説明

ポリエステル繊維の溶融紡糸方法

【課題】紡糸口金への異物の堆積を効果的に抑制し、高融点のポリエステル繊維の溶融紡糸工程における周期的な糸切れを防止、もしくは糸切れ周期を大幅に延長できる方法および製造装置を提供すること。
【解決手段】ポリエステルポリマーを紡糸口金から吐出しポリエステル繊維を溶融紡糸する方法であって、紡糸口金直下の紡糸筒内の温度が350〜450℃の範囲内であり、かつ該紡糸筒内に円周上に配置されている水蒸気供給用の均圧室から多孔質材料を通して、加熱水蒸気を供給することを特徴とする。該多孔質材料は金属不織布または多孔質セラミックスであることが好ましい。更に、該紡糸口金が円周状に配置されたポリマー吐出孔を有する。また、該ポリエステルポリマーはポリエチレンナフタレートポリマーであることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリエステル繊維の溶融紡糸方法に関し、さらに詳しくは生産性が良好で長時間連続運転が可能なポリエステル繊維の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル繊維は、高強力、高モジュラスでありながら熱寸法安定性に優れることから、タイヤコードなどのゴム補強用繊維として、あるいは樹脂被覆布やシートベルト、ロープ、ホースなどの産業資材用材料として広く用いられている。中でも主鎖骨格に剛直なナフタレン環をもつポリエチレンナフタレート繊維(以下PEN繊維と記す)は、一般的なポリエチレンテレフタレート繊維(以下PET繊維と記す)よりも更に高モジュラスであり、タイヤコードなどの産業資材用繊維として本格的に使用されるようになってきている。
【0003】
同じポリエステル繊維であることから、基本的にPEN繊維の製造プロセスも、汎用的なPET繊維のそれと同じ溶融紡糸であり、製造設備も同様のものが使用可能である。しかしながら、物性が若干とはいえPET繊維と異なるPEN繊維は、従来のPET用溶融紡糸装置をそのまま用いて、単に製造条件を適正化するのみでは、糸切れが多発して良好な生産性が得られないという問題があった。
【0004】
これにはいくつかの要因があるが、とりわけ困難な点は、周期的に紡糸断糸が発生する点にある。融点が高く溶融粘度も非常に高いPENは、310℃を超える高温で紡糸し、紡糸口金直下の紡糸筒内の温度を高温とする必要があるが、このような高温で溶融紡糸を行うと、口金面に異物が付着して、一定時間ごとに糸切れが生じ、生産性が低下してしまう。紡糸口金直下の紡糸筒内の温度を低くできるたとえば融点の低いPET繊維においてさえも、口金面に残留触媒の昇華物やオリゴマーなどが付着し周期的な糸切れの起こることが知られているが、さらに紡糸口金直下の温度の高いPENなどのポリエステル繊維の場合には、その周期が従来繊維に比して著しく短くなるため、繊維製造工程の生産性を上げるための大きな障害となっていた。単に生産するだけなら口金面の清掃を頻繁に行うことで対処できるのであるが、その周期が経時とともに短くなることもあり、特にPEN繊維においては生産性向上を阻害する最も主要な要因となっていたのである。
【0005】
紡糸筒の改良技術としては、従来より特にナイロン繊維の紡糸において、口金異物の堆積を抑制する目的で、口金下に窒素や水蒸気などの不活性ガスを封入する技術が知られている。その目的は昇華物やオリゴマーの酸化を抑え、かつ不活性ガスの流れによって気体状の異物原因物質を除去することにあり、口金直下に排気装置を設けて積極的に金属昇華物などを排出するものか、かなり大量のガスを口金吐出孔の近傍に直接吹き当てて、昇華物を除去するものである。
【0006】
例えば、特許文献1では、口金直下に排気筒を設け、金属昇華物やオリゴマーが含まれたガスを排気する装置が開示されている。しかしながらPEN繊維のように口金下雰囲気温度を350℃以上の高温に維持することが必要なポリエステル繊維にこの方法を用いた場合、排気装置による方向性のある気流の発生によって口金下の雰囲気温度が低下し、未延伸糸の配向度が上昇して延伸性が低下するという問題があった。
【0007】
また特許文献2や特許文献3のように、蒸気ノズルから蒸気を口金面に向けて直接噴射する場合には、蒸気の流速が大きく、紡出糸のピクツキや曲がりなどを誘発する問題があった。特に、産業資材用繊維のような単子数の多いマルチフィラメント糸条を紡糸する場合には、蒸気ノズルが多数必要となるが、口金面内に温度分布が生じやすく、結果として単子間の紡糸張力にバラツキを生じ、単糸切れが発生しやすく、操業性に問題があった。加えて、設備が複雑になって設備費が高いものになったり、取扱い性に劣るものとなるという問題もあった。
