説明

ポリエーテル−ポリシロキサンポリオール

【課題】狭い多分散性(<1.5)を有すると共に、低分子量副生物を含有しない線状ポリシロキサン−ポリアルキレンエーテルブロックコポリマーを提供する。
【解決手段】次の工程i)及びii)を含むポリエーテル−ポリジアルキルシロキサンブロックコポリマーの製造方法:i)少なくとも1種のアルキレンオキシド及び少なくとも1種のシラノール−末端ポリジアルキルシロキサンを含有する混合物を供給し、次いでii)該混合物を、複金属シアン化物錯体触媒の存在下及び所望による非プロトン性溶剤及び/又は酸化防止剤の存在下において、重合させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シラノール−末端ポリジアルキルシロキサンから調製されるポリエーテル−ポリシロキサンポリオールに関する。この種のポリオールは接着剤配合物(adhesive composition)、特にホットメルト(hot-melt)接着剤、及び表面エネルギーの低い塗料(coating)の製造において有用である。
【背景技術】
【0002】
ポリシロキサンとポリアルキレンエーテル(ポリエーテル)とのブロックコポリマーは当該分野においては既知であり、該ブロックコポリマーは種々の方法によって製造されている。この種のブロックコポリマーは、界面活性剤又はポリマーの表面エネルギーを改変するための表面活性性モノマーとして使用することができる。これらのブロックコポリマーのうちの僅かなポリマーは実際に線状のブロックコポリマーであるが、多くのブロックコポリマーは本来的にグラフト(graft)コポリマー又は「コーム(comb)」コポリマーとして記述されている。
【0003】
ポリシロキサンとポリアルキレンエーテルとの線状ブロックコポリマーは、末端が2官能性のポリシロキサンオリゴマーをジヒドロキシル末端ポリアルキレンエーテルと反応させることによって製造されている。この種のブロックコポリマーを調製するために使用されている適当な末端基を有するポリシロキサンとしては、アセトキシ基、アルコキシ基、及びジアルキルアミノ基を末端に有するポリシロキサンが例示される。このようなポリエーテル/ポリシロキサンブロックコポリマーの合成に関する概説書としては、例えば、下記の非特許文献1を参照されたい。
【0004】
上記の線状のポリシロキサン−ポリアルキレンエーテルブロックコポリマーはいずれも縮合重合によって合成されている。即ち、この反応においては、ポリシロキサンオリゴマーの末端基がポリアルキレンエーテルのヒドロキシル基によって置換されることによって所望のコポリマーが生成する。この場合、該ブロックコポリマーは、ポリシロキサンブロックとポリアルキレンブロックとの間にSi−O−C結合を有する。
【0005】
重縮合反応中においては、ポリシロキサンブロックに予め結合していた末端基の置換の結果として、低分子量の副生物が生成する。この副生物は、付加的な処理工程においてポリマーから除去されなければならないが、そうでない場合には、該副生物はブロックコポリマー中に残存することになる。多くのポリマーの用途においては、この種の低分子量成分は可塑剤として作用し、ポリマーの特性に悪影響をもたらし、及び/又は経時的にポリマーの外部へゆっくりと移動することによって、潜在的な安全性の問題をもたらすか、又はポリマーに有害な性能を付与する(ポリマー表面上での曇り又は油性物質の発生)。
【0006】
さらに、当業者には認識されているように、この種の重縮合によって幅広い分子量分布がもたらされる。一般的には、分子量分布の幅は多分散性インデックス(polydispersity index)、即ち、重量平均分子量(Mw)対数平均分子量(Mn)の比によって特徴づけられる。重縮合の場合、フローリの理論を用いてMw/Mn(多分散性)の理論比(1+p)が誘導される(pは反応度を示す)。高分子量ポリマーの場合、反応度は1に接近するので、予想される多分散性は約2.0である。この値は、多数の縮合重合によって実験的に証明されている。この点に関しては、例えば、下記の非特許文献2を参照されたい。
【0007】
ポリエーテル/ポリシロキサンブロックコポリマーの合成に関連する上記の問題点を解消するために、タケヤスらは、アルコキシレートヒドロキシアルキル−末端ポリジメチルシロキサンに対して複金属シアン化物(DMC:double metal cyanide)触媒を使用することによってPET/PDMSコポリマーの製造法を提案している(特許文献1参照)。しかしながら、この特許文献には、シラノール−末端ポリジアルキルシロキサンを出発原料として使用することは開示されていない。
