説明

ポリスルホン系中空糸膜の製造方法およびそれを用いた医療用途モジュールの製造方法。

【課題】
紡糸速度が30m/min以上でオンライン乾燥による乾燥つぶれが無く、かつ、生体適合性に優れたドライ型中空糸膜の製造方法を提供する。
【解決手段】
医療用途の中空糸膜を形成させた後、オンライン上で乾燥する製造方法において、製膜原液がポリスルホン系高分子と親水性高分子からなり、全高分子量に対する親水性高分子量の割合が15wt%以上25wt%以下であり、ポリスルホン系高分子が18wt%以上であることを特徴とする中空糸膜の製造方法によって上記の課題が解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリスルホン系高分子と親水性高分子を用いた中空糸膜をオンライン上で乾燥させる中空糸膜の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
これまで慢性腎不全患者の血液処理膜を人腎レベルに近づけるために、様々な透析方法・膜の性能向上技術が開発されてきた。近年、選択透過性分離膜を用いた分離技術である限外濾過法、逆浸透法、気体分離法等が各種の分野において実用化されており、その多様な用途に各々適する素材から作られた分離膜が市販されている。選択透過性分離膜の素材としては、セルロース系、セルロースアセテート系、ポリアミド系、ポリアクリロニトリル系、ポリビニルアルコール系、ポリメチルメタクリレート系、ポリスルホン系、ポリオレフィン系などのポリマーが使用されている。中でもポリスルホン系ポリマーは、耐熱性、耐酸性、耐アルカリ性、耐酸化性などの物理化学的性質が優れていることから、近年の医療用、工業用分離膜素材として注目されている。
【0003】
このポリスルホン系中空糸膜の組み立て工程において、中空糸膜束端部を接着剤にて封止する際、中空糸膜への含浸、接着剤の発泡、剥離などを防ぐには水分がないことが望ましく、組み立て工程までに中空糸膜の水分を乾燥させる必要がある。中空糸膜の乾燥工程を製膜後にオフラインにて行うこともできるが、操作が煩雑になってしまう。このような理由にて中空糸膜の乾燥をオンラインにて行うことが検討されている。オンライン乾燥については特許文献1に記載の方法などが知られている。しかし、この方法は透析性能、透水性能に注目しており、生体適合性については不十分であった。
【特許文献1】特開2001−170172号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記従来技術の欠点を解消しようとするものであり、オンライン乾燥による乾燥つぶれが生じにくく、かつ、生体適合性に優れたポリスルホン系中空糸膜の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記課題を達成するために下記の構成を有する。「医療用途の中空糸膜を形成させた後、オンライン上で乾燥する製造方法において、製膜原液がポリスルホン系高分子と親水性高分子からなり、全高分子量に対する親水性高分子量の割合が15wt%以上25wt%以下であり、ポリスルホン系高分子が18wt%以上であることを特徴とする中空糸膜の製造方法。」
【発明の効果】
【0006】
オンライン乾燥による乾燥つぶれが無く、かつ、生体適合性に優れたドライ型中空糸膜の製造方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明のポリスルホン系高分子としては、ポリスルホンが好ましいが、ベンゼン環部分を修飾したものも用いることができる。また、製膜原液におけるポリスルホン濃度としては、濃度を上げるに従って得られた中空糸膜の強度は上昇するが、ポリスルホン中のサイクリックダイマー量が上昇するため白濁する傾向がある。そのため、ポリスルホン濃度は、製膜原液中に10wt%〜25wt%であることが必要であり、より好ましくは18wt%以上、さらには19wt%以上であることが好ましい。
【0008】
