説明

ポリエステル系織物の製造方法

【課題】適度なハリコシ、滑らかな肌触り感、および深みのある発色性を有する織物の製造方法を提供する。
【解決手段】芯成分が、繰り返し単位の95モル%以上がエチレンテレフタレートであって、固有粘度が0.63以上0.70以下を満足するポリエステル(A)からなり、鞘成分が、繰り返し単位の88.75モル%以上92.25モル%以下がエチレンテレフタレートであり、該エチレンテレフタレートに、5−ナトリウムスルホイソフタル酸を2.25モル%共重合し、アジピン酸を5モル%以上9モル%以下が共重合したポリエステル(B)からなる。芯成分/鞘成分の体積比を40/60以上60/40以下とする、本発明の芯鞘複合ポリエステルマルチフィラメントの無撚糸、または撚係数13000以下で撚糸を施された糸条を、少なくとも経糸に使用して織成したのち、減量率5質量%以上25質量%以下までアルカリ減量する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は衣料向けに適したポリエステル系織物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年のファッショントレンドや消費者のニーズは極めて多様化、高級化しており、消費者の要望に沿った機能素材を市場に提供するには、更なる風合いの改良や、見た目の高度化の提案が必要となっている。
【0003】
例えば、特開昭56−4771号公報(特許文献1)には、芯成分がポリエチレンテレフタレートで、鞘成分が5−ナトリウムスルホイソフタル酸を共重合したポリエチレンテレフタレートである芯鞘複合のマルチフィラメント糸が提案されている。この複合糸を使った織物にアルカリ処理を施すことにより、ドレープ性、ボリューム感、ソフト感に優れた絹様織物が得られるとしている。
【0004】
また例えば、特開平3−113017号公報、特開平6−166910号及び特開2008−13862号公報(特許文献2、3、4)には、芯成分がポリエチレンテレフタレートで、鞘成分が5−ナトリウムスルホイソフタル酸とアジピン酸を共重合したポリエチレンテレフタレートである芯鞘複合のマルチフィラメントが記載されている。
【特許文献1】特開昭56−4771号公報
【特許文献2】特開平3−113017号公報
【特許文献3】特開平6−166910号公報
【特許文献4】特開2008−13862号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記特許文献1に記載された芯鞘複合マルチフィラメントを用いた織物は、5−ナトリウムスルホイソフタル酸の共重合量が高過ぎるため柔らかくなり過ぎ、ハリコシが不足するものであった。また、上記特許文献2〜4に記載された芯鞘複合マルチフィラメントは、芯成分のポリエチレンテレフタレートの粘度が高過ぎるため、織物が硬くなるという問題があった。
【0006】
本発明はこのような背景技術における問題点を解決するものであり、適度なハリコシ、滑らかな肌触り感、および深みのある発色性を有する織物の製造方法を提供することを主な目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、芯成分が下記要件(1)を満足するポリエステル(A)、鞘成分が下記要件(2)を満足するポリエステル(B)からなり、芯成分/鞘成分の体積比が40/60以上60/40以下である芯鞘複合ポリエステルマルチフィラメントの無撚糸、または撚係数13000以下で撚糸を施された糸条を、少なくとも経糸に使用し、減量率5質量%以上25質量%以下までアルカリ減量することを特徴とするポリエステル系織物の製造方法にある。
(1)ポリエステル(A)は、
・繰り返し単位の95モル%以上がエチレンテレフタレートであって、
・固有粘度が0.63以上0.70以下であり、
(2)ポリエステル(B)は、
・繰り返し単位の88.75モル%以上92.25モル%以下がエチレンテレフタレートであって、このエチレンテレフタレートに、
・5−ナトリウムスルホイソフタル酸を2.25モル%共重合し、
