説明

ポリエステル樹脂組成物

【課題】本発明は、優れた高温力学特性、耐熱性を有する従来には無かった脂肪族ポリエステルを主成分とするポリエステル樹脂組成物を提供するものである。

【解決手段】ジオール成分が炭素数2のジオールである芳香族ポリエステルに炭素数が6以上の長鎖ジカルボン酸成分が共重合された芳香族ポリエステルが、脂肪族ポリエステルに5〜40重量%ブレンドされていることを特徴とするポリエステル樹脂組成物、およびこのポリエステル組成物を少なくとも一部に有することを特徴とする成形体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂肪族ポリエステルに芳香族ポリエステルがブレンドされた高温力学特性に優れたポリエステル樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
最近、地球的規模での環境問題に対して、自然環境の中で分解するポリマー素材の開発が切望されており、脂肪族ポリエステル等、様々なポリマーの研究・開発、また実用化の試みが活発化している。そして、微生物により分解されるポリマー、すなわち生分解性ポリマーに注目が集まっている。
【0003】
一方、従来のポリマーはほとんど石油資源を原料としているが、石油資源が将来的に枯渇するのではないかということ、また石油資源を大量消費することにより、地質時代より地中に蓄えられていた二酸化炭素が大気中に放出され、さらに地球温暖化が深刻化することが懸念されている。しかし、二酸化炭素を大気中から取り込み成長する植物資源を原料としてポリマーが合成できれば、二酸化炭素循環により地球温暖化を抑制できることが期待できるのみならず、資源枯渇の問題も同時に解決できる可能性がある。このため、植物資源を原料とするポリマー、すなわちバイオマス利用ポリマーに注目が集まっている。
【0004】
上記2つの点から、バイオマス利用の生分解性ポリマーが大きな注目を集め、石油資源を原料とする従来のポリマーを代替していくことが期待されている。しかしながら、バイオマス利用の生分解性ポリマーは一般に力学特性、耐熱性が低く、また高コストとなるといった課題あった。これらを解決できるバイオマス利用の生分解性ポリマーとして、現在、最も注目されているのは脂肪族ポリエステルの一種であるポリ乳酸である。ポリ乳酸は植物から抽出したでんぷんを発酵することにより得られる乳酸を原料としたポリマーであり、バイオマス利用の生分解性ポリマーの中では力学特性、耐熱性、コストのバランスが最も優れている。そして、これを利用した樹脂製品、繊維、フィルム、シート等の開発が急ピッチで行われている。
【0005】
しかし、このように最も有望なポリ乳酸でさえ、従来の石油資源を原料とするポリマーに比べるといくつかの欠点を有している。このうち大きなものとして、高温力学特性が悪いことが挙げられる。ここで、高温力学特性が悪いとは、ポリ乳酸ポリマーのガラス転移温度(Tg)である60℃を超えると急激に軟化することを指している。例えば、温度を変更してポリ乳酸繊維の引っ張り試験を行うと、70℃付近から急激に軟化し、90℃では流動に近い形状を示し、寸法安定性が大きく低下するのである(図3)。一方、従来のポリマーであるナイロン6ではこのような軟化現象は緩やかであり、90℃でも充分な力学特性を発揮している(図3)。
【0006】
ポリ乳酸は上記したように高温での力学特性が不良であるため、実際に種々の問題が発生している。例えば、ポリ乳酸の射出成形による自動車用ダッシュボードは60〜70℃で軟化するため、夏季の車内温度80〜100℃では容易に変形してしまう問題があった。
【0007】
また、繊維では以下のような問題があった。
例えば、ポリ乳酸繊維を織物の経糸に用いるときは、糸の集束性を高め製織性を向上させる目的で糸を糊付けするが、熱風乾燥を行うと経糸をぴんと張るためにかけている張力により、糸が伸びてしまうトラブルが発生した。また、ポリ乳酸繊維に仮撚を施すと、熱板上で糸が急激に軟化するため、糸に撚りがかからず捲縮特性が劣るばかりか、熱板上で糸が破断してしまい、仮撚そのものが困難となる場合もあった。さらに、このような熱板上でのトラブルのため、熱板温度は高々110℃までしか上げられず、熱セットが不足するため捲縮特性が低いのみならず、沸騰水中での糸の収縮率(沸収)を実用レベルである20%以下まで低下させることも困難であった。
【0008】
さらに、脂肪族ポリエステルは一般に融点が低く、融点が最も高い部類であるポリ乳酸でさえ170℃程度であり、例えばポリ乳酸繊維からなる布帛をアイロン掛けするとポリ乳酸繊維の融解により布帛に穴が空くといった問題があった。
【0009】
以上のような問題から、ポリ乳酸をはじめとする脂肪族ポリエステルは用途展開に大きな制限があった。このため、高温での力学特性や融点を向上させた脂肪族ポリエステルが切望されていた。
【特許文献1】特開平8−231838号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、優れた高温力学特性、耐熱性を有する従来には無かった、脂肪族ポリエステルを主成分とするポリエステル樹脂組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的は以下の手段により達成される。

