ポリオレフィンおよび表面修飾カーボンナノチューブを含む、ナノコンポジットファイバーおよびフィルム
カーボンナノチューブを有機化合物で修飾するための方法が開示される。修飾カーボンナノチューブは、ポリオレフィンとの相溶性が向上した。有機修飾カーボンナノチューブとポリオレフィンとのナノコンポジットは、ファイバーおよび/またはフィルムの機械的特性および電気的特性、特に、破断伸び率および靱性が向上した、ファイバーおよびフィルムの両方を製造するために使用され得る。これらの修飾カーボンナノチューブとポリオレフィンマトリックスとのナノコンポジットはまた、新たな繊維およびフィルムのデザイン、開発および作製において形成および利用され得る。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(政府の権利)
本発明は、米国陸軍研究所助成金DAAD190010419、エネルギー省助成金DEFG0286ER45237.022およびDEFG0299ER45760、海軍研究事務所助成金N000140310932ならびにNSF助成金DMR9984102およびDMR0098104の下の政府支援によって作製された。政府は、本発明に一定の権利を有する。
【0002】
(関連出願の相互参照)
本出願は、米国仮特許出願第60/500,812号(2003年9月5日出願)の利益を主張する。米国仮特許出願第60/500,812号の内容は、本明細書中に参考として援用される。
【背景技術】
【0003】
(背景)
ポリオレフィンの物理的および/または機械的特性を向上させるための方法および技術は公知である。例えば、高圧法超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)のフィルムおよび繊維の開発が、十分に確立している。これは、独特の処理技術を使用して、最終製品における高い絡み合い密度の生成を避けることによって、達成され得る。そのような技術としては、ゲル状態でのフィルム延伸およびファイバースピニングが挙げられる。しかし、これらの方法のいくつかに対する1つの欠点は、その方法が大量の溶媒を必要とすることである。溶媒を用いる従来の熔融処理技術によって処理された場合、UHMWPE鎖は、通常、非常に高い絡み合い密度を生じ、結果として、最終製品における非常に低い延伸能力または脆性を生じる。
【0004】
単層ナノチューブ(single−wall nanotube(SWNT))、多層ナノチューブ(multi−wall nanotube(MWNT))およびカーボンナノファイバー(carbon nanofiber(CNF))を含む、カーボンナノチューブは、近年、ポリマーコミュニティにおいて大いなる注目を受けている。カーボンナノチューブおよびポリマーマトリックスを基礎とした非常に靭性なコンポジット材料を開発するための努力がなされてきている。例えば、1つの研究は、ポリビニルアルコール(PVA)/単層カーボンナノチューブ(SWNT)ナノコンポジットファイバーの非常に靭性な性能を実証した。非特許文献1。
【0005】
これらのナノ構造の材料は、それらの優れた機械的強度、優れた熱伝導性および導電性について認識されており、種々のポリマーの特性を改善するために利用され得る。
【0006】
カーボンナノファイバーは、高温反応における触媒用の支持体、熱管理、エラストマーの増強、液体および気体に対するフィルター、および保護クロスの成分としての、増強コンポジットに潜在的に有用である。カーボンまたはポリマーのナノファイバーは同様に、増強コンポジット、酵素および触媒のための基材、植物に殺虫剤を適用すること、快適さおよび保護作用が改善した繊維製品、ナノメートルスケールの寸法を有するエアロゾルまたは粒子に対する高度なフィルター、エアロゾル熱管理適用、ならびに温度および化学環境の変化に対する迅速な応答時間を有するセンサーにおける用途を見出す可能性がある。
【0007】
機械的増強の場合、カーボンナノチューブを含むポリマーナノコンポジットについて刊行された研究は、改善は、付加的なものにすぎないことを示す;上記のDaltonらによって実証されたポリビニルアルコール(PVA)/SWNTナノコンポジットファイバーの超強靭な性能の予測よりも実質的に下である。
【非特許文献1】Daltonら,「Super−tough Carbon−Nanotube Fibres」Nature(2003), 第423巻,p703
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、そのようなナノファイバーを含むコンポジットとして、増強した機械的特徴および電気的特徴が増強した(強度および難燃剤能力の増強)ナノファイバーが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(要旨)
本開示に従って、調整された長さの脂肪族リンカーがカーボンナノチューブの表面に供給結合するという独特の合成技術が、カーボンナノチューブの修飾のために開発された。表面修飾プロセスおよびその後の化合は、標準的な熔融混合装置または溶液混合装置を用いて実施され得、結果として、ポリオレフィンとの相溶性が向上した修飾カーボンナノチューブが生じる。これらの修飾カーボンナノチューブとポリオレフィンマトリックスとのナノコンポジットは、新たな繊維およびフィルムのデザイン、開発および作製において形成および利用され得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
(詳細な説明)
本開示に従って、カーボンナノチューブは、そのカーボンナノチューブと脂肪族リンカー(時には、本明細書中で「修飾因子」としても呼ばれる)とを反応させることによって機能化され得、ポリオレフィンとの相溶性を増大し得る。生じた修飾カーボンナノチューブ、特に、カーボンナノファイバー(時には、本明細書中でMCNFと呼ばれる)、修飾単層ナノチューブ(MSWNT)、および修飾多層カーボンナノチューブ(MMWNT)は、ポリオレフィンとの相溶性が増大しており、カーボンナノチューブとポリオレフィンとの組み合わせは、機械的特性および電気的特性が高まったファイバーおよびフィルムを製造するために使用され得る。
【0011】
本開示に従う用途に適切なカーボンナノチューブとしては、単層ナノチューブ(SWNT)、多層ナノチューブ(MWNT)およびカーボンナノファイバー(CHF)が挙げられ、これらは全て、当業者に公知である。1つの実施形態において、上記カーボンナノチューブは、CNFであり得る。CNFは、気相成長法によって大量生産され得、SWNTまたはMWNTよりも安価であり得る。CNFは、非常に高度に異方性の形状(平均直径が50〜200nm)を有し、従来のカーボンファイバーのサイズ(7〜10μm)とSWNTのサイズ(数nm)およびMWNTのサイズ(数十nm)との間のギャップを埋める。CNFは、多数の供給業者(例えば、Pyrograf Products,Inc.(Cedarville,Ohio)が挙げられる)から市販されている。
【0012】
1つの実施形態では、カーボンナノファイバー、SWNTまたはMWNTの修飾を高めるために、表面酸性基(カルボン酸およびヒドロキシル)は、強酸との酸化反応によってカーボンナノチューブ上に生成される。表面酸性基を生成させることにおける使用に適切な強酸としては、塩素酸カリウム、過塩素酸カリウム、硫酸、塩酸、ならびにそれらの組み合わせおよびそれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されない。ナノファイバーは、約0℃〜約100℃の範囲の温度(約20℃〜約60℃の温度が好ましい)でこの酸処理に供される。この酸化工程は、CNFまたはMWNTの側壁にカルボン酸(−COOH)部分またはスルホン酸(−OSO3OH)部分を生成し、酸化CNFまたは酸化MWNTを形成する。
【0013】
1つの実施形態では、塩素酸カリウム/硫酸溶液が利用され得、カーボンナノチューブ(例えば、CNF)上に表面酸性基を生成し得る。所望の場合、酸化CNFの表面上のカルボン酸基の量は、当業者に公知の方法(NaHCO3溶液を使用する滴定による方法を含む)で決定され得る。
【0014】
一旦表面酸性基がCNF上に生成されると、いくつかの実施形態では、重合阻害因子が添加され得、そしてそのCNFに結合し得る。適切な重合阻害因子は当業者に公知であり、それらとしては、1−(ベンジルオキシ)−2−フェニル−2−(2’,2’,6’,6’−テトラメチル−1’−ピペリジニルオキシ)エタン(TEMPO−エステル)、および1−ヒドロキシ−2−フェニル−2−(2’,2’,6’,6’−テトラメチル−1’−ピペリジニルオキシ)エタン(TEMPO−アルコール)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0015】
いくつかの実施形態では、従来の触媒(例えば、トリエチルアミン(TEA))もまた、約20℃〜約90℃の範囲の温度、好ましくは約70℃〜約80℃の範囲の温度で、約1時間〜約5日間の範囲の期間、より好ましくは約1日間〜約3日間の範囲の期間にわたって、添加され得る。
【0016】
次いで、上記反応混合物は、好ましくは水、テトラヒドロフラン(THF)または水とテトラヒドロフランとの混合物で洗浄され得、そして適切な温度、好ましくは約20℃〜約90℃の範囲の温度、より好ましくは約65℃〜約75℃の範囲の温度において減圧下で乾燥され得る。
【0017】
生じた開始因子結合CNFは、次いで、修飾因子、すなわち、それらの化学組成がナノコンポジット中のポリオレフィン成分と相溶するリンカー(例えば、ポリオレフィンに対する脂肪族炭化水素リンカー)と重合が可能となり、修飾CNF(MCNF)を生成し得る。アルケン、好ましくはビニルベースのアルケン(例えば、イソプレン、ブタジエン、イソブタジエンまたはそれらの混合物)は、修飾因子として利用され得、約0.5:600、より好ましくは約1:480の範囲の開始因子:修飾因子のモル比で開始因子結合CNFと混合される。上記混合物は、約90℃〜約180℃の範囲の温度、好ましくは約110℃〜約150℃の範囲の温度にまで、約5時間〜約15時間の範囲の時間、より好ましくは約8時間〜約12時間の範囲の時間にわたって、加熱され得る。重合後、生じたグラフト化CNFは、メタノールで洗浄され得、そして適切な温度、好ましくは約50℃〜約100℃の範囲の温度、より好ましくは約65℃〜約75℃の範囲の温度において減圧下で乾燥され得る。
【0018】
MCNF(グラフト化CNFとも呼ばれる)は、次いで、キシレンのような適切な溶媒中に導入され得る。当業者に公知の架橋剤(例えば、p−トルエンスルホニルヒドラジド、トリ−n−プロピルアミン、およびそれらの混合物)は、上記グラフト化CNFを含む溶液混合物に添加され得る。その混合物は、約100℃〜約180℃の範囲の温度、より好ましくは約120℃〜約160℃の範囲の温度で還流まで、約2〜約6時間の範囲の時間、より好ましくは約3〜約5時間の範囲の時間にわたって、加熱される。次いで、その溶液は濾過され得、脱イオン水およびメタノールで洗浄され得、そして約70℃〜約110℃の範囲の温度、より好ましくは約80℃〜約100℃の範囲の温度において減圧下で乾燥され得る。
【0019】
上記MCNFを生成するためのカーボンナノファイバーの修飾スキームは、このように、以下に要約され得る:
【0020】
【化1】
別の実施形態では、本開示のMCNFは、上記のようにカーボンナノファイバー(CNF)上に表面酸性基(カルボン酸およびヒドロキシル)を生成することによって調製され得る。上記に記載されたものと同じ強酸が表面酸性基を生成するために使用され得、従って、上記のように酸化CNFが生成する。その強酸としては、塩素酸カリウム、過塩素酸カリウム、硫酸、塩酸、ならびにそれらの組み合わせおよびそれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されない。1つの実施形態では、塩素酸カリウム/硫酸溶液が、カーボンナノファイバー上に表面酸性基を生成するために利用され得る。
【0021】
次いで、酸化CNFは、修飾因子、すなわち、ナノコンポジットのポリオレフィン成分と相溶性の化学組成を有するリンカー中に分散され得る。UHMWPEについては、脂肪族リンカーは、結合炭化水素をカーボンナノファイバーまたはカーボンナノチューブの長軸に平行に配向させ得る、アミン(例えば、オクチルアミン、デシルアミン、ドデシルアミン、ヘキサデシルアミン、オクタデシルアミン)またはアミン末端化分枝炭化水素鎖を含み得る。上記アミンの混合物および/または組み合わせもまた、いくつかの実施形態で利用され得る。1つの実施形態では、酸化CNFはオクタデシルアミン中に分散され得る。
【0022】
特に有用な実施形態では、酸化CNFおよびアミンは、約100℃〜約300℃の範囲の温度、好ましくは約150℃〜約250℃の範囲の温度、より好ましくは約180℃〜約200℃の範囲の温度にまで加熱され得る。いくつかの実施形態では、上記酸化CNFおよびアミンは、不活性雰囲気下(例えば、窒素)で維持され得る。酸化CNFとアミンとの間の反応は、約12〜約30時間の範囲の時間、好ましくは約15〜約25時間の範囲の時間、より好ましくは約18〜約22時間の範囲の時間にわたって、起こり得る。
【0023】
上記反応が起こった後、生じた懸濁液は、濾過され得、溶媒(例えば、テトラヒドロフラン(THF)、水、ヘキサン、それらの混合物)または別々の工程において異なる溶媒で洗浄され得る。洗浄の後、回収した物質は続いて減圧下で乾燥され得、MCNFを得ることができる。いくつかの実施形態では、上記乾燥工程は、約50℃〜約90℃の範囲の温度、好ましくは約60℃〜約80℃の範囲の温度で起こり得る。所望の場合、CNFの修飾の程度は、当業者に公知の方法(例えば、ラマン分光法、熱重量分析(TGA)、赤外分光法および核磁気共鳴分光法(NMR))を使用して確認され得る。
【0024】
本開示の修飾カーボンナノファイバーは、ポリオレフィンとの相溶性が増大しており、一旦調製されると、分子レベル、すなわち、単一ファイバーレベルまたは単一チューブレベルでポリオレフィン中に分散され得、ナノコンポジット混合物を生成し得る。本開示のナノコンポジットを生成することにおける使用に適切なポリオレフィンとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレンコポリマーおよび超高分子量ポリエチレン (UHMWPE)が挙げられるが、これらに限定されない。使用され得るほかのポリオレフィンとしては、高圧法低密度ポリエチレン(LDPE);直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE);直鎖状中密度ポリエチレン;高密度ポリエチレン(HDPE);および修飾ポリエチレンが挙げられる。
【0025】
ポリオレフィン/修飾カーボンナノファイバーのナノコンポジットは、当業者に公知の方法によって作製され得る。特にアルケンが修飾因子として使用される1つの実施形態では、修飾カーボンナノファイバーナノコンポジットは、二工程手順によって生成され得る。この二工程手順は、溶液ブレンド工程、その後の熔融ブレンド工程を包含する。そのような場合、ポリオレフィンは、最初に、溶液ブレンドプロセスで修飾カーボンナノファイバーとブレンドされ得、それによって、修飾カーボンナノファイバーは、適切な溶媒(例えば、キシレンまたは低分子量パラフィン(例えばデカリン))中でポリオレフィンとブレンドされ、次いで冷メタノール中で沈殿される。上記溶液ブレンド工程について、従来のブレンドデバイス(例えば、Henschel(登録商標)ミキサー)または浸漬デバイス(例えば、シンプルドラムタンブラー)が使用され得る。第2の工程において、乾燥された沈殿物は、熔融ブレンドされ得、本開示のナノコンポジットを形成し得る。熔融ブレンド工程について、上記混合物は、その混合物を撹拌しながら熔融するまで加熱され得、次いでナノコンポジットを冷却する。
【0026】
熔融ブレンド方法で使用される機器の例としては、同時回転エクストルーダーおよびカウンター回転エクストルーダー、ディスクパックプロセッサならびに他の一般的に使用される押出し機器が挙げられる。使用され得る他の器具としては、ロールミル、二軸スクリュー練りエクストルーダー、すなわちBanbury(登録商標)ミキサーもしくはBrabender(登録商標)ミキサーが挙げられる。1つの実施形態では、熔融ブレンドは、乾燥沈殿物をDACAツインスクリューマイクロコンポウンダー中に、190℃で3分間、IRGANOX 3114(Ciba Specialty Chemicals (Tarrytown,NY)から市販されている)のような抗酸化剤の存在化で導入することによって達成され得る。当業者に公知の他の抗酸化剤もまた使用され得、これらとしては、例えば、ETHANOX(登録商標)抗酸化剤(Albemarle Corp.,Baton Rouge,LAから市販されている);BNX(登録商標)DLTDP抗酸化剤(Mayzo Inc.,Norcross,GAから市販されている)が挙げられる。
【0027】
特にアルケンが修飾因子として使用される別の実施形態では、ポリオレフィンと修飾カーボンナノコンポジットとの溶液ブレンド工程は、一工程プロセスで起こり得、MCNFを形成し得る。そのような場合、修飾カーボンナノファイバーおよびポリオレフィンは、約60℃〜約170℃の範囲の温度、代表的には約120℃〜約140℃の範囲の温度で、低分子量パラフィンオイルまたはパラフィン熔融物のような類似の材料中に導入され得、そして生じたナノコンポジットは、その後、冷メタノール中で沈殿され得る。
【0028】
特にアミンが修飾因子として使用される、さらに別の実施形態では、MCNFは、デカリン、低分子量パラフィンオイルまたはキシレンに添加され得、室温での超音波振動下で均一な懸濁液を形成し得る。デカリン懸濁液中のMCNFの量は、懸濁液全体の約0.05重量%〜約20重量%、より代表的には懸濁液全体の約1重量%〜約10重量%の範囲であり得る。
【0029】
UHMWPEのようなポリオレフィンは、別々の量のデカリン、低分子量パラフィンオイルまたはキシレンに添加され得、UHMWPE溶液を形成し得る。デカリンに添加されてこの溶液を形成するUHMWPEの量は、溶液全体の約0.1重量%〜約15重量%、より代表的には溶液全体の約0.5重量%〜約10重量%の範囲であり得る。
【0030】
次いで、MCNF/デカリン懸濁液およびUHMWPE/デカリン溶液は、合わせられて混合物を形成し得る。いくつかの実施形態では、その混合物は、約60℃〜約170℃、代表的には約100℃〜約150℃、より代表的には約130℃〜約140℃の範囲の温度にまで、約30分〜約300分間、代表的には約80分〜約100分間の範囲の時間にわたって、激しい撹拌下で加熱され得、均質な懸濁液を形成し得る。次いで、その混合物は室温まで冷却されることが可能となり、この時点で、デカリンがその懸濁液から抽出され得る。
【0031】
