説明

ポリオレフィン製微多孔膜

【課題】従来のポリオレフィン製微多孔膜と同等又はそれよりも低い膜抵抗を有すると共に、高気孔率、即ち、高出力特性をも有するポリオレフィン製微多孔膜を提供する。
【解決手段】下記式(1A)及び(2A)で表される条件を満足する、ポリオレフィン製微多孔膜。
−0.010≦(SM100−SM60)/40≦0.070 (1A)
0.005≦(ST120−ST60)/60≦0.050 (2A)
(式(1A)及び(2A)中、SM100、SM60、ST120及びST60は、それぞれ、100℃における長さ方向、60℃における長さ方向、120℃における幅方向及び60℃における幅方向の前記ポリオレフィン製微多孔膜の収縮応力を示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリオレフィン製微多孔膜に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリオレフィン製微多孔膜は、種々の物質の分離や選択透過に用いられる分離膜、及び隔離材等として広く知られている。その用途例としては、精密ろ過膜、燃料電池用材料、コンデンサー用セパレータ、機能材を孔の中に充填させ新たな機能を出現させるための機能膜の母材、並びに電池用セパレータなどが挙げられる。これらの用途のうち、ノート型パーソナルコンピュータ、携帯電話及びデジタルカメラなどに備えられるリチウムイオン電池におけるセパレータとして、ポリオレフィン製微多孔膜は特に好適に用いられている。その理由として、膜が高い機械強度及び孔閉塞性を有していることが挙げられる。
【0003】
孔閉塞性とは、過充電状態などにより電池内部が過熱した時に溶融して孔が閉塞し(以下、このことを「孔閉塞」という。)、電池反応を遮断することにより、電池の安全性を確保する性能のことである。孔閉塞の生じる温度が低いほど、安全性への効果は高いとされている。
また、セパレータを捲回する際の破膜を防いだり、電池内の異物などによる短絡を防いだりするためにも、セパレータの突刺強度は、ある程度以上の強度を有している必要がある。
加えて、セパレータには、蓄電デバイスの高出力を達成する観点から、低電気抵抗化、すなわち高気孔率化も求められる。
【0004】
このような事情のもと、特許文献1において、良好な透過性能と緻密な膜構造、及び低熱収縮性を併せ持ち、初期電池特性とサイクル特性を両立できる微多孔膜が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−323820号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された微多孔膜は、車載向けリチウムイオン二次電池などの高出力を必要とする用途を考えた場合、なお改善の余地を有するものであった。
【0007】
そこで、本発明は、従来のポリオレフィン製微多孔膜と同等又はそれよりも低い膜抵抗を有すると共に、高気孔率、即ち、高出力特性をも有するポリオレフィン製微多孔膜、及び、そのポリオレフィン製微多孔膜を備える非水電解液系二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上述の目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、ポリオレフィン製微多孔膜の融点温度よりも低い60〜120℃における熱収縮挙動を制御することで、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は下記のとおりである。
[1]下記式(1A)及び(2A)で表される条件を満足する、ポリオレフィン製微多孔膜。
−0.010≦(SM100−SM60)/40≦0.070 (1A)
0.005≦(ST120−ST60)/60≦0.050 (2A)
(式(1A)及び(2A)中、SM100、SM60、ST120及びST60は、それぞれ、100℃における長さ方向、60℃における長さ方向、120℃における幅方向及び60℃における幅方向の前記ポリオレフィン製微多孔膜の収縮応力を示す。)
[2]下記式(1B)及び(2B)で表される条件を満足する、ポリオレフィン製微多孔膜。
−0.010≦(SM100−SM60)/40≦0.070 (1B)
0.015≦(ST120−ST60)/60≦0.030 (2B)
(式(1B)及び(2B)中、SM100、SM60、ST120及びST60は、それぞれ、100℃における長さ方向、60℃における長さ方向、120℃における幅方向及び60℃における幅方向の前記ポリオレフィン製微多孔膜の収縮応力を示す。)
