説明

ポリカルボン酸のアルキルベンジルエステル

【課題】ポリカルボン酸のアルキルベンジルエステルを含む混合物の提供。
【解決手段】芳香族もしくは脂肪族のポリカルボン酸のポリアルキルエステルと、芳香族もしくは脂肪族のポリカルボン酸のアルキルベンジルエステルと、芳香族もしくは脂肪族のポリカルボン酸のポリベンジルエステルとで構成されるエステル混合物であって、これらのエステル混合物は、芳香族もしくは脂肪族のポリカルボン酸とベンジルアルコールと脂肪族アルコールとを互いに反応させ、反応水を除去することにより調製することができる。該エステル混合物は、プラスチックスの可塑剤として使用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族もしくは脂肪族のポリカルボン酸のポリアルキルエステルと、芳香族もしくは脂肪族のポリカルボン酸のアルキルベンジルエステルと、芳香族もしくは脂肪族のポリカルボン酸のポリベンジルエステルとで構成されるエステル混合物、ならびに、これらのエステル混合物のいくつかの化学的調製方法、および可塑剤としてのこれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
可塑剤は、ポリ塩化ビニルなどのプラスチックを加工するために何十年にもわたり使用されてきた。最近、可塑剤に課される要件は、性能および人間や環境に対する無毒性に関してより厳しくなった。1つの重要な要求は、きわめて低い溶解温度に関する。この溶解温度は、可塑剤との関連では、可塑剤中のポリ塩化ビニル分散体が均一相になる温度のことである(非特許文献1)。低い溶解温度を有する可塑剤を用いれば、迅速加工が可能になりエネルギーが節約される。
【0003】
先行技術によれば、低い溶解温度が要求される用途では、主に、芳香族ポリカルボン酸のアルキルベンジルエステル(例えばブチルベンジルフタレート)が使用される(非特許文献2)。これらは、脂肪族アルコールと芳香族ポリカルボン酸またはその環状無水物との反応、および脂肪族アルコールとベンジルハライドとの反応(例えば、塩基の存在下におけるベンジルクロリドとの反応)によって低コストで調製可能である。この調製工程は、段階的に、またはワンポット法で実施することができる(ベンジルアルキルフタレートに関しては(特許文献1)、ベンジルアルキルトリメリテートに関しては(特許文献2)を参照されたい)。
【0004】
しかし、最新の可塑剤は、低い溶解温度だけでなく低い揮発性をも有することが求められている。可塑剤が揮発性であると、可塑化ポリ塩化ビニルが望ましくない脆化を起こしたり、消費者に近い用途では回避しなければならないいわゆる揮発性有機物質(VOC)による汚染を生じたりする。
【0005】
ブチルベンジルフタレートは、きわめて低い溶解温度を有するが、揮発性である。(特許文献3)には、比較的長いアルキル鎖を有するアルキルベンジルフタレート(例えば、ベンジルオクチルフタレート)が開示されており、これらは揮発性がより低い。しかし、アルキルベンジルフタレートはいずれも、ベンジルクロリドを用いるベンジル化によってこれらを調製する際に多量の腐食性塩を生じるという欠点がある。このため、廃水を生じる水系後処理が必要となり、コストがかさむ。さらに、高温でHClを脱離するベンジルクロリドには腐食作用があるので、耐食性の装置を使用することが必要になる。
【0006】
(非特許文献3)には、無水フタル酸とn−ブタノールとベンジルアルコールとで構成される混合物のエステル化によるブチルベンジルフタレートの調製法が記載されている。
【特許文献1】DE−A 1 468 373
【特許文献2】DE−A 1 593 047
【特許文献3】GB 969,911
【非特許文献1】L.マイヤー(L.Meier)著:「可塑剤(Weichmacher)」、R.ゲヒター(R.Gaechter)、H.ミュラー(H.Mueller)編:プラスチック添加剤ハンドブック(Taschenbuch der Kunststoffadditive)、第3版、361−362頁、ハンザー・フェアラーク(Hanser Verlag)刊、ミュンヘン(Munich)、1990年
【非特許文献2】L.マイヤー(L.Meier)著:「可塑剤(Weichmacher)」、R.ゲヒター(R.Gaechter)、H.ミュラー(H.Mueller)編:プラスチック添加剤ハンドブック(Taschenbuch der Kunststoffadditive)、第3版、397頁、ハンザー・フェアラーク(Hanser Verlag)刊、ミュンヘン(Munich)、1990年
