説明

ポリオレフィン系ホットメルト接着剤

【課題】 従来のホットメルト接着剤よりも顕著な糸曳き低減効果を発揮し、加熱安定性も良好なポリオレフィン系ホットメルト接着剤を提供する。
【解決手段】 本発明にかかるポリオレフィン系ホットメルト接着剤は、主剤としてのポリオレフィンに対し、ポリオレフィンが不飽和ポリカルボン酸、その無水物またはそのエステルで変性されてなる糸曳き低減剤が、主剤100重量部に対して2重量部以上30重量部未満の割合で配合されている、ことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホットメルト接着剤に関する。詳しくは、包装、製本、木工、アッセンブリーなどに用いられ、糸曳きが低減され、加熱安定性が良好なポリオレフィン系ホットメルト接着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ホットメルト接着剤は、溶剤を必要とせず、瞬間接着を実現できるため、包装、製本、木工、アッセンブリーなどに広く使用されている。しかし、ホットメルト接着剤は、使用に際して糸曳きを生じやすく、周辺機器や製品を汚染したり、センサーなどの機器の誤作動を招いたり、といった問題があった。
そこで、上記問題を解決するための技術が種々検討、提案されている。
例えば、熱安定性に優れたエチレン/α−オレフィン共重合体を包含する第1の成分に対して、この共重合体の糸曳き性を有意に低減させるエチレン/(メタ)アクリル酸エステル共重合体を包含する第2の成分と、少なくとも1種の粘着付与樹脂を包含し、前記第1の成分および第2の成分と相溶性の粘着付与樹脂と、を特定割合で配合した、ホットメルト接着剤が知られている(特許文献1参照)。また、エチレン酢酸ビニル共重合体やエチレンアクリル酸エステル共重合体またはそれらの混合物に対し、側鎖にカルボキシル基、酸無水物基および/または水酸基をもち、水素結合性の高いオレフィンポリマーを一定の割合で少量混合したホットメルト接着剤組成物が知られている(特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2006−188580号公報
【特許文献2】特開2003−119444号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、前記特許文献1の技術のごとく、加熱安定性に優れたエチレン/α−オレフィン共重合体を用い、このオレフィン系共重合体に対して、エチレン/(メタ)アクリル酸エステル共重合体を特定割合で配合させたものや、前記特許文献2の技術のごとく、エチレン酢酸ビニル共重合体などに水素結合性の高いオレフィンポリマーを少量混合したものは、従来一般に用いられていたホットメルト接着剤よりも糸曳きが低減されるものの、更なる改良の余地のあることが分かった。具体的に以下に説明する。
前記特許文献1における実施例の記載をみると、糸曳きが完全にないか、または、実質的にないホットメルト接着剤の例が挙げられているが、その糸曳き性試験の方法は、ホットメルト接着剤をほぼ水平方向に吐出し、途中で落下する接着剤を受け皿で受け、その量と形態を評価するというものである。この試験方法では、糸曳きが生じた場合に、接着剤が、飛び散ったり、被着体の塗付部分に引っ付いたりするために、受け皿に入らなかった分の量が測定できないため、実際より糸曳きが少なく測定される。すなわち、糸曳きがあっても、「糸曳き性なし」という評価結果となる場合がある。実際に、特許文献1に記載されているホットメルト接着剤を、本発明の実施例において採用している糸曳き性試験の方法で評価したところ、特許文献1において、糸曳き性が完全にない、とされている場合であっても、糸曳きが発生していることが確認された。また、前記特許文献2における実施例の記載を見ると、間欠的吐出時に発生した糸の重量を測定するという方法で糸曳き性を評価しているが、何ら工夫を施していない従来品で生じる糸曳きの重量を100%とした場合に、概ねその50%以上の重量の糸曳きが低減されたものを合格品とするものであり、糸曳き現象の根本的解決には至っていない。
【0004】
