説明

ポリフェニレンスルフィド樹脂の製造方法

【課題】重量平均分子量が800〜20,000のポリフェニレンスルフィドオリゴマーから、揮発分の低減された工業的に有用なポリフェニレンスルフィド樹脂を得る。
【解決手段】少なくともポリハロゲン化芳香族化合物、スルフィド化剤および有機極性溶媒を含有する混合物を加熱してポリフェニレンスルフィド樹脂を重合し220℃以下に冷却して得られた少なくとも顆粒状のポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリフェニレンスルフィドオリゴマー、有機極性溶媒、水、およびハロゲン化アルカリ金属塩を含むスラリー(A)から、少なくとも顆粒状のポリフェニレンスルフィド樹脂、有機極性溶媒、水、およびハロゲン化アルカリ金属塩を除去することにより得られた、重量平均分子量が800〜20000のポリフェニレンスルフィドオリゴマーを、気相酸化性雰囲気下、150℃〜260℃で熱酸化処理するポリフェニレンスルフィド樹脂の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重量平均分子量が800〜20,000のポリフェニレンスルフィドオリゴマーを、気相酸化性雰囲気下、150℃〜260℃で熱酸化処理することを特徴とする、揮発分の低減された工業的に有用なポリフェニレンスルフィド樹脂の製造方法及びその製造方法により得られるポリフェニレンスルフィド樹脂に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリフェニレンスルフィド樹脂は優れた耐熱性、バリア性、耐薬品性、電気絶縁性、耐湿熱性などエンジニアリングプラスチックとしては好適な性質を有しており、射出成形、押出成形用を中心として各種電気・電子部品、機械部品および自動車部品などに使用されている。
【0003】
ポリフェニレンスルフィド樹脂を重合し、重合後徐冷することにより顆粒状のポリフェニレンスルフィド樹脂が得られることは既に知られている。しかしこの際、低分子量のポリフェニレンスルフィドオリゴマーを主成分とする微粒子状の固形物も副生する。多くの場合この微粒子状の固形物は、取り扱いが煩雑なため、例えば濾過助剤を被覆したフィルターで濾別回収し、濾過助剤と微粒子状の固形物の混合物は廃棄されてきた。
【0004】
この低分子量のポリフェニレンスルフィドオリゴマーを主成分とする微粒子状の固形物を効率的に回収し、再利用できれば、ポリフェニレンスルフィド樹脂を生産する上で経済的に有利となる。しかしながら、このポリフェニレンスルフィドオリゴマーは、加熱時に多量の揮発分が発生するため、そのまま工業的に用いるには問題があった。
【0005】
ポリフェニレンスルフィドオリゴマーを酸素含有雰囲気下で熱処理することについては既に開示されている(特許文献1)。しかし、該特許では、熱処理前のポリフェニレンスルフィドオリゴマーの分子量が600以下と極めて低く、また熱処理温度も270℃〜420℃と極めて高い。またその目的も極めて低分子量のPPSオリゴマーをある程度高分子量化することにあり、本発明とは熱処理前のポリフェニレンスルフィドオリゴマーの分子量、熱処理温度、目的いずれも異なるものである。
【特許文献1】米国特許第4,046,749号明細書(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、ポリフェニレンスルフィド樹脂の重合の際の副生物であるポリフェニレンスルフィドオリゴマーから揮発分を大幅に低減させることで、工業的に再利用可能なポリフェニレンスルフィド樹脂を得ることを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち本発明は、
(1)重量平均分子量が800〜20,000のポリフェニレンスルフィドオリゴマーを、気相酸化性雰囲気下、150℃〜260℃で熱酸化処理するポリフェニレンスルフィド樹脂の製造方法、
