説明

ポリオキサジアゾールポリマー複合材料の製造方法、ポリオキサジアゾールポリマー複合材料、並びにポリオキサジアゾールポリマー複合材料の使用部品

【課題】 優れた高温安定性を有するポリオキサジアゾールポリマー複合材料の簡便な製造方法とこの新たなポリオキサジアゾールポリマー複合材料とその使用部品を提供する。
【解決手段】 フィラーとポリリン酸溶液との混合溶液をガス雰囲気下にて加熱することで前記フィラーを官能化し(a)、前記(a)にて得られた混合溶液中でヒドラジンA−Aモノマーとジカルボン酸B−Bモノマーとを混合し(b)、前記(b)にて得られた混合溶液を不活性雰囲気下にて加熱し(c)、前記(c)にて得られた混合溶液中で前記ポリオキサジアゾールポリマー複合材料を沈殿させて中和させる(d)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリオキサジアゾールホモポリマー及び/又はポリオキサジアゾールコポリマーからなる複合材料の製造方法に関するものであり、この新たなポリオキサジアゾールポリマー複合材料とその使用部品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリオキサジアゾール(以下、PODとも称する)は、良好な化学的安定性、高温安定性に加え、高いガラス転移点温度を示す。ポリオキサジアゾールは、直接的な加工ができ、例えば繊維を紡いだり、コート材としたりすることが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】旧東ドイツ特許DD292919A5号明細書
【特許文献2】ドイツ特許DE2408426C2号明細書
【特許文献3】米国特許US5118781号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第2008/0014440(A1)号明細書
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】F.G.Souza et al. Journal of Applied Polymer Science 2004,93,1631−1637頁
【非特許文献2】M.Loos et al. Proceedings of the Eurofillers,ハンガリー(Zalakaros),2007,119−120頁
【非特許文献3】D.Gomes et al. Journal of Membrane Science (2008)
【非特許文献4】Doi: 10.1016/j. memsci.(2007.11.041)
【非特許文献5】D.Gomes et al. Journal of Polymer Science Part B: Polymer Phys.2006,44,2278−2298頁
【非特許文献6】Baek et al. Macromolecules 2004,37,8278−8285頁
【非特許文献7】S.−J.Oh et al. Polymer 2006,47,1132−1140頁
【非特許文献8】D.H.Wang et al. Chemical Mater. 2008,20,1502−1515頁
【非特許文献9】D.Gomes et al. Polymer 2004,45,4997−5004頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ポリオキサジアゾールは異なる複数の溶媒(溶液)中で製造(合成)される。例えば、オレウム(発煙硫酸)を1つの溶媒とした合成が知られている。オレウムは、極めて有毒かつ腐食性のある合成材料である。オレウムは、合成反応の最終形態で多量の中和物質が必要となる。オレウム中でのポリオキサジアゾールの合成としては、例えば特許文献1(DD292919A5)や特許文献2(DE2408426C2)が文献公知となっている。
【0006】