(1)ジオール成分が炭素数2のジオールである芳香族ポリエステルに炭素数が6以上の長鎖ジカルボン酸成分が共重合された芳香族ポリエステルが、脂肪族ポリエステルに5〜40重量%ブレンドされていることを特徴とするポリエステル樹脂組成物。
(2)芳香族ポリエステルが結晶性であり、融点が170〜250℃であることを特徴とする(1)記載のポリエステル樹脂組成物。
(3)脂肪族ポリエステルがポリ乳酸であることを特徴とする(1)または(2)記載のポリエステル樹脂組成物。
(4)(1)〜(3)のいずれか1項記載のポリエステル樹脂組成物を少なくとも一部に有することを特徴とする成形体。
(5)成形体が繊維または繊維製品であることを特徴とする(4)記載の成形体。
(6)繊維が捲縮糸であることを特徴とする(5)記載の成形体。
(7)成形体がフィルムまたはシートであることを特徴とする(4)記載の成形体。
(8)成形体が射出成形体または押出成形体またはブロー成形体であることを特徴とする(4)記載の成形体。
【発明の効果】
【0012】
本発明の脂肪族ポリエステルに特定の芳香族ポリエステルがブレンドされていることを特徴とするポリエステル樹脂組成物を使用することにより、脂肪族ポリエステルの欠点であった高温力学特性や耐熱性を大幅に向上することができ、脂肪族ポリエステルの用途展開を大きく拡げることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明でいう脂肪族ポリエステルとは、脂肪族アルキル鎖がエステル結合で連結されたポリマーのことをいい、例えばポリ乳酸、ポリヒドロキシブチレート、ポリブチレンサクシネート、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン等が挙げられる。このうち、前記したようにポリ乳酸が最も好ましい。
【0014】
また、ポリ乳酸とは乳酸を重合したものを言い、L体あるいはD体の光学純度は90%以上であると、融点が高く好ましい。また、ポリ乳酸の性質を損なわない範囲で、乳酸以外の成分を共重合していても、ポリ乳酸以外のポリマーや粒子、難燃剤、帯電防止剤等の添加物を含有していても良い。ただし、バイオマス利用、生分解性の観点から、ポリマーとして乳酸モノマーは50重量%以上とすることが重要である。乳酸モノマーは好ましくは75重量%以上、より好ましくは96重量%以上である。また、ポリ乳酸ポリマーの分子量は、重量平均分子量で5万〜50万であると、力学特性と成形性のバランスが良く好ましい。
【0015】
本発明でいう芳香族ポリエステルとは、主鎖あるいは側鎖中に芳香環を含むポリエステルのことをいい、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレンテレフタレート(PPT)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリヘキサメチレンテレフタレート(PHT)等が挙げられる。しかし、ホモPETやホモPBTは一般に脂肪族ポリエステルとの相溶性が低いため、実質的に脂肪族ポリエステルとのポリマーブレンドは不可能であった。このため、芳香族ポリエステルと脂肪族ポリエステルとの相溶性を高めるために、芳香族ポリエステルの主鎖あるいは側鎖に脂肪族性を導入することが重要である。 より具体的には、芳香族ポリエステルのジオール成分の炭素数が6以上としたり、芳香族ポリエステルに炭素数が6以上のジオール成分および/またはジカルボン酸成分を共重合することが重要である。共重合成分としては、長鎖アルキル鎖やビスフェノールA誘導体等が好ましい。長鎖アルキル鎖とは、例えば、アルキレンジオールや長鎖ジカルボン酸等を挙げることができる。ここで、アルキレンジオールとは、例えばポリエチレングリコール等のアルキレンオキサイドポリマーやオリゴマー、またネオペンチルグリコールやヘキサメチレングリコール等の炭素数の多いジオールが挙げられる。また、長鎖ジカルボン酸としてはアジピン酸やセバシン酸等を挙げることができる。共重合比としては、ジオールの場合は全カルボン酸量、ジカルボン酸の場合は全ジオール量に対し、2〜15mol%あるいは2〜15重量%とすることが好ましい。なお、本発明で用いる、ジオール成分の炭素数が6以上の芳香族ポリエステルまたは炭素数が6以上のジオール成分および/またはジカルボン酸が共重合された芳香族ポリエステルを、簡便のため以下単に「特定の芳香族ポリエステル」と記載する。
【0016】
さらに、一般に脂肪族ポリエステルの融点が170℃以下であるため、ブレンド温度をなるべく低温化することを考慮し、特定の芳香族ポリエステルにはさらにイソフタル酸等を共重合して低融点化することが好ましい。特定の芳香族ポリエステルの融点は、好ましくは250℃以下、より好ましくは230℃以下である。ただし、脂肪族ポリエステルに特定の芳香族ポリエステルをブレンドしたブレンドポリエステル樹脂やその成形体の耐熱性を向上させる観点から、特定の芳香族ポリエステルの融点は好ましくは170℃以上、より好ましくは200℃以上である。
【0017】
また、脂肪族ポリエステルに特定の芳香族ポリエステルをブレンドしたブレンドポリエステル樹脂の成形性、成形体の寸法安定性を向上させるために、該ブレンドポリエステル樹脂が結晶性であることが好ましい。このため、ブレンドする特定の芳香族ポリエステルも結晶性であることが好ましい。なお、示差走査熱量計(DSC)測定において融解ピークを観測できれば、そのポリマーは結晶性であると判断できる。
