説明

ポリビニルアルコール系繊維およびその製造方法

【課題】 高温時の弾性率が改善された、耐疲労性の優れたPVA系繊維を提供する。
【解決手段】 粘度平均重合度1000〜2000のアタクチックポリビニルアルコール系重合体からなり、さらに該ポリビニルアルコールに対して硼酸または硼酸塩をホウ素原子換算で1000から12000ppm含有されてなるPVA系繊維。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐疲労性に優れ、さらに高温時の弾性率を向上させたポリビニルアルコール(以下、PVAと略記)系繊維およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、PVA系繊維は、強度、弾性率や耐候性、耐薬品性、接着性などの点で、ポリアミド、ポリエステル、ポリアクリロニトリル系繊維に比べて優れており、産業資材分野を中心に独自の用途を開拓してきた。最近では耐アルカリ性の特長をいかしたセメント補強用繊維(アスベスト代替)やアルカリ電池用セパレーターなどの分野に対して好適な素材として注目されている。そして、それらの特長に加えて、さらなる高強度、高弾性率で耐疲労性良好なPVA系繊維が開発されればゴムやプラスチックの補強材としての用途が期待できる。特にゴム補強用途では、耐疲労性の他に安全性、寸法安定性が必要であり、ゴム補強材としては高温時に高弾性率でかつ低収縮の繊維が要望されてきた。
【0003】
高温での耐疲労性や耐湿熱性を向上させる目的でPVA系繊維を架橋させる方法としては、アセタール化処理することが公知である(例えば、特許文献1参照。)。しかし、この方法では、耐湿熱性は向上するが、弾性率の低下が起こるという問題点があった。
【0004】
また、架橋時に強度・弾性率低下を引き起こさないものとして、硼酸または硼酸塩により架橋させる方法が開示されている(例えば、特許文献2参照。)。しかし、硼酸架橋により延伸性が阻害され、性能低下があることが判った。
【0005】
更には、アタクチックPVAに高シンジオタクチックPVAをブレンドし、硼酸または硼酸塩を乾燥工程までに添加したものが、高温時に高弾性率を示すことが開示されている(例えば、特許文献3参照。)。しかしながら高重合度のPVAやシンジオタクチックPVAを使用することからPVA系重合体の溶剤として、有機溶剤を使用しなければならないという問題点があり、安全面や環境面から水系で製造できる手段が要求されていた。
【0006】
【特許文献1】特開昭63−120107号公報
【特許文献2】特開昭62−149909号公報
【特許文献3】特開平7−243122号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、高温時の弾性率が改善された、耐疲労性の優れたPVA系繊維を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成すべく、本発明者らは、鋭意検討を行ってきた。その結果、アタクチックPVA系重合体からなるポリマーを、水を溶剤として繊維化した後、該繊維に対して硼酸または硼酸塩を所定濃度含有させて架橋反応させることにより、得られるPVA系繊維は耐疲労性に優れ、さらに高温時の弾性率を向上されることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち本発明は、粘度平均重合度1000〜2000のアタクチックPVA系重合体からなり、さらに該PVAに対して硼酸または硼酸塩をホウ素原子換算で1000から12000ppm含有されてなるPVA系繊維にであり、好ましくは、以下(1)〜(3)の条件を全て満足することを特徴とする上記のPVA系繊維である。
(1)80℃における強度が4cN/dtex以上であること、
(2)雰囲気温度80℃における弾性率が120cN/dtex以上であること、
(3)100℃における熱水収縮率が7%以下であること、
【0010】
