説明

ポリカルボナート組成物

【課題】熱が加わった際に特性が変化しにくく、そして広範囲のガラス転移温度を有するポリカルボナート組成物を提供すること。
【解決手段】次の式(1):


の環状炭酸エステルと、ポリカルボナートとを含むポリカルボナート組成物であって、上記ポリカルボナート組成物が、上記ポリカルボナートよりも低いガラス転移温度を有することを特徴とするポリカルボナート組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環状炭酸エステルと、ポリカルボナートとを含むポリカルボナート組成物に関する。本発明は、特に、熱が加わった際に特性が変化しにくく、そして広範囲のガラス転移温度を有するポリカルボナート組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカルボナートは、耐衝撃性、軽量性、透明性、耐熱性等の優れた特性を有することから、種々のポリカルボナートが、様々な分野で大量に利用されている。
ポリカルボナートの中で、脂肪族ポリカルボナートは、生分解性を有するので、環境負荷の観点から重要な材料であるといえる。
ポリカルボナートはまた、その合成の際に、二酸化炭素を炭素源として利用することができるので、資源活用及び環境保護の観点からも重要な材料である。
【0003】
二酸化炭素を炭素源として利用してポリカルボナート等を製造する方法が種々検討されており、例えば、触媒として、亜鉛錯体、アルミニウム錯体、ポルフィリン錯体、サレン錯体(特許文献1及び特許文献2)等を用いる方法が挙げられる。例えば、特許文献1には、二酸化炭素を炭素源として利用し、安価且つ合成が容易なコバルト触媒を使用して、ポリカルボナート樹脂を高収率で製造することができる方法、及びエポキシドと二酸化炭素とが交互に結合して得られたポリカルボナートであって、1H−NMR分析により検出可能なエーテル結合成分を含まないポリカルボナートが開示されている。
従って、上述のような二酸化炭素を炭素源とするポリカルボナートを変性し、種々の特性、例えば、種々のガラス転移温度のものを備えることにより、上記ポリカルボナートの利用を促進することができると考えられる。
【0004】
ポリマーのガラス転移温度を変化させるための添加剤として、可塑剤が知られている。ポリカーボネート向けの可塑剤としては、例えば、脂肪酸エステル系可塑剤、例えば、ジオクチルセバケート、ジイソノニルアジペート及びジイソデシルアジペート、フタル酸エステル系可塑剤、例えば、ジイソデシルフタレート及びジシクロヘキシルフタレート、ポリエステル系可塑剤、例えば、ポリ1,4−ブチレンアジペート、並びにリン酸エステル系可塑剤、例えば、トリクレジルホスフェート及びトリフェニルホスフェートが知られている。
【0005】
また、特許文献3及び非特許文献1に記載されるように、プロピレンオキシドと、二酸化炭素とを重合することによりポリプロピレンカルボナートを合成する際に、副生成物として生成しうる次の式:
【化1】

の環状プロピレンカルボナートが、可塑剤として作用することも知られている。
【0006】
しかし、本願発明者により、可塑剤として作用しうる上記環状プロピレンカルボナートが、熱が加わった際、例えば、成形時に熱が加わった際に揮発し、ポリプロピレンカルボナート組成物の特性が変化する、特に、ガラス転移温度が高くなることが見出された。すなわち、従来可塑化効果があると知られている上記環状プロピレンカルボナートでは、安定した可塑化効果、例えば、ガラス転移温度の低さを、ポリプロピレンカルボナートに付与することが困難である。
また、合成技術の進歩により、エポキシドと、二酸化炭素との重合によりポリカルボナートを合成する際に、副生成物として、環状炭酸エステルを全く生成しない又はほとんど生成しない触媒が開発されてきている。従って、このようなポリカルボナートを可塑化するための可塑剤が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−215529号公報
【特許文献2】米国特許出願公開第2006/0089252号公報
【特許文献3】特表2009−534509号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上のように、エポキシドと、二酸化炭素との重合により製造されたポリカルボナートをはじめ、ポリカルボナート全般に用いることが可能な、安定した可塑化効果を有する可塑剤を開発することが望まれている。
従って、本発明は、熱が加わった際に特性が変化しにくく、そして広範囲のガラス転移温度を有するポリカルボナート組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、次の式(1):
【化2】

(式中、R1及びR2は、それぞれ独立して、水素原子、OH基、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよい脂肪族環基、若しくは置換されていてもよい芳香環基であるか、又はR1及びR2が互いに連結して、置換されていてもよい環を形成し、そしてR1及び/又はR2内に、O,S及びN原子から選択されるヘテロ原子が介在してもよいが、ただし、R1及びR2が、それぞれ、水素及び水素、メチル基及び水素、並びに水素及びメチル基である組み合わせを除く)の環状炭酸エステルと、ポリカルボナートとを含むポリカルボナート組成物であって、上記ポリカルボナート組成物が、上記ポリカルボナートよりも低いガラス転移温度を有することを特徴とするポリカルボナート組成物により、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
具体的には、本発明は以下の態様に関する。
[態様1]
次の式(1):
【化3】

(式中、
1及びR2は、それぞれ独立して、水素原子、OH基、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよい脂肪族環基、若しくは置換されていてもよい芳香環基であるか、又は
1及びR2が互いに連結して、置換されていてもよい環を形成し、そして
1及び/又はR2内に、O,S及びN原子から選択されるヘテロ原子が介在してもよいが、
ただし、R1及びR2が、それぞれ、水素及び水素、メチル基及び水素、並びに水素及びメチル基である組み合わせを除く)
の環状炭酸エステルと、ポリカルボナートとを含むポリカルボナート組成物であって、
上記ポリカルボナート組成物が、上記ポリカルボナートよりも低いガラス転移温度を有することを特徴とする、
上記ポリカルボナート組成物。
【0011】
[態様2]
1及びR2が、それぞれ独立して、水素原子、OH基、OH基により置換されていてもよい炭素数1〜20のアルキル基、OH基により置換されていてもよい炭素数5〜10の脂肪族環基、若しくはOH基により置換されていてもよい炭素数6〜10の芳香環基であるか、又はR1及びR2が互いに連結して、OH基により置換されていてもよい炭素数5〜10の脂肪族環を形成し、そしてR1及び/又はR2内に、最大10個のヘテロ原子が介在してもよい、態様1に記載のポリカルボナート組成物。
【0012】
[態様3]
大気圧下、80℃で23時間加熱した後に、上記環状炭酸エステルが、当初の環状炭酸エステルの70質量%以上残存する、態様1又は2に記載のポリカルボナート組成物。
[態様4]
上記ポリカルボナートのガラス転移温度よりも40℃以上低いガラス転移温度を有する、態様1〜3のいずれか1つに記載のポリカルボナート組成物。
【0013】
[態様5]
−60℃から80℃まで、10℃/分の速度で昇温した際のガラス転移温度をTg1とし、そして−20℃/分の速度で−60℃まで温度を低下させ、次いで、
10℃/分の速度で140℃まで昇温し、そして−20℃/分の速度で−60℃まで温度を低下させ、次いで、
10℃/分の速度で140℃まで昇温し、そして−20℃/分の速度で−60℃まで温度を低下させ、次いで、
10℃/分の速度で80℃まで昇温した際のガラス転移温度を、Tg2とした場合に、次の式:
g2−Tg1≦7℃
の関係を有する、態様1〜4のいずれか1つに記載のポリカルボナート組成物。
【0014】
[態様6]
上記環状炭酸エステルの含有率が、上記ポリカルボナート及び環状炭酸エステルの総質量に対して、5〜40質量%の範囲内にある、態様1〜5のいずれか1つに記載のポリカルボナート組成物。
[態様7]
上記ポリカルボナートが、エポキシドと、二酸化炭素とが交互に結合することにより生成されたポリカルボナートであり、当該エポキシドに由来する環状カルボナートを、1H−NMR分析により検出可能な範囲で含まない、態様1〜6のいずれか1つに記載のポリカルボナート組成物。
【0015】
[態様8]
上記ポリカルボナートが、1H−NMR分析により検出可能なエーテル結合を含まない、態様1〜7のいずれか1つに記載のポリカルボナート組成物。
[態様9]
上記ポリカルボナートが、ポリエチレンカルボナート又はポリプロピレンカルボナートである、態様1〜8のいずれか1つに記載のポリカルボナート組成物。
【発明の効果】
【0016】
本発明のポリカルボナート組成物は、可塑剤として、熱が加わった際に揮発しにくい所定の環状炭酸エステルを含むので、熱が加わった際に特性が変化しにくい。
また、本発明のポリカルボナート組成物は、広範囲のガラス転移温度を有することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のポリカルボナート組成物について、以下、詳細に説明する。
[環状炭酸エステル]
本発明に用いられる環状炭酸エステルは、次の式(1):
【化4】

