説明

ポリオレフィン樹脂水性分散体の製造方法

【課題】分散粒子径がより小さく、ポットライフの延長化されたポリオレフィン樹脂水性分散体を提供する。
【解決手段】炭素数3〜6の不飽和炭化水素成分を60質量%以上含有するポリオレフィン樹脂(A)50〜98質量部と、不飽和カルボン酸成分(B1)、エチレン成分(B2)および(メタ)アクリル酸エステル成分(B3)を含有するポリオレフィン樹脂(B)50〜2質量部とを溶融混練する混合工程(I)と、得られた混合樹脂を水性媒体に分散化する乳化工程(II)を含むことを特徴とするポリオレフィン樹脂水性分散体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリオレフィン樹脂水性分散体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プロピレンやブテンなどを含有するポリオレフィン樹脂は、力学特性や電気特性等の物性のバランスが良好であり、さらに安価であることから、自動車、電気、包装等の各種分野で幅広く、しかも大量に使用されている。さらに、近年、そのような材料に高付加価値や高機能性を付与するためのコーティング剤に関する研究・開発も盛んに行われるようになってきた。ここで、ポリオレフィン樹脂のコーティング剤は、大別して溶剤系と水系とがあるが、環境保護、省資源、消防法等による危険物規制などの立場から水系のコーティング剤が望まれており、ポリオレフィン樹脂の水性分散化方法について多くの検討が行われている。
このような中、プロピレンやブテン等の成分を主体とするポリオレフィン樹脂を、乳化 剤、保護コロイド、高酸価ワックスなどの不揮発性の親水性化合物を使用せずにポリオレフィン樹脂の水性化の方法が提案されている(特許文献1)。
【0003】
【特許文献1】国際公開第2004/104090号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では乳化剤などを使用していないためポリオレフィン樹脂が有する性能を最大限に引き出すことが可能であるが、水性分散体のポットライフの延長などのニーズに応えるためにはさらなる改良が必要であった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、プロピレンやブテンなどの炭素数3〜6の不飽和炭化水素成分を主成分として含有するポリオレフィン樹脂を水性化する際に、この樹脂をあらかじめ、不飽和カルボン酸成分、エチレン成分およびアクリル酸エステル成分を含有する他のポリオレフィン樹脂と溶融混合しておくと、得られる水性分散体における分散粒径がいっそう小さくなり、ポットライフなどの特性が改善されることを見出し、本発明に到達した。
すなわち本発明の要旨は、以下のとおりである。
(1)炭素数3〜6の不飽和炭化水素成分を60質量%以上含有するポリオレフィン樹脂(A)50〜98質量部と、不飽和カルボン酸成分(B1)、エチレン成分(B2)および(メタ)アクリル酸エステル成分(B3)を含有するポリオレフィン樹脂(B)50〜2質量部とを溶融混練する混合工程(I)と、得られた混合樹脂を水性溶媒に分散化する乳化工程(II)を含むことを特徴とするポリオレフィン樹脂水性分散体の製造方法。
(2)乳化工程(II)において、混合樹脂を塩基性化合物、水性有機溶剤および水とともに80〜250℃の温度で加熱することを特徴とする上記(1)記載のポリオレフィン樹脂水性分散体の製造方法。
(3)前記製造方法により得られるポリオレフィン樹脂水性分散体。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、炭素数3〜6の不飽和炭化水素を主体とするポリオレフィン樹脂の水性分散体において、その分散粒子径を小さくすることができ、結果としてポットライフの長期化が可能になるとともに、コーティングの際にはより薄塗りが可能となり、低温造膜性も改良される。そして、得られる塗膜は、耐水性、耐アルカリ性に優れるとともに、様々な基材、特にポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂基材に良好な接着性と高いヒートシール性を有しているため、水性分散体は、プライマー、接着剤、塗料のバインダー等の用途に好適に使用できる。
【0007】
また、本発明は水性媒体を使用しているので、環境保護、省資源、消防法等の面からも好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0009】
ポリオレフィン樹脂(A)は、炭素数3〜6の不飽和炭化水素を60質量%以上含有したものである。炭素数3〜6の不飽和炭化水素としては、プロピレン、イソブチレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン等が挙げられ、混合して用いてもよい。中でも、プロピレン、イソブチレン、1−ブテンがより好ましく、特にプロピレンを主成分とすることがより好ましい。特に、エチレン−プロピレン、エチレン−ブテン、プロピレン−ブテン、エチレン−プロピレン−ブテンを不飽和炭化水素成分とすることが、水性化のし易さやオレフィン基材に対する接着性の点から特に好ましい。