【0018】
また、該ブレンドポリエステル樹脂の生分解性を考慮すると、特定の芳香族ポリエステルのブレンド比は該ブレンドポリエステル樹脂全体に対し40重量%以下であることが重要である。一方、高温力学特性を向上させる点を考慮すると特定の芳香族ポリエステルのブレンド比は5重量%以上であることが重要である。特定の芳香族ポリエステルのブレンド比は、好ましくは15〜30重量%である。
【0019】
本発明において、高温力学特性が向上する理由は以下のように考えられる。すなわち、通常、ポリ乳酸等の脂肪族ポリエステルでは分子鎖間相互作用が弱く、分子鎖同士がすり抜けやすいため高温力学特性が低いと考えられる。そこで、特定の芳香族ポリエステルの持つ芳香環同士強固な相互作用により、脂肪族ポリエステル分子鎖を強力に拘束することにより、脂肪族ポリエステル分子鎖を支えることで、ブレンドポリエステル樹脂の高温力学特性が向上したと考えられる。
【0020】
このためには、特定の芳香族ポリエステルの結晶化あるいは高いTgを利用することが好ましい。また、結晶化あるいは高いTgの効果を充分発揮させるためには、特定の芳香族ポリエステルと脂肪族ポリエステルは適度に相溶していることが好ましい。ここで、適度に相溶しているとは、特定の芳香族ポリエステルと脂肪族ポリエステルは相分離し、いわゆる海島構造を採っているが、特定の芳香族ポリエステルドメイン中に脂肪族ポリエステルがある程度侵入していることを指している。このような特異なブレンド状態を実現できると、特定の芳香族ポリエステルが脂肪族ポリエステルを強く拘束することができるのである。この状態は例えば、該ブレンドポリエステル成形体のスライスを透過型電子顕微鏡(TEM)観察し、脂肪族ポリエステルと特定の芳香族ポリエステルの仕込み比とTEM観察で得られた海島比との比較から確かめることができる。また、小角X線散乱による長周期の測定からも情報を得ることができる。
【0021】
例えば、実施例1に示したポリ乳酸80重量%、共重合PET20重量%のブレンド繊維の系では、TEM観察(図1)で得られた海島比は45面積%:55面積%と、仕込み比から予測された海島比81面積%:19面積%と比較すると大幅に島比が高く、ポリ乳酸が共重合PETドメイン中に侵入していることが示唆される。しかも共重合PETの長周期は通常10nm程度であるが、実施例1では19nmと約2倍にも達しており、共重合PET分子鎖が一部ポリ乳酸分子鎖を挟み込んでいると解釈できる。
【0022】
一方、特定の芳香族ポリエステルと脂肪族ポリエステルが分子レベルで完全に相溶してしまうと、成形性は良いが、お互いの結晶化を阻害したり、Tgの加成性によりブレンドポリエステルとしてのTg上昇が小さくなり、上記したような特定の芳香族ポリエステルによる拘束効果が発現せず、高温力学特性を向上させることができない場合がある。
【0023】
また、特定の芳香族ポリエステルと脂肪族ポリエステルがいわゆる非相溶な場合は、特定の芳香族ポリエステルドメイン中に脂肪族ポリエステルが侵入できず、やはり上記したような効果が発現せず、高温力学特性を向上させることができないのである。さらに、非相溶系では相分離に基づく弾性的挙動が強く発現する場合が多く、該ブレンドポリエステルの成形性が著しく損なわれるのである。従来、ホモPETやホモPBTと脂肪族ポリエステルではこの非相溶系となり、実質的にポリマーブレンドが不可能であった。
【0024】
このように、高温力学特性と成形性を両立させるためには、いわゆるブレンド状態は海島構造を採っており、しかも島ドメインのサイズが直径換算で0.001〜10μmである部分を少なくとも一部に有していることが好ましい。特に繊維、フィルムの場合は、島ドメインのサイズが直径換算で0.001〜1μmである部分を少なくとも一部に有していることが好ましい。ここで、島ドメインサイズは、該ブレンドポリエステル樹脂あるいはその成形体をスライスし、TEMで観察することにより測定することができる。また、該ブレンドポリエステルの一部においては、海島構造の海と島が判別しがたいような海島が入り乱れた構造を採っていることも、成形性を向上させる観点から好ましい。例えば、前記した実施例1では繊維内層部にその様な状態が観察できる(図1)。
【0025】
本発明のポリエステル樹脂組成物は成形性に優れているため、射出成形、押出成形、ブロー成形のような通常の樹脂成形は元より、紡糸による繊維化や製膜によるフィルム化といったより高度な溶融成形にも適用可能である。通常、樹脂の高性能化にはガラス繊維ブレンドが利用されているが、ガラス繊維のサイズがミクロンオーダー以上であるため、繊維やフィルムに適用した場合、繊維径やフィルム厚以上のサイズとなるため、実質的に製糸や製膜は不可能であった。しかし、本発明の該ブレンドポリエステルでは、ブレンドされる特定の芳香族ポリエステルはサブミクロンオーダー以下であるため、そのような問題が無く、脂肪族ポリエステルの高性能化、用途拡大に大いに寄与できるのである。特に、繊維および繊維製品はそれを用いた2次加工も容易であり、好ましい。
【0026】
