説明

ポリビニルアルコール系フィルム、ポリビニルアルコール系フィルムの製造方法、偏光フィルム及び偏光板

【課題】 延伸性に優れ、かつ染色ムラの少ない、偏光フィルムなどの光学フィルム用途に適したポリビニルアルコール系樹脂フィルムを提供すること。
【解決手段】 ポリビニルアルコール系樹脂(A)を含有するフィルム形成材料を製膜してなるポリビニルアルコール系フィルムであり、かつ、フィルムを30℃の水に5分間浸漬し膨潤させた時の幅(TD)方向の膨潤度(XTD)と機械(MD)方向の膨潤度(XMD)の比(XTD/XMD)が1.000〜1.020であるポリビニルアルコール系フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリビニルアルコール系フィルム、とりわけ偏光フィルム用のポリビニルアルコール系フィルムに関し、更に詳しくは、延伸性に優れ、かつ染色ムラの少ない偏光フィルムを得ることができるポリビニルアルコール系フィルム及びかかるポリビニルアルコール系フィルムの製造方法、並びに偏光フィルム、偏光板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリビニルアルコール系フィルムは、ポリビニルアルコール系樹脂を水などの溶媒に溶解して原液を調製した後、溶液流延法(キャスティング法)により製膜して、金属加熱ロール等を使用して乾燥することにより製造される。このようにして得られたポリビニルアルコール系フィルムは、透明性に優れたフィルムとして多くの用途に利用されており、その有用な用途の一つに偏光フィルムが挙げられる。かかる偏光フィルムは液晶ディスプレイの基本構成要素として用いられており、近年では高品位で高信頼性の要求される機器へとその使用が拡大されている。
【0003】
このような中、液晶テレビなどの画面の高輝度化、高精細化に伴い、従来品より一段と光学特性に優れた偏光フィルムが要求されている。
偏光フィルムは、その原料であるポリビニルアルコール系フィルムをヨウ素などの二色性染料で染色し、延伸することにより、二色性染料が配向するため、配合性、即ち、偏光性能を向上させるためには延伸倍率を高くする必要があった。
【0004】
かかる要求に対して、ポリビニルアルコール系樹脂の改善を図り偏光フィルムを得たものとして、例えば、シンジオタクティシティが55%以上であり、ω−ヒドロキシ−α−オレフィン基、オキシアルキレン基及びアミド基の中から選ばれる1種以上の親水性の官能基を0.01〜1モル%含有するポリビニルアルコール系重合体からなる偏光フィルムの原反用ポリビニルアルコールフィルムが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
また、液晶テレビなどの画面の大型化に伴い、従来より一段と偏光性能、特に偏光性能の面内均一性に優れた偏光フィルムが要望されている。
【0005】
偏光性能の面内均一性に優れた偏光フィルムを得るためには、偏光フィルムの原反フィルムとなるポリビニルアルコール系フィルムが光学的に均質であること、特に面内のリターデーション値の均一性が重要となる。
【0006】
かかる対策として、例えば、フィルム幅2m以上であって、幅方向に1cm離れた二点間のリターデーション値の差が5nm以下で、かつ幅方向に1m離れた二点間のリターデーション値の差が50nm以下であるポリビニルアルコール系フィルム(例えば、特許文献2参照。)や、幅3m以上であり、フィルム面内のリターデーション値が30nm以下、かつ、フィルム幅方向における、フィルム面内のリターデーション値のふれが15nm以下であるポリビニルアルコール系フィルムが提案されている(例えば、特許文献3参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−201626号公報
【特許文献2】特開2002−28939号公報
【特許文献3】特開2007−137042号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献1の開示技術では、得られるポリビニルアルコール系フィルムは、延伸性に優れた偏光フィルムを得ることができるものの、延伸する温度が20〜40℃に制限され、実質的な最大延伸倍率は5.3倍程度であり、まだまだ満足のいく延伸性ではなかった。
【0009】
また、近年の液晶ディスプレイの高輝度化、高精細化に伴う更なる偏光フィルムの高透過率化に対応すべく、偏光フィルムの面内均一性の要求はますます高くなっており、上記特許文献2及び3をもってしても更なる改良が求められるものであった。
【0010】
そこで、本発明ではこのような背景下において、延伸性に優れ、かつ染色ムラの少ない偏光フィルムを得ることができるポリビニルアルコール系フィルム及びその製造方法を提供すること、更にはかかるポリビニルアルコール系フィルムからなる偏光フィルム、並びに偏光板を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
しかるに、本発明者等が上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、ポリビニルアルコール系フィルムの膨潤挙動に着目したところ、フィルムの機械(MD)方向の膨潤度(XMD)に対する幅(TD)方向の膨潤度(XTD)を同等かまたは若干大きくするものの、その比(XTD/XMD)を従来フィルムより小さく制御することにより、延伸性に優れ、かつ染色ムラの少ない偏光フィルムを得ることができるポリビニルアルコール系フィルムが得られることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
即ち、本発明の要旨は、ポリビニルアルコール系樹脂(A)を含有するフィルム形成材料を製膜してなるポリビニルアルコール系フィルムであり、かつ、フィルムを30℃の水に5分間浸漬し膨潤させた時の幅(TD)方向の膨潤度(XTD)と機械(MD)方向の膨潤度(XMD)の比(XTD/XMD)が1.000〜1.020であるポリビニルアルコール系フィルムに関するものである。
【0013】
また、本発明は、前記ポリビニルアルコール系フィルムの製造方法、更に、前記ポリビニルアルコール系フィルムからなる偏光フィルム、偏光フィルムの少なくとも片面に保護膜を設けてなる偏光板も提供するものである。
【0014】