【0008】
【特許文献1】特開平11−350237号公報
【特許文献2】特開平10−298821号公報
【特許文献3】特開平11−181616号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明はこのような現状に鑑み、紡糸口金への異物の堆積を効果的に抑制し、高融点のポリエステル繊維の溶融紡糸工程における周期的な糸切れを防止、もしくは糸切れ周期を大幅に延長でき、生産性良く製造できる方法およびその方法に用いられる製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のポリエステル繊維の溶融紡糸方法は、ポリエステルポリマーを紡糸口金から吐出しポリエステル繊維を溶融紡糸する方法であって、紡糸口金直下の紡糸筒内の温度が350〜450℃の範囲内であり、かつ該紡糸筒内に多孔質材料を通して加熱水蒸気を供給することを特徴とする。
【0011】
さらには、該紡糸口金が円周状に配置されたポリエステルポリマーの吐出孔を有するものであることや、該多孔質材料が紡糸筒内の円周上に配置されていること、該多孔質材料の外側に水蒸気供給用の均圧室が配置されていること、該多孔質材料が金属不織布または多孔質セラミックスであることが好ましい。また、該ポリエステルポリマーがポリエチレンナフタレートポリマーであるポリエステル繊維の溶融紡糸方法であることが好ましい。
【0012】
またもう一つの本発明のポリエステル繊維用溶融紡糸装置は、紡糸口金直下の紡糸筒内に、加熱水蒸気供給用の多孔質材料が配置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、紡糸口金への異物の堆積を効果的に抑制し、高融点のポリエステル繊維の溶融紡糸工程における周期的な糸切れを防止もしくは周期を延長し、生産性良く製造できる方法およびその方法に用いられる製造装置が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の製造方法は、ポリエステルポリマーを紡糸口金から吐出しポリエステル繊維を溶融紡糸する方法である。ここで用いられるポリエステルポリマーとしては、ポリエステル以外に少量ならば他の成分を含む共重合体であっても良く、二酸化チタンなどの艶消し剤や、リン酸、亜リン酸及びそれらのエステルなどの安定剤が含まれても良いことは言うまでもない。
【0015】
中でも本発明の溶融紡糸方法においては、特に高融点であるポリエステルポリマーに用いられる場合に効果的である。このような本発明で特に好ましく用いられるポリエステルポリマーとしては、ポリエチレンナフタレートポリマーを挙げることができる。特にはポリマー繰り返し単位の90モル%以上、より最適には95%以上がエチレン−2,6−ナフタレート単位であるポリマーであることが好ましい。このようなポリエチレン−2,6−ナフタレートはナフタレン−2,6−ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体を触媒の存在下適当な反応条件のもとにエチレングリコールと重縮合させることによって合成される。
【0016】
本発明のポリエステルポリマーの固有粘度は0.6以上、更には0.7〜1.0の範囲であることが好ましい。他の合成繊維と同様に、ポリエステル繊維においても重合度が高くなるほど耐久性、耐熱性等の品質が向上する。
【0017】
また、紡糸する際の吐出孔の大きさとしては直径0.1〜3.0mmの範囲であることが好ましい。特には直径0.1〜1.0mmの細い口金から吐出される場合には吐出したポリマーがベンディングして断糸しやすいために本発明の技術の採用が特に有効である。また、部分的な斑が生じやすいマルチフィラメントの紡糸において本発明の効果はより顕著であり、フィラメント数としては20本以上、さらには50〜300本が特に好ましい。
【0018】
本発明のポリエステル繊維の溶融紡糸方法は、上記のようなポリマーを溶融紡糸する方法であって、紡糸口金直下の紡糸筒内の温度が350〜450℃の範囲内にあり、かつ該紡糸筒内に多孔質材料を通して加熱水蒸気を供給することを必須とする。紡糸口金直下の紡糸筒内の温度としてはさらには400〜430℃の範囲であることが好ましい。温度が低すぎる場合には、異物の発生が少なく本発明の効果は少なくなる。逆に温度が高すぎる場合にはポリエステルポリマーの融点より高くなり断糸が発生し紡糸が困難となる。
【0019】