【0010】
ポリオレフィン樹脂(A)は不飽和カルボン酸成分を0.5〜10質量%含有していることが分散安定性の向上の点から好ましく、より好ましくは1〜8質量%であり、さらに好ましくは2〜7質量%である。
【0011】
不飽和カルボン酸成分は、分子内(モノマー成分内)に少なくとも1個のカルボキシル基または酸無水物基を有する化合物であり、具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、フマル酸、クロトン酸等のほか、不飽和ジカルボン酸のハーフエステル、ハーフアミド等が挙げられる。中でもアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸が好ましく、特にアクリル酸、無水マレイン酸が好ましい。また不飽和カルボン酸は、ポリオレフィン樹脂中に共重合されていれば良く、その形態は限定されるものではなく、例えばランダム共重合、ブロック共重合、グラフト共重合等が挙げられる。
【0012】
また、上記成分以外に他の成分をポリオレフィン樹脂(A)全体の10質量%以下程度、含有していてもよく、他の成分としては、1−オクテン、ノルボルネン類等の炭素数7以上のアルケン類やジエン類、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル等の(メタ)アクリル酸エステル類、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジブチル等のマレイン酸エステル類、(メタ)アクリル酸アミド類、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテルなどのアルキルビニルエーテル類、ぎ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル等のビニルエステル類ならびにビニルエステル類を塩基性化合物等でケン化して得られるビニルアルコール、2−ヒドロキシエチルアクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロニトリル、スチレン、置換スチレン、ハロゲン化ビニル類、ハロゲン化ビリニデン類、一酸化炭素、二酸化硫黄などが挙げられ、これらの混合物を用いることもできる。
【0013】
ポリオレフィン樹脂(A)は、分子量の目安となる190℃、2160g荷重におけるメルトフローレートが、0.01〜5000g/10分の範囲であれば好ましい。より好ましくは0.1〜1000g/10分、さらに好ましくは1〜500g/10分、最も好ましくは1〜300g/10分である。ポリオレフィン樹脂(A)のメルトフローレートが0.01g/10分未満では、樹脂の水性化が困難になることがある。一方、ポリオレフィン樹脂(A)のメルトフローレートが5000g/10分を超えると、水性分散体から得られる塗膜が、硬くてもろくなり、機械的強度が低下する傾向がある。
【0014】
本発明の製造方法においては、前記ポリオレフィン樹脂(A)に対して、不飽和カルボン酸成分成分(B1)、エチレン成分(B2)および(メタ)アクリル酸エステル(B3)を含有するポリオレフィン樹脂(B)を溶融混練する。
【0015】
ポリオレフィン樹脂(B)の不飽和カルボン酸成分(A1)成分は、良好な水性分散化のために必要であり、その含有量は、ポリオレフィン樹脂(B)の0.01〜10質量%が好ましく、より好ましくは0.1〜8質量%、さらに好ましくは0.5〜5質量%であり、1〜4質量%が最も好ましい。(B1)成分の含有量が10質量%を超える場合は、水性化はより容易になるが、水性分散体から得られる塗膜のポリオレフィン基材に対する接着性が低下する傾向にある。
【0016】
不飽和カルボン酸成分(B1)は、分子内(モノマー成分内)に少なくとも1個のカルボキシル基または酸無水物基を有する化合物であり、具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、フマル酸、クロトン酸等のほか、不飽和ジカルボン酸のハーフエステル、ハーフアミド等が挙げられる。中でもアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸が好ましく、特にアクリル酸、無水マレイン酸が好ましい。また不飽和カルボン酸は、ポリオレフィン樹脂中に共重合されていればよく、その形態は限定されるものではなく、例えばランダム共重合、ブロック共重合、グラフト共重合等が挙げられる。
【0017】
(B3)成分としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ラウリルなどが挙げられ、これらの混合物を用いることもできる。この中で、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、あるいは(メタ)アクリル酸ブチルが特に好ましい。なお、「(メタ)アクリル酸〜」とは、「アクリル酸〜またはメタクリル酸〜」を意味する。)