なお、従来、ポリビニルアルコール系フィルムを製造するに際しては、通常、ポリビニルアルコール系樹脂水溶液を流延製膜し、複数の熱ロールを用いて乾燥、熱処理が行われてきた。その際フィルム機械(MD)方向にはある程度張力をかけざるを得ないものであり、このときにフィルム幅(TD)方向の収縮、更に熱ロールでの乾燥によるフィルム幅(TD)方向の収縮が生じる。得られるポリビニルアルコール系フィルムにおいては、水中で膨潤させるとその幅(TD)方向の膨潤度が大きくなってしまい、結果として、幅(TD)方向の膨潤度(XTD)と機械(MD)方向の膨潤度(XMD)の比(XTD/XMD)が大きくなってしまう。偏光フィルムを製造する際に、幅方向の膨潤度が大きいとフィルムが均一に膨潤せず、染色ムラや延伸ムラが発生する。そこで、本発明においては、前記の通り、染色ムラや延伸ムラの発生を抑制するため、ポリビニルアルコール系フィルムの膨潤挙動に着目して、従来フィルムよりも所定の膨潤度比を小さくすることを見出したものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明のポリビニルアルコール系フィルムは、延伸性に優れ、かつ染色ムラの少ない偏光フィルムを得ることができるといった効果を有するものである。そして、かかるポリビニルアルコール系フィルムは、偏光サングラスや液晶テレビなどの液晶表示装置などに用いられる偏光フィルムの原反フィルムや1/2波長板や1/4波長板に用いられる原反フィルム、液晶表示装置に用いられる位相差フィルムの原反フィルムとして非常に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明を詳細に説明する。
本発明のポリビニルアルコール系フィルムは、ポリビニルアルコール系樹脂(A)を含有するフィルム形成材料を製膜してなるポリビニルアルコール系フィルムであり、かつ、フィルムを30℃の水に5分間浸漬し膨潤させた時の幅(TD)方向の膨潤度(XTD)と機械(MD)方向の膨潤度(XMD)の比(以下、「膨潤度比」と略記することがある。)(XTD/XMD)が1.000〜1.020である。
【0017】
ここで、機械(MD)方向および幅(TD)方向の膨潤度とは、30℃の水に5分間浸漬させた時の幅(TD)方向の伸び率および機械(MD)方向の伸び率のことであり、以下の通りにして測定される。
【0018】
即ち、フィルムを10cm×10cm角に機械(MD)方向、幅(TD)方向と平行になるように切り出し、平坦なガラス板上に載せ、MD方向、およびTD方向の寸法を各々ノギスにて計測する。次に、30℃に調整されたイオン交換水槽に5分間浸漬させた後、フィルムを取り出し、直ちに、平坦なガラス板上に載せ、MD方向、およびTD方向の寸法を各々ノギスにて計測する。機械(MD)方向および幅(TD)方向の膨潤度、さらに面積膨潤度は、上記計測した値を使い下式により得られる。なお、上記操作は23℃、50%RHの環境下で行われる。
【0019】
機械(MD)方向の膨潤度(XMD)(%)
=(浸漬後のMD方向の寸法/浸漬前のMD方向の寸法)×100
幅(TD)方向の膨潤度(XTD)(%)
=(浸漬後のTD方向の寸法/浸漬前のTD方向の寸法)×100
面積膨潤度(Y)(%)
=(MD方向の膨潤度/100)×(TD方向の膨潤度/100)×100
【0020】
本発明においては、前記膨潤度比(XTD/XMD)が1.000〜1.020であることが必要であり、好ましくは1.000〜1.015、特に好ましくは1.001〜1.015である。かかる値が上記範囲未満では延伸性に劣ることとなり、上記範囲を超えると偏光フィルムにした場合の染色ムラが生じることとなる。
【0021】
ポリビニルアルコール系フィルムの機械(MD)方向の膨潤度(XMD)(%)の範囲としては、110〜130%であることが好ましく、特には112〜128%、更には114〜126%であることが好ましい。かかる範囲が小さすぎると偏光フィルム作製時に延伸性が劣る傾向があり、大きすぎると偏光フィルムにした場合に偏光性能が劣る傾向がある。
【0022】
ポリビニルアルコール系フィルムの幅(TD)方向の膨潤度(XTD)(%)の範囲としては、110〜130%であることが好ましく、特には112〜128%、更には114〜126%であることが好ましい。かかる範囲が小さすぎると偏光フィルム作製時に延伸性が劣る傾向があり、大きすぎると偏光フィルムにした場合に染色ムラが生じる傾向がある。
【0023】
また、本発明のポリビニルアルコール系フィルムは、フィルムを30℃の水に5分間浸漬し膨潤させた時の面積膨潤度(Y)が130〜170%であることが延伸性や偏光特性の点で好ましく、特に好ましくは135〜165%、更に好ましくは140〜160%である。かかる面積膨潤度(Y)が小さすぎると延伸時に破断し易くなる傾向があり、大きすぎると偏光特性が低下する傾向がある。
【0024】
上記のような本発明のポリビニルアルコール系フィルムは、ポリビニルアルコール系樹脂(A)を含有するフィルム形成材料を用いて流延製膜される。
【0025】
ポリビニルアルコール系樹脂(A)としては、通常、未変性のポリビニルアルコール系樹脂、即ち、酢酸ビニルを重合して得られるポリ酢酸ビニルをケン化して製造される樹脂が用いられる。必要に応じて、酢酸ビニルと、少量(例えば、10モル%以下、好ましくは5モル%以下)の酢酸ビニルと共重合可能な成分との共重合体をケン化して得られる樹脂を用いることもできる。酢酸ビニルと共重合可能な成分としては、例えば、不飽和カルボン酸(塩、エステル、アミド、ニトリル等を含む)、炭素数2〜30のオレフィン類(エチレン、プロピレン、n−ブテン、イソブテン等)、ビニルエーテル類、不飽和スルホン酸塩等が挙げられる。
【0026】
また、ポリビニルアルコール系樹脂(A)として、側鎖に1,2−グリコール結合を有するポリビニルアルコール系樹脂を用いることもできる。かかる側鎖に1,2−グリコール結合を有するポリビニルアルコール系樹脂は、例えば、(i)酢酸ビニルと3,4−ジアセトキシ−1−ブテンとの共重合体をケン化する方法、(ii)酢酸ビニルとビニルエチレンカーボネートとの共重合体をケン化及び脱炭酸する方法、(iii)酢酸ビニルと2,2−ジアルキル−4−ビニル−1,3−ジオキソランとの共重合体をケン化及び脱ケタール化する方法、(iv)酢酸ビニルとグリセリンモノアリルエーテルとの共重合体をケン化する方法、等により得られる。
【0027】
本発明で用いるポリビニルアルコール系樹脂(A)の平均ケン化度は、通常90モル%以上であることが好ましく、特に好ましくは95モル%以上、更に好ましくは98モル%以上、殊に好ましくは99モル%以上、更に好ましくは99.5モル%以上である。平均ケン化度が小さすぎるとポリビニルアルコール系樹脂を偏光フィルムとする場合に充分な光学性能が得られない傾向がある。
ここで、本発明におけるケン化度は、残存酢酸ビニルの加水分解に要するアルカリ消費量で分析することにより得られる。
