説明

ポリビニルピロリドン粉体組成物およびその製造方法

【課題】高K値のポリビニルピロリドンを含有する粉体組成物であっても、水への溶解速度が高い高品質のポリビニルピロリドン粉体組成物を提供すること、および、このような粉体組成物を簡便に製造する方法を提供すること。
【解決手段】本発明のポリビニルピロリドン粉体組成物は、K値が60以上、130以下であるポリビニルピロリドンと、第2級アミンまたはその塩とを含有する。このようなポリビニルピロリドン粉体組成物は、K値が60以上、130以下であるポリビニルピロリドンに、第2級アミンまたはその塩を添加することにより、あるいは、K値が60以上、130以下であるポリビニルピロリドンと、第2級アミンまたはその塩とを含有する水溶液を加熱乾燥することにより製造される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリビニルピロリドン粉体組成物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリビニルピロリドンは、安全な機能性ポリマーとして、化粧品、医農薬中間体、食品添加物、感光性電子材料、粘着付与剤などの用途に、あるいは、種々の特殊工業用途に、幅広い分野で用いられている。ポリビニルピロリドンは、一般的には、水媒体中、金属触媒の存在下で、過酸化水素を重合開始剤として、N−ビニル−2−ピロリドンを重合することにより製造される(例えば、特許文献1、2、3を参照)。しかし、過酸化水素を重合開始剤として用いると、水素引き抜き能力が強いため、グラフト反応が進行しやすく、著しい分子量の増加が確認されることがある。
【0003】
そこで、例えば、特許文献4および5の合成例に記載のように、アゾ化合物を重合開始剤として、N−ビニル−2−ピロリドンを重合すれば、高K値のポリビニルピロリドンを含有するポリビニルピロリドン水溶液が得られる。この場合、未反応の単量体量を低減するために、重合後のポリビニルピロリドン水溶液に、シュウ酸、マロン酸、コハク酸などの多価カルボン酸を添加し、さらにpH調整のために、炭酸グアニジン、トリエタノールアミンなどの有機塩基を添加している。
【特許文献1】特開昭62−62804号公報
【特許文献2】特開平11−71414号公報
【特許文献3】特開2002−155108号公報
【特許文献4】特開2002−121217号公報
【特許文献5】特開2003−286311号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、本発明者らは、上記の方法で得られた高K値のポリビニルピロリドンを含有するポリビニルピロリドン水溶液を加熱乾燥した後、再び水に溶解させようとすると、比較的長い時間を要することを見出した。一般的に、高K値のポリビニルピロリドンは、高分子量かつ高粘度であり、水への溶解速度が低いので、使用に際して、水に溶解させる場合には、非常に困難を伴い、作業性が著しく低下する。
【0005】
上述した状況の下、本発明が解決すべき課題は、高K値のポリビニルピロリドンを含有する粉体組成物であっても、水への溶解速度が高い高品質のポリビニルピロリドン粉体組成物を提供すること、および、このような粉体組成物を簡便に製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、種々検討の結果、第2級アミンまたはその塩の存在下では、高K値のポリビニルピロリドンが水に速やかに溶解することを見出して、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、K値が60以上、130以下であるポリビニルピロリドンと、第2級アミンまたはその塩とを含有することを特徴とするポリビニルピロリドン粉体組成物を提供する。
【0008】
前記ポリビニルピロリドン粉体組成物は、例えば、K値が60以上、130以下であるポリビニルピロリドンに、第2級アミンまたはその塩を添加することにより製造される。
【0009】
あるいは、前記ポリビニルピロリドン粉体組成物は、K値が60以上、130以下であるポリビニルピロリドンと、第2級アミンまたはその塩とを含有するポリビニルピロリドン水溶液を加熱乾燥することにより製造される。
【0010】
前記ポリビニルピロリドン水溶液は、好ましくは、水媒体中、アゾ化合物または有機過酸化物を重合開始剤として、N−ビニル−2−ピロリドンを重合してポリビニルピロリドン水溶液を得るにあたり、重合前、重合中または重合後の反応液に、第2級アミンまたはその塩を添加して得られるか、あるいは、K値が60以上、130以下であるポリビニルピロリドンを含有する水溶液に、第2級アミンまたはその塩を添加して得られるか、あるいは、第2級アミンまたはその塩の水溶液に、K値が60以上、130以下であるポリビニルピロリドンを添加して得られる。
