説明

ポリカーボネート積層体

【課題】屋根材に要求される飛び火性能を備え、製造後の反りも極めて少ないポリカーボネート積層体を提供する。
【解決手段】ポリカーボネート基材1の片面に接着剤層2を介してガラスクロス3が積層された積層体であって、ガラスクロス3の織り密度が、縦糸、横糸ともに32〜120本/25mmであり、かつ、ガラスクロス3の目付量が100〜500g/mであり、接着剤層2が温度20℃、周波数1Hzで1×10〜1×10Paの貯蔵弾性率を有し、接着剤層2の厚さが50〜700μmであるポリカーボネート積層体とする。ガラスクロス3の目付量と織り密度を上記範囲とすることで飛び火性能を向上させ、接着剤層の貯蔵弾性率と厚さを上記範囲とすることで反りを抑える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屋根材として使用されるポリカーボネート積層体に関し、更に詳しくは、火種が付着しても、貫通する燃え抜け、裏面の着火、燃焼物の落下、端部への延焼などを防止でき、また、製造後の反りも極めて少ないポリカーボネート積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
屋根材は、火災時の延焼防止の観点から、飛来する火の粉が付着しても、貫通する燃え抜け、裏面の着火、火炎の拡大などを防止できる防火性能(飛び火性能)が要求されている。
【0003】
そのような飛び火性能を有する屋根材の一つとして、酸素指数が21以上であるポリカーボネート等の熱可塑性樹脂からなる基板の片面に、織り密度が縦糸、横糸ともに15本/25mm以上であるガラスクロスを熱プレスにより積層一体化してなる屋根材が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−92272号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1の屋根材は、ポリカーボネート等の樹脂基板とガラスクロスとの線膨張係数の差が大きい(ポリカーボネートの線膨張係数はガラス繊維の線膨張係数の約13倍である)ため、樹脂基板とガラスクロスを熱プレスで積層一体化して製造した屋根材が室温まで冷却されたときに、大きい反りが発生するという問題があった。
【0006】
また、上記特許文献1の屋根材は、実施例では、繊維密度が15本/25mmのガラスクロスと20本/25mmのガラスクロスを5mm厚のポリカーボネート基板に積層しているが、ガラスクロスの目付量や糸の番手などが不明であるため、目付量や番手が小さければ、ガラスクロスの織目に生じた隙間からポリカーボネート樹脂が裏面に溶出して裏面が着火したり、溶融樹脂がドリッピングする可能性もあった。
【0007】
本発明は上記事情の下になされたもので、その解決しようとする課題は、屋根材に要求される飛び火性能を備え、製造後の反りも極めて少ないポリカーボネート積層体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するため、ポリカーボネート基材の片面に接着剤層を介してガラスクロスを積層したポリカーボネート積層体について鋭意研究を重ねた結果、ガラスクロスの目付量と織り密度が飛び火性能に大きい影響を及ぼし、接着剤層の貯蔵弾性率と厚さが反りの防止に大きく関与するという事実を見出して、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明の請求項1に係るポリカーボネート積層体は、ポリカーボネート基材の片面に接着剤層を介してガラスクロスが積層された積層体であって、ガラスクロスの織り密度が、縦糸、横糸ともに32〜120本/25mmであり、かつ、該ガラスクロスの目付量が100〜500g/mであり、接着剤層が温度20℃、周波数1Hzで1×10〜1×10Paの貯蔵弾性率を有し、接着剤層の厚さが50〜700μmであることを特徴とするものである。
【0010】
そして、本発明の請求項2に係るポリカーボネート積層体は、接着剤層が、ポリエステル系又はポリウレタン系のホットメルト型接着剤層であることを特徴とし、
本発明の請求項3に係るポリカーボネート積層体は、積層体の長さ寸法に対する積層体端部の反り上がり寸法の比[反り上がり寸法/長さ寸法]が0.8×10−2以下であることを特徴とし、