また、ホットメルト接着剤は加熱溶融して使用されるものであるから、耐糸曳き性の向上だけでなく、良好な加熱安定性も要求される。加熱安定性が低下すると、熱溶融の際に、ゲル形成、皮張りや炭化物の発生などといった問題が生じる。前記ゲル、皮張り、炭化物などは、アプリケータのノズル部分における詰まりの原因となり、ノズルからの吐出に不具合が生じてしまうだけでなく、糸曳きが発生し易くなってしまう。また、このようなノズル部分における詰まりを防ぐために、ノズル径を大きくした場合にも、糸曳きが発生し易い。
そこで、本発明の解決しようとする課題は、顕著な糸曳き低減効果を発揮するとともに、加熱安定性も良好なホットメルト接着剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を解決するべく鋭意検討を行った。その過程において、前述したように糸曳き性に影響し得る加熱安定性が良好なホットメルト接着剤を得るために、前記特許文献1と同様、加熱安定性に優れるポリオレフィンを主剤とすることを考えた。そして、前記主剤に、前記特許文献2に記載されている、側鎖にカルボキシル基、酸無水物基および/または水酸基をもち、水素結合性の高いオレフィンポリマーのうち、特に、不飽和ポリカルボン酸、その無水物を少量添加するか、あるいは、そのエステルを少量添加すれば、耐糸曳き性が顕著に向上することが分かった。なお、この特許文献2では、エチレン酢酸ビニル共重合体および/またはエチレンアクリル酸エステルを用いており、全モノマー中の酢酸ビニル含量やアクリル酸エステル含量が一定割合未満であると、カルボキシル基や水酸基をもつオレフィンポリマーを添加しても糸曳きは改善され難い旨が記載されている。そのため、上述のように、本発明者が加熱安定性を向上させることを意図して、全モノマー中に酢酸ビニルやアクリル酸エステルを含まないポリオレフィンを主剤とし、この主剤に、ポリオレフィンが不飽和ポリカルボン酸、その無水物またはそのエステルで変性されてなる糸曳き低減剤を特定の割合で少量配合した際に、加熱安定性のみならず、耐糸曳き性も向上する傾向が見られたことは、意想外な結果であった。本発明は、このような知見に基づいて完成されたものである。
【0006】
すなわち、本発明にかかるポリオレフィン系ホットメルト接着剤は、主剤としてのポリオレフィンに対し、ポリオレフィンが不飽和ポリカルボン酸、その無水物またはそのエステルで変性されてなる糸曳き低減剤が、主剤100重量部に対して2重量部以上30重量部未満の割合で配合されている、ことを特徴とする。
以下、本明細書で、本発明にかかる「ポリオレフィン系ホットメルト接着剤」について、単に「ホットメルト接着剤」と表記することがある。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、従来のホットメルト接着剤よりも顕著な糸曳き低減効果を発揮し、加熱安定性も良好なポリオレフィン系ホットメルト接着剤を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明にかかるポリオレフィン系ホットメルト接着剤について詳しく説明するが、本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更実施し得る。
本発明にかかるホットメルト接着剤は、主剤としてのポリオレフィンに対して、ポリオレフィンが不飽和ポリカルボン酸、その無水物またはそのエステルで変性されてなる糸曳き低減剤を配合し、好ましくは、粘着付与樹脂および/またはワックスをも配合してなる。
前記主剤としてのポリオレフィンは、オレフィンをモノマー成分とするものであり、1種のオレフィンからなる単独重合体であっても良いし、2種以上のオレフィンからなる共重合体であっても良い。そして、本発明で用いる主剤としてのポリオレフィンとしては、オレフィン以外の他の成分によって変性されていない場合の他、実質的に無変性と言える場合も含む。「実質的に無変性」とは、変性はされているものの、糸曳き低減という作用効果の点において、変性による影響が殆どなく、無変性の場合と同視しうることを意味する。許容される変性率は、変性に用いる物質によって異なる為、一概には言えないが、例えば、酢酸ビニルや(メタ)アクリル酸エステルであれば、10重量%以下程度の変性率であれば許容される。前記主剤としては、特に限定されないが、具体的には、例えば、エチレン、プロピレン、ブテンなどの単独重合体、共重合体や、さらに前記単独重合体、共重合体に対して、C3〜C20α−オレフィン(例えば、プロピレン、イソブチレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテンなど)をグラフト重合させたものも挙げられる。この場合においては、前記C3〜C20α−オレフィンがポリオレフィン中に20〜40重量%の割合で含まれるものが好ましい。
