説明

ポリフェニレンエーテル系発泡体からなるエレクトレット

【課題】電気的なエネルギーを機械的なエネルギーに、または機械的なエネルギーを電気的なエネルギーに変換することができ、高温での電荷保持性に優れ、容易に製造可能な樹脂発泡体エレクトレットを提供する。
【解決手段】変性ポリフェニレンエーテル系樹脂発泡体を帯電させることにより得られるエレクトレットであり、好ましくは、厚み方向の平均セル径Aと厚み方向に垂直な面の平均セル径Bの比A/Bが1以下であり、厚み方向のセル数が2以上である変性ポリフェニレンエーテル系樹脂発泡体を帯電させることにより得られるエレクトレット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変性ポリフェニレンエーテル系樹脂発泡体を帯電させることにより得られるエレクトレットに関する。
【背景技術】
【0002】
電気的なエネルギーを機械的なエネルギーに、または機械的なエネルギーを電気的なエネルギーに変換するものとして、エレクトレットが知られている。エレクトレットは、スピーカーやマイクロフォンなどの音響機器や、圧力センサーなどに利用されている。
【0003】
従来、有機系材料によるエレクトレットとして、帯電させたポリフッ化ビニリデンのフィルムが利用されてきた。しかし、圧電性が低いという問題があった。近年、ポリプロピレン発泡フィルムを帯電させたものが高い圧電性を示すことが見出されたが、高温での電荷保持性が十分でないため60℃で圧電性能が低下するという問題点があった(非特許文献1)。高温下でも電荷保持性に優れている発泡体としては、ポリテトラフルオロエチレンやテトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロエチレン共重合体などフッ素系樹脂発泡体が知られている(特許文献1)。しかし、フッ素系樹脂発泡体では、高温での電荷保持性が優れているが、発泡体の製造が容易ではないという問題があった。
【特許文献1】特開2007−231077号公報
【非特許文献1】Ferroelectrics, 2006年, 331巻, 189−199項
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、高温での電荷保持性に優れ、容易に製造可能な樹脂発泡体エレクトレットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、容易に製造可能な変性ポリフェニレンエーテル系樹脂発泡体を帯電させたものが良好な圧電性を示し、高温下での電荷保持性が優れていることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち本発明は、変性ポリフェニレンエーテル系樹脂発泡体を帯電させることにより得られるエレクトレットに関する。
【0007】
好ましい態様としては、前記変性ポリフェニレンエーテル系樹脂発泡体の厚み方向の平均セル径Aと厚み方向に垂直な面の平均セル径Bの比A/Bが1以下であることを特徴とする前記記載のエレクトレットに関し、より好ましい態様としては、前記変性ポリフェニレンエーテル系樹脂発泡体の厚み方向のセル数が2以上であることを特徴とする前記記載のエレクトレットに関する。
【発明の効果】
【0008】
発泡体として変性ポリフェニレンエーテル系樹脂発泡体を利用し、帯電させることにより、耐久性に優れ、良好な圧電性を示し、高温下での電荷保持性が優れたエレクトレットを容易に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明における変性ポリフェニレンエーテル系樹脂発泡体の機材樹脂である変性ポリフェニレンエーテル系樹脂としては、ポリフェニレンエーテル系樹脂へのスチレン系単量体を重合させたスチレン・フェニレンエーテル共重合体、ポリフェニレンエーテル系樹脂とポリスチレン系樹脂を混合してなる樹脂、等があげられる。
【0010】
これら変性ポリフェニレンエーテル系樹脂のなかでは、低コストであり、その混合比を変化させることにより、簡単に耐熱性、剛性等の品質に優れ、加工性を変化させたものを得ることができる点から、ポリフェニレンエーテル系樹脂とポリスチレン系樹脂を混合してなる樹脂であることが好ましい。
【0011】
前記変性ポリフェニレンエーテル系樹脂は、変性ポリフェニレンエーテル系樹脂中ポリフェニレンエーテル系樹脂10重量%以上70重量%以下とポリスチレン系樹脂30重量%以上90重量%以下からなることが好ましく、より好ましくは、ポリフェニレンエーテル系樹脂30重量%以上60重量%以下とポリスチレン系樹脂40重量%以上70重量%以下である。
【0012】