(式中、
1及びR2は、それぞれ独立して、水素原子、OH基、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよい脂肪族環基、若しくは置換されていてもよい芳香環基であるか、又は
1及びR2が互いに連結して、置換されていてもよい環を形成し、そして
1及び/又はR2内に、O,S及びN原子から選択されるヘテロ原子が介在してもよいが、
ただし、R1及びR2が、それぞれ、水素及び水素、メチル基及び水素、並びに水素及びメチル基である組み合わせを除く)
を有する。
【0018】
本明細書において、「置換されていてもよい」とは、未置換であるか、又は置換されていることを意味する。
−置換されていてもよいアルキル基−
上記「置換されていてもよいアルキル基」は、炭素数約1〜約20のアルキル基であることが好ましく、炭素数約4〜約16のアルキル基であることがより好ましく、そして炭素数約6〜約12のアルキル基であることがさらに好ましい。
上記アルキル基の炭素数が多くなると、ポリカーボナートとの相溶性が不十分になる場合があり、そして上記アルキル基の炭素数が少なくなると、熱が加わった際の残存率が低下する傾向がある。
【0019】
上記アルキル基の例としては、直鎖又は分岐鎖のアルキル基、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基及びtert−ブチル基、n−ペンチル基、2−ペンチル基、3−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、n−ヘキシル基、2−ヘキシル基、3−ヘキシル基、3−メチルヘプタン−3−イル基、2,3−ジメチルブタン−2−イル基、3,3−ジメチルブタン−2−イル基、3,3−ジメチルブタン−1−イル基、n−ヘプチル基、2−ヘプチル基、1−エチル−1,2−ジメチル−n−プロピル基、1−エチル−2,2−ジメチル−n−プロピル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基、並びに直鎖又は分岐鎖のノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基等が挙げられる。
【0020】
上記置換されていてもよいアルキル基は、OH基、脂肪族環基、芳香環基、アシル基、アシルオキシ基、アルコキシカルボニル基、カルボキシル基、ホルミル基、シアノ基、アミノ基、ハロゲノ基、ニトロ基、スルホ基等の置換基により置換されていてもよい。置換基としての脂肪族環基としては、炭素数約5〜約10の脂肪族環基が好ましい。上記脂肪族環基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基、シクロデシル基、シクロウンデシル基、シクロドデシル基、デカヒドロナフチル基等が挙げられる。上記脂肪族環基としては、シクロヘキシル基及びデカヒドロナフチル基が好ましく、そしてシクロヘキシル基がより好ましい。上記脂肪族環基は、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等のアルキル基、フェニル基、ナフチル基等の芳香環基等から選択される1又は2以上の置換基でさらに置換されていてもよい。
【0021】
置換基としての芳香環基としては、炭素数約6〜約10の芳香環基が好ましく、例えば、フェニル基、インデニル基、ナフチル基、テトラヒドロナフチル基等が挙げられ、フェニル基が好ましい。上記芳香環基は、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等のアルキル基、フェニル基、ナフチル基等の芳香環基等から選択される1又は2以上の置換基でさらに置換されていてもよい。置換基としてのアシル基、アシルオキシ基及びアルコキシカルボニル基中のアルキル部分としては、置換されていてもよいアルキル基中のアルキル基と同一であることができる。
上記置換基としては、OH基が好ましい。水素結合により、環状炭酸エステルがより揮発しにくくなると考えられるからである。
【0022】
−置換されていてもよい脂肪族環基−
上記「置換されていてもよい脂肪族環基」は、炭素数約5〜約10の脂肪族環基が好ましく、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基、シクロデシル基、シクロウンデシル基、シクロドデシル基、デカヒドロナフチル基等が挙げられる。上記脂肪族環基としては、シクロヘキシル基及びデカヒドロナフチル基が好ましく、そしてシクロヘキシル基がより好ましい。上記脂肪族環基は、OH基、アルキル基、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等、脂肪族環基、芳香環基、アシル基、アシルオキシ基、アルコキシカルボニル基、カルボキシル基、ホルミル基、シアノ基、アミノ基、ハロゲノ基、ニトロ基、スルホ基等により置換されていてもよい。置換基としての脂肪族環基及び芳香環基としては、上述の「置換されていてもよいアルキル基」の項で説明した置換基としての脂肪族環基及び芳香環基と同一のものを用いることができる。置換基としてのアシル基、アシルオキシ基及びアルコキシカルボニル基中のアルキル部分としては、置換されていてもよいアルキル基中のアルキル基と同一であることができる。
上記置換されていてもよい脂肪族環基の置換基としては、OH基が好ましい。水素結合により、環状炭酸エステルがより揮発しにくくなると考えられるからである。
【0023】
−置換されていてもよい芳香環基−
上記「置換されていてもよい芳香環基」は、炭素数約6〜約10の芳香環基が好ましく、例えば、フェニル基、インデニル基、ナフチル基、テトラヒドロナフチル基等が挙げられ、フェニル基が好ましい。上記芳香環基は、OH基、アルキル基、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等、脂肪族環基、芳香環基、アシル基、アシルオキシ基、アルコキシカルボニル基、カルボキシル基、ホルミル基、シアノ基、アミノ基、ハロゲノ基、ニトロ基、スルホ基等により置換されていてもよい。置換基としての脂肪族環基及び芳香環基としては、上述の「置換されていてもよいアルキル基」の項で説明した置換基としての脂肪族環基及び芳香環基と同一のものを用いることができる。置換基としてのアシル基、アシルオキシ基及びアルコキシカルボニル基中のアルキル部分としては、置換されていてもよいアルキル基中のアルキル基と同一であることができる。
【0024】
−置換されていてもよい環−
1及びR2が互いに結合することにより形成される、「置換されていてもよい環」としては、例えば、炭素数約5〜約10の脂肪族環を挙げることができる。例えば、R1及びR2が、−(CH24−である場合には、シクロヘキサン環を形成する。上記置換されていてもよい環は、OH基、アルキル基、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等、脂肪族環基、芳香環基、アシル基、アシルオキシ基、アルコキシカルボニル基、カルボキシル基、ホルミル基、シアノ基、アミノ基、ハロゲノ基、ニトロ基、スルホ基等により置換されていてもよい。置換基としての脂肪族環基及び芳香環基としては、上述の「置換されていてもよいアルキル基」の項で説明した置換基としての脂肪族環基及び芳香環基と同一のものを用いることができる。置換基としてのアシル基、アシルオキシ基及びアルコキシカルボニル基中のアルキル部分としては、置換されていてもよいアルキル基中のアルキル基と同一であることができる。
上記置換されていてもよい環の置換基としては、OH基が好ましい。水素結合により、環状炭酸エステルがより揮発しにくくなると考えられるからである。
【0025】
−ヘテロ原子の介在−
本発明に用いられる環状炭酸エステルにおいて、R1及び/又はR2内に、O,S及びN原子から選択されるヘテロ原子が介在してもよい。上記ヘテロ原子は、R1及び/又はR2内の炭素原子間に介在していることが好ましい。上記ヘテロ原子が、R1及び/又はR2内に複数存在する場合には、各ヘテロ原子は隣接しないことが好ましい。上記ヘテロ原子は、R1及び/又はR2内に、最大10個存在することが好ましく、最大8個存在することがより好ましく、そして最大6個存在することがさらに好ましい。
上記ヘテロ原子の中で、O及びS原子が好ましい。N原子は、例えば、脂肪族アミンとして、空気中の二酸化炭素と反応して炭酸塩を形成する場合があり、そして芳香族アミンとして空気中で酸化される場合があるからである。
組成物の着色しにくさの観点からは、O原子が特に好ましい。
【0026】
1及びR2の例としては、例えば、−CH3、−CH2CH2CH2CH3、−CH2CH2CH2CH2CH2CH2CH2CH3、−CH2OH、−CH2OCH2CH2CH2CH3、−CH2OCH2CH2CH2CH2CH2CH2CH2CH3、−CH2OCH2CH2OCH2CH2OCH3等が挙げられる。
【0027】
上記環状炭酸エステルとしては、例えば、次の式(2−1)〜式(2−6)の化合物を挙げることができる。式(2−4)〜式(2−6)が、ヘテロ原子が介在するR1又はR2を有する環状炭酸エステルの例である。
【0028】
【化5】

【0029】
本発明に用いられる環状炭酸エステルは、市販の製品をそのまま用いることができる。本発明に用いられる環状炭酸エステルはまた、J.Org.Chem.2005,70,8583に記載の方法、特開平7−206846号明細書、特開2004−107241号明細書等に記載の公知の方法を用いて製造することができる。
【0030】
[ポリカルボナート]
本発明に用いられるポリカルボナートは、特に制限されず、任意のポリカルボナートであることができる。上述の環状炭酸エステルは、任意のカルボナートの特性を変化させることができ、さらにカルボナート基を有するので、ポリカルボナートとの相溶性に優れるからである。
本発明に用いられるポリカルボナートは、生分解性を考慮すると、脂肪族ポリカルボナートであることが好ましい。また、本発明に用いられるポリカルボナートは、環境への負荷を考慮すると、原料に二酸化炭素を用いたポリカルボナートであること、例えば、エポキシドと、二酸化炭素とが交互に結合することにより生成されたポリカルボナートであることが好ましい。
【0031】
上記エポキシドと、二酸化炭素とが交互に結合することにより生成されたポリカルボナートにおいて、エポキシドがプロピレンオキシド又はエチレンオキシドであり、生成するカルボナートが、それぞれ、ポリプロピレンカルボナート又はポリエチレンカルボナートであることが好ましい。これらのカルボナートは、合成の際の副生成物として、次の式(3−1)又は式(3−2)の環状カルボナート:
【化6】

を含む場合があり、これらの環状炭酸エステルは、可塑剤として作用することができ且つ加熱時に揮発しやすいからである。
【0032】
なお、本明細書において、「環状カルボナート」は、本発明に用いられる「環状炭酸エステル」と、カルボナート基を有する環状化合物という意味では同一である。しかし、本発明に用いられる環状炭酸エステルが、所望の性能を有し、可塑剤としてポリカルボナートに添加されるものを意味するところ、環状カルボナートは、エポキシドと二酸化炭素とからポリカルボナートを合成する際に生成する副生成物である点で異なる。
【0033】
本発明に用いられるポリカルボナートとしては、エポキシドと、二酸化炭素とが交互に結合することにより生成されたポリカルボナートであって、当該エポキシドに由来する環状炭酸エステルを、1H−NMR分析により検出可能な範囲で含まないポリカルボナートであることが好ましい。上記環状炭酸エステルを添加することによる可塑化効果が大きいからである。
そのようなポリカルボナートを製造することができる方法として、特許文献1に記載の方法及び特許文献2に記載の方法を挙げることができる。
【0034】
本発明に用いられるポリカルボナートはまた、次の式(3):
【化7】