次いで、MNCF/UHMWPEは、当業者に公知の手段を使用して、3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ)フェニルプロパネート(またはETHANOX(登録商標)抗酸化剤、BNX(登録商標)DLTDPのような当業者に公知の他の抗酸化剤)のような抗酸化剤と熔融混合され得る。抗酸化剤の量は、UHMWPEの量を基礎として約0.1重量%〜約2重量%、代表的にはUHMWPEの量を基礎として約0.3重量%〜約1重量%の範囲であり得る。1つの実施形態では、3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ)フェニルプロパネートが、抗酸化剤として、UHMWPEの量を基礎として約0.5重量%の量で使用され、そして(例えば、DACA Instrumentsから市販されている)ツインスクリューブレンダーを使用してMNCF/UHMWPEと合わせられる。その混合工程は、約1分〜約15分間、好ましくは約2.5分〜約10分間、より好ましくは約4分〜約6分間の範囲の時間にわたって行われ得る。その混合工程は、熱分解を防ぐために、約100℃〜約200℃の範囲の温度、代表的には約150℃〜約190℃の範囲の温度、より代表的には約160℃〜約180℃の範囲の温度で行われ得る。
【0032】
本開示のナノコンポジットは、約0.01重量%〜約30重量%のMCNF、代表的には約0.05重量%〜約15重量%のMCNF、より代表的には約0.1重量%〜約5重量%のMCNFを含み得る。従って、本開示のナノコンポジットは、約99.99重量%〜約70重量%のポリオレフィン、代表的には約99.95重量%〜約85重量%のポリオレフィン、より代表的には約99.9重量%〜約95重量%のポリオレフィンを含み得る。
【0033】
次いで、生じたナノコンポジットは、市販の機器および技術を使用してファイバーまたはフィルムを形成するために使用され得る。そのナノコンポジットは、修飾カーボンナノファイバーの整列のための単軸/二軸延伸工程をしながらか、またはそれをせずに、ファイバー形態に熔融紡糸もしくはゲル紡糸をされるか、またはフィルム形態に熔融キャストもしくはゲルキャストされるかのいずれかであり得る。これは、修飾カーボンナノチューブに対する応力を最小にし、機械的特性および電気的特性の改善ならびに難燃特性の改善をもたらす。
【0034】
1つの実施形態では、本開示のナノコンポジットは、Ranら,「In−Situ Synchrotron SAXS/WAXD of Melt Spinning of Modified Carbon Nanofiber and Polypropylene Nanocomposite」, ACS PMSE, 89,735−736 (2003)(この内容は、本明細書中に参考として援用される)に示されるプロセスに従ってファイバーに紡糸され得る。
【0035】
別の実施形態では、本開示のナノコンポジットは、当業者に公知の技術を使用してフィルムに形成され得る。フィルムを形成するために適切な方法としては、押出し成形、熔融プレス、ブロー成形、射出成形、および/または熱成形が挙げられるが、これらに限定されない。
【0036】
1つの実施形態では、フィルムは、熔融プレス方法を使用して、約100℃〜約210℃の範囲の温度、代表的には約140℃〜約200℃の範囲の温度、より代表的には約170℃〜約190℃の範囲の温度にまで、MCNF/UHMWPEナノコンポジットを加熱して、そのフィルムを、約0.5MPa〜約10MPa、代表的には約1.0MPa〜約5.0MPa、より代表的には約1.5MPa〜約2.5MPaの範囲の圧力でプレスに配置することによって、形成され得る。上記ナノコンポジットは、この圧力下で、約1分〜約30分間、代表的には約3分〜約10分間、より代表的には約4分〜約6分間の範囲の時間にわたって、上記プレス中に保持され得、次いで、氷水のような適切な物質でクエンチされる。生じたフィルムは、約0.05mm〜約2.5mm、代表的には約0.1mm〜約1.0mm、より代表的には約0.15mm〜約0.5mmの範囲の厚さを有し得る。
【0037】
いずれの理論に束縛されることを望むことなく、本開示のMCNFがUHMWPEのようなポリオレフィンと合わせられる場合、MCNF表面上のオリゴマー炭化水素層の存在は、MCNFの近くの長鎖UHMWPEを可塑化し得、従って、延伸下での界面の流れ、および本開示のナノコンポジットの破断伸び率の増大がもたらされることが考えられる。
【0038】
上記開示は、本開示のナノコンポジットを生成するために、カーボンナノファイバーの修飾およびそれらとポリオレフィンマトリックスとの組み合わせに取り組んでいるが、SWNTおよびMWNTを含む他のカーボンナノチューブもまた、上記の本開示の方法を使用して修飾され得、そして上記のポリオレフィンマトリックスと合わせられ得、本開示のナノコンポジットを生成し得る。
【0039】
以下の非限定的な実施例は、本明細書中に記載される方法およびナノコンポジットを例示するために提供される。
【実施例】
【0040】
本開示のナノコンポジットファイバーを、以下の材料を使用してポリオレフィンマトリックスおよびCNFから調製した。アイソタクチックポリプロピレン(iPP)ペレットは、Exxon−Mobil Companyより提供された実験用樹脂であり、約350,000g/molの重量平均分子量を有する。超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)粉末は、Basell,USAから得られ、約5,000,000g/molの分子量および9.0を超える多分散性を有する。カーボンナノファイバー(CNF,PR−24−HHT)を、Pyrograf Products,Inc.から得、これは、いずれの非炭素物質を除去するのに厳しい熱処理を行った。入手時のCNFの代表的な形態は、70nmの平均直径および50〜100μmの長さを有した。そのCNFを洗浄し、そのようにして、この研究ではさらなる精製手順を行わなかった。
【0041】
全ての試薬は、Aldrich,Acrosから購入し、溶媒は、Fisher Scientificから購入した。スチレンおよびトリエチルアミン(TEA)をCaH2から蒸留した。テトラヒドロフラン(THF)を窒素下でナトリウムによって乾燥した。他の試薬は、精製することなく使用した。フラッシュクロマトグラフィー用のシリカゲルは、Merckグレード60(70−230)であった。重合開始剤1−(ベンジルオキシ)−2−フェニル−2−(2’,2’,6’,6’−テトラメチル−1’−ピペリジニルオキシ)エタン(TEMPO−エステル)および1−ヒドロキシ−2−フェニル−2−(2’,2’,6’,6’−テトラメチル−1’−ピペリジニルオキシ)エタン(TEMPO−アルコール)は、当業者に公知の手順に従って合成した。
【0042】
(実施例1)
カーボンナノファイバー上の酸基の生成。表面酸性基(カルボン酸およびヒドロキシル)を、室温における過塩素酸カリウム/硫酸溶液(例えば、KClO3溶液(2gのKClO3/100mlの濃H2SO4)中2gのカーボンナノファイバー)での酸化反応によってカーボンナノファイバー上に生成させた。そのカーボンナノファイバー懸濁液を、0.2μm膜で濾過し、そして脱イオン水およびメタノールで洗浄した。濾過した酸化ナノファイバーを、減圧下70℃で乾燥させた。
【0043】
(実施例2)
カーボンナノファイバー表面へのラジカル開始因子の付加。実施例1からの酸化CNFを、塩化チオニル中で24時間65℃において還流し、次いで、塩化チオニルを蒸留によって除去した。乾燥した塩化アシルCNFを、触媒としてTEAを使用して、75℃において2日間、乾燥THF中でTEMPO−アルコールと反応させた。その反応混合物を水およびTHFで洗浄し、減圧下70℃で乾燥させて開始因子付加CNFを残した。
【0044】
(実施例3)
表面フリーラジカル重合。実施例2で生成した開始因子付加CNFを、イソプレンと混合した(開始因子:イソプレンのモル比は、約1:480であった)。この混合物を130℃で10時間加熱した。重合後、修飾CNFをメタノールで洗浄し、減圧下70℃で乾燥した。
【0045】
(実施例4)
グラフト化ポリマーの還元。実施例3の修飾CNFをキシレン中に分散した。p−トルエンスルホニルヒドラジドおよびトリ−n−プロピルアミンをその溶液混合物に添加した。その混合物を、還流まで140℃で4時間加熱した。その溶液を濾過し、脱イオン水およびメタノールで洗浄し、そして減圧下90℃で乾燥させた。
【0046】
(実施例5)
ナノコンポジットの調製。均質なiPP/修飾カーボンナノファイバーナノコンポジットを得るために、二工程手順を使用して、iPPと実施例4から得られた修飾カーボンナノファイバーとをブレンドした。第一工程は溶液ブレンド工程であり、ここで、5重量%、20重量%および50重量%の修飾カーボンナノファイバーを、キシレン中、130℃でiPPとブレンドし、次いで、冷メタノール中で沈殿させた。次いで、乾燥させた沈殿物を熔融ブレンドし、抗酸化剤IRGANOX 3114の存在下、190℃で3分間、DACAツインスクリューマイクロコンパウンダーによってコンポジットを形成した。
【0047】
類似の一工程プロセスもまた、UHMWPE/修飾カーボンナノコンポジットを調製するために使用した。パラフィンオイル中、130℃で、5重量%、20重量%および50重量%の修飾カーボンとUHMWPEとの溶液ブレンド工程を行い、ナノコンポジットサンプルを冷メタノール中で沈殿させた。
【0048】
(実施例6)
ナノコンポジットファイバー紡糸。iPP/修飾カーボンナノファイバー(MCNF)ナノコンポジットファイバーを生成するために、熔融紡糸プロセスを使用した。このプロセスを、特注の紡糸装置を使用して行った。この装置において、キャピラリーレオメーター様バレルを頂部プラットホーム上に配置し、これは、約350℃という上限温度能力を有するポリマーコンポジット熔融物を保持した。モーター駆動プランジャを使用して、ポリマーコンポジット熔融物を押出し成形した。調整可能な速度制御を有する巻き取りホイールは、紡糸延伸倍率(SDR)を変化させる手段を提供した。このSDRは、繊維巻取り速度 対 スピナレット出口での押出し速度の比と定義される。iPP/修飾カーボンナノファイバーナノコンポジットの熔融押出し成形温度は、195℃に設定した。
【0049】
上記ナノコンポジットファイバーの走査電子顕微鏡写真を得た。図1に示すナノコンポジットファイバーの断面のSEM写真は、MCNFが、束ではなく主に単一ファイバーとして分散されたことを明確に示し、このことは、表面修飾が成功したことを示している。
【0050】
UHMWPE/修飾カーボンナノファイバーナノコンポジットファイバーのゲル紡糸プロセスを、同じ特注の紡糸装置を使用して行った。パラフィンオイル中の異なる組成比のUHMWPE/修飾カーボンナノファイバーナノコンポジットの5重量%ゲル溶液を、この研究のために調製した。ゲル紡糸温度は130℃に設定した。
【0051】
(実施例7)
カーボンナノファイバー上の酸基の生成。カーボンナノファイバー(PR−24−HHT)を、さらなる精製をすることなくPyrograf Products,Inc.から入手した。入手時のCNFサンプルを熱的に処理して、非炭素物質を除去し、そしてこれは100nmの平均直径および50〜100μmの長さを有した。入手時のCNFサンプルのSEM写真を図3として提供する。そのCNFの表面修飾を以下の通り行った。カーボンナノファイバー(CNF)上の表面酸性基(カルボン酸およびヒドロキシル)を、米国特許5,611,964号(この内容は、本明細書中に参考として援用される)に示される一般的な反応スキームに従って、塩素酸カリウム/硫酸溶液を使用する酸化反応によって生成した。
【0052】
酸化CNFの表面上のカルボン酸基の量を、Huら,「Determination of the Acidic Sites of Purified Single−wall Carbon Nanotubes by Acid−base Titration」Chem.Phys.Lett.(2001),第345巻,25−28頁に示される一般的な手順に従って、NaHCO3溶液を使用する滴定により決定した。代表的に、4日間の酸化後、CNF表面上のカルボン酸値は、0.76mmol/(g CNF)であり、これは、バルクの、CNF中の炭素109個ごとに、グラフト化/修飾され得たカルボン酸基を1個有したレベルに対応する。酸化CNFのいくつかを取り出し、以下により詳細に記載する比較目的のために利用した。
【0053】
(実施例8)
酸化CNFのオクタデシルアミンでの修飾。実施例7からの酸化CNFを、(18個の炭素を有する)オクタデシルアミン中に分散し、これを、窒素下で20時間、180〜200℃で維持した。生じた懸濁液を濾過し、THFで洗浄し、ついでヘキサンで洗浄し、続いて減圧下70℃で乾燥させた。
【0054】
(実施例9)
カーボンナノファイバーの修飾の程度を、ラマン分光法および熱重力測定分析(TGA)を用いて、実施例7で記載した入手時のCNFと、実施例7で生成した酸化CNFと、実施例8で生成したMCNFとを比較することによって確認した。入手時のCNF、酸化CNFおよびMCNFのラマンスペクトルを、500mw、785nm HPNIR785レーザーを備えるRenishaw 2000分光計(Renishaw Inc.,U.K.)を使用して収集した。CNF、酸化CNFおよびMCNFのIGAスキャンを、Perkin−Elmer Inc.からのTGA7を使用することによって、20℃/分で収集した。
【0055】
CNF、酸化CNFおよびMCNFのラマンスペクトルを、図2Aに示す。ラマンスペクトルにおいて、比(ID/IG)は、黒鉛系における結晶の規則性の尺度としてとり得る。この黒鉛系では、IDは、1355cm−1における不規則バンド(D−バンド)強度を表し、IGは、1590cm−1における黒鉛バンド(G−バンド)強度を表す。小さなID/IG比は、表面上で、欠陥が少ないこと、小さな不定形炭素、および黒鉛規則性が高いことを示す。酸化の後、ID/IG比は、入手時のCNFについての0.73から酸化CNFについての1.3と増加したことが見出され、これは、CNF表面上の黒鉛の結晶の規則性が減少したことを示している。MCNFのID/IG比は1.4であり、このことは、アミド化反応はCNF表面を顕著に変化させなかったことを示す。
【0056】
CNF、酸化CNFおよびMCNFのTGAスキャンを、表2Bに示す。入手時のCNFは、酸化CNFおよびMCNFよりも高い熱安定性を示した。MCNFについて、300℃〜400℃の範囲の明確な重量損失は、オクタデシルアミド分子の分解に対応し、ここで、酸化CNFとMCNFとの間の重量差は約5%であった。このデータにより、MCNF表面上のカルボキシル酸基の約30%のみが、オクタデシルアミド基に変換された(すなわち、カルボン酸基の70%はオクタデシルアミンでグラフト化しなかった)ことが示された。
【0057】
(実施例10)
ナノコンポジットフィルムの調製。3つのナノコンポジットサンプルを、UHMWPEと実施例8で生成した変量のMCNFとを合わせることによって調製した。その結果、生じたナノコンポジットは、それぞれ、0.2重量%および5重量%の量のMCNFを有した。
【0058】
実施例8で生成したMCNF(または実施例7からの酸化CNF)を、最初にデカリンに添加し、室温での超音波振動下で均一な懸濁液を形成した。同時に、ポリオレフィン溶液を、デカリンとBasell,USAにより提供されたUHMWPE(1900H)(これは、6×106g/molの重量平均分子量(Mw)および約9の多分散性を有した)とを合わせることによって調製し、1重量% UHMWPE/デカリン溶液を得た。続いて、MCNF懸濁液を、1重量% UHMWPE/デカリン溶液に添加し、次いで、生じたMCNF/UHMWPE/デカリン混合物を、90分間、激しい撹拌下で130〜140℃にまで加熱し、均質な懸濁液を形成した。室温に冷却する際、デカリンを懸濁液から抽出した。次いで、サンプルを、熱分解を防ぐために170℃で5分間、ツインスクリューブレンダー(DACA Instruments)を使用して、(UHMWPEの量を基礎として)0.5重量%の抗酸化剤、3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ)フェニルプロパネートと熔融混合した。回収したサンプルを一定重量まで60℃オーブン中で乾燥させた。
【0059】
比較目的のために、実施例7から得た(しかしさらなる修飾はしていない)酸化CNFを0.2重量%有する、ナノコンポジット酸化CNF/UHMWPEサンプルもまた、同じ手順を使用して調製した。さらに、MCNFが添加されていない(従って0% MCNF)UHMWPEもまた、比較のために使用した。
【0060】
次いで、MCNF/UHMWPE、酸化CNF/UHMWPEおよび未処理UHMWPEのサンプルを、以下のプレス条件に従って平らなフィルム(約0.2mmの厚さを有する)に熔融プレスした。温度は180℃であり、圧力は2.1MPaであり、そして保持時間は5分間であって、その後氷水でクエンチした。
【0061】
(実施例11:ナノコンポジットフィルム分析)
SEM分析。実施例10で生成したフィルムの表面および断面図を、LEO 1550(LEO,USA)を使用して走査電子顕微鏡(SEM)によって検査した。ファイバーの断面図を、液体窒素中でナノコンポジットフィルムを破砕することによって得た。入手時のCNFサンプルの代表的なSEM写真を図3に提供する;5重量% MCNFを有するMCNF/UHMWPEナノコンポジットフィルムの断面の代表的なSEM写真を、図4に提供する。
【0062】
両方のナノコンポジットにおいて、たとえMCNF含量が5重量%に増加しても、UHMWPE中へのMCNFの分散(0.2重量%および5重量%)は、非常に良好であった。例えば、5重量%のMCNFを含む極低温で破砕したナノコンポジットフィルムSEM検査は、UHMWPEマトリックスにおいていかなるMCNF凝集のサインを示さず、MCNFとUHMWPEとの間の界面接着が良好であることを見出した(図4を参照のこと)。
【0063】
DSC分析。示差走査熱量測定(DSC)を、実施例10のナノコンポジットMCNF/UHMWPEフィルムおよび未処理UHMWPEフィルム(0% MCNF)に対して、TA Instrument DSC 7を使用して行った。全てのサンプルを、窒素気流下で、10℃/分で最大200℃にまで加熱し、次いで、同じ速度で冷却した。各サンプルにおける結晶化度の程度を、完全なPE結晶(100%の結晶化度)についての融解熱は290J/gに等しいと仮定して、測定した融解熱(ΔHf)を使用して計算した。MCNFの重量が計算に含まれなかった場合、さらなる融解熱測定を行った。DSC測定の結果を、以下の表1に示す。
【0064】
(表1:DSCによって決定したUHMWPEおよびMCNF/UHMWPEナノコンポジットフィルムの熔融温度および結晶化度)
