説明

ポリエチルビニルエーテル誘導体、その製造方法、及びLCST型相分離の制御方法

【課題】有機溶媒に低温では溶解して透明な溶液を形成し、昇温すると相分離を起こす刺激応答性高分子、及びこの刺激応答性高分子を製造する方法を提供する。
【解決手段】1−アルキルイミダゾリウム基又は4−アルキルピリジニウム基をポリエチルビニルエーテルのエチル基の2位に結合したポリエチルビニルエーテル誘導体、特に、重量平均分子量/数平均分子量が1.25以下であることを特徴とするポリエチルビニルエーテル誘導体、及び、2−ハロゲノエチルビニルエーテルのリビングカチオン重合を含むことを特徴とする上記ポリエチルビニルエーテル誘導体の製造方法、並びに、上記ポリエチルビニルエーテル誘導体を用いるLCST型相分離の制御方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、刺激応答性高分子に関し、より具体的には、低温では有機溶媒に溶解して透明な溶液を形成し、昇温すると有機溶媒と相分離(LCST型相分離)を起こすポリエチルビニルエーテル誘導体に関する。
【背景技術】
【0002】
温度変化やpH変化等に応答してその性質や形態を変化させる刺激応答性高分子は、種々のセンサーや機能性材料としての利用が考えられ、近年注目されている。例えば、下記の構造式(a)で表わされる高分子は、水に低温では溶解して透明な溶液を形成し、昇温すると相分離を引き起こすという、所謂LCST型相分離をするポリマーとして知られている。
【0003】
【化1】

【0004】
又、非特許文献1には、イオン液体(イオン性溶媒)に低温では溶解して透明な溶液を形成し、昇温すると相分離を起こすポリマーが開示されている。しかし、センサー等の電気器具の部品としての用途には、誘電率が高い水やイオン性溶媒からなる部材も求められるが、それとともに、誘電率が低い有機溶媒からなる部材も求められる。
【0005】
又、感度の高いセンサーを形成するためには、温度変化による相分離が所定温度で急激に生じることが望まれる。そこで、有機溶媒に低温では溶解して透明な溶液を形成し、昇温して所定の温度に達したときに相分離を起こす刺激応答性高分子、特に、所定の温度に達したときに急激に高い感度で相分離を起こす刺激応答性高分子が望まれていた。しかし、従来、有機溶媒中でLCST型相分離をするポリマーについての報告は少なく、特に、急激に高い感度で相分離を起こし、上記の要望を満たすポリマーは知られていなかった。
【非特許文献1】Watanabe, M. et al, Langmuir, (2007), 23, 988
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、従来技術のこのような事情に鑑みたものであり、有機溶媒に低温では溶解して透明な溶液を形成し、昇温すると相分離を起こすポリマー、すなわち、LCST型相分離を引き起こす刺激応答性高分子、及びこの刺激応答性高分子を製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、特定の構造のポリエチルビニルエーテル誘導体が、有機溶媒内で、所謂LCST型相分離を引き起こすこと、すなわち上記の課題を達成できることを見出した。本発明者は、又、ビニルエーテル類のカチオン重合において、不安定な生長炭素カチオンを安定化する方法を見いだし、室温程度の比較的高温の条件下でも、リビング系で重合を行うことを可能にし、このリビングカチオン重合により、分子量分布の狭いポリビニルエーテルが合成できること、その構造や重合度を制御できることを見出した。そして、このリビングカチオン重合を含む製造方法により得られる分子量分布の狭いポリエチルビニルエーテル誘導体であって、特定の構造、重合度範囲を有するものが、特定の有機溶媒内で上記のLCST型相分離を高い感度で引き起こすことを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、下記式(I)で表わされることを特徴とするポリエチルビニルエーテル誘導体を提供する。
【0009】
【化2】