そして本発明は、アタクチックPVA系重合体の溶液をノズルより吐出して糸条を形成し、次いで糸条から溶媒を除去し乾燥したのち、乾熱延伸してPVA系繊維を製造する方法において、該PVA系重合体の溶剤として水を使用し、さらに乾熱延伸工程以降に硼酸または硼酸塩を添加して、ホウ素原子換算で1000〜12000ppm存在させることを特徴とする上記のPVA系繊維の製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、優れた耐疲労性、高弾性率を有し、特に高温時の弾性率を向上させたPVA系繊維が得られる。このような本発明の繊維はゴム、プラスチック、セメントなどの補強材あるいはロープ、漁網、テント、土木シートなどの一般産業資材に適しており、特にタイヤ、ホース、ベルト等のゴム補強材に優れたPVA系繊維である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明について具体的に説明する。
まず本発明のPVA系繊維を構成するPVA系重合体について説明する。本発明に用いるアタクチックPVA系重合体とは、後述するNMRより求めたダイアッド表示で求めたシンジオタクチシチィS=52〜54%のものであり、粘度平均重合度が1000〜2000の直鎖状のものである。シンジオタクチシチィSが52%未満の場合は、強度や耐湿熱性等の点で劣る場合がある。
一方、高シンジオタクチシチィのものを用いると、強度、耐湿熱性等の点で優れるので好ましいが、ポリマー製造コストや繊維化コストなどの観点からシンジオタクチシチィSが54%以下であることが好ましい。また粘度平均重合度に関しても、高重合度のものを用いると、強度、耐湿熱性等の点で優れるので好ましいが、ポリマー製造コストや繊維化コストなどの観点から平均重合度が1200〜1900のものが好ましく、1400〜1800のものがより好ましい。ケン化度は特に限定されるものではないが、得られる繊維の結晶性及び配向性の点で98モル%以上が好ましく、より好ましくは99モル%以上、特に好ましくは99.7モル%以上である。
なお、本発明でいうシンジオタクチシティとは、重水素化ジメチルスルホキシド(d6−DMSO)に溶解したPVA系重合体のプロトンNMR測定値により求まるトライアッド表示によるシンジオタクチシティ(T.Moritani et al.,Macromolecules,5,577(1972)) でシンジオタクチシティ(S)、ヘテロタクチシティ(H)、およびアイソタクチシティ(I)から次式により算出される値である。
s=S+H/2(ダイアッド表示によるシンジオタクチシティ)
i=I+H/2(ダイアッド表示によるアイソタクチシティ)
【0013】
また本発明の繊維を構成するアタクチックPVA系重合体は、ビニルアルコールユニットを主成分とするものであれば特に限定されず、本発明の効果を損なわない範囲で他の構成単位を有していてもかまわない。このような構造単位としては、例えば、エチレン、プロピレン、ブチレン等のオレフィン類、アクリル酸及びその塩とアクリル酸メチルなどのアクリル酸エステル、メタクリル酸およびその塩、メタクリル酸メチル等のメタクリル酸エステル類、アクリルアミド、N − メチルアクリルアミド等のアクリルアミド誘導体、メタクリルアミド、N − メチロールメタクリルアミド等のメタクリルアミド誘導体、N − ビニルピロリドン、N − ビニルホルムアミド、N− ビニルアセトアミド等のN − ビニルアミド類、ポリアルキレンオキシドを側鎖に有するアリルエーテル類、メチルビニルエーテル等のビニルエーテル類、アクリロニトリル等のニトリル類、塩化ビニル等のハロゲン化ビニル、マレイン酸およびその塩またはその無水物やそのエステル等の不飽和ジカルボン酸等がある。このような変性ユニットの導入法は共重合による方法でも、後反応による方法でもよい。
【0014】
本発明のアタクチックPVA系繊維は、PVA系重合体を含む紡糸原液を溶液紡糸、具体的には湿式紡糸、乾湿式紡糸、乾式紡糸して製造される。紡糸原液に用いる溶媒としては、供給性、環境負荷への影響の観点から、水が好ましい。紡糸原液中のポリマー濃度は、PVA系重合体の組成や重合度によって異なるが、6〜60質量%の範囲が一般的である。本発明の効果を損なわない範囲であれば、紡糸原液にはPVA系重合体以外にも、目的に応じて、酸化防止剤、凍結防止剤、pH調整剤、隠蔽剤、着色剤、油剤などの添加剤などが含まれていてもよい。