【0028】
更に、かかるポリビニルアルコール系樹脂(A)の粘度は、20℃にける4重量%水溶液粘度として、通常8〜500mPa・sであることが好ましく、特には20〜400mPa・s、更には40〜400mPa・sが好ましい。4重量%水溶液粘度が小さすぎると偏光フィルム作成時の延伸性が不足する傾向にあり、大きすぎるとフィルムの平面平滑性や透明性が低下する傾向にある。
【0029】
本発明に用いるポリビニルアルコール系樹脂(A)として、上記ポリビニルアルコール系樹脂において、変性種、平均ケン化度、粘度などの異なる2種以上のものを併用してもよい。
【0030】
本発明においては、上記ポリビニルアルコール系樹脂(A)を含有するフィルム形成材料を用いて、ポリビニルアルコール系フィルムを製造する。フィルム製造に当たっては、例えば、可塑剤(B)や界面活性剤(C)などの公知の配合剤を配合し、製造する。
【0031】
可塑剤(B)は、一般的に、偏光フィルムを製造する際の延伸性に効果的に寄与するものであり、例えば、グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン等のグリセリン類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール等のアルキレングリコール類またはポリアルキレングリコール類や、トリメチロールプロパンなどが挙げられる。これらの可塑剤(B)は単独または二種以上組み合わせて使用することができる。中でも特に好ましいものとしてはグリセリン単独、もしくはグリセリンとジグリセリンまたは、グリセリンとトリメチロールプロパンの組み合わせ等が挙げられる。グリセリンとジグリセリンを併用する場合は、通常グリセリン/ジグリセリン(重量比)=20/80〜80/20であり、グリセリンとトリメチロールプロパンを併用する場合は、通常グリセリン/トリメチロールプロパン(重量比)=20/80〜80/20であることが好ましい。
【0032】
かかる可塑剤(B)の含有量としては、ポリビニルアルコール系樹脂(A)100重量部に対して1〜35重量部であることが好ましく、特には3〜30重量部、更には7〜25重量部であることが好ましい。可塑剤(B)の含有量が少なすぎると偏光フィルムの作成時に延伸性が低下する傾向があり、多すぎると得られるポリビニルアルコール系フィルムの経時安定性が低下する傾向がある。
【0033】
また、界面活性剤(C)は、一般的に、フィルム表面の平滑性や、ロール状に巻き取る際のフィルム同士の付着を抑制する働きがあり、例えば、アニオン系界面活性剤やノニオン系界面活性を単独または二種以上組み合わせて使用することができる。特には、アニオン系界面活性剤とノニオン系界面活性剤を併用することが、フィルムの透明性の点で好ましい。
【0034】
かかるアニオン系界面活性剤としては、例えば、脂肪族アルキルスルホン酸塩、アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸塩、高級脂肪酸アルカノールアミド硫酸塩、等が挙げられ、また、これらのアニオン系界面活性剤の他にも、硫酸化油、高級アルコールエトキシサルフェート、モノグリサルフェート等の硫酸エステル塩や、脂肪酸石鹸、N−アシルアミノ酸及びその塩、ポリオキシエチレンアルキルエステルカルボン酸塩、アシル化ペプチド等のカルボン酸塩型、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸の塩ホルマリン重縮合物、メラミンスルホン酸の塩ホルマリン縮合物、ジアルキルスルホコハク酸エステル塩、スルホコハク酸アルキル二塩、ポリオキシエチレンアルキルスルホコハク酸二塩、アルキルスルホ酢酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、N−アシルメチルタウリン塩、ジメチル−5−スルホイソフタレートナトリウム塩等のスルホン酸塩型、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸塩、アルキルリン酸塩等のリン酸エステル塩型等のアニオン系界面活性剤、等を挙げることもできる。
【0035】
一方、ノニオン系界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、高級脂肪酸モノ又はジアルカノールアミド、高級脂肪酸アミド、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレン高級脂肪酸アミド、アミンオキシド、等が挙げられる。また、これらのノニオン系界面活性剤の他にも、アルキルフェノールホルマリン縮合物の酸化エチレン誘導体、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンヒマシ油および硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル等のエーテルエステル型ノニオン系界面活性剤、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸モノグリセリド、プロピレングリコール脂肪酸エステル、蔗糖脂肪酸エステル等のエステル型界面活性剤、等を挙げることもできる。
【0036】
かかる界面活性剤(C)の含有量としては、ポリビニルアルコール系樹脂(A)100重量部に対して0.01〜1重量部であることが好ましく、特に好ましくは0.02〜0.5重量部、更に好ましくは0.03〜0.2重量部である。界面活性剤(C)の含有量が少なすぎるとブロッキング防止効果が得難い傾向にあり、多すぎるとフィルムの透明性が低下する傾向にある。
【0037】
また、アニオン系界面活性剤とノニオン系界面活性剤を併用する場合には、ポリビニルアルコール系樹脂(A)100重量部に対して、アニオン系界面活性剤が0.01〜1重量部、特には0.02〜0.2重量部、更には0.03〜0.1重量部であることが好ましく、ノニオン系界面活性剤が0.01〜1重量部、特には0.02〜0.2重量部、更には0.03〜0.1重量部であることが好ましい。アニオン系界面活性剤が少なすぎると偏光フィルム作成時の染料の分散性が低下し、染色斑が多くなる傾向にあり、多すぎるとポリビニルアルコール系樹脂溶解時の泡立ちが激しく、フィルム中に気泡が混入しやすくなり光学用フィルムとして使用できなくなる傾向にあり、ノニオン系界面活性剤が少なすぎるとブロッキング防止効果が得難く、多すぎるとフィルムの透明性や平面平滑性が低下する傾向にある。
【0038】