(式(I)中、Rは水素又はメチルを表わし、Rは炭素数1〜8のアルキルを表わし、nは50〜200の数を表わし、Xは陰イオンを表わす。)
【0010】
このポリエチルビニルエーテル誘導体は、クロロホルム等の特定の有機溶媒中で、LCST型相分離を引き起こすことができる。
【0011】
式(I)で表わされるポリエチルビニルエーテル誘導体の中でも、重量平均分子量/数平均分子量が1.25以下であるものは、高い感度でLCST型相分離を引き起こすことができるので好ましい。より好ましくは、重量平均分子量/数平均分子量値は1.15以下である。重量平均分子量/数平均分子量の値が小さい程、すなわち分子量分布が狭く単分散に近い程、昇温による、透明な溶液から相分離して不透明になる変化が所定の温度で、より急激に起るようになり、LCST型相分離をより高い感度で引き起こすことができる。従って、この観点からは重量平均分子量/数平均分子量の値は、1.0に近い程好ましいが、製造の容易さ等を考慮すると重量平均分子量/数平均分子量の下限は1.01程度である。ここで、重量平均分子量及び数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により求めた値である。
【0012】
本発明のポリエチルビニルエーテル誘導体は、本発明の趣旨を損なわない範囲で、式(I)で表わされる重合単位以外の重合単位を含むことができる。例えば、式(I)で表わされる重合単位と上記式(a)で表わされる重合単位のランダム共重合体やブロック共重合体を含むことができる。
【0013】
式(I)中のRは、炭素数1〜8のアルキルを表わすが、中でも、炭素数2〜7のアルキルである場合、特に炭素数3〜5のアルキルである場合が、LCST型相分離をより高い感度で引き起こすための溶媒、濃度、重合度(nの値)の選択が容易であり好ましい。
【0014】
式(I)中のnは、50〜200の数を表わすが、中でも、60〜180の数を表わす場合、特に、nが70〜130の範囲内である場合が、LCST型相分離を高い感度で引き起こすための、溶媒、濃度の選択を容易にするので好ましい。
【0015】
式(I)中のXは、陰イオンである。この陰イオンとしては、塩素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオン等のハロゲンイオンを挙げることができるが、特に、塩素イオンの場合がLCST型相分離を高い感度で引き起こすものとして挙げることができる。
【0016】
本発明は、上記のポリエチルビニルエーテル誘導体に加えて、下記式(II)で表わされることを特徴とするポリエチルビニルエーテル誘導体。
【0017】
【化3】

(式(II)中、Rは炭素数1〜6のアルキルを表わし、nは50〜200の数を表わし、Xは陰イオンを表わす。)
【0018】
式(II)で表わされるポリエチルビニルエーテル誘導体も、クロロホルム等の特定の有機溶媒中で、LCST型相分離を引き起こすことができる。中でも、重量平均分子量/数平均分子量の値が小さく単分散に近いものほどLCST型相分離をより高い感度で引き起こすことができるので好ましい。具体的には、重量平均分子量/数平均分子量が1.25以下であるものが好ましく、より好ましくは、重量平均分子量/数平均分子量値は1.15以下である。重量平均分子量/数平均分子量の値の意味等は、式(I)で表わされるポリエチルビニルエーテル誘導体の場合と同様である。
【0019】
上記のポリエチルビニルエーテル誘導体は、下記式(III)で表わされる2−ハロゲノエチルビニルエーテルをリビングカチオン重合して、ポリ(2−ハロゲノエチル)ビニルエーテルを合成し、その後、そのハロゲン原子を、下記式で表される1−アルキルイミダゾール(式(I)で表わされるポリエチルビニルエーテル誘導体の製造の場合)又は4−アルキルピリジン(式(II)で表わされるポリエチルビニルエーテル誘導体の製造の場合)で置換する方法により製造することができる。本発明は、この製造方法も提供するものである。
【0020】
【化4】

