説明

ポリグリシジルエーテルの製造方法

【課題】全塩素含有量が低減されたポリグリシジルエーテルを簡便に製造する方法を提供すること
【解決手段】下記一般式(I)で表される多価アルコール、β−メチルエピクロルヒドリン及びアルカリを反応させて、下記一般式(II)で表されるポリグリシジルエーテルを製造する方法。前記反応を相間移動触媒の存在下に行わせることを特徴とする。但し、一般式(I)中のR及びRはそれぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表し、m及びnはそれぞれ独立に1〜10の数を表し、一般式(II)中のR及びRはそれぞれ、一般式(I)中のR及びRと同じである。



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリグリシジルエーテルの製造方法に関し、特に、相間移動触媒の存在下に、ビスフェノールのプロピレンオキシド付加物、β−メチルエピクロルヒドリン及びアルカリを反応させる、塩素含有量の少ないポリグリシジルエーテルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエポキシ化合物から得られる硬化物は、各種基材に対する接着性、耐熱性、耐薬品性、電気特性、機械特性等に比較的優れているため、広い産業分野、特に、塗料や接着剤の分野で使用されている。
【0003】
これらのポリエポキシ化合物の中でも、ビスフェノールのプロピレンオキシド付加物とβ−メチルエピクロルヒドリンから得られる特定のポリグリシジルエーテルが、カチオン硬化系で優れた硬化性を示す材料として有用であることが判明した。
【0004】
しかしながら、従来、β−メチルエピクロルヒドリンを用いてポリグリシジルエーテルを製造する方法についてはほとんど検討されてこなかった。例えば、多価フェノール化合物とβ−メチルエピクロルヒドリン及びエピクロルヒドリンとを水酸化ナトリウム水溶液の存在下で反応させる方法が知られている(特許文献1)が、このような方法によって前記特定のポリグリシジルエーテルを製造しようとしても、目的物を得ることは困難である。また、1段目にルイス酸触媒等を用いる付加反応を実施し、続く2段目にアルカリを用いる鹸化反応を行わせるという一般的な高アルコール又はグリコールの製造方法を転用した場合には副反応が避けられず、塩素含有量が高くなるという欠点を有していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3579959号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明者等は、全塩素含有量が低減されたポリグリシジルエーテルを製造すべく鋭意検討を重ねた結果、ビスフェノールのプロピレンオキシド付加物とβ−メチルエピクロルヒドリンとをアルカリで閉環させるに際し、相間移動触媒を用いることが有効であることを見出し、本発明に到達した。
従って本発明の目的は、全塩素含有量が低減されたポリグリシジルエーテルを簡便に製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
即ち本発明は、下記一般式(I)で表される多価アルコール、β−メチルエピクロルヒドリン及びアルカリを反応させて、下記一般式(II)で表されるポリグリシジルエーテルを製造する方法において、前記反応を相間移動触媒の存在下に行わせることを特徴とするポリグリシジルエーテルの製造方法である。
【0008】
一般式(I)

但し、式中のR及びRはそれぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表し、m及びnはそれぞれ独立に1〜10の数を表す;
一般式(II)

