説明

ポリエステル

【課題】触媒の活性能を高め、反応時間の短縮化に有効な縮重合反応用助触媒を用いて得られるポリエステルであって、トナー用結着樹脂としても好適に用いられるポリエステル、及びその製造方法、並びに該ポリエステルを含有し、良好な流動性を有する電子写真用トナーを提供すること。
【解決手段】触媒と、2個の水素原子が水酸基で置換されたベンゼン環又はシクロヘキサン環を有する化合物とを用いて、アルコール成分と芳香族ジカルボン酸化合物を含有するカルボン酸成分とを縮重合させて得られるポリエステル及びその製造方法、該ポリエステルを含有した電子写真用トナー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルム、シート、繊維、電子写真用トナー材料等の各種用途に用いられるポリエステル及びその製造方法、該ポリエステルを含有した電子写真用トナーに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル、ポリアミド等の縮重合系樹脂は、その化学的、物理的性質を利用して、フィルム、シート、繊維等の各種用途に用いられており、得られる樹脂の用途に応じて、縮重合反応を促進する触媒や触媒の活性能を高める助触媒も各種検討されている。
【0003】
例えば、トナーの結着樹脂に用いられるポリエステルの製造に用いられる触媒としては、触媒活性のみならず、帯電性等のトナー性能に与える影響を考慮して、各種錫化合物やチタン化合物が検討されており、また、助触媒については、特定の錫化合物とともに用いられるものとして、アミド化合物やアミン化合物が報告されている(特許文献1、2、3等参照)。
【特許文献1】特開2003−186250号公報
【特許文献2】特開2004−149660号公報
【特許文献3】特開2006-350035号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、触媒の活性能を高め、反応時間の短縮化に有効な縮重合反応用助触媒を用いて得られるポリエステルであって、トナー用結着樹脂としても好適に用いられるポリエステル、及びその製造方法、並びに該ポリエステルを含有し、良好な流動性を有する電子写真用トナーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、
〔1〕 触媒と、2個の水素原子が水酸基で置換されたベンゼン環又はシクロヘキサン環を有する化合物とを用いて、アルコール成分と芳香族ジカルボン酸化合物を含有するカルボン酸成分とを縮重合させて得られるポリエステル、
〔2〕 触媒と、2個の水素原子が水酸基で置換されたベンゼン環又はシクロヘキサン環を有する化合物を用いて、アルコール成分と芳香族ジカルボン酸化合物を含有するカルボン酸成分とを縮重合させる、ポリエステルの製造方法、並びに
〔3〕 前記〔1〕記載のポリエステルを含有してなる電子写真用トナー
に関する。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、縮重合反応の反応時間が短縮化された熱履歴の少ないポリエステルが得られる。また、該ポリエステルを用いた電子写真用トナーは、流動性において優れた効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明のポリエステルは、触媒と、2個の水素原子が水酸基で置換されたベンゼン環又はシクロヘキサン環を有する化合物とを用いて、アルコール成分と芳香族ジカルボン酸化合物を含有するカルボン酸成分とを縮重合させて得られる。2個の水素原子が水酸基で置換されたベンゼン環又はシクロヘキサン環を有する化合物を助触媒として触媒と併用することにより、触媒の活性が高められ、反応時間を短縮することができるため、熱履歴の少ないポリエステルを得ることができる。また、該ポリエステルをトナー用結着樹脂とするトナーは、熱履歴の少ないポリエステルを使用しているためか、良好な流動性を有するという効果を奏するものである。触媒の活性が、水酸基で置換されたベンゼン環又はシクロヘキサン環を有する化合物との併用により高められる理由の詳細は不明なるも、水酸基で置換されたベンゼン環又はシクロヘキサン環を有する化合物、触媒とカルボン酸成分として用いられる芳香族ジカルボン酸化合物との相互作用により、芳香族ジカルボン酸化合物がより反応しやすい状態に変化するとともに、触媒の活性化に影響を与えているためと推測される。
