説明

ポリオールプロセスを用いた、ナノ結晶性粉末およびコーティングのマイクロ波補助連続合成

金属前駆物質とアルコール溶媒を含有する反応混合物を提供する段階と、反応器を通して反応混合物を連続的に流す段階と、反応混合物にマイクロ波またはミリメートル波エネルギーをかける段階であって、そのマイクロ波またはミリメートル波エネルギーが反応混合物の近傍に局在化される段階と、アルコール溶媒が金属前駆物質を金属に還元するように、反応混合物をマイクロ波またはミリメートル波エネルギーで加熱する段階であって、その加熱が反応器内で起こる段階とを含む、ナノ結晶性金属を形成する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に、金属粉末およびフィルムの合成、さらに具体的には、マイクロ波導波管、空洞またはビームシステムを用いた、ナノ構造金属粉末およびコーティングの連続合成に関する。
【背景技術】
【0002】
金属粉末は、物理蒸着法によって、機械的ブレンドおよび混合によって、化学的経路によって製造されている。蒸着法は費用効率が高くなく、少量の材料しか製造されない。機械的ブレンド経路では、最終生成物に不純物が取り込まれることが多い。流動床もまた、粉末を金属でコーティングするために使用されているが、蒸着法と同様に、初期設備の費用が高く、異なるサイズの粉末を均一にコーティングすること、および異なるサイズの粉末を取り扱うことが難しい。
【0003】
金属コーティングは、電気めっきおよび無電解めっきを使用して製造されている。無電解めっきでは、めっきする前に基材を前処理する必要があり、基材は絶縁体でなければならない。ポリオール法を使用した場合、表面を化学的に前処理する必要はなく、基材は電導性であっても、絶縁体であってもよい。
【0004】
ナノ構造粉末およびフィルム(粒径約1〜100nm)は、触媒、電磁遮蔽、磁気記録、センサー、生物医学的材料、エレクトロニクス材料、および高度設計材料などの、潜在的な多くの電子的、磁気的、および構造的用途を有する。
【0005】
種々の調製(preparative)技術の中でも、化学的経路は、分子または原子レベルの制御、ならびに処理および製造の効率的なスケールアップの利点を提供する。当技術分野の他の技術では、ポリオール法を用いて、Co、Cu、Ni、Pb、およびAgのミクロンおよびサブミクロンサイズの金属粉末を製造している。これらの粒子は、単一の元素で構成されている。反応に使用される金属前駆物質の種類に応じて、さらに還元剤および核剤を使用する場合が多い。反応中に更なる核剤および還元剤が存在することによって、望ましくない閉じ込められた不純物、特に非金属不純物が生じる結果となる。
【0006】
これらの従来の手順では、直径1〜25nmの平均サイズを有するナノ構造粉末を得ることができなかった。これらの従来の手順は、金属複合体もしくは合金のナノ構造粉末または金属フィルムの製造に有用ではなかった。
【0007】
クリハラらによる米国特許出願第10/113,651号に、バッチプロセスにおいてポリオール反応混合物を加熱するためのミリメートル波放射線の使用が開示されている。このプロセスは、ポリオールプロセスによって、ナノ構造金属粉末およびフィルムを製造することを可能にする。
【0008】
Grisaruら,Preparation of Cd1-xZnxSe Using Microwave-Assisted Polyol Synthesis, Inorg. Chem., 40, 4814-4815 (2001)には、金属ナノ粒子の小さなバッチを製造するための、低電力マイクロ波放射線の使用が開示されている。このプロセスの収量は、1バッチ当たり1グラム未満の量である。
【0009】
ポリオールプロセスを用いて、大量のナノ構造金属および粒子およびフィルムを製造するプロセスが依然として必要とされている。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、金属前駆物質とアルコール溶媒とを含有する反応混合物を提供する段階と、その反応混合物を反応器を通して連続的に流す段階と、反応混合物にマイクロ波またはミリメートル波エネルギーをかける段階であって、マイクロ波またはミリメートル波エネルギーが反応混合物の近傍に局在化される段階と、反応混合物をマイクロ波またはミリメートル波エネルギーで加熱し、その結果、アルコール溶媒が金属前駆物質を金属に還元する段階であって、その加熱が反応器内で起こる段階とを含む、ナノ結晶性金属を形成する方法を含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の第1段階において、金属前駆物質と、グリコールなどのアルコール溶媒とを含有する反応混合物を提供する。