で表されるコバルト触媒を用いて製造することができる。
【0035】
3は、それぞれ独立して、H、炭素数約1〜約10のアルキル基若しくは炭素数約3〜約10のシクロアルキル基、置換若しくは非置換の、炭素数約6〜約20、好ましくは炭素数約6〜約14のアリール基、炭素数約1〜約10のアルコキシ基、炭素数約2〜約10のアシル基、炭素数約2〜約10のアシロキシ基、F、Cl、Br、I、又は−Si(R42−R5−Xから選択され、但しR3の少なくとも1つは−Si(R42−R5−Xである。ここで、−Si(R42−R5−Xはシリル置換基を表し、R4は、それぞれ独立して、炭素数約1〜約10のアルキル基若しくは炭素数約3〜約10のシクロアルキル基、置換若しくは非置換の、炭素数約6〜約20、好ましくは炭素数約6〜約14のアリール基から選択され、R5は、炭素数約1〜約8、好ましくは炭素数約1〜約6、より好ましくは炭素数約1〜約3の二価の炭化水素基であり、Xは、F、Cl、Br又はIから選択される。
【0036】
シリル置換基−Si(R42−R5−Xにおける、R4の具体例として、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、アリル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等の、直鎖又は分岐鎖のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロデシル基等のシクロアルキル基;フェニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、2,6−キシリル基、メシチル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、アントリル基等の置換又は非置換のアリール基等が挙げられる。また、R5の具体例として、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、メチルメチレン基、ジメチルメチレン基、エチルメチレン基、メチルエチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、オクタメチレン基等の直鎖又は分岐鎖の二価の炭化水素基が挙げられる。R4は、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、又はフェニル基であることが好ましく、メチル基、エチル基、又はフェニル基であることがより好ましく、メチル基であることが特に好ましい。R5は、メチレン基、エチレン基、又はプロピレン基であることが好ましく、メチレン基であることがより好ましい。Xは、Cl、Br又はIであることが好ましく、Clであることがより好ましい。
【0037】
3の具体例として、H;メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、アリル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等の、直鎖又は分岐鎖のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロデシル基等のシクロアルキル基;フェニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、2,6−キシリル基、メシチル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、アントリル基等の置換又は非置換のアリール基;メトキシ基、エトキシ基、ビニルオキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、アリルオキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、ヘキシルオキシ基、オクチルオキシ基、デシルオキシ基等のアルコキシ基;アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、バレリル基、ピバロイル基、ヘキサノイル基、ヘプタノイル基、オクタノイル基、デカノイル基等のアシル基;アセトキシ基、プロピオニルオキシ基、ブチリルオキシ基等のアシロキシ基;F、Cl、Br、I;フロロメチルジメチルシリル基、クロロメチルジメチルシリル基、ブロモメチルジメチルシリル基、ヨードメチルジメチルシリル基、クロロメチルジエチルシリル基、クロロメチルジ(イソプロピル)シリル基、クロロメチルジフェニルシリル基、(1−クロロエチル)ジメチルシリル基、(2−クロロエチル)ジメチルシリル基、(2−クロロプロピル)ジメチルシリル基、(3−クロロプロピル)ジメチルシリル基、(4−クロロブチル)ジメチルシリル基、(6−クロロヘキシル)ジメチルシリル基、(8−クロロオクチル)ジメチルシリル基等のシリル置換基が挙げられる。R3がシリル置換基以外である場合、H、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、アリル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、フェニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、2,6−キシリル基、メシチル基、メトキシ基、エトキシ基、ビニルオキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、アリルオキシ基、アセチル基、アセトキシ基、F、Cl、Br、又はIであることが好ましく、メチル基、エチル基、イソプロピル基、tert−ブチル基、シクロヘキシル基、又はフェニル基であることがより好ましく、tert−ブチル基であることが特に好ましい。R3がシリル置換基である場合、クロロメチルジメチルシリル基、(2−クロロエチル)ジメチルシリル基、又は(3−クロロプロピル)ジメチルシリル基であることが好ましく、クロロメチルジメチルシリル基であることがより好ましい。R3の両方ともシリル置換基であることがより好ましい。
【0038】
6は、各ベンゼン環上の約0〜約3個の置換基であって、それぞれ独立して、炭素数約1〜約10のアルキル基若しくは炭素数約3〜約10のシクロアルキル基、置換若しくは非置換の、炭素数約6〜約20、好ましくは炭素数約6〜約14のアリール基、炭素数約1〜約10のアルコキシ基、炭素数約2〜約10のアシル基、炭素数約2〜約10のアシロキシ基、F、Cl、Br又はIから選択される。R6の具体例として、シリル置換基以外のR3について上述した有機基を挙げることができ、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、アリル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、フェニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、2,6−キシリル基、メシチル基、メトキシ基、エトキシ基、ビニルオキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、アリルオキシ基、アセチル基、アセトキシ基、F、Cl、Br、又はIであることが好ましく、メチル基、エチル基、イソプロピル基、tert−ブチル基、シクロヘキシル基、又はフェニル基であることがより好ましく、tert−ブチル基であることが特に好ましい。R6は各ベンゼン環について1個であることが好ましく、このとき、R6の位置は、配位子のサリチルアルデヒドに相当する部位の3位であることが好ましい。
【0039】
Yは、2個の炭素原子を介して2個のイミノ窒素を連結する2価の連結基である。その2個の炭素原子に1又は複数の、炭素数約1〜約10のアルキル基若しくは炭素数約3〜約10のシクロアルキル基、又は置換若しくは非置換の、炭素数約6〜約20、好ましくは炭素数約6〜約14のアリール基が結合していてもよい。このような二価の連結基Yの炭素原子に結合する基として、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、アリル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等の、直鎖又は分岐鎖のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロデシル基等のシクロアルキル基;フェニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、2,6−キシリル基、メシチル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、アントリル基等の置換又は非置換のアリール基を挙げることができる。また、二価の連結基Yにおいて、その2個の炭素原子が、置換又は非置換の、飽和若しくは不飽和の脂肪族環又は芳香環の一部を構成してもよい。このような飽和若しくは不飽和の脂肪族環又は芳香環として、例えば、シクロヘキサン環、シクロヘキセン環、ベンゼン環等が挙げられ、これらの脂肪族環又は芳香族環は、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等のアルキル基、フェニル基、ナフチル基等のアリール基等の、1又は複数の置換基で置換されていてもよい。
【0040】
そのような二価の連結基Yの具体例として、上述したような炭素数約1〜約10のアルキル基若しくは炭素数約3〜約10のシクロアルキル基、又は置換若しくは非置換の炭素数約6〜約20のアリール基で置換されていてもよいエチレン基が挙げられ、このエチレン基は無置換であるか、1又は複数のメチル基、エチル基、イソプロピル基、tert−ブチル基、シクロヘキシル基、又はフェニル基で置換されていることが好ましい。また、二価の連結基Yの具体例として、隣接する2個の炭素原子がそれぞれ別のイミノ窒素に結合している置換又は非置換のシクロアルキレン基(例えば、シクロヘキサン−1,2−ジイル基)又はフェニレン基(例えば、1,2−フェニレン基)も挙げられる。これらの中でシクロヘキサン−1,2−ジイル基が好ましい。
【0041】
Zは、F-、Cl-、Br-、I-、N3-、脂肪族カルボキシラート、芳香族カルボキシラート、アルコキシド、及びアリールオキシドからなる群から選択されるアニオン性配位子である。アニオン性配位子はエポキシドのエポキシド炭素に対して求核性を有する場合がある。Zの具体例として、F-、Cl-、Br-、I-、N3-、アセタート、トリフルオロアセタート、トリクロロアセタート、プロピオナート、シクロヘキシルカルボキシラート等の脂肪族カルボキシラート;ベンゾアート、p−メチルベンゾアート、3,5−ジクロロベンゾアート、3,5−ビス(トリフルオロメチル)ベンゾアート、4−ジメチルアミノベンゾアート、4−tert−ブチルベンゾアート、ペンタフルオロベンゾアート(-OBzF5)、ナフタレンカルボキシラート等の芳香族カルボキシラート;メトキシド、エトキシド、プロポキシド、イソプロポキシド等のアルコキシド;フェノキシド、o−ニトロフェノキシド、p−ニトロフェノキシド、m−ニトロフェノキシド、2,4−ジニトロフェノキシド、3,5−ジニトロフェノキシド、3,5−ジフルオロフェノキシド、3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェノキシド、1−ナフトキシド、2−ナフトキシド等のアリールオキシド等が挙げられる。Zは、F-、Cl-、Br-、I-、アセタート、トリフルオロアセタート、トリクロロアセタート、ベンゾアート、又はペンタフルオロベンゾアートであることが好ましく、F-、Cl-、Br-、I-、トリフルオロアセタート、トリクロロアセタート、又はペンタフルオロベンゾアートであることがより好ましく、F-、Cl-又はペンタフルオロベンゾアートであることが特に好ましい。
【0042】
上述したコバルト錯体の中でも、式(4):
【化8】

又は式(5):
【化9】

(式中、R5、X及びZは上述の通りである。)
で表されるものが好ましく、式(6):
【化10】

又は式(7):
【化11】

(式中、Zは上述の通りである。)
で表されるものがより好ましく、式(6)で表されるものが特に好ましい。
【0043】
上記式(3)で表わされる触媒を用いる場合を含む、エポキシドと、二酸化炭素とからポリカルボナートを製造する際に、エポキシドとして、次の式(8):
【化12】