本発明のポリエステル樹脂組成物を利用した繊維では、工程通過性や製品の力学的強度を充分高く保つためには、室温での強度は1.0cN/dtex以上とすることが好ましい。室温での強度は好ましくは2.0cN/dtex以上である。また、本発明の繊維の室温での伸度は15〜70%であると、繊維製品にする際の工程通過性が向上し、好ましい。室温での伸度は、より好ましくは25〜50%である。
【0027】
脂肪族ポリエステルの代表例であるポリ乳酸繊維では、前記したように90℃では流動に近い強伸度曲線形状(図3)となってしまい、強度も0.5cN/dtex以下となってしまうが、本発明の繊維では90℃においても強度を0.7cN/dtex以上まで引き上げることが可能であり、しかもクリープ特性も大幅に向上させることができる。クリープ特性としては、90℃で0.5cN/dtex応力下での伸びを指標とするが、本発明の繊維ではこれを15%以下とすることができる。ここで、90℃で0.5cN/dtex応力下での伸びとは、90℃で繊維の引っ張り試験を行い、強伸度曲線図において、応力0.5cN/dtexでの伸度を読むことにより得ることができる(図2)。90℃で0.5cN/dtex応力下での伸びは、好ましくは10%以下である。また、90℃での強度が0.7cN/dtex以上であれば、ポリ乳酸繊維からなる繊維製品の高温での強度を向上でき、好ましいのである。90℃での強度はより好ましくは1.0cN/dtex以上である。
【0028】
本発明の繊維では、沸収が0〜20%であれば繊維および繊維製品の寸法安定性が良く好ましい。沸収は好ましくは3〜10%である。
【0029】
本発明の繊維の断面形状については丸断面、中空断面、三葉断面等の多葉断面、その他の異形断面についても自由に選択することが可能である。また、繊維の形態は、長繊維、短繊維等特に制限は無く、長繊維の場合はマルチフィラメントでもモノフィラメントでも良い。
【0030】
本発明の繊維は、織物、編物、不織布の他、カップやボード等の熱圧縮成形体等の様々な繊維製品の形態を採ることができる。
【0031】
本発明のポリエステル樹脂組成物は、樹脂成形用途においてはケース、ボード、生活資材、車両用資材、産業資材等に好適に用いることができる。また、繊維用途においては、仮撚加工用の原糸、シャツやブルゾン、パンツといった衣料用途のみならず、カップやパッド等の衣料資材、カーテンやカーペット、マット、家具等のインテリアや車両内装やベルト、ネット、ロープ、重布、袋類、縫い糸、フェルト、不織布、フィルター、人工芝等の産業資材用途にも好適に用いることができる。また、フィルム、シート用途においては、包装材、ラベルの他、ラップフィルム等の生活資材、セパレーター等の産業資材にも好適に用いることができる。
【実施例】
【0032】
以下、本発明を実施例を用いて詳細に説明する。なお、実施例中の測定方法は以下の方法を用いた。
【0033】
A.脂肪族ポリエステルの重量平均分子量
試料のクロロホルム溶液にテトラヒドロフランを混合し測定溶液とした。これをGPCで測定し、ポリスチレン換算で重量平均分子量を求めた。
【0034】
B.芳香族ポリエステルの極限粘度[η]
オルソクロロフェノール中25℃で測定した。
【0035】
C.室温での強度および伸度
室温(25℃)で、初期試料長=200mm、引っ張り速度=200mm/分とし、JIS L1013に示される条件で荷重−伸長曲線を求めた。次に破断時の荷重値を初期の繊度で割り、それを強度とし、破断時の伸びを初期試料長で割り、伸度として強伸度曲線を求めた。
【0036】
D.90℃で0.5cN/dtex応力下での伸び
測定温度90℃で、上記Cと同様に強伸度曲線を求め、0.5cN/dtexでの伸度を読み、90℃で0.5cN/dtex応力下での伸びとした。
【0037】
E.90℃での強度
測定温度90℃で、上記Dと同様に強伸度曲線を求め、荷重値を初期の繊度で割り90℃での強度とした。
【0038】
F.沸収
沸収(%)=[(L0−L1)/L0)]×100(%)
L0:延伸糸をかせ取りし初荷重0.09cN/dtex下で測定したかせの原長
L1:L0を測定したかせを実質的に荷重フリーの状態で沸騰水中で15分間処理し、風乾後初荷重0.09cN/dtex下でのかせ長。
【0039】
G.ポリマーのTgおよび融点
PERKIN ELMER社製DSC−7を用いて2nd runでTgおよび融点を測定した。この時、試料重量を10mg、昇温速度を16℃/分とした。
【0040】
H.ブレンドポリエステルのブレンド状態観察
ブレンド繊維の横断面方向に超薄切片を切り出し、透過型電子顕微鏡(TEM)にてポリエステルのブレンド状態を観察した。
TEM装置 :日立社製H−7100FA型
条件 :加速電圧 100kV
ここで、島ドメインのサイズとしては、ドメインを円と仮定し面積から直径換算でサイズを計算した。また、海島比は画像解析ソフトを用いて算出した。
【0041】
I.広角X線回折
理学電機社製4036A2型X線回折装置を用い、以下の条件で赤道線方向の回折強度を測定した。
X線源 : Cu−Kα線(Niフィルター)
出力 : 40kV×20mA
スリット : 2mmφ−1゜−1゜
検出器 : シンチレーションカウンター
計数記録装置 : 理学電機社製RAD−C型
ステップスキャン: 0.05゜ステップ
積算時間 : 2秒。
【0042】
J.小角X線散乱
理学電機社製RU−200型X線発生装置を用い、小角X線散乱写真を撮影した。
X線源 : Cu−Kα線(Niフィルター)
出力 : 50kV×150mA