【0009】
前記主剤のうち、エチレン/α−オレフィン共重合体として、特に、シングルサイト触媒の存在下で重合されてなるものを用いることが好ましい。シングルサイト触媒存在下での重合によれば、分子量分布・共重合分布が狭く、均一な構造のポリオレフィンが得られ、長鎖分枝の導入も可能となる。具体的には、エチレンからなるポリマーに、コモノマーであるα−オレフィンが非常に均一に取り込まれた構造となっている。そのため、ベタツキや悪臭が無く、優れた強靭性、透明性を有し、低温特性および柔軟性に優れたものとなる。前記シングルサイト触媒として、例えば、メタロセン触媒、ポストメタロセン触媒などが好ましく挙げられる。
【0010】
前記主剤は、190℃、2.16kgfでのメルトフローレート(以下、本明細書中において、単に「MFR」とある場合、特に断りの無い限り、前記条件下でのメルトフローレートを意味するものとする)が2500g/10min以下であることが好ましい。2500g/10minを超えると、ホットメルト接着剤の凝集力が低下するおそれがある。
ポリオレフィンが不飽和ポリカルボン酸、その無水物またはそのエステルで変性されてなる糸曳き低減剤は、ホットメルト接着剤の糸曳き性を有意に低減させる極性を有するものである。
【0011】
ポリオレフィンの変性に用いられる、前記不飽和ポリカルボン酸、その無水物またはそのエステルとしては、特に限定されないが、例えば、ジカルボン酸として、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸などが挙げられ、トリカルボン酸として、トリメリット酸などが挙げられる。
不飽和ポリカルボン酸、その無水物またはそのエステルで変性されてなる前記糸曳き低減剤は、エチレン、プロピレン、ブチレンなどのオレフィンをモノマー成分とするポリオレフィンが、少なくとも上述の不飽和ポリカルボン酸、その無水物またはそのエステルで変性されていれば良く、さらに、他のモノマー成分によって変性されていても良い。前記他のモノマー成分としては、特に限定されないが、例えば、アクリル酸エステル、メチルアクリル酸エステル、エチルアクリル酸エステル、酢酸ビニル、塩化ビニルなどが挙げられる。これらの他のモノマー成分も含有させることで、各種材料の相溶性を調整することができる。
【0012】
前記糸曳き低減剤は、不飽和ポリカルボン酸、その無水物またはそのエステルの変性率が0.2〜50重量%であることが好ましい。より好ましくは、0.3〜10重量%である。変性率が0.2重量%未満では、耐糸曳き性が低下するおそれがあり、50重量%を超えると、無変性ポリオレフィンに対する相溶性が悪くなって、加熱安定性が低下するおそれがある。前記他のポリマー成分によっても変性する場合、その変性率は、相溶性などを考慮して適宜決定すれば良く、特に限定するわけではないが、例えば、0〜50重量%とすることができる。
また、前記糸曳き低減剤のMFRは、500/10min以下であることが好ましく、150/10min以下であることがより好ましい。500/10minを超えると、耐糸曳き性効果が十分に得られないおそれがある。
【0013】
前記変性の手段としては、具体的には、例えば、不飽和ポリカルボン酸、その無水物またはそのエステルを、重合前のオレフィンその他のモノマー成分に添加して共重合させたり、重合後のポリオレフィンに添加してグラフト重合させたり、などといった手段が挙げられる。
前記糸曳き低減剤は、前記主剤100重量部に対し、2重量部以上30重量部未満の割合で配合される。好ましくは、2重量部以上10重量部未満である。さらに好ましくは、2.5重量部以上10重量部未満である。2重量部未満では耐糸曳き性効果が不十分となり、30重量部以上であると加熱安定性が低下する。ホットメルト接着剤全量に対する糸曳き低減剤の配合割合としては、5重量%未満であることが好ましい。ホットメルト接着剤全量に対する糸曳き低減剤の配合割合が多くなるほど、加熱安定性が低下するおそれがある。