本発明の請求項4に係るポリカーボネート積層体は、全光線透過率が25%以上であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の請求項1に係るポリカーボネート積層体のように、ガラスクロスの織り密度が、縦糸、横糸ともに32〜120本/25mmであると、ガラスクロスの目開き(ガラスクロスの織り目に隙間があくこと)が極めて小さいので、ガラスクロスの織り目からポリカーボネートが裏面に溶出して裏面が着火したり、ドリッピングするのを防止でき、かつ、該ガラスクロスの目付量が100〜500g/mで比較的厚手のものであると、火種によってポリカーボネート基材が着火したとしても、その熱でガラスクロスまで溶けて穴が開いたり破れたりすることがないため、ポリカーボネート積層体の飛び火性能は向上し、後述の飛び火試験の結果から判るように、貫通する燃え抜け、裏面の着火、燃焼物の落下などを防止することができる。
また、本発明の請求項1に係るポリカーボネート積層体のように、接着剤層が温度20℃、周波数1Hzで1×10〜1×10Paの貯蔵弾性率を有し、かつ、その厚さが50〜700μmであると、接着剤層が適度に柔軟で、ポリカーボネート基材とガラスクロスの線膨張係数の差による歪み応力を吸収緩和するため、後述の反り試験の結果から判るように、製造後のポリカーボネート積層体の反りを極めて小さくすることができる。
【0012】
そして、本発明の請求項2に係るポリカーボネート積層体のように、接着剤層がポリエステル系又はポリウレタン系のホットメルト型接着剤層であると、該接着剤層が厚くて貯蔵弾性率(20℃、1Hz)が前記範囲内であるため、反りの抑制効果が大きく、しかも、ガラスクロスの糸(ガラス繊維)がこれらのホットメルト型接着剤層に食い込むため、アンカー効果によってホットメルト−ガラスクロス間の接着強度を向上させることができ、
本発明の請求項3に係るポリカーボネート積層体のように、積層体の長さ寸法に対する積層体端部の反り上がり寸法の比[反り上がり寸法/長さ寸法]が0.8×10−2以下であるものは、反りが極めて少ないため、施工時の作業性が良く、施工後の外観も良好であり、保管や運搬がし易く取扱い性も良好であり、
本発明の請求項4に係るポリカーボネート積層体のように全光線透過率が25%以上であるものは、採光性が良いので、工場などの屋根材として使用すれば昼間の屋内照明を節約して省エネを達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係るポリカーボネート積層体の一実施形態を示す概略断面図である。
【図2】簡易飛び火試験の説明図である。
【図3】反り試験の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1に示すポリカーボネート積層体は、透光性のポリカーボネート基材1の片面(裏面)に、透光性の接着剤層2を介して、透光性のガラスクロス3を積層一体化した板状の積層体である。
【0015】
ポリカーボネート基材1は、ポリカーボネート積層体の用途に適した種々の厚さを有するものが使用され、用途が屋根材である場合には、1〜12mm程度の厚さを有するものが使用される。また、基材1は本実施形態のような平板だけでなく、折板や波板のポリカーボネート基材でもよい。特に、紫外線吸収剤を含有させたポリカーボネート基材1や、表面に耐候性付与層(例えば紫外線吸収剤を含んだポリカーボネート層など)を設けた基材1は、耐候性が良好で黄変し難いため好ましく使用される。また、光触媒、帯電防止剤、熱線吸収剤または熱線反射剤を含有させたポリカーボネート基材1を用いてもよいし、光触媒や帯電防止剤を含有させた防汚層や、熱線吸収または熱線反射層を表面に設けたポリカーボネート基材でもよい。
【0016】
ガラスクロス3は平織、朱子織、綾織のいずれの織り組織で織成されたものでもよいが、ポリカーボネート積層体の飛び火性能を向上させるためには、100g/m以上、500g/m以下の目付量を有する厚手のガラスクロスを用いることが必要である。目付量が100g/m未満の薄手のガラスクロスは、火種によってポリカーボネート基材1が着火すると、その熱でガラスクロスまで溶けて穴が開いたり破れたりするおそれがあるため、ポリカーボネート積層体に、貫通する燃え抜け、裏面の着火、燃焼物の落下などを生じる可能性があり、ポリカーボネート積層体の飛び火性能を満足に向上させることは難しい。飛び火性能はガラスクロス3の目付量が多いほど向上すると考えられるが、目付量が500g/mを越えても、それに見合うだけの飛び火性能の更なる向上は見られず、却ってポリカーボネート積層体の透光性の低下を招くことになるので、ガラスクロス3の目付量の上限は500g/mとするのが妥当である。ガラスクロス3の更に好ましい目付量は、200〜350g/mである。
【0017】