本発明における親水性高分子としては、ポリアルキレンオキサイド、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリヒドロキシエチルメタクリレート、ポリアクリルアミド、ポリエチレンイミンまたはこれらの誘導体などが好適に用いられる。
【0009】
親水性高分子の重量平均分子量は高いほど水濡れ性を向上させる効果が有り、少量の添加で水濡れ性を向上することができる。水濡れ性が高いほど生体適合性、血液抗凝固性が良いため、重量平均分子量が100万以上のものを用いることが望ましい。特に、100万以上の親水性高分子が親水性高分子中に90wt%以上であることが生体適合性、血液凝固性の効果を十分発揮する点で好ましい。
また、本発明においては、製膜原液中の全高分子における親水性高分子の含有率が15wt%以上、25wt%以下であることが必要である。親水性高分子の含有率が高いと、乾燥時の中空糸つぶれが発生しやすいため25wt%以下が必要であり、さらには21%以下であることが好ましい。親水性高分子の含有率が15wt%以下であると生体適合性が悪くなり、血小板等の付着が発生するため、15wt%以上が好ましい。
【0010】
製膜原液における親水性高分子の濃度を上げるに従って粘度が上昇し中空糸製膜性が良い。しかし、高分子量の親水性高分子の量が増加することによって、中空糸がオンライン上でつぶれる原因となる。そのため、製膜原液における親水性高分子濃度は2wt%〜10wt%が好ましく、さらには3wt%〜6wt%が好ましい。さらに製膜後の中空糸膜中に存在する親水性高分子の含有率は、生体適合性、血液抗凝固性を考慮すると3wt%以上であることが好ましい。しかし、中空糸膜中に存在する親水性高分子の含有率が高いと中空糸膜からの溶出物量が増加する傾向にあることから10wt%以下にすることが好ましい。
【0011】
生体適合性の指標として用いられる血小板付着試験による血小板の付着は膜表面に付着しないほど生体適合性が良く、15個/4.3×10μm以下が好ましい。さらには10個/4.3×10μm以下がより好ましい。
【0012】
製膜原液においては、ポリスルホン系高分子および親水性高分子の良溶媒が用いられる。具体的には、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトン、アセトアルデヒド、2−メチルピロリドンなどであるが、危険性、安全性、毒性の面からジメチルアセトアミドが好ましい。
【0013】
さらに原液組成にはポリスルホンの貧溶媒で、かつ親水性高分子と相溶性を持つ添加剤が用いられる。具体的には、アルコール、グリセリン、水、エステル類などであるが、プロセス適性、コスト面から特に水が好ましい。
中空糸内径・膜厚は、乾燥時に発生するつぶれに大きく影響するが、本発明における中空糸膜は以下のようなものである。
【0014】
一般に、中空糸膜はコンパクトな装置で膜表面積を大きく確保することが可能である。膜表面積を大きくするためには、中空糸内径は小さい方が好ましく、300μm以下が好ましく、220μm以下がより好ましい。しかし、中空糸膜内径を小さくしすぎると透析時の圧力損失が大きくなり、膜による目詰まりを起こしやすくなるので、150μm以上が好ましく、180μm以上がより好ましい。
【0015】
膜厚が薄くなることによって中空糸膜の強度が弱くなり、膜厚ムラが大きくなることによって膜の分画特性が不均一になることが考えられる。その為、中空糸膜厚は30μm以上が好ましい。また、膜厚が厚すぎると膜の透過性能が低下するため50μm以下が好ましい。
【0016】
本発明の製造方法は、オンライン上で製膜する事から中空糸膜の製造方法として好適に用いられる。
本発明における、オンライン乾燥とは原液を吐出してから巻き取る工程の中で中空糸を乾燥機によって乾燥する工程があることを示す。更に、乾燥機の温度が170℃以上に上昇すると、ポリスルホンの溶融温度に達してしまうため、乾燥温度は160℃以下が望ましい。
【0017】
製膜方法は、以下のとおりである。
【0018】