(B2)成分と(B3)成分との質量比(B2)/(B3)は、より良好な水性分散体を得るために、65/35〜99/1の範囲であることが好ましく、70/30〜95/5であることがより好ましく、75/25〜92/8であることが特に好ましい。
【0018】
ポリオレフィン樹脂(B)には、その他のモノマーが、少量、共重合されていてもよい。例えば、ビニルエーテル類、スチレン、置換スチレン、ジエン類、(メタ)アクリロニトリル、ハロゲン化ビニル類、ハロゲン化ビリニデン類、一酸化炭素、二酸化硫黄等が挙げられる。
【0019】
ポリオレフィン樹脂(B)は、分子量の目安となる190℃、2160g荷重におけるメルトフローレートが0.1〜1000g/10分であれば好ましい。より好ましくは1〜500g/10分、さらに好ましくは1〜400g/10分、最も好ましくは2〜300g/10分のものを用いることができる。メルトフローレートが0.01g/10分未満では、樹脂の水性化が困難になることがある。一方、メルトフローレートが1000g/10分を超えると、水性分散体から得られる塗膜が、硬くてもろくなり、機械的強度が低下する傾向がある。
【0020】
本発明の製造方法においては、前記ポリオレフィン樹脂(A)および(B)を溶融混練し(混合工程)、次いで、得られた混合樹脂を水性媒体に分散化すること(乳化工程)が必要である。2種の樹脂を予め溶融混練することなしに、単に混合されたペレットを水性媒体に分散化したものや、2種の樹脂をそれぞれ水性分散体とした後にこれらを混合したものでは、ポットライフを十分に長くすることができず、また室温付近で造膜した場合の塗膜の透明性が低下する。
【0021】
混合工程(I)において、ポリオレフィン樹脂(A)とポリオレフィン樹脂(B)との比率は(A)/(B)=50〜98(質量部)/50〜2(質量部)とする必要がある。ポリオレフィン樹脂(B)の含有量が2質量部未満の場合は、ポリオレフィン樹脂(A)を水性化(液状化)する効果が小さく、良好な水性分散体を得ることが難しい。一方、ポリオレフィン樹脂(B)の含有量が50質量部を超える場合は、ポリオレフィン樹脂(A)の特性が失われる。樹脂(A)と樹脂(B)の比率は、60〜97(質量部)/40〜3(質量部)であることがより好ましく、70〜95/30〜5であることが特に好ましい。
【0022】
混合工程(I)において、ポリオレフィン樹脂(A)とポリオレフィン樹脂(B)とを溶融混練する混合装置や方法は、特に限定されないが、静止溶融混練器及び/または動的溶融混練機を使用できる。動的溶融混練方法しては、ポリオレフィン樹脂(A)とポリオレフィン樹脂(B)をドライブレンドして、1軸のスクリュー押出機や2軸の混練押出機で溶融混練する方法が挙げられる。中でも、ポリオレフィン樹脂(A)とポリオレフィン樹脂(B)とを連続的に計量し、溶融混練処理することが工業的にも品質的にも好ましい。
【0023】
溶融混練する温度は、ポリオレフィン樹脂(A)またはポリオレフィン樹脂(B)の高い方の融点以上であることが好ましい。また、上限は350℃以下であることが好ましく、300℃以下であることがより好ましい。混練温度が少なくとも一方の樹脂の融点より低い場合には、溶融混練の効果が低下する場合があり、350℃を超える場合は、樹脂の酸化や熱分解が起こり、物性が低下しやすい。
【0024】
次に乳化工程(II)について記載する。
【0025】
上記のように溶融混練して得られた混合樹脂は、公知の乳化方法で水性媒体中に分散することができる。乳化方法としては、混合樹脂を、塩基性化合物、水溶性有機溶剤、水とともに80〜250℃の温度で加熱、攪拌する方法が好ましい。なお、水性媒体とは、水および水溶性有機溶剤からなり、塩基性化合物が水溶性の場合にはこれも含める。
【0026】
塩基性化合物は、ポリオレフィン樹脂中のカルボキシル基を中和して、カルボキシルアニオンを生成させる。アニオン間の電気反発力によって微粒子間の凝集が防がれ、水性分散体に安定性が付与される。塩基性化合物としては、塗膜形成時に揮発するアンモニア又は有機アミン化合物が塗膜の耐水性の面から好ましく、中でも沸点が30〜250℃、さらには50〜200℃の有機アミン化合物が好ましい。沸点が30℃未満の場合は、後述する樹脂の水性化時に揮発する割合が多くなり、水性化が完全に進行しない場合がある。沸点が250℃を超えると樹脂塗膜から乾燥によって有機アミン化合物を飛散させることが困難になり、塗膜の耐水性が悪化する場合がある。
【0027】
有機アミン化合物の具体例としては、トリエチルアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、アミノエタノールアミン、N−メチル−N,N−ジエタノールアミン、イソプロピルアミン、イミノビスプロピルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、3−エトキシプロピルアミン、3−ジエチルアミノプロピルアミン、sec−ブチルアミン、プロピルアミン、メチルアミノプロピルアミン、3−メトキシプロピルアミン、モノエタノールアミン、モルホリン、N−メチルモルホリン、N−エチルモルホリン等を挙げることができる。塩基性化合物の添加量はポリオレフィン樹脂中のカルボキシル基に対して0.5〜3.0倍当量であることが好ましく、0.8〜2.5倍当量がより好ましく、1.01〜2.0倍当量が特に好ましい。0.5倍当量未満では、塩基性化合物の添加効果が認められず、3.0倍当量を超えると塗膜形成時の乾燥時間が長くなったり、水性分散体が着色する場合がある。