[3]突刺強度が200g以上である、[1]又は[2]のポリオレフィン製微多孔膜。
[4][1]〜[3]のいずれか1つのポリオレフィン製微多孔膜をセパレータとして備える非水電解液系二次電池。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、従来のポリオレフィン製微多孔膜と同等又はそれよりも低い膜抵抗を有すると共に、高気孔率、即ち、高出力特性をも有するポリオレフィン製微多孔膜、及び、そのポリオレフィン製微多孔膜を備える非水電解液系二次電池を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明する。
【0012】
本実施形態のポリオレフィン製微多孔膜は、下記式(1A)及び(2A)で表される条件を満足するものである。
−0.010≦(SM100−SM60)/40≦0.070 (1A)
0.005≦(ST120−ST60)/60≦0.050 (2A)
ここで、式(1A)及び(2A)中、SM100、SM60、ST120及びST60は、それぞれ、100℃における長さ方向(製膜時の樹脂吐出方向でもあり、以下、「MD」と略記する場合もある。)、60℃における長さ方向、120℃における幅方向(MDに直交する方向でもあり、以下、「TD」と略記する場合もある。)及び60℃における幅方向のポリオレフィン製微多孔膜の収縮応力を示す。
【0013】
本実施形態のポリオレフィン製微多孔膜(以下、単に「微多孔膜」ともいう。)は、上記のような構成上の特徴を有することにより、リチウムイオン二次電池にセパレータとして備えられる場合に、低い膜抵抗から高い出力特性を有するリチウムイオン二次電池を実現し得る。詳細は明らかではないが、本発明者らはその要因を下記のように考えている。すなわち、上記式(1A)及び(2A)で表される条件の両方を満足することで、適度な収縮挙動により、膜の厚み方向への変形度合いが良好となり、孔構造が維持され、液保持性が良好に保たれる結果、リチウムイオン二次電池のセパレータとして用いた場合に高い出力を可能にするものと考えている。ただし、要因はこれに限定されない。
【0014】
収縮応力は、下記実施例に記載の方法に準じて測定される。
【0015】
本実施形態の微多孔膜は上述のような特徴を有するため、高出力特性を必要とするリチウムイオン二次電池のセパレータ、例えば車載用リチウムイオン二次電池のセパレータとして特に好適である。
【0016】
本実施形態の微多孔膜は、膜強度と透過性のバランスの観点から、下記式(1B)及び(2B)で表される条件を満足すると好ましい。
−0.010≦(SM100−SM60)/40≦0.070 (1B)
0.015≦(ST120−ST60)/60≦0.030 (2B)
ここで、式(1B)及び(2B)中、SM100、SM60、ST120及びST60は、それぞれ、100℃におけるMD、60℃におけるMD、120℃におけるTD及び60℃におけるTDの微多孔膜の収縮応力を示す。
【0017】
本実施形態の微多孔膜は、膜強度と透過性のバランスの観点から、下記式(1C)で表される条件を満足すると好ましい。
0.030≦(SM100−SM60)/40≦0.070 (1C)
【0018】
本実施形態の微多孔膜の突刺強度(絶対強度)は、200g以上であることが好ましく、300g以上であることがより好ましい。突刺強度を200g以上とすることは、電池用のセパレータとして微多孔膜を使用する場合において、電池に備えられる電極材等の鋭利部が微多孔膜に突き刺さった際にも、ピンホールや亀裂の発生を低減し得る観点から好ましい。突刺強度の上限として特に制限はないが、1000g以下であることが好ましい。なお、突刺強度は、下記実施例に記載の方法に準拠して測定される。
【0019】
本実施形態の微多孔膜の気孔率は、40〜90%が好ましく、より好ましくは、55〜80%である。気孔率を40%以上とすることは、微多孔膜をリチウムイオン二次電池のセパレータとして用いた場合に、ハイレート時のリチウムイオンの急速な移動に追従する観点からも好ましい。一方、気孔率を90%以下とすることは、膜強度を向上する観点から好ましく、微多孔膜をリチウムイオン二次電池などの電気化学反応装置のセパレータとして用いた場合に自己放電抑制の観点からも好ましい。気孔率は、下記実施例に記載の方法に準拠して測定される。
【0020】