例えば航空産業用途に用いられる高機能ポリマーやポリマー材料としてポリオキサジアゾールの需要がある。とりわけ熱可塑性ポリオキサジアゾールポリマーは、その機械的特性によって、構造材料として有望視されている。このことに関して、特許文献3(US5118781A)では、ジヒドロキシビニルモノマーと芳香族ジハロゲン又は芳香族ジニトロ化合物との芳香族の求核性置換反応によって、ポリ(1,3,4−オキサジアゾール)を合成することが提言された。重合には、例えばスルホラン又はジフェノールスルホニルのような非プロトン性溶媒中で、例えばカリウム炭酸塩といったアルカリ金属塩がその温度を高くした状態で用いられる。
【0007】
非特許文献1から4には、フィラー(充填材)を加えることによって、ポリオキサジアゾールポリマー複合材料を作製したとの記述がある。
【0008】
特許文献4(US2008/0014440A1)には、ポリオキサジアゾール基質中に、非ポリオキサジアゾールポリマーの柔軟鎖を加えることによって、ポリオキサジアゾールを作製したとの記述がある。
【0009】
非特許文献1には、NMP(N−メチル−2−ピロリドン)中でのポリオキサジアゾールにカーボンブラックを分散させることで導電性のポリオキサジアゾールポリマー複合材料を作製したとの記述がある。しかし、このフィラーは官能化されていなかったので、組織塊となってしまった。そのうえ、カーボンブラックを高い含有率で伴ったポリオキサジアゾールポリマー複合材料には、不規則な破断を生じるとても不均一な組織が見られた。この不均一な組織はフィルムの安定性にとって悪影響を及ぼす。
【0010】
非特許文献2によって、上述の組織塊が官能化されたフィラーとして最初に提言された。非特許文献2によれば、2つの合成段階を経てナノサイズ複合材料が生成される。最初に、ポリリン酸(PPA)中にてカーボンナノチューブ(CNT)が酸化される。次に、別の反応工程かバッチ処理にて合成されたポリオキサジアゾール基質中に、ヒドロキシル基とカルボキシル基を含んだ官能化されたCNTが添加される。
【0011】
さらに非特許文献3や4によって、官能化されたシリコンダイオード粒子を含有したポリオキサジアゾールが提言された。非特許文献3や4によれば、2つの合成段階を経てナノサイズ複合材料が生成される。最初に、非特許文献5のように、多くの日数をかけて、モノマーとシリコンダイオード粒子による官能化されたフィラーが作製される。次に、別の反応工程かバッチ処理にて合成されたポリオキサジアゾール基質中に、上記官能化されたフィラーが添加される。
【0012】
さらに非特許文献6から8には、ポリリン酸(PPA)中にてA−Bモノマーの合成状態のままポリマー(エーテルケトン)複合材料を製造したとの記述がある。非特許文献6には、合成された複合材料が、強酸中で、従来の有機化合物よりも高い溶解度を示したとの記述がある。非特許文献7には、A−Bモノマーの重縮合状態のまま重ね合わせたカーボンナノチューブをポリエーテルケトンに接木することで複合材料を製造したとの記述がある。非特許文献8には、非プロトン性溶媒中での良好な溶解度を有する超鎖ポリマー(エーテルケトン)複合材料を製造したとの記述がある。
【0013】
このような実情に鑑みて、本発明の目的は、既存の製造法によらず、優れた高温安定性を有するポリオキサジアゾールポリマー複合材料の簡便な製造方法とこの新たなポリオキサジアゾールポリマー複合材料とその使用部品を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明のポリオキサジアゾールポリマー複合材料の製造方法は、ヒドラジン及び/又はヒドラジン誘導体からなるA−Aモノマーと、ジカルボン酸及び/又はジカルボン酸誘導体からなるB−Bモノマーとが、フィラーとポリリン酸溶液との混合溶液中で、フィラーと直接的に重縮合反応することによって、ポリオキサジアゾールのホモポリマー及び/又はコポリマーから構成されるポリオキサジアゾールポリマー複合材料を製造する製造方法であって、
前記フィラーとポリリン酸溶液との混合溶液をガス雰囲気下にて加熱することで前記フィラーを官能化するステップ(a)と、
前記ステップ(a)にて得られた混合溶液中で、前記ヒドラジン及び/又はヒドラジン誘導体のうち少なくとも1種と、前記ジカルボン酸及び/又はジカルボン酸誘導体のうち少なくとも1種とを混合するステップ(b)と、
