪族ジカルボン酸としては、シュウ酸、コハク酸、無水コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、アイコサン二酸、水添ダイマー酸などの飽和脂肪族ジカルボン酸や、フマル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、シトラコン酸、無水シトラコン酸、ダイマー酸などの不飽和脂肪族ジカルボン酸などが挙げられる。脂環式ジカルボン酸としては、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、2,5−ノルボルネンジカルボン酸およびその無水物、テトラヒドロフタル酸およびその無水物などが挙げられる。また、3官能以上のカルボン酸としては、トリメリット酸、ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、無水ベンゾフェノンテトラカルボン酸、トリメシン酸、エチレングリコールビス(アンヒドロトリメリテート)、グリセロールトリス(アンヒドロトリメリテート)、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸などが挙げられる。
【0012】
本発明で用いる多塩基酸としては、水性分散体から形成される樹脂被膜の、硬度、耐水性、耐溶剤性、加工性などが向上するという理由から、芳香族ジカルボン酸が好ましく、芳香族ジカルボン酸としては、工業的に多量に生産されており、安価であることから、テレフタル酸やイソフタル酸が好ましい。
【0013】
テレフタル酸とイソフタル酸は、混合して用いてもよく、混合する場合は、テレフタル酸/イソフタル酸=20/80〜70/30の混合比(モル比)で用いることができる。テレフタル酸、イソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸以外にも、脂肪族ジカルボン酸として、セバシン酸、アジピン酸等を、更には、3官能以上のカルボン酸として、トリメリット酸等を混合して用いても良い。脂肪族ジカルボン酸を混合する場合は、硬度、耐水性、耐溶剤性、加工性を実用的に低下させないために、酸成分全体に対して、40mol%以下で用いることが好ましい。3官能以上のカルボン酸を混合する場合は、ゲル化を防止するため、酸成分全体に対して、1mol%以下で用いることが望ましい。
【0014】
ポリエステル樹脂を構成するアルコール成分としては、脂肪族グリコール、脂環族グリコール、エーテル結合含有グリコール、3官能以上のアルコール等、末端に2個以上のヒドロキシル基を有する多価アルコールが挙げられる。脂肪族グリコールとしては、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,9−ノナンジオール、2−エチル−2−ブチルプロパンジオールなどが挙げられ、脂環族グリコールとしては、1,4−シクロヘキサンジメタノールなどが挙げられ、エーテル結合含有グリコールとしては、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどが挙げられる。また、3官能以上のアルコールとしては、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなどが挙げられる。さらに、ポリアルコールとしては、2,2−ビス[4−(ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパンのようなビスフェノール類(ビスフェノールA)のエチレンオキシド付加体やビス[4−(ヒドロキシエトキシ)フェニル]スルホンのようなビスフェノール類(ビスフェノールS)のエチレンオキシド付加体等も使用することができる。
【0015】
本発明で用いる多価アルコールとしては、工業的に多量に生産されており、安価であることから、エチレングリコールやネオペンチルグリコールを使用することが好ましく、エチレングリコールは特に、樹脂被膜の耐薬品性を向上させ、ネオペンチルグリコールは特に、樹脂被膜の耐候性を向上させるという長所を有するので、ポリエステル樹脂のアルコール成分として好ましい。
【0016】
エチレングリコールとネオペンチルグリコールは、混合して用いてもよく、混合する場合は、エチレングリコール/ネオペンチルグリコール=40/60〜60/40の混合比(モル比)で用いることができる。
【0017】
本発明におけるポリエステル樹脂の成分には、モノカルボン酸、モノアルコール、ヒドロキシカルボン酸が共重合されていてもよく、たとえば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、安息香酸、p−tert−ブチル安息香酸、シクロヘキサン酸、4−ヒドロキシフェニルステアリン酸、ステアリルアルコール、2−フェノキシエタノール、ε−カプロラクトン、乳酸、β−ヒドロキシ酪酸、p−ヒドロキシ安息香酸のエチレンオキシド付加体などが挙げられる。また、3官能以上のポリオキシカルボン酸が共重合されていてもよく、たとえば、リンゴ酸、グリセリン酸、クエン酸、酒石酸などが挙げられる。
【0018】
本発明におけるポリエステル樹脂の成分として、5−ナトリウムスルホイソフタル酸など、カルボキシル基やヒドロキシル基以外の親水性基を有するポリカルボン酸等も使用することができるが、水性分散体より形成される樹脂被膜の耐水性が悪くなる傾向にあるので、5−ナトリウムスルホイソフタル酸を用いる場合でも、酸成分全体に占める配合量として、5mol%以下で用いることが望ましい。
【0019】
本発明におけるポリエステル樹脂の数平均分子量は、10,000以上である必要がある。数平均分子量が10,000未満である場合には、得られるポリエステル樹脂水性分散体の低温下での保存安定性に乏しく、水性分散体から形成される樹脂被膜の耐久性が不十分となって、塗膜強度や接着強度が不足する。
