説明

ポリエステル組成物、モノフィラメントおよび工業用織物

【課題】優れた耐加水分解性を有し、さらには耐酸化分解性にも優れ、各種工業用織物の構成素材として有用なポリエステル組成物、このポリエステル組成物からなるポリエステルモノフィラメントおよびこのポリエステルモノフィラメントを使用した各種工業用織物の提供。
【解決手段】ポリエチレンレフタレート成分が70〜99重量%、ポリエチレンナフタレート成分が30〜1重量%からなるポリエステル(A)100重量部に対して、未反応状態のモノカルボジイミド化合物(B)を0.01〜1.5重量部含有させてなるポリエステル組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐加水分解性に優れ、さらには耐酸化分解性にも優れたポリエステル組成物、ポリエステルモノフィラメントおよびこのポリエステルモノフィラメントを用いた抄紙ドライヤーカンバス、不織布の熱接着工程用ベルト織物、熱処理炉内搬送ベルト用織物から選ばれた少なくとも1種に使用される各種工業用織物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルは、優れた物性を有しているため、各種工業用部品、衣料用および工業用繊維材料、各種織物などに使用されてきた。例えば、ポリエステルモノフィラメントとして、抄紙ドライヤーカンバス、抄紙ワイヤー、不織布の熱接着工程用ベルト織物、熱処理炉内搬送ベルト用織物などの各種ベルト、各種ブラシ、筆毛、印刷スクリーン用紗、釣り糸、ゴム補強用繊維材料などの各種工業用織物の構成素材として広く使用されてきた。
しかしながら、高温・多湿など加水分解されやすい条件下で使用される用途、例えば抄紙ドライヤーカンバスの構成素材として使用した場合は、使用中にポリエステルモノフィラメントが加水分解劣化により強度低下を起こすため、長期間の使用に耐えることが困難であった。
【0003】
このような、ポリエステルモノフィラメントの欠点である耐加水分解性を向上するために、従来から種々の提案がなされてきた。
【0004】
例えば、ポリエチレン,ポリプロピレン,ポリブテン,ポリ−4−メチルペンテン1,ポリスチレンなどのポリオレフィンを特定量添加したポリエステルモノフィラメント(例えば、特許文献1参照)が知られているが、この技術で得られるモノフィラメント、例えばポリエチレンを添加したポリエチレンテレフタレート製モノフィラメントは、耐加水分解性向上効果が小さく実用的ではなかった。
【0005】
また、カルボジイミド化合物を添加することによりポリエステルの耐加水分解性を向上せしめる方法が知られている。例えば、モノまたはビスカルボジイミド化合物を添加し、短時間で混練紡糸することにより未反応カルボジイミドを含有しないフィラメントを形成させる方法(例えば、特許文献2参照)、分子内に3個以上のカルボジイミド基を有するポリカルボジイミド化合物を添加する方法(例えば、特許文献3参照)、カルボキシル末端基がカルボジイミドとの反応でキャップされ、遊離のモノおよび/またはビスカルボジイミド化合物30〜200ppmと遊離のポリカルボジイミドまたはなお反応性を有するポリカルボジイミド基を含む反応生成物を少なくとも0.02重量%含有するポリエステル繊維およびフィラメント(例えば、特許文献4参照)が提案されている。
【0006】
さらに、特定量のリンを含むポリエステルに特定のカルボジイミド化合物を添加する工業用ポリエステルモノフィラメントの製造方法(例えば、特許文献5参照)、末端カルボキシル基濃度が10当量/ポリエステル10g以下であって、カルボジイミド化合物を未反応の状態で0.005〜1.5重量%含有し、かつフッ素系重合体を0.01〜30重量%含有したポリエステルモノフィラメント(例えば、特許文献6参照)、未反応のモノカルボジイミド化合物(A)を230ppm〜1.5重量%含有し、未反応のポリカルボジイミド化合物および/またはポリエステルのカルボキシル末端基と一部反応し、かつ未反応のカルボジイミド基を有するポリカルボジイミド化合物(B)を0.05〜1.5重量%含有するポリエステルモノフィラメント(例えば、特許文献7参照)、ポリマー成分が、末端カルボキシル基濃度が10当量/10g以下のポリエステル(A)99.8〜60重量%と、フッ素原子を含有しない熱可塑性ポリマー(B)0.2〜40重量%からなり、該ポリマー成分が未反応の状態のカルボジイミド化合物(C)を0.005〜1.5重量%含有するポリエステルモノフィラメント(例えば、特許文献8参照)、シンジオタクチック構造などのポリスチレンと未反応の状態のモノカルボジイミド化合物およびポリカルボジイミド化合物とを特定量含有するポリエステル組成物からなるモノフィラメント(例えば、特許文献9参照)、およびエチレン・アクリル酸エステル共重合体とカルボジイミド化合物を特定量添加したポリエステルモノフィラメント(例えば、特許文献10参照)などが提案され、種々の改善がなされてきた。
【0007】
しかしながら、上記した各方法により耐加水分解性を改善したポリエステルモノフィラメントであっても、耐乾熱分解性の必要な用途、例えば抄紙ドライヤーの乾燥温度の高い工程における抄紙ドライヤーカンバスの構成素材として使用しようとする場合や、紙の生産性を高める目的で乾燥温度を従来よりも高温化した抄紙ドライパートに使用される抄紙ドライヤーカンバスおよび湿紙の接触しない一層高温に曝される耳部の構成素材として使用しようとする場合には、耐加水分解性がいまだに十分ではないばかりか、耐乾熱分解性も不十分であるという問題が残されており、高価なポリフェニレンスルフィドモノフィラメントの使用を余儀なくされていたというのが実情である。
【特許文献1】特開昭51−136923号公報(第1〜5頁)
【特許文献2】特開昭50−95517号公報(第1〜4頁)
【特許文献3】特公昭38−15220号公報(第1〜6頁)
【特許文献4】特開平4−289221号公報(第1〜7頁)
【特許文献5】特開昭57−205518号公報(第1〜9頁)
【特許文献6】再公表国際公開番号 WO 92/07126号公報(第1〜11頁)
【特許文献7】特開平7−216647号公報(第1〜7頁)
【特許文献8】特開平7−258524号公報(第1〜43頁)
【特許文献9】特開平10−168661号公報(第1〜11頁)
【特許文献10】特開平14−20931号公報(第1〜7頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上述した従来技術における問題点を解決すれために検討した結果なされたものであり、従来のものより一層優れた耐加水分解性を有し、さらには耐酸化分解性にも優れ、各種工業用織物の構成素材として有用なポリエステル組成物、このポリエステル組成物からなるポリエステルモノフィラメントおよびこのポリエステルモノフィラメントを使用した抄紙ドライヤーカンバス、不織布の熱接着工程用ベルト織物、熱処理炉内搬送ベルト用織物などの各種工業用織物の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記した、課題の目的を達成するために、本発明によれば、ポリエチレンレフタレート成分が70〜99重量%、ポリエチレンナフタレート成分が30〜1重量%からなるポリエステル(A)100重量部に対して、未反応状態のモノカルボジイミド化合物(B)を0.01〜1.5重量部含有させてなることを特徴とするポリエステル組成物(第1の発明)、およびポリエチレンテレフタレート成分が70〜99重量%、ポリエチレンナフタレート成分が30〜1重量%からなるポリエステル(A)70〜99.8重量部、および前記ポリエステル(A)以外の熱可塑性樹脂ポリマー(C)0.2〜30重量部からなり、前記(A)と(C)との合計が100重量部である組成物に対して、未反応状態のモノカルボジイミド化合物(B)0.01〜1.5重量部を含有させてなることを特徴とするポリエステル組成物(第2の発明)が提供される。
【0010】
なお、本発明のポリエステル組成物においては、
前記ポリエステル(A)と熱可塑性樹脂ポリマー(C)との合計100重量部に対して、さらにポリカルボジイミド化合物(D)0.02〜1.5重量部を含有させてなること〔ただし、ポリカルボジイミド化合物(D)は、未反応のカルボジイミド基(D1)と、ポリエステルのカルボキシル末端基およびドロキシル末端基と反応しているカルボジイミド基(D2)との合計[(D1)+(D2)]で1分子中に5〜50個含有するアルキル置換芳香族ポリカルボジイミド化合物。〕、
前記熱可塑性樹脂ポリマー(C)が、ポリスチレン類、ポリオレフィン類およびポリメタクリレート系重合体から選ばれた少なくとも一種であること、
前記ポリスチレン類が、シンジオタクチック構造を有するポリスチレン系ポリマーであること、
前記ポリオレフィン類が、環状オレフィン系重合体、ポリプロピレン、ポリエチレンおよびポリメチルペンテンから選ばれた少なくとも1種であること、
前記モノカルボジイミド化合物(B)が、N,N’−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミドであること、
前記ポリカルボジイミド化合物(D)が、カルボジイミド基に対して、フェニル基のオルトの位置がイソプロピル基で置換された芳香族ポリカルボジイミド化合物であること、