前記ステップ(b)にて得られた混合溶液を不活性雰囲気下にて加熱するステップ(c)と、
前記ステップ(c)にて得られた混合溶液中で前記ポリオキサジアゾールポリマー複合材料を沈殿させて中和させるステップ(d)からなることを特徴とする。
【0015】
本発明の製造方法によれば、前記ポリオキサジアゾールポリマー複合材料が重縮合反応状態のまま単段階プロセスチャネル又は単段階プロセスチャンバで製造されるので、機械的特性に優れたポリオキサジアゾールポリマー複合材料となる。本発明によって、例えば優れた導電性、優れた高温安定性、優れた化学的安定性を有するメンブレンが製造される。
【0016】
前記フィラーとポリリン酸溶液との混合溶液を加熱するステップ(a)は、ガス雰囲気下にて実行され、特に窒素及び/又はアルゴンガス雰囲気下にて実行される。この窒素及び/又はアルゴンガスは、水分を含有していてもよいし、乾燥していてもよい。
【0017】
さらに、本発明の製造方法により製造された前記ポリオキサジアゾールポリマー複合材料から、繊維、フィルム、又はメンブレンが分離プロセスによって製造される。また、本発明の製造方法により製造された前記ポリオキサジアゾールポリマー複合材料から、補強材、センサ、電極、コート材、又は軽量構造材が製造され、新規な使用部品となる。
【0018】
本発明の製造方法によれば、前記単段階プロセスチャネル又は単段階プロセスチャンバで製造されたポリオキサジアゾールポリマー複合材料は、その平均分子量が、200,000ないし424,000ダルトン(Da)となる。本発明の製造方法により得られたポリオキサジアゾールポリマー複合材料は、有機溶媒に溶かすことができ、高密度フィルムや低密度フィルムとした場合に、目詰まりせず、優れた耐熱性や機械的特性を示す。本発明の製造方法により得られたポリオキサジアゾールポリマー複合材料は、温度が150℃における弾性率(引張強度)が6GPa以上ある。
【0019】
本発明の製造方法は、前記ポリオキサジアゾール連鎖に前記フィラーが官能化されることによるものであり、これによって、前記フィラーが前記ポリオキサジアゾール基質に良好に分散される。本発明の製造方法では、単段階プロセスチャネル又は単段階プロセスチャンバにて前記フィラーが官能化され、前記ポリオキサジアゾール合成反応が短時間或いは短期間で実行される。
【0020】
本発明では、前記ステップ(a)が25℃から200℃の温度範囲内で実行され、好ましくは最大180℃まで温度を上げて実行され、とりわけ160℃から180℃の温度範囲内にて実行される。
本発明によって、前記混合液中の前記フィラーが前記ポリリン酸溶液中で官能化される。
【0021】
本発明では、前記ステップ(a)が100℃から200℃の温度範囲内で実行され、好ましくは最大180℃まで温度を上げて実行され、とりわけ160℃から180℃の温度範囲内にて実行され、そして、前記ステップ(c)が最大48時間まで継続して実行され、好ましくは3時間から48時間まで継続して実行され、とりわけ3時間から16時間まで継続して実行される。
本発明の製造方法によって、前記ポリオキサジアゾールポリマー複合材料(又は前記ポリオキサジアゾールポリマー)を短時間(短期間)で製造することとなる。
【0022】
本発明では、前記ステップ(b)にて、ヒドラジン塩からなるヒドラジン、とりわけヒドラジン硫酸塩からなるヒドラジンか、それぞれの誘導体のいずれか又は両方を混合することが好ましい。
さらには、前記ステップ(b)にて、カルボキシル基を含む2つの群のジカルボン酸からなるジカルボン酸、とりわけ芳香族及び/又はヘテロ芳香族ジカルボン酸か、それぞれの誘導体のいずれか又は両方を混合することが好ましい。
前記ジカルボン酸としては、ジカルボン酸ジエステルからなるジカルボン酸、又はジカルボン酸とジカルボン酸ジエステルとを前記ステップ(b)にて混合したものが本発明の範囲に含まれる。
【0023】
本発明は、前記フィラーがカーボンナノチューブからなるもの、カーボンを分子ふるいにかけたもの、グラファイト、熱分解されたポリマー粒子、無機粒子、シリコン、アルミニウム、チタニウム、モンモリロナイト、珪酸塩、フラーレン、ゼオライト、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、ポリマーファイバー、ガラスファイバーのうちいずれか1つか、又はいずれか2つ以上で全部以下を組み合わせたフィラーのいずれかであることが好ましい。