【0014】
本発明に使用できる粘着付与樹脂としては、特に限定されないが、例えば、脂肪族系炭化水素樹脂、脂環族系炭化水素樹脂、芳香族系炭化水素樹脂、スチレン系樹脂、ポリテルペン系樹脂、ロジン系樹脂などや、これらの変生物が挙げられ、これらを1種または2種以上組み合わせて使用することができる。これら粘着付与樹脂を使用することで、ホットメルト接着剤中への前記主剤および糸曳き低減剤の溶解を促進し、その結果、ホットメルト接着剤の相分離を抑制することができる。
前記脂肪族系炭化水素樹脂としては、特に限定されず、例えば、1−ブテン、イソブチレン、ブタジエン、ペンテン、イソプレン、ピペリジン、1,3−ペンタジエンなどのC4〜C5のモノまたはジオレフィンを主成分とする重合体などが挙げられる。
【0015】
前記脂環族系炭化水素樹脂としては、特に限定されず、例えば、C4〜C5留分中の非環式ジエン成分を環化2量体化させ、この2量体モノマーを重合させた樹脂や、シクロペンタジエンなどの環化モノマーを重合させた樹脂、芳香族炭化水素樹脂を核内水添させた樹脂などが挙げられる。
前記芳香族系炭化水素樹脂としては、特に限定されず、例えば、ビニルトルエン、インデン、α−メチルスチレン、シクロペンタジエンなどのC9〜C10のビニル芳香族炭化水素を主成分とした樹脂などが挙げられる。
前記スチレン系樹脂としては、特に限定されず、例えば、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、イソプロペニルトルエンなどの重合体が挙げられる。
【0016】
前記ポリテルペン系樹脂としては、特に限定されず、例えば、α−ピネン重合体、β−ピネン重合体、ジペンテン重合体、テルペン−フェノール重合体、α−ピネン−フェノー
ル重合体などが挙げられる。
前記ロジン系樹脂としては、特に限定されず、例えば、ガムロジン、ウッドロジン、トール油などのロジンが挙げられる。
上記に例示した樹脂の変性物としては、特に限定しないが、例えば、水素添加、不均化、2量化、エステル化、などの変性手段を施したものが挙げられる。より具体的には、例えば、エステル化変性を施したロジンエステルであれば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトールなどが挙げられる。
【0017】
加熱安定性を重視する場合には、上記に例示した粘着付与樹脂の中でも、特に、脂肪族系炭化水素樹脂、脂環族系炭化水素樹脂や、これらの水素添加物、芳香族系炭化水素樹脂やスチレン系樹脂の変性物が好ましい。
前記粘着付与樹脂は、前記主剤100重量部対し、300重量部以下の割合で配合されることが好ましい。より好ましくは、200重量部以下である。300重量部を超えるとホットメルト接着剤が脆くなってしまうおそれがある。
本発明に使用できるワックスとしては、特に限定されないが、例えば、合成ワックス、石油ワックス、天然ワックスなどが挙げられる。これらワックスを使用することで、ホットメルト接着剤の粘度を低下させ、結晶化を調整することができる。
【0018】
前記合成ワックスとしては、特に限定されず、例えば、フィッシャー・トロプシュワックス、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、アタクチックポリプロピレンワックス、エチレン−酢酸ビニル共重合体などが挙げられる。
前記石油ワックスとしては、特に限定されず、例えば、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックスなどが挙げられる。
前記天然ワックスとしては、特に限定されず、例えば、木蝋、カルバナ蝋、蜜蝋などが挙げられる。
前記ワックスは、前記主剤100重量部に対し、300重量部以下の割合で配合されることが好ましい。より好ましくは、200重量部以下である。300重量部を超えるとホットメルト接着剤の凝集性が低下し、該接着剤が脆くなってしまうおそれがある。
【0019】