前記ポリエステル(A)と熱可塑性樹脂ポリマー(C)との合計100重量部に対して、さらに酸化防止剤(E)を0.02〜1.0重量部含有すること、および
前記酸化防止剤(E)が、テトラキス−[メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンであること
が、いずれも好ましいポリエステル組成物であり、これらの条件の少なくとも一つの条件を満たすことによって一層優れた効果の取得を期待することができる。
【0011】
また、本発明のポリエステルモノフィラメントは、上記のポリエステル組成物からなることを特徴とし、特に、繊維軸方向に垂直な断面の形状が円もしくは扁平であることが好ましい条件である。
【0012】
さらに、本発明の工業用織物は、上記のポリエステルモノフィラメントを、緯糸または経糸の少なくとも一部に使用したことを特徴とし、なかでも、抄紙ドライヤーカンバス、不織布の熱接着工程用ベルト織物および熱処理炉内搬送ベルト用織物から選ばれた少なくとも1種に使用した場合に優れた効果を発揮する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、以下に説明するとおり、従来のものより一層優れた耐加水分解性を有すると共に、さらには耐酸化分解性(以下、耐乾熱性という)にも優れたポリエステル組成物、このポリエステル組成物からなるポリエステルモノフィラメントおよびこのポリエステルモノフィラメントを用いた抄紙ドライヤーカンバス、不織布の熱接着工程用ベルト織物、熱処理炉内搬送ベルト用織物を代表とする各種工業用織物を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0015】
本発明のポリエステル組成物を構成するポリエステル(A)において、ポリエチレンテルフタレート(以下、PETという)とは、ジカルボン酸成分の90モル%以上がテレフタル酸からなり、またグリコール成分の90モル%以上がエチレングリコールからなるものが好適である。
【0016】
本発明の効果を効率よく発現させるために、PET中にリン化合物を、リン原子として50ppm以下で、かつ下記の一般式1の範囲内の量を含有させることができる。
5×10−3≦P≦M+8×10−3 式1
(式中のPは、PETを構成する二塩基酸に対するリン原子のモル%であり、MはPET樹脂中の金属で、周期律表II族、VII族、VIII族でかつ、第3,4周期の内より選択された1種もしくは2種以上の金属原子のポリエステルを構成する二塩基酸に対するモル%である。M=0であってもよい。)。
【0017】
PETは、上記のテレフタル酸成分の一部を、例えば2,6−ナフタレンジカルボン酸、イソフタル酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、ダイマー酸、スルホン酸金属塩置換イソフタル酸などで置き換えたものであってもよい。また、上記のエチレングリコール成分の一部を、例えばプロピレングリコール、テトラメチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジオール、ポリアルキレングリコールなどで置き換えたものであってもよい。さらに、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、トリメリット酸、トリメシン酸、硼酸などの鎖分岐剤を少量併用することもできる。
【0018】
また、PETには、酸化チタン、酸化ケイ素、炭酸カルシウム、チッ化ケイ素、クレー、タルク、カオリン、ジルコニウム酸、カーボンブラックなどの各種無機粒子や架橋高分子粒子、各種金属粒子などの粒子類のほか、従来公知の金属イオン封鎖剤、イオン交換剤、着色防止剤、耐光剤、包接化合物、帯電防止剤、各種着色剤、ワックス類、シリコーンオイル、各種界面活性剤などが添加されていてもよい。
【0019】
本発明で使用するPETの極限粘度は、通常は0.6以上であればよいが、さらに0.7以上であることが好ましい。PETの極限粘度を高めることにより、モノフィラメントの強度が高まり有効である。極限粘度の上限は製造可能な1.5程度以下である。また、本発明のポリエステル組成物は、耐加水分解性、耐乾熱性の点でカルボキシル末端基(以下、COOH末端基という)濃度が10当量/10g以下であることが好ましいことから、PETのCOOH末端基濃度は可能な範囲で低いものが好適である。そのためには、後述するCOOH末端基の封鎖技術以外に、低温重縮合など溶融重縮合の段階でCOOH末端基濃度を低減する方法や溶融重縮合に引き続いて固相重縮合を行うことが有効である。固相重縮合は、COOH末端基濃度を低減できるだけでなく、極限粘度を向上することができるためにも好適である。PETのCOOH末端基濃度は、40当量/10g以下であればよいが、さらに30当量/10g以下が好ましい、さらには25当量/10g以下がより好ましい。
【0020】
また、本発明のポリエステル組成物を構成するポリエステル(A)において、もう一方のポリエチレンナフタレート(以下、PENという)とは、ジカルボン酸成分の90モル%以上が2,6−ナフタレンジカルボン酸からなり、グリコール成分の90モル%以上がエチレングリコールからなるものが好適である。
【0021】
本発明の効果を効率よく発現させるために、PEN中にリン化合物を、PET同様にリン原子として50ppm以下で、かつ前記式1の範囲内の量を含有させることができる。
【0022】
PENは、上記の2,6−ナフタレンジカルボン酸成分の一部を、例えばテレフタル酸、イソフタル酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、ダイマー酸、スルホン酸金属塩置換イソフタル酸などで置き換えたものであってもよい。また、上記のエチレングリコール成分の一部を、例えばプロピレングリコール、テトラメチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジオール、ポリアルキレングリコールなどで置き換えたものであってもよい。さらに、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、トリメリット酸、トリメシン酸、硼酸などの鎖分岐剤を少量併用することもできる。
【0023】
PENには、酸化チタン、酸化ケイ素、炭酸カルシウム、チッ化ケイ素、クレー、タルク、カオリン、ジルコニウム酸、カーボンブラックなどの各種無機粒子や架橋高分子粒子、各種金属粒子などの粒子類のほか、従来公知の金属イオン封鎖剤、イオン交換剤、着色防止剤、耐光剤、包接化合物、帯電防止剤、各種着色剤、ワックス類、シリコーンオイル、各種界面活性剤などが添加されていてもよい。
【0024】
本発明で使用するPENの極限粘度は、通常は0.50以上であればよいが、さらに0.55以上であることが好ましい。PENの極限粘度を高めることにより、モノフィラメントの強度が高まり有効である。極限粘度の上限は製造可能な1.0程度以下である。また、本発明のポリエステル組成物は耐加水分解性、耐乾熱性の点で、COOH末端基濃度が10当量/10g以下であることが好ましいことから、PENのCOOH末端基濃度は可能な範囲で低いものが好適である。そのためには、後述するCOOH末端基の封鎖技術以外に、低温重縮合など溶融重縮合の段階でCOOH末端基濃度を低減する方法や溶融重縮合に引き続いて固相重縮合を行ったものであることが好ましい。PENのCOOH末端基濃度は、40当量/10g以下であることが好ましく、さらに30当量/10以下が好ましい、さらには25当量/10以下がより好ましい。
【0025】
本発明のポリエステル組成物を構成するPETとPENとの合計100重量部からなるポリエステル (A)中における、PET成分/PEN成分の比率は70〜99重量%/30〜1重量%の範囲とすることが必要である。さらに、PET成分/PEN成分の比率は80〜97重量%/20〜3重量%の範囲とすることがより好ましい。PEN成分が1重量%未満であると、優れた耐加水分解性および耐乾熱性を有するポリエステル組成物を得ることができない。また、30重量%を越えると、PETとの相溶性に劣ることに起因して、ポリエステル組成物から適応されるポリエステルモノフィラメントの強度が不足する傾向となる。
【0026】
本発明の第2の発明において、本発明のPETおよびPENからなるポリエステル(A)と、前記ポリエステル(A)以外の熱可塑性樹脂ポリマー(C)からなり、前記(A)と(C)との合計が100重量部である組成物における熱可塑性樹脂ポリマー(C)の含有量は、0.2〜30重量部の範囲とすることが必要である。熱可塑性樹脂ポリマー(C)を0.2〜30重量部含有させたポリエステル組成物から適応されるポリエステルモノフィラメントは、強度低下おこすことなく、耐加水分解性が一層優れたものとなる。さらには、熱可塑性樹脂ポリマー(C)の含有量が0.5〜20重量部であることが好ましい。
【0027】
熱可塑性樹脂ポリマー(C)の含有量が0.2重量部未満では、優れた耐加水分解性が得られず、また、30重量部を越えると、ポリエステル組成物から適応されるポリエステルモノフィラメントの強度が不足する傾向となる。
【0028】