【0020】
ここで、数平均分子量とはポリエステル樹脂の分子量分布において、下記式(1)に定義される平均分子量である。
【0021】
Mn=ΣNiMi/ΣNi (1)
[ただし、式(1)中、Miは樹脂中の分子鎖iの分子量、Niは樹脂中の分子鎖iの個数を示す。]
【0022】
本発明におけるポリエステル樹脂の酸価は2〜10mgKOH/gである必要がある。酸価が2mgKOH/g未満であると水性化が困難になる傾向があり、また、できたとしても体積平均粒径が大きくなり、保存安定性が悪くなるので好ましくない。また、酸価が10mgKOH/gを超えると、ポリエステル樹脂の分子量が低くなり、得られたポリエステル樹脂水性分散体を用いて被膜とした場合、密着性や耐熱水性が低下し好ましくない。
【0023】
本発明におけるポリエステル樹脂のガラス転移温度は30℃以下であることが必要である。ガラス転移温度が30℃を超えると、得られたポリエステル樹脂水性分散体を用いた被膜の接着強度が得られにくい。通常、これらポリエステル樹脂水性分散体は、基材となるフィルム、シートに塗工し、塗工面同士を合わせ、熱圧着を行うことで接着されるが、基材への熱履歴を避けるため、低温で熱圧着されることが望まれ、また、短時間で多量の熱圧着処理を行う場合は、短時間で十分な接着強度が得られることが必要とされる。ガラス転移温度が30℃以下であれば、ポリエステル等の基材フィルム、シートに対する熱履歴を抑制し、かつ熱圧着時間を短くして多くの熱圧着処理を行うことができ、また必要な接着強度が得られるため、そのような特性を持つポリエステル樹脂を用いたポリエステル樹脂水性分散体は、作業適性を向上させ、優れた接着性能を得られるため好ましい。
【0024】
次に、本発明におけるポリエステル樹脂の製造方法について説明する。
【0025】
ポリエステル樹脂を製造する方法としては、たとえば、前記した多塩基酸の1種類以上と多価アルコールの1種類以上とを、公知の方法により、縮重合させることにより製造することができる。全モノマー成分、および/または、その低重合体を不活性雰囲気下で180〜260℃、2.5〜10時間反応させてエステル化反応をおこない、引き続いて縮重合触媒の存在下、130Pa以下の減圧下に220〜280℃の温度で、所望の分子量に達するまで縮重合反応を進めて、ポリエステル樹脂を得る方法などを挙げることができる。
【0026】
ポリエステルの縮重合触媒は特に限定されず、酢酸亜鉛や三酸化アンチモン等の公知の化合物を用いることができる。
【0027】
ポリエステル樹脂に所望の酸価を付与する方法として、前記の縮重合反応に引き続き、多塩基酸をさらに添加し、不活性雰囲気下、解重合反応をおこなう方法などを挙げることができる。
【0028】
また、ポリエステル樹脂に所望の酸価を付与する方法として、前記の縮重合反応に引き続き、多塩基酸無水物をさらに添加し、不活性雰囲気下、ポリエステル樹脂のヒドロキシル基と付加反応する方法を用いることもできるが、製造途中の溶融粘度が非常に高くなり、ポリエステル樹脂を払い出せなくなることがあるので、注意が必要である。
【0029】
解重合反応、および/または、付加反応で用いる多塩基酸としては、前記にある3官能以上のカルボン酸が好ましい。3官能以上のカルボン酸を使用することにより、解重合によるポリエステル樹脂の分子量低下を抑制しながら、所望の酸価を付与することができる。その中でも、芳香族のカルボン酸であるトリメリット酸、無水トリメリット酸、ピロメリット酸、無水ピロメリット酸が好ましい。
【0030】
つづいて、ポリエステル樹脂水性分散体について説明する。
【0031】
本発明のポリエステル樹脂水性分散体は、前記したポリエステル樹脂が、水性媒体中に分散されてなる液状物である。ここで、水性媒体とは、水を含む液体からなる媒体であり、有機溶剤を含んでいてもよい。
【0032】
本発明のポリエステル樹脂水性分散体のpHは6以上である必要があり、7以上であることが好ましく、8以上であることがさらに好ましい。pHが6未満であるものは、分散していたポリエステル樹脂が凝集してしまい、もはや均一な水性分散体としては得られない。
【0033】
本発明のポリエステル樹脂水性分散体に含有するポリエステル樹脂の含有率は、5〜50質量%が好ましく、15〜40質量%であることがより好ましい。ポリエステル樹脂の含有率が50質量%を超えると、分散していたポリエステル樹脂が凝集しやすくなり、安定性が乏しくなる傾向にある。ポリエステル樹脂の含有率が5質量%未満では、塗工しても十分な膜厚を得ることができず、適当でない。
【0034】
また、本発明のポリエステル樹脂水性分散体の体積平均粒径、すなわち、水性媒体中に分散しているポリエステル樹脂の体積平均粒径は、通常400nm以下であり、200nm以下であることが好ましい。体積平均粒径が400nmを超えると、分散していたポリエステル樹脂が凝集しやすくなり、安定性が乏しくなる傾向にある。
【0035】
水については特に制限されず、蒸留水、イオン交換水、市水、工業用水などが挙げられるが、蒸留水やイオン交換水を使用することが好ましい。
【0036】
次に、ポリエステル樹脂水性分散体の製造方法について説明する。
ポリエステル樹脂水性分散体を製造する方法としては、たとえば、ポリエステル樹脂の有機溶剤溶液を塩基性化合物とともに水に分散させて転相乳化して、常圧下で有機溶剤を留去(脱溶剤)する方法を挙げることができる。
【0037】
本発明におけるポリエステル樹脂水性分散体の製造方法では、有機溶剤を留去した後に、再度、塩基性化合物を添加することが必要である。本願発明において、用いるポリエステル樹脂のガラス転移温度は、30℃以下である必要があるが、低温での接着性能の向上のため、ポリエステル樹脂のガラス転移温度を30℃以下にしようとすれば、ポリエステル樹脂水性分散体の低温下での長期保存によって水性分散体中のポリエステル樹脂が経時で凝集し、沈殿物となる。有機溶剤を留去した後に、再度、塩基性化合物を添加することで、ポリエステル樹脂水性分散体の低温下での長期保存によるポリエステル樹脂の経時的な凝集を抑制し、保存安定性を高めることができる。