【0015】
かかる紡糸原液を口金から吐出して、たとえば湿式紡糸法、乾式紡糸法、乾湿式紡糸法等により紡糸すればよい。湿式紡糸法や乾湿式紡糸法を採用する場合には、紡糸原液に対して固化能を有する固化浴へ吐出し、適宜湿熱延伸、乾燥等を施せば所望の糸条が得られる。たとえば、PVA系水溶液を紡糸原液としている場合には飽和芒硝液を固化液として湿式紡糸すればよい。
【0016】
ブレーキホース補強材のように繊維がフィラメント状であることが好ましい場合には紡糸原液を気体中に吐出する乾式紡糸法により紡糸するのが好ましい。気体としては一般に空気が用いられ、気体の温度は60〜140℃が一般的である。次いで吐出した糸条を加熱すればよく、一般にはホットプレート、ホットローラー、加熱エアゾーン等を用いて糸条を走らせることにより乾燥される。
【0017】
本発明においては、繊維の機械的性能、耐熱水性を高める点から少なくとも乾熱延伸を行うのが好ましい。熱延伸の方法は、ホットローラーやヒートプレート等の加熱体に未延伸糸を接触されて行う方法、熱溶媒中で行う方法、熱風加熱装置中で行う方法、誘電加熱方法を行う方法等適宜選択すればよい。延伸温度は、ポリマーの分解を抑制するとともに効率的に延伸する点からは100℃以上250℃未満、特に200〜240℃とするのが好ましい。また繊維の機械的性能の点からは、全延伸倍率が7倍以上、特に8倍以上、さらに10倍以上となる条件で延伸するのが好ましい。このとき、繊維の耐疲労性を高める点からは、乾熱延伸後に熱収縮処理を施す野が好ましい。熱収縮処理は230℃以上で行うのが好ましく、乾熱延伸温度よりも3℃以上、特に5℃以上高い温度で行うのが好ましい。さらにリラックス率は1%以上とするのが好ましく、繊維の機械的性能を実質的に損わない点からは20%以下、特に15%以下とするのが好ましい。またリラックス率を高めるほど繊維の伸度を高めることができ耐疲労性が向上するため、繊維の伸度は3%以上、さらに5%以上であることが好ましい。
【0018】
本発明では延伸工程の後にPVA系繊維に硼酸または硼酸塩を添加して、PVA系ポリマーに対して硼酸または硼酸塩をホウ素原子換算で1000〜12000ppm含有させる必要がある。延伸工程前に硼酸または硼酸塩を添加すると、硼酸架橋により延伸性が阻害され、性能低下が起こる。本発明は、硼酸または硼酸塩を含有させ、架橋を起こさせ、乾熱高温時の分子鎖運動性を抑制する事により乾熱高温時の弾性率の低下を抑える効果を有する。硼酸または硼酸塩のPVA系ポリマー中における含有量が1000ppm未満では架橋点が少なく分子鎖の運動抑制効果が不十分であるため本発明の効果は十分発揮されず、逆に12000ppmを越えると、強度が著しく低下する。したがって、硼酸含有量は1000〜12000ppmであることが好ましく、2000〜10000ppmであることが好ましく、3000〜8000ppmであることがさらに好ましい。
【0019】
本発明のPVA系繊維では、用途や目的に応じ、耐熱水性を向上させることを目的としてPVA系繊維で一般的に行われているアセタール化処理やその他の架橋処理を施すこともできる。すなわち、PVA系繊維をPVA系ポリマーの水酸基と反応するホルムアルデヒド等の架橋剤を含む水溶液中で処理して、水酸基を封鎖することで繊維を疎水化することができる。この該処理は、硼酸架橋処理より前でも後でもよく、処理の順番は特に限定されるものではないが、硼酸架橋処理後にこれら該処理を行うのが好ましい。
【0020】
本発明のPVA系繊維を、特に力学物性、耐熱性、耐湿熱性などが要求される用途に用いる場合には、80℃における強度が4cN/dtex以上、および80℃における弾性率が120cN/dtex以上であることが好ましい。