【0065】
【表1】
WAXDおよびSAXS分析。インサイチュ広角X線回折(WAXD)および小角度X線散乱(SAXS)実験を、National Synchrotron Light Source (NSLS)におけるAdvanced Polymers Beamline(X27C),Brookhaven National Laboratory(BNL)を使用してフィルムに対して行った。試験したサンプルには、上記の実施例10で生成したMCNF/UHMWPEコンポジットフィルムおよび酸化CNF/UHMWPEコンポジットフィルム、ならびに実施例10で記載した未処理UHMWPEフィルム(0% MCNF)が含まれた。
【0066】
X27Cビームラインの実験設定の詳細は、Chuら,「Small Angle X−ray Scattering of Polymers」,Chemical Reviews,(2001),第101(6)巻,1727頁(この内容は、本明細書中に参考として援用される)によって報告されている。使用した波長は0.1366nmであった。3ピンホールコリメーションシステムを使用して、ダブル多層モノクロメーターからの入射ビームを規定した。WAXDについてのサンプル−検出器の距離は117.8mmであり、SAXSについてのサンプル−検出器の距離は1189.8mmであった。MAR−CCD(MAR USA,Inc.)二次元X線検出器を、実時間データ収集のために使用した。代表的な画像収集時間は、1イメージあたり15秒間であった。
【0067】
各サンプルを、改造Instron 4442引張り試験機を使用して単一軸方向に引張り、ここで、対称的な変形を行った。Instronジョーの間の初期の長さは10mmであった。
【0068】
実験を、環境チャンバを使用して、室温と高温(118℃)との両方で行った。選択した引張り速度は0.5mm/分であった。結晶化度の変化を、WAXDパターンから見積もった。この計算において、2Dパターンは、最初にFraser修正をされ、各々選択された強い結晶反射についてのピーク面積および無定形バックグラウンドを、Ranら,「Mesophase as the Precursor for Strain−Induced Crystallization in Amorphous Poly (ethylene terephthalate) Film」Macromolecules,(2002),第35巻,10102頁(この内容は、本明細書中に参考として援用される)に記載されるように、2D曲線回帰プログラムによって抽出した。結晶化度を、合計結晶ピーク面積 対 合計回折面積(結晶ピーク面積と無定形バックグラウンド面積とを組み合わせた)の比として計算した。
【0069】
SAXS分析において、合計積分強度もまた、Ran(前出)に記載したような特注のプログラムを使用して計算し、これは、散乱不変量に比例した。
【0070】
そのままのUHMWPE、酸化CNF/UHMWPEおよびMCNF/UHMWPE(0.2重量%および5重量%MCNFを有する)フィルムの応力−歪み曲線を、図5に示す。これらのサンプルの初期モジュライはほぼ同じであったが、MCNF/UHMWPEナノコンポジットフィルム(すなわち、0.2重量%および5重量%MCNFを有する)の両方は、破断伸び率の顕著な増大を示した(そのままのUHMWPEの破断伸び率の約10倍より大きく増大)。0.2重量%酸化CNFフィルムもまた、破断伸び率の増大を示した(そのままのUHMWPEの破断伸び率の約2倍より大きく増大)が、MCNF/UHMWPEナノコンポジットの破断伸び率よりも実質的に小さかった。0.2重量%MCNFサンプルは、破断伸び率の最大値および最大(ultimo)引張り強さを示したので、0.2重量%MCNFサンプルの性能は、予測不能であった。
【0071】
MCNF/UHMWPEナノコンポジットの靱性の改善は、上記のインサイチュでのシンクロトロン広角X線回折(WAXD)を使用して、延伸の間のUHMWPEにおける結晶構造変化をモニタリングすることによって直接的に証明された。PEにおいて、安定な斜方晶相は、応力によって準安定性の単斜晶相に変換され得ることは周知である。このプロセスは、マルテンサイト変態と呼ばれ、この中に、4つの主要なモード:T11、T12、T21およびT22が存在する。2D WAXDデータから、PEにおける斜方晶構造から単斜晶構造の変換に対応する、結晶のマルテンサイト変態は、両方のナノコンポジットサンプルに見られた。
【0072】
斜方晶構造および単斜晶構造の両方を含む、伸長された5重量%MCNFナノコンポジット(208%における歪み)の代表的な2D WAXDパターンを、図6Aに示す。ここでは、斜方晶相の(200)反射および(110)反射ならびに単斜晶相の(010)反射、
【0073】
【数1】
反射および(200)反射は、指標化方式にされる(単斜晶相についての単位格子パラメータは、以下の通りに与えられる:a=8.09Å、b=4.79Å;c=2.54Åおよびγ=107.9Å、ここで、斜方晶相についての単位格子パラメータは以下の通りである:a=7.42Å、b=4.95Å、c=2.54Å)。回折角度および対応する、各々観察した結晶ピークの格子面間隔(d間隔)を、以下の表2に列挙する。
【0074】
(表2:2D WAXDからの結晶回折ピークの2θおよびd間隔の値)
【0075】
【表2】
図6Aに示すように、23.2°の2θ(d間隔=0.34nm)に位置する相対方位非依存性回折環もまた示された。この回折は、CNF内の黒鉛スタッキングからの層間反射に起因し得、従ってその回折を、CNFの(002)ピークと指定した。
【0076】
図6B(逆格子区間)および6C(実空間)に例示される変換モードの概略的提示に基づいて、MCNF/UHMWPEナノコンポジットフィルムの2D WAXDパターンにおいて観察したマルテンサイト変態は、T12モードを示した。いずれの理論によって束縛されることを望むことなく、この結晶転換は、界面流動により開始された、非結晶相における大きな歪み変形に起因したことが考えられる。
【0077】
2D WAXDデータを分析して、0.2重量%のMCNFナノコンポジットフィルムおよび5重量%のMCNFナノコンポジットフィルムにおける単斜晶相および斜方晶相の、結晶化度の全程度および対応する質量分率を決定した。この分析の結果を以下の表3に要約する。
【0078】
(表3:0.2重量% MCNFフィルムおよび5重量%MCNFフィルムの伸長の間の、単斜晶相および斜方晶相における結晶化度ならびに総結晶化度の変化)
【0079】
【表3】
上記のデータより、総結晶化度は、安定な斜方晶相が優勢であった、両方の初期ナノコンポジットサンプルにおいては比較的低い(約40%)ことが分かり得る。125%より下の歪みにおいて、総結晶化度および斜方晶相の画分は、変形の間に迅速に減少したが、一方単斜晶相の画分はそれに応じて増加した。このことは、斜方晶結晶におけるいくつかのポリエチレン鎖が引き抜かれ、いくつかは単斜晶相にさらに変換されたことを示した。(斜方晶相が優勢である)初期微結晶の破壊は、(単斜晶相が優勢である)新たな微結晶の形成よりも多かった。200%を超える歪みにおいて、総結晶化度のわずかな増加は、両方のサンプルで見られ、このことは、歪み誘導結晶化が生じたことを示しており、これはまた、図5に示す歪み硬化挙動の観察と一致した。
【0080】
MCNF/UHMWPEナノコンポジットにおける超靭性な挙動はまた、上記のインサイチュでのSAXS測定により証明された。図7は、室温での伸長の間の両方のナノコンポジットサンプル(0.2重量%MCNFおよび5重量%MCNF)における積分SAXS強度の変化を図示し、これらは反対の傾向を示した(1つは歪みに伴って増加したが、もう1つは減少した)。100%および480%の歪みにおいて収集された、選択した2D WAXD/SAXSパターンもまた、図7に含まれる。いずれの理論によって束縛されることを望むことなく、測定したSAXS強度は、少なくとも2つの寄与を含んだとことが考えられる:(1)CNFからの空間(void)散乱((図3に示されるように)CNFはチューブ様構造を有することは公知であり、この構造は散乱を引き起こし得る)、および(2)結晶化度の変化に起因する散乱。
【0081】
図7に示されるように、5重量%のMCNFフィルムの総強度は、初期段階(0%歪み)における0.2重量% MCNFフィルムの総強度よりもかなり大きかった。このことは、5重量%サンプルにおけるMCNFからの空間散乱のより大きな寄与に起因し得る。0.2重量%のMCNFフィルムについては、総強度は、歪みが200%に到達し、次いでその後に一定値に到達する前に、迅速に低下することが見出され、これは、表3に示される結晶化度の変化に類似した。これは、結晶化度の変化と一致した。なぜなら、伸長の間、MCNFは再配向され得るが、CNFの空間散乱に起因するSAXS強度は、変化するとは予測しなかったからである。従って、0.2重量%フィルムにおけるSAXS強度の減少は、主に、初期伸長段階における結晶化度の減少に起因した。5重量% MCNFフィルムについて、SAXSの全散乱強度は、歪みに伴って増加することが見出され、これは、0.2重量% MCNFフィルムについての強度変化と反対であった。伸長の間の2つのナノコンポジットフィルムにおける結晶化度の変化は(表3に示されるように)類似であったので、この観察は、いくつかの他の予測されない因子は、SAXSにおけるさらなる散乱強度に関与するはずであり、それを生成するはずであることを示した。いずれの理論によって束縛されることを望むことなく、高いMCNF濃度において、MCNFの粒子的相互作用が優勢になることが考えられ、これは、変形の間にポリマーマトリックスにおいていくつかのナノスケールの空間を生成し、結果として、総散乱強度の増加を生じる。
【0082】
図7に示されるように、100%および480%の歪みにおいて収集した、選択したWAXDパターンおよびSAXSパターンは、いくつかの興味深い特徴を示した。第1に、100%歪みにおける0.2重量%のMCNFフィルムについてのSAXS画像は、明白な4点パターンを示し、これは、傾斜構造が伸長方向に対して形成されたことを示している。SAXSにおける4点パターンの傾斜角度は、WAXDにおける原理(principle)結晶回折ピーク(例えば、斜方晶(110)および単斜晶(010))の傾斜角度と類似であった。この知見は、その傾斜構造は主に、結晶中の鎖の傾斜によって生じたことを示した。しかし、上記4点パターンは、5重量% MCNFフィルムのSAXS画像では明確に同定できず、これは、マトリックス中のより大きなMCNF粒子相互作用の存在と一致する。
【0083】
480%歪みにおいて、両方のナノコンポジットフィルムのSAXS画像は、赤道線パターンを示し、これは、サンプル中の配向した原繊維構造を示している。対応するWAXD画像は、結晶配向が高いことを示し、これは、SAXSにおける赤道線は、非相関原繊維様結晶構造からの散乱および非相関MCNFからの散乱に起因したことを実証している。これらの両方は、伸長方向に伴って並んだ。
【0084】
さらに、0.2重量%MCNFフィルムにおける結晶配向は、5重量%MCNFフィルムにおける結晶配向よりも大きかった。このことは、5重量%MCNFフィルムにおけるより大きな粒子的相互作用を示し、これは、伸長の間のポリマー結晶の再構成を阻害する。
【0085】
上記実施例10に記載したナノコンポジットフィルムを、次いで、高温に供し、そのフィルムの靭性を試験した。図8は、118℃におけるUHMWPEおよびMCNF/UHMWPEフィルムの応力−歪み曲線を図示する。室温での応力−歪み曲線と比較して、純粋なUHMWPEフィルムの破断伸び率は、高温での鎖運動性の増大に起因して、(室温での50%から370%へと)118℃において有意に増加することが見出された。鎖運動性の増大は、UHMWPEマトリックスにおけるいくらかの絡み合い抑制を明らかに克服した。しかし、MCNF/UHMWPEフィルムの靭性は、高い破断伸び率(約680%、これは、その室温での値から約20%増大した)で実証されるように、純粋なUHMWPEフィルムの靭性より(約2倍)高かった。0.2重量% MCNFフィルムの性能は、最高の破断伸び率を示しただけでなく、最高の最大(ultimo)引張り強さをも示した。上記ナノコンポジットフィルムの耐力は、純粋なUHMWPEフィルムの耐力よりも低かった。
【0086】
これらのサンプルの118℃での結晶化度もまた、上記手順を使用して試験した。変形の間の、UHMWPEフィルムおよびMCNF/UHMWPEフィルムにおける118℃での結晶化度の変化を、図9に示す。図9から分かり得るように、結晶化度は、全てのサンプルにおいて初期変形段階で(130%より小さい歪みにおいて)急激に減少し、このことは、いくらかの結晶ラメラが、伸長によって、おそらく鎖の引き伸ばしの機構を介して、破壊されたことを示す。130%より大きい歪みにおいて、結晶化度は、歪みに伴ってほぼ直線的に増加することが見出され、このことは、新たな微結晶の再形成(すなわち、歪み誘導結晶化)を示している。図9に示されるように、結晶化度の減少はMCNFの含量に伴って増加したことが見出された;5重量%MCNFフィルムは、最小の結晶化度を示した。
【0087】
純粋なUHMWPEフィルムの融点(133.6℃)は上記サンプルのなかで最も高かったので、純粋なUHMWPEフィルム中のPE結晶の平均サイズはまた、おそらく最大であり、これは、変形の下でより安定な結晶構造をもたらす。MCNF/UHMWPEのより低い融点は、あまり安定でない結晶構造の存在を示唆した、この結晶構造は、たとえ低い変形歪みの下でも、容易に破壊または変化され得る。
【0088】
これは、130%の歪みにおいて収集された高温SAXS画像により確認された(図9を参照のこと)。0.2重量%のフィルムのSAXSパターン(図9Bを参照のこと)は、軸外に沿ったクロスパターンおよび子午線に沿った2点パターンのコンポジット画像を明らかに示したことがわかった。そのクロスパターンは、変形の下に存在するラメラの再構成により生じる傾斜結晶構造の存在を示した。その2点子午線パターンは、ラメラの法線が変形軸に平行である、十分に整列したラメラ構造の存在を示した。高いMCNF含量(図9Cを参照のこと)において、クロスパターンは、SAXSにおいてより優勢になり、一方、対応する散乱強度もまた、より小さくなった。このことは、より程度の大きい結晶の破壊および/または結晶の再配向が、118℃での変形の下、5重量%フィルムで達成されたことを示している。対照的に、より少ない結晶破壊および/または再配向が純粋なUHMWPEフィルムに見出された(図9Aを参照のこと)。
【0089】
MCNF/UHMWPEナノコンポジットのインサイチュWAXD測定において、CNFの黒鉛面の間の空間を満たすことに起因する(002)結晶反射は異方性であることが見出された。5重量%MCNF/UHMWPEサンプルについて、異なる歪みにおける(002)CNF反射(d=3.41Å−1)で得られた実験的方位プロファイルを、図10に示す。(002)黒鉛面の方位プロファイルは、歪みが0の場合、平らな線であったことが見出されており、これは、MCNFが伸長の前に好ましい配向をとることなくランダムに配列されたことを示している。しかし、伸長の際、方位プロファイルは赤道方向(χ=0°)の大きな強度増加を示し、これは、伸長方向に沿ったMCNFの再配置を示している。MCNF配向の程度は、変形歪みの増加に伴って増加した。
【0090】
図11は、118℃での伸長の間のUHMWPEおよびMCNF/UHMWPEフィルムの積分SAXS強度を示す。図11に示されるように、5重量% MCNFフィルムの散乱強度は、初期段階における0.2重量%MCNFフィルムの散乱強度よりもかなり大きく、このことは、高濃度のMCNFからのより大きな空間散乱に起因した。両方のMCNFナノコンポジットフィルムにおける散乱強度の変化は、同様の傾向を示した:散乱強度は100%より下の歪みにおいて減少したが、その後わずかに増加した。この挙動は、図9に示した結晶化度の変化とほぼ同じであり、このことは、散乱強度は主に結晶化度の変化から生じることを示す。0.2重量% MCNFフィルムについては、高温での散乱強度の変化は室温での散乱強度に類似した。しかし、5重量%MCNFフィルムについては、その挙動は、かなり異なった。高温での粒子的相互作用から生じる過剰な空間散乱はないように思われた。このことは、マトリックスにおける鎖運動性の大きな増加に起因し得、この鎖運動性は充填効果を最小にした。
【0091】
図11に示すように、580%歪みで収集されたWAXD画像は、両方のナノコンポジットサンプルにおいて高度に配向したPE結晶回折像を示した。これらのWAXD画像における原理結晶回折ピーク(例えば、(110))から計算されたHermann配向因子は全て、値1に近づき、このことは、UHMWPEにおける結晶配向はほぼ完全であったことを示している。0.2重量%MCNFフィルムについて、SAXD画像は、弱い赤道線散乱パターンが重ねられた、非常に強いクロスパターンを示した(これは、図7に示される4点パターンとは非常に異なった)。5重量%MCNFフィルムにおいて、SAXD画像は、クロス線特徴および赤道線特徴の両方からの強力な寄与を有するコンポジットパターンを示した。赤道線散乱は、以下の2つの因子に起因し得る:(1)相関していない原繊維様結晶構造からの散乱;および(2)配向しているが相関していないMCNFからの散乱。いずれの理論によって束縛されることを望まないが、第2因子は優勢なものであり、これは、5重量% MCNFフィルムにおける赤道散乱のより大きな画分を説明すると考えられる。
【0092】
クロスパターンは、結晶内の、伸長方向に完全に平行なポリマー鎖を含む傾斜結晶超構造に起因し得る(なぜなら、Hermanの配向因子は約1であるからである)。この結晶超構造アセンブリの傾斜角度は、引張り変形プロセスの間のせん断運動により生じ得る。
【0093】
上記から、本開示のナノコンポジットは未処理UHMWPEよりも靭性であることが分かり得る。図5の応力−歪み曲線の下の積分面積を使用してフィルムの靭性を測定すると、0.2重量%MCNFフィルムおよび5重量%MCNFフィルムの靭性値は、それぞれ、純粋なUHMWPEフィルムの靭性値の約16倍および約14倍であり、0.2重量%酸化CNFフィルムの靭性値の約7倍および約6倍であった。この観察は、MCNF/UHMWPEナノコンポジットの超靭性な性能の指標であった。
【0094】
ナノコンポジットのモジュールは、そのままの樹脂と比較した場合に増大するはずであると予測されるが、このことは、予想外にも示されなかった。UHMWPEおよびMCNF/UHMWPEフィルムの同様のモジュリは、UHMWPEへのMCNFの添加は代表的な充填効果を示さなかったことを示した。なぜなら、MCNFのモジュールは約600GPaであるからである。これは、ポリエチレン伸長鎖結晶のモジュール(240〜340 GPa)よりも大きい。従って、MCNF/UHMWPEフィルムにおける靭性の実質的な改善は、充填ポリマーについての、充填ポリマーで発生した応力場の重なりおよび/または応力状態の遷移に基づく従来の応力場理論によって説明できない。