(式中、R1及びR2は、上述の通りである。)
で表されるものを用いることができる。
【0044】
そのようなエポキシドとして、例えば、1,2−エポキシブタン、1,2−エポキシヘキサン、1,2−エポキシオクタン、1,2−エポキシデカン、1,2−エポキシドデカン、スチレンオキシド、シクロヘキセンオキシド、3−フェニルプロピレンオキシド等が挙げられる。
【0045】
上記コバルト錯体に助触媒を組み合わせた触媒システムを用いて、エポキシドと二酸化炭素の共重合を行うこともできる。助触媒を併用することにより、共重合の反応速度を高める、及び/又は共重合体の交互規則性を高める、及び/又は副生成物である環状カルボナートの生成を抑制することができる。
【0046】
式(3)のコバルト錯体と組み合わせることが可能な助触媒の一例は、リン及び/又は窒素を含むカチオンと対アニオンとからなる塩である。そのような助触媒として、[R74N]+、[R74P]+、[R73P=N=PR73+(式中、R7は、それぞれ独立して、炭素数1〜20のアルキル基若しくは炭素数約3〜約20のシクロアルキル基、又は置換若しくは非置換の炭素数約6〜約20のアリール基である。)及び式(9):
【化13】

(式中、R8は、それぞれ独立して、炭素数約1〜約20のアルキル基若しくは炭素数約3〜約20のシクロアルキル基、又は置換若しくは非置換の炭素数約6〜約20のアリール基であり、R9は、イミダゾリウム環の炭素上の約0〜約3個の置換基であって、それぞれ独立して、炭素数約1〜約20のアルキル基若しくは炭素数約3〜約20のシクロアルキル基、又は置換若しくは非置換の炭素数約6〜約20のアリール基である。)からなる群から選択されるリン及び/又は窒素を含むカチオンと、F-、Cl-、Br-、I-、N3-、脂肪族カルボキシラート、芳香族カルボキシラート、アルコキシド、及びアリールオキシドからなる群から選択されるアニオンとの塩を使用できる。
【0047】
上記塩を構成するカチオン[R74N]+、[R74P]+、[R73P=N=PR73+における、R7の具体例として、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、アリル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基等の、直鎖又は分岐鎖のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロデシル基等のシクロアルキル基;フェニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、2,6−キシリル基、メシチル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、アントリル基等の置換又は非置換のアリール基が挙げられる。式(9)のイミダゾリウムにおけるR8及びR9の具体例として、R7について上述したような、直鎖又は分岐鎖のアルキル基、シクロアルキル基、及び置換又は非置換のアリール基が挙げられる。これらのR7、R8及びR9は、上記カチオン([R74N]+、[R74P]+、[R73P=N=PR73+、式(9)のイミダゾリウム)が全体として共重合反応に有利な立体的効果を発揮する、すなわち適切な嵩高さを有するように、選択して組み合わせることができる。
【0048】
上記塩を構成するカチオンとして、[R74N]+、[R73P=N=PR73+、又は式(9)のイミダゾリウムを使用することが好ましく、[R73P=N=PR73+を使用することがより好ましい。
【0049】
四級アンモニウム[R74N]+の具体例として、テトラブチルアンモニウム、テトラヘキシルアンモニウム、トリシクロヘキシルメチルアンモニウム、トリメチルフェニルアンモニウム等が挙げられる。
【0050】
四級ホスホニウム[R74P]+の具体例として、テトラブチルホスホニウム、テトラヘキシルホスホニウム、テトラシクロヘキシルホスホニウム、テトラフェニルホスホニウム、テトラ(メトキシフェニル)ホスホニウム等が挙げられる。
【0051】
ビス(ホスホラニリデン)アンモニウム[R73P=N=PR73+の具体例として、ビス(トリブチルホスホラニリデン)アンモニウム、ビス(エチルジフェニルホスホラニリデン)アンモニウム、ビス(n−ブチルジフェニルホスホラニリデン)アンモニウム、ビス(ジメチルフェニルホスホラニリデン)アンモニウム、ビス(トリフェニルホスホラニリデン)アンモニウム、ビス(トリトリルホスホラニリデン)アンモニウム、ビス(トリナフチルホスホラニリデン)アンモニウム等が挙げられる。これらの中でも、ビス(トリフェニルホスホラニリデン)アンモニウムが好ましい。
【0052】
式(9)のイミダゾリウムの具体例として、1,3−ジメチルイミダゾリウム、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム、1,3−ジエチルイミダゾリウム、1−エチル−2,3−ジメチル−イミダゾリウム、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウム、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウム等が挙げられる。
【0053】
上記塩を構成するアニオンとして、Zについて上述したものを挙げることができ、F-、Cl-、Br-、I-、アセタート、トリフルオロアセタート、トリクロロアセタート、ベンゾアート、又はペンタフルオロベンゾアートであることが好ましく、F-、Cl-、Br-、I-、トリフルオロアセタート、トリクロロアセタート、又はペンタフルオロベンゾアートであることがより好ましく、F-、Cl-又はペンタフルオロベンゾアートであることが特に好ましい。
【0054】
上記カチオン及びアニオンからなる塩として、例えば、テトラブチルアンモニウムクロリド、テトラブチルアンモニウムブロミド、テトラブチルアンモニウムアセタート、テトラブチルホスホニウムクロリド、テトラフェニルホスホニウムクロリド、ビス(トリフェニルホスホラニリデン)アンモニウムフルオリド(PPNF)、ビス(トリフェニルホスホラニリデン)アンモニウムクロリド(PPNCl)、ビス(トリフェニルホスホラニリデン)アンモニウムペンタフルオロベンゾアート(PPNOBzF5)、1,3−ジメチルイミダゾリウムクロリド、1−エチル−2,3−ジメチル−イミダゾリウムクロリド等が挙げられ、PPNF、PPNCl及びPPNOBzF5が好ましい。
【0055】
コバルト錯体と助触媒を組み合わせた触媒システムにおいて、コバルト錯体を上記式(4)又は式(5)の化合物とすることが好ましく、式(6)又は式(7)の化合物とすることがより好ましく、式(6)の化合物とすることが特に好ましい。
【0056】
このような触媒システムの中で、
式(6):
【化14】