【0038】
まず、ポリエステル樹脂の有機溶剤溶液について説明する。ポリエステル樹脂の有機溶剤溶液中のポリエステル樹脂の固形分濃度は、10〜70質量%が好ましく、20〜50質量%がより好ましい。溶液中のポリエステル樹脂の固形分濃度が70質量%を越える場合には、後述の転相乳化において、水と混合した場合に粘度の上昇が非常に大きくなる。このような状態から得られた水性分散体は、体積平均粒径が大きくなり、安定性が乏しくなる傾向にあるため好ましくない。また、ポリエステル樹脂の固形分濃度が10質量%未満の場合には、脱溶剤の際に、多量の有機溶剤を留去することになり、実用的でない。ポリエステル樹脂を有機溶剤に溶解するための装置としては、液体を投入できる槽を備え、適度な攪拌ができるものであれば特に限定されない。また、ポリエステル樹脂が溶解しにくい場合には、加熱をおこなってもよい。なお、有機溶剤に溶解するポリエステル樹脂は、単独、あるいは、2種以上の混合物でもよい。
【0039】
有機溶剤としては、たとえば、ケトン系有機溶剤、芳香族系炭化水素系有機溶剤、エーテル系有機溶剤、含ハロゲン系有機溶剤、アルコール系有機溶剤、エステル系有機溶剤、グリコール系有機溶剤等、公知のものが挙げられる。ケトン系有機溶剤としては、メチルエチルケトン(以下MEKと記す)、アセトン、ジエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルイソブチルケトン(以下MIBKと記す)、2−ヘキサノン、5−メチル−2−ヘキサノン、シクロペンタノン、シクロヘキサノンなどが挙げられ、芳香族炭化水素系有機溶剤としては、トルエン、キシレン、ベンゼンなど、エーテル系有機溶剤としては、ジオキサン、テトラヒドロフランなどが挙げられる。含ハロゲン系有機溶剤としては、四塩化炭素、トリクロロメタン、ジククロロメタンなど、アルコール系有機溶剤としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、n−アミルアルコール、イソアミルアルコール、sec−アミルアルコール、tert−アミルアルコール、1−エチル−1−プロパノール、2−メチル−1−ブタノールなど、エステル系有機溶剤としては、酢酸エチル、酢酸−n−プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸−n−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸−sec−ブチル、酢酸−3−メトキシブチル、プロピオン酸メチルなど、グリコール系有機溶剤としては、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールエチルエーテルアセテートなどが挙げられる。また、3−メトキシ−3−メチルブタノール、3−メトキシブタノール、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジアセトンアルコールなどの有機溶剤も使用することができる。なお、使用する有機溶剤は、単独、あるいは、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0040】
本発明の水性分散体を得るためには、ポリエステル樹脂を10質量%以上溶解することができる有機溶剤を選択することが好ましく、20質量%以上溶解することができる有機溶剤がより好ましい。このような有機溶剤としては、MEK、アセトン、MIBK、ジオキサン、テトラヒドロフランの単独や、MEK/エチレングリコールモノブチルエーテル混合溶剤、アセトン/エチレングリコールモノブチルエーテル混合溶剤、MIBK/エチレングリコールモノブチルエーテル混合溶剤、ジオキサン/エチレングリコールモノブチルエーテル混合溶剤、テトラヒドロフラン/エチレングリコールモノブチルエーテル混合溶剤、MEK/イソプロパノール混合溶剤、アセトン/イソプロパノール混合溶剤、MIBK/イソプロパノール混合溶剤、ジオキサン/イソプロパノール混合溶剤、テトラヒドロフラン/イソプロパノール混合溶剤等が好適に使用できる。
【0041】
次に、転相乳化について説明する。転相乳化は、ポリエステル樹脂の有機溶剤溶液に、水、塩基性化合物と混合しておこなう。本発明においては、塩基性化合物をポリエステル樹脂の有機溶剤溶液に加えておき、これに水を徐々に投入して転相乳化をおこなう方法が好ましい。また、水の投入速度が速い場合には、ポリエステル樹脂の塊が形成され、この塊は水性媒体に分散しなくなる傾向にあり、最終的に得られる水性分散体の収率が下がり好ましくない。1000gの(樹脂溶液+塩基性化合物)に対して、25g〜100g/minの投入速度で水を投入することが望ましい。なお、本発明において「転相乳化」とは、ポリエステル樹脂の有機溶剤溶液に、この溶液に含まれる有機溶剤量(質量%)を超える量の水(質量%)を添加して、有機溶剤よりも水を多く含む液相にポリエステル樹脂を分散させることを意味する。
【0042】
転相乳化は、30℃以下でおこなうことが好ましく、20℃以下でおこなうことがより好ましい。30℃以下で転相乳化をおこなうことにより、得られるポリエステル樹脂水性分散体の体積平均粒径は小さくなり、安定性に優れた水性分散体を得ることができる。また、体積平均粒径が小さい場合、脱溶剤において、ポリエステル樹脂の微粒子が凝集して沈殿することを抑制でき、その結果、水性分散体の収率が向上するため好ましい。
【0043】
転相乳化をおこなう装置としては、液体を投入できる槽を備え、適度な攪拌ができるものであれば特に限定されない。そのような装置としては、固/液撹拌装置や乳化機(たとえばホモミキサー)として広く当業者に知られている装置が挙げられる。ただし、ホモミキサーなどせん断の大きい乳化機を用いる際には、衝撃熱により液温が上昇することがあるため、注意が必要である。なお、転相乳化は常圧、減圧、加圧下のいずれの条件でおこなってもよい。
