説明

ポリオレフィン系難燃性樹脂組成物、難燃性絶縁電線及びワイヤーハーネス

【課題】軽量で、耐熱性、難燃性、機械的特性などに優れたポリオレフィン系難燃性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】ポリプロピレン80〜95質量部とポリエチレン20〜5質量部からなるポリオレフィン系樹脂混和物100質量部に対して、トリアジン系難燃剤10〜50質量部と水和金属化合物10〜50質量部の範囲でその総質量部が60〜100質量部となるように添加し、かつ、その比重を1.2以下としたポリオレフィン系難燃性樹脂組成物にあり、これにより、軽量で、耐熱性、難燃性、機械的特性などに優れた樹脂組成物が得られる。また、これを導体上に被覆すれば、優れた難燃性絶縁電線が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軽量で、耐熱性、難燃性、機械的特性などに優れたポリオレフィン系難燃性樹脂組成物、及びこれを用いた難燃性絶縁電線(ケーブルも含む)やワイヤーハーネスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車(車両)には、電気機器間の接続にあたって、種々のワイヤーハーネスが用いられている。このワイヤーハーネスの場合、その使用箇所(部位)によっても異なるが、種々の特性が必要とされる。例えば、近年車両の燃費向上の点から軽量であることや、エンジンルーム回りやエンジンルーム内ほどではないが、車両側壁内などにおいて夏場の炎天下では相当な高温となるため、高温条件下に耐える耐熱性が必要とされることがある。また、着火の原因やワイヤーハーネス自体が延焼の原因とならない高い難燃性を有すること、着火や燃焼時、有毒ガスなどの発生がないこと、組付け時や配線時の曲げで曲げ部分が白くなる白化現象が生じ難いこと、配線後の引っ張りや擦れなど対して十分な耐磨耗性などの機械的強度を有することなども必要とされる。
【0003】
このような自動車のワイヤーハーネスにおいて、従来最も一般的なものとしては、構成絶縁電線の絶縁体(被覆材料)としてポリ塩化ビニル(PVC)を用いたものが多い。しかし、塩化ビニルの場合、高い難燃性が得られるものの、事故時の燃焼や廃車後の焼却処分時などの燃焼において、樹脂中の塩素元素(ハロゲン元素)に起因して有毒ガス(塩化水素ガス)が発生するという重大な欠点があった。
【0004】
このため、構成絶縁電線の絶縁体のベース樹脂として、塩素元素などを含まないノンハロゲンタイプのものを用いたものが種々提案されている(特許文献1〜2)。例えば、これらのものとして、ポリエチレン(PE)、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン−エチルアクリレート共重合体(EEA)、エチレン・プロピレン・ジェン共重合体(EPDM)、ポリプロピレン(PP)などの樹脂がよく使用されている。
【特許文献1】特開平10−294021号公報
【特許文献2】特開2000−086858号公報
【0005】
しかし、これらの樹脂は、ポリ塩化ビニルに比べて易燃性で難燃性に劣るため、難燃剤を添加する必要がある。勿論、燃焼時の有毒ガスの発生防止を考慮すると、用いる難燃剤もノンハロゲン系のものであることが必要がある。このような難燃剤として、例えば水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムなどの水和金属化合物(金属水和物)を挙げることができ、近年はこれを単独で使用したり、必要により、他の難燃性、例えば酸化アンチモンやほう酸亜鉛、燐酸エステル系の難燃剤などと併用したりしている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、水和金属化合物の場合、所望の難燃性を確保するためには、ベース樹脂に対して相当な量の添加が必要となる。勿論、要求される難燃性が高いほど添加量を増やさなければならなくなる。水和金属化合物の添加量が多くなるはど、樹脂組成物による絶縁体の特性、例えば機械的強度などが低下するという問題が生じる。また、水和金属化合物自体の比重が大きいため、絶縁体部分の比重(例えば1.2以上)も大きくなり、ワイヤーハーネス自体の軽量化が困難となるなどの問題もある。