【0028】
水溶性有機溶剤は、ポリオレフィン樹脂の水性化を促進し、分散粒子径を小さくさせる。水溶性有機溶剤とは、20℃における水に対する溶解性が10g/L以上のものが好ましく用いられ、さらに好ましくは50g/L以上である。使用する水溶性有機溶剤量は、水性分散体に含まれる全溶媒の40質量%以下が好ましく、1〜40質量%であることがより好ましく、2〜35質量%がさらに好ましく、3〜30質量%が特に好ましい。有機溶剤量が40質量%を超える場合には、実質的に水性媒体とはみなせなくなり、本発明の目的のひとつ(環境保護)を逸脱するだけでなく、使用する有機溶剤によっては水性分散体の安定性が低下してしまう場合がある。全溶媒中の有機溶剤量は、ストリッピング操作によって、適度に減量することができる。
【0029】
本発明において使用される水溶性有機溶剤の具体例としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、n−アミルアルコール、イソアミルアルコール、sec−アミルアルコール、tert−アミルアルコール、1−エチル−1−プロパノール、2−メチル−1−ブタノール、n−ヘキサノール、シクロヘキサノール等のアルコール類、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、エチルブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン等のケトン類、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、酢酸エチル、酢酸−n−プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸−n−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸−sec−ブチル、酢酸−3−メトキシブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、炭酸ジエチル、炭酸ジメチル等のエステル類、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールエチルエーテルアセテート、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート等のグリコール誘導体、さらには、3−メトキシ−3−メチルブタノール、3−メトキシブタノール、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジアセトンアルコール、アセト酢酸エチル等が挙げられ、中でも沸点が30〜250℃のものが好ましく、50〜200℃のものが特に好ましい。これらの有機溶剤は2種以上を混合して使用してもよい。有機溶剤の沸点が30℃未満の場合は、樹脂の水性化時に揮発する割合が多くなり、水性化の効率が十分に高まらない場合がある。沸点が250℃を超える有機溶剤は樹脂塗膜から乾燥によって飛散させることが困難であり、塗膜の耐水性が悪化する場合がある。
上記の有機溶剤の中でも、樹脂の水性化促進に効果が高く、しかも水性媒体中から有機溶剤を除去し易いという点から、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテルが好ましく、低温乾燥性の点からエタノール、n−プロパノール、イソプロパノールが特に好ましい。
【0030】
水性化のための容器は特に限定されず、公知の固/液撹拌装置、乳化機、オートクレーブ等を使用することができる。0.1MPa以上の加圧が可能であれば好ましい。本発明における撹拌の方法、撹拌の回転速度は特に限定されない。樹脂が水性媒体中で浮遊状態となる程度の低速の撹拌でも十分水性化が達成され、高速撹拌(例えば1000rpm以上)は必須ではなく、簡便な装置でも水性分散体の製造が可能である。
【0031】
ポリオレフィン樹脂を水性分散化する際の温度は、80〜250℃とすることが好ましい。より好ましくは90〜200℃、さらに好ましくは100〜190℃である。槽内の温度が80℃未満の場合は、ポリオレフィン樹脂の水性化が不十分となることがある。槽内の温度が250℃を超える場合は、ポリオレフィン樹脂の分子量が低下する恐れがある。
【0032】
また、本発明の方法を用いることでポリオレフィン樹脂は微細かつ安定に分散でき、樹脂の数平均粒子径(以下、mn)は、1μm以下とすることができる。mnは保存安定性や低温造膜性の観点から0.5μm以下とすることが好ましく、0.3μm以下とすることがより好ましく、0.2μm以下とすることがさらに好ましい。さらに、重量平均粒子径(以下、mw)に関しては、1μm以下とすることができ、0.5μm以下が好ましく、0.3μm以下がさらに好ましい。
また、本発明の製造方法を用いることで、ポリオレフィン樹脂(A)を単独で水性分散化したときよりも、分散粒子径を小さくすることができる。
