説明

ポリグルタミンタンパク質発現の選択的阻害

本発明は、核酸アナログを使用してのハンチンチンなどのCAGリピート関連疾患タンパク質のタンパク質発現の選択的阻害に関する。ペプチド核酸および固定化核酸は、特に有用なアナログである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
背景
連邦政府によって支援される研究または開発に関する陳述
本発明は、National Institutes of Health-NIGMSによって与えられた助成金番号60642の下での政府支援によって一部なされた。米国政府は、本発明においてある一定の権利を有する。
【0002】
優先権情報
本出願は、2008年7月29日に出願された米国仮出願第61/084,350号に対する優先権の恩典を主張し、この全内容は、参照により本明細書に組み入れられる。
【0003】
発明の背景
A.発明の分野

本発明は、生物学および医学の分野に関する。より特には、本発明は、ハンチンチンおよびアタキシン1〜3などの、トリプレットコードされる疾患タンパク質発現の選択的阻害のための組成物および方法を提供する。
【背景技術】
【0004】
B.関連技術
ハンチントン病(HD)は、欧州および北米において100,000人当たり5〜10人の罹患率を有する常染色体優性遺伝性疾患である(Borrell-Pages et al., 2004;Walker, 2007)。HDは、タンパク質機能の崩壊および神経変性をもたらす、ハンチンチン(HTT)遺伝子の第1エキソン内のCAGトリヌクレオチドリピートの伸長によって引き起こされる(Gusella and MacDonald, 2006)。HTT発現を減少させるアンチセンスオリゴヌクレオチドまたはsiRNAが、治療戦略として提案され(Hasholt et al., 2003;Boado et al., 2002;Harper et al., 2005;Denovan-Wright and Davidson, 2006;DiFiglia et al., 2007)、しかし、大抵のオリゴマーは、突然変異および野生型タンパク質発現を無差別に阻害する。HTTは、胚形成(Nasir et al., 1995)、神経発生(White et al., 1997)、およびヘテロ接合体における正常な成体機能(Nasir et al., 1995)において必須の役割を果たすことが公知であり、このことは、突然変異HTTおよび野生型HTTの両方を阻害する薬剤は、顕著な副作用を誘発することを示唆している。HDおよび他の神経疾患について突然変異対立遺伝子と野生型対立遺伝子とを識別するための1つの戦略は、単一ヌクレオチド差異を標的化するsiRNAを使用する(Schwarz et al., 2006;Rodriguez-Lebron and Paulson, 2006)。これらの多型性は、しばしば患者ごとに相違し、病院における対立遺伝子特異的RNAiの適用を複雑にする。従って、突然変異HTT産生を選択的に阻害する薬剤を同定する必要性が存在するままである。
【発明の概要】
【0005】
従って、本発明によれば、伸長したトリヌクレオチドリピート領域を有するmRNAによってコードされる疾患タンパク質の発現を阻害するための方法であって、該疾患タンパク質を産生する細胞と、該mRNA中の該リピート領域を標的化する一定量の核酸アナログとを接触させる工程を含み、ここで、(i)阻害が、それについてのmRNAが伸長したトリヌクレオチドリピート領域を欠いている該疾患タンパク質の正常形態と比べて該疾患タンパク質について選択的であり、かつ(ii)阻害が、該mRNAの産生に実質的に影響を与えない方法が提供される。リピート領域は、約151リピートまたは125リピート以下のサイズであり得る。疾患タンパク質は、ハンチンチン、アタキシン-3、アタキシン-1、アタキシン-2またはアトロフィン1であり得る。
【0006】
核酸アナログは、約7〜約30塩基長であり得る。核酸アナログは、ペプチド核酸(PNA)または固定化核酸(LNA)であり得、カチオン性ペプチドをさらに含み得、および/または、トリヌクレオチドリピート領域の接合部をさらに標的化し得る。核酸アナログは、RNAseHをリクルートする塩基を欠き得る。核酸アナログは、脂質ビヒクル中に処方され得る。PNAは、少なくとも1つの修飾塩基(modifed base)、例えば、[ビス-o-(アミノエトキシ)フェニル]ピロロシトシンを含み得る。
【0007】
別の態様において、伸長したトリヌクレオチドリピート領域を有するmRNAによってコードされる疾患タンパク質の、被験体中における、発現を阻害するための方法であって、該mRNA中の該リピート領域を標的化する一定量の核酸アナログを該被験体へ投与する工程を含み、ここで、(i)阻害が、それについてのmRNAが伸長したトリヌクレオチドリピート領域を欠いている該疾患タンパク質の正常形態と比べて該疾患タンパク質について選択的であり、かつ(ii)阻害が、該mRNAの産生に実質的に影響を与えない方法が提供される。リピート領域は、約151リピートまたは125リピート以下のサイズであり得る。疾患タンパク質は、ハンチンチン、アタキシン-3、アタキシン-1、アタキシン-2またはアトロフィン1であり得る。
【0008】
核酸アナログは、約7〜約30塩基長であり得る。核酸アナログは、ペプチド核酸(PNA)または固定化核酸(LNA)であり得、カチオン性ペプチドをさらに含み得、および/または、トリヌクレオチドリピート領域の接合部をさらに標的化し得る。PNAは、少なくとも1つの修飾塩基、例えば、[ビス-o-(アミノエトキシ)フェニル]ピロロシトシンを含み得る。核酸アナログは、RNAseHをリクルートする塩基を欠き得る。核酸アナログは、2回以上、例えば、毎週少なくとも約1回投与され得る。核酸アナログは、経口的に、静脈内に、動脈内に、筋肉内にまたはCNS中に投与され得る。核酸アナログは、脂質製剤で投与され得る。方法は、第2療法を前記被験体へ施す工程をさらに含み得る。
【0009】
さらに別の態様において、疾患タンパク質についての伸長したトリヌクレオチドリピート領域をコードするmRNAを標的化する核酸アナログを含む物質の組成物が提供される。核酸アナログは、該リピート領域を標的化し得、リピート領域接合部をさらに標的化し得る。核酸アナログは、約7〜約30塩基長であり得る。核酸アナログは、ペプチド核酸(PNA)または固定化核酸(LNA)であり得、カチオン性ペプチドをさらに含み得る。PNAは、少なくとも1つの修飾塩基、例えば、[ビス-o-(アミノエトキシ)フェニル]ピロロシトシンを含み得る。核酸アナログは、RNAseHをリクルートする塩基を欠き得る。核酸アナログは、脂質ビヒクル中に分散されている場合がある。
【0010】
本明細書に記載される方法または組成物は、本明細書に記載される他の方法または組成物に関して実施され得ると考えられる。
【0011】
単語「ア(a)」または「アン(an)」の使用は、特許請求の範囲および/または明細書において用語「含む」と共に使用される場合、「1つ」を意味し得るが、それはまた、「1つまたは複数」、「少なくとも1つ」、および「1つまたは2つ以上」の意味と一致する。
【0012】
本発明のこれらおよび他の態様は、下記の説明および添付の図面と併せて考慮すると、よりよく認識および理解される。しかし、下記の説明は、本発明の種々の態様およびそれらの多数の具体的な詳細を示すが、限定ではなく例として提供されることが理解されるべきである。多くの置換、改変、付加および/または再編成が、本発明の精神を逸脱することなく本発明の範囲内で行われ得、本発明は、全てのこのような置換、改変、付加および/または再編成を含む。
【0013】
以下の図面は、本明細書の部分を形成し、本発明の特定の局面をさらに示すために含まれる。本発明は、これらの図面および以下に示される詳細な説明を参照することによって、よりよく理解され得る。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】合成オリゴマーについての標的としてのトリプレットリピート。(図1A)HTT CAGトリプレットリピート及び隣接するRNA領域のCONTRAfold予測の概略図。予測されるヘアピン構造は、野生型リピート領域(赤で示されるCAGリピート領域)についてよりも、伸長した突然変異リピートについてより大きい。スペース制約のために、突然変異CAG配列を含むヘアピンの長さは、縮尺通りには描かれていない。GM04281細胞中における突然変異リピートと野生型リピートとの差は、より大きい。(図1B)野生型および突然変異HTTタンパク質がゲル電気泳動によって分離され得ることを示すウエスタン分析。左レーンは、野生型HTTについてホモ接合である線維芽細胞株である、GM04795由来のHTTを示す。右レーンは、突然変異HTTについてヘテロ接合である線維芽細胞株である、GM04281由来のHTTを示す。(図1C)PNAおよびLNAの化学構造。(図1D)HTT mRNA(NM_002111)内のオリゴマーについての標的部位。HTT遺伝子は、+121〜300に示される。AUG翻訳開始はイタリックであり、CAGリピート領域は太字である(スペースを節約するために、本発明者らは21リピートしか示さず、より多くのリピートが、HD患者由来のリピート領域において存在するだろう)。
【図2】PNA-ペプチド結合体によるHTT発現に対する阻害。全てのデータは、タンパク質レベルのウエスタン分析を示す。特に記載されない限り、実験は、突然変異HTT発現についてヘテロ接合であるGM04281線維芽細胞を使用する。(図2A)GM04281細胞へ5μM PNA-ペプチド結合体を添加することのHTT発現に対する効果。(図2B)漸増濃度のPNA結合体REPを添加することのHTT発現に対する効果。(図2C)漸増濃度のPNA結合体3J-8を添加することのHTT発現に対する効果。(図2D)トランスフェクション後の2〜14日間のPNA結合体REP(1μM)によるHTT発現の阻害の時間経過。(図2E)mRNAがCAGリピートを含む他のタンパク質の発現に対するREPを添加することの効果。(図2F)PNA結合体でまたはPNA結合体無しで処理されたWTおよびYAC128マウス線条体ニューロン(MSN)のグルタマート誘導アポトーシス。PNA結合体REPを、グルタマート適用の4日前に、0.25μMおよび0.5μMの濃度で添加した。非相補的PNA結合体-CTL1を0.5μMで添加した。MSNを、7時間250μMグルタマートへ曝露し、固定し、透過処理し、TUNEL染色およびPI対比染色によって分析した。TUNEL陽性のフラクションが、WT(白色バー)およびYAC128(黒色バー)MSNについて示される。データは、平均値±SEとして示される(n=6〜8顕微鏡視野、1視野当たり100〜300個のMSN)。YAC128 MSNのアポトーシスは、250μMグルタマートで処理した場合、REPの添加によって有意に(p<0.05)減少する。データは、二重の実験を表わす。
【図3】修飾PNA設計およびLNAによるHTT発現の阻害。全てのデータは、GM04281線維芽細胞中のタンパク質レベルのウエスタン分析を示す。漸増濃度のREP16(図3A)またはREP13(図3B)を添加することのHTT発現に対する効果。(図3C)漸増濃度のREP-N-K8を添加することのHTT発現に対する効果。(図3D)3’接合部で関連配列を標的化する2μMのPNA結合体3J-0、3J-4、3J-6、3J-8、および3J-10のHTT発現に対する効果。(図3E)100 nM濃度のLNAを添加することのHTT発現に対する効果。(図3F)mRNAがCAGリピートを含む他のタンパク質の発現に対するLNA/REPを添加することの効果。
【図4】突然変異アタキシン-3の強力かつ選択的な阻害。全てのデータは、GM06151線維芽細胞中におけるアタキシン-3発現のウエスタン分析を示す。(図4A)アタキシン-3遺伝子内のオリゴマーについての標的部位。(図4B)PNA結合体REP19によるアタキシン-3発現の阻害。(図4C)PNA結合体REP13によるアタキシン-3発現の阻害。(図4D)PNA結合体5J/ATXによるアタキシン-3発現の阻害。(図4E)PNA結合体3JATXによるアタキシン-3発現の阻害。
【図5】抗HTT PNAは、HTT mRNAレベルを低下させない。(図5A)GM04281線維芽細胞中におけるHTTタンパク質(ウエスタン分析、左)およびHTT mRNA(定量的PCR、右)の発現に対するPNA-ペプチド結合体の添加の効果。全ての結合体を1μMの濃度で添加した。(図5B)HTTタンパク質(ウエスタン分析、左)またはmRNA(定量的PCR、右)のレベルに対する、0.5、1および2μMでのPNA-ペプチド結合体REPまたは-CTL1の添加の効果。NT=処理無し(結合体を添加しなかった)。
【図6】PNA REPによる神経/細胞グリア細胞混合物の阻害。HTTタンパク質レベルをウエスタン分析によって分析した。PNA REPまたは-CTL1を、示される濃度で添加した。中型線条体有棘ニューロン(MSN)および支持グリア細胞を、「材料および方法」に記載した通りにマウスから採取し培養した。阻害のレベルは、グリア細胞およびMSN細胞の両方におけるHTTレベルを反映する。グリア細胞は培養中の細胞の大部分(約90%)を構成するので、データは、MSN細胞中のHTTの阻害のレベルの直接の表示としてとられるべきではない。神経保護アッセイ(図2F)のために使用された(used form)細胞と並行して、細胞をPNAで処理し、採取した。上部HTTバンドはヒトHTTであり、下部はマウスHTTである。
【図7】二本鎖RNAによるHTT発現の阻害。全てのデータは、GM04281線維芽細胞中のタンパク質レベルのウエスタン分析を示す。(図7A)100 nM濃度の二本鎖siRNAの添加のHTT発現に対する効果。(図7B)漸増濃度のsiRNA/REPの添加のHTT発現に対する効果。(図7C)漸増濃度のsiRNA/5Jの添加のHTT発現に対する効果。(図7D)漸増濃度のsiRNA/3Jの添加のHTT発現に対する効果。カチオン性脂質を使用して、二本鎖RNAを導入した。
【図8】ウエスタン分析。GM04281線維芽細胞中のHTTタンパク質発現に対する漸増濃度のLNA/3J(図8A)、LNA/5J(図8B)、LNA/+CTL(図8C)またはLNA/REP(図8D)の添加の効果。カチオン性脂質を使用して、LNAを導入した。
【図9】siRNA/REPによるアタキシン-3発現の阻害。データは、GM06151線維芽細胞中のタンパク質レベルのウエスタン分析を示す。漸増濃度のsiRNA/REPの添加のアタキシン発現に対する効果。カチオン性脂質を使用して、二本鎖RNAを導入した。
【図10】[ビス-o-(アミノエトキシ)フェニル]ピロロシトシンの構造。
【図11】修飾PNAは、線維芽細胞GM04281中における突然変異HTT発現を選択的に阻害する。(図11A)上部:ウエスタン分析 HTT発現に対するPNA I〜VIの効果。下部:PNA I〜VIによる突然変異および野生型HTTの阻害の定量化。PNAを1μM濃度で添加した。(図11B〜F)種々の濃度でのHTT発現に対するPNA II〜VIの効果。実験を三重で行なった。発現は、未処理細胞に対する相対的発現(relative to expression)である。
【図12】生きている線維芽細胞中におけるPNA IIの蛍光顕微鏡検査。PNAを1μM濃度で添加した。PNAトランスフェクションの1日後(図12A)または9日後(図12B)。左、微分干渉顕微鏡(DIC)画像;中央、PNA蛍光性;右、DICおよび蛍光画像のオーバーレイ。(図12C)PNAは、エンドソームマーカーであるトランスフェリンと共局在化された。1μMのHtt2を、線維芽細胞中において、15時間、25μg/mLのトランスフェリン-Alexa Fluor 633と共インキュベートした。左上、DIC画像;右上、PNAのみ;左下、トランスフェリン蛍光;右下、PNA画像およびトランスフェリン画像のオーバーレイ。