【0008】
特許文献2には、シロキサン鎖の末端に結合するカルボキシアルキル末端基(ポリマー鎖ではない)を有するオルガノポリシロキサンの製造方法が記載されている。この種の化合物はブロックコポリマーではなく、カルボキシアルキル基を末端に有するオルガノポリシロキサンである。オルガノシロキサン成分とカルボキシアルキル末端基を結び付ける結合はSi−C型の結合である。この特許文献には真のブロックコポリマーは開示されておらず、また、Si−O−C結合についても記載されていない。
【特許文献1】EP 0485637 B1(出願人:アサヒアラス社)
【特許文献2】米国特許第3182076号明細書
【非特許文献1】A.ノスハイ及びJ.E.マックグラス、「ブロックコポリマー;概説と評論」、アカデミックプレス社(ニューヨーク)発行、1977年、第400頁〜第401頁
【非特許文献2】G.オジアン、「重合の原理」(第3版)、ジョン・ウィリー&サンズ社(ニューヨーク)、1991年、第85頁〜第87頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、当該分野においては、狭い多分散性(<1.5)を有すると共に、低分子量副生物を含有しない線状ポリシロキサン−ポリアルキレンエーテルブロックコポリマーが要請されており、本発明はこのような要請に応えるためになされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
即ち本発明は、下記の工程i)及びii)を含むポリエーテル−ポリジアルキルシロキサンブロックコポリマーの製造方法に関する:
i)少なくとも1種のアルキレンオキシド及び少なくとも1種のシラノール−末端ポリジアルキルシロキサンを含有する混合物を供給し、次いで
ii)該混合物を、複金属シアン化物錯体触媒の存在下及び所望による非プロトン性溶剤及び/又は酸化防止剤の存在下において、重合させる。
【0011】
別の観点によれば、本発明は、上記の製造法によって得られるポリエーテル−ポリジアルキルシロキサンブロックコポリマーを提供する。この種のポリエーテル−ポリジアルキルシロキサンブロックコポリマーは150〜50000g/モルの分子量及び1.0〜1.5の多分散性インデックスを有する。
【0012】
驚くべきことには、複金属シアン化物(DMC)で触媒されるオキシアルキル化反応において、シラノール又はポリシラノール(-OH)末端ポリシロキサンをオキシアルキル化することによって、望ましい多分散性を有すると共に、低分子量の副生物を含有しないコポリマーが得られることが判明した。前述のポリシロキサン−ポリアルキレンエーテルブロックコポリマーを得るための重縮合とは対照的に、DMCで触媒されるオキシアルキル化反応は重付加反応であって、低い多分散性(<1.5)を有する線状のポリシロキサン−ポリアルキレンエーテルブロックコポリマーをもたらすと共に、低分子量の副生物は発生させない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本願の特許請求の範囲及び明細書(実施例を含む)の記載においては、特に言及しない限り、全ての数値は、「約」という用語が明確に記載されていない場合であっても、当該数値が該用語で修飾されているように理解してもよい。また、ここで使用するいずれの数値範囲も該範囲に包含される下位範囲を含む。
【0014】
ここで使用する「アルキレンオキシド」という用語はエポキシド含有化合物を意味する。適当なアルキレンオキシドとしてはエチレンオキシド、プロピレンオキシド、1,2−ブチレンオキシド、2,3−ブチレンオキシド及びスチレンオキシド等が例示される。2種又はそれよりも多種のアルキレンオキシドの混合物を使用してもよい。好ましいアルキレンオキシドはエチレンオキシド、プロピレンオキシド、1,2−ブチレンオキシド、2,3−ブチレンオキシド又はこれらの任意の混合物である。アルキレンオキシドの使用量は、シラノール−末端ポリジアルキルシロキサンとアルキレンオキシドの重量に基づいて(触媒の重量は除く)、1〜99重量%(wt%)、好ましくは25〜75重量%である。
【0015】
シラノール−末端ポリジアルキルシロキサンは次式で表される化合物である:
【化1】

【0016】
式中、R〜Rは相互に独立してC〜Cアルキル基を示し、Rは−OH、水素原子又はC〜Cアルキル基を示し、nは0〜100、好ましくは3〜60整数を示す。 ポリジアルキルシロキサンは100〜8000g/モル、より好ましくは400〜5000g/モルの分子量を有する。
【0017】