【発明の効果】
【0011】
本発明のポリビニルピロリドン粉体組成物は、高K値のポリビニルピロリドンを含有する粉体組成物であっても、水への溶解速度が高い。また、本発明の製造方法によれば、このような高品質のポリビニルピロリドン粉体組成物が簡便に得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
≪ポリビニルピロリドン粉体組成物≫
本発明のポリビニルピロリドン粉体組成物は、K値が60以上、130以下であるポリビニルピロリドンと、第2級アミンまたはその塩とを含有することを特徴とする。なお、「ポリビニルピロリドン粉体組成物」とは、ポリビニルピロリドン粉体に限らず、広義には、ポリビニルピロリドンの固形物を含有する組成物を意味する。ここで、固形物は、好ましくは、ポリビニルピロリドン粉体であるが、例えば、粒状、顆粒状、球状、塊状、鱗片状、無定形などの形状であってもよい。固形物を構成する粒子などの大きさは、用途に応じて適宜調節すればよく、特に限定されるものではない。
【0013】
また、「K値」とは、ポリビニルピロリドンの場合、分子量の尺度として一般的に用いられる数値であり、具体的には、ポリビニルピロリドンの1wt%水溶液について、25℃で毛細管粘度計により相対粘度を測定し、下記のフィケンチャーの粘度式:
【0014】
【数1】

【0015】
[式中、ηrelは相対粘度、cは水溶液の濃度(g/mL)、すなわち水溶液100mL中に含有されるポリビニルピロリドンのg数、kはK値に関係する変数を表す]
に代入して、得られたkの値を1,000倍した数値である(以下、このようにK値を求める方法を「フィケンチャー法」ということがある。)。K値が大きいほど、分子量が高いことを表す。
【0016】
さらに、「ポリビニルピロリドン」とは、N−ビニル−2−ピロリドンのホモポリマーを意味し、その分子量は、上記のフィケンチャー法によるK値で表すと、60以上、130以下であり、好ましくは65以上、125以下、より好ましくは70以上、120以下、さらに好ましくは75以上、100以下である。
【0017】
前記ポリビニルピロリドンは、N−ビニル-2−ピロリドンを重合させて得られ、その方法は従来公知のいかなる方法であってもよいが、水媒体中、アゾ化合物または有機過酸化物を重合開始剤として用いる方法が特に好適である。このような方法を用いれば、ポリビニルピロリドンは、水溶液の形態で得られる。
【0018】
本発明のポリビニルピロリドン粉体組成物は、ポリビニルピロリドンに加えて、第2級アミンまたはその塩を含有する。ここで、「第2級アミンまたはその塩」とは、第2級アミンまたはその塩の少なくとも一方を意味する。すなわち、本発明のポリビニルピロリドン粉体組成物は、第2級アミンおよびその塩のうち、いずれか一方を含有していても両方を含有してもよい。
【0019】
また、「第2級アミン」とは、アンモニアの水素原子2個を置換もしくは無置換の炭化水素基(この炭化水素基が後述の如く統合して含窒素複素環を形成する場合を含む。)で置換した化合物を意味する。ここで、2個の炭化水素基は、同一であっても互いに異なっていてもよく、その各々が脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基および芳香族炭化水素基から独立して選択されるか、あるいは、互いに結合して、隣接する窒素原子と共に、場合によっては、さらに窒素、酸素および硫黄から選択される他の異種原子と共に、含窒素複素環を形成していてもよい。
【0020】
脂肪族炭化水素基としては、例えば、炭素数1以上、4以下のアルキル基、炭素数2または3のアルケニル基などが例示され、具体的には、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ビニル基、アリル基、イソプロペニル基などが挙げられる。
【0021】
脂環式炭化水素基としては、例えば、炭素数5または6のシクロアルキル基などが例示され、具体的には、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などが挙げられる。
【0022】
芳香族炭化水素基としては、例えば、炭素数6以上、8以下のアリール基、炭素数7または8のアラルキル基などが例示され、具体的には、例えば、フェニル基、トリル基、キシリル基、ベンジル基、フェネチル基などが挙げられる。