また、本実施形態の微多孔膜の交流抵抗は、電池のセパレータとして用いた場合の出力の観点から0.9Ω・cm2以下が好ましく、0.6Ω・cm2以下がより好ましく、0.3Ω・cm2以下が更に好ましい。微多孔膜の交流抵抗は、下記実施例に記載の方法に準拠して測定される。
【0021】
本実施形態の微多孔膜は、電池レート特性評価における容量維持率が、出力の観点から10〜20%であると好ましく、より好ましくは16〜20%である。容量維持率は、下記実施例に記載の方法に準拠して測定される。
【0022】
なお、上記のような各種特性を備える微多孔膜を形成する手段としては、例えば、押出時のポリオレフィンの濃度、ポリオレフィンにおけるポリエチレン及びポリプロピレンなど各種ポリオレフィンの配合比率、ポリオレフィンの分子量、延伸倍率、抽出後の延伸及び緩和操作を最適化する方法が挙げられる。
式(1A)及び(2A)のパラメータの値は、熱固定時の延伸温度、倍率を最適化することで調整することができる。
【0023】
また、微多孔膜の態様は、単層体の態様であっても積層体の態様であってもよい。
【0024】
次に、本実施形態の微多孔膜の製造方法について、例示的に説明する。ただし、得られる微多孔膜が、上記微多孔膜であれば、本実施形態の製造方法は、ポリマーの種類、溶媒の種類、押出方法、延伸方法、抽出方法、開孔方法、熱固定・熱処理方法など、何ら限定されることはない。
【0025】
本実施形態の微多孔膜の製造方法は、ポリマーと可塑剤とを、あるいは、ポリマーと可塑剤とフィラーとを溶融混練し成形する工程と、延伸工程と、可塑剤(及び必要に応じてフィラー)抽出工程と、熱固定工程とを含むことが、透過性及び膜強度の物性バランスを適度にコントロールする観点から好ましい。
【0026】
より具体的には、例えば、下記(1)〜(4)の各工程を含む微多孔膜の製造方法を用いることができる。
(1)ポリオレフィンと、可塑剤と、必要に応じてフィラーとを混練して、混練物を形成する混練工程。
(2)混練工程の後に混練物を押し出し、単層の又は複数層が積層したシート状に成形して冷却固化させるシート成形工程。
(3)シート成形工程の後、必要に応じて可塑剤及び/又はフィラーを抽出し、更にシート(シート状成形体)を一軸以上の方向へ延伸する延伸工程。
(4)延伸工程の後、必要に応じて可塑剤及び/又はフィラーを抽出し、更に熱処理を行う後加工工程。
【0027】
上記(1)の混練工程において用いられるポリオレフィンは、1種のポリオレフィンからなるものであってもよく、複数種のポリオレフィンを含むポリオレフィン組成物であってもよい。
【0028】
ポリオレフィンとしては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ−4−メチル−1−ペンテンが挙げられ、これらを2種類以上ブレンドして用いてもよい。以下、ポリエチレンを「PE」、ポリプロピレンを「PP」と略記することがある。
【0029】
ポリオレフィンの粘度平均分子量(Mv)は、好ましくは5万〜300万、より好ましくは15万〜200万である。粘度平均分子量が5万以上であることにより、溶融時の耐破膜性を発現させる効果が得られる傾向となり好ましく、300万以下であることにより、押出工程を容易にさせる効果が得られる傾向となり好ましい。粘度平均分子量は、下記実施例に記載の方法に準拠して測定される。
【0030】
また、ポリオレフィンの融点は、好ましくは100〜165℃、より好ましくは110〜140℃である。融点が100℃以上であることにより電池機能が安定する傾向となり好ましく、165℃以下であることにより、ヒューズ効果が得られる傾向となり好ましい。なお、融点は、DSC測定における融解ピークの温度を意味する。また、ポリオレフィンが複数種用いられる場合のポリオレフィンの融点は、その混合物のDSC測定において、融解ピーク面積の最も大きいピークの温度を意味する。
【0031】
ポリオレフィンとしては、孔の閉塞を抑制しつつ、より高温で熱固定を行うことができるという点から、高密度ポリエチレンを用いることが好ましい。
【0032】
このような高密度ポリエチレンのポリオレフィン中に占める割合は、好ましくは5質量%以上であり、より好ましくは10質量%以上である。その割合が5質量%以上であることにより、更に、孔の閉塞を抑制しつつ、より高温で熱固定を行うことができる。一方、高密度ポリエチレンのポリオレフィン中に占める割合は、好ましくは50質量%以下であり、より好ましくは40質量%以下である。その割合が50質量%以下であることにより、微多孔膜が、高密度ポリエチレンによる効果だけでなく、他のポリオレフィンによる効果をもバランス良く併せ持つことができる。