【0044】
次に、有機溶剤の留去(脱溶剤)について説明する。有機溶剤の留去は、転相乳化した後に蒸留する方法によりおこなうことができる。蒸留は、常圧、減圧下いずれでおこなってもよく、蒸留をおこなう装置としては、液体を投入できる槽を備え、適度な攪拌ができるものであればよい。
【0045】
本発明におけるポリエステル樹脂水性分散体中の有機溶剤の残存率は、環境保護や職場環境改善の立場等から、3質量%以下が好ましく、2質量%以下がより好ましく、1質量%以下が最も好ましい。
【0046】
次に、有機溶剤を留去した後の、塩基性化合物の添加について説明する。このとき、水性分散体を攪拌した状態にして、除々に塩基性化合物を添加する方がよい。水性分散体を攪拌しない状態で添加したり、一気に塩基性化合物を添加したりすると、添加の衝撃により、水性分散体中のポリエステル樹脂が凝集し、沈殿することがあるためよくない。
【0047】
塩基性化合物の添加量については、有機溶剤を留去した後の水性分散体100質量部に対して、塩基性化合物を0.01質量部以上添加することが好ましく、さらには、0.03質量部以上添加することが好ましい。塩基性化合物の添加量が0.01質量部未満では、ポリエステル樹脂水性分散体のpHを6以上にすることは出来ず、また、分散させたポリエステル樹脂水性分散体の初期固形分濃度に対して、密閉状態で5℃、1ヶ月保存した後のポリエステル樹脂水性分散体の固形分濃度の変化率が−5%未満とすることができず好ましくない。
【0048】
塩基性化合物としては、たとえば、アンモニアや、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、イミノビスプロピルアミン、3−エトキシプロピルアミン、3−ジエチルアミノプロピルアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N,N−ジエチルエタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、アミノエタノールアミン、モルホリン、N−メチルモルホリン、N−エチルモルホリン等の有機アミンが挙げられる。
【0049】
本発明における塩基性化合物は、脱溶剤の時や、ポリエステル樹脂水性分散体を実際に使用する際に、揮発しやすいことから、沸点が150℃以下のものであることが好ましく、その中でも、アンモニア、トリエチルアミンを使用することがより好ましい。
【0050】
また、ポリエステル樹脂水性分散体の製造にあたり、異物などを取り除く目的で、工程中にろ過工程を設けてもよい。このような場合には、たとえば、1000メッシュ程度のステンレス製フィルター(ろ過精度15μm、綾織)を設置し、加圧ろ過(0.2MPa)をおこなえばよい。
【0051】
前記製造方法より、本発明のよるポリエステル樹脂水性分散体は、外観上、水性媒体中に沈殿、相分離といった、固形分濃度が局部的に他の部分と相違する部分が見いだされない均一な状態で得られる。
【0052】
次に、本発明におけるポリエステル樹脂水性分散体の使用方法について説明する。
【0053】
本発明におけるポリエステル樹脂水性分散体は、被膜形成能に非常に優れているので、公知の製膜方法、たとえばディッピング法、はけ塗り法、スプレーコート法、カーテンフローコート法などにより各種基材表面に均一にコーティングし、必要に応じて室温付近でセッティングした後、乾燥および焼き付けのための加熱処理に供することにより、均一な樹脂被膜を各種基材表面に密着させて形成することができる。このときの加熱装置としては、通常の熱風循環型のオーブンや、赤外線ヒータなどを使用すればよい。また、加熱温度や加熱時間としては、被コーティング物である、基材の種類などにより適宜選択されるものであるが、経済性を考慮した場合、加熱温度としては、通常60〜250℃であり、70〜230℃が好ましく、80〜200℃が最も好ましい。加熱時間としては、通常1秒〜30分間であり、5秒〜20分が好ましく、10秒〜10分が最も好ましい。
【0054】
また、本発明におけるポリエステル樹脂水性分散体を用いて形成される樹脂被膜の厚さは、その目的や用途によって適宜選択されるものであるが、通常0.01〜40μmであり、0.1〜30μmが好ましく、0.5〜20μmが最も好ましい。
【0055】
また、本発明におけるポリエステル樹脂水性分散体には、必要に応じて硬化剤、各種添加剤、界面活性剤、保護コロイド作用を有する化合物、水、有機溶剤、酸化チタン、亜鉛華、カーボンブラックなどの顔料、染料、他の水性ポリエステル樹脂、水性ウレタン樹脂、水性オレフィン樹脂、水性アクリル樹脂などの水性樹脂などを配合して使用することができる。
【0056】
硬化剤としては、ポリエステル樹脂が有する官能基、たとえばカルボキシル基や、その無水物、および、ヒドロキシル基と反応性を有する硬化剤であれば、特に限定されるものではなく、たとえば、尿素樹脂や、メラミン樹脂や、ベンゾグアナミン樹脂などのアミノ樹脂、多官能エポキシ化合物、多官能イソシアネート化合物、および、その各種ブロックイソシアネート化合物、多官能アジリジン化合物、カルボジイミド基含有化合物、オキサゾリン基含有重合体、フェノール樹脂などが挙げられ、これらのうちの1種類を使用しても2種類以上を併用してもよい。
【0057】
添加剤としては、ハジキ防止剤、レベリング剤、消泡剤、ワキ防止剤、レオロジーコントロール剤、顔料分散剤、紫外線吸収剤、滑剤などが挙げられる。
【0058】