本発明のポリエステル組成物における、前記ポリエステル(A)以外の熱可塑性樹脂ポリマー(以下、ポリマーという)(C)とは、例えば、ポリスチレンおよびポリ−p−メチルスチレン等のポリスチレン類、環状オレフィン系重合体、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィン類、ポリメタクリレート系重合体、各種α−オレフィンと不飽和酸グリシジルエステルとの共重合体等の変性ポリオレフィン類、アイオノマー類、エチレン・塩化ビニル共重合体およびエチレン・酢酸ビニル共重合体等のエチレン・ビニル系共重合体類、テルペン樹脂他の石油樹脂類、ポリアセタール樹脂類、ポリメタクリレート類、スチレン・アクリロニトリル共重合体、スチレン・無水マレイミド共重合体、クマロン・インデン共重合体、ポリフェニレンエーテル類、ポリフェニレンスルフィド類、ポリカーボネート類、ナイロン6およびナイロン6・6などのポリアミド類を挙げることができる。これらのポリマーの1種を単独で使用、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0029】
上記したポリマー(C)の中でも、ポリスチレン類、ポリオレフィン類およびポリメタクリレート系重合体を用いることが、優れた耐加水分解性および耐乾熱性を有するポリエステル組成物を得ることができるため好適である。
【0030】
ポリスチレン類であるスチレン系ポリマーは、スチレン系モノマーを塊状重合、溶液重合、乳化重合または懸濁重合などの方法で重合させたポリマーであり、例えば、スチレンあるいはp−メチルスチレン、m−メチルスチレン、o−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、2,5−ジメチルスチレン、3,4−ジメチルスチレン、p−タ−シャリーブチルスチレンなどのアルキルスチレン類あるいはp−クロロスチレン、m−クロロスチレン、o−クロロスチレン、p−ブロモスチレン、m−ブロモスチレン、o−ブロモスチレン、p−フルオロスチレン、m−フルオロスチレン、o−フルオロスチレン、o−メチル−p−フルオロスチレンなどのハロゲン化スチレン類、p−クロロメチルスチレン、m−クロロメチルスチレンなどのハロゲン置換アルキルスチレン類、p−メトキシスチレンなどのアルコキシスチレン類などから選ばれた1種以上のスチレン系モノマーからなるアタクチック構造ポリスチレン、アイソタクチック構造ポリスチレン、シンジオタクチック構造ポリスチレン(以下、SPSという)などを挙げることができる。
【0031】
これらのスチレン系ポリマーの中でも、ポリマーの50重量%以上がシンジオタクチック構造を有するスチレン系ポリマーを用いると、耐加水分解性、耐乾熱性をより向上できるばかりか、製造時の工程通過性が良好となるため好ましい。また、スチレン系ポリマーが、ポリマーの90重量%以上がシンジオタクチック構造を有するものである場合は更に好ましい。
【0032】
SPSは、特開昭62−104818号公報に記載された方法、すなわちスチレン系モノマーを原料として、例えばハロゲン化チタン、アルコキシチタン等のチタニウム化合物とアルキルアルミノキサンとの組み合わせからなる触媒の存在下に重合することにより得ることができる。また、市販品として購入することもできる。SPSとしてはモノマー成分として85モル%以上がスチレンからなるポリマーが本発明のポリエステル組成物もしくはモノフィラメントの耐乾熱性が一層優れたものとなるため好ましい。また、スチレンに15モル%未満のp−メチルスチレンを共重合したポリマーも好ましく用いることができる。
【0033】
SPSの分子量は一般に重量平均分子量で10万〜50万の範囲のものが好ましい。
【0034】
50重量%以上がシンジオタクチック構造を有するスチレン系ポリマーは、SPSと、アタクチック構造ポリスチレンとを溶融混練することなどにより得ることもできる。
【0035】
ポリオレフィン類であるポリオレフィン系ポリマーは、公知のオレフィン系モノマーから重合したポリマーであり例えば、環状オレフィン系重合体、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ−4−メチルペンテン−1、ポリブテン−1、ポリペンテン、ポリ−3−メチルブテン−1、などを挙げることができる。上記した、ポリオレフィン類の中でも環状オレフィン系重合体、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテンが好ましく、特には環状オレフィン系重合体を用いるのが好適である。
【0036】
上記、環状オレフィン系重合体は、エチレンを主成分とする炭素数が2以上のα−オレフィンと1種の環状オレフィンとのランダム共重合体(以下、エチレン・環状オレフィンランダム共重合体という)であり、このエチレン・環状オレフィンランダム共重合体を構成するところの、炭素数が2以上のα−オレフィンとしては、エチレン単独あるいは主成分であるエチレンの他に、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、3−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ペンテン、3−エチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ヘキセン、4,4−ジメチル−1−ヘキセン、4,4−ジメチル−1−ペンテン、4−エチル−1−ヘキセン、3−エチル−1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、1−エイコセン等を単独あるいは組み合わせてエチレンに少量混合して使用することができる。
【0037】
また、エチレン・環状オレフィンランダム共重合体を構成するところの、環状オレフィンとしては次の化合物挙げることができる。
【0038】
ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン誘導体、トリシクロ[4.3.0.12,5]−3−デセン誘導体、トリシクロ[4.3.0.12,5 ]−3−ウンデセン誘導体、テトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン誘導体、ペンタシクロ[6.6.1.13,6 .02,7 .09,14]−4−ヘキサデセン誘導体、ペンタシクロ[6.5.1.13,6 .02,7 .09,13]−4−ヘキサデセン誘導体、ペンタシクロ[7.4.0.12,5 .19,12.08,13]−3−ペンタデセン誘導体、ペンタシクロペンタデカジエン誘導体、ペンタシクロ[8.4.0.12,5 .19,12.08,13]−3−ペンタデセン誘導体、ヘキサシクロ[6.6.1.13,6 .110,13 .02,7 .09,14]−4−ヘプタデセン誘導体、ヘプタシクロ[8.7.0.13,6 .110,17 .112,15 .02,7 .011,16 ]−4−エイコセン誘導体、ヘプタシクロ[8.7.0.13,6 .110,17 .112,17 .02,7 .011,16 ]−5−エイコセン誘導体、 ヘプタシクロ[8.8.0.11,7 .111,18 .113,16 .03,8 .012,17 ]−5−ヘンエイコセン誘導体、ヘプタシクロ[8.8.0.12,9 .14,7 .111,18 .03,8 .012,17]−5−ヘンエイコセン誘導体、 オクタシクロ[8.8.0.12,9 .14,7.111,18 .113,16 .03,8 .012,17 ]−5−ドコセン誘導体、ノナシクロ[10.9.1.14,7 .113,20 .115,18 .03,8 .02,10.012,21 .014,19 ]−5−ペンタコセン誘導体、ノナシクロ[10.10.1.15,8 .114,21 .116,19 .02,11.04,9 .013,22 .015,20 ]−5−ヘキサコセン誘導体、1,4−メタノ−1,4,4a,9a−テトラヒドロフルオレン誘導体、1,4−メタノ−1,4,4a,5,10,10a−ヘキサヒドロアントラセン誘導体、シクロペンタジエン−アセナフチレン付加物。
【0039】
前記、環状オレフィンは、シクロペンタジエン類と対応するオレフィン類または環状オレフィン類とを、ディールス・アルダー反応により縮合させることにより得ることができる。エチレン・環状オレフィンランダム共重合体の、エチレンを主成分とするα−オレフィンと環状オレフィンとの共重合比率は特に制限はないが、通常は、エチレンを主成分とするα−オレフィン成分40〜80モル%、環状オレフィン成分20〜60モル%の範囲である。
【0040】
エチレン・環状オレフィンランダム共重合体は、通常は反応溶媒に対して可溶性のバナジウム化合物と、有機アルミニウム化合物とからなる触媒を用いて、溶媒中で反応させて得られる非晶性の重合体である。
【0041】