上述したような構成の製膜原液を芯液と同時に2重スリット管構造の口金から同時に吐出させ、中空糸膜を成形する。その後、所定の凝固工程、水洗工程、温水工程、乾燥工程、クリンプ工程を経た後、巻き取られる。この時の巻き取り速度は早いほど生産効率が良くなるので、20m/min以上が好ましいが、紡糸速度を早めることにより中空糸内が陰圧になりやすく、乾燥つぶれが発生しやすくなる。本発明の製造方法は紡糸速度30m/min以上で製膜する時に、特徴を発揮する。紡糸速度とは口金から吐出された中空糸が、凝固浴から中空糸を引き上げるために使用しているローラーの回転速度とする。
ここでの乾燥つぶれとは、製膜させた中空糸が乾燥機内から出たときに中空糸断面の中空部面積が乾燥前の中空部面積に比べて、半分以下になっていることをいう。乾燥つぶれがないというのは、800本以上の中空糸端面を観察した際に中空糸膜の乾燥つぶれが観察した中空糸全数の1%以下であることとする。
【0019】
本発明により得られる中空糸膜は、透析器、血漿分離器等の血液浄化膜、限外濾過膜、タンパク質分画膜などとして、好適に用いられる。
【0020】
得られた中空糸膜を用いて医療用途モジュールとするためには、上記方法で中空糸を巻き取った後、中空糸を束ねて、モジュールに挿入し、中空糸束の端部をウレタンにてポッティングしてモジュールに固定する。その後、120〜130℃程度の温度条件で、20〜30分程度蒸気滅菌を行うことによって医療用途モジュールを作製する。該モジュールのアルブミンふるい係数は高いほどアルブミンを透過してしまう為アルブミンふるい係数は2.0%以下が好ましい。該モジュールの透水性能は透析時の除水効果の観点から高い方が好ましく、100ml/hr/m/mmHg以上であることが望ましい。
【実施例】
【0021】
次に実施例に基づき本発明を説明する。用いた測定方法は以下の通りである。
【0022】
(1)透水性能測定
プラスチック管に中空糸を20本通して両端を接着剤で固定した有効長100mmのプラスチック管モジュールを作成し、中空糸内側に水圧100mmHgをかけ、外側に流出してくる単位時間あたりの濾過量を測定した。透水性能は下記の式で算出した。
【0023】
透水性能(ml/hr/m/mmHg)=QW/(T×A×P)
ここで、QWは濾過量(ml/min)、Tは流出時間(hr)、Pは圧力(mmHg)、Aは膜面積(m)(中空糸内表面積換算)を意味する。膜面積は中空糸内部断面の周長と有効長とを掛け合わせた面積である。ここで、有効長とは中空糸長手方向の長さにおける接着剤によって接着されていない部分の長さとする。
【0024】
(2)牛血清透過性能
冷凍保存をしていた牛血清(JRH社、カタログNo.12133−78P)を解凍して、室温(25℃)にする。該血清に上記「透水性能測定」で使用したプラスチック管モジュール使用する。プラスチック管モジュール1つに対し、50mlの牛血清を0.6ml/minで血液側に流し、1時間循環させる(流量調整は25℃の生理食塩水であわせる)。この時、血液出口側から流出してくる最初の5mlは捨てる。1時間循環後濾液を採取し、上記「透水性能測定」で記載した「透水性能」の式で算出する。
【0025】
(3)β2−ミクログロブリンクリアランス測定
β2−ミクログロブリンを5mg/lになるように、37℃で調整した牛血清に加える。37℃の水浴中に作成した溶液をガラス管モジュール(ガラス管に36本の中空糸を通して両端を接着剤で固定した有効長100mmのモジュール)の血液側に1ml/minで流し、透析液側から37℃のPBS(−)(日水製薬社 ダルベッコPBS(−)粉末を1lの蒸留水中に9.6g溶解した溶液)を20ml/minの流量で流した。2時間循環させた後、血液側の血清、透析液側のPBSを全量回収して、−20℃以上の冷凍庫で凍らせた後、各部分のβ2−ミクログロブリンの濃度からクリアランスを算出した。
【0026】
Co(ml/min)=(CBi−CBo)×QB/CBi
ここで、CBi=モジュール入口側濃度、CBo=モジュール出口側濃度、Q=モジュール供給液量(ml/min)。
【0027】
(4)アルブミン透過率測定