(2)少なくともポリハロゲン化芳香族化合物、スルフィド化剤および有機極性溶媒を含有する混合物を加熱してポリフェニレンスルフィド樹脂を重合し220℃以下に冷却して得られた少なくとも顆粒状のポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリフェニレンスルフィドオリゴマー、有機極性溶媒、水、およびハロゲン化アルカリ金属塩を含むスラリー(A)から、少なくとも顆粒状のポリフェニレンスルフィド樹脂、有機極性溶媒、水、およびハロゲン化アルカリ金属塩を除去することにより得られた、重量平均分子量が800〜20,000のポリフェニレンスルフィドオリゴマーを、気相酸化性雰囲気下、150℃〜260℃で熱酸化処理するポリフェニレンスルフィド樹脂の製造方法、
(3)スラリー(A)からポリフェニレンスルフィドオリゴマーを分離回収する方法が、
(a)スラリー(A)に、重合で使用したスルフィド化剤1モルに対し、有機極性溶媒0.5〜10モルを添加し、希釈スラリー(B)を形成し、
(b)希釈スラリー(B)から、顆粒状のポリフェニレンスルフィド樹脂を回収し、少なくともポリフェニレンスルフィドオリゴマー、有機極性溶媒、水、およびハロゲン化アルカリ金属塩を含有する回収スラリー(C)を得、
(c)回収スラリー(C)から、少なくとも50重量%以上の有機極性溶媒を除去し、残留物(D)を得、
(d)残留物(D)に水を添加した後、少なくとも残存有機極性溶媒およびハロゲン化アルカリ金属塩を除去する、
方法である(2)のポリフェニレンスルフィド樹脂の製造方法、
(4)(b)工程で濾過により顆粒状ポリフェニレンスルフィド樹脂を回収する(3)のポリフェニレンスルフィド樹脂の製造方法、
(5)(c)工程で加熱により有機極性溶媒を除去する(3)または(4)のポリフェニレンスルフィド樹脂の製造方法、
(6)(d)工程で濾過により残存有機極性溶媒およびハロゲン化アルカリ金属塩を除去する(3)から(5)のいずれかのポリフェニレンスルフィド樹脂の製造方法、
(7)ポリフェニレンスルフィド樹脂を重合する際に、重合助剤を使用する(2)から(6)のいずれかのポリフェニレンスルフィド樹脂の製造方法、
(8)(a)工程、(b)工程のいずれでもポリフェニレンスルフィド樹脂1kgあたり1kg以上の水を添加しない(3)から(7)のいずれかのポリフェニレンスルフィド樹脂の製造方法、
(9)有機極性溶媒が、N−メチル−2−ピロリドンである(2)から(8)のいずれかのポリフェニレンスルフィド樹脂の製造方法、
(10)重量平均分子量が800〜20,000のポリフェニレンスルフィドオリゴマーを、気相酸化性雰囲気下、150℃〜260℃で熱酸化処理して得られるポリフェニレンスルフィド樹脂、
(11)熱重量示差熱分析装置を用い、室温から20℃/分で昇温した際の、300℃における重量減少量が0.8重量%以下である(10)のポリフェニレンスルフィド樹脂、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、揮発分の低減された、工業的に有用で再利用可能なポリフェニレンスルフィド樹脂を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0010】
(1)ポリフェニレンスルフィド(以下、PPSという)樹脂
本発明で言うところのPPS樹脂は、下記構造式(I)で示される繰り返し単位を有する重合体であり、
【0011】
【化1】

【0012】
耐熱性の観点からは上記構造式で示される繰り返し単位を含む重合体を70モル%以上、更には90モル%以上含む重合体が好ましい。またPPS樹脂はその繰り返し単位の30モル%未満程度が、下記の構造を有する繰り返し単位等で構成されていてもよい。
【0013】
【化2】

【0014】
本発明で重合されるPPS樹脂の溶融粘度に特に制限はないが、通常5Pa・s(310℃、剪断速度1000/s)以上が好ましく、10Pa・s以上がさらに好ましい。上限については溶融流動性保持の点から600Pa・s以下であることが好ましい。
【0015】
なお、溶融粘度は、310℃、剪断速度1000/sの条件下、東洋精機社製キャピログラフを用いて測定した値である。
【0016】
本発明における熱酸化処理される前のPPSオリゴマーとは、上記PPS樹脂と同様の構造を有した、直鎖状および/または環状オリゴマーである。
【0017】