1種類を超える金属前駆物質および/またはグリコール溶媒が使用される。液体であり、かつ金属前駆物質(1種または複数種)を溶解し、または金属前駆物質(1種または複数種)を反応温度で反応させることができる、いずれかのグリコール溶媒を使用することができる。例えば、その開示内容全体が参照により本明細書に組み込まれる、Figlarzらにより米国特許第4,539,041号に記載されている、またはChowらにより米国特許第5,759,230号に記載されているポリオールを使用してもよい。具体的には、Figlarzらが、脂肪族グリコールおよびそれに相当するグリコールポリエステル、例えば主鎖に炭素原子6個までを有するアルキレングリコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、およびこれらのアルキレングリコールから誘導されるポリアルキレングリコールの使用を挙げている。本発明で使用するのに適した他のグリコール溶媒としては、限定されないが、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、エトキシエタノール、ブタンジオール、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、オクタンジオール、およびドデカンジオールが挙げられる。溶媒を沸騰させることなく、適切な反応温度に達することができれば、アルコール、例えばエタノール、プロパノール、ブタノールなどの関連する溶媒も使用することができる。
【0012】
反応混合物は、更なる有機溶媒を含んでもよい。液体である、または25℃を超える温度で液体になる、および金属前駆物質を溶解し、その結果、グリコールと反応し得る、いずれかの有機溶媒を使用することができる。次いで、金属前駆物質が溶解した後の任意の時点で、グリコール溶媒を有機溶媒中の金属前駆物質に添加することができる。
【0013】
適切な金属前駆物質としては、限定されないが、金属酢酸塩、塩化物、水和物、硝酸塩、酸化物、シュウ酸塩、カルボニル、水酸化物、アセチルアセトネート、シュウ酸塩、および炭酸塩が挙げられる。いずれかの特定の金属を含む、ナノ構造粉末およびフィルムの形成に使用するのに好ましい前駆物質は、当技術分野で公知であり、選択される金属に応じて異なるだろう。適切な前駆物質は、反応混合物に実質的に可溶性である。
【0014】
反応混合物中の前駆物質の濃度はクリスタリットサイズに影響し得る。この影響が生じた場合、前駆物質濃度が低いと、クリスタリットおよび粒子が小さくなる。前駆物質の濃度が低すぎた場合、たとえあるとしても、ほとんど沈殿物は形成しない。前駆物質の濃度が高すぎると、その結果として、サブミクロンサイズよりも大きなクリスタリットが形成する。さらに、反応混合物中の本質的にすべての金属前駆物質を完全に還元するのに十分なグリコール溶媒が存在する。そうでなければ、未反応の前駆物質が、純粋な、または本質的に純粋なナノ構造金属材料の形成を妨げる。前駆物質濃度の適切な範囲は、溶媒中の前駆物質の溶解性に応じて、約0.001〜2.00Mである。通常、飽和濃度付近の、約0.01〜0.1Mの溶液が使用される。
【0015】
混合する時点で、存在するグリコールおよび/または他のいずれかの有機溶媒を加熱してもよいし、未加熱でもよい。加熱は金属前駆物質の溶解を促進するが、還元プロセスを開始しない温度に制御される。
【0016】
本明細書に記載の方法は連続プロセスとして行われる。これは、反応器を通して反応混合物を流すことによって行われる。反応器によって、マイクロ波エネルギーが反応器に入り、反応混合物を加熱することが可能となるはずである。反応器は、マイクロ波エネルギーに対して透過性である材料を含み得る。
【0017】
このプロセスは周囲圧力で行うことができ、その場合には、このプロセス温度は溶媒の標準沸点に制限される。このプロセスは、周囲を超える圧力で行うこともでき、それは、溶媒の沸点を上昇させる利点を有し、かつより急速な反応および処理が可能となる。
【0018】