・アジピン酸を5モル%以上9モル%以下共重合している。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、適度なハリコシ、滑らかな肌触り感、および深みのある発色性を有する織物が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下本発明のポリエステル系織物の製造方法について詳細に説明する。
本発明においての芯成分として用いられるポリエステルは、繰り返し単位の95モル%以上がエチレンテレフタレートで、固有粘度が0.63以上0.70以下のポリエチレンテレフタレートである必要がある。エチレンテレフタレートの量が95モル%未満の場合、ポリマーの剛性が低下するため織物のハリコシ感が不足したり、製織時の工程通過性が低下する傾向がある。織物のハリコシ感とは、織物を握ったときの硬さの感覚である。固有粘度が0.63未満であると、マルチフィラメントの強度が低下し、製糸性、および加工工程通過性が悪化する。固有粘度が0.70を超えると、ポリマーの剛性が高くなり過ぎ、ハリコシ感があり過ぎた織物となる。
【0010】
本発明において鞘成分として用いられるポリエステル(B)は、以下の要件を満足することが必要である。
ポリエステル(B)が、
・繰り返し単位の88.75モル%以上92.25モル%以下がエチレンテレフタレートであり、該エチレンテレフタレートには、
・5−ナトリウムスルホイソフタル酸を2.25モル%共重合し、
・アジピン酸を5モル%以上9モル%以下共重合している。
【0011】
鞘成分の5−ナトリウムスルホイソフタル酸の共重合量が2.25モル%未満であると、染色後の織物の発色性が低下する。また、2.25モル%を超えるとマルチフィラメントの強度が低下し、製糸性、および加工工程通過性が悪化する。
また、鞘成分のアジピン酸の共重合量が5モル%未満であると、ポリマーのソフト性が低下し、織物の滑らかな肌触り感が得られない。肌触り感とは、織物に軽く触れたときに感じる柔らかさである。9モル%を超えると耐熱性が低下し、織物に熱セットを施した時に風合いが硬化したり、染色堅牢性も低下したりする。
【0012】
本発明の芯鞘複合とは、正芯であっても、偏芯であっても良いが、織物としたときの経筋や緯段といった品位の安定性、再現性を考慮し、正芯がより好ましい。また、芯/鞘の体積比は40/60以上60/40以下である必要がある。芯成分の比率が40%未満であると、織物のハリコシ感がない織物になりやすい。芯成分の比率が大きくなるにつれ、織物のハリコシ感が得られる傾向にあるが、芯成分の比率が60%を超えると、ハリコシ感があり過ぎた織物になる。
【0013】
本発明の織物の製造方法に用いる芯鞘複合ポリエステルマルチフィラメントは、例えば次のように製造される。まず、紡糸については、ポリエステル(A)とポリエステル(B)とを別々に溶融した後に、2種の溶融流を芯鞘型に接合させ、紡糸口金の吐出孔より吐出し、1200〜3000m/分の速度で巻き取ることによって未延伸糸とする。次いで、未延伸糸の最大延伸倍率の0.65〜0.85倍の倍率で、かつ70〜90℃の温度で延伸を行い、引き続き100〜170℃の温度で熱セットを行うことによって芯鞘複合ポリエステルマルチフィラメントが得られる。
【0014】
本発明のポリエステル系織物に用いられる芯鞘複合ポリエステルマルチフィラメントは、撚係数13000以下で撚糸が施されていることが好ましく、より好ましくは10000以下である。撚係数が13000を超えると、ハリコシ感があり過ぎ、かつ肌触り感が不足したものになりやすい。
【0015】
また織物にするときに、該撚糸糸条を少なくとも経糸に用いる必要がある。緯糸のみに用いた場合には、織物の表面に該撚糸糸条が出にくく、滑らかな肌触り感を効果的に発現させることが難しい。
【0016】
本発明のポリエステル系織物に用いられる芯鞘複合ポリエステルマルチフィラメントの繊度は特に限定するものではないが、33〜167dTexの範囲であることが好ましい。繊度が33dTex未満であると糸強力が弱く、織物の生産時の取り扱いが困難になると共に、織物としたときに引裂強力等が保てなくなる場合がある。また167dTexを超えると、織物としたときの繊細さが不十分となり好ましくない。
【0017】