通常のPET繊維のように低温の紡糸筒温度の場合、堆積する異物は主にアンチモンなどの残留重合触媒が昇華したものや、ポリマー中に含まれる微量のオリゴマーなどが付着、堆積したものであるが、このような低温で発生する異物は、もともとポリマー中の含有量がごく微量であるため、口金面をへらのような道具でそぎ落とすこと(口金面清掃)により異物は比較的容易に除去できるため、本発明の効果はあまり発揮できない。また低温の場合には異物の成長が少なく、糸切れを誘発するまでには数十時間から数日単位の期間があるため、本発明のような特殊な装置の必要性もない。
【0020】
一方、紡糸筒の温度が350℃以上であるたとえばPEN繊維の場合には、本発明の紡糸方法を採用しない場合に、異物の堆積が著しく速く、わずか数時間で吐出孔周辺に堆積して、紡出糸のスムーズな流れを阻害し、ピクツキ、糸切れなどの原因となっていた。さらにこのような高温で発生したポリエステル繊維の口金異物は、微量の金属昇華物やオリゴマーの堆積物ではなく、吐出孔のエッヂ部分で削れたポリマーがそのエッヂ部分に付着し、それが高温雰囲気下で炭化して固化したものであることを本発明者らは見出した。したがって発生源が紡出ポリマーであるために堆積速度が速く、かつ一旦口金面に付着、炭化するとポリマーが口金面に強固に固着するため、通常の口金面清掃では除去しにくく、さらに清掃回数の増加にしたがって清掃の効果が急速に低下していくという特徴があったのである。
【0021】
本発明の溶融紡糸方法では、このような高温で発生した口金異物である口金吐出孔周辺に付着したポリマーを、それらが炭化する前に加熱水蒸気により加水分解させることで、顕著に異物の堆積を遅らせることができるようになったのである。
【0022】
本発明の溶融紡糸方法においては紡糸筒内に多孔質材料を通して加熱水蒸気を供給するが、さらには金属不織布または多孔質セラミックスを通して蒸気を紡糸筒内に封入することが好ましい。本発明では金属不織布または多孔質セラミックス等の多孔質材料の平均気孔径、圧力損失を適度に選択することにより、容易に供給面の背後に存在する均圧質の背圧を高めて蒸気を周方向に均一に封入することができる。そのため多孔質材料はドーナツ状の形状をしていることが好ましい。逆に従来公知の噴射ノズルを使用した方法では、蒸気の流量を円周方向に均一とすることができず、糸条の紡糸筒内でのスムーズな流れを妨げてしまっていた。多孔質材料の通気量としては、差圧50mmHOのときに5〜100L/分であることが、目的の流量を得るためにも好ましい。
【0023】
また、本発明では高温雰囲気下で多孔質材料は使用されるが、金属不織布や多孔質セラミックスは耐熱性に優れ、温度による寸法変化や損傷が小さい特徴を持つので、本用途に特に最適な材料である。従来公知の蒸気ノズルは、通常金属に細孔を開けるなどして精密加工したものであるが、本発明のように口金下雰囲気を高温に加熱する紡糸方法においては、熱による歪が発生し、経年使用によりノズルが変形するため、均一な流量を維持することが困難となる。
【0024】
中でも多孔質材料としての多孔質セラミックスは、高温かつ湿潤雰囲気下であっても経年劣化が小さく、耐久性に優れる。一方金属不織布は円筒上への加工が容易で比較的低コストで製作できる利点を有する。これらは使用の目的や状況によって適宜選択することができる。
【0025】
より具体的には、多孔質セラミックスとしては酸化アルミナなどの公知の物を挙げることができる。気孔径としては、ナノオーダー〜ミクロンオーダーまで広い範囲での使用が可能であり、目的とする蒸気通過量を得るために、所望の孔径分布を持つ素材を選択すればよい。またセラミックス部分を除く装置筐体の材質としては金属を使用することが好ましいが、膨張係数の大きな金属を用いるとセラミックスとの間に隙間が生じたり、セラミックスに過大な歪が生じたりするため、膨張の小さな素材を用いることがより好ましい。一方、金属不織布としては、高温の蒸気雰囲気に晒されるため、耐食性のよい素材を使用することが好ましい。このような素材としてはたとえばチタン合金やSUS430等の18クロムステンレス鋼がある。
【0026】
紡糸筒内に封入する水蒸気量としては、10〜100g/minとなるようにすることが好ましい。供給される蒸気量が低すぎる場合には、口金異物の加水分解が有効に進まない傾向にあり、逆に蒸気量が多すぎる場合には、紡糸口金から紡出された繊維糸条そのものの分解を引き起こすため好ましくない。この高温蒸気の作用によって、口金異物であるポリマーは加水分解を起こし、その粘度が低下するため、紡出する糸条に微量ずつ付着して口金面から除去される。したがって、口金異物が紡出面にひいては紡出糸のベンディングなどによる糸切れを減少せしめることができる。このような水蒸気量を確保するためにも、金属不織布または多孔質セラミックスの通気量としては、差圧50mmHOのとき5〜100L/分であることが好ましい。
