説明

ポリスチレン系樹脂押出発泡板

【課題】 本発明は、二酸化炭素を発泡剤の主成分として用いた押出発泡板であって、難燃性に優れ、低見掛け密度のポリスチレン系樹脂押出発泡板を提供することを目的とする。
【解決手段】 本発明のポリスチレン系樹脂押出発泡板は、ポリスチレン系樹脂に、カルボニル基を有するエチレン系共重合体を配合してなる基材樹脂を、全発泡剤量に対して二酸化炭素60〜100モル%とその他の物理発泡剤(フロン類を除く。)40〜0モル%とからなる発泡剤、難燃剤と共に混練して押出発泡することにより得られるポリスチレン系樹脂押出発泡板であって、該ポリスチレン系樹脂押出発泡板中に該カルボニル基を有するエチレン系共重合体がポリスチレン系樹脂100重量部に対して2〜8重量部含まれており、該ポリスチレン系樹脂押出発泡板を構成しているポリスチレン系樹脂組成物の重量平均分子量が1.5×10〜2.5×10であると共に数平均分子量(Mn)に対する重量平均分子量(Mw)の比Mw/Mnが2.3以上であり、厚みが少なくとも10mmであると共に断面積が少なくとも50cmであり、見掛け密度が20〜50kg/mであり、厚み方向平均気泡径が0.1〜0.7mmであり、独立気泡率が80%以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に建築物の壁、床、屋根等の断熱材や畳芯材等に使用されるポリスチレン系樹脂押出発泡板に関し、詳しくは環境適正に優れ、低見掛け密度のポリスチレン系樹脂押出発泡板に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ポリスチレン系樹脂発泡体は優れた断熱性及び好適な機械的強度を有することから、板状に成形されたものが断熱材として広く使用されてきている。かかる押出発泡板の製造方法として、ポリスチレン系の樹脂材料を加熱溶融混練後、物理発泡剤を添加し、これらの混合物を高圧域から低圧域に押出し、さらに所望に応じて押出機のダイ出口に賦形装置を連結して発泡体を製造する方法が知られている。
【0003】
上記押出発泡板の製造に使用する発泡剤として、従来はジクロロジフルオロメタン等の塩化フッ化炭化水素(以下、CFCという。)、水素原子含有塩化フッ化炭化水素(以下、HCFCという。)、分子中に塩素原子を持たないフッ化炭化水素(以下、HFCという。)等のフロン類や、プロパン、ブタン、ペンタン等の低級飽和炭化水素が発泡剤として使用されてきた。
【0004】
しかし、上記CFCやHCFCはオゾン層を破壊する虞があり、また上記HFCはオゾン破壊係数が0であるものの地球温暖化係数が大きいため、地球環境の保護という点ではそれらの使用は好ましくない。
【0005】
一方、前記のような低級飽和炭化水素は、オゾン破壊係数が0であり、フロン類と比べるとその地球温暖化係数も小さく、発泡性にも優れた発泡剤である。しかし、低級飽和炭化水素は可燃性ガスであるため、静電着火した際、火災の事故を招く虞があるなど発泡体製造時の危険性が高く、また、発泡剤として多量に使用すると得られた発泡体に難燃性を付与することもフロン類に比べて難しい傾向にあるため、使用量を削減することが望ましい。また、近頃の揮発性有機化合物(VOC)の排出抑制対策により、メタンを除く低級炭化水素が排出抑制の対象となったため、ポリスチレン系樹脂押出発泡板の製造においても低級飽和炭化水素の自主的な排出量削減が求められている。
【0006】
このような背景から、環境に優しく、危険性の少ない発泡剤を使用してポリスチレン系樹脂発泡体を製造することが望まれており、近年、地球温暖化係数がフロン類と比較すると非常に小さく、オゾン層を破壊せず、かつ不燃性であるため、地球環境に優しく、安全性の高い発泡剤として、二酸化炭素を用いた検討がなされている。
【0007】
しかし、発泡剤に二酸化炭素を主成分として使用する場合、二酸化炭素はポリスチレン系樹脂に対する溶解度が前記のフロン類や低級飽和炭化水素類と比べると低いために、フロン類や低級飽和炭化水素類を使用する場合と同じ樹脂圧力では、ダイのリップ付近内部で発泡剤が樹脂から分離、気化して発泡が開始してしまう現象(以下、内部発泡ともいう。)が発生してダイよりガスが噴出したり、外観不良の原因となるボイドが発生したりして良好な発泡体を得ることが困難になる。さらに、低見掛け密度の発泡体を得るには、物理発泡剤の使用量を多くしなければならないが、二酸化炭素を使用した場合には上記した発泡剤の分離、気化がより顕著になる。したがって、良好な発泡体を得るにはフロン類や低級飽和炭化水素を使用する場合よりもリップ付近の樹脂圧力を高く維持する必要がある。
【0008】
ダイリップの間隔またはその開口断面積を小さくすることにより圧力の維持は可能であるが、その場合には厚みが厚く断面積の大きいポリスチレン系樹脂押出発泡板を得ることは事実上不可能になってしまう。一方、樹脂をさらに冷却し低温で押出することによっても樹脂圧力を高めることも可能であるが、この場合には押出発泡後の賦型が不可能になってしまう。さらに、リップ付近の樹脂圧力を高く維持することは、得られる押出発泡体の気泡の微細化の原因となるため、気泡が連続気泡化する虞や、賦型が不可能になる虞がある。
【0009】
また、二酸化炭素は、フロン類や炭化水素に比べてポリスチレン系樹脂に対する可塑化効果が小さいため、樹脂の発熱により良好な発泡状態を維持することが困難な上に、押出機にかかる負荷が非常に高くなるという課題もある。
【0010】
二酸化炭素を主成分とした発泡剤を使用する際に発生する前記問題を克服して、低見掛け密度のポリスチレン系押出発泡体を製造する検討が試みられている。
【0011】
例えば発泡剤として二酸化炭素を用い、溶融流れ速度と溶融張力が特定の関係にあるポリスチレン系樹脂を使用することにより、高発泡倍率(低見掛け密度)のポリスチレン系樹脂押出発泡板の製造方法が報告されている(特許文献1)。
【0012】
また、二酸化炭素の可塑化効果の不足による発熱の問題を抑えるために、平均分子量の低いポリスチレンを使用する方法が報告されている(特許文献2)。
【0013】
さらに、二酸化炭素とポリスチレン系樹脂との相溶性を向上させるために、ポリフェニレンエーテル(以下、PPEともいう。)を添加することが報告されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2000−17097号公報
【特許文献2】特表平9−503813号公報
【特許文献3】特開2000−248107号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかし、特許文献1の製造方法により得られた押出発泡板の見掛け密度は40kg/mと高く、高発泡倍率化は不十分であった。さらに高発泡倍率化を目的として発泡剤である二酸化炭素の添加量を増量すると、気泡が微細化して成形が困難になるばかりか、増量しすぎると内部発泡が発生して高発泡倍率の発泡体が得られないといった課題を残している。