次いで、マイクロ波エネルギーを反応混合物にかける。これによって反応混合物が加熱され、その結果、グリコール溶媒は金属前駆物質を金属に還元する。本明細書で使用される金属という用語は、金属と金属酸化物の両方を含む。金属は、金属粒子または金属コーティングの形で製造される。連続プロセスにおいて、反応混合物が反応器を通って流れる間に、これが起こる。通常のバッチ式マイクロ波プロセスにおいて、マイクロ波オーブンなどの手段によって、マイクロ波エネルギーを反応混合物にかける。これは一般に、反応の近傍にエネルギーを局在化させることができない。ミリメートル波ビーム誘導バッチプロセスの場合には、エネルギーを反応器の近傍に局在化することができる。このようにして、連続プロセスにおいて、100倍を超える量に金属粉末生産量を高めることができる。マイクロ波源は、ポリオール連続プロセスを大幅に速めることを可能にし、その結果、小さな粒径および大きな粒径の均一性の粉末が製造される。マイクロ波プロセスによって、バッチ式マイクロ波またはミリメートル波プロセスよりもかなり高い速度で粉末を製造することが可能となる。
【0019】
マイクロ波ポリオール連続プロセスは、異なる3種類のマイクロ波システムを用いて行うことができ、そのシステムのすべてが反応器内でマイクロ波力を有効に局在化することができる。以下に記載の第1の種類のシステムは、シングルパスでの進行波アプリケーターであり、マイクロ波エネルギーが導波管の縦方向に沿って伝搬し、最大磁界および最大出力が、反応管が位置する導波管の中央に集束される。第2の種類のシステムは定在波システムであり、そのシステムでは、反応管の位置でマイクロ波エネルギーを集束させる空胴共振器内にマイクロ波が導入される。第3のシステムはビームシステムであり、そのシステムでは、通常短い波長のマイクロ波エネルギーが、ポリオール溶液がそれを通して流れる反応器上に集束される。適切な波源またはマイクロ波もしくはミリメートル波エネルギーとしては、限定されないが、マグネトロンおよびジャイロトロンが挙げられる。適切な波長としては、限定されないが、2.45GHzおよび83GHzが挙げられる。
【0020】
図1は、連続プロセスとして本発明の方法を実施する装置を模式的に図示する。この装置は、2.45GHzマイクロ波力を生成することができるマイクロ波マグネトロン10と、導波管20と、水負荷30とからなる。導波管20は、垂直な経路に沿って、水負荷30中に向かい、その水負荷は、反応器を通って流れるポリオール溶液中に結合していないマイクロ波エネルギーを吸収する。水負荷は、反応には関与しない。過剰なマイクロ波エネルギーを除去する他の手段を用いることもできる。導波管20の垂直部分は、直径10mmのシリカ管である、反応容器50を収容する。適切な管50は、限定されないが、20〜40cmの反応域を有する。この管50は、マイクロ波エネルギーに対して透過性である。ポンプ40は、管50を通って管の底に反応混合物を注入し、管の上部の出口50から押し出し、そこで混合物が回収される。混合物が導波管20内部の管50を通過する際に、金属粒子を生成するマイクロ波エネルギーにさらされる。出口ストリーム60において所望のサイズおよび量の金属粒子が得られるように、ポンプの速度が設定される。適切な反応時間は約10秒である。図示される導波管2は、シングルパス(single-pass)導波管である。導波管20を反応容器周囲の空胴共振器内に入れて、マイクロ波力を増強することもできる。この装置のマイクロ波力の適切な範囲は、約1000〜約3000Wである。
【0021】
図2は、導波管ベースの定在波(空胴共振器)アプリケーターにおいて、連続プロセスとして本発明の方法を実施するための装置を模式的に図示する。2.45GHzのマイクロ波エネルギー110が、絞り140によって閉ざされる空胴共振器130と、調節可能なショート(short)150とを収容する導波管120に入る。空洞130は高さ7.2cmであり、それはマイクロ波エネルギー110の周波数によって決定された。丸で囲まれた領域160は、最も高い力の領域を示す。内径1cmのシリカ反応管170はこの領域160を通過する。反応混合物は、180から入り、反応管170を通過し、190から出る。
【0022】
図3は、反応管において溶液を加熱するミリメートル波ビームを用いて、連続プロセスとして本発明の方法を実施する装置を図示する。ミリメートル波エネルギー210のビームは、焦点ミラー上で反応管220上に反射する。その反応管220を通じて反応混合物230が流れる。ビームを偏極させ、偏極方向を用いて、反応器への結合を高めることができる。放射線遮蔽を反応管の周囲に設置し、反応器におけるマイクロ波力をさらに集束させることもできる。直径1cmの反応管を用いたこのプロセスに適切な範囲のマイクロ波力は、約2000〜4000Wであり、還元プロセスは、反応管内の約10cmの長さにわたって1〜2秒で行われる。流出液240は、ナノ粒子を含有する。
【0023】