血液槽に37℃で保温したヘマトクリット30%、総蛋白6.5g/dlの牛血(ヘパリン処理血)500mlを用いて、ガラス管モジュール(ガラス管に中空糸を100本通して両端を接着剤で固定した有効長150mmのモジュール)の血液側に1.33ml/minで送った(モジュールを縦方向に固定し、血液側上部から下部に向かって流す)。その際、モジュール透析液出口側の流速を0.1ml/minと調整し、濾液、出口血液は血液槽に戻す(モジュール透析液出口側とは縦方向に固定したモジュールの下部に付いている透析液側出口のこと、上部の透析液側はシールする)(循環流量は37℃に温めたPBS(−)を使用する)。
【0028】
循環開始後2分30秒間は透析液出口側の牛血を捨てる。循環開始1時間後に血液側入口、出口の牛血、さらに濾液をサンプリングし、牛血を遠心分離により血清に分離したあと、商品名A/G B−テストワコー(和光純薬)のBCG(ブロムクレゾールグリーン)法キットによって分析し、その濃度からアルブミン透過率(%)を算出した。また、濾液の濃度算出に当たっては、アルブミンの検量線を作成する目的でキット付属の血清アルブミンを適宜希釈して作成した。
【0029】
アルブミン透過率(%)=(2×CF)×100/(CBi+CBo)
ここで、C=濾液中濃度、CB=モジュール入口濃度、CB=モジュール出口濃度とした。
【0030】
(5)元素分析法による中空糸膜中のポリビニルピロリドン含有率測定
巻き取り後の中空糸サンプルを凍結乾燥で乾固させ、その10mgをCHNレコーダーで分析し、窒素含有率からポリスルホンに対するポリビニルピロリドンの含有率を計算した。
【0031】
(6)ヒト血小板付着試験方法
18mmφのポリスチレン製の円形板に両面テープを貼り付け、そこに中空糸表面を露出させた。中空糸内表面に汚れや傷、折り目などがあると、その部分に血小板が付着し、正しい評価ができないことがあるので注意を要する。筒状に切ったFalcon(登録商標)チューブ(18mmφ、No.2051)に該円形板の中空糸面を張り付けた面が、円筒内部にくるように取り付け、パラフィルムで隙間を埋めた。この円筒管内を生理食塩水で洗浄後、生理食塩水で満たした。ヒト静脈より採血後、直ちにヘパリンを50U/mlになるように添加した。前記円筒管内の生理食塩水を廃棄後、前記血液を採決後10分以内に、円筒管内に1.0ml入れて37℃にて1時間浸透させた。その後、中空糸膜を10mlの生理食塩水で洗浄し、2.5%グルタルアルデヒド生理食塩水で血液成分の固定を行い、20mlの蒸留水にて洗浄した。洗浄した中空糸膜を常温0.5Torrにて10時間減圧乾燥をした。このフィルムを走査型電子顕微鏡の試料台に両面テープで貼り付けた。その後、スパッタリングにより、Pt−Pdの薄膜を中空糸表面膜に形成させて、試料とした。この中空糸膜の内表面をフィールドエミッション型走査型電子顕微鏡(日立社製S800)にて倍率1500倍で内表面を観察し、1視野中(4.3×10μm)の血小板付着数を数えた。中空糸長手方向における中央付近で、異なる5視野での付着血小板数の平均値を血小板付着数(個/4.3×10μm)とした。中空糸長手方向における端の部分は、血液溜まりができやすい為である。
【0032】
(実施例1)
以下実施例において、「部」は「重量部」を意味する。
【0033】
ポリスルホン(ソルベー社 Udel−P1700、低ダイマーグレード)19部、ポリビニルピロリドン(ISP社K90 重量平均分子量120万)5部をジメチルアセトアミド75部、水1部に加え、加熱溶解した。この原液を表面温度50℃の紡糸口金部へ送り、外径0.35mm、内径0.25mmの2重スリット管から芯液としてジメチルアセトアミド67部からなる溶液を吐出させ、内径200μm、膜厚40μmの中空糸膜を形成させた後、350mmの乾式部を通過させ、40℃の凝固浴(ジメチルアセトアミド20部)、75℃の水洗工程、90℃の熱水処理浴を通過させた後、150℃に加熱してある乾燥機内(滞留長46m)で乾燥させ150℃のクリンパで中空糸にクリンプをかけた後、カセにて巻き取った。この時、凝固浴出のローラー速度が30m/minになるように調整した。オンライン乾燥時に起こるつぶれは800本中0本だった。さらに中空糸を巻き取り、モジュールケースに組み込みポッティング後のモジュール端面を観察したところ9,900本ある中空糸のうちつぶれ糸は0本だった。該中空糸膜を20本抜き取り、プラスチック管モジュールを作成後、透水性能を測定すると267ml/hr/m/mmHg、牛血清透過性能は30.22ml/hr/m/mmHg、アルブミン透過率は0.91%だった。血小板付着試験は1個/4.3×10μm、また最終的な膜内のポリスルホンに対するポリビニルピロリドンの含有率は5.0wt%だった。