また本発明においては、フィルムの黄変を防止するために、酸化防止剤を配合することも有用であり、フェノール系酸化防止剤等の任意の酸化防止剤が例示され、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、2,2′−メチレンビス(4−メチルー6−t−ブチルフェノール)、4,4′−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)等が好適である。酸化防止剤はポリビニルアルコール系樹脂(A)に対して2〜100ppm程度の範囲で使用されることが好ましい。
【0039】
かくして本発明では、上記ポリビニルアルコール系樹脂(A)を用いてフィルム形成材料を調製し、好ましくは上記ポリビニルアルコール系樹脂(A)に更に、可塑剤(B)及び界面活性剤(C)の少なくとも一方を用いて、フィルム形成材料を調製する。そして、かかるフィルム形成材料を製膜し、ポリビニルアルコール系フィルムを得るのである。
【0040】
<ポリビニルアルコール系フィルムの製造方法>
以下、本発明のポリビニルアルコール系フィルムの製造方法について具体的に説明する。
【0041】
本発明においては、ポリビニルアルコール系樹脂(A)、好ましくは更に可塑剤(B)及び界面活性剤(C)の少なくとも一方を用いてフィルム形成材料を調製し、フィルム形成材料の水溶液をドラム型ロールまたはエンドレスベルト、好ましくはドラム型ロールに流延して製膜、乾燥、熱処理することにより、ポリビニルアルコール系フィルムを製造する。
【0042】
本発明の製造方法において、まず、ポリビニルアルコール系樹脂(A)粉末は、通常樹脂に含有されている酢酸ナトリウムを除去するため、洗浄される。洗浄に当たっては、メタノールあるいは水で洗浄されるが、メタノールで洗浄する方法では溶剤回収などが必要になるため、水で洗浄する方法がより好ましい。
【0043】
次に、洗浄後の含水ポリビニルアルコール系樹脂(A)ウェットケーキを溶解し、ポリビニルアルコール系樹脂(A)水溶液を調製するが、かかる含水ポリビニルアルコール系樹脂(A)ウェットケーキをそのまま水に溶解すると所望する高濃度の水溶液が得られないため、一旦脱水を行うことが好ましい。脱水方法は特に限定されないが、遠心力を利用した方法が一般的である。
【0044】
前記洗浄及び脱水により、含水率50重量%以下、好ましくは30〜45重量%の含水ポリビニルアルコール系樹脂(A)ウェットケーキとすることが好ましい。含水率が多すぎると、所望する水溶液濃度にすることが難しくなる傾向がある。
【0045】
次いで、ポリビニルアルコール系フィルムの製膜に用いられるフィルム形成材料の水溶液は、溶解槽に、水、前述した脱水後の含水ポリビニルアルコール系樹脂(A)ウェットケーキ、可塑剤(B)、界面活性剤(C)などを仕込み、加温し、撹拌して溶解させることにより調製される。本発明の製造方法においては、特に、上下循環流発生型撹拌翼を備えた溶解槽中で水蒸気を吹き込んで含水ポリビニルアルコール系樹脂(A)ウェットケーキを溶解させることが、溶解性の点で好ましい。
【0046】
上下循環流発生型撹拌翼を備えた溶解槽中で水蒸気を吹き込んで含水ポリビニルアルコール系樹脂(A)ウェットケーキを溶解させる際には、水蒸気を吹き込み、樹脂温度が40〜80℃、好ましくは45〜70℃となった時点で、撹拌を開始することが均一溶解できる点で好ましい。樹脂温度が低すぎるとモーターの負荷が大きくなる傾向があり、高すぎるとポリビニルアルコール系樹脂の固まりができて均一な溶解ができなくなる傾向がある。さらに、水蒸気を吹き込み、樹脂温度が通常90〜100℃、好ましくは95〜100℃となった時点で、槽内を加圧することも均一溶解ができる点で好ましい。樹脂温度が小さすぎると未溶解物ができる傾向がある。そして、樹脂温度が130〜150℃となったところで水蒸気の吹き込みを終了し、0.5〜3時間撹拌を続け、溶解が行なわれる。溶解後は、所望する濃度となるように濃度調整が行なわれる。
【0047】
かくして得られるフィルム形成材料の水溶液の濃度は、通常10〜50重量%であることが好ましく、さらに好ましくは15〜40重量%、特に好ましくは20〜30重量%である。濃度が低すぎると乾燥負荷が大きくなり生産能力が低下する傾向があり、高すぎると粘度が高くなりすぎて均一な溶解ができにくくなる傾向がある。
【0048】
次に、得られたフィルム形成材料の水溶液は、脱泡処理される。脱泡方法としては、静置脱泡や多軸押出機による脱泡等が挙げられるが、本発明の製造方法においては、生産性の点で、多軸押出機を用いて脱泡する方法が好ましい。
【0049】
脱泡処理が行なわれたのち、多軸押出機から排出されたフィルム形成材料の水溶液は、一定量ずつT型スリットダイに導入され、ドラム型ロールまたはエンドレスベルトに流延されて、製膜、乾燥、熱処理される。
【0050】
T型スリットダイとしては、通常、細長の矩形を有したT型スリットダイが用いられる。T型スリットダイ出口の樹脂温度は通常、80〜100℃であることが好ましく、より好ましくは85〜98℃である。T型スリットダイ出口の樹脂温度が低すぎると流動不良となる傾向があり、高すぎると発泡する傾向がある。
【0051】
流延に際しては、ドラム型ロールまたはエンドレスベルトで行われるが、幅広化や長尺化、膜厚の均一性などの点からドラム型ロールで行うことが好ましい。
ドラム型ロールで流延製膜するにあたり、例えば、ドラムの回転速度は5〜30m/分であることが好ましく、特に好ましくは6〜20m/分である。ドラム型ロールの表面温度は70〜99℃であることが好ましく、より好ましくは75〜97℃である。ドラム型ロールの表面温度が低すぎると乾燥不良となる傾向があり、高すぎると発泡する傾向がある。
【0052】
ドラム型ロールで製膜されたポリビニルアルコール系フィルムの乾燥は、フィルムの表面と裏面とを複数の熱ロール群に、交互に通過させることにより行なわれる。熱ロール群の表面温度は、通常60〜100℃、さらには65〜90℃であることが好ましい。かかる表面温度が低すぎると乾燥不良となる傾向があり、高すぎると乾燥しすぎることとなり外観不良を招く傾向がある。
また本発明においては、乾燥の後、熱処理が行われる。
【0053】
熱処理については、70〜140℃というように熱処理としては比較的低温度で行うことが好ましく、特には70〜130℃で行うことが好ましい。熱処理温度が低すぎると耐水性が不足したり、熱処理斑が多くなり、光学斑の原因となる傾向があり、高すぎると偏光フィルム製造時の延伸性が低下する傾向がある。また、熱処理方法としては、例えば、(1)表面をハードクロムメッキ処理又は鏡面処理した、直径0.2〜2mのロール(1〜30本)通過させる方法、(2)フローティング型ドライヤー(長さ:2〜30m)にて行う方法等が挙げられる。
