説明

ポリエチレン組成物及びそれから構成される最終生成物

フィルム又は成形品用の所定の分子量分布及びLCB構造を有する新規なポリエチレンを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なポリエチレン成形組成物、並びにそれから構成されるフィルム及び他の成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
チーグラー触媒ポリエチレン生成物の加工性は、それらの複雑なコモノマー分布及び分子量分布のために、並びにおそらくは異なる反応段階における多峰性反応器ブレンドとして製造されるために、常に改良の必要性がある対象である。500,000g/モルより多い非常に高い分子量及び長鎖分岐(LCB)を有するチーグラーポリマーの下位フラクションはポリマー生成物全体の加工挙動にとって最重要であることが知られている。これらは、全ポリマーの量的に比較的小さな割合を構成し、数平均分子量Mnに対して僅かな影響しか有しないので、しばしば高分子量テール部と呼ばれる。LCB構造それ自体は、分岐割合及び鎖長分布の両方において、高分子量鎖の間の絡み合いの程度及び強さに影響を与えることによって加工挙動に対するかかる影響を強く調節する。これがチーグラー生成物の特性であることは公知である(Malpassら, 1989,US−4,851,489)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】US−4,851,489
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、単に例えば押出し又は電子ビーム処理中にラジカル開始剤を加えるなどの異なるアプローチによってチーグラー生成物中により多くのLCBを導入しても、所期の効果が得られないか、及び/又は信頼できる形態で得られない。考慮すべき2つの多くのファクター及び可能性が存在する。本発明の目的は、接触プロセスの直接的な結果として向上した加工挙動を示す改良されたチーグラー生成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この目的は、本発明のポリエチレン組成物、及びチーグラー触媒を用いるそれを得るための直接接触プロセスによって解決される。0.25〜3g/10分、好ましくは0.3〜2g/10分、より好ましくは0.31〜1g/10分の、ISO−1133:2005にしたがって5kg/190℃で測定したメルトフローレート(MI5kgと略す)、及び/又は0.18〜18のホスタレン加工指数値(以下においては略してホスタレン指数(HI)とする)を有し、但しMI5kgが>1.9g/10分である場合にはHI値は>1であるポリエチレン組成物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】図1は、実施例1、2のポリマー生成物に関する分子量分布(引かれた線)、及びGPC−MALLSによる回転半径から求めた長鎖分岐分布(LCB/1000CH、分子量の関数として)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明による組成物は、通常は及び好ましくは0.92〜0.97g/cm、より好ましくは0.935〜0.965g/cmの密度を有する。
1つの好ましい態様においては、ポリエチレン組成物は、1〜17、より好ましくは1.1〜16.5、最も好ましくは2〜16のHI値を有する。この範囲の生成物は、ブローンフィルム及びキャストフィルム製品、最も特にはブローンフィルムを含むフィルム製品に最も良く適している。
【0008】
他の好ましい態様においては、ポリエチレン組成物は、0.22〜10、好ましくは1.1〜10のHI値を有する。この範囲の生成物は、幾つかのタイプのフィルム、及び/又は缶、貯留タンク、ビンなどのような中空のフォームブローンブロー成形品に最も良く適している。
【0009】
他の好ましい態様においては、単独か又は上記のものと組み合わせて、MI5kgは0.3〜2g/10分、より好ましくは0.33〜1g/10分である。
本発明によるHIは、次式:
【0010】
【化1】

【0011】
にしたがって計算する。
上式中、
及びMは、多角度レーザー光散乱と組み合わせたゲル透過クロマトグラフィー(GPC−MALLS)によって求められる分子量分布の3次及び2次(又は重量平均)モーメントである。この方法のより詳細な説明は実験セクションにおいて見ることができる。データを記録し、実験で得られた分布曲線からM及びMの値を算出するために、市販のGPCソフトウエア(hs GmbH, Hauptstrasse 36, D-55437, Ober-Hilbersheimから)を用いた。
【0012】
Mzは、分子量M=Mにおける分岐指数である。分岐指数は、それぞれの溶出ポリマーフラクションに関して、線状PE対照試料の二乗平均回転半径:
【0013】
【化2】