スリット : 0.5mmφ
カメラ半径: 405mm
露出時間 : 300分
フィルム : Kodak DEF−5
そして、写真上の散乱点間距離r(mm)からBraggの式を用いて長周期を算出した。
J=λ/2sin[{tan−1(r/R)}/2]
J :長周期(nm)
R :カメラ半径(405mm)
λ:X線の波長(0.15418nm)。
【0043】
K.仮撚加工糸の捲縮特性、CR値
仮撚加工糸をかせ取りし、実質的に荷重フリーの状態で沸騰水中15分間処理し、24時間風乾した。このサンプルに0.088cN/dtex(0.1gf/d)相当の荷重をかけ水中に浸漬し、2分後のかせ長L’0を測定した。次に、水中で0.0088cN/dtex相当の荷重を除き0.0018cN/dtex(2mgf/d)相当の微荷重に交換し、2分後のかせ長L’1を測定した。そして下式によりCR値を計算した。
CR(%)=[(L’0−L’1)/L’0]×100(%)。
【0044】
L.捲縮糸の捲縮数
捲縮糸を実質的に荷重フリーの状態で100℃熱水中で自由に収縮させた後、捲縮数を数えた。
【0045】
実施例1
特定の芳香族ポリエステルとしてビスフェノールAエチレンオキサイド付加物を6mol%、さらにイソフタル酸を6mol%共重合した極限粘度0.65の共重合PET(融点220℃)を用い、これと重量平均分子量15万のホモポリL乳酸(光学純度99%L乳酸)を235℃で2軸混練機を用い溶融ブレンドし、ブレンドポリエステルチップを得た。この時、共重合PETのブレンド比はブレンドポリエステルに対し20重量%とした。このブレンドポリエステルチップのTgは61℃とホモポリL乳酸の60℃とほぼ同等であった。このブレンドポリエステルチップを乾燥し、紡糸温度を235℃として溶融紡糸し、紡出した糸条5をチムニー4により25℃の冷却風で冷却固化させた後、集束給油ガイド6により繊維用油剤を塗布し、交絡ガイド7により糸に交絡を付与した(図4)。これの溶融紡糸性には全く問題が無く、100kg巻き取りでの糸切れはゼロであった。その後、周速1500m/分の非加熱の第1引き取りローラー8で引き取った後、非加熱の第2引き取りローラー9を介し巻き取った。この糸を第1ローラー13温度90℃で予熱した後、2.8倍に延伸し、第2ローラー14で130℃で熱セットを行い、非加熱の第3ローラー15を介し巻き取り、84dtex、36フィラメント、丸断面の延伸糸16を得た。ここでの延伸性にも全く問題が無く、100kg巻き取りでの糸切れはゼロであった。
【0046】
得られた繊維の90℃での強伸度曲線を図2、物性値を表1に示すが、従来のポリ乳酸繊維(比較例1)に比べ降伏応力が高く、90℃での力学特性が大幅に向上していた。また、これの広角X線回折を行ったところ、PET部分が配向結晶化していることが確認された。さらに、これの小角X線散乱により長周期を測定したところ19nmと共重合PET単独糸(参考例1)の10nmに比べ大幅に増加していた。また、糸横断面のTEM観察を行ったところ、図1に示すように均一に分散した海島構造を採っており、島のドメインサイズは直径換算でサブミクロンオーダーであった。さらに、海島が逆転している部分も有り、相溶性に優れていることを示唆するものであった。また、画像解析により求めた海島比は45面積%:55面積%であり、仕込み比から予想された81面積%:19面積%よりも大幅に島比が大きく、ポリ乳酸が共重合PETドメインに侵入し見かけ上島比が増大しているものと考えられた。さらに、PET部分の長周期構造が19nmと共重合PET単独糸の10nmに比べ約2倍となっていることから、PET分子鎖がポリ乳酸分子鎖を挟み込んで強く拘束していると考えられた。
【0047】
さらにこの繊維を筒編みし、180℃でアイロン掛けテストを行ったが、筒編み地に穴が空くことは無く、従来のポリ乳酸繊維(比較例1)に比べ耐熱性が格段に向上していた。
【0048】
参考例1
実施例1で用いた共重合PETを紡糸温度280℃で実施例1と同様に、溶融紡糸した後、延伸倍率3.0倍、延伸温度90℃、熱セット温度130℃で延伸・熱処理し、84dtex、36フィラメントの丸断面延伸糸を得た。これの小角X線散乱を測定したところ、長周期は10nmであった。
【0049】
実施例2
共重合PETのブレンド比を35重量%とした以外は実施例1と同様に、紡糸、延伸を行い84dtex、72フィラメント、丸断面の延伸糸を得た。これの物性値を表1に示すが、従来のポリ乳酸繊維(比較例1)に比べ90℃での力学特性が大幅に向上していた。
【0050】
実施例3
共重合PETのブレンド比を10重量%とした以外は実施例1と同様に、紡糸、延伸を行い84dtex、144フィラメント、丸断面の延伸糸を得た。この物性値を表1に示すが、従来のポリ乳酸繊維(比較例1)に比べ90℃での力学特性が大幅に向上していた。
【0051】
実施例4
特定の芳香族ポリエステルとして分子量1000のポリエチレングリコールを4重量%、さらにイソフタル酸を6mol%共重合した極限粘度0.55の共重合PET(融点240℃)を用い、これと重量平均分子量20万のホモポリL乳酸(光学純度99%L乳酸)を250℃で2軸混練機を用い溶融ブレンドし、ブレンドポリエステルチップを得た。この時、共重合PETのブレンド比はブレンドポリエステルに対し20重量%とした。このブレンドポリエステルチップを乾燥し、紡糸温度を250℃とした以外は実施例1と同様に紡糸、延伸を行い164dtex、48フィラメント、丸断面の延伸糸を得た。これの物性値を表1に示すが、従来のポリ乳酸繊維(比較例1)に比べ90℃での力学特性が大幅に向上していた。