【0016】
また、特許文献2の製造方法では比較的低見掛け密度の発泡体が得られているが、その断面積は非常に小さなものであり、断熱材として必要な幅、厚みを得ようと大きな断面積の開口部を有したダイにより押出発泡した場合には、発泡に必要な圧力を確保できず、内部発泡が発生して低見掛け密度の発泡体が得られないといった課題を残している。また、発泡体を構成する基材樹脂の分子量が小さすぎるため、機械的強度に優れた発泡体が得られないといった欠点もある。
【0017】
さらに、特許文献3の製造方法ではPPEを多量に添加することにより低見掛け密度の発泡体が得られているが、PPEを多量に添加するので難燃剤を多量に添加しなければJIS A 9511(2006年)の測定方法Aの燃焼性規格を満たす押出発泡板を得ることが難しくなるという課題を残している。
【0018】
本発明は、従来のポリスチレン系樹脂押出発泡板の欠点に鑑み、オゾン破壊係数が0で、地球温暖化係数も小さい二酸化炭素を発泡剤の主成分として用いた押出発泡板であって、難燃性に優れ、低見掛け密度のポリスチレン系樹脂押出発泡板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、発泡剤として二酸化炭素を主成分とする発泡剤を用いる場合において、特定の平均分子量を有するポリスチレン系樹脂に特定の樹脂を添加することにより、機械的強度に優れ、気泡径が適度に微細で、低見掛け密度であり、断熱材として必要な幅、厚みを有し、難燃性に優れ、熱伝導率が小さく、外観が良好なスチレン系樹脂発泡板を容易に製造できるという事実を見出し、本発明を完成するに至った。
【0020】
本発明によれば、以下に示すポリスチレン系樹脂押出発泡板が提供される。
〔1〕 ポリスチレン系樹脂に、カルボニル基を有するエチレン系共重合体を配合してなる基材樹脂を、全発泡剤量に対して二酸化炭素60〜100モル%とその他の物理発泡剤(フロン類を除く。)40〜0モル%とからなる発泡剤、難燃剤と共に混練して押出発泡することにより得られるポリスチレン系樹脂押出発泡板であって、該ポリスチレン系樹脂押出発泡板中に該カルボニル基を有するエチレン系共重合体がポリスチレン系樹脂100重量部に対して2〜8重量部含まれており、該ポリスチレン系樹脂押出発泡板を構成しているポリスチレン系樹脂組成物の重量平均分子量が1.5×10〜2.5×10であると共に数平均分子量(Mn)に対する重量平均分子量(Mw)の比Mw/Mnが2.3以上であり、厚みが少なくとも10mmであると共に断面積が少なくとも50cmであり、見掛け密度が20〜50kg/mであり、厚み方向平均気泡径が0.1〜0.7mmであり、独立気泡率が80%以上であることを特徴とするポリスチレン系樹脂押出発泡板。
〔2〕 発泡板の見掛け密度が20〜35kg/mであることを特徴とする前記1に記載のポリスチレン系樹脂押出発泡板。
〔3〕 発泡板の独立気泡率が90%以上であることを特徴とする前記1又は2に記載のポリスチレン系樹脂押出発泡板。
〔4〕 前記発泡剤が、全発泡剤量に対して二酸化炭素80〜100モル%とその他の物理発泡剤(フロン類を除く。)20〜0モル%とからなることを特徴とする前記1〜3のいずれかに記載のポリスチレン系樹脂押出発泡板。
〔5〕 前記カルボニル基を有するエチレン系共重合体が、エチレン−酢酸ビニル共重合体及びエチレン−アクリル酸系共重合体から選択される1種以上であることを特徴とする前記1〜4のいずれかに記載のポリスチレン系樹脂押出発泡板。
【発明の効果】
【0021】
本発明のポリスチレン系樹脂押出発泡板は、ポリスチレン系樹脂に、カルボニル基を有するエチレン系共重合体を特定量配合してなる基材樹脂を、二酸化炭素を主成分とする発泡剤を用いて押出発泡することにより得られた特定の重量平均分子量及び分子量分布を有する押出発泡板であって、機械強度に優れ、低見掛け密度で、気泡径が適度に微細であり、断熱材として必要な幅、厚みを有し、難燃性に優れ、熱伝導率が小さく、外観が良好なものである。

【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明について詳しく説明する。
本発明においては、押出機中にて、ポリスチレン系樹脂を難燃剤、発泡剤と共に混練して発泡性溶融混練物を形成し、該発泡性溶融混練物を発泡に好適な温度に調整した後、押出発泡することによりポリスチレン系樹脂押出発泡板(以下、単に押出発泡板ともいう。)が得られる。
【0023】
前記押出発泡方法においては、前記発泡性溶融混練物をフラットダイを通して高圧の押出機内より低圧域に押出して発泡させ、該ダイの出口に配置された成形金型(平行あるいは入口から出口に向かって緩やかに拡大するよう設置された上下2枚のポリテトラフルオロエチレン樹脂等のフッ素樹脂からなる板から構成されるもの(以下、ガイダーともいう。)など)や成形ロール等の成形具を通過させることによって押出発泡板を得る方法を採用することができる。
【0024】
このような押出発泡板の製造方法は従来公知であるが、本発明方法は、高発泡倍率化が難しい二酸化炭素を主成分とする発泡剤を使用する押出発泡板製造技術において、特定のポリスチレン系樹脂に特定のエチレン系共重合体を特定量添加したものを原料樹脂として用いることを特徴とするものである。
【0025】
本発明において押出機に供給されるポリスチレン系樹脂としては、例えばスチレン単独重合体やスチレンを主成分とするスチレン−メチルスチレン共重合体、スチレン−ジメチルスチレン共重合体、スチレン−エチルスチレン共重合体、スチレン−ジエチルスチレン共重合体等が挙げられる。上記スチレン系共重合体におけるスチレン成分含有量は50モル%以上が好ましく、さらに好ましくは80モル%以上であり、特に好ましくは90モル%以上である。
【0026】
本発明において用いられるポリスチレン系樹脂の重量平均分子量(Mw)は1.7×10〜2.8×10であり、好ましくは1.8×10〜2.8×10であり、より好ましくは1.8×10〜2.5×10である。Mwが小さすぎるポリスチレン系樹脂では、ダイ圧の低下によるダイ内での内部発泡が極めて起こりやすく、大きな断面積を有する良好な押出発泡板が得られない。一方、Mwが大きすぎるポリスチレン系樹脂では、発熱によって押出発泡後の賦型ができなくなり、良好な押出発泡板が得られない。
【0027】
本発明において用いられるポリスチレン系樹脂の数平均分子量(Mn)に対する重量平均分子量(Mw)の比Mw/Mnが2.5以上であり、好ましくは2.8以上である。Mw/Mnが小さすぎると、発泡性が悪化し、良好な発泡体を得ることができない。Mw/Mnの上限は、特に限定されるものではないが、概ね5程度である。
【0028】