【0007】
さらに、ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体、エチレン・プロピレン・ジェン共重合体などの樹脂では、ワイヤーハーネスの仕様によっては、耐熱性や耐磨耗性などの機械的強度などの点において、不十分であるなどの問題があった。
【0008】
これに対して、ポリプロピレンは、比較的安価で、比重も小さく、耐熱性や機械的強度などの点において優れており、望ましい樹脂といえるものの、製造にあたって、難燃剤の良好な混合が難しいこと、曲げによる白化現象が生じ易いことなどの問題があった。
【0009】
このような状況下で、本発明者等は、高い耐熱性要求(ISO6722規格の85℃又は100℃の耐熱グレードなど)の自動車ワイヤーハーネスを得るにおいて、絶縁体のベース樹脂として、耐熱性や耐磨耗性などの特性に優れたポリプロピレンに採用し、これに適量のポリエチレンを添加することで、ポリプロピレン単独では困難である難燃剤のスムーズな混合を可能にした。また、この難燃剤の混合による難燃化にあっては、水和金属化合物とトリアジン系難燃剤を併用することにより、これらの難燃剤の単独使用による大量添加の弊害が除去でき、ポリプロピレン本来の特性が維持された優れた絶縁体が得られること、かつ、その比重が1.2以下に抑えらること、さらに、アタックチックポリプロピレンの併用により、白化現象の改善が図れることなどを見い出した。
【0010】
本発明は、この観点に立ってなされたものであり、軽量で、耐熱性、難燃性、機械的特性などに優れたポリオレフィン系難燃性樹脂組成物、及びこれを用いた難燃性絶縁電線やワイヤーハーネスを提供することができる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1記載の本発明は、ポリプロピレン80〜95質量部とポリエチレン20〜5質量部からなるポリオレフィン系樹脂混和物100質量部に対して、トリアジン系難燃剤10〜50質量部と水和金属化合物10〜50質量部の範囲でその総質量部が60〜100質量部となるように添加し、かつ、その比重を1.2以下としたことを特徴とするポリオレフィン系難燃性樹脂組成物にある。
【0012】
請求項2記載の本発明は、前記トリアジン系難燃剤がメラミンシアヌレートであることを特徴とする請求項1記載のポリオレフィン系難燃性樹脂組成物にある。
【0013】
請求項3記載の本発明は、前記水和金属化合物が水酸化マグネシウムであることを特徴とする請求項1又は2記載のポリオレフィン系難燃性樹脂組成物にある。
【0014】
請求項4記載の本発明は、前記ポリプロピレン80〜95質量部のうち、5〜30質量部がASTM−D2240による測定の表面硬度が60以下のアタックチックポリプロピレンであることを特徴とする請求項1、2又は3記載のポリオレフィン系難燃性樹脂組成物にある。
【0015】
請求項5記載の本発明は、前記ポリプロピレンが、融点160℃以上であることを特徴とする請求項1、2、3又は4記載のポリオレフィン系難燃性樹脂組成物にある。
【0016】
請求項6記載の本発明は、前記ポリエチレンが、低密度ポリエチレン又は直鎖状低密度ポリエチレンであることを特徴とする請求項1、2、3又は4記載のポリオレフィン系難燃性樹脂組成物にある。
【0017】
請求項7記載の本発明は、前記請求項1〜6のいずれかのポリオレフィン系難燃性樹脂組成物が導体上に被覆されてなることを特徴とする難燃性絶縁電線にある。
【0018】
請求項8記載の本発明は、前記請求項7記載の難燃性絶縁電線が組み付けられてなることを特徴とするワイヤーハーネスにある。
【発明の効果】
【0019】