【0023】
含窒素複素環としては、例えば、1個または2個の窒素原子を含む複素環が例示され、具体的には、例えば、ピロリジン環、ピペリジン環、ピペラジン環、モルホリン環、チオモルホリン環などが挙げられる。
【0024】
前記炭化水素基が置換基を有する場合、この置換基としては、例えば、炭化水素基(例えば、CH−、CHCH−、C−)、ハロゲン基(例えば、F−、Cl−、Br−、I−)、ヒドロキシ基(HO−)、カルボニル基(−CO−)、エーテル基(例えば、CHO−、CO−、CO−)、カルボキシ基(−COOH)、エステル基(例えば、−COOCH、−COOC、CHCOO−、CCOO−)、アシル基(例えば、−CHO、CHCO−、CCO−)、スルファニル基(HS−)、スルホ基(−SOH)、スルファモイル基(HN−SO−)、アミノ基(HN−)、シアノ基(−CN)、ニトロ基(−NO)などが挙げられる。前記炭化水素基は、これらの置換基を単独で有していても2種以上を組み合わせて有していてもよい。
【0025】
第2級アミンとしては、具体的には、例えば、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、N−メチルエチルアミン、N−メチルプロピルアミン、N−メチルイソプロピルアミン、N−メチルブチルアミン、N−メチルイソブチルアミン、N−メチルシクロヘキシルアミン、N−エチルプロピルアミン、N−エチルイソプロピルアミン、N−エチルブチルアミン、N−エチルイソブチルアミン、N−エチルシクロヘキシルアミン、N−メチルビニルアミン、N−メチルアリルアミンなどの脂肪族第2級アミン;N−メチルエチレンジアミン、N−エチルエチレンジアミン、N,N’−ジメチルエチレンジアミン、N,N’−ジエチルエチレンジアミン、N−メチルトリメチレンジアミン、N−エチルトリメチレンジアミン、N,N’−ジメチルトリメチレンジアミン、N,N’−ジエチルトリメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、ジプロピレントリアミンなどの脂肪族ジアミンおよびトリアミン;N−メチルベンジルアミン、N−エチルベンジルアミン、N−メチルフェニチルアミン、N−エチルフェネチルアミンなどの芳香族アミン;N−メチルエタノールアミン、N−エチルエタノールアミン、N−プロピルエタノールアミン、N−イソプロピルエタノールアミン、N−ブチルエタノールアミン、N−イソブチルエタノールアミンなどのモノアルカノールアミン;ジエタノールアミン、ジプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、ジブタノールアミンなどのジアルカノールアミン;ピロリジン、ピペリジン、ピペラジン、N−メチルピペラジン、N−エチルピペラジン、モルホリン、チオモルホリンなどの環状アミンが挙げられる。これらの第2級アミンは、単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの第2級アミンのうち、ジアルカノールアミンおよびジアルキルアミンが好ましく、ジアルカノールアミンがより好ましく、中でもジエタノールアミンが特に好適である。
【0026】
さらに、「第2級アミンまたはその塩」における「その塩」とは、前記第2級アミンが酸と作用して生成する酸塩を意味し、具体的には、例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、炭酸塩などの無機酸塩;シュウ酸塩、マロン酸塩、コハク酸塩などの有機酸塩;などが挙げられる。これらの塩は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの塩のうち、マロン酸塩が特に好適である。なお、後述するように、N−ビニル−2−ピロリドンを重合した後、未反応の単量体量を低減するために有機酸を用いた場合には、第2級アミンを添加したとしても、本発明のポリビニルピロリドン粉体組成物中において、添加した第2級アミンは、有機酸と塩を形成していることがある。
【0027】