界面活性剤としては、アニオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤などが挙げられる。非イオン性界面活性剤としては、ノニルフェノール、オクチルフェノールなどのアルキルフェノールのアルキレンオキシド加物や高級アルコールのアルキレンオキシド付加物が挙げられ、たとえば、非イオン性界面活性剤としてはAldrich社製のIgepalシリーズ、三洋化成株式会社製のナロアクティーN−100、ナロアクティーN−120、ナロアクティーN−140など、ナロアクティーシリーズ、サンノニックSS−120、サンノニックSS−90、サンノニックSS−70など、サンノニックSSシリーズ、サンノニックFD−140、サンノニックFD−100、サンノニックFD−80など、サンノニックFDシリーズ、セドランFF−220、セドランFF−210、セドランFF−200、セドランFF−180など、セドランFFシリーズ、セドランSNP−112など、セドランSNPシリーズ、ニューポールPE−64、ニューポールPE−74、ニューポールPE−75など、ニューポールPEシリーズ、サンモリン11が挙げられる。
【0059】
保護コロイド作用を有する化合物としては、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、変性デンプン、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、アクリル酸および/またはメタクリル酸を一成分とするビニルモノマーの重合物、ポリイタコン酸、ゼラチン、アラビアゴム、カゼイン、膨潤性雲母などが挙げられる。
【0060】
水としては、蒸留水、イオン交換水、市水、工業用水などが挙げられる。また、有機溶剤としては、前記した有機溶剤を挙げることができる。
【実施例】
【0061】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明する。
【0062】
なお、評価、測定方法は下記の通りである。
(1)ポリエステル樹脂の構成
H−NMR分析(バリアン社製、300MHz)より求めた。また、H−NMRスペクトル上に帰属、定量可能なピークが認められない場合構成モノマーを含む樹脂については、封管中230℃で3時間メタノール分解をおこなった後にガスクロマトグラム分析に供し、定量分析をおこなった。
(2)ポリエステル樹脂の数平均分子量
GPC分析(島津製作所製、送液ユニットLC−10ADvp型および紫外−可視分光光度計SPD−6AV型、検出波長:254nm、溶剤:テトラヒドロフラン、ポリスチレン換算)より求めた。
(3)ポリエステル樹脂の酸価
ポリエステル樹脂0.5gを精秤し、50mlの水/ジオキサン=1/9(体積比)に溶解して、クレゾールレッドを指示薬として0.1モル/Lの水酸化カリウムメタノール溶液で滴定をおこない、中和に消費されたKOHのmg数を、ポリエステル樹脂のg数で割った値を酸価として求めた。
(4)ポリエステル樹脂のガラス転移温度
ポリエステル樹脂10mgをサンプルとし、DSC(示差走査熱量測定)装置(パーキンエルマー社製 DSC7)を用いて昇温速度10℃/分の条件で測定をおこない、得られた昇温曲線中のガラス転移に由来する2つの折曲点温度の中間値を求め、これをガラス転移温度(Tg)とした。
(5)ポリエステル樹脂水性分散体の固形分濃度D
ポリエステル樹脂水性分散体の液相部を約1g秤量(Xgとする)し、これを150℃で2時間乾燥した後の残存物(固形分)の質量を秤量し(Ygとする)、次式により固形分濃度を求めた。
固形分濃度(質量%)=(Y/X)×100
(6)保存後のポリエステル樹脂水性分散体の固形分濃度 D
50mlのガラス製サンプル瓶に、水性分散体30mlを入れ、密閉状態で5℃、1ヶ月間静置保存した後、上記に記載の固形分濃度の測定方法に従って、保存後の固形分濃度を求めた。
また、式 (D−D0)/D0 ×100により、固形分変化率を求めた。数値が0に近いほど、保存による固形分濃度の変化が少なく、保存性に優れていることを示す。
(7)水性分散体中の有機溶剤残存率
ガスクロマトグラフGC−8A[島津製作所社製、FID検出器使用、キャリアーガス:窒素、カラム充填物質(ジーエルサイエンス社製):PEG−HT(5%)−UNIPORT HP(60/80メッシュ)、カラムサイズ:直径3mm×3m、試料投入温度(インジェクション温度):150℃、カラム温度:60℃、内部標準物質:n‐ブタノール]を用い、ポリエステル樹脂水性分散体を水で希釈したものを直接装置内に投入して、有機溶剤の残存率を求めた。検出限界は0.01質量%であった。
(8)ポリエステル樹脂水性分散体のpH
pHメーター(堀場製作所製F−21)を用いて、pH7及びpH9の標準緩衝液(ナカライテスク製)により校正した後、測定温度25℃でポリエステル樹脂水性分散体のpHを測定した。
(9)ポリエステル樹脂被膜の接着性
PETフィルム(ユニチカ株式会社製、厚さ38μm)に水分散体を卓上型コーティング装置(安田精機製、フィルムアプリケータNo.542−AB型、マイヤーバー装着)を用いてコートし、130℃の熱風オーブン中で1分乾燥して厚さ3μmの樹脂皮膜を形成した後、23℃の室温に取り出し、コート面とコート面が接触するように重ねて、ヒートプレス機にて、130℃、シール圧0.1MPa、30秒間圧着した。このサンプルを引張試験機(インテスコ株式会社製インテスコ精密万能材料試験機2020型)を用い20℃の雰囲気で、剥離面の角度90度、剥離速度50mm/分、剥離幅25mmの剥離強度を測定した。なお、測定サンプルは、20℃の温度で十分に前調整してから剥離試験に供した。剥離強度が1N/25mm以上のものを実用的な剥離強度を有すると判断し合格とした。
【0063】
実施例、および、比較例で用いたポリエステル樹脂は、以下のようにして得た。
[製造例1]