また、本発明において用いられるポリスチレン系樹脂の数平均分子量(Mn)は、上記Mw/Mnの関係を満足すると共に、9.0×10以下であることが好ましい。Mnが上記範囲内であると、さらに押出発泡性に優れたものとなるので好ましい。なお、Mnの下限は特に限定されるものではないが、概ね5.0×10程度である。
【0029】
さらに、本発明において用いられるポリスチレン系樹脂の数平均分子量(Mn)に対するZ平均分子量(Mz)の比Mz/Mnは、5.5以上が好ましく、より好ましくは5.7以上であり、更に好ましくは5.9以上である。ポリスチレン系樹脂のMz/Mnが上記範囲内であると、押出時の樹脂の発熱を抑えながらもリップ先端付近での樹脂圧力を適度に高く維持することができるので、Mz/Mnが5.5以上のポリスチレン系樹脂は断面積の大きな押出発泡板の製造に好適である。Mz/Mnの上限は、特に限定されるものではないが、概ね30程度である。
【0030】
本明細書におけるポリスチレン系樹脂の数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)及びZ平均分子量(Mz)は、いずれもゲル・パーミエーション・クロマトグラフ法(GPC法)により求めた値である。具体的には、ポリスチレン系樹脂30mgをテトラヒドロフラン(THF)20mLに溶解させた後(ただし、THFへの不溶分が存在する場合には、ろ過により該不溶分を除去した後)、下記に示す分析条件にてGPC法による測定を行い、この測定によって得られたチャートのポリスチレン系樹脂によるピーク開始位置(本発明では、便宜上、分子量1.9×107位置を採用)を基準にして水平(横軸と平行)にベースラインを引き、標準ポリスチレンを用いて作成した標準較正曲線により、各分子量を計算する。
【0031】
使用機器:株式会社ジーエルサイエンス製GPC仕様高速液体クロマトグラフ
カラム:昭和電工株式会社製カラム、商品名Shodex GPC KF−806、同KF−805、同KF−803をこの順に直列に連結して使用
カラム温度:40℃
溶媒:THF
流速:1.0mL/分
濃度:0.15w/v%
注入量:0.2ml
検出器:株式会社ジーエルサイエンス製紫外可視検出器、商品名UV702型(測定波
長254nm)
分子量分布の計算に用いた較正曲線の分子量範囲:1.9×107〜5.4×103
【0032】
上記範囲の平均分子量を有するポリスチレン系樹脂は、重合時の温度条件、重合開始剤の添加量を調整することにより得ることができるが、PSジャパン株式会社からグレード名「679」、東洋スチレン株式会社からグレード名「G220」等として市販されているのでこれを入手して使用してもよい。
【0033】
さらに、本発明では、2種以上のポリスチレン系樹脂を混合することによって、平均分子量が、前記範囲内となるように原料樹脂を調製することもできる。
【0034】
なお、2種以上のポリスチレン系樹脂を混合する場合には、上記方法によりポリスチレン系樹脂の分子量を求めるにあたり、基材樹脂として使用する2種以上のポリスチレン系樹脂を混合しようとする比率に応じて混合したものをテトラヒドロフランに溶解して測定用試料とすることにより、混合されたポリスチレン系樹脂の分子量を特定する。例えば、ポリスチレン系樹脂(A)とポリスチレン系樹脂(B)とを8対2の比率で混合する場合には、ポリスチレン系樹脂(A)を24mgとポリスチレン系樹脂(B)6mgとをテトラヒドロフラン20mlに溶解させて測定用試料として用い、該ポリスチレン系樹脂の分子量を求める。
【0035】
本発明においては、後述する二酸化炭素を主成分とする発泡剤を使用した場合に、ポリスチレン系樹脂押出発泡板の発泡性を高めるために、ポリスチレン系樹脂にカルボニル基を有するエチレン系共重合体が添加される。該共重合体をポリスチレン系樹脂に添加することで、その添加量が少量であっても、該共重合体を添加しない場合と比べてダイ内部リップ付近での樹脂圧力が上昇する効果(以下、内部発泡抑制効果ともいう。)が見られ、さらに、樹脂圧力が上昇した場合であっても気泡径が拡大する効果(以下、気泡拡大効果ともいう。)が得られる。
【0036】
上記カルボニル基を有するエチレン系共重合体としては、エチレンとビニルエステル、アクリルエステル、その他のアクリル系化合物等との共重合体が挙げられ、具体的には、エチレン−酢酸ビニル共重合体や、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸メチル共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−アクリル酸ブチル共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体、エチレン−メタクリル酸グリシジル等のエチレン−アクリル酸系共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体やエチレン−メタクリル酸共重合体の分子間の一部を金属イオン等により分子間結合させたアイオノマー、マレイン酸変性ポリエチレン、マレイン酸変性エチレン−アクリル酸エチル共重合体等が挙げられる。
【0037】
上記カルボニル基を有するエチレン系共重合体の中でも、前記内部発泡抑制効果、気泡拡大効果が顕著であるので、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸系共重合体から選択される1種以上のものが好ましい。
【0038】
さらに、上記カルボニル基を有するエチレン系共重合体としては、エチレン−アクリル酸アルキルエステル共重合体、エチレン−メタクリル酸アルキルエステル共重合体から選択される1種以上のものがより好ましい。該共重合体はその熱安定性が他のガルボニル基を有するエチレン系共重合体よりも高いため、得られる発泡体が難燃性に優れるものとなるので好ましい。さらに、上記共重合体の中でも、エチレン−アクリル酸メチル共重合体、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体が特に好ましい。
【0039】
前記共重合体中の例えば酢酸ビニル、メタクリル酸、メタクリル酸メチル等のカルボニル基を有する化合物の含有量は、該共重合体に対して10〜50重量%であることが好ましく、15〜40重量%であることがより好ましく、20〜35重量%であることが更に好ましい。カルボニル基を有する化合物の含有量が上記範囲内であると、ポリスチレン系樹脂への該共重合体の分散性が良くなるので、良好な発泡体を得られるため好ましい。
【0040】