第2級アミンまたはその塩は、例えば、ポリビニルピロリドンの固形物または水溶液に添加すればよい。ポリビニルピロリドン水溶液に添加する場合、N−ビニル−2−ピロリドンを重合してポリビニルピロリドン水溶液を得るにあたり、重合前、重合中または重合後の反応液に添加するか、あるいは、別途調製されたポリビニルピロリドン水溶液に添加すればよい。ここで、「重合前、重合中または重合後」とは、重合前、重合中および重合後のうち、少なくとも1つの段階を意味する。あるいは、第2級アミンまたはその塩の水溶液に、ポリビニルピロリドンを添加してもよい。いずれの場合も、最終的に得られる本発明のポリビニルピロリドン粉体組成物における第2級アミンまたはその塩の含有量は、好ましくは500ppm以上、10,000ppm以下、より好ましくは800ppm以上、6,000ppm以下、さらに好ましくは1,000ppm以上、4,000ppm以下である。なお、第2級アミンまたはその塩の含有量は、ポリビニルピロリドン粉体組成物を水溶液にし、イオンクロマトグラフィー装置(例えば、ICS−2000、日本ダイオネクス(株)製;カラムは、Ion Pac AS−15を使用)を用いて、この水溶液中に存在する第2級アミンまたはその塩の含有量を測定し、ポリビニルピロリドンの含有量に対する第2級アミンまたはその塩の相対的な含有量を算出することにより求められる。
【0028】
本発明のポリビニルピロリドン粉体組成物は、水への溶解速度が高く、水に対して速やかに溶解するので溶解性に優れる。なお、本発明のポリビニルピロリドン粉体組成物を水に溶解して濾過したとき、あるいは、水に溶解後、加熱乾燥して固形物を得て、この固形物を水に再溶解して濾過したとき、場合によっては、500ppm以下の不溶物が残存することがあるが、このような場合も不溶物を実質的に生じないものとして本発明の範囲内に含まれる。
【0029】
本発明のポリビニルピロリドン粉体組成物は、例えば、化粧品、医農薬中間体、食品添加物、感光性電子材料、粘着付与剤などの用途に、あるいは、種々の特殊工業用途(例えば、中空糸膜の製造)に、そのままの形態で用いてもよいし、水に溶解して水溶液とした場合には、さらに希釈または濃縮して用いるか、あるいは、さらに加熱乾燥して固形物の形態に変化させて用いてもよい。
【0030】
≪ポリビニルピロリドン粉体組成物の製造方法≫
本発明のポリビニルピロリドン粉体組成物は、例えば、K値が60以上、130以下であるポリビニルピロリドンに、第2級アミンまたはその塩を添加することにより製造される。ここで、K値が60以上、130以下であるポリビニルピロリドンは、従来公知の重合方法により、N−ビニル−2−ピロリドンを重合して得られる。ただし、重合開始剤として過酸化水素を用いると、水素引き抜き能力が強いため、グラフト反応が進行しやすく、著しい分子量の増加が確認されることがあるので、例えば、アゾ化合物または有機過酸化物を用いることが好ましい。そして、得られたポリビニルピロリドン水溶液を加熱乾燥した後、所定量の第2級アミンまたはその塩を添加すれば、本発明のポリビニルピロリドン粉体組成物が得られる。
【0031】
あるいは、本発明のポリビニルピロリドン粉体組成物は、K値が60以上、130以下であるポリビニルピロリドンと、第2級アミンまたはその塩とを含有するポリビニルピロリドン水溶液を加熱乾燥することにより製造される。
【0032】
前記ポリビニルピロリドン水溶液は、好ましくは、水媒体中、アゾ化合物または有機過酸化物を重合開始剤として、N−ビニル−2−ピロリドンを重合してポリビニルピロリドン水溶液を得るにあたり、重合前、重合中または重合後の反応液に、第2級アミンまたはその塩を添加して得られるか、あるいは、K値が60以上、130以下であるポリビニルピロリドンを含有する水溶液に、第2級アミンまたはその塩を添加して得られるか、あるいは、第2級アミンまたはその塩の水溶液に、K値が60以上、130以下であるポリビニルピロリドンを添加して得られる。
【0033】
ポリビニルピロリドン水溶液を加熱乾燥する方法としては、従来公知の方法を採用すればよく、特に限定されるものではないが、例えば、スプレードライヤー乾燥法、ドラムドライヤー乾燥法などが挙げられる。乾燥の温度や時間などの条件は、乾燥すべきポリビニルピロリドン水溶液の量に応じて適宜調節すればよく、特に限定されるものではないが、例えば、好ましくは100℃以上、160℃以下、より好ましくは100℃以上、150℃以下の温度で、好ましくは1時間以内、より好ましくは30分以内、さらに好ましくは10分以内で乾燥すればよい。
【0034】
N−ビニル−2―ピロリドンを重合してポリビニルピロリドン水溶液を得る方法としては、従来公知の重合方法を採用すればよく、特に限定されるものではないが、上記したように、重合開始剤として過酸化水素を用いると、水素引き抜き能力が強いため、グラフト反応が進行しやすく、著しい分子量の増加が確認されることがあるので、例えば、アゾ化合物または有機過酸化物を用いることが好ましい。ここで、「アゾ化合物または有機過酸化物」とは、アゾ化合物または有機過酸化物の少なくとも一方を意味する。すなわち、重合開始剤は、アゾ化合物および有機過酸化物のうち、いずれか一方を使用しても両方を使用してもよい。
