説明

ポリオレフィン系樹脂管の曲げ加工方法

【課題】加熱温度の管理が容易で、曲げ戻りが少なく、しかも、外観品質が良好なポリオレフィン系樹脂管の曲げ加工方法を提供する。
【解決手段】原管となるポリオレフィン系樹脂管を樹脂管のポリオレフィン系樹脂が加圧変形可能となる変形可能温度になるまで加熱する加熱工程と、変形可能温度に加熱された樹脂管を加圧することによって所望の曲げ形状に加圧変形させる加圧工程と、を含むポリオレフィン系樹脂管の曲げ加工方法であって、本発明のポリオレフィン系樹脂管の曲げ加工方法では、加熱工程を行う前に予め樹脂管に電離放射線を所定線量照射することにより樹脂管の樹脂を所定の架橋度に架橋させる放射線架橋工程を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリオレフィン系の樹脂管を加熱加圧成形によって曲げ加工するポリオレフィン系樹脂管の曲げ加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ポリオレフィン系の樹脂管を加熱加圧成形によって曲げ加工するポリオレフィン系樹脂管の曲げ加工方法が知られている。
【0003】
従来から行われているポリオレフィン系樹脂管の曲げ加工方法の一例として、原管となるポリオレフィン系樹脂管をポリオレフィン系樹脂が加圧変形可能となる変形可能温度になるまで加熱し、樹脂管の潰れを防止するための中芯材を樹脂管内に挿入し、樹脂管の所望の曲げ形状に倣ったキャビティを備えた型によって樹脂管を型締めして加圧変形させ、型の内部で樹脂管を冷却し、型を型開きして所望の曲げ角に曲げられた樹脂管を取り出し、樹脂管から中芯材を抜き取る方法が知られている。
【0004】
この他に、樹脂管の内部に管路に沿って仕切壁が設けらている仕切付管であっても曲げ加工することが可能な特許文献1の仕切付管の湾曲方法などが知られている。
【特許文献1】特公平6−55430号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来例のポリオレフィン系樹脂管の曲げ加工方法では、曲げ加工後に、経時的に曲げ戻り(曲げ角度が安定せず変化する現象)が生じるという問題があった。
【0006】
曲げ加工によって曲げ部分に形成される樹脂管の肉厚部分の内部では、その厚みのために周囲の部分より温度が低くなり、曲げ部分近傍では樹脂の結晶化度が不均一となるので、樹脂が硬化した後に曲げ部分に残留歪みが残り、残留応力が生じて、この残留応力が経時的に解放されることによって曲げ戻りが生じる。
【0007】
そこで、曲げ部分のうちで温度が最も低くなる部分であっても、その温度が樹脂の軟化点を上回るように樹脂管全体の加熱温度を高く設定すると、樹脂管表面の温度がポリオレフィン系樹脂の溶融温度を上回ってしまい、樹脂管の表面が溶けて荒れた状態となり、樹脂管表面の外観品質を損なってしまう。
【0008】
一方、樹脂管の表面が溶けない程度に加熱温度を低く設定すると、樹脂管表面の外観品質は良好となるが、曲げ加工によって形成される肉厚部分における温度が低くなり、この部分に残留歪みが残り易くなるため、曲げ戻りが生じてしまうおそれがある。
【0009】
このように、従来のポリオレフィン系樹脂管の曲げ加工では、樹脂管の加熱温度の調整に関して、シビアな管理を必要としていた。
【0010】
そこで、本発明では、加熱温度の管理が容易で、曲げ戻りが少なく、しかも、外観品質が良好なポリオレフィン系樹脂管の曲げ加工方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために請求項1に記載された発明は、原管となるポリオレフィン系樹脂管を該樹脂管のポリオレフィン系樹脂が加圧変形可能となる変形可能温度になるまで加熱する加熱工程と、
前記変形可能温度に加熱された前記樹脂管を加圧することによって所望の曲げ形状に加圧変形させる加圧工程と、
を含むポリオレフィン系樹脂管の曲げ加工方法であって、
前記加熱工程を行う前に予め前記樹脂管に電離放射線を所定線量照射することにより前記樹脂管の樹脂を所定の架橋度に架橋させる放射線架橋工程を行うポリオレフィン系樹脂管の曲げ加工方法を特徴としている。
