説明

ポリエステル組成物

【課題】耐加水分解性に優れ、かつ溶融成型時において良好な操業性を維持できるポリエステル組成物を提供する。
【解決手段】単官能エポキシ化合物及び多官能エポキシ化合物を含み、HSΔカルボキシ末端量が10eq/ton以下であるポリエステル組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐加水分解性に優れたポリエステル組成物に関する。詳しくは、耐加水分解性に優れ、かつ溶融成型時において良好な操業性を維持できるポリエステル組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル樹脂はジカルボン酸成分とジオール成分の重縮合によって得られ、特に、テレフタル酸またはそのエステル形成性誘導体とエチレングリコールから製造される線状高分子であり、汎用性、実用性の点で優れており、フィルム、シート、繊維、ボトルなどの素材として好適に使用されている。
【0003】
ポリエステル樹脂はその優れた機械特性、耐候性、耐薬品性により今後も様々な用途への応用が期待される。このような分野としては電気絶縁用途、太陽電池用途、タイヤコードといった工業部品用途が挙げられる。しかし、ポリエステル樹脂は耐加水分解性に劣るため、これら長期に渡り厳しい環境で使用される用途への展開には限界があった。
【0004】
ポリエステル樹脂のカルボキシ末端のプロトンは触媒となり、ポリエステル樹脂の分解を促進する。そのため、ポリエステル樹脂の耐加水分解性を向上させるには、カルボキシ末端量を低下させる方法がとられる。そこで、ポリエステル樹脂にカルボキシ末端と反応する反応性化合物を添加することにより、カルボキシ末端量を低下させることでポリエステル樹脂の耐加水分解性を向上させることが提案されている(特許文献1〜3)。
【0005】
また、ポリエステル樹脂の耐加水分解性を向上させる為に、ポリエステル樹脂の分子量を上昇させる方法もとられる。そこで、鎖延長剤を添加することにより、ポリエステル樹脂の分子量を上昇させることでポリエステル樹脂の耐加水分解性を向上させることが提案されている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−4839号公報
【特許文献2】特許第4198203号公報
【特許文献3】特開昭55−82148号公報
【特許文献4】特開2010−116558号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
フィルム、ボトル等の溶融成型品を生産する上で、生産性を向上させ、かつ安定的に長時間生産できることが求められている。一方、成型品には高い品位が求められるようになっており、異物の混入を防ぐ為に溶融工程において精密濾過が施されている。しかしながら、上記提案のような反応性化合物を含有するポリエステル樹脂を長期において溶融成型したところ、ポリエステル樹脂中のゲル化物がポリマーフィルターにトラップされ、背圧上昇により生産性が低下することがあった。また、ゲル化物等によりポリマーフィルターが詰まることで、ポリマーフィルターの取替え作業が頻発し、安定的な生産に支障が生じる場合があった。さらに、反応性化合物を含有するポリエステル樹脂は、溶融時に溶融粘度、カルボキシ末端量等の物性が変化し、安定的な生産が難しいことがあった。
【0008】
加えて、太陽電池部材や電気絶縁部材など屋外で長期に使用されるポリエステル樹脂成型品は、長期間にわたり高温に曝されることから、耐加水分解性だけでなく、耐熱性の向上も必要とされる。
【0009】
本発明の目的は、上記課題に鑑み、耐加水分解性に優れ、かつ溶融成型時において良好な操業性を維持できるポリエステル組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記要因について検討したところ、溶融時に生じるゲル化物はポリエステル樹脂中に残存する未反応の反応性化合物が要因であることがわかった。そこで、本発明者らは、上記課題を解決するため、鋭意検討を行なった結果、反応性化合物として単官能エポキシ化合物と、多官能エポキシ化合物、好ましくは二官能エポキシ化合物を併用することでゲル化を抑制し、溶融成型時において良好な操業性を維持しながら高い耐加水分解性を奏するという効果を見出した。
【0011】
第1の発明は、下記要件(1)および(2)を満たすポリエステル組成物である。
(1)単官能エポキシ化合物及び多官能エポキシ化合物を含む
(2)下記式で表されるHSΔカルボキシ末端量が10eq/ton以下
(HSΔカルボキシ末端量)=(下記による加水分解試験後のカルボキシ末端量)−(加水分解試験前のカルボキシ末端量)
(加水分解試験)
ポリエステル組成物を冷凍粉砕して20メッシュ以下の粉末にし、130℃で12時間真空乾燥した後、1gを秤量し、純水100ml中に入れる。これを密閉系にして130℃に加熱、加圧した条件下に6時間攪拌する。斯かる加水分解処理後の試料および加水分解処理前の試料についてカルボキシ末端量を測定する。
【0012】
第2の発明は、さらに下記要件(3)および(4)を満たす前記ポリエステル組成物である。
(3)前記多官能エポキシ化合物が芳香族系化合物であること
(4)カルボキシ末端量がポリエステルに対して5eq/ton以下であること。
【0013】
本発明の第3の発明は、前記多官能エポキシ化合物が二官能のエポキシ化合物である前記ポリエステル組成物である。
【0014】
本発明の第4の発明は、さらに下記要件(5)を満たす前記ポリエステル組成物である。
(5)下記式で表されるTODΔカルボキシ末端量が15eq/ton以下であること
(TODΔカルボキシ末端量)=(下記による熱酸化試験後のカルボキシ末端量)−(熱酸化試験前のカルボキシ末端量)
(熱酸化試験)
ポリエステル組成物を冷凍粉砕後、20メッシュ以下の粉末とし、130℃で12時間真空乾燥する。これを0.3g秤量し、ガラス試験管に入れ、更に70℃で12時間真空乾燥した後、空気下で230℃、15分間加熱処理する。斯かる加熱処理後の試料および加熱処理前の試料についてカルボキシ末端量を測定する。
【0015】
第5の発明は、ポリエステル重合時の触媒が、アルミニウム化合物およびリン化合物である前記ポリエステル組成物である。
第6の発明は、前記ポリエステル組成物で構成される太陽電池裏面封止用二軸延伸ポリエステルフィルムである。
第7の発明は、前記ポリエステル組成物で構成される電気絶縁用二軸延伸ポリエステルフィルムである。
【発明の効果】
【0016】
本発明のポリエステル樹脂は、耐加水分解性に優れ、溶融時にゲル化が無い為、溶融成型用途に用いた際に操業性に優れる。
また、本発明の好ましい態様においては、上記効果に加えて、得られる成型品は良好な耐熱性を有する。
そのため、太陽電池裏面封止部材や電気絶縁用部材、タイヤコードなど耐久性が要求される成型品として好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
耐加水分解性を向上させる為には、カルボキシ末端量を低下することと共に粘度(すなわち、分子量)を上昇させることが有効である。ポリエステルの粘度を上昇させるには、二官能以上の反応基を有する化合物を添加する必要がある。これは、2以上のポリエステル分子鎖の末端同士を多官能性化合物を介して結合させることでポリエステルの分子量を大きくすることを目的とするものである。しかしながら、ポリエステル中に未反応の多官能の反応性化合物が残留すると、未反応の残存多官能性化合物や未反応の官能基末端とポリエステルとの反応が徐々に進行し、ポリエステルが局所的に高分子化することでゲル化が生じ、これがフィルターの目詰まりなど生産性の低下の要因となることが分かった。
【0018】
本発明のポリエステル組成物は、ポリエステルのカルボキシ末端量を低減させる為に反応性化合物として単官能エポキシ化合物と、多官能エポキシ化合物、好ましくは二官能エポキシ化合物を併用することを特徴とする。反応性化合物としてはエポキシ化合物以外にオキサゾリン化合物、カルボジイミド化合物等が知られている。オキサゾリン化合物は、カルボキシ末端との反応性が低い為、ポリエステルと配合し押出機で混練りした際に未反応物が残存する。オキサゾリン未反応物を含有したポリエステル樹脂を溶融成型するとゲル化が発生し、生産性に悪影響を及ぼす問題がある。また、カルボジイミド化合物はカルボキシ末端との反応が早く、耐加水分解性向上効果が認められる。しかし、溶融成型により変色し、色調に優れた成型品を得ることは困難である。加えて反応性の高いカルボジイミド化合物は、溶融成型時に反応が進行し、ゲル化が発生し、生産性に悪影響を及ぼす問題がある。従ってポリエステル樹脂の耐加水分解性を向上させ、かつゲル化を抑制し生産性を向上させるために、エポキシ化合物を用いることが有効である。
【0019】
加えてエポキシ化合物を添加したポリエステル樹脂は、オキサゾリン化合物、またはカルボジイミド化合物を添加したポリエステル樹脂より熱酸化安定性に優れる。
【0020】