【発明を実施するための形態】
【0015】
発明の詳細な説明
上述したように、CAG-リピート関連疾患は、正常タンパク質産生と比較しての疾患タンパク質産生の選択的阻害に関して大きな障害を示す。本発明者らによって本明細書において提示されるデータに示されるように、一本鎖核酸アナログ(NAA)は、トリプレットリピートの数の差異を活用し得、HTTまたはアタキシン-3の発現の対立遺伝子選択的阻害を達成し得る。相補的標的配列がまた突然変異mRNAおよび野生型mRNAの両方に存在したとしても、選択性は達成される。HTTについて、標的は、CAGリピート内、またはリピートとHTT遺伝子の残りとの間の3’接合部に存在し得る。アタキシン-3について、リピート、3’接合部、および5’接合部は全て、有効な標的である。阻害はロバストであり、広範囲の種々のPNAおよびLNAによって達成され得る。阻害化合物の幅広さのために、増強された効力および選択性を有する改善された薬剤の設計が可能である。
【0016】
2つの観察が、価値がある。第一は、配列ではなく、状況−−この場合、リピートの長さ、およびエネルギー的に異なる構造を形成する可能性−−に基づいて、一本鎖NAAは、細胞内部の同一の配列を識別し得ることである。第二は、遺伝病についての治療として一本鎖アナログを開発する可能性が、認識されていたものよりも大きいようであることである。突然変異リピート核酸配列を選択的に認識するNAAの驚くべき能力を活用することは、ハンチントン病、マチャド−ジョセフ病、脊髄小脳失調症および他のトリプレットリピート病についての療法を開発するための有望な戦略を提供する。
【0017】
I.ポリグルタミンリピート病
ポリグルタミン病には、翻訳されるCAGリピートの伸長によって引き起こされる遺伝性機能獲得型疾患である9つの神経変性障害が含まれる。病原タンパク質が広範囲に発現されるとしても、ニューロンの特定の集団が、各疾患においてより敏感である。ポリグルタミン疾患関連タンパク質の機能と遺伝子転写の調節とを関連付ける実質的証拠があり、ポリグルタミンタンパク質が転写に影響を与える様々な機構が提案されており、これらとしては、非常に特異的なDNA結合因子、例えば、AR(SBMA)、一般的なDNA結合タンパク質、例えば、TBP(SCA17)、Sp1、TFIIDおよびTFIIF(HD)、クロマチン構造(SCA7)、共調節因子(HD、SCA1、およびDRPLA)、ならびに恐らくユビキチン−プロテアソーム系(SCA3)の機能を変化させることが挙げられる。それらが神経機能に重要な他の生物学的プロセス、例えば、細胞内輸送(Gunawardena and Goldstein, 2005)およびミトコンドリア/エネルギー代謝(Browne and Beal, 2004)に影響を与えるという証拠も存在する。これらの障害の一部を以下においてより詳細に論じる。
【0018】
A.ハンチントン病
ハンチントン舞踏病、大舞踏病、またはHDとも呼ばれる、ハンチントン病は、ヒョレアと呼ばれる異常な身体運動および協調の欠如を特徴とする遺伝性神経障害であり;それはまた、多数の知的能力および行動の一部の局面に影響を与える。1993年に、HDを引き起こす遺伝子が発見され、正確な検査が行なわれ得る最初の遺伝性遺伝病の1つとなった。ハンチンチンのアクセッション番号は、NM_002111である。
【0019】
障害を引き起こす遺伝子は優性であり、従って、片親から遺伝し得る。世界的な罹患率は、西欧系100,000人当たり3〜7人から、アジアおよびアフリカ系1,000,000人当たり1人へ変化する。HDにおける身体症状の発症は、40代後半から50代前半の平均値付近の広い範囲において生じる。20歳になる前に症状が目立つようになる場合、それらの状態は若年性HDとして公知である。
【0020】
トリヌクレオチドリピート伸長がハンチンチン遺伝子において生じ、これは、突然変異ハンチンチンタンパク質を産生する。このタンパク質の存在は、脳の選択領域におけるニューロン細胞死の率を増加させ、特定の神経機能に影響を与える。ニューロンの減少は致死的ではないが、症状によって引き起こされる合併症は、寿命を縮める。証明された治療法は現在なく、従って、症状は、様々な投薬および支持的サービスで管理される。
【0021】
症状は、重篤度が次第に増すが、それらがある段階に到達するまでしばしば認識されない。身体症状は、通常、最初は、問題を引き起こして気付かれることであり、しかし、これらは、しばしば認識されない認知的および精神医学的なものを伴う。HDを有するほぼ全ての人は、最終的に全ての身体症状を示すが、認知症状は一様ではなく、従って、これらによって引き起こされる精神病理学的な問題も、個体ごとに異なる。若年性HDの症状は、一般的により速く進行し、ヒョレアの代わりに硬直および運動緩慢を示す可能性がより高く、しばしば痙攣を含む点で、相違する。
【0022】
最も特徴的な症状は、ヒョレアと呼ばれる、律動性、不規則、および制御不能な運動であるが、時折、非常に遅い運動および硬直(運動緩慢、ジストニー)が、代わりにまたは後期に生じ得る。これらの異常な運動は、最初は、協調の全体的な欠如、不安定歩行および不明瞭な発語として示される。疾患が進行するにつれて、筋肉制御を必要とする機能が冒され、これは、身体的安定性の低下、異常な表情、発語理解性の低下、ならびに咀嚼および嚥下困難を引き起こす。食事困難は、一般的に体重減少を引き起こす。HDは、不眠症および急速眼球運動睡眠変化を含む、睡眠周期障害と関連付けられた。
【0023】
個人の病理に応じて、実行機能(立案、認知の柔軟性、抽象的思考、規則獲得、適切な行動の開始、および不適切な行動の抑制)、精神運動機能(筋肉を制御するための思考プロセスの減速)、自己および周囲環境の知覚能力および空間能力、情報(しかし実際の記憶自体ではない)を思い出す正しい方法の選択、短期記憶、および新しい技能を学ぶ能力を含む、選択的認知能力は、次第に損なわれる。
【0024】
精神病理学的症状は、認知的および身体的なものよりも変化し、不安、うつ病、感情表現の減少(感情鈍麻)、ならびに他人への怒り、嫌悪、恐れまたは悲しみなどの否定的表現を認識する能力の低下、自己中心性、攻撃性、ならびに強迫的行為を含み得る。後者は、性行動亢進ならびにアルコール症および賭博などの嗜癖を引き起こし得るかまたは悪化させ得る。
【0025】
HDは、常染色体優性であり、疾患を受け継ぐためにどちらかの親からの1つだけの冒された対立遺伝子を必要とする。これは、一人の罹患した親から障害を受け継ぐ二人に一人の機会があることを一般的に意味するが、HDの遺伝は、潜在的な動的突然変異に起因してより複雑であり、ここで、DNA複製は、それ自体の正確なコピーを作製しない。これは、次世代においてリピートの数を変化させ得る。これは、閾値に近いカウントを有する親が、閾値のいずれかの側のカウントを有する遺伝子を伝え得ることを意味し得る。母性遺伝のリピートカウントは、通常、類似しており、一方、父性遺伝のものは、増加する傾向がある。次世代におけるリピートのこの潜在的な増加は、表現促進として公知である。いずれの親もHDを有さない家族において、新たな突然変異は、疾患の真に散発性のケースの原因となる。これらのデノボ突然変異の頻度は、非常に低い。
【0026】
両親ともが1つの突然変異遺伝子を伝えたために2つの突然変異遺伝子を保有するホモ接合の個体は、稀である。HDは、ホモ接合体が、典型的なヘテロ接合体とは臨床発現または経過の点で相違しない最初の疾患であるようであったが、より最近の分析は、ホモ接合性は、発症年齢を変化させないが、表現型および疾患進行速度に影響を与えることを示唆しており、このことは、発症および進行の基礎をなす機構が異なっていることを示唆している。
【0027】
ハンチンチンタンパク質は、その構造が可変であり、何故ならば、タンパク質中に存在する可変数のグルタミン残基をもたらし得る遺伝子の多くの多型性が存在するためである。その野生型(正常)形態において、それは、6〜35個のグルタミン残基を含み;しかし、HDに冒された個体においては、それは、36〜155個のグルタミン残基を含む。ハンチンチンは、約350kDaの予測される質量を有するが、これは変化し、タンパク質中のグルタミン残基の数に大いに依存する。正常なハンチンチンは、3144アミノ酸のサイズであることが一般的に受け入れられている。
【0028】
2つの転写経路が、HDにより広く関係しており−−CBP/p300およびSp1経路−−、これらは、機能が多くの遺伝子の発現に必要不可欠である転写因子である。CBPとHDとの仮定される関係は、CBPがポリグルタミン凝集体中に見られることを示す研究に由来する(Kazantsev et al., 1999を参照のこと)。従って、ハンチンチンおよびCBPがそれらのポリグルタミンストレッチを介して相互作用すること、伸長したポリグルタミントラクトを有するハンチンチンがCBP活性化遺伝子発現を妨げること、ならびにCBPの過剰発現が培養細胞中におけるポリグルタミン誘発毒性を低下させることが実証された(Nucifora et al., 2001;Steffan et al., 2001)。突然変異ハンチンチンはまた、CBPのアセチルトランスフェラーゼドメインと相互作用し、CBP、p300、およびp300/CBP関連因子P/CAFのアセチルトランスフェラーゼ活性を阻害することが示された(Steffan et al., 2001)。
【0029】
これらの観察は、発病過程がヒストンアセチル化の状態に関連付けられる。具体的には、突然変異ハンチンチンが、減少したヒストンアセチル化の状態を誘発し、従って遺伝子発現を変化させるという仮説を刺激した。この仮説についての支持が、眼において伸長したポリグルタミントラクトを有するハンチンチンのN末端フラグメントを発現するショウジョウバエHDモデルにおいて得られた。ヒストンデアセチラーゼの阻害剤の投与が、神経変性および致死を阻止した(Steffan et al., 2001)。HDAC阻害剤の保護効果は、他のポリグルタミン病についても報告され、ポリグルタミン病における観察された効果の少なくとも一部が、ヒストンアセチル化の変化に起因するという概念を刺激した(Hughes 2002)。2002年に発行された研究によって、ハンチンチンのN末端フラグメントおよびインタクトなハンチンチンが、ある特定のプロモーター中の上流GCリッチエレメントへ結合する転写活性化因子である、Sp1と相互作用することが明らかにされた(Dunah et al., 2002;Li et al., 2002)。TFIID、TBP、および転写のSp1依存部位に対する他のTBP関連因子などの、一般的な転写複合体のコア成分に選択的に結合しこれを指示するのは、Sp1のグルタミンリッチトランス活性化ドメインである。インビトロ転写研究は、Sp1を標的化することに加えて、突然変異ハンチンチンは、コア転写複合体のメンバーである、TFIIDおよびTFIIFを標的化することを示し続けてきた(Zhai et al. 2005)。突然変異ハンチンチンは、TFIIFのRAP30サブユニットと相互作用することが示された。特に、RAP30の過剰発現は、突然変異ハンチンチン誘発毒性およびドーパミンD2受容体遺伝子の転写抑制の両方を緩和した。これらの結果は、突然変異ハンチンチンが転写機構の複数の成分を妨害し得ることを示している。
【0030】
疾患の進行を完全に阻止する治療法は存在しないが、投薬およびケア方法の使用によって、症状は低下または緩和され得る。よりよい農業技術、特に、食物および水へのよりよいアクセスへ曝露されたハンチントンマウスモデルは、十分には世話されなかったマウスよりも遥かに長く生存した。
【0031】
情動性症状を緩和するための標準的な治療は、精神病の症状についての抗精神病薬(低用量で)と共の、抗うつ薬および鎮静薬の使用を含む。言語療法は、発語および嚥下方法を改善することによって役立ち、この療法は、早期に開始される場合により有効である。何故ならば、学習能力は、疾患が進行するにつれて低下するためである。入院患者リハビリテーションに適用される、集中的な発語、精神医学(pyschiatric)および理学療法の、2年間の試験的研究は、運動低下が大幅に減少されたことを示した。
【0032】
栄養は、治療の重要な部分であり;大抵の第3および第4段階のHD患者は、体重を維持するために平均的な人のカロリーの2〜3倍を必要とする。発症前および早期の段階でより健康的な食品は、疾患の発症および進行を減速させ得る。発症前および早期の段階での高カロリー摂取は、発症を加速し、IQレベルを低下させることが示された。嚥下がより困難となった場合、増粘剤が飲料へ添加され得、何故ならば、より濃い流体は、嚥下するのがより容易かつより安全であるためである。食事が危険または不快となった場合、胃PEGを使用する選択肢が利用可能である。これは、食物の誤嚥の機会、およびその後の肺炎の増加した危険性を大幅に減らし、摂取され得る栄養分およびカロリーの量を増加させる。
【0033】
オメガ3脂肪酸である、EPAは、疾患の進行を遅らせ得、恐らく逆転させ得る。2008年4月現在で、それは、処方薬使用について、エチル-EPA(ブランド名 Miraxion)としてFDA臨床試験中である。臨床試験は、1日当たり2グラムのEPAを利用する。米国において、それは、オメガ3および魚油サプリメントにてより低い濃度で店頭にて入手可能である。
【0034】
B.脊髄小脳失調症
脊髄小脳失調症(SCA)は、歩行の緩徐進行性協調不能を特徴とし、手、発語、および眼球運動の協調不全をしばしば伴う、遺伝病のグループの1つである。頻繁に、小脳の萎縮が生じる。運動失調の他の形態と同様に、SCAは、他の症状と共に、筋肉運動の細かい協調の不全に起因する身体の不安定かつぎこちない動作を生じさせる。病気の症状は、特定のタイプ(いくつか存在する)によって、および個々の患者によって、異なる。一般的に、運動失調を有する人は、完全な知的能力を保持するが、身体的制御を次第に失い得る。
【0035】
全てのタイプが等しく重篤な障害を生じさせるわけではないが、進行性疾患である(それは時間と共に悪化する)脊髄小脳失調症についての公知の治療法は存在しない。治療は、一般的に、疾患自体ではなく、症状を和らげることに限定される。病気は、不可逆性であり得る。この疾患を有する人は、通常、車椅子の使用が結局必要となり、最終的に、日常の仕事を行なうために補助を必要とし得る。協調不能または運動失調の治療は、次いで、運動失調の個人が可能な限り多くの自立を維持することを可能にするための適応デバイスの使用を大抵は含む。このようなデバイスは、歩行障害を有する人については、杖、松葉杖、歩行器、または車椅子;手および腕の協調が損なわれている場合は、筆記、摂食、およびセルフケアを助けるデバイス;ならびに、発語障害を有する人については、コミュニケーションデバイスを含み得る。
【0036】
遺伝型または特発型の運動失調を有する多くの患者は、運動失調に加えて、他の症状を有する。投薬または他の療法は、これらの症状の一部について適切であり得、これらとしては、特に、振戦、硬直、うつ病、痙縮、および睡眠障害が挙げられ得る。初期症状の発症および疾患の持続の両方が、変化を受けやすい場合があり、それは、多発性硬化症(MS)などの、別の神経学的状態と容易に誤診され得る。
【0037】
脊髄小脳失調症1型(SCA1)は、歩行失行、構音障害、および延髄機能障害を生じさせる常染色体優性失調症であり、通常、症状の発症後10〜15年で死亡する。平均発症年齢は、40代である。タンパク質であるアタキシン-1は中枢神経系において広範囲に発現されるにもかかわらず、最も頻繁に見られかつ最も重篤な病理学的変化は、小脳皮質中のプルキンエ細胞の減少、ならびに下オリーブ核、小脳歯状核および赤核中のニューロンの減少に限定される。