シラノール−末端ポリジアルキルシロキサンの使用量は、シラノール−末端ポリジアルキルシロキサンとアルキレンオキシドの重量に基づいて(触媒の重量は除く)、1〜99重量%、好ましくは25〜75重量%である。
【0018】
重合反応は複金属シアン化物(DMC)触媒の存在下でおこなう。DMC触媒をポリエーテルポリオールの製造において使用することは当該分野においては周知である。DMC触媒の適当な調製法及びポリエーテルポリオールの製造における該触媒の使用法は次の米国特許明細書に例示されており、これらの特許明細書の開示内容も本願明細書の一部を成すものである:第3278457号、第3404109号、第3941849号、第5158922号、第5482908号、第5783513号、第6613714号及び第6855658号。
【0019】
当業者には知られているように、DMC触媒は、適当な錯体形成性の有機配位子及び所望による機能化ポリマー又はその他の加工助剤の存在下において、ヘキサシアノメタレート塩を遷移金属塩と反応させて次式で表される化合物を生成させることによって調製される:
【化2】

【0020】
上記の式における符号の意義は以下の通りである。
「M」:Zn+2、Fe+2、Ni+2、Mn+2、Co+2、Sn+2、Pb+2、Fe+3、Mo+4、Mo+6、Al+3、V+4、V+5、Sr+2、W+4、W+6、Cu+2及びCr+3から成る群から選択される金属イオンを示す。
「M」:Fe+2、Fe+3、Co+2、Co+3、Cr+2、Cr+3、Mn+2、Mn+3、Ir+3、Ni+2、Rh+3、Ru+2、V+4及びV+5から成る群から選択される金属イオンを示す。
「X」:ハロゲン化物、水酸化物、硫酸塩、炭酸塩、シアン化物、チオシアン化物、カルボン酸塩及び硝酸塩から成る群から選択されるアニオンを示す。
「L」:有機配位子を示す。
「x、y及びq」:電気的中性が保持されるように選択される数を示す。
【0021】
本発明において使用する好ましい触媒は、米国特許第5482908号明細書に記載されている方法によって調製されるヘキサシアノコバルト酸亜鉛触媒であり、該明細書の記載内容も本願明細書の一部を成すものである。DMC触媒は、米国特許第6362126号明細書に記載されているように、担体に結合させてもよく、該明細書の開示内容も本願明細書の一部を成すものである。特に好ましい触媒はポリアルキレングリコールとヘキサシアノコバルト酸亜鉛との錯体である。
【0022】
触媒の濃度は、生成物の重量に基づいて10〜5000ppm、好ましくは25〜2500ppm、最も好ましくは50〜500ppmである。重合反応の反応時間は数分間〜数日間であり、好ましくは数時間である。
【0023】
モノマー混合物の重合反応は半バッチ方式でおこなってもよく、あるいは、出発原料の連続的添加(CAOS;continuous addition of starter)法によって連続的におこなってもよい。
【0024】
半バッチ方式においては、DMC触媒と出発原料(シラノール−末端ポリジアルキルシロキサン)及び所望による溶剤(及び/又は目的とする生成物又は類似生成物のヒール(heel))を反応容器内へ導入し、この混合物を真空下で加熱することによって脱水処理をおこなう。反応容器内の圧力を監視しながらアルキレンオキシドの一部を反応容器内へ導入する。触媒が活性化したならば(この活性化は、反応容器内の圧力低下によって確認される)、残りのアルキレンオキシドを、秤量した量で連続的に添加することによって、所望の分子量を有するポリエーテル−ポリジアルキルシロキサンブロックコポリマーを得ることができる。
【0025】
CAOS法は、シラノール−末端ポリジアルキルシロキサン出発原料の全部を最初に反応容器内へ導入しない点で、半バッチ方式とは相違する。従って、アルコキシル化反応中においては、アルキレンオキシドの外に、出発原料の一部又は全部を反応容器内へ連続的に導入する。一般的には、この導入速度は、アルキレンオキシドの全部が導入される前に、出発原料の導入が完結するように調整される。所望により、アルコキシル化反応中において、付加的なDMC触媒を計量して供給することができる。CAOS法は米国特許第5777177号明細書に詳述に記載されており、また、当該分野においては周知な方法である。
【0026】
半バッチ法とCAOS法のいずれにおいても、「ヒール法(heel process)」と呼ばれている方法を採用してもよい。この場合のヒール法とは、ポリオールの製造に際して、少量の最終生成物を出発物質(starter)の一部として使用する方法を意味する。即ち、ヒール法においては、反応容器内への最初の導入物には、触媒と出発化合物の外に、調製しようとする生成物を少量含有させる。「ヒール」は、触媒及び最初に導入される出発物質に対するキャリヤーとして作用するという利点を有する。ヒールは、高い融点を有する固体状出発物質又は非常に粘性な出発物質に対しては特に有用であり、また、生成物から除去する必要がないという点で溶剤に比べて有利である。