前記ポリフェニレンエーテル系樹脂の具体例としては、例えば、ポリ(2,6−ジメチルフェニレン−1,4−エーテル)、ポリ(2−メチル−6−エチルフェニレン−4−エーテル)、ポリ(2,6−ジエチルフェニレン−1,4−エーテル)、ポリ(2,6−ジエチルフェニレン−1,4−エーテル)、ポリ(2−メチル−6−n−プロピルフェニレン−1,4−エーテル)、ポリ(2−メチル−6−n−ブチルフェニレン−1,4−エーテル)、ポリ(2−メチル−6−クロルフェニレン−1,4−エーテル)、ポリ(2−メチル−6−ブロムフェニレン−1,4−エーテル)、ポリ(2−エチル−6−クロルフェニレン−1,4−エーテル)などがあげられ、これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いもよい。
【0013】
また、ポリフェニレンエーテル系樹脂に重合、好ましくはグラフト重合させるスチレン系単量体の具体例としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、モノクロルスチレン、ジクロルスチレン、p−メチルスチレン、エチルスチレンなどがあげられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上組み合わせてもよい。なかでも、汎用性およびコストの点で、スチレンが好ましい。
【0014】
ポリスチレン系樹脂の具体例としては、前記スチレン系単量体を主成分とする樹脂があげられる。ポリスチレン系樹脂は、スチレンまたはスチレン誘導体だけからなる単独重合体に限らず、他の単量体と共重合することによって作られた共重合体であってもよい。
【0015】
本発明における変性ポリフェニレンエーテル系樹脂発泡体は、例えば、150〜300℃の押出機内で前記変性ポリフェニレンエーテル系樹脂および発泡剤を溶融混練後、押出機内において130〜200℃の発泡温度に調節し、環状のリップを有するサーキュラーダイスを用い、そのダイスのリップから大気圧中に押し出して円筒状の発泡体を得、次いで、その円筒状発泡体を引き取りながら、冷却筒(マンドレル)による成形加工によって冷却後、切り開く方法によって製造することができる。またサーキュラーダイスの代わりにTダイを用いてフィルム状に発泡体を得、ロールなどで引き取る方法によっても製造される。また得られた、発泡体をスライス等切削加工してもよい。
【0016】
本発明における変性ポリフェニレンエーテル系樹脂発泡体の製造に使用される発泡剤としては、例えば、プロパン、ノルマルブタン、イソブタン、ノルマルペンタン、イソペンタン、などの脂肪族炭化水素類、シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサンなどの脂環式炭化水素類、窒素、炭酸ガス、空気などの無機ガスがあげられる。これらは単独または2種以上混合して使用してよい。
【0017】
前記発泡剤量は、発泡剤の種類および目標密度により異なるが、変性ポリフェニレンエーテル系樹脂100重量部に対して、1重量部以上5重量部以下であることが好ましい。
【0018】
本発明においては、変性ポリフェニレンエーテル系樹脂発泡体の厚み方向のセル数を前記範囲にコントロールするために、必要に応じて、タルクなどの造核剤を併用してもよい。必要に応じて用いられる該造核剤の添加量は、特に制限はないが、通常、変性ポリフェニレンエーテル系樹脂100重量部に対して、0.01重量部以上10重量部以下であることが好ましい。
【0019】
さらに本発明においては、変性ポリフェニレンエーテル系樹脂発泡体の製造において、変性ポリフェニレンエーテル系樹脂の発泡性を損なわない範囲で、熱可塑性樹脂や、酸化防止剤、金属不活性剤、燐系加工安定剤、紫外線吸収剤、紫外線安定剤、蛍光増白剤、金属石鹸、制酸吸着剤などの安定剤、または架橋剤、連鎖移動剤、造核剤、滑剤、可塑剤、充填材、強化材、顔料、染料、難燃剤などの添加剤を添加してもよい。
【0020】
本発明における変性ポリフェニレンエーテル系樹脂発泡体はこの様にして得ることができる。
【0021】
本発明における変性ポリフェニレンエーテル系樹脂発泡体の厚み方向の平均セル径Aと厚み方向に垂直な面の平均セル径Bの比A/Bが1以下であることが好ましく、より好ましくは0.5以下である。ここで、変性ポリフェニレンエーテル系樹脂発泡体の厚みとは、エレクトレット化において高電圧を印加する方向と平行な方向をいう。
【0022】
また、本発明における変性ポリフェニレンエーテル系樹脂発泡体の厚み方向の平均セル径Aは、変性ポリフェニレンエーテル系樹脂発泡体の厚みを超えなければ特に限定は無いが、厚み方向のセル数が2以上であることが好ましい。厚み方向のセル数は、断面を顕微鏡にて150倍に拡大して観察することにより読み取る。
【0023】
なお、本発明における変性ポリフェニレンエーテル系樹脂発泡体の厚み方向の平均セル径Aと厚み方向に垂直な面の平均セル径Bは、変性ポリフェニレンエーテル系樹脂発泡体の厚み方向に平行な2つの直交する断面を顕微鏡にて150倍に拡大し、顕微鏡に付属のスケールを用い、それぞれ20個のセルについて厚み方向及び厚み方向に対し垂直方向
のセル径を読み取り、算術平均により算出する。垂直方向のセル径は長径と短径を読み取る。
【0024】
本発明における変性ポリフェニレンエーテル系樹脂発泡体の厚みは、特に限定されないが、通常0.05〜2mmである。この範囲であれば、エレクトレットとしての性能を示すことができる。
【0025】