(式中、Zは、F-、Cl-、Br-、I-、N3-、脂肪族カルボキシラート、芳香族カルボキシラート、アルコキシド、及びアリールオキシドからなる群から選択されるアニオン性配位子である。)で表される化合物と、[R73P=N=PR73+(式中、R7は、それぞれ独立して、炭素数約1〜約20のアルキル基若しくは炭素数約3〜約20のシクロアルキル基、又は置換若しくは非置換の炭素数約6〜約20のアリール基である。)で表されるリン及び窒素を含むカチオンと、F-、Cl-、Br-、I-、N3-、脂肪族カルボキシラート、芳香族カルボキシラート、アルコキシド、及びアリールオキシドからなる群から選択されるアニオンとの塩からなる助触媒とを含むものがより好ましく、ここで、Zがペンタフルオロベンゾアートであり、助触媒がビス(トリフェニルホスホラニリデン)アンモニウムクロリドであることが特に好ましい。
【0057】
エポキシドと二酸化炭素の共重合は、加圧可能な公知の重合反応装置、例えば、オートクレーブを用いて行うことができる。共重合の反応温度は、一般に約0℃以上、約100℃以下とすることができ、約10℃以上、約90℃以下であることが好ましく、約20℃以上、約60℃以下であることがより好ましい。共重合を低温で行うと、副生成物である環状カルボナートの生成を抑制でき、高温で行うと反応速度が増加してTOF及び/又はTONを向上させることができる。式(3)のコバルト錯体を用いると、従来の触媒又は触媒システムと比べて広い温度範囲で共重合を行うことができる。
重合の際に生成する副生成物としての環状カルボナートの生成を少なくするためには、低温、例えば、約25℃以下の温度で反応を実施することが好ましい。
【0058】
共重合時の二酸化炭素の分圧は、一般に約0.1MPa以上、約10MPa以下とすることができ、約5MPa以下であることが好ましく、約2MPa以下であることがより好ましい。窒素、アルゴン等の不活性ガスが二酸化炭素と一緒に反応雰囲気中に存在してもよい。
【0059】
エポキシドと触媒であるコバルト錯体とのモル比は、一般にエポキシド:コバルト錯体=約1000:1以上とすることができ、約2000:1以上であることが好ましい。式(3)のコバルト錯体は、反応温度を適宜上げることによって、エポキシド:コバルト錯体=約4000:1以上、約8000:1以上、約32000:1以上といった、錯体濃度が非常に低い条件で共重合することもできる。錯体濃度が低いと一般に反応時間が長くなるため、エポキシド:コバルト錯体=約100000:1以下、又は約50000:1以下とすることが一般的である。必要に応じて使用される助触媒の量は、コバルト錯体1モルに対して、一般に約0.1〜約10モルとすることができ、約0.3〜約5モルであることが好ましく、約0.5〜約1.5モルであることがより好ましい。
【0060】
共重合は無溶媒で行ってもよく、必要に応じて溶媒を使用して行ってもよい。使用可能な溶媒として、例えば、ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素、ジクロロメタン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素、ジメチルホルムアミド等のアミド、1,2−ジメトキシエタン等のエーテル及びそれらの組み合わせを用いることができ、ジクロロメタン、トルエン、ジメチルホルムアミド及び1,2−ジメトキシエタンが好ましく、ジクロロメタン及び1,2−ジメトキシエタンがより好ましい。溶媒を使用する場合、その量は、エポキシド1質量部に対して、一般に約0.1〜約100質量部とすることができ、約0.2〜約50質量部であることが好ましく、約0.5〜約20質量部であることがより好ましい。
【0061】
所望量のエポキシドが重合した後、公知の後処理を行うことができる。例えば、塩酸、メタノール、塩酸/メタノール混合物等を反応停止剤として反応混合物に投入し、必要に応じて昇温及び/又は攪拌して反応を終了することができる。その後、例えば、貧溶媒としてメタノール、ヘキサン等を用いてポリマーを再沈殿してもよく、ソックスレー抽出器を利用して固体状混合物から錯体を抽出してもよい。また、カラムクロマトグラフィー等の周知の手段を用いて、ポリマーをさらに精製してもよい。
【0062】
[ポリカルボナート組成物]
本発明のポリカルボナート組成物は、上述の環状炭酸エステルと、ポリカルボナートとを含む。
本発明のポリカルボナート組成物において、上記環状炭酸エステルの含有率は、本発明のポリカルボナート組成物が用いられる用途に所望の特性によって異なるが、上記ポリカルボナート及び環状炭酸エステルの総質量に対して、約5〜約40質量%の範囲内にあることが好ましく、約10〜約30質量%の範囲内にあることがより好ましく、そして約15〜約25質量%の範囲内にあることがさらに好ましい。上記環状炭酸エステルの含有率が約5質量%を下回ると可塑剤としての効果が表れにくい傾向があり、そして上記環状炭酸エステルの含有率が約40質量%を上回ると可塑剤の量が多すぎ、可塑剤がブリーディングする、ポリカルボナート組成物の物性が低下する等の場合がある。
【0063】
本発明のポリカルボナート組成物は、大気圧下、80℃で23時間加熱した後に、環状炭酸エステルが、当初の環状炭酸エステルの約70質量%以上残存することが好ましく、約90質量%以上残存することがより好ましく、そして約95質量%以上残存することがさらに好ましい。上記残存率が約70%を下回ると、熱履歴により、ポリカルボナート組成物の特性が変化し、特にガラス転移温度が上がり、ポリカルボナート組成物に割れ等が生ずる恐れがある。
なお、本明細書において、ガラス転移温度は、JIS K 7121−1987に規定される「プラスチックの転移温度測定方法」の、9.3ガラス転移温度の求め方、(2)補外ガラス転移開始温度(Tig)を意味する。
【0064】
本発明のポリカルボナート組成物のガラス転移温度は、本発明のポリカルボナート組成物が用いられる用途によって、所望のガラス転移温度は異なるが、上記ポリカルボナートのガラス転移温度よりも、約40℃以上低いことが好ましく、約50℃以上低いことが好ましく、そして約60℃以上低いことが好ましい。ポリカルボナートのガラス転移温度との差を広げることにより、本発明のポリカルボナート組成物がより広範囲な特性を有することができ、利用の分野が広がるからである。
【0065】
本発明のポリカルボナート組成物は、−60℃から80℃まで、10℃/分の速度で昇温した際のガラス転移温度をTg1とし、そして−20℃/分の速度で−60℃まで温度を低下させ、次いで、
10℃/分の速度で140℃まで昇温し、そして−20℃/分の速度で−60℃まで温度を低下させ、次いで、
10℃/分の速度で140℃まで昇温し、そして−20℃/分の速度で−60℃まで温度を低下させ、次いで、
10℃/分の速度で80℃まで昇温した際のガラス転移温度を、Tg2とした場合に、次の式:
g2−Tg1≦約7℃
の関係を有することが好ましい。また、Tg2−Tg1≦約5℃の関係を有することがより好ましく、そしてTg2−Tg1≦約3℃の関係を有することがさらに好ましい。Tg2−Tg1が約7℃を超えると、熱履歴により、ポリカルボナート組成物の特性、特にガラス転移温度が上がり、ポリカルボナート組成物に割れ等が生ずる恐れがある。
【0066】
本発明のポリカルボナート組成物の製法は、特に制限されず、種々の方法により製造することができる。例えば、ポリカルボナートのペレットに、環状炭酸エステルを滴下又は添加し、溶融混練することにより製造することができる。また、本発明のポリカルボナート組成物は、ポリカルボナートを環状炭酸エステル又は環状炭酸エステルの溶液に含浸させることにより製造することができる。さらに、本発明のポリカルボナート組成物は、ポリカルボナート及び環状炭酸エステルを溶媒に溶解し、混合し、次いで溶媒を揮発させることにより製造することができる。
【0067】
本発明のポリカルボナート組成物は、例えば、光学材料、熱分解性材料、医用材料、生分解性樹脂等として、様々な用途で利用することができる。
【実施例】
【0068】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0069】
以下の化合物の1H−NMRスペクトルは、JEOL社製JNM−ECP500(500MHz)、JNM−ECS400(400MHz)、JNM−GX400(400MHz)、又はJNM−alpha400を用いて測定した。ポリカルボナートの分子量は、ジーエルサイエンス社製高速液体クロマトグラフィーシステム(DG660B・PU713・UV702・RI704・CO631A)と、SHODEX社製KF−804Fカラム2本とを用いて、テトラヒドロフラン又はクロロホルムを溶出液として(40℃,1.0mL/分)、ポリスチレン標準を基準に換算して測定し、解析ソフトウェア(Scientific Software社製EZ Chrom Elite)で処理して求めた。
【0070】
[(1)触媒の調製]
以下の合成例に溶媒として使用したトルエン、テトラヒドロフラン、ヘキサン、ジエチルエーテルは関東化学株式会社から入手した脱水グレードの試薬をGlass Contour社製溶媒精製装置に通したものを使用した。メタノール、エタノールは脱水グレードの試薬を関東化学から入手したものをそのまま使用した。また、酢酸エチルは和光純薬株式会社から入手したものをそのまま使用した。
【0071】
tert−ブチルリチウムn−ペンタン溶液、トリエチルアミン、酢酸コバルトは関東化学から入手した。クロロメチルジメチルシリルクロリド、ペンタフルオロ安息香酸は東京化成工業株式会社から、(1R,2R)−ジアミノシクロヘキサンは和光純薬株式会社から入手した試薬をそのまま使用した。塩化マグネシウム、パラホルムアルデヒドはAldrich社から入手した試薬をそのまま使用した。
【0072】
以下の配位子合成において原料に用いられる4−ブロモ−2−tert−ブチルフェノール、3−tert−ブチル−5−((3’−クロロプロピル)ジメチルシリル)サリチルアルデヒドは文献(J.Am.Chem.Soc.,2007,129,8082)に従って調製したものを使用した。
【0073】
[合成例A:コバルト錯体(1)の合成]
[A−1:シリル置換サリチルアルデヒドの合成]
Ar雰囲気下、4−ブロモ−2−tert−ブチルフェノール5.4gをTHF200mLに溶解させ、−78℃に冷却した後、tert−ブチルリチウム(1.6M n−ペンタン溶液)41mLを2時間かけて滴下した。滴下後、−78℃で2時間攪拌し、クロロメチルジメチルシリルクロリド7.1mLを加えた。溶液を室温まで徐々に温め、4時間攪拌した後、水300mLを加え4時間撹拌した。酢酸エチル200mLで抽出を行い、有機層を減圧濃縮した。得られた黄色オイルをシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=20:1、Rf=0.47)により精製し、2−tert−ブチル−4−[(クロロメチル)ジメチルシリル]フェノール6.3gを薄黄色オイルとして得た(収率79%)。
1H−NMR(CDCl3,500MHz)δ7.43(s,1H),7.25(dd,1H),6.69(d,1H),4.84(s,1H),2.92(s,2H),1.41(s,9H),0.38(s,6H)ppm
【0074】
2−tert−ブチル−4−[(クロロメチル)ジメチルシリル]フェノール2.1g、トリエチルアミン3.5mL、塩化マグネシウム2.62gをTHF120mL中、室温で30分撹拌した。そこに、パラホルムアルデヒド0.8gを加え、3時間還流した。反応後、酢酸エチル100mL、水100mLを加え、室温で30分撹拌した後、分液し、水層をさらに酢酸エチル100mLで抽出した。有機層を水で洗浄、硫酸マグネシウムで乾燥した後、揮発分を減圧濃縮し得られた薄黄色オイルをシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=20:1、Rf=0.09)で精製した。3−tert−ブチル−5−[(クロロメチル)ジメチルシリル]サリチルアルデヒド1.4gを白色固体として得た(収率63%)。
1H−NMR(CDCl3,500MHz)δ11.89(s,1H),9.90(s,1H),7.67(s,1H),7.56(s,1H),2.94(s,2H),1.42(s,9H),0.43(s,6H)ppm
【0075】
【化15】

【0076】
[A−2:サレン配位子の合成]
3−tert−ブチル−5−[(クロロメチル)ジメチルシリル]サリチルアルデヒド808.9mg、(1R,2R)−ジアミノシクロヘキサン136mgを無水エタノール20mL中、室温で6時間攪拌した。揮発分を減圧濃縮後、析出物をろ過し、冷ヘキサン5mLで洗浄しサレン化合物770mgを黄色粉末として得た(収率85%)。
1H−NMR(CDCl3,500MHz)δ14.10(s,2H),8.31(s,2H),7.39(s,2H),7.15(s,2H),3.37(t,2H),2.84(s,4H),2.07−1.68(m,8H),1.40(s,18H),0.33(s,12H)ppm
【0077】
【化16】

【0078】
[A−3:コバルト錯体の合成]
Ar雰囲気下、サレン配位子770mgを脱水メタノール5mL、トルエン1mLに溶解させ、そこに無水酢酸コバルト212mgを加え、室温で3時間攪拌した。生じた沈殿をろ過で集め、冷メタノール5mLで洗浄し、赤色粉末のコバルト(II)錯体を得た。これを塩化メチレン10mLに溶解させ、ペンタフルオロ安息香酸240mgを加え、空気下、15時間攪拌した。揮発分を減圧濃縮した後、残留物を冷ヘキサンで洗浄し、緑褐色固体のコバルト(III)錯体(1)527mgを得た(収率48%)。
1H−NMR(DMSO−d6,500MHz)δ7.93(s,2H),7.55(s,2H),7.41(s,2H),3.65(m,2H),3.14(s,4H),2.05−1.85(m,8H),1.73(s,18H),0.37(s,6H),0.23(s,6H)ppm
【0079】
【化17】

