説明

ポリエチレンナフタレート樹脂組成物およびその製造方法

【課題】 カルボジイミドによる耐加水分解性が効率よく発現され、しかもカルボジイミド自体の分解も抑制されたポリエチレンナフタレート樹脂組成物およびその製造方法の提供。
【解決手段】 カルボジイミド化合物を0.1〜10重量%含有し、かつヒンダードフェノール系化合物およびチオエーテル系化合物からなる群より選ばれた少なくとも一種の酸化防止剤を0.05〜1重量%含有するポリエチレンナフタレート樹脂組成物および該カルボジイミド化合物を該酸化防止剤を含有するポリエチレンナフタレート樹脂組成物に添加する樹脂組成物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐加水分解性、耐熱性、機械的性能に優れたポリエチレンナフタレート樹脂組成物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンナフタレート(以下、PENと称することがある。)は抗張力、伸度、ヤング率、弾性回復率等の機械的性質、耐熱性、寸法安定性等の物理的性質、耐薬品性、耐水性等の化学的性質が優れ、安価であるために工業的に大きな価値を有していることは良く知られており、例えば、繊維、タイヤコード、ボトル、フィルム等で多く用いられている。
【0003】
しかしながら、PENは耐加水分解性が十分ではなく、耐加水分解性が要求される分野、例えば自動車部品、電子部品、電照板、耐熱食品容器等の分野では使用が制限されてきた。このような問題を解決するために、ポリエステルの耐加水分解性を向上させようと、カルボジイミド化合物をPENに練りこむことが特許文献1、特許文献2および特許文献3で提案されている。
【0004】
確かに、これらの方法によれば、耐加水分解性は向上するものの、高温下に長時間放置されることによるカルボジイミド化合物の分解劣化が促進し、ポリエステルの末端カルボキシル基をかえって高めるといった問題があった。
【0005】
【特許文献1】特開平11−5854号公報
【特許文献2】特開2003−251695号公報
【特許文献3】特開2003−335872号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、上述の従来技術の問題点に鑑み、カルボジイミドによる耐加水分解性が効率よく発現され、しかもカルボジイミド自体の分解も抑制されたポリエチレンナフタレート樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上述の目的を達成するために鋭意検討した結果、カルボジイミド化合物を特定の酸化防止剤と併用するとカルボジイミドの分解を抑制でき、さらに耐加水分解性能自体も向上することを見出し、本発明に到達した。
【0008】
かくして本発明によれば、本発明の目的は、カルボジイミド化合物を0.1〜10重量%含有し、かつヒンダードフェノール系化合物およびチオエーテル系化合物からなる群より選ばれた少なくとも一種の酸化防止剤を0.05〜1重量%含有するポリエチレンナフタレート樹脂組成物によって達成される。
【0009】
また、本発明によれば、本発明の好ましい態様として、末端カルボキシル基量が、ポリエチレンナフタレート樹脂組成物の重量を基準として、10〜40eq/Tであること、カルボジイミド化合物が、分子量200〜1000の範囲であること、カルボジイミド化合物がN,N´−ジフェニルカルボジイミドおよびN,N´−ジイソプロピルフェニルカルボジイミドからなる群より選ばれた少なくとも1種であること、酸化防止剤がペンタエリスリチル・テトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]であること、温度285℃で20分間保持したときのポリエチレンナフタレートの末端カルボキシル基の増加量が高々16eq/Tであること、温度285で20分間保持したときのカラーb値の変化量が、高々3であることの少なくともいずれかを具備するポリエチレンナフタレート樹脂組成物も提供される。
【0010】
さらにまた、本発明によれば、ヒンダードフェノール系化合物およびチオエーテル系化合物からなる群より選ばれた少なくとも一種の酸化防止剤が0.05〜1重量%となるように添加されたポリエステル樹脂組成物に、その重量を基準として、カルボジイミド化合物を0.1〜10重量%添加するポリエチレンナフタレート樹脂組成物の製造方法も提供され、特に該カルボジイミド化合物および該酸化防止剤の添加時期が、エステル交換反応またはエステル化反応を経由して溶融重縮合反応溶融重縮合反応終了後に添加し、脱気を行わない真空下で保持するポリエチレンナフタレート樹脂組成物の製造方法も提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、カルボジイミド化合物による耐加水分解性が効率よく発現され、しかもカルボジイミド化合物自体の分解も抑制されたポリエチレンナフタレート樹脂組成物が提供でき、また、このようなポリエチレンナフタレート樹脂組成物をより簡便に製造する方法も提供でき、その工業的価値はきわめて高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明におけるポリエチレンナフタレート樹脂とは、エチレンナフタレートを主たる繰り返し単位とするポリエステル樹脂で、ここでいうエチレンナフタレートを主たる繰り返し単位とするとは、エチレンナフタレート単位がポリエステルの全繰り返し単位の80モル%以上を占めることを意味する。