本発明のポリオレフィン系難燃性樹脂組成物によると、ポリプロピレンに対して適宜量のポリエチレンを添加してベース樹脂とするため、ポリプロピレン単独では困難な難燃剤の混合がスムーズに行える。また、難燃剤として、トリアジン系難燃剤と水和金属化合物を併用するものであるため、各難燃剤の上限添加量及び総添加量が少なくて済み、大量添加による弊害、例えば絶縁特性、引っ張りや擦れなどの機械的強度などの樹脂特性の低下が防止できる。かつまた、両難燃剤の併用添加により、その比重を1.2以下に抑えることができる。
【0020】
本発明の難燃性絶縁電線によると、上記したポリオレフィン系難燃性樹脂組成物を、導体上に絶縁体として被覆することにより、軽量で、耐熱性、難燃性、機械的特性などに優れた電線が得られる。
【0021】
本発明のワイヤーハーネスによると、上記した難燃性絶縁電線を組み付けることにより、ハーネス全体の軽量化を図った優れたワイヤーハーネスが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明のポリオレフィン系難燃性樹脂組成物におけるポリオレフィン系樹脂混和物の場合、ベース樹脂としてポリプロピレンを主成分とし、これに適量のポリエチレンを混合したものである。具体的には、ポリプロピレン80〜95質量部に対して、ポリエチレン20〜5質量部混合して、全体が100質量部となるようにする。
このポリエチレンの添加は、ポリプロピレンに対する難燃剤の混合を促進することを主目的とする。この混合(ブレンド)が促進されることにより、樹脂の特性の劣化が防げる。また、ポリプロピレン自体の硬さが緩和され、曲げ時の白化現象の改善効果も得られる。ここで、ポリエチレンの添加量を20〜5質量部としたのは、20質量部を超えると、ポリプロピレンの本来の特性(耐熱性や耐磨耗性などの機械的特性)が失われるようになり、また、5質量部未満では少な過ぎて上記各効果が得られないからである。
【0023】
この使用できるポリプロピレンとしては、特に限定されず、ホモポリマー、又はエチレンと重合させたランダム共重合体、ブロック共重合体、さらには、これらの混合物を挙げることができる。実際の使用にあったは、例えば、ワイヤーハーネスの場合、要求される耐熱性仕様(ISO6722規格の85℃又は100℃の耐熱グレード)などに合わせて適量選択すればよい。ワイヤーハーネスを、ISO6722規格の85℃又は100℃の耐熱グレードに適合させるには、ポリプロピレンの単独使用や数種の混合使用にあっても、融点が160℃以上の特性のものを用いるものとする。
このようなものの市販品としては、例えばB701WB(プライムポリマー社製、ブロックPP、融点163℃、MFR0.5)、E111G(プライムポリマー社製、ホモPP、融点160〜165℃、MFR0.51)などを挙げることができる。
【0024】
ポリプロピレンを主成分とする樹脂組成物では、ワイヤーハーネス用の絶縁電線の絶縁体として被覆した場合、曲げ応力を加えたとき、曲げの曲率にもよるが、表面が白く変色する白化現象が生じることがある。この白化現象は、後述する試験データから明らかなように、上記ポリエチレンの添加(柔軟化効果)によりある程度改善される。また、今回のトリアジン系難燃剤の添加によってもその改善効果が得られる。しかし、より積極的な改善を図るには、特に小さい曲率の曲げでも白化現象が生じ難いようにするためには、好ましくは、ポリプロピレンの配合量(80〜95質量部)のうち、5〜30質量部を、ASTM−D2240による測定の表面硬度が60以下のアタックチックポリプロピレンとして置き換えるとよい。
【0025】
この置き換え添加により、白化現象防止の効果が得られるのは、アタックチック型のものは特性的に柔らかく(表面硬度が60以下)、ベースであるポリプロピレンの非晶部に相溶し、柔軟化するためと推測される。ここで、その配合量を、5〜30質量部としたのは、5質量部未満では少な過ぎて白化現象の防止効果が殆ど得られず、逆に、30質量部を超えるようになると、樹脂の機械的強度が低下するようになるからである。なお、アタックチックポリプロピレンは、メチル基がポリマーの主鎖に対して無秩序に配列されたポリプロピレンの立体特異性体で、通常油状のものであるが、本発明では、樹脂ペレット化したものを使用する。この樹脂ペレット化された市販品としては、例えばT3527(住友化学社製)、T1712(住友化学社製)などを挙げることができる。