【0095】
加圧UHMWPEフィルムで示される脆性は、低い破断伸び率に起因し得る。ポリスチレンの平衡熔融温度より上の約40℃で始まる、180℃でのホットプレスプロセスは、非常に多くの鎖の絡み合いを生成し、これは、室温での最終サンプルの延伸能力をひどく阻害した。このことは、上の表Iに示すDSCデータと一致した。表Iでは、加圧サンプルの結晶化度(Xc)(約54%)は、重合時のサンプルの結晶化度(約80%)よりもかなり小さかった。この結果は、驚くべきことではない。なぜなら、溶融加圧UHMWPEにおける高い鎖の絡み合いは、結晶化プロセスを抑制し得、より小さい結晶化度をもたらし得るからである。
【0096】
上記のことは、鎖絡み合い密度がさらに増大する場合、この密度はより小さな破断伸び率をもたらし得ることを示した。しかし、MCNF/UHMWPEサンプルにおいて、結晶化度は予想外に、さらに低い(0.2重量%MCNFサンプルについては41%、5重量%MCNFサンプルについては38%)ことが見出され、このことは、鎖絡み合い密度は上記ナノコンポジットで減少しなかったことを示す。従って、MCNF/UHMWPEナノコンポジットにおける、より向上した破断伸び率は、UHMWPEにおける高い絡み合いの障害を克服する、いくつかの他の因子に起因した。
【0097】
初期伸長段階において、5重量%MCNFフィルムにおける総結晶化度は、よりゆっくりな速度において、0.2重量%フィルムにおける総結晶化度よりも小さくなった(表3を参照のこと)。このことは、5重量%サンプルにおける(鎖の引き出しを介する)結晶破壊および再形成(またはマルテンサイト変態)のプロセスは、伸長の下での界面流動のより大きな程度に起因して遅延されたことを示した。初期ナノコンポジットサンプルはランダムに配向したので、伸長変形は以下のプロセスを誘導した:(1)MCNFおよびPE結晶の再配向;および(2)PE結晶の破壊および再形成。MCNFのまわりでの高程度の界面流動は、初期変形プロセスにおいて5重量%サンプルの塑性流動挙動を大きく促進したが、高濃度のMCNFはまた、サンプルの総延び(extention)を阻害し、このことは、粒子的相互作用に起因する代表的な充填効果から予測できた。
【0098】
対照的に、UHMWPEへのMCNF(0.2重量%)の少しの添加は、破断伸び率(50%から500%へと、>10倍増加)および引張り強度(約2倍増加)を同時に改善し、このことは、完全に予測できなかった。
【0099】
MCNF/UHMWPEナノコンポジットフィルムにおける靱性の増大は、室温で非常に顕著であり、118℃でも顕著であった。いずれの理論によって束縛されることを望まないが、予測外の大きな破断伸び率(室温で>500%)は、主に、MCNF(ここで、(図12に図式的に示されるように)炭化水素短鎖(n=18)の緻密層が繊維表面に存在した)の独特の特徴に起因し得ると考えられる。これらの短鎖は溶媒分子のように作用し、周囲のポリエチレン長鎖を膨潤させるので、MCNF/UHMWPE界面に高程度の鎖運動性が存在した。UHMWPE/Cl8のゲル状態はMCNFの表面上に形成されることが考えられ得、ここでは、UHMWPE濃度範囲は以下のように見積もられた。MCNF表面上のオクタデシル基(n=18)の最大の長さが約16Åである場合(すなわち、見込みのない、伸展結晶状態において)、オクタデシル層の最大密度は約60%である(CNFの外径は約100nm、CNFの内側ホール直径は約80nm、CNFにおける炭素層の密度は約2.1g/cm3と仮定すると、約400個の炭素原子ごとに1個のオクタデシルアミドの鎖付加を有した)。従って、MCNF界面におけるUHMWPE/Cl8のゲル状態のUHMWPE濃度範囲は、0〜40重量%の間であり、このことは、MCNF表面上の2つの限定的なUHMWPE濃度値を表している。CNFおよび付加Cl8鎖は不相溶性なので、MCNF/UHMWPE界面における実際のUHMWPE濃度は、40重量%に近かった。
【0100】
上記より、低い歪みにおいて、運動性の界面は機械的特性全体には顕著に影響を与えなかったが、高い歪みにおいては、MCNF界面における運動性のUHMWPE鎖は、UHMWPEマトリックスにおける鎖の絡み合いの障害を克服し、巨視的なスケールの塑性流動を誘導したことがわかることができる。MCNFの近接の界面流動は、MCNFの配列を配向させ、ポリマー鎖の伸長を生じ、結果として、上記ナノコンポジットにおいて破断伸び率の顕著な増加および歪み硬化挙動を生じた(図6および図10を参照のこと)。高い歪みにおいて、0.2重量%MCNFフィルムの機械的特性は、5重量%MCNFフィルムの機械的特性よりも優れていた。この挙動は、界面近くのポリマー鎖の伸長を阻害した、高濃度での充填相互作用によって説明できる。
【0101】
まとめると、カーボンナノファイバーのオクタデシルアミド基(n=18を有する炭化水素短鎖)での表面修飾は、熔融加工の間、UHMWPEへのMCNFの分散を顕著に促進した。少量のMCNF(例えば、0.2重量%)しか有さないナノコンポジットフィルムは、破断伸び率の顕著な改善、そのようにして得られる靭性の改善を示した。従って、MCNF/UHMWPEは、超靭性な性能を有する、新たなタイプのナノコンポジットを表す。未修飾CNFの使用は、靭性の顕著な改善を示さなかった。MCNF/UHMWPEナノコンポジットの超靭性な性能は、おそらくゲル様形態(結合したオクタデシルアミド基がUHMWPEに対して溶媒分子として作用する)をとるUHMWPE鎖の界面流動によって誘導される、塑性流動に起因し、この塑性流動は、MCNFの近接の固体UHMWPEの代表的な絡み合いの問題(従って脆性)を克服できる。インサイチュでのシンクロトロンWAXDは、MCNF含量の増加はより高程度の塑性流動を誘導したが、充填剤相互作用の増加は、破断伸び率を減少したことを示した。最適な靭性の改善は、UHMWPEへの非常に小画分のMCNFの組込みで生じた。
【0102】
上記実施例は、カーボンナノファイバーの表面修飾が、本開示のMCNF、およびMCNFと超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)とに基づくナノコンポジットを生成することを実証した。熔融加圧MCNF/UHMWPEフィルムは、超靭性な性能を示したが、同条件下で加工したそのままのUHMWPEフィルムは、非常に脆性であった。従って、本開示のMCNFは、UHMWPEマトリックスの靭性を改善する2つの独特の特徴を導入した:(1)UHMWPEに対して溶媒分子として作用する、表面グラフト化炭化水素長鎖は、熔融処理の間にUHMWPEへのMCNFの分散を大きく増大した;および(2)MCNF/UHMWPE界面における膨潤ポリマー鎖は、変形の間に塑性流動挙動を誘導し、上記ナノコンポジットの破断伸び率(延伸能力)を顕著に改善した。Daltonら、前出により調製されたSWNT/PVAナノコンポジットファイバー(ここでは、SWNTが優勢な相であり(約60重量%)、PVAの役割が主に「接着剤」である)とは対照的に、UHMWPEにおけるMCNFの量は、非常に少なかった(MCNFの最大ロード%は、10重量%であり、MCNFの役割は、主に靭性増大因子である)。
【0103】
上記記載は、本開示に従う方法の多くの特定の詳細を含むが、これらの特定の詳細は、本開示の範囲に対する限定として解釈されるべきでなく、単に本開示の範囲の好ましい実施形態の例示として解釈されるべきである。当業者は、全てが本開示の範囲および精神の範囲内である、多くの他の可能な改変を構想する。
【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1】図1は、本開示に従って製造されたナノコンポジットファイバーの断面図の走査型電子顕微鏡写真である。
【図2】図2Aは、CNF、酸化CNFおよびMCNFについて得られたラマンスペクトルのグラフである。図2Bは、CNF、酸化CNFおよびMCNFについて得られた熱重量分析(TGF)結果のグラフである。
【図3】図3は、未処理CNFサンプルの代表的なSEM写真である。
【図4】図4は、5重量%MCNFを含む、断面MCNF/UHMWPEナノコンポジットフィルムの代表的なSEM写真である。
【図5】図5は、熔融加圧UHMWPE、酸化CNF/UHMWPE、およびMCNF/UHMWPE(0.2重量%MCNFおよび5重量%MCNFを含む)フィルムから得られた、応力−歪み曲線のグラフである。
【図6】図6Aは、208%の歪みにおける伸長のもとで、5重量%MCNFナノコンポジットフィルムの2D WAXDパターンである。図6Bは、MCNF/UHMWPEコンポジットフィルム(逆格子空間における(001)平面上に突き出たポリエチレンの単斜セル)のマルテンサイト変態の略図型である。図6Cは、MCNF/UHMWPEコンポジットフィルム(実空間における(001)平面上に突き出たポリエチレンの単斜セル)のマルテンサイト変態の略図型である。
【図7】図7は、室温での伸展の間、MCNH/UHMWPEナノコンポジットにおける総SAXS強度変化を示すグラフである;また、それぞれ、100%および480%の歪みにおける選択されたWAXDパターンおよびSAXSパターンが含まれる。
【図8】図8は、118℃におけるUHMWPEフィルムおよびMCNF/UHMWPEフィルムの応力−歪み曲線のグラフである。
【図9】図9は、118℃におけるUHMWPEフィルムおよびMCNF/UHMWPEフィルムについての結晶化度の変化および種々の歪みを示すグラフである(挿入図は、全てが130%の歪みにおける、UHMWPEフィルムのSAXSパターン(図9A);0.2重量%MCNF/UHMWPEフィルムのSAXSパターン(図9B);5重量%MCNF/UHMWPEフィルムのSAXSパターン(図9C)を表す)。
【図10】図10は、(5重量%MCNFフィルムの2D WAXDパターンから)種々の歪みにおける(002)MCNF黒鉛平面(q=1.862Å−1)における方位角強度プロフィールを示すグラフである。
【図11】図11は、118℃での伸展の間、MCNH/UHMWPEナノコンポジットにおける総SAXS強度変化を示すグラフである;また、それぞれ、100%および580%の歪みにおける選択されたWAXDパターンおよびSAXSパターンが含まれる。
【図12】図12は、オリゴマー炭化水素鎖の層を有するMCNFにおける界面の略図である。
【技術分野】
【0001】
(政府の権利)
本発明は、米国陸軍研究所助成金DAAD190010419、エネルギー省助成金DEFG0286ER45237.022およびDEFG0299ER45760、海軍研究事務所助成金N000140310932ならびにNSF助成金DMR9984102およびDMR0098104の下の政府支援によって作製された。政府は、本発明に一定の権利を有する。
【0002】
(関連出願の相互参照)
本出願は、米国仮特許出願第60/500,812号(2003年9月5日出願)の利益を主張する。米国仮特許出願第60/500,812号の内容は、本明細書中に参考として援用される。
【背景技術】
【0003】
(背景)
ポリオレフィンの物理的および/または機械的特性を向上させるための方法および技術は公知である。例えば、高圧法超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)のフィルムおよび繊維の開発が、十分に確立している。これは、独特の処理技術を使用して、最終製品における高い絡み合い密度の生成を避けることによって、達成され得る。そのような技術としては、ゲル状態でのフィルム延伸およびファイバースピニングが挙げられる。しかし、これらの方法のいくつかに対する1つの欠点は、その方法が大量の溶媒を必要とすることである。溶媒を用いる従来の熔融処理技術によって処理された場合、UHMWPE鎖は、通常、非常に高い絡み合い密度を生じ、結果として、最終製品における非常に低い延伸能力または脆性を生じる。
【0004】
単層ナノチューブ(single−wall nanotube(SWNT))、多層ナノチューブ(multi−wall nanotube(MWNT))およびカーボンナノファイバー(carbon nanofiber(CNF))を含む、カーボンナノチューブは、近年、ポリマーコミュニティにおいて大いなる注目を受けている。カーボンナノチューブおよびポリマーマトリックスを基礎とした非常に靭性なコンポジット材料を開発するための努力がなされてきている。例えば、1つの研究は、ポリビニルアルコール(PVA)/単層カーボンナノチューブ(SWNT)ナノコンポジットファイバーの非常に靭性な性能を実証した。非特許文献1。
【0005】
これらのナノ構造の材料は、それらの優れた機械的強度、優れた熱伝導性および導電性について認識されており、種々のポリマーの特性を改善するために利用され得る。
【0006】
カーボンナノファイバーは、高温反応における触媒用の支持体、熱管理、エラストマーの増強、液体および気体に対するフィルター、および保護クロスの成分としての、増強コンポジットに潜在的に有用である。カーボンまたはポリマーのナノファイバーは同様に、増強コンポジット、酵素および触媒のための基材、植物に殺虫剤を適用すること、快適さおよび保護作用が改善した繊維製品、ナノメートルスケールの寸法を有するエアロゾルまたは粒子に対する高度なフィルター、エアロゾル熱管理適用、ならびに温度および化学環境の変化に対する迅速な応答時間を有するセンサーにおける用途を見出す可能性がある。
【0007】
機械的増強の場合、カーボンナノチューブを含むポリマーナノコンポジットについて刊行された研究は、改善は、付加的なものにすぎないことを示す;上記のDaltonらによって実証されたポリビニルアルコール(PVA)/SWNTナノコンポジットファイバーの超強靭な性能の予測よりも実質的に下である。
【非特許文献1】Daltonら,「Super−tough Carbon−Nanotube Fibres」Nature(2003), 第423巻,p703
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、そのようなナノファイバーを含むコンポジットとして、増強した機械的特徴および電気的特徴が増強した(強度および難燃剤能力の増強)ナノファイバーが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(要旨)
本開示に従って、調整された長さの脂肪族リンカーがカーボンナノチューブの表面に供給結合するという独特の合成技術が、カーボンナノチューブの修飾のために開発された。表面修飾プロセスおよびその後の化合は、標準的な熔融混合装置または溶液混合装置を用いて実施され得、結果として、ポリオレフィンとの相溶性が向上した修飾カーボンナノチューブが生じる。これらの修飾カーボンナノチューブとポリオレフィンマトリックスとのナノコンポジットは、新たな繊維およびフィルムのデザイン、開発および作製において形成および利用され得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
(詳細な説明)
本開示に従って、カーボンナノチューブは、そのカーボンナノチューブと脂肪族リンカー(時には、本明細書中で「修飾因子」としても呼ばれる)とを反応させることによって機能化され得、ポリオレフィンとの相溶性を増大し得る。生じた修飾カーボンナノチューブ、特に、カーボンナノファイバー(時には、本明細書中でMCNFと呼ばれる)、修飾単層ナノチューブ(MSWNT)、および修飾多層カーボンナノチューブ(MMWNT)は、ポリオレフィンとの相溶性が増大しており、カーボンナノチューブとポリオレフィンとの組み合わせは、機械的特性および電気的特性が高まったファイバーおよびフィルムを製造するために使用され得る。
【0011】
本開示に従う用途に適切なカーボンナノチューブとしては、単層ナノチューブ(SWNT)、多層ナノチューブ(MWNT)およびカーボンナノファイバー(CHF)が挙げられ、これらは全て、当業者に公知である。1つの実施形態において、上記カーボンナノチューブは、CNFであり得る。CNFは、気相成長法によって大量生産され得、SWNTまたはMWNTよりも安価であり得る。CNFは、非常に高度に異方性の形状(平均直径が50〜200nm)を有し、従来のカーボンファイバーのサイズ(7〜10μm)とSWNTのサイズ(数nm)およびMWNTのサイズ(数十nm)との間のギャップを埋める。CNFは、多数の供給業者(例えば、Pyrograf Products,Inc.(Cedarville,Ohio)が挙げられる)から市販されている。
【0012】
1つの実施形態では、カーボンナノファイバー、SWNTまたはMWNTの修飾を高めるために、表面酸性基(カルボン酸およびヒドロキシル)は、強酸との酸化反応によってカーボンナノチューブ上に生成される。表面酸性基を生成させることにおける使用に適切な強酸としては、塩素酸カリウム、過塩素酸カリウム、硫酸、塩酸、ならびにそれらの組み合わせおよびそれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されない。ナノファイバーは、約0℃〜約100℃の範囲の温度(約20℃〜約60℃の温度が好ましい)でこの酸処理に供される。この酸化工程は、CNFまたはMWNTの側壁にカルボン酸(−COOH)部分またはスルホン酸(−OSO3OH)部分を生成し、酸化CNFまたは酸化MWNTを形成する。
【0013】
1つの実施形態では、塩素酸カリウム/硫酸溶液が利用され得、カーボンナノチューブ(例えば、CNF)上に表面酸性基を生成し得る。所望の場合、酸化CNFの表面上のカルボン酸基の量は、当業者に公知の方法(NaHCO3溶液を使用する滴定による方法を含む)で決定され得る。
【0014】
一旦表面酸性基がCNF上に生成されると、いくつかの実施形態では、重合阻害因子が添加され得、そしてそのCNFに結合し得る。適切な重合阻害因子は当業者に公知であり、それらとしては、1−(ベンジルオキシ)−2−フェニル−2−(2’,2’,6’,6’−テトラメチル−1’−ピペリジニルオキシ)エタン(TEMPO−エステル)、および1−ヒドロキシ−2−フェニル−2−(2’,2’,6’,6’−テトラメチル−1’−ピペリジニルオキシ)エタン(TEMPO−アルコール)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0015】
いくつかの実施形態では、従来の触媒(例えば、トリエチルアミン(TEA))もまた、約20℃〜約90℃の範囲の温度、好ましくは約70℃〜約80℃の範囲の温度で、約1時間〜約5日間の範囲の期間、より好ましくは約1日間〜約3日間の範囲の期間にわたって、添加され得る。
【0016】