【0080】
[合成例B:コバルト錯体(2)の合成]
[B−1:サレン配位子の合成]
3−tert−ブチル−5−[(3’−クロロプロピル)ジメチルシリル]サリチルアルデヒド313mg、(1R,2R)−ジアミノシクロヘキサン57mgをエタノール10mLに溶解させ、室温で12時間撹拌した。揮発分を減圧溜去した後、残留物を冷ヘキサン1mLで洗浄しサレン化合物330mgを黄色粉末として得た(収率94%)。
1H−NMR(CDCl3,500MHz)δ14.11(s,2H),8.45(s,2H),7.34(s,2H),7.23(s,2H),3.53−3.44(m,6H),2.00−1.93(m,2H),1.90−1.68(m,14H),1.40(s,18H),0.70(t,4H),0.26(s,6H),0.21(s,6H)ppm
【0081】
【化18】

【0082】
[B−2:コバルト錯体の合成]
Ar雰囲気下、サレン配位子200mgを塩化メチレン2mLに溶解させ、そこに無水酢酸コバルト50mgを加え、室温で2時間攪拌した。揮発分を減圧溜去した後、ジエチルエーテル1mLで洗浄し、赤色粉末のコバルト(II)錯体を得た。これを塩化メチレン2mL、トルエン2mLに溶解させ、ペンタフルオロ安息香酸60mgを加え、空気下、16時間攪拌した。揮発分を減圧濃縮した後、残留物を冷ヘキサン5mLで洗浄し、緑褐色粉末のコバルト(III)錯体(2)162mgを得た(収率60%)。
1H−NMR(DMSO−d6,500MHz)δ7.91(s,2H),7.52(s,2H),7.42(s,2H),3.63−3.57(m,6H),2.04−1.80(m,6H),1.77(s,18H),1.71−1.55(m,8H),0.76(t,4H),0.31(s,6H),0.24(s,6H)ppm
【0083】
【化19】

【0084】
[合成例C:コバルト−非対称サレン錯体(3)の合成]
[C−1:非対称サレン配位子の合成]
Ar雰囲気下、(R,R)−シクロヘキサンジアミンモノ塩酸塩(216mg、1.74mmol)、3,5−ジ−tert−ブチルサリチルアルデヒド(336mg、1.74mmol)、モレキュラーシーブス4A(200mg)を無水エタノール(6mL)、無水メタノール(6mL)混合溶媒中、室温で4時間撹拌した。そこに3−tert−ブチル−5−[(クロロメチル)ジメチルシリル]サリチルアルデヒド(648mg、1.74mmol)、トリエチルアミン(0.4mL、2.88mmol)を塩化メチレン(12mL)に溶解させた溶液を加え、室温で4時間撹拌した。反応溶液を,シリカゲルを用いてろ過し、シリカゲルを塩化メチレンで洗浄後、ろ液を濃縮した。残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=10:1、Rf=0.57)で精製し、黄色固体(701mg)を得た(収率67%)。
1H−NMR(CDCl3,500MHz)δ14.10(s,2H),8.31(s,1H),8.12(s,1H),7.39−7.15(m,4H),3.37(t,2H),2.84(s,2H),2.07−1.68(m,8H),1.40(s,18H),1.25(s,9H),0.33(s,6H)ppm
【0085】
【化20】

【0086】
[C−2:コバルト錯体の合成]
Ar雰囲気下、非対称サレン配位子(700mg、1.17mmol)を脱水メタノール5mL、トルエン1mLに溶解させ、そこに無水酢酸コバルト(207mg、1.28mmol)を加え、室温で3時間攪拌した。生じた沈殿をろ過で集め、冷メタノール5mLで洗浄し、赤色粉末のコバルト(II)錯体を得た。これを塩化メチレン10mLに溶解させ、ペンタフルオロ安息香酸(270mg、1.28mmol)を加え、空気下、15時間攪拌した。揮発分を減圧濃縮した後、残留物を冷ヘキサンで洗浄し、緑褐色固体のコバルト(III)錯体512mgを得た(収率51%)。
1H−NMR(DMSO−d6,500MHz)δ7.96(s,1H),7.87(s,1H),7.77(s,1H),7.48(m,3H),3.59(m,2H),3.11(s,2H),2.01−1.92(m,8H),1.75(s,18H),1.32(s,9H),0.37(s,6H)ppm
【0087】
【化21】

【0088】
[合成例D:コバルト錯体(4)の合成]
[D−1:サレン配位子の合成]
Ar雰囲気下、合成例Aのサレン配位子600mg、ヨウ化ナトリウム347mgをアセトニトリル10mLに溶解し、90℃で24時間撹拌した。生じた沈殿をろ過し、ろ液を減圧濃縮後、残留物を塩化メチレン20mLに溶解させ、飽和重曹水10mL、飽和食塩水10mLで洗浄し、有機層を硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮したところ、塩素がヨウ素で置換されたサレン配位子643mgを黄色粉末として得た(収率82%)。
1H−NMR(CDCl3,500MHz)δ14.09(s,2H),8.30(s,2H),7.39(s,2H),7.14(s,2H),3.33(t,2H),2.07(s,4H),1.98−1.74(m,8H),1.40(s,18H),0.36(s,12H)ppm
【0089】
【化22】

【0090】
[D−2:コバルト錯体の合成]
Ar雰囲気下、配位子100mgを塩化メチレン5mLに溶解させ、酢酸コバルト22mgを加え、室温で2時間撹拌した。揮発分を減圧溜去した後、真空下3時間乾燥すると、赤色固体を得た。これをトルエン5mLに溶解させ、ペンタフルオロ安息香酸28mgを加え、室温、空気下で15時間撹拌した。揮発分を減圧溜去し、残留物を冷ヘキサンで洗浄したところ、コバルト錯体(4)99mgを暗緑色粉末として得た(収率75%)。
1H−NMR(DMSO−d6,500MHz)δ8.30(s,2H),7.39(s,2H),7.14(s,2H),3.33(t,2H),2.07(s,4H),1.98−1.74(m,8H),1.40(s,18H),0.36(s,12H)ppm
【0091】
【化23】

【0092】
[製造例]
以下の製造例に使用したプロピレンオキシドは、東京化成工業から入手した試薬を水素化カルシウムで脱水後、アルゴン雰囲気下で蒸留して得られたものであり、エチレンオキシドは住友精化株式会社から入手したものをそのまま使用した。
【0093】
各金属錯体の触媒活性は金属1mol当たり、1時間当たりのエポキシドのポリマーへの転化量(mol)(以下TOF)、又は、触媒(助触媒含む)1g当たりのポリマーの収量(g)(以下TON)によって評価した。
【0094】
選択性は、反応溶液の1H−NMRスペクトルの積分値から以下のようにして算出した。
ポリプロピレンカルボナート:
ポリカルボナート:環状カルボナート:ポリエーテル=[5.0ppmの積分値]:[4.5ppmの積分値]:[3.5ppmの積分値]
ポリエチレンカルボナート:
ポリカルボナート:環状カルボナート:ポリエーテル=[4.2ppmの積分値]:[4.5ppmの積分値]:[3.6ppmの積分値]
【0095】
収率は生成物の質量から以下のようにして算出した。
収率(%)=[得たポリマーの総質量]/[仕込みエポキシド全てが反応したと仮定した際の質量]×100
仕込みエポキシドが全て反応したと仮定した際の質量=
[エポキシドの質量]×[(エポキシドの分子量)+(二酸化炭素の分子量)]/[エポキシドの分子量]
【0096】
[製造例1]
内容積50mLのステンレス製オートクレーブに、合成例Aで合成されたコバルト錯体(1)6.5mg、ビス(トリフェニルホスホラニリデン)アンモニウムクロリド(以下PPNCl、Aldrich社から購入したものをそのまま用いた)4.1mgを入れ、Ar雰囲気に置換した後、プロピレンオキシド1.0mL、二酸化炭素1.4MPaを仕込み、25℃で2時間反応させた。1H−NMRを測定した後、内容物を塩化メチレンに溶解させ、1N塩酸で洗浄後、メタノールを用いて析出させ、白色固体を0.86g得た。
ポリカルボナート:環状カルボナート:ポリエーテル=100:0:0、収率:59%、TOF:590h-1、TON:82g/g−cat、Mn=26000、Mw/Mn=1.14
【0097】
【化24】

【0098】
[製造例2]
触媒量を2分の1にし、プロピレンオキシドの量を2.0mL、重合時間を12時間にした以外は製造例1と同様の方法で重合を行い、ポリマーを1.89g得た。
ポリカルボナート:環状カルボナート:ポリエーテル=100:0:0、収率65%、TOF:433h-1、TON:365g/g−cat、Mn=82000、Mw/Mn=1.19
【0099】
[製造例3]
触媒量を8分の1にし、プロピレンオキシドの量を2.0mL、重合時間を72時間にした以外は製造例1と同様の方法で重合を行い、ポリマーを1.53g得た。
ポリカルボナート:環状カルボナート:ポリエーテル=100:0:0、収率53%、TOF:236h-1、TON:1173g/g−cat、Mn=74000、Mw/Mn=1.15
【0100】
[製造例4]
コバルト錯体(2)6.8mgを用いた以外は製造例1と同様の方法で重合を行い、ポリマーを0.5g得た。
ポリカルボナート:環状カルボナート:ポリエーテル=100:0:0、収率:34%、TOF:340h-1、TON:45g/g−cat、Mn=35700、Mw/Mn=1.18
【0101】
[製造例5]
コバルト錯体(3)6.0mgを用いた以外は製造例1と同様の方法で重合を行い、ポリマーを0.71g得た。
ポリカルボナート:環状カルボナート:ポリエーテル=100:0:0、収率:49%、TOF:490h-1、TON:71g/g−cat、Mn=39000、Mw/Mn=1.08
【0102】
[製造例6]
コバルト錯体(4)7.8mgを用いた以外は製造例1と同様の方法で重合を行い、ポリマーを0.56g得た。
ポリカルボナート:環状カルボナート:ポリエーテル=100:0:0、収率:38%、TOF:380h-1、TON:47g/g−cat、Mn=21900、Mw/Mn=1.10
製造例1〜6の結果を、下記表1にまとめる。
【0103】
【表1】