【非特許文献3】L.M.ボロチナ(L.M.Bolotina)、E.G.マクシメンコ(E.G.Maksimenko)、G.V.マクシモバ(G.V.Maksimova)著、化学工業(Khimicheskaya Promyshlennost)、モスクワ(Moscow)、1978年、第54巻(第4号)、257−259頁(化学抄録(Chemical Abstracts)、1978年:423904)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、廃水を生じることなくかつベンジルクロリドを用いることなく簡単に調製することができる、低い溶解温度および低い揮発性を有する可塑剤を見いだすことにあった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
驚くべきことに、芳香族もしくは脂肪族のポリカルボン酸のポリアルキルエステル、芳香族もしくは脂肪族のポリカルボン酸のアルキルベンジルエステル、または芳香族もしくは脂肪族のポリカルボン酸のポリベンジルエステルで構成されるエステル混合物が、意外にも低い溶解温度とともに低い揮発性を有することを見出した。したがって、本発明は、その組成が以下の:
a) 構造式Z−(COORm−n(COORで示される1種以上のエステル2〜98重量%、および
b) 構造式Z−(COORで示されるエステル2〜98重量%
であるエステル混合物を提供する。
ここで、エステル混合物の成分で構成される重量パーセントの合計は100%であり、
構造式中、
は、直鎖状もしくは分岐鎖状のC〜C20−アルキル基であり、
は、C〜C−アルキルもしくはハロゲンで任意に置換されたベンジル基であり、
Zは、m価の、飽和もしくは不飽和の、直鎖状、分岐鎖状、環式、もしくは多環式のC〜C10炭化水素基であり、
mは、2〜4の数であり、かつ、
nは、1〜mの整数である。
【0009】
基は、好ましくは、n−ブチル、2−エチルヘキシル、またはイソノニルである。
【0010】
基は、好ましくはベンジル(=−CH−Ph)である。
【0011】
Z基は、好ましくは、構造的に、フタル酸、テレフタル酸、ピロメリット酸、トリメリット酸、マレイン酸、フマル酸、アジピン酸、アゼライン酸、またはセバシン酸に由来する。
【0012】
本発明の特に好ましい1つの実施形態では、構造式Z−(COORm−n(COORで示されるエステルが、ジイソノニルフタレート(m=n=2)およびイソノニルベンジルフタレート(m=2かつn=1)であり、構造式Z−(COORで示されるエステルがジベンジルフタレートである。
【0013】
本発明の特に好ましい他の実施形態では、構造式Z−(COORm−n(COORで示されるエステルが、トリブチルトリメリテート(m=n=3)、およびベンジルジブチルトリメリテート(m=3かつn=2)またはジベンジルブチルトリメリテート(m=3かつn=1)であり、構造式Z−(COORで示されるエステルがトリベンジルトリメリテートである。
【0014】
本発明のエステル混合物は、それ自体公知の成分を指定の比で混合することによって調製することができる。また、本発明のエステル混合物が3つ以上の成分を含む場合、混合エステル化によって有利に調製することもできる。したがって、本発明はまた、
a) 構造式Z−(COORm−n(COORで示される1種以上のエステル2〜98重量%と、
b) 構造式Z−(COORで示されるエステル2〜98重量%と
を含むエステル混合物の調製方法を提供する。
ここで、エステル混合物の成分で構成される重量パーセントの合計は、100%であり、構造式中、
は、直鎖状もしくは分岐鎖状のC〜C20−アルキル基であり、
は、C〜C−アルキルもしくはハロゲンで任意に置換されたベンジル基であり、
Zは、m価の、飽和もしくは不飽和の、直鎖状、分岐鎖状、環式、もしくは多環式のC〜C10炭化水素基であり、
mは、2〜4の数であり、かつ、
nは、1〜mの整数であり、
方法の一工程において、少なくとも1種の芳香族もしくは脂肪族のポリカルボン酸またはその誘導体と、少なくとも1種のベンジルアルコールと、少なくとも1種の脂肪族アルコールとを、50〜300℃の温度でかつ2mbar〜4barの圧力下で、場合により触媒の存在下で互いに反応させ、かつ、その反応水を好適な手段により混合物から除去することを特徴とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本出願において複数種のエステルは、1を超えてm種まで、好ましくは2〜4種のエステルを意味する。本発明の方法に導入しうるこれらの芳香族もしくは脂肪族のポリカルボン酸の形態は、酸自体の形態または誘導体の形態、例えば、無水物、エステル、もしくはアシルクロリドの形態である。本発明の1つの好ましい実施形態では、ポリカルボン酸および/またはその無水物が用いられる。