【0038】
通常、SCA1遺伝子の産物であるアタキシン-1は、ニューロンの核中に顕著に位置される(Servadio et al., 1995)。SCA1病因は核機能の変化に起因するという指摘は、突然変異アタキシン-1が疾患を引き起こすためには、それがプルキンエ細胞の核へ入らなければならなかったという観察から始まった(Klement et al., 1998)。結果として生じた研究によって、野生型アタキシン-1は、核中の遺伝子発現の調節における役割と一致する特性を有することが明らかとなった。これらは、RNAに結合する能力(Yue et al., 2001)および核と細胞質との間を往復する能力(Irwin et al., 2005)を含む。
【0039】
脊髄小脳失調症2型(SCA2)は、眼振、緩徐衝動性眼球運動および、一部の個人においては、眼麻痺を含む、進行性小脳性運動失調を特徴とする。錐体路徴候が存在し;深部腱反射は病初期には亢進し、後期には消失する。発症年齢は、典型的に30代〜40代であり、10〜15年の罹患期間を伴う。
【0040】
SCA2の診断は、ATXN2遺伝子の異常なCAGトリヌクレオチドリピート伸長を検出するための分子遺伝学的検査の使用に依存する。罹患者は、32個を超えるCAGトリヌクレオチドリピートを含む対立遺伝子を有する。このような検査は、ケースのほぼ100%を検出し、臨床検査室において利用可能である。
【0041】
SCA2を有する個人の管理は、支持的である。罹患者は、活動を維持すべきである。杖および歩行器は転倒予防に役立ち;手すり、高い便座、および電動椅子を乗せるためのスロープが、必要であり得る。言語療法、ならびにコミュニケーションデバイス、例えば、ライティングパッドおよびコンピューターベースのデバイスが、構音障害を有する人に利益をもたらし得る。重みを加えた食器やドレッシングフックは、自立心を維持することに役立つ。嚥下障害が煩わしくなった場合、ビデオ食道造影によって、誤嚥を最も誘発しにくい食物の堅さが決定され得る。ビタミンサプリメントが推奨され;体重コントロールは、歩行や移動での困難を防ぐ。罹患者は、小脳機能に影響することが公知のアルコールおよび薬剤を避けるべきである。
【0042】
マチャド−ジョセフ病(MJD)としても公知の、脊髄小脳失調症3型(SCA3)は、常染色体優性遺伝性運動失調症うちの最も一般的なものであり、他のポリグルタミン病の多くとそれとを識別するいくつかの遺伝学的特徴を有する。突然変異対立遺伝子についてのリピート閾値が<40であるHDおよびSCA1とは対照的に、SCA3において、突然変異対立遺伝子についてのリピート閾値は、>50リピートである。さらに、他のポリグルタミン病は、純粋な優性疾患として振舞うが、SCA3/MJDホモ接合患者は、単一の突然変異対立遺伝子のみを有する個体よりもより重篤な症状を有する。発症は、通常、40代においてであり、期間は平均して約10年である。
【0043】
アタキシン-3は、最近帰着されたユビキチンプロテアーゼ活性を有するN末端Josephinドメイン(JD)(Burnett et al., 2003;Scheel et al., 2003)、ユビキチンに結合することができる2つのユビキチン相互作用モチーフ(UIM)(Chai et al., 2004;Burnett et al., 2003;Donaldson et al., 2003)、続いてポリグルタミンストレッチ、およびC末端可変ドメインを含む。アタキシン-3 JDの結晶構造は、アタキシン-3の脱ユビキチン化活性とポリユビキチン結合との緊密な関係を示すことによって、ポリユビキチン鎖編集タンパク質としてのアタキシン-3の可能性のある機能の洞察を提供した(Mao et al., 2005;Nicastro et al., 2005)。従って、アタキシン-3がユビキチンおよび/またはユビキチン−プロテアソーム系において役割を有することを示すかなりの構造データが存在する。ショウジョウバエにおける野生型アタキシン-3発現が、他のポリグルタミン伸長タンパク質によって引き起こされる毒性からニューロンを保護する点で、アタキシン-3は、他のポリグルタミン病とは異なる(Warrick et al., 2005)。野生型アタキシン-3によって与えられるこの保護は、活性プロテアソームならびにアタキシン-3のUIMドメインおよびユビキチンプロテアーゼドメインの両方に依存した。
【0044】
これらの遺伝子についてのアクセッション番号は、以下の通りである:アタキシン1(NM_000332)、アタキシン2(NM_002973)、およびアタキシン3(NM_004993)。
【0045】
C.歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症(DRPLA)
歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症(DRPLA)は、アトロフィン-1タンパク質中のポリグルタミントラクトをコードするCAGリピートの伸長によって引き起こされる常染色体優性脊髄小脳変性症である。それはまた、Haw River症候群およびNaito-Oyanagi病としても公知である。いくつかの散発性症例が、西欧諸国から報告されたが、この障害は、日本以外においては非常に稀であるようである。
【0046】
DRPLAは、若年発症型(<20歳)、成人早期発症型(20〜40歳)、または成人後期発症型(>40歳)であり得る。成人後期発症型DRPLAは、運動失調、舞踏アテトーゼ運動および痴呆を特徴とする。成人早期発症型DRPLAはまた、痙攣およびミオクローヌスを含む。若年発症型DRPLAは、進行性ミオクローヌスてんかんと一致した症状および運動失調を示す。
【0047】
アトロフィン-1(ATN1)は、セリンリッチ領域、可変長ポリグルタミントラクト、ポリプロリントラクト、ポリプロリントラクト、ならびに交互の酸性および塩基性残基の領域を含む、いくつかの反復モチーフを有する親水性1184アミノ酸タンパク質をコードする。それは、タンパク質のN末端に推定核局在化シグナルおよびC末端に推定核外輸送シグナルを含む。ATN1は、全ての組織において遍在的に発現されるが、神経細胞中においてはタンパク質分解的に切断される。ATN1の機能は明らかではないが、それは、転写コリプレッサーであると考えられている。ATN1およびアトロフィン-2は共免疫沈降され得、このことは、それらは分子複合体で一緒にいくつかの機能を行ない得ることを示している。アトロフィン-1は、不必要なまたは余分のタンパク質であり得、何故ならば、アトロフィン-1についてヌル対立遺伝子で繁殖されたマウスは、生存可能で繁殖力のある子孫を産み、アトロフィン-2の代償性アップレギュレーションを示さないためである。アトロフィン1についてのアクセッション番号は、NM_001940である。
【0048】
DRPLAは、著しい広汎性脳萎縮、および伸長したグルタミンストレッチを有するアトロフィン-1の蓄積を特徴とする。突然変異アトロフィン-1タンパク質は、神経細胞核内封入体(NII)中において見られ、神経細胞核中に散在して蓄積された。NIIの役割(病理学的または保護的)は明確ではないが、突然変異タンパク質の散在蓄積は、有毒とみなされる。
【0049】
脳および脊髄の至る所でCNS組織の顕著な減少があり、DRPLA患者の脳重量は、しばしば1000g未満となる。明白なニューロンの減少を欠く領域においては、神経網の萎縮が注目される。淡蒼球(内節よりも大きな外節)および視床下核は、ニューロンの減少および星状細胞のグリオーシスを示す。歯状核は、ニューロンの減少を示し、残存する萎縮性ニューロンは、グルモース変性を示す。一般的に、淡蒼球ルイ体変性症は、若年発症の歯状核赤核変性症よりも重篤であり、その逆が成人後期発症型について当てはまる。
【0050】
トランスジェニックDRPLAマウスは、樹状突起棘の数およびサイズの減少ならびに核周部の領域および樹状突起の直径の減少を含む、いくつかのニューロンの異常を示した。棘形態および密度は、学習および記憶機能ならびにてんかんに関連付けられた。DRPLAマウスにおいて見られるスタビー型の棘は、ハンチントンのマウスにおいて見られる薄いマッシュルーム型の棘とは、形態学的に異なる。
【0051】
DRPLAマウス脳の形態計測分析は、ニューロンの軸索中における正常な微小管間間隔の減少を示した。微小管は比較的圧縮されており、このことは、タンパク質輸送の異常がニューロン変性において役割を果たし得ることを示唆している。ヒトにおいて、アトロフィン-1は、IRSp53と相互作用し、これは、Rho GTPaseと相互作用し、葉状仮足および糸状仮足を調節する経路ならびにアクチン細胞骨格の組織化を調節する。
【0052】
NIIは、DRPLAに限られておらず;それらは、様々な神経変性障害において見られた。DRPLAにおいて、NIIは、線条、橋核、下オリーブ、小脳皮質および歯状核中における、ニューロンおよびグリア細胞の両方において示され、しかし、NIIを有するニューロンの発生率は、低く、およそ1〜3%である。DRPLAにおいて、NIIは、種々のサイズの球状の好酸性構造体である。それらは、非膜結合型であり、顆粒状構造体および線維状構造体の両方から構成されている。それらは、ユビキチン化されており、核内において対形成されているかまたはダブレット形態であり得る。
【0053】
NIIはまた、前骨髄球性白血病タンパク質(PML)核小体などの、核内構造体の分布を変化させることが示された。PML小体の役割は明確ではないが、それらは、アポトーシスに関与すると考えられている。NIIを有するニューロンにおいて、DRPLA患者中のPML小体は、ユビキチン化コアの周りにシェルまたはリングを形成する。同様のポリQ病おいて、このPMLシェルの会合はサイズ依存性であり、より大きなNIIはPML陰性であることが示された。これは、2つのモデル、PML小体がNII形成についての部位を示すもの、ならびにPML小体がNIIの分解およびタンパク質分解に関与する第2のものを生じさせた。
【0054】
線維状(filementous)の、アトロフィン-1陽性の、封入体がまた、もっぱら歯状核の細胞質中において観察され、これらは、筋萎縮性側索硬化症における運動ニューロンにおいて観察される封入体に非常に似ている。
【0055】
DRPLAにおいて、突然変異ATN1の散在蓄積は、NII形成よりも遥かに広範囲に生じる。散在核内蓄積を示すニューロンの程度および頻度は、CAGリピート長に応じて変化する。散在核内蓄積は、痴呆およびてんかんなどの臨床的特徴に寄与すると考えられる。ATN1は、核局在化配列および核外輸送配列の両方を含む。N末端フラグメントへのATN1の切断は、ATN1からその核外輸送シグナルを取り除き、それを核内に濃縮する。増加した核内濃度は細胞毒性を増強することが、トランスフェクションアッセイによって実証された。
【0056】
若年型および成人型の両方において、40%を超えるニューロンが1C2(伸長したポリグルタミンストレッチに対するモノクローナル抗体)に対して免疫反応性となった領域は、以下を含む:マイネルト基底核、線条体大型ニューロン、淡蒼球、視床下核、視床髄板内核、外側膝状体、動眼神経核、赤核、黒質、三叉神経運動核、橋縫線核、橋核、前庭神経核、下オリーブおよび小脳歯状核。若年性タイプはまた、大脳皮質、海馬CA1領域、および脳幹網様体における反応性を示す。突然変異アトロフィン-1の蓄積を含む核は、核膜陥凹を伴って変形される。
【0057】
DRPLAの診断は、陽性家族歴、臨床所見、および遺伝子検査に基づく(rest of)。親戚が誤診されたか、または若くして亡くなったか、症状の遅い発症を経験する場合、家族歴は得るのが困難であり得る。成人発症型DRPLAの鑑別診断における他の疾患は、ハンチントン病および脊髄小脳失調症を含む。若年発症型については、家族性本態性ミオクローヌスてんかん(FEME)、ラフォラ病、ウンフェルリヒト−ルントボルク病、神経軸索ジストロフィー、ゴーシェ病、シアリドーシス、およびガラクトシアリドーシス。疾患の程度を定量化するために、MRI、EEG、および神経心理学的検査が推奨される。痙攣は鎮痙薬で治療され、精神障害は向精神薬で治療される。
【0058】
II.核酸アナログ
A.アナログ
本発明は、標的配列へ、特に、伸長したCAGリピートを含むmRNAへハイブリダイズするそれらの能力において一本鎖オリゴヌクレオチドを模倣する核酸アナログNAAの使用を考える。NAAは、標的化および/または安定性のためにペプチドへカップリングされた分子を含む。NAAの2つの特定の例は、ペプチド核酸および固定化核酸である。
【0059】
ペプチド核酸(PNA)は、二本鎖DNAを認識することについて顕著な可能性を有する非イオン性DNA模倣物である(Kaihatsu et al., 2004;Nielsen et al., 1991)。PNAは、容易に合成され得、標準的なワトソン−クリック塩基対形成によって相補配列へ結合し(Egholm et al., 1993)、このために、複雑な合成プロトコルまたは設計考慮を必要とすることなく、それらがゲノム内の配列を標的化することが可能である。PNAによる二本鎖DNAのストランド侵入は、リン酸−リン酸反発によって妨げられず、迅速かつ安定である(Kaihatsu et al., 2004;Nielsen et al., 1991)。PNAによるストランド侵入についての適用としては、人工プライモソームの作製(Demidov et al., 2001)、転写の阻害(Larsen and Nielsen, 1996)、転写の活性化(Mollegaard et al., 1994)、および部位特異的変異誘発(Faruqi et al., 1998)が挙げられる。それらの著しいストランド侵入能力が細胞内部に効率的に適用され得る場合、PNAは、生物系における染色体DNAの構造および機能をプローブするための一般的かつ強力な戦略を提供する。
【0060】
細胞フリーシステムにおけるPNAによるストランド侵入は、部分的に一本鎖である配列において最も強力である(Bentin and Nielsen, 1996;Zhang et al., 2000)。DNA上でのプレ開始複合体へのRNAポリメラーゼおよび転写因子のアセンブリは、一本鎖DNAのいくつかの塩基を含む開鎖複合体として公知の構造体の形成を誘導する(Holstege et al., 1997;Kahl et al., 2000)。二本鎖DNAを認識するPNAの例外的な能力は、プレインキュベーションの必要なしに、それらが、活発に転写される遺伝子の開鎖複合体を妨害することを可能にする。開鎖複合体は、全ての遺伝子の転写中に形成され、PNAは、任意の転写開始部位を標的化するように合成され得る。従って、染色体DNA内のプロモーター領域で開鎖複合体を標的化するアンチジーンPNAは、細胞内での転写開始を制御するための一般的なツールとなる可能性を有する。
【0061】
リボソームRNAへ標的化されたPNAによる翻訳および細菌増殖の阻害が、Good & Nielsen (1998)によって実証された。相補性および相同性PNAプローブによるRNAグアニン四本鎖侵入が、Marin & Armitage (2005)によって報告された。
【0062】
インアクセシブルRNAともしばしば呼ばれる、固定化核酸(LNA)は、修飾RNAヌクレオチドである。LNAヌクレオチドのリボース部分は、2’および4’炭素を連結する追加の架橋で修飾されている。架橋は、DNAまたはRNAのA型においてしばしば見られる、3’-エンド構造コンフォメーションでリボースを「固定化」する。LNAヌクレオチドは、所望の場合はいつでも、オリゴヌクレオチド中においてDNAまたはRNA塩基と混合され得る。このようなオリゴマーは市販されている。固定化されたリボースコンフォメーションは、塩基スタッキングおよび骨格プレ組織化を増強する。これは、オリゴヌクレオチドの熱的安定性(融解温度)を顕著に増加させる(Kaur et al., 2006)。