【0034】
(実施例2)
ポリスルホン(ソルベー社 Udel−P1700)18部、ポリビニルピロリドン(ISP社K90 重量平均分子量120万)4部をジメチルアセトアミド77部、水1部に加え、加熱溶解した。この原液を、ジメチルアセトアミド65部からなる芯液を用いて、実施例1と同じ工程で製膜して、乾燥機に通したところ、乾燥つぶれが1200本中0本だった為、クリンプ糸を採取した。該中空糸膜性能は、透水性能380ml/hr/m/mmHg、牛血清透過性能は40.56ml/hr/m/mmHg、アルブミン透過率1.2%だった。血小板付着試験は4個/4.3×10μm、また最終的な膜内のポリスルホンに対するポリビニルピロリドンの含有率は4.2wt%だった。
【0035】
(実施例3)
ポリスルホン(ソルベー社 Udel−P1700、低ダイマーグレード)20部、ポリビニルピロリドン(ISP社K90 重量平均分子量120万)5部をジメチルアセトアミド74部、水1部に加え、加熱溶解した。この原液を、ジメチルアセトアミド67部からなる芯液を用いて、実施例1と同じ工程で製膜して、乾燥機に通したところ、乾燥つぶれが800本中0本だった為、クリンプ糸を採取した。さらに中空糸を巻き取り、モジュールケースに組み込みポッティング後のモジュール端面を観察したところ9,900本ある中空糸のうちつぶれ糸は0本だった。該中空糸膜性能は、透水性能302ml/hr/m/mmHg、牛血清透過性能は37.63ml/hr/m/mmHg、アルブミン透過率は1.13%だった。血小板付着試験は1個/4.3×10μm、また最終的な膜内のポリスルホンに対するポリビニルピロリドンの含有率は4.9wt%だった。しかし、ポリスルホンを20wt%加えた原液は紡糸時に原液配管内にあるフィルター圧が上昇した。これはポリスルホンに含まれるサイクリックダイマーが起因しており、口金温度50℃でポリスルホンを20wt%加えた場合、サイクリックダイマーの溶解値が溶媒に対して飽和状態であることが示唆される為、ポリスルホン組成20wt%以上の連続製膜は困難であると考えられる。
(比較例1)
ポリスルホン(ソルベー社 Udel−P1700)17部、ポリビニルピロリドン(ISP社K90 重量平均分子量120万)5部をジメチルアセトアミド77部、水1部に加え、加熱溶解した。この原液を、ジメチルアセトアミド68部からなる芯液を用いて、実施例1と同じ工程で製膜して、乾燥機に通したところ、乾燥つぶれが800本中150本だった為、クリンパ工程は省略し、乾燥ストレート糸を採取した。該中空糸膜性能は、透水性能540ml/hr/m/mmHg、牛血清透過性能は44.06ml/hr/m/mmHg、アルブミン透過率は1.3%だった。血小板付着試験は7個/4.3×10μm、また最終的な膜内のポリスルホンに対するポリビニルピロリドンの含有率は5.6wt%だった。
(比較例2)
ポリスルホン(ソルベー社 Udel−P1700)17部、ポリビニルピロリドン(ISP社K90 重量平均分子量120万)4部をジメチルアセトアミド78部、水1部に加え、加熱溶解した。この原液を、ジメチルアセトアミド65部からなる芯液を用いて、実施例1と同じ工程で製膜して、乾燥機に通したところ、乾燥つぶれが800本中40本だった為、クリンパ工程は省略し、乾燥ストレート糸を採取した。該中空糸膜性能は、透水性能445ml/hr/m/mmHg、牛血清透過性能は45.99ml/hr/m/mmHg、アルブミン透過率は1.4%だった。血小板付着試験を行うと29個/4.3×10μm、また最終的な膜内のポリスルホンに対するポリビニルピロリドンの含有率は4.1wt%だった。
(比較例3)