【0052】
実施例5
特定の芳香族ポリエステルとしてアジピン酸を10mol%、さらにイソフタル酸を6mol%共重合した極限粘度0.65の共重合PET(融点225℃)を用い、これと実施例4で使用したポリ乳酸を240℃で2軸混練機を用い溶融ブレンドし、紡糸温度を240℃とした以外は、実施例4と同様に紡糸、延伸を行い84dtex、48フィラメント、丸断面の延伸糸を得た。この時、共重合PETのブレンド比はブレンドポリマーに対し20重量%とした。この物性値を表1に示すが、従来のポリ乳酸繊維(比較例1)に比べ90℃での力学特性が大幅に向上していた。
【0053】
比較例1
実施例1で使用したポリ乳酸を乾燥した後、220℃で溶融紡糸し、紡出した糸条5をチムニー4により25℃の冷却風で糸を冷却固化させた後、集束給油ガイド6により繊維用油剤を塗布し、交絡ガイド7により糸に交絡を付与した(図4)。その後、周速1500m/分の非加熱の第1引き取りローラー8で引き取った後、非加熱の第2引き取りローラー9を介して糸を巻き取った。この未延伸糸11を第1ローラー13温度90℃で予熱した後、2.8倍に延伸し、第2ローラー14で130℃で熱セットを行い、非加熱の第3ローラー15を介し巻き取り、84dtex、24フィラメント、丸断面の延伸糸を得た。これの90℃での強伸度曲線を図2、物性値を表1に示すが、90℃での力学特性が低いものであった。さらにこの繊維を筒編みし、180℃でアイロン掛けテストを行ったが、ポリ乳酸繊維の融解のため筒編み地に大きな穴が空き、耐熱性が不良なものであった。
【0054】
比較例2
芳香族ポリエステルとして極限粘度0.55のホモPETを用いた以外は、実施例4と同様に2軸混練機を用い280℃で溶融ブレンドし、ブレンドポリエステルチップを得た。ここで、ホモPETのブレンド比はブレンドポリエステルに対し10重量%とした。しかし、ホモPETとポリ乳酸の相溶性が悪いため、きれいなガットが曳けずチップ品質の悪いもののとなった。さらに、溶融ブレンド温度が高すぎるためポリ乳酸の分解による発煙が見られた。このブレンドポリエステルチップを乾燥し、紡糸温度280℃として実施例4と同様に溶融紡糸を行ったが、ホモPETとポリ乳酸の相溶性が悪いためゴム様の弾性的挙動が強く発現し、曳糸性に乏しく紡糸不能であった。ここで得られた吐出物をスライスしTEM観察を行ったところ、ホモPETとポリ乳酸が完全に相分離していた。
【0055】
比較例3
芳香族ポリエステルとして極限粘度0.85のホモPBTを用い、250℃で比較例2と同様にポリ乳酸と溶融ブレンドを行った。ここで、ホモPBTのブレンド比はブレンドポリエステルに対し10重量%とした。しかし、比較例3同様、ホモPBTとポリ乳酸の相溶性が悪いため、きれいなガットが曳けずチップ品質の悪いもののとなった。このブレンドポリエステルチップを乾燥し、紡糸温度250℃として比較例3と同様に溶融紡糸を行ったが、ホモPBTとポリ乳酸の相溶性が悪いためゴム様の弾性的挙動が強く発現し、曳糸性に乏しく紡糸不能であった。ここで得られた吐出物をスライスしTEM観察を行ったところ、ホモPETとポリ乳酸が完全に相分離していた。
【0056】
比較例4
ポリ乳酸と分子レベルで完全に相溶する高Tgポリマーとして、ポリメチルメタクリレート(PMMA)をポリ乳酸にブレンドした例を示す。PMMA(住友化学社製スミペックスLG21、Tg=105℃)と乾燥した実施例1で使用したポリ乳酸を220℃で2軸混練機を用い溶融ブレンドし、ブレンドポリマーチップを得た。この時、PMMAのブレンド比はブレンドポリマーに対し50重量%とした。このブレンドポリマーチップのTgは75℃とホモポリL乳酸の60℃に比べ大きく向上した。このブレンドポリマーチップを乾燥し、紡糸温度を220℃として実施例1と同様に溶融紡糸した。巻き取った未延伸糸11を第1ローラー13温度90℃で予熱した後、1.7倍に延伸し、第2ローラー14で130℃で熱セットを行い、非加熱の第3ローラー15を介し巻き取り、100dtex、36フィラメント、丸断面の延伸糸16を得た。この糸の物性を表1に示すが、室温強度が低く、また90℃での力学特性も低いものであった。このように、完全相溶系ではTgの加成性が成立しブレンドポリマーのTg向上が不充分であり、かつ高Tgとなっても必ずしも高温力学特性の向上につながるわけではなかった。
【0057】
比較例5
特開2000−109664号公報の実施例2記載の方法で重合した重量平均分子量19万の脂肪族ポリエステルカーボネート(カーボネート単位が14%)と乾燥した光学純度99%、重量平均分子量20万のホモポリL乳酸を240℃で2軸混練機を用い溶融ブレンドし、ブレンドポリマーチップを得た。この時、脂肪族ポリエステルカーボネートのブレンド比はブレンドポリマーに対し50重量%とした。このブレンドポリマーチップのTgは65℃であった。このブレンドポリマーチップを乾燥し、紡糸温度を240℃とした以外は実施例4と同様に溶融紡糸したが、脂肪族ポリエステルカーボネートとポリ乳酸の相溶性が不良であるため、糸切れが頻発した。巻き取った未延伸糸を第1ローラー13温度90℃で予熱した後、1.5倍に延伸し、第2ローラー14で130℃で熱セットを行い、非加熱の第3ローラー15を介し巻き取り、100dtex、36フィラメント、丸断面の延伸糸16を得たが、延伸性は劣悪であり糸切れが頻発した。この糸の物性を表1に示すが、室温強度が低く、また90℃での力学特性も劣悪であった。