【0033】
また、ポリオレフィンとしては、微多孔膜を電池のセパレータとして用いた場合のシャットダウン特性を向上させ、あるいは釘刺し試験の安全性を向上させる観点から、粘度平均分子量(Mv)が10万〜30万のポリエチレンを用いることが好ましい。
【0034】
このような10万〜30万のポリエチレンがポリオレフィン中に占める割合は、好ましくは30質量%以上であり、より好ましくは45質量%以上である。その割合が30質量%以上であることにより、更に、微多孔膜を電池のセパレータとして用いた場合のシャットダウン特性を向上させ、あるいは釘刺し試験の安全性を向上させることができる。一方、10万〜30万のポリエチレンがポリオレフィン中に占める割合は、好ましくは100質量%以下であり、より好ましくは95質量%以下である。
【0035】
ポリオレフィンとして、安全性を向上する観点から、ポリプロピレンを用いてもよい。
【0036】
このようなポリプロピレンがポリオレフィン中に占める割合は、好ましくは5質量%以上であり、より好ましくは8質量%以上である。その割合が5質量%以上であることは、高温での耐破膜性を向上させる観点から好ましい。一方、ポリプロピレンがポリオレフィン中に占める割合は、好ましくは20質量%以下であり、より好ましくは18質量%以下である。その割合が20質量%以下であることは、微多孔膜が、ポリプロピレンによる効果だけでなく、他のポリオレフィンによる効果をもバランス良く併せ持つ微多孔膜を実現する観点から好ましい。
【0037】
(1)の混練工程において用いられる可塑剤としては、従来、ポリオレフィン製微多孔膜に用いられているものであってもよく、例えば、フタル酸ジオクチル(以下、「DOP」と略記することがある。)、フタル酸ジヘプチル、フタル酸ジブチルのようなフタル酸エステル;アジピン酸エステル及びグリセリン酸エステル等のフタル酸エステル以外の有機酸エステル;リン酸トリオクチル等のリン酸エステル;流動パラフィン;固形ワックス;ミネラルオイルが挙げられる。これらは1種を単独又は2種以上を組み合わせて用いられる。これらの中でも、ポリエチレンとの相溶性を考慮すると、フタル酸エステルが特に好ましい。
【0038】
また、(1)の混練工程では、ポリオレフィンと可塑剤とを混練して混練物を形成してもよく、ポリオレフィンと可塑剤とフィラーとを混練して混練物を形成してもよい。後者の場合に用いられるフィラーとしては、有機微粒子及び無機微粒子の少なくとも一方を用いることもできる。
【0039】
有機微粒子としては、例えば、変性ポリスチレン微粒子及び変性アクリル酸樹脂粒子が挙げられる。
【0040】
無機微粒子としては、例えば、アルミナ、シリカ(珪素酸化物)、チタニア、ジルコニア、マグネシア、セリア、イットリア、酸化亜鉛及び酸化鉄などの酸化物系セラミックス;窒化ケイ素、窒化チタン及び窒化ホウ素等の窒化物系セラミックス;シリコンカーバイド、炭酸カルシウム、硫酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、チタン酸カリウム、タルク、カオリンクレー、カオリナイト、ハロイサイト、パイロフィライト、モンモリロナイト、セリサイト、マイカ、アメサイト、ベントナイト、アスベスト、ゼオライト、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ藻土、ケイ砂等のセラミックス;ガラス繊維が挙げられる。
【0041】
(1)の混練工程におけるポリオレフィンと可塑剤と必要に応じて用いられるフィラーとのブレンド比は特に限定されるものではない。ポリオレフィンの混練物中に占める割合は、得られる微多孔膜の強度と製膜性との面から、25〜50質量%が好ましい。また、可塑剤の混練物中に占める割合は、押し出しに適した粘度を得る観点から、30〜60質量%が好ましい。フィラーの混練物中に占める割合は、得られる微多孔膜の孔径の均一性を向上させる観点から10質量%以上が好ましく、製膜性の面から40質量%以下が好ましい。
【0042】
なお、混練物には、更に必要に応じて、ペンタエリスリチル−テトラキス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]などのフェノール系、リン系、イオウ系等の酸化防止剤;ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛等の金属石鹸類;紫外線吸収剤;光安定剤;帯電防止剤;防曇剤;及び着色顔料等の各種添加剤を混合してもよい。