【0026】
本発明で用いるポリエチレンとしては、高密度ポリエチレン(HDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)のいずれでもよく、これらの混合物であってもよい。しかし、難燃剤の混合促進効果からすると、結晶化度が低く、難燃剤の受容性が高いことにより、性状的に軟質である、LDPEやLLDPEの使用が望ましい。このようなものの市販品としては、例えばC150(宇部丸善ポリエチレン社製、LDPE)、2015M(プライムポリマー社製、LLDPE)を挙げることができる。
【0027】
本発明で添加する両難燃剤は、トリアジン系難燃剤と水和金属化合物(金属水和物)である。トリアジン系難燃剤としては、例えばメラミンシアヌレートなどを挙げることができる。メラミンシアヌレートの場合、平均粒径が10μm以下、好ましくは7μmの粒径の小さいものが好ましい。また、高級脂肪酸やシランカップリング剤、ポリビニルアルコール、コロイダルシリカなどで表面処理を施したものが、ベース樹脂に対する分散性、親和性の点で好ましい。この市販品には、例えばMC860(日産化学工業社製、ポリビニルアルコールで表面処理したもの)、MC440(日産化学工業社製、コロイダルシリカで表面処理したもの)などがある。
【0028】
また、水和金属化合物としては水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウムなど挙げることができる。これらは1種又は2種以上を混合して用いることもできる。また、水和金属化合物の場合、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤、高級脂肪酸などを用いて表面処理したものが、分散性、親和性の点で好ましい。この市販品には、例えばキスマ5A(協和化学工業社製、ステアリン酸で表面処理されたもの)、キスマ5P(協和化学工業社製、シランカップリング剤で表面処理されたもの)、キスマ5(協和化学工業社製、表面無処理のもの)などがある。
【0029】
このトリアジン系難燃剤の添加量を、上記ポリプロピレン(80〜95質量部)に対して10〜50質量部としたのは、10質量部未満では両難燃性の良好な併用効果が得られず、また、50質量部を超えると、樹脂の絶縁特性などの特性低下が起るようになるからである。水和金属化合物の添加量を、上記ポリプロピレン(80〜95質量部)に対して10〜50質量部としたのは、10質量部未満では両難燃性の良好な併用効果が得られず、また、50質量部を超えると、樹脂の絶縁特性や擦れ(スクレープ)などの機械的強度などの特性低下が起るようになるからである。
【0030】
さらに、これらの両難燃剤の総質量部を60〜100質量部とする必要がある。その理由は、総質量部が60質量部未満では両難燃性の併用効果による所望の難燃性が得られず、また、100質量部を超えると、絶縁特性や機械的強度などの特性低下や樹脂組成物の比重が大きくなるという問題が生じるからである。
【0031】
このような組成からなる本発明のポリオレフィン系難燃性樹脂組成物には、用途や要求仕様に合わせて、必要により、酸化防止剤、紫外線劣化防止剤、加工助剤、着色顔料、カーボンブラック、銅害防止剤などの添加剤を適宜添加することができる。
【0032】
この本発明のポリオレフィン系難燃性樹脂組成物により、自動車用のワイヤーハーネスを製造するには、先ず、導体上に押出機により絶縁体として押し出し被覆させる。これにより、軽量で、耐熱性、難燃性、機械的特性などに優れた難燃性絶縁電線が得られる。
この難燃性絶縁電線の複数本を、ハーネス形態に合わせて、適宜組み付ければ、自動車用のワイヤーハーネスが得られる。
【0033】
このワイヤーハーネスの難燃性絶縁電線は、上記組成とすることにより、比重が1.2以下で軽量化が図られる。この軽量化は、上記両難燃剤の併用により得られるものである。つまり、例えば比重の大きい水酸化マグネシウム(比重=2.4)の使用量が低減できるからである。なお、メラミンシアヌレートの比重は1.5程度である。