次いで、上記反応混合物は、好ましくは水、テトラヒドロフラン(THF)または水とテトラヒドロフランとの混合物で洗浄され得、そして適切な温度、好ましくは約20℃〜約90℃の範囲の温度、より好ましくは約65℃〜約75℃の範囲の温度において減圧下で乾燥され得る。
【0017】
生じた開始因子結合CNFは、次いで、修飾因子、すなわち、それらの化学組成がナノコンポジット中のポリオレフィン成分と相溶するリンカー(例えば、ポリオレフィンに対する脂肪族炭化水素リンカー)と重合が可能となり、修飾CNF(MCNF)を生成し得る。アルケン、好ましくはビニルベースのアルケン(例えば、イソプレン、ブタジエン、イソブタジエンまたはそれらの混合物)は、修飾因子として利用され得、約0.5:600、より好ましくは約1:480の範囲の開始因子:修飾因子のモル比で開始因子結合CNFと混合される。上記混合物は、約90℃〜約180℃の範囲の温度、好ましくは約110℃〜約150℃の範囲の温度にまで、約5時間〜約15時間の範囲の時間、より好ましくは約8時間〜約12時間の範囲の時間にわたって、加熱され得る。重合後、生じたグラフト化CNFは、メタノールで洗浄され得、そして適切な温度、好ましくは約50℃〜約100℃の範囲の温度、より好ましくは約65℃〜約75℃の範囲の温度において減圧下で乾燥され得る。
【0018】
MCNF(グラフト化CNFとも呼ばれる)は、次いで、キシレンのような適切な溶媒中に導入され得る。当業者に公知の架橋剤(例えば、p−トルエンスルホニルヒドラジド、トリ−n−プロピルアミン、およびそれらの混合物)は、上記グラフト化CNFを含む溶液混合物に添加され得る。その混合物は、約100℃〜約180℃の範囲の温度、より好ましくは約120℃〜約160℃の範囲の温度で還流まで、約2〜約6時間の範囲の時間、より好ましくは約3〜約5時間の範囲の時間にわたって、加熱される。次いで、その溶液は濾過され得、脱イオン水およびメタノールで洗浄され得、そして約70℃〜約110℃の範囲の温度、より好ましくは約80℃〜約100℃の範囲の温度において減圧下で乾燥され得る。
【0019】
上記MCNFを生成するためのカーボンナノファイバーの修飾スキームは、このように、以下に要約され得る:
【0020】
【化1】
別の実施形態では、本開示のMCNFは、上記のようにカーボンナノファイバー(CNF)上に表面酸性基(カルボン酸およびヒドロキシル)を生成することによって調製され得る。上記に記載されたものと同じ強酸が表面酸性基を生成するために使用され得、従って、上記のように酸化CNFが生成する。その強酸としては、塩素酸カリウム、過塩素酸カリウム、硫酸、塩酸、ならびにそれらの組み合わせおよびそれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されない。1つの実施形態では、塩素酸カリウム/硫酸溶液が、カーボンナノファイバー上に表面酸性基を生成するために利用され得る。
【0021】
次いで、酸化CNFは、修飾因子、すなわち、ナノコンポジットのポリオレフィン成分と相溶性の化学組成を有するリンカー中に分散され得る。UHMWPEについては、脂肪族リンカーは、結合炭化水素をカーボンナノファイバーまたはカーボンナノチューブの長軸に平行に配向させ得る、アミン(例えば、オクチルアミン、デシルアミン、ドデシルアミン、ヘキサデシルアミン、オクタデシルアミン)またはアミン末端化分枝炭化水素鎖を含み得る。上記アミンの混合物および/または組み合わせもまた、いくつかの実施形態で利用され得る。1つの実施形態では、酸化CNFはオクタデシルアミン中に分散され得る。
【0022】
特に有用な実施形態では、酸化CNFおよびアミンは、約100℃〜約300℃の範囲の温度、好ましくは約150℃〜約250℃の範囲の温度、より好ましくは約180℃〜約200℃の範囲の温度にまで加熱され得る。いくつかの実施形態では、上記酸化CNFおよびアミンは、不活性雰囲気下(例えば、窒素)で維持され得る。酸化CNFとアミンとの間の反応は、約12〜約30時間の範囲の時間、好ましくは約15〜約25時間の範囲の時間、より好ましくは約18〜約22時間の範囲の時間にわたって、起こり得る。
【0023】
上記反応が起こった後、生じた懸濁液は、濾過され得、溶媒(例えば、テトラヒドロフラン(THF)、水、ヘキサン、それらの混合物)または別々の工程において異なる溶媒で洗浄され得る。洗浄の後、回収した物質は続いて減圧下で乾燥され得、MCNFを得ることができる。いくつかの実施形態では、上記乾燥工程は、約50℃〜約90℃の範囲の温度、好ましくは約60℃〜約80℃の範囲の温度で起こり得る。所望の場合、CNFの修飾の程度は、当業者に公知の方法(例えば、ラマン分光法、熱重量分析(TGA)、赤外分光法および核磁気共鳴分光法(NMR))を使用して確認され得る。
【0024】
本開示の修飾カーボンナノファイバーは、ポリオレフィンとの相溶性が増大しており、一旦調製されると、分子レベル、すなわち、単一ファイバーレベルまたは単一チューブレベルでポリオレフィン中に分散され得、ナノコンポジット混合物を生成し得る。本開示のナノコンポジットを生成することにおける使用に適切なポリオレフィンとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレンコポリマーおよび超高分子量ポリエチレン (UHMWPE)が挙げられるが、これらに限定されない。使用され得るほかのポリオレフィンとしては、高圧法低密度ポリエチレン(LDPE);直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE);直鎖状中密度ポリエチレン;高密度ポリエチレン(HDPE);および修飾ポリエチレンが挙げられる。
【0025】
ポリオレフィン/修飾カーボンナノファイバーのナノコンポジットは、当業者に公知の方法によって作製され得る。特にアルケンが修飾因子として使用される1つの実施形態では、修飾カーボンナノファイバーナノコンポジットは、二工程手順によって生成され得る。この二工程手順は、溶液ブレンド工程、その後の熔融ブレンド工程を包含する。そのような場合、ポリオレフィンは、最初に、溶液ブレンドプロセスで修飾カーボンナノファイバーとブレンドされ得、それによって、修飾カーボンナノファイバーは、適切な溶媒(例えば、キシレンまたは低分子量パラフィン(例えばデカリン))中でポリオレフィンとブレンドされ、次いで冷メタノール中で沈殿される。上記溶液ブレンド工程について、従来のブレンドデバイス(例えば、Henschel(登録商標)ミキサー)または浸漬デバイス(例えば、シンプルドラムタンブラー)が使用され得る。第2の工程において、乾燥された沈殿物は、熔融ブレンドされ得、本開示のナノコンポジットを形成し得る。熔融ブレンド工程について、上記混合物は、その混合物を撹拌しながら熔融するまで加熱され得、次いでナノコンポジットを冷却する。
【0026】
熔融ブレンド方法で使用される機器の例としては、同時回転エクストルーダーおよびカウンター回転エクストルーダー、ディスクパックプロセッサならびに他の一般的に使用される押出し機器が挙げられる。使用され得る他の器具としては、ロールミル、二軸スクリュー練りエクストルーダー、すなわちBanbury(登録商標)ミキサーもしくはBrabender(登録商標)ミキサーが挙げられる。1つの実施形態では、熔融ブレンドは、乾燥沈殿物をDACAツインスクリューマイクロコンポウンダー中に、190℃で3分間、IRGANOX 3114(Ciba Specialty Chemicals (Tarrytown,NY)から市販されている)のような抗酸化剤の存在化で導入することによって達成され得る。当業者に公知の他の抗酸化剤もまた使用され得、これらとしては、例えば、ETHANOX(登録商標)抗酸化剤(Albemarle Corp.,Baton Rouge,LAから市販されている);BNX(登録商標)DLTDP抗酸化剤(Mayzo Inc.,Norcross,GAから市販されている)が挙げられる。
【0027】
特にアルケンが修飾因子として使用される別の実施形態では、ポリオレフィンと修飾カーボンナノコンポジットとの溶液ブレンド工程は、一工程プロセスで起こり得、MCNFを形成し得る。そのような場合、修飾カーボンナノファイバーおよびポリオレフィンは、約60℃〜約170℃の範囲の温度、代表的には約120℃〜約140℃の範囲の温度で、低分子量パラフィンオイルまたはパラフィン熔融物のような類似の材料中に導入され得、そして生じたナノコンポジットは、その後、冷メタノール中で沈殿され得る。
【0028】
特にアミンが修飾因子として使用される、さらに別の実施形態では、MCNFは、デカリン、低分子量パラフィンオイルまたはキシレンに添加され得、室温での超音波振動下で均一な懸濁液を形成し得る。デカリン懸濁液中のMCNFの量は、懸濁液全体の約0.05重量%〜約20重量%、より代表的には懸濁液全体の約1重量%〜約10重量%の範囲であり得る。
【0029】
UHMWPEのようなポリオレフィンは、別々の量のデカリン、低分子量パラフィンオイルまたはキシレンに添加され得、UHMWPE溶液を形成し得る。デカリンに添加されてこの溶液を形成するUHMWPEの量は、溶液全体の約0.1重量%〜約15重量%、より代表的には溶液全体の約0.5重量%〜約10重量%の範囲であり得る。
【0030】
次いで、MCNF/デカリン懸濁液およびUHMWPE/デカリン溶液は、合わせられて混合物を形成し得る。いくつかの実施形態では、その混合物は、約60℃〜約170℃、代表的には約100℃〜約150℃、より代表的には約130℃〜約140℃の範囲の温度にまで、約30分〜約300分間、代表的には約80分〜約100分間の範囲の時間にわたって、激しい撹拌下で加熱され得、均質な懸濁液を形成し得る。次いで、その混合物は室温まで冷却されることが可能となり、この時点で、デカリンがその懸濁液から抽出され得る。
【0031】
次いで、MNCF/UHMWPEは、当業者に公知の手段を使用して、3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ)フェニルプロパネート(またはETHANOX(登録商標)抗酸化剤、BNX(登録商標)DLTDPのような当業者に公知の他の抗酸化剤)のような抗酸化剤と熔融混合され得る。抗酸化剤の量は、UHMWPEの量を基礎として約0.1重量%〜約2重量%、代表的にはUHMWPEの量を基礎として約0.3重量%〜約1重量%の範囲であり得る。1つの実施形態では、3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ)フェニルプロパネートが、抗酸化剤として、UHMWPEの量を基礎として約0.5重量%の量で使用され、そして(例えば、DACA Instrumentsから市販されている)ツインスクリューブレンダーを使用してMNCF/UHMWPEと合わせられる。その混合工程は、約1分〜約15分間、好ましくは約2.5分〜約10分間、より好ましくは約4分〜約6分間の範囲の時間にわたって行われ得る。その混合工程は、熱分解を防ぐために、約100℃〜約200℃の範囲の温度、代表的には約150℃〜約190℃の範囲の温度、より代表的には約160℃〜約180℃の範囲の温度で行われ得る。
【0032】
本開示のナノコンポジットは、約0.01重量%〜約30重量%のMCNF、代表的には約0.05重量%〜約15重量%のMCNF、より代表的には約0.1重量%〜約5重量%のMCNFを含み得る。従って、本開示のナノコンポジットは、約99.99重量%〜約70重量%のポリオレフィン、代表的には約99.95重量%〜約85重量%のポリオレフィン、より代表的には約99.9重量%〜約95重量%のポリオレフィンを含み得る。
【0033】
次いで、生じたナノコンポジットは、市販の機器および技術を使用してファイバーまたはフィルムを形成するために使用され得る。そのナノコンポジットは、修飾カーボンナノファイバーの整列のための単軸/二軸延伸工程をしながらか、またはそれをせずに、ファイバー形態に熔融紡糸もしくはゲル紡糸をされるか、またはフィルム形態に熔融キャストもしくはゲルキャストされるかのいずれかであり得る。これは、修飾カーボンナノチューブに対する応力を最小にし、機械的特性および電気的特性の改善ならびに難燃特性の改善をもたらす。
【0034】
1つの実施形態では、本開示のナノコンポジットは、Ranら,「In−Situ Synchrotron SAXS/WAXD of Melt Spinning of Modified Carbon Nanofiber and Polypropylene Nanocomposite」, ACS PMSE, 89,735−736 (2003)(この内容は、本明細書中に参考として援用される)に示されるプロセスに従ってファイバーに紡糸され得る。
【0035】
別の実施形態では、本開示のナノコンポジットは、当業者に公知の技術を使用してフィルムに形成され得る。フィルムを形成するために適切な方法としては、押出し成形、熔融プレス、ブロー成形、射出成形、および/または熱成形が挙げられるが、これらに限定されない。
【0036】
1つの実施形態では、フィルムは、熔融プレス方法を使用して、約100℃〜約210℃の範囲の温度、代表的には約140℃〜約200℃の範囲の温度、より代表的には約170℃〜約190℃の範囲の温度にまで、MCNF/UHMWPEナノコンポジットを加熱して、そのフィルムを、約0.5MPa〜約10MPa、代表的には約1.0MPa〜約5.0MPa、より代表的には約1.5MPa〜約2.5MPaの範囲の圧力でプレスに配置することによって、形成され得る。上記ナノコンポジットは、この圧力下で、約1分〜約30分間、代表的には約3分〜約10分間、より代表的には約4分〜約6分間の範囲の時間にわたって、上記プレス中に保持され得、次いで、氷水のような適切な物質でクエンチされる。生じたフィルムは、約0.05mm〜約2.5mm、代表的には約0.1mm〜約1.0mm、より代表的には約0.15mm〜約0.5mmの範囲の厚さを有し得る。
【0037】
いずれの理論に束縛されることを望むことなく、本開示のMCNFがUHMWPEのようなポリオレフィンと合わせられる場合、MCNF表面上のオリゴマー炭化水素層の存在は、MCNFの近くの長鎖UHMWPEを可塑化し得、従って、延伸下での界面の流れ、および本開示のナノコンポジットの破断伸び率の増大がもたらされることが考えられる。
【0038】
上記開示は、本開示のナノコンポジットを生成するために、カーボンナノファイバーの修飾およびそれらとポリオレフィンマトリックスとの組み合わせに取り組んでいるが、SWNTおよびMWNTを含む他のカーボンナノチューブもまた、上記の本開示の方法を使用して修飾され得、そして上記のポリオレフィンマトリックスと合わせられ得、本開示のナノコンポジットを生成し得る。
【0039】
以下の非限定的な実施例は、本明細書中に記載される方法およびナノコンポジットを例示するために提供される。
【実施例】
【0040】
本開示のナノコンポジットファイバーを、以下の材料を使用してポリオレフィンマトリックスおよびCNFから調製した。アイソタクチックポリプロピレン(iPP)ペレットは、Exxon−Mobil Companyより提供された実験用樹脂であり、約350,000g/molの重量平均分子量を有する。超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)粉末は、Basell,USAから得られ、約5,000,000g/molの分子量および9.0を超える多分散性を有する。カーボンナノファイバー(CNF,PR−24−HHT)を、Pyrograf Products,Inc.から得、これは、いずれの非炭素物質を除去するのに厳しい熱処理を行った。入手時のCNFの代表的な形態は、70nmの平均直径および50〜100μmの長さを有した。そのCNFを洗浄し、そのようにして、この研究ではさらなる精製手順を行わなかった。
【0041】
全ての試薬は、Aldrich,Acrosから購入し、溶媒は、Fisher Scientificから購入した。スチレンおよびトリエチルアミン(TEA)をCaH2から蒸留した。テトラヒドロフラン(THF)を窒素下でナトリウムによって乾燥した。他の試薬は、精製することなく使用した。フラッシュクロマトグラフィー用のシリカゲルは、Merckグレード60(70−230)であった。重合開始剤1−(ベンジルオキシ)−2−フェニル−2−(2’,2’,6’,6’−テトラメチル−1’−ピペリジニルオキシ)エタン(TEMPO−エステル)および1−ヒドロキシ−2−フェニル−2−(2’,2’,6’,6’−テトラメチル−1’−ピペリジニルオキシ)エタン(TEMPO−アルコール)は、当業者に公知の手順に従って合成した。
【0042】
(実施例1)
カーボンナノファイバー上の酸基の生成。表面酸性基(カルボン酸およびヒドロキシル)を、室温における過塩素酸カリウム/硫酸溶液(例えば、KClO3溶液(2gのKClO3/100mlの濃H2SO4)中2gのカーボンナノファイバー)での酸化反応によってカーボンナノファイバー上に生成させた。そのカーボンナノファイバー懸濁液を、0.2μm膜で濾過し、そして脱イオン水およびメタノールで洗浄した。濾過した酸化ナノファイバーを、減圧下70℃で乾燥させた。
【0043】
(実施例2)
カーボンナノファイバー表面へのラジカル開始因子の付加。実施例1からの酸化CNFを、塩化チオニル中で24時間65℃において還流し、次いで、塩化チオニルを蒸留によって除去した。乾燥した塩化アシルCNFを、触媒としてTEAを使用して、75℃において2日間、乾燥THF中でTEMPO−アルコールと反応させた。その反応混合物を水およびTHFで洗浄し、減圧下70℃で乾燥させて開始因子付加CNFを残した。
【0044】
(実施例3)
表面フリーラジカル重合。実施例2で生成した開始因子付加CNFを、イソプレンと混合した(開始因子:イソプレンのモル比は、約1:480であった)。この混合物を130℃で10時間加熱した。重合後、修飾CNFをメタノールで洗浄し、減圧下70℃で乾燥した。
【0045】
(実施例4)
グラフト化ポリマーの還元。実施例3の修飾CNFをキシレン中に分散した。p−トルエンスルホニルヒドラジドおよびトリ−n−プロピルアミンをその溶液混合物に添加した。その混合物を、還流まで140℃で4時間加熱した。その溶液を濾過し、脱イオン水およびメタノールで洗浄し、そして減圧下90℃で乾燥させた。
【0046】
(実施例5)
ナノコンポジットの調製。均質なiPP/修飾カーボンナノファイバーナノコンポジットを得るために、二工程手順を使用して、iPPと実施例4から得られた修飾カーボンナノファイバーとをブレンドした。第一工程は溶液ブレンド工程であり、ここで、5重量%、20重量%および50重量%の修飾カーボンナノファイバーを、キシレン中、130℃でiPPとブレンドし、次いで、冷メタノール中で沈殿させた。次いで、乾燥させた沈殿物を熔融ブレンドし、抗酸化剤IRGANOX 3114の存在下、190℃で3分間、DACAツインスクリューマイクロコンパウンダーによってコンポジットを形成した。
