説明

ポリカーボネート樹脂のゲル化物の生成を低減する方法

【課題】空気中で長期高温保持条件下におけるポリカーボネート樹脂のゲル化物生成量を大幅に抑制することが可能な方法を提供する。
【解決手段】ポリカーボネート樹脂組成物からなる粉粒体5,000mgを、アルミ箔上において空気中、温度300℃の条件下で6時間加熱した後、ジクロロメタンに溶解し、孔径10μmのPTFE製メンブランフィルターを通して濾過した際に、フィルター上に捕集されるゲル化物の重量を50mg以下とする方法であって、ポリカーボネート樹脂組成物として、ポリカーボネート樹脂(A成分)100重量部に対し、炭素数16〜22の飽和脂肪酸とペンタエリスリトールとのフルエステル(B成分)0.25〜0.55重量部を含有し、且つ該A成分はFe含有量が200ppb以下およびNa含有量が100ppb以下であるポリカーボネート樹脂組成物を使用することを特徴とするポリカーボネート樹脂のゲル化物の生成を低減する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気中で長期高温保持条件下におけるポリカーボネート樹脂のゲル化物生成量を抑制する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は、光学特性、電気特性、寸法安定性に優れ、自己消火性を有し、かつ耐衝撃性、破断強度などの機械的特性に優れ、しかも耐熱性、透明性などにも優れた性質を持っており、このため広範な用途に大量に使用されている。
とりわけポリカーボネート樹脂シート、またはフィルムは、その優れた透明性、光学特性、機械的特性を生かし、光学用途や建材用途等に大量に使用されている。
【0003】
ポリカーボネート樹脂を目的の形状に成形加工するには、パウダーやペレット形状等のポリカーボネート樹脂粉粒体を、押出成形機、射出成形機等のスクリューを有する成形加工機にて、シリンダー温度250℃〜380℃の温度条件下にて加熱、混練、溶融し、加工する方法が一般的に多く用いられている。
【0004】
これら成形加工機内でポリカーボネート樹脂が加熱溶融される際に、成形加工機のシリンダー壁面部、スクリュー溝部、異物を除去する目的で取り付けられるフィルター部、揮発物を除去する目的で取り付けられるベント部等に滞留部分が生じ、ポリカーボネート樹脂が高温且つ長時間の熱履歴を受け、さらに成形加工機の金属表面の触媒作用、成形加工機内に酸素が存在することによる酸化作用により、ポリカーボネート樹脂は分解、副反応を引き起こし、ゲル状異物(ゲル化物)を生成することがある。
【0005】
該ゲル状異物は、溶媒、例えば塩化メチレン等に不溶であることはよく知られている。かかるゲル状異物は、劣化が進行すると着色することから、異物、欠点として検出され、特にポリカーボネート樹脂シートまたはフィルム状成形品においては外観上好ましくない。
【0006】
該ゲル状異物は、サイズの大きなものは成形加工機内にフィルターを取り付けること等により除去が可能であるが、フィルターを通過するような小さなサイズのゲル状異物においても、ゲル状異物の周囲にヒケ、歪みを生じ、成形品表面に実際のゲル状異物よりも何倍も大きなサイズの凹凸状の欠点不良を引き起こすことから、外観上好ましくない。また比較的劣化の進行の浅いゲル状異物は、加熱溶融状態で応力が加わると、容易に変形する性質を持っていることから、フィルター濾過等の方法で完全に除去するのは困難である。
上記の様な問題から、ポリカーボネート樹脂を加熱溶融し、成形加工する過程におけるゲル状異物の生成を根本的に抑制する方法が長く待望されている。
【0007】
特許文献1には、ポリカーボネート樹脂粉体を溶融押出してペレットを製造する方法において、ポリカーボネート樹脂粉体に特定の範囲で水分を含有させ、溶融押出することにより、かかるゲル状異物の生成を抑制する方法が提案されている。
また特許文献2には、ポリカーボネート樹脂をベント付き押出機にて成形加工する方法において、揮発物を除去する目的で取り付けられたベントの減圧度を低真空とすることで、かかるゲル状異物の生成を少なくする方法が提案されている。
【0008】
しかしながら、上記に提案された方法だけではゲル状異物の生成を抑制するには不十分であり、特許文献1の方法では高温溶融条件下に水分が存在するため、ポリカーボネート樹脂が加水分解により物性低下を引き起こす問題がある。また特許文献2の方法はベントの減圧度を低真空とする為、揮発物の除去が不十分となり、ポリカーボネート樹脂の着色や物性低下等を引き起こす問題がある。
【0009】
特許文献3には、ポリカーボネート樹脂に特定のラジカル補足剤を添加することにより、かかるゲル状異物の生成を低減する方法が提案されているが、この方法では酸素存在下にて高温長時間の熱履歴を受けた場合において、ゲル状異物の生成を抑制するには不十分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開昭60−184814号公報
【特許文献2】特開平2−135222号公報
【特許文献3】特開2003−155406号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、空気中で長期高温保持条件下におけるポリカーボネート樹脂のゲル化物生成量を大幅に抑制することが可能な方法を提供することにある。
そして、本発明の方法で使用されるポリカーボネート樹脂組成物を用いることで、優れた色相安定性、耐熱性を有し、ゲル化物による欠点不良の少ない外観に優れたポリカーボネート樹脂成形品を提供することができる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を達成するために鋭意検討した結果、ポリカーボネート樹脂に炭素数16〜22の飽和脂肪酸とペンタエリスリトールとのフルエステルを特定量配合することにより、空気中にて長期高温保持後のポリカーボネート樹脂のゲル化物生成量が大幅に減少することを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明は上記課題を解決するために以下の構成を採用する。
【0013】
1.ポリカーボネート樹脂組成物からなる粉粒体5,000mgを、アルミ箔上において空気中、温度300℃の条件下で6時間加熱した後、ジクロロメタンに溶解し、孔径10μmのPTFE製メンブランフィルターを通して濾過した際に、フィルター上に捕集されるゲル化物の重量を50mg以下とする方法であって、ポリカーボネート樹脂組成物として、ポリカーボネート樹脂(A成分)100重量部に対し、炭素数16〜22の飽和脂肪酸とペンタエリスリトールとのフルエステル(B成分)0.25〜0.55重量部を含有し、且つ該A成分はFe含有量が200ppb以下およびNa含有量が100ppb以下であるポリカーボネート樹脂組成物を使用することを特徴とするポリカーボネート樹脂のゲル化物の生成を低減する方法。