エチレンナフタレート単位の割合が80モル%未満となるとポリエチレンナフタレートの利点である、高強度、高耐薬品性、高耐バリア性が劣るようになり好ましくない。
【0013】
本発明において、ポリエチレンナフタレート樹脂は、本発明の効果を阻害しない範囲で、それ自体公知の第3成分を共重合または混合しても良い。なお、上記エチレンナフタレートを構成するナフタレンジカルボン酸成分としては、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、1,3−ナフタレンジカルボン酸などが挙げられ、特に2,6−ナフタレンジカルボン酸が好ましい。これらのナフタレンジカルボン酸成分は、直接エステル化反応を経由する場合は2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、1,3−ナフタレンジカルボン酸として用いられ、エステル交換反応を経由する場合は、例えば2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチル、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジエチル、1,4−ナフタレンジカルボン酸ジメチル、1,5−ナフタレンジカルボン酸ジメチルなどとして用いられる。
【0014】
本発明のポリエチレンナフタレート樹脂組成物は、カルボジイミド化合物を、樹脂組成物の重量を基準として、0.1〜10重量%、好ましくは0.3〜7重量%、さらに好ましくは0.5〜3重量%含有していることが必要である。カルボジイミド化合物の含有量が下限未満では、十分な耐加水分解性が発現されず、他方上限を超えて含有させても効果が発現しがたくなる。
【0015】
本発明でいうカルボジイミド化合物とは、分子内にすくなくとも一つのカルボジイミド基を有する化合物である。具体的なカルボジイミド化合物としては、例えば、N,N´−ジフェニルカルボジイミド、N,N´−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド、N、N´−ジシクロヘキシルカルボジイミド、1,3−ジイソプロピルカルボジイミド、1−(3−ジメチルアミノプロピル)−3−エチルカルボジイミドのようなモノカルボジイミドおよびポリ(1,3,5−トリイソプロピルフェニレン−2,4−カルボジイミド)のようなポリカルボジイミド化合物が挙げられる。これらの中でも、N,N´−ジフェニルカルボジイミドおよびN,N´−ジイソプロピルフェニルカルボジイミドが好ましく、特にN,N´−ジフェニルカルボジイミドが好ましい。また、カルボジイミド化合物は、一種に限られず、複数のカルボジイミド化合物を併用しても良いが、好ましくは全カルボジイミド化合物のうち、N,N´−ジフェニルカルボジイミドおよびN,N´−ジイソプロピルフェニルカルボジイミドが50〜100モル%であることが好ましい。
【0016】
また、カルボジイミド化合物の分子量は200〜1000の範囲、特に200〜600の範囲にあることが好ましい。分子量が上限を超えると樹脂組成物中での分散性が低下しやすく、他方下限未満であると飛散しやすくなる。
【0017】
本発明のポリエチレンナフタレート樹脂組成物は、上記のカルボジイミド化合物に加えて、ヒンダードフェノール系化合物およびチオエステル系化合物からなる群より選ばれた少なくとも一種の酸化防止剤を0.05〜1重量%、好ましくは0.1〜0.5重量%含有していることが必要である。酸化防止剤の含有量が下限未満では、カルボジイミドの分解劣化が抑えられず、十分な耐加水分解性能が発現されず、他方上限を超えるとポリマーの色調が損なわれることがある。
【0018】