また、ポリエステル樹脂の粘度(分子量)を上げる作用をする多官能エポキシ化合物、好ましくは二官能エポキシ化合物に加え、単官能エポキシ化合物を併用することで、未反応の多官能エポキシ化合物、好ましくは二官能エポキシ化合物が残存するのを防ぐことができる。これにより、溶融工程においてもポリエステル樹脂がゲル化を生じることなく、高い生産性を維持することができる。また、多官能エポキシ化合物が三官能以上の官能基を有する場合は、未反応の官能基が残存しやすく、ゲル化も生じやすくなる傾向がある。そのため、二官能エポキシ化合物を用いることが好ましい。
【0021】
ここで単官能エポキシ化合物としては、分子内にグリシジル基を一つ含有すればよく特に制限はないが、耐熱性、および未反応の二官能エポキシ化合物との反応性の観点から芳香族であることが好ましい。具体的な芳香族単官能エポキシ化合物としては、フェノールグリシジルエーテル、フェノール(EO)グリシジルエーテル(X=2〜10の整数を表す)、p−tert−ブチルフェノールグリシジルエーテル、N−グリシジルフタルイミド、ジブロモフェニルグリシジルエーテルなどが挙げられる。ポリエステル組成物に単官能エポキシ化合物が含まれていることは、ガスクロマトグラフ−質量分析計装置で分析可能である。
【0022】
多官能エポキシ化合物としては、分子内にグリシジル基を二つ以上含有すればよく特に制限はない。市販の多官能エポキシ化合物を用いることができる。本発明ではゲル化を抑制するために多官能エポキシ化合物の官能基数を少なくすることも好ましく、二官能エポキシ化合物を好適に用いることができる。多官能エポキシ化合物としては、具体的にはソルビトールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、Joncryl(登録商標)ADR(BASF製)等が挙げられる。特に、ポリエステルの粘度を高くするために、反応性の観点からJoncryl ADR(BASF製)が好ましい。Joncryl ADRの構造式を下記式に示す。
【0023】
【化1】

【0024】
上記式中、R1〜R5はそれぞれ独立して水素または炭素数1〜12のアルキル基を表し、R6は炭素数1〜12のアルキル基を表し、x及びyはそれぞれ独立して0〜100であり、x+yは0より大きく、zは2〜100であり、各構成単位は任意の順序で結合してもよい。
【0025】
二官能エポキシ化合物としては、分子内にグリシジル基を二つ含有すればよく特に制限はないが、具体的には、モノアリルジグリシジルイソシアヌル酸、レゾルシノールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、水素化ビスフェノールAジグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリブタジエンジグリシジルエーテル、ジグリシジルオルソフタル酸、ヒドロキノンジグリシジルエーテル、ジグリシジルテレフタル酸、ジグリシジルイソフタル酸などが挙げられる。カルボキシ末端との反応性の観点からモノアリルジグリシジルイソシアヌル酸、レゾルシノールジグリシジルエーテル、ジグリジルオルソフタル酸、ヒドロキノンジグリシジルエーテル、ジグリシジルテレフタル酸、ジグリシジルイソフタル酸などの芳香族エポキシ化合物であることが好ましい。またポリエステル樹脂の熱酸化安定性の観点からも芳香族エポキシ化合物であることが好ましく、特にポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートに添加する際は、それらの原料であるテレフタル酸と類似したジグリシジルテレフタル酸が最も好ましい。多官能エポキシ化合物、好ましくは二官能エポキシ化合物として前記の芳香族系化合物を用いることにより、ポリエステル樹脂の熱酸化安定性が向上し、後述のTODΔカルボキシ末端量を有効に低減することができる。ポリエステル樹脂に多官能エポキシ化合物、好ましくは二官能エポキシ化合物が含まれていることは、ガスクロマトグラフ−質量分析計装置で分析可能である。
【0026】
本発明のポリエステル組成物は上記達成手段を用いることにより未反応のエポキシ化合物を好適に低減することができる。ポリエステル組成物中に含まれる未反応のエポキシ化合物含有量、すなわち未反応物として残存する単官能エポキシ化合物および多官能エポキシ化合物、好ましくは二官能エポキシ化合物の合計量は、100ppm以下であることが好ましく、70ppm以下であることがより好ましく、50ppm以下であることがさらに好ましい。本発明のポリエステル組成物は未反応のエポキシ化合物を上記範囲に抑制することができるので、ゲル化による生産性の低下を好適に抑制することができる。
【0027】
単官能エポキシ化合物および多官能エポキシ化合物、好ましくは二官能エポキシ化合物の添加量は、反応基単位で、ポリエステルのカルボキシ末端量に対し0.1〜10当量であることが好ましい。添加量が0.1当量未満の場合は、反応性化合物として機能せず耐加水分解性を改善できない。また、添加量が10当量を超えると、着色が多くなる場合がある。さらに好ましい添加量は、ポリエステルのカルボキシ末端量に対し0.2〜7当量、特に好ましい添加量は、ポリエステルのカルボキシ末端量に対し0.3〜5当量である。
【0028】
単官能エポキシ化合物/多官能エポキシ化合物、好ましくは二官能エポキシ化合物の添加量の重量比は、0.5〜8であることが好ましい。重量比が0.5未満の場合は、単官能エポキシ化合物の添加量が少ない為、多官能エポキシ化合物、好ましくは二官能エポキシ化合物を単独で使用した時と同様にゲル化が進行する場合がある。また、重量比が8を超えると、ポリエステル樹脂に含まれる未反応の単官能エポキシ化合物が多くなり、安定的に溶融成型品を生産できない場合がある。
【0029】
末端封鎖反応を有効に行うために、ポリエステルに添加するエポキシ化合物の水分率は、1000ppm以下が好ましい。さらに好ましくは800ppm以下であり、特に好ましくは500ppm以下である。乾燥工程によりエポキシ化合物の水分率を低減することが可能であるが、乾燥工程での取り扱いの面から、エポキシ化合物は固体であることが望ましい。
【0030】
エポキシ化合物を添加することに加え、酸化防止剤を添加することが好ましい。酸化防止剤は、上記の化合物と併用して使用されることで効果をなす。そのメカニズムは明確にされてはいないが、酸化防止剤が上記末端封鎖剤の熱劣化を抑制することで、耐加水分解性や耐熱変色性が改善されるものと考えられる。本発明で用いられる酸化防止剤としては、分解抑制効果が高いことから、好ましくはフェノール系の酸化防止剤が使用される。フェノール系の酸化防止剤の具体例として、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、4,4−メチレンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、テトラキス[メチレン−3−(3’,5’−ジ−tert−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]−メタン、ステアリル−3−(3’,5’−ジ−tert−ブチル−4’−ヒドロキシ−フェニル)プロピオネート等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0031】
ポリエステルとエポキシ化合物との反応は、ポリエステルを好ましくは250℃以上、より好ましくは260℃以上、さらに好ましくは280℃以上で溶融させた状態で、エポキシ化合物を添加し、好ましくは30秒以上、より好ましくは45秒以上攪拌することにより行うことができる。
【0032】
ポリエステルにエポキシ化合物を配合する方法は、特に限定されないが、例えば、ポリエステルの重縮合工程で配合する方法、ポリエステルの重縮合工程後に配合する方法、二軸配向フィルムの製膜工程(ポリエステル原料の溶融工程)で配合する方法などがある。配合形態としては、上記化合物をポリエステルに直接配合して溶融混練を行う方法、高濃度の上記化合物を含むマスターバッチを予め作製しておき、別途作製したポリエステルにそのマスターバッチを配合する方法がある。
【0033】
ポリエステルに多官能エポキシ化合物、好ましくは二官能エポキシ化合物、および単官能エポキシ化合物を配合する工程は、特に限定されないが、ゲル化抑制の観点から多官能エポキシ化合物、好ましくは二官能エポキシ化合物、および単官能エポキシ化合物を同時に添加することが好ましい。また、カルボキシ末端との反応を促進させる為、トリフェニルホスフィンなどを触媒として使用することが好ましい。なお、トリフェニルホスフィンは溶融により酸化物としてポリエステル中に存在することがある。
【0034】
また、回収原料を再利用することは、製造原単位を下げることになりコスト的に有利である。しかし、回収原料は熱履歴によりカルボキシ末端量が上昇しているため、その使用は得られるフィルムの耐加水分解性を悪化させる場合があり、高度な耐久性が得られない場合がある。この場合、回収原料を使用する際に、前処理として多官能エポキシ化合物、好ましくは二官能エポキシ化合物、および単官能エポキシ化合物を添加することも有効である。回収原料を再度、固相重合することでカルボキシ末端量を低下させることも可能であるが、製造コストは高くなり、回収原料を使用するメリットが低下する。そこで本発明に記載の末端封鎖技術によるカルボキシ末端量の低減が有用である。