【0054】
かくして、ポリビニルアルコール系フィルムが得られるが、本発明においては、上記の製造方法の中でも特に以下の工程を含むことが本発明の特徴である膨潤度比を調整できる点で好ましい。
【0055】
即ち、ポリビニルアルコール系樹脂(A)を含有するフィルム形成材料の水溶液を第1熱ロールに流延する工程[I]、フィルム水分率が10〜25%の状態で第1熱ロールから剥離する工程[II]、少なくとも5個以上の表面温度が80〜98℃の第2熱ロール群に、フィルムの表裏を交互に通過させる工程[III]を含むものである。
【0056】
前記工程[I]において、第1熱ロールとはドラム型ロールまたはエンドレスベルトのことであり、フィルム形成材料の水溶液を第1熱ロール(ドラム型ロールまたはエンドレスベルト)に流延する。
【0057】
そして、前記工程[II]において、第1熱ロール上で乾燥され、フィルム水分率が10〜25%、好ましくは12〜20%の状態で剥離される。かかる水分率が低すぎると剥離時の張力が高くフィルムが伸びやすくなる傾向があり、高すぎると剥離時に幅方向にムラになり易い傾向がある。
【0058】
更に、前記工程[III]において、第1熱ロールから剥離されたフィルムは、少なくとも5個以上の第2熱ロール群に、フィルムの表面と裏面とが交互に通過されるように送られる。この際に、少なくとも5個以上の第2熱ロール群の表面温度はカール防止性の点から80〜98℃であることが好ましく、特には82〜95℃、更には85〜95℃であることが好ましい。かかる表面温度が低すぎると乾燥効率が悪く皺などが入り易くなる傾向があり、高すぎると乾燥ムラが生じる傾向がある。
【0059】
また、本発明においては、フィルム形成材料を流延し、乾燥、熱処理を経てフィルムが巻き取られるわけであるが、この際のドロー比については、好ましくは0.9〜1.1、特に好ましくは0.95〜1.07、更に好ましくは0.98〜1.05であり、かかるドロー比が低すぎるとフィルム搬送時にフィルムが弛み皺が入り易くなる傾向があり、高すぎるとリターデーションが高くなる傾向がある。
【0060】
ここでドロー比とは、フィルムの巻き取り速度/第1熱ロールの回転速度で求められる比をいう。なお、ドロー比としては、従来からも0.9〜1.1の範囲で行われているが、本発明においては、フィルム幅方向の膨潤ムラ抑制の点から、従来よりも低く設定して行われることが好ましい。
【0061】
また、本発明においては、ポリビニルアルコール系樹脂(A)を含有するフィルム形成材料の水溶液を流延製膜する際に、フィルムの幅方向に対して端部から全幅の5%以内の領域におけるフィルム厚み(T1)がフィルム幅中央部のフィルム厚み(T2)に対して2〜8%、好ましくは3〜7%厚くなるように製膜することも、本発明の特徴である膨潤度比を調整できる点で好ましい。かかる厚み比が小さすぎると膨潤度比(XTD/XMD)が高くなる傾向があり、大きすぎるとフィルム端部の膜厚が振れ易くなる傾向がある。
【0062】
上記フィルムの端部と中央部の厚み比をコントロールするに際しては、例えば、フィルム形成材料の水溶液をT型スリットダイよりドラム型ロールまたはエンドレスベルトに流延するときに、T型スリットダイの両端部(フィルムの幅方向に対して端部から全幅の5%以内の領域に該当する部分)のクリアランスを、中央部のクリアランスより大きくする方法などが挙げられる。両端部のクリアランスと中央部のクリアランスとの差は、フィルム厚み(T1)とフィルム厚み(T2)との厚み比の目的とする数値に応じて適宜調整される。
【0063】
また、上記のT型スリットダイの両端部のクリアランスと中央部のクリアランスとの差を設ける方法以外にも、例えば、フィルムの端部のみをニップロールにて挟む方法、フィルム端部をクリップで挟み幅を固定しながら乾燥する方法、幅方向に延伸する方法等の方法が挙げられる。
【0064】
<ポリビニルアルコール系フィルム>
かくして得られる本発明のポリビニルアルコール系フィルムは、上記の通り、所定の膨潤度比(XTD/XMD)が1.000〜1.020である。更に、本発明のポリビニルアルコール系フィルムは、上記の通り、所定の面積膨潤度(Y)が130〜170%であることが好ましい。
【0065】
また、本発明のポリビニルアルコール系フィルムは、幅方向に均一に延伸するという点でリターデーション値が10〜40nm、特には10〜30nm、更には10〜25nmであることが好ましい。
【0066】
また、本発明のポリビニルアルコール系フィルムにおいては、30℃での重量膨潤度(W)が190〜230%であることが染料の染色性の点で好ましく、特には195〜225%、更には195〜220%であることが好ましい。かかる重量膨潤度(W)が小さすぎると偏光フィルム作製時における延伸性が低下する傾向があり、大きすぎると延伸性は良くなるが、偏光フィルムの偏光性能が低下する傾向がある。
【0067】
上記の重量膨潤度(W)を上記の範囲にコントロールするには、例えば、次の方法による。ポリビニルアルコール系樹脂(A)を含むフィルム形成材料をドラム型ロールまたはエンドレスベルト、好ましくはドラム型ロールに流延した後、複数の回転加熱ロール群により表裏を交互に乾燥処理して、水分率が5〜30重量%のポリビニルアルコール系フィルムを連続的に製膜した後、次いで、フローティングドライヤー又は回転加熱ロールの温度を70〜140℃の範囲で熱処理することにより調整される。フィルム中の水分率が高すぎるとポリビニルアルコール系樹脂(A)の結晶化速度が遅くなるため、熱処理効果が得難く、水分率が低すぎて熱処理を行うと、140℃以上の熱処理が必要となるため、フィルムの重量膨潤度が低くなり過ぎたり、黄変し易くなるなど、品質が低下する傾向にある。
【0068】
但し、これらの方法に限られることなく、同一の熱処理条件であれば、可塑剤の種類や添加量によっても調整することが可能である。一般的に、可塑剤の添加量を多くすればポリビニルアルコール系樹脂(A)の結晶性が低下するため、重量膨潤度(W)は低くなる傾向がある。また、可塑剤の添加量が同じであっても、可塑剤の種類によりポリビニルアルコール系樹脂(A)の結晶化度を調整することが可能であり、ポリビニルアルコール系樹脂(A)と相溶性の良い可塑剤は、結晶性を低下させる効果が高いため、添加量を少なくすることにより重量膨潤度(W)の調整が可能となる。逆に、相溶性の悪い可塑剤は、結晶化度を低下させる効果が低いため、可塑剤の添加量を多くすることで、重量膨潤度(W)が調整できる。