テレフタル酸2492g(15.01モル)、イソフタル酸623(3.75モル)、セバシン酸1263g(6.25モル)、エチレングリコール1311g(21.14モル)、ネオペンチルグリコール1315g(12.64モル)をオートクレーブ中に仕込んで、250℃で4時間加熱してエステル化反応をおこなった。ついで、触媒として酢酸亜鉛二水和物1.1g、三酸化アンチモン1.5gを添加した後、系の温度を275℃に昇温し、系の圧力を徐々に減じて1時間後に13Paとした。この条件下でさらに2時間縮重合反応を続け、系を窒素ガスで常圧にし、系の温度を下げ、265℃になったところで無水トリメリット酸38g(0.20モル)を添加し、265℃で2時間攪拌して解重合反応をおこなった。その後、系を窒素ガスで加圧状態にしておいてシート状に樹脂を払い出し、室温で放冷後、シート状のポリエステル樹脂P−1を得た。得られたポリエステル樹脂P−1の酸価は5mgKOH/g、数平均分子量は18000、ガラス転移温度は19℃であった。
[製造例2]
テレフタル酸1163g(7.00モル)、イソフタル酸1412g(8.51モル)、セバシン酸1920g(9.50モル)、1,4−ブタンジオール2740g(30.44モル)をオートクレーブ中に仕込んで、220℃で4時間加熱してエステル化反応をおこなった。ついで、触媒としてテトラブチルチタネート2.6gを添加した後、系の温度を230℃に昇温し、系の圧力を徐々に減じて1時間後に13Paとした。この条件下でさらに4時間縮重合反応を続け、系を窒素ガスで常圧にし、系の温度を230℃に保ったままトリメリット酸47g(0.22モル)を添加し、230℃で2時間攪拌して解重合反応をおこなった。その後、系を窒素ガスで加圧状態にしておいてシート状に樹脂を払い出し、室温で放冷後、シート状のポリエステル樹脂P−2を得た。得られたポリエステル樹脂P−2の酸価は6mgKOH/g、数平均分子量は17000、ガラス転移温度は−26℃であった。
[製造例3]
テレフタル酸1910g(11.51モル)、イソフタル酸1910g(11.51モル)、アジピン酸292g(2.00モル)、ネオペンチルグリコール1666g(16.02モル)、エチレングリコール1300g(20.97モル)をオートクレーブ中に仕込んで、260℃で4時間加熱してエステル化反応をおこなった。ついで、触媒として酢酸亜鉛二水和物3.3gを添加した後、系の温度を265℃に昇温し、系の圧力を徐々に減じて1時間後に13Paとした。この条件下でさらに4時間縮重合反応を続け、系を窒素ガスで常圧にし、系の温度を250℃に保ったまま無水トリメリット酸38g(0.20モル)を添加し、250℃で2時間攪拌して解重合反応をおこなった。その後、系を窒素ガスで加圧状態にしておいてストランド状に樹脂を払い出し、水冷後、カッティングして、ペレット状のポリエステル樹脂P−3を得た。得られたポリエステル樹脂P−3の酸価は5mgKOH/g、数平均分子量は14000、ガラス転移温度は51℃であった。
[製造例4]
テレフタル酸1163g(7.01モル)、イソフタル酸1412g(8.51モル)、セバシン酸1920g(9.50モル)、1,4−ブタンジオール2740g(30.4モル)をオートクレーブ中に仕込んで、220℃で4時間加熱してエステル化反応をおこなった。ついで、触媒としてテトラブチルチタネート2.6gを添加した後、系の温度を230℃に昇温し、系の圧力を徐々に減じて1時間後に13Paとした。この条件下でさらに4時間縮重合反応を続け、系を窒素ガスで常圧にし、系の温度を230℃に保ったままイソフタル酸125g(0.75モル)とトリメリット酸105g(0.50モル)を添加し、230℃で2時間攪拌して解重合反応をおこなった。その後、系を窒素ガスで加圧状態にしておいてシート状に樹脂を払い出し、室温で放冷後、シート状のポリエステル樹脂P−4を得た。得られたポリエステル樹脂P−4の酸価は32mgKOH/g、数平均分子量は4000、ガラス転移温度は−29℃であった。
【0064】
このようにして得られた、ポリエステル樹脂の特性を分析した結果を表1に示す。
【0065】
【表1】

【0066】
[実施例1]
ジャケット付きガラス容器(内容量2L)にポリエステル樹脂P−1を400gとMEKを600g投入し、ジャケットに60℃の温水を通して加熱しながら、攪拌機(東京理化株式会社製、MAZELA1000)を用いて攪拌することにより、完全にポリエステル樹脂を溶解させ、固形分濃度40質量%のポリエステル樹脂溶液1000gを得た。つぎに、ジャケットに冷水を通して系内温度を13℃に保ち、回転速度600rpmで攪拌しながら、塩基性化合物としてトリエチルアミン22g(P−1が有するカルボキシル基の総モル数に対して6.0倍当量のトリエチルアミンに相当する量)を添加し、続いて100g/minの速度で13℃の蒸留水を総重量が2000gとなるまで添加して転相乳化をおこなった。ついで、得られた水性分散体のうち、1600gを2Lのフラスコに入れ、常圧下で蒸留をおこなうことで有機溶剤を留去した。蒸留は留去量が約600gになったところで終了し、室温まで冷却後、ポリエステル樹脂水性分散体を攪拌しながら、28%アンモニア水を1.3g(ポリエステル樹脂水性分散体100質量部に対して0.04質量部のアンモニアに相当)添加した。その後、1000メッシュのステンレス製フィルターで濾過し、濾液の固形分濃度を測定すると31.6質量%であった。この濾液を攪拌しながら蒸留水を添加し固形分濃度を約30質量%に調整した。得られたポリエステル樹脂水性分散体E−1の固形分濃度は29.6質量%、有機溶剤の含有率は0.03質量%、pHは9.2、保存後の固形分濃度は29.1質量%(変化率:−1.7%)、剥離強度は9.0N/25mmであった。
[実施例2]