本発明にかかるホットメルト接着剤には、本発明の効果を害しない範囲で、他の添加物を用いても良い。そのような添加物としては、特に限定するわけではないが、例えば、無機充填剤、有機充填剤、軟化剤、可塑剤、オイル、カップリング剤、安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、着色剤などを挙げることができ、これらを1種または2種以上組み合わせて用いることができる。
本発明にかかるホットメルト接着剤は、例えば、1軸または2軸スクリュー押し出し機、ミキサー、ニ−ダー、バンバリーミキサーなどの加熱、撹拌、混練機能などを備えた装置を使用し、従来行われる操作により得ることができる。この場合、必須成分としての主剤、糸曳き低減剤、任意成分としての粘着付与樹脂、ワックス、その他の添加剤を混練するに際しては、各成分や装置の種類によって多少異なるが、通常、120〜180℃で30〜120分間、好ましくは、130〜160℃で40〜90分間行う。
【0020】
本発明にかかるホットメルト接着剤の塗付方法としては、従来公知の方法を採用すれば良いが、具体的には、例えば、溶融タンクから各種ポンプで圧送し、ノズルで間欠的に点またはビード状に接着面に塗付すれば良い。このときの塗付温度については、特に限定するわけではないが、通常100〜190℃、好ましくは120〜180℃、さらに好ましくは160〜180℃で行う。
本発明にかかるホットメルト接着剤は、例えば、紙、木材、プラスチックなどの基材に適用することができる。特に、包装用、製本用、木工用、アッセンブリー用に好ましく使用できる。
【実施例】
【0021】
以下に、実施例および比較例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下では、便宜上、「重量部」を単に「部」と、「重量%」を単に「%」と記すことがある。
実施例および比較例における、測定方法および評価方法を以下に示す。
<ホットメルト接着剤の評価方法>
(耐糸曳き性)
ホットメルト接着剤を、受け皿に向かって垂直に吐出落下させ、そのときの糸曳きの状態および糸の長さを観察し、ノズル先から下方へと伸びた糸の長さ(mm)をビデオ撮影にて測定して、これを耐糸引き性の評価基準とした。この評価試験は、風の影響を避けるために防風ケースの中で行い、吐出は、ノズル径20/1000インチのエアー式ノズル塗付機(サンツール社製)を用いて10分間行った。また、このときの吐出条件は、タンク、ホースおよびノズルの温度が180℃、吐出圧力が3.5kgf/cm、塗付時間0.1秒、塗付間隔0.5秒であった。
【0022】
(加熱安定性)
ホットメルト接着剤を250ml容のサンプル瓶に150g取り、加熱して180℃を96時間維持した。このときの状態の変化を観察して、下記基準に従って、ホットメルト接着剤の加熱安定性を評価した。
○:状態の変化なし
×:皮張り、ゲル化物、炭化物などの発生あり
<実施例1〜3、比較例1〜6>
表1に示す配合割合で、各種材料を混練し、各ホットメルト接着剤を得た。
【0023】
なお、表1中、「Affinity GA−1950」はダウ・ケミカル社製のエチレン/1−オクテン共重合体(MFR:500g/10分)であり、メタロセン触媒の存在下で重合されたものである。また、「EVAFREX EV−210」は三井・デュポンケミカル社製のエチレン/酢酸ビニル共重合体(酢酸ビニル変性率28%、MFR400g/10分)、「BONDINE AX8390」はアルケマ社製のエチレン/アクリル酸エステル/無水マレイン酸(アクリル酸エステル変性率30.8%、無水マレイン酸変性率0.9〜1.5%、MFR7g/10分)、「OREVAC T9305」はアルケマ社製のエチレン/酢酸ビニル/無水マレイン酸共重合体(酢酸ビニル変性率28%、無水マレイン酸変性率0.5〜1.0%、MFR150g/10分)、「OREVAC 18729」はアルケマ社製のプロピレン/無水マレイン酸共重合体(無水マレイン酸変性率0.3〜1.0%、230℃、2.16kgfでのMFR2g/10分)、「EEA A−713」は三井・デュポンケミカル社製のエチレン/アクリル酸エチル共重合体(アクリル酸エチル変性率25%、MFR20g/10分)、「IMARV P125」は出光興産社製の完全水素化されたC5芳香族系石油樹脂(軟化点:125℃)、「IMARV S100」は出光興産社製の部分水素化されたC5芳香族系石油樹脂(軟化点:100℃)、「ハイレジンRS21」は東邦化学社製の芳香族系石油樹脂(軟化点:120℃)、「PARAFFIN155」は日本精鑞社製のパラフィンワックス(融点156℃、油分0.2%)、「IRGANOX1010」はチバスペシャルティケミカルズ社製のホスフィト系酸化防止剤である。