【0016】
反応水を除去することにより反応を完結させることが可能である。これは、例えばキシレンまたはトルエン等の好適な共留剤を用いることによって、あるいは好ましくはそれ自体が反応に関与するアルコールを用いることによって、達成可能である。特に好ましくは、50〜250℃の温度範囲内でかつ200mbar〜4barの範囲内の圧力下で水を除去する。
【0017】
本発明の方法で使用される反応パートナーは、(1)芳香族もしくは脂肪族のポリカルボン酸またはそれらの無水物、(2)ベンジルアルコール、(3)モノヒドロキシ脂肪族アルコール、および、場合により(4)触媒である。これらの反応パートナーについて以下に詳細に説明する。
【0018】
本発明で使用される無水物は、脂肪族酸の無水物または芳香族酸の無水物のいずれであってもよく、飽和であっても不飽和であってもよい。好適な無水物の例は、フタル酸、ピロメリット酸、トリメリット酸、マレイン酸、コハク酸、およびグルタル酸の無水物である。本発明の方法の目的においては、無水物は、溶融体の形態で、固体の形態で、例えばフレークの形態で、あるいは溶液の形態で、反応ゾーンに添加可能である。
【0019】
本発明で使用されるベンジルアルコールの例は、ベンジルアルコール、さらにはアルキル置換されたベンジルアルコール(例えば、メチルベンジルアルコール、エチルベンジルアルコール、ジメチルベンジルアルコールなど)、およびハロゲンで置換されたベンジルアルコール(例えば、クロロベンジルアルコール、ジクロロベンジルアルコール、トリクロロベンジルアルコール、ブロモベンジルアルコール、ジブロモベンジルアルコールなど)である。
【0020】
本発明で使用されるアルコールは、一価脂肪族アルコール〔例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール(例えば、n−ブチルアルコールおよびsec−ブチルアルコール、イソブチルアルコール)、アミルアルコール、ヘキシルアルコール(例えば、n−ヘキシルアルコール、1,4−ジメチルブチルアルコール)、n−ヘプチルアルコール、オクチルアルコール(例えば、イソオクチルアルコール、n−オクチルアルコール、2−エチルヘキサノール)、n−ノニルアルコール、イソノニルアルコール、デシルアルコール(例えば、n−デシルアルコール、イソデシルアルコール、2−プロピルヘプタノール)、ドデシルアルコール、トリデシルアルコール、テトラデシルアルコール、ペンタデシルアルコール、セチルアルコール、オクタデシルアルコール、およびエイコシルアルコール〕;脂環式アルコール(例えば、シクロプロピルカルビノール、シクロブチルアルコール、シクロペンチルアルコール、メチルシクロペンチルアルコール、ジメチルシクロペンチルアルコール、エチルシクロペンチルアルコール、シクロヘキシルアルコール、メチルシクロヘキシルアルコール、ジメチルシクロヘキシルアルコール、およびシクロオクチルアルコール);ならびに不飽和脂肪族アルコール(例えば、アリルアルコール、クロチルアルコール等)である。さらに、これらのアルコールの種々の異性体およびこれらの混合物はいずれも、本発明の方法に好適に使用される。アルコールの由来は本方法に影響を及ぼすことがなく、したがって、例えば、一段階もしくは二段階のオキソ法、オレフィンの水和、またはヤシ油の接触脱水素から得られる脂肪族アルコールを使用することが可能であり、これらは、入手可能であるので実用上望ましい。
【0021】
本発明で使用される触媒は、適切な場合、原則として任意のエステル化触媒である。下記式:
MX
〔式中、
Mは、チタン、ジルコニウム、バナジウム、アルミニウム、鉄、スズからなる群から選択され、
Xは、CO2−、Cl、Br、I;OR(式中、Rは、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、tert−ブチルから選択される);カルボキシレート(特に、ヘキサノエート、ヘプタノエート、オクタノエート、2−エチルヘキサノエート、ステアレート、パルミテート、オキサレート)からなる群から選択され、
nは、金属の酸化数であり、好ましくは2、3、または4である〕
で示される触媒が、特に好ましく使用される。
【0022】
他の選択肢として、強いブレンステッド酸(例えば、硫酸)、酸性スルフェート(例えば、メチルスルフェート、エチルスルフェート、プロピルスルフェート、ブチルスルフェート、ヘキシルスルフェート)、あるいはKHSOもしくはNaHSO、芳香族スルホン酸(特に、パラトルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸)を用いて好結果を得ることも可能である。