また、1種の環状オレフィンの開環重合体もしくは開環共重合体またはその水添物(以下、環状オレフィンの開環重合体もしくは開環共重合体またはその水素添加物という)を構成する、環状オレフィンとしては、上記したα−オレフィン・環状オレフィンランダム共重合体を構成する環状オレフィン類に加えて、5−メトキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−エトキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−プロポキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−イソプロポキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−ブトキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−(2−メチルプロポキシ)カルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−(1,2−ジメチルエトキシ)カルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−シクロヘキシルオキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−(4’−t−ブチルシクロヘキシルオキシ)カルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−フェノキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−メチル−5−メトキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−メチル−5−エトキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−メチル−5−プロポキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−メチル−5−イソプロポキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−メチル−5−ブトキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−メチル−5−(2−メチルプロポキシ)カルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−メチル−5−(1,2−ジメチルエトキシ)カルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−メチル−5−シクロヘキシルオキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−メチル−5−(4’−t−ブチルシクロヘキシルオキシ)カルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−メチル−5−フェノキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−シアノビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−メチル−5−シアノビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、8−メトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.02,5 .17,10]ドデカ−3−エン、8−エトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.02,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−プロポキシカルボニルテトラシクロ[4.4.02,5 .17,10]ドデカ−3−エン、8−イソプロポキシカルボニルテトラシクロ[4.4.02,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−ブトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.02,5 .17,10]ドデカ−3−エン、8−(2−メチルプロポキシ)カルボニルテトラシクロ[4.4.02,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−(1−メチルプロポキシ)カルボニルテトラシクロ[4.4.02,5 .17,10]ドデカ−3−エン、8−(2,2−ジメチルエトキシ)カルボニルテトラシクロ[4.4.02,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−シクロヘキシルオキシカルボニルテトラシクロ[4.4.02,5 .17,10]ドデカ−3−エン、8−(4’−t−ブチルシクロヘキシルオキシ)カルボニルテトラシクロ[4.4.02,5 .17,10]ドデカ−3−エン、8−フェノキシカルボニルテトラシクロ[4.4.02,5 .17,10]ドデカ−3−エン、8−メチル−8−メトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.02,5 .17,10]ドデカ−3−エン、8−メチル−8−エトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.02,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−メチル−8−イソプロポキシカルボニルテトラシクロ[4.4.02,5 .17,10]ドデカ−3−エン、8−メチル−8−プロポキシカルボニルテトラシクロ[4.4.02,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−メチル−8−ブトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.02,5 .17,10]ドデカ−3−エン、8−メチル−8−(2−メチルプロポキシ)カルボニルテトラシクロ[4.4.02,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−メチル−8−(1−メチルプロポキシ)カルボニルテトラシクロ[4.4.02,5 .17,10]ドデカ−3−エン、8−メチル−8−(2.2−ジメチルエトキシ)カルボニルテトラシクロ[4.4.02,5 .17,10]ドデカ−3−エン、8−メチル−8−シクロヘキシルオキシカルボニルテトラシクロ[4.4.02,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−メチル−8−(4’−t−ブチルシクロヘキシルオキシ)カルボニルテトラシクロ[4.4.02,5 .17,10]ドデカ−3−エン、8−メチル−8−フェノキシカルボニルテトラシクロ[4.4.02,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−シアノテトラシクロ[4.4.02,5 .17,10]ドデカ−3−エン、8−メチル−8−シアノテトラシクロ[4.4.02,5.17,10]ドデカ−3−エン等を挙げることができる。これらの環状オレフィンは、単独あるいは組み合わせて用いることができる。
【0042】
環状オレフィンの開環重合体もしくは開環共重合体またはその水素添加物は、上記した環状オレフィン類を、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、インジウム、白金、タングステンなどの金属のハロゲン化物、これらの金属の硝酸塩、またはこれらの金属のアセチルアセトナートと、還元剤とからなる触媒および、チタン、パラジウム、ジルコニウム、モリブデンなどの金属のハロゲン化物またはこれらの金属のアセチルアセトナートと、有機アルミニウムとからなる触媒の存在下に重合させたものである。
【0043】
上記のエチレン・環状オレフィンランダム共重合体、環状オレフィン開環(共)重合体、環状オレフィン開環(共)重合体の水素添加物の極限粘度(以下、〔η〕という)は、135℃のデカリン中で測定した〔η〕が通常は0.01〜20dl/gであり、特に0.05〜10dl/g、さらには0.08〜8dl/gであることが好ましい。上記のエチレン・環状オレフィンランダム共重合体、環状オレフィン開環(共)重合体、環状オレフィン開環(共)重合体の水素添加物は市販品として、“アペル”(登録商標)(三井石油化学工業社製品)、“ゼオネックス”(登録商標)(日本ゼオン社製品)、“アートン”(登録商標)(日本合成ゴム社製品)などとして知られている。
【0044】
ポリメタクリレート系重合体としては、例えば、ポリメチルメタクリレート、ポリエチルメタクリレート、ポリn−プロピルメタクリレート、ポリn−ブチルメタクリレート、ポリn−オクチルメタクリレート、ポリn−デシルメタクリレート、ポリn−テトラデシルメタクリレート等を挙げることができる。これらのポリメタクリレート系重合体の中でも特にポリメチルメタクリレートが好ましい。
【0045】
本発明のポリエステル組成物およびポリエステルモノフィラメントには、例えば、ポリエステルアミド、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ポリウレタン樹脂、などを必要に応じブレンドしたものでもよい。なお、これらの樹脂は上記ポリマー(C)の含有量に加えることができる。
【0046】