【0047】
類似の一工程プロセスもまた、UHMWPE/修飾カーボンナノコンポジットを調製するために使用した。パラフィンオイル中、130℃で、5重量%、20重量%および50重量%の修飾カーボンとUHMWPEとの溶液ブレンド工程を行い、ナノコンポジットサンプルを冷メタノール中で沈殿させた。
【0048】
(実施例6)
ナノコンポジットファイバー紡糸。iPP/修飾カーボンナノファイバー(MCNF)ナノコンポジットファイバーを生成するために、熔融紡糸プロセスを使用した。このプロセスを、特注の紡糸装置を使用して行った。この装置において、キャピラリーレオメーター様バレルを頂部プラットホーム上に配置し、これは、約350℃という上限温度能力を有するポリマーコンポジット熔融物を保持した。モーター駆動プランジャを使用して、ポリマーコンポジット熔融物を押出し成形した。調整可能な速度制御を有する巻き取りホイールは、紡糸延伸倍率(SDR)を変化させる手段を提供した。このSDRは、繊維巻取り速度 対 スピナレット出口での押出し速度の比と定義される。iPP/修飾カーボンナノファイバーナノコンポジットの熔融押出し成形温度は、195℃に設定した。
【0049】
上記ナノコンポジットファイバーの走査電子顕微鏡写真を得た。図1に示すナノコンポジットファイバーの断面のSEM写真は、MCNFが、束ではなく主に単一ファイバーとして分散されたことを明確に示し、このことは、表面修飾が成功したことを示している。
【0050】
UHMWPE/修飾カーボンナノファイバーナノコンポジットファイバーのゲル紡糸プロセスを、同じ特注の紡糸装置を使用して行った。パラフィンオイル中の異なる組成比のUHMWPE/修飾カーボンナノファイバーナノコンポジットの5重量%ゲル溶液を、この研究のために調製した。ゲル紡糸温度は130℃に設定した。
【0051】
(実施例7)
カーボンナノファイバー上の酸基の生成。カーボンナノファイバー(PR−24−HHT)を、さらなる精製をすることなくPyrograf Products,Inc.から入手した。入手時のCNFサンプルを熱的に処理して、非炭素物質を除去し、そしてこれは100nmの平均直径および50〜100μmの長さを有した。入手時のCNFサンプルのSEM写真を図3として提供する。そのCNFの表面修飾を以下の通り行った。カーボンナノファイバー(CNF)上の表面酸性基(カルボン酸およびヒドロキシル)を、米国特許5,611,964号(この内容は、本明細書中に参考として援用される)に示される一般的な反応スキームに従って、塩素酸カリウム/硫酸溶液を使用する酸化反応によって生成した。
【0052】
酸化CNFの表面上のカルボン酸基の量を、Huら,「Determination of the Acidic Sites of Purified Single−wall Carbon Nanotubes by Acid−base Titration」Chem.Phys.Lett.(2001),第345巻,25−28頁に示される一般的な手順に従って、NaHCO3溶液を使用する滴定により決定した。代表的に、4日間の酸化後、CNF表面上のカルボン酸値は、0.76mmol/(g CNF)であり、これは、バルクの、CNF中の炭素109個ごとに、グラフト化/修飾され得たカルボン酸基を1個有したレベルに対応する。酸化CNFのいくつかを取り出し、以下により詳細に記載する比較目的のために利用した。
【0053】
(実施例8)
酸化CNFのオクタデシルアミンでの修飾。実施例7からの酸化CNFを、(18個の炭素を有する)オクタデシルアミン中に分散し、これを、窒素下で20時間、180〜200℃で維持した。生じた懸濁液を濾過し、THFで洗浄し、ついでヘキサンで洗浄し、続いて減圧下70℃で乾燥させた。
【0054】
(実施例9)
カーボンナノファイバーの修飾の程度を、ラマン分光法および熱重力測定分析(TGA)を用いて、実施例7で記載した入手時のCNFと、実施例7で生成した酸化CNFと、実施例8で生成したMCNFとを比較することによって確認した。入手時のCNF、酸化CNFおよびMCNFのラマンスペクトルを、500mw、785nm HPNIR785レーザーを備えるRenishaw 2000分光計(Renishaw Inc.,U.K.)を使用して収集した。CNF、酸化CNFおよびMCNFのIGAスキャンを、Perkin−Elmer Inc.からのTGA7を使用することによって、20℃/分で収集した。
【0055】
CNF、酸化CNFおよびMCNFのラマンスペクトルを、図2Aに示す。ラマンスペクトルにおいて、比(ID/IG)は、黒鉛系における結晶の規則性の尺度としてとり得る。この黒鉛系では、IDは、1355cm−1における不規則バンド(D−バンド)強度を表し、IGは、1590cm−1における黒鉛バンド(G−バンド)強度を表す。小さなID/IG比は、表面上で、欠陥が少ないこと、小さな不定形炭素、および黒鉛規則性が高いことを示す。酸化の後、ID/IG比は、入手時のCNFについての0.73から酸化CNFについての1.3と増加したことが見出され、これは、CNF表面上の黒鉛の結晶の規則性が減少したことを示している。MCNFのID/IG比は1.4であり、このことは、アミド化反応はCNF表面を顕著に変化させなかったことを示す。
【0056】
CNF、酸化CNFおよびMCNFのTGAスキャンを、表2Bに示す。入手時のCNFは、酸化CNFおよびMCNFよりも高い熱安定性を示した。MCNFについて、300℃〜400℃の範囲の明確な重量損失は、オクタデシルアミド分子の分解に対応し、ここで、酸化CNFとMCNFとの間の重量差は約5%であった。このデータにより、MCNF表面上のカルボキシル酸基の約30%のみが、オクタデシルアミド基に変換された(すなわち、カルボン酸基の70%はオクタデシルアミンでグラフト化しなかった)ことが示された。
【0057】
(実施例10)
ナノコンポジットフィルムの調製。3つのナノコンポジットサンプルを、UHMWPEと実施例8で生成した変量のMCNFとを合わせることによって調製した。その結果、生じたナノコンポジットは、それぞれ、0.2重量%および5重量%の量のMCNFを有した。
【0058】
実施例8で生成したMCNF(または実施例7からの酸化CNF)を、最初にデカリンに添加し、室温での超音波振動下で均一な懸濁液を形成した。同時に、ポリオレフィン溶液を、デカリンとBasell,USAにより提供されたUHMWPE(1900H)(これは、6×106g/molの重量平均分子量(Mw)および約9の多分散性を有した)とを合わせることによって調製し、1重量% UHMWPE/デカリン溶液を得た。続いて、MCNF懸濁液を、1重量% UHMWPE/デカリン溶液に添加し、次いで、生じたMCNF/UHMWPE/デカリン混合物を、90分間、激しい撹拌下で130〜140℃にまで加熱し、均質な懸濁液を形成した。室温に冷却する際、デカリンを懸濁液から抽出した。次いで、サンプルを、熱分解を防ぐために170℃で5分間、ツインスクリューブレンダー(DACA Instruments)を使用して、(UHMWPEの量を基礎として)0.5重量%の抗酸化剤、3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ)フェニルプロパネートと熔融混合した。回収したサンプルを一定重量まで60℃オーブン中で乾燥させた。
【0059】
比較目的のために、実施例7から得た(しかしさらなる修飾はしていない)酸化CNFを0.2重量%有する、ナノコンポジット酸化CNF/UHMWPEサンプルもまた、同じ手順を使用して調製した。さらに、MCNFが添加されていない(従って0% MCNF)UHMWPEもまた、比較のために使用した。
【0060】
次いで、MCNF/UHMWPE、酸化CNF/UHMWPEおよび未処理UHMWPEのサンプルを、以下のプレス条件に従って平らなフィルム(約0.2mmの厚さを有する)に熔融プレスした。温度は180℃であり、圧力は2.1MPaであり、そして保持時間は5分間であって、その後氷水でクエンチした。
【0061】
(実施例11:ナノコンポジットフィルム分析)
SEM分析。実施例10で生成したフィルムの表面および断面図を、LEO 1550(LEO,USA)を使用して走査電子顕微鏡(SEM)によって検査した。ファイバーの断面図を、液体窒素中でナノコンポジットフィルムを破砕することによって得た。入手時のCNFサンプルの代表的なSEM写真を図3に提供する;5重量% MCNFを有するMCNF/UHMWPEナノコンポジットフィルムの断面の代表的なSEM写真を、図4に提供する。
【0062】
両方のナノコンポジットにおいて、たとえMCNF含量が5重量%に増加しても、UHMWPE中へのMCNFの分散(0.2重量%および5重量%)は、非常に良好であった。例えば、5重量%のMCNFを含む極低温で破砕したナノコンポジットフィルムSEM検査は、UHMWPEマトリックスにおいていかなるMCNF凝集のサインを示さず、MCNFとUHMWPEとの間の界面接着が良好であることを見出した(図4を参照のこと)。
【0063】
DSC分析。示差走査熱量測定(DSC)を、実施例10のナノコンポジットMCNF/UHMWPEフィルムおよび未処理UHMWPEフィルム(0% MCNF)に対して、TA Instrument DSC 7を使用して行った。全てのサンプルを、窒素気流下で、10℃/分で最大200℃にまで加熱し、次いで、同じ速度で冷却した。各サンプルにおける結晶化度の程度を、完全なPE結晶(100%の結晶化度)についての融解熱は290J/gに等しいと仮定して、測定した融解熱(ΔHf)を使用して計算した。MCNFの重量が計算に含まれなかった場合、さらなる融解熱測定を行った。DSC測定の結果を、以下の表1に示す。
【0064】
(表1:DSCによって決定したUHMWPEおよびMCNF/UHMWPEナノコンポジットフィルムの熔融温度および結晶化度)
【0065】
【表1】
WAXDおよびSAXS分析。インサイチュ広角X線回折(WAXD)および小角度X線散乱(SAXS)実験を、National Synchrotron Light Source (NSLS)におけるAdvanced Polymers Beamline(X27C),Brookhaven National Laboratory(BNL)を使用してフィルムに対して行った。試験したサンプルには、上記の実施例10で生成したMCNF/UHMWPEコンポジットフィルムおよび酸化CNF/UHMWPEコンポジットフィルム、ならびに実施例10で記載した未処理UHMWPEフィルム(0% MCNF)が含まれた。
【0066】
X27Cビームラインの実験設定の詳細は、Chuら,「Small Angle X−ray Scattering of Polymers」,Chemical Reviews,(2001),第101(6)巻,1727頁(この内容は、本明細書中に参考として援用される)によって報告されている。使用した波長は0.1366nmであった。3ピンホールコリメーションシステムを使用して、ダブル多層モノクロメーターからの入射ビームを規定した。WAXDについてのサンプル−検出器の距離は117.8mmであり、SAXSについてのサンプル−検出器の距離は1189.8mmであった。MAR−CCD(MAR USA,Inc.)二次元X線検出器を、実時間データ収集のために使用した。代表的な画像収集時間は、1イメージあたり15秒間であった。
【0067】
各サンプルを、改造Instron 4442引張り試験機を使用して単一軸方向に引張り、ここで、対称的な変形を行った。Instronジョーの間の初期の長さは10mmであった。
【0068】
実験を、環境チャンバを使用して、室温と高温(118℃)との両方で行った。選択した引張り速度は0.5mm/分であった。結晶化度の変化を、WAXDパターンから見積もった。この計算において、2Dパターンは、最初にFraser修正をされ、各々選択された強い結晶反射についてのピーク面積および無定形バックグラウンドを、Ranら,「Mesophase as the Precursor for Strain−Induced Crystallization in Amorphous Poly (ethylene terephthalate) Film」Macromolecules,(2002),第35巻,10102頁(この内容は、本明細書中に参考として援用される)に記載されるように、2D曲線回帰プログラムによって抽出した。結晶化度を、合計結晶ピーク面積 対 合計回折面積(結晶ピーク面積と無定形バックグラウンド面積とを組み合わせた)の比として計算した。
【0069】
SAXS分析において、合計積分強度もまた、Ran(前出)に記載したような特注のプログラムを使用して計算し、これは、散乱不変量に比例した。
【0070】
そのままのUHMWPE、酸化CNF/UHMWPEおよびMCNF/UHMWPE(0.2重量%および5重量%MCNFを有する)フィルムの応力−歪み曲線を、図5に示す。これらのサンプルの初期モジュライはほぼ同じであったが、MCNF/UHMWPEナノコンポジットフィルム(すなわち、0.2重量%および5重量%MCNFを有する)の両方は、破断伸び率の顕著な増大を示した(そのままのUHMWPEの破断伸び率の約10倍より大きく増大)。0.2重量%酸化CNFフィルムもまた、破断伸び率の増大を示した(そのままのUHMWPEの破断伸び率の約2倍より大きく増大)が、MCNF/UHMWPEナノコンポジットの破断伸び率よりも実質的に小さかった。0.2重量%MCNFサンプルは、破断伸び率の最大値および最大(ultimo)引張り強さを示したので、0.2重量%MCNFサンプルの性能は、予測不能であった。
【0071】
MCNF/UHMWPEナノコンポジットの靱性の改善は、上記のインサイチュでのシンクロトロン広角X線回折(WAXD)を使用して、延伸の間のUHMWPEにおける結晶構造変化をモニタリングすることによって直接的に証明された。PEにおいて、安定な斜方晶相は、応力によって準安定性の単斜晶相に変換され得ることは周知である。このプロセスは、マルテンサイト変態と呼ばれ、この中に、4つの主要なモード:T11、T12、T21およびT22が存在する。2D WAXDデータから、PEにおける斜方晶構造から単斜晶構造の変換に対応する、結晶のマルテンサイト変態は、両方のナノコンポジットサンプルに見られた。
【0072】
斜方晶構造および単斜晶構造の両方を含む、伸長された5重量%MCNFナノコンポジット(208%における歪み)の代表的な2D WAXDパターンを、図6Aに示す。ここでは、斜方晶相の(200)反射および(110)反射ならびに単斜晶相の(010)反射、
【0073】
【数1】
反射および(200)反射は、指標化方式にされる(単斜晶相についての単位格子パラメータは、以下の通りに与えられる:a=8.09Å、b=4.79Å;c=2.54Åおよびγ=107.9Å、ここで、斜方晶相についての単位格子パラメータは以下の通りである:a=7.42Å、b=4.95Å、c=2.54Å)。回折角度および対応する、各々観察した結晶ピークの格子面間隔(d間隔)を、以下の表2に列挙する。
【0074】
(表2:2D WAXDからの結晶回折ピークの2θおよびd間隔の値)
【0075】
【表2】
図6Aに示すように、23.2°の2θ(d間隔=0.34nm)に位置する相対方位非依存性回折環もまた示された。この回折は、CNF内の黒鉛スタッキングからの層間反射に起因し得、従ってその回折を、CNFの(002)ピークと指定した。
【0076】
図6B(逆格子区間)および6C(実空間)に例示される変換モードの概略的提示に基づいて、MCNF/UHMWPEナノコンポジットフィルムの2D WAXDパターンにおいて観察したマルテンサイト変態は、T12モードを示した。いずれの理論によって束縛されることを望むことなく、この結晶転換は、界面流動により開始された、非結晶相における大きな歪み変形に起因したことが考えられる。
【0077】
2D WAXDデータを分析して、0.2重量%のMCNFナノコンポジットフィルムおよび5重量%のMCNFナノコンポジットフィルムにおける単斜晶相および斜方晶相の、結晶化度の全程度および対応する質量分率を決定した。この分析の結果を以下の表3に要約する。
【0078】
(表3:0.2重量% MCNFフィルムおよび5重量%MCNFフィルムの伸長の間の、単斜晶相および斜方晶相における結晶化度ならびに総結晶化度の変化)
【0079】
【表3】
上記のデータより、総結晶化度は、安定な斜方晶相が優勢であった、両方の初期ナノコンポジットサンプルにおいては比較的低い(約40%)ことが分かり得る。125%より下の歪みにおいて、総結晶化度および斜方晶相の画分は、変形の間に迅速に減少したが、一方単斜晶相の画分はそれに応じて増加した。このことは、斜方晶結晶におけるいくつかのポリエチレン鎖が引き抜かれ、いくつかは単斜晶相にさらに変換されたことを示した。(斜方晶相が優勢である)初期微結晶の破壊は、(単斜晶相が優勢である)新たな微結晶の形成よりも多かった。200%を超える歪みにおいて、総結晶化度のわずかな増加は、両方のサンプルで見られ、このことは、歪み誘導結晶化が生じたことを示しており、これはまた、図5に示す歪み硬化挙動の観察と一致した。
【0080】
MCNF/UHMWPEナノコンポジットにおける超靭性な挙動はまた、上記のインサイチュでのSAXS測定により証明された。図7は、室温での伸長の間の両方のナノコンポジットサンプル(0.2重量%MCNFおよび5重量%MCNF)における積分SAXS強度の変化を図示し、これらは反対の傾向を示した(1つは歪みに伴って増加したが、もう1つは減少した)。100%および480%の歪みにおいて収集された、選択した2D WAXD/SAXSパターンもまた、図7に含まれる。いずれの理論によって束縛されることを望むことなく、測定したSAXS強度は、少なくとも2つの寄与を含んだとことが考えられる:(1)CNFからの空間(void)散乱((図3に示されるように)CNFはチューブ様構造を有することは公知であり、この構造は散乱を引き起こし得る)、および(2)結晶化度の変化に起因する散乱。
【0081】
図7に示されるように、5重量%のMCNFフィルムの総強度は、初期段階(0%歪み)における0.2重量% MCNFフィルムの総強度よりもかなり大きかった。このことは、5重量%サンプルにおけるMCNFからの空間散乱のより大きな寄与に起因し得る。0.2重量%のMCNFフィルムについては、総強度は、歪みが200%に到達し、次いでその後に一定値に到達する前に、迅速に低下することが見出され、これは、表3に示される結晶化度の変化に類似した。これは、結晶化度の変化と一致した。なぜなら、伸長の間、MCNFは再配向され得るが、CNFの空間散乱に起因するSAXS強度は、変化するとは予測しなかったからである。従って、0.2重量%フィルムにおけるSAXS強度の減少は、主に、初期伸長段階における結晶化度の減少に起因した。5重量% MCNFフィルムについて、SAXSの全散乱強度は、歪みに伴って増加することが見出され、これは、0.2重量% MCNFフィルムについての強度変化と反対であった。伸長の間の2つのナノコンポジットフィルムにおける結晶化度の変化は(表3に示されるように)類似であったので、この観察は、いくつかの他の予測されない因子は、SAXSにおけるさらなる散乱強度に関与するはずであり、それを生成するはずであることを示した。いずれの理論によって束縛されることを望むことなく、高いMCNF濃度において、MCNFの粒子的相互作用が優勢になることが考えられ、これは、変形の間にポリマーマトリックスにおいていくつかのナノスケールの空間を生成し、結果として、総散乱強度の増加を生じる。