【0023】
本発明はまた、プラスチック〔例えば、ポリ塩化ビニル、ビニルクロリド系コポリマー、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアセタール、ポリアクリレート、ポリアミド、ポリウレタン、ポリラクチド、ポリ乳酸、セルロースおよびその誘導体、ゴムポリマー、例えば、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、水素化アクリロニトリル−ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、塩素化ポリエチレン、クロロスルホニルポリエチレン、エチレン−プロピレンゴム、アクリレートゴム、および/またはエピクロロヒドリンゴム〕のための可塑剤としてのエステル混合物の使用を包含する。ポリ塩化ビニルが好ましい。
【0024】
ポリ塩化ビニルは、好ましくは、当業者に公知の方法によって、例えば、懸濁重合、乳化重合、またはバルク重合によって、ビニルクロリドから単独重合によって調製される。本発明のエステル混合物は、好ましくは、20〜99%のポリ塩化ビニル、好ましくは45〜95%のポリ塩化ビニル、特に好ましくは50〜90%のポリ塩化ビニルを含む混合物中に使用される。これらの混合物は、可塑化ポリ塩化ビニルと呼ばれ、本発明のエステル混合物およびポリ塩化ビニルと共に他の好適な添加剤を含んでいてもよい。例えば、安定化剤、滑剤、充填剤、顔料、難燃剤、光安定化剤、発泡剤、高分子加工助剤、耐衝撃性改良剤、蛍光増白剤、帯電防止剤、および/または生体物質安定化剤が存在しうる。
【0025】
プラスチックはまた、好ましくは、安定化剤、滑剤、充填剤、顔料、難燃剤、光安定化剤、発泡剤、高分子加工助剤、耐衝撃性改良剤、蛍光増白剤、帯電防止剤、および/または生体物質安定化剤などの添加剤、あるいはこれらの混合物を含む。
【0026】
いくつかの好適な添加剤について、以下にさらに詳細に説明する。しかし、列挙した例は、本発明の混合物をなんら限定するものではなく、単に例示の役割を果たすにすぎない。含有率に関連するデータはすべて、重量%のデータである。
【0027】
安定化剤は、ポリ塩化ビニルの加工中および/または加工後に脱離した塩酸を中和する。使用しうる安定化剤は、固体もしくは液体の形態の従来の任意のポリ塩化ビニル安定化剤、例えば、従来のエポキシ/亜鉛、Ca/Zn、Ba/Zn、Pb、またはSnの安定化剤、あるいはハイドロタルサイトなどの酸結合性フィロシリケートである。本発明のエステル混合物は、安定化剤の含有率が0.05〜7%、好ましくは0.1〜5%、特に好ましくは0.2〜4%、特定的には0.5〜3%である混合物中に使用することができる。
【0028】
滑剤は、ポリ塩化ビニル粒子間に作用して、混合時、可塑化時、および変形時に摩擦力の影響を弱めようとするものである。本発明の混合物中に存在しうる滑剤は、プラスチックを加工するための従来の任意の滑剤である。例として、炭化水素(例えば、油、パラフィン、およびPEワックス)、6〜20個の炭素原子を有する脂肪族アルコール、ケトン、カルボン酸(例えば、脂肪酸およびモンタン酸)、酸化PEワックス、金属カルボキシレート、カルボキサミド、さらには、カルボン酸エステル(例えば、アルコールとしてエタノール、脂肪族アルコール、グリセロール、エタンジオール、ペンタエリトリトールと、酸成分として長鎖カルボン酸とを有するカルボン酸エステル)を使用することができる。本発明のエステル混合物は、滑剤の含有率が0.01〜10%、好ましくは0.05〜5%、特に好ましくは0.1〜3%、特定的には0.2〜2%である混合物中に使用することができる。
【0029】
充填剤は、主に、可塑化ポリ塩化ビニルまたは可塑化ポリビニルブロミドの圧縮強さ、引張り強さ、および曲げ強さ、さらには、硬度および耐熱性に対して有利な効果を有する。本発明の目的において、混合物は、充填剤、例えば、カーボンブラック、および他の無機充填剤〔例えば、天然炭酸カルシウム(例えば、チョーク、石灰石および大理石)、合成炭酸カルシウム、ドロマイト、シリケート、シリカ、サンド、珪藻土、ケイ酸アルミニウム(例えば、カオリン、雲母、および長石)〕を含んでいてよい。好ましく使用される充填剤は、炭酸カルシウム、チョーク、ドロマイト、カオリン、シリケート、タルク、またはカーボンブラックである。本発明のエステル混合物は、充填剤の含有率が0.01〜80%、好ましくは0.1〜60%、特に好ましくは0.5〜50%、特定的には1〜40%である混合物中に使用することができる。
【0030】