(式(III)中Yはハロゲン原子を表わす。)
【0021】
【化5】

1−アルキルイミダゾール(式中Rは、炭素数1〜8のアルキルを表わす。)
【0022】
ここでリビングカチオン重合は、トルエン等の溶媒中で、開始剤としてEtAlCl等のハロゲン化金属を用いるとともに、この系にルイス塩基(添加塩基)として酢酸エチル、THF、ジオキサン等の弱い塩基を添加して、2−ハロゲノエチルビニルエーテルを重合することにより行うことができる。ルイス塩基(添加塩基)として酢酸エチルやTHF等の弱い塩基を添加することにより、生長種が安定化され,室温程度の比較的高温の条件でもリビング重合を行うことができ、単分散に近い分子量分布のポリ(2−ハロゲノエチル)ビニルエーテルを得ることができる。
【0023】
得られた活性種はリビング性を有しているので、重合終了時に第2のモノマーを添加することにより、選択的にブロック共重合体を合成することもできる。又、ポリマーの重合度や組成比は、容易に制御可能である。このようにして得られた単分散のポリ(2−ハロゲノエチル)ビニルエーテルのハロゲン原子を置換することにより得られる式(I)又は式(II)のポリエチルビニルエーテル誘導体も単分散のポリマーであり、例えば、重量平均分子量/数平均分子量が1.25以下との条件を満たすことができる。
【0024】
このようにして得られたポリエチルビニルエーテル誘導体は、クロロホルム等の有機溶媒中で、LCST型相分離を示し、特に、単分散のポリマーの場合、LCST型相分離を高感度で示す。LCST型相分離が生じるか否か、その相分離が生じる温度は、有機溶媒の種類、有機溶媒中のポリエチルビニルエーテル誘導体の濃度、ポリエチルビニルエーテル誘導体の重合度(鎖長:式(I)や(式(II)におけるnの値)等により変動する。従って、このポリエチルビニルエーテル誘導体と有機溶媒からなるセンサー等を制作する場合には、有機溶媒の種類、ポリエチルビニルエーテル誘導体の濃度、重合度等を変動させた予備実験を行い、LCST型相分離の有無、LCST型相分離が生じる温度を確認して、有機溶媒の種類やポリエチルビニルエーテル誘導体の濃度等の選択を行う。
【0025】
又、LCST型相分離が生じる温度は、ポリエチルビニルエーテル誘導体の重合度、有機溶媒中のポリエチルビニルエーテル誘導体の濃度等により変動するので、この重合度や濃度の調整により、有機溶媒中におけるLCST型相分離の挙動を制御することができる。本発明は、上記のポリエチルビニルエーテル誘導体の重合度の調整によるLCST型相分離の制御方法、及び、上記のポリエチルビニルエーテル誘導体の、有機溶媒中におけるポリマー濃度の調整によるLCST型相分離の制御方法も提供するものである。
【発明の効果】
【0026】
本発明のポリエチルビニルエーテル誘導体は、特定の有機溶媒に低温では溶解して透明な溶液を形成し、昇温し所定の温度に達すると、LCST型相分離を引き起こす刺激応答性高分子である。特に、重量平均分子量/数平均分子量が、1.25以下であるものは、所定の温度に達すると、急激に高い感度でLCST型相分離を引き起こす。そこで、電気器具のセンサー等に好適に用いられ、又機能性高分子等としての用途が考えられるものである。
【0027】
本発明のポリエチルビニルエーテル誘導体、特に、分子量分布が狭いことを特徴とする本発明のポリエチルビニルエーテル誘導体は、リビングカチオン重合を含む本発明の製造方法により容易に製造することができる。
【0028】
又、本発明のポリエチルビニルエーテル誘導体の重合度や濃度の調整により、有機溶媒中におけるLCST型相分離の挙動を制御することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、以下の実施例に基づき説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。本発明と同一および均等の範囲において、種々の変更を加えることが可能である。
【実施例】
【0030】
製造例1 [ポリ(2−クロロエチル)ビニルエーテルの製造]
窒素フロー下において、トルエン中に(全体の系を5mLとして)、1,4−ジオキサン0.50mL、2−クロロエチルビニルエーテルを0.41mL、開始剤系としてCHCH(iBu)OCOCHのトルエン溶液(40mM)0.50mLをこの順に加え、最後にEt1.5AlCl1.5のトルエン溶液(200mM)0.50mLを加えて、30℃においてリビングカチオン重合を行い、ポリ(2−クロロエチル)ビニルエーテルを得た。
【0031】
反応開始後2.5時間で、2−クロロエチルビニルエーテルの42重量%がポリ(2−クロロエチル)ビニルエーテルとなり、GPCで測定したときの、このポリマーの数平均分子量は8000(式(I)のnは約80)であり、重量平均分子量/数平均分子量は1.13であった。この反応をさらに継続すると、反応開始後24時間で、2−クロロエチルビニルエーテルのほぼ100%がポリ(2−クロロエチル)ビニルエーテルとなり、GPCで測定したときの、このポリマーの数平均分子量は19000(式(I)のnは約200)であり、重量平均分子量/数平均分子量は1.06であった。
【0032】