【0035】
さらに、ポリエステルに粒子や紫外線吸収剤などの各種添加剤を配合する際は、ポリエステルに余計な熱履歴がかかり、耐久性が低下する場合があるが、その場合でも上記多官能エポキシ化合物、好ましくは二官能エポキシ化合物、および単官能エポキシ化合物を添加することで、ポリエステルの耐久性を保持することができ有効である。
【0036】
本発明のポリエステルとは、ジカルボン酸を含む多価カルボン酸およびこれらのエステル形成性誘導体から選ばれる一種または二種以上とグリコールを含む多価アルコールから選ばれる一種または二種以上とから成るもの、またはヒドロキシカルボン酸およびこれらのエステル形成性誘導体からなるもの、または環状エステルからなるものをいう。
【0037】
好ましいポリエステルとしては、主たる酸成分がテレフタル酸またはそのエステル形成性誘導体、もしくはナフタレンジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体であり、主たるグリコール成分がアルキレングリコールであるポリエステルである。
【0038】
主たる酸成分がテレフタル酸またはそのエステル形成性誘導体もしくはナフタレンジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体であるポリエステルとは、全酸成分に対してテレフタル酸またはそのエステル形成性誘導体とナフタレンジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体を合計して70モル%以上含有するポリエステルであることが好ましく、より好ましくは80モル%以上含有するポリエステルであり、さらに好ましくは90モル%以上含有するポリエステルである。
【0039】
主たるグリコール成分がアルキレングリコールであるポリエステルとは、全グリコール成分に対してアルキレングリコールを合計して70モル%以上含有するポリエステルであることが好ましく、より好ましくは80モル%以上含有するポリエステルであり、さらに好ましくは90モル%以上含有するポリエステルである。
【0040】
テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸と共重合可能なジカルボン酸としては、耐加水分解性を低下させないことから、オルソフタル酸、イソフタル酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸、4,4’−ビフェニルスルホンジカルボン酸、4,4’−ビフェニルエーテルジカルボン酸、1,2−ビス(フェノキシ)エタン−p,p’−ジカルボン酸、パモイン酸、アントラセンジカルボン酸などに例示される芳香族ジカルボン酸、またはこれらのエステル形成性誘導体が好ましい。また、ピロメリット酸、トリメリット酸、などの3官能以上のカルボン酸成分を共重合させても良い。
【0041】
グリコールとしては、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2−ブチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、2,3−ブチレングリコール、1,4−ブチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、1,2−シクロヘキサンジオール、1,3−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジエタノール、1,10−デカメチレングリコール、1,12−ドデカンジオールなどのアルキレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリトリメチレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどに例示される脂肪族グリコール、ヒドロキノン、4,4’−ジヒドロキシビスフェノール、1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシフェニル)スルホン、ビス(p−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(p−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(p−ヒドロキシフェニル)メタン、1,2−ビス(p−ヒドロキシフェニル)エタン、ビスフェノールA、ビスフェノールC、2,5−ナフタレンジオール、これらのグリコールにエチレンオキシドが付加したグリコール、などに例示される芳香族グリコールが挙げられる。
【0042】
これらのグリコールのうち、アルキレングリコールが好ましく、さらに好ましくは、エチレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,4−ブチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノールである。また、前記アルキレングリコールは、分子鎖中に置換基や脂環構造を含んでいても良く、同時に2種以上を使用しても良い。
【0043】
これらグリコール以外の多価アルコールとして、トリメチロールメタン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、グリセロール、ヘキサントリオールなどが挙げられる。
【0044】
これらの中でも、とくに好ましく本発明で用いるポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリ(1,4−シクロヘキサンジメチレンテレフタレート)、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリプロピレンナフタレートおよびこれらの共重合体が好ましく、特に好ましくはポリエチレンテレフタレートおよびこの共重合体である。
【0045】
本発明のポリエステル組成物は、上記のように多官能エポキシ化合物、好ましくは二官能エポキシ化合物と、単官能エポキシ化合物の併用によりカルボキシ基末端が消費されている為、高度な耐加水分解性を奏する。そのため、本発明のポリエステル組成物は、耐加水分解性の指標である、下記式で表されるHSΔカルボキシ末端量が10eq/ton以下となる。
(HSΔカルボキシ末端量)=(下記による加水分解試験後のカルボキシ末端量)−(加水分解試験前のカルボキシ末端量)
【0046】
(加水分解試験)
ポリエステル組成物を冷凍粉砕して20メッシュ以下の粉末にし、130℃で12時間真空乾燥した後、1gを秤量し、純水100ml中に入れる。これを密閉系にして130℃に加熱、加圧した条件下に6時間攪拌する。斯かる加水分解処理前後の試料および加水分解処理前の試料についてカルボキシ末端量を測定する。
【0047】
上記HSΔカルボキシ末端量は、9eq/ton以下がより好ましく、8eq/ton以下がさらに好ましく、7eq/ton以下が特に好ましい。上記HSΔカルボキシ末端量を上記範囲にするには、ポリエステルのカルボキシ末端量を低減させることが好ましい。カルボキシ末端をエポキシ化合物で封鎖することにより、HSΔカルボキシ末端量を上記範囲にすることが可能となる。上記HSΔカルボキシ末端量は小さいほうが好ましいが、生産性の点からは0.1eq/tonが下限であると考える。
【0048】
本発明のポリエステル組成物は、カルボキシ末端量(加水分解試験前)がポリエステルに対して5eq/ton以下であることが好ましい。カルボキシ末端量を極小濃度とすることで本発明のポリエステル組成物は、高い耐加水分解性を奏することができる。カルボキシ末端量が上記範囲を超えると、カルボキシ末端がプロトンソースとなり自己作用を奏し、耐加水分解性が低下するため、本発明のポリエステル組成物を用いた二軸延伸ポリエステルフィルムは、太陽電池裏面封止用途もしくは電気絶縁用途として十分な耐久性が得られない場合がある。
【0049】
上記カルボキシ末端量は、4eq/ton以下が好ましく、3eq/ton以下がさらに好ましく、2eq/ton以下が特に好ましい。上記カルボキシ末端量は少ない方が好ましいが、生産性の点から0.1eq/tonが下限であると考える。
【0050】
本発明のポリエステル組成物は、熱酸化安定性の指標である、下記式で表されるTODΔカルボキシ末端量が15eq/ton以下であることが好ましい。
(TODΔカルボキシ末端量)=(下記による熱酸化試験後のカルボキシ末端量)−(熱酸化試験前のカルボキシ末端量)
【0051】
(熱酸化試験)
ポリエステル組成物を冷凍粉砕後、20メッシュ以下の粉末とし、130℃で12時間真空乾燥する。これを0.3g秤量し、ガラス試験管に入れ、更に70℃で12時間真空乾燥した後、空気下で230℃、15分間加熱処理する。斯かる加熱処理後の試料および加熱処理前の試料についてカルボキシ末端量を測定する。
【0052】