また、上記ガラスクロス3は、その織り密度が縦糸、横糸ともに32〜120本/25mmであることが好ましく、この範囲の織り密度を有するガラスクロス3は、目開き(ガラスクロスの織り目に隙間があくこと)がないので、ポリカーボネート基材1が着火しても、裏面着火やドリッピングを防止することができる。ガラスクロス3の織り密度が、縦糸、横糸ともに32本/25mm未満であると、後述の簡易飛び火試験の結果から判るように裏面着火が生じ易くなる。裏面着火の防止効果は、ガラスクロス3の織り密度が高くなるほど顕著になると考えられるが、ガラスクロスの織成技術上、120本/25mmを越える織り密度のガラスクロスを織成することは容易でないため、織り密度の上限は120本/25mmとするのが妥当である。更に好ましい織り密度は縦糸、横糸ともに32〜98本/25mmである。尚、織り密度が縦糸、横糸ともに32本/25mm以上であっても、ガラスクロス3の目付量が100g/mより少ない場合は、糸の番手が小さくなって強度不足による燃焼時の貫通孔が懸念される他、目開きが生じ易くなるので、裏面着火を生じることもある。
【0018】
ガラスクロス3は無処理のものでもよいが、例えば、アミノシランカップリング剤やその他の樹脂を含浸させて表面処理したものを使用してもよい。後者の表面処理を行ったガラスクロスは、縦糸及び横糸のガラス繊維がほつれにくく、取り扱いが容易になる利点があるので好ましい。また、ガラスクロスに樹脂含浸することで、接着層との接着強度が向上する利点もあるので好ましい。
【0019】
ポリカーボネート基材1とガラスクロス3を接着する接着剤層2は、ポリカーボネート積層体の反りを抑制するためには、温度20℃、周波数1Hzで1×10〜1×10Paの貯蔵弾性率を有し、かつ、50〜700μmの厚さを有することが必要である。この範囲の貯蔵弾性率と厚さを有する接着剤層2は適度に柔軟で弾性変形し、ポリカーボネート基材1とガラスクロス3の線膨張係数の差による歪み応力を吸収緩和するため、製造後のポリカーボネート積層体の反りを極めて小さくすることができる。接着剤層2の温度20℃、周波数1Hzでの貯蔵弾性率が1×10Paを越えたり、接着剤層2の厚さが50μmよりも薄くなったりすると、接着剤層2の柔軟性が低下して変形し難くなるため、ポリカーボネート基材1とガラスクロス3の線膨張係数の差による歪み応力を十分吸収し難くなる。また、接着剤層2の貯蔵弾性率が1×10Paを下回ったり、厚さが700μmを越えたりしても、それに見合うだけの接着性の更なる向上は見られず、またポリカーボネート積層体の透光性も低下するおそれが生じる。
【0020】
接着剤層2の好ましい具体例としては、貯蔵弾性率及び厚さが上記範囲内にあるポリエステル系又はポリウレタン系のホットメルト型接着剤層を挙げることができる。このようなホットメルト型接着剤層2は、上記のようにポリカーボネート基材1とガラスクロス3の線膨張係数の差による歪み応力を吸収緩和してポリカーボネート積層体の反りを抑制できることに加えて、ガラスクロス3の糸(ガラス繊維)がこれらのホットメルト型接着剤層2に食い込むため、そのアンカー効果によってガラスクロス3の接着強度を高めることができる利点がある。
【0021】
尚、塗液タイプの接着剤層でポリカーボネート基材1とガラスクロス3を接着してもよいが、塗液タイプの接着剤のみでは、接着剤層は50μm以上の厚みに形成することが容易でなく、ポリカーボネート基材1とガラスクロス3の線膨張係数の差による歪み応力を十分に吸収緩和し難い。塗布タイプの接着剤を使用する場合は、温度20℃、周波数1Hzで1×10〜1×10Paの貯蔵弾性率を有するエラストマーなどの柔軟性を有する樹脂を両面の接着剤の間に介在させて、接着層を50μm以上の厚みにすることが好ましく、このようにすると線膨張係数の差による歪み応力を吸収できる。
【0022】
上記構成のポリカーボネート積層体は、ポリカーボネート基材1の裏面に、目付量が100〜500g/mで、織り密度が32〜120本/25mmのガラスクロス3を積層しているため、飛び火性能が向上し、貫通する燃え抜け、裏面の着火、燃焼物の落下、試験片端部までの延焼などを防止することができる。しかも、ポリカーボネート基材1とガラスクロス3を接着する接着剤層2として、温度20℃、周波数1Hzで1×10〜1×10Paの貯蔵弾性率を有し、かつ、厚さが50〜700μmであるホットメルト型接着剤層を採用しているため、ポリカーボネート積層体の反りを顕著に抑制することができ、後述の反り試験の結果から判るように、積層体の長さ寸法に対する積層体端部の反り上がり寸法の比[反り上がり寸法/長さ寸法]が0.8×10−2以下と極めて小さい、保管性や取扱い性の良好なポリカーボネート積層体を得ることができる。また、厚さ1mm〜12mmのポリカーボネート基材1と、目付量100〜500g/mのガラスクロス3を、厚さ50〜700μmの接着剤層2で接着しているので、全光線透過率が25%以上の採光性が良好なポリカーボネート積層体を得ることができる。