さらには、前記混合溶液中が添加物としての架橋剤、軟化剤、膨張剤、潤滑剤、界面活性剤、表面処理剤、着色剤、顔料、蛍光剤、難燃剤、安定剤、補強繊維、接着促進剤のうちいずれか1つか、又はいずれか2つ以上で全部以下を組み合わせた添加剤のいずれかが添加されることが好ましい。
本発明によって得られた前記ポリオキサジアゾールポリマー複合材料は、要求仕様に応じて組成され、新たな使用部品や新たなデバイスに適用される。
【0024】
本発明の製造方法は、前記ポリオキサジアゾールが2つの窒素原子と1つの酸素原子からなる共役環を1つか若しくは1つ以上繰り返すポリマーを有し、このポリマーは次の構造式で表され、
【化1】

(Yは次の構造式で表され、
【化2】


Rはそれぞれ1から40の炭素原子を有する基であり、R’はそれぞれ1から40の炭素原子を有する基であり、R”は窒素原子若しくは1から40の炭素原子を有する基であり、nとmがいずれも0より大きい自然数である)、前記ポリマーを有することを特徴とする。
【0025】
本発明では、例えば前記ステップ(c)に続いて前記溶液に溶解したポリオキサジアゾール混合物を流し込みか若しくは型によって、フィルム状か若しくはファイバー状とする。
さらに好ましくは、前記ステップ(c)に続いて前記溶液に溶解したポリオキサジアゾール混合物を、流し込みによってフィルム状とするか、若しくは3本のロール及び/又はミキサーを備えたカレンダー成形機を用いてファイバー状に形成する。
前記ステップ(c)に続いて前記溶液に溶解したポリオキサジアゾール混合物を溶かした後で、流し込みによってフィルム状とするか、若しくはファイバー状に形成することが好ましい。
【0026】
本発明によって得られた前記ポリオキサジアゾールポリマー複合材料は、温度が150℃での引張強度が6GPa以上あること、分子量が少なくとも450,000ダルトンであることのうちいずれか1つ、又は両方の特性を有する。
【0027】
本発明によって得られた前記ポリオキサジアゾールポリマー複合材料は、その分子量が、少なくとも200,000ダルトン(Da)となる。本発明によって得られた前記ポリオキサジアゾールポリマー複合材料は、その平均分子量が、200,000ないし424,000ダルトン(Da)であるという計測結果であった。
【0028】
そして本発明の製造方法によって製造されたポリオキサジアゾールポリマー複合材料は、メンブレン、繊維、フィルム、補強材、センサ、電極、コート材、若しくは軽量構造材となる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、前記ポリオキサジアゾールポリマー複合材料が重縮合反応状態のまま単段階プロセスチャネル又は単段階プロセスチャンバで製造されるので、機械的特性に優れたポリオキサジアゾールポリマー複合材料となる。本発明によって、短時間(短期間)で前記ポリオキサジアゾールポリマー複合材料を製造することができ、本発明によって得られた前記ポリオキサジアゾールポリマー複合材料は、温度150℃での引張強度が6GPa以上である。そして本発明の製造方法によって製造されたポリオキサジアゾールポリマー複合材料は、メンブレン、繊維、フィルム、補強材、センサ、電極、コート材、若しくは軽量構造材となる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の製造方法によってフッ素化させたポリオキサジアゾールポリマー複合材料の反応時間と平均分子量との関係を示す図である。
【図2】本発明の製造方法によってフッ素化させたポリオキサジアゾールポリマー複合材料の走査電子顕微鏡(SEM)による観察画像であり、(a)はフッ素化させたポリオキサジアゾールポリマー原型のSEM観察画像であり、(b)は本発明の製造方法によってフッ素化させたポリオキサジアゾールポリマー複合材料のSEM観察画像である。