【0035】
重合開始剤として使用可能なアゾ化合物としては、例えば、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(イソ酪酸)ジメチル、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩、2,2’−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン]n水和物、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]二塩酸塩、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]二硫酸塩二水和物、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)などが挙げられる。これらのアゾ化合物は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらのアゾ化合物のうち、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(イソ酪酸)ジメチルが特に好適である。
【0036】
重合開始剤として使用可能な有機過酸化物としては、ベンゾイルペルオキシド、ジクミルペルオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキサン、1,1’−ジ−t−ブチルペルオキシ−3,3,5−トリメチレンシクロヘキサン、1,3−ジ−(t−ブチルペルオキシ)−ジイソプロピルベンゼン、ジ−t−ブチルペルオキシド、t−ブチルヒドロペルオキシド、t−ブチルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルペルオキシピバレート、t−アミルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−アミルヒドロペルオキシドなどが挙げられる。これらの有機過酸化物は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの有機過酸化物のうち、t−ブチルヒドロペルオキシド、t−アミルペルオキシ−2−エチルヘキサノエートが好適であり、t−アミルペルオキシ−2−エチルヘキサノエートが特に好適である。
【0037】
重合反応における重合開始剤の濃度は、単量体成分の使用量に応じて適宜調節すればよく、特に限定されるものではないが、例えば、単量体100質量部に対して、好ましくは0.001質量部以上、3質量部以下、より好ましくは0.005質量部以上、2質量部以下、さらに好ましくは0.01質量部以上、1質量部以下である。重合反応を行う際には、重合開始剤の他に、必要に応じて、任意の連鎖移動剤、pH調節剤、緩衝剤などを用いることができる。
【0038】
N−ビニル−2−ピロリドンの重合は、好ましくは、水媒体中で行われる。ここで、「水媒体」とは、水、または、水と低級アルコールとの混合溶媒を意味する。低級アルコールとしては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、ジエチレングリコールなどが挙げられる。
【0039】
重合反応における反応温度は、反応原料などの条件に応じて適宜設定すればよいが、好ましくは40℃以上、100℃以下、より好ましくは50℃以上、95℃以下、さらに好ましくは60℃以上、90℃以下である。
【0040】
重合反応後、未反応の単量体量を低減するために、反応液に有機酸を添加してもよい。使用可能な有機酸としては、好ましくは多価カルボン酸であり、具体的には、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、アスパラギン酸、クエン酸、グルタミン酸、フマル酸、リンゴ酸、マレイン酸、フタル酸、トリメリト酸、ピロメリト酸などが挙げられるが、より好ましくは多価カルボン酸であり、かつカルボキシル基の第1解離定数が3.0以下であり、かつカルシウム塩の20℃における水への溶解度が0.1質量%以上であるような有機酸、具体的には、例えば、マロン酸、エチルマロン酸、エチルメチルマロン酸、エチルプロピルマロン酸などが挙げられる。これらの有機酸は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの有機酸のうち、マロン酸が特に好適である。