本発明のエステル混合物を用いて調製される混合物は、得られる生成物を種々の可能性のある用途に適合させるために、顔料を含むこともできる。本発明の目的において、無機顔料または有機顔料を使用することが可能である。使用することができる無機顔料の例は、カドミウム顔料(例えばCdS)、コバルト顔料(例えばCoO/Al)、およびクロム顔料(例えばCr)である。使用することができる有機顔料は、モノアゾ顔料、縮合アゾ顔料、アゾメチン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン類、フタロシアニン顔料、ジオキサジン顔料、およびアニリン顔料である。本発明のエステル混合物は、顔料の含有率が0.01〜10%、好ましくは0.05〜5%、特に好ましくは0.1〜3%、特定的には0.5〜2%である混合物中に使用することができる。
【0031】
可燃性および燃焼時の発煙を低減させるために、本発明の混合物はまた、難燃剤を含むこともできる。使用することができる難燃剤の例は、三酸化アンチモン、ホスフェートエステル、クロロパラフィン、水酸化アルミニウム、ホウ素化合物、三酸化モリブデン、フェロセン、炭酸カルシウム、または炭酸マグネシウムである。本発明のエステル混合物は、難燃剤の含有率が0.01〜30%、好ましくは0.1〜25%、特に好ましくは0.2〜20%、特定的には0.5〜15%である混合物中に使用することができる。
【0032】
本混合物は、本発明のエステル混合物を含む混合物から作製された物品を、光の作用による表面部分の損傷から保護するために、光安定化剤を含むこともできる。本発明の目的において、例えば、ヒドロキシベンゾフェノン類またはヒドロキシフェニルベンゾトリアゾール類を使用することが可能である。本発明のエステル混合物は、光安定化剤の含有率が0.01〜7%、好ましくは0.1〜5%、特に好ましくは0.2〜4%、特定的には0.5〜3%である混合物中に使用することができる。本出願において、%のデータはすべて、特に指定がないかぎり、重量%である。
【0033】
プラスチックは、好ましくは、可塑剤、例えば、安息香酸のモノアルキルエステル、モノ、ジ、トリ、もしくはポリアルキレングリコールの安息香酸ジエステル、脂肪族二酸のジアルキルエステル、芳香族二酸のジアルキルエステル、芳香族三酸のトリアルキルエステル、アルカンスルホン酸のフェニルエステル、リン酸のアルキルエステルもしくはアリールエステル、ジカルボン酸で構成されるポリエステル、あるいはこれらの混合物を含む。
【0034】
さらなる可塑剤の例は、以下のとおりである。
・ 安息香酸のモノアルキルエステル(例えば、イソノニルベンゾエート)、
・ モノ、ジ、トリ、もしくはポリアルキレングリコールの安息香酸ジエステル(例えば、プロピレングリコールジベンゾエート、ジエチレングリコールジベンゾエート、ジプロピレングリコールジベンゾエート、トリエチレングリコールジベンゾエート、またはポリエチレングリコールジベンゾエート、特にこれらの混合物)、
・ 脂肪族二酸のジアルキルエステル、〔例えば、ジ(2−エチルヘキシル)アジペート、ジイソノニルアジペート、ジ(2−エチルヘキシル)セバケート、ジ(2−エチルヘキシル)アゼレート、ジイソノニルシクロヘキサン−1,2−ジカルボキシレート〕、
・ 芳香族二酸のジアルキルエステル(例えば、ジ(2−エチルヘキシル)フタレート、ジイソノニルフタレート、ジイソデシルフタレート、ベンジルブチルフタレート、ベンジルイソオクチルフタレート、ベンジルイソノニルフタレート)、
・ 芳香族三酸のトリアルキルエステル(例えば、トリオクチルトリメリテート)、
・ アルカンスルホン酸のフェニルエステル(例えば、ランクセス・ドイチュラントGmbH(LANXESS Deutschland GmbH)製の製品メザモール(Mesamoll(登録商標)))、
・ リン酸のアルキルエステルまたはアリールエステル(例えば、トリ(2−エチルヘキシル)ホスフェート、ジフェニル2−エチルヘキシルホスフェート、ジフェニルクレジルホスフェート、またはトリクレジルホスフェート)、
・ ポリエステル〔例えば、ジカルボン酸(例えば、アジピン酸またはフタル酸等)とジオール(例えば、1,2−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、または1,6−ヘキサンジオール等)とから調製することができるポリエステル〕。
【0035】