【図3】本発明の製造方法によってカーボンナノチューブ(CNT)を含有させたポリオキサジアゾールポリマー複合材料のラマンスペクトルであり、(a)はCNTのラマンスペクトルであり、(b)は本発明によってCNTを10%重量/容積の割合で含有させたポリオキサジアゾールポリマー複合材料のラマンスペクトルである。
【図4】本発明の製造方法によってカーボンナノチューブ(CNT)を含有させたポリオキサジアゾールポリマー複合材料の走査電子顕微鏡(SEM)による観察画像である。
【図5】本発明の製造方法によってカーボンナノチューブ(CNT)を含有させたポリオキサジアゾールポリマー複合材料からなるフィルムの動的粘弾性分析(DMTA)チャートである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施例について説明する。本発明は以下の実施例や図に限定されるものではない。また、上述の説明にてすでに明らかである事柄については、繰り返しその詳細を説明することを省略する。
【実施例】
【0032】
実施例1 フッ素化させたポリオキサジアゾールポリマー複合材料の合成
本実施例では、乾燥窒素雰囲気下にて、フラスコに最初にポリリン酸(PPA)が加えられ60℃の温度に加熱された。そして、前記ポリリン酸(PPA)に、カーボンナノチューブ(CNT)が添加され、攪拌されながら160℃の温度まで加熱され均質化された。3時間に亘って前記カーボンナノチューブ(CNT)が官能化された後、アルドリッチ(Aldrich)社製の純度が99%より高いヒドラジン硫酸塩(HS)が前記PPAとCNTとの混合溶液に加えられ混合された。前記ヒドラジン硫酸塩(HS)が前記溶液に溶かされた後、アルドリッチ(Aldrich)社製の純度が99%より高い4,4’−ジカルボキシルフェニルヘキサフルオロプロパン(HF)が加えられた。
【0033】
1モルあたりのHSに対するPPA希釈比(PPA/HS)が10に保たれるとともに、1モルあたりのHFに対するHSモノマー比(HS/HF)が1.2に保たれた。
【0034】
3ないし48時間の反応時間の後、反応溶媒が、水が5%重量/容積の割合で含まれているベテック(VETEC)社製の純度が99%の水酸化ナトリウムに注がれ、ポリマーが順に沈殿された。ゴメス(Gomes)らの非特許文献9に関連する方法で、上記のポリマー懸濁液のpHが監視された。
【0035】
NMP(N−メチル−2−ピロリドン)とDMSO(ジメチルスルホキシド)が溶かされた溶媒中でポリオキサジアゾールポリマー複合材料が97%の収率で得られた。 合成されたポリオキサジアゾールポリマー複合材料の平均分子量がSEC(サイズ排除クロマトグラフィー)によって計測され、分子量が200,000ないし280,000ダルトン(Da)の範囲内の収率が97%ないし99%であった。
【0036】
ビスコテック(Viscotek)社製のクロマトグラフ装置、ユーロゲル(Eurogel)社製のセパレーションカラムSEC10,000とPSSgram100(シリアルナンバーHC286)とPSSgram1000(シリアルナンバー1515161)を用いて、試料サイズが8x300mmのサイズでポリオキサジアゾールポリマーを計測した。装置は、平均分子量が309から944,000g/モルの範囲で、メルク(Merck)社製のポリスチレン標準体にてキャリブレーションされた。測定結果、キャリア流体として用いられたジメチルアセトアミド(DMAc)の中に0.05Mの臭化リチウムが検出された。ポリオキサジアゾールポリマー複合材料を0.5重量%で含有した溶液が予めフィルタ(0.2μm)を透過して、クロマトグラフ装置に吐出された。
【0037】
図1によれば、3時間の反応時間の直後で、すでに高い分子量に達していることがわかる。
【0038】
走査電子顕微鏡(SEM)による観察
走査電子顕微鏡(型式がLEO1550VP)によってポリオキサジアゾールポリマー複合材料の組織を観察した。試料は予め、金がコートされるか、若しくはスパッタリング装置にて金がスパッタリングされている。図2(a)はフッ素化させたポリオキサジアゾールポリマー原型のSEM観察画像であり、図2(b)は本発明の製造方法によってフッ素化させたポリオキサジアゾールポリマー複合材料のSEM観察画像である。