【0027】
高活性のDMC触媒によって触媒される上記混合物の重合反応は、一般的には20℃〜200℃、好ましくは60℃〜150℃、特に好ましくは90℃〜140℃の温度で進行する。この反応は0.001〜20barの全圧下でおこなってもよい。この重合反応は溶剤の不存在下においておこなってもよく、あるいは、当業者には既知の不活性な(非プロトン性)有機溶剤、例えば、トルエン、キシレン、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン、メチルテトラヒドロフラン、ジオキサン、ベンゼン、ヘキサン又はその他の適当な溶剤中においておこなってもよい。溶剤を使用する場合、その一般的な使用量は、製造されるポリエーテルの量に対して5〜80重量%である。好ましくは、この反応は溶剤を使用せずにおこなう。
【0028】
本発明によって製造されるポリエーテル−ポリジアルキルシロキサンブロックコポリマーの収率は>95%、好ましくは>97%、より好ましくは>99%である。この値は、100%から、生成物中に検出される残存モノマーの量(重量%)を引き算することによって決定される。
【0029】
上記の製造方法によれば、150〜50000g/モルの分子量及び1.0〜1.5の多分散性インデックスを有するポリエーテル−ポリジアルキルシロキサンブロックコポリマーが得られる。好ましくは、ポリエーテル−ポリジアルキルシロキサンブロックコポリマーは400〜10000g/モルの分子量を有する。ブロックコポリマー中のポリジアルキルシロキサンの含有量は、該コポリマーの重量に基づいて25〜75重量%である。一部の実施態様においては、ポリジアルキルシロキサンはジシラノールであり、コポリマーはABA型ブロックコポリマーである。別の実施態様においては、ポリジアルキルシロキサンはモノシラノールであり、コポリマーはAB型ブロックコポリマーである。
【0030】
本発明によるブロックコポリマーは接着剤、例えば、反応性ポリウレタンホットメルト接着剤において使用することができる。一般的には、ポリウレタンホットメルト接着剤は、イソシアネート化合物とポリエステルポリオールとの反応生成物であるイソシアネート−キャップ化ポリエステルプレポリマーから調製される。このプレポリマー中のNCO含有量は低く(通常は3%未満)、該プレポリマーは室温では固体である。
【0031】
ここで使用する「イソシアネート化合物」という用語は、2個又はそれよりも多くの−NCO基を有するモノマー性低分子を意味する。本発明によるプレポリマー組成物を形成させるために有用なイソシアネート化合物には、約2又はそれよりも高いイソシアネート官能価を有する脂肪族及び芳香族の有機イソシアネート化合物が含まれる。イソシアネート化合物は、イソシアネート基によって置換された脂肪族基又は芳香族基を1〜10個有することができる。イソシアネート化合物は、その他の置換基であって、イソシアネート末端プレポリマーの粘度、接着剤層の接着性、又はプレポリマーの形成時の−NCO基の反応性に対して実質的に不利な影響を及ぼさない置換基も有することができる。イソシアネート化合物には、芳香族イソシアネートと脂肪族イソシアネートとの混合物及び脂肪族特性と芳香族特性を兼有するイソシアネート化合物も含まれる。
【0032】
典型的な芳香族イソシアネート化合物には下記の化合物及びこれらの任意の混合物が含まれる:ジフェニルメタンジイソシアネート化合物(MDI)(これらの異性体を含む)、カルボジイミド変性MDI、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、ジフェニルメタン−2,2’−ジイソシアネート、ジフェニルメタン−2,4’−ジイソシアネート、オリゴマー性フェニルメチレンイソシアネート、トルエンジイソシアネート化合物(TDI)(これらの異性体を含む)、テトラメチルキシレンジイソシアネート(TMXDI)、ナフチレンジイソシアネートの異性体、及びトリフェニルメタントリイソシアネートの異性体。脂肪族のジイソシアネート、トリイソシアネート及びポリイソシアネートも有用であり、この種の化合物には、イソホロンジイソシアネート、芳香族ジイソシアネートの水素化物、脂肪族ポリイソシアネート、及び脂環式ポリイソシアネート等が例示される。好ましいイソシアネートはMDIである。