80℃における強度が4cN/dtexより小さい場合には、補強用繊維としての機能を十分に果たすことができない場合がある。より好ましくは5cN/dtexであり、さらに好ましくは7cN/dtex以上20cN/dtex以下である。また、80℃での弾性率が120cN/dtex未満の場合には、補強用繊維としての機能を十分に果たすことができない場合がある。より好ましくは150cN/dtex以上であり、さらに好ましくは160cN/dex以上400cN/dtex以下である。なお、80℃における強度、弾性率は後述する方法にて測定される。
【0021】
特にゴム補強用途に用いる場合には、PVA系繊維の100℃における熱水収縮率が7%以下、100℃のゴム中での耐疲労性が強度保持率で70%以上であることが好ましい。熱水収縮率が7%より大きい場合には、ゴムの加硫処理中に繊維が溶けてしまう場合がある。
また、PVA系繊維の100℃のゴム中での耐疲労性が70%より小さい場合には、補強用繊維としての機能を十分に果たすことができない場合がある。
なお、100℃における熱水収縮率、100℃のゴム中での耐疲労性は後述する方法にて測定される。
【0022】
本発明の繊維は、ステープルファイバー、ショートカットファイバー、フィラメントヤーン、紡績糸などのあらゆる繊維形態で用いることができる。その際の繊維の断面形状に関しても特に制限はなく、円形、中空、あるいは星型等異型断面であってもかまわない。さらには、本発明の繊維を他の繊維と混合・併用してもよい。この時、併用しうる繊維として特に限定はないが、硼酸架橋処理を行わないPVA系繊維や、ポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維、セルロース系繊維等を挙げることができる。
【0023】
本発明の繊維は産業資材用、衣料用、医療用等あらゆる用途に好適に使用でき、例えば、各種フィルター、断熱材、高保温性衣料品、ハウスラッピングペーパー、清掃用モップ材、補強用( セメント、ゴム、樹脂等) などに広く使用することができる。特に、力学物性、耐熱性、耐湿熱性に優れることから、セメント、ゴム、樹脂等の補強用繊維として適している。
【0024】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれら実施例により何等限定されるものではない。なお以下の実施例において、各物性値は以下の方法により測定したものである。
【0025】
[アタクチックPVAの粘度平均重合度]
JIS K−6726試験法に準じ、30℃の水溶液の極限粘度〔η〕の測定値より、次式により粘度平均重合度を求めた。
Pa=(〔η〕×10/8.29)1.63
【0026】
[硼素含有量 ppm]
PVA系繊維を140℃の水に密閉条件下で溶解し、硼素と反応しやすいマンニット(関東化学製)を添加してNaOHの滴定により算出した。
【0027】
[PVA繊維の引張強度、弾性率 cN/dtex]
JIS L−1013試験法に準じ、予め絶乾されたヤーンを試長20cm、初荷重0.25g/dおよび引張り速度50%/分の条件で測定し、5点以上の測定値の平均値を採用した。室温での繊維物性は20℃の空気中で測定した。また、高温での繊維物性は、引張り試験機に空気高温槽を取り付け、80℃における強度、弾性率を測定し、求めた。なお繊維太さ(dtex)は質量法により求めた。
【0028】
[熱水収縮率 %]
デシテックス当たり2mgのおもりを一端に取り付け、目盛板上に他端を固定して、繊維の長さAを測定する。これを100℃の熱水中に垂直になるように入れて浸漬させ、30分間放置し、その後熱水中での繊維の長さBを目盛から読み取り、以下の式より収縮率を算出した。
熱水収縮率(%)=(A−B)/A×100
【0029】
[耐疲労性 %]
ヤーンを365t/mでz方向に撚糸して下撚糸とし、この下撚糸3本をS方向に300t/m上撚りしてコードを作成した。このコードにゴム接着性改良剤であるRFL樹脂を固形分で5質量%付着させた後、110℃で乾燥し、160℃で熱処理してデイップコードを得た。このデイップコードと天然ゴム/スチレンブタジエンゴム=1/1の組成のゴムを用いて、JIS L−1017化学繊維タイヤコード試験方法に記載のデイスク疲労試験装置を用い、圧縮3%、伸長3%、温度100℃、30万回の条件で疲労させ、試験後のデイップコード強力から強力保持率(%)を算出した。なお、RFL樹脂は以下の組成のものを使用した。