但し、式中のR及びRはそれぞれ、一般式(I)中のR及びRと同じである。
【0009】
本発明においては、前記相間移動触媒が第四級アンモニウム塩基又は第四級アンモニウム塩であることが好ましく、特に第四級アンモニウム塩が好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、電子材料或いは電気絶縁材料への使用に適した、塩素含有率が極めて低く、また、エポキシ当量の小さいポリグリシジルエーテルを簡便な操作で容易に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明のポリグリシジルエーテルの製造方法について詳細に説明する。
【0012】
本発明の製造方法において出発原料として用いられる前記一般式(I)で表される多価アルコールは、ビスフェノールにプロピレンオキシドを付加させる等の常法によって得ることができるものであり、また、市販品として容易に入手することもできる。
【0013】
本発明の製造方法は、上記多価アルコール、β−メチルエピクロルヒドリン及びアルカリを反応させて、前記一般式(II)で表されるポリグリシジルエーテルを製造する方法である。ここで、上記多価アルコールに対する上記β−メチルエピクロルヒドリンの使用比率は、該多価アルコールの水酸基に対して当量以上である限り特に制限されることはないが、通常は1.0〜10.0当量であり、特に2.0〜8.0当量の範囲であることが好ましい。上記β−メチルエピクロルヒドリンの比率が1.0当量(等当量)未満であると、グリシジルエーテル化されない水酸基が残存して純度が低下する。また、10.0当量を超えた場合にはβ−メチルエピクロルヒドリンが無駄となるばかりでなく、反応速度が低下したり、副反応によってエポキシ当量が大きくなったりするので好ましくない。
【0014】
また前記アルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属炭酸塩等があげられる。本発明においてはこれらのアルカリの中でも、特に水酸化ナトリウムが好ましい。本発明においてはこれらのアルカリを水溶液として用いることが好ましいが、場合によっては粉末又は固形のアルカリを、水と同時に或いは別々に加えることもできる。
【0015】
上記アルカリの使用量は、前記多価アルコールの水酸基に対して当量(モル)以上である限り特に制限を受けることはないが、通常は1.0〜2.0当量であり、特に1.0〜1.5当量の範囲であることが好ましい。アルカリの使用量が脂肪族多価アルコールの水酸基に対して当量未満であるとグリシジルエーテル化されないクロルヒドリンエーテル基が残存して純度が低下し、また、2.0当量を超えても無駄となるばかりでなく、副反応によって製品の純度が低下するので好ましくない。
【0016】
本発明の特徴は、前記多価アルコール、β−メチルエピクロルヒドリン及びアルカリの反応を、相間移動触媒の存在下に行わせる点にあり、この相間移動触媒は、水に不溶性の有機化合物と、有機溶媒に不溶性の試薬とを反応させるために使用される試薬として知られている。
【0017】
前記相間移動触媒としては、トリメチルアミン、トリオクチルアミン、トリデシルアミンのような第三級アミン、テトラメチルアンモニウム、メチルトリオトクチルアンモニウム、メチルトリデシルアンモニウム、ベンジルトリメチルアンモニウムのような第四級アンモニウム塩基、塩化テトラメチルアンモニウム、塩化メチルトリオクチルアンモニウム、塩化メチルトリデシルアンモニウム、塩化ベンジルトリメチルアンモニウムのような第四級アンモニウム塩があげられるが、本発明においては、特に第四級アンモニウム塩が好ましい。
【0018】
上記相間移動触媒の使用量は、多価アルコールの種類、β−メチルエピクロルヒドリンの過剰率、反応溶媒の使用量、反応温度等を考慮して適宜使用すればよいが、多価アルコール100質量部に対して通常0.1〜10.0質量部であり、0.5〜5.0質量部の範囲であることが好ましい。相間移動触媒の使用量が0.1質量部未満であると反応速度が著しく遅くなったり、副反応が進行してエポキシ当量が小さくなったりするため実用的ではなく、また、10.0質量部を超えても相間移動触媒が無駄となる上、場合によっては反応を阻害することすらあるので好ましくない。
【0019】
また、本発明の製造方法においては、一段の反応で塩素含有率の著しく低いポリグリシジルエーテルが得られるという利点もある。ここで、一段の反応とは、全ての原料及び触媒を一括して仕込んで反応させる方法のみならず、脂肪族多価アルコール、エピクロルヒドリン並びに触媒を仕込み、次いでアルカリを添加して反応させる方法を包含する。本発明においては、反応制御の容易さの観点から、後者の方法が好ましい。
【0020】
上記の反応は、約30℃〜約100℃で行われるが、約40℃〜約80℃で行うことが好ましい。また、反応に際しては、炭化水素、エーテル又はケトンのような反応に不活性な溶媒を用いることもできるが、β−メチルエピクロルヒドリンを過剰に用いた場合には、β−メチルエピクロルヒドリンが溶媒としても機能するため、上記したような、反応に不活性な溶媒を使用することは必須ではない。
【0021】
反応終了後の、目的とするポリグリシジルエーテルの単離は、例えば、過剰のβ−メチルエピクロルヒドリンを留去した後、必要に応じて炭化水素等の非水溶性溶媒を加えた後水洗し、生成した食塩、触媒及び未反応或いは副生するアルコール成分を除去する等の、通常操作によって行うことができる。
【0022】
本発明の製造方法によって得られたポリグリシジルエーテルは、電子・電気絶縁材料として用いられる他、種々の用途に使用することができる。
【0023】
以下、実施例及び比較例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらによって制限を受けるものではない。尚、以下の実施例等において、エポキシ当量とはエポキシ基1個当たりのエポキシ化合物(樹脂)の分子量を表す。
【実施例1】
【0024】
温度計、攪拌機及び冷却管を備えたガラス製フラスコに、水酸基価が314のビスフェノールAのプロピレンオキシド付加物(株式会社ADEKA製BPX−11)178.9g(0.5モル)、β−メチルエピクロルヒドリン462.5g(5.0モル)、塩化テトラメチルアンモニウム1.5g(多価アルコール100質量部に対して0.84質量部)を仕込み、フラスコ内を60℃に昇温し、内部圧力を11.3kPaに保って環流させた。
【0025】
反応系の温度及び圧力を保ちながら、48.5質量%の水酸化ナトリウム水溶液108.3g(水酸化ナトリウムとして1.3モル)を90分掛けて滴下し、60℃で150分間熟成した後、反応系内に生成した塩を濾別した。濾液中の過剰なβ−メチルエピクロルヒドリンを減圧下の120℃で留去した後、トルエンを加えて十分に水洗し、次いで減圧下にトルエンを留去した後再度濾過して、淡黄色液体の生成物(MEP−1:ビスフェノールA−プロピレンオキシド付加物のジβ−メチルグリシジルエーテル)222gを得た。
【0026】
分析の結果、全塩素含有率は0.23質量%(内、可鹸化塩素0.01質量%)と著しく低く、また、エポキシ当量は286(計算値242)であり、副反応による高分子量化が極めて少ないことが分かった。また、ビスフェノールA−プロピレンオキシド付加物を基準とした収率は90%であった。
【0027】
比較例1
温度計、攪拌機及び冷却管を備えたガラス製フラスコに、水酸基価314のビスフェノールAのプロピレンオキシド付加物(旭電化工業株式会社製BPX−11)178.9g(0.5モル)及び四塩化錫水和物2.0gを仕込み、70℃に加温した。70〜75℃に保ちながら、β−メチルエピクロルヒドリン127.8g(1.2モル)を2時間掛けて滴下し、滴下終了後更に1時間、70〜75℃で攪拌してβ−メチルクロルヒドリンによるエーテル化を行った。この段階におけるβ−メチルクロルヒドリン付加エーテルの生成率は理論値通りであり、100%(ビスフェノールAのプロピレンオキシド付加物基準)であった。
【0028】
次いでトルエン60gを加え、60〜65℃に保ちながら、48.5量%の水酸化ナトリウム水溶液91.6g(水酸化ナトリウムとして1.1モル)を1時間掛けて滴下し、60〜65℃で30分間攪拌した。更に100gのトルエンを加え、十分に水洗した後、減圧下にトルエンを留去して淡黄色の液体生成物(MEP−2:ビスフェノールA−プロピレンオキシド付加物のβ−メチルグリシジルエーテル)209gを得た。得られた生成物の全塩素含有率は4.55質量%(内、可鹸化塩素0.05%)、エポキシ当量は365(計算値263)であり、副反応による高分子量化等が著しいものであった。
【0029】
〔表1〕に示した配合で調製した実施例及び比較例の組成物を用いて以下の試験を実施した。
【0030】
(ゲル化時間)
各測定温度に保たれた熱盤上に、得られた組成物を0.5g滴下し、スパチュラ等でかき混ぜながら、流動性がなくなるまでの時間を測定した。
【0031】
(ガラス転移点、Tg)
SIIナノテクノロジーズ社製の示差走査熱量計DSC6220を用いて、昇温速度10℃/分、走査温度範囲25〜300℃としてDSCチャートを得た。更に、2次昇温を同じ条件で行い、熱容量の変曲点からガラス転移点を測定した。
【0032】
(剪断接着力)
JIS K 6850に準拠した方法により、100℃で1時間硬化させた、硬化後の鋼板/鋼板の剪断接着力を求めた。
【0033】
【表1】