【0014】
に対する測定されたポリマーの二乗平均回転半径:
【0015】
【化3】

【0016】
の比として定義される。
【0017】
【化4】

【0018】
ehは、0.1s−1の一軸伸長速度(ehに「at 0.1s-1」と示す)及びT=150℃の試験温度における本特許の目的のためのポリマーの伸長硬化である。一軸伸長における伸長又は歪み硬化は、同じ時間における線形応答:ηに対する特定の伸長速度において測定される最大溶融伸長粘度ηE,maxの比である。したがって、ehは
【0019】
【化5】

【0020】
として定義される。
ηE,maxは、一定の伸長の後にプラトーが観察されない場合には、試験片の変形又は伸長L(ln(L(t)/L(0))≧3)の開始の10〜50秒後に測定される最大ポリマー溶融粘度値(「ヘンキー歪み」の定義に基づく)として定義することができる。
【0021】
線形粘弾性応答ηは、過渡剪断粘度を計算し、3(トルートン比)をかけることで、同じ温度におけるG’及びG”の線形レオロジーデータを、多重モードマックスウェルモデルにフィッティングすることによって計算される。この方法及び伸長(歪み)硬化の定義は、Mackosko C.W., Rheology Principles, Measurements and Applications, 1994, Wiley-VCH, New Yorkに記載されている。
【0022】
ポリマー溶融体の伸長流動又はレオロジー特性は、フィルムブロー、ブロー成形、及び熱成形のような加工運転にとって最重要である。歪み又は伸長硬化ehは、溶融体の均一な変形を支持する所謂自己回復効果を誘導する。而して、伸長流動において歪み硬化を示すポリマーは、フィルム及びビン又は他の成形品の製造を壁厚の均一な分布に関して向上させる。他方において、歪み又は伸長硬化ehはまた、他の形態ではMのような高分子量フラクションの重量を反映するパラメータ、又は高分子量テール部の重量Mに関する分岐因子によって反映されるような長鎖分岐度によっては良好に測定できないポリエチレン組成物の分子特性にも応答性である。従来は、当業者は、ehはM及び最終的にはgMzに正比例し、それによって支配されていると考え続けていた。
【0023】
好ましくは、本発明によるポリエチレン組成物は、>0.26、より好ましくは>0.28、最も好ましくは>0.31のgMzを有する。好ましくは、gMzに関する上記の好ましい態様と組み合わせて、gMzは、0.45未満又はこれ以下の値を有し、より好ましくは0.40未満又はこれ以下の値を有し、好ましくは、上記の好ましい態様と組み合わせて、伸長硬化値ehは常に>1.2s−1であり、より好ましくはeh値は少なくとも1.2s−1、より好ましくは少なくとも1.4s−1、又はそれ以上である。
【0024】
より好ましくは、本発明によるポリエチレン組成物は、<3,700,000g/モル、より好ましくは<3,400,000g/モル、最も好ましくは<3,200,000のMを有する。後者の最も好ましい態様は、特に、gMzに関する上記に与える好ましい値、特に>0.31のgMzと組み合わせて好ましく、>1.4s−1のeh値と組み合わせて特に好ましい。これは、Mの減少及びより低い長鎖分岐の度合いを、驚くべきことに伸長粘度、及びしたがって加工性の向上と同時に起こすことができることを示す。
【0025】
本発明のポリエチレン又はポリエチレン組成物は、好ましくは、場合によっては少なくとも1種類のコモノマーの更なる存在下及びこれを用いて、少なくとも1種類のチーグラー触媒によるエチレンの重合によって得られる。コモノマーは通常は1−オレフィンであり、好ましくは1−n−ブテン、1−n−オクテン、1−n−ヘキセンのようなC〜C12−1−オレフィンである。より好ましくは、重合は、少なくとも2段階で重合を行うことを含み、重合中に水素を投与することによって所定の反応段階におけるポリエチレンのモル質量を制御する、20〜120℃の温度、2〜60barの範囲の圧力、及び上記に記載のチーグラー触媒の存在下におけるカスケード反応器システムによって行う。最も好ましくは、本発明によれば、重合は、分子量分布の点で三峰性の生成物を生成する3つの連続又はカスケード反応器段階で行う。
【0026】
かかる三峰性組成物は、(A)第1の低分子量、(B)第2の高分子量、及び(C)第3の超高分子量フラクションを含み、かかる第1、第2、及び第3の分子量フラクションのピーク分子量Mpx(ここで、x=A、B、又はCである)はMpA<MpB<MpCである。フラクションA、B、Cは、好ましくはそれぞれ第1、第2及び第3の反応器段階の生成物に対応する。