【0063】
LNAヌクレオチドは、DNAマイクロアレイ、FISHプローブ、リアルタイムPCRプローブ、およびオリゴヌクレオチドに基づく他の分子生物学技術において、発現の特異性および感度を増加させるために使用される。miRNAのインサイチュ検出については、LNAの使用が、2005年現在で、唯一の効率的な方法であった。一塩基ミスマッチ部位を囲むLNAヌクレオチドのトリプレットは、プローブがG-Tミスマッチのグアニン塩基を含まない限り、LNAプローブ特異性を最大化する(You et al., 2006)。
【0064】
他のオリゴヌクレオチド修飾が、NAAを製造するために行なわれ得る。例えば、ヌクレアーゼ分解に対する安定性が、エキソヌクレアーゼ耐性については3′末端にホスホロチオアート(P=S)骨格連結を、エンドヌクレアーゼ耐性については2′修飾(2′-OMe、2′-Fなど)を導入することによって達成された(WO 2005115481;Li et al., 2005;Choung et al., 2006)。2′-O-メチルおよび2′-フルオロヌクレオチドだけを有するモチーフは、増強された血漿中安定性および増加されたインビトロ効力を示した(Allerson et al., 2005)。2′-O-Meおよび2′-O-MOEの組み込みは、活性に対して顕著な効果を有さない(Prakash et al., 2005)。
【0065】
4′-チオリボース修飾を含む配列は、天然RNAのそれよりも600倍高い安定性を有することが示された(Hoshika et al, 2004)。結晶構造研究は、4′-チオリボースが、天然の二本鎖中の未修飾糖について観察されるC3′-エンドパッカーに非常に類似するコンフォメーションをとることを明らかにしている(Haeberli et al., 2005)。4′-チオ-RNAのストレッチは、ガイド鎖および非ガイド鎖の両方においてよく許容された。しかし、4′-チオリボヌクレオシドの数および配置の両方の最適化が、最大の効力のために必要である。
【0066】
ボラノホスフェート連結において、非架橋ホスホジエステル酸素は、等電子数ボラン(BH3-)部分によって置き換えられている。ボラノホスフェートsiRNAは、転写反応においてT7 RNAポリメラーゼおよびボラノホスフェートリボヌクレオシド三リン酸を使用する酵素経路によって合成された。ボラノホスフェートsiRNAは、ガイド鎖の中央が修飾されていない場合、天然siRNAよりも活性であり、それらは、未修飾siRNAよりも少なくとも10倍ヌクレアーゼ耐性が高い場合がある(Hall et al., 2004;Hall et al., 2006)。
【0067】
ある末端結合体が、細胞取り込みを改善または指示すると報告された。例えば、コレステロールが結合されたNAAは、肝細胞におけるインビトロおよびインビボ細胞透過を改善する(Rand et al., 2005)。Soutschek et al. (2004)は、化学的に安定化されかつコレステロールが結合されたsiRNAの使用が、インビトロおよびインビボで薬理学的特性を著しく改善したことについて報告した。センス鎖およびアンチセンス鎖上において部分的なホスホロチオアート骨格および2’-O-メチル糖修飾を有する化学的に安定化されたsiRNAは(上述した)、血清中および組織ホモジネート中におけるエキソヌクレアーゼおよびエンドヌクレアーゼによる分解に対する顕著に増強された耐性を示し、ピロリジンリンカーによるNAAのセンス鎖の3’末端へのコレステロールの結合は、細胞培養物中における遺伝子サイレンシング活性の顕著な低下を生じさせない。これらの研究は、コレステロール結合が、NAAインビボ薬理学的特性を顕著に改善することを実証している。
【0068】
LNA塩基は、DNA骨格に含まれ得、それらはまた、LNA、2’-O-メチルRNA、2’-メトキシエチルRNA、または2’-フルオロRNAの骨格中にあり得る。これらの分子は、ホスホジエステルまたはホスホロチオアート骨格のいずれかを利用し得る。
【0069】
参照により本明細書に組み入れられる、米国特許公開第2008/0015162号は、本発明において有用な核酸アナログのさらなる例を提供する。下記の抜粋は、その文献に由来し、例示に過ぎない:
【0070】
ある態様において、オリゴマー化合物は、1つまたは複数の修飾モノマー、例えば、2’-修飾糖、例えば、BNA、および、アリル、アミノ、アジド、チオ、O-アリル、O--C1-C10アルキル、--OCF3、O--(CH2)2--O--CH3、2'-O(CH2)2SCH3、O--(CH2)2--O--N(Rm)(Rn)、またはO--CH2--C(=O)--N(Rm)(Rn)などの2’-置換基を有するモノマー(例えば、ヌクレオシドおよびヌクレオチド)を含み、式中、各RmおよびRnは、独立して、Hまたは置換もしくは非置換C1-C10アルキルである。
【0071】
ある態様において、本発明の低分子アンチセンス化合物に限定されないがこれらを含むオリゴマー化合物は、1つまたは複数の高親和性モノマーを含み、但し、オリゴマー化合物は、2’-O(CH2)nHを含むヌクレオチドを含まず、式中、nは1〜6である。ある態様において、本発明の低分子アンチセンス化合物に限定されないがこれらを含むオリゴマー化合物は、1つまたは複数の高親和性モノマーを含み、但し、オリゴマー化合物は、2’-OCH3または2’-O(CH2)2OCH3を含むヌクレオチドを含まない。ある態様において、本発明の低分子アンチセンス化合物に限定されないがこれらを含むオリゴマー化合物は、1つまたは複数の高親和性モノマーを含み、但し、オリゴマー化合物は、α-L-メチレンオキシ (4’-CH2--O-2’) BNAを含まない。ある態様において、本発明の低分子アンチセンス化合物に限定されないがこれらを含むオリゴマー化合物は、1つまたは複数の高親和性モノマーを含み、但し、オリゴマー化合物は、β-D-メチレンオキシ (4’-CH2--O-2’) BNAを含まない。ある態様において、本発明の低分子アンチセンス化合物に限定されないがこれらを含むオリゴマー化合物は、1つまたは複数の高親和性モノマーを含み、但し、オリゴマー化合物は、α-L-メチレンオキシ (4’-CH2--O-2’) BNAまたはβ-D-メチレンオキシ (4’-CH2--O-2’) BNAを含まない。
【0072】
ヌクレオシドの天然の塩基部分は、典型的に、ヘテロ環式塩基である。このようなヘテロ環式塩基の2つの最も一般的なクラスは、プリンおよびピリミジンである。ペントフラノシル糖を含むヌクレオシドについて、リン酸基は、糖の2’、3’または5’ヒドロキシル部分へ連結され得る。オリゴヌクレオチドの形成において、それらのリン酸基は、隣接するヌクレオシドを互いに共有結合し、線形ポリマー化合物が形成される。オリゴヌクレオチド内で、リン酸基は、オリゴヌクレオチドのヌクレオチド間骨格を形成すると一般的に言われる。RNAおよびDNAの天然の結合または骨格は、3’−5’ホスホジエステル結合である。
【0073】
「未修飾」または「天然」核酸塩基、例えば、プリン核酸塩基であるアデニン(A)およびグアニン(G)、ならびにピリミジン核酸塩基であるチミン(T)、シトシン(C)およびウラシル(U)に加えて、当業者に公知の多くの修飾核酸塩基または核酸塩基模倣物が、本明細書に記載の化合物に従順である。ある態様において、修飾核酸塩基は、親の核酸塩基と構造がかなり類似している核酸塩基、例えば、7-デアザプリン、5-メチルシトシン、またはGクランプである。ある態様において、核酸塩基模倣物は、より複雑な構造、例えば、三環式フェノキサジン核酸塩基模倣物を含む。上述の修飾核酸塩基の作製方法は、当業者に周知である。
【0074】
本明細書に提供されるオリゴマー化合物は、修飾糖部分を有する、ヌクレオシドまたはヌクレオチドを含む、1つまたは複数のモノマーを含み得る。例えば、ヌクレオシドのフラノシル糖環は、置換基の付加、二環式核酸(BNA)を形成するための2つの非ジェミナルの環原子の架橋を含むがこれらに限定されない多数の方法で修飾され得る。
【0075】
ある態様において、オリゴマー化合物は、BNAである1つまたは複数のモノマーを含む。あるこのような態様において、BNAは、(A)α-L-メチレンオキシ (4’-CH2--O-2’) BNA、(B)β-D-メチレンオキシ (4’-CH2--O-2’) BNA、(C)エチレンオキシ (4’-(CH2)2--O-2’) BNA、(D)アミノオキシ(4’-CH2--O--N(R)-2’) BNAおよび(E)オキシアミノ (4’-CH2--N(R)--O-2’) BNAを含むが、これらに限定されない。
【0076】
ある態様において、BNA化合物は、糖の4’位と2’位との間に少なくとも1つの架橋を有する化合物を含むが、これらに限定されず、ここで、架橋の各々は、独立して、--[C(R1)(R2)]n--、--C(R1)=C(R2)--、--C(R1)=N--、--C(=NR1)--、--C(=O)--、--C(=S)--、--O--、--Si(R1)2--、--S(=O)x--および--N(R1)--から独立して選択される1個または2〜4個の連結基を含み;ここで:xは、0、1、または2であり;nは、1、2、3、または4であり;各R1およびR2は、独立して、H、保護基、ヒドロキシル、C1-C12アルキル、置換C1-C12アルキル、C2-C12アルケニル、置換C2-C12アルケニル、C2-C12アルキニル、置換C2-C12アルキニル、C5-C20アリール、置換C5-C20アリール、ヘテロ環基、置換ヘテロ環基、ヘテロアリール、置換ヘテロアリール、C5-C7脂環式基、置換C5-C7脂環式基、ハロゲン、OJ1、NJ1J2、SJ1、N3、COOJ1、アシル(C(=O)--H)、置換アシル、CN、スルホニル(S(=O)2-J1)、またはスルホキシル(S(=O)-J1)であり;各J1およびJ2は、独立して、H、C1-C12アルキル、置換C1-C12アルキル、C2-C12アルケニル、置換C2-C12アルケニル、C2-C12アルキニル、置換C2-C12アルキニル、C5-C20アリール;置換C5-C20アリール、アシル(C(=O)--H)、置換アシル、ヘテロ環基、置換ヘテロ環基、C1-C12アミノアルキル、置換C1-C12アミノアルキル、または保護基である。
【0077】
一態様において、BNA化合物の架橋の各々は、独立して、--[C(R1)(R2)]n--、--[C(R1)(R2)]n--O--、--C(R1R2)--N(R1)--O--または--C(R1R2)--O--N(R1)--である。別の態様において、前記架橋の各々は、独立して、4’-CH2-2’、4’-(CH2)2-2’、4’-(CH2)3-2’、4’-CH2--O-2’、4’-(CH2)2--O-2’、4'-CH2--O--N(R1)-2’および4’-CH2--N(R1)--O-2’-であり、ここで、各R1は、独立して、H、保護基またはC1-C12アルキルである。
【0078】
あるBNAが、特許文献および科学文献において作製および開示された(Singh et al., 1998;Koshkin et al., 1998;Wahlestedt et al., 2000;Kumar et al., 1998;WO 94/14226;WO 2005/021570;Singh et al., 1998)。BNAを開示する発行された米国特許および公開された出願の例としては、例えば、米国特許第7,053,207号;第6,268,490号;第6,770,748号;第6,794,499号;第7,034,133号;および第6,525,191号;ならびに米国特許公開第2004/0171570号;第2004/0219565号;第2004/0014959号;第2003/0207841号;第2004/0143114号;および第2003/0082807号が挙げられる。
【0079】
リボシル糖環の2’-ヒドロキシル基が糖環の4’炭素原子へ連結されており、それによって、メチレンオキシ(4’-CH2--O-2’)連結が形成され、二環式糖部分が形成されている、BNAも本明細書において提供される(Elayadi et al., 2001;Braasch et al., 2001;およびOrum et al., 2001において概説される;米国特許第6,268,490号および第6,670,461号も参照のこと)。連結は、2’酸素原子と4’炭素原子とを架橋するメチレン(--CH2--)基であり得、これについて、用語、メチレンオキシ (4’-CH2--O-2’) BNAが二環式部分について使用され;この位置におけるエチレン基の場合、用語、エチレンオキシ (4’-CH2CH2--O-2’) BNAが使用される(Singh et al., 1998;Morita et al., 2003)。メチレンオキシ (4’-CH2--O-2’) BNAおよび他の二環式糖アナログは、相補的DNAおよびRNAと共に非常に高い二本鎖熱的安定性(Tm=+3〜+10℃)、3'-エキソヌクレアーゼ分解に対する安定性、および良好な溶解特性を示す。BNAを含む強力かつ非毒性のアンチセンスオリゴヌクレオチドが記載された(Wahlestedt et al., 2000)。
【0080】
同様に議論されたメチレンオキシ (4’-CH2--O-2’) BNAの異性体は、α-L-メチレンオキシ (4’-CH2--O-2’) BNAであり、これは、3’-エキソヌクレアーゼに対して優れた安定性を有することが示された。α-L-メチレンオキシ (4’-CH2--O-2’) BNAは、アンチセンスギャップマーおよびキメラへ組み込まれ、これらは、強力なアンチセンス活性を示した(Frieden et al., 2003)。
【0081】
メチレンオキシ (4’-CH2--O-2’) BNA モノマー、アデニン、シトシン、グアニン、5-メチル-シトシン、チミンおよびウラシルの合成および作製、ならびにそれらのオリゴマー化、ならびに核酸認識特性が、記載された(Koshkin et al., 1998)。BNAおよびそれらの作製はまた、WO 98/39352およびWO 99/14226に記載されている。
【0082】
メチレンオキシ (4’-CH2--O-2’) BNAのアナログ、ホスホロチオアート-メチレンオキシ (4’-CH2--O-2’) BNAおよび2’-チオ-BNAも作製された(Kumar et al., 1998)。核酸ポリメラーゼについての基質としてのオリゴデオキシリボヌクレオチド二本鎖を含む固定化ヌクレオシドアナログの作製もまた記載された(Wengel et al., WO 99/14226)。さらに、新規の立体配座的に(comformationally)制限された高親和性オリゴヌクレオチドアナログである、2'-アミノ-BNAの合成が、当技術分野において記載された(Singh et al., 1998)。さらに、2’-アミノ-および2’-メチルアミノ-BNAが作製され、相補的RNAおよびDNA鎖とのそれらの二本鎖の熱的安定性が、以前報告された。
【0083】