本発明のポリエステル系織物は、減量率5質量%以上25質量%以下までアルカリ処理を施すことが必要である。アルカリ処理を施すことで、より滑らかな肌触り感が付与されるといった効果がある。減量率が5質量%未満であると滑らかな肌触り感が不足し、また25質量%を超えると、糸強力が低下し織物の引裂強力等が保てなくなる場合があると共に、染色した後の織物に経筋や緯段といった染め品位異常が発生しやすくなる。ここで、経筋とは、一部の経糸の染めレベルが濃色になったり、淡色なったりする異常であり、緯段とは、一部の緯糸の染めレベルが濃色になったり、淡色なったりする異常である。
【0018】
本発明で施すアルカリ処理の方法は、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カルシウム等のアルカリ化合物を用い、かかるアルカリ化合物の溶液に織物を浸漬、パッデイング等により含浸させて処理する。アルカリ処理における処理液濃度、処理温度、処理時間は、用いるアルカリ化合物により、また目的物により異なるが、好ましい織物のアルカリ処理条件を挙げるならば、液流減量機で水酸化ナトリウム水溶液を用いた場合、水酸化ナトリウム濃度は5質量%を超えない濃度、処理温度は90〜95℃、処理時間は90分以内を目安に処理する。かかるアルカリ処理により、より滑らかな質感の織物が得られる。
【実施例】
【0019】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。なお、実施例及び比較例中の各特性値の評価は、下記の方法で行った。
[ポリマーの固有粘度]
試料をフェノール/テトラクロロエタン(50/50)混合溶媒に溶解し、ウベローデ粘度計により25℃において測定した。
[織物のハリコシ感]
ハンドリングにより評価した。なお、表1中の、「良好」はハリコシ感が適度であること、「強い」はハリコシ感があり過ぎること、「弱い」はハリコシ感がないことを示す。[織物の肌触り感]
ハンドリングにより評価した。なお、表1中の、「○」は肌触り感が滑らかなこと、「×」は肌触り感の滑らかさが不足していることを示す。
[織物の発色性]
目視により評価した。なお、表1中の、「○」は深い色目があること、「×」は深い色目がないことを示す。
[織物の経筋品位]
目視により評価した。なお、表1中の、「○」は経筋が見えないこと、「×」は経筋が見えることを示す。
【0020】
《実施例1》
芯成分としてポリエチレンテレフタレート、鞘成分として5−ナトリウムスルホイソフタル酸(以下、SIという。)を2.25モル%、アジピン酸(以下、ADという。)を5モル%共重合したポリエチレンテレフタレートを配して芯成分/鞘成分=50/50(体積比)とし、280℃にて芯鞘複合紡糸を行い、速度1600m/分で巻き取り、未延伸糸を得た。紡糸後の芯成分の固有粘度[η]については、単独ポリマーの紡出糸をサンプリングしたものを測定した。この未延伸糸を引き続き、最大延伸倍率の0.70倍、延伸温度80℃で延伸後、温度140℃で熱セットし、56dTex24フィラメントの正芯円形の芯鞘複合ポリエステルマルチフィラメントを得た。
【0021】
次いで、経糸として前記マルチフィラメントに撚数1200回/mの撚りをS方向に施した糸(撚係数8980)を用い、緯糸として前記マルチフィラメント糸にS方向に1200回/mの撚糸を施した糸(撚係数8980)とZ方向に1200回/mの撚糸を施した糸(撚係数8980)を、1本ずつ交互に用い、サテン織物を作成した。
【0022】
このサテン織物を90℃で精練し、180℃で熱セットを施した後に、3質量%の苛性ソーダの水溶液を用いてアルカリ減量を施し、アルカリ減量率15質量%の織物を得た。さらに、黒色の分散染料(ダイスタージャパン社製 ダイアニックス ブラック TA・N200 10質量%対繊維質量)を用いて115℃で染色を施した後に、170℃で最終セットを施し、経密度250本/2.54cm、緯密度135本/2.54cmの黒色の織物を得た。得られた織物は適度なハリコシ感を有しつつ、滑らかな肌触り感を併せ持つものであり、また深みのある色相の衣料に適した織物であった。
【0023】
《実施例2》