ナノ相材料の製造および有用な成分へのかかる材料の処理に対する、かかる急速な加熱の有効性が実証されている。熱源としてマイクロ波エネルギーを使用する利点の一部は、急速な加熱および冷却、容量加熱(volumetric heating)、熱慣性効果(thermal inertia effect)の除去、および加熱の空間的制御を含む。波長約83GHzのマイクロ波ビームシステムは、必要ならば、0.5cmと小さなスポットサイズに集束させることができ、ビーム源である場合には、マイクロ波エネルギーを反応器に向けるために必要に応じて、操縦し、焦点を合わせ、形づくることもできる。導波管の中央に沿う反応管を有する進行波システムにおいて、マイクロ波力は、2.45GHz Sバンド導波管内の中央1〜2cm内の力の大部分と共に導波管の軸に沿って集束され、管内の反応混合物に非常によく結合する。定在波システムにおいて、空胴共振器を使用して、力の同様な集中が得られ、力の大部分がSバンド導波管空胴共振器の中央の数立方センチメートル内に集中する。マイクロ波エネルギーは、ナノ相金属および金属合金粉末の製造におけるポリオールプロセスにおいて非常に有効な加熱源を提供する。この加熱源によって、溶液が大量に加熱されるため、処理時間が非常に短くなり、加熱速度が高くなる。これは、マイクロ波エネルギーがポリオーリ溶液に直接結合することからもたらされる。この周波数は、エチレングリコールにおいてピーク吸収がその周波数付近で生じることから、2.45GHzマイクロ波エネルギーは、エチレングリコールを加熱するのに特に有効である。加熱速度は、反応容器の壁を通って、溶液の内部を通って、反応容器に熱を輸送する必要性によって制限されないことから、溶液の急速な加熱が可能である。
【0024】
マイクロ波源によって、非常に短い処理時間、高い加熱速度、基材を選択的にコーティングする能力、および過熱された液体領域において作業する能力が可能となる。溶液要素にマイクロ波エネルギーが直接結合した結果、大量の加熱のために、加熱速度が高くなる。容器表面の凸凹での沸騰は通常、核をなすことから、大量の加熱によって、過熱することも可能となる。ビームを集束させる能力によって、基材のすぐ近くで還元反応を誘導することによって、基材を選択的にコーティングする能力が可能となる。
【0025】
ポリオールプロセスを誘導するマイクロ波加熱の他の利点は、より速い反応時間、さらに均一な熱加熱、および熱履歴を含む。これらの結果として、所望であれば、短い反応時間から小さな粒径が得られ、より均一な温度分布および熱履歴からより狭い粒径分布が得られる。
【0026】
反応混合物は、金属前駆物質(1種または複数種)を溶解するのに、またはそれを反応させるのに、および目的の金属の沈殿物を形成するのに十分に高い温度で反応させる。通常、還流温度が用いられる。エチレングリコール溶液の場合には、混合物を約85℃〜350℃、または約150℃〜220℃で反応させることができる。好ましい温度は、用いられる反応系、つまり溶媒および前駆物質の塩によって異なる。
【0027】
pHは本発明の方法に影響を及ぼし得る。例えば、反応中のpHの変化を利用して、反応混合物への反応生成物の溶解性を変えることができる。反応中に最小クリスタットの溶解性を変えることによって、得られるクリスタリットの平均サイズが制御される。反応全体を通して、一定のpHが望まれる場合には、緩衝液を含むように反応混合物に手を加えてもよい。
【0028】
反応中、必要ではないが、反応混合物を例えば音波処理によって攪拌するか、またはかき混ぜてもよい。反応中の攪拌の効果は、形成される金属、攪拌中に加えられるエネルギー、および最終生成物の形状(つまり、粉末またはフィルム状)によって異なる。例えば、磁性材料の製造時の攪拌はおそらく、凝集を増加させ(ここでの、界面活性剤の使用は有益であるだろう)、フィルムの形成時の攪拌はおそらく、フィルムのナノ構造に著しく影響しないだろう。しかしながら、フィルム形成時の攪拌はおそらく、形成されたフィルムの多孔性に影響を及ぼし、このためセンサーの製造に有用であり得る。攪拌は、ビームシステムで最も実現可能であり、攪拌プローブの存在はプロセスに影響を及ぼさない。
【0029】
一般に連続プロセスを用いて、金属または金属酸化物粒子を製造する。このプロセスでは、例えば、ミリメートル波ビームで局所的に加熱された流れる前駆物質溶液を通して基材を運搬するベルト上で、連続システムにおいて溶液を通して基材を輸送することによって、基材上にコーティングされた金属フィルムも製造することができる。ナノ構造フィルムを製造するために、その上にフィルムが設けられる基材を、反応中に反応混合物と接触させる。導電性基材が必要とされる電気化学的蒸着法とは異なり、本発明は、電気絶縁基材を含む任意の表面上に薄い、付着性の(接着テープ試験により決定される)ナノ構造フィルムを提供することができる。さらに、水性(aqueous)無電解めっきと異なり、本発明のプロセスは、水性環境において処理すべきではない表面上に、薄い、付着性のナノ構造金属フィルムを形成することができる。