カーボンナノチューブ(CNT)の表面にポリマーが接木されたことで、フッ素化させたポリオキサジアゾールポリマー原型(図2(a))の高い疎水性が、減少するか、失われたことが、図2(a)(b)から読み取れる。
【0039】
実施例2 ポリオキサジアゾールポリマー複合材料の合成
本実施例では、乾燥窒素雰囲気下にて、フラスコに最初にポリリン酸(PPA)が加えられ60℃の温度に加熱された。そして、前記ポリリン酸(PPA)に、カーボンナノチューブ(CNT)が加えられ、攪拌しながら160℃の温度まで加熱され均質化された。1時間に亘って前記カーボンナノチューブ(CNT)が官能化された後、アルドリッチ(Aldrich)社製の純度が99%より高いヒドラジン硫酸塩(HS)が前記溶液に加えられ混合された。前記ヒドラジン硫酸塩(HS)が前記PPAとCNTとの混合溶液に溶かされた後、アルドリッチ(Aldrich)社製の純度が99%より高い4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸ジアジド(DPE)がフラスコに加えられた。
【0040】
1モルあたりのHSに対するPPA希釈比(PPA/HS)が10に保たれるとともに、1モルあたりのHFに対するHSモノマー比(HS/HF)が1.2に保たれた。
【0041】
3時間の反応時間の後、水が5%重量/容積の割合で含まれているベテック(VETEC)社製の純度が99%の水酸化ナトリウムに、反応溶媒が注がれ、ポリマーが順に沈殿された。ゴメス(Gomes)らの非特許文献9に関連する方法で上記のポリマー懸濁液のpHが監視された。
【0042】
NMP(N−メチル−2−ピロリドン)とDMSO(ジメチルスルホキシド)が溶かされた溶媒中でポリオキサジアゾールポリマー複合材料が97%の収率で得られた。 合成されたポリオキサジアゾールポリマー複合材料の平均分子量がSEC(サイズ排除クロマトグラフィー)によって計測され、分子量が424,000ダルトン(Da)であった。
【0043】
ラマン分光法による観察
YAGレーザ波長が1,064nmで励振させたネオジム(Nd)を用いて、FTラマン分光計(RAMII)上に、ラマンスペクトルが記録された。図3(a)はカーボンナノチューブ(CNT)のラマンスペクトルであり、図3(b)は本発明によってCNTを10%重量/容積の割合で含有させたポリオキサジアゾールポリマー複合材料のラマンスペクトルである。
図3(a)によれば、カーボンナノチューブ(CNT)のDバンドのピークが波長約1,300cm−1に現れるとともに、カーボンナノチューブのGバンドのピークが波長約1,600cm−1に現れる。これらDバンドのピークとGバンドのピークは、カーボンナノチューブ固有の欠点の特徴がグラフ上に現れたものであり、カーボンナノチューブのラマンスペクトル(図3(a))と、本発明に係るリオキサジアゾールポリマー複合材料のラマンスペクトル(図3(b))のいずれにも現れている。
【0044】
前記カーボンナノチューブ(CNT)がポリオキサジアゾールを伴って官能化された後(図3(b))、波長のピークが1,613cm−1と、1,506cm−1と、1,290cm−1と、1,168cm−1と、997cm−1に現れている。これらは、ポリオキサジアゾールの主鎖の芳香族グループの性質とみなせる。波長のピークが1,497cm−1のバンドピークは、オキサジアゾール環に基づくものである。さらに、カーボンナノチューブの第二次バンドであるG’ バンドのピークが波長2,940cm−1に現れるとともに、カーボンナノチューブの第二次バンドであるD’ バンドのピークが波長2,760cm−1に現れる。
【0045】
実施例3 フィルムの調製
本実施例のポリオキサジアゾールポリマー複合材料から作製された均質なフィルムが、4%重量/容積の濃度でDMSO(ジメチルスルホキシド)に注がれた。その後、温度が60℃の真空槽内でDMSOが24時間に亘って蒸発された。その他の残溶媒を除去するため、温度が50℃の水槽内に前記フィルムが48時間に亘って浸され、そして、温度が60℃の真空槽内で24時間に亘って真空乾燥された。最終的に出来上がったフィルムの厚みは、約70μmであった。