【0033】
本発明の乳化工程(II)においては、乳化剤、保護コロイド、高酸価ワックス等の不揮発性水性化助剤を使用することができる。不揮発性水性化助剤の使用量は、耐水性などの塗膜特性の面から、混合樹脂100質量部に対して10質量部以下とすることが好ましく、5質量部以下がより好ましく、0.1質量部以下とすることがさらに好ましく、使用しないことが最も好ましい。「水性化助剤」とは、水性分散体の製造において、水性化促進や水性分散体の安定化の目的で添加される薬剤や化合物のことであり、「不揮発性」とは、常圧での沸点を有さないか、もしくは、常圧で高沸点(例えば300℃以上)であることを指す。
【0034】
本発明でいう不揮発性水性化助剤としては、乳化剤、保護コロイド作用を有する化合物、高酸価ワックス類、高酸価の酸変性化合物、水溶性高分子などが挙げられる。
乳化剤としては、カチオン性乳化剤、アニオン性乳化剤、ノニオン性乳化剤、あるいは両性乳化剤が挙げられ、一般に乳化重合に用いられるもののほか、界面活性剤類も含まれる。例えば、アニオン性乳化剤としては、高級アルコールの硫酸エステル塩、高級アルキルスルホン酸塩、高級カルボン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルサルフェート塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルサルフェート塩、ビニルスルホサクシネート等が挙げられ、ノニオン性乳化剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、エチレンオキサイドプロピレンオキサイドブロック共重合体、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、エチレンオキサイド−プロピレンオキサイド共重合体などのポリオキシエチレン構造を有する化合物やポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルなどのソルビタン誘導体等が挙げられ、両性乳化剤としては、ラウリルベタイン、ラウリルジメチルアミンオキサイド等が挙げられる。保護コロイド作用を有する化合物、変性ワックス類、高酸価の酸変性化合物、水溶性高分子としては、ポリビニルアルコール、カルボキシル基変性ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、変性デンプン、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸およびその塩、カルボキシル基含有ポリエチレンワックス、カルボキシル基含有ポリプロピレンワックス、カルボキシル基含有ポリエチレン−プロピレンワックスなどの数平均分子量が通常は5000以下の酸変性ポリオレフィンワックス類およびその塩、アクリル酸−無水マレイン酸共重合体およびその塩、スチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、イソブチレン−無水マレイン酸交互共重合体、(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸エステル共重合体等の不飽和カルボン酸含有量が15質量%以上のカルボキシル基含有ポリマーおよびその塩、ポリイタコン酸およびその塩、アミノ基を有する水溶性アクリル系共重合体、ゼラチン、アラビアゴム、カゼイン等、一般に微粒子の分散安定剤として用いられている化合物が挙げられる。
【0035】
本発明の水性分散体において、樹脂の含有率は、成膜条件、目的とする樹脂塗膜の厚さや性能等により適宜選択でき、特に限定されるものではないが、水性分散体の粘性を適度に保ち、かつ良好な塗膜形成能を発現させる点で、1〜50質量%が好ましく、3〜45質量%がより好ましく、5〜40質量%がさらに好ましい。
【0036】
本発明の水性分散体は、公知のコーティング方法によって、種々の基材に塗工することができる。コーティング方法としては、例えばグラビアロールコーティング、リバースロールコーティング、ワイヤーバーコーティング、リップコーティング、エアナイフコーティング、カーテンフローコーティング、スプレーコーティング、浸漬コーティング、はけ塗り法等により各種基材表面に均一にコーティングし、必要に応じて室温付近でセッティングした後、乾燥又は乾燥と焼き付けのための加熱処理に供することにより、均一な樹脂被膜を各種基材表面に密着させて形成することができる。このときの加熱装置としては、通常の熱風循環型のオーブンや赤外線ヒーター等を使用すればよい。
【0037】
基材としては、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46等のポリアミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリトリメチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリ乳酸等のポリエステル樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニルなどのポリオレフィン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリ塩化ビニルまたはそれらの混合物よりなるフィルムまたはそれらのフィルムの積層体が挙げられ、特にポリオレフィン基材に適している。