2.A成分100重量部に対し、B成分を0.30〜0.50重量部含有することを特徴とする前項1に記載の方法。
3.A成分は、Fe含有量とNa含有量との合計が200ppb以下である前項1または2に記載の方法。
4.B成分は、酸価が1.6〜4.0であり、TGA(熱重量解析)における5%重量減少温度が360℃以上であり、且つNaイオン濃度が10ppm以下であるペンタエリスリトールテトラステアレートである前項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
5.ポリカーボネート樹脂組成物が、ポリカーボネート樹脂(A成分)100重量部に対し、さらにヒンダードフェノール系酸化防止剤(C成分)0.01〜0.1重量部、リン系安定剤(D成分)0.01〜0.1重量部、およびエポキシ化合物(E成分)0.003〜0.1重量部を含有してなるポリカーボネート樹脂組成物である前項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
6.C成分は、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]である前項5に記載の方法。
7.D成分は、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイトである前項5に記載の方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明の方法を用いることにより、従来の方法と比べて、酸素存在下における高温長期保持時のポリカーボネート樹脂のゲル化物生成量を大幅に低減させることができる。また、色相および透明性に優れ、異物または欠点の少ない好外観の成形品を得ることができることから、その奏する工業的効果は格別である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、ポリカーボネート樹脂組成物からなる粉粒体5,000mgを、アルミ箔上において空気中、温度300℃の条件下で6時間加熱した後、ジクロロメタンに溶解し、孔径10μmのPTFE製メンブランフィルターを通して濾過した際に、フィルター上に捕集されるゲル化物の重量を50mg以下とする方法であって、ポリカーボネート樹脂組成物として、ポリカーボネート樹脂(A成分)100重量部に対し、炭素数16〜22の飽和脂肪酸とペンタエリスリトールとのフルエステル(B成分)0.25〜0.55重量部を含有し、且つ該A成分はFe含有量が200ppb以下およびNa含有量が100ppb以下であるポリカーボネート樹脂組成物を使用することを特徴とするポリカーボネート樹脂のゲル化物の生成を低減する方法である。
【0016】
本発明においては、上記方法でフィルター上に捕集されるゲル化物の重量が50mg以下であり、40mg以下が好ましく、30mg以下がより好ましい。ゲル化物の重量が50mg以下であるポリカーボネート樹脂組成物から得られる成形品は、欠点不良の少ない外観の良好な成形品となり好ましい。
以下、本発明で使用されるポリカーボネート樹脂組成物について説明する。
【0017】
[ポリカーボネート樹脂(A成分)]
本発明で使用されるポリカーボネート樹脂組成物粉粒体は、主にポリカーボネート樹脂(A成分)からなる。ポリカーボネート樹脂(以下、単に「ポリカーボネート」と称することがある)は、二価フェノールとカーボネート前駆体とを反応させて得られるものであり、反応の方法としては界面重縮合法、溶融エステル交換法、カーボネートプレポリマーの固相エステル交換法および環状カーボネート化合物の開環重合法等を挙げることができる。
【0018】
ここで使用される二価フェノールの代表的な例としては、ハイドロキノン、レゾルシノール、4,4′−ジヒドロキシジフェニル、1,4−ジヒドロキシナフタレン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス{(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチル)フェニル}メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(通称ビスフェノールA)、2,2−ビス{(4−ヒドロキシ−3−メチル)フェニル}プロパン、2,2−ビス{(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチル)フェニル}プロパン、2,2−ビス{(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシ)フェニル}プロパン、2,2−ビス{(3−イソプロピル−4−ヒドロキシ)フェニル}プロパン、2,2−ビス{(4−ヒドロキシ−3−フェニル)フェニル}プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3−メチルブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3−ジメチルブタン、2,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−2−メチルブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−メチルペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−イソプロピルシクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス{(4−ヒドロキシ−3−メチル)フェニル}フルオレン、α,α′−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−o−ジイソプロピルベンゼン、α,α′−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−m−ジイソプロピルベンゼン、α,α′−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−p−ジイソプロピルベンゼン、1,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−5,7−ジメチルアダマンタン、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4′−ジヒドロキシジフェニルケトン、4,4′−ジヒドロキシジフェニルエーテルおよび4,4′−ジヒドロキシジフェニルエステル等のジヒドロキシ化合物が挙げられる。これら二価フェノールは単独で用いても、二種以上併用してもよい。
【0019】