【0030】
目的の沈殿物が形成した後、反応混合物を自然に冷却するか(例えば、空冷)、または急冷させる(強制冷却)。急冷は反応時間中ずっと高い制御を提供することから、空冷よりも好ましい。しかしながら、基材上に導電性金属フィルムを蒸着するのに有用である急冷の場合には、基材およびフィルム/基材境界面は、急速な熱変化に耐えることができなければならない。基材および/またはフィルム/基材境界面がこれらの急速な熱変化に耐えることができない場合には、空冷を用いるほうがよい。
【0031】
本発明の方法を用いて、種々の金属およびその合金または複合体を形成することができる。例えば、Cu、Ni、Co、Fe、Mn、またはこれらの金属を含有する合金または複合体など、遷移金属のナノ構造フィルムまたは粉末を本発明に従って製造することができる。他の例としては、Cr、Zn、Ga、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、Sn、Sb、W、Re、Ir、Pt、Au、およびPbが挙げられる。その他の例は、CoNi、AgNi、FeCu、FePt、FeNi、FeCo、CuCo等の上記のいずれかの合金である。金属/セラミック複合体および金属酸化物、例えばCoAl23およびCoFe23も可能である。上記で説明されるように、金属の前駆物質の形態は、金属自体によって異なるだろう。一般に、前駆物質は、反応条件下にて、元素金属に還元されるいずれかの金属含有化合物、および反応混合物に可溶性である副生成物である。本発明において、処理温度での通常の反応時間は約1〜20秒にわたり、さらに多くの場合、約2〜10秒にわたる。この方法によって、約100nm以下の平均直径を有する金属粒子を製造することができる。
【0032】
本発明の方法は、核剤または触媒の非存在下にて、ナノ構造粉末およびフィルムを製造することができる。したがって、得られたナノ構造フィルムは、それらの特性を有害に変化させるであろう不純物を含まないか、または本質的に含まない。所望の場合には、界面活性剤および/または分散剤を反応混合物に添加して、ナノ粒子の凝集を防ぐことができる。高純度の生成物が求められる場合には、これらの界面活性剤および分散剤は、不溶性物質を本質的に含有しないか、または最終生成物から焼き尽くすことができるほうがよい。界面活性剤が使用される場合、界面活性剤の最良の選択は目的の金属によって異なるだろう。イオン性界面活性剤は望ましくないことに、金属前駆物質の還元中に反応系のpHを変化させることから、非イオン界面活性剤(例えば、高温ポリマー界面活性剤)を使用して、立体安定化することが好ましい。しかしながら、所望の場合には、イオン性界面活性剤と非イオン界面活性剤との混合物を使用することができる。所望の場合には、高沸点有機物またはキャッピング剤を反応混合物に添加して、凝集を防ぐことができる。キャッピング剤の例としては、トリグリセリドのカルボン酸のいずれか:例えば、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸および他の高分子量の酸、ステアリン酸およびカプロン酸、およびトリアルキルホスフィンなどの他の薬剤が挙げられる。
【0033】
本発明の方法を用いて、ナノ構造複合金属フィルムおよび粉末を製造することもできる。本明細書において定義されるように、複合金属フィルムは、少なくとも1種類の金属成分と、フィルムまたは粉末の望ましい特性を有意に高める量で意図的に含有される、少なくとも1種類の他の成分と、を含む。ナノ構造でもある他の成分は、必ずしもその必要はないが、一般に金属である。他の成分が金属である場合、その金属は、本発明の方法に従って純粋なフィルムとして蒸着することができる金属だけではなく、任意の金属である。本明細書および特許請求の範囲全体を通して、「複合物質」という用語は、少なくとも2種類の異なる成分を含有する複合体および合金として定義される。本明細書および特許請求の範囲全体を通して、「合金」という用語は、金属間化合物および2種類以上の金属の固溶体に当てはまる。「複合体」という用語は、金属と、少なくとも1種類の他の成分との相分離混合物に当てはまる。最終生成物の他の成分が化学的に安定なセラミックである場合、本発明は、ナノ構造金属/セラミック複合体を提供する。一般に、金属/セラミック複合体は、単一相材料または合金の形で金属を少なくとも50体積%含有する。本明細書および特許請求の範囲全体を通して、「複合体」という用語は、合金、および金属/セラミック複合体を含む。