修飾糖部分は、周知であり、その標的についてのアンチセンス化合物の親和性を変化させる、典型的には増加させる、および/またはヌクレアーゼ耐性を増加させるために使用され得る。好ましい修飾糖の代表的なリストは、以下を含むが、これらに限定されない:メチレンオキシ (4’-CH2--O-2’) BNAおよびエチレンオキシ (4’-(CH2)2--O-2’架橋) BNAを含む、二環式修飾糖(BNA);置換糖、特に、2’-F、2’-OCH3または2’-O(CH2)2--OCH3置換基を有する2’-置換糖;および4’-チオ修飾糖。糖はまた、特に、糖模倣基で置き換えられ得る。修飾糖の作製方法は、当業者に周知である。このような修飾糖の作製を教示するいくつかの代表的な特許および刊行物としては、米国特許第4,981,957号;第5,118,800号;第5,319,080号;第5,359,044号;第5,393,878号;第5,446,137号;第5,466,786号;第5,514,785号;第5,519,134号;第5,567,811号;第5,576,427号;第5,591,722号;第5,597,909号;第5,610,300号;第5,627,053号;第5,639,873号;第5,646,265号;第5,658,873号;第5,670,633号;第5,792,747号;第5,700,920号;第6,531,584号;および第6,600,032号;ならびにWO 2005/121371が挙げられるが、これらに限定されない。
【0084】
一態様において、置換された基の各々は、独立して、ハロゲン、オキソ、ヒドロキシル、OJ1、NJ1J2、SJ1、N3、OC(=X)J1、OC(=X)NJ1J2、NJ3C(=X)NJ1J2およびCNより独立して選択される保護されていてもよい置換基で一置換または多置換されており、式中、各J1、J2およびJ3は、独立して、HまたはC1-C6アルキルであり、Xは、O、SまたはNJ1である。
【0085】
あるこのような態様において、置換された基の各々は、独立して、ハロゲン、オキソ、ヒドロキシル、OJ1、NJ1J2、SJ1、N3、OC(=X)J1、およびNJ3C(=X)NJ1J2より独立して選択される置換基で一置換または多置換されており、式中、各J1、J2およびJ3は、独立して、H、C1-C6アルキル、または置換C1-C6アルキルであり、XはOまたはNJ1である。
【0086】
一態様において、置換された基の各々は、独立して、ハロゲン、オキソ、ヒドロキシル、OJ1、NJ1J2、SJ1、N3、OC(=X)J1、OC(=X)NJ1J2、NJ3C(=X)NJ1J2およびCNより独立して選択される保護されていてもよい置換基で一置換または多置換されており、式中、各J1、J2およびJ3は、独立して、HまたはC1-C6アルキルであり、XはO、SまたはNJ1である。
【0087】
一態様において、置換された基の各々は、独立して、ハロゲン、オキソ、ヒドロキシル、OJ1、NJ1J2、SJ1、N3、OC(=X)J1、およびNJ3C(=X)NJ1J2より独立して選択される置換基で一置換または多置換されており、式中、各J1、J2およびJ3は、独立して、HまたはC1-C6アルキルであり、XはOまたはNJ1である。
【0088】
ある態様において、モノマーは、糖模倣物を含む。あるこのような態様において、模倣物は、糖または糖−ヌクレオシド間連結コンビネーションの代わりに使用され、核酸塩基は、選択された標的へのハイブリダイゼーションのために維持される。糖模倣物の代表的な例としては、シクロヘキセニルまたはモルホリノが挙げられるが、これらに限定されない。糖−ヌクレオシド間連結コンビネーションについての模倣物の代表的な例としては、ペプチド核酸(PNA)および非荷電アキラル連結によって連結されたモルホリノ基が挙げられるが、これらに限定されない。ある場合には、模倣物は、核酸塩基の代わりに使用される。代表的な核酸塩基模倣物は、当技術分野において周知であり、これらとしては、三環式フェノキサジンアナログおよびユニバーサル塩基(Berger et al., 2000、参照により本明細書に組み入れられる)が挙げられるが、これらに限定されない。糖、ヌクレオシドおよび核酸塩基模倣物の合成方法は、当業者に周知である。
【0089】
モノマー(修飾および未修飾ヌクレオシドおよびヌクレオチドを含むが、これらに限定されない)を一緒に連結し、それによってオリゴマー化合物を形成させる、連結基が、本明細書において記載される。連結基の2つの主要なクラスは、リン原子の存在または非存在によって定義される。代表的なリン含有連結としては、ホスホジエステル(P=O)、ホスホトリエステル、メチルホスホナート、ホスホロアミダート、およびホスホロチオアート(P=S)が挙げられるが、これらに限定されない。代表的な非リン含有連結基としては、メチレンメチルイミノ(--CH2--N(CH3)--O--CH2--)、チオジエステル(--O--C(O)--S--)、チオノカーバマート(--O--C(O)(NH)--S--);シロキサン(--O--Si(H)2--O--);およびN,N'-ジメチルヒドラジン(--CH2--N(CH3)--N(CH3)--)が挙げられるが、これらに限定されない。非リン連結基を有するオリゴマー化合物は、オリゴヌクレオシドと呼ばれる。天然のホスホジエステル連結と比較して、修飾連結は、オリゴマー化合物のヌクレアーゼ耐性を変化させる、典型的には増加させるために、使用され得る。ある態様において、キラル原子を有する連結は、ラセミ混合物、別個のエナンチオマーとして、作製され得る。代表的なキラル連結としては、アルキルホスホナートおよびホスホロチオアートが挙げられるが、これらに限定されない。リン含有連結および非リン含有連結の作製方法は、当業者に周知である。
【0090】
本明細書に記載のオリゴマー化合物は、1つまたは複数の不斉中心を含み、従って、エナンチオマー、ジアステレオマー、および他の立体異性的立体配置を生じさせ、これらは、絶対的立体化学によって、(R)または(S)として、例えば糖アノマーについてαまたはβとして、または例えばアミノ酸について(D)または(L)としてなどで定義され得る。本明細書に提供されるアンチセンス化合物には、このような可能な異性体の全て、ならびにそれらのラセミ形態および光学的に純粋な形態が含まれる。
【0091】
ある態様において、例えばホスホジエステルおよびホスホロチオアートヌクレオシド間連結を含む連結を形成するために有用な反応性リン基を有するオリゴマー化合物が、本明細書において提供される。前駆体またはオリゴマー化合物の作製および/または精製方法は、本明細書に適用される組成物または方法に限定されない。DNA、RNA、オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオシド、およびアンチセンス化合物を含む、オリゴマー化合物の合成および精製方法は、当業者に周知である。
【0092】
一般的に、オリゴマー化合物は、連結基によって一緒に連結された複数のモノマーサブユニットを含む。オリゴマー化合物の非限定的な例としては、プライマー、プローブ、アンチセンス化合物、アンチセンスオリゴヌクレオチド、外部ガイド配列(EGS)オリゴヌクレオチド、選択的スプライサー(alternate splicer)、およびsiRNAが挙げられる。従って、これらの化合物は、一本鎖、二本鎖、環状、分岐鎖またはヘアピンの形態で導入され得、内部または末端バルジまたはループなどの構造エレメントを含み得る。オリゴマー二本鎖化合物は、二本鎖化合物を形成するようにハイブリダイズされた2本の鎖であり得るか、またはハイブリダイゼーションおよび完全にまたは部分的に二本鎖の化合物の形成を可能にするに十分な自己相補性を有する一本鎖であり得る。
【0093】
ある態様において、本発明は、キメラオリゴマー化合物を提供する。あるこのような態様において、キメラオリゴマー化合物は、キメラオリゴヌクレオチドである。あるこのような態様において、キメラオリゴヌクレオチドは、異なるように修飾されたヌクレオチドを含む。ある態様において、キメラオリゴヌクレオチドは、混合骨格アンチセンスオリゴヌクレオチドである。一般的に、キメラオリゴマー化合物は、特定のモチーフを規定する領域に一緒にグループ化され得るかまたは分離した位置にあり得る修飾ヌクレオシドを有する。修飾および/または模倣物基の組み合わせが、本明細書に記載のキメラオリゴマー化合物を構成し得る。ある態様において、キメラオリゴマー化合物は、ヌクレアーゼ分解に対する増加した耐性、増加した細胞取り込み、および/または標的核酸についての増加した結合親和性を与えるように修飾された、少なくとも1つの領域を典型的に含む。ある態様において、オリゴマー化合物のさらなる領域は、RNA:DNAまたはRNA:RNAハイブリッドを切断することができる酵素についての基質として役立ち得る。例として、RNase Hは、RNA:DNA二本鎖のRNA鎖を切断する細胞性エンドヌクレアーゼである。従って、RNase Hの活性化は、RNA標的の切断をもたらし、それによって、遺伝子発現の阻害の効率が大幅に増加される。従って、例えば、同一の標的領域へハイブリダイズするホスホロチオアートデオキシオリゴヌクレオチドと比較して、キメラが使用される場合、より短いオリゴマー化合物で、同等の結果をしばしば得ることができる。RNA標的の切断は、ゲル電気泳動、および、必要ならば、当技術分野において公知の関連の核酸ハイブリダイゼーション技術によって、型通りに検出され得る。
【0094】
B.設計検討
本発明は、様々な疾患関連遺伝子およびメッセージのCAGリピートを標的化する阻害性NAAの製造を考える。一般的に、NAAは、CAG/CUGリピートへ結合するか、「リピート接合部」と定義される、CAG/CUGリピートにフランキングする領域の部分およびリピートの両方へ結合する、約7〜30個の塩基の一本鎖アナログを含む。長さは、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29または30塩基長であり得る。さらに、核酸アナログは、RNAseHをリクルートする塩基を欠くように設計され得る。
【0095】
III.リピート関連疾患の治療
本発明はまた、上述の、ポリグルタミン神経変性疾患の治療を含む。治療によって、疾患の全ての症状が扱われること、またはいかなる程度の「治癒」も達成されることは、必要ではない。むしろ、有意義な治療を達成するために、必要なことは、疾患の1つまたは複数の症状をある程度まで改善するか、有利な効果を別の療法との併用で提供するか、または疾患進行を遅らせることだけである。
【0096】
臨床適用を考える場合、意図する適用に好適な形態の薬学的組成物を作製することが必要である。一般的に、これは、発熱物質、ならびにヒトまたは動物に有害であり得る他の不純物を本質的に含まない組成物を作製することを必要とする。オリゴヌクレオチドの送達を標的細胞による取り込み可能とするために、好適な塩、緩衝剤、および脂質を使用することが一般的に望まれる。このような方法および組成物は、例えば米国特許第6,747,014号および第6,753,423号に開示されるように、当技術分野において周知である。本発明の組成物は、薬学的に許容される担体または媒体中に溶解または分散された、細胞への有効量のオリゴヌクレオチドを含む。
【0097】
句「薬学的にまたは薬理学的に許容される」は、動物またはヒトへ投与される場合に、有害反応、アレルギー反応、または他の不都合な反応を引き起こさない分子エンティティーおよび組成物を指す。本明細書において使用される場合、「薬学的に許容される担体」は、あらゆる溶媒、分散媒、コーティング、抗細菌剤および抗真菌剤、等張剤および吸収遅延剤、リポソーム、カチオン性脂質製剤、マイクロバブルナノ粒子などを含む。薬学的に活性な物質についてのこのような媒体および薬剤の使用は、当技術分野において周知である。本発明者はこれが真実かどうかよくわからない。送達は、当分野において主要な問題である。従来の媒体または薬剤が本発明のベクターまたは細胞と不適合性である場合を除いて、治療組成物中におけるその使用が考えられる。補足的な有効成分もまた、組成物中へ混合され得る。
【0098】
本発明の活性な組成物は、典型的な薬学的調製物を含み得る。本発明に従うこれらの組成物の投与は、標的組織がその経路によって利用可能である限り、任意の一般的な経路による。これには、経口、経鼻、経頬、または局所が含まれる。あるいは、投与は、皮内、皮下、筋肉内、腹腔内または静脈内注射、またはCNS中への、例えば髄液中への導入により得る。このような組成物は、通常、上述した薬学的に許容される組成物として投与される。
【0099】
注射使用に好適な薬学的形態としては、無菌の水性液剤又はディスパージョン、及び無菌の注射用な液剤又はディスパージョンの即席の調製のための無菌散剤が挙げられる。全ての場合において、形態は、無菌でなければならず、容易な注射器適応性(syringability)が存在する程度に流動性でなければならない。それは、製造及び保存の条件下で安定でなければならず、細菌及び真菌などの微生物の汚染作用に対して防腐されなければならない。担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコールなど)、それらの好適な混合物、および植物油を含む溶媒又は分散媒であり得る。適切な流動性は、例えば、レシチンなどのコーティングの使用によって、ディスパージョンの場合は要求される粒度の維持によって、および界面活性剤の使用によって、維持され得る。微生物の作用の予防は、様々な抗細菌剤および抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサールなどによってもたらされ得る。多くの場合、等張剤、例えば、糖または塩化ナトリウムを含めることが好ましい。注射用組成物の持続吸収は、吸収を遅延させる薬剤、例えば、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンを組成物中に使用することによってもたらされ得る。
【0100】
無菌注射用液剤は、必要量の活性化合物を、上記に列挙した様々な他の成分と共に、好適な溶媒中へ混合し、必要に応じて、続いて濾過滅菌することによって、調製される。一般的に、ディスパージョンは、様々な滅菌された有効成分を、基本の分散媒と上記に列挙したものからの必要とされる他の成分とを含有する無菌ビヒクル中へ混合することによって、調製される。無菌注射用液剤の調製のための無菌散剤の場合、好ましい調製方法は、真空乾燥および凍結乾燥技術であり、これらによって、予め滅菌濾過したそれらの溶液から有効成分と任意の追加の所望の成分との散剤が得られる。
【0101】
本明細書において使用される場合、「薬学的に許容される担体」は、あらゆる溶媒、脂質、ナノ粒子、分散媒、コーティング、抗細菌剤および抗真菌剤、等張剤および吸収遅延剤などを含む。薬学的に活性な物質についてのこのような媒体および薬剤の使用は、当技術分野において周知である。従来の媒体または薬剤が有効成分と不適合性である場合を除いて、治療組成物中におけるその使用が考えられる。補足的な有効成分もまた、組成物中へ混合され得る。
【0102】
経口投与について、本発明のNAAは、賦形剤と共に混合され得る。本発明の組成物は、中性または塩形態で処方され得る。薬学的に許容される塩としては、酸付加塩(タンパク質の遊離アミノ基を用いて形成される)が挙げられ、これらは、無機酸、例えば、塩酸またはリン酸、または有機酸、例えば、酢酸、シュウ酸、酒石酸、マンデル酸などを用いて形成される。遊離カルボキシル基を用いて形成される塩もまた、無機塩基、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カルシウム、または水酸化鉄、および有機塩基、例えば、イソプロピルアミン、トリメチルアミン、ヒスチジン、プロカインなどから誘導され得る。
【0103】