【0034】
上記の結果から明らかなように、脂肪族多価アルコールとβ−メチルエピクロルヒドリン相間移動触媒の存在下で、反応を一段で行わせた本発明の場合には、塩素含有率が低くエポキシ当量の小さい脂肪族ポリグリシジルエーテルを高収率で製造できること、また、得られた樹脂は、反応性及び接着性に優れていることが実証された。
【0035】
これに対し、相間移動触媒を用いずに金属錯体触媒又はルイス酸触媒のみを用いた場合には、得られる脂肪族ポリグリシジルエーテルの塩素含有率が高い上、エポキシ当量が大きく、純度が低下するので、反応性及び接着性が低下することが確認された。また、β位にメチル基を持たないエポキシ樹脂と比較しても(比較例2、3)、本発明で得られた脂肪族ポリグリシジルエーテルはより高い反応性と接着性を有していることが実証された。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、電子・電気絶縁材料に適した、塩素含有率が極めて低い上エポキシ当量の小さいポリグリシジルエーテルを簡便な操作で容易に製造することができるので、産業上極めて有意義である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表される多価アルコール、β−メチルエピクロルヒドリン及びアルカリを反応させて、下記一般式(II)で表されるポリグリシジルエーテルを製造する方法において、前記反応を相間移動触媒の存在下に行わせることを特徴とするポリグリシジルエーテルの製造方法;
一般式(I)

但し、式中のR及びRはそれぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表し、m及びnはそれぞれ独立に1〜10の数を表す;
一般式(II)

但し、式中のR及びRはそれぞれ、一般式(I)中のR及びRと同じである。
【請求項2】
前記相間移動触媒が第四級アンモニウム塩基及び第四級アンモニウム塩から選択された少なくとも1種の化合物である、請求項1に記載されたポリグリシジルエーテルの製造方法。
【請求項3】
前記相間移動触媒が第四級アンモニウム塩から選択された少なくとも1種の化合物である、請求項2に記載されたポリグリシジルエーテルの製造方法。
【請求項4】
前記相間移動触媒が、塩化テトラメチルアンモニウム、塩化メチルトリオクチルアンモニウム、塩化メチルトリデシルアンモニウム、及び塩化ベンジルトリメチルアンモニウムから選択された少なくとも1種の化合物である、請求項2に記載されたポリグリシジルエーテルの製造方法。
【請求項5】
前記相間移動触媒の使用量が、前記多価アルコール100質量部に対して、0.1〜10.0質量部である、請求項1〜4の何れかに記載されたポリグリシジルエーテルの製造方法。

【公開番号】特開2011−140458(P2011−140458A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−1663(P2010−1663)
【出願日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【出願人】(000000387)株式会社ADEKA (987)
【Fターム(参考)】