上記の方法で得られた変性ポリフェニレンエーテル系樹脂発泡体に高電圧を印加し帯電させることによりエレクトレットを得ることができる。高電圧を印加する方法としては、コロナ放電装置を用いる方法や発泡体に電極を取り付け高圧電源に接続する方法がある。電極を取り付ける必要がないため、コロナ放電装置により高電圧を印加し帯電させる方法が好ましい。印加する電圧が低すぎると、帯電が不十分となるため0.5kV以上の電圧を印加することが好ましい。
【実施例】
【0026】
以下に実施例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。なお、実施例において「部」や「%」は質量基準である。
【0027】
〔電荷の熱安定性評価〕
エレクトレットを60℃のオーブンで処理し、表面電荷を表面電位計により5点測定し平均した。
【0028】
〔圧電性評価〕
エレクトレットの厚み方向に対し垂直な面の両面全体にアルミ箔を密着させ、アルミ箔と電圧測定装置を接続した。これに100gのSUS板(125mm×50mm)をアルミ箔上に1cmの高さより落下させ、発生する電圧を測定した。
【0029】
(実施例1)
ポリフェニレンエーテル樹脂40重量%およびポリスチレン樹脂60重量%となるように、ポリフェニレンエーテル樹脂(日本GE社製、EFN−4230:ポリフェニレンエーテル成分/ポリスチレン成分=70/30)57.1重量部およびポリスチレン樹脂(PSジャパン社製、G8102:PS成分=100)42.9重量部を混合した変性ポリフェニレンエーテル樹脂100重量部、タルク(林化成(株)社製、タルカンパウダーPK)0.34重量部、ステアリン酸マグネシウム(堺化学工業(株)社製、SM−1000)0.08重量部、およびポリブテン(日石ポリブテン製、LV−50)0.05重量部をリボンブレンダーで撹拌混合した。得られた配合物を、115mmφ押出機(第1段押出機)と152mmφ押出機(第2段押出機)が直列に連結されたタンデム押出機に供給し、樹脂温度が約280℃になるように、第1段押出機中で溶融混練させた後、発泡剤として炭化水素系発泡剤(iso−ブタン/n−ブタン=85/15)を変性ポリフェニレンエーテル樹脂100重量部に対して3.9重量部圧入混合した。その後、第2段押出機のシリンダ−温度を135〜145℃に冷却した後、サーキュラーダイより大気圧下に150kg/時間の速度にて押出した。得られた円筒状発泡体を、マンドレル(外径445mmであり、循環水により40℃に温調)を用いて成形しながら10.0m/minで引き取りつつ、これをカッターで切り開くことにより、シート状態とし、長さ200mを直径260mmの巻き芯材を用いて、円筒ロールになるように巻き取った。得られた発泡シ−トは、発泡倍率15倍、独立気泡率90%、目付150g/m、シ−ト幅1400mmおよびシート厚み2.3mmであった。
【0030】
得られた発泡シートをスライスし、厚み0.3mmの変性ポリフェニレンエーテル樹脂発泡体を得た。得られた変性ポリフェニレンエーテル樹脂発泡体の厚み方向の平均セル径は0.05mm、厚み方向と垂直な面の平均セル径は0.12mm×0.20mmであった。
【0031】
変性ポリフェニレンエーテル樹脂発泡体(50mm×50mm×0.3mm)に、コロナ放電で15kVの電圧を3分間印加しエレクトレットを得た。電荷の熱安定性評価及び圧電性の評価を行った。
【0032】
(比較例1)
ポリプロピレン発泡シート(50mm×50mm×1.7mm、発泡倍率6.2倍、独立気泡率80%、目付量240g/m、厚み方向平均セル径0.18mm、厚み方向と垂直な面の平均セル径は0.37mm×0.46mm)にコロナ放電で15kVの電圧を3分間印加しエレクトレットを得た。電荷の熱安定性評価及び圧電性の評価を行った。
【0033】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】実施例1と比較例1の電荷の熱安定性評価の結果を示したグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
変性ポリフェニレンエーテル系樹脂発泡体を帯電させることにより得られるエレクトレット。
【請求項2】
前記変性ポリフェニレンエーテル系樹脂発泡体の厚み方向の平均セル径Aと厚み方向に垂直な面の平均セル径Bの比A/Bが1以下であることを特徴とする請求項1記載のエレクトレット。
【請求項3】
前記変性ポリフェニレンエーテル系樹脂発泡体の厚み方向のセル数が2以上であることを特徴とする請求項1または2に記載のエレクトレット。

【図1】
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【公開番号】特開2009−260063(P2009−260063A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−107810(P2008−107810)
【出願日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】