前記二価フェノールのうち、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)を主たる二価フェノール成分とするのが好ましく、特に全二価フェノール成分中好ましくは50モル%以上、より好ましくは70モル%以上、さらに好ましくは80モル%以上がビスフェノールAである。特に好ましいのは、二価フェノール成分が実質的にビスフェノールAである芳香族ポリカーボネート樹脂である。
【0020】
カーボネート前駆体としてはカルボニルハライド、カーボネートエステルまたはハロホルメート等が使用され、具体的にはホスゲン、ジフェニルカーボネートまたは二価フェノールのジハロホルメート等が挙げられる。
【0021】
上記二価フェノールとカーボネート前駆体を界面重合法または溶融法によって反応させてポリカーボネート樹脂を製造するに当っては、二価フェノールは単独または2種以上を使用することができ、必要に応じて触媒、末端停止剤、二価フェノールの酸化防止剤等を使用してもよい。またポリカーボネート樹脂は三官能以上の多官能性芳香族化合物を共重合した分岐ポリカーボネート樹脂であってもよい。また、2種以上のポリカーボネート樹脂の混合物であってもよい。
【0022】
界面重合法による反応は、通常二価フェノールとホスゲンとの反応であり、酸結合剤および有機溶媒の存在下に反応させる。酸結合剤としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物またはピリジン等のアミン化合物が用いられる。有機溶媒としては、例えば塩化メチレン、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素が用いられる。また、反応促進のために例えば第三級アミンや第四級アンモニウム塩等の触媒を用いることもできる。その際、反応温度は通常0〜40℃であり、反応時間は数分〜5時間程度である。
【0023】
また、重合反応において、末端停止剤として単官能フェノール類を使用することができる。とくにカーボネート前駆物質としてホスゲンを使用する反応の場合、単官能フェノール類は末端停止剤として分子量調節のために一般的に使用され、また得られたポリカーボネート樹脂は、末端が単官能フェノール類に基づく基によって封鎖されているので、そうでないものと比べて熱安定性に優れている。かかる単官能フェノール類としては、ポリカーボネートの末端停止剤として使用されるものであればよく、一般にはフェノールまたは低級アルキル置換フェノールである。
前記単官能フェノール類の具体例としては、例えばフェノール、p−tert−ブチルフェノール、p−クミルフェノールおよびイソオクチルフェノールが挙げられる。
【0024】
界面重縮合法により得られたポリカーボネート樹脂の有機溶媒溶液は、通常水洗浄が施される。この水洗工程は、好ましくはイオン交換水等の電気伝導度10μS/cm以下、より好ましくは1μS/cm以下の水により行われ、前記有機溶媒溶液と水とを混合、攪拌した後、静置してあるいは遠心分離機等を用いて、有機溶媒溶液相と水相とを分液させ、有機溶媒溶液相を取り出すことを繰り返し行い、水溶性不純物を除去する。高純度な水で洗浄を行うことにより、効率的に水溶性不純物が除去され、得られるポリカーボネート樹脂の色相は良好なものとなる。
【0025】
また、ポリカーボネート樹脂の有機溶媒溶液は、触媒等の不純物を除去するために酸洗浄やアルカリ洗浄を行うことも好ましい。
また、有機溶媒溶液は不溶性不純物である異物を除去することが好ましく行われる。この異物を除去する方法は、濾過する方法あるいは遠心分離機で処理する方法が好ましく採用される。
【0026】
水洗浄が施された有機溶媒溶液は、次いで、溶媒を除去してポリカーボネート樹脂の粉粒体を得る操作が行われる。
粉粒体を得る方法(造粒工程)としては、操作や後処理が簡便なことから、粉粒体および温水(65〜90℃程度)が存在する造粒装置中で、攪拌しながらポリカーボネートの有機溶媒溶液を連続的に供給して、かかる溶媒を蒸発させることにより、スラリーを製造する方法が使用される。当該造粒装置としては攪拌槽やニーダーなどの混合機が使用される。生成されたスラリーは、造粒装置の上部または下部から連続的に排出される。
【0027】
排出されたスラリーは、次いで熱水処理を行うこともできる。熱水処理工程は、かかるスラリーを90〜100℃の熱水の入った熱水処理容器に供給するか、または供給した後に蒸気の吹き込みなどにより水温を90〜100℃にすることによって、スラリーに含まれる有機溶媒を除去するものである。
造粒工程で排出されたスラリーまたは熱水処理後のスラリーは、好ましくは濾過、遠心分離等によって水および有機溶媒を除去し、次いで乾燥されて、粉粒体(パウダー状やフレーク状)を得ることができる。
【0028】
乾燥機としては、伝導加熱方式でも熱風加熱方式でもよく、粉粒体が静置、移送されても攪拌されてもよい。なかでも、伝導加熱方式で粉粒体が攪拌される溝形または円筒乾燥機が好ましく、溝形乾燥機が特に好ましい。乾燥温度は130℃〜150℃の範囲が好ましく採用される。
乾燥後に得られた粉粒体は、溶融押出機により、ペレット化することができる。このペレットは成形用に供される。
【0029】
溶融法による反応は、通常二価フェノールとジフェニルカーボネートとのエステル交換反応であり、不活性ガスの存在下に二価フェノールとジフェニルカーボネートを混合し、減圧下通常120〜350℃で反応させる。減圧度は段階的に変化させ、最終的には1.3×10Pa以下にして生成したフェノール類を系外に除去させる。反応時間は通常1〜4時間程度である。
溶融エステル交換法により得られた溶融ポリカーボネート樹脂は、溶融押出機により、ペレット化することができる。このペレットは成形用に供される。
【0030】
本発明におけるポリカーボネート樹脂の分子量は、粘度平均分子量(M)で1.0×10〜5.0×10の範囲が好ましく、1.3×10〜3.0×10の範囲がより好ましく、1.5×10〜2.5×10の範囲であることがさらに好ましい。かかる粘度平均分子量を有するポリカーボネート樹脂は、押出・成形加工時に比較的良好な流動性を保ちながら、得られた成形品に関して一定の機械的強度を有するので好ましい。
【0031】
本発明でいう粘度平均分子量は、塩化メチレン100mlにポリカーボネート樹脂0.7gを20℃で溶解した溶液を用いて測定された比粘度(ηSP)を次式に挿入して求めるMを指す。
ηSP/c=[η]+0.45×[η]c(但し[η]は極限粘度)
[η]=1.23×10−40.83
c=0.7
【0032】
なお、ポリカーボネート樹脂粉粒体の粘度平均分子量を測定する場合は、次の要領で行うことができる。即ち、ポリカーボネート樹脂粉粒体をその20〜30倍重量の塩化メチレンに溶解し、可溶分をセライト濾過により採取した後、溶液を除去して十分に乾燥し、塩化メチレン可溶分の固体を得る。かかる固体0.7gを塩化メチレン100mlに溶解した溶液から20℃における比粘度(ηSP)を、オストワルド粘度計を用いて求め、上式によりその粘度平均分子量Mを算出する。
【0033】