上記と同様にして、数平均分子量が5000(式(I)のnは約50)であるポリ(2−クロロエチル)ビニルエーテル、数平均分子量が10000(式(I)のnは約100、重量平均分子量/数平均分子量は1.07)であるポリ(2−クロロエチル)ビニルエーテル、及び、数平均分子量が12000(式(I)のnは約125、重量平均分子量/数平均分子量は1.08)であるポリ(2−クロロエチル)ビニルエーテルを得た。
【0033】
分子量および分子量分布はGPCにより決定した。具体的には、溶離液はクロロホルム(flow rate=1.0mL/min)であり、温度40℃で、デュアルポンプTosoh DP−8020、カラムオーブンCO−8020、示差屈折率検出器RI−8020及び可視紫外吸収検出器UV−8020に接続された3つのポリスチレンゲルカラム(TSK gel G−4000HXL, G−3000HXL, G−2000HXL; internal diameter 7.8mm,length 300mm)を用いて行った。標準物質にはポリスチレンを用いた。
【0034】
製造例2 [式(I)のポリエチルビニルエーテル誘導体の製造]
製造例1で得られたポリ(2−クロロエチル)ビニルエーテルのそれぞれに5倍当量の1−(n−ブチル)イミダゾールを加え、DMF中、60℃で24h加熱することで目的の式(I)のポリエチルビニルエーテル誘導体(ポリエチルビニルエーテル(1−ブチル)イミダゾリウム塩(クロライド))を得た。得られたポリマーの精製は、そのメタノール溶液をヘキサンに再沈殿させ、次にトルエンに再沈殿させることによって行った。数平均分子量が8000のポリ(2−クロロエチル)ビニルエーテルから得られたポリエチルビニルエーテル誘導体のHNMRスペクトル(d−DMSO中)を図1aに示す。
【0035】
このHNMRスペクトルから、ほぼ100mol%のポリ(2−クロロエチル)ビニルエーテルが、ポリエチルビニルエーテル(1−ブチル)イミダゾリウム塩(クロライド)となっていることが示された。他のポリビニルエーテルから得られたポリエチルビニルエーテル誘導体についても同様な測定を行い、同様にほぼ100mol%導入されていることが示された。
【0036】
製造例3 [式(I)のポリエチルビニルエーテル誘導体の製造]
数平均分子量が10000のポリ(2−クロロエチル)ビニルエーテル(重量平均分子量/数平均分子量は1.07)を用い、1−(n−ブチル)イミダゾールの代わりに、1−メチルイミダゾール又は1−(n−オクチル)イミダゾールを用いた以外は、製造例2と同様にして、式(I)で表わされるポリエチルビニルエーテル(1−メチル)イミダゾリウム塩(クロライド)又はポリエチルビニルエーテル(1−オクチル)イミダゾリウム塩(クロライド)を得た。
【0037】
製造例4 [対アニオン変換]
数平均分子量が10000のポリ(2−クロロエチル)ビニルエーテル(重量平均分子量/数平均分子量は1.07)を用いて得られたポリエチルビニルエーテル(1−ブチル)イミダゾリウム塩(クロライド)水溶液に、1.2当量の(CFSONLiを添加し、塩素アニオンを(CFSOイオンに変換して、ポリエチルビニルエーテル(1−ブチル)イミダゾリウム(CFSO塩を得た。その後、得られたポリマーを水で数回洗浄した。
【0038】
製造例5 [式(II)のポリエチルビニルエーテル誘導体の製造]
製造例1で得られ、数平均分子量が10000のポリ(2−クロロエチル)ビニルエーテル(重量平均分子量/数平均分子量は1.07)に5倍当量の4−メチルピリジンを加え、DMF中、60℃で24h加熱することで、式(II)のポリエチルビニルエーテル誘導体(ポリエチルビニルエーテル(4−メチルピリジニウム塩(クロライド))を得た。このポリマーのHNMRスペクトル(d−DMSO中)を測定したところ図1bに示すスペクトルが得られ、ほぼ100mol%のポリ(2−クロロエチル)ビニルエーテルが、ポリエチルビニルエーテル(4−メチルピリジニウム塩(クロライド)となっていることが示された。
【0039】
試験例1 溶解性試験
製造例2で得られ重合度が80であるポリエチルビニルエーテル誘導体(側鎖にブチルイミダゾリウム塩を有するホモポリマー:重量平均分子量/数平均分子量=1.13)を用いて、下記表1に示す様々な溶媒中で、0℃からそれぞれの溶媒の沸点までの範囲で溶解性を検討した。濃度は1重量%とした。
【0040】
その結果、ヘキサン、トルエンなどの無極性溶媒やアセトンには0℃からそれぞれの溶媒の沸点までの範囲で溶解せず、一方、メタノールなどのアルコールや水といった極性溶媒には0℃からそれぞれの溶媒の沸点までの範囲で溶解するが、クロロホルム中では低温では溶解し、温度を上げると溶液は白濁し、クロロホルム中では、LCST型の相転移(相分離挙動)を示すことがわかった。この結果を表1に示す。
【0041】
クロロホルム中で、濃度を2重量%とした場合でも同様に低温では溶解し、温度を上げると溶液は白濁した。クロロホルム中の2重量%溶液の500nmの可視光の透過率(transmittance)の温度変化を、1℃/分で昇温した場合(図2中のheating)と、1℃/分で降温した場合(図2中のcooling)について測定したところ、図2に示すように、約30〜40℃で急激に高い感度でかつ可逆的にLCST型相分離が生じることが明らかとなった。
【0042】
【表1】