【0012】
そして、請求項2に記載された発明は、前記樹脂管に照射される電離放射線の所定の吸収線量が50〜80kGyである請求項1に記載のポリオレフィン系樹脂管の曲げ加工方法を特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
このように構成された本発明の請求項1または請求項2に記載されたものは、加熱前のポリオレフィン系樹脂管に予め電離放射線を照射することによって、ポリオレフィン系樹脂を架橋化して樹脂管の溶融温度を高くすることができるので、曲げ部分のうちで温度が最も低くなる部分の温度が樹脂の軟化点を上回るように樹脂管全体の加熱温度を高く設定したとしても、樹脂管表面が溶融しないように加熱温度を設定することが可能となり、樹脂管の外観品質を良好に維持したまま樹脂管に曲げ加工を施すことができる。
【0014】
また、上記のように加熱温度を設定することにより、曲げ加工によって形成される肉厚部分に残留歪みが残らなくなるので、曲げ戻りが生じにくい樹脂管が形成できる。
【0015】
さらに、電離放射線の照射により、ポリオレフィン系樹脂が架橋化されて溶融温度が高くなるので、ポリオレフィン系樹脂が架橋化されない場合に比べて、上記加熱温度の設定可能な温度域の上限が高くなり、温度域が広がるので、加熱温度の管理を容易に行うことができる。
【0016】
しかも、従来に比べて加熱温度を高温に設定することが可能となるので、高温で加熱することにより加熱時間を短縮することができ、生産性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明に係る実施の形態を実施例に基づいて説明する。
【実施例1】
【0018】
〈実施方法〉
本実施例のポリオレフィン系樹脂管では、まず、原管となるポリエチレンパイプ(ポリオレフィン系樹脂管)に、コバルト60から放射されるγ線(電離放射線)を一様に照射してパイプ(樹脂管)を形成しているポリエチレン樹脂(ポリオレフィン系樹脂)を所定の架橋度に架橋化する(放射線架橋工程)。
【0019】
この際、架橋度は、ポリエチレンパイプを形成しているポリエチレン樹脂に吸収されたγ線の吸収線量によって決まり、ここで、所定の架橋度とは、後述する実験の結果などから得られた所定線量のγ線を照射した際のポリエチレン樹脂の架橋度とする。
【0020】
次に、ポリエチレンパイプをポリエチレン樹脂が加圧変形可能となる変形可能温度になるまで加熱する(加熱工程)。この変形可能温度は、架橋化する前の(γ線照射前の)ポリエチレン樹脂の変形可能温度(いわゆる、軟化点)に比べて一般には高い温度になっている。
【0021】
これは、架橋により高分子(ポリエチレン)の流動性が一部失われるためであり、γ線の吸収線量が増加するほど架橋度が増加し、一般には変形可能温度が高くなる。
【0022】
本実施例では、ポリエチレンパイプに加熱加圧成形を行うので、高分子(ポリエチレン)の流動性が、完全に失われるほどに架橋化することはなく、ある程度の高分子(ポリエチレン)の流動性を維持しておく。
【0023】
そして、パイプの潰れを防止するための中芯材をパイプ内に挿入し、パイプを所望の曲げ形状に倣ったキャビティを備えた型によってパイプを型締めして加圧変形させる(加圧工程)。
【0024】
次に、型の内部でパイプを冷却し(冷却工程)、型を型開きして所望の曲げ角に曲げられたパイプを取り出し、パイプから中芯材を抜き取る(取り出し工程)。
【0025】
〈実験方法〉
本実施例のポリオレフィン系樹脂管の曲げ加工方法を水道管用ポリエチレンパイプに適用した場合について、以下の実験を行った。
【0026】
図1の表に示す条件番号(1)〜(4)の4つの加工条件において上記曲げ加工を行っ た。
【0027】
ベンド管(曲管)の曲げ戻りは経時的に起こるため、促進評価として60℃の熱水中に24時間浸漬することにより曲げ戻りの経時的変化を調べた。
【0028】
〔その他の実験条件〕
・ サンプル: 水道用ポリエチレンパイプ外径180mm