【0027】
供給用の水蒸気配管には、ゴミを取り除くフィルターを設けることが好ましい。フィルターを設置することにより、流量が経年的に低下することを防止することができる。たとえば配管内壁のサビなどが多孔質材料に詰まることが防止されるためである。また、蒸気が加熱水蒸気供給装置に入る直前において、凝縮水を取り除くドレントラップを設置することが好ましい。本発明においては、加熱筒によって装置自体が高温に加熱されているので凝縮水が装置内に入っても液体のまま紡糸筒内に排出されることはないものの、供給配管内に凝縮水が詰まって蒸気流量の変動が発生することがあり、ドレントラップはその現象を有効に防止することができる。
【0028】
さらには本発明の溶融紡糸方法では、加熱水蒸気を供給する装置は、ポリマーを溶融するスピンブロック端部の紡糸口金と加熱筒の間に挿入して使用することが好ましく、このとき装置の厚みはできるだけ小さくする事が好ましい。口金と加熱筒との距離としては5〜10cmであることが好ましい。従来の蒸気ノズル等を用いる場合と異なり、本発明のポリエステル繊維用溶融紡糸装置では加熱水蒸気供給用に多孔質材料を用いているために口金と加熱筒との距離をこのように短くすることが可能となった。この部分の距離が短い場合には、高温に維持された紡糸口金と加熱筒により加熱水蒸気の供給装置全体が高温に維持されるため、装置部分での凝縮水の発生が防止され、たとえば凝縮水の漏洩による電気配線等へのショート等を有効に防止する効果もある。
【0029】
また、多孔質材料の外側に水蒸気供給用の均圧室が配置されていることが好ましい。加熱水蒸気を供給する装置の背後に均圧室を設けることにより、均圧室内へ一旦水蒸気を供給するため、より均一な加熱水蒸気を供給することが可能となる。さらには、均圧室内には温度計と圧力計を設置し、温度と内圧が一定となるよう、制御バルブで加熱水蒸気の流量を制御することが好ましい。このようにすることにより、ごく微量の蒸気であってもより精度よく供給することが可能となる。紡糸筒内に封入する水蒸気量は、10〜100g/minとなるようにすることが好ましい。均圧室の温度は±25℃以内に調整されていることが好ましく、圧力としては±0.1MPa以内に調整されていることが好ましい。
【0030】
水蒸気量が低すぎる場合には加水分解が有効に進まず、逆に多すぎる場合には紡出糸条ポリマーの分解により強度等が低下するため好ましくない。口金面に付着したポリマーは、この高温蒸気の作用によって加水分解を起こし粘度が低下するため、紡出糸条に微量ずつ付着して口金面から除去されるため、紡糸を中止して口金面清掃を行う必要が少なくなるのである。また、口金面への付着物が少なくなるため紡出糸のベンディングなどによる糸切れも減少する。
【0031】
本発明の溶融紡糸方法によって得られた紡糸された繊維は、その後さらに油剤を付与するなどして、一旦巻き取り、あるいは巻き取ることなく引き続き延伸して延伸糸条とすることができる。
このような本発明のポリエステル繊維の製造方法は、もうひとつの本発明である紡糸口金直下の紡糸筒内に、加熱水蒸気供給用の多孔質材料が配置されているポリエステル繊維用溶融紡糸装置により実施することが可能である。
【0032】
本発明の方法により得られる糸条の総繊度としては、1.5〜3000dtexであることが好ましく、モノフィラメントであっても構わないが、均一な処理が行われるという本発明の効果発揮の観点からは多数の繊維から構成されたマルチフィラメントに特に有効である。フィラメント数としては50〜300本が好ましく、さらにそのようなマルチフィラメントの繊維を合糸することもできる。繊維強度としては7cN/dtex以上であることが好ましく、さらには8〜12cN/dtexの範囲とすることが好ましい。
【0033】
このような本発明は、重合度の高いポリマーの紡糸に用いた場合に特に有効である。ポリマーの重合度の増大に伴って著しく溶融粘度が上昇するので、通常工業的に生産するためには溶融粘度を下げるために紡糸温度を高く必要があるが、このように紡糸温度が高い場合には口金に付着した異物の炭化速度が極めて速くなる。しかし、本発明の溶融紡糸方法を採用した場合、口金異物の発生が少なくなるため、重合度の高いポリマー、たとえば高重合度のPEN繊維であっても工業的に生産することが可能となるのである。
【実施例】
【0034】
以下実施例により、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの具体例により限定されるものではない。