【0104】
製造例1〜6から、式(3)で示されるコバルト触媒は、環状炭酸エステルを生成せずにポリカルボナートを合成することができることが分かる。従って、式(3)で示されるコバルト触媒は、本発明のポリカルボナート組成物に用いるために好適なポリカルボナートを製造することができることが示唆される。
【0105】
[製造例7]
[ポリプロピレンカルボナートの合成]
特許文献2に従って、ポリプロピレンカルボナートを製造した。
プロピレンオキシドは、関東化学から購入したものを水素化カルシウム(CaH2)と水酸化カリウム(KOH)の存在下で常圧のアルゴン雰囲気下にて蒸留したものを用いた。
3Lのオートクレーブに空気中で秤量した次の式:
【化25】

のコバルト錯体349mg及びアルゴン雰囲気下で秤量したビス(トリフェニルホスホラニリデン)アンモニウムクロリド(PPNCl)246mgを入れ、室温にて2時間減圧乾燥した後、オートクレーブ内をArガスで置換した。プロピレンオキシド(PO)600mLをアルゴン雰囲気下、オートクレーブ内に加えた。メカニカルスターラーを使って撹拌しながら、二酸化炭素を室温にて1.4MPa圧入し、30℃で48時間撹拌し続けた(反応が進行するにつれて全圧が低下するため、18時間後、28時間後、及び44時間後に二酸化炭素を圧入して1.4MPaに調整した)。二酸化炭素を排出し、反応混合物を集めて5Lビーカーに入れ、1.6Lの塩化メチレンを加えて溶かした。得られた溶液に1規定の塩酸水溶液0.8Lを加えて3分間激しく撹拌し、水層を取り除いたあとにメタノールを用いて再沈殿をおこなった。得られた固体の塩化メチレンへの溶解、メタノールからの再沈殿という工程をさらに2回実施し、乾燥して345gのポリプロピレンカルボナートを得た。GPCの測定結果から数平均分子量103,900、分散度1.35(ポリスチレン換算)、ガラス転移温度39℃であった。
【0106】
[環状炭酸エステルの合成]
環状炭酸エステルの構造は、便宜上、上述の環状炭酸エステル構造体の番号を用いる。
環状炭酸エステル(2−3)及び(3−1)は、東京化成工業から購入した。それ以外の環状炭酸エステルは、J.Org.Chem.2005,70,8583に従って合成した。その原料となるエポキシドのうち、環状炭酸エステル(2−1),(2−2)及び(2−4)を合成するためのエポキシドは、東京化成工業から購入した。また、環状炭酸エステル(2−5)及び(2−6)を合成するためのエポキシドは、J.Org.Chem.1983,48,1117に従って合成し、その原料であるエピクロロヒドリン及びアルコールは、東京化成工業から購入した。
【0107】
[製造例8]
[環状エステル(2−1)の合成]
容量100mLのステンレス耐圧容器に、1,2−エポキシヘキサン29.0g(290mmol)及びビス(トリフェニルホスホラニリデン)アンモニウムクロリド(PPNCl)333mg(0.579mmol)を入れ、全圧が2.5MPaとなるように二酸化炭素を圧入し、120℃で60時間攪拌した。反応が進行するにつれて全圧が低下するため、24時間後に二酸化炭素を注入して2.5MPaに再調整した。二酸化炭素を排出し、反応混合物を、減圧下(0.1mmHg)、100℃で蒸留することにより、38.9g(270mmol)の環状炭酸エステル(2−1)を得た。収率は93%であった。
【0108】
1H−NMR(CDCl3,400MHz)δ4.70(ddd,J=15.0,7.4,5.6Hz,1H),4.53(t,J=8.2Hz,1H),4.07(t,J=8.0Hz,1H),1.88−1.76(m,1H),1.74−1.64(m,1H),1.50−1.30(m,4H),0.93(t,J=7.0Hz,3H).
【0109】
[製造例9]
[環状エステル(2−2)の合成]
容量300mLのステンレス耐圧容器に、1,2−エポキシデカン156g(1.00mol)及びビス(トリフェニルホスホラニリデン)アンモニウムクロリド(PPNCl)1.15g(2.00mmol)を入れ、全圧が2.5MPaとなるように二酸化炭素を圧入し、120℃で96時間攪拌した。反応が進行するにつれて全圧が低下するため、24時間毎に二酸化炭素を注入して2.5MPaに調整した。二酸化炭素を排出し、反応混合物を、減圧下(0.1mmHg)及び120℃で蒸留して未反応の1、2−エポキシデカンを除いた後、130〜160℃で蒸留することにより、174g(869mmol)の環状エステル(2−2)を得た。収率は87%であった。
【0110】
1H−NMR(CDCl3,400MHz)δ4.70(qd,J=7.5,5.6Hz,1H),4.52(t,J=8.0Hz,1H),4.07(dd,J=8.4,7.6Hz,1H),1.87−1.76(m,1H),1.73−1.63(m,1H),1.53−1.20(m,12H),0.89(t,J=6.8Hz,3H).
【0111】
[製造例10]
[環状エステル(2−4)の合成]
容量50mLのステンレス耐圧容器に、n−ブチルグリシジルエーテル19.5g(150mmol)及びビス(トリフェニルホスホラニリデン)アンモニウムクロリド(PPNCl)172mg(0.300mmol)を入れ、全圧が2.5MPaとなるように二酸化炭素を圧入し、120℃で48時間攪拌した。反応が進行するにつれて全圧が低下するため、24時間後に二酸化炭素を注入して2.5MPaに再調整した。二酸化炭素を排出し、反応混合物を、減圧下(0.1mmHg)及び70〜90℃で蒸留して未反応のn−ブチルグリシジルエーテルを除いた後、95〜120℃で蒸留することにより、24.3g(140mmol)の環状エステル(2−4)を得た。収率は93%であった。
【0112】
1H−NMR(CDCl3,400MHz)δ4.81(m,1H),4.50(t,J=8.0Hz,1H),4.39(dd,J=8.4,6.4Hz,1H),3.68(dd,J=10.8,3.6Hz,1H),3.61(dd,J=10.9,3.7Hz,1H),3.51(t,J=6.6Hz,2H),1.60−1.51(m,2H),1.42−1.31(m,2H),0.92(t,J=7.4Hz,3H).
【0113】
[製造例11]
[環状エステル(2−5)の合成]
−グリシジルn−オクチルエーテルの合成−
500mLのフラスコに、窒素雰囲気下で水素化ナトリウム8.73g(55%、200mmol)及びテトラヒドロフラン200mLを添加し、上記フラスコを水浴で冷却し且つ内容物を撹拌しながら、n−オクタノール26.0g(200mmol)を上記フラスコに、シリンジでゆっくりと添加した。室温で終夜撹拌した後、反応混合物中にエピクロロヒドリン22.2g(240mmol)をゆっくりと滴下し、室温で終夜撹拌した。反応混合物に硫酸/メタノール溶液を加えて中和した後、減圧下で溶媒及び未反応のエピクロロヒドリンを溜去した。得られた残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン/酢酸エチル=15/1)により粗精製し、得られた粗生成物を減圧下(0.06mmHg)45℃で蒸留することにより低沸点成分を除き、次いで50〜70℃で蒸留することにより、8.90g(47.8mmol)のグリシジルn−オクチルエーテルを得た。収率は24%であった。
【0114】
1H−NMR(CDCl3,400MHz)δ3.70(dd,J=11.4,3.4Hz,1H),3.51(dt,J=9.2,6.8Hz,1H),3.46(dt,J=9.2,6.8Hz,1H),3.38(dd,J=11.2,5.6Hz,1H),3.15(m,1H),2.80(t,J=4.6Hz,1H),2.61(dd,J=5.4,2.6Hz,1H),1.62−1.55(m,2H),1.40−1.20(m,10H),0.88(t,J=6.8Hz,3H).
【0115】
−環状エステル(2−5)の合成−
容量50mLのステンレス耐圧容器に、上記グリシジルn−オクチルエーテル5.59g(30.0mmol)及びビス(トリフェニルホスホラニリデン)アンモニウムクロリド(PPNCl)34.4mg(0.060mmol)を入れ、全圧が2.5MPaとなるように二酸化炭素を圧入し、120℃で40時間攪拌した。反応が進行するにつれて全圧が低下するため、24時間後に二酸化炭素を注入して2.5MPaに再調整した。二酸化炭素を排出し、反応混合物を減圧下(0.1mmHg)及び120℃で蒸留することにより未反応のグリシジルn−オクチルエーテルを除き、次いで135℃で蒸留することにより、6.08g(26.4mmol)の環状エステル(2−5)を得た。収率は88%であった。
【0116】
1H−NMR(CDCl3,400MHz)δ4.80(m,1H),4.49(t,J=8.4Hz,1H),4.39(dd,J=8.4,6.4Hz,1H),3.67(dd,J=11.0,4.2Hz,1H),3.61(dd,J=11.0,4.2Hz,1H),3.51(dt,J=9.2,6.4Hz,1H),3.49(dt,J=9.2,6.4Hz,1H),1.61−1.52(m,2H),1.38−1.20(m,10H),0.88(t,J=6.8Hz,3H).
【0117】
[製造例12]
[環状エステル(2−6)の合成]
−ジエチレングリコールグリシジルメチルエーテルの合成−
500mLのフラスコに、窒素雰囲気下で水素化ナトリウム8.73g(55%,200mmol)及びテトラヒドロフラン200mLを添加し、上記フラスコを水浴で冷却し且つ内容物を撹拌しながら、ジエチレングリコールモノメチルエーテル24.0g(200mmol)を上記フラスコにゆっくりと滴下した。水素ガスの発生が収まったことを確認してから室温で3時間撹拌した後、フラスコを水浴につけた状態でエピクロロヒドリン22.2g(240mmol)をゆっくりと滴下し、室温で終夜撹拌した。反応混合物に硫酸/メタノール溶液を加えて中和した後、減圧下で溶媒及び未反応のエピクロロヒドリンを溜去した。得られた残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサ/酢酸エチル=2/1,不純物溶出後は酢酸エチルのみ)により精製し、得られた生成物をさらに減圧下(0.05mmHg)、65〜80℃で蒸留することにより、21.1g(120mmol)のジエチレングリコールグリシジルメチルエーテルを得た。収率は60%であった。
【0118】
1H−NMR(CDCl3,400MHz)δ3.80(dd,J=11.6,2.8Hz,1H),3.76−3.64(m,6H),3.58−3.54(m,2H),3.44(dd,J=11.8,5.8Hz,1H),3.39(s,3H),3.17(m,1H),2.80(t,J=4.4Hz,1H),2.62(dd,J=5.0,2.6Hz,1H).
【0119】
−環状エステル(2−6)の合成−
容量50mLのステンレス耐圧容器に、上記ジエチレングリコールグリシジルメチルエーテル14.1g(80.0mmol)及びビス(トリフェニルホスホラニリデン)アンモニウムクロリド(PPNCl)91.8mg(0.160mmol)を入れ、全圧が2.5MPaとなるように二酸化炭素を圧入し、120℃で24時間攪拌した。二酸化炭素を排出し、反応混合物を減圧下(0.1mmHg)及び110℃で蒸留することにより未反応のジエチレングリコールグリシジルメチルエーテルを除き、次いで170℃で蒸留することにより、15.3g(69.5mmol)の環状エステル(2−6)を得た。収率は87%であった。
【0120】
1H−NMR(CDCl3,400MHz)δ4.82(m,1H),4.50(t,J=8.4Hz,1H),4.42(dd,J=8.4,6.4Hz,1H),3.77(dd,J=11.2,4.4Hz,1H),3.74−3.69(m,3H),3.67−3.62(m,4H),3.57−3.53(m,2H),3.38(s,3H).
【0121】
[実施例1〜6、及び比較例1]
[加熱時の環状炭酸エステルの残存率の評価]
Pyrex(商標)製バイアルに、下記表2に示す環状炭酸エステル(約300mg)を入れ、メタノール(2.0mL)加えて希釈する。ここに、製造例7で製造したポリプロピレンカルボナートの粉砕物(1.0g)を入れ、ポリプロピレンカルボナートが全て溶媒に浸かった状態で、室温で21時間撹拌した。室温で3時間減圧乾燥し、メタノールを完全に揮発させた後、得られた固体を、大気圧において、90°Cで5時間加熱し、環状炭酸エステルを含むポリプロピレンカルボナート組成物を得た。ポリプロピレンカルボナート組成物は、全て無色透明の固体であった。得られたポリプロピレンカルボナート組成物の1H NMRを、溶媒に重クロロホルムを用いて測定し、プロピレンカルボナートと環状炭酸エステルとに対応するシグナルの積分比から、環状炭酸エステルの初期含有率を算出した。
【0122】
次いで、ポリプロピレンカルボナート組成物(約100mg)を、ガラス製の50mLの試料管に入れ、蓋を開けた状態で80°Cに加熱し、数時間おきにその質量を測定し、環状炭酸エステルの残存率を追跡した。結果を表2にまとめる。
【0123】
【表2】