【0033】
ここで使用する「ポリエステルグリコール」という用語は、2個の末端OH基を有するポリエステルを意味する。この種の化合物は既知の方法により、炭素原子数が6〜12の脂肪族ヒドロキシカルボン酸又は脂肪族ジカルボン酸及び炭素原子数が2〜8(特に偶数)のジオールから調製される。その他の適当な誘導体、例えば、ラクトン、メチルエステル、酸無水物を使用してもよい。出発物質としては次のものが例示される:1,2−エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸及びラクトン。この酸成分は、その他の酸、例えば、シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸及びイソフタル酸等のモル数に基づいて25%まで含まれていてもよい。このグリコール成分は、その他のジオール、例えば、ジエチレングリコール及び1,4−シクロヘキサン−ジメタノールのモル数に基づいて15%まで含まれていてもよい。
【0034】
上記の成分から調製されるホモポリマーの外に、次の成分又はこれらの誘導体から調製されるコポリエステルも使用することができる:アジピン酸、イソフタル酸、フタル酸及びブタンジオール;アジピン酸、フタル酸及びヘキサンジオール;アジピン酸、イソフタル酸、フタル酸、エチレングリコール、ネオペンチルグリコール及び3−ヒドロキシ−2,2−ジメチルプロピル−3−ヒドロキシ−2,2−ジメチルプロパノエート;アジピン酸、フタル酸、ネオペンチルグリコール及びエチレングリコール。
【0035】
ポリエステルグリコールは液状又は固体状である。固体状の場合、非晶質のものが好ましいが、弱い結晶性であってもよい。好ましくは、部分的に結晶性のポリエステルと非晶質のポリエステルとの混合物が使用される。しかしながら、結晶化度が弱く高められるので、最終的なホットメルト接着剤においては不透明性は発現されない。部分的結晶質のポリエステルの融点は40℃〜70℃、好ましくは45℃〜65℃である。この融点は、該ポリエステルの結晶性領域が溶融する温度である。この融点は、主要な吸熱ピークに関する示差熱分析によって決定される。好ましくは、約3500の分子量と約50℃の融点を有するポリブタンジオールアジペートが部分的結晶質ポリエステルグリコールとして使用される。
【0036】
ポリエステルグリコールの平均分子量(Mn)は1500〜30000、好ましくは2500〜6000にすべきである。該平均分子量はOH価から計算される。ポリエステルグリコールの該分子量は、例えば、次のような意義を有する:該分子量の増加は、ホットメルト接着剤の押出しと皮革内への浸透をより困難にし、一方、該分子量の減少は、ホットメルト接着剤の室温における不十分な固体状態をもたらす。
【0037】
好ましくは、ポリエステルグリコールは−40℃〜+50℃、特に−40℃〜+40℃のガラス転移温度(Tg)を有する。TgはDSC測定に基づいて、第2試験において10℃/分の変温速度を用いる段階の中心点として決定される。
【0038】
特に適当なポリエステルグリコールには、約−40℃〜+40℃のTg、約3000mPa.s /130℃〜約30000mPa.s /130℃の粘度(ブルックフィールド、RVDV II +サーモセル)、及び約27〜60のヒドロキシル価を有するポリエステルグリコールが含まれる。
【0039】
常套のホットメルト接着剤においては、非結晶性のポリエステルポリオールとポリエーテルポリオールをポリマー主鎖へ付加させて接着剤組成物に他の特性を付与させるためにこれらの成分を所望により使用することができる。本発明においては、ポリエーテル−ポリジアルキルシロキサンコポリマーがポリエーテルポリオールの代わりに使用されるが、その使用量は、ホットメルト接着剤の全重量に基づいて、5重量%までである。
【0040】
本発明によるポリエーテル−ポリジアルキルシロキサンコポリマーは表面エネルギーの低い塗料中において使用することができ、また、ポリカーボネート材料(polycarbonate material)用離型剤としても使用することができる。
【実施例】
【0041】
以下の実施例は、本発明を例証するためのものであって、本発明を限定するものではない。本発明の実施例においては、下記の原料を使用した。
「DMC触媒」:米国特許第5482908号明細書の実施例3に記載の方法に準拠して調製したヘキサシアノコバルト酸亜鉛とポリアルキレングリコールとの錯体。
【0042】
「ジシラノール末端ポリジメチルシロキサン」:ジェレスト社(モリスビル、ペンシルヴァニア)から入手した一連の市販品。実施例において使用したこの種の原料を以下の表に示す。