【0027】
達成しようとする機械的衝撃特性に関連するものとは別の加工特性(異なる用途のための異なる試験によって直接評価できるもの、例えばフィルムブローに関してはバブル安定性、又は一般的には低い剪断粘度)を決定するものは、単に、チーグラー生成物中に>500,000g/モルの分子量Mを有し、好ましくは>1,000,000g/モルの分子量Mを有し、最も好ましくは>2,000,000g/モルの分子量Mを有する高分子量テール部が存在することだけではないことが、本発明の驚くべき知見である。理論に縛られることは望まないが、ポリマーの微細構造に関する更なる情報は通常のLCB分岐指数又は同様の指数系に加えて歪み硬化によって与えられ、全てのかかる特性は驚くべきことに他のものから独立して良好に調節することができる。このように、新しい予期しなかった特性を有する新規なポリエチレン組成物が提供される。例えば、DDI測定によって測定して、20μmの膜厚と比較して10μmにおいてより高い耐機械的衝撃性を有するフィルムを得ることができる。
【0028】
好ましくは、チーグラー触媒は、特にカスケード反応器システムを用い、1つの反応器から次段の反応器段階に入る際にシステムに新しい触媒を供給しない場合に高活性のチーグラー触媒である。本発明によれば、好適な高活性触媒は、長時間、即ち4〜8時間の間その比触媒活性を実質的に保持し、水素に対して応答性であるので、異なる反応器段階においてポリマーの分子量分布を変化させることが可能である。この形態において好適な触媒の具体例は、EP−532551、EP−068257、及びEP−401776において示されているチーグラー触媒である。かかる文献においては、Ti、Zr、又はVdからなる群から選択される遷移金属、及び金属が周期律表の第I、II、又はIII主族から選択される更なる有機金属化合物を含む化合物を用いるマグネシウムアルコラートの転化が記載されている。更に、当該技術において周知なように、重合中のチーグラー触媒の活性を向上及び維持するために、有機アルミニウム共触媒種が好ましく用いられる。かかる共触媒及びそれらの使用はEP−068257に記載されている。より好ましくは、本発明による共触媒は、アルキルがC〜C10アルキル、より好ましくは分岐又は線状であってよいC〜Cアルキルであるトリアルキルアルミニウムであり、最も好ましくはトリエチルアルミニウム又はトリプロピルアルミニウムである。有機アルミニウム共触媒の使用は更にUS−4,851,489において更に議論及び説明されている。好ましくは、製造のためにカスケード反応器プロセスを用いる場合には、前段の反応器段階のものと異なるポリマー生成物のMが必要な新しい反応器段階の開始時に水素の分圧、及び場合によっては又は好ましくはエチレンの分圧を変化させるために、例えば間欠フラッシュタンクを用いる間欠減圧を適用する。
【0029】
エチレン及び場合によっては少なくとも上記に記載のコモノマーを、少なくとも1種類のチーグラー触媒を用いる3つの連続反応器段階において、好ましくは有機アルミニウム共触媒の存在下で重合することを含む本発明によるポリエチレン組成物の製造方法は、本発明の更なる対象である。かかるプロセスの実施に関連する好ましい態様は、明細書及び特許請求の範囲の他の箇所で更に説明する。
【0030】
ポリエチレン組成物には、好ましくは全組成物の10重量%以下又はそれ未満、より好ましくは5重量%以下又はそれ未満の、安定剤、UV吸収剤、ラジカル捕捉剤、充填剤、加工添加剤、顔料、可塑剤などのような通常の添加剤を更に含ませることができる。
【実施例】
【0031】
実験:
分析方法:
a.伸長レオロジー
Sentmanant伸長レオロジー用具(SER)を取り付けたAntonPaar GmbH(Graz,オーストリア)からのPhysica MCR301平行プレート流動計装置上で測定を行った。測定は、測定温度において5分間アニーリングした後に150℃において行った。それぞれの試料の異なる試験片に関して、0.01s−1〜10s−1の間で変化する伸長速度、通常は0.01、0.05、0.1、0.5、1、5、10s−1において測定を繰り返した。それぞれの測定に関して、一軸伸長溶融粘度を時間の関数として記録した。
【0032】