また、前記共重合体のメルトフローレート(MFR)は0.1〜30g/10分(但し、JIS K7210−1976のA法の試験条件:190℃、荷重21.2Nにより測定されるMFR)であることが好ましく、1〜25g/10分であることがより好ましく、2〜10g/10分であることが更に好ましい。該共重合体のMFRが高すぎる場合には、押出時にダイの圧力を高める効果が小さくなり、内部発泡が発生しやすくなるため、低見掛け密度の発泡体が得られない虞がある。一方、MFRが低すぎる場合には、分散状態が悪化し、良好な発泡体が得られない虞がある。すなわち、MFRが上記範囲内であれば、低見掛け密度で、かつ気泡が適度に微細な発泡体が得られる。
【0041】
前記共重合体の添加量はポリスチレン系樹脂100重量部に対して2〜8重量部であり、好ましくは2〜7重量部、更に好ましくは3〜6重量部である。該添加量が少なすぎると、内部発泡抑制効果、気泡拡大効果が得られずに内部発泡や板状に賦形する場合の成形不良が起こる。一方、添加量が多すぎると発泡体がガイダー内に詰まりやすいため安定して良好な押出発泡板を得ることが難しく、また押出発泡板が得られたとしても、得られる発泡板は難燃性が低下したり、柔軟になり過ぎたりするばかりか、独立気泡率の低下により機械的強度が低下する。
【0042】
なお、本発明においては、本発明の目的、作用、効果が達成される範囲内において、ポリスチレン系樹脂にその他の重合体を混合したものであってもよい。その他の重合体としては、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体水添物、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体水添物、スチレン−エチレン共重合体等が挙げられ、概ね50重量%未満、更に30重量%未満、特に10重量%未満の範囲で目的に応じて混合することができる。
【0043】
本発明で用いる発泡剤は、発泡剤全量に対して二酸化炭素60〜100モル%と、その他の物理発泡剤40〜0モル%とからなるものである。二酸化炭素を主成分とする発泡剤は、地球温暖化係数が小さく、また、オゾン層を破壊することがないものである。二酸化炭素の含有量が少なすぎると二酸化炭素を発泡剤として用いることによる環境負荷の低減効果が大きく低下し、また二酸化炭素を発泡剤として用いることによる特徴が大きく消滅してしまう。かかる観点から、二酸化炭素の含有量は、80〜100モル%が好ましく、85〜100モル%がより好ましく、90〜100モル%が更に好ましく、95〜100モル%が特に好ましい。
【0044】
本発明において、その他の物理発泡剤は、二酸化炭素を単独で発泡剤として使用した場合の問題点を緩和するために用いられる。即ち、さらに低見掛け密度の押出発泡板を得ようとする場合に用いられる。その配合量は、目的とする見掛け密度を達成するという観点により定められる。
【0045】
本発明において、その他の物理発泡剤としては、飽和炭化水素、エーテル類、脂肪族アルコール類、無機ガス、ケトン類などが挙げられる。これらは単独でまたは2種以上を用いることができる。
【0046】
飽和炭化水素としては、例えば、エタン、プロパン、イソブタン、ノルマルブタン、イソペンタン、シクロペンタン、ノルマルペンタン等が挙げられる。これらは単独でまたは2種以上を用いることができる。なお、ポリスチレン系樹脂への相溶性、取り扱い易さなどの点から炭素数3〜5の飽和炭化水素が好適であり、更にはノルマルブタン、イソブタンが特に好適に用いられる。
【0047】
エーテル類としては、ジエチルエーテル、メチルエチルエーテル、ジメチルエーテル、メチルビニルエーテル等が挙げられる。これらは単独でまたは2種以上を用いることができる。なお、ポリスチレン系樹脂への相溶性、取り扱い易さなどの点からアルキル鎖の炭素数が1〜3のジアルキルエーテルが好適であり、更にはジメチルエーテルが特に好適に用いられる。
【0048】
脂肪族アルコール類としては、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール、アリールアルコール、クロチルアルコール、プロパギルアルコール等が挙げられる。これらは単独でまたは2種以上を用いることができる。なお、ポリスチレン系樹脂への相溶性、取り扱い易さなどの点から炭素数1〜4の脂肪族アルコールが好ましく、さらにはエタノールが好適に用いられる。
【0049】
また、その他の発泡剤として水が挙げられる。水は高い発泡力を有するとともに、高い冷却能力を有するために、低見掛け密度の押出発泡板を得ることができるので好ましい。
【0050】
二酸化炭素を主成分とする発泡剤を用いることで、地球環境の保護、安全性の確保のほかに、得られるポリスチレン系樹脂押出発泡板の断熱性の経時変化を最小限に抑え、その長期断熱性を安定させることができる。近年、ポリスチレン系樹脂押出発泡板の発泡剤として用いられてきた低級飽和炭化水素は、ポリスチレン系樹脂に対して徐放性の発泡剤であるため、経時と共に押出発泡板から徐々に放出されてしまい、押出発泡板の断熱性が変化してしまうといった欠点があった。しかし、二酸化炭素はポリスチレン系樹脂に対する透過速度が極めて速く、押出直後には押出発泡板からそのほぼ全量が逸散するために、押出発泡板の気泡内に大気圧になるまで空気が入ってしまえば、経時と共に押出発泡板の断熱性が変化することがないので、断熱性の長期安定化が達成される。
【0051】
本発明における発泡剤の添加量は、発泡剤の種類、目的とする押出発泡板の見掛け密度、ポリスチレン系樹脂の種類等により増減するものであり特定することが難しいが、ポリスチレン系樹脂と前記カルボニル基を有するエチレン系共重合体とからなる基材樹脂(以下、単に基材樹脂ともいう。)1kgに対して概ね0.7〜2.0モルの範囲で添加されることが好ましく、より好ましくは0.9〜1.8モルの範囲で添加され、更に好ましくは1.0〜1.6モルの範囲で添加される。
但し、二酸化炭素とその他の発泡剤を併用する場合の発泡剤の添加量は、物理発泡剤の合計モル数により定められる。
【0052】
本発明においては、押出発泡板の気泡径を調整するための気泡調整剤を添加してもよい。該気泡調整剤としては、タルク、カオリン、マイカ、シリカ、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化チタン、クレー、酸化アルミニウム、ベントナイト、ケイソウ土等の無機物粉末が例示され、本発明において気泡調整剤は2種以上組合せて用いることもできる。前記各種の気泡調整剤の中では、気泡径の調整が容易であると共に難燃性を阻害することがなく、気泡径を小さくしやすい等の理由でタルクが好適に用いられ、特に、数平均メジアン粒子径が0.1〜10μm、更に0.5〜5μmのタルクが好ましい。
【0053】
気泡調整剤としてタルクを使用する場合、その添加量は基材樹脂100重量部に対して、好ましくは0.05〜3重量部、より好ましくは0.1〜2重量部である。
【0054】