粉粒体は、パウダー、ペレット、フレーク等の形状を包含する。ペレットの形状は、円柱、角柱、および球状など一般的な形状を取り得るが、より好適には円柱である。かかる円柱の直径は好ましくは1〜5mm、より好ましくは1.5〜4mm、さらに好ましくは2〜3.3mmである。一方、円柱の長さは、好ましくは1〜30mm、より好ましくは2〜5mm、さらに好ましくは2.5〜3.5mmである。
【0034】
また、本発明で使用されるポリカーボネート樹脂は、そのOH末端量がOH基の重量で好ましくは1〜5000ppmの範囲であり、より好ましくは5〜2000ppmの範囲であり、さらに好ましくは10〜1000ppmの範囲である。
【0035】
本発明で使用されるポリカーボネート樹脂は、Fe含有量が200ppb以下およびNa含有量が100ppb以下である必要がある。当該量を超える場合、成形耐熱性が低下し、さらにはゲル化物が発生しやすくなるため好ましくない。Fe含有量は150ppb以下が好ましく、100ppb以下がより好ましい。Na含有量は70ppb以下が好ましく、50ppb以下がより好ましい。また、Fe含有量とNa含有量との合計は200ppb以下が好ましく、150ppb以下がより好ましく、100ppb以下がさらに好ましい。
【0036】
[炭素数16〜22の飽和脂肪酸とペンタエリスリトールとのフルエステル(B成分)]
本発明で使用される炭素数16〜22の飽和脂肪酸とペンタエリスリトールのフルエステル(B成分)は、ポリカーボネート樹脂に特定量配合することにより、ゲル化物生成を大幅に抑制する効果があるとともに、ポリカーボネート樹脂の溶融成形加工時に離型性、流動性などの成形性の向上効果も発揮する。
【0037】
炭素数が16〜22の飽和脂肪酸とは、例えばパルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸等が挙げられ、特に好ましくはステアリン酸である。
炭素数が16〜22の飽和脂肪酸とペンタエリスリトールとのフルエステル(以下、単に“ペンタエリスリトールのフルエステル”と称する場合がある)としては、例えば、ペンタエリスリトールテトラパルミテート、ペンタエリスリトールテトラステアレート、ペンタエリスリトールテトラベヘネート等が挙げられ、特に好ましくはペンタエリスリトールテトラステアレートである。
【0038】
ペンタエリスリトールのフルエステルの酸価は1.6〜4.0が好ましく、2.0〜4.0がより好ましく、2.2〜3.8がさらに好ましく、2.5〜3.5が特に好ましい。酸価の測定は、公知の方法を用いることができる。
ペンタエリスリトールのフルエステルの純度は95重量%以上が好ましく、純度98重量%以上が特に好ましい。純度が95重量%以上であると、ゲル化物の抑制効果が大きく好ましい。
【0039】
また、本発明で使用されるペンタエリスリトールのフルエステルは、TGA(熱重量解析)における5%重量減少温度が好ましくは360℃以上であり、370℃以上がより好ましい。360℃未満の場合、ポリカーボネート樹脂の耐熱性悪化、成形時のブリードアウトによる金型汚れや成形品の外観異常の原因となることがある。
【0040】
さらに、本発明で使用されるペンタエリスリトールのフルエステルは、Naイオン濃度が好ましくは10ppm以下であり、5ppm以下がより好ましく、1ppm以下がさらに好ましい。当該量を超える場合、成形耐熱性が低下し、さらにはゲル化物が発生しやすくなることがある。Naイオン濃度はイオンクロマト分析法等の既知の方法を用いることができる。
【0041】
ペンタエリスリトールのフルエステルの配合量は、ポリカーボネート樹脂100重量部に対し0.25〜0.55重量部の範囲であり、0.30〜0.50重量部の範囲が好ましい。かかる配合量が0.25重量部に満たない場合、ゲル化物発生抑制等の所望の効果が得られず、0.55重量部を超える場合、成形耐熱性が悪化し、好ましくない。
【0042】
[ヒンダードフェノール系酸化防止剤(C成分)]
本発明で所望により使用されるC成分のヒンダードフェノール系酸化防止剤は、上記のペンタエリスリトールのフルエステル(B成分)と併用し、ポリカーボネート樹脂に配合することにより、ゲル化物の生成を抑制する効果がある。さらに、リプロ使用等により、ポリカーボネート樹脂が繰り返し熱履歴を受けた場合に変色を抑制する色相安定化効果がある。
【0043】
ヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、各種樹脂などに適用可能な酸化防止剤が利用できる。例えば、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、チオジエチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ベンゼンプロパン酸3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシアルキルエステル(アルキルは炭素数7〜9で側鎖を有する)、2,4−ジメチル−6−(1−メチルペンタデシル)フェノール、3,3’,3”,5,5’,5”−ヘキサ−tert−ブチル−a,a’,a”−(メシチレン−2,4,6−トリイル)トリ−p−クレゾール、エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3−(5−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−m−トリル)プロピオネート]、ヘキサメチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,3,5−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオンが挙げられる。
【0044】
その中でも好ましいのは、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートなどが挙げられ、特に好ましくはペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]である。上記ヒンダードフェノール系酸化防止剤は、単独でまたは2種以上を組合せて使用することができる。
【0045】
上記のヒンダードフェノール系酸化防止剤は、A成分100重量部に対して0.01〜0.1重量部の範囲で含有されることが好ましく、より好ましくは0.02〜0.05重量部の範囲である。ヒンダードフェノール系安定剤の添加量がA成分100重量部に対して0.01重量部以上であると、ポリカーボネート樹脂の色相安定化効果が高くなり、0.1重量部以下であると芳香族ポリカーボネート樹脂の着色や成形品の割れ等を引き起こす可能性が低くなる。
【0046】
[リン系安定剤(D成分)]
本発明で所望により使用されるD成分のリン系安定剤は、上記のペンタエリスリトールのフルエステル(B成分)およびヒンダードフェノール系酸化防止剤(C成分)と併用し、ポリカーボネート樹脂に配合することにより、ゲル化物の生成を抑制する効果がある。