【0043】
試験例2 溶解性試験
製造例2で得られ重合度が80であるポリエチルビニルエーテル誘導体(重量平均分子量/数平均分子量=1.13)を用いて、酢酸エチル85重量%/ブタノール15重量%、THF86重量%/ブタノール14重量%、及びトルエン90重量%/ブタノール10重量%の混合溶媒系中で、20℃〜80℃の範囲での溶解性を検討した。これらの混合溶媒系中の1重量%溶液の500nmの可視光の透過率(transmittance)の温度変化を、1℃/分で昇温した場合(図中のheating)と、1℃/分で降温した場合(図中のcooling)について測定したところ、図3に示すように、高い感度でかつ可逆的にLCST型相分離が生じた。
【0044】
なお、図3aは、酢酸エチル85重量%/ブタノール15重量%の場合の結果を、図3bは、THF86重量%/ブタノール14重量%の場合の結果を、図3cは、トルエン90重量%/ブタノール10重量%の場合の結果を示す。このように、トルエン、THF、酢酸エチル(試験例1で不溶との結果が得られたもの)とブタノール(試験例1で溶解との結果が得られたもの)との混合溶媒(ブタノール重量分率:10−15重量%の範囲、ポリマー重量分率:1%)においても、LCST型の相分離挙動を示すことが明らかになった。
【0045】
試験例3
製造例2で得られたポリエチルビニルエーテル誘導体の代わりに、製造例4で得られたポリエチルビニルエーテル(1−ブチル)イミダゾリウム(CFSO塩を用いた以外は、試験例1と同様な条件で、表2に示す様々な溶媒中での溶解性を検討した。その結果を表2に示す。表2に示されるようにこのポリエチルビニルエーテル誘導体はクロロホルム中でも不溶であり、LCST型の相転移(相分離挙動)を示す溶媒はなかった。このように、LCST型の相転移を引き起こすか否かは、対アニオンの種類に依存し、ポリエチルビニルエーテル(1−ブチル)イミダゾリウム塩の場合は、対アニオンとして、塩素イオンのようなハロゲノイオンが好ましいと考えられる。
【0046】
【表2】