本発明の押出発泡体に難燃性を付与するために、ポリスチレン系樹脂に難燃剤を混練する。ポリスチレン系樹脂に混練される難燃剤としては、臭素系難燃剤が好ましく使用される。臭素系難燃剤としては、例えば、テトラブロモビスフェノールA、テトラブロモビスフェノールAビス(2,3−ジブロモプロピルエーテル)、テトラブロモビスフェノールAビス(2−ブロモエチルエーテル)、テトラブロモビスフェノールAビス(アリルエーテル)、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモフェニル)プロパン、ヘキサブロモシクロドデカン、テトラブロモシクロオクタン、トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレート、トリブロモフェノール、デカブロモジフェニルオキサイド、トリス(トリプロピルネオペンチル)ホスフェート、臭素化ビスフェノールエーテル誘導体などが挙げられる。これらの化合物は単独又は2種以上を混合して使用できる。
【0055】
本発明の押出発泡板中における難燃剤の含有量は、難燃性を向上させるとともに、発泡性の低下および機械的物性の低下を最小のものとするうえで、ポリスチレン系樹脂100重量部当たり1〜10重量部が好ましく、1.5〜7重量部がより好ましく、2〜5重量部が更に好ましい。
【0056】
さらに、本発明おいては、押出発泡板の難燃性をさらに向上させることを目的として、難燃助剤を上記臭素系難燃剤と併用して使用することができる。難燃助剤としては、例えば2,3−ジメチル−2,3−ジフェニルブタン、2,3−ジエチル−2,3−ジフェニルブタン、3,4−ジメチル−3,4−ジフェニルヘキサン、3,4−ジエチル−3,4−ジフェニルヘキサン、2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン、2,4−ジフェニル−4−エチル−1−ペンテン等のジフェニルアルカンやジフェニルアルケン、トリフェニルホスフェート、クレジルジ2,6−キシレニルホスフェート、三酸化アンチモン、五酸化二アンチモン、硫酸アンモニウム、すず酸亜鉛、シアヌル酸、イソシアヌル酸、トリアリルイソシアヌレート、メラミンシアヌレート、メラミン、メラム、メレム等の窒素含有環状化合物、シリコーン系化合物、酸化ホウ素、ホウ酸亜鉛、硫化亜鉛などの無機化合物、赤リン系、ポリリン酸アンモニウム、フォスファゼン等のリン系化合物等が挙げられる。これらの化合物は単独又は2種以上を混合して使用できる。
【0057】
本発明においては、前記基材樹脂に必要に応じて本発明の目的、効果を妨げない範囲において、着色剤、熱安定剤、流動性向上剤、充填剤等の各種添加剤を適宜添加することができる。
【0058】
次に、本発明のポリスチレン系樹脂押出発泡板について説明する。該押出発泡板は、前記ポリスチレン系樹脂に、前記カルボニル基を有するエチレン系共重合体を添加した基材樹脂を、二酸化炭素を主成分とする発泡剤、難燃剤と共に混練して押出発泡することにより得られるものである。
【0059】
なお、上記のとおり発泡剤の主成分である二酸化炭素は、全発泡剤量に対して60モル%以上含まれ、好ましくは80モル%以上、好ましくは85モル%以上、更に好ましくは90モル%以上、最も好ましくは95モル%以上含まれる。ただし、二酸化炭素以外の発泡剤を使用する場合には、該発泡剤として前記理由によりフロン類は除かれる。
【0060】
本発明のポリスチレン系押出発泡板は、該押出発泡板中にカルボニル基を有するエチレン系共重合体をポリスチレン系樹脂100重量部に対して2〜8重量部含むものであり、好ましくは2〜7重量部含み、より好ましくは3〜6重量部含むものである。発泡剤として二酸化炭素を主成分とする発泡剤を用いると、低級飽和炭化水素を主成分とする発泡剤を用いた場合のようにスチレン系樹脂への可塑化効果が得られないため、押出発泡板の曲げたわみ量が低下する。そこで、柔軟なカルボニル基を有するエチレン系共重合体を押出発泡板中に含有させることにより、発泡性を改善しつつ、かつ適度な可撓性と機械的強度とのバランスを有する押出発泡板が得られる。
【0061】
本発明の押出発泡板中のカルボニル基を有するエチレン系共重合体の含有量は、13C核磁気共鳴分光法による公知の方法で測定することができる。
【0062】
本発明の押出発泡板を構成するポリスチレン系樹脂組成物、すなわちポリスチレン系樹脂とカルボニル基を有するエチレン系共重合体の混合物においては、その重量平均分子量(Mw)は1.5×10〜2.5×10であり、好ましくは1.6×10〜2.5×10であり、より好ましくは1.7×10〜2.3×10である。上記分子量が低すぎると、基材樹脂であるポリスチレン系樹脂自体の機械的強度が、一般的な分子量を持つポリスチレン系樹脂に比べて劣るため、押出発泡板の機械的強度が低下する。一方、上記分子量が高すぎると、発熱による成形不良により、低見掛け密度の押出発泡板が得ること自体ができなくなる。
【0063】
さらに、本発明の押出発泡板を構成するポリスチレン系樹脂組成物の数平均分子量(Mn)に対する重量平均分子量(Mw)の比Mw/Mnが2.3以上であり、好ましくは2.5以上である。該組成物のMw/Mnが小さすぎると、押出発泡適正に劣るため、本発明の目的物性を満足する押出発泡板自体を得ることができない。Mw/Mnの上限は、特に限定されるものではないが、概ね4程度である。なお、押出発泡後のポリスチレン系樹脂組成物のMw/Mnは、押出時に受けるせん断や熱履歴によりポリスチレン系樹脂の高分子量側の分子鎖が切断されるために、押出前のポリスチレン系樹脂のMw/Mnの値よりも小さくなる傾向にある。
【0064】
さらに、本発明の押出発泡板を構成するポリスチレン系樹脂組成物の数平均分子量(Mn)は、前記ポリスチレン系樹脂の数平均分子量と同じ理由で、上記Mw/Mnの関係を満足すると共に、8.0×10以下であることが好ましい。
【0065】
上記押出発泡板を構成するポリスチレン系樹脂組成物の平均分子量(Mn、Mw及びMz)は、測定試料として押出発泡板から切り出した30mgの試験片を使用すること以外は、前記したポリスチレン系樹脂の平均分子量を測定する方法と同様の方法で測定することができる。
【0066】
本発明の押出発泡板の厚みは、少なくとも10mm以上であるが、通常、上限は150mmであり、好ましくは20〜120mmであり、より好ましくは25〜100mmである。該厚みが薄すぎる場合には、製造に困難性を伴い、機械的強度及び断熱性が不十分な押出発泡板となる虞がある。一方、該厚みが厚すぎる場合には、厚み方向の気泡径が大きくなりやすいことから、十分な断熱性を確保できない虞れがあるほか、安定して押出発泡板の製造を行うには大型の押出機が必要となる。
【0067】
さらに、本発明の押出発泡板の断面積は、少なくとも50cm以上であり、好ましくは60cm以上、より好ましくは100cm以上である。通常その断面積の上限は概ね3000cmであるが、2000cm以下のものが一般的である。断面積が50cm未満では、施行効率、生産効率が低下してしまう。