【0023】
次に、本発明の効果を確認するために行った簡易飛び火試験と反り試験について説明する。
【0024】
[簡易飛び火試験]
(試験片の製作)
厚さ3mmのポリカーボネート板の片面に、接着剤層として、20℃、1Hzでの貯蔵弾性率が1.27×10Pa、厚さが200μmのポリエステル系ホットメルト型接着剤フィルム[日本マタイ(株)製の品番PH413]を用いて、下記表1に示す5種類のガラスクロス[ユニチカ(株)製]を熱圧着し、冷却後、100×100mmに切断して、ガラスクロスが異なる5種類のポリカーボネート積層板の試験片P1〜P5を製作した。
【0025】
【表1】

【0026】
(試験方法)
先ず、図2に示すように、各試験片P1(P2〜P5)を、そのガラスクロスを下側にして試験台(不図示)に水平に設置する。次いで、4個の小さい火種木材w(一辺が12mmの立方体の火種木材)を軽く炙り、1個の大きい火種木材W(一辺が30mmの立方体の火種木材)を着火させて、図2に示すように4個の小さい火種木材wの上に設置する。そして、これらの火種木材w,Wにバーナーで接炎し、15分間、有炎燃焼を継続して、試験片P1(P2〜P5)の裏面の着火、燃焼物の落下、貫通する燃え抜け(貫通孔)、試験片端部までの延焼が生じるかどうかを肉眼で観察する。尚、火種木材w,Wにバーナーで接炎して有炎燃焼を継続するときには、バーナーの炎が試験片P1(P2〜P5)に直接触れないように注意する。
【0027】
上記の簡易飛び火試験の結果を、下記表2に示す。
燃焼試験の評価基準は、建築基準法第63条に規定されている屋根構造の試験方法である、屋根葺き材の飛び火性能試験・評価方法に規定されており、試験中および試験後の観察において、(1)試験体端部まで延焼しないこと、(2)裏面で火炎を伴う燃焼が無いこと、(3)10×10mm以上の貫通孔の無いこと、という評価項目が挙げられている他、燃焼物の落下についても観察するよう規定されている。これに基づき、本発明における簡易飛び火試験では、(1)貫通孔の無いこと、(2)裏面での着火の無いこと、(3)有炎の燃焼物が落下しないこと、(4)試験片端部までの延焼の無いこと、の4点を評価基準とした。
尚、下記表2の貫通孔、裏面着火、燃焼物落下、試験片端部までの延焼の評価について、〇は基準適合、×は基準不適合を意味する。
また、試験片P3は、裏面着火の評価を×とした。裏面着火が生じた原因は、ガラスクロスが目開きがあるためだと推定される。
【0028】
【表2】

【0029】
上記表2から判るように、試験片P1、P2、P4、P5、はいずれも、簡易飛び火試験では貫通孔、裏面着火、燃焼物落下、試験片端部までの延焼のいずれについても基準をクリアしている。但し試験片P3は裏面着火が生じたため基準不適合という結果になった。裏面着火については、織り密度が縦糸31本/25mm、横糸25本/25mmと少ない目開きのあるガラスクロスH155F(目付量155g/m)を積層した試験片P3は不適合である。また、織り密度が高く目付量が110g/mと少ないガラスクロスH105F、H105Aを積層した試験片P1、P2では、未処理のガラスクロスH105Fを積層した試験片P1も、アミノシランカップリング剤を含浸処理したガラスクロスH105Aを積層した試験片P2も、共に裏面着火は起こらなかった。
さらに目付量が200g/m以上、織り密度が縦糸、横糸ともに32本/25mm以上のガラスクロスを積層した試験片P4、P5は、裏面着火も全く生じていない。
以上のことから、ガラスクロスの目付量や織り密度は、ポリカーボネート積層体の総合的な飛び火性能に大きく関与し、目付量が100g/mより少なく、または、織り密度が縦糸,横糸ともに32本/25mmより少ないガラスクロスを積層したポリカーボネート積層体は、目付量が100g/m以上、織り密度が32本/25mm以上のガラスクロスを積層した本発明のポリカーボネート積層体に比べて、総合的な飛び火性能に劣っていることが判る。
【0030】
[反り試験]
(サンプルの製作)
下記表3に記載した長さと厚さを有するポリカーボネート基板の裏面に、下記表3に記載した接着剤層を介して、前記表1に記載した型番H202Aのガラスクロス(目付量:212g/m、織り密度:縦糸44本/25mm、横糸32本/25mm、目開き:なし、表面処理:アミノシランカップリング剤含浸)を積層することにより、17種類のポリカーボネート積層板のサンプル(1〜17)を製作した。
【0031】
(試験方法)