【0043】
(1)の混練工程における混練方法に特に制限はなく、従来用いられた方法であってもよい。例えば、混練する順番は、ポリオレフィン、可塑剤及び必要に応じて用いられるフィラーのうちの一部を予め混合したものを、ヘンシェルミキサー、V−ブレンダー、プロシェアミキサー及びリボンブレンダー等の一般的な混合機を用いて予め混合してから、残りの原料と共に更に混練してもよいし、原料の全てを同時に混練してもよい。
【0044】
また、混練に用いる装置も特に制限はなく、例えば、押出機、ニーダー等の溶融混練装置を用いて混練することができる。
【0045】
(2)のシート成形工程は、例えば、上記混練物を、Tダイ等を介してシート状に押し出し、その押出物を熱伝導体に接触させて冷却固化させる工程である。当該熱伝導体としては、金属、水、空気、及び可塑剤自体を使用できる。また、押出物を一対のロール間で挟み込むことにより冷却固化を行うことは、得られるシート状成形体の膜強度を増加させる観点、及びシート状成形体の表面平滑性を向上させる観点から好ましい。
【0046】
(3)の延伸工程は、シート成形工程を経て得られたシート(シート状成形体)を延伸して延伸シートを得る工程である。延伸工程におけるシートの延伸方法としては、ロール延伸機によるMD一軸延伸、テンターによるTD一軸延伸、ロール延伸機とテンターとの組合せ、又はテンターとテンターとの組合せによる逐次二軸延伸、同時二軸テンター又はインフレーション成形による同時二軸延伸が挙げられる。より均一な膜を得るという観点からは、シートの延伸方法は同時二軸延伸であることが好ましい。延伸の際のトータルの面倍率は、膜厚の均一性、並びに引張伸度、気孔率及び平均孔径のバランスの観点より、8倍以上が好ましく、15倍以上がより好ましく、30倍以上が更に好ましい。トータルの面倍率が30倍以上であると、高強度の微多孔膜が得られやすくなる。延伸温度は、高透過性と高温低収縮性とを付与する観点から、121℃以上が好ましく、膜強度の観点からは、135℃以下であることが好ましい。
【0047】
(3)の延伸工程における延伸又は(4)の後加工工程における熱処理に先立つ抽出は、抽出溶媒にシート又は延伸シートを浸漬したり、あるいは、抽出溶媒をシート又は延伸シートにシャワーしたりする方法により行なわれる。抽出溶媒は、ポリオレフィンに対して貧溶媒であり、且つ可塑剤及びフィラーに対して良溶媒であると好ましく、沸点がポリオレフィンの融点よりも低いと好ましい。このような抽出溶媒としては、例えば、n−ヘキサン及びシクロヘキサン等の炭化水素類;塩化メチレン、1,1,1−トリクロロエタン及びフルオロカーボン等のハロゲン化炭化水素;エタノール及びイソプロパノール等のアルコール;アセトン及び2−ブタノン等のケトン類;並びにアルカリ水が挙げられる。抽出溶媒は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0048】
なお、フィラーは、全工程内のいずれかの工程で全量又は一部を抽出されてもよく、最終的に得られる微多孔膜に残存させてもよい。また、抽出の順序、方法及び回数については特に制限はない。
【0049】
(4)の後加工工程における熱処理の方法としては、延伸工程を経て得られた延伸シートに対して、テンター及び/又はロール延伸機を用いて、所定の温度で延伸及び/又は緩和操作を行う熱固定方法が挙げられる。緩和操作とは、膜のMD及び/又はTDへ、所定の緩和率で行う縮小操作のことである。緩和率とは、緩和操作後の膜のMD寸法を操作前の膜のMD寸法で除した値、あるいは、緩和操作後のTD寸法を操作前の膜のTD寸法で除した値、あるいは、MD及びTDの双方で緩和した場合は、MDの緩和率とTDの緩和率とを乗じた値のことである。上記所定の温度は、高気孔率の観点より125℃以下であると好ましく、123℃以下であるとより好ましい。一方、熱収縮抑制の観点から、上記所定の温度は115℃以上であると好ましい。また、熱収縮率及び透過性の観点より、後加工工程にて、延伸シートをTDへ1.5倍以上に延伸することが好ましく、TDへ1.8倍以上に延伸することがより好ましい。一方、安全性の観点から、延伸シートをTDへ6.0倍以下に延伸することが好ましく、膜強度と透過性のバランスを維持する観点から、4.0倍以下がより好ましい。所定の緩和率は、熱収縮の抑制の観点から、0.9倍以下であると好ましく、しわ発生防止と気孔率及び透過性との観点より、0.6倍以上であると好ましい。緩和操作は、MD及びTDの両方向に行ってもよいが、MD及びTDのいずれか片方だけの緩和操作であってもよい。MD及びTDのいずれか片方だけの緩和操作であっても、その操作方向だけでなく、他方の方向にも、熱収縮率を低減することが可能である。