測定用の試験片は次のようにして製造した。2.2gの材料を秤量し、これを用いて70×40×1mmの成形プレートに充填した。プレートをプレス内に配置し、20〜30barの圧力下において1分間で200℃に加熱した。200℃の温度に到達した後、試料を100barにおいて4分間プレスした。圧縮時間の終了後、材料を室温に冷却し、プレートを型から取り出した。厚さ1mmの圧縮ポリマープレートから、12×11×1mmの長方形のフィルムを切り出し、伸長硬化を測定するための試験片として用いた。
【0033】
b.1.分子量パラメーターを求めるためのGPC
DIN−55672−1:1995−02(1995年2月発行)に記載されている方法を用いて、高温ゲル透過クロマトグラフィーによって、モル質量M、M(及び必要に応じてピーク分子量M)の測定を行った。言及したDIN標準規格に対する変更は次の通りである。溶媒=1,2,4−トリクロロベンゼン(TCB);装置及び溶液の温度=145℃;及び濃度検出器として、TCBと共に用いることができるPolymerChar(Valencia, Paterna 46980,スペイン)IR-4赤外検出器。直列に接続した次のプリカラム:SHODEX UT-G、並びに分離カラムSHODEX UT806M(3x)及びSHODEX UT807:を取り付けたWATERS Alliance 2000を用いた。溶媒は窒素下で真空蒸留し、0.025重量%の2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノールで安定化した。用いた流速は1mL/分であり、注入量は400μLであり、ポリマー濃度は0.008%<濃度<0.05%w/wの範囲であった。分子量の較正は、580g/モル〜11600000g/モルの範囲のPolymer Laboratories(現在はVarian, Inc., Essex Road, Church Stretton, Shropshire, SY6 6AX,英国)からの単分散ポリスチレン(PS)標準試料、及び更にヘキサデカンを用いることによって行った。次に、汎用較正法(Benoit H., Rempp P., 及びGrubisic Z., J. Polymer Sci., Phys. Ed., 5, 753 (1967))を用いて、較正曲線をポリエチレン(PE)に適合させた。ここで用いたMark-Houwingパラメーターは、TCB中135℃における有効値で、PSに関しては、kPS=0.000121dL/g、αPS=0.706であり、PEに関しては、kPE=0.000406dL/g、αPE=0.725であった。データの記録、較正、及び計算は、それぞれNTGPC-Control-V6.02.03及びNTGPC-V6.4.24(hs GmbH, Hauptstrasse 36, D-55437 Ober-Hilbersheim)を用いて行った。
【0034】
を求めるためのGPC−MALLS測定は、ポリエチレンの高温GPCについてのPL-GPC C210装置上で、次の条件:スチレン−ジビニルベンゼンカラム;溶媒として1,2,4−トリクロロベンゼン(TCB);0.6mL/分の流速;135℃;の下で、b.2.の欄においてより詳細に記載する多角度レーザー光散乱(MALLS)検出器による検出と共に行った。
【0035】
b.2.分岐因子g(M)を求めるためのGPC−MALLS分析
以下に記載するようにして、多角度レーザー光散乱(MALLS)と組み合わせたゲル透過クロマトグラフィー(GPC)によって、実験的に求められる分岐因子g(これによって分子量Mにおける長鎖分岐を求めることができる)を測定した。
【0036】
パラメーターgは、同じ分子量を有する線状ポリマーのものに対する、測定される平均二乗回転半径の比である。これは、Zimm及びStockmeyer(Zimmら, J. Chem. Phys. 1949, 17, 1301-1314)の理論考察によって示されたような長鎖分岐(LCB)の存在の指標であるが、Graessley, WのAcc. Chem. Res. 1977, 332-339に記載されているように、実験的に測定される分岐指数g(時には区別するためにg’と記載される)と理論的に推定されるものとの間には若干の不整合が存在する。本明細書においては、分岐指数g(M)は実験的に測定されるものである。
【0037】
線状分子は1のg因子の値を示し、一方、1未満の値は理論的にはLCBの存在を示す。gの値は、分子量Mの関数として式:
【0038】
【化6】