【0034】
複合物質を製造するために、反応または還流温度に混合物を加熱する前に、少なくとも1種類の金属成分の前駆物質(1種または複数種)と、他の成分(1種または複数種)の前駆物質とを反応混合物中で原子的に(atomically)混合する。他の点では、このプロセスは、粉末およびフィルムの場合において上述のようにそれぞれ進める。
【0035】
本発明による複合物質の製造において、その成分と他の各成分との初期モル比は最終生成物において反映されない。さらに、成分の前駆物質が反応溶液中で原子的に混合する能力によって、その成分が複合物質最終生成物を形成することが保証されるわけではない。この理由から、いずれかの複合物質の各成分の前駆物質の正確な開始比(starting ratio)は、実験的に決定しなければならない。各成分の相対的還元電位から、この実験的決定を下す際にいくつかのガイダンスを得ることができる。
【0036】
プロセスにおける溶媒は再利用可能である。粉末供給原料は、任意のサイズまたは形であることができる。本発明のプロセスによって、以下の態様:磁性材料の蒸着;コロイド状金属の製造;単一の要素、合金および多成分要素の蒸着:ビームエネルギーを溶液要素に直接結合させることから生じる溶液の大量の加熱;不混和性金属の合金化;およびコーティング厚の制御および非常に急速な加熱、および溶液キネティクスの制御も可能となる。
【0037】
本発明が説明されているが、以下の実施例は本発明の具体的な用途を説明するために示されている。この実施例は、本出願で記載の本発明の範囲を制限するものではない。
【実施例】
【0038】
Cuナノ粒子の連続的製造−図1の装置を使用して、Cuナノ粒子を製造した。反応混合物は、エチレングリコール中の0.025M酢酸銅であった。マイクロ波エネルギー源は、2.45GHzマイクロ波エネルギー2.0kWを生成するCober Model S6F工業用マイクロ波発生器マグネトロンであった。ポンプ速度は3cm3/sに設定し、それによってシリカ管内での10秒の滞留時間が得られた。その管内での温度を205〜210℃に維持した。
【0039】
管からの流出液中にCu粒子が存在した。その後の粒径測定のために、粒子を溶媒中に懸濁したままにしておいた。光散乱法により決定された平均粒径は50nmであり、10および100nmでのピークを有する二峰性分布であった。連続プロセスを300秒間運転し、合計1.5gのCu粉末が製造された。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】進行波(導波管)アプリケーターにおいて連続プロセスとして、本発明の方法を実施するための装置を模式的に示す。
【図2】導波管ベースの定在波(共振空胴)アプリケーターにおいて連続プロセスとして、本発明の方法を実施するための装置を模式的に示す。
【図3】83GHzミリメートル波ビームアプリケーターを用いて連続プロセスとして、本発明の方法を実施するための装置を模式的に示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属前駆物質とアルコール溶媒とを含有する反応混合物を提供する段階と、
反応器を通して反応混合物を連続的に流す段階と、
反応混合物にマイクロ波またはミリメートル波エネルギーをかける段階であって、そのマイクロ波またはミリメートル波エネルギーが反応混合物の近傍に局在化される段階と、
アルコール溶媒が金属前駆物質を金属に還元するように、反応混合物をマイクロ波またはミリメートル波エネルギーで加熱する段階であって、その加熱が反応器内で起こる段階と、
を含む、ナノ結晶性金属を形成する方法。
【請求項2】
前記金属が粒子の形状である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記粒子が、約100nm以下の平均直径を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記反応混合物から金属粒子を除去する段階をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記除去段階が、濾過、遠心分離、または磁気分離によって行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記金属がコーティングの形状である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記提供段階および前記加熱段階が、前記金属が非金属不純物を本質的に含有しないような