【0050】
得られる微多孔膜の粘度平均分子量は、20万〜100万が好ましい。その粘度平均分子量が20万以上であれば、膜の強度が維持されやすく、100万以下であると成形性に優れる。
【0051】
また、微多孔膜の膜厚は、安全性の観点から、5μm以上であると好ましく、高出力・高容量密度の観点から50μm以下であると好ましく、より好ましくは25μm以下である。この膜厚は、下記実施例に記載の方法に準じて測定される。
【0052】
なお、微多孔膜の製造方法は、上記(1)〜(4)の各工程に加え、積層体を得るための工程として、単層体を複数枚重ね合わせる工程を有することができる。また、その製造方法は、微多孔膜に、電子線照射、プラズマ照射、界面活性剤塗布及び化学的改質などの表面処理を施す工程を有してもよい。
【0053】
本実施形態のポリオレフィン製微多孔膜は、物質の分離、選択透過などに用いられる分離膜、及び、アルカリ電池、リチウム二次電池、燃料電池、コンデンサーなど電気化学反応装置の隔離材等として用いることができる。
【0054】
上述の本実施形態の微多孔膜は、非水電解液系二次電池のセパレータとして用いることができ、上述のようにリチウムイオン二次電池のセパレータとして用いると好適である。そのセパレータは、リチウムイオン二次電池の中でも、特に、バイク、スクーター及び自動車といった高出力特性が必要なアプリケーションに用いられると好適であり、それにより、従来以上の電池特性を付与させることが可能となる。本実施形態の微多孔膜を備える非水電解液系二次電池は、その微多孔膜を備える他は特に限定されず、微多孔膜以外は公知の構成を備えていてもよい。このように、本実施形態によれば、高出力特性(膜抵抗、レート特性)を発現するリチウムイオン二次電池を実現し得る、ポリオレフィン製微多孔膜が得られる。
【0055】
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明は上記本実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【実施例】
【0056】
次に、実施例及び比較例を挙げて本実施形態をより具体的に説明するが、本実施形態はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例中の各種物性は下記の方法により測定した。
【0057】
(1)粘度平均分子量(Mv)
試料の劣化防止のため、デカヒドロナフタリンに、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノールを0.1質量%の濃度となるように溶解させ、これ(以下、「DHN」と略記する。)を試料用の溶媒として用いた。試料をDHNへ0.1質量%の濃度となるように150℃で溶解させて試料溶液を得た。試料溶液を10mL採取し、キャノンフェンスケ粘度計(SO100)により135℃での標線間を通過するのに要する秒数(t)を計測した。また、DHNを150℃に加熱した後、10mL採取し、同様の方法により粘度計の標線間を通過するのに要する秒数(tB)を計測した。得られた通過秒数t、tBを用いて、下記の換算式により極限粘度[η]を算出した。
[η]=((1.651t/tB−0.651)0.5−1)/0.0834
【0058】
求められた[η]より粘度平均分子量(Mv)を算出した。原料のポリエチレン、原料のポリオレフィン組成物及び微多孔膜のMvは下記式により算出した。
[η]=6.77×10-4Mv0.67
また、原料のポリプロピレンについては、下記式によりMvを算出した。
[η]=1.10×10-4Mv0.80
【0059】
(2)膜厚(μm)
東洋精機製の微小測厚器であるKBM(商標)用いて、23±2℃の雰囲気温度にて膜厚を測定した。
【0060】
(3)気孔率(%)
10cm×10cm角の試料を微多孔膜から切り取り、その体積(cm3)と質量(g)とを求め、それらと膜密度(g/cm3)とから、下記式を用いて、気孔率を計算した。
気孔率=(体積−質量/膜密度)/体積×100
なお、膜密度はポリエチレンを0.95、ポリプロピレンを0.91として、組成の分率から計算した。なお、種々の膜密度として、JIS K−7112の密度勾配管法によって求めた密度を用いることもできる。