【0008】
2個の水素原子が水酸基で置換されたベンゼン環又はシクロヘキサン環を有する化合物としては、ハイドロキノン等の2価のフェノール、水酸基に対して少なくともオルト位に置換基を有するフェノール性化合物(以下、ヒンダードフェノールをいう)、1,2-シクロヘキサンジオール、1,3-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジオール等が挙げられるが、これらの中では、芳香族ジカルボン酸化合物との相互作用による触媒の活性化の観点から、2個の水素原子が水酸基で置換されたベンゼン環を有する化合物が好ましい。また、同様の観点から、2個の水酸基が互いに隣接したベンゼン環又はシクロヘキサン環を有する化合物が好ましく、従って、2個の水酸基が互いに隣接したベンゼン環を有する化合物がより好ましい。
【0009】
2価のフェノールとは、ベンゼン環に、OH基が2個結合したものであり、他の置換基がついていない化合物を意味し、ハイドロキノンが好ましい。
【0010】
ヒンダードフェノールとしては、モノ-t-ブチル-p-クレゾール、モノ-t-ブチル-m-クレゾール、t-ブチルカテコール、2,5-ジ-t-ブチルハイドロキノン、2,5-ジ-t-アミルハイドロキノン、プロピルガレード、4,4’-メチレンビス(2,6-t-ブチルフェノール)、4,4’-イソプロピリデンビス(2,6-ジ-t-ブチルフェノール)、4,4’-ブチリデンビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、ブチルヒドロキシアニソール、2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール、2,6-ジ-t-ブチルフェノール、2,6-ジ-t-ブチル-4-エチルフェノール、2,4,6-トリ-t-ブチルフェノール、オクタデシル-3-(4-ハイドロキシ-3’,5’-ジ-t-ブチルフェニル)プロピオネート、ジステアリル(4-ハイドロキシ-3-メチル-5-t-ブチル)ベンジルマロネート、6-(4-ハイドロキシ-3,5-ジ-t-ブチルアニリノ)-2,4-ビスオクチルチオ-1,3,5-トリアジン、2,6-ジフェル-4-オクタデカノキシフェノール、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-t-ブチルフェール)、2,2’-メチレンビス(4-エチル-6-t-ブチルフェノール)、2,2’-イソブチリデンビス(4,6-ジメチルフェノール)、2,2’-ジハイドロキシ-3,3’-ジ-(α-メチルシクロヘキシル)-5,5’-ジメチルジフェニルメタン、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-シクロヘキシルフェノール)、トリス[β-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ハイドロキシフェニル)プロピオニルオキシエチル]イソシアヌレート、1,3,5-トリス(2,6-ジメチル-3-ハイドロキシ-4-t-ブチルベンジル)イソシアヌレート、トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ハイドロキシフェノール)イソシアヌレート、1,1,3’-トリス(2-メチル-4-ハイドロキシ-5-t-ブチルフェニル)ブタン、2,6-ビス(2’-ハイドロキシ-3’-t-ブチル-5’-メチルベンジル)-4-メチルフェノール、N,N’-ヘキサメチレンビス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ハイドロキシハイドロシンナメート)、ヘキサメチレングルコールビス[β-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ハイドロキシフェニル)プロピオネート]、トリエチレングリコールビス[β-(3-t-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、テトラキス[メチレン-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ハイドロキシフェニル)プロピオネート]メタン等が挙げられ、これらの中では、t-ブチルカテコールが好ましい。