【0034】
難燃性についても、先ず、ポリプロピレンに適宜量のポリエチレンが添加してあるため、ポリエチレン中への難燃剤の混合が良好に行われる。この良好な難燃剤の分散効果により、結果として、難燃剤添加量の低減が得られる。また、両難燃剤の併用により単独使用による大量添加の弊害を除去することができ、ポリプロピレン本来の特性、例えば耐熱性や耐磨耗性などの優れた特性が失われずに済む。さらに、ポリエチレンやトリアジン系難燃剤の添加やアタックチックポリプロピレンの併用により白化現象の改善も図れる。
【0035】
〈実施例、比較例〉
先ず、表1〜表4に示す配合からなる、ポリオレフィン系難燃性樹脂組成物を用いて、サンプルの難燃性絶縁電線を製造した(実施例1〜13、比較例1〜10)。各サンプルの電線は、導体(19/0.12:外径0.12mmの細線19本を撚ったもの)に厚さ0.25mmの絶縁体を被覆し、外径が1.04mmのものである。用いたポリオレフィン系難燃性樹脂組成物のポリプロピレンはB701WB(プライムポリマー社製、ブロックPP、融点163、MFR0.5)、ポリエチレンはC150(宇部丸善ポリエチレン社製、LDPE)、アタックチックポリプロピレンはT3527(住友化学社製)、トリアジン系難燃剤のメラミンシアヌレートはMC860(日産化学工業社製)、水和金属化合物の水酸化マグネシウムはキスマ5A(協和化学工業社製)、酸化防止剤はイルガノックスMD1024(チバスペシャルティケミカルズ社製)、イルガノックス1010(チバスペシャルティケミカルズ社製)である。なお、表中の配合量の数値は質量部数を示す。
【0036】
各サンプルの電線について、特性試験を行い、その特性〔引張破断強度、引張破断伸び、難燃性、スクレープ、絶縁性、比重、曲げによる白化現象(曲げ曲率:φ6mm、φ3mm、φ1mm、)〕を求めた。各特性の評価は以下のにより行った。
【0037】
〈引張破断強度〉については、引張速度200mm/min、標線間20mmの引張破断強度試験を行った。そして、引張破断強度が10Mpa以上を「合格」と表示し、10Mpa未満を「不合格」と表示した。
【0038】
〈引張破断伸び〉については、引張速度200mm/min、標線間20mmの引張破断伸び試験を行った。そして、引張破断伸びが150%以上を「合格」と表示し、150%未満を「不合格」と表示した。
【0039】
〈難燃性〉については、ISO6722規格の85℃又は100℃の耐熱グレードに対応する45°傾斜燃焼試験を行った。そして、70秒以内に消火し、かつ電線500mm中の上部50mm以上が残っているものを「合格」と表示し、70秒超で消火し、かつ電線500mm中の上部50mm未満しか残っていないものを「不合格」と表示した。
【0040】
〈スクレープ〉については、JASO−D611規格に準拠した耐磨耗性の指標となる試験を行った。つまり、φ0.45mmのニードルを荷重7Nで、電線の絶縁体上を往復させて磨耗試験を行い、そのとき内部の導体にニードルが接触するまでの回数を測定した。実際の測定では、絶縁体の偏肉の影響を排除するため90°ずつ回転させて絶縁体外周の上下左右の4方向から3回ずつの磨耗試験(計12回試験)し、今回は、その回数(平均値)が30回以上を「合格」と表示し、30回未満を「不合格」と表示した。
【0041】
〈絶縁性〉については、ISO6722規格に準拠した耐温水性試験で温水浸漬後の体積抵抗値(85℃)が109 Ωmmであることが測定できるため、今回はこの試験で109 Ωmm以上を「合格」と表示し、109 Ωmmを「不合格」と表示した。
【0042】
〈白化現象〉については、φ6mm、φ3mm、φ1mmのマンドレルに電線を巻き付けて、対応する曲げ曲率での絶縁体における白化現象の有無を観察した。
【0043】
【表1】

【0044】
【表2】

【0045】
【表3】

【0046】
【表4】

【0047】