【0047】
リン系安定剤としては、特に成形時にポリカーボネート樹脂の劣化を抑制できるものであり、既にポリカーボネート樹脂の熱安定剤として知られたものが使用できる。例えば、ホスファイト系、ホスフェート系、ホスホナイト系の化合物が例示される。
【0048】
ホスファイト化合物としては、例えば、トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリデシルホスファイト、トリオクチルホスファイト、トリオクタデシルホスファイト、ジデシルモノフェニルホスファイト、ジオクチルモノフェニルホスファイト、ジイソプロピルモノフェニルホスファイト、モノブチルジフェニルホスファイト、モノデシルジフェニルホスファイト、モノオクチルジフェニルホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、トリス(ジエチルフェニル)ホスファイト、トリス(ジ−iso−プロピルフェニル)ホスファイト、トリス(ジ−n−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−エチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、フェニルビスフェノールAペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ジシクロヘキシルペンタエリスリトールジホスファイトなどが挙げられる。
【0049】
更に他のホスファイト化合物としては二価フェノール類と反応し環状構造を有するものも使用できる。例えば、2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)(2−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ホスファイト、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェニル)(2−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ホスファイト、2,2’−エチリデンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェニル)(2−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ホスファイトなどを挙げることができる。
【0050】
ホスフェート化合物としては、トリブチルホスフェート、トリメチルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクロルフェニルホスフェート、トリエチルホスフェート、ジフェニルクレジルホスフェート、ジフェニルモノオルソキセニルホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、ジブチルホスフェート、ジオクチルホスフェート、ジイソプロピルホスフェートなどを挙げることができ、好ましくはトリフェニルホスフェート、トリメチルホスフェートである。
【0051】
ホスホナイト化合物としては、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,3’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−3,3’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,3’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−3,3’−ビフェニレンジホスホナイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4−フェニル−フェニルホスホナイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−3−フェニル−フェニルホスホナイト、ビス(2,6−ジ−n−ブチルフェニル)−3−フェニル−フェニルホスホナイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−4−フェニル−フェニルホスホナイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−3−フェニル−フェニルホスホナイト等があげられ、テトラキス(ジ−tert−ブチルフェニル)−ビフェニレンジホスホナイト、ビス(ジ−tert−ブチルフェニル)−フェニル−フェニルホスホナイトが好ましく、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−ビフェニレンジホスホナイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−フェニル−フェニルホスホナイトがより好ましい。かかるホスホナイト化合物は上記アルキル基が2以上置換したアリール基を有するホスファイト化合物との併用可能であり好ましい。
【0052】
上記リン系安定剤は、1種のみならず2種以上を混合して用いることができる。上記リン系安定剤の中でも、ホスファイト化合物またはホスホナイト化合物が好ましい。殊にトリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイトおよびビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−フェニル−フェニルホスホナイトが好ましい。
【0053】
上記のリン系安定剤の添加量は、A成分100重量部に対して0.01〜0.1重量部含有されることが好ましく、より好ましくは0.02〜0.05重量部の範囲である。リン系安定剤の添加量がA成分100重量部に対して0.01重量部以上であると、ポリカーボネート樹脂の安定化効果が高くなり、0.1重量部以下であるとポリカーボネート樹脂組成物の着色や成形品の割れ等を引き起こす可能性が低くなる。
【0054】
[エポキシ化合物(E成分)]
本発明で好適に使用されるE成分のエポキシ化合物は、良好な耐沸水性を付与するという目的や、金型腐食を抑制するという目的に対しては、基本的にエポキシ官能基を有するもの全てが適用できる。例えば、3,4ーエポキシシクロヘキシルメチルー3’,4’ーエポキシシクロヘキシルカルボキシレート、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)−1−ブタノールの1,2−エポキシ−4−(2−オキシラニル)シクロセキサン付加物、メチルメタクリレートとグリシジルメタクリレートの共重合体、スチレンとグリシジルメタクリレートの共重合体等が挙げられる。
【0055】