本発明でいう酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系化合物およびチオエーテル系化合物であり、好ましくはヒンダードフェノール系化合物である。具体的なヒンダードフェノール系化合物の酸化防止剤としては、トリエチレングリコール-ビス[3-(3-t-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,6-ヘキサンジオール-ビス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2,4-ビス-(n-オクチルチオ)-6-(4-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-ブチルアニリノ)-1,3,5-トリアジン、ペンタエリスリチル・テトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2, 2-チオ-ジエチレンビス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、N,N'-ヘキサメチレンビス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシ-ヒドロシンナマミド)、3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジルフォスフォネート-ジエチルエステル、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼンが挙げられる。また、具体的なチオエーテル系化合物としては、チオジプロピオン酸、4,4−チオビス(6−t−ブチル−3−メチルフェノール)、ジラウリルチオジプロピオネート、ジステアリルチオジプロピオネート、ジミリスチルチオジプロピオネート、ジトリデシルチオジプロピオネート、チオジプロピオン酸の混合エステル(ラウリル及びステアリル)、及びペンタエリトリットテトラキス(3−(ジデシルチオ)プロピオネート)、ペンタエリスリトールーテトラキス(β−ドデシルーチオプロピオネート)が挙げられる。これらの中でも、4,4−チオビス(6−t−ブチル−3−メチルフェノール)、ペンタエリスリチル・テトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジルフォスフォネート-ジエチルエステルが好ましく挙げられる。
【0019】
本発明のポリエチレンナフタレート樹脂組成物は、上述のカルボジイミド化合物だけではなく、上述のヒンダードフェノール系化合物およびチオエーテル系化合物からなる群より選ばれる酸化防止剤をも併用することによって、カルボジイミド化合物の加水分解を抑制し、カルボジイミド化合物の耐加水分解性能を最大限に発揮することができる。その結果、従来のカルボジイミド化合物単独または酸化防止剤単独では達成し得なかったような優れた耐加水分解性能を発現される。この点から、酸化防止剤の含有量をカルボジイミド化合物の含有量で割った重量比は、0.1〜1.0、さらに0.15〜0.8の範囲にあることが好ましい。上記重量比が下限未満では、カルボジイミドの加水分解を抑制する効果が不十分となりやすく、他方上限を越えて存在しても、カルボジイミドの加水分解を抑制する効果の向上は乏しくなる。
【0020】
さらに本発明のポリエチレンナフタレート樹脂組成物の好ましい態様について、説明する。本発明のポリエチレンナフタレート樹脂組成物は、固有粘度が0.4〜1.0dl/g、特に0.5〜0.8dl/gの範囲にあることが好ましい。極限粘度が下限未満であると、得られる樹脂組成物の機械物性が乏しくなりやすく、他方上限を超えると粘度が高すぎ、成形性が劣るようになりやすい。このような固有粘度は、ポリマーの製造条件によって調整できる。
【0021】
本発明のポリエチレンナフタレート樹脂組成物は、末端カルボキシル基の割合が、ポリエチレンナフタレート樹脂組成物の重量を基準として、10〜40eq/T、さらに10〜30eq/T、特に10〜25eq/Tであることが好ましい。末端カルボキシル基の割合が上限を超えると、カルボジイミド化合物を用いても耐加水分解性が劣るようになり好ましくなく、生産性の点から下限は通常10eq/Tであることが好ましい。このような末端カルボキシル基量は、カルボジイミドを分解や飛散させることなく作用させることで達成できる。また、本発明のポリエチレンナフタレート樹脂組成物は、温度285℃で20分間保持したときの、ポリエチレンナフタレートの末端カルボキシル基の増加量が高々16eq/T、さらに13eq/T以下であることが好ましい。末端カルボキシル基の増加量が上限を超えると、カルボジイミド化合物の耐加水分解性向上効果が乏しく好ましくない。このような末端カルボキシル基の増加量は、溶融重合温度の制御や前述のとおり酸化防止剤とカルボジイミドを特定の割合で併用することなどで達成できる。
【0022】
本発明のポリエチレンナフタレート樹脂組成物は、測定温度が300℃、剪断速度1000s-1で測定した際の溶融粘度が200〜4000Pa・sの範囲、さらに400〜1000Pa・sの範囲にあることが好ましい。溶融粘度が下限未満であると樹脂組成物の機械物性が乏しくなりやすく、他方上限を超えると粘度が高すぎ、成形が困難となりやすくなる。
【0023】