前記TODΔカルボキシ末端量は、より好ましくは10eq/ton以下、さらに好ましくは5eq/ton以下である。ポリエステル組成物の熱酸化安定性を上記範囲にするためには、反応性化合物としてエポキシ化合物を用いることが好ましい。特に、芳香族系のエポキシ化合物は耐熱性が高く好適である。また、ポリエステル組成物の全金属含有量が少なければ少ないほど、熱酸化安定性に有利であり、ポリエステル組成物に含有される金属量は、150ppm以下が好ましい。そこで少量のアルミニウム化合物と助触媒であるリン化合物を重合時の触媒として併用し、重合活性を確保することが好ましい。さらにリン化合物はフェノール部位を持つことが好ましい。フェノール部位含有のリン化合物は、酸素下でラジカル機構により分解するポリエステル劣化を抑制する効果を有するため特に好ましい。この機能を高めるためには、フェノール部位が立体的、電子的に安定化され、よりラジカルトラップ能を発現するヒンダードフェノール骨格を有することが好ましい。なお、前記TODΔカルボキシ末端量は小さい方が好ましいが、0.1eq/ton程度が下限であると考える。
【0053】
上記アルミニウム化合物としては、具体的には、ギ酸アルミニウム、酢酸アルミニウム、塩基性酢酸アルミニウム、プロピオン酸アルミニウム、蓚酸アルミニウムなどのカルボン酸塩;塩化アルミニウム、水酸化アルミニウム、水酸化塩化アルミニウムなどの無機酸塩;アルミニウムメトキサイド、アルミニウムエトキサイド、アルミニウムiso-プロポキサイド、アルミニウムn-ブトキサイド、アルミニウムt−ブトキサイドなどのアルミニウムアルコキサイド;アルミニウムアセチルアセトネート、アルミニウムアセチルアセテートなどのアルミニウムキレート化合物;トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウムなどの有機アルミニウム化合物;およびこれらの部分加水分解物、酸化アルミニウムなどが挙げられる。これらのうちカルボン酸塩、無機酸塩およびキレート化合物が好ましく、これらの中でもさらに酢酸アルミニウム、塩化アルミニウム、水酸化アルミニウム、水酸化塩化アルミニウムおよびアルミニウムアセチルアセトネートが特に好ましい。
【0054】
上記助触媒として使用するフェノール部位含有のリン化合物としては、具体的には、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホン酸エチル、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホン酸メチル、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホン酸イソプロピル、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホン酸フェニル、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホン酸オクタデシル、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホン酸、リチウム[3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホン酸エチル]、ナトリウム[3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホン酸エチル]、ナトリウム[3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホン酸]、カルシウムビス[3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホン酸エチル]、カルシウムビス[3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホン酸]、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホン酸ジエチル、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホン酸ジフェニルが挙げられる。これらのうちIrganox(登録商標)1222(チバ・スペシャルティーケミカルズ社製)として市販されている3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホン酸ジエチル、また、Irganox(登録商標)1425(チバ・スペシャルティーケミカルズ社製)として市販されているカルシウムビス[3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホン酸エチル]が特に好ましい。
【0055】
本発明において、ポリエステルはチタンを触媒とすることもできる。チタンを触媒として用いる場合も少量の添加量で生産性を確保できるが、チタンは触媒活性が高いため、加熱下でポリエステルの熱酸化劣化が生じやすくなり、長期の熱安定性を得られない場合がある。そのため、本発明においてはポリエステルの触媒種としてチタン以外の触媒種を用いることが好ましい。なお、本発明のフィルムには後述するように易滑性もしくは隠蔽性を付与するために酸化チタンを添加することも好ましい。この場合は、触媒として用いるチタン添加量と異なり、易滑性付与のためにはチタン元素量として好ましくは300ppm以上、より好ましくは400ppm以上、隠蔽性付与のためにはチタン元素量として好ましくは10000ppm以上の酸化チタンを添加する。チタンを触媒として用いるか、あるいは他の目的として用いるかどうかは、チタンの添加量により区別することが可能である。
【0056】
ポリエステルの重合中にジアルキレングリコールが副生するが、ジアルキレングリコールはポリエステルの耐熱性を低下させる。代表的なジアルキレングリコールとしてジエチレングリコールを例にすると、ジエチレングリコール量は2.3モル%以下であることが好ましい。より好ましくは2.0モル%以下、さらに好ましくは1.8モル%以下である。ジエチレングリコール量を上記範囲にすることにより、耐熱安定性を高めることができ、乾燥時、成型時の分解によるカルボキシ末端量の増加を小さくすることが出来る。さらに、セルを封止する際の充填剤を硬化させる熱による分解も低いレベルに抑えることが出来る。なお、ジエチレングリコール量は少ない方が良いが、ポリエステル製造の際のテレフタル酸のエステル化反応時、テレフタル酸ジメチルのエステル交換反応時に副反応物として生成するものであり、現実的には下限は1.0モル%、さらには1.2モル%である。
【0057】
アセトアルデヒド含有量は50ppm以下であることが好ましい。さらに好ましくは40ppm以下、特に好ましくは30ppm以下である。アセトアルデヒドはアセトアルデヒド同士で縮合反応を容易に起こし、副反応物として水が生成し、この水により、ポリエステルの加水分解が進む場合がある。アセトアルデヒド含有量の下限は現実的には1ppm程度である。アセトアルデヒド含有量を上記範囲にするためには、樹脂の製造時の溶融重合、固相重合など各工程での酸素濃度を低く保つ、樹脂保管時、乾燥時の酸素濃度を低く保つ、フィルム製造時に押出機、メルト配管、ダイ等で樹脂にかかる熱履歴を低くする、溶融させる際の押出機のスクリュー構成等で局所的に強い剪断がかからないようにするなどの方法を採用することが出来る。
【0058】
なお、アセトアルデヒド含有量は、冷凍粉砕したフィルム/蒸留水=1g/2mlを窒素置換したガラスアンプルに入れて上部を溶封し、160℃で2時間抽出処理を行い、冷却後抽出液中のアセトアルデヒドを高感度ガスクロマトグラフィーで測定した値である。
【0059】
酢酸含有量は1ppm以下であることが好ましい。さらに好ましくは0.5ppm以下、特に好ましくは0.3ppm以下である。上記範囲を超えると、ポリエステルの加水分解を促進させる場合がある。酢酸含有量を上記範囲にするためには、上記アセトアルデヒド含有量を低くするための方策が採用できる。
【0060】
なお、酢酸含有量は、冷凍粉砕したフィルム2gをガラス容器に入れ、沸騰したイオン交換水500mlを注ぎ、密栓後10分間放置後室温に冷却し、7日間放置後、この液1mlを用いてイオンクロマトグラフ法により定量した値である。
【0061】
本発明で用いるポリエステル組成物中には、使用する目的に応じて、無機粒子、耐熱性高分子粒子、架橋高分子粒子などの不活性粒子、蛍光増白剤、紫外線防止剤、赤外線吸収色素、熱安定剤、界面活性剤、酸化防止剤などの各種添加剤を1種もしくは2種以上含有させることができる。酸化防止剤としては、芳香族アミン系、フェノール系などの酸化防止剤が使用可能であり、安定剤としては、リン酸やリン酸エステル系等のリン系、イオウ系、アミン系などの安定剤が使用可能である。また、本発明の効果を奏する範囲内で他の樹脂を添加してもよい。
【0062】
本発明のポリエステル組成物は、耐加水分解性に優れ、ゲル化も少なく、溶融成型用途として優れた特性を有する。そのため、フィルム、シート、繊維、ボトル、その他の成型品として好適に用いることができる。特に、高い耐久性が求められる工業用のフィルム用途には好適である。
【0063】