【0046】
図4は、本発明の製造方法によって、カーボンナノチューブ(CNT)を1重量%の割合で含有させたポリオキサジアゾールポリマー複合材料からなる密度フィルムの走査電子顕微鏡(SEM)による観察画像であり、カーボン等の組織塊ができていないことが示されている。
【0047】
高温での機械的特性の分析
動的粘弾性分析(DMTA)によって弾性率の評価を行った。動的粘弾性分析(DMTA)は、ティー・エイ・インスツルメント社(TA instrument)製のRSAIIを用いて、初期力が0.1Nで、周波数が1Hzにて、前記フィルムの引張りモードを計測した。0.05%の一定張力にて、2℃/分の温度勾配で温度を150℃から500℃まで上昇させた。
【0048】
図5は、ポリオキサジアゾールポリマーフィルム原型と、本実施例によってCNTを0.1重量%の割合で含有させたポリオキサジアゾールポリマー複合材料からなるフィルムと、本実施例によってCNTを1重量%の割合で含有させたポリオキサジアゾールポリマー複合材料からなるフィルムとの動的粘弾性分析(DMTA)チャートである。これら前記ポリオキサジアゾールポリマー複合材料からなるフィルムは、良好な温度安定性を示しており、前記ポリオキサジアゾールポリマー複合材料からなるフィルムのみならずCNTを1重量%という高い割合で含有させたポリオキサジアゾールポリマー複合材料からなるフィルムについても、150℃の温度で約6GPaという高い弾性率が示されていることが、図5の左上のプロットから明らかである。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒドラジン及び/又はヒドラジン誘導体からなるA−Aモノマーと、ジカルボン酸及び/又はジカルボン酸誘導体からなるB−Bモノマーとが、フィラーとポリリン酸溶液との混合溶液中で、フィラーと直接的に重縮合反応することによって、ポリオキサジアゾールのホモポリマー及び/又はコポリマーから構成されるポリオキサジアゾールポリマー複合材料を製造する製造方法であって、
前記フィラーとポリリン酸溶液との混合溶液をガス雰囲気下にて加熱することで前記フィラーを官能化するステップ(a)と、
前記ステップ(a)にて得られた混合溶液中で、前記ヒドラジン及び/又はヒドラジン誘導体のうち少なくとも1種と、前記ジカルボン酸及び/又はジカルボン酸誘導体のうち少なくとも1種とを混合するステップ(b)と、
前記ステップ(b)にて得られた混合溶液を不活性雰囲気下にて加熱するステップ(c)と、
前記ステップ(c)にて得られた混合溶液中で前記ポリオキサジアゾールポリマー複合材料を沈殿させて中和させるステップ(d)からなることを特徴とするポリオキサジアゾールポリマー複合材料の製造方法。
【請求項2】
前記ステップ(a)が25℃から200℃の温度範囲内で実行され、好ましくは最大180℃まで温度を上げて実行され、とりわけ160℃から180℃の温度範囲内にて実行されることを特徴とする請求項1記載のポリオキサジアゾールポリマー複合材料の製造方法。
【請求項3】
前記ステップ(c)が25℃から200℃の温度範囲内で実行され、好ましくは最大180℃まで温度を上げて実行され、とりわけ160℃から180℃の温度範囲内にて実行されることを特徴とする請求項1または2記載のポリオキサジアゾールポリマー複合材料の製造方法。
【請求項4】
前記ステップ(c)が最大48時間まで継続して実行され、好ましくは3時間から48時間まで継続して実行され、とりわけ3時間から16時間まで継続して実行されることを特徴とする請求項1ないし3のうちいずれか1項に記載のポリオキサジアゾールポリマー複合材料の製造方法。
【請求項5】
前記ステップ(b)にて、ヒドラジン塩からなるヒドラジン、とりわけヒドラジン硫酸塩からなるヒドラジンを混合することを特徴とする請求項1ないし4のうちいずれか1項に記載のポリオキサジアゾールポリマー複合材料の製造方法。
【請求項6】
前記ステップ(b)にて、カルボキシル基を含む2つの群のジカルボン酸からなるジカルボン酸、とりわけ芳香族及び/又はヘテロ芳香族ジカルボン酸か、それぞれの誘導体のいずれか又は両方を混合することを特徴とする請求項1ないし5のうちいずれか1項に記載のポリオキサジアゾールポリマー複合材料の製造方法。