上記のエポキシ化合物の添加量としては、A成分100重量部に対して0.003〜0.1重量部が好ましい。より好ましくはA成分100重量部に対して0.004〜0.05重量部であり、さらに好ましくは0.005〜0.03重量部である。エポキシ化合物の添加量が0.003重量部以上であると、耐沸水性の改善効果が十分であり、また芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を成形する際の金型腐食の抑制効果が十分である。エポキシ化合物の添加量が0.1重量部以下であると芳香族ポリカーボネート樹脂の耐熱性が良好であり、結果として成形品の着色を引き起こす等の問題が抑制される。
【0056】
[他の添加剤について]
(紫外線吸収剤)
本発明において発明の目的を損なわない範囲で紫外線吸収剤を配合することができる。使用される紫外線吸収剤は、公知のものを任意に一種以上選択することができる。具体的には、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、トリアジン系紫外線吸収剤等が挙げられる。なかでも、ポリカーボネート樹脂の成形耐熱性等の効果をより発揮させることから、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤が特に好ましく用いられる。
【0057】
前記紫外線吸収剤の配合量は、ポリカーボネート樹脂100重量部に対して好ましくは0.01〜1.5重量部であり、より好ましくは0.05〜0.7重量部であり、さらに好ましくは0.1〜0.5重量部である。かかる配合量の範囲であれば、本発明における各リン系化合物の効果が十分に発現し、発明の目的を達成することができ、且つポリカーボネート樹脂に十分な耐候性が付与され好ましい。
【0058】
前記ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤としては、例えば、2−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)ベンゾトリアゾ−ル、2−(2−ヒドロキシ−5−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾ−ル、2−(2−ヒドロキシ−3,5−ジクミルフェニル)フェニルベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−3−tert−ブチル−5−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2,2’−メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2N−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール]、2−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾ−ル、2−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−アミルフェニル)ベンゾトリアゾ−ル、2−(2−ヒドロキシ−5−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾ−ル、2−(2−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾ−ル、2−(2−ヒドロキシ−4−オクトキシフェニル)ベンゾトリアゾ−ル、2,2’−メチレンビス(4−クミル−6−ベンゾトリアゾールフェニル)、2,2’−p−フェニレンビス(1,3−ベンゾオキサジン−4−オン)、2−[2−ヒドロキシ−3−(3,4,5,6−テトラヒドロフタルイミドメチル)−5−メチルフェニル]ベンゾトリアゾ−ルが挙げられ、これらを単独あるいは2種以上の混合物で用いることができる。
【0059】
好ましくは、2−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)ベンゾトリアゾ−ル、2−(2−ヒドロキシ−5−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾ−ル、2−(2−ヒドロキシ−3,5−ジクミルフェニル)フェニルベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−3−tert−ブチル−5−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2,2’−メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール]、2−[2−ヒドロキシ−3−(3,4,5,6−テトラヒドロフタルイミドメチル)−5−メチルフェニル]ベンゾトリアゾ−ルであり、より好ましくは、2−(2−ヒドロキシ−5−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾ−ル、2,2’−メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール]である。特に好ましくは、2−(2−ヒドロキシ−5−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾ−ルである。
【0060】
かかるベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤は、105℃、2時間乾燥した時の乾燥減量が0.5重量%以下のものが好ましく、0.1重量%以下のものがより好ましく、0.03重量%以下のものが特に好ましい。また、500nmの溶解色(トルエン100mlに紫外線吸収剤5gを溶解し、1cmのセルで測定した光線透過率)が95%以上のものが好ましく、98%以上のものがより好ましく、99%以上のものが特に好ましい。
【0061】
ベンゾフェノン系紫外線吸収剤としては、具体的に、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−オクトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−ベンジロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−5−スルホキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−5−スルホキシトリハイドライドレイトベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,2’,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジメトキシ−5−ソジウムスルホキシベンゾフェノン、ビス(5−ベンゾイル−4−ヒドロキシ−2−メトキシフェニル)メタン、2−ヒドロキシ−4−n−ドデシルオキシベンソフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−2’−カルボキシベンゾフェノン等が挙げられる。