【0124】
可塑剤として作用しうることが知られている環状炭酸エステル(3−1)を用いた比較例1では、環状炭酸エステル(3−1)の残存率が、3時間後に79%に低下し、そして23時間後に50%まで低下することが分かる。例えば、炎天下の自動車内では、ダッシュボード付近の温度が高温になることが知られているが、比較例1のポリカルボナート組成物がこのような条件下に置かれる部材に用いられた場合には、環状炭酸エステル(3−1)が揮発し、ポリカルボナート組成物の特性が変化してしまう可能性が高い。
一方、環状炭酸エステル(2−1)〜(2−6)を用いた実施例1〜6では、6時間後に90質量%以上が残存し、そして23時間後に75質量%以上、特に実施例2〜6の試料では90質量%以上が残存しており、加熱時におけるポリカルボナート組成物の特性の変化が少ないことが示唆される。
【0125】
[実施例7〜12、及び比較例2]
[加熱サイクル下におけるガラス転移温度の変化の評価]
以下の加熱サイクル1〜4の条件下におけるガラス転移温度の変化を追跡した。なお、実施例7〜12では、それぞれ、実施例1〜6で製造されたポリプロピレンカルボナート組成物をそのまま用い、そして比較例2では、比較例1で製造されたポリプロピレンカルボナート組成物をそのまま用いた。
ガラス転移温度の測定には、エスアイアイ・ナノテクノロジー社製のDSC7020を用いた。
【0126】
−測定条件−
(サイクルA)
−60℃から80℃まで、10℃/分の速度で昇温する。この際のガラス転移温度をTgAとする。次いで、−20℃/分の速度で、−60℃まで温度を低下させる。
(サイクルB)
10℃/分の速度で140℃まで昇温する。この際のガラス転移温度をTgBとする。次いで、−20℃/分の速度で、−60℃まで温度を低下させる。
(サイクルC)
10℃/分の速度で140℃まで昇温する。この際のガラス転移温度をTgCとする。次いで、−20℃/分の速度で、−60℃まで温度を低下させる。
(サイクルD)
10℃/分の速度で80℃まで昇温する。この際のガラス転移温度を、TgDとする。
結果を表3にまとめる。
【0127】
【表3】

【0128】
可塑剤として作用しうることが知られている環状炭酸エステル(3−1)を用いた比較例1では、加熱サイクルにさらすことでガラス転移温度が上昇し、特にサイクル4では、ガラス転移温度が8.8℃上昇しているが、環状炭酸エステル(2−1)〜(2−6)を用いた実施例1〜6では、加熱サイクルにさらしてもガラス転移温度がそれほど変化しない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の式(1):
【化1】

(式中、
1及びR2は、それぞれ独立して、水素原子、OH基、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよい脂肪族環基、若しくは置換されていてもよい芳香環基であるか、又は
1及びR2が互いに連結して、置換されていてもよい環を形成し、そして
1及び/又はR2内に、O,S及びN原子から選択されるヘテロ原子が介在してもよいが、
ただし、R1及びR2が、それぞれ、水素及び水素、メチル基及び水素、並びに水素及びメチル基である組み合わせを除く)
の環状炭酸エステルと、ポリカルボナートとを含むポリカルボナート組成物であって、
前記ポリカルボナート組成物が、前記ポリカルボナートよりも低いガラス転移温度を有することを特徴とする、
前記ポリカルボナート組成物。
【請求項2】
1及びR2が、それぞれ独立して、水素原子、OH基、OH基により置換されていてもよい炭素数1〜20のアルキル基、OH基により置換されていてもよい炭素数5〜10の脂肪族環基、若しくはOH基により置換されていてもよい炭素数6〜10の芳香環基であるか、又はR1及びR2が互いに連結して、OH基により置換されていてもよい炭素数5〜10の脂肪族環を形成し、そしてR1及び/又はR2内に、最大10個のヘテロ原子が介在してもよい、請求項1に記載のポリカルボナート組成物。
【請求項3】
大気圧下、80℃で23時間加熱した後に、前記環状炭酸エステルが、当初の環状炭酸エステルの70質量%以上残存する、請求項1又は2に記載のポリカルボナート組成物。
【請求項4】
前記ポリカルボナートのガラス転移温度よりも40℃以上低いガラス転移温度を有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載のポリカルボナート組成物。
【請求項5】
−60℃から80℃まで、10℃/分の速度で昇温した際のガラス転移温度をTg1とし、そして−20℃/分の速度で−60℃まで温度を低下させ、次いで、
10℃/分の速度で140℃まで昇温し、そして−20℃/分の速度で−60℃まで温度を低下させ、次いで、
10℃/分の速度で140℃まで昇温し、そして−20℃/分の速度で−60℃まで温度を低下させ、次いで、
10℃/分の速度で80℃まで昇温した際のガラス転移温度を、Tg2とした場合に、次の式:
g2−Tg1≦7℃
の関係を有する、請求項1〜4のいずれか一項に記載のポリカルボナート組成物。
【請求項6】
前記環状炭酸エステルの含有率が、前記ポリカルボナート及び環状炭酸エステルの総質量に対して、5〜40質量%の範囲内にある、請求項1〜5のいずれか一項に記載のポリカルボナート組成物。
【請求項7】
前記ポリカルボナートが、エポキシドと、二酸化炭素とが交互に結合することにより生成されたポリカルボナートであり、当該エポキシドに由来する環状カルボナートを、H−NMR分析により検出可能な範囲で含まない、請求項1〜6のいずれか一項に記載のポリカルボナート組成物。
【請求項8】
前記ポリカルボナートが、H−NMR分析により検出可能なエーテル結合を含まない、請求項1〜7のいずれか一項に記載のポリカルボナート組成物。
【請求項9】
前記ポリカルボナートが、ポリエチレンカルボナート又はポリプロピレンカルボナートである、請求項1〜8のいずれか一項に記載のポリカルボナート組成物。

【公開番号】特開2011−195637(P2011−195637A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−61439(P2010−61439)
【出願日】平成22年3月17日(2010.3.17)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【出願人】(899000024)株式会社東京大学TLO (50)
【出願人】(899000079)学校法人慶應義塾 (742)
【出願人】(504160781)国立大学法人金沢大学 (282)
【Fターム(参考)】