本発明の一つの実施態様は、上記ポリエステル組成物で構成された二軸延伸ポリエステルフィルムである。なお、二軸延伸ポリエステルフィルムを構成するポリエステル組成物は、前記エポキシ化合物を添加したマスターバッチと別途作製したポリエステルとを混合したポリエステル組成物であってもよい。また、多層積層構造を有する二軸延伸ポリエステルフィルムの場合、いずれかの層を構成するポリエステル組成物が本発明のポリエステル組成物であってもよい。いずれにしても、二軸延伸ポリエステルフィルムの構成成分として本発明のポリエステル組成物を用いるものであればその形態を問わない。
【0064】
二軸延伸ポリエステルフィルムの場合、重合したポリエステルチップを押出機において溶融する溶融工程、押出機から溶融樹脂を押出すことにより未延伸フィルムを形成するフィルム化工程、未延伸フィルムを少なくとも一方向に延伸する延伸工程、および、延伸したフィルムを熱処理する熱固定工程を経ることにより製造することが望ましい。
【0065】
溶融工程においては、ポリエステルチップを溶融押出機に供給し、ポリマー融点以上の温度に加熱し溶融する。この際、フィルム製造中のカルボキシ末端量の上昇を抑制するために、十分乾燥したポリエステルチップを用いることが好ましい。用いるポリエステルチップの水分量は100ppm以下であることが好ましく、50ppm以下であることがより好ましく、30ppm以下であることがさらに好ましい。ポリエステルチップを乾燥する方法は、減圧乾燥など公知の方法を用いることができる。
【0066】
押出機内におけるポリエステル組成物の最高温度は、280℃以上であることが好ましく、285℃以上であることがより好ましく、290℃以上であることがさらに好ましい。溶融温度を上げることにより、押出機内での濾過時の背圧が低下し、良好な生産性を奏することができる。また、押出機内におけるポリエステル組成物の最高温度は、320℃以下が好ましく、310℃以下がさらに好ましい。溶融温度が高すぎるとポリエステルの熱劣化が進行し、ポリエステルのカルボキシ末端量が上昇し、耐加水分解性が低下する場合がある。
【0067】
本発明で用いた単官能エポキシ化合物および多官能エポキシ化合物、好ましくは二官能エポキシ化合物を含有したポリエステル組成物は、熱安定性が高く、押出機内での最高温度が上記の範囲であっても、フィルム製造中におけるカルボキシ末端量の低下を抑制することができる。原料樹脂として用いるポリエステルチップのカルボキシ末端量と製膜後のポリエステルフィルムでのカルボキシ末端量との差(変動量)は5eq/ton以下であることが好ましく、4eq/ton以下であることがさらに好ましい。上記範囲であれば、固有粘度が0.65dl/g超のポリエステルチップを用いても、フィルム製造中でのカルボキル末端濃度の上昇が抑制され、耐久性の良好なポリエステルフィルムを高い生産性を維持したまま製造することができる。なお、上記変動量の下限は、生産性の点から0.5eq/tonであると考える。
【0068】
生産性が高く、かつ高い耐熱性を得る為には、フィルム中に残存する未反応エポキシ化合物含有量は、100ppm以下であるが好ましく、70ppm以下であることがより好ましく、50ppm以下であることがさらに好ましい。本発明では、単官能エポキシ化合物および多官能エポキシ化合物、好ましくは二官能エポキシ化合物を併用することでポリエステルチップ中の未反応エポキシ化合物含有量を低減することが可能であり、結果としてフィルム中に含有する未反応エポキシ含有量は少なくなる。
【0069】
フィルム化する場合、ポリエステル組成物の固有粘度は、強度ならびに耐久性の点から0.67dl/g以上であることが好ましく、0.70dl/g以上であることがより好ましい。ポリエステル組成物の固有粘度の上限は、特に限定されないが生産性の点から1.20dl/gであることが好ましく、1.00dl/gであることがより好ましく、0.80dl/gであることがさらに好ましい。0.67dl/g以上にするために上記範囲でエポキシ化合物の添加量や量比を制御することが好ましい。
【0070】
フィルム化工程においては、少ない金属触媒量で重合したポリエステル樹脂を溶融押出しし、T−ダイスより冷却回転ロール上にシート状に成型し、未延伸フィルムを作製する。この際、例えば特公平6−39521号公報、特公平6−45175号公報に記載の技術を適用することにより、高速製膜が可能となる。また、複数の押出機を用い、コア層、スキン層に各種機能を分担させ、共押出し法により積層フィルムとしても良い。
【0071】
延伸工程においては、本発明のポリエステルフィルムは、公知の方法を用いて、ポリエステルのガラス転移温度以上結晶化温度未満で、少なくとも一軸方向に1.1〜6倍に延伸することにより得ることができる。
【0072】
例えば、二軸配向ポリエステルフィルムを製造する場合、縦方向または横方向に一軸延伸を行い、次いで直交方向に延伸する逐次二軸延伸方法、縦方向及び横方向に同時に延伸する同時二軸延伸方法、さらに同時二軸延伸する際の駆動方法としてリニアモーターを用いる方法を採用することができる。
【0073】
さらに、延伸終了後、フィルムの熱収縮率を低減させるために、熱固定工程において(融点−50℃)〜融点未満の温度で30秒以内、好ましくは10秒以内で熱固定処理を行い、0.5〜10%の縦弛緩処理、横弛緩処理などを施すことが好ましい。
【0074】
ポリエステルフィルムとしてより高度な熱寸法安定性が要求される場合は、縦緩和処理を施すことが望ましい。縦緩和処理の方法としては、公知の方法を用いることができるが、例えばテンターのクリップ間隔を徐々に狭くして縦緩和処理を行う方法(特公平4−028218号公報)や、テンターの中で端部に剃刀を入れ切断しクリップの影響を避けて緩和処理を行う方法(特公昭57−54290号公報)などが利用できる。
【0075】
得られたポリエステルフィルムの厚みは、10〜500μmであることが好ましく、より好ましく15〜400μmであり、さらに好ましくは20〜250μmである。10μm未満では腰が無く取り扱いが困難である。また500μmを超えるとハンドリング性が低下し、取り扱いが困難となる。
【0076】
また、接着性、絶縁性、耐擦り傷性、などの各種機能を付与するために、ポリエステルフィルム表面にコーティング法により高分子樹脂を被覆してもよい。また、被覆層にのみ無機及び/又は有機粒子を含有させて、易滑ポリエステルフィルムとしてもよい。さらに、無機蒸着層もしくはアルミ層を設け水蒸気バリア機能を付与したりすることもできる。
【0077】
また、本発明のポリエステルフィルムは、滑り性、走行性、耐摩耗性、巻き取り性などのハンドリング特性を向上させるために、フィルム表面に凹凸を形成させることが好ましい。フィルム表面に凹凸を付与するためには、ポリエステルの重合工程で無機及び/又は耐熱性高分子樹脂粒子を添加する外部粒子添加法、重合工程で触媒残渣とポリエステルの構成成分とを反応させて不溶性の粒子を析出させる内部粒子法、被覆層に前記粒子を含有させる方法、薄膜層表面を凹凸が付与されたロールなどでエンボス加工する方法、レーザービームなどで表面凹凸をパターニングする方法、などが挙げられる。
【0078】
易滑性付与のためにポリエステルに添加する不活性粒子の種類及び含有量は、特に限定されるものではないが、シリカ、二酸化チタン、タルク、カオリナイト等の金属酸化物、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、硫酸バリウムなどの金属塩または耐熱性高分子粒子など、ポリエステル樹脂に対し不活性な粒子が例示される。これらの不活性粒子は、いずれか一種を単独で用いてもよく、また2種以上を併用してもよい。
【0079】
ヘイズを小さくするためには、ポリエステルに含有させる不活性粒子としては、粒子の屈折率がポリエステルに近いシリカ、ガラスフィラー、アルミナ−シリカ複合酸化物粒子が好ましく、可視光線の波長よりも小さな粒子径を有する粒子が好ましく、含有量も低いほうが良い。また、延伸張力が大きくなると、粒子周囲に発生するボイドが大きくなるため、延伸張力が低くなるように、すなわち、延伸温度を高目にする又は延伸倍率を小さくするように延伸条件を適正化する必要がある。さらに、積層構成とし、中心層のポリエステル層には不活性粒子を含有させず、表面層のみ粒子を含有する方法もヘイズを小さくするのにきわめて有効な方法である。
【0080】
前記の不活性粒子は、平均粒子径が0.01〜3.5μmであることが好ましく、粒子径のばらつき度(標準偏差と平均粒子径との比率)が25%以下であることが好ましい。また、粒子の形状は、面積形状係数が60%以上の粒子が1種類以上含まれていることが好ましい。このような特性を有する不活性粒子をポリエステル樹脂に対し0.005〜2.0質量%含有させることが好ましく、特に好ましくは1.0質量%以下である。
【0081】
また、フィルムを積層構成とし、最外層にのみ無機及び/又は耐熱性高分子樹脂粒子を添加する構成としても良い。
【0082】
本発明のポリエステルフィルムは、高い長期熱安定性を有し、熱安定性の指標である160℃での耐熱テストにおける破断伸度保持率半減期が700時間以上、より好ましくは800時間以上である。斯かる範囲にあることで、太陽電池用途もしくは電気絶縁用途として長期間高温に晒される条件においても好適に利用することができる。
【0083】