【実施例】
【0038】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0039】
なお、各種の特性については以下の方法によって測定又は評価した。
【0040】
(1)ポリオレフィン樹脂の構成
オルトジクロロベンゼン(d)中、120℃にてH−NMR分析(バリアン社製、300MHz)を行い求めた。
【0041】
(2)ポリオレフィン樹脂中の不飽和カルボン酸含有量
ポリオレフィン樹脂0.5gを50mlのトルエンに溶解し、クレゾールレッドを指示薬としてKOHのメタノール溶液で滴定から酸価を求め、そこから樹脂中の不飽和カルボン酸含有量を求めた。
【0042】
(3)ポリオレフィン樹脂の融点
樹脂の融点はDSCで測定した(測定装置:パーキン・エルマー社製DSC−7、10℃/分昇温)。
【0043】
(4)ポリオレフィン樹脂のメルトフローレート
JIS 6730記載の方法(190℃、2160g荷重)で測定した。
【0044】
(5)ポリオレフィン樹脂水性分散体の固形分濃度
ポリオレフィン分散体を適量秤量し、これを150℃で残存物(固形分)の質量が恒量に達するまで加熱し、ポリオレフィン樹脂固形分濃度を求めた。
【0045】
(6)ポリオレフィン樹脂粒子の平均粒子径
日機装社製、マイクロトラック粒度分布計UPA150(MODEL No.9340)を用い、数平均粒子径(mn)及び重量平均粒子径(mw)を求めた。
【0046】
(7)ろ過性
水性化後の水性分散体を300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)で加圧濾過した際に、フィルターの詰り具合によって次のように評価した。
○:問題なし
×:フィルターが詰りろ過が困難
【0047】
(8)ポリオレフィン樹脂水性分散体中の有機溶剤の含有率
島津製作所社製ガスクロマトグラフGC−8A〔FID検出器使用、キャリアーガス:窒素、カラム充填物質(ジーエルサイエンス社製):PEG−HT(5%)−Uniport HP(60/80メッシュ)、カラムサイズ:直径3mm×3m、試料投入温度(インジェクション温度):150℃、カラム温度:60℃、内部標準物質:n−ブタノール〕を用い、水性分散体または水性分散体を水で希釈したものを直接装置内に投入して、有機溶剤の含有率を求めた。検出限界は0.01質量%であった。
【0048】
(9)ポリオレフィン樹脂水性分散体のポットライフ
ポリオレフィン樹脂水性分散体を室温で90日放置した後に重量平均粒子径(mw)を測定し、初期(保存0日)のmwを基準に保存後のmw90の増加割合(mw90/mw)を計算して以下のように評価した。
【0049】
○:1.2未満
△:1.2〜1.5
×:1.5を超える
【0050】
(10)塗膜の耐水性
水性分散体を2軸延伸PETフィルム(ユニチカ社製エンブレットPET12,厚み12μm)上に乾燥後の塗膜厚みが約1μmになるようにメイヤーバーでコートし、100℃で2分間乾燥した。このようにして作製したコートフィルムを水道水に1日、浸漬した後、コート層の溶解、あるいは剥離の有無を目視で評価した。
【0051】
○:外観に変化なし、×:コート層が溶解、あるいは剥離する
【0052】
(11)塗膜の耐アルカリ性評価
水性分散体を2軸延伸PETフィルム(ユニチカ社製エンブレットPET12,厚み12μm)上に乾燥後の塗膜厚みが約1μmになるようにメイヤーバーでコートし、100℃で2分間乾燥した。得られたコートフィルムは室温で1日放置後、評価した。塗膜を水酸化ナトリウムでpHを12.0に調製したアルカリ水(30℃)に1日、浸漬した後、コート層の溶解、あるいは剥離の有無を目視で評価した。
【0053】
○:変化なし、×:塗膜が完全に溶解または剥離
【0054】
(12)ヒートシール強度評価
水性分散体を含むコート液を未延伸ポリプロピレン(PP)フィルム(東レ製、厚み60μm)のコロナ処理面およびコロナ未処理面上に乾燥後の塗布量が3g/mになるようにメイヤーバーでコートし、100℃で2分間乾燥した。コート面同士が接するようにして、ヒートプレス機(シール圧3kg/cmで5秒間)にて130℃でプレスした。このサンプルを15mm幅で切り出し、1日後、引張り試験機(インテスコ社製精密万能材料試験機2020型)を用い、引張り速度200mm/分、引張り角度180度で塗膜の剥離強度を測定することでヒートシール強度を評価した。
【0055】
(13)低温造膜性
日本電色工業社製のNDH2000「濁度、曇り度計」を用いてJIS K7105に準じて「ヘーズ(%)」を測定し、その数値により低温造膜性を評価した。ヘーズが2.8%のPETフィルム(ユニチカ社製エンブレットPET12,厚み12μm)に、20℃の雰囲気中で乾燥後のコート膜厚が2μmになるようにポリオレフィン樹脂水性分散体をマイヤーバーを用いてコートした後、コート温度と同じ20℃で1日放置して乾燥させ、コートフィルムを作製した。このようにして作製したコートフィルム全体(厚み14μm)のヘーズを測定した。数値の小さいほど透明性が良好であることを意味し、したがって、低温(20℃)での造膜性が良好であることを示す。