【0039】
[式中、<Rは分子量Mのフラクションに関する平均二乗回転半径である]。線状参照試料のベースラインは、完全に線状のポリマーに関してはZimm-Stockmeyer式(Zimmら, J. Chem. Phys. 1949, 17, 1301-1314)の理論値に基づいて積分計算する。レーザー(16角度のWyattグリーンレーザー)を用いて回転半径(GPCから得られるそれぞれのフラクションにおけるポリマーの寸法)を測定した。上記に記載のようにして行ったGPCから溶出したそれぞれのフラクションに関して、所定のMにおけるgを求めるために分子量M及び分岐指数gを測定した。
【0040】
1,2,4−トリクロロベンゼン溶媒を用い、135℃及び0.6mL/分の流速において、3つのShodex UT806及び1つのUT807カラムを用いて、Polymer Laboratories(現在はVarian, Inc., Essex Road, Church Stretton, Shropshire, SY6 6AX,英国)タイプ210高温GPCを用いた。試料によって1〜5mg/10mLの濃度を有するポリエチレン(PE)溶液を150℃において2〜4時間かけて製造し、その後135℃において加熱している円形容器内に載置したSEC注入バイアルに移した。上記の欄b.1.におけるようなPolymerChar IR4検出器を用いる赤外検出によってポリマー濃度を測定し、Wyatt Dawn EOS多角度MALLS検出器(Wyatt Technology, Santa Barbara, California/米国)を用いて光散乱を測定した。658nmの波長の120mWのレーザー源を用いた。比屈折率は0.104mL/gとしてとった。データの評価は、ASTRA 4.7.3.及びCORONA 1.4ソフトウエア(上記のWyatt)を用いて行った。上述のソフトウエアを用いるそれぞれの溶出体積におけるデバイタイプの外挿によって、絶対分子量M及び回転半径<R>を求めた。次に、試験した試料の回転半径及び同じ分子量の線状参照試料の半径から、所定の分子量Mにおける比g(M)を算出した。本明細書においては、分岐指数g(M)はM=Mにおいて測定されるgを意味する。
【0041】
c.耐衝撃性試験
それぞれのデータの組について個々に注記したように20μm又は10μmのいずれかの厚さを有するフィルムについて、ASTM−D1709:2004方法Aにしたがってダートドロップ衝撃(DDI)試験を行った。
【0042】
d.複素粘度測定
剪断レオロジーの測定、即ち所定の周波数ωにおける複素粘度ηの測定のために、動的振動剪断変形及びそれに対する応答を、Anton-Paar MCR300(Anton Paar GmbH, Graz/オーストリア)からの平行プレート流動計内のポリマーに適用した。まず、測定のために次のようにして試料(粒状形態又は粉末形態)を製造する。2.2gの材料を秤量し、これを用いて70×40×1mmの成形プレートに充填する。プレートをプレス内に配置し、20〜30barの圧力下において1分間で200℃に加熱する。200℃の温度に到達した後、試料を100barにおいて4分間プレスする。圧縮時間の終了後、材料を室温に冷却し、プレートを型から取り出す。プレスしたプレートにおいて、可能性のある亀裂、不純物、又は異質物に関して視認品質管理試験を行う。プレスした成形体から直径25mm、厚さ0.8〜1mmのポリマーディスクを切り出し、動的機械分析(又は周波数スイープ)測定のために流動計内に導入する。
【0043】
かかるAnton Paar MCR300応力制御回転流動計において、周波数ωの関数としての弾性係数(G’)及び粘性係数(G”)並びに複素粘度ηの測定を行った。装置には、プレート−プレート構造、即ち半径24.975mmの2つの平行ディスクを取り付ける。上記のように製造した厚さ約1mmで直径25mmのディスク試料を装填し、測定温度(PEに関する標準はT=190℃)において加熱する。溶融試料を試験温度に5分間保持して、均一な溶融を達成する。その後、0.01〜628rad/秒の間の点を対数的にとる装置によって周波数スイープを開始する。
【0044】
0.05(又は5%)の歪み振幅を用いて線状範囲において周期的変形を適用する。周波数範囲から高周波数から低周波数へ対数的に下降する点を選択する。周波数スイープは628.3rad/秒(又は約100Hz)から8.55rad/秒の範囲であり、非常に低い周波数に関しては増加したサンプリング速度を用いて4.631rad/秒から0.01rad/秒(又は0.00159Hz)まで作業を継続して、低周波数範囲に関してより多い点が取られるようにした。
【0045】
適用した変形から得られる剪断応力振幅及び位相遅れを装置によって獲得し、これを用いて損失弾性率及び貯蔵弾性率並びに複素粘度を周波数の関数として算出する。
e.その他の方法
密度(g/cm)はDIN−EN−ISO−1183−1方法A(浸漬)にしたがって測定した。測定のために、所定の熱履歴を有する圧縮成形プラーク(厚さ2mm)を製造した。プレス条件=温度、圧力、及び時間:180℃、200bar、8時間。沸騰水中での結晶化を30分間。
【0046】
触媒中のAl、Fe、Mg、及びTiの量を、DIN−EN−ISO−11885にしたがうICP−OES法によって測定した。
粘度数は、ISO−1191::1975にしたがって、Ubelohe毛細管粘度計を用いて、デカリン中、135℃の温度において直接測定した。第1、第2、又は第3の重合段階の終了時に得られた反応混合物の試料について測定を行った。
【0047】
チーグラー触媒の合成及び重合反応の概要
チーグラー触媒として、EP−401776の実施例1にしたがって触媒を製造した。重合は、直列の3つのカスケードスラリー反応器内において連続プロセスで行った。チーグラー触媒は第1の反応器に一回だけ加えた。チーグラー触媒(示されているようにヘキサン中に懸濁)は、以下により詳細に示すように約1:10のモル比の更なる量のトリエチルアルミニウム共触媒と共に用いた。複数の反応器段階の間のフラッシュタンクによって、それぞれの反応器段階に関する水素、エチレン、及びコモノマーの投与量を個々に調節することが可能であった。
【0048】
実施例1
触媒:4.4(ミリモル/L);
触媒投与量:4.2(ミリモル/L);
共触媒:TEA、22.8(ミリモル/L)で供給;
活性Al:1(ミリモル/L);
TEA投与量:61(ミリモル/時);
R1、R2等=スラリー反応器No.1、2等。
【0049】
【表1】