本発明のポリエチレンナフタレート樹脂組成物は、温度285℃で20分間保持したときの、カラーb値の変化量が、高々3であることが好ましい。カラーb値の変化量が上限を超えると、色調の変化が大きく、耐加水分解性能に優れても、見た目が悪く、光学用などでは使用が制限されてしまう。カラーb値の変化量を抑制するには、酸化防止剤とカルボジイミドを特定の割合で併用することなどが挙げられる。
【0024】
本発明のポリエチレンナフタレート樹脂組成物は、エチレンナフタレートの1〜5量体(以下オリゴマーという)の含有量が、0.4〜1.0重量%、さらに0.5〜0.9重量%であることが好ましい。オリゴマー含有量が下限未満であると、成形時の流動性が損なわれやすく、他方上限を超えると成形時、オリゴマーによる金型汚れが起こりやすくなるなど成形工程安定性に劣るようになり好ましくない。このようなオリゴマー量は、溶融重合温度の制御や前述のとおり酸化防止剤とカルボジイミドを特定の割合で併用することなどで達成できる。
【0025】
本発明のポリエチレンナフタレート樹脂組成物は、カルボジイミド化合物と前述の酸化防止剤をともに添加すること以外は、従来のようにポリエチレンナフタレート樹脂に、カルボジイミド化合物を練りこむ方法でも、重縮合反応に添加する方法でも製造できる。練りこみの場合は、カルボジイミド化合物をポリエチレンナフタレート樹脂に添加する以前に、酸化防止剤を添加しておくことが好ましく、混練分散力の点から、2軸混練押出機、特にベント付2軸混練機などが好適に用いられる。
【0026】
ところで、このような練りこみ方法は、カルボジイミド化合物の分解を抑制できないために行われてきたが、本発明ではカルボジイミド化合物自体の分解を抑制できていることから、そのような練りこみ工程を経ることなく、直接重合反応系にカルボジイミド化合物を添加することができる。その結果、余計な練りこみ工程を省略できるほかに、練りこみ工程を経ることによって生じるポリマーの熱分解を解消できるといった利点がある。
【0027】
ポリエチレンナフタレート樹脂の製造方法自体については特に制限はなく、従来公知の方法を適用することが出来る。例えばエステル交換法、直接エステル化法等の溶融重合法または溶液重合法を挙げることが出来る。また、これらの反応に用いるエステル交換触媒、エステル化触媒、エーテル化防止剤、また重合に用いる重合触媒、熱安定剤、光安定剤等の各種安定剤、重合調整剤なども従来既知のものを用いることが出来る。例えば、エステル交換触媒として、マンガン、コバルト、亜鉛、チタン、カルシウム等の化合物、またエステル化触媒として、マンガン、コバルト、亜鉛、チタン、カルシウム等の化合物、さらにまたエーテル化防止剤としてアミン化合物等が挙げられる。一方、重縮合触媒としてはゲルマニウム、アンチモン、スズ、チタン等の化合物が例示される。また熱安定剤としてリン酸、亜リン酸、フェニルホスホン酸等の各種リン化合物を加えることも有効である。その他光安定剤、耐電防止剤、滑剤、酸化防止剤、離型剤等を加えても良い。
【0028】
本発明において、好ましいポリエチレンナフタレート樹脂組成物の製造方法は、重合反応系に直接カルボジイミド化合物と酸化防止剤とを添加する方法が好ましい。添加量については、前述のポリエチレンナフタレート樹脂組成物で説明した含有量となるような量である。ここで、必要なことは、カルボジイミド化合物と酸化防止剤をともに添加することであり、酸化防止剤の添加時期は、カルボジイミド化合物と同時か、それ以前が、カルボジイミド化合物の加水分解が抑制され、重合反応系に添加しても十分な耐加水分解性能を得られることから好ましい。
【0029】
カルボジイミド化合物と酸化防止剤の添加時期は、よりカルボジイミド化合物や酸化防止剤が受ける熱履歴を緩和できることから、重縮合反応以後の段階が好ましい。また、カルボジイミド化合物の飛散を抑制できることから、重縮合反応は脱気をして真空に近づける第1工程と、脱気を止めて真空に近い状態で保持されている脱気を行わない第2工程とがこの順で設けられ、第2工程でカルボジイミド化合物を添加するのが好ましい。このような方法を採用することで、例えば練りこみ工程や重縮合反応工程におけるカルボジイミド化合物の蒸発揮散を抑制できる。その結果、蒸発揮散を抑えるために分子量の大きなカルボジイミド化合物を使用しなくてもよく、分子量の大きなカルボジイミド化合物を使用することによるカルボジイミド化合物自体の分解による影響の増大やカルボジイミド化合物の分散低下などが抑制できる。また、蒸発揮散で損なわれる分、さらに添加量を多くしたりすることも必要なくなる。
【0030】
このようにして得られた本発明のポリエチレンナフタレート樹脂組成物は、射出成形品、Tダイ法、共押出法等で得られる無延伸あるいは低倍率の単層シート及び多層シート、それらを延伸したフィルム及び低延伸倍率の深絞り容器、並びに成形後も無延伸の状態であるダイレクトブロー成形及び延伸ブロー成形体として用いることが出来る。また、マスターバッチとしてカルボジイミドを含有しない他の樹脂と混合して成形してもよく、これは用意するポリマーの種類を少なくできることから好ましい。