処方されると、液剤は、投薬製剤と適合性の方法で、治療的に有効であるような量で、投与される。製剤は、注射用液剤、薬物放出カプセル剤などの様々な投薬形態で容易に投与される。水性液剤での非経口投与について、例えば、液剤は、必要であれば、適切に緩衝化されるべきであり、液体希釈剤は、まず、十分な食塩水またはグルコースで等張にされる。これらの特定の水性液剤は、静脈内、筋肉内、皮下および腹腔内投与に特に適している。これに関連して、使用され得る無菌水性媒体は、本開示を考慮して当業者に理解される。例えば、ある投薬量が、等張NaCl溶液1 mlに溶解され得、皮下注入流体1000 mlへ添加されるか、または提案される注入部位に注射され得る(例えば、“Remington's Pharmaceutical Sciences”第15版、第1035〜1038頁および第1570〜1580頁を参照のこと)。投薬量のいくらかの変動が、治療される被験体の状態に応じて必然的に生じる。投与に責任のある人は、いかなる場合も、個々の被験体について好適な用量を決定する。さらに、ヒト投与について、調製物は、FDA Office of Biologics基準によって要求される無菌性、発熱性、一般的安全性および純度基準を満たすべきである。
【0104】
本発明にとって特に興味深いのは、脂質送達ビヒクルの使用である。脂質ビヒクルは、ミセル、マイクロエマルジョン、マクロエマルジョン、リポソーム、および同様の担体を包含する。用語、ミセルは、臨界ミセル濃度として公知の十分に規定された濃度で形成される両親媒性(界面活性剤)分子のコロイド凝集体を指す。ミセルは、内部に非極性部分および水へさらされた外部表面に極性部分を有する状態で配向されている。ミセル中の凝集される分子の典型的な数(凝集数)は、50〜100である。全てのミセル溶液がマイクロエマルジョンを形成するように膨潤され得るわけではないが、マイクロエマルジョンは、本質的に膨潤ミセルである。マイクロエマルジョンは、熱力学的に安定であり、自然に形成され、非常に小さい粒子を含む。マイクロエマルジョン中の液滴直径は、典型的に10〜100 nm(from 10 100 nm)の範囲にある。対照的に、用語、マクロエマルジョンは、100 nmを超える直径を有する液滴を指す。リポソームは、水性内部を囲む脂質二重層を含む閉じた脂質小胞である。リポソームは、典型的に、25 nm〜1μmの直径を有する(例えば、Shah, 1998;Janoff, 1999を参照のこと)。
【0105】
リポソーム製剤の一態様において、ビヒクルの主要な脂質は、ホスファチジルコリンであり得る。他の有用な脂質としては、その種々の天然(例えば、組織由来のL-α-ホスファチジル:卵黄、心臓、脳、肝臓、大豆)および/または合成(例えば、飽和および不飽和1,2-ジアシル-SN-グリセロ-3-ホスホコリン、1-アシル-2-アシル-SN-グリセロ-3-ホスホコリン、1,2-ジヘプタノイル-SN-グリセロ-3-ホスホコリン)誘導体が挙げられる。このような脂質は、単独で、または第2の脂質と組み合わせて使用され得る。このような第2のヘルパー脂質は、非イオン性脂質、例えば、コレステロールおよびDOPE(1,2-ジオレオリルグリセリルホスファチジルエタノールアミン)を含む、生理学的pHで荷電していないかまたは非イオン性であり得る。リン脂質とヘルパー脂質とのモル比は、約3:1〜約1:1、約1.5:1〜約1:1、および約1:1の範囲にあり得る。
【0106】
別の特定の脂質製剤は、脂質、3-N-[(ωメトキシポリ(エチレングリコール)2000)カルバモイル]-1,2-ジミリスチルオキシ-プロピルアミン(PEG-C-DMA)、1,2-ジリノレイルオキシ-N,N-ジメチル-3-アミノプロパン(DLinDMA)、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DSPC)およびコレステロールを、2:40:10:48モル%比で含有する、SNALP製剤を含む。Zimmerman et al. (2006)を参照のこと。
【0107】
リポソームは、最も単純な形態では、2つの脂質層から構成されている。脂質層は、単層であり得、または多重膜でありかつ複数の層を含み得る。リポソームの構成要素は、例えば、ホスファチジルコリン、コレステロール、ホスファチジルエタノールアミンなどを含み得る。電荷を与えるホスファチジン酸もまた添加され得る。リポソームの作製のために使用されるこれらの構成要素の例示的な量としては、例えば、ホスファチジルコリン1 mol当たり、0.3〜1 mol、0.4〜0.6 molのコレステロール;0.01〜0.2 mol、0.02〜0.1 molのホスファチジルエタノールアミン;0.0〜0.4 mol、または0〜0.15 molのホスファチジン酸が挙げられる。
【0108】
リポソームは、周知の技術によって構築され得る(例えば、Gregoriadis (1993)を参照のこと)。脂質は、典型的に、クロロホルム中に溶解され、ロータリーエバポレーションによってチューブまたはフラスコの表面上において薄膜で広げられる。脂質の混合物から構成されるリポソームが望まれる場合、個々の成分は、最初のクロロホルム溶液中に混合される。有機溶媒が除去された後、緩衝剤および/または電解質を任意で含有する水からなる相が添加され、容器が撹拌され、脂質が懸濁される。任意で、次いで、粒子のサイズが縮小されて懸濁液が所望の透明度のものになるまで、懸濁液は、超音波浴中においてまたはプローブソニケーターを用いて、超音波へ供される。トランスフェクションについて、水相は典型的に蒸留水であり、懸濁液は、ほぼ透明になるまで音波処理され、これは、ソニケーターの条件、種類、および品質に応じて数分を要する。一般に、脂質濃度は、1 mg/水相1 mlであるが、約10倍より高いまたはより低い場合がある。
【0109】
溶媒が除去された、脂質は、多重膜リポソームを得るために、ホモジナイザーの使用によって乳化され、凍結乾燥され、融解され得る。あるいは、単層リポソームは、逆相蒸発法によって製造され得る(Szoka and Papahadjopoulos, 1978)。単層ベシクルはまた、音波処理または押し出しによって作製され得る。音波処理は、脂質の融点によって決定される制御温度で、バスタイプソニファイアー、例えば、Bransonチップソニファイアー(G. Heinemann Ultrashall und Labortechnik, Schwabisch Gmund, Germany)を用いて、一般的に行なわれる。押し出しは、生体膜押し出し機、例えば、Lipex Biomembrane Extruder(Northern Lipids Inc, Vancouver, British Columbia, Canada)によって行なわれ得る。押し出しフィルター中の規定された孔のサイズにより、特定のサイズの単層リポソームベシクルが生じ得る。リポソームはまた、非対称セラミックフィルター、例えば、Ceraflow Microfilter(Norton Company, Worcester, Mass.から市販)による押し出しによって形成され得る。
【0110】
リポソーム作製に続いて、形成の間にサイズ化されなかったリポソームは、押し出しによってサイズ化され、所望のサイズ範囲およびリポソームサイズの比較的狭い分布が達成され得る。約0.2〜0.4ミクロンのサイズ範囲が、従来のフィルター(例えば、0.22ミクロンフィルター)による濾過によってリポソーム懸濁液が滅菌されることを可能にする。フィルター滅菌法は、ハイスループット方式で行なわれ得る。
【0111】
超音波処理、高速ホモジナイゼーション、および加圧濾過(Hope et al., 1985;米国特許第4,529,561号および第4,737,323号)を含む、いくつかの技術が、リポソームを所望のサイズへサイズ化するために利用可能である。バスまたはプローブ音波処理のいずれかによりリポソーム懸濁液を音波処理することによって、約0.05ミクロン未満のサイズの小単層ベシクルへの漸進的サイズ縮小がもたらされる。多重膜ベシクルは、選択されるリポソームサイズ、典型的に約0.1〜0.5ミクロンまで、標準的なエマルジョンホモジナイザーによって再循環され得る。リポソーム小胞のサイズは、準弾性光散乱(QELS)(Bloomfield, 1981を参照のこと)によって測定され得る。平均リポソーム直径は、形成されたリポソームの音波処理によって縮小され得る。断続的な音波処理サイクルが、効率的なリポソーム合成を導くために、QELSと交互に行なわれ得る。
【0112】
リポソームは、十分に規定されたサイズ分布を得るために、小細孔ポリカーボネート膜または非対称セラミック膜を通して押し出され得る。典型的に、懸濁液は、所望のリポソームサイズ分布が達成されるまで、1回または複数回、膜を通して循環される。リポソームは、リポソームサイズの段階的な縮小を達成するために、連続的により小さな細孔膜を通して押し出され得る。本発明における使用について、リポソームは、約0.05ミクロン〜約0.5ミクロンのサイズを有するか、または約0.05〜約0.2ミクロンのサイズを有する。
【実施例】
【0113】
IV.実施例
以下の実施例は、本発明の好ましい態様を示すために含まれる。下記の実施例に開示される技術は、本発明の実施において十分に機能することが本発明者によって見出された技術を示し、従って、その実施についての好ましいモードを構成すると考えられ得ることが、当業者によって認識されるべきである。しかし、当業者は、本開示を考慮して、多くの変更が、本発明の精神および範囲を逸脱することなく、開示される特定の態様において成され得、それでもなお同様または類似の結果を得ることができることを認識すべきである。
【0114】
実施例1−材料および方法
オリゴヌクレオチドおよびPNA
PNA-ペプチド結合体を、Applied Biosystemsから得た試薬を使用してExpedite 8909合成機(Applied Biosystems, Foster City, CA)において合成した(Mayfield et al., 1999;Janowski et al., 2006)。PNA-ペプチド結合体を、C-18逆相HPLCによって精製し、質量分析によって評価した(Mayfield et al., 1999;Janowski et al., 2006)。LNAオリゴヌクレオチドは、Sigma-Proligo (Paris, France)から提供された。siRNAは、Integrated DNA Technologies (IDT, Coralville, IA)から購入した。
【0115】
細胞培養およびトランスフェクション
患者由来の線維芽細胞株GM04281およびGM06151をCoriell Institute (Camden, NJ)から得た。10%熱不活性化ウシ胎仔血清(Sigma)および0.5%MEM非必須アミノ酸(Sigma)が補充されたイーグル最小必須培地(MEM)(Sigma, M4655)中において、37℃および5%CO2で、細胞を維持した。細胞を、トランスフェクションの2日前に、補充MEM中において60,000細胞/ウェルで6ウェルプレート中に平板培養した。PNA-ペプチド結合体のストック溶液を使用前に5分間65℃で加熱し、形成した場合がある凝集体を溶解させた。PNA-ペプチド結合体を、OptiMEM(Invitrogen, Carlsbad, CA)を使用して適切な濃度へ希釈し、次いで細胞へ添加した。24時間後、PNA-ペプチドを含有する培地を除去し、新たな補充MEMで置き換えた。細胞を、典型的に、タンパク質アッセイのためにトランスフェクションの4日後に採取した。siRNAまたはLNAを、製造業者の指示に従ってRNAiMAX(Invitrogen)を使用して細胞へトランスフェクションした。好適な量の脂質(100 nMオリゴヌクレオチドについて3μL)を、オリゴヌクレオチド含有OptiMEMへ添加し、オリゴヌクレオチド−脂質混合物(250μL)を20分間インキュベートした。OptiMEMを1.25 mLの最終体積まで混合物へ添加し、次いで細胞へ添加した。培地を24時間後に新たな補充MEMと交換した。
【0116】
ハンチンチン発現の分析
細胞をトリプシン-EDTA溶液(Invitrogen)で採取した。各サンプル中のタンパク質濃度を、BCAアッセイ(Thermo Scientific, Waltham, MA)で定量した。SDS-PAGE(分離ゲル:5%アクリルアミド-ビスアクリルアミド/34.7:1、450 mM Tris-アセテート pH 8.8;濃縮ゲル:4%アクリルアミド-ビスアクリルアミド/34.7:1、150 mM Tris-アセテート pH 6.8)(XT Tricine Running Buffer, Bio-rad, Hercules, CA)を使用し、野生型および突然変異HTTタンパク質を分離した。ゲルを、70Vで15分間、続いて100Vで4時間、泳動させた。電気泳動装置を氷水浴中に配置し、ランニングバッファーの過熱を防止した。本発明者らは、各レーンにおけるタンパク質上の同等のローディンを確実にするために、アクチンタンパク質の発現をモニタリングした。
【0117】
HTT発現についての分析と並行して、各タンパク質溶解物サンプルの一部を、SDS-PAGE(7.5%アクリルアミドプレキャストゲル;Bio-Rad)によってアクチン発現について分析した。これらのゲルを、70Vで15分間、続いて100Vで1時間、泳動させた。ゲル電気泳動後、タンパク質を膜(Hybond-C Extra;GE Healthcare Bio-Sciences, Piscataway, NJ)へ移した。各タンパク質について特異的な一次抗体を得、記載の希釈率で使用した:抗ハンチンチン抗体(MAB2166;1:10000;Chemicon, CA)、抗β-アクチン抗体(1:10000;Sigma)。
【0118】
HRP結合抗マウスまたは抗ウサギ二次抗体(それぞれ1:10000および1:5000;Jackson ImmunoResearch Laboratories, West Grove, PA)を、SuperSignal West Pico化学発光基質(Thermo Scientific)によってタンパク質を視覚化するために使用した。タンパク質バンドを、ImageJ(Rasband, W.S., ImageJ, U. S. National Institutes of Health, Bethesda, Maryland, USA, rsb.info.nih.gov/ij/, 1997-2007)を使用して定量した。阻害のパーセンテージを、コントロールサンプルに対する相対値として計算した。
【0119】
TBP、AAK1、およびPOU3F2の分析
CAGリピートの数を、GeneBankにおける公開されたmRNA配列に従って評価した。TATAボックス結合タンパク質(TBP)(約19個のCAGリピート、NM_003194)、AAK1(6個のCAGリピート、NM_014911)、およびPOU3F2(約6個のCAGリピート、NM_005604)。タンパク質溶解物をSDS-PAGE(7.5%アクリルアミドプレキャストゲル;Bio-Rad)によって分析した。抗TBP抗体(1:2000;Sigma)、抗AAK1抗体(1:1000;Abcam, Cambridge MA)、抗POU3F2抗体(1:1000;Abnova, Taipei, Taiwan)。
【0120】
神経細胞アッセイ(Slow et al., 2003;Tang et al., 2005)