本発明の目的において、本発明のエステル混合物は、さらなるプラスチックを含む混合物中に使用することもできる。さらなるプラスチックは、エチレン、プロピレン、ブタジエン、ビニルアセテート、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、アクリレートもしくはメタクリレート(分岐鎖状もしくは非分岐鎖状のC〜C10アルコールのアルコール成分を有するもの)、またはスチレンもしくはアクリロニトリルをベースにした、ホモポリマーおよびコポリマーからなる群から選択される。例としては、C〜Cアルコール(特に、ブタノール、ヘキサノール、オクタノール、2−エチルヘキサノール)からなる群からの同一のもしくは異なるアルコール基を有するポリアクリレート、ポリメチルメタクリレート、メチルメタクリレート−ブチルアクリレートコポリマー、メチルメタクリレート−ブチルメタクリレートコポリマー、エチレン−ビニルアセテートコポリマー、塩素化ポリエチレン、ニトリルゴム、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレンコポリマー、エチレン−プロピレンコポリマー、エチレン−プロピレン−ジエンコポリマー、スチレン−アクリロニトリルコポリマー、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンエラストマー、およびメチルメタクリレート−スチレン−ブタジエンコポリマーを挙げることができる。
【0036】
本発明のエステル混合物を用いて調製されるプラスチック混合物は、例えば、パイプライン、ケーブル、ワイヤーシースの製造に、内装品の取付けに、乗物および家具の組立てに、床仕上げ材に、医療用物品に、食品または飲料品のパッケージに、ガスケットに、フォイルに、複合フォイルに、積層安全ガラス用フォイル(特に、乗物分野向けおよび建築分野向け)に、合成皮革に、玩具に、包装容器に、接着テープフォイルに、衣類に、コーティングに、さらには、織物用繊維に、特に有用である。
【0037】
本発明のエステル混合物は、溶解温度が低いため良好な加工性を有し、かつ低い揮発性を有する。
【0038】
本発明の可塑剤および方法について以下の実施例により例示するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない[データは面積パーセントで表す]。
[実施例]
【0039】
溶解温度の測定
溶解温度を測定するために、ガラスビーカー中で、48gの試験すべき可塑剤を、2gのビンノール(Vinnol)(登録商標)H70ポリ塩化ビニル(粒子サイズ315μ未満)および2滴のイルガスタブ(Irgastab)(登録商標)17Mと混合した。この懸濁液を、攪拌しながら毎分2〜3℃の速度で、ガラスビーカーの後方に配置された光電セルにより示される値の観測可能な上昇が連続して3分間にわたり見られなくなってポリ塩化ビニルが溶解する温度に達するまで、加熱した。
【0040】
揮発性の測定
揮発性に用いられる尺度は、以下のように測定される凝縮性成分の量からなる。10gの可塑剤をサーモスタット制御式円筒状容器(曇り試験装置N8−FPG)に入れる。凝縮表面として、予め重量測定した、冷却したアルミニウムフォイルからなるものを用いる。次に、シリンダーを密閉し、100℃で16時間加熱する。その後、アルミニウムフォイルを取り出す。デシケーター中に4時間保存した後、差を秤量することにより重量の増加を測定する。この揮発性の測定を2回行う。
【0041】
実施例1〜10:エステル混合物の調製
還流冷却器、内部温度計、および攪拌機を備え、窒素ガスで不活性雰囲気にした2L三口丸底フラスコ内に、ベンジルアルコールおよびイソノナノール(ベンジルアルコール/イソノナノール比については表1を参照;無水フタル酸を基準としてアルコールの合計モル当量は2.05である)を用いて最初の仕込みを行った。次に、溶融した無水フタル酸を95℃の反応温度で滴下した。混合物をこの温度でさらに16時間保持した。冷却後、キシレン(全混合物を基準として15重量%)を添加し、水分離器を組み込んだ。反応器を100℃まで加熱し、この温度に達した時点で、チタニウムテトラ−n−ブトキシド(全混合物を基準として0.25重量%)を添加した。反応の過程を、滴定[酸価(AN:物質1g当たりのKOH(mg));キシレン希釈補正]および分離された水の量の測定によって追跡する。反応温度を、15〜20時間に亘って140℃から180℃に上昇させた。
【0042】
AN(=酸価)が1未満に達した時点で実験を終了し、生成物を100℃の蒸気で処理した。凝縮された体積が有機含有物の体積の2倍になった時点で水蒸気蒸留を終了した。次に、140℃および4mbarの圧力下で揮発性成分をすべて除去し、残渣をMgO/活性炭からなる混合物と混合した後、ろ過した。HPLCにより生成物を分析してその組成を求め、ポリ塩化ビニル中での可塑剤としての性能を試験した。
【0043】
【表1】

【0044】
実施例11:エステル混合物の調製