さらに、同じ熱処理温度であっても、ポリビニルアルコール系樹脂(A)のケン化度や重合度によっても重量膨潤度(W)は調整することができる。さらに、フィルム製膜時の乾燥条件、例えば、高温乾燥や低温乾燥、高湿乾燥などフィルム中の水分を乾燥させる条件によっても、重量膨潤度(W)を調整してもよい。中でも、生産性の点において、フィルム製膜時の水分率が5〜30重量%となった後に、熱処理することにより重量膨潤度(W)を調整することが好ましく、可塑剤として主にグリセリンを用い、熱処理温度を70〜140℃の範囲で重量膨潤度(W)を調整することがさらに好ましい。
【0069】
なお、ここで、重量膨潤度(W)とは、以下のようにして測定されるものである。
即ち、フィルムを10cm×10cmに切り出し、30℃に調整されたイオン交換水槽に15分間浸漬する。次に、フィルムを取り出し、濾紙(5A)上にフィルムを広げて置き、さらに、濾紙(5A)をフィルムの上に重ね、その上に15cm×15cm×0.4cm(4.4g/cm2)のSUS板を5秒間載せ、フィルム表面の付着水を除去する。このフィルムを速やかに秤量瓶にいれ、重量を測定し、これを膨潤時のフィルム重量Aとする。上記操作は23℃、50%RHの環境にて行う。
次に、該フィルムを105℃の乾燥機に16時間フィルム放置し、フィルム中の水分の除去を行い、その後フィルムを取り出し、速やかに秤量瓶に入れ、重量を測定し、これを乾燥後のフィルム重量Bとする。そして、膨潤時のフィルム重量Aと乾燥後のフィルム重量Bを基に下式より求める。
重量膨潤度(%)=A/B×100
【0070】
また、本発明においては、ポリビニルアルコール系フィルムのシンジオタクティシティが40〜60%、特には45〜55%、更には50〜54%であることが好ましく、シンジオタクティシティが小さすぎると耐水性が不足し、偏光性能が低くなる傾向があり、大きすぎると延伸性が低下し、破断し易くなる傾向がある。
【0071】
かかるシンジオタクティシティを上記の範囲にコントロールするには、例えば、シンジオタクティシティの高いポリビニルアルコール系樹脂とシンジオタクティシティの低いポリビニルアルコール系樹脂をブレンドする方法や、酢酸ビニルの重合温度を変えたものをケン化する方法、ピバリン酸ビニル、トリフルオロ酢酸ビニル、トリクロロ酢酸ビニルなどのビニルエステルの重合体をケン化する方法、等がある。
【0072】
なお、ここで、シンジオタクティシティとは、以下のようにして測定されるものである。すなわち、溶媒(D2O)中のポリビニルアルコール系フィルムを13C−NMR法により測定したダイアッド(diad)表示による値である。
【0073】
更に、得られるポリビニルアルコール系フィルムは、可視光全域において、光線透過率が90%以上であり、光学用ポリビニルアルコール系フィルムとして非常に有用である。
したがって、本発明のポリビニルアルコール系フィルムは、光学フィルムの原反フィルムとして、特に偏光フィルムの原反フィルムとして好ましく用いられる。
【0074】
<偏光フィルム及び偏光板>
以下、本発明のポリビニルアルコール系フィルムを用いた本発明の偏光フィルムの製造方法について説明する。
【0075】
本発明の偏光フィルムは、通常の染色、延伸、ホウ酸架橋および熱処理などの工程を経て製造される。偏光フィルムの製造方法としては、ポリビニルアルコール系フィルムを延伸してヨウ素または二色性染料の溶液に浸漬し染色したのち、ホウ素化合物処理する方法、延伸と染色を同時に行ったのち、ホウ素化合物処理する方法、ヨウ素または二色性染料により染色して延伸したのち、ホウ素化合物処理する方法、染色したのち、ホウ素化合物の溶液中で延伸する方法などがあり、適宜選択して用いることができる。このように、ポリビニルアルコール系フィルム(未延伸フィルム)は、延伸と染色、さらにホウ素化合物処理を別々に行っても同時に行ってもよいが、染色工程、ホウ素化合物処理工程の少なくとも一方の工程中に一軸延伸を実施することが、生産性の点で望ましい。
【0076】
延伸は一軸方向に2.5〜10倍、好ましくは2.8〜7倍延伸することが望ましい。この際、延伸方向の直角方向にも若干の延伸(幅方向の収縮を防止する程度、またはそれ以上の延伸)を行っても差し支えない。延伸時の温度は、20〜170℃から選ぶのが望ましい。さらに、延伸倍率は最終的に前記範囲に設定されればよく、延伸操作は一段階のみならず、製造工程の任意の範囲の段階に実施すればよい。
【0077】
フィルムへの染色は、フィルムにヨウ素または二色性染料を含有する液体を接触させることによって行なわれる。通常は、ヨウ素−ヨウ化カリウムの水溶液が用いられ、ヨウ素の濃度は0.1〜2g/L、ヨウ化カリウムの濃度は10〜50g/L、ヨウ化カリウム/ヨウ素の重量比は20〜100が適当である。染色時間は30〜500秒程度が実用的である。処理浴の温度は5〜50℃が好ましい。水溶液には、水溶媒以外に水と相溶性のある有機溶媒を少量含有させても差し支えない。接触手段としては浸漬、塗布、噴霧などの任意の手段が適用できる。
【0078】
染色処理されたフィルムは、ついでホウ素化合物によって処理される。ホウ素化合物としてはホウ酸、ホウ砂が実用的である。ホウ素化合物は水溶液または水−有機溶媒混合液の形で濃度0.3〜2モル/L程度で用いられ、液中には10〜100g/L、ヨウ化カリウムを共存させるのが実用上望ましい。処理法は浸漬法が望ましいが、もちろん塗布法、噴霧法も実施可能である。処理時の温度は20〜60℃程度、処理時間は3〜20分程度が好ましく、また必要に応じて処理中に延伸操作を行ってもよい。
【0079】
このようにして得られる本発明の偏光フィルムは、その片面または両面に光学的に等方性の高分子フィルムまたはシートを保護フィルムとして積層接着して、偏光板として用いることもできる。本発明の偏光板に用いられる保護フィルムとしては、例えば、セルローストリアセテート、セルロースジアセテート、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリエーテルスルホン、ポリアリーレンエステル、ポリ−4−メチルペンテン、ポリフェニレンオキサイド、シクロ系ないしはノルボルネン系ポリオレフィンなどのフィルムまたはシートが挙げられる。
【0080】
また、偏光フィルムには、薄膜化を目的として、上記保護フィルムの代わりに、その片面または両面にウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ウレア樹脂などの硬化性樹脂を塗布し、積層させることもできる。
【0081】