本発明のポリエステル組成物から適応されるポリエステルモノフィラメントおよびポリエステルモノフィラメントを用いた工業用織物は、耐加水分解性および耐乾熱性が要求されることから、ポリエステル組成物中のCOOH末端基濃度を低減させることが有効である。ポリエステル組成物の耐加水分解性および耐乾熱性を優れたものとするためには、COOH末端基濃度が10当量/10g以下であることが特に好ましい。さらには、7当量/10g以下であることが好ましい。COOH末端基濃度が10当量/10gを越えると、ポリエステル組成物およびポリエステル組成物から適応されるポリエステルモノフィラメントの耐加水分解性が不十分となり、さらには耐乾熱性に劣る傾向となる。
【0047】
COOH末端基濃度が10当量/10g以下のポリエステル組成物を得るには、本発明のポリエステル組成物中のポリエステル(A)を固相重縮合すること、ポリエステル(A)100重量部、またはポリエステル(A)とポリマー(C)との合計100重量部に対して、未反応状態のモノカルボジイミド化合物(B)を0.01〜1.5重量部の範囲で含有させることが必要である。この含有量は0.02〜1.5重量部であることがさらに好ましい。未反応状態のモノカルボジイミド化合物(B)の含有量が0.01重量部未満は耐加水分解性が低下する。また1.5重量部より多いとポリエステル組成物から適応されるポリエステルモノフィラメントの強度が低いものとなる。
【0048】
本発明のポリエステル組成物が含有する未反応状態のモノカルボジイミド化合物(以下、未反応状態のMCDという)(B)としては、1分子中に1個のカルボジイミド基(−N=C=N−)を有する化合物であればいかなるものでもよく、例えば、N,N’−ジ−o−トリイルカルボジイミド、N,N’−ジフェニルカルボジイミド、N,N’−ジオクチルデシルカルボジイミド、N,N’−ジ−2,6−ジメチルフェニルカルボジイミド、N−トリイル−N’−シクロヘキシルカルボジイミド、N,N’−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N’−ジ−2,6−ジ−tert. −ブチルフェニルカルボジイミド、N−トリイル−N’−フェニルカルボジイミド、N,N’−ジ−p−ニトロフェニルカルボジイミド、N,N’−ジ−p−アミノフェニルカルボジイミド、N,N’−ジ−p−ヒドロキシフェニルカルボジイミド、N,N’−ジ−シクロヘキシルカルボジイミド、N,N’−ジ−p−トリイルカルボジイミド等が挙げられる。これらのモノカルボジイミド化合物の中から1種または2種以上の化合物を任意に選択しポリエステルに含有させればよいが、耐熱安定性の点から、芳香族骨格を有する化合物が有利な傾向にあり、中でもN,N’−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N’−ジ−2,6−ジ−tert. −ブチルフェニルカルボジイミド、N,N’−ジ−2,6−ジメチルフェニルカルボジイミド、N,N’−ジ−o−トリイルカルボジイミドなどが有利な傾向にあり、特にN,N’−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド(以下、TICという)が好適である。TICは市販品として、“Stabaxol”(登録商標)I(Rhein−Chemie社製品)、または“Stabilizer”(登録商標)7000(RaschigAG社製品)を入手して使用することができる。
【0049】
また、ポリエステル組成物中のCOOH末端基濃度を低減させる、上記カルボジイミド化合物の他にモノまたはジエポキシ化合物あるいはモノまたはビスオキサゾリン化合物等を適量併用添加することもできる。
【0050】
また、本発明のポリエステル組成物がポリカルボジイミド化合物(以下、PCDという)(D)を含有すると、耐加水分解性および耐乾熱性が優れたものとなるため好ましい。ポリエステル組成物に、PCD(D)を、ポリエステル(A)とポリマー(C)との合計100重量部に対して、0.02〜1.5重量部含有させることが特に好ましい。さらには、0.05〜1.2重量部であることが好ましい。PCD(D)の含有量が0.02重量部未満では、長期間高温高湿に曝された場合に耐乾熱性に劣る傾向となる。一方、1.5重量部を超えると、ポリエステル(A)と溶融混練する際に、ポリエステル(A)と架橋反応することで、著しい粘度増加を起こし、成形性が低下したりポリエステルモノフィラメントの物性が低下する傾向となる。
【0051】
ここで、PCD(D)は、未反応のカルボジイミド基(D1)と、ポリエステルのカルボキシル末端基およびヒドロキシル末端基と反応しているカルボジイミド基(D2)との合計[(D1)+(D2)]で1分子中に5〜50個含有するアルキル置換芳香族ポリカルボジイミド化合物である。
【0052】
PCDとしては、アルキル置換フェニルカルボジイミドを繰り返し単位とするポリカルボジイミド化合物であり、カルボジイミド基に対して、フェニル基のオルトの位置がメチル基、エチル基、イソプロピル基またはt−ブチル基等のアルキル基、特に好ましくはイソプロピル基で置換されたもの、すなわち2,6−および/または2,4,6−位および/または2,3−位および/または2,5−位がイソプロピル基で置換されたフェニルカルボジイミドを繰り返し単位の主体とするポリカルボジイミド化合物が挙げられる。
【0053】
PCD1分子は、本発明のポリエステル組成物中で一部がポリエステルのCOOH末端基やヒドロキシル末端基と反応しているが、未反応のカルボジイミド基(D1)とカルボジイミド基(D2)との合計[(D1)+(D2)]で5〜50個を有するものである。
【0054】
PCD(D)の平均分子量は2,000〜16,000であり、好ましくは2,500〜12,000の平均分子量を有する。
【0055】
PCD(D)は市販品として、平均分子量3,000 の“Stabaxol”(登録商標)P(Rhein−Chemie社製品)、平均分子量10,000の“Stabaxol”(登録商標)P100(Rhein−Chemie社製品)を入手して使用できる。
【0056】
PCD(D)は、ポリエステルまたはオレフィン系ポリマーに予め高濃度に含有させたマスターバッチとして用いることができる。マスターバッチはポリエチレンを1〜8重量%含有したものも、得られるポリエステル製品の耐加水分解性が一層良好となる傾向にあるため好ましく用いることができる。PCD(D)を含有するPETマスターバッチ(以下、PCD−MBという)は市販品として、平均分子量10,0000の“Stabaxol”(登録商標)P100を15重量%含有する“Stabaxol”(登録商標)KE7646(Rhein−Chemie社製品)、および平均分子量3,000の“Stabaxol”(登録商標)Pを8重量%と平均分子量10,000の“Stabaxol”(登録商標)P100を7重量%含有する“Stabaxol”(登録商標)KE8059(Rhein−Chemie社製品)等を入手することができる。
【0057】
また、本発明のポリエステル組成物が酸化防止剤(E)を含有すると、耐乾熱性が優れたものとなることから好ましく用いられる。その場合、ポリエステル(A)とポリマー(C)との合計100重量部に対して、含有させる酸化防止剤(E)の量は、0.02〜1.0重量部が好ましく、さらには0.05〜0.7重量部含有することにより、耐乾熱性が一層優れたものとなる。酸化防止剤(E)の含有量が0.02未満では、長期間高温高湿に曝された場合に十分な耐乾熱性が得がたい。一方、含有量が1.0重量部を越えると、耐加水分解性が低下する傾向となる。
【0058】
酸化防止剤(E)としては、フェノール系酸化防止剤が有効であり、例えば、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ブチルヒドロキシアニソール、2,6−ジ−t−ブチル−4−エチルフェノール、ステアリル−β−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、3,9−ビス〔1,1’−ジメチル−2−〔β−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ〕エチル〕2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5,5〕ウンデカン、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、テトラキス−〔メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタン、ビス〔3,3’−ビス−(4’−ヒドロキシ−3’−t−ブチルフェニル)ブチリックアシッド〕グリコールエステル、および1,3,5−トリス(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシベンジル)−S−トリアジン−2,4,6−(1H,3H,5H)トリオンなどを挙げることができる。ただし、これに何ら制限されるものではない。
【0059】
これらのフェノール系酸化防止剤の中では、テトラキス−〔メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタンが特に好ましい。テトラキス−〔メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタンは市販品として、例えば“Irganox”(登録商標)1010(チバ・スペシャリテイ・ケミカルズ社製品)が知られており、これを入手して使用することができる。