【0056】
ポリオレフィン樹脂(A)としては以下に示すポリオレフィン樹脂P−1、P−2を用いた。
【0057】
(ポリオレフィン樹脂P−1の製造)
プロピレン−ブテン−エチレン三元共重合体(ヒュルスジャパン社製、ベストプラスト708、プロピレン/ブテン/エチレン=64.8/23.9/11.3質量%)280gを4つ口フラスコ中、窒素雰囲気下で加熱溶融させた後、系内温度を170℃に保って攪拌下、不飽和カルボン酸として無水マレイン酸12.0gとラジカル発生剤としてジクミルパーオキサイド4.0gをそれぞれ1時間かけて加え、その後1時間反応させた。反応終了後、得られた反応物を多量のアセトン中に投入し、樹脂を析出させた。この樹脂をさらにアセトンで数回洗浄し、未反応の無水マレイン酸を除去した後、減圧乾燥機中で減圧乾燥してポリオレフィン樹脂P−1を得た。
【0058】
(ポリオレフィン樹脂P−2の製造)
プロピレン−エチレン共重合体(プロピレン/エチレン=81.8/18.2質量%、重量平均分子量85,000)280gを4つ口フラスコ中、窒素雰囲気下で加熱溶融させた後、系内温度を180℃に保って攪拌下、不飽和カルボン酸として無水マレイン酸15.0gとラジカル発生剤としてジ−t−ブチルパーオキサイド4.0gをそれぞれ2時間かけて加え、その後1時間反応させた。反応終了後、得られた反応物を多量のアセトン中に投入し、樹脂を析出させた。この樹脂をさらにアセトンで数回洗浄し、未反応の無水マレイン酸を除去した後、減圧乾燥機中で減圧乾燥してポリオレフィン樹脂P−2を得た。
【0059】
ポリオレフィン樹脂(B)としてはボンダインHX8290(アルケマ社製、以下、HX8290とする。)を用いた。
【0060】
用いたポリオレフィン樹脂の特性を表1にまとめた。
【0061】
【表1】

【0062】
実施例1
<溶融混練>
「P−1」と「HX8290」とを、質量比(A)/(B)=70/30でドライブレンドし、それをシリンダー温度150℃に設定した二軸混練機(池貝製PCM−30、吐出量60g/分)に供給して溶融混練し、ノズルからストランド状に押出した後、ストランドカッターを用いてペレット化した。
【0063】
<水性化>
ヒーター付きの密閉できる耐圧1L容ガラス容器を備えた撹拌機を用いて、60.0gの溶融混練した樹脂、90.0gの1−プロパノール(以下、NPA)、5.0gのN,N−ジメチルエタノールアミン(以下、DMEA)及び145.0gの蒸留水をガラス容器内に仕込み、撹拌翼の回転速度を400rpmとして撹拌したところ、容器底部には樹脂粒状物の沈澱は認められず、浮遊状態となっていることが確認された。そこでこの状態を保ちつつ、ヒーターの電源を入れ、系内温度を150℃にし、さらに10分間撹拌した。その後、空冷にて、回転速度400rpmのまま攪拌しつつ室温(約40℃)まで冷却した後、300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm)でろ過し、乳白色の均一なポリオレフィン樹脂水性分散体「E−1」を得た。水性分散体の各種特性を表2に示した。
【0064】
実施例2、3
「P−1」と「HX8290」との質量比(A)/(B)を50/50(実施例2)、90/10(実施例3)とした以外は実施例1と同様の操作をおこない、乳白色の均一なポリオレフィン樹脂水性分散体「E−2」、「E−3」を得た。水性分散体の各種特性を表2に示した。
【0065】
実施例4
「P−1」に代えて「P−2」を用いた以外は実施例1と同様の操作をおこない、乳白色の均一なポリオレフィン樹脂水性分散体E−4を得た。水性分散体の各種特性を表2に示した。
【0066】
実施例5
実施例1で得られた「E−1」250g、蒸留水135gを0.5Lの2口丸底フラスコに仕込み、メカニカルスターラーとリービッヒ型冷却器を設置し、フラスコをオイルバスで加熱していき、水性媒体を留去した。約135gの水性媒体を留去したところで、加熱を終了し、室温まで冷却した。冷却後、フラスコ内の液状成分を300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)で加圧濾過(空気圧0.2MPa)し、乳白色の均一なポリオレフィン樹脂水性分散体E−5を得た。水性分散体の各種特性および塗膜性能を表2に示した。この水性分散体中の有機溶剤の含有率は0.3質量%であった。
【0067】
参考例1
ヒーター付きの密閉できる耐圧1L容ガラス容器を備えた撹拌機を用いて、60gのHX8290、90gの1−プロパノール(以下、NPA)、5.0gのN,N−ジメチルエタノールアミン(以下、DMEA)及び145gの蒸留水をガラス容器内に仕込み、撹拌翼の回転速度を400rpmとして撹拌したところ、容器底部には樹脂粒状物の沈澱は認められず、浮遊状態となっていることが確認された。そこでこの状態を保ちつつ、ヒーターの電源を入れ、系内温度を150℃にし、さらに10分間撹拌した。その後、空冷にて、回転速度400rpmのまま攪拌しつつ室温(約40℃)まで冷却した後、300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm)でろ過し、乳白色の均一なポリオレフィン樹脂水性分散体「S−1」を得た。水性分散体の各種特性を表2に示した。