還流冷却器、内部温度計、および攪拌機を備え、窒素ガスで不活性雰囲気にした2L三口丸底フラスコ内に、ベンジルアルコールおよびブタノール(ベンジルアルコール:n−ブタノール比=1:1mol/mol;トリメリット酸無水物を基準にしてアルコールの合計モル当量は3.9である)を用いて最初の仕込みを行った。次に、トリメリット酸無水物を95℃の反応温度で少しずつ添加した。次に、溶液を125℃で1時間保持した。冷却後、キシレン(全混合物を基準として15重量%)を添加し、水分離器を組み込んだ。反応器を100℃まで加熱し、この温度に達した時点で、チタンテトラ−n−ブトキシド(トリメリット酸無水物を基準にして0.28mol%)を添加した。反応の過程を、滴定[酸価(AN:物質1g当たりのKOH(mg));キシレン希釈補正]および分離された水/ブタノールの量の測定によって追跡する。反応温度を、23時間以内で165℃まで上昇させた。
【0045】
ANが2.5に達した時点で実験を終了し、生成物を100℃の蒸気で処理した。凝縮された体積が有機含有物の体積の2倍になった時点で水蒸気蒸留を終了した。次に、140℃および20mbarの圧力下で揮発性成分をすべて除去し、残渣をNaCO/活性炭からなる混合物と混合した後、ろ過した。GCMSにより生成物を分析してその組成を求め、ポリ塩化ビニル中での可塑剤としての性能を試験した。
【0046】
【表2】

【0047】
実施例12および13:エステル混合物の調製
還流冷却器、内部温度計、および攪拌機を備え、窒素ガスで不活性雰囲気にした2L三口丸底フラスコ内に、ベンジルアルコールおよびイソノナノール(ベンジルアルコール:イソノナノール比については表3を参照;トリメリット酸無水物を基準としてアルコールの合計モル当量は3.05である)を用いて最初の仕込みを行った。次に、トリメリット酸無水物を、95℃の反応温度で少しずつ添加した(1.0モル当量)。次に、この溶液を125℃で2時間保持した。冷却後、キシレン(全混合物を基準にして15重量%)を添加し、水分離器を組み込んだ。反応器を100℃まで加熱し、この温度に達した時点で、チタンテトラ−n−ブトキシド(トリメリット酸無水物を基準にして0.28mol%)を添加した。反応の過程を滴定[酸価(AN:物質1g当たりのKOH(mg));キシレン希釈補正]および分離された水の量の測定によって追跡する。3時間内で反応温度を120℃から170℃に上昇させた。
【0048】
ANが2未満に達した時点で実験を終了し、生成物を100℃の蒸気で処理した。凝縮された体積が有機含有物の体積の2倍になった時点で水蒸気蒸留を終了した。次に、140℃および10mbarの圧力下で揮発性成分をすべて除去し、残渣をMgO/活性炭からなる混合物と混合した後、ろ過した。GCMSにより生成物を分析してその組成を求め、ポリ塩化ビニル中の可塑剤としての性能を試験した。
【0049】
【表3】

【0050】
実施例14〜17
実施例12および13に対して記述した調製の詳述事項を用いて、かつ表4に記載した出発原料およびモル比を用いて、実施例14〜17のエステル混合物を調製した。
【0051】
【表4】

【0052】
実施例10〜13からのエステル混合物の固有の特性
【0053】
【表5】

【0054】
これらの実施例から、本発明の方法によれば、ベンジルクロリドおよび塩含有廃水を回避しつつ高収率で本発明の可塑剤を調製し得ることが容易にわかる。本発明の可塑剤の溶解温度は、それに含まれる純粋なポリアルキルエステルまたはポリベンジルエステルの溶解温度よりも低い。これらの揮発性は、商業的に使用されている同等の可塑剤にみられる溶解温度とほぼ同程度の大きさである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a) 構造式Z−(COORm−n(COORで示される1種以上のエステル2〜98重量%と、
b) 構造式Z−(COORで示されるエステル2〜98重量%と
を含むエステル混合物であって、
前記エステル混合物の成分で構成される重量パーセントの合計が100%であり、
前記式中、
が、直鎖状もしくは分岐鎖状のC〜C20−アルキル基であり、
が、C〜C−アルキルもしくはハロゲンで任意に置換されたベンジル基であり、
Zが、m価の、飽和もしくは不飽和の、直鎖状、分岐鎖状、環式、もしくは多環式のC〜C10炭化水素基であり、
mが、2〜4の数であり、かつ、
nが、1〜mの整数である、エステル混合物。
【請求項2】
がベンジルであることを特徴とする、請求項1に記載のエステル混合物。
【請求項3】
が、n−ブチル、2−エチルヘキシル、またはイソノニルであることを特徴とする、請求項1または2に記載のエステル混合物。
【請求項4】