ポリスルホン(ソルベー社 Udel−P3500)16部、ポリビニルピロリドン(ISP社K30 重量平均分子量4万)4部、ポリビニルピロリドン(ISP社K90 重量平均分子量120万)2部をジメチルアセトアミド77部、水1部を加え、加熱溶解した。この原液を、ジメチルアセトアミド62.5部からなる芯液を用いて、実施例1と同じ工程で製膜して、乾燥機に通したところ、乾燥つぶれが1200本中0本だった為、クリンプ糸を採取した。該中空糸膜性能は、透水性能676ml/hr/m/mmHg、牛血清透過性能は41.1ml/hr/m/mmHg、アルブミン透過率は1.2%だった。血小板付着試験は81個/4.3×10μm、また最終的な膜内のポリスルホンに対するポリビニルピロリドンの含有率は2.9wt%だった。
【0036】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空糸膜を紡糸後、オンライン上で乾燥する中空糸膜の製造方法において、該中空糸膜の製膜原液における溶質がポリスルホン系高分子と親水性高分子からなり、全高分子に対する親水性高分子の含有率が15wt%以上25wt%以下であり、該原液中のポリスルホン系高分子の含有率が18wt%以上であることを特徴とする中空糸膜の製造方法。
【請求項2】
該全高分子に対する親水性高分子の含有率が15wt%以上21wt%以下であることを特徴とする請求項1記載の中空糸膜の製造方法。
【請求項3】
製膜時の紡糸速度が30m/min以上であることを特徴とする請求項1又は2記載の中空糸膜の製造方法。
【請求項4】
オンライン乾燥時の乾燥機内温度が160℃以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の中空糸膜の製造方法。
【請求項5】
該中空糸内径が180μm以上220μm以下であり、中空糸膜厚が30μm以上50μm以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の中空糸膜の製造方法。
【請求項6】
該親水性高分子がポリアルキレンオキサイド、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリヒドロキシエチルメタクリレート、ポリアクリルアミド、ポリエチレンイミンおよびそれらの誘導体から選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の中空糸膜の製造方法。
【請求項7】
製膜原液に含まれる全親水性高分子における重量平均分子量が100万以上の親水性高分子含有率が90wt%以上であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の中空糸膜の製造方法。
【請求項8】
得られた中空糸膜のアルブミンふるい係数が2.0%以下であること特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の中空糸膜の製造方法。
【請求項9】
得られた中空糸膜の透水性能が100ml/hr/m/mmHg以上であること特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の中空糸膜の製造方法。
【請求項10】
該中空糸膜を蒸気によって滅菌することを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の中空糸膜の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載の中空糸膜を内蔵することを特徴とする医療用モジュールの製造方法。

【公開番号】特開2006−187768(P2006−187768A)
【公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−355969(P2005−355969)
【出願日】平成17年12月9日(2005.12.9)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】