【0035】
[実施例1−2、比較例1−2]
固有粘度0.64のポリエチレンナフタレートポリマーを、加熱窒素ガス還流方式のバッチ式固相重合装置にて予備結晶化し、引き続いて固有粘度0.80まで固相重合した。
このチップを用いて表記載の条件にて溶融紡糸した。紡糸口金は円周状に配置されたポリマーの吐出孔を有していた。また円周上に配置された蒸気供給装置としては図1.図2のものを使用した。蒸気供給装置と紡糸口金との距離は8cmとなるように装置を配置し、均圧室の温度を150℃±10℃、圧力を0.5±0.1MPaの範囲で制御した。
その後油剤を付与した後一旦巻き取ることなく引き続き総延伸倍率が6倍となるように延伸して、1100dtex/250フィラメント、強度8.5cN/dtex、
伸度12%の延伸糸条を得た。
この糸条を連続生産した場合の口金清掃周期等を表1に示した。ここで口金清掃周期とは、糸切れごとに口金孔周囲の汚れの付着状態を目視で確認し、汚れが認められたらただちに清掃を実施する生産体制において、口金を使用し始めてから5回目の清掃までに要した時間(T)の平均値(T/5)である。また表中の紡糸性の判定は、1錘1日あたりの糸切れ回数が0.5回未満を○、0.5回〜2回未満を△、2回以上を×として判定した。
【0036】
本発明の溶融紡糸方法、装置を用いた実施例では、紡糸口金下の雰囲気温度が非常に高いPEN繊維の紡糸であるにもかかわらず、ごく微量の蒸気を精度よく、かつ周方向に均一に供給しているため、得られる紡出糸条の品質を低下させることなく、紡糸口金の吐出孔エッヂ部分に付着するポリマー異物を分解して、異物の堆積成長を効果的に抑制していた。そしてこれによって紡糸工程における糸切れの減少を図ることができるため、口金面清掃の周期を延長する効果と相まって、生産性の向上において顕著な効果を奏する。
一方従来の金属ノズルを使用した比較例2では、口金堆積異物の量は減少するものの、気流のムラが大きいため糸ゆれが激しく、紡糸性は不良であった。
【0037】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明で用いられるポリエステル繊維用溶融紡糸装置の説明図である。
【図2】本発明で用いられる加熱水蒸気を供給する部分の説明図である。
【符号の説明】
【0039】
1、スピンブロック
2、紡糸パック
3、紡糸口金
4、蒸気供給装置
5、加熱筒
6、冷却風供給装置
7、糸条
8、多孔質材料
9、均圧室
10、加熱水蒸気供給口
11、加熱筒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルポリマーを紡糸口金から吐出しポリエステル繊維を溶融紡糸する方法であって、紡糸口金直下の紡糸筒内の温度が350〜450℃の範囲内であり、かつ該紡糸筒内に多孔質材料を通して加熱水蒸気を供給することを特徴とするポリエステル繊維の溶融紡糸方法。
【請求項2】
該紡糸口金が、円周状に配置されたポリエステルポリマーの吐出孔を有するものである請求項1記載のポリエステル繊維の溶融紡糸方法。
【請求項3】
該多孔質材料が、紡糸筒内の円周上に配置されている請求項1または2記載のポリエステル繊維の溶融紡糸方法。
【請求項4】
該多孔質材料の外側に水蒸気供給用の均圧室が配置されている請求項1〜3のいずれか1項記載のポリエステル繊維の溶融紡糸方法。
【請求項5】
均圧室の温度が±25℃以内、圧力が±0.1MPa以内に調整されている請求項1〜4のいずれか1項記載のポリエステル繊維の溶融紡糸方法。
【請求項6】
該多孔質材料が金属不織布または多孔質セラミックスである請求項1〜5のいずれか1項記載のポリエステル繊維の溶融紡糸方法。
【請求項7】
該加熱水蒸気の供給量が10〜100g/分である請求項1〜6のいずれか1項記載のポリエステル繊維の溶融紡糸方法。
【請求項8】
該ポリエステルポリマーがポリエチレンナフタレートポリマーである請求項1〜7のいずれか1項記載のポリエステル繊維の溶融紡糸方法。
【請求項9】
紡糸口金直下の紡糸筒内に、加熱水蒸気供給用の多孔質材料が配置されていることを特徴とするポリエステル繊維用溶融紡糸装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−45249(P2008−45249A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−223996(P2006−223996)
【出願日】平成18年8月21日(2006.8.21)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】