説明

ポリパラフェニレンテレフタルアミド短繊維およびその用途

【課題】PPTA短繊維本来の高耐熱性および高ヤング率を保持しながら、イオン含有率が小さく、特に電気・電子部品として有用な短繊維およびその用途を提供する。
【解決手段】結晶サイズ(110面)が50オングストローム以下であり、直径1〜20μm、アスペクト比が50〜5000とした繊維を、20℃の水で抽出処理し、Na+イオン含有量が1.0重量%以下であることを特徴とするポリパラフェニレンテレフタルアミド短繊維。この短繊維は、絶縁・低誘電材料、樹脂複合体、ゴム複合体、プリント配線板用シート状構造物に用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はイオン含有率が小さく、高ヤング率で、寸法安定性が良好で、かつ耐熱性および絶縁性に優れたポリパラフェニレンテレフタルアミド短繊維、その製造方法およびその用途に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、ポリパラフェニレンテレフタルアミド(以下PPTAと略称する)短繊維は、優れた強度、耐熱性および高ヤング率を有するため、産業用、特殊衣料用短繊維として用いられている。
【0003】
PPTA繊維は紡糸時にポリマー溶解の溶媒として濃硫酸を用い液晶状態とした後、口金によるせん断を与えて結晶化度の高い糸に形成される。溶媒である濃硫酸は紡糸直後に水洗およびアルカリによる中和処理され、200℃以上で乾燥・熱処理された後、フィラメントとして巻き取られることが知られている(米国特許第3,767,756号)。
【0004】
このようにして得られた繊維を、カッターなどでアスペクト比50〜5000となるよう切断、あるいは機械的せん断を与えてフィブリル化するように加工することでPPTA短繊維が得られる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このようにして得られる短繊維は、中和によって形成された塩が繊維中に取り込まれており、通常0.5〜3重量%の塩を含んだ短繊維となってしまう。例えば中和の際に水酸化ナトリウムを用いた場合、塩を構成するイオンとしてはNa+とSO42−が主なものでモル比はおよそ2:1である。
【0006】
この塩は、多湿条件下で短繊維を使用した場合、水の介在でイオン化し、電気絶縁性を要求される場合、など通電の障害となることがある。
【0007】
一方、PPTA短繊維から作った、紙、樹脂複合体、ゴム複合体あるいは織物は、そのポリマー構造から、電子・絶縁材料として用いた場合に絶縁・低誘電材料として良好な寸法安定性、加工性、高ヤング率、高温処理による低収縮性などの優れた特徴を発揮することが知られている。ところが、このような要因による通電が問題となる場合、例えばプリント配線板の材料として用いられた場合などではイオンを介したマイグレーションの要因となる可能性があり、用途展開が制限されることがあった。
【0008】
本発明の目的は上記従来技術の欠点を解消し、PPTA短繊維本来の高耐熱性および高ヤング率を保持しながら、イオン含有率が小さく、特に電気・電子部品として有用な繊維およびその用途を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上記課題を解決するため、次の手段をとるものである。
【0010】
(1)結晶サイズ(110面)が50オングストローム以下であり、かつアルカリイオン含有量が1.0重量%以下、直径1〜20μm、アスペクト比が50〜5000であることを特徴とするポリパラフェニレンテレフタルアミド短繊維。
【0011】
(2)結晶サイズ(110面)が50オングストローム以下であり、かつアルカリイオン含有量が1.0重量%以下であり、長さ0.5〜50mmのフィブリル化したことを特徴とするポリパラフェニレンテレフタルアミド短繊維。
【0012】
(3)アルカリイオン含有量が0.5重量%以下であることを特徴とする上記(1)〜(2)いずれか記載のポリパラフェニレンテレフタルアミド短繊維。
【0013】
(4)水含有量が15〜100重量%であることを特徴とする上記(1)〜(3)いずれか記載のポリパラフェニレンテレフタルアミド短繊維。
【0014】
(5)上記(1)〜(4)いずれか記載の短繊維を脱イオン処理することにより、アルカリイオン含有量を0.2重量%以下にしたことを特徴とするポリパラフェニレンテレフタルアミド短繊維。
【0015】
(6)上記(5)記載の繊維を熱処理することにより、結晶サイズを50オングストローム以上にしたことを特徴とするポリパラフェニレンテレフタルアミド短繊維。
【0016】
(7)アルカリイオンがNa+、K+、Mg2+、Ca2+、NH4+から選ばれたイオンであることを特徴とする上記(1)〜(6)いずれか記載のポリパラフェニレンテレフタルアミド短繊維。
【0017】
(8)上記(5)または(6)記載のポリパラフェニレンテレフタルアミド短繊維を用いたことを特徴とする絶縁・低誘電材料。
【0018】