【0068】
また、本発明の押出発泡板の見掛け密度は20〜50kg/mであり、好ましくは25〜40kg/m、さらに好ましくは25〜38kg/m、特に好ましくは25〜35kg/mである。見掛け密度が小さすぎる場合には、そのような見掛け密度の押出発泡板を製造すること自体がかなり困難になる上に、得られる押出発泡板の機械的物性においても従来の発泡断熱板と比較して不十分なものとなるので使用できる用途が限定される。一方、見掛け密度が大きすぎる場合には、厚みを必要以上に厚くしない限り十分な断熱性を発揮させることが難しく、軽量性の点において不十分なものとなる。なお、見掛け密度の測定は、JIS K 6767(1999年)に準拠して行なうものとする。
【0069】
また、本発明の押出発泡板の厚み方向平均気泡径は、0.1〜0.7mmであり、好ましくは0.15〜0.6mmであり、より好ましくは0.28〜0.6mmである。平均気泡径がこの範囲内にあることにより、機械的強度に優れ、より高い断熱性を有する押出発泡板を得ることができる。該気泡径が小さすぎる押出発泡板は、厚みが厚く、低見掛け密度の押出発泡板を得ること自体が難しくなる。一方、大きすぎるものは、目的とする断熱性を有する押出発泡板を得ることができない。
【0070】
本明細書における平均気泡径の測定方法は次の通りである。押出発泡板厚み方向の平均気泡径(D:mm)及び押出発泡板幅方向の平均気泡径(D:mm)は押出発泡板の幅方向垂直断面(押出発泡板の押出方向と直交する垂直断面)を、押出発泡板長手方向の平均気泡径(D:mm)は押出発泡板の長手方向垂直断面(押出発泡板の押出方向に平行に、幅方向の中央部で二等分した垂直断面)を顕微鏡等を用いてスクリーンまたはモニタ等に拡大投影し、投影画像上において測定しようとする方向に直線を引き、その直線と交差する気泡の数を計数し、直線の長さ(但し、この長さは拡大投影した投影画像上の直線の長さではなく、投影画像の拡大率を考慮した真の直線の長さを指す。)を計数された気泡の数で割ることによって、各々の方向における平均気泡径を求める。
【0071】
平均気泡径の測定方法について詳述すると、厚み方向の平均気泡径(D:mm)の測定は幅方向垂直断面の中央部及び両端部の計3箇所に厚み方向に全厚みに亘る直線を引き各々の直線の長さと該直線と交差する気泡の数から各直線上に存在する気泡の平均径(直線の長さ/該直線と交差する気泡の数)を求め、求められた3箇所の平均径の算術平均値を厚み方向の平均気泡径(D:mm)とする。
【0072】
幅方向の平均気泡径(D:mm)は幅方向垂直断面の、中央部及び両端部の計3箇所の押出発泡板を厚み方向に二等分する位置に、長さ3mmの直線を幅方向に引き,長さ3mmの直線と(該直線と交差する気泡の数−1)から各直線上に存在する気泡の平均径(3mm/(該直線と交差する気泡の数−1))を求め、求められた3箇所の平均径の算術平均値を幅方向の平均気泡径(D:mm)とする。
【0073】
長手方向の平均気泡径(D:mm)は、試験片を切断して得られた長手方向垂直断面の、中央部及び両端部の計3箇所において、押出発泡板を厚み方向に二等分する位置に、長さ3mmの直線を長手方向に引き、長さ3mmの直線と(該直線と交差する気泡の数−1)から各直線上に存在する気泡の平均径(3mm/(該直線と交差する気泡の数−1))を求め、求められた3箇所の平均径の算術平均値を長手方向の平均気泡径(D:mm)とする。また、押出発泡板の水平方向の平均気泡径(D:mm)は、DとDの相加平均値とする。
【0074】
更に本発明の押出発泡板においては、気泡変形率が0.7〜2.0であることが好ましい。気泡変形率とは,上記測定方法により求められたDをDで除すことにより算出された値(D/D)をいい、該気泡変形率が1よりも小さいほど気泡は扁平であり、1よりも大きいほど縦長である。気泡変形率が0.7未満の場合は、気泡が扁平なので圧縮強度が低下する虞れがあり、扁平な気泡は球形に戻ろうとする傾向が強いので、押出発泡板の寸法安定性も低下する虞がある。気泡変形率が2.0を超えると、厚み方向における気泡数が少なくなるので、目的とする高い断熱性が得られない虞がある。そのような観点から、上記気泡変形率は、0.8〜1.5であることが好ましく、0.8〜1.2であることがより好ましい。気泡変形率が上記範囲内にあることにより、機械的強度に優れ、かつ高い断熱性を有する押出発泡板を得ることができる。
【0075】
本発明の押出発泡板は前述の通り断熱性向上の点、更に機械的強度向上の点から、独立気泡率が80%以上であり、85%以上であることが好ましく、90%以上であることが更に好ましい。
【0076】
本明細書における押出発泡板の独立気泡率は、ASTM−D2856−70の手順Cに従って、東芝ベックマン株式会社の空気比較式比重計930型を使用して測定(押出発泡板から25mm×25mm×20mmのサイズに切断された成形表皮を持たないカットサンプルをサンプルカップ内に収容して測定する。ただし、厚みが薄く、厚み方向に20mmのカットサンプルが切り出せない場合には、例えば、25mm×25mm×10mmのサイズのカットサンプルを2枚同時にサンプルカップ内に収容して測定すればよい。)された押出発泡板(カットサンプル)の真の体積Vxを用い、下記(1)式により独立気泡率S(%)を計算し、N=3の平均値で求める。
【0077】
S(%)=(Vx−W/ρ)×100/(VA−W/ρ) (1)
Vx:上記方法で測定されたカットサンプルの真の体積(cm)(押出発泡板のカットサンプルを構成する樹脂の容積と、カットサンプル内の独立気泡部分の気泡全容積との和に相当する。)
VA:測定に使用されたカットサンプルの外寸から計算されたカットサンプルの見掛け上の体積(cm
W:測定に使用されたカットサンプル全重量(g)
ρ:押出発泡板を構成する樹脂の密度(g/cm
【0078】
本発明の押出発泡板は、主に断熱板として使用されるため、その熱伝導率が0.040W/mK以下であることが好ましい。このような熱伝導率は、気泡径及び気泡変形率を前記範囲に制御することにより達成される。
本発明における押出発泡体の熱伝導率は、JIS A 9511(2006年)5.7の記載により、JIS A 1412−2(1999年)記載の平板熱流計法(熱流計2枚方式、高温側35℃、低温側5℃、平均温度20℃)に基づいて測定される値である。
【0079】
本発明の押出発泡板は、主に建築用の断熱板として使用されるためJIS A 9511(2006年)の測定方法Aに記載の押出ポリスチレンフォーム保温板を対象とする燃焼性規格を満足するものであることが特に好ましい。即ち、JIS A 9511(2006年)に記載されている5.13.1「測定方法A」の燃焼性の測定を行った場合、炎が3秒以内に消え、残じんがなく、燃焼限界支持線を越えて燃焼することがないものであることが好ましい。そのような押出発泡板は、着火した場合であっても、火が燃え広がる可能性が小さいので、建材用の押出ポリスチレンフォーム保温板として要求される安全性を備えるものである。このような、燃焼性規格を満足する押出発泡板は、前記難燃剤を配合することにより達成される。