【0047】
試験例4 鎖長(重合度)依存性の試験
製造例2で得られた重合度(式(I)中のn)が約50、80、125又は200のポリエチルビニルエーテル誘導体を用いて、クロロホルム中、濃度1重量%で、20℃〜60℃の範囲での溶解性を検討した。
【0048】
その結果、重合度が約50の場合は、20℃〜60℃の範囲で溶解し、重合度が約200の場合は、20℃〜60℃の範囲で不溶であったが、重合度が約80及び約125の場合は、低温では溶解し、温度を上げると溶液は白濁するLCST型の相転移(相分離挙動)を示すことがわかった。この結果より、LCST型相分離を生じさせるための重合度nは60〜180程度が好ましく、70〜130程度がより好ましいと考えられる。
【0049】
重合度が約80及び約125の場合のクロロホルム中1重量%溶液の500nmの可視光の透過率(transmittance)の温度変化を、1℃/分で昇温した場合について測定したところ、図4に示す結果が得られた。図4に示されるように、重合度が約80の場合は約40〜60℃でLCST型相分離が生ずるが、重合度が約125の場合は約30〜50℃でLCST型相分離が生じ、LCST型相分離が生じる温度は、重合度により変化(重合度が上がればLCST型相分離が生じる温度は低下)することが示された。
【0050】
試験例5 イミダゾリウムカチオン上のアルキル鎖長(式(I)中のRの種類)の依存性
の試験
製造例2で得られたポリエチルビニルエーテル誘導体の代わりに、製造例3で得られたポリエチルビニルエーテル(1−メチル)イミダゾリウム塩(クロライド:式(I)中のR=メチル)及びポリエチルビニルエーテル(1−オクチル)イミダゾリウム塩(クロライド:式(I)中のR=n−オクチル)をそれぞれ用いた以外は、試験例1と同様な条件(1重量%溶液)で、表3に示す様々な溶媒中での溶解性を検討した。その結果を表3に示す。表3に示されるように、LCST型の相転移(相分離挙動)を示す溶媒はなかった。このように、LCST型の相分離を引き起こすか否かは、イミダゾリウムカチオン上のアルキル鎖長にも依存し、LCST型相分離を生じさせるためのアルキル鎖長は炭素数2〜7の範囲が好ましく、炭素数3〜5の範囲がより好ましいと考えられる。
【0051】
【表3】