<RFL液組成>
A液
水 67質量部
レゾルシン 2.8質量部
ホルムアルデヒド(37%) 6.1質量部
水酸化ナトリウム水溶液(10%) 2.0質量部
上記A液を25℃の温度で6時間熟成した。
B液
SBRラテックス 50質量部
ビニルピリジン変性SBRラテックス 21.5質量部
水 76.3質量部
上記B液を熟成済みのA液と混合した後、25℃の温度で16時間熟成し、さらに水及び接着助剤としてクロロフェノール系助剤を加えて8重量%濃度のRFL液とした。JIS L1906試験法のシングルタング法に準拠して測定し求めた。
【0030】
[実施例1]
(1)平均重合度1700、ケン化度99.9モル%、シンジオテクティシティS=53.4%のPVA重合体をPVA濃度41.0質量%となるように水中に添加し、95℃ にて加熱溶解した。得られた紡糸原液を、孔径0.10mm 、ホール数40の丸型ノズルを通して、原液吐出量100cc/分、引取速度155m/分にて紡出した後、240℃ で10倍延伸を行った。
(2)上記(1)で得られたPVA繊維を硼酸80g/L、水酸化ナトリウム20g/Lの水溶液の浴中に80℃で60分間、浴比50:1にて浸漬し、次いで十分に水洗洗浄した後、24時間風乾させたところ、硼素含有量が5700ppmであるPVA繊維が得られた。
このようにして得られた繊維は、80℃における弾性率及び耐久性に優れるものであった。結果を表1に示す。
【0031】
[実施例2]
実施例1と全く同様にして得られたPVA繊維を硼酸80g/L、水酸化ナトリウム20g/Lの水溶液の浴中に実施例1よりも温度が低い条件(60℃)で60分間浴比50:1にて浸漬し、いで十分に水洗洗浄した後、24時間風乾させ、硼素含有量が1700ppmであるPVA繊維が得られた。
このようにして得られた繊維は、80℃における弾性率及び耐久性に優れるものであった。結果を表1に示す。
【0032】
[実施例3]
実施例1と全く同様にして得られたPVA繊維を硼酸80g/L、水酸化ナトリウム20g/Lの水溶液の浴中に実施例1よりも温度が高く、かつ処理時間が長い条件(85℃で80分間)で、浴比50:1にて浸漬し、次いで十分に水洗洗浄した後、24時間風乾させ、硼酸含有量が8400ppmであるPVA繊維が得られた。
このようにして得られた繊維は80℃における弾性率及び耐久性に優れるものであった。結果を表1に示す。
【0033】
[実施例4]
(1)粘度平均重合度1400、ケン化度99.9モル%、シンジオテクティシティS=53.4%のPVA重合体をPVA濃度41.0質量%となるように水中に添加し、95℃ にて加熱溶解した。得られた紡糸原液を、孔径0.10mm 、ホール数40の丸型ノズルを通して、原液吐出量100cc/分、引取速度155m/分にて紡出した後、240℃ で10倍延伸を行い、PVA繊維を得た。
(2)得られたPVA繊維を硼酸80g/L、水酸化ナトリウム20g/Lの水溶液の浴中に80℃で60分間浴比50:1にて浸漬し、次いで十分に水洗洗浄した後、24時間風乾させ、硼酸含有量が5700ppmであるPVA繊維が得られた。
このようにして得られた繊維は80℃における弾性率及び耐久性に優れるものであった。結果を表1に示す。
【0034】
[実施例5]
実施例1と全く同様にして得られたPVA繊維を硼酸80g/L、水酸化ナトリウム20g/Lの水溶液の浴中に実施例3と温度が同じで、かつ処理時間が長い条件(85℃で120分間)で、浴比50:1にて浸漬し、次いで十分に水洗洗浄した後24時間風乾させ、硼酸含有量が11500ppmであるPVA繊維が得られた。
このようにして得られた繊維は80℃における弾性率及び耐久性に優れるものであった。結果を表1に示す。
【0035】
[比較例1]