【請求項7】
前記フィラーがカーボンナノチューブからなるもの、カーボンを分子ふるいにかけたもの、グラファイト、熱分解されたポリマー粒子、無機粒子、シリコン、アルミニウム、チタニウム、モンモリロナイト、珪酸塩、フラーレン、ゼオライト、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、ポリマーファイバー、ガラスファイバーのうちいずれか1つか、又はいずれか2つ以上で全部以下を組み合わせたフィラーのいずれかであることを特徴とする請求項1ないし6のうちいずれか1項に記載のポリオキサジアゾールポリマー複合材料の製造方法。
【請求項8】
前記混合溶液中に添加剤として、架橋剤、軟化剤、膨張剤、潤滑剤、界面活性剤、表面処理剤、着色剤、顔料、蛍光剤、難燃剤、安定剤、補強繊維、接着促進剤のうちいずれか1つか、又はいずれか2つ以上で全部以下を組み合わせた添加剤のいずれかが添加されることを特徴とする請求項1ないし7のうちいずれか1項に記載のポリオキサジアゾールポリマー複合材料の製造方法。
【請求項9】
前記ポリオキサジアゾールが2つの窒素原子と1つの酸素原子からなる共役環を1つか若しくは1つ以上繰り返すポリマーを有し、このポリマーは次の構造式で表され、
【化1】

(Yは次の構造式で表され、
【化2】

Rはそれぞれ1から40の炭素原子を有する基であり、R’はそれぞれ1から40の炭素原子を有する基であり、R”は窒素原子若しくは1から40の炭素原子を有する基であり、nとmがいずれも0より大きい自然数である)、前記ポリマーを有することを特徴とする請求項1ないし8のうちいずれか1項記載のポリオキサジアゾールポリマー複合材料の製造方法。
【請求項10】
前記ステップ(c)に続いて、前記溶液に溶解したポリオキサジアゾール混合物を流し込みか若しくは型によって、フィルム状か若しくはファイバー状とすることを特徴とする請求項1ないし9のうちいずれか1項に記載のポリオキサジアゾールポリマー複合材料の製造方法。
【請求項11】
前記ステップ(c)に続いて、前記溶液に溶解したポリオキサジアゾール混合物を、流し込みによってフィルム状とするか、若しくは3本のロール及び/又はミキサーを備えたカレンダー成形機を用いてファイバー状に形成することを特徴とする請求項1ないし10のうちいずれか1項に記載のポリオキサジアゾールポリマー複合材料の製造方法。
【請求項12】
前記溶液に溶解したポリオキサジアゾール混合物を溶かした後で、流し込みによってフィルム状とするか、若しくはファイバー状に形成することを特徴とする請求項1ないし11のうちいずれか1項に記載のポリオキサジアゾールポリマー複合材料の製造方法。
【請求項13】
請求項1ないし12のうちいずれか1項に記載の製造方法によって製造されたポリオキサジアゾールポリマー複合材料。
【請求項14】
前記ポリオキサジアゾールポリマー複合材料が、温度が150℃での引張強度が6GPa以上あること、分子量が少なくとも450,000ダルトンであることのうちいずれか1つ、又は両方の特性を有することを特徴とする請求項13記載のポリオキサジアゾールポリマー複合材料。
【請求項15】
請求項1ないし12のうちいずれか1項に記載の製造方法によって製造されたポリオキサジアゾールポリマー複合材料を、メンブレン、繊維、フィルム、補強材、センサ、電極、コート材、若しくは軽量構造材とすることを特徴とするポリオキサジアゾールポリマー複合材料の使用部品。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−299061(P2009−299061A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−133377(P2009−133377)
【出願日】平成21年6月2日(2009.6.2)
【出願人】(508368530)ゲーカーエスエス・フォルシュユングスツェントルウム ゲーエストハフト ゲーエムベーハー (7)
【Fターム(参考)】