ジャケット付きガラス容器(内容量2L)にポリエステル樹脂P−1を200gとMEKを800g投入し、ジャケットに60℃の温水を通して加熱しながら、攪拌機(東京理化株式会社製、MAZELA1000)を用いて攪拌することにより、完全にポリエステル樹脂を溶解させ、固形分濃度20質量%のポリエステル樹脂溶液1000gを得た。つぎに、ジャケットに冷水を通して系内温度を13℃に保ち、回転速度600rpmで攪拌しながら、塩基性化合物としてトリエチルアミン14g(P−1が有するカルボキシル基の総モル数に対して8.0倍当量のトリエチルアミンに相当する量)を添加し、続いて100g/minの速度で13℃の蒸留水を総重量が2000gとなるまで添加して転相乳化をおこなった。ついで、得られた水性分散体のうち、1600gを2Lのフラスコに入れ、常圧下で蒸留をおこなうことで有機溶剤を留去した。蒸留は留去量が約900gになったところで終了し、室温まで冷却後、ポリエステル樹脂水性分散体を攪拌しながら、トリエチルアミンを2.7g(ポリエステル樹脂水性分散体100質量部に対して0.38質量部に相当)添加した。その後、1000メッシュのステンレス製フィルターで濾過し、濾液の固形分濃度を測定すると21.0質量%であった。この濾液を攪拌しながら蒸留水を添加し固形分濃度を約20質量%に調整した。得られたポリエステル樹脂水性分散体E−2の固形分濃度は20.0質量%、有機溶剤の含有率は0.38質量%、pHは11.1、保存後の固形分濃度は20.0質量%(変化率:0%)、剥離強度は7.9N/25mmであった。
[実施例3]
ジャケット付きガラス容器(内容量2L)にポリエステル樹脂P−2を300gとMEKを700g投入し、ジャケットに60℃の温水を通して加熱しながら、攪拌機(東京理化株式会社製、MAZELA1000)を用いて攪拌することにより、完全にポリエステル樹脂を溶解させ、固形分濃度30質量%のポリエステル樹脂溶液1000gを得た。つぎに、ジャケットに冷水を通して系内温度を13℃に保ち、回転速度600rpmで攪拌しながら、塩基性化合物としてトリエチルアミン48.3g(P−2が有するカルボキシル基の総モル数に対して15.0倍当量のトリエチルアミンに相当する量)を添加し、続いて100g/minの速度で13℃の蒸留水を総重量が2000gとなるまで添加して転相乳化をおこなった。ついで、得られた水性分散体のうち、1600gを2Lのフラスコに入れ、常圧下で蒸留をおこなうことで有機溶剤を留去した。蒸留は留去量が約650gになったところで終了し、室温まで冷却後、ポリエステル樹脂水性分散体を攪拌しながら、28%アンモニア水を1.3g(ポリエステル樹脂水性分散体100質量部に対して0.04質量部のアンモニアに相当)添加した。その後、1000メッシュのステンレス製フィルターで濾過し、濾液の固形分を測定すると25.2質量%であった。この濾液を攪拌しながら蒸留水を添加し固形分濃度を約25質量%に調整した。得られたポリエステル樹脂水性分散体E−3の固形分濃度は25.0質量%、有機溶剤の含有率は0.05質量%、pHは8.2、保存後の固形分濃度は24.7質量%(変化率:−1.2%)、剥離強度は3.3N/25mmであった。
[実施例4]
ジャケット付きガラス容器(内容量2L)にポリエステル樹脂P−3を400gとMEKを600g投入し、ジャケットに60℃の温水を通して加熱しながら、攪拌機(東京理化株式会社製、MAZELA1000)を用いて攪拌することにより、完全にポリエステル樹脂を溶解させ、固形分濃度40質量%のポリエステル樹脂溶液1000gを得た。つぎに、ジャケットに冷水を通して系内温度を13℃に保ち、回転速度600rpmで攪拌しながら、塩基性化合物としてトリエチルアミン7.5g(P−3が有するカルボキシル基の総モル数に対して1.9倍当量のトリエチルアミンに相当する量)を添加し、続いて100g/minの速度で13℃の蒸留水を総重量が2000gとなるまで添加して転相乳化をおこなった。ついで、得られた水性分散体のうち、1600gを2Lのフラスコに入れ、常圧下で蒸留をおこなうことで有機溶剤を留去した。蒸留は留去量が約700gになったところで終了し、室温まで冷却後、ポリエステル樹脂水性分散体を攪拌しながら、28%アンモニア水を1.2g(ポリエステル樹脂水性分散体100質量部に対して0.04質量部のアンモニアに相当)添加した。その後、1000メッシュのステンレス製フィルターで濾過し、濾液の固形分濃度を測定すると31.5質量%であった。この濾液を攪拌しながら蒸留水を添加し固形分濃度を約30質量%に調整した。得られたポリエステル樹脂水性分散体E−4は、固形分濃度は30.0質量%、有機溶剤の含有率は0.03質量%、pHは9.2、保存後の固形分濃度は29.1質量%(変化率:−3.0%)、剥離強度は1.2N/25mmであった。
[比較例1]
ジャケット付きガラス容器(内容量2L)にポリエステル樹脂P−4を300gとMEKを700g投入し、ジャケットに60℃の温水を通して加熱しながら、攪拌機(東京理化株式会社製、MAZELA1000)を用いて攪拌することにより、完全にポリエステル樹脂を溶解させ、固形分濃度30質量%のポリエステル樹脂溶液1000gを得た。つぎに、ジャケットに冷水を通して系内温度を13℃に保ち、回転速度600rpmで攪拌しながら、塩基性化合物としてトリエチルアミン260g(P−4が有するカルボキシル基の総モル数に対して15.0倍当量のトリエチルアミンに相当する量)を添加し、続いて100g/minの速度で13℃の蒸留水を総重量が2000gとなるまで添加して転相乳化をおこなった。ついで、得られた水性分散体のうち、1600gを2Lのフラスコに入れ、常圧下で蒸留をおこなうことで有機溶剤を留去した。蒸留は留去量が約700gになったところで終了し、室温まで冷却後、ポリエステル樹脂水性分散体を攪拌しながら、28%アンモニア水を1.3g(ポリエステル樹脂水性分散体100質量部に対して0.04質量部のアンモニアに相当)添加した。その後、1000メッシュのステンレス製フィルターで濾過し、濾液の固形分を測定すると26.6質量%であった。この濾液を攪拌しながら蒸留水を添加し固形分濃度を約25質量%に調整した。得られたポリエステル樹脂水性分散体E−5の固形分濃度は25.2質量%、有機溶剤の含有率は0.05質量%、pHは8.7、保存後の固形分濃度は22.7質量%(変化率:−9.9%)、ポリエステル樹脂水性分散体中のポリエステル樹脂固形分の凝集が起きたため、塗工被膜にブツが多く、剥離強度は1.5N/25mmであった。