手法で行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記提供段階および前記加熱段階が、前記金属が本質的に純粋な金属であるような手法で行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記金属前駆物質が、塩化物、酢酸塩、アセチルアセトネート、酸化物、カルボニル、炭酸塩、水和物、水酸化物、硝酸塩、シュウ酸塩、およびその混合物からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記アルコール溶媒がグリコールである、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記アルコール溶媒が、エチレングリコール、プロピレングリコール、テトラエチレングリコール、エトキシエタノール、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、およびその混合物からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記反応混合物が、前記金属に組み込まれて複合体を形成する1種または複数種の物質をさらに含有する、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記マイクロ波またはミリメートル波エネルギーが、周波数約2.45GHzを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記マイクロ波またはミリメートル波エネルギーが、周波数約83GHzを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記マイクロ波またはミリメートル波エネルギーが、マグネトロンから供給される、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記マイクロ波またはミリメートル波エネルギーが、ジャイロトロンから供給される、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記マイクロ波またはミリメートル波エネルギーが、導波管によって反応混合物に伝達される、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記マイクロ波またはミリメートル波エネルギーが、約1000〜約3000Wの力を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記導波管がシングルパス導波管である、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
前記導波管が空胴共振器を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
前記マイクロ波またはミリメートル波エネルギーが、マイクロ波ビームの形をとる、請求項1に記載の方法。
【請求項22】
前記マイクロ波ビームが、約500〜約5000Wの力を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項23】
前記マイクロ波ビームが、約10〜約500W/cm2の強度を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項24】
前記前駆物質が、反応混合物中で約0.01〜約0.3Mの濃度を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項25】
前記前駆物質が酢酸銅であり、かつ前記アルコール溶媒がエチレングリコールである、請求項1に記載の方法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公表番号】特表2006−517260(P2006−517260A)
【公表日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−503162(P2006−503162)
【出願日】平成16年1月29日(2004.1.29)
【国際出願番号】PCT/US2004/002569
【国際公開番号】WO2004/070067
【国際公開日】平成16年8月19日(2004.8.19)
【出願人】(505286925)
【氏名又は名称原語表記】BRUCE,Ralph,W.
【住所又は居所原語表記】1594 Chickasaw Road,Arnold,MD 21012 US
【Fターム(参考)】