【0062】
トリアジン系紫外線吸収剤としては、具体的に、2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−[(ヘキシル)オキシ]−フェノール、2−(4,6−ビス(2.4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−[(オクチル)オキシ]−フェノール等が挙げられる。
【0063】
(ブルーイング剤)
ポリカーボネート樹脂には、発明の目的を損なわない範囲でブルーイング剤を配合することができる。ブルーイング剤は、ポリカーボネート樹脂組成物の黄色味を消すために有効である。特に耐候性を付与した組成物の場合は、一定量の紫外線吸収剤が配合されているため「紫外線吸収剤の作用や色」によって樹脂製品が黄色味を帯びやすい現実があり、特にシート製品やレンズ製品に自然な透明感を付与するためにはブルーイング剤の配合は非常に有効である。
【0064】
本発明におけるブルーイング剤の配合量は、ポリカーボネート樹脂組成物に対して好ましくは0.05〜1.5ppmであり、より好ましくは0.1〜1.2ppmである。
ブル−イング剤としては代表例として、バイエル社のマクロレックスバイオレットやテラゾ−ルブル−RLS等があげられるが、特に制限されるものではない。
【0065】
[他の効果について]
本発明で使用されるポリカーボネート樹脂組成物は、ゲル化物の生成が低減されるという効果を有するのみならず、他の効果も発現される。
本発明で使用されるポリカーボネート樹脂組成物は、成形耐熱性およびリプロ性に優れ、成形品の白モヤ発生率が低減され外観の良好な成形品が得られる。
【0066】
具体的には、該ポリカーボネート樹脂組成物から1分サイクルで成形された「滞留前の色相測定用平板(厚み2mm)」、およびシリンダー中に樹脂を10分間滞留させた後に成形された「滞留後の色相測定用平板(厚み2mm)」を用いて、C光源により測定した色相から下記式で求めた色差ΔEは1.0以下が好ましく、0.5以下がより好ましい。色差ΔEが1.0以下であると成形耐熱性に優れる。
ΔE={(L−L’)+(a−a’)+(b−b’)1/2
「滞留前の色相測定用平板」の色相:L、a、b
「滞留後の色相測定用平板」の色相:L’、a’、b’
【0067】
また、上記「滞留前の色相測定用平板」の粘度平均分子量(M)と「滞留後の色相測定用平板」の粘度平均分子量(M’)を測定して求めた、△M(M−M’)は1.0×10以下が好ましく、0.5×10以下がより好ましい。△Mが1.0×10以下であると成形耐熱性に優れる。
【0068】
該ポリカーボネート樹脂組成物をペレット化し、さらに該ペレット(バージンペレット)を2回リペレットし、下記式により求めたバージンペレットと2回リペレットとの変色の度合い(Δb)は2.0以下が好ましく、1.8以下がより好ましく、1.5以下がさらに好ましい。変色の度合い(Δb)が2.0以下であるとリプロ性に優れる。
Δb=b’−b
「バージンペレットの色相」:b
「2回リペレットの色相」:b’
【0069】
該ポリカーボネート樹脂組成物から成形された成形板(縦150mm×横150mm×厚み3mm)に、HIDランプを照射し、成形板50枚中に観察される白モヤ発生枚数から算出した白モヤ発生率(%)は30%以下が好ましく、25%以下がより好ましく、20%以下がさらに好ましい。白モヤ発生率(%)が30%以下であると外観の良好な成形品が得られる。
【実施例】
【0070】
以下に実施例をあげて詳細に説明するが、本発明はその趣旨を超えない限り、何らこれに限定されるものではない。なお実施例、比較例中の評価は下記の方法で行った。
【0071】
(1)ペンタエリスリトールテトラステアレートの酸価
JIS K 0070に準拠して中和滴定法により酸価(KOHmg/g)を求めた。
【0072】
(2)ペンタエリスリトールテトラステアレートのTGA5%重量減少温度
TA−instruments社製のHi−Res TGA2950 Thermogravimetric Analyzerを使用し、N雰囲気下において20℃/minで昇温させ、試料の減量が仕込み重量の5重量%となった時の温度をTGA5%重量減少温度として測定した。
【0073】
(3)ペンタエリスリトールテトラステアレートのNaイオン濃度
イオンクロマトグラフによってペンタエリスリトールテトラステアレートに含まれるNaイオン濃度を求めた。
【0074】
(4)ポリカーボネート樹脂中のFeおよびNa量
ICP発光分光分析法にてポリカーボネート樹脂中のFeおよびNaの含有量を求めた。
【0075】
(5)ゲル化物の重量
直径50mmのSUS製皿をアルミ箔で包み、該アルミ箔上に各実施例で得られたポリカーボネート樹脂ペレット5,000mgを秤量した。かかるアルミ箔上のポリカーボネート樹脂ペレットを温度120℃で5時間乾燥させた後、電気炉にて空気雰囲気下、温度300℃の条件で6時間加熱処理した。かかる加熱処理後のポリカーボネート樹脂をジクロロメタンに溶解し、孔径10μmのPTFE製メンブランフィルター(ミリポア社製OmniporeTMメンブランフィルターJCWP04700)を通して濾過し、フィルター上に捕集されたジクロロメタン不溶のゲル化物の重量を測定した。
【0076】
(6)成形耐熱性(滞留耐熱性)
各実施例で得られたペレットを120℃で5時間乾燥した後、JSW社製射出成形機J85−EL2によりシリンダー温度350℃、金型温度80℃の条件で、1分サイクルで「滞留前の色相測定用平板」(縦70mm×横50mm×厚み2mm)を成形した。さらに、シリンダー中に樹脂を10分間滞留させた後、「滞留後の色相測定用平板」(縦70mm×横50mm×厚み2mm)を成形した。滞留前後の平板の色相を日本電色(株)製SE−2000を用いてC光源により測定し、次式により色差ΔEを求めた。ΔEが小さいほど成形耐熱性が優れることを示す。
ΔE={(L−L’)+(a−a’)+(b−b’)1/2
「滞留前の色相測定用平板」の色相:L、a、b
「滞留後の色相測定用平板」の色相:L’、a’、b’
【0077】
(7)成形耐熱性(滞留分子量差)
上記(6)の試験において得られた、「滞留前の色相測定用平板」の粘度平均分子量(M)と「滞留後の色相測定用平板」の粘度平均分子量(M’)を測定し、その差△M(M−M’)を求めた。ΔMが小さいほど成形耐熱性が優れることを示す。
【0078】
(8)リプロ性
各実施例で得られたペレットを30mm径の単軸押出機にて2回リペレットした。得られたペレットの黄色度(b)を日本電色(株)製SE−2000を用いてC光源反射法で測定し、バージンペレットと2回リペレットの変色の度合い△bを求めた。△bが小さいほど色相の変化が小さく良好である。
Δb=b’−b