【実施例】
【0031】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明する。但し、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。本発明のポリエチレンナフタレート樹脂組成物についての各種性状の測定方法は、以下の通りである。
【0032】
(1)固有粘度(IV)
各実施例で製造されたポリエチレンナフタレート樹脂組成物を、フェノール/トリクロロエタン=6/4(重量比)を溶媒に用いて35℃恒温下オストワルト型粘度計を用いて加熱処理前の固有粘度を測定する。また、耐加水分解性を評価するため、各実施例で製造されたポリエチレンナフタレート樹脂組成物を、150℃のオートクレー部内で8hr加熱し、前述の加熱処理前の固有粘度の測定方法と同様にして、加熱処理後の固有粘度を測定する。加熱処理前の固有粘度と加熱処理後の固有粘度の差が小さいものほど耐加水分解性に優れることを意味する。
【0033】
(2)カルボジイミドおよび酸化防止剤の含有量
カルボジイミド、酸化防止剤の定量: 樹脂1gを0.01mol/lNaOHを含むベンジルアルコール10mlをいれ、オートクレーブで160℃24hr分解後、クロロホルム希釈し、ウォーターズ製GPC440型で定量した。
【0034】
(3)末端カルボキシル基量(eq/10g)
各実施例で得られたポリエチレンナフタレート樹脂組成物とそれを温度285で20分間保持したときの、ポリエチレンナフタレート樹脂組成物の末端カルボキシル基を、それぞれA.Conixの方法(Makromol.Chem.26,226(1958))に準じて測定する。なお、末端カルボキシル基量が少ないほど、また高温で保持した後の末端カルボキシル基量が、保持前の末端カルボキシル基量に近いほど、耐熱性に優れることを意味する。そして、各実施例で得られたポリエチレンナフタレート樹脂組成物の末端カルボキシル基量を処理前、そして、温度285で20分間保持したときの、ポリエチレンナフタレート樹脂組成物の末端カルボキシル基量の処理前の末端カルボキシル基量に対する増加分を処理後増加分とした。
【0035】
(4)色調(Col−b値)および色調の変化(△Col−b)
各実施例のポリエステル組成物をプレート状にしたサンプルを140℃で2時間乾燥処理させた後、色差計調整用の白色標準プレート上に置き、プレート表面のハンターb値を、カラーマシン社製CM―7500型カラーマシンを用いて測定した。Col−b値はその値が大きいほど黄着色の度合いが大きいことを示す。
また、色調の変化は、各実施例で得られたポリエステル組成物を285℃で20分間20分間溶融状態で攪拌保持し熱分解を促進させた樹脂組成物のプレートを得て、前述と同様にCol−b値を測定した。そして、両者の差を色調の変化を処理後増加分(△Col−b)とした。
【0036】
(5)耐加水分解性
各実施例のポリエステル組成物を、300℃で溶融し、T型押出ダイを用いて、表面仕上げ0.3S、表面温度60℃に保持したキャスティングドラム上で急冷固化せしめて、ポリエチレン−2,6−ナフタレート樹脂組成物からなる未延伸フィルムを得た。
この未延伸フィルムを120℃に予熱し、更に低速、高速のロール間で14mm上方より830℃の表面温度の赤外線ヒーターにて加熱して製膜方向に3.0倍に延伸し、急冷し、続いてステンターに供給し、125℃にて製膜方向に直交する方向に3.5倍延伸して、厚み200μmの二軸配向フィルムを調製した。
このサンプルをオートクレーブに仕込み、2気圧、121℃の飽和水中で100時間処理した。該処理前後の二軸配向フィルムの製膜方向の破断強度を、東洋ボールドウイン(株)の引張試験機「テンシロン」を用いて、温度20℃、湿度50%、試料幅10mm、試料長さ15cm、チャック間距離100mm、引張速度10mm/分、チャート速度500mm/分の条件で測定した。この測定を5回繰返し、それらの平均値を、それぞれ処理前後の二軸配向フィルムの破断強度とした。そして、処理後の破断強度を、処理前の破断強度で割った値(強度保持率)が高いほど、耐加水分解性に優れるとした。
【0037】
[実施例1]
2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチル(以下NDCMという)100モル(24.4kg)、エチレングリコール(以下、EGという)180モル(11.2kg)およびNDCM100モルに対し0.03モルの酢酸マンガン四水和物とを、窒素雰囲気下で240℃まで昇温してエステル交換反応を行った。メタノールの留出量が理論量に対して90%以上に達した後、NDCM100モルに対し、酸化アンチモン(III)0.02モル、トリメチルホスフェート(以下、「TMP」という)0.04モルを添加し、260℃で30分間保持した。その後、昇温と減圧を徐々に行い、0.1kPaで最終的に300℃、0.1kPa以下で重合を行い、所定の粘度に到達した時点で、カルボジイミド化合物として松本油脂製薬株式会社製(N,N´−ジフェニルカルボジイミド)と酸化防止剤としてペンタエリスリチル・テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]とを表1に示す量添加し、0.1kPaで10分間撹拌保持し、共重合ポリエチレンナフタレート樹脂組成物を得た。