YAC128マウス(FVBN/NJバックグラウンド株)を、Jackson Labs(ストック番号004938)から得た。雄性YAC128マウスを野生型(WT)雌性FVBN/NJマウスと交配し、P1-P2の仔を採取し、PCRによって遺伝子型決定した。線条体中型有棘ニューロン(MSN)の初代培養物を、YAC128およびコントロール野生型の仔から樹立した。線条体を切開し、刻み、トリプシンで消化した。分離後、ニューロンを、2%B27、1 mMグルタミンおよびペニシリン-ストレプトマイシン(全てInvitrogen製)が補充されたNeurobasal-A培地中のポリ-L-リジン(Sigma)コート12 mm円形カバーガラス(Assistent)上に平板培養し、37℃で5%CO2環境中にて維持した。PNAを9-DIV(デイズ・インビトロ)MSNへ添加した。13-DIV MSNを、培養培地へ添加されたNeurobasal-A中の250μMグルタマートへ7時間曝露した。グルタマートでの処理直後に、ニューロンを、PBS(pH7.4)中4%パラホルムアルデヒドおよび4%スクロース中において30分間固定し、0.25%Triton-X-100中において5分間透過処理し、DeadEnd蛍光定量TUNELシステム(Promega)を使用することによって染色した。核を5μMヨウ化プロピジウム(propidium iodine)(PI)(Molecular Probes)で対比染色した。カバーガラスをPBSで広範囲に洗浄し、Mowiol 4-88(Polysciences)上に載せた。定量化のために、各々100〜300個のMSNを含有する、6〜8個の無作為に選択した顕微鏡視野を、YAC128および野生型培養物について細胞カウントした。TUNEL陽性ニューロン核の数を、各顕微鏡視野中のPI陽性ニューロン核のフラクションとして計算した。各顕微鏡視野について測定されたTUNEL陽性核のフラクションを平均し、結果を平均値±SEとして示す(n=カウントされた視野の数)。MSN細胞は周囲のグリア細胞によって培養物中において支持されていたが、MSN細胞のみを神経保護アッセイの間カウントした。
【0121】
定量的PCRによるHTT mRNAレベルの分析
処理および未処理線維芽細胞からのトータルRNAを、トランスフェクションの3日後にTRIzol(Invitrogen)を使用することによって抽出した。次いで、各サンプルを、25℃で10分間、DNase Iで処理した。逆転写反応を、製造業者のプロトコルに従ってHigh Capacity Reverse Transcription Kit(Applied Biosystems)を使用して行なった。定量的PCRを、iTaq SYBR Green Supermix(Bio-rad)を使用して7500リアルタイムPCRシステム(Applied Biosystems)において行なった。データを、GAPDH mRNAのレベルに対して標準化した。HTTについて特異的なプライマー配列は、以下の通りである:フォワードプライマー、

リバースプライマー、

GAPDHについて特異的なプライマーは、Applied Biosystemsから得られる。
【0122】
実施例2−結果
本発明者らは、mRNA一次配列ではなくmRNA二次構造中の差異を識別する一本鎖オリゴマーを使用して選択性を達成することが可能であり得ると仮定した。コンピューター予測、NMRおよびフットプリンティングアッセイは、RNA内のトリプレットリピート配列がヘアピン構造を形成することを示している(図1A)(Sobczak et al., 2003;Gacy et al., 1995)。野生型および突然変異mRNAによって形成される構造は、異なるエネルギーおよび安定性を有し、突然変異対立遺伝子の選択的認識および突然変異タンパク質発現の選択的阻害を恐らく可能にする。
【0123】
HTTは、約348 kDaの分子量を有する大きなタンパク質である。罹患していない者は、35個までのリピートを有し、一方、HD患者は、36個〜>100個のリピートを有し得る。突然変異タンパク質と野生型タンパク質との分子量差は、僅か数kDaしかなく、SDS-PAGEによるタンパク質の分離を複雑にする。本発明者らは、5%Tris-アセテートポリアクリルアミドゲルは、GM04281患者由来線維芽細胞中において野生型HTTおよび突然変異HTTのクリーンな分離を可能にすることを見出した(野生型対立遺伝子/17リピート、突然変異対立遺伝子/69リピート)(図1B)。
【0124】
本発明者らは、HTT mRNAを標的化するペプチド核酸(PNA)−ペプチド結合体を合成した(表1;図1C〜D)。PNAは、RNA構造内の標的配列の認識を容易にする非荷電アミド骨格を有するあるクラスのDNA/RNA模倣物である(Good and Nielsen, 1998;Marin and Armitage, 2005)。C末端にカチオン性ペプチドd-Lys8を含むようにPNA結合体を合成し、細胞中へのPNAの取り込みを促進させた(Hu and Corey, 2007)。REP、5J、および3J-8は、CAGリピートに対して、またはリピートとHTT遺伝子の周囲領域との間の5’または3’接合部に対して、相補的であった。本発明者らは3’および5’接合部を標的にし、何故ならば、CAGリピートの外側のmRNA配列への相補性は、他の細胞タンパク質と比べて突然変異HTTを標的化することについての特異性をさらに増強させ得るためである。結合体+CTLは、HTTについての翻訳開始部位を標的化するポジティブコントロールであり、一方、-CTL1および-CTL2は、非相補的ネガティブコントロールであった。
【0125】
(表1)PNA、siRNA、およびLNAオリゴマー

PNAをN→C末端で列挙する。siRNA(アンチセンス鎖のみ)およびLNAを5’→3’で列挙する。D-アミノ酸が全てのペプチド結合体において使用される。ミスマッチの塩基に下線が引かれている。LNAについて、修飾塩基を大文字として示し、DNA塩基は小文字である。
【0126】
PNA結合体であるREPおよび3J-8は、それぞれ0.3μMおよび1.5μMのIC50値で突然変異HTTタンパク質の発現を阻害した(図2A〜C)。REPによる突然変異HTT発現の選択的阻害は、14日間まで持続した(図2D)。たとえ処理細胞が数回の細胞分裂を経ても、この持続性阻害は達成された。PNA REPの添加は、HTT mRNAのレベルを低下させなかった(図5A〜B)。mRNAへのPNAの結合がRNAレベルを低下させないことは公知である(Knudsen and Nielsen, 1996)。対照的に、DNAへのPNAの結合は、転写を遮断し、RNAレベルを低下させる(Janowski et al., 2005)。PNAがRNAレベルを低下させないという知見は、DNAへ結合し転写を阻害することよりもむしろ、mRNAへ結合し翻訳を遮断することを含む機構と一致している。
【0127】
細胞機能に必須であるものを含む、多くの遺伝子がCAGリピートを含む。突然変異HTTの選択的阻害について十分な濃度で、PNA結合体 REPの添加は、TATAボックス結合タンパク質(TBP)、AAK1、およびPOU3F2を含む、代表的なCAGリピート含有遺伝子の発現に影響を与えず(図2E)、細胞毒性を引き起こさず、細胞増殖速度に影響を与えなかった。
【0128】
HDに関連する表現型に対して突然変異HTTタンパク質の発現を選択的に阻害するという結果をテストするために、本発明者らは、YAC128トランスジェニックマウス由来の初代神経細胞(中型有棘線条体ニューロン、MSN)培養物へREPを添加した(図6;図2F)(Slow et al., 2003;Tang et al., 2005)。このモデルにおいて、128個のCAGリピートを含有する全長ヒトHTT mRNAが、野生型マウスハンチンチンも発現するマウス中においてその内因性プロモーターの制御下で発現される。突然変異HTTタンパク質を発現するMSN細胞は、グルタマートの添加でアポトーシスにより敏感となる(Tang et al., 2005)。250μMグルタマートへの曝露後に、アポトーシス性WT MSNのフラクションは、30〜40%へ増加され、アポトーシス性YAC128 MSNのフラクションは、60〜70%へ増加された。REPの添加は、神経保護的であり、野生型MSNにおいて見られたレベルと同様の、約40%へアポトーシス性YAC128細胞のパーセンテージを低下させた。重要なことには、低レベルのアポトーシス細胞死が、グルタマートの非存在下で観察され、このことは、REPは、本発明者らのアッセイにおいて使用した濃度で培養MSN細胞に対して有毒ではないことを示している。
【0129】
HTT発現の選択的阻害を最適化するための戦略を調べるために、本発明者らは、さらなるPNA阻害剤、二本鎖RNA、および一本鎖固定化核酸(LNA)を調べた。本発明者らは、CAGリピートを標的化する16(REP16)および13(REP13)塩基長であるPNA-ペプチド結合体をテストし、より短いPNAの両方ともが、それぞれ0.4μMおよび0.5μMのIC50値を有する、強力かつ選択的な阻害剤であることを観察した(図3A〜B)。本発明者らはまた、カチオン性ペプチドd-Lys8をPNAのC末端ではなくそのN末端へ連結した場合に、選択的阻害を観察したが、ペプチドの方向を変えることによってIC50値は2.5μMへ上昇した(図3C)。CAGリピートから3’接合部を通って外へ系統的に伸長している配列を標的化するPNAについて、阻害効率は低下し、何故ならば、PNAはCAGリピートに対してより少ない相補性を有するためである(図3D)。これらのデータは、修飾戦略、PNAサイズ、および標的位置が阻害の効力に影響を与えることを示唆している。
【0130】
二本鎖RNAは、現在、臨床試験においてテストされており、薬剤開発について有望な特徴を示した(Corey, 2007)。siRNAの効力および広範囲の使用のために、それらは、PNAの有効性を評価するための良好な基準となる。siRNAも突然変異HTTの選択的阻害を達成するかどうかをテストするために、本発明者らは、GM04281線維芽細胞中へ、PNAであるREP、5J、および3Jと配列が類似している二本鎖RNAを導入した。PNAについて観察されたHTT発現の選択的阻害とは対照的に、二本鎖RNAは、ほとんど選択性を示さなかった(図7A〜D)。
【0131】
本発明者らはまた、固定化核酸(LNA)塩基を含むオリゴヌクレオチドをテストした(Vester and Wengel, 2004)。LNAは、リボースの2’酸素と4'-炭素との間にメチレン架橋を含むRNAアナログである(図1C)。この架橋は、リボースの配座柔軟性を減少させ、相補的ハイブリダイゼーションに対する顕著な親和性を与える。PNAとは異なり、LNAオリゴマーは、臨床試験においてテストされており(Corey, 2007;Frieden and Orum, 2006)、この経験は、抗HTTオリゴマーの臨床開発を促進することに役立ち得る。本発明者らは、細胞中へLNAを導入するためにカチオン性脂質を使用し、LNA/REPまたはLNA/3Jによる突然変異HTTの選択的阻害を観察した(図3D;図8)。PNAについて観察されたように、突然変異HTTの発現を選択的に遮断するLNAの濃度は、CAGリピートを含む他の遺伝子に影響を与えなかった(図3F)。
【0132】
HDは、トリプレットリピートの伸長によって引き起こされる多くの疾患のうちの1つである。別の例は、脊髄小脳失調症3型(マチャド−ジョセフ病)である(Kieling et al., 2007;Paulson, 2007;Bichelmeier et al., 2007)。疾患は、通常、成人において初めて気付かれ、患者は、最終的に、車椅子の生活となるかまたは寝たきりとなる。それは、最も一般的な運動失調症の1つである(Bichelmeier et al., 2007)。疾患は、アタキシン-3をコードする遺伝子内の伸長したCAGリピート(12〜39個のリピートが正常であり、45個を超えるリピートは疾患を示す)によって引き起こされる。アタキシン-3は、脱ユビキチン化(deubiquinating)酵素であり、伸長したリピートは、アタキシン-3の自己会合を増強することによって直接的に、およびアタキシン-3基質の正常なプロテオソームプロセッシングを破壊することによって間接的に、タンパク質凝集を促進し得る(Burnett and Pittman, 2005;Winborn et al., 2008)。突然変異RNAと細胞タンパク質との間の相互作用はまた、突然変異表現型に寄与し得る(Li et al., 2008)。
【0133】
本発明者らは、伸長したCAGリピートについてヘテロ接合である患者由来の細胞株GM06151を得た(野生型対立遺伝子/24リピート、突然変異対立遺伝子/74リピート)。本発明者らは、CAGリピート領域(REPおよびREP13)、5’接合部(5J/ATX)、および3’接合部(3J/ATX)を標的化するPNA結合体をテストした(図4A)。CAGリピートに相補的である、PNAペプチド結合体REPおよびREP13は、それぞれ0.3μMおよび0.5μMのIC50値で、突然変異アタキシン-3を選択的に阻害した(図4B〜C)。3’および5’接合部を標的化する結合体もまた、それぞれ1.5μMおよび0.4μMのIC50値を有する選択的阻害剤であった(図4D〜E)。これらのデータは、本発明者らの戦略がHTTを超えて他の治療標的へ拡張され得ることを示唆している。本発明者らはまたsiRNA/REPをテストした。HTTタンパク質の阻害についての観察と同様に(図7A〜D)、このRNAは、アタキシン-3発現の有効な阻害剤であったが、突然変異タンパク質のレベルを選択的に低下させなかった(図9)。
【0134】
本発明者らはまた、Friedlanderによって使用されたGM09197細胞株中において、Friedlanderおよび共同研究者によって同定された最善のRNA(RNA S4)と、PNA REP19およびLNA/REP19とを直接比較した。この細胞株は、突然変異対立遺伝子内に151個のCAGリピート、野生型対立遺伝子内に21個のリピートを有する。本発明者らは、これらの研究について使用した他の細胞株中においてRNA S4をテストせず、何故ならば、それらは、多型性を含まないか(従って、S4の作用に対して敏感ではない)、またはキャラクタライズされていなかったためである。RNA S4およびLNA/REP19の両方を、カチオン性脂質を使用して細胞中へ導入し、効力の直接比較を可能にした。
【0135】
本発明者らは、突然変異HTTの阻害について50 nMのIC50値および60%の最大効能で、RNA S4が突然変異HTTの対立遺伝子選択的阻害を有する(as)ことを確認した。野生型HTTの阻害は観察されなかった(ここでデータは示さない)。LNA/REP19は、突然変異HTTの阻害について4 nMのIC50値および100%の最大効能で、より強力であった(ここでデータは示さない)。100 nM LNAを添加した場合、LNA/REP19は、野生型HTT発現の30%阻害をもたらした。100 nMを超える濃度で、脂質およびRNA S4またはLNA/REP19の組み合わせは、細胞に対して有毒となり始める。
【0136】
本発明者らまた、GM09197細胞中において、PNA REP19およびREP19Nをテストした。PNA REP19とLNA/REP19またはsiRNA S4とのIC50値の直接比較は不可能であり、何故ならば、PNAは、カチオン性脂質ではなく、結合されたペプチドを使用して細胞中へ送達されるためである。しかし、阻害を定量することによって、一般的な傾向が観察される。REP19は、240 nMのIC50値および野生型HTTの阻害に比べて5.4倍の選択性で、突然変異HTTを阻害する(ここでデータは示さない)。REP19Nは、1.2μMのIC50値および野生型HTTの僅かな阻害を伴って、突然変異HTTを阻害する。GM09197細胞中における突然変異HTTの阻害への効力および選択性は、他の細胞株中におけるものよりも僅かによく、より多くの数のCAGリピートを有するHTT mRNAを発現するGM09197細胞と一致している。
【0137】
本発明者らは、1、2、3、または4個のPhpC(図10)置換を含む13塩基PNAを合成した(表2)。それらの配列は、HTT mRNA内のCAGリピートに対して相補的であった。細胞取り込みを促進するためにD立体配置の8個のリジン残基(D-K8)を含有するように、全てのPNAを合成した。多くのペプチドは、PNAの取り込みを促進し得る。本発明者らはD-K8を選択し、何故ならば、それは、有効でありかつ付加するのが合成的に簡単であったためである。