また、本発明のポリエステルフィルムは、高い耐加水分解性を有し、耐加水分解性の指標である105℃、100%RH、0.03MPa下192時間での破断伸度保持率が好ましくは65%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上、特に好ましくは85%以上、より一層好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上である。斯かる範囲にあることで、太陽電池用途もしくは電気絶縁用途として長期間屋外に晒される条件においても好適に利用することができる。
【0084】
本発明でいう太陽電池とは、太陽光、室内光等の入射光を取り込んで電気に変換し、当該電気を蓄えるシステムをいい、表面保護シート、高光線透過材、太陽電池モジュール、充填剤層および裏面封止シートなどから構成される。用途によりフレキシブルな性状のものがある。
【0085】
本発明の太陽電池用ポリエステルフィルムは、上記表面保護シート、裏面封止シートやフレキシブルな電子部材の張合材の基材フィルム(ベースフィルム)として用いることができる。特に、高い耐久性、長期熱安定性が求められる太陽電池裏面封止シートのベースフィルムとして好適である。太陽電池裏面封止シートとは、太陽電池の裏側の太陽電池モジュールを保護するものである。
【0086】
本発明の太陽電池用ポリエステルフィルムは、単独または2枚以上を貼り合わせて、太陽電池裏面封止シートとして使用することができる。本発明の太陽電池用ポリエステルフィルムには、水蒸気バリア性を付与する目的で、水蒸気バリア性を有するフィルムやアルミニウム箔などを積層することができる。バリア性フィルムとしては、ポリフッ化ビニリデンコートフィルム、酸化ケイ素蒸着フィルム、酸化アルミニウム蒸着フィルム、アルミニウム蒸着フィルムなどをもちいることができる。これらは、本発明の太陽電池用ポリエステルフィルムに接着層を介して、または直接積層したり、サンドイッチ構造をとる形態で用いることができる。
【0087】
また、太陽電池裏面封止シートと充填剤層との接着性を向上させるために、本発明の太陽電池用ポリエステルフィルムに、オフラインコートまたは/およびインラインコートにより易接着層を設けることも好ましい。
【0088】
また、電気絶縁用ポリエステルフィルムとは、電子部材の絶縁用途に用いられる単層もしくは多層積層したフィルムもしくはシートである。本発明のポリエステルフィルムは、高い耐久性と耐熱性を有するため、例えば、コンデンサーの内装、外装、または、モーター用電気絶縁体、フレキシブルプリント配線基板、トランス、ケーブル、ジェネレーターなどのベースフィルムとして好適である。
【実施例】
【0089】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はもとよりこれらの実施例に限定されるものではない。なお、各実施例および比較例において用いた評価方法を以下に説明する。
【0090】
(1)ポリエステル組成物の固有粘度(IV)
ポリエステル組成物をフェノール/1,1,2,2−テトラクロロエタンの6/4(重量比)混合溶媒を使用して溶解し、温度30℃にて測定した。
【0091】
(2)カルボキシ末端量の測定方法
A.試料の調製
ポリエステル組成物を粉砕し、70℃で24時間真空乾燥を行った後、天秤を用いて0.20±0.0005gの範囲に秤量した。そのときの重量をW(g)とした。試験管にベンジルアルコール10mlと秤量した試料を加え、試験管を205℃に加熱したベンジルアルコール浴に浸し、ガラス棒で攪拌しながら試料を溶解した。溶解時間を3分間、5分間、7分間としたときのサンプルをそれぞれA、B、Cとした。次いで、新たに試験管を用意し、ベンジルアルコールのみ入れ、同様の手順で処理し、溶解時間を3分間、5分間、7分間としたときのサンプルをそれぞれa、b、cとした。
B.滴定
予めファクターの分かっている0.04mol/l水酸化カリウム溶液(エタノール溶液)を用いて滴定した。指示薬はフェノールレッドを用い、黄緑色から淡紅色に変化したところを終点とし、水酸化カリウム溶液の滴定量(ml)を求めた。サンプルA、B、Cの滴定量をXA、XB、XC(ml)とした。サンプルa、b、cの滴定量をXa、Xb、Xc(ml)とした。
C.カルボキシ末端量の算出
各溶解時間に対しての滴定量XA、XB、XCを用いて、最小2乗法により、溶解時間0分での滴定量V(ml)を求めた。同様にXa,Xb,Xcを用いて、滴定量V0(ml)を求めた。次いで、次式に従いカルボキシ末端量を求めた。
カルボキシ末端量(eq/ton)=[(V−V0)×0.04×NF×1000]/W
NF:0.04mol/l水酸化カリウム溶液のファクター
W:試料重量(g)
【0092】
(3)HSΔカルボキシ末端量の測定方法
ポリエステル組成物に液体窒素を入れフリーザーミル(米国スペックス社製6750型)を用いて冷凍粉砕を行い20メッシュ以下の粉末にした。この粉末を130℃で12時間真空乾燥した後、1gを純水100mlに入れ、密閉系にして130℃に加熱、加圧した条件下に6時間撹拌した。加水分解試験前および後の試料を(2)の方法によりカルボキシ末端量を測定した。得られた測定結果から、(HSΔカルボキシ末端量)=(加水分解試験後のカルボキシ末端量)−(加水分解試験前のカルボキシ末端量)により計算した。
【0093】
(4)TODΔカルボキシ末端量の測定方法
ポリエステル組成物に液体窒素を入れフリーザーミル(米国スペックス社製6750型)を用いて冷凍粉砕を行い20メッシュ以下の粉末にした。この粉末を130℃で12時間真空乾燥したもの0.3gをガラス試験管に入れ70℃で12時間真空乾燥した後、シリカゲルで乾燥した空気下で230℃、15分間加熱した。熱酸化処理前および後の試料を(3)の方法によりカルボキシ末端量を測定した。得られた測定結果から、(TODΔカルボキシ末端量)=(熱酸化試験後のカルボキシ末端量)−(熱酸化試験前のカルボキシ末端量)により計算した。
【0094】
(5)耐加水分解性破断伸度保持率の測定方法
フィルムの耐加水分解性評価として、JIS−60068−2−66で規格化されているHAST(Highly Accelerated temperature and humidity Stress Test)を行った。機器はエスペック社製EHS−221を用い、105℃、100%RH、0.03MPa下の条件で行った。
フィルムを70mm×190mmにカットし、治具を用いてフィルムを設置した。各フィルムは各々が接触しない距離を保ち設置した。105℃、100%RH、0.03MPaの条件下で192時間処理を行った。処理前、処理後の破断伸度をJIS−C−2318−1997 5.3.31(引張強さ及び伸び率)に準拠して測定し、下記式に従い破断伸度保持率を算出した。
破断伸度保持率(%)=[(処理後の破断伸度(%))/(処理前の破断伸度(%))]×100
【0095】
(6)生産性テスト
以下の方法で生産性テストを実施した。
押出機で調製したエポキシ化合物含有ポリエステルペレットをL/D=22の単軸押出機(株式会社プラ技研製PS型押出機PS−25F−22型)のホッパーから連続的に放流した。押出機の温度は293℃、濾過径20μmのナスロン(登録商標)製フィルター(三宅金属株式会社)を用い、吐出量は3g/minもしくは6g/minとした。
評価は、以下のように背圧上昇で行った。
〇:放流から4時間以上経過しても背圧が15MPa未満
△:放流から0.5時間超4時間未満で背圧が15MPa以上
×:放流から0.5時間以内に背圧が15MPa以上
放流から0.5時間超4時間未満で背圧が15MPa以上に達した場合は、ポリエステルに不溶性の微細なゲル化物等が多く含まれていることを意味し、フィルム等の生産を行った場合に、生産性が悪くなる。
【0096】
(7)エポキシ化合物の検出
ポリエステル組成物1〜2mgを正確に秤量し、熱分解装置付きガスクロマトグラフ−質量分析計にセットし、下記測定条件にて、ポリエステル組成物が含有するエポキシ化合物を検出した。標準試料は、エポキシ化合物のアセトン溶液を、測定直前に作製し、マイクロシリンジを用いて、直接熱分解装置に注入した。
熱分解装置:フロンティアラボ製 PY−2020iD
試料カップ:ディスポーザブルエコカップSF
試料加熱条件:300℃×15分
試料加熱雰囲気:He
クライオトラップ:ON
ガスクロマトグラフ−質量分析計装置:島津製作所製 GCMS QP−2010Plus
分析カラム:UltraALLOY+−5(長さ30m、内径0.25mm、膜厚0.25μm)
注入口温度:320℃
制御モード:圧力
圧力:100kPa
オーブン温度:80℃(2分保持)〜320℃(10分保持) 15℃/分昇温
イオン化法:EI
イオン化電圧:70V
質量分析計測定モード:SCAN(m/z=30〜550)
【0097】
上記条件で測定した結果、以下の質量数のイオンをMSスペクトルに含むピークを検出した。それぞれのピークを同定した結果を以下に示す。フェニルグリシジルエーテルは、m/z=31、39、51、57、66、77、94、107、120、150。エチレングリコールジグリシジルエーテルは、m/z=31、45、57、73、87、100。ジグリシジルテレフタル酸は、m/z=57、76、103、149、205。ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテルは、m/z=59、87。トリフェニルホスフィンは、m/z=108、183、262。トリフェニルホスフィン酸化物は、m/z=51、77、277。尚、各化合物についてはその他、複数のピークが検出されたが、ここには感度が高いメインピークを記した。