前記構造式Z−(COORm−n(COORで示されるエステルが、ジイソノニルフタレート(m=n=2)およびイソノニルベンジルフタレート(m=2かつn=1)であり、前記構造式Z−(COORで示されるエステルがジベンジルフタレートであることを特徴とする、請求項1に記載のエステル混合物。
【請求項5】
前記構造式Z−(COORm−n(COORで示されるエステルが、トリブチルトリメリテート(m=n=3)、およびベンジルジブチルトリメリテート(m=3かつn=2)またはジベンジルブチルトリメリテート(m=3かつn=1)であり、前記構造式Z−(COORで示されるエステルがトリベンジルトリメリテートであることを特徴とする、請求項1に記載のエステル混合物。
【請求項6】
a) 構造式Z−(COORm−n(COORで示される1種以上のエステル2〜98重量%と、
b) 構造式Z−(COORで示されるエステル2〜98重量%と
を含むエステル混合物の調製方法であって、
前記エステル混合物の成分で構成される重量パーセントの合計が100%であり、
前記式中、
が、直鎖状もしくは分岐鎖状のC〜C20−アルキル基であり、
が、C〜C−アルキルもしくはハロゲンで任意に置換されたベンジル基であり、
Zが、m価の、飽和もしくは不飽和の、直鎖状、分岐鎖状、環式、もしくは多環式のC〜C10炭化水素基であり、
mが、2〜4の数であり、かつ、
nが、1〜mの整数であり、
方法の一工程において、少なくとも1種の芳香族もしくは脂肪族のポリカルボン酸またはその誘導体と、少なくとも1種のベンジルアルコールと、少なくとも1種の脂肪族アルコールとを、50〜300℃の温度でかつ2mbar〜4barの圧力下で、場合により触媒の存在下で互いに反応させ、かつ、その反応水を好適な手段により混合物から除去することを特徴とする、調製方法。
【請求項7】
フタル酸、テレフタル酸、ピロメリット酸、トリメリット酸、セバシン酸、アゼライン酸、アジピン酸、マレイン酸、およびフマル酸からなる群から選択されるポリカルボン酸またはその誘導体を用いることを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
置換または未置換のベンジルアルコールR−OHを、1種以上の脂肪族アルコールR−OH(式中、Rは、分岐鎖状および非分岐鎖状のアルキル基、シクロアルキル基、およびオキシアルキレン基からなる群から選択される)との混合物で用いることを特徴とする、請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
ポリ塩化ビニル、ビニルクロリド系コポリマー、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアセタール、ポリアクリレート、ポリアミド、ポリウレタン、ポリラクチド、ポリ乳酸、セルロースおよびその誘導体、ゴムポリマー、例えば、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、水素化アクリロニトリル−ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、塩素化ポリエチレン、クロロスルホニルポリエチレン、エチレン−プロピレンゴム、アクリレートゴム、および/またはエピクロロヒドリンゴム、特にポリ塩化ビニルなどのプラスチック用の可塑剤としての、請求項1〜5に記載のエステル混合物の使用および請求項6〜8に記載の方法に従って調製されるエステル混合物の使用。
【請求項10】
前記プラスチックが、安定化剤、滑剤、充填剤、顔料、難燃剤、光安定化剤、発泡剤、高分子加工助剤、耐衝撃性改良剤、蛍光増白剤、帯電防止剤、および/または生体物質安定化剤などの添加剤、あるいはこれらの混合物も含むことを特徴とする、請求項9に記載のエステル混合物の使用。
【請求項11】
前記プラスチックが、さらなる可塑剤、例えば、安息香酸のモノアルキルエステル、モノ、ジ、トリ、もしくはポリアルキレングリコールの安息香酸ジエステル、脂肪族二酸のジアルキルエステル、芳香族二酸のジアルキルエステル、芳香族三酸のトリアルキルエステル、アルカンスルホン酸のフェニルエステル、リン酸のアルキルエステルもしくはアリールエステル、ジカルボン酸で構成されるポリエステル、あるいはこれらの混合物も含むことを特徴とする、請求項10に記載のエステル混合物の使用。

【公開番号】特開2008−13560(P2008−13560A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2007−173006(P2007−173006)
【出願日】平成19年6月29日(2007.6.29)
【出願人】(505422707)ランクセス・ドイチュランド・ゲーエムベーハー (220)
【Fターム(参考)】