【0011】
2個の水素原子が水酸基で置換されたベンゼン環又はシクロヘキサン環を有する化合物の使用量は、ポリエステルの原料モノマー100重量部に対して、0.001〜1.0重量部が好ましく、0.02〜0.5重量部がより好ましく、0.05〜0.3重量部がさらに好ましく、0.07〜0.3重量部がさらに好ましい。
【0012】
触媒としては、従来知られている公知の触媒が使用できるが、芳香族ジカルボン酸化合物との相互作用による触媒活性の観点から、錫化合物又はチタン化合物が好ましい。
【0013】
錫化合物としては、酸化ジブチル錫等のSn-C結合を有する錫(II)化合物や、Sn-C結合を有していない錫(II)化合物が挙げられるが、近年、安全性の観点から、Sn-C結合を有していない錫(II)化合物が着目されている。しかしながら、Sn-C結合を有していない錫(II)化合物は、安全性の面では酸化ジブチル錫等のSn-C結合を有する錫(II)化合物に優るものの、触媒活性では、Sn−C結合を有する錫化合物に劣り、長い反応時間又は高い反応温度が必要となる。そのため、生産コストの増大だけでなく、低分子量成分の増加、揮発性有機成分の増大という課題を招く。従って、本発明では、錫触媒として、触媒活性の低いSn-C結合を有していない錫(II)化合物を用いた際に、2個の水素原子が水酸基で置換されたベンゼン環又はシクロヘキサン環を有する化合物により触媒活性が高められる本発明の効果がより顕著に奏される。
【0014】
Sn-C結合を有していない錫(II)化合物としては、Sn-O結合を有する錫(II)化合物、Sn-X(Xはハロゲン原子を示す)結合を有する錫(II)化合物等が好ましく、Sn-O結合を有する錫(II)化合物がより好ましい。
【0015】
Sn-O結合を有する錫(II)化合物としては、シュウ酸錫(II)、酢酸錫(II)、オクタン酸錫(II)、2-エチルヘキサン酸錫(II)、ラウリル酸錫(II)、ステアリン酸錫(II)、オレイン酸錫(II)等の炭素数2〜28のカルボン酸基を有するカルボン酸錫(II);オクチロキシ錫(II)、ラウロキシ錫(II)、ステアロキシ錫(II)、オレイロキシ錫(II)等の炭素数2〜28のアルコキシ基を有するアルコキシ錫(II);酸化錫(II);硫酸錫(II)等が、Sn-X(Xはハロゲン原子を示す)結合を有する錫(II)化合物としては、塩化錫(II)、臭化錫(II)等のハロゲン化錫(II)等が挙げられ、これらの中では、触媒能及び電子写真用トナーの帯電立ち上がり効果の点から、(R1COO)2Sn(ここでR1は炭素数5〜19のアルキル基又はアルケニル基を示す)で表される脂肪酸錫(II)、(R2O)2Sn(ここでRは炭素数6〜20のアルキル基又はアルケニル基を示す)で表されるアルコキシ錫(II)及びSnOで表される酸化錫(II)が好ましく、(R1COO)2Snで表される脂肪酸錫(II)及び酸化錫(II)がより好ましく、オクタン酸錫(II)、2-エチルヘキサン酸錫(II)、ステアリン酸錫(II)及び酸化錫(II)がさらに好ましい。
【0016】
チタン化合物としては、Ti-O結合を有するチタン化合物が好ましく、総炭素数1〜28のアルキルオキシ基、アルケニルオキシ基又はアシルオキシ基を有する化合物がより好ましい。
【0017】
チタン化合物の具体例としては、チタンジイソプロピレートビストリエタノールアミネート〔Ti(C6H14O3N)2(C3H7O)2〕、チタンジイソプロピレートビスジエタノールアミネート〔Ti(C4H10O2N)2(C3H7O)2〕、チタンジペンチレートビストリエタノールアミネート〔Ti(C6H14O3N)2(C5H11O)2〕、チタンジエチレートビストリエタノールアミネート〔Ti(C6H14O3N)2(C2H5O)2〕、チタンジヒドロキシオクチレートビストリエタノールアミネート〔Ti(C6H14O3N)2(OHC8H16O)2〕、チタンジステアレートビストリエタノールアミネート〔Ti(C6H14O3N)2(C18H37O)2〕、チタントリイソプロピレートトリエタノールアミネート〔Ti(C6H14O3N)(C3H7O)3〕、チタンモノプロピレートトリス(トリエタノールアミネート)〔Ti(C6H14O3N)3(C3H7O)〕等が挙げられ、これらの中ではチタンジイソプロピレートビストリエタノールアミネート、チタンジイソプロピレートビスジエタノールアミネート及びチタンジペンチレートビストリエタノールアミネートが好ましく、これらは、例えばマツモト交商(株)の市販品としても入手可能である。