【0080】
本発明の押出発泡板は、二酸化炭素のみで製造された場合には、二酸化炭素は早期に逸散するので、気泡内に存在する気体は、主に窒素と酸素である。但し、前記その他の発泡剤を用いて製造された場合には、押出発泡体中に発泡剤が残存している可能性が大きい。
【0081】
その場合において、その他の発泡剤の含有量は、ガスクロマトグラフを用いて測定することができる。具体的には、押出発泡板の中央部から切り出したサンプルをトルエンの入った蓋付きの試料ビンの中に入れ、蓋を閉めた後、十分に攪拌し該押出発泡板中の発泡剤をトルエンに溶解させたものを測定試料とし、該試料についてガスクロマトグラフィー分析を行ない内部標準法により定量することより押出発泡板に含有される脂肪族炭化水素等の含有量を求めることができる。
【実施例1】
【0082】
次に、具体的な実施例及び比較例を挙げて、本発明を更に詳細に説明する。
【0083】
[製造装置]
内径65mmの第一押出機と内径90mmの第二押出機と内径150mmの第三押出機が直列に連結されており、発泡剤注入口が第一押出機の終端付近に取付けられ、間隙1mm×幅90mm(長方形横断面)または間隙2mm×幅65mm(長方形横断面)の樹脂排出口(ダイリップの先端)を備えたフラットダイが第三押出機の出口に連結された製造装置を用いた。押出機の樹脂排出口には平行するよう設置された上下一対のポリテトラフルオロエチレン樹脂からなる板により構成されたガイダーを付設した。
【0084】
[原料]
PS1:PSジャパン株式会社製ポリスチレン「679」(Mn=7.3×10、Mw=2.0×10、Mz/Mn=5.2)
PS2:PSジャパン株式会社製ポリスチレン「HH32」(Mn=1.1×10、Mw=3.2×10、Mz/Mn=6.7)
PS3:上記「PS1」をシリンダー径65mmの押出機に供給し、吐出80kg/hr、樹脂温度230℃でストランド状に押出し、冷却後カットしてMn=6.5×10、Mw=1.6×10、Mz/Mn=5.5のペレットを作製した。
【0085】
樹脂A:日本ユニカー株式会社製のエチレン−酢酸ビニル共重合体「NUC−3195」(酢酸ビニル成分量:25重量%、MFR:4g/10min)
樹脂B:三井・住友デュポンポリケミカル株式会社製エチレン−メタクリル酸共重合体「ニュクレルN1525」(メタクリル酸成分量:15重量%、MFR:25g/10min)
樹脂C:住友化学株式会社製エチレン−メタクリル酸メチル共重合体「アクリフトWK307」(メタクリル酸メチル成分量:25重量%、MFR:7g/10min)
樹脂D:住友化学株式会社製エチレン−メタクリル酸メチル共重合体「アクリフトWH206」(メタクリル酸メチル成分量:20重量%、MFR:2g/10min)
樹脂E:日本ユニカー製低密度ポリエチレン「NUC−8008」(MFR:4.7g/10min)
【0086】
気泡調整剤:ポリスチレン35部重量%とタルク(松村産業株式会社製ハイフィラー#12)60重量%と、分散剤5重量%からなるタルクマスターバッチを用いた。
難燃剤:ヘキサブロモシクロドデカン93重量%を含有する難燃剤マスターバッチを用いた。
【0087】
実施例1〜6、比較例1〜6
表1〜4に示す配合量となるようにポリスチレン系樹脂、カルボニル基を有するエチレン系共重合体、難燃剤、及び気泡調整剤を第一押出機に供給し、220℃まで加熱し、溶融、混練し、第一押出機の先端付近で、表1〜4に示す配合の発泡剤を圧入して発泡性溶融混合物とし、続く第二押出機および第三押出機で樹脂温度を表1〜4に示す発泡適性温度(表中では発泡樹脂温度と表記した。この発泡温度は押出機とダイの接合部の位置で測定された発泡性溶融混合物の温度である。)に調整した後、該発泡性溶融混合物を、吐出量50kg/hrでダイリップからガイダー内(低圧域)に押出した(ダイリップの先端:幅90mm、間隙1mm)。
【0088】
ダイリップから押出された発泡性溶融混合物を、発泡させながら押出発泡板の厚み方向に28mmの間隔で平行に配置したガイダー内を通過させることにより、ガイダー内に充満させながら板状に形成し、ポリスチレン系押出発泡板を製造した。
【0089】
実施例7〜12、比較例7〜10
ダイリップの先端を幅90mm、間隙1mmから、幅65mm、間隙2mmに変更し、ガイダー間の間隔を28mmから50mmに変更した以外は前記の実施例1〜6、比較例1〜6と同様な製造方法でポリスチレン系押出発泡板を製造した。
【0090】
押出機に供給したスチレン系樹脂のMn、Mw、Mz/Mn、得られた押出発泡板の発泡状態の評価、成形性の評価、見掛け密度、厚み、幅方向垂直断面積、各平均気泡径、気泡変形率、独立気泡率、断熱性の評価、難燃性の評価を表1〜4に示す。なお、表中の重量部はポリスチレン系樹脂100重量部に対する重量部を表し、COは二酸化炭素を表し、Buはイソブタンを表す。
【0091】
【表1】

【0092】
【表2】

【0093】
【表3】

【0094】
【表4】

【0095】
表1〜4における発泡状態の評価は、下記評価基準で評価した。
○:内部発泡が発生せず。
×:内部発泡が発生。
【0096】
表1〜4における成形性の評価は、下記評価基準で評価した。
○:発泡体とガイダーとの滑りが良く、表面状態が良好な押出発泡板が安定して得られる。
△:ガイダー内で発泡体が詰まりやすく、安定して良好な押出発泡板が得られない。
×:発泡体がガイダー内で詰まり、押出発泡板が得られない。
【0097】
表1〜4における断熱性評価は、製造後4日経過後の押出発泡板から200mm×200mm×25mmの成形表皮を持たない試験片を切り出し、該試験片を用いて前記方法により熱伝導率を測定し、下記基準で評価した。
○:熱伝導率が0.040W/mK以下である。
×:熱伝導率が0.040W/mKを超える。
【0098】
表1〜4における難燃性評価は、製造後1時間経過後の押出発泡板から切り出した試験片を、前記方法で測定した。なお、該測定は1つの押出発泡板に対して試験片を5個切り出して下記評価基準で評価した。
○:全ての試験片において3秒以内で炎が消える。
△:5個の試験片の平均燃焼時間が3秒以内であるが、1個以上の試験片において3秒以内に炎が消えないものがある。
×:5個の試験片の平均燃焼時間が3秒を超える。
【0099】