【0068】
比較例1
ポリオレフィン樹脂として「P−1」を単独で用いた以外は、実施例1と同様の操作を行い、水性化分散体「H−1」を得た。ろ過性は悪かった。水性分散体の各種特性を表2に示した。
【0069】
比較例2
ポリオレフィン樹脂として「P−2」を単独で用いた以外は、実施例1と同様の操作を行い、水性化分散体「H−2」を得た。ろ過性は悪かった。水性分散体の各種特性を表2に示した。
【0070】
比較例3
実施例1において、樹脂を溶融混練せずに、水性化を行った。すなわち、樹脂として「P−1」を42gと「HX8290」を18gを用いて、実施例1における<水性化>と同様の操作を行って、水性化分散体「H−3」を得た。ろ過性が悪かった。水性分散体の各種特性を表2に示した。
【0071】
比較例4
実施例1において、樹脂を溶融混練せずに、水性化を行った。すなわち、樹脂として「P−1」を54gと「HX8290」を6gを用いて、実施例1における<水性化>と同様の操作を行って、水性化分散体「H−4」を得た。ろ過性は悪かった。水性分散体の各種特性を表2に示した。
【0072】
比較例5
「H−2」(比較例2)と「S−1」(参考例1)とを固形分質量比が70/30になるように室温で水性分散体同士を混合し水性化分散体「H−5」を得た。水性分散体の各種特性を表2に示した。
【0073】
比較例6
「P−1」と「HX8290」との質量比(A)/(B)を30/70(実施例2)とした以外は実施例1と同様の操作をおこない、乳白色の均一なポリオレフィン樹脂水性分散体「H−6」を得た。水性分散体の各種特性を表2に示した。
【0074】
【表2】

【0075】
実施例1〜5では、ポリオレフィン樹脂(A)と(B)を溶融混練することで良好な水性分散体が得られた。さらに水性分散体から得られる塗膜の耐水性、耐アルカリ性は良好であり、ポリプロピレンに対する接着性(ヒートシール強度)は優れていた。特筆すべき点として、ポットライフと低温造膜性は、単に樹脂ブレンド、水性分散体ブレンドした系よりも、溶融混練した方が大きく向上していた(実施例1、3、4と比較例3、4、5をそれぞれ比較)。
【0076】
一方、比較例1、2では、ポリオレフィン樹脂(A)と(B)を溶融混練せずにポリオレフィン樹脂(A)のみを水性分散化しようとしたが、ろ過性が悪かった。保存後の粒子径の増大が認められ、ポットライフや低温造膜性に劣っていた。比較例3、4では、溶融混練せずに樹脂のままブレンドして水性化を行ったが、ろ過性が悪かった。また、保存後の粒子径の増大が認められポットライフ、低温造膜性ともに劣っていた。比較例5では水性分散体をブレンドしたが、ポットライフ、低温造膜性、接着性は溶融混練したものに比べ劣っていた。比較例6では、2種の樹脂を本発明の範囲外の組成で溶融混練したが、PPに対する接着性、特に非コロナ面での接着性が十分ではなかった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数3〜6の不飽和炭化水素成分を60質量%以上含有するポリオレフィン樹脂(A)50〜98質量部と、不飽和カルボン酸成分(B1)、エチレン成分(B2)および(メタ)アクリル酸エステル成分(B3)を含有するポリオレフィン樹脂(B)50〜2質量部とを溶融混練する混合工程(I)と、得られた混合樹脂を水性媒体に分散化する乳化工程(II)を含むことを特徴とするポリオレフィン樹脂水性分散体の製造方法。
【請求項2】
乳化工程(II)において、混合樹脂を塩基性化合物、水性有機溶剤および水とともに加熱、攪拌することにより分散化することを特徴とする請求項1記載のポリオレフィン樹脂水性分散体の製造方法。
【請求項3】
ポリオレフィン樹脂(B)に含有される(B1)成分が0.1〜10質量%である請求項1記載のポリオレフィン樹脂水性分散体の製造方法。
【請求項4】
ポリオレフィン樹脂(B)に含有される(B2)成分と(B3)成分の質量比が65/35〜99/1である請求項1記載のポリオレフィン樹脂水性分散体の製造方法。
【請求項5】
ポリオレフィン樹脂(A)が不飽和カルボン酸成分を0.5〜10質量%含有する樹脂である請求項1記載のポリオレフィン樹脂水性分散体の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5いずれかに記載の製造方法により得られるポリオレフィン樹脂水性分散体。

【公開番号】特開2007−177148(P2007−177148A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−379200(P2005−379200)
【出願日】平成17年12月28日(2005.12.28)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】