鞘成分にSIを2.25モル%、ADを9モル%共重合したポリエチレンタレフタレートを用いる以外は実施例1と同様に実施し、経密度250本/2.54cm、緯密度135本/2.54cmの黒色の織物を得た。得られた織物は適度なハリコシ感を有しつつ、滑らかな肌触り感を併せ持つ織物であり、また深みのある色相の衣料に適した織物であった。
【0024】
《比較例1》
芯成分として高粘度のポリエチレンテレフタレートを用いる以外は実施例1と同様に芯鞘複合紡糸を実施した。紡糸後の芯成分のポリエチレンテレフタレートの固有粘度は、0.73であった。次いで、実施例1と同様に、経密度250本/2.54cm、緯密度135本/2.54cmの織物を得たが、得られた織物は滑らかな肌触り感を有するものの、ハリコシがやや強い織物であった。
【0025】
《比較例2》
鞘成分として、SIを2.25モル%、ADを11モル%共重合したポリエチレンテレフタレートを用いる以外は実施例1と同様に黒色の織物を得た。得られた織物は熱セットの影響でハリコシが強いものであり、また肌触り感の滑らかさも有さない織物であった。
【0026】
《比較例3》
鞘成分として、SIを2.25モル%のみを共重合したポリエチレンテレフタレートを用いる以外は実施例1と同様に黒色の織物を得た。得られた織物は、肌触りが滑らかでなく、ハリコシがやや強い織物であった。
【0027】
《比較例4》
SIを2.25モル%、ADを5モル%共重合したポリエチレンテレフタレートのみを成分とした単独紡糸を行った以外は、実施例1と同様に黒色の織物を得た。得られた織物は滑らかな肌触り感を有するものの、ハリコシ感が弱い織物であった。
【0028】
《比較例5》
芯成分/鞘成分の比率(体積比)を2/1に変更した以外は、実施例1と同様に黒色の織物を得た。得られた織物は、ハリコシがやや強く、また、染色斑による経筋状の欠点のある織物であった。
【0029】
《比較例6》
芯鞘複合マルチフィラメントの撚数を2000T/Mにする以外は実施例1と同様にして、黒色の織物を得た。得られた織物はハリコシが強く、滑らかな肌触り感を有しない織物であった。
【0030】
《比較例7》
染色加工時に減量加工を施さない以外は実施例1と同様にして黒色の織物を得た。得られた織物はハリコシが強く、滑らかな肌触り感も不足した織物であった。
【0031】
《比較例8》
染色加工時の減量率を30%にする以外は実施例1と同様にして経密度250本/2.54cm、緯密度135本/2.54cmの織物を得た。得られた織物は適度なハリコシ感と滑らかな肌触りを有していたが、染色斑による経筋状の欠点のある織物であった。
【0032】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯成分が下記要件(1)を満足するポリエステル(A)、鞘成分が下記要件(2)を満足するポリエステル(B)からなり、芯成分/鞘成分の体積比が40/60以上60/40以下である芯鞘複合ポリエステルマルチフィラメントの無撚糸、または撚係数13000以下で撚糸を施された糸条を、少なくとも経糸に使用し、減量率5質量%以上25質量%以下までアルカリ減量することを特徴とするポリエステル系織物の製造方法。
(1)ポリエステル(A)が、
・繰り返し単位の95モル%以上がエチレンテレフタレートであり、
・固有粘度が0.63以上0.70以下であって、
(2)ポリエステル(B)が、 ・繰り返し単位の88.75モル%以上92.25モル%以下がエチレンテレフタレートであり、該エチレンテレフタレートに、
・5−ナトリウムスルホイソフタル酸を2.25モル%共重合し、 ・アジピン酸を5モル%以上9モル%以下共重合している。

【公開番号】特開2010−18924(P2010−18924A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−182451(P2008−182451)
【出願日】平成20年7月14日(2008.7.14)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【出願人】(301067416)三菱レイヨン・テキスタイル株式会社 (102)
【Fターム(参考)】