【0043】

【0044】
「アクレイム(Acclaim)2200」:DMC触媒法によって製造されたポリプロピレングリコール(2000MW)であって、バイエルマテリアルサイエンスLLC社(ピッツバーグ、ペンシルバニア)の市販品。
【0045】
「アクレイム(Acclaim)4200」:DMC触媒法によって製造されたポリプロピレングリコール(4000MW)であって、バイエルマテリアルサイエンスLLC社(ピッツバーグ、ペンシルバニア)の市販品。
【0046】
「ムルトラノール(Multranol)3600」:KOH触媒法によって製造されたポリプロピレングリコール(2000MW)であって、バイエルマテリアルサイエンスLLC社(ピッツバーグ、ペンシルバニア)の市販品。
【0047】
「アルコールポリオール(Arcol Polyol)PPG2000」:ポリプロピレングリコール(2000MW)であって、バイエルマテリアルサイエンスLLC社(ピッツバーグ、ペンシルバニア)の市販品。
【0048】
「EO」:エチレンオキシド。
「PO」:プロピレンオキシド。
【0049】
「デスモフェン(Desmophen)S105−30」:2官能性ポリエステルポリオール(OH価:28)であって、バイエルマテリアルサイエンスLLC社(ピッツバーグ、ペンシルバニア)の市販品。
【0050】
「モンジュール(Mondur)M」:4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートであって、バイエルマテリアルサイエンスLLC社(ピッツバーグ、ペンシルバニア)の市販品。
【0051】
「RC6135触媒」:2,2’−ジモルホリノジエチルエーテルであって、ライン・ヘミー社(ランクセス・グループのメンバー)の市販品。
【0052】
半バッチ法によるポリエーテル/ポリシロキサンコポリマーの合成
ポリエーテル−ポリジアルキルシロキサンコポリマーは、下記の一般的な手順に従って、ポリエーテルポリオール製反応器内での半バッチ法によって製造した。各実施例における合成に関する詳細な事項は以下の表1に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
ポリエーテルポリオール製反応器には、機械的攪拌機、熱油による加熱/冷却ジャケット、及び内部水循環式冷却コイルを装着した。この反応器系は3つの別々の供給ラインを具備しており、各々の供給ラインの調整と計量は相互に独立しておこなわれ、反応器内への多重供給が可能である。また、反応器内へ窒素をパージするために使用した浸漬チューブへ窒素導入口を連結した。さらに、反応器内を所望の圧力に調整するための排気をおこなう真空ラインを反応器に連結した。全反応系はコンピューターによって連動させることにより、温度、圧力及び供給速度を正確に調整した。
【0055】
上記の反応器内へ、前記のジシラノール末端ポリジメチルシロキサン出発原料とDMC触媒を導入した。130℃において、出発原料を導入した反応器内を撹拌下(500rpm)で真空状態に排気した後、窒素を30分間パージした。この真空排気処理後、真空ポンプと窒素スパージャーへのバルブを閉鎖することによって反応器を遮断した。少量の所定の酸化物(活性化チャージという)を反応器内へ5分間かけて添加した。触媒が活性化した後(この活性化は、酸化物に起因する分圧の半減によって確認される)、所定の供給速度で該酸化物の供給を再開した。活性化チャージの添加と酸化物の供給は反応温度(130℃)でおこなった。酸化物の供給が完結した後、反応混合物は130℃での撹拌処理にさらに30分間付し、次いで、130℃での真空排気処理に付し、窒素スパージャーを用いる処理に30分間付した。冷却後、生成物を反応器から取り出した。
【0056】
半バッチ法によって得られた4種のコポリマーの性状と分析特性を以下の表2に示す。表中のMn及びMwは、ポリスチレン標準を用いるGPCによって測定した。また、表中の「PDI」はMw/Mnの値を示す。
【0057】
【表2】

【0058】
代表的なコポリマー(実施例1及び2)の表面エネルギーを測定したところ、約22dyne/cmであった。従って、これらのコポリマーは、シリコーン/PET界面活性剤の表面エネルギーと類似の表面エネルギーを有する。例えば、界面活性剤「OSI−4340」及び「OSI Y−10762」の表面張力はそれぞれ21.6dyne/cm及び22.2dyne/cmである。比較のための「ムルタノール(Multanol)−3600」(2官能性ポリプロピレングリコール)の表面張力は33.4dyne/cmである。