【0082】
図7に示されるように、100%および480%の歪みにおいて収集した、選択したWAXDパターンおよびSAXSパターンは、いくつかの興味深い特徴を示した。第1に、100%歪みにおける0.2重量%のMCNFフィルムについてのSAXS画像は、明白な4点パターンを示し、これは、傾斜構造が伸長方向に対して形成されたことを示している。SAXSにおける4点パターンの傾斜角度は、WAXDにおける原理(principle)結晶回折ピーク(例えば、斜方晶(110)および単斜晶(010))の傾斜角度と類似であった。この知見は、その傾斜構造は主に、結晶中の鎖の傾斜によって生じたことを示した。しかし、上記4点パターンは、5重量% MCNFフィルムのSAXS画像では明確に同定できず、これは、マトリックス中のより大きなMCNF粒子相互作用の存在と一致する。
【0083】
480%歪みにおいて、両方のナノコンポジットフィルムのSAXS画像は、赤道線パターンを示し、これは、サンプル中の配向した原繊維構造を示している。対応するWAXD画像は、結晶配向が高いことを示し、これは、SAXSにおける赤道線は、非相関原繊維様結晶構造からの散乱および非相関MCNFからの散乱に起因したことを実証している。これらの両方は、伸長方向に伴って並んだ。
【0084】
さらに、0.2重量%MCNFフィルムにおける結晶配向は、5重量%MCNFフィルムにおける結晶配向よりも大きかった。このことは、5重量%MCNFフィルムにおけるより大きな粒子的相互作用を示し、これは、伸長の間のポリマー結晶の再構成を阻害する。
【0085】
上記実施例10に記載したナノコンポジットフィルムを、次いで、高温に供し、そのフィルムの靭性を試験した。図8は、118℃におけるUHMWPEおよびMCNF/UHMWPEフィルムの応力−歪み曲線を図示する。室温での応力−歪み曲線と比較して、純粋なUHMWPEフィルムの破断伸び率は、高温での鎖運動性の増大に起因して、(室温での50%から370%へと)118℃において有意に増加することが見出された。鎖運動性の増大は、UHMWPEマトリックスにおけるいくらかの絡み合い抑制を明らかに克服した。しかし、MCNF/UHMWPEフィルムの靭性は、高い破断伸び率(約680%、これは、その室温での値から約20%増大した)で実証されるように、純粋なUHMWPEフィルムの靭性より(約2倍)高かった。0.2重量% MCNFフィルムの性能は、最高の破断伸び率を示しただけでなく、最高の最大(ultimo)引張り強さをも示した。上記ナノコンポジットフィルムの耐力は、純粋なUHMWPEフィルムの耐力よりも低かった。
【0086】
これらのサンプルの118℃での結晶化度もまた、上記手順を使用して試験した。変形の間の、UHMWPEフィルムおよびMCNF/UHMWPEフィルムにおける118℃での結晶化度の変化を、図9に示す。図9から分かり得るように、結晶化度は、全てのサンプルにおいて初期変形段階で(130%より小さい歪みにおいて)急激に減少し、このことは、いくらかの結晶ラメラが、伸長によって、おそらく鎖の引き伸ばしの機構を介して、破壊されたことを示す。130%より大きい歪みにおいて、結晶化度は、歪みに伴ってほぼ直線的に増加することが見出され、このことは、新たな微結晶の再形成(すなわち、歪み誘導結晶化)を示している。図9に示されるように、結晶化度の減少はMCNFの含量に伴って増加したことが見出された;5重量%MCNFフィルムは、最小の結晶化度を示した。
【0087】
純粋なUHMWPEフィルムの融点(133.6℃)は上記サンプルのなかで最も高かったので、純粋なUHMWPEフィルム中のPE結晶の平均サイズはまた、おそらく最大であり、これは、変形の下でより安定な結晶構造をもたらす。MCNF/UHMWPEのより低い融点は、あまり安定でない結晶構造の存在を示唆した、この結晶構造は、たとえ低い変形歪みの下でも、容易に破壊または変化され得る。
【0088】
これは、130%の歪みにおいて収集された高温SAXS画像により確認された(図9を参照のこと)。0.2重量%のフィルムのSAXSパターン(図9Bを参照のこと)は、軸外に沿ったクロスパターンおよび子午線に沿った2点パターンのコンポジット画像を明らかに示したことがわかった。そのクロスパターンは、変形の下に存在するラメラの再構成により生じる傾斜結晶構造の存在を示した。その2点子午線パターンは、ラメラの法線が変形軸に平行である、十分に整列したラメラ構造の存在を示した。高いMCNF含量(図9Cを参照のこと)において、クロスパターンは、SAXSにおいてより優勢になり、一方、対応する散乱強度もまた、より小さくなった。このことは、より程度の大きい結晶の破壊および/または結晶の再配向が、118℃での変形の下、5重量%フィルムで達成されたことを示している。対照的に、より少ない結晶破壊および/または再配向が純粋なUHMWPEフィルムに見出された(図9Aを参照のこと)。
【0089】
MCNF/UHMWPEナノコンポジットのインサイチュWAXD測定において、CNFの黒鉛面の間の空間を満たすことに起因する(002)結晶反射は異方性であることが見出された。5重量%MCNF/UHMWPEサンプルについて、異なる歪みにおける(002)CNF反射(d=3.41Å−1)で得られた実験的方位プロファイルを、図10に示す。(002)黒鉛面の方位プロファイルは、歪みが0の場合、平らな線であったことが見出されており、これは、MCNFが伸長の前に好ましい配向をとることなくランダムに配列されたことを示している。しかし、伸長の際、方位プロファイルは赤道方向(χ=0°)の大きな強度増加を示し、これは、伸長方向に沿ったMCNFの再配置を示している。MCNF配向の程度は、変形歪みの増加に伴って増加した。
【0090】
図11は、118℃での伸長の間のUHMWPEおよびMCNF/UHMWPEフィルムの積分SAXS強度を示す。図11に示されるように、5重量% MCNFフィルムの散乱強度は、初期段階における0.2重量%MCNFフィルムの散乱強度よりもかなり大きく、このことは、高濃度のMCNFからのより大きな空間散乱に起因した。両方のMCNFナノコンポジットフィルムにおける散乱強度の変化は、同様の傾向を示した:散乱強度は100%より下の歪みにおいて減少したが、その後わずかに増加した。この挙動は、図9に示した結晶化度の変化とほぼ同じであり、このことは、散乱強度は主に結晶化度の変化から生じることを示す。0.2重量% MCNFフィルムについては、高温での散乱強度の変化は室温での散乱強度に類似した。しかし、5重量%MCNFフィルムについては、その挙動は、かなり異なった。高温での粒子的相互作用から生じる過剰な空間散乱はないように思われた。このことは、マトリックスにおける鎖運動性の大きな増加に起因し得、この鎖運動性は充填効果を最小にした。
【0091】
図11に示すように、580%歪みで収集されたWAXD画像は、両方のナノコンポジットサンプルにおいて高度に配向したPE結晶回折像を示した。これらのWAXD画像における原理結晶回折ピーク(例えば、(110))から計算されたHermann配向因子は全て、値1に近づき、このことは、UHMWPEにおける結晶配向はほぼ完全であったことを示している。0.2重量%MCNFフィルムについて、SAXD画像は、弱い赤道線散乱パターンが重ねられた、非常に強いクロスパターンを示した(これは、図7に示される4点パターンとは非常に異なった)。5重量%MCNFフィルムにおいて、SAXD画像は、クロス線特徴および赤道線特徴の両方からの強力な寄与を有するコンポジットパターンを示した。赤道線散乱は、以下の2つの因子に起因し得る:(1)相関していない原繊維様結晶構造からの散乱;および(2)配向しているが相関していないMCNFからの散乱。いずれの理論によって束縛されることを望まないが、第2因子は優勢なものであり、これは、5重量% MCNFフィルムにおける赤道散乱のより大きな画分を説明すると考えられる。
【0092】
クロスパターンは、結晶内の、伸長方向に完全に平行なポリマー鎖を含む傾斜結晶超構造に起因し得る(なぜなら、Hermanの配向因子は約1であるからである)。この結晶超構造アセンブリの傾斜角度は、引張り変形プロセスの間のせん断運動により生じ得る。
【0093】
上記から、本開示のナノコンポジットは未処理UHMWPEよりも靭性であることが分かり得る。図5の応力−歪み曲線の下の積分面積を使用してフィルムの靭性を測定すると、0.2重量%MCNFフィルムおよび5重量%MCNFフィルムの靭性値は、それぞれ、純粋なUHMWPEフィルムの靭性値の約16倍および約14倍であり、0.2重量%酸化CNFフィルムの靭性値の約7倍および約6倍であった。この観察は、MCNF/UHMWPEナノコンポジットの超靭性な性能の指標であった。
【0094】
ナノコンポジットのモジュールは、そのままの樹脂と比較した場合に増大するはずであると予測されるが、このことは、予想外にも示されなかった。UHMWPEおよびMCNF/UHMWPEフィルムの同様のモジュリは、UHMWPEへのMCNFの添加は代表的な充填効果を示さなかったことを示した。なぜなら、MCNFのモジュールは約600GPaであるからである。これは、ポリエチレン伸長鎖結晶のモジュール(240〜340 GPa)よりも大きい。従って、MCNF/UHMWPEフィルムにおける靭性の実質的な改善は、充填ポリマーについての、充填ポリマーで発生した応力場の重なりおよび/または応力状態の遷移に基づく従来の応力場理論によって説明できない。
【0095】
加圧UHMWPEフィルムで示される脆性は、低い破断伸び率に起因し得る。ポリスチレンの平衡熔融温度より上の約40℃で始まる、180℃でのホットプレスプロセスは、非常に多くの鎖の絡み合いを生成し、これは、室温での最終サンプルの延伸能力をひどく阻害した。このことは、上の表Iに示すDSCデータと一致した。表Iでは、加圧サンプルの結晶化度(Xc)(約54%)は、重合時のサンプルの結晶化度(約80%)よりもかなり小さかった。この結果は、驚くべきことではない。なぜなら、溶融加圧UHMWPEにおける高い鎖の絡み合いは、結晶化プロセスを抑制し得、より小さい結晶化度をもたらし得るからである。
【0096】
上記のことは、鎖絡み合い密度がさらに増大する場合、この密度はより小さな破断伸び率をもたらし得ることを示した。しかし、MCNF/UHMWPEサンプルにおいて、結晶化度は予想外に、さらに低い(0.2重量%MCNFサンプルについては41%、5重量%MCNFサンプルについては38%)ことが見出され、このことは、鎖絡み合い密度は上記ナノコンポジットで減少しなかったことを示す。従って、MCNF/UHMWPEナノコンポジットにおける、より向上した破断伸び率は、UHMWPEにおける高い絡み合いの障害を克服する、いくつかの他の因子に起因した。
【0097】
初期伸長段階において、5重量%MCNFフィルムにおける総結晶化度は、よりゆっくりな速度において、0.2重量%フィルムにおける総結晶化度よりも小さくなった(表3を参照のこと)。このことは、5重量%サンプルにおける(鎖の引き出しを介する)結晶破壊および再形成(またはマルテンサイト変態)のプロセスは、伸長の下での界面流動のより大きな程度に起因して遅延されたことを示した。初期ナノコンポジットサンプルはランダムに配向したので、伸長変形は以下のプロセスを誘導した:(1)MCNFおよびPE結晶の再配向;および(2)PE結晶の破壊および再形成。MCNFのまわりでの高程度の界面流動は、初期変形プロセスにおいて5重量%サンプルの塑性流動挙動を大きく促進したが、高濃度のMCNFはまた、サンプルの総延び(extention)を阻害し、このことは、粒子的相互作用に起因する代表的な充填効果から予測できた。
【0098】
対照的に、UHMWPEへのMCNF(0.2重量%)の少しの添加は、破断伸び率(50%から500%へと、>10倍増加)および引張り強度(約2倍増加)を同時に改善し、このことは、完全に予測できなかった。
【0099】
MCNF/UHMWPEナノコンポジットフィルムにおける靱性の増大は、室温で非常に顕著であり、118℃でも顕著であった。いずれの理論によって束縛されることを望まないが、予測外の大きな破断伸び率(室温で>500%)は、主に、MCNF(ここで、(図12に図式的に示されるように)炭化水素短鎖(n=18)の緻密層が繊維表面に存在した)の独特の特徴に起因し得ると考えられる。これらの短鎖は溶媒分子のように作用し、周囲のポリエチレン長鎖を膨潤させるので、MCNF/UHMWPE界面に高程度の鎖運動性が存在した。UHMWPE/Cl8のゲル状態はMCNFの表面上に形成されることが考えられ得、ここでは、UHMWPE濃度範囲は以下のように見積もられた。MCNF表面上のオクタデシル基(n=18)の最大の長さが約16Åである場合(すなわち、見込みのない、伸展結晶状態において)、オクタデシル層の最大密度は約60%である(CNFの外径は約100nm、CNFの内側ホール直径は約80nm、CNFにおける炭素層の密度は約2.1g/cm3と仮定すると、約400個の炭素原子ごとに1個のオクタデシルアミドの鎖付加を有した)。従って、MCNF界面におけるUHMWPE/Cl8のゲル状態のUHMWPE濃度範囲は、0〜40重量%の間であり、このことは、MCNF表面上の2つの限定的なUHMWPE濃度値を表している。CNFおよび付加Cl8鎖は不相溶性なので、MCNF/UHMWPE界面における実際のUHMWPE濃度は、40重量%に近かった。
【0100】
上記より、低い歪みにおいて、運動性の界面は機械的特性全体には顕著に影響を与えなかったが、高い歪みにおいては、MCNF界面における運動性のUHMWPE鎖は、UHMWPEマトリックスにおける鎖の絡み合いの障害を克服し、巨視的なスケールの塑性流動を誘導したことがわかることができる。MCNFの近接の界面流動は、MCNFの配列を配向させ、ポリマー鎖の伸長を生じ、結果として、上記ナノコンポジットにおいて破断伸び率の顕著な増加および歪み硬化挙動を生じた(図6および図10を参照のこと)。高い歪みにおいて、0.2重量%MCNFフィルムの機械的特性は、5重量%MCNFフィルムの機械的特性よりも優れていた。この挙動は、界面近くのポリマー鎖の伸長を阻害した、高濃度での充填相互作用によって説明できる。
【0101】
まとめると、カーボンナノファイバーのオクタデシルアミド基(n=18を有する炭化水素短鎖)での表面修飾は、熔融加工の間、UHMWPEへのMCNFの分散を顕著に促進した。少量のMCNF(例えば、0.2重量%)しか有さないナノコンポジットフィルムは、破断伸び率の顕著な改善、そのようにして得られる靭性の改善を示した。従って、MCNF/UHMWPEは、超靭性な性能を有する、新たなタイプのナノコンポジットを表す。未修飾CNFの使用は、靭性の顕著な改善を示さなかった。MCNF/UHMWPEナノコンポジットの超靭性な性能は、おそらくゲル様形態(結合したオクタデシルアミド基がUHMWPEに対して溶媒分子として作用する)をとるUHMWPE鎖の界面流動によって誘導される、塑性流動に起因し、この塑性流動は、MCNFの近接の固体UHMWPEの代表的な絡み合いの問題(従って脆性)を克服できる。インサイチュでのシンクロトロンWAXDは、MCNF含量の増加はより高程度の塑性流動を誘導したが、充填剤相互作用の増加は、破断伸び率を減少したことを示した。最適な靭性の改善は、UHMWPEへの非常に小画分のMCNFの組込みで生じた。
【0102】
上記実施例は、カーボンナノファイバーの表面修飾が、本開示のMCNF、およびMCNFと超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)とに基づくナノコンポジットを生成することを実証した。熔融加圧MCNF/UHMWPEフィルムは、超靭性な性能を示したが、同条件下で加工したそのままのUHMWPEフィルムは、非常に脆性であった。従って、本開示のMCNFは、UHMWPEマトリックスの靭性を改善する2つの独特の特徴を導入した:(1)UHMWPEに対して溶媒分子として作用する、表面グラフト化炭化水素長鎖は、熔融処理の間にUHMWPEへのMCNFの分散を大きく増大した;および(2)MCNF/UHMWPE界面における膨潤ポリマー鎖は、変形の間に塑性流動挙動を誘導し、上記ナノコンポジットの破断伸び率(延伸能力)を顕著に改善した。Daltonら、前出により調製されたSWNT/PVAナノコンポジットファイバー(ここでは、SWNTが優勢な相であり(約60重量%)、PVAの役割が主に「接着剤」である)とは対照的に、UHMWPEにおけるMCNFの量は、非常に少なかった(MCNFの最大ロード%は、10重量%であり、MCNFの役割は、主に靭性増大因子である)。
【0103】
上記記載は、本開示に従う方法の多くの特定の詳細を含むが、これらの特定の詳細は、本開示の範囲に対する限定として解釈されるべきでなく、単に本開示の範囲の好ましい実施形態の例示として解釈されるべきである。当業者は、全てが本開示の範囲および精神の範囲内である、多くの他の可能な改変を構想する。
【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1】図1は、本開示に従って製造されたナノコンポジットファイバーの断面図の走査型電子顕微鏡写真である。
【図2】図2Aは、CNF、酸化CNFおよびMCNFについて得られたラマンスペクトルのグラフである。図2Bは、CNF、酸化CNFおよびMCNFについて得られた熱重量分析(TGF)結果のグラフである。
【図3】図3は、未処理CNFサンプルの代表的なSEM写真である。
【図4】図4は、5重量%MCNFを含む、断面MCNF/UHMWPEナノコンポジットフィルムの代表的なSEM写真である。
【図5】図5は、熔融加圧UHMWPE、酸化CNF/UHMWPE、およびMCNF/UHMWPE(0.2重量%MCNFおよび5重量%MCNFを含む)フィルムから得られた、応力−歪み曲線のグラフである。
【図6】図6Aは、208%の歪みにおける伸長のもとで、5重量%MCNFナノコンポジットフィルムの2D WAXDパターンである。図6Bは、MCNF/UHMWPEコンポジットフィルム(逆格子空間における(001)平面上に突き出たポリエチレンの単斜セル)のマルテンサイト変態の略図型である。図6Cは、MCNF/UHMWPEコンポジットフィルム(実空間における(001)平面上に突き出たポリエチレンの単斜セル)のマルテンサイト変態の略図型である。