【0050】
ポリマー生成物をヘキサンから分離し、乾燥し、粒状化した。それから構成されるブローンフィルムをAlpineフィルムブローライン上で製造した。
実施例2
触媒:8.5(ミリモル/L);
触媒投与量:3.6(ミリモル/時);
共触媒:TEA、22.8(ミリモル/L)で供給;
活性Al:1.1(ミリモル/L);
共触媒投与量:61(ミリモル/時);
R1、R2等=スラリー反応器No.1、2等。
【0051】
【表2】

【0052】
ポリマー生成物をヘキサンから分離し、乾燥し、粒状化した。それから構成されるブローンフィルムをAlpineフィルムブローライン上で製造した。
実施例3
実施例1、2のポリマー生成物に関する分子量分布(引かれた線)、及びGPC−MALLSによる回転半径から求めた長鎖分岐分布(LCB/1000CH、分子量の関数として)を図1に示す。フィルム試験の結果を下表3に示す。
【0053】
【表3】

【0054】
実施例4〜8
実施例1及び2の重合プロセスと同様に、プロセス条件を僅かに変化させ、異なるM、M、HI等の生成物を得ることによって、本発明にしたがって更なるポリマー試料4〜8を製造した。
【0055】
実質的には、実施例1のプロセスの説明を適用し、常に以下の条件を示されている限界内で変化させた。
・重合条件:
・第3反応器における水素/エチレンの比:0.3<H/C<0.4;
・第2反応器における水素/エチレンの比:H/C=0.08;
・第3反応器におけるコモノマー:0.8<C<1.3体積%;
・第2反応器におけるコモノマー:0.5<C<0.8体積%;
・アルキル濃度(トリエチルアルミニウム):0.96<CAl<1.2ミリモル/L;
・エチレン分圧,PC2:第2反応器に関しては<0.65bar、第3反応器に関しては<1.25bar。
【0056】
・最終樹脂特性:
・MFI5kg=0.35〜0.44g/10分;
・密度,ρ=0.955〜0.957g/cm
・10μmのフィルムに関するDDI:常に>300g。
【0057】
HI計算値及び溶融レオロジー、並びに殆どが競合社から現在入手できる商業グレードのものとのそれらの比較の点での、実施例1、2、及び4〜8から得られた樹脂の更なる特性を下表4に示す。
【0058】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.25〜3g/10分のISO−1133:2005にしたがって5kg/190℃で測定したメルトフローレート(MI5kg)、及び0.18〜18のホスタレン指数(HI)値を有し、但しMI5kgが>1.9g/10分である場合には、HI値は>1である、ポリエチレン組成物。
【請求項2】
MI5kgが0.3〜2g/10分であり、及び/又はHI値が0.2〜10であり、但しMI5kgが>1.9g/10分である場合には、HI値は>1である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
HIが、
【化1】