【0060】
本発明のポリエステル組成物の製造は、本発明のPETとPENからなるポリエステル(A)100重量部、またはポリエステル(A)とポリマー(C)との合計100重量部に対して、モノカルボジイミド化合物およびPCD(D)、さらに酸化防止剤(E)の必要量を溶融混練し、ペレット、フレーク、繊維、フィルム、成形品など任意の形状に成形することで得ることができる。
【0061】
モノカルボジイミド化合物は、ポリマー(C)に予め高濃度に含有させたマスターバッチとして用いることができる。また、モノカルボジイミド化合物とPCD(D)はお互いに溶解させて使用することができる。さらに、本発明のポリエステル組成物およびポリエステルモノフィラメントは、耐加水分解性および耐乾熱性以外の機能として、防汚性(撥水・撥油性)を発現させる目的で、公知の各種フッ素樹脂を含有させることができる。
【0062】
本発明のポリエステル組成物の具体的な製造例としては、例えば、PETペレットとPENペレットを各々のホッパーに必要量仕込む、またはPETペレットとPENペレットとを必要量ブレンドしホッパーに必要量仕込み1軸もしくは2軸エクストルダーに必要量供給したポリエステル(A)および所定量のポリマー(C)、必要に応じて所定量のPCD(D)を高濃度に含有したPCD−MB、酸化防止剤(E)とを計量供給し、エクストルダーの入り口または、エクストルダーのバレルの途中から液体状のモノカルボジイミド化合物を計量添加して溶融混練した後押し出し、必要に応じて冷却することなどを経て任意の形状に成形する方法(以下、製造方法1という)、または、1軸もしくは2軸エクストルダーに前記同様に必要量供給したポリエステル(A)およびPCD(D)を高濃度に含有したポリマー(C)マスターペレット、必要に応じて所定量の酸化防止剤(E)を計量供給し、エクストルダーの入り口または、エクストルダーのバレルの途中から液体状のモノカルボジイミド化合物を計量添加して溶融混練した後押し出し、必要に応じて冷却することなどを経て任意の形状に成形する方法(以下、製造方法2という)、または、1軸もしくは2軸エクストルダーに前記同様に必要量供給したポリエステル(A)およびポリマー(C)、必要に応じて所定量の酸化防止剤(E)を計量供給し、エクストルダーの入り口または、エクストルダーのバレルの途中から予めモノカルボジイミド化合物とPCD(D)とを所定の濃度に溶融混合した混合物を計量供給して溶融混練した後押し出し、必要に応じて冷却することなどを経て任意の形状に成形する方法(以下、製造方法3という)、または、1軸もしくは2軸エクストルダーに前記同様に必要量供給したポリエステル(A)およびポリマー(C)、PCD化合物(C)、酸化防止剤(E)とを計量供給し、エクストルダーの入り口または、エクストルダーのバレルの途中から液体状のモノカルボジイミド化合物を計量添加して溶融混練した後押し出し、必要に応じて冷却することなどを経て任意の形状に成形する方法(以下、製造方法4という)などを挙げることができる。これらの方法のうちでは、前記製造方法1〜3が工業的に有利である。
【0063】
これらの一連の製造方法において、ポリエステル(A)とモノカルボジイミド化合物およびポリマー(C)に、必要に応じて所定量のPCD(D)、酸化防止剤(E)とを溶融混練する時の温度は、ポリエステル(A)およびポリマー(C)の融点以上、290℃以下に調節することが有利であり、280℃〜288℃の範囲に調節するのが更に有利である。また、溶融してから吐出するまでの滞留時間は7分以下が有利であり、5分以下が更に有利である。溶融混練温度と溶融してから吐出するまでの滞留時間とを上記の範囲に調節することにより、耐加水分解性と耐乾熱性に優れた本発明のポリエステル組成物を好ましく製造することができる。
【0064】
かくして得られる本発明のポリエステル組成物はモノフィラメントの他に、マルチフィラメント、不織布、ステープルファイバーおよび綿状などの繊維状、コネクター、自動車ワイパーなどの成形物、ボトル、フィルム、シート等いかなる形状の物でもよく、各種工業用織物、電子部品、自動車部品、ボトル、フィルム、シート等に好ましく用いることができる。
【0065】
本発明のポリエステルモノフィラメントの製造は、前記した、製造方法1〜4におけるエクストルダーの先端部に設置したポリマー流線入替器、濾過層、などを経て紡糸口金より押し出し、冷却・延伸・熱セットを行うなどの方法で製造することができる。
【0066】
本発明のポリエステル組成物から適応されるポリエステルモノフィラメントは、1本の単糸からなる連続糸である。 ポリエステル繊維およびモノフィラメントの繊維軸方向に垂直な断面の形状(以下、断面形状もしくは断面という)は、円、扁平、正方形、半月状、三角形、5角以上の多角形、多葉状、ドッグボーン状、繭型などいかなる断面形状を有するものでもよい。本発明のモノフィラメントを工業用織物の構成素材として用いる場合には、モノフィラメントの断面形状が円もしくは扁平の形状であることが好ましい。特に、モノフィラメントが抄紙用ドライヤーカンバスの経糸である場合には、防汚性を有効に発現させることと、カンバスの平坦性という観点とから、モノフィラメントの断面形状が扁平なものが好ましく用いられる。本発明における扁平とは、楕円、正方形もしくは長方形のことであるが、数学的に定義される正確な楕円、正方形もしくは長方形以外に、概ね楕円、正方形もしくは長方形に類似した形状、例えば正方形および長方形の4角を丸くした形状を含むものである。また、楕円の場合は、楕円の中心で直角に交わる長軸の長さ(LD)と短軸の長さ(SD)とが次式を満足する関係にあり、正方形もしくは長方形の場合は、長方形の長辺の長さ(LD)と短辺の長さ(SD)とが次式を満足する関係にあることが好ましい。
1.0≦LD/SD≦10
【0067】
モノフィラメント断面の重心を通る線分の長さは、用途によって適宜選択できるが、0.05〜2.5mmの範囲が好ましい。また、糸の必要強度は用途により異なるが、概ね3.0cN/dtex以上であることが好ましい。強度が3.0cN/dtex未満では、工業織物の必要最低限を維持できない可能性が高く、工業用織物への展開が難しい傾向となる。
【0068】
かくして得られる本発明のポリエステル組成物から適応されるポリエステルモノフィラメントの他に、本発明のポリエステル組成物は、マルチフィラメント、不織布、ステープルファイバーおよび綿状などの繊維にも好ましく用いることができる。
【0069】
本発明の工業用織物とは、本発明のポリエステルモノフィラメントを織物の緯糸および/または経糸の少なくとも一部に使用した抄紙ドライヤーカンバス、抄紙ワイヤー(紙漉き用の網)、不織布の熱接着工程用ベルト、熱処理炉内搬送ベルト用織物、各種フィルターのことであり、本発明のポリエステルモノフィラメントを工業用織物の少なくとも一部の構成素材として用いた工業用織物は、高温・高湿に曝された場合の耐久性が優れた有用なものである。
【0070】
ここで抄紙ワイヤーとは、平織、二重織および三重織など様々な織物として、紙の漉き上げ工程で使用される織物のことで長網あるいは丸網などとして用いられるものである。
【0071】
抄紙ドライヤーカンバスは、平織り、二重織および三重織など様々な織物(相前後する緯糸と緯糸とがスパイラル状の経糸用モノフィラメントによって織継がれたスパイラル状織物を含む)として、抄紙機のドライヤー内で紙を乾燥させるために使用される織物のことである。
【0072】
また、不織布の熱接着工程用ベルト織物とは、不織布を構成する低融点のポリエチレンのような熱接着性繊維を融着させるために不織布を炉中に通過させるための織物であり、平織り、二重織、などの織物である。
また、熱処理炉内搬送ベルト用織物とは、各種半製品の乾燥、熱硬化、殺菌、加熱調理のなどのために高温ゾーン内において半製品を搬送する織物のことである。
さらにまた、各種フィルターとは、高温の液体、気体、粉体等をろ過する織物のことである。
【実施例】
【0073】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明する。
【0074】
なお、以下の実施例における特性値は各実施例の中で特に記載ない限り、次に示す方法によって測定したものである。
【0075】
1.ポリエステルの極限粘度の測定
オルソクロロフェノール溶液中25℃で測定した粘度より求めた極限粘度であり、〔η〕で表わされる値である。
【0076】
2.ポリエステルCOOH末端基濃度の測定
PohiによりANALYTICAL CHEMISTRY 第26巻、1614頁に記載された方法で測定したものである。
【0077】
3.未反応状態のモノカルボジイミド化合物の含有量の測定
(1)100mlメスフラスコに試料約200mgを秤取する。
(2)ヘキサフルオロイソプロパノール/クロロホルム(容量比1/1)2mlを加えて試料を溶解させる。
(3)試料が溶解したら、クロロホルム8mlを加える。
(4)アセトニトリル/クロロホルム(容量比9/1)を徐々に加えポリマーを析出させながら100mlとする。
(5)試料溶液を目開き0.45μmのディスクフィルターで濾過し、HPLCで定量分析する。HPLC分析条件は次の通り。
カラム:Inertsil ODS−2 4.6mm×250mm移動相:アセトニトリル/水(容量比94/6)
流 量:1.5ml/min.