実施例1で得られたPVA繊維に硼酸処理を行わなかったところ、得られた繊維は80℃における弾性率が86cN/dtexと低いものであった。
【0036】
[比較例2]
実施例1と全く同様にして得られたPVA繊維を硼酸150g/Lの水溶液の浴中に80℃で60分間浴比50:1にて浸漬し、次いで十分に水洗洗浄した後、24時間風乾させたところ、硼酸含有量が15500ppmであるPVA繊維が得られたが、硼酸含有量が多すぎるために強度が劣っており、本発明の目的とするPVA系繊維は得られなかった。結果を表1に示す。
【0037】
[比較例3]
粘度平均重合度が600のアタクチックPVA重合体を用いたこと以外は、実施例1と全く同様にして、PVA繊維を得た。このようにして得られたPVA繊維はPVA重合体の重合度が低すぎるため、耐疲労性に劣っていた。
【0038】
[比較例4]
重合度が5000のアタクチックPVA重合体を用いたこと以外は、実施例1と全く同様にして、PVA繊維を得ようと試みたが、PVA重合体の重合度が高すぎるために熱水でも十分に溶解せず、紡糸して繊維を得ることができなかった。
【0039】
[比較例5]
実施例1と全く同様にして得られたPVA繊維を硼酸80g/L、水酸化ナトリウム20g/Lの水溶液の浴中に、実施例1よりも温度が低く、かつ処理時間が短い条件(60℃で5分間)で浴比50:1で浸漬し、次いで十分に水洗洗浄した後、24時間風乾させ、硼酸含有量が500ppmであるPVA繊維が得られた。このようにして得られたPVA繊維は80℃における弾性率が95cN/dtexと低く、本発明の目的とするPVA繊維は得られなかった。結果を表1に示す。
【0040】
[比較例6]
重合度1600、ケン化度99.9モル%、シンジオタクチシティS=61.5%の高シンジオタクチックPVA重合体を用いたこと以外は、実施例1と全く同じ条件にて繊維化を試みたが、PVA重合体が95℃の水中で加熱溶解しようとしても十分に溶解せず、紡糸して繊維を得ることができなかった。
【0041】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の繊維は産業資材用、衣料用、医療用等あらゆる用途に好適に使用でき、例えば、各種フィルター、断熱材、高保温性衣料品、ハウスラッピングペーパー、清掃用モップ材、補強用( セメント、ゴム、樹脂等) などに広く使用することができる。特に、力学物性、耐熱性、耐湿熱性に優れることから、セメント、ゴム、樹脂等の補強用繊維として適している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘度平均重合度1000〜2000のアタクチックポリビニルアルコール系重合体からなり、さらに該ポリビニルアルコールに対して硼酸または硼酸塩をホウ素原子換算で1000から12000ppm含有されてなるポリビニルアルコール系繊維。
【請求項2】
以下(1)〜(3)の条件を全て満足することを特徴とする請求項1のポリビニルアルコール系繊維。
(1)80℃における強度が4cN/dtex以上であること、
(2)80℃における弾性率が120cN/dtex以上であること、
(3)100℃における熱水収縮率が7%以下であること、
【請求項3】
アタクチックポリビニルアルコール系重合体の溶液をノズルより吐出して糸条を形成し、次いで糸条から溶媒を除去し乾燥したのち、乾熱延伸してポリビニルアルコール系繊維を製造する方法において、該ポリビニルアルコール系重合体の溶剤として水を使用し、さらに乾熱延伸工程以降に硼酸または硼酸塩を添加して、ホウ素原子換算で1000〜12000ppm存在させることを特徴とする請求項1または2記載のポリビニルアルコール系繊維の製造方法。

【公開番号】特開2009−108432(P2009−108432A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−279994(P2007−279994)
【出願日】平成19年10月29日(2007.10.29)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】