【0018】
他の好ましいチタン化合物の具体例としては、テトラ-n-ブチルチタネート〔Ti(C4H9O)4〕、テトラプロピルチタネート〔Ti(C3H7O)4〕、テトラステアリルチタネート〔Ti(C18H37O)4〕、テトラミリスチルチタネート〔Ti(C14H29O)4〕、テトラオクチルチタネート〔Ti(C8H17O)4〕、ジオクチルジヒドロキシオクチルチタネート〔Ti(C8H17O)2(OHC8H16O)2〕、ジミリスチルジオクチルチタネート〔Ti(C14H29O)2(C8H17O)2〕等で挙げられ、これらの中ではテトラステアリルチタネート、テトラミリスチルチタネート、テトラオクチルチタネート及びジオクチルジヒドロキシオクチルチタネートが好ましく、これらは、例えばハロゲン化チタンを対応するアルコールと反応させることにより得ることもできるが、ニッソー社等の市販品としても入手可能である。
【0019】
触媒の使用量は、ポリエステルの原料モノマー100重量部に対して、0.01〜2.0重量部が好ましく、0.1〜1.0重量部がより好ましく、0.2〜0.8重量部がさらに好ましく、0.4〜0.7重量部がさらに好ましい。
【0020】
触媒と2個の水素原子が水酸基で置換されたベンゼン環又はシクロヘキサン環を有する化合物の重量比(2個の水素原子が水酸基で置換されたベンゼン環又はシクロヘキサン環を有する化合物/触媒)は、0.03〜0.5が好ましく、0.07〜0.4がより好ましく、0.1〜0.3がさらに好ましく、0.15〜0.3がさらに好ましい。
【0021】
ポリエステルの原料モノマーとしては、アルコール成分とカルボン酸成分とを用いる。
【0022】
アルコール成分としては、ポリオキシプロピレン-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシエチレン-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン等の、式(I):
【0023】
【化1】

【0024】
(式中、R3O及びOR3はオキシアルキレン基であり、R3はエチレン及び/又はプロピレン基であり、x及びyはアルキレンオキサイドの付加モル数を示し、それぞれ正の数であり、xとyの和の平均値は1〜16が好ましく、1〜8がより好ましく、1.5〜4がさらに好ましい)
で表されるビスフェノールのアルキレンオキサイド付加物等の芳香族ジオール、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,4-ブテンジオール、1,3-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール等の脂肪族ジオール、グリセリン等の3価以上の多価アルコール等が挙げられる。
【0025】
カルボン酸成分としては、少なくとも芳香族ジカルボン酸化合物を用いる。芳香族ジカルボン酸化合物としては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、及びこれらの酸の無水物、アルキル(炭素数1〜3)エステル等が挙げられる。
【0026】
芳香族ジカルボン酸化合物以外のカルボン酸成分としては、シュウ酸、マロン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸、グルタコン酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、n-ドデシルコハク酸、n-ドデセニルコハク酸等の脂肪族ジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸;トリメリット酸、ピロメリット酸等の3価以上の多価カルボン酸;及びこれらの酸の無水物、アルキル(炭素数1〜3)エステル;ロジン;フマル酸、マレイン酸、アクリル酸等で変性されたロジン等が挙げられる。なお、上記のような酸、これらの酸の無水物、及び酸のアルキルエステルを、本明細書では総称してカルボン酸化合物と呼ぶ。