【0058】
【表1】

【0059】
実施例6
実施例1で得た高温力学特性に優れたポリ乳酸繊維に、延伸倍率1.1倍、ヒーター温度130℃、加工速度400m/分でフリクションディスク仮撚加工を施した。加工性に問題無く、糸切れ、毛羽は発生しなかった。また、捲縮特性の指標であるCR値は28%と仮撚加工糸として充分な捲縮を有していた。さらに、沸収も5%と充分低いものであった。
【0060】
実施例7
紡糸速度を3000m/分として実施例1と同様に溶融紡糸を行い、高配向未延伸糸を得た。これに延伸倍率1.5倍、ヒーター温度130℃、加工速度400m/分でフリクションディスク仮撚加工を施した。加工性に問題無く、糸切れ、毛羽は発生しなかった。また、捲縮特性の指標であるCR値は25%と仮撚加工糸として充分な捲縮を有していた。さらに、沸収も5%と充分低いものであった。
【0061】
比較例6
比較例1で得た従来ポリ乳酸繊維に、延伸倍率1.3倍、ヒーター温度130℃、加工速度400m/分でフリクションディスク仮撚加工を施したが、熱板上で糸が弛み糸かけ不能であった。次に、熱板温度110℃に下げて加工を施したところ、やはり糸かけに問題があったが、糸を巻き取ることは可能であった。ただし、捲縮特性の指標であるCR値は10%と捲縮がほとんど無いものであった。さらに、熱セットが不足したため沸収も25%と高すぎるものであった。
【0062】
実施例8
実施例1で得られた糸を経糸および緯糸に用い、平織りを作製した。経糸の糊付け乾燥を110℃で行ったが、糸が伸びるトラブルは発生しなかった。得られた平織りを常法にしたがい60℃で精練した後、140℃で中間セットを施した。さらに常法にしたがい110℃で染色した。得られた布帛は、きしみ感、ソフト感があり、衣料用として優れた風合いを有していた。
【0063】
比較例7
比較例1で得られた糸を経糸および緯糸に用い、平織りを作製した。経糸の糊付け乾燥を110℃で行ったが、糸が伸びてしまい乾燥が不可能であった。
【0064】
実施例9
実施例1で得たブレンドポリマーを溶融紡糸し、これを1600m/分で引き取りトウとし、90℃水槽中で4倍に延伸した。そして、クリンパーを通した後、カットし、90℃で弛緩熱処理を施し、単糸繊度6dtex、繊維長60mmのカットファイバーを得た。これを220℃で熱圧縮成形し厚さ3mmのボードを得た。これを幅2cmにカットし、支点間距離50cmとして、中心に1kgの重りを乗せ、100℃で20分間保持した。冷却後、重りを取り去りボードの残留ソリを観察したがソリは見られなかった。
【0065】
比較例8
比較例1で使用したポリ乳酸を用いた以外は、実施例9と同様にしてボードを得た。これを実施例9と同様にソリを観察したところ、顕著な残留ソリが見られた。
【0066】
実施例10
実施例1で得られたブレンドポリエステルチップを乾燥し、240℃で溶融紡糸を行った。このとき、口金吐出孔はY型とし、その口金吐出孔長は0.5mmのものを用いた。紡出糸は800m/分で引き取り、次いで、1段目の延伸倍率を1.4倍、トータル倍率を4.0倍の条件で2段延伸を行い、さらにジェットノズルを用いて捲縮を付与してから450dtex、90フィラメントのカーペット用の嵩高加工糸を巻き取った。これの捲縮数は15個/mであり、良好な捲縮を示した。
【0067】
比較例9
比較例1で使用したポリ乳酸を用いた以外は、実施例10と同様にしてカーペット用嵩高加工糸を得た。これの捲縮数は6個/mであり、不充分な捲縮であった。
【0068】
実施例11
実施例1で得られたブレンドポリエステルチップを乾燥し、240℃に加熱された直径150mmのスクリューを備えた単軸押出機に投入して、溶融押出を行い、繊維焼結ステンレス金属フィルター内で濾過した後、Tダイよりシート状に吐出し、該シートを表面温度25℃の冷却ドラム上に、ドラフト比3で20m/分の速度で密着固化させ急冷し、実質的に無配向の未延伸フィルムを得た。
【0069】
続いて、該未延伸フィルムを、加熱された複数のロール群からなる縦延伸機を用い、ロールの周速差を利用して、85℃の温度でフィルムの縦方向に3.5倍の倍率で延伸した。その後、このフィルムの両端部をクリップで把持して、テンターに導き、延伸温度85℃、延伸倍率3.0倍でフィルムの幅方向に延伸した。次いで、160℃の温度で熱処理を行った後、室温まで冷却した後、フィルムエッジを除去し、厚さ20μmの二軸配向フィルムを得た。
【0070】
これの縦方向強度は100MPa、横方向強度は130MPa、縦方向熱収縮は0.5%、横方向熱収縮は0.5%であり、強度、収縮とも充分なものであった。なお、熱収縮は乾熱120℃雰囲気中に無荷重下30分間放置した時の寸法変化から求めた。また、90℃での強度は縦方向は45MPa、横方向が50MPaと充分なものであった。
【0071】
比較例10
比較例1で使用したポリ乳酸を用いた以外は、実施例11と同様にして、製膜を行ったが160℃での熱処理した際にポリ乳酸の部分融解が原因と考えられる破れが発生し、実質的に製膜不能であった。そこで、熱処理温度を160℃から140℃に低下させて製膜を行い、厚さ20μmの二軸配向フィルムを得た。