偏光フィルム(少なくとも片面に保護フィルムあるいは硬化性樹脂を積層させたものを含む)は、その一方の表面に必要に応じて、透明な感圧性接着剤層が通常知られている方法で形成されて、実用に供される場合もある。感圧性接着剤層としては、アクリル酸ブチル、アクリル酸エチル、アクリル酸メチル、アクリル酸2−エチルヘキシルなどのアクリル酸エステルと、アクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、メタクリル酸、クロトン酸などのα−モノオレフィンカルボン酸との共重合物(アクリルニトリル、酢酸ビニル、スチロールのようなビニル単量体を添加したものも含む)を主体とするものが、偏光フィルムの偏光特性を阻害することがないので特に好ましいが、これに限定されることなく、透明性を有する感圧性接着剤であれば使用可能で、例えばポリビニルエーテル系、ゴム系などでもよい。
【0082】
本発明の偏光フィルムは、電子卓上計算機、電子時計、ワープロ、パソコン、テレビ、携帯情報端末機、自動車や機械類の計器類などの液晶表示装置、サングラス、防目メガネ、立体メガネ、表示素子(CRT、LCDなど)用反射低減層、医療機器、建築材料、玩具などに用いられる。
【実施例】
【0083】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
尚、例中「部」、「%」とあるのは、重量基準を意味する。
各物性について、次のようにして行った。
【0084】
(1)ポリビニルアルコール系樹脂の平均ケン化度(モル%)
残酢酸ビニル単位の加水分解に要するアルカリ消費で分析を行った。
【0085】
(2)ポリビニルアルコール系樹脂の4%水溶液粘度(mPa・s)
水温を20℃に調整しヘプラー粘度計により測定した。
【0086】
(3)膨潤度比(XTD/XMD
フィルムを10cm×10cm角に機械(MD)方向、幅(TD)方向と平行になるように切り出し、平坦なガラス板上に載せ、MD方向、およびTD方向の寸法を各々ノギスにて計測した。次に、30℃に調整されたイオン交換水槽に5分間浸漬させた後、フィルムを取り出し、直ちに、平坦なガラス板上に載せ、MD方向、およびTD方向の寸法を各々ノギスにて計測し、下式により算出した。なお、上記操作は23℃、50%RHの環境下で行った。
MD方向の膨潤度(XMD)(%)
=(浸漬後のMD方向の寸法/浸漬前のMD方向の寸法)×100
TD方向の膨潤度(XTD)(%)
=(浸漬後のTD方向の寸法/浸漬前のTD方向の寸法)×100
膨潤度比(XTD/XMD)=TD方向の膨潤度(XTD)/MD方向の膨潤度(XMD
【0087】
(4)面積膨潤度(Y)(%)
上記(3)の方法に準じて、MD方向の膨潤度(XMD)及びTD方向の膨潤度(XTD)を算出し、下式より算出した。
面積膨潤度(Y)(%)
=(MD方向の膨潤度/100)×(TD方向の膨潤度/100)×100
【0088】
(5)リターデーション値(nm)
リターデーション測定装置(「KOBRA−WFD」王子計測機器(株)製 測定波長:590nm)を用いて、ポリビニルアルコール系フィルムの幅方向の中央の部分のリターデーション値を測定した。
【0089】
(6)重量膨潤度(W)(%)
フィルムを10cm×10cmに切り出し、30℃に調整されたイオン交換水槽に15分間浸漬した。次に、フィルムを取り出し、濾紙(5A)上にフィルムを広げて置き、さらに、濾紙(5A)をフィルムの上に重ね、その上に15cm×15cm×0.4cm(4.4g/cm2)のSUS板を5秒間載せ、フィルム表面の付着水を除去した。このフィルムを速やかに秤量瓶にいれ、重量を測定し、これを膨潤時のフィルム重量Aとした。上記操作は23℃、50%RHの環境にて行った。
次に、該フィルムを105℃の乾燥機に16時間フィルム放置し、フィルム中の水分の除去を行い、その後フィルムを取り出し、速やかに秤量瓶に入れ、重量を測定し、これを乾燥後のフィルム重量Bとした。そして、膨潤時のフィルム重量Aと乾燥後のフィルム重量Bを基に下式より求めた。
重量膨潤度(%)=A/B×100
【0090】
<実施例1>
200Lのタンクに、ポリビニルアルコール系樹脂として、4%水溶液粘度64mPa・s、平均ケン化度99.8モル%のポリビニルアルコール系樹脂(A)42kg、水100kg、可塑剤(B)としてグリセリン4.2kg、界面活性剤(C)としてドデシルスルホン酸ナトリウム21g、ポリオキシエチレンドデシルアミン8gを入れ、撹拌しながら加圧加熱にて150℃まで昇温して、均一に溶解した後、濃度調整により濃度26%のフィルム形成材料の水溶液を得た。
【0091】
次に、フィルム形成材料の水溶液(液温147℃)を、2軸押出機に供給し、脱泡した。脱泡されたフィルム形成材料の水溶液を、T型スリットダイ(ストレートマニホールドダイ)よりドラム型ロール(熱ロール:R1)に流延して製膜した。このとき、T型スリットダイの両端部(端より150mm位置まで)のクリアランス開度を中央部のクリアランス開度に対して5%大きくしたものを用いた。
【0092】
上記流延製膜の条件は下記の通りである。
ドラム型ロール(熱ロール:R1)
直径:3200mm、幅:4.3m、回転速度:8m/分、表面温度:90℃、T型スリットダイ出口の樹脂温度:90℃
なお、ドラム型ロールから剥離する際のフィルム水分率を測定したところ17%であった。
【0093】
得られた膜の表面と裏面とを下記の条件にて乾燥ロールに交互に通過させながら乾燥を行った。
・乾燥ロールの1本目〜5本目(熱ロール:R2〜R6)
直径:320mm、幅:4.3m、回転速度:8m/分、表面温度:94℃
・乾燥ロールの6本目〜10本目(熱ロール:R7〜R11)
直径:320mm、幅:4.3m、回転速度:8m/分、表面温度:75℃
なお、乾燥後フィルムをサンプリングし、フィルム水分率を測定したところ12%であった。
【0094】
乾燥後、連続して、この膜を両面から温風を吹き付けるフローティング型ドライヤー(長さ18.5m)により、90℃で熱処理を行い、幅4m、長さ4000m、フィルム中央部の厚み60μm、フィルム端部の厚み63μmのポリビニルアルコール系フィルムを得た。
得られたポリビニルアルコール系フィルムの各物性を表1に示す。
【0095】
上記で得られた本発明のポリビニルアルコール系フィルムを用いて、以下の要領で偏光フィルムを得て、以下の評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0096】
得られたポリビニルアルコール系フィルムを、水温30℃の水槽に浸漬しつつ、1.5倍に延伸した。次に、ヨウ素0.2g/L、ヨウ化カリウム15g/Lよりなる染色槽(30℃)にて240秒浸漬しつつ1.3倍に延伸し、さらにホウ酸50g/L、ヨウ化カリウム30g/Lの組成のホウ酸処理槽(50℃)に浸漬するとともに、同時に3.08倍に一軸延伸しつつ5分間にわたってホウ酸処理を行った。その後、乾燥して総延伸倍率6倍の偏光フィルムを得た。