【0027】
芳香族ジカルボン酸化合物の含有量は、カルボン酸成分中、50モル%以上が好ましく、70モル%以上がより好ましく、80モル%以上がさらに好ましく、90〜100モル%がさらに好ましい。
【0028】
なお、2個の水素原子が水酸基で置換されたベンゼン環又はシクロヘキサン環を有する化合物のなかで、ハイドロキノンやt-ブチルカテコールは、ポリエステルの製造において、フマル酸、マレイン酸等の不飽和ジカルボン酸化合物の重合禁止剤としての使用が知られているが、2個の水素原子が水酸基で置換されたベンゼン環又はシクロヘキサン環を有する化合物は、不飽和ジカルボン酸化合物とともに使用しても、触媒の活性の効果は得られない。従って、不飽和ジカルボン酸化合物は含有していないか、含有している場合には、不飽和ジカルボン酸化合物の含有量は、カルボン酸成分中、10モル%以下が好ましく、5モル%以下がより好ましい。カルボン酸成分として、10モル%を超える量、好ましくは10モル%を超えて60モル%以下、より好ましくは10モル%を超えて50モル%以下の不飽和ジカルボン酸化合物を使用する場合は、触媒と2個の水素原子が水酸基で置換されたベンゼン環又はシクロヘキサン環を有する化合物の存在下、アルコール成分と、芳香族ジカルボン酸成分を含む不飽和ジカルボン酸化合物以外のジカルボン酸化合物とを好ましくは210〜260℃、より好ましくは220〜250℃で反応させた後(1段目反応)、重合禁止剤と不飽和ジカルボン酸化合物を添加して、好ましくは180〜220℃、より好ましくは190〜210℃でさらに反応させる(2段目反応)ことが好ましい。この場合、芳香族ジカルボン酸化合物の含有量は、1段目反応に供されるジカルボン酸成分中、50モル%以上が好ましく、70モル%以上がより好ましく、80モル%以上がさらに好ましく、90〜100モル%がさらに好ましい。
【0029】
なお、アルコール成分には1価のアルコールが、カルボン酸成分には1価のカルボン酸化合物が、縮重合反応で得られるポリエステルの分子量調整や、該ポリエステルを含有する電子写真用トナーの耐オフセット性向上の観点から、適宜含有されていてもよい。
【0030】
触媒及び2個の水素原子が水酸基で置換されたベンゼン環又はシクロヘキサン環を有する化合物を用いたアルコール成分とカルボン酸成分との縮重合反応は、例えば、これらの触媒及び化合物の存在下、不活性ガス雰囲気中にて、好ましくは220〜270℃、より好ましくは225〜260℃、さらに好ましくは230〜250℃の温度下で行うことができる。触媒と、2個の水素原子が水酸基で置換されたベンゼン環又はシクロヘキサン環を有する化合物は、両者を混合して反応系に添加してもよく、別々に添加してもよい。
【0031】
触媒と2個の水素原子が水酸基で置換されたベンゼン環又はシクロヘキサン環を有する化合物を反応系に添加する時期は、反応開始前及び反応途中のいずれであってもよく、カルボン酸成分やアルコール成分と混合して添加してもよいが、2個の水素原子が水酸基で置換されたベンゼン環又はシクロヘキサン環を有する化合物は、芳香族ジカルボン酸化合物と同時又は芳香族ジカルボン酸化合物よりも後に、反応系内に添加することが好ましく、芳香族ジカルボン酸化合物と触媒を添加した後に添加することがより好ましい。
【0032】
ポリエステルは、実質的にその特性を損なわない程度に変性されていてもよい。例えば、変性されたポリエステルとしては、特開平11−133668号公報、特開平10−239903号公報、特開平8−20636号公報等に記載の方法によりフェノール、ウレタン、エポキシ等によりグラフト化やブロック化したポリエステルをいう。
【0033】
触媒の活性能を高める縮重合反応用助触媒を用いることにより、反応時間を短縮することができ、熱履歴が少ないポリエステルが得られる。従って、本発明のポリエステルをトナー用結着樹脂とするトナーは、良好な流動性を発揮すると考えられる。