【0041】
ここで、上記のような条件を満足する有機酸を用いることが好ましいのは、得られたポリビニルピロリドン粉体組成物を、カルシウムイオンやマグネシウムイオンを多く含有するような硬水に溶解する場合であっても、透明清澄な水溶液が得られるだけでなく、保存時の分子量低下が抑制され、品質が安定するからである。
【0042】
有機酸の使用量は、単量体の使用量に応じて適宜調節すればよく、特に限定されるものではないが、例えば、反応液のpHが好ましくは5以下、より好ましくは3以上、4以下になるように使用すればよい。具体的には、有機酸の使用量は、単量体の使用量に対して、好ましくは100ppm以上、10,000ppm以下、より好ましくは500ppm以上、5,000ppm以下である。重合反応後に有機酸を添加した場合には、本発明のポリビニルピロリドン粉体組成物は、上記のような使用量に準じた含有量で、前記有機酸を含有することになる。ただし、前記有機酸は、上記したように、第2級アミンと塩を形成していることがある。この場合には、本発明のポリビニルピロリドン粉体組成物は、上記のような使用量に準じた含有量で、前記有機酸と第2級アミンとの塩を含有することになる。
【0043】
なお、有機酸を用いて未反応の単量体量を低減した場合、最終的に得られるポリビニルピロリドン水溶液中における単量体の残存量は、ポリビニルピロリドンに対して、好ましくは10ppm以下、より好ましくは8ppm以下、さらに好ましくは6ppm以下である。なお、単量体の残存量は、液体クロマトグラフィーを用いて、吸収波長を235nmとして、ポリビニルピロリドン水溶液中に残存するN−ビニル−2−ピロリドン量を測定し、ポリビニルピロリドンの含有量に対するN−ビニル−2−ピロリドンの相対的な残存量を算出することにより求められる。
【0044】
未反応の単量体を低減させた後、例えば、塩基を添加することにより、反応液のpHを調整してもよい。使用可能な塩基としては、加熱乾燥しても灰分が残存しない有機塩基が好ましく、中でも、pH調整が容易であり、着色が少なく安定した品質の粉体組成物が得られることから、炭酸グアニジン、トリエタノールアミン、アジピン酸ジヒドラジドなどが特に好適である。これらの有機塩基は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0045】
塩基の使用量は、有機酸の使用量に応じて適宜調節すればよく、特に限定されるものではないが、例えば、反応液のpHが好ましくは3以上、9以下、より好ましくは3以上、8以下、さらに好ましくは4以上、7以下になるように使用すればよい。具体的には、塩基の使用量は、単量体の使用量に対して、好ましくは100ppm以上、10,000ppm以下、より好ましくは500ppm以上、5,000ppm以下である。未反応の単量体量を低減した後に塩基を添加した場合であっても、加熱乾燥しても灰分が残存しない有機塩基を使用すれば、本発明のポリビニルピロリドン粉体組成物は、前記有機塩基を実質的に含有しないことになる。
【0046】
上記のような方法でN−ビニル−2−ピロリドンを重合すれば、ポリビニルピロリドンは水溶液の形態で得られる。このポリビニルピロリドン水溶液は、上記したように、重合前、重合中または重合後の反応液に、第2級アミンまたはその塩を添加した場合には、そのままで、あるいは、さらに第2級アミンまたはその塩を添加した後で、従来公知の方法で加熱乾燥することにより、ポリビニルピロリドン粉体組成物とすればよい。
【0047】
重合に際して第2級アミンまたはその塩を添加しなかった場合には、得られたポリビニルピロリドン水溶液に、あるいは、従来公知の方法で加熱乾燥して固形物を得て、この固形物を水に再溶解して得られたポリビニルピロリドン水溶液に、第2級アミンまたはその塩を添加した後、従来公知の方法で加熱乾燥することにより、ポリビニルピロリドン粉体組成物とすればよい。あるいは、重合により得られたポリビニルピロリドン水溶液を従来公知の方法で加熱乾燥して固形物を得て、この固形物を第2級アミンまたはその塩の水溶液に添加した後、従来公知の方法で加熱乾燥することにより、ポリビニルピロリドン粉体組成物としてもよい。
【0048】