【0098】
(8)未反応エポキシ化合物の定量化
サンプル試料1〜2mgを正確に秤量し、熱分解装置付きガスクロマトグラフ−質量分析計にセットし、下記測定条件にて、未反応エポキシ化合物を定量化した。標準試料は、エポキシ化合物のアセトン溶液を、測定直前に作製し、マイクロシリンジを用いて、直接熱分解装置に注入した。未反応エポキシ化合物の定量化は、(7)で検出された全エポキシ化合物に対して測定し、標準試料と同じ保持時間に検出されたピークを未反応エポキシ化合物と同定し、そのピーク面積値から定量値を求めた。質量分析計測定モードは、(7)の測定結果を参考に以下を適用した。尚、いずれの測定もスプリット比を30とした。質量分析計測定モードを変更し、スプリット比を30とした以外は(7)と同様に測定を実施した。
(フェニルグリシジルエーテルの定量化)質量分析計測定モード:SIM(m/z=94)
(エチレングリコールジグリシジルエーテルの定量化)質量分析計測定モード:SIM(m/z=57)
(ジグリシジルテレフタル酸の定量化)質量分析計測定モード:SIM(m/z=205)
(ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテルの定量化)質量分析計測定モード:SIM(m/z=87)
二種類のエポキシ化合物を添加した場合は、それぞれの未反応エポキシ化合物量を足し合わせた数値を未反応エポキシ化合物量とした。
【0099】
(重縮合触媒溶液の調製)
(リン化合物のエチレングリコール溶液の調製)
窒素導入管、冷却管を備えたフラスコに、常温常圧下、エチレングリコール2.0リットルを加えた後、窒素雰囲気下200rpmで攪拌しながら、リン化合物としてIrganox(登録商標)1222(チバ・スペシャルティーケミカルズ社製)200gを加えた。さらに2.0リットルのエチレングリコールを追加した後、ジャケット温度の設定を196℃に変更して昇温し、内温が185℃以上になった時点から60分間還流下で攪拌した。その後加熱を止め、直ちに溶液を熱源から取り去り、窒素雰囲気下で保ったまま、30分以内に120℃以下まで冷却した。得られた溶液中のIrganox1222のモル分率は40%、Irganox1222から構造変化した化合物のモル分率は60%であった。
【0100】
(アルミニウム化合物水溶液の調製)
冷却管を備えたフラスコに、常温常圧下、純水5.0リットルを加えた後、200rpmで攪拌しながら、塩基性酢酸アルミニウム200gを純水とのスラリーとして加えた。さらに全体として10.0リットルとなるよう純水を追加して常温常圧で12時間攪拌した。その後、ジャケット温度の設定を100.5℃に変更して昇温し、内温が95℃以上になった時点から3時間還流下で攪拌した。攪拌を止め、室温まで放冷し水溶液を得た。
【0101】
(アルミニウム化合物のエチレングリコール溶液の調製)
上記方法で得たアルミニウム化合物水溶液に等容量のエチレングリコールを加え、室温で30分間攪拌した後、内温80〜90℃にコントロールし、徐々に減圧して、到達27hPaとして、数時間攪拌しながら系から水を留去し、20g/lのアルミニウム化合物のエチレングリコール溶液を得た。得られたアルミニウム溶液の27Al−NMRスペクトルのピーク積分値比は2.2であった。
【0102】
(アンチモン化合物のエチレングリコール溶液の調製)
三酸化アンチモンをエチレングリコール溶液に溶解し、14g/lの三酸化アンチモンのエチレングリコール溶液を得た。
【0103】
(1)ポリエステルペレットAの作製
攪拌機付き2リッターステンレス製オートクレーブに高純度テレフタル酸とエチレングリコールを仕込み、常法に従ってエステル化反応を行い、オリゴマー混合物を得た。このオリゴマー混合物に重縮合触媒として、上記アルミニウム化合物のエチレングリコール溶液/リン化合物のエチレングリコール溶液の混合物をアルミニウム元素の残存量が20ppm、リン元素の残存量が80ppmとなるように添加した。次いで、窒素雰囲気下、常圧にて250℃で10分間攪拌した。その後、60分間かけて280℃まで昇温しつつ反応系の圧力を徐々に下げて13.3Pa(0.1Torr)として、さらに280℃、13.3Pa下でポリエステルの固有粘度(IV)が0.55dl/gになるまで重縮合反応を行った。放圧に続き、微加圧下のレジンを冷水にストランド状に吐出して急冷し、その後20秒間冷水中で保持した後、カッティングして長さ約3mm、直径約2mmのシリンダー形状の固有粘度(IV)が0.55dl/g、カルボキシ末端量が12eq/tonのペレットを得た。
【0104】
上記の溶融重合によって得たペレットを0.5mmHgの減圧下、220℃で固相重合を行い、固有粘度(IV)が0.75dl/g、カルボキシ末端量が5eq/tonのポリエステルペレットAを得た。
【0105】
(2)ポリエステルペレットBの作製
重合触媒として、上記のように調製したアンチモン化合物のエチレングリコール溶液をアンチモン元素の残存量が250ppmになるように添加した以外はポリエステルペレットAと同様の方法で溶融重合を実施した。また、固相重合方法もポリエステルペレットAと同様に実施し、固有粘度(IV)が0.75dl/g、カルボキシ末端量が5eq/tonのポリエステルペレットBを得た。
【0106】
(3)多官能エポキシ化合物のマスターバッチペレットNの作製
ポリエステルペレットAとJoncryl(登録商標)ADR4370S(BASF製)をL/D=59.5、混練部一箇所、真空ベント付きのTEX−30α(株式会社日本製鋼所製)に添加し、ポリエステルペレットA/Joncryl ADR4370S=70/30(wt%)のマスターバッチペレットNを得た。ペレットNのエポキシ当量は、960eq/tonであった。
【0107】
(実施例1)
(1)エポキシ化合物含有樹脂組成物
ポリエチレンテレフタレートのペレットAを130℃で10時間減圧乾燥(1Torr)した後、単官能エポキシ化合物であるフェニルグリシジルエーテル(SIGMA−ALDRICH製)をペレットAのカルボキシ末端量に対してエポキシ当量として二倍等量となるようにペレットAに対して0.15wt%、二官能エポキシ化合物であるエチレングリコールジグリシジルエーテル(和光純薬工業株式会社製)をペレットAのカルボキシ末端量に対してエポキシ当量として等量となるようにペレットAに対して0.056wt%、およびエポキシ添加量の7.5wt%となるようにトリフェニルホスフィンを、ペレットAに添加した。この樹脂組成物をL/D=59.5、混練部一箇所、真空ベント付きのTEX−30α(株式会社日本製鋼所製)を用いてペレット化し、ポリエステルペレットCを得た。このポリエステルペレットCの特性評価を上記の方法に従い行った。それぞれの結果を表1に示す。
【0108】
(2)フィルムの製膜
ポリエステルペレットCを押出機に供給した。押出機溶融部、混練部、ポリマー管、ギアポンプ、フィルターまでの樹脂最高温度は290℃、その後のポリマー管では285℃とし、ダイスよりシート状にして押し出した。これらのポリマーは、それぞれステンレス焼結体の濾材(公称濾過精度20μm粒子95%カット)を用いて濾過した。また、フラットダイは樹脂温度が285℃になるようにした。なお、押出機入り口で抜き出したPETペレットの水分率を測定した結果、水分率は18ppmであった。押し出した樹脂を静電印加キャスト法を用いて表面温度30℃のキャスティングドラムに巻きつけて冷却固化し、未延伸フィルムを製造した。
【0109】
次に、この未延伸フィルムを加熱されたロール群及び赤外線ヒーターで100℃に加熱し、その後周速差のあるロール群で長手方向に3.3倍延伸して一軸配向PETフィルムを得た。引き続いて、テンターで、130℃で幅方向に4.0倍に延伸を行った後、熱固定を235℃で行い、さらに200℃で幅方向に弛緩処理を行い、厚さ50μmの二軸配向PETフィルムを得た。得られたPETフィルムの特性を表2に示す。
【0110】
(実施例2)
ポリエステルペレットAをポリエステルペレットBに変更した以外は、実施例1と同様にしてポリエステルペレットDを得て、二軸配向PETフィルムを得た。得られたポリエステルペレットD、PETフィルムの特性をそれぞれ表1、表2に示す。
【0111】
(実施例3)
二官能エポキシ化合物であるエチレングリコールジグリシジルエーテル(和光純薬工業株式会社製)をジグリシジルテレフタル酸(Aurora Sceening Library社製)に変更し、添加量をペレットAのカルボキシ末端量に対してエポキシ当量として等量となるようにペレットAに対して0.074wt%とした以外は、実施例1と同様にしてポリエステルペレットEを得て、二軸配向PETフィルムを得た。得られたポリエステルペレットE、PETフィルムの特性をそれぞれ表1、表2に示す。
【0112】
(実施例4)
ポリエステルペレットAをポリエステルペレットBに変更した以外は、実施例3と同様にしてポリエステルペレットFを得て、二軸配向PETフィルムを得た。得られたポリエステルペレットF、PETフィルムの特性をそれぞれ表1、表2に示す。