【0034】
結着樹脂の軟化点としては、トナーの定着性、保存性及び耐久性の観点から、90〜160℃が好ましく、95〜155℃がより好ましく、98〜150℃がさらに好ましい。ガラス転移点は、同様の観点から、45〜85℃が好ましく、50〜80℃がより好ましい。トナーの帯電性と環境安定性の観点から、酸価は、1〜90mgKOH/gが好ましく、5〜90mgKOH/gがより好ましく、5〜88mgKOH/gがさらに好ましい。
【0035】
本発明においては、さらに本発明のポリエステルを含有した電子写真用トナーを提供する。トナーには、本発明の効果を損なわない範囲で、公知の結着樹脂、例えば、スチレン-アクリル樹脂等のビニル系樹脂、エポキシ樹脂、ポリカーボネート、ポリウレタン等の他の樹脂が併用されていてもよいが、本発明の縮重合系樹脂の含有量は、結着樹脂中、70重量%以上が好ましく、80重量%以上がより好ましく、90重量%以上がさらに好ましく、実質的に100重量%であることがさらに好ましい。
【0036】
トナーには、さらに、着色剤、離型剤、荷電制御剤、磁性粉、流動性向上剤、導電性調整剤、体質顔料、繊維状物質等の補強充填剤、酸化防止剤、老化防止剤、クリーニング性向上剤等の添加剤が適宜含有されていてもよい。
【0037】
着色剤としては、トナー用着色剤として用いられている染料、顔料等のすべてを使用することができ、カーボンブラック、フタロシアニンブルー、パーマネントブラウンFG、ブリリアントファーストスカーレット、ピグメントグリーンB、ローダミン−Bベース、ソルベントレッド49、ソルベントレッド146、ソルベントブルー35、キナクリドン、カーミン6B、イソインドリン、ジスアゾエロー等が用いることができ、本発明のトナーは、黒トナー、カラートナーのいずれであってもよい。着色剤の含有量は、結着樹脂100重量部に対して、1〜40重量部が好ましく、2〜10重量部がより好ましい。
【0038】
電子写真用トナーは、溶融混練法、乳化転相法、重合法等の従来より公知のいずれの方法により得られたトナーであってもよいが、生産性や着色剤の分散性の観点から、溶融混練法による粉砕トナーが好ましい。溶融混練法による粉砕トナーの場合、例えば、結着樹脂、着色剤、荷電制御剤等の原料をヘンシェルミキサー等の混合機で均一に混合した後、密閉式ニーダー、1軸もしくは2軸の押出機、オープンロール型混練機等で溶融混練し、冷却、粉砕、分級して製造することができる。一方、トナーの小粒径化の観点からは、重合法によるトナーが好ましい。トナーの表面には、疎水性シリカ等の外添剤が添加されていてもよい。
【0039】
トナーの体積中位粒径(D50)は、3〜15μmが好ましく、3〜10μmがより好ましい。なお、本明細書において、体積中位粒径(D50)とは、体積分率で計算した累積体積頻度が粒径の小さい方から計算して50%になる粒径を意味する。
【0040】
得られたトナーは、一成分現像用トナーとして、又はキャリアと混合して二成分現像剤として用いることができる。
【実施例】
【0041】
〔樹脂の軟化点〕
フローテスター(島津製作所、CFT-500D)を用い、1gの試料を昇温速度6℃/分で加熱しながら、プランジャーにより1.96MPaの荷重を与え、直径1mm、長さ1mmのノズルから押出する。温度に対し、フローテスターのプランジャー降下量をプロットし、試料の半量が流出した温度を軟化点とする。
【0042】
〔トナーの体積中位粒径(D50)〕
測定機:コールターマルチサイザーII(ベックマンコールター社製)
アパチャー径:50μm
解析ソフト:コールターマルチサイザーアキュコンプ バージョン 1.19(ベックマンコールター社製)
電解液:アイソトンII(ベックマンコールター社製)
分散液:エマルゲン109P(花王社製、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、HLB:13.6)5%電解液
分散条件:分散液5mlに測定試料10mgを添加し、超音波分散機にて1分間分散させ、その後、電解液25mlを添加し、さらに、超音波分散機にて1分間分散させる。