【0061】
(5)突刺強度(N)
カトーテック製のKES−G5(商標)ハンディー圧縮試験器を用いて、針先端の曲率半径0.5mm、突刺速度2mm/秒の条件で、23±2℃の雰囲気温度にて突刺試験を行った。最大突刺荷重(N)を計測し、その値を突刺強度とした。
【0062】
(6)収縮応力(g)
試料を、MD及びTDのそれぞれ測定する方向に合わせて、3×13.5mmに切り取った。その試料片の試料長を10.0mmとし、島津製作所製の熱分析装置(商品名「TMA−50」)の所定位置にセットして、10℃/分で昇温しながら、各温度における収縮応力(g)を測定した。
【0063】
(7)収縮応力の傾き(g/℃)
上記「(6)収縮応力(g)」における収縮応力の測定結果から、(SM100−SM60)/40及び(ST120−ST60)/60(いずれも単位はg/℃)を、それぞれ算出した。
【0064】
(8)微多孔膜の交流抵抗(Ω・cm2
セルの中で、白金電極、スペーサー、スペーサー、スペーサー及び白金電極をこの順に積層し、それらの間に、電解液であるプロピレンカーボネート(PC)とジメチルカーボネート(DMC)との50/50体積%の1M LiClO4溶液を注入してブランクセルを得た。次いで、セル両端の端子にクリップを挟み、ブランクセルの抵抗(R0)を測定した。次に、白金電極、スペーサー、スペーサー、微多孔膜、スペーサー及び白金電極をこの順に積層し、それらの間に、電解液であるPCとDMCとの50/50体積%の1M LiClO4溶液を注入してサンプルセルを得た。次いで、セル両端の端子にクリップを挟み、サンプルセルの抵抗(R1)を測定した。(R1−R0)を微多孔膜の交流抵抗(Ω・cm2)として算出した。
【0065】
(9)レート特性評価
a.正極の作製
正極活物質としてリチウムコバルト複合酸化物であるLiCoO2を92.2質量%、導電材としてリン片状グラファイトとアセチレンブラックとをそれぞれ2.3質量%、並びにバインダーとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)3.2質量%を、N−メチルピロリドン(NMP)中に分散させてスラリーを調製した。このスラリーを正極集電体となるアルミニウム箔にダイコーターで片面塗布し、乾燥し、更にロールプレス機で圧縮成形して正極を作製した。
【0066】
b.負極の作製
負極活物質として人造グラファイト96.9質量%、バインダーとしてカルボキシメチルセルロースのアンモニウム塩1.4質量%、並びにバインダーとしてスチレン−ブタジエン共重合体ラテックス1.7質量%を、精製水中に分散させてスラリーを調製した。このスラリーを負極集電体となる銅箔にダイコーターで塗布し、乾燥し、更にロールプレス機で圧縮成形して負極を作製した。
【0067】
c.非水電解液の調製
エチレンカーボネート:エチルメチルカーボネート=1:2(体積比)の混合溶媒に、溶質としてLiPF6を濃度1.0mol/リットルとなるように溶解させて非水電解液を調製した。
【0068】
d.レート特性評価
ポリオレフィン製微多孔膜を18mmφ、上記正極及び上記負極を16mmφの円形(円板)に切り出し、正極と負極との活物質面が対向するよう、正極、ポリオレフィン製微多孔膜及び負極の順に積層し、その積層体を蓋付きステンレス金属製容器に収納した。容器と蓋とは絶縁されており、容器は負極の銅箔と、蓋は正極のアルミニウム箔と接するように配置した。この容器内に上記非水電解液を注入して密閉し、その状態で室温にて1日放置した。その後、25℃雰囲気下、2mA(0.3C)の電流値で電池電圧が4.2Vになるまで充電し、その電圧に到達後、そのまま4.2Vを保持するようにして、電流値を3mAから絞り始めるという方法により、合計8時間、電池作製後の最初の充電を行った。続いて、6mA(1C)の電流値で電池電圧が3.0Vになるまで放電(定電流放電)して放電容量を測定した。次いで、上記と同様にして充電を行った後、30mA(5C)の電流値で電池電圧が3.0Vになるまで放電(定電流放電)して放電容量を測定した。
【0069】
前者(1C)の放電容量に対する後者(5C)の放電容量の割合を容量維持率(%)と定義し、容量維持率が16%以上の場合を「A」、10%以上16%未満の場合を「B」、10%を下回る場合を「C」として、レート特性(出力)を評価した。
【0070】
〔実施例1〕