もちろん、K値が60以上、130以下であるポリビニルピロリドンは、自ら重合することなく、別途入手した製品を利用してもよい。この場合、製品が水溶液であれば、従来公知の方法で加熱乾燥した後、得られた固形物に第2級アミンまたはその塩を添加することにより、あるいは、前記水溶液に第2級アミンまたはその塩を添加した後、従来公知の方法で加熱乾燥することにより、ポリビニルピロリドン粉体組成物とすればよい。製品が固形物であれば、前記固形物に第2級アミンまたはその塩を添加することにより、ポリビニルピロリドン粉体組成物とすればよい。あるいは、前記固形物を水に再溶解して得られたポリビニルピロリドン水溶液に、第2級アミンまたはその塩を添加した後、従来公知の方法で加熱乾燥することにより、ポリビニルピロリドン粉体組成物としてもよい。あるいは、第2級アミンまたはその塩の水溶液に、前記固形物を添加した後、従来公知の方法で加熱乾燥することにより、ポリビニルピロリドン粉体組成物としてもよい。
【0049】
上記のいずれの方法においても、ポリビニルピロリドン水溶液を取り扱うときは、適当な段階で、例えば、濾過や傾瀉などにより、不溶物をできる限り除去しておくことが好ましい。
【0050】
本発明の製造方法によれば、適当な段階で第2級アミンを添加するだけであるので、高K値のポリビニルピロリドンを固形物の形態で含有する高品質のポリビニルピロリドン粉体組成物が簡便に得られる。
【実施例】
【0051】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例により制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。なお、以下では、便宜上、「質量部」を「部」、「質量%」を「wt%」と表すことがある。
【0052】
まず、ポリビニルピロリドンのK値の測定方法およびポリビニルピロリドン粉体組成物の評価方法について説明する。
【0053】
<K値>
得られたポリビニルピロリドン水溶液を濃度が1wt%になるように水で希釈し、この希釈液の相対粘度を25℃で毛細管粘度計により測定し、上記したフィケンチャーの粘度式を用いて、K値を求めた。数値が大きいほど、分子量が高いことを表す。
【0054】
<溶解速度>
固形分が95%以上のポリビニルピロリドン粉体組成物10部に、実施例1および比較例1では水40部を、実施例2および比較例2では水90部を、攪拌しながら添加し、実質的に完全に溶解するのに要した時間を測定した。数値が低いほど、溶解性が高いことを表す。
【0055】
≪実施例1≫
水1,518部を反応容器に仕込み、窒素ガスを導入し、攪拌しながら、反応容器の内温が76℃になるように加熱した。この反応容器に、N−ビニル−2−ピロリドン402部と、さらに2,2’−アゾビス(イソ酪酸)ジメチル0.8部とイソプロピルアルコール20部と水60部との混合物とを、それぞれ2時間かけて滴下し、反応させた。滴下終了後、80℃に昇温し、5時間反応させた後、マロン酸(第1解離定数:2.8、20℃におけるカルシウム塩の溶解度:0.36質量%)0.72部を水1.7部に溶解した水溶液を添加し、2時間反応させた。さらに、炭酸グアニジン0.94部を水3.8部に溶解した水溶液を添加し、1時間攪拌した後、第2級アミンとしてジエタノールアミン1.14部を加え、30分間攪拌して、ポリビニルピロリドン水溶液を得た。得られたポリビニルピロリドン水溶液の物性を測定したところ、濃度が20wt%、K値が79、N−ビニル−2−ピロリドン残存量がポリビニルピロリドンに対して4ppmであった。得られたポリビニルピロリドン水溶液を、ドラムドライヤー乾燥法により、120℃で乾燥させた後、粉砕して、固形分が96.4wt%、ジエタノールアミンまたはその塩の含有量が2,800ppmであるポリビニルピロリドン粉体組成物を得た。得られたポリビニルピロリドン粉体組成物の溶解速度を測定したところ、11分であり、高い溶解性を示した。
【0056】
≪実施例2≫
実施例1において、2、2’−アゾビス(イソ酪酸)ジメチル0.8部を0.2部に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、ポリビニルピロリドン水溶液を得た。得られたポリビニルピロリドン水溶液の物性を測定したところ、濃度が20wt%、K値が95、N−ビニル−2−ピロリドン残存量がポリビニルピロリドンに対して1ppm以下であった。得られたポリビニルピロリドン水溶液を、ドラムドライヤー乾燥法により、120℃で乾燥させた後、粉砕して、固形分が96.0wt%、ジエタノールアミンまたはその塩の含有量が2,800ppmであるポリビニルピロリドン粉体組成物を得た。得られたポリビニルピロリドン粉体組成物の溶解速度を測定したところ、12分であり、高い溶解性を示した。
【0057】
≪比較例1≫