測定条件:ビーカーに電解液100mlと分散液を加え、3万個の粒子の粒径を20秒で測定できる濃度で、3万個の粒子を測定し、その粒度分布から体積中位粒径(D50)を求める。
【0043】
実施例1〜11及び比較例1、2
表2に示す仕込み条件で、表1に示す原料モノマー組成Aのアルコール成分、カルボン酸成分及び表2に示す触媒、助触媒を、窒素導入管、脱水管、攪拌器及び熱電対を装備した10リットル容の四つ口フラスコに入れた後、窒素雰囲気下、235℃で酸価が15mgKOH/gに達するまで縮重合反応させた後、さらに8kPaにて軟化点が107℃に達するまで反応させて、ポリエステルを得た。酸価が15mgKOH/gに達するまでかかった反応時間を表2に示す。
【0044】
〔仕込み条件A〕
アルコール成分を四つ口フラスコに投入し100℃に加熱後、攪拌しながら、3分毎に、カルボン酸成分、触媒、助触媒を順にそれぞれ一括で添加した。
【0045】
〔仕込み条件B〕
アルコール成分を四つ口フラスコに投入し100℃に加熱後、攪拌しながら、3分毎に、カルボン酸成分、助触媒、触媒をそれぞれ一括で順に添加した。
【0046】
〔仕込み条件C〕
アルコール成分を四つ口フラスコに投入し100℃に加熱後、攪拌しながら、3分毎に、助触媒、触媒、カルボン酸成分を順にそれぞれ一括で添加した。
【0047】
〔仕込み条D〕
アルコール成分を四つ口フラスコに投入し100℃に加熱後、攪拌しながら、3分毎に、カルボン酸成分、触媒を順にそれぞれ一括で添加した。
【0048】
【表1】

【0049】
得られたポリエステル100重量部、カーボンブラック「MOGUL L」(キャボット社製)4重量部、負帯電性荷電制御剤「ボントロン S-34」(オリエント化学工業社製)1重量部及びポリプロピレンワックス「NP-105」(三井化学社製、融点140℃)2重量部をヘンシェルミキサーで十分混合した後、混練部分の全長1560mm、スクリュー径42mm、バレル内径43mmの同方向回転二軸押出し機を用い、ロール回転速度200r/min、ロール内の加熱温度80℃で溶融混練した。混合物の供給速度は20kg/hr、平均滞留時間は約18秒であった。得られた溶融混練物を冷却、粗粉砕した後、ジェットミルにて粉砕し、分級して、体積中位粒径(D50)が7.5μmの粉体を得た。
【0050】
得られた粉体100重量部に、外添剤として疎水性シリカ「アエロジル R-972」(日本アエロジル(株)製)0.1重量部を添加し、ヘンシェルミキサーで混合することにより、トナーを得た。
【0051】
[トナーの流動性]
得られたトナーの凝集度を、パウダーテスター(ホソカワミクロン社製)を使用した以下の方法により測定し、評価基準に従って流動性を評価した。結果を表2に示す。なお、凝集度とは、粉体流動性を表す指標であり、数値が低いほど粉体の流動性が高いことを示すものである。
【0052】
〔凝集度の測定方法〕
パウダーテスターの振動台に、3種の異なる目開き(250μm、149μm、74μm)の篩を、上段250μm、中段149μm、下段74μmの順でセットし、上段の篩にトナー2gを乗せ、1mmの振動幅で60秒間振動させて、各篩上に残存したトナーの重量(g)を測定する。
【0053】
測定したトナー重量を次式に当てはめて計算し、凝集度(重量%)を求める。
凝集度(重量%)=a+b+c
a=(上段に篩に残存したトナーの重量)/2×100
b=(中段に篩に残存したトナーの重量)/2×100×(3/5)
c=(下段に篩に残存したトナーの重量)/2×100×(1/5)
【0054】
〔流動性の評価基準〕
A:凝集度が30重量%未満
B:凝集度が30重量%以上、50重量%未満
C:凝集度が50重量%以上
【0055】
実施例12、13及び比較例3、4
表1に示す原料モノマー組成Bを用いた。
【0056】
〔1段目反応〕
表2に示す仕込み条件で、表1に示す原料モノマー組成Bのアルコール成分、フマル酸及びトリメリット酸以外のカルボン酸成分及び表2に示す触媒及び助触媒を、窒素導入管、脱水管、攪拌器及び熱電対を装備した10リットル容の四つ口フラスコに入れた後、窒素雰囲気下、235℃で酸価15mgKOH/gに達するまで縮重合反応させた後、さらに8kPaにて1時間反応させた。酸価が15mgKOH/gに達するまでかかった反応時間を表2に示す。仕込み条件A、Dは前記と同じ。