【0097】
<<染色ムラの評価>>
上記で得られた偏光フィルムの両面にポリビニルアルコール系水溶液を接着剤として用いて、膜厚80μmのトリアセチルセルロースフィルムを貼合し、50℃で乾燥して偏光板を得た。この偏光板について、幅方向より20cm×20cmのサンプルを切り出し、直交透過率を幅(TD)方向に2mmピッチで測定し、最大値と最小値との差を求め、染色ムラを評価した。
なお、直交透過率は、大塚電子(株)製のリターデーション測定装置「RETS−1100A」を用いて測定した。
【0098】
<<延伸性の評価>>
上記で得られたポリビニルアルコール系フィルムを用いて、上記と同様の偏光フィルムの製造において、ホウ酸処理層での延伸倍率を更に上げ、フィルムが破断するまでの延伸を行い、限界延伸倍率を測定し、延伸性を評価した。
【0099】
<実施例2及び3、比較例1及び2>
実施例1において、フィルム製膜の条件を表1に示す通りに変更した以外は同様に行い、ポリビニルアルコール系フィルムを得、更に、実施例1と同様に偏光フィルムを得た。 得られたポリビニルアルコール系フィルム、及び、偏光フィルムについて、実施例1と同様の評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0100】
【表1】

【0101】
上記実施例及び比較例の結果から、実施例品については、所定の膨潤度比(XTD/XMD)が所定範囲内であるため、偏光板における直交透過率にムラがなく、染色ムラの生じないポリビニルアルコール系フィルムとなっていることがわかり、更に、限界延伸倍率も7倍以上と非常に延伸性に優れているものであることがわかる。これに対して、比較例品においては、染色ムラ抑制と延伸性を共に満足するフィルムが得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明のポリビニルアルコール系フィルムは、ポリビニルアルコール系樹脂(A)を含有するフィルム形成材料を製膜してなるポリビニルアルコール系フィルムであり、かつ、フィルムを30℃の水に5分間浸漬し膨潤させた時の幅(TD)方向の膨潤度(XTD)と機械(MD)方向の膨潤度(XMD)の比(XTD/XMD)が1.000〜1.020であるポリビニルアルコール系フィルムであるため、延伸性に優れ、生産性を向上させるべく高い延伸倍率で延伸を行ってもフィルムが破断しないといった効果を有する。更に、染色ムラの抑制効果に優れたものであり、電子卓上計算機、電子時計、ワープロ、パソコン、テレビ、携帯情報端末機、自動車や機械類の計器類などの液晶表示装置、サングラス、防目メガネ、立体メガネ、表示素子(CRT、LCDなど)用反射低減層、医療機器、建築材料、玩具などに用いられる偏光フィルムの原反フィルムや1/2波長板や1/4波長板に用いられる原反フィルム、液晶表示装置に用いられる位相差フィルムの原反フィルムとして非常に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアルコール系樹脂(A)を含有するフィルム形成材料を製膜してなるポリビニルアルコール系フィルムであり、かつ、フィルムを30℃の水に5分間浸漬し膨潤させた時の幅(TD)方向の膨潤度(XTD)と機械(MD)方向の膨潤度(XMD)の比(XTD/XMD)が1.000〜1.020であることを特徴とするポリビニルアルコール系フィルム。
【請求項2】
上記フィルムを30℃の水に5分間浸漬し膨潤させた時の面積膨潤度(Y)が130〜170%であることを特徴とする請求項1記載のポリビニルアルコール系フィルム。
【請求項3】
リターデーション値が10〜40nmであることを特徴とする請求項1または2記載のポリビニルアルコール系フィルム。
【請求項4】
30℃での重量膨潤度(W)が190〜230%であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のポリビニルアルコール系フィルム。
【請求項5】
上記ポリビニルアルコール系樹脂(A)が、平均ケン化度90モル%以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のポリビニルアルコール系フィルム。
【請求項6】
偏光フィルムの原反フィルムとして用いられることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のポリビニルアルコール系フィルム。
【請求項7】
上記ポリビニルアルコール系樹脂(A)を含有するフィルム形成材料の水溶液を第1熱ロールに流延する工程[I]、フィルム水分率が10〜25%の状態で上記第1熱ロールから剥離する工程[II]、少なくとも5個以上の表面温度が80〜98℃の第2熱ロール群に、フィルムの表裏を交互に通過させる工程[III]を含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載のポリビニルアルコール系フィルムの製造方法。
【請求項8】
上記ポリビニルアルコール系樹脂(A)を含有するフィルム形成材料の水溶液を流延製膜する際に、フィルムの幅方向に対して端部から全幅の5%以内の領域におけるフィルム厚み(T1)がフィルム幅中央部のフィルム厚み(T2)に対して2〜8%厚くなるように製膜することを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載のポリビニルアルコール系フィルムの製造方法。
【請求項9】
上記ポリビニルアルコール系樹脂(A)を含有するフィルム形成材料の水溶液を流延製膜する際に、フィルムの幅方向に対して端部から全幅の5%以内の領域におけるフィルム厚み(T1)がフィルム幅中央部のフィルム厚み(T2)に対して2〜8%厚くなるように製膜することを特徴とする請求項7記載のポリビニルアルコール系フィルムの製造方法。
【請求項10】
請求項1〜6のいずれか一項に記載のポリビニルアルコール系フィルムからなることを特徴とする偏光フィルム。
【請求項11】
請求項10記載の偏光フィルムの少なくとも片面に保護フィルムを設けてなることを特徴とする偏光板。



【公開番号】特開2012−32789(P2012−32789A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−137092(P2011−137092)
【出願日】平成23年6月21日(2011.6.21)
【特許番号】特許第4870236号(P4870236)
【特許公報発行日】平成24年2月8日(2012.2.8)
【出願人】(000004101)日本合成化学工業株式会社 (572)
【Fターム(参考)】