[式中、
はz平均分子量であり;
は重量平均分子量であり;
Mzは分子量M=Mにおける分岐因子であり;
ehは、0.1s−1の一軸伸長速度及びT=150℃の試験温度におけるポリマーの延伸硬化であり、
【化2】

(式中、ηE,maxは所定の伸長速度において測定される最大溶融伸長粘度であり、ηは本明細書において示すようにして測定される線形粘弾性応答である)
として定義される]
として定義される、請求項1又は2のいずれかに記載の組成物。
【請求項4】
組成物が少なくともチーグラー触媒を用いる触媒反応によって得られる、請求項1〜3のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
組成物が多峰分子量分布を有する、請求項1〜4のいずれかに記載の組成物。
【請求項6】
組成物が、(A)第1の低分子量、(B)第2の高分子量、及び(C)第3の超高分子量フラクションを含む三峰性であり、かかる第1、第2、及び第3の分子量フラクションのピーク分子量Mp(xはA、B、又はCである)がMp<Mp<Mpである、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
組成物が、少なくとも1種類のチーグラー触媒を用いる3つの連続反応器段階、及び場合によってはα−オレフィン、好ましくはC〜C12−α−オレフィンである少なくとも1種類のコモノマーの存在下での所定の反応器段階でエチレンを重合することによって得られる、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
それぞれの反応器段階が独立して気相又はスラリー反応器段階であってよく、好ましくは少なくとも初めの2つの反応器段階がスラリー反応器であり、第1の反応器段階が第1の分子量フラクションAを生成し、第2の反応器段階が第2の分子量フラクションBを生成する、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
少なくとも2段階で重合を行うことを含み、重合中に水素を投与することによってポリエチレンのモル質量を制御する、請求項1〜8のいずれかに記載のポリエチレン組成物の製造方法であって、カスケード反応器システム内で、20〜120℃の温度及び2〜60barの範囲の圧力において、遷移金属化合物から構成される高活性チーグラー触媒の存在下で少なくとも1種類のモノマーの重合を行うことによる、上記方法。
【請求項10】
重合を3段階で行い、及び/又は好ましくは第1及び第2の反応器段階がスラリー重合である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
有機アルミニウム共触媒、好ましくはトリアルキルアルミニウム共触媒、最も好ましくはトリエチルアルミニウム共触媒を更に存在させて重合を行う、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
0.25〜1g/10分のISOにしたがって5kg/190℃で測定したメルトフローレート(MI5kg)、及び/又は1.5〜18のホスタレン指数(HI)値を有する厚さ<1mmの押出しフィルムを製造するための、請求項1に記載のポリエチレン組成物。
【請求項13】
HI値が1.5〜10である、請求項12に記載のポリエチレン組成物。
【請求項14】
それから構成されるフィルムに関して、膜厚を20μmから10μmに減少させると、ASTM−D1709:2004方法Aにしたがって測定されるダートドロップ衝撃値(DDI)が少なくとも3%、好ましくは少なくとも15%増加し、DDIが10μmの膜厚において少なくとも300g又はそれ以上である、請求項12又は13のいずれかに記載のポリエチレン組成物。
【請求項15】
それぞれ0.01及び0.4rad/秒の2つの異なる振動周波数において測定される複素剪断粘度ηが、1×10Pa・秒<η(0.01rad/秒における)<1.3×10Pa・秒、及び3.4×10Pa・秒<η(0.4rad/秒における)<4.2×10Pa・秒である、請求項12〜14のいずれかに記載のポリエチレン組成物。
【請求項16】
請求項1〜8、12〜15のいずれかに記載のポリマー組成物から構成されるフィルム。
【請求項17】
ブローンフィルムである、請求項16に記載のフィルム。
【請求項18】
2〜50μmの厚さを有する、請求項15又は16のいずれかに記載のフィルム。
【請求項19】
5〜15μmの厚さを有し、及び/又はASTM−D1709:2004方法Aにしたがって測定して少なくとも330gのDDIを有する、請求項17に記載のフィルム。
【請求項20】
請求項1〜8、12〜15のいずれかに記載のポリエチレンから製造されるポリマーブレンド。

【図1】
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【公表番号】特表2012−528905(P2012−528905A)
【公表日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−513493(P2012−513493)
【出願日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際出願番号】PCT/EP2010/003225
【国際公開番号】WO2010/139419
【国際公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【出願人】(500289758)バーゼル・ポリオレフィン・ゲーエムベーハー (118)
【Fターム(参考)】