試料量:20μl検出器:UV(280nm)。
【0078】
4.モノフィラメントの引張試験
JIS L1013−1992に準拠して行なった。
(1)サンプルつかみ間隔 25cm
(2)引張速度 30cm/min.
(3)試験温度 20℃。
【0079】
5.モノフィラメントの耐加水分解性
モノフィラメントを100リットルのオートクレーブに入れ、121℃飽和水蒸気中で12日間、14日間、16日間、18日間処理した後、処理後のモノフィラメントの強力を上記のモノフィラメントの引張試験により求め、処理前のモノフィラメントの強力と比較した強力保持率を耐加水分解性の尺度とした(以下、蒸熱処理後の強力保持率という)。蒸熱処理後の強力保持率が高いほど耐加水分解性が優れることを表す。
【0080】
6.モノフィラメントの耐乾熱分解性
モノフィラメントを熱風循環式耐熱性試験機に入れ、180℃加熱空気中で10日間、20日間、26日間、30日間処理した後、処理後のモノフィラメントの強力を上記のモノフィラメントの引張試験により求め、処理前のモノフィラメントの強力と比較した強力保持率を耐乾熱分解性の尺度とした(以下、乾熱処理後の強力保持率という)。乾熱処理後の強力保持率が高いほど耐乾熱分解性が優れることを表す。
【0081】
〔実施例1〕
原料として、公知の溶融重縮合と固相重縮合とによって製造した〔η〕0.94、COOH末端基濃度13当量/10gのPET乾燥チップ(以下、PETチップという)90重量%、また公知の溶融重縮合と固相重縮合とによって製造した〔η〕0.72、COOH末端基濃度20当量/10gのPEN乾燥チップ(以下、PENチップという)10重量%の量比で計量しながら、1軸エクストルダーの各々のホッパーおよびホッパー下部のポリマー配管を経由して1軸エクストルダーに連続供給した。同時にホッパー下部のポリマー配管中の上記2種類チップ100重量部に対して、モノカルボジイミド化合物(以下、TICという)として80℃で加熱溶融した“Stabilizer”(登録商標)7000(RaschigAG社製品)を、1.3重量部の量比で計量しながら連続供給した。1軸エクストルダー内で約288℃で3分間溶融混練した溶融ポリマーを、ギアポンプを経て紡糸パック内の濾過層を通し、円形断面糸用紡糸口金より紡出した。紡出モノフィラメントを70℃の湯浴で冷却後、常法に従い合計5.0倍に延伸および熱セットを行ない、直径0.400mmの断面形状が円形のモノフィラメントを得た。ポリエステルの組成および得られたポリエステルモノフィラメントの特性を表1および表2に示す。
【0082】
得られたモノフィラメント中の未反応状態のモノカルボジイミド化合物(以下、未反応状態のMCDいう)(B)量は0.27重量部、COOH末端基濃度は1.9当量/10g、強度4.81cN/dtexであった。また、蒸熱処理後の強力保持率はPENを添加しない比較実施例1に比較し強力保持率が高く、また乾熱処理後の強力保持率はPENを添加しても強力保持率の低下はなく、本発明の抄紙用ドライヤーカンバス等の織物に好適であった。
【0083】
〔参考実施例1〕
実施例1のPETチップ以外何も添加せずに、実施例1と同様にして得たポリエステルモノフィラメントのCOOH末端基濃度は20.3当量/10g、強度4.86cN/dtexであった。一方、蒸熱処理後の強力保持率が短期間処理において損なわれてしまい、本発明の抄紙用ドライヤーカンバス等の織物に不適切なものであった。該ポリエステルの組成およびポリエステルモノフィラメントの特性、結果を参考実施例1として表1および表2に示す。
【0084】
〔比較実施例1〕
実施例1のPENチップを添加しない以外は、実施例1同様に行った結果、得られたモノフィラメントは耐加水分解性に劣るものであった。結果を表2に示す。
【0085】
〔実施例2〜8、比較実施例2〜4〕
実施例2〜5および比較実施例2は、実施例1のPENチップの配合を表1に示したように変更、また実施例6〜8および比較実施例3、4は、比較実施例1のTIC添加量を表1に示したように変更した例である。それ以外は実施例1と同様に行って得たポリエステルモノフィラメントの内容と結果を表1および表2に併示する。
表2の結果から、実施例2〜8の本発明のポリエステルモノフィラメントは十分な強度と耐加水分解性および耐乾熱性を有し抄紙用ドライヤーカンバス等の織物に好適なものであった。
【0086】
〔実施例9〜27、比較実施例5〜8〕
実施例9〜13、比較実施例6は、実施例1に、また比較実施例5は比較実施例1に、ポリマー(C)として、モノマーの99重量%以上がスチレンで、ポリマーの99重量%以上がシンジオタクチック構造を有する重量平均分子量約30万のSPSを含有させた例である。それ以外は実施例1と同様に行って得たポリエステルモノフィラメントの内容と結果を表3および表4に併示する。
【0087】
表4の結果から実施例9〜13の本発明のポリエステルモノフィラメントは十分な強度と耐加水分解性および耐乾熱性を有し抄紙用ドライヤーカンバス等の織物に好適なものであった。
【0088】
また、実施例14〜19、比較実施例7は、実施例1にポリマー(C)として、エチレン・環状オレフィン共重合体である“アペル”(登録商標)6015(三井化学(株)製)(以下、APELという)を含有させた例である。それ以外は実施例1と同様に行って得たポリエステルモノフィラメントの内容と結果を表3および表4に併示する。
表4の結果から実施例14〜19の本発明のポリエステルモノフィラメントは十分な強度と耐加水分解性および耐乾熱性を有し抄紙用ドライヤーカンバス等の織物に好適なものであった。
【0089】
また、ポリマー(C)として、実施例20は融点180℃のポリプロピレン(以下、PPという)、実施例21は融点132℃の高密度ポリエチレン(以下、HDPEという)、実施例22は融点235℃のポリメチルペンテン(以下、PMPTという)を使用した例である。それ以外は実施例1と同様に行って得たポリエステルモノフィラメントの内容と結果を表3および表4に併示する。
【0090】
表4の結果から実施例20〜22の本発明のポリエステルモノフィラメントは十分な強度と耐加水分解性および耐乾熱性を有し抄紙用ドライヤーカンバス等の織物に好適なものであった。
【0091】
実施例23〜27、比較実施例8は、実施例1にポリマー(C)として、ピカット軟化点116℃のメタクリル樹脂“スミペックス”(登録商標)MH(住友化学工業(株)製品、以下、PMMAという)を含有させた例である。それ以外は実施例1と同様に行って得たポリエステルモノフィラメントの内容と結果を表3および表4に併示する。
表4の結果から、実施例23〜27の本発明のポリエステルモノフィラメントは十分な強度と耐加水分解性および耐乾熱性を有し抄紙用ドライヤーカンバス等の織物に好適なものであった。
【0092】
〔実施例28〜38、比較実施例9、10〕