(9)上記(5)または(6)記載のポリパラフェニレンテレフタルアミド短繊維を用いたことを特徴とする樹脂複合体。
【0019】
(10)上記(5)または(6)記載のポリパラフェニレンテレフタルアミド短繊維を用いたことを特徴とするゴム複合体。
【0020】
(11)上記(5)または(6)記載のポリパラフェニレンテレフタルアミド短繊維を用いたことを特徴とするプリント配線板用シート状構造物。
【発明の効果】
【0021】
本発明の熱処理前のPPTA繊維は、脱イオン処理することにより、Na+含有量をさらに減らすことができる。また、熱処理後のPPTA繊維はNa+含有量が少なく、各種用途に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明におけるポリパラフェニレンテレフタルアミド(PPTA)とは、テレフタル酸とパラフェニレンジアミンを重縮合して得られる重合体であるが、少量のジカルボン酸およびジアミンを共重合したものも使用でき、重合体または共重合体の分子量は通常20,000〜25,000が好ましい。
【0023】
PPTA繊維は、PPTAを濃硫酸に溶解し、その粘調な溶液を紡糸口金から押し出し、空気中または水中に紡出することによりフィラメント状にした後、水酸化ナトリウム水溶液で中和し、最終的には120〜500℃の乾燥・熱処理をして得られる。乾燥・熱処理前のPPTA繊維は結晶サイズ(110面)が50オングストローム以下であり、乾燥・熱処理後では50オングストロームを超えるのが普通である。
【0024】
本発明の一つである、熱処理前のPPTA短繊維は、短繊維の結晶サイズが50オングストローム以下であり、かつアルカリイオン含有量が1.0%以下である必要がある。結晶サイズ50オングストロームを超えるとアルカリイオンを抽出することが困難となる。また、アルカリイオン含有量が1.0%を超えると本発明の目的である電気・電子分野への用途が制限される。そして、好ましくは結晶サイズが35〜45オングストロームであり、アルカリイオン含有量が0.5重量%以下である。
【0025】
また、本発明の熱処理前のPPTA短繊維の水含有量は15〜100重量%に保たれていることが好ましい。このような含水率にするには紡糸したPPTA繊維を100〜150℃で5〜20秒間低温乾燥することが好ましい。乾燥温度が100℃未満では水分の除去が難しく、150℃を超えると結晶化が進み、その後の脱イオンができなくなる傾向がある。このようにして得られた繊維を、カッターなどでアスペクト比50〜5000となるよう切断、あるいはフィブリル化するよう機械加工し、目的とするPPTA短繊維が得られる。
【0026】
本発明においてはこのような物性を有する熱処理前のPPTA短繊維を脱イオン処理する。脱イオン処理の条件は特に限定されないが、通常、水または温水で洗浄、あるいは抽出することが好ましい。そして、脱イオン処理されたPPTA短繊維のアルカリイオン含有量は0.2重量%以下であることが好ましい。このようにして得られるPPTA短繊維は、その後150〜500℃の温度で熱処理することにより、結晶サイズを50オングストローム以上にすることができる。
【0027】
したがって、本発明の一つである、熱処理後のPPTA短繊維は、結晶サイズが50オングストローム以上であり、かつアルカリイオン含有量が0.2重量%以下である。
【0028】
本発明のPPTA短繊維の製造方法の代表例としては、PPTAを濃硫酸に溶解して、18〜20重量%の粘調な溶液とし、これを紡糸口金から吐出して、わずかの間空気中に紡出後、水中へ紡糸する。この時、口金吐出時のせん断速度を25,000〜50,000sec−1にするのが好ましい。その後、紡糸浴中で凝固した繊維を水酸化ナトリウム水溶液で中和処理した後、100〜150℃で、好ましくは5〜20秒間乾燥する。このようにして得られた繊維を、カッターなどでアスペクト比50〜5000となるよう切断、あるいはフィブリル化するよう機械加工し、目的とするPPTA短繊維が得られる。このようにして、本発明の熱処理前のPPTA短繊維が得られる。その後、この熱処理前の短繊維を水で抽出し、脱イオン処理し、アルカリイオン含有量が0.2重量%以下となってから150〜500℃の温度で熱処理を行い、本発明の熱処理後のPPTA短繊維を得る。
【0029】
本発明のPPTA短繊維は各種用途に有用である。まず、本発明のPPTA短繊維をバインダーと共に水中に分散させ、これを抄くことにより紙を得ることができる。あるいは本フィブリル化した構造を積極的に用いることで紙のバインダーとして用いることもできる。この紙はPPTAの優れた性質を有すると共に、アルカリイオン含有量が少ないため、絶縁性に優れ、電気・電子部品に最適である。
【0030】
そのほか、本発明のPPTA短繊維は、その優れた性質を利用して、樹脂複合体、ゴム複合体、スパン糸、スパン糸を用いた織物、編み物、不織布などの布帛、さらにプリント配線板用シート状物などに有用である。
【実施例】
【0031】
以下、実施例を示すが、実施例中の物性は次の測定法にしたがった。