実施例1において、ジエタノールアミンに代えて第3級アミンであるトリエタノールアミンを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、ポリビニルピロリドン水溶液を得た。得られたポリビニルピロリドン水溶液の物性を測定したところ、濃度が20wt%、K値が79、N−ビニル−2−ピロリドン残存量がポリビニルピロリドンに対して3ppmであった。得られたポリビニルピロリドン水溶液を、ドラムドライヤー乾燥法により、120℃で乾燥させ、得られたポリビニルピロリドン固形物の溶解速度を測定したところ、18分であり、かなり低い溶解性を示した。
【0058】
≪比較例2≫
水1,518部を反応容器に仕込み、窒素ガスを導入し、攪拌しながら、反応容器の内温が76℃になるように加熱した。この反応容器に、N−ビニル−2−ピロリドン402部と、さらに2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)0.2部とイソプロピルアルコール20部と水60部との混合物とを、それぞれ4時間かけて滴下し、反応させた。滴下終了後、80℃に昇温し、5時間反応させた後、マロン酸(第1解離定数:2.8、20℃におけるカルシウム塩の溶解度:0.36質量%)0.72部を水1.7部に溶解した水溶液を添加し、2時間反応させた。さらに、炭酸グアニジン0.94部を水3.8部に溶解した水溶液を添加し、1時間攪拌した後、第1級アミンとしてモノエタノールアミン1.14部および第3級アミンとしてトリエタノールアミン1.14部とを加え、30分間攪拌して、ポリビニルピロリドン水溶液を得た。得られたポリビニルピロリドン水溶液の物性を測定したところ、濃度が20wt%、K値が95、N−ビニル−2−ピロリドン残存量がポリビニルピロリドンに対して1ppm以下であった。得られたポリビニルピロリドン水溶液を、ドラムドライヤー乾燥法により、120℃で乾燥させた後、粉砕して、固形分が95.4wt%であるポリビニルピロリドン粉体組成物を得た。得られたポリビニルピロリドン粉体組成物の溶解速度を測定したところ、16分であり、かなり低い溶解性を示した。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明のポリビニルピロリドン粉体組成物は、それ自体を原料または添加剤として、例えば、化粧品、医農薬中間体、食品添加物、感光性電子材料、粘着付与剤などの用途に、あるいは、種々の特殊工業用途(例えば、中空糸膜の製造)に、幅広い分野で用いることができるが、水への溶解速度が高く、使用時の作業効率が向上することから、工業上有利である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
K値が60以上、130以下であるポリビニルピロリドンと、第2級アミンまたはその塩とを含有することを特徴とするポリビニルピロリドン粉体組成物。
【請求項2】
請求項1記載のポリビニルピロリドン粉体組成物を製造する方法であって、K値が60以上、130以下であるポリビニルピロリドンに、第2級アミンまたはその塩を添加することを特徴とするポリビニルピロリドン粉体組成物の製造方法。
【請求項3】
請求項1記載のポリビニルピロリドン粉体組成物を製造する方法であって、K値が60以上、130以下であるポリビニルピロリドンと、第2級アミンまたはその塩とを含有するポリビニルピロリドン水溶液を加熱乾燥することを特徴とするポリビニルピロリドン粉体組成物の製造方法。
【請求項4】
請求項3記載のポリビニルピロリドン水溶液が、水媒体中、アゾ化合物または有機過酸化物を重合開始剤として、N−ビニル−2−ピロリドンを重合してポリビニルピロリドン水溶液を得るにあたり、重合前、重合中または重合後の反応液に、第2級アミンまたはその塩を添加して得られる請求項3記載の製造方法。
【請求項5】
請求項3記載のポリビニルピロリドン水溶液が、K値が60以上、130以下であるポリビニルピロリドンを含有する水溶液に、第2級アミンまたはその塩を添加して得られる請求項3記載の製造方法。
【請求項6】
請求項3記載のポリビニルピロリドン水溶液が、第2級アミンまたはその塩の水溶液に、K値が60以上、130以下であるポリビニルピロリドンを添加して得られる請求項3記載の製造方法。

【公開番号】特開2007−277378(P2007−277378A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−104627(P2006−104627)
【出願日】平成18年4月5日(2006.4.5)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】