【0052】
試験例6 濃度依存性の試験
製造例2で得られた重合度(式(I)中のn)が約100のポリエチルビニルエーテル誘導体(重量平均分子量/数平均分子量=1.07)を用いて、クロロホルム中、濃度0.5重量%、濃度1重量%及び濃度2重量%の、20℃〜60℃の範囲での、500nmの可視光の透過率(transmittance)の温度変化を、1℃/分で昇温した場合について測定したところ、図5aに示す結果が得られた。又、濃度と透過率の減少が開始する温度との関係を図5bに示す。図5a、図5bから示されるように、LCST型相分離を生じる温度は、濃度が上昇するほど低下する。なお、製造例2で得られた重合度が約50のポリエチルビニルエーテル誘導体、及び重合度が約200のポリエチルビニルエーテル誘導体についても同様に検討した結果、重合度50のポリマーはどの濃度においてもクロロホルムに溶解したままであり、重合度200のポリマーは不溶なままであった。
【0053】
試験例7
製造例5で得られた式(II)のポリエチルビニルエーテル誘導体(ポリエチルビニルエーテル(4−メチル)ピリジニウム塩(クロライド):重量平均分子量/数平均分子量=1.07)を、クロロホルム/メタノールの97/3(重量比)の混合溶媒に、濃度1重量%で溶解させ、20℃〜60℃の範囲で、1℃/分で昇温した場合(図6中のheating)、1℃/分で降温した場合(図6中のcooling)の、700nmの可視光の透過率(transmittance)の変化を測定した。その結果を図6に示すが、可逆的にLCST型相分離が生じることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明のポリエチルビニルエーテル誘導体は、種々のセンサー等に用いることができ、又各種の機能性材料等としての利用が考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】製造例2及び製造例5で得られたポリエチルビニルエーテル誘導体のHNMRスペクトル(d−DMSO中)である(a:製造例2、b:製造例5)。
【図2】試験例1で得られた温度と透過率の関係を示すグラフである。
【図3】試験例2で得られた温度と透過率の関係を示すグラフである。
【図4】試験例4で得られた温度と透過率の関係を示すグラフである。
【図5】試験例6で得られた温度と透過率の関係を示すグラフ及び濃度と透過率の減少が開始する温度との関係を示すグラフである。
【図6】試験例7で得られた温度と透過率の関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)で表わされることを特徴とするポリエチルビニルエーテル誘導体。
【化1】

(式(I)中、Rは水素又はメチルを表わし、Rは炭素数1〜8のアルキルを表わし、nは50〜200の数を表わし、Xは陰イオンを表わす。)
【請求項2】
ポリエチルビニルエーテル誘導体の重量平均分子量/数平均分子量が、1.25以下であることを特徴とする請求項1に記載のポリエチルビニルエーテル誘導体。
【請求項3】
式(I)中のRは、炭素数3〜5のアルキルを表わすことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のポリエチルビニルエーテル誘導体。
【請求項4】
式(I)中のnは、70〜130の数を表わすことを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のポリエチルビニルエーテル誘導体。
【請求項5】
式(I)中のXは、塩素イオンを表わすことを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載のポリエチルビニルエーテル誘導体。
【請求項6】
下記式(II)で表わされることを特徴とするポリエチルビニルエーテル誘導体。
【化2】

(式(II)中、Rは炭素数1〜6のアルキルを表わし、nは50〜200の数を表わし、Xは陰イオンを表わす。)
【請求項7】
ポリエチルビニルエーテル誘導体の重量平均分子量/数平均分子量が、1.25以下であることを特徴とする請求項6に記載のポリエチルビニルエーテル誘導体。
【請求項8】
下記式(III)で表わされる2−ハロゲノエチルビニルエーテルのリビングカチオン重合を含むことを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載のポリエチルビニルエーテル誘導体の製造方法。
【化3】

(式(III)中Yはハロゲン原子を表わす。)
【請求項9】
請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載のポリエチルビニルエーテル誘導体の重合度の調整によるLCST型相分離の制御方法。
【請求項10】
請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載のポリエチルビニルエーテル誘導体の、有機溶媒中におけるポリマー濃度の調整によるLCST型相分離の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−203396(P2009−203396A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−49125(P2008−49125)
【出願日】平成20年2月29日(2008.2.29)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行者 :社団法人 高分子学会 刊行物名:高分子学会予稿集 56巻2号(2007) 発行日 :平成19年9月4日
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【出願人】(000002071)チッソ株式会社 (658)
【Fターム(参考)】