【0032】
(1)Na+含有量
試料約0.5gを白金皿に採取し、硫酸に溶かしてガスバーナーおよび電気炉で灰化する。得られた灰化物を硫酸、硝酸およびふっ化水素酸で加熱分解し、希硝酸に溶かして定溶液とする。得られた定溶液中のNaの測定を原子吸光分析法で行う。
【0033】
(2)水含有量
試料約5gの重量を測定し、300℃×20分の熱処理を行い、標準状態で5分間放置した後、再度重量を測定する。ここで使う水分率は、[乾燥前重量−乾燥後重量]/[乾燥後重量]で得られるドライベース水分率である。
【0034】
(3)結晶サイズ
試料を長さ4cm、重さ20mgに調製し、コロジオン溶液で固める。次に広角X線回折(ディフラクトメーター)法を用いデータを採取する。得られた2θ/θ強度データのうち、110方向の面の半値幅から、Scherrerの式を用いて計算する。
【0035】
実施例1
通常の方法で得られたPPTA(分子量約20,000)1kgを4kgの濃硫酸に溶解し、直径0.1mmのホールを1000個有する口金からせん断速度30,000sec−1となるよう吐出し、4℃の水中に紡糸した後、10%の水酸化ナトリウム水溶液で、10℃×15秒の条件で中和処理し、その後、110℃×15秒間の低温乾燥をし、このようにして得られた繊維を、カッターでアスペクト比300となるよう切断し、熱処理前のPPTA短繊維を得た。
【0036】
この熱処理前のPPTA短繊維の性質を表1に示す。
【0037】
このPPTA短繊維を20℃×1時間の条件で、水で抽出処理し、脱イオンを行い、その後400℃×30秒間熱処理を行った。この熱処理後のPPTA短繊維の物性を表1に示す。
【0038】
比較例1
中和処理後、低温乾燥を行わず、ただちに実施例1と同様の熱処理を行い、切断、その後、実施例と同じ抽出処理を行った。得られたPPTA繊維の物性を表1に示す。
【0039】
実施例2
実施例1および比較例1で得られたPPTA繊維を用いて、公知の方法で紙を製造し、プリント配線板シートとして用いた。その結果、実施例1のものは優れた絶縁性と耐久性を示したが、比較例1のものは絶縁性に問題があった。
【0040】
【表1】


表1の結果から、PPTA繊維を熱処理する前に、脱イオン処理することにより、Na+含有量を減らし、絶縁性に優れたPPTA繊維を得ることができることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶サイズ(110面)が50オングストローム以下であり、かつアルカリイオン含有量が1.0重量%以下、直径1〜20μm、アスペクト比が50〜5000であることを特徴とするポリパラフェニレンテレフタルアミド短繊維。
【請求項2】
結晶サイズ(110面)が50オングストローム以下であり、かつアルカリイオン含有量が1.0重量%以下であり、長さ0.5〜50mmのフィブリル化したことを特徴とするポリパラフェニレンテレフタルアミド短繊維。
【請求項3】
アルカリイオン含有量が0.5重量%以下であることを特徴とする請求項1〜2いずれか記載のポリパラフェニレンテレフタルアミド短繊維。
【請求項4】
水含有量が15〜100重量%であることを特徴とする請求項1〜3いずれか記載のポリパラフェニレンテレフタルアミド短繊維。
【請求項5】
請求項1〜4いずれか記載の短繊維を脱イオン処理することにより、アルカリイオン含有量を0.2重量%以下にしたことを特徴とするポリパラフェニレンテレフタルアミド短繊維。
【請求項6】
請求項5記載の繊維を熱処理することにより、結晶サイズを50オングストローム以上にしたことを特徴とするポリパラフェニレンテレフタルアミド短繊維。
【請求項7】
アルカリイオンがNa+、K+、Mg2+、Ca2+、NH4+から選ばれたイオンであることを特徴とする請求項1〜6いずれか記載のポリパラフェニレンテレフタルアミド短繊維。
【請求項8】
請求項5または6記載のポリパラフェニレンテレフタルアミド短繊維を用いたことを特徴とする絶縁・低誘電材料。
【請求項9】
請求項5または6記載のポリパラフェニレンテレフタルアミド短繊維を用いたことを特徴とする樹脂複合体。
【請求項10】
請求項5または6記載のポリパラフェニレンテレフタルアミド短繊維を用いたことを特徴とするゴム複合体。
【請求項11】
請求項5または6記載のポリパラフェニレンテレフタルアミド短繊維を用いたことを特徴とするプリント配線板用シート状構造物。

【公開番号】特開2006−176950(P2006−176950A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−34075(P2006−34075)
【出願日】平成18年2月10日(2006.2.10)
【分割の表示】特願平9−365059の分割
【原出願日】平成9年12月19日(1997.12.19)
【出願人】(000219266)東レ・デュポン株式会社 (288)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】