【0113】
(実施例5)
二官能エポキシ化合物であるジグリシジルテレフタル酸を多官能エポキシ化合物であるペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル(Wonda Science製)に変更した以外は、実施例4と同様にしてポリエステルペレットGを得て、二軸配向PETフィルムを得た。得られたポリエステルペレットG、PETフィルムの特性をそれぞれ表1、表2に示す。
【0114】
(実施例6)
ポリエステルペレットBにエポキシ化合物を添加することなく作製したフィルムを回収し、シュレッダーで粉砕し、粉砕品を得た。粉砕品の固有粘度(IV)は0.71dl/g、カルボキシ末端量が12eq/tonであった。粉砕品は、熱履歴の為、ポリエステルペレットAと比べ、固有粘度(IV)が低く、カルボキシ末端量が多かった。この粉砕品に単官能エポキシ化合物であるフェニルグリシジルエーテル(SIGMA−ALDRICH製)を粉砕品のカルボキシ末端量に対してエポキシ当量として二倍等量となるように粉砕品に対して0.36wt%、二官能エポキシ化合物であるジグリシジルテレフタル酸(Aurora Sceening Library社製)を粉砕品のカルボキシ末端量に対してエポキシ当量として等量となるように粉砕品に対して0.18wt%、およびエポキシ添加量の7.5wt%となるようにトリフェニルホスフィンを、粉砕品に添加させた。この樹脂組成物をL/D=59.5、混練部一箇所、真空ベント付きのTEX−30α(株式会社日本製鋼所製)を用いてペレット化し、ポリエステルペレットHを得た。得られたポリエステルペレットHの特性を表1に示す。
【0115】
重量比でポリエステルペレットA/ポリエステルペレットH=60/40のブレンド物を用いて実施例1と同様にして二軸配向PETフィルムを得た。得られたPETフィルムの特性を表2に示す。
【0116】
(実施例7)
二官能エポキシ化合物であるエチレングリコールジグリシジルエーテル(和光純薬工業株式会社製)を多官能エポキシ化合物のマスターバッチペレットNに変更し、添加量をペレットAに対して0.5wt%とした以外は、実施例1と同様にしてポリエステルペレットOを得て、二軸配向PETフィルムを得た。得られたポリエステルペレットO、PETフィルムの特性をそれぞれ表1、表2に示す。
【0117】
(実施例8)
二官能エポキシ化合物であるエチレングリコールジグリシジルエーテル(和光純薬工業株式会社製)をJoncryl ADR4370S(BASF製)に変更し、添加量をペレットAに対して0.15wt%とした以外は、実施例1と同様にしてポリエステルペレットPを得て、二軸配向PETフィルムを得た。得られたポリエステルペレットP、PETフィルムの特性をそれぞれ表1、表2に示す。
【0118】
(実施例9)
二官能エポキシ化合物であるジグリシジルテレフタル酸(Aurora Sceening Library社製)を多官能エポキシ化合物のマスターバッチペレットNに変更し、添加量を粉砕品に対して0.75wt%とした以外は、実施例6と同様にしてポリエステルペレットQを得た。得られたポリエステルペレットQの特性を表1に示す。
【0119】
重量比でポリエステルペレットA/ポリエステルペレットQ=60/40のブレンド物を用い、実施例1と同様にして二軸配向PETフィルムを得た。得られたPETフィルムの特性を表2に示す。
【0120】
(比較例1)
ポリエステルペレットBを用い、エポキシ化合物、トリフェニルホスフィンを添加しないこと以外は、実施例1と同様にして二軸押出機でポリエステルペレットIを得た。得られたポリエステルペレットIの特性を表3に示す。
【0121】
ポリエステルペレットIを用いた以外は、実施例1と同様にして二軸配向PETフィルムを得た。得られたPETフィルムの特性を表4に示す。
【0122】
(比較例2)
フェニルグリシジルエーテルを添加しないこと以外は、実施例2と同様にしてポリエステルペレットJを得て、二軸配向PETフィルムを得た。得られたポリエステルペレットJ、PETフィルムの特性をそれぞれ表3、表4に示す。
【0123】
(比較例3)
エチレングリコールジグリシジルエーテルを添加しないこと以外は、実施例2と同様にしてポリエステルペレットKを得て、二軸配向PETフィルムを得た。得られたポリエステルペレットK、PETフィルムの特性をそれぞれ表3、表4に示す。
【0124】
(比較例4)
フェニルグリシジルエーテルを添加しないこと以外は、実施例5と同様にしてポリエステルペレットLを得て、二軸配向PETフィルムを得た。得られたポリエステルペレットL、PETフィルムの特性をそれぞれ表3、表4に示す。
【0125】
(比較例5)
実施例6と同様にして得た粉砕品にエポキシ化合物、トリフェニルホスフィンを添加しないこと以外は、実施例6と同様にして二軸押出機でポリエステルペレットMを得た。得られたポリエステルペレットMの特性を表3に示す。
【0126】
重量比でポリエステルペレットA/ポリエステルペレットM=60/40のブレンド物を用い、実施例1と同様にして二軸配向PETフィルムを得た。得られたPETフィルムの特性を表4に示す。
【0127】
(比較例6)
マスターバッチペレットNをペレットBに対して0.5wt%添加したこと以外は、比較例1と同様にしてポリエステルペレットRを得て、二軸配向PETフィルムを得た。得られたポリエステルペレットR、PETフィルムの特性をそれぞれ表3、表4に示す。
【0128】
(比較例7)
Joncryl ADR4370S(BASF製)をペレットBに対して0.15wt%添加したこと以外は、比較例1と同様にしてポリエステルペレットSを得て、二軸配向PETフィルムを得た。得られたポリエステルペレットS、PETフィルムの特性をそれぞれ表3、表4に示す。
【0129】
【表1】

【0130】
【表2】

【0131】
【表3】

【0132】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0133】
本発明のポリエステル組成物は、溶融成型時のゲル化が少なく、良好な耐加水分解性を有する。そのため、耐久性が要求される各種のフィルム、シート、繊維、ボトル、その他の成型品、特に太陽電池用フィルムや電気絶縁用フィルムとして好適に利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記要件(1)および(2)を満たすポリエステル組成物。
(1)単官能エポキシ化合物及び多官能エポキシ化合物を含む
(2)下記式で表されるHSΔカルボキシ末端量が10eq/ton以下
(HSΔカルボキシ末端量)=(下記による加水分解試験後のカルボキシ末端量)−(加水分解試験前のカルボキシ末端量)
(加水分解試験)
ポリエステル組成物を冷凍粉砕して20メッシュ以下の粉末にし、130℃で12時間真空乾燥した後、1gを秤量し、純水100ml中に入れる。これを密閉系にして130℃に加熱、加圧した条件下に6時間攪拌する。斯かる加水分解処理後の試料および加水分解処理前の試料についてカルボキシ末端量を測定する。
【請求項2】
さらに下記要件(3)および(4)を満たす請求項1に記載のポリエステル組成物。
(3)前記多官能エポキシ化合物が芳香族系化合物であること
(4)カルボキシ末端量がポリエステルに対して5eq/ton以下であること。
【請求項3】
前記多官能エポキシ化合物が二官能のエポキシ化合物である請求項1または2に記載のポリエステル組成物。
【請求項4】
さらに下記要件(5)を満たす請求項1〜3のいずれかに記載のポリエステル組成物。
(5)下記式で表されるTODΔカルボキシ末端量が15eq/ton以下であること
(TODΔカルボキシ末端量)=(下記による熱酸化試験後のカルボキシ末端量)−(熱酸化試験前のカルボキシ末端量)
(熱酸化試験)
ポリエステル組成物を冷凍粉砕後、20メッシュ以下の粉末とし、130℃で12時間真空乾燥する。これを0.3g秤量し、ガラス試験管に入れ、更に70℃で12時間真空乾燥した後、空気下で230℃、15分間加熱処理する。斯かる加熱処理後の試料および加熱処理前の試料についてカルボキシ末端量を測定する。
【請求項5】
ポリエステル重合時の触媒が、アルミニウム化合物およびリン化合物である請求項1〜4のいずれかに記載のポリエステル組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のポリエステル組成物で構成される太陽電池裏面封止用二軸延伸ポリエステルフィルム。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載のポリエステル組成物で構成される電気絶縁用二軸延伸ポリエステルフィルム。

【公開番号】特開2012−122051(P2012−122051A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−186432(P2011−186432)
【出願日】平成23年8月29日(2011.8.29)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】