【0072】
これの縦方向強度は110MPa、横方向強度は150MPa、縦方向熱収縮は2.5%、横方向熱収縮は2.5%であり、強度は充分であったが、収縮が大きくなってしまった。さらに、90℃での強度は縦方向は10MPa、横方向が13MPaと高温力学特性が著しく劣るものであった。
【0073】
実施例12
実施例1で得られたブレンドポリエステルチップを乾燥し、240℃に加熱された直径150mmのスクリューを備えた単軸押出機に投入して、シリンダー温度240℃、金型温度40℃で射出成形し、縦100mm、横20mm、厚さ3mmの試験片を作製した。雰囲気温度120℃とし、これに支点間距離80mmで1kgの重りを30分間乗せたが、室温まで冷却した時の残留変形は無かった。
【0074】
比較例11
比較例1で使用したポリ乳酸を用い、押出機温度およびシリンダー温度を220℃とした以外は、実施例12と同様にして試験片を作製した。雰囲気温度120℃とし、これに支点間距離80mmで1kgの重りを30分間乗せたが、室温まで冷却した時に顕著な残留変形が見られた。
【0075】
実施例13
脂肪族ポリエステルとして実施例1で用いたポリ乳酸とポリブチレンサクシネート(昭和高分子“ビオノーレ”融点118℃)を3:1でブレンドしたものを用い、これに実施例1と同様に共重合PETを20重量%ブレンドしたブレンドポリエステルチップを235℃で作製した。そして、やはり実施例1と同様にして、84dtex、36フィラメント、丸断面の延伸糸を得た。これの90℃での強度は0.7cN/dtex、0.5cN/dtex応力下での伸びは12%と充分な高温力学特性を有していた。
【0076】
実施例14
脂肪族ポリエステルとして実施例13のポリブチレンサクシネートを用いた以外は、実施例1と同様にして、84dtex、36フィラメント、丸断面の延伸糸を得た。これの90℃での強度は0.7cN/dtex、0.5cN/dtex応力下での伸びは14%と充分な高温力学特性を有していた。
【0077】
比較例12
実施例13のポリブチレンサクシネートを比較例1と同様に220℃で溶融紡糸し、さらに延伸倍率2.2倍、延伸温度75℃、熱セット温度85℃で延伸・熱処理することにより84dtex、36フィラメント、丸断面の延伸糸を得た。これの90℃での強度は0.2cN/dtexと高温力学特性が著しく劣るものであった。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】本発明のブレンドポリエステル内の特定の芳香族ポリエステルと脂肪族ポリエステルのブレンド状態を示すTEM写真である。
【図2】本発明および従来ポリ乳酸繊維の90℃での強伸度曲線を示す図である。
【図3】従来ポリ乳酸繊維およびナイロン6繊維の強伸度曲線を示す図である。
【図4】紡糸、延伸装置を示す図である。
【符号の説明】
【0079】
1:スピンブロック
2:紡糸パック
3:口金
4:チムニー
5:糸条
6:集束給油ガイド
7:交絡ガイド
8:第1引き取りローラー
9:第2引き取りローラー
10:巻き取り糸
11:未延伸糸
12:フィードローラー
13:第1ローラー
14:第2ローラー
15:第3ローラー
16:延伸糸


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジオール成分が炭素数2のジオールである芳香族ポリエステルに炭素数が6以上の長鎖ジカルボン酸成分が共重合された芳香族ポリエステルが、脂肪族ポリエステルに5〜40重量%ブレンドされていることを特徴とするポリエステル樹脂組成物。
【請求項2】
芳香族ポリエステルが結晶性であり、融点が170〜250℃であることを特徴とする請求項1記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項3】
脂肪族ポリエステルがポリ乳酸であることを特徴とする請求項1または2記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項記載のポリエステル樹脂組成物を少なくとも一部に有することを特徴とする成形体。
【請求項5】
成形体が繊維または繊維製品であることを特徴とする請求項4記載の成形体。
【請求項6】
繊維が捲縮糸であることを特徴とする請求項5記載の成形体。
【請求項7】
成形体がフィルムまたはシートであることを特徴とする請求項4記載の成形体。
【請求項8】
成形体が射出成形体または押出成形体またはブロー成形体であることを特徴とする請求項4記載の成形体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−283033(P2006−283033A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−147508(P2006−147508)
【出願日】平成18年5月28日(2006.5.28)
【分割の表示】特願2001−370574(P2001−370574)の分割
【原出願日】平成13年12月4日(2001.12.4)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】