【0059】
CAOS法によるポリエーテル/ポリシロキサンコポリマーの合成
上記の半バッチ法の場合と同じポリエーテルポリオール製反応器を使用する以下の一般的手順に従うCAOS法によってポリエーテル−ポリジアルキルシロキサンコポリマーを合成した。CAOS法による各実施例における合成に関する詳細な事項は以下の表3に示す。
【0060】
CAOS法による試料を調製するために、各々の生成物は、表中に記載のジシラノール末端PDMS(ジェレスト社の製品)とPOを、「アクレイム4200」(4000MWの製品)又は「アクレイム2200」(2000MW製品)の「ヒール」内へ同時に供給して生成物の第1世代を形成させることによって調製した。次いで、この第1世代の生成物をヒールとして反応器内へ導入することによって第2世代のブロックコポリマー生成物を形成させた。いずれの場合も、表中に記載した種類と量のヒールを最初に反応器内へ導入し、次いで表中に記載のDMC触媒を反応器内へ導入した(表3参照)。
【0061】
反応器内の内容物を真空条件下において撹拌下(500rpm)で加熱し、窒素を130℃で30分間パージした。この真空排気後、真空ポンプと窒素スパージャーへのバルブを閉鎖することによって反応器を遮断した。表中に記載した少量の酸化物(活性化チャージという)を5分間かけて反応器内へ添加した。触媒が活性化した後(この活性化は、酸化物に起因する分圧の半減化によって確認される)、表中に記載の供給速度によって酸化物とCAOSの供給を開始した。全ての場合のCAOSの供給は、表中に記載の「ジェレスト製品」(ジシラノール末端ポリジメチルシロキサン)に関するものである。活性化チャージの添加と酸化物の供給は反応温度(130℃)でおこなった。ジシラノールは、酸化物の供給が完了する前にCAOSの供給が完了するのに十分な速度で供給し、純粋な酸化物が反応の最終段階で添加されるようにした。酸化物の供給が完了した後、反応混合物は130℃での撹拌処理にさらに30分間付し、次いで、130℃での真空排気処理に付し、窒素のパージ処理に30分間付した。冷却後、生成物を反応器から取り出した。
【0062】
【表3】

【0063】
CAOS法によって合成した生成物の詳細な特性を以下の表4に示す。
【表4】

【0064】
PET/PDMS/PETブロックコポリマーの反応性ホットメルト接着剤における使用
代表的なPET/PDMS/PETブロックコポリマーを反応性ホットメルト接着剤配合物において評価した。ホットメルト接着剤を調製するための一般的な手順を以下に説明する。各々の配合物に関する特定の詳細な事項を以下の表5に示す。
【0065】
反応性ホットメルト接着剤の対照は、機械的攪拌機と真空装置を具備した3つ口フラスコ内において、83.6部の「デスモフェンS−105−30」と5部のPPG−2000を混合することによって調製した。この混合物を110℃において真空下で3時間加熱することによって、該原料の脱気と脱水をおこなった。この混合物を85℃まで冷却した後、フレーク状固体状態の「モンジュールM」を11.2部添加した。この混合物を窒素雰囲気下で85℃〜90℃まで加熱して撹拌を2時間おこなった後、「RC6135」触媒を0.2部添加した。この触媒を添加した後、樹脂を加熱して撹拌をさらに30分間続行し、次いで、イソシアネートの含有量をn−ブチルアミン滴定法によって滴定した。
【0066】
この対照と比較するために、さらに別の配合物、即ち、PPG−2000を本発明によるPET/PDMS/PETのABA型ブロックコポリマーによって置き換えた配合物を調製した。
【0067】
【表5】

【0068】
表5に記載の接着剤配合物について、木材と種々のプラスチックとの間の接着強さ(adhesive bond strength)に関する評価をおこなった。4種の異なるプラスチック製支持体を用いた評価試験の結果を以下の表6にまとめて示す。特に注目すべき点は、実施例2による8K PET/PDMSコポリマーを用いて達成された木材と「ポカン(Pocan)」(登録商標)との間の改良された接着性である。「ポカン」(ポリブチレンテレフタレート)はその低い表面エネルギー(32 dyne/cm)に起因して、その接着は一般に困難であるからである。
【0069】
【表6】

【0070】
以上、本発明の特定の実施態様を、本発明を例証するために説明した。当業者には明らかなように、本願の特許請求の範囲によって規定される範囲を逸脱することなく、本発明の詳細な事項は多種多様に変形させてもよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の工程i)及びii)を含むポリエーテル−ポリジアルキルシロキサンブロックコポリマーの製造方法:
i)少なくとも1種のアルキレンオキシド及び少なくとも1種のシラノール−末端ポリジアルキルシロキサンを含有する混合物を供給し、次いで
ii)該混合物を、複金属シアン化物錯体触媒の存在下及び所望による非プロトン性溶剤及び/又は酸化防止剤の存在下において、重合させる。
【請求項2】
コポリマーの多分散性インデックスが1.0〜1.5である請求項1記載の方法。
【請求項3】
アルキレンオキシドが下記の群から選択される化合物又はこれらの任意の混合物である請求項1記載の方法:エチレンオキシド、プロピレンオキシド、1,2−ブチレンオキシド、2,3−ブチレンオキシド及びスチレンオキシド。
【請求項4】
シラノール−末端ポリジアルキルシロキサンが次式で表される化合物である請求項1記載の方法:
【化1】

式中、R〜Rは相互に独立してC〜Cアルキル基を示し、Rは−OH、水素原子又はC〜Cアルキル基を示し、nは0〜100整数を示す。
【請求項5】
nが3〜60の整数を示す請求項4記載の方法。
【請求項6】
シラノール−末端ポリジアルキルシロキサンが約100〜8000g/モルの分子量を有する請求項4記載の方法。
【請求項7】
シラノール−末端ポリジアルキルシロキサンが約400〜5000g/モルの分子量を有する請求項4記載の方法。
【請求項8】
重合を60℃〜150℃でおこなう請求項1記載の方法。
【請求項9】
重合を90℃〜140℃でおこなう請求項1記載の方法。
【請求項10】
シラノール−末端ポリジアルキルシロキサンとアルキレンオキシドを、これらの2成分の全量が100重量%になる量であって、1〜99重量%の前者及び残余量の後者を反応系中に存在させる請求項1記載の方法。
【請求項11】
シラノール−末端ポリジアルキルシロキサンとアルキレンオキシドを、これらの2成分の全量が100重量%になる量であって、25〜75重量%の前者及び残余量の後者を反応系中に存在させる請求項1記載の方法。
【請求項12】
触媒が、ポリアルキレングリコールとヘキサシアノコバルト酸亜鉛との錯体である請求項1記載の方法。
【請求項13】
出発原料の連続的添加法によっておこなう請求項1記載の方法。
【請求項14】
半バッチ法によっておこなう請求項1記載の方法。
【請求項15】
150〜50000g/モルの分子量及び1.0〜1.5の多分散性インデックスを有するポリエーテル−ポリジアルキルシロキサンブロックコポリマー。
【請求項16】
400〜10000g/モルの分子量を有する請求項15記載のポリエーテル−ポリジアルキルシロキサンブロックコポリマー。
【請求項17】
ポリジアルキルシロキサンの含有量が、コポリマーの重量に基づいて25〜75重量%である請求項15記載のポリエーテル−ポリジアルキルシロキサンブロックコポリマー。
【請求項18】
ポリジアルキルシロキサンがジシラノールであり、コポリマーがABA型ブロックコポリマーである請求項15記載のポリエーテル−ポリジアルキルシロキサンブロックコポリマー。
【請求項19】
ポリジアルキルシロキサンがモノシラノールであり、コポリマーがAB型ブロックコポリマーである請求項15記載のポリエーテル−ポリジアルキルシロキサンブロックコポリマー。
【請求項20】
請求項15記載のポリエーテル−ポリジアルキルシロキサンブロックコポリマーを含有する接着剤配合物。
【請求項21】
接着剤が、請求項15記載のポリエーテル−ポリジアルキルシロキサンブロックコポリマーを含有するイソシアネート末端プレポリマーである接着剤配合物。
【請求項22】
接着剤が、ポリエステルポリオール及び請求項15記載のポリエーテル−ポリジアルキルシロキサンブロックコポリマーを含有するイソシアネート末端プレポリマーである請求項20記載の接着剤配合物。
【請求項23】
請求項15記載のポリエーテル−ポリジアルキルシロキサンブロックコポリマーを含有する、表面エネルギーの低い塗料。
【請求項24】
請求項15記載のポリエーテル−ポリジアルキルシロキサンブロックコポリマーを含有する、ポリカーボネート材料用離型剤。

【公開番号】特開2008−174749(P2008−174749A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−7049(P2008−7049)
【出願日】平成20年1月16日(2008.1.16)
【出願人】(503349707)バイエル・マテリアルサイエンス・リミテッド・ライアビリティ・カンパニー (178)
【氏名又は名称原語表記】Bayer MaterialScience LLC
【Fターム(参考)】