実施例1〜12の結果は、本発明の方法に基づいてポリスチレン系樹脂押出発泡体を製造すると、低見掛け密度で難燃性に優れたポリスチレン系樹脂押出発泡体が容易に製造できることを示している。ポリスチレン樹脂に対して溶解性の悪い二酸化炭素を発泡剤として使用した場合においても、ポリスチレン系樹脂に特定のカルボニル基を有するエチレン系共重合体を添加することにより、その内部発泡抑制効果、気泡拡大効果によって、低見掛け密度で、気泡が適度に微細であり、難燃性に優れた押出発泡体が得られた。
特に、実施例7〜12では、特定のMz/Mn比を持つポリスチレン系樹脂を使用することにより、より厚みが厚く、より大断面積の押出発泡板を製造する場合にも、低見掛け密度で、気泡が適度に微細であり、難燃性に優れた押出発泡体が得られた。
【0100】
比較例1は、実施例1と対比されるものであって、カルボニル基を有するエチレン系共重合体を使用しない例を示す。比較例1では該共重合体を使用していないため、発泡剤を実施例1と同じ量添加すると、内部発泡が起こってしまい、押出発泡板を得ることができなかった。
【0101】
比較例2は、実施例1と対比されるものであって、カルボニル基を有するエチレン系共重合体の添加量を少なくした例を示す。比較例2では該共重合体の配合量が少な過ぎるため、発泡剤を実施例1と同じ量添加すると、内部発泡抑制効果が見られずにリップ付近で内部発泡が起こってしまい、押出発泡板を得ることができなかった。
【0102】
比較例3は、実施例1と対比されるものであって、カルボニル基を有するエチレン系共重合体の代わりに低密度ポリエチレンを配合した例である。比較例3では低密度ポリエチレンを配合したため、内部発泡抑制効果は見られずにリップ付近で内部発泡が起こってしまい、押出発泡板を得ることができなかった。
【0103】
比較例4は、実施例3〜6と対比されるものであって、カルボニル基を有するエチレン系共重合体を使用しない例を示す。比較例4では比較例1よりも分子量の高いポリスチレン系樹脂を使用しているためダイ圧が上がり、内部発泡は発生しなかったが、該共重合体を使用していないことから、発泡剤を実施例3〜6と同じ量添加すると、板状に賦型することはできたものの、ダイ圧上昇に伴い気泡が過度に微細化してしまうため、押出発泡板自体の強度が低下してしまい、ガイダー内で押出発泡板が破断しやすく、安定して良好な押出発泡板を得ることができなかった。
【0104】
比較例5は、実施例4と対比されるものであって、カルボニル基を有するエチレン系共重合体の配合量が多すぎる例を示す。比較例5では該共重合体の配合量が多すぎるため、板状に賦型することはできたものの、ガイダー内で発泡体が詰まりやすく安定して良好な押出発泡板が得られなかった。また、難燃剤の添加量を増量してもJIS A 9511(2006年)の測定方法Aの難燃性を満足しなかった。
【0105】
比較例6は、実施例1と対比されるものであって、ポリスチレン系樹脂の数平均分子量(Mn)および重量平均分子量(Mw)が低すぎる例を示す。比較例6ではポリスチレン系樹脂のMnおよびMwが低すぎるため、カルボニル基を有するエチレン系共重合体を配合しても、リップ付近での内部発泡を抑制することができず、押出発泡板を得ることができなかった。
【0106】
比較例7は実施例7〜9と、比較例8は実施例10と対比されるものであって、厚みが厚く、大断面積の押出発泡板製造時にカルボニル基を有するエチレン系共重合体を使用しない例を示す。比較例7、8では該共重合体を使用していないことから、発泡剤を実施例7〜10と同じ量添加すると、リップ付近で内部発泡が起こってしまい、押出発泡板を得ることができなかった。
【0107】
比較例9は、実施例7と対比されるものであって、厚みが厚く、大断面積の押出発泡板製造時にカルボニル基を有するエチレン系共重合体の配合量が多すぎる例を示す。比較例9では該共重合体の配合量が多すぎるため、板状に賦型することはできたものの、ガイダー内で発泡体が詰まりやすく安定して良好な押出発泡板が得られなかった。
【0108】
比較例10は、実施例10と対比されるものであって、ポリスチレン系樹脂の数平均分子量(Mn)と重量平均分子量(Mw)が高すぎる例を示す。比較例10ではポリスチレン系樹脂のMnとMwが高すぎるので、樹脂温度を所望の温度まで冷却することができなかったため、発泡体がガイダーと滑らずにガイダー内に詰まってしまい、押出発泡板を得ることができなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリスチレン系樹脂に、カルボニル基を有するエチレン系共重合体を配合してなる基材樹脂を、全発泡剤量に対して二酸化炭素60〜100モル%とその他の物理発泡剤(フロン類を除く。)40〜0モル%とからなる発泡剤、難燃剤と共に混練して押出発泡することにより得られるポリスチレン系樹脂押出発泡板であって、該ポリスチレン系樹脂押出発泡板中に該カルボニル基を有するエチレン系共重合体がポリスチレン系樹脂100重量部に対して2〜8重量部含まれており、該ポリスチレン系樹脂押出発泡板を構成しているポリスチレン系樹脂組成物の重量平均分子量が1.5×10〜2.5×10であると共に数平均分子量(Mn)に対する重量平均分子量(Mw)の比Mw/Mnが2.3以上であり、厚みが少なくとも10mmであると共に断面積が少なくとも50cmであり、見掛け密度が20〜50kg/mであり、厚み方向平均気泡径が0.1〜0.7mmであり、独立気泡率が80%以上であることを特徴とするポリスチレン系樹脂押出発泡板。
【請求項2】
発泡板の見掛け密度が20〜35kg/mであることを特徴とする請求項1に記載のポリスチレン系樹脂押出発泡板。
【請求項3】
発泡板の独立気泡率が90%以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載のポリスチレン系樹脂押出発泡板。
【請求項4】
前記発泡剤が、全発泡剤量に対して二酸化炭素80〜100モル%とその他の物理発泡剤(フロン類を除く。)20〜0モル%とからなることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のポリスチレン系樹脂押出発泡板。
【請求項5】
前記カルボニル基を有するエチレン系共重合体が、エチレン−酢酸ビニル共重合体及びエチレン−アクリル酸系共重合体から選択される1種以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のポリスチレン系樹脂押出発泡板。

【公開番号】特開2012−82440(P2012−82440A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−17784(P2012−17784)
【出願日】平成24年1月31日(2012.1.31)
【分割の表示】特願2006−246897(P2006−246897)の分割
【原出願日】平成18年9月12日(2006.9.12)
【出願人】(000131810)株式会社ジェイエスピー (245)
【Fターム(参考)】