【0057】
〔2段目反応〕
反応温度を180℃に降温した後、フマル酸、トリメリット酸、重合禁止剤としてt-ブチルカテコール4g加えた後、5℃/hrの速度で200℃まで昇温し、軟化点が107℃に達するまで反応させて、ポリエステルを得た。
【0058】
さらに、実施例1と同様にして、トナーを製造し、流動性を評価した。結果を表2に示す。
【0059】
【表2】

【0060】
以上の結果より、触媒として2個の水素原子が水酸基で置換されたベンゼン環又はシクロヘキサン環を有する化合物を使用した実施例1〜13では、比較例1〜4と対比して、反応時間が短縮されたポリエステルが得られ、該ポリエステルをトナー用結着樹脂として含有するトナーは、良好な流動性を示すことが分かる。
【0061】
参考例A
ポリオキシプロピレン(2.05)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(BPA-PO)6700g及びフマル酸2320g(BPA-PO 100モルに対して100モル)と、BPA-POとフマル酸の総量100重量部に対して0.5重量部の2-エチルヘキサン酸錫(II)とを窒素導入管、脱水管、攪拌器及び熱電対を装備した10リットル容の四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気下、190℃で反応させた。
【0062】
参考例B
さらに、BPA-POとフマル酸の総量100重量部に対して0.1重量部のt-ブチルカテコールをエチルヘキサン酸錫(II)とともに使用した以外は、参考例Aと同様にして、反応させた。
【0063】
参考例A、Bにおいて、1時間ごとに反応率を測定した結果を表3に示す。
【0064】
【表3】

【0065】
参考例A、Bの対比から、カルボン酸成分として脂肪族ジカルボン酸化合物のみを使用した場合には、2個の水素原子が水酸基で置換されたベンゼン環又はシクロヘキサン環を有する化合物による効果は得られず、本発明の効果の発現に芳香族カルボン酸化合物が関与していることが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明のポリエステルは、フィルム、シート、繊維、電子写真用トナー材料等の各種用途に用いられるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒と、2個の水素原子が水酸基で置換されたベンゼン環又はシクロヘキサン環を有する化合物とを用いて、アルコール成分と芳香族ジカルボン酸化合物を含有するカルボン酸成分とを縮重合させて得られるポリエステル。
【請求項2】
触媒が、錫化合物又はチタン化合物を含有してなる、請求項1記載のポリエステル。
【請求項3】
2個の水素原子が水酸基で置換されたベンゼン環又はシクロヘキサン環を有する化合物が、ベンゼン環又はシクロヘキサン環における2個の水酸基が互いに隣接してなる化合物を含有してなる、請求項1又は2記載のポリエステル。
【請求項4】
ポリエステルの原料モノマー100重量部に対して、触媒の使用量が0.01〜2.0重量部で、2個の水素原子が水酸基で置換されたベンゼン環又はシクロヘキサン環を有する化合物の使用量が0.001〜1.0重量部である、請求項1〜3いずれか記載のポリエステル。
【請求項5】
触媒と、2個の水素原子が水酸基で置換されたベンゼン環又はシクロヘキサン環を有する化合物を用いて、アルコール成分と芳香族ジカルボン酸化合物を含有するカルボン酸成分とを縮重合させる、ポリエステルの製造方法。
【請求項6】
アルコール成分とカルボン酸成分との縮重合を、220〜270℃の温度下で行う、請求項5記載のポリエステルの製造方法。
【請求項7】
請求項1〜4いずれか記載のポリエステルを含有してなる電子写真用トナー。

【公開番号】特開2009−191240(P2009−191240A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−36494(P2008−36494)
【出願日】平成20年2月18日(2008.2.18)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】