「バージンペレットの色相」:b
「2回リペレットの色相」:b’
【0079】
(9)白モヤ発生率
各実施例で得られたペレットを120℃で5時間乾燥した後、住友重機社製射出成形機SG−150によりシリンダー温度300℃、金型温度110℃の条件で、成形板(縦150mm×横150mm×厚み3mm)を作成した。HIDランプを該成形板(縦150mm×横150mm×厚み3mm)に照射し、成形板50枚中の白モヤ発生枚数から白モヤ発生率を算出した。
【0080】
表1における記号表記の各成分は下記の通りである。
(A成分)
A−1:ビスフェノールAとホスゲンから界面重合法により製造された粘度平均分子量22,500、Fe含有量:50ppb、Na含有量:30ppbの芳香族ポリカーボネート樹脂パウダー(帝人化成(株)製:パンライトL−1225WP)
A−2:ビスフェノールAとホスゲンから界面重合法により製造された粘度平均分子量22,500、Fe含有量:110ppb、Na含有量:50ppbの芳香族ポリカーボネート樹脂パウダー(帝人化成(株)製:パンライトL−1225WP)
A−3:ビスフェノールAとホスゲンから界面重合法により製造された粘度平均分子量22,500、Fe含有量:230ppb、Na含有量:30ppbの芳香族ポリカーボネート樹脂パウダー(帝人化成(株)製:パンライトL−1225WP)
A−4:ビスフェノールAとホスゲンから界面重合法により製造された粘度平均分子量22,500、Fe含有量:150ppb、Na含有量:120ppbの芳香族ポリカーボネート樹脂パウダー(帝人化成(株)製:パンライトL−1225WP)
(B成分)
B−1:酸価:3.1、TGA5%重量減少温度:378℃、Naイオン濃度:0.5ppmであるぺンタエリスリトールテトラステアレート(日油(株)製:ユニスターH−476)
B−2:酸価:10.0、TGA5%重量減少温度:322℃、Naイオン濃度:27.0ppmであるぺンタエリスリトールテトラステアレート(理研ビタミン(株)製:EW−400)
B−3:酸価:1.0、TGA5%重量減少温度:382℃、Naイオン濃度:13.4ppmであるぺンタエリスリトールテトラステアレート(エメリー オレオケミカルズ(株)製:ロキシオールVPG861)
(C成分)
ヒンダードフェノール系酸化防止剤(ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、バスフジャパン(株)製 イルガノックス1010)
(D成分)
リン系安定剤(主成分テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、クラリアントジャパン(株)製:ホスタノックスP−EPQ)
(E成分)
スチレンとグリシジルメタクリレートの共重合体(日油(株)製:マープルーフG−0250SP)
(その他添加剤)
ブルーイング剤(バイエル(株)製:マクロレックスバイオレットB)
【0081】
[実施例1〜14、比較例1〜10、参考例1〜3]
ビスフェノールAとホスゲンから界面縮重合法により製造されたポリカーボネート樹脂パウダー100重量部に、表1記載の各種添加剤を各配合量で混合し、スクリュー径30mmのベント付単軸押出機により、シリンダー温度280℃で押出ペレット化した。得られたペレットを上記方法により評価した結果を表1〜3に示した。
下表1から明らかなように、本発明の方法により、ポリカーボネート樹脂のゲル化物は減少し、また成形耐熱性、リプロ性に優れ、白モヤの発生の少ないポリカーボネート樹脂成形品が得られることが分かる。
【0082】
【表1】

【0083】
【表2】

【0084】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明の方法により、ポリカーボネート樹脂を加熱溶融し、成形加工する過程において生成するゲル化物を低減することが可能であり、外観、色相に優れたポリカーボネート樹脂成形品を得ることができることから、特にポリカーボネート樹脂シートおよびフィルム成形において好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート樹脂組成物からなる粉粒体5,000mgを、アルミ箔上において空気中、温度300℃の条件下で6時間加熱した後、ジクロロメタンに溶解し、孔径10μmのPTFE製メンブランフィルターを通して濾過した際に、フィルター上に捕集されるゲル化物の重量を50mg以下とする方法であって、ポリカーボネート樹脂組成物として、ポリカーボネート樹脂(A成分)100重量部に対し、炭素数16〜22の飽和脂肪酸とペンタエリスリトールとのフルエステル(B成分)0.25〜0.55重量部を含有し、且つ該A成分はFe含有量が200ppb以下およびNa含有量が100ppb以下であるポリカーボネート樹脂組成物を使用することを特徴とするポリカーボネート樹脂のゲル化物の生成を低減する方法。
【請求項2】
A成分100重量部に対し、B成分を0.30〜0.50重量部含有することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
A成分は、Fe含有量とNa含有量との合計が200ppb以下である請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
B成分は、酸価が1.6〜4.0であり、TGA(熱重量解析)における5%重量減少温度が360℃以上であり、且つNaイオン濃度が10ppm以下であるペンタエリスリトールテトラステアレートである請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
ポリカーボネート樹脂組成物が、ポリカーボネート樹脂(A成分)100重量部に対し、さらにヒンダードフェノール系酸化防止剤(C成分)0.01〜0.1重量部、リン系安定剤(D成分)0.01〜0.1重量部、およびエポキシ化合物(E成分)0.003〜0.1重量部を含有してなるポリカーボネート樹脂組成物である請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
C成分は、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]である請求項5に記載の方法。
【請求項7】
D成分は、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイトである請求項5に記載の方法。

【公開番号】特開2013−1799(P2013−1799A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−134202(P2011−134202)
【出願日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【出願人】(000215888)帝人化成株式会社 (504)
【Fターム(参考)】