純ポリマーとしてMvが25万のポリエチレンのホモポリマーを用意した。その純ポリマー99質量%に酸化防止剤としてペンタエリスリチル−テトラキス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]を1質量%添加し、タンブラーブレンダーを用いてドライブレンドすることにより、ポリマー等混合物を得た。得られたポリマー等混合物を、系内を窒素置換した二軸押出機へ窒素雰囲気下でフィーダーにより供給した。また、可塑剤として流動パラフィン(37.78℃における動粘度7.59×10-52/秒)を押出機のシリンダーにプランジャーポンプにより注入した。@ 二軸押出機により溶融混練し、押し出される全混合物中に占める流動パラフィンの量比が65質量%(すなわち、ポリマー等混合物(PC)の量比が35質量%)となるように、フィーダー及びポンプを調整した。溶融混練条件は、設定温度200℃、スクリュー回転数100rpm、吐出量12kg/時とした。
【0071】
続いて、得られた溶融混練物を、T−ダイを経て、表面温度25℃に制御された冷却ロール上に押し出してキャストすることにより、厚さ1550μmのゲルシートを得た。
次に、得られたゲルシートを同時二軸テンター延伸機に導き、二軸延伸を行い延伸シートを得た。設定延伸条件は、MDの延伸倍率7.0倍、TDの延伸倍率6.1倍、設定温度121℃であった。
次いで、延伸シートをメチルエチルケトン槽に導き、メチルエチルケトン中に充分に浸漬して、延伸シートから流動パラフィンを抽出除去し、その後、メチルエチルケトンを乾燥除去した。
【0072】
次に、メチルエチルケトンを乾燥除去した延伸シートをTDテンターに導き、熱固定を行った。熱固定温度を120℃、TD最大倍率を2.0倍、緩和率を0.90倍とした。こうして得られた微多孔膜の粘度平均分子量は25万であった。微多孔膜の各種特性を、組成、延伸条件等と共に表1に示す。
【0073】
[実施例2〜13、比較例1〜3]
下記表1及び2に示す条件以外は実施例1と同様にして微多孔膜を得た。なお、表中、Mvが70万のポリエチレンは高密度ポリエチレンである。また、実施例6で得られた微多孔膜のMvは55万であった。
微多孔膜の各種特性を、組成、延伸条件等と共に表1及び2に示す。
【0074】
[実施例14、15]
二軸延伸倍率の条件を、MDの延伸倍率7.0倍、TDの延伸倍率5.0倍とし、その他の条件については、下記表2に示す条件以外は実施例1と同様にして微多孔膜を得た。
微多孔膜の各種特性を、組成、延伸条件等と共に表2に示す。
【0075】
【表1】

【0076】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明のポリオレフィン製微多孔膜は、高出力特性を有するリチウムイオン電池用セパレータとして好適に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1A)及び(2A)で表される条件を満足する、ポリオレフィン製微多孔膜。
−0.010≦(SM100−SM60)/40≦0.070 (1A)
0.005≦(ST120−ST60)/60≦0.050 (2A)
(式(1A)及び(2A)中、SM100、SM60、ST120及びST60は、それぞれ、100℃における長さ方向、60℃における長さ方向、120℃における幅方向及び60℃における幅方向の前記ポリオレフィン製微多孔膜の収縮応力を示す。)
【請求項2】
下記式(1B)及び(2B)で表される条件を満足する、ポリオレフィン製微多孔膜。
−0.010≦(SM100−SM60)/40≦0.070 (1B)
0.015≦(ST120−ST60)/60≦0.030 (2B)
(式(1B)及び(2B)中、SM100、SM60、ST120及びST60は、それぞれ、100℃における長さ方向、60℃における長さ方向、120℃における幅方向及び60℃における幅方向の前記ポリオレフィン製微多孔膜の収縮応力を示す。)
【請求項3】
突刺強度が200g以上である、請求項1又は2に記載のポリオレフィン製微多孔膜。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリオレフィン製微多孔膜をセパレータとして備える非水電解液系二次電池。

【公開番号】特開2012−72263(P2012−72263A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−217729(P2010−217729)
【出願日】平成22年9月28日(2010.9.28)
【出願人】(309002329)旭化成イーマテリアルズ株式会社 (771)
【Fターム(参考)】