・ 電離放射線種類: コバルト60(60Co)を放射線源とするγ線
・ 吸収エネルギー: 80kGy
〈実験結果〉
本実験の条件番号(1)の条件は、従来の曲げ加工方法の条件と一致させてある。すなわち、従来の曲げ加工方法では、加熱温度を(樹脂の溶融温度−2)〔℃〕としていた。
【0029】
予めγ線を照射してから、条件番号(1)の実験に比べて加熱温度を7℃高くした条件番号(4)の実験では、図2のグラフに示すように、曲げ角度の戻りが小さくなっていることが確認できる。
【0030】
また、γ線をパイプに照射した条件番号(3)および条件番号(4)の実験では、加熱温度を上げてもパイプの表面は溶融しなかった。
【0031】
なお、本実験の実験結果について、さらに詳細な結果を図3の表に示す。
【0032】
γ線の照射を行い、加熱温度を上げた加工条件の(4)の実験では、パイプ表面は溶融せず、しかも、図2または図3に示すように、曲げ戻りの戻り角度も小さいことが確認できる。
【0033】
〈作用効果〉
加熱前のポリエチレンパイプに予めγ線を照射することによって、ポリエチレン樹脂を架橋化してパイプの溶融温度を高くすることができるので、曲げ部分のうちで温度が最も低くなる部分の温度が樹脂の軟化点を上回るようにパイプ全体の加熱温度を高く設定したとしても、パイプ表面が溶融しないように加熱温度を設定することが可能となり、パイプの外観品質を良好に維持したままパイプに曲げ加工を施すことができる。
【0034】
また、上記のように加熱温度を設定することにより、曲げ加工によって形成される肉厚部分に残留歪みが残らなくなるので、曲げ戻りが生じにくいパイプが形成できる。
【0035】
さらに、γ線の照射により、ポリエチレン樹脂が架橋化されて溶融温度が高くなるので、ポリエチレン樹脂が架橋化されない場合に比べて、上記加熱温度の設定可能な温度域の上限が高くなり、温度域が広がるので、加熱温度の管理を容易に行うことができる。
【0036】
しかも、従来に比べて加熱温度を高温に設定することが可能となるので、加熱時間を短縮することができ、生産性を向上させることができる。
【実施例2】
【0037】
〈実施方法〉
本実施例のポリオレフィン系樹脂管では、まず、原管となるポリエチレンパイプ(ポリオレフィン系樹脂管)に、電子加速装置から放射される電子線(電離放射線)を一様に照射してパイプ(樹脂管)を形成している樹脂を所定の架橋度に架橋化する(放射線架橋工程)。
【0038】
この際、架橋度は、ポリエチレンパイプを形成しているポリエチレン樹脂(樹脂)に吸収された電子線の吸収線量によって決まり、ここで、所定の架橋度とは、後述する実験の結果などから得られた所定線量の電子線を照射した際のポリエチレン樹脂の架橋度とする。
【0039】
次に、ポリエチレンパイプをポリエチレン樹脂が加圧変形可能となる変形可能温度になるまで加熱する(加熱工程)。この変形可能温度は、架橋化する前の(電子線照射前の)ポリエチレン樹脂の変形可能温度(いわゆる、軟化点)よりも一般には高い温度になっている。
【0040】
これは、架橋により高分子(ポリエチレン)の流動性が失われるためであり、電子線の吸収線量が増加するほど架橋度が増加し、一般には変形可能温度が高くなる。
【0041】
本実施例では、ポリエチレンパイプに加熱加圧成形を行うので、高分子(ポリエチレン)の流動性が、完全に失われるほどに架橋化することはなく、ある程度の高分子(ポリエチレン)の流動性を維持しておく。
【0042】
そして、パイプの潰れを防止するための中芯材をパイプ内に挿入し、パイプの所望の曲げ形状に倣ったキャビティを備えた型によってパイプを型締めして加圧変形させる(加圧工程)。
【0043】
次に、型の内部でパイプを冷却し(冷却工程)、型を型開きして所望の曲げ角に曲げられたパイプを取り出し、パイプから中芯材を抜き取る(取り出し工程)。
【0044】
〈実験方法〉
本実施例のポリオレフィン系樹脂管の曲げ加工方法を下水道用ポリエチレンパイプに適用した場合について、以下の実験を行った。
【0045】
図4に示すように、吸収線量を6通りに変えてサンプルに照射し、10日間に渡り、曲げ角の経時変化を測定した。