得られた共重合ポリエチレンナフタレート樹脂組成物の特性を表1に示す。
【0038】
[実施例2〜8および比較例1〜4]
固有粘度とカルボジイミド化合物および酸化防止剤の種類および量とを表1に示すとおり、変更した以外は実施例1と同様な操作を繰り返した。
得られた共重合ポリエチレンナフタレート樹脂組成物の特性を表1に示す。
【0039】
【表1】

【0040】
表1中の、カルボジイミド化合物AはN,N´−ジフェニルカルボジイミド、カルボジイミド化合物BはN,N´-ジシクロヘキシルカルボジイミド(タマ化学工業株式会社製)であり、酸化防止剤Cはペンタエリスリチル・テトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、酸化防止剤Dは3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジルフォスフォネート−ジエチルエステル、酸化防止剤Eは4,4−チオビス(6−t−ブチル−3−メチルフェノール)である。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明のポリエチレンナフタレート樹脂組成物は、ポリエチレンナフタレート樹脂のもつ耐熱性、透明性、機械的性能、成形性を保持しつつ、優れた耐加水分解性も有することから、繊維、ボトル、フィルムなどに好適に使用でき、特に耐加水分解性が要求される分野、例えば自動車部品、電子部品、電照板、耐熱食品容器などに好適に使用でき、その工業的意義は大きい。しかも、本発明によれば、このようなポリエチレンナフタレート樹脂組成物を効率的に製造でき、さらには従来の練りこみ工程を省略して製造することもでき、その工業的価値は高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボジイミド化合物を0.1〜10重量%含有し、かつヒンダードフェノール系化合物およびチオエーテル系化合物からなる群より選ばれた少なくとも一種の酸化防止剤を0.05〜1重量%含有することを特徴とするポリエチレンナフタレート樹脂組成物。
【請求項2】
末端カルボキシル基量が、ポリエチレンナフタレート樹脂組成物の重量を基準として、10〜40eq/Tであることを特徴とする請求項1記載のポリエチレンナフタレート樹脂組成物。
【請求項3】
カルボジイミド化合物が、分子量200〜1000の範囲である請求項1記載のポリエチレンナフタレート樹脂組成物。
【請求項4】
カルボジイミド化合物がN,N´−ジフェニルカルボジイミドおよびN,N´−ジイソプロピルフェニルカルボジイミドからなる群より選ばれた少なくとも1種である請求項1記載のポリエチレンナフタレート樹脂組成物。
【請求項5】
酸化防止剤がペンタエリスリチル・テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]である請求項1記載のポリエチレンナフタレート樹脂組成物。
【請求項6】
温度285℃で20分間保持したときの、ポリエチレンナフタレートの末端カルボキシル基の増加量が高々16eq/Tである請求項1記載のポリエチレンナフタレート樹脂組成物。
【請求項7】
温度285で20分間保持したときの、カラーb値の変化量が、高々3である請求項1記載のポリエチレンナフタレート樹脂組成物。
【請求項8】
ヒンダードフェノール系化合物およびチオエーテル系化合物からなる群より選ばれた少なくとも一種の酸化防止剤が0.05〜1重量%となるように添加されたポリエステル樹脂組成物に、その重量を基準として、カルボジイミド化合物を0.1〜10重量%添加することを特徴とするポリエチレンナフタレート樹脂組成物の製造方法。
【請求項9】
該カルボジイミド化合物および該酸化防止剤の添加時期が、エステル交換反応またはエステル化反応を経由して溶融重縮合反応溶融重縮合反応終了後に添加し、脱気を行わない真空下で保持する請求項8記載のポリエチレンナフタレート樹脂組成物の製造方法。

【公開番号】特開2006−321933(P2006−321933A)
【公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−147891(P2005−147891)
【出願日】平成17年5月20日(2005.5.20)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】