【0138】
(表2)PNA/RNA二本鎖についてのTmデータおよび線維芽細胞中におけるHTT発現の阻害についてのIC50

PNAをN→C末端で列挙する。全てのPNAは、N末端に1個のD-リジンおよびC末端に8個のD-リジンを有する。PhpC塩基(X)に下線が引かれている。Tm測定は相補的RNAオリゴマーを使用した。ミスマッチコントロールPNA GCCACTACTGATAを比較のために使用した。
【0139】
PhpC塩基の導入は、熱的安定性を増加させた(表2)。増加は、1置換当たり0.5〜1℃の範囲であり、全体で1〜≧4℃の範囲であった。測定されたTmは、PNA鎖とRNA鎖との間の塩基対形成、およびD-K8カチオン性ペプチドとRNAのホスホジエステル骨格との間の相互作用を反映する。
【0140】
HTTの阻害を調べるために、本発明者らは、GM04281細胞中へ修飾PNAを導入した。GM04281は、野生型対立遺伝子内に17個のCAGリピートおよび突然変異対立遺伝子内に69個のリピートを有する患者由来の線維芽細胞株である。初期スクリーニングとして、本発明者らは、1μMの濃度でPNA I〜VIをテストした。PhpC修飾PNAは、HTT発現を選択的に阻害したが、選択性および/または効力は、PhpC置換の数と共に低下するようであった(図11A)。
【0141】
修飾PNAの活性をさらに調べるために、本発明者らは、様々な濃度(0〜4μM)にわたってHTT発現の阻害を調べた(図11B〜F)。PhpC置換を有さないPNA-ペプチド結合体Iは、野生型対立遺伝子の阻害に比べて>4倍の選択性および0.47μMのIC50値で、突然変異HTT発現を選択的に阻害することができた(表2)(Hu et al., 2009a)。本発明者らは、1または2個のPhpC塩基の導入(PNA II、III、およびIV)は、突然変異HTTの阻害の効力に大幅には影響を与えず、野生型HTTの阻害の効力を僅かに増加させ、従って選択性を改善しなかったことを観察した。3または4個のPhpC塩基の導入(PNA VおよびVI)は、突然変異および野生型HTT発現の両方の効力を僅かに低下させた。テストした5個のPhpC修飾PNAのうち、三置換PNA Vが、最善の選択性プロフィールを有した。突然変異HTTの50%を超える阻害は、1μMを超える濃度で達成され、一方、野生型HTTの50%を超える阻害は、テストしたいかなる濃度でも観察されなかった。
【0142】
PhpC塩基の利点は、それらが蛍光性であることである。この特性は、PhpCを含むオリゴマーが、さらなるフルオロフォアを結合する必要性なしに、蛍光顕微鏡検査によって細胞内部で追跡されることを可能にする。以前の研究は、細胞内部でPNAを追跡するために顕微鏡を使用し、エンドソームへの局在化を示唆した(Shiraishi et al., 2005;Kaihatsu et al., 2004;Lebleu et al., 2007;Koppelhus et al., 2008;Wolf et al., 2006;Abes et al., 2006)。しかし、これらの研究は、局在化を変化させ得る蛍光基でタグ化されたPNAを使用していた。蛍光タグが局在化を変化させ得る方法の例が、フルオロセインがルテニウム−オクタアルギニン結合体をエンドソーム局在化から核局在化へ向けなおし得ることに明らかにするある最近の研究によって提供されている(Puckett and Barton, 2009)。別の報告は、蛍光色素が細胞透過性ペプチドの細胞内局在化を変化させ得ることを示した(Szeto et al., 2005)。PhpCを使用することによって、同一のオリゴマーが遺伝子サイレンシングおよび局在化の両方のために使用され得、より確定的な結論が可能となる。
【0143】
本発明者らは、二重修飾PNA IIをGM04281細胞へ添加し、共焦点蛍光顕微鏡検査を使用し、取り込みを視覚化した。細胞の化学的固定は、蛍光性化合物を広がらせ得、局在化の正確な評価を妨げ得るので、生きている細胞を使用した(Belitsky et al., 2002)。PNA IIの取り込みが、1日後、核の周縁の外側の区画中に濃縮されたことが示された(図12A)。細胞がこの期間の間に3〜4倍になり、実質的にPNAを希釈したが、蛍光の同様のパターンが、細胞へのPNA結合体の投与の9日後に観察され得た(図12B)。これらのデータは、PNA-ペプチド結合体は長寿命であるが、長期間にわたって細胞の内部にそれらがとどまることがただ可能となるのみであり、繰り返される細胞分裂は、エンドソーム内の制限から細胞質ゾルへの多量の結合体を放出するに十分でないことを示唆している。
【0144】
これらの結果は、PNA局在化の以前の研究の解釈に重要な意義をもたらす。PhpCで修飾されたPNAが末端蛍光基で修飾されたPNAと同一の細胞内分布を示すという知見は、PNA局在化の以前の観察が、PNA自体の局在化を反映しており、結合されたフルオロフォアによって実質的に影響されなかったことを示唆している。
【0145】
細胞取り込みの場所を評価するために、本発明者らは、エンドソーム局在化についてのマーカーであるトランスフェリンおよびPhpC修飾PNAの両方で細胞を処理した。本発明者らは、PhpC修飾PNAおよびトランスフェリンの取り込みが共局在化されたことを観察し、このことは、両方とも大部分がエンドソーム中に存在し、同様の取り込み機構によって細胞に入ることを示唆している(図12A〜C)。PNA/トランスフェリンでの処理の15時間後に画像を得、オーバーラップの一部は、リソソームから生じ得る。蛍光標識PNA-ペプチド結合体についてのエンドソーム/リソソーム局在化は、以前に報告されており(Shiraishi et al., 2005;Kaihatsu et al., 2004;Lebleu et al., 2007;Koppelhus et al., 2008;Wolf et al., 2006;Abes et al., 2006)、これらの結果は、PhpC含有PNA結合体が、同様の取り込み経路に従うことを示唆している。
【0146】
これらのデータは大抵のPNAがエンドソーム内に制限されていることを示している一方、本発明者らのPNA媒介阻害の観察は、一部のPNAがエスケープすることを実証している。エンドソーム放出を促進する化合物の添加によって(Shiraishi et al., 2005)、またはPNAへの化学的修飾によって(Koppelhus et al., 2008;Hu and Corey, 2007)、エンドソームエスケープの効率を増加させることは、研究の重要な目標のままである。本発明者らはまた、蛍光は、細胞質ゾルおよびエンドソーム中のPNAの相対量を判断するための定量化ツールではないことに注目し、何故ならば、細胞質ゾル中の蛍光物質は、核酸との会合によってクエンチされ得るためである。細胞質ゾルへのPNAの実際の分布は、顕微鏡写真から明らかであるよりも高い場合がある。
【0147】
これらのデータは、PhpC塩基が、アンチセンスPNAについてのTm値を増加させ得、細胞内部でのそれらの活性を改変し得ることを示している。PhpC塩基の正確な数および配置に対するTmおよびIC50値の両方の感度のために、PNA特性を調整するためのツールとしての修飾の有用性が強調される。
【0148】
HTT mRNA内のCAGリピートを標的化するPNAへのPhpC塩基の付加は、対立遺伝子選択性を増加させず、ある場合には、効力もしくは選択性のいずれかまたは両方を低下させた。結合親和性を増加させる修飾が認識の効力を低下させる理由は、明らかではない。1つの可能性は、修飾PNAが、mRNAへの分子間結合と競合するより強力な自己相補的相互作用を形成することである。この説明は、この研究において使用した配列に特に関連し、何故ならば、それは、自己相補的ヘアピン構造を形成する傾向があるトリプレットリピートを含むためである。
【0149】
HTT mRNA内のトリプレットリピートは、特殊な標的である。他の核酸標的、例えば、非反復配列 染色体DNAまたはmRNAが、PhpC塩基で修飾されたPNAによる認識についてより有利なものであり得る可能性がある。あるいは、PhpC塩基の正確な配置は、最適ではない場合がある。本発明者らは、PNA C末端ではなくPNA N末端へD-K8ペプチドを結合することが、対立遺伝子選択性を劇的に高め得ることを以前に実証し(Hu et al., 2009a;Hu et al., 2009b)、PhpC配置の同様の単純な変化もまた、改善された結果をもたらし得る可能性がある。
【0150】
本明細書に開示および特許請求される組成物および/または方法の全ては、本開示を考慮して過度の実験なしに作製および実行され得る。本発明の組成物および方法は好ましい態様によって説明されたが、本発明の概念、精神および範囲を逸脱することなく、改変が、組成物および/または方法へ、ならびに本明細書に記載される方法の工程においてまたは工程の順序において、適用され得ることが、当業者に明らかである。より具体的には、化学的にも生理学的にも関連するある薬剤が、本明細書に記載の薬剤に代わりに使用され得、同時に、同一または類似の結果が達成されることが、理解される。当業者に明らかなこのような類似の代替物および修飾物の全ては、添付の特許請求の範囲によって規定される本発明の精神、範囲および概念内にあるとみなされる。
【0151】
V.参考文献
以下の参考文献は、本明細書に記載のものを補足する例示的な手順のまたは他の詳細をそれらが提供する程度まで、参照により本明細書に具体的に組み入れられる。






【特許請求の範囲】
【請求項1】
伸長したトリヌクレオチドリピート領域を有するmRNAによってコードされる疾患タンパク質の発現を阻害するための方法であって、該疾患タンパク質を産生する細胞と、該mRNAの該リピート領域を標的化する一定量の核酸アナログとを接触させる工程を含み、ここで、(i)阻害が、mRNAが伸長したトリヌクレオチドリピート領域を欠いている該疾患タンパク質の正常形態よりも該疾患タンパク質について選択的であり、かつ(ii)阻害が、該mRNAの産生に実質的に影響を与えない、前記方法。
【請求項2】
前記リピート領域が、約125リピート以下のサイズである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記疾患タンパク質が、ハンチンチン、アタキシン-3、アタキシン-1、アタキシン-2またはアトロフィン1である、請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記核酸アナログが、約7〜約30塩基長である、請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記核酸アナログが、ペプチド核酸(PNA)である、請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記PNAが、カチオン性ペプチドをさらに含む、請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記核酸アナログが、固定化核酸(LNA)である、請求項1記載の方法。
【請求項8】
前記LNAが、カチオン性ペプチドをさらに含む、請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記核酸アナログが、リピート領域接合部をさらに標的化する、請求項1記載の方法。
【請求項10】
前記核酸アナログが、RNAseHをリクルートする塩基を欠いている、請求項1記載の方法。
【請求項11】
伸長したトリヌクレオチドリピート領域を有するmRNAによってコードされる疾患タンパク質の、被験体中における、発現を阻害するための方法であって、該mRNAの該リピート領域を標的化する一定量の核酸アナログを該被験体へ投与する工程を含み、ここで、(i)阻害が、mRNAが伸長したトリヌクレオチドリピート領域を欠いている該疾患タンパク質の正常形態よりも該疾患タンパク質について選択的であり、かつ(ii)阻害が、該mRNAの産生に実質的に影響を与えない、前記方法。
【請求項12】
前記リピート領域が、約125リピート以下のサイズである、請求項11記載の方法。
【請求項13】
前記疾患タンパク質が、ハンチンチン、アタキシン-3、アタキシン-1、アタキシン-2またはアトロフィン1である、請求項12記載の方法。
【請求項14】
前記核酸アナログが、約7〜約30塩基長である、請求項11記載の方法。
【請求項15】
前記核酸アナログが、ペプチド核酸(PNA)である、請求項11記載の方法。
【請求項16】
前記PNAが、少なくとも1つの修飾塩基(modifed base)を含む、請求項15記載の方法。
【請求項17】
前記修飾塩基が、[ビス-o-(アミノエトキシ)フェニル]ピロロシトシンである、請求項16記載の方法。
【請求項18】
前記PNAが、カチオン性ペプチドをさらに含む、請求項15記載の方法。
【請求項19】
前記核酸アナログが、固定化核酸(LNA)である、請求項11記載の方法。
【請求項20】
前記LNAが、カチオン性ペプチドをさらに含む、請求項19記載の方法。
【請求項21】
前記核酸アナログが、リピート領域接合部をさらに標的化する、請求項11記載の方法。
【請求項22】
前記核酸アナログが、RNAseHをリクルートする塩基を欠いている、請求項11記載の方法。
【請求項23】
前記核酸アナログを、2回以上投与する、請求項11記載の方法。
【請求項24】
前記核酸アナログを、毎週少なくとも約1回投与する、請求項23記載の方法。
【請求項25】
前記核酸アナログを、経口的に、静脈内に、動脈内に、筋肉内にまたはCNS中に投与する、請求項11記載の方法。
【請求項26】
前記核酸アナログを、脂質製剤で投与する、請求項11記載の方法。
【請求項27】
第2療法を前記被験体へ施す工程をさらに含む、請求項11記載の方法。
【請求項28】
疾患タンパク質についての伸長したトリヌクレオチドリピート領域をコードするmRNAを標的化する核酸アナログを含む物質の組成物。
【請求項29】
前記核酸アナログが、リピート領域接合部をさらに標的化する、請求項28記載の組成物。
【請求項30】
前記核酸アナログが、約7〜約30塩基長である、請求項28記載の組成物。
【請求項31】
前記核酸アナログが、ペプチド核酸(PNA)である、請求項28記載の組成物。
【請求項32】
前記PNAが、カチオン性ペプチドをさらに含む、請求項31記載の組成物。
【請求項33】
前記核酸アナログが、固定化核酸(LNA)である、請求項28記載の組成物。
【請求項34】
前記LNAが、カチオン性ペプチドをさらに含む、請求項33記載の組成物。
【請求項35】
前記核酸アナログが、RNAseHをリクルートする塩基を欠いている、請求項28記載の組成物。
【請求項36】
前記核酸アナログが、脂質ビヒクル中に分散されている、請求項28記載の組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公表番号】特表2011−529686(P2011−529686A)
【公表日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−521239(P2011−521239)
【出願日】平成21年7月28日(2009.7.28)
【国際出願番号】PCT/US2009/051938
【国際公開番号】WO2010/014592
【国際公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【出願人】(508152917)ザ ボード オブ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティー オブ テキサス システム (17)
【Fターム(参考)】