【0046】
〔その他の実験条件〕
・ サンプル: 下水道用ポリエチレンパイプ外径60mm
・ 電離放射線種類: 電子線
・ 吸収エネルギー: 30kGy〜300kGy
〈実験結果〉
図4のグラフより照射エネルギーには最適値があり、下水道用ポリエチレンパイプ外径60mmの場合には、吸収線量が50〜80kGyで角度変化が小さく、特に、80kGyで最も角度変化が小さいことがわかった。
【0047】
〈作用効果〉
加熱前のポリエチレンパイプに予め電子線を照射することによって、ポリエチレン樹脂を架橋化してパイプの溶融温度を高くすることができるので、曲げ部分のうちで温度が最も低くなる部分の温度が樹脂の軟化点を上回るようにパイプ全体の加熱温度を高く設定したとしても、パイプ表面が溶融しないように加熱温度を設定することが可能となり、パイプの外観品質を良好に維持したままパイプに曲げ加工を施すことができる。
【0048】
また、上記のように加熱温度を設定することにより、曲げ加工によって形成される肉厚部分に残留歪みが残らなくなるので、曲げ戻りが生じにくいパイプが形成できる。
【0049】
さらに、電子線の照射により、ポリエチレン樹脂が架橋化されて溶融温度が高くなるので、ポリエチレン樹脂が架橋化されない場合に比べて、上記加熱温度の設定可能な温度域の上限が高くなり、温度域が広がるので、加熱温度の管理を容易に行うことができる。
【0050】
しかも、従来に比べて加熱温度を高温に設定することが可能となるので、加熱時間を短縮することができ、生産性を向上させることができる。
【0051】
以上、図面を参照して、本発明の最良の実施の形態を詳述してきたが、具体的な構成は、この実施の形態に限らず本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更は本発明に含まれる。
【0052】
なお、実施例では、樹脂管に放射する放射線としてγ線や電子線を用いたが、放射する放射線はポリオレフィン系樹脂を架橋化できる電離放射線であればなんでもよい。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】実施例1のポリオレフィン系樹脂管の曲げ加工方法における曲げ加工条件を示した表である。
【図2】実施例1のポリオレフィン系樹脂管の曲げ加工方法の効果を示す樹脂管の曲げ戻り角度を表したグラフである。
【図3】実施例1のポリオレフィン系樹脂管の曲げ加工方法の効果を示す樹脂管の表面の外観状態および曲げ戻り角度を表した表である。
【図4】実施例2のポリオレフィン系樹脂管の曲げ加工方法の効果を示す樹脂管の曲げ戻り角度の経時的な変化を表したグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原管となるポリオレフィン系樹脂管を該樹脂管のポリオレフィン系樹脂が加圧変形可能となる変形可能温度になるまで加熱する加熱工程と、
前記変形可能温度に加熱された前記樹脂管を加圧することによって所望の曲げ形状に加圧変形させる加圧工程と、
を含むポリオレフィン系樹脂管の曲げ加工方法であって、
前記加熱工程を行う前に予め前記樹脂管に電離放射線を所定線量照射することにより前記樹脂管の樹脂を所定の架橋度に架橋させる放射線架橋工程を行うことを特徴とするポリオレフィン系樹脂管の曲げ加工方法。
【請求項2】
前記樹脂管に照射される電離放射線の所定の吸収線量が50〜80kGyであることを特徴とする請求項1に記載のポリオレフィン系樹脂管の曲げ加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−284714(P2008−284714A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−129566(P2007−129566)
【出願日】平成19年5月15日(2007.5.15)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【出願人】(505374783)独立行政法人 日本原子力研究開発機構 (727)
【Fターム(参考)】