【0024】
【表1】

【0025】
<評価>
(1)本発明にかかる実施例1〜3のいずれのホットメルト接着剤についてみても、耐糸曳き性が極めて優れており、加熱安定性にも優れていることが分かる。特に、実施例3から、ホットメルト接着剤の顕著な耐糸曳き性が、糸曳き低減剤中の不飽和ポリカルボン酸、その無水物またはそのエステルによって付与されることが実証されている。実施例1,2にかかるホットメルト接着剤は、他のモノマー成分も含む糸曳き低減剤を用いているため、他の材料との相溶性に優れ、実施例3にかかるホットメルト接着剤よりも透明性に優れるものであった。
【0026】
(2)比較例1は糸曳き性を低減させるための物質を何ら添加していないため、糸曳きが生じてしまっていることが分かる。
(3)比較例2,3は、糸曳き低減剤の配合量が少なすぎて、糸曳きが殆ど改善されていないことが分かる。
(4)比較例4,5は、比較例2,3とは対照的に、糸曳き低減剤の配合量が多すぎて、加熱安定性の低下を招いている。さらに、糸曳き低減剤は糸曳き性を有意に低減させるものであるが、その配合量が多くなり過ぎると、却って耐糸曳き性が低下してしまうことが分かる。
【0027】
(5)比較例6,7は、糸曳き低減剤を用いているが、変性に用いたモノマー成分が酢酸ビニルのみであり、不飽和ポリカルボン酸、その無水物、そのエステルのいずれも用いていないため、実施例1〜3ほどの顕著な耐糸曳き性は認められなかった。
(6)比較例8は、本発明にかかるポリオレフィン系ホットメルト接着剤と異なり、エチレン/酢酸ビニル共重合体を主剤としたものであるが、糸曳き性を低減するための物質を何ら添加していないため、糸曳きが生じてしまっていることが分かる。
(7)比較例9,10は、比較例8の配合に、さらに糸曳き低減剤を加えて、糸曳き性の低減を図ったものであるが、エチレン/酢酸ビニル共重合体を主剤としているために、実施例1〜3ほどの顕著な耐糸曳き性は認められなかった。この比較例10と実施例1との比較から、主剤としてポリオレフィンを用いるか否かという点が、耐糸曳き性に大いに影響することが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明にかかるポリオレフィン系ホットメルト接着剤は、一般的にポリオレフィン系ホットメルト接着剤が使用されるあらゆる分野で利用可能であるが、特に、包装用、製本用、木工用、アッセンブリー用のホットメルト接着剤として好適に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主剤としてのポリオレフィンに対し、ポリオレフィンが不飽和ポリカルボン酸、その無水物またはそのエステルで変性されてなる糸曳き低減剤が、主剤100重量部に対して2重量部以上30重量部未満の割合で配合されている、ポリオレフィン系ホットメルト接着剤。
【請求項2】
前記糸曳き低減剤が、不飽和ポリカルボン酸、その無水物またはそのエステル以外のモノマー成分によっても変性されているものである、請求項1に記載のポリオレフィン系ホットメルト接着剤。
【請求項3】
前記主剤が、シングルサイト触媒の存在下で重合されてなるエチレン/α−オレフィン共重合体である、請求項1または2に記載のポリオレフィン系ホットメルト接着剤。
【請求項4】
粘着付与樹脂および/またはワックスも配合されている、請求項1から3までのいずれかに記載のポリオレフィン系ホットメルト接着剤。

【公開番号】特開2008−214539(P2008−214539A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−55647(P2007−55647)
【出願日】平成19年3月6日(2007.3.6)
【出願人】(000190943)新田ゼラチン株式会社 (43)
【Fターム(参考)】