図3に示すように、それぞれのサンプルSをガラスクロスを下側にして水平基台4の表面に載置し、サンプルSの端部の最大の反り上がり寸法bを金尺(JIS B7516:1級)で測定した。そして、各サンプルについて、その長さ寸法に対する反り上がり寸法の比[反り上がり寸法/長さ寸法]を求めた。
その結果を下記表3に示す。
尚、下記表3における品番PH413の接着剤は、日本マタイ(株)製のポリエステル系ホットメルト型接着剤であり、品番UH203の接着剤は、日本マタイ(株)製のウレタン系ホットメルト型接着剤であり、品番PE299の接着剤は、米国モートン社製のウレタン系ホットメルト型接着剤であり、品番UR5537の接着剤は、東洋紡(株)製のポリエステル−ウレタン樹脂塗液型接着剤である。
貯蔵弾性率の測定は、セイコーインスツル(株)製の粘弾性スペクトロメータEXSTER6000を用いて、以下の条件で動的粘弾性を測定し、貯蔵弾性率G’の値を読み取った。
・温度:20 ℃
・正弦波振動周波数:1Hz
・測定モード:引張り
・歪み量:1%
【0032】
【表3】

【0033】
この表3を見ると、厚さが50〜700μmの範囲にあり、且つ、20℃、1Hzでの貯蔵弾性率が1×10〜1×10Paの範囲にある、ポリエステル系又はポリウレタン系のホットメルト型接着剤を用いて、ポリカーボネート基板とガラスクロスを接着した本発明のサンプル1〜15は、いずれも[反り上がり寸法/長さ寸法]が0.00〜0.75×10−2の範囲内にあり、反りが極めて少なくなっている。
これに対し、厚さが30μmと薄いポリエステル−ウレタン樹脂塗液型接着層でポリカーボネート基板とガラスクロスを接着した比較用のサンプル16,17は、[反り上がり寸法/長さ寸法]が2.5×10−2、1.02×10−2と大きく、反りが殆ど抑えられていない。
以上のことから、接着剤層の20℃、1Hzでの貯蔵弾性率や厚さは、ポリカーボネート積層体の反りの抑制に大きく関与し、20℃、1Hzでの貯蔵弾性率が1×10〜1×10Pa、厚さが50〜700μmのホットメルト型接着剤層でポリカーボネート基材とガラスクロスを接着すれば、反りが極めて少ないポリカーボネート積層体を製造できることが判る。
【0034】
更に、厚さ3mm、縦横200×150mmのポリカーボネート板[タキロン(株)製PC1600]の裏面に、下記表4に示す接着剤層を介して、前記表1に示すガラスクロスH202Aを積層して、6種類のポリカーボネート積層体のサンプル18〜23を作製した。
これらのサンプルについて、日本電色工業(株)製のヘーズメータNDH5000を用いて、JIS K 7105に基づく全光線透過率を測定した。その結果を下記表4に示す。
【0035】
【表4】

【0036】
この表4から、本発明のポリカーボネート積層体のサンプル18〜23は、いずれも全光線透過率が25〜35%の範囲内にあり、良好な採光性を有することが分かる。
【符号の説明】
【0037】
1 ポリカーボネート基材
2 接着剤層
3 ガラスクロス
w 小さい火種木材
W 大きい火種木材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート基材の片面に接着剤層を介してガラスクロスが積層された積層体であって、ガラスクロスの織り密度が、縦糸、横糸ともに32〜120本/25mmであり、かつ、ガラスクロスの目付量が100〜500g/mであり、接着剤層が温度20℃、周波数1Hzで1×10〜1×10Paの貯蔵弾性率を有し、接着剤層の厚さが50〜700μmであることを特徴とするポリカーボネート積層体。
【請求項2】
接着剤層が、ポリエステル系又はポリウレタン系のホットメルト型接着剤層であることを特徴とする請求項1に記載のポリカーボネート積層体。
【請求項3】
積層体の長さ寸法に対する積層体端部の反り上がり寸法の比[反り上がり寸法/長さ寸法]が0.8×10−2以下であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のポリカーボネート積層体。
【請求項4】
全光線透過率が25%以上であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のポリカーボネート積層体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−51258(P2012−51258A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−196111(P2010−196111)
【出願日】平成22年9月1日(2010.9.1)
【出願人】(000108719)タキロン株式会社 (421)
【Fターム(参考)】