上記の表1〜表4から明らかなように、本発明の難燃性絶縁電線の場合(実施例1〜12)、全ての特性において良好であることが分かる。特にベース樹脂のポリプロピレンに対して、特定性状のアタックチックポリプロピレンを多めに添加したときには(実施例7〜9)、白化現象の良好な防止効果が得られることが分る。
【0048】
これに対して、本発明の条件を欠く難燃性絶縁電線の場合(比較例1〜10)、いずれの点において問題があることが分る。
つまり、比較例1はベース樹脂にあって、ポリプロピレンに対してポリエチレンが添加されていない場合、難燃剤が良好に混合されないことが推測でき、樹脂特性(物性)の劣化が激しいことが分る。比較例2はポリエチレンの添加量が多過ぎる場合で、ポリプロピレンの優れた耐磨耗性が低下していることが分る。比較例3はトリアジン系難燃剤であるメラミンシアヌレートのみを添加した場合で、しかも、その添加量が多過ぎるため、絶縁性が不良であることが分る。
【0049】
比較例4は難燃剤の水和金属化合物である水酸化マグネシウムのみを添加した場合で、しかも、その添加量が多過ぎるため、難燃性が不十分であることが分る。また、メラミンシアヌレートの無添加により、白化現象が出現し易いことも分る。比較例5〜6は両難燃性の総添加量が少ない場合で、難燃性が不十分であることが分る。
【0050】
比較例7はメラミンシアヌレートの添加量が適量であるものの、水酸化マグネシウムの添加量が多い場合で、ポリプロピレンの優れた耐磨耗性や絶縁性が低下していることが分る。逆に、比較例8はメラミンシアヌレートの添加量が適量であるものの、水酸化マグネシウムの添加量が多い場合で、ポリプロピレンの優れた耐磨耗性や絶縁性が低下していることが分る。比較列9は両難燃性の総添加量が多い場合で、ポリプロピレンの優れた耐磨耗性や絶縁性が低下し、また、比重も大きくなることが分る。比較列10はポリプロピレンに対する特定性状のアタックチックポリプロピレンの添加量が多過ぎる場合で、ポリプロピレンの優れた耐磨耗性が低下しいることが分る。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリプロピレン80〜95質量部とポリエチレン20〜5質量部からなるポリオレフィン系樹脂混和物100質量部に対して、トリアジン系難燃剤10〜50質量部と水和金属化合物10〜50質量部の範囲でその総質量部が60〜100質量部となるように添加し、かつ、その比重を1.2以下としたことを特徴とするポリオレフィン系難燃性樹脂組成物。
【請求項2】
前記トリアジン系難燃剤がメラミンシアヌレートであることを特徴とする請求項1記載のポリオレフィン系難燃性樹脂組成物。
【請求項3】
前記水和金属化合物が水酸化マグネシウムであることを特徴とする請求項1又は2記載のポリオレフィン系難燃性樹脂組成物。
【請求項4】
前記ポリプロピレン80〜95質量部のうち、5〜30質量部がASTM−D2240による測定の表面硬度が60以下のアタックチックポリプロピレンであることを特徴とする請求項1、2又は3記載のポリオレフィン系難燃性樹脂組成物。
【請求項5】
前記ポリプロピレンが、融点160℃以上であることを特徴とする請求項1、2、3又は4記載のポリオレフィン系難燃性樹脂組成物。
【請求項6】
前記ポリエチレンが、低密度ポリエチレン又は直鎖状低密度ポリエチレンであることを特徴とする請求項1、2、3又は4記載のポリオレフィン系難燃性樹脂組成物。
【請求項7】
前記請求項1〜6のいずれかのポリオレフィン系難燃性樹脂組成物が導体上に被覆されてなることを特徴とする難燃性絶縁電線。
【請求項8】
前記請求項7記載の難燃性絶縁電線が組み付けられてなることを特徴とするワイヤーハーネス。


【公開番号】特開2007−326959(P2007−326959A)
【公開日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−159183(P2006−159183)
【出願日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】