実施例28〜34、比較実施例9、10は、実施例10のTIC添加量変更およびPCD(D)である平均分子量10,000の“Stabaxol”(登録商標)P100(Rhein−Chemie社製品)(1分子中に29個のカルボジイミド基を有する平均分子量10,000のPCD)を15重量%含有するPETマスターバッチ(以下、PCD−MDという)“Stabaxol”(登録商標)KE7646(Rhein−Chemie社製品)、(以下、KE7646という)の添加量変更の例である。さらに実施例33は 実施例31に酸化防止剤(E)であるテトラキス〔メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタン(チバ・スペシャリテイ・ケミカルズ社製品、IRGANOX(登録商標)1010(以下、IR1010という)を添加した例である。それ以外は実施例10と同様に行って得られたポリエステルモノフィラメントの内容と結果を表5および表6に併示する。
【0093】
表6の結果から、実施例28〜34の本発明のポリエステルモノフィラメントは十分な強度と耐加水分解性および耐乾熱性を有し抄紙用ドライヤーカンバス等の織物に好適なものであった。
【0094】
また、実施例35、36は実施例15に、実施例37、38は実施例24に、PCD(D)およびIR1010を添加した以外は、同様に行った例である。得たポリエステルモノフィラメントの内容と結果を表5および表6に併示する。
【0095】
表6の結果から、実施例35〜38の本発明のポリエステルモノフィラメントは十分な強度と耐加水分解性および耐乾熱性を有し抄紙用ドライヤーカンバス等の織物に好適なものであった。
【0096】
【表1】

【0097】
【表2】

【0098】
【表3】

【0099】
【表4】

【0100】
【表5】

【0101】
【表6】

【産業上の利用可能性】
【0102】
以上説明したように、本発明のポリエステル組成物は、ポリエチレンテレフタレート成分とポリエチレンナフタレート成分からなるポリエステルと未反応状態のモノカルボジイミド化合物および/またはとポリエチレンテレフタレート成分とポリエチレンナフタレート成分からなるポリエステルと熱可塑性樹脂ポリマー、未反応状態のモノカルボジイミド化合物およびポリカルボジイミド化合物を含有したものであり、従来のものよりも一層優れた耐加水分解性と耐酸化分解性とを有している。また、本発明のポリエステル組成物から適応されるポリエステルモノフィラメントおよびこのポリエステルモノフィラメントを用いた抄紙ドライヤーカンバス、不織布の熱接着工程用ベルト織物、熱処理炉内搬送ベルト用織物から選ばれた少なくとも1種に使用される各種工業用織物は、上記した特性により、産業上利用価値の高い有用なものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレンレフタレート成分が70〜99重量%、ポリエチレンナフタレート成分が30〜1重量%からなるポリエステル(A)100重量部に対して、未反応状態のモノカルボジイミド化合物(B)を0.01〜1.5重量部含有させてなることを特徴とするポリエステル組成物。
【請求項2】
ポリエチレンテレフタレート成分が70〜99重量%、ポリエチレンナフタレート成分が30〜1重量%からなるポリエステル(A)70〜99.8重量部、および前記ポリエステル(A)以外の熱可塑性樹脂ポリマー(C)0.2〜30重量部からなり、前記(A)と(C)との合計が100重量部である組成物に対して、未反応状態のモノカルボジイミド化合物(B)0.01〜1.5重量部を含有させてなることを特徴とするポリエステル組成物。
【請求項3】
前記ポリエステル(A)と熱可塑性樹脂ポリマー(C)との合計100重量部に対して、さらにポリカルボジイミド化合物(D)0.02〜1.5重量部を含有させてなることを特徴とする請求項1または2に記載のポリエステル組成物。〔ただし、ポリカルボジイミド化合物(D)は、未反応のカルボジイミド基(D1)と、ポリエステルのカルボキシル末端基およびドロキシル末端基と反応しているカルボジイミド基(D2)との合計[(D1)+(D2)]で1分子中に5〜50個含有するアルキル置換芳香族ポリカルボジイミド化合物である。〕
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂ポリマー(C)が、ポリスチレン類、ポリオレフィン類およびポリメタクリレート系重合体から選ばれた少なくとも一種であることを特徴とする請求項2または請求項3に記載のポリエステル組成物。
【請求項5】
前記ポリスチレン類が、シンジオタクチック構造を有するポリスチレン系ポリマーであることを特徴とする請求項4記載のポリエステル組成物。
【請求項6】
前記ポリオレフィン類が、環状オレフィン系重合体、ポリプロピレン、ポリエチレンおよびポリメチルペンテンから選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする請求項4記載のポリエステル組成物。
【請求項7】
前記モノカルボジイミド化合物(B)が、N,N´−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミドであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項記載のポリエステル組成物。
【請求項8】
前記ポリカルボジイミド化合物(D)が、カルボジイミド基に対して、フェニル基のオルトの位置がイソプロピル基で置換された芳香族ポリカルボジイミド化合物であることを特徴とする請求項3〜7のいずれか1項記載のポリエステル組成物。
【請求項9】
前記ポリエステル(A)と熱可塑性樹脂ポリマー(C)との合計100重量部に対して、さらに酸化防止剤(E)を0.02〜1.0重量部含有することを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項記載のポリエステル組成物。
【請求項10】
前記酸化防止剤(E)が、テトラキス−[メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンであることを特徴とする請求項9記載のポリエステル組成物。
【請求項11】
請求項1〜10記載のポリエステル組成物からなることを特徴とするポリエステルモノフィラメント。
【請求項12】
繊維軸方向に垂直な断面の形状が円もしくは扁平であることを特徴とする請求項11記載のポリエステルモノフィラメント。
【請求項13】
請求項11または12記載のポリエステルモノフィラメントを、緯糸または経糸の少なくとも一部に使用したことを特徴とする工業用織物。
【請求項14】
抄紙ドライヤーカンバス、不織布の熱接着工程用ベルト織物および熱処理炉内搬送ベルト用織物から選ばれた少なくとも1種に使用されることを特徴とする請求項13記載の工業用織物。

【公開番号】特開2007−277335(P2007−277335A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−103052(P2006−103052)
【出願日】平成18年4月4日(2006.4.4)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【出願人】(000219288)東レ・モノフィラメント株式会社 (239)
【Fターム(参考)】