[比較例2]
有機溶剤を留去した後に、塩基性化合物を添加しないように変更すること以外は、実施例1と同様の方法でポリエステル樹脂水性分散体を得た。得られたポリエステル樹脂水性分散体E−6の固形分濃度は29.8質量%、有機溶剤の含有率は0.01質量%、pHは7.3、保存後の固形分濃度は21.7質量%(変化率:−27.2%)、ポリエステル樹脂水性分散体中のポリエステル樹脂固形分の凝集が多かったため、塗工被膜にゲルが多く、剥離強度は0.9N/25mmであった。
[比較例3]
有機溶剤を留去した後に、塩基性化合物を添加しないように変更すること以外は、実施例3と同様の方法でポリエステル樹脂水性分散体を得た。得られたポリエステル樹脂水性分散体E−7の固形分濃度は25.0質量%、有機溶剤の含有率は0.02質量%、pHは6.3、保存後の固形分濃度は16.6質量%(変化率:−33.6%)、ポリエステル樹脂水性分散体中のポリエステル樹脂固形分の凝集が多かったため、塗工被膜にゲルが多く、剥離強度は0.5N/25mmであった。
[比較例4]
有機溶剤を留去した後に、塩基性化合物を添加しないように変更すること以外は、実施例4と同様の方法でポリエステル樹脂水性分散体を得た。得られたポリエステル樹脂水性分散体E−8の固形分濃度は30.0質量%、有機溶剤の含有率は0.01質量%、pHは6.7、保存後の固形分濃度は28.0質量%(変化率:−6.7%)、ポリエステル樹脂水性分散体中のポリエステル樹脂固形分の凝集が起きたため、塗工被膜にブツが多く、剥離強度は0.2N/25mmであった。
[比較例5]
実施例1と同様に工程を進めて固形分濃度を約30質量%に調整した後に、酢酸を3.9g添加した。すると、水性分散体中のポリエステル樹脂が凝集してしまい、均一な水性分散体として得ることができなかった。得られたポリエステル樹脂水性分散体E−9の固形分濃度は1.6質量%、有機溶剤の含有率は0.20質量%、pHは3.5であった。ポリエステル樹脂水性分散体の塗工を行うことができず、接着性の評価は実施しなかった。
【0067】
実施例、および、比較例で得られたポリエステル樹脂水性分散体の特性、および、評価結果を、表2に示す。
【0068】
【表2】

【0069】
表2の実施例から、本発明のポリエステル樹脂水性分散体は、低温下で長期保存を行っても固形分濃度の変化率が極めて小さく、保存安定性に優れていることがわかる。実施例4では、使用するポリエステル樹脂のガラス転移温度が本発明の好ましい範囲よりも高かったため、固形運濃度の変化率が、実施例1〜3と比較して、やや大きく、また剥離強度も低めであったが実用上問題なかった。
【0070】
比較例1については、使用するポリエステル樹脂の数平均分子量が本発明の範囲を下回っているため、保存後の固形分濃度の変化率が大きく、保存安定性に乏しく、また塗膜に凝集した樹脂に起因するブツが多く、剥離強度も低かった。
【0071】
比較例2〜4については、有機溶剤を留去した後に、塩基性化合物を添加していないため、保存後の固形分濃度の変化率が大きく、保存安定性に乏しいものであった。また、凝集物が著しく多かったため、凝集した樹脂に起因するブツ、ゲルが多く、塗工被膜も均一なものが得られず外観が悪かった。剥離強度も大幅に低下した。
【0072】
比較例5については、水性分散体のpHが本発明の範囲を下回っているため、ポリエステル樹脂が凝集してしまい、均一なポリエステル樹脂水性分散体を得ることができなかった。



















【特許請求の範囲】
【請求項1】
数平均分子量が10,000以上のポリエステル樹脂であり、転相乳化で分散されるポリエステル樹脂水性分散体であって、有機溶剤を留去した後に、塩基性化合物の添加を行い、pHが6以上であり、分散させたポリエステル樹脂水性分散体の初期固形分濃度に対して、密閉状態で5℃、1ヶ月保存した後のポリエステル樹脂水性分散体の固形分濃度の変化率が−5%未満であることを特徴とするポリエステル樹脂水性分散体。
【請求項2】
ポリエステル樹脂が多塩基酸成分と多価アルコール成分とより構成され、酸価が2〜10mgKOH/gであり、ガラス転移温度が30℃以下であることを特徴とする請求項1に記載のポリエステル樹脂水性分散体。
【請求項3】
塩基性化合物が沸点150℃以下の有機アミン、および/または、アンモニアであることを特徴とする請求項1又は2に記載のポリエステル樹脂水性分散体。
【請求項4】
留去した後の有機溶剤の残存率が3質量%以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のポリエステル樹脂水性分散体。
【請求項5】
有機溶剤を留去した後の水性分散体に対し、攪拌した状態で塩基性化合物を添加することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のポリエステル樹脂水性分散体の製造方法。
【請求項6】
有機溶剤を留去した後の水性分散体100質量部に対して、塩基性化合物を0.01質量部以上添加することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のポリエステル樹脂水性分散体の製造方法。
【請求項7】
有機溶剤を留去した後の水性分散体100質量部に対して、塩基性化合物を0.03質量部以上添加することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のポリエステル樹脂水性分散体の製造方法。















【公開番号】特開2009−84380(P2009−84380A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−254522(P2007−254522)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】