【図7】図7は、室温での伸展の間、MCNH/UHMWPEナノコンポジットにおける総SAXS強度変化を示すグラフである;また、それぞれ、100%および480%の歪みにおける選択されたWAXDパターンおよびSAXSパターンが含まれる。
【図8】図8は、118℃におけるUHMWPEフィルムおよびMCNF/UHMWPEフィルムの応力−歪み曲線のグラフである。
【図9】図9は、118℃におけるUHMWPEフィルムおよびMCNF/UHMWPEフィルムについての結晶化度の変化および種々の歪みを示すグラフである(挿入図は、全てが130%の歪みにおける、UHMWPEフィルムのSAXSパターン(図9A);0.2重量%MCNF/UHMWPEフィルムのSAXSパターン(図9B);5重量%MCNF/UHMWPEフィルムのSAXSパターン(図9C)を表す)。
【図10】図10は、(5重量%MCNFフィルムの2D WAXDパターンから)種々の歪みにおける(002)MCNF黒鉛平面(q=1.862Å−1)における方位角強度プロフィールを示すグラフである。
【図11】図11は、118℃での伸展の間、MCNH/UHMWPEナノコンポジットにおける総SAXS強度変化を示すグラフである;また、それぞれ、100%および580%の歪みにおける選択されたWAXDパターンおよびSAXSパターンが含まれる。
【図12】図12は、オリゴマー炭化水素鎖の層を有するMCNFにおける界面の略図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノコンポジットであって、以下:
約70重量%〜約99.99重量%の少なくとも1つのポリオレフィン;および
約0.01重量%〜約30重量%の少なくとも1つの修飾カーボンナノチューブを含み、
ここで、該修飾カーボンナノチューブは、アルキレンおよびアミンからなる群より選択される、少なくとも1つの修飾因子で機能化されている、ナノコンポジット。
【請求項2】
前記カーボンナノチューブが、単層ナノチューブを含む、請求項1に記載のナノコンポジット。
【請求項3】
前記カーボンナノチューブが、多層ナノチューブを含む、請求項1に記載のナノコンポジット。
【請求項4】
前記カーボンナノチューブが、カーボンナノファイバーを含む、請求項1に記載のナノコンポジット。
【請求項5】
前記少なくとも1つの修飾因子が、イソプレン、ブタジエン、イソブタジエンおよびそれらの混合物からなる群より選択されるアルケンである、請求項1に記載のナノコンポジット。
【請求項6】
請求項1に記載のナノコンポジットであって、前記少なくとも1つの修飾因子が、オクチルアミン、デシルアミン、ドデシルアミン、ヘキサデシルアミン、オクタデシルアミン、前記カーボンナノチューブの長軸に平行に付加炭化水素を配向させ得るアミン末端化分枝状炭化水素鎖、およびそれらの混合物からなる群より選択されるアミンである、ナノコンポジット。
【請求項7】
前記修飾因子が、イソプレンおよびオクタデシルアミンからなる群より選択される、請求項1に記載のナノコンポジット。
【請求項8】
前記ポリオレフィンが、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレンコポリマー、超高分子量ポリエチレン、高圧法低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、直鎖状中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、および修飾ポリエチレンからなる群より選択される、請求項1に記載のナノコンポジット。
【請求項9】
前記ポリオレフィンが、超高分子量ポリエチレンを含む、請求項1に記載のナノコンポジット。
【請求項10】
請求項1に記載のナノコンポジットを含む、ファイバー。
【請求項11】
請求項1に記載のナノコンポジットを含む、フィルム。
【請求項12】
ナノコンポジットを製造する方法であって、該方法は、
少なくとも1つのカーボンナノチューブを入手する工程;
該少なくとも1つのカーボンナノチューブと、アルケンおよびアミンからなる群より選択される少なくとも1つの修飾因子とを合わせることによって、該少なくとも1つのカーボンナノチューブを機能化して、修飾カーボンナノチューブを製造する工程;ならびに
該修飾カーボンナノチューブとポリオレフィンとをブレンドして、該ナノコンポジットを製造する工程
を包含する、方法。
【請求項13】
前記少なくとも1つのカーボンナノチューブを入手する工程が、該カーボンナノチューブとして単層カーボンナノチューブを入手する工程を包含する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記少なくとも1つのカーボンナノチューブを入手する工程が、該カーボンナノチューブとして多層カーボンナノチューブを入手する工程を包含する、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記少なくとも1つのカーボンナノチューブを入手する工程が、該カーボンナノチューブとしてカーボンナノファイバーを入手する工程を包含する、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
前記少なくとも1つのカーボンナノチューブを機能化する工程が、該少なくとも1つのカーボンナノチューブに、塩素酸カリウム、過塩素酸カリウム、硫酸、塩酸およびそれらの組み合わせからなる群より選択される酸を適用することによって、該少なくとも1つのカーボンナノチューブ上に表面酸性基を発生させる工程をさらに包含する、請求項12に記載の方法。
【請求項17】
前記少なくとも1つのカーボンナノチューブを機能化する工程が、イソプレン、ブタジエン、イソブタジエンおよびそれらの混合物からなる群より選択されるアルケン修飾因子を使用する、請求項12の記載の方法。
【請求項18】
前記少なくとも1つのカーボンナノチューブを機能化する工程が、イソプレンを含むアルケン修飾因子を使用する、請求項12の記載の方法。
【請求項19】
請求項17に記載の方法であって、前記少なくとも1つのカーボンナノチューブを機能化する工程が、該少なくとも1つのカーボンナノチューブおよび少なくとも1つの修飾因子を、約90℃〜約180℃の範囲の温度にまで、約5時間〜約15時間の範囲の時間にわたって加熱する工程を包含する、方法。
【請求項20】
前記少なくとも1つのカーボンナノチューブ上に表面酸性基を発生させる工程が、酸として塩素酸カリウム/硫酸溶液を使用する、請求項12に記載の方法。
【請求項21】
請求項12に記載の方法であって、前記少なくとも1つのカーボンナノチューブを機能化する工程が、オクチルアミン、デシルアミン、ドデシルアミン、ヘキサデシルアミン、オクタデシルアミン、該カーボンナノチューブの長軸に平行に付加炭化水素を配向させ得るアミン末端化分枝状炭化水素鎖、およびそれらの混合物からなる群より選択されるアミン修飾因子を使用する、方法。
【請求項22】
前記少なくとも1つのカーボンナノチューブを機能化する工程が、オクタデシルアミンを含む修飾因子を利用する、請求項12に記載の方法。
【請求項23】
請求項21に記載の方法であって、前記少なくとも1つのカーボンナノチューブを機能化する工程が、該少なくとも1つのカーボンナノチューブおよび少なくとも1つの修飾因子を、約100℃〜約300℃の範囲の温度にまで、約12時間〜約30時間の範囲の時間にわたって加熱する工程を包含する、方法。
【請求項24】
請求項12に記載の方法であって、前記修飾カーボンナノチューブとポリオレフィンとをブレンドする工程が、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレンコポリマー、超高分子量ポリエチレン、高圧法低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、直鎖状中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、および修飾ポリエチレンからなる群より選択されるポリオレフィンを使用する、方法。
【請求項25】
前記修飾カーボンナノチューブとポリオレフィンとをブレンドする工程が、該ポリオレフィンとして超高分子量ポリエチレンを使用する、請求項12に記載の方法。
【請求項26】
前記修飾カーボンナノチューブとポリオレフィンとをブレンドする工程が、該修飾カーボンナノチューブおよびポリオレフィンと、デカリン、低分子量パラフィンオイルおよびキシレンからなる群より選択される成分とを混合して、修飾カーボンナノチューブ懸濁液を形成する工程をさらに包含する、請求項12に記載の方法。
【請求項27】
前記修飾カーボンナノチューブとポリオレフィンとをブレンドする工程が、該ポリオレフィンとデカリンとを混合して、ポリオレフィン溶液を形成する工程をさらに包含する、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
請求項27に記載の方法であって、前記修飾カーボンナノチューブとポリオレフィンとをブレンドする工程が、前記修飾カーボンナノチューブ懸濁液と前記ポリオレフィン溶液とを、約60℃〜約170℃の範囲の温度で、約30分〜約300分間の範囲の時間にわたって混合する工程をさらに包含する、方法。
【請求項29】
請求項12に記載の方法に従って製造された、ナノコンポジット。
【請求項30】
請求項12に記載の方法に従って製造されたナノコンポジットを含む、ファイバー。
【請求項31】
請求項12に記載の方法に従って製造されたナノコンポジットを含む、フィルム。
【請求項1】
ナノコンポジットであって、以下:
約70重量%〜約99.99重量%の少なくとも1つのポリオレフィン;および
約0.01重量%〜約30重量%の少なくとも1つの修飾カーボンナノチューブを含み、
ここで、該修飾カーボンナノチューブは、アルキレンおよびアミンからなる群より選択される、少なくとも1つの修飾因子で機能化されている、ナノコンポジット。
【請求項2】
前記カーボンナノチューブが、単層ナノチューブを含む、請求項1に記載のナノコンポジット。
【請求項3】
前記カーボンナノチューブが、多層ナノチューブを含む、請求項1に記載のナノコンポジット。
【請求項4】
前記カーボンナノチューブが、カーボンナノファイバーを含む、請求項1に記載のナノコンポジット。
【請求項5】
前記少なくとも1つの修飾因子が、イソプレン、ブタジエン、イソブタジエンおよびそれらの混合物からなる群より選択されるアルケンである、請求項1に記載のナノコンポジット。
【請求項6】
請求項1に記載のナノコンポジットであって、前記少なくとも1つの修飾因子が、オクチルアミン、デシルアミン、ドデシルアミン、ヘキサデシルアミン、オクタデシルアミン、前記カーボンナノチューブの長軸に平行に付加炭化水素を配向させ得るアミン末端化分枝状炭化水素鎖、およびそれらの混合物からなる群より選択されるアミンである、ナノコンポジット。
【請求項7】
前記修飾因子が、イソプレンおよびオクタデシルアミンからなる群より選択される、請求項1に記載のナノコンポジット。
【請求項8】
前記ポリオレフィンが、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレンコポリマー、超高分子量ポリエチレン、高圧法低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、直鎖状中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、および修飾ポリエチレンからなる群より選択される、請求項1に記載のナノコンポジット。
【請求項9】
前記ポリオレフィンが、超高分子量ポリエチレンを含む、請求項1に記載のナノコンポジット。
【請求項10】
請求項1に記載のナノコンポジットを含む、ファイバー。
【請求項11】
請求項1に記載のナノコンポジットを含む、フィルム。
【請求項12】
ナノコンポジットを製造する方法であって、該方法は、
少なくとも1つのカーボンナノチューブを入手する工程;
該少なくとも1つのカーボンナノチューブと、アルケンおよびアミンからなる群より選択される少なくとも1つの修飾因子とを合わせることによって、該少なくとも1つのカーボンナノチューブを機能化して、修飾カーボンナノチューブを製造する工程;ならびに
該修飾カーボンナノチューブとポリオレフィンとをブレンドして、該ナノコンポジットを製造する工程
を包含する、方法。
【請求項13】
前記少なくとも1つのカーボンナノチューブを入手する工程が、該カーボンナノチューブとして単層カーボンナノチューブを入手する工程を包含する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記少なくとも1つのカーボンナノチューブを入手する工程が、該カーボンナノチューブとして多層カーボンナノチューブを入手する工程を包含する、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記少なくとも1つのカーボンナノチューブを入手する工程が、該カーボンナノチューブとしてカーボンナノファイバーを入手する工程を包含する、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
前記少なくとも1つのカーボンナノチューブを機能化する工程が、該少なくとも1つのカーボンナノチューブに、塩素酸カリウム、過塩素酸カリウム、硫酸、塩酸およびそれらの組み合わせからなる群より選択される酸を適用することによって、該少なくとも1つのカーボンナノチューブ上に表面酸性基を発生させる工程をさらに包含する、請求項12に記載の方法。
【請求項17】
前記少なくとも1つのカーボンナノチューブを機能化する工程が、イソプレン、ブタジエン、イソブタジエンおよびそれらの混合物からなる群より選択されるアルケン修飾因子を使用する、請求項12の記載の方法。
【請求項18】
前記少なくとも1つのカーボンナノチューブを機能化する工程が、イソプレンを含むアルケン修飾因子を使用する、請求項12の記載の方法。
【請求項19】
請求項17に記載の方法であって、前記少なくとも1つのカーボンナノチューブを機能化する工程が、該少なくとも1つのカーボンナノチューブおよび少なくとも1つの修飾因子を、約90℃〜約180℃の範囲の温度にまで、約5時間〜約15時間の範囲の時間にわたって加熱する工程を包含する、方法。
【請求項20】
前記少なくとも1つのカーボンナノチューブ上に表面酸性基を発生させる工程が、酸として塩素酸カリウム/硫酸溶液を使用する、請求項12に記載の方法。
【請求項21】
請求項12に記載の方法であって、前記少なくとも1つのカーボンナノチューブを機能化する工程が、オクチルアミン、デシルアミン、ドデシルアミン、ヘキサデシルアミン、オクタデシルアミン、該カーボンナノチューブの長軸に平行に付加炭化水素を配向させ得るアミン末端化分枝状炭化水素鎖、およびそれらの混合物からなる群より選択されるアミン修飾因子を使用する、方法。
【請求項22】
前記少なくとも1つのカーボンナノチューブを機能化する工程が、オクタデシルアミンを含む修飾因子を利用する、請求項12に記載の方法。
【請求項23】
請求項21に記載の方法であって、前記少なくとも1つのカーボンナノチューブを機能化する工程が、該少なくとも1つのカーボンナノチューブおよび少なくとも1つの修飾因子を、約100℃〜約300℃の範囲の温度にまで、約12時間〜約30時間の範囲の時間にわたって加熱する工程を包含する、方法。
【請求項24】
請求項12に記載の方法であって、前記修飾カーボンナノチューブとポリオレフィンとをブレンドする工程が、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレンコポリマー、超高分子量ポリエチレン、高圧法低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、直鎖状中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、および修飾ポリエチレンからなる群より選択されるポリオレフィンを使用する、方法。
【請求項25】
前記修飾カーボンナノチューブとポリオレフィンとをブレンドする工程が、該ポリオレフィンとして超高分子量ポリエチレンを使用する、請求項12に記載の方法。
【請求項26】
前記修飾カーボンナノチューブとポリオレフィンとをブレンドする工程が、該修飾カーボンナノチューブおよびポリオレフィンと、デカリン、低分子量パラフィンオイルおよびキシレンからなる群より選択される成分とを混合して、修飾カーボンナノチューブ懸濁液を形成する工程をさらに包含する、請求項12に記載の方法。
【請求項27】
前記修飾カーボンナノチューブとポリオレフィンとをブレンドする工程が、該ポリオレフィンとデカリンとを混合して、ポリオレフィン溶液を形成する工程をさらに包含する、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
請求項27に記載の方法であって、前記修飾カーボンナノチューブとポリオレフィンとをブレンドする工程が、前記修飾カーボンナノチューブ懸濁液と前記ポリオレフィン溶液とを、約60℃〜約170℃の範囲の温度で、約30分〜約300分間の範囲の時間にわたって混合する工程をさらに包含する、方法。
【請求項29】
請求項12に記載の方法に従って製造された、ナノコンポジット。
【請求項30】
請求項12に記載の方法に従って製造されたナノコンポジットを含む、ファイバー。
【請求項31】
請求項12に記載の方法に従って製造されたナノコンポジットを含む、フィルム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公表番号】特表2007−504338(P2007−504338A)
【公表日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−526198(P2006−526198)
【出願日】平成16年9月3日(2004.9.3)
【国際出願番号】PCT/US2004/028767
【国際公開番号】WO2005/084167
【国際公開日】平成17年9月15日(2005.9.15)
【出願人】(506072789)リサーチ ファウンデーション オブ ステイト ユニバーシティー オブ ニューヨーク (4)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年9月3日(2004.9.3)
【国際出願番号】PCT/US2004/028767
【国際公開番号】WO2005/084167
【国際公開日】平成17年9月15日(2005.9.15)
【出願人】(506072789)リサーチ ファウンデーション オブ ステイト ユニバーシティー オブ ニューヨーク (4)
【Fターム(参考)】
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