その重量平均分子量は800以上好ましくは1000以上、より好ましくは1200以上、さらに好ましくは10,000以上である。また、その上限は20,000であり、好ましくは18,000以下、より好ましくは17,000以下、さらに好ましくは15,000以下である。重量平均分子量が800未満では熱酸化処理を施しても、機械的強度が極めて乏しくなり、その製造も難しく工業的使用には適さない。重量平均分子量が20,000を越える重合物は工業的使用には適するが、本発明の主たる目的は、PPS樹脂を重合し、重合後徐冷することにより顆粒状の高分子量のPPS樹脂を得た際に副生する、低分子量のPPSオリゴマーの有効活用であり、このようにして副生するPPSオリゴマーの重量平均分子量の上限はおよそ20,000である。
【0018】
本発明では、重合時のモノマー比率を制御することにより、所望の重量平均分子量を有するPPSオリゴマーを重合することも可能である。しかし、本発明の主たる目的は、PPS樹脂を重合し、重合後徐冷することにより顆粒状の高分子量のPPS樹脂を得た際に副生する、低分子量のPPSオリゴマーの有効活用である。
【0019】
以下に、本発明におけるPPS樹脂の製造方法について説明するが、まず、製造方法において使用するポリハロゲン芳香族化合物、スルフィド化剤、重合溶媒、分子量調節剤、重合助剤および重合安定剤の内容について説明する。
【0020】
[ポリハロゲン化芳香族化合物]
本発明で用いられるポリハロゲン化芳香族化合物とは、1分子中にハロゲン原子を2個以上有する化合物をいう。具体例としては、p−ジクロロベンゼン、m−ジクロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン、1,3,5−トリクロロベンゼン、1,2,4−トリクロロベンゼン、1,2,4,5−テトラクロロベンゼン、ヘキサクロロベンゼン、2,5−ジクロロトルエン、2,5−ジクロロ−p−キシレン、1,4−ジブロモベンゼン、1,4−ジヨードベンゼン、1−メトキシ−2,5−ジクロロベンゼンなどのポリハロゲン化芳
香族化合物が挙げられ、好ましくはp−ジクロロベンゼンが用いられる。また、異なる2種以上のポリハロゲン化芳香族化合物を組み合わせて共重合体とすることも可能であるが、p−ジハロゲン化芳香族化合物を主要成分とすることが好ましい。
【0021】
ポリハロゲン化芳香族化合物の使用量は、加工に適した粘度のPPS樹脂を得る点から、スルフィド化剤1モル当たり0.9から2.0モル、好ましくは0.95から1.5モル、更に好ましくは1.005から1.2モルの範囲が例示できる。
【0022】
[スルフィド化剤]
本発明で用いられるスルフィド化剤としては、アルカリ金属硫化物、アルカリ金属水硫化物、および硫化水素が挙げられる。
【0023】
アルカリ金属硫化物の具体例としては、例えば硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化ルビジウム、硫化セシウムおよびこれら2種以上の混合物を挙げることができ、なかでも硫化ナトリウムが好ましく用いられる。これらのアルカリ金属硫化物は、水和物または水性混合物として、あるいは無水物の形で用いることができる。
【0024】
アルカリ金属水硫化物の具体例としては、例えば水硫化ナトリウム、水硫化カリウム、水硫化リチウム、水硫化ルビジウム、水硫化セシウムおよびこれら2種以上の混合物を挙げることができ、なかでも水硫化ナトリウムが好ましく用いられる。これらのアルカリ金属水硫化物は、水和物または水性混合物として、あるいは無水物の形で用いることができる。
【0025】
また、アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物から、反応系においてin situで調製されるアルカリ金属硫化物も用いることができる。また、アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物からアルカリ金属硫化物を調整し、これを重合槽に移して用いることができる。
【0026】
あるいは、水酸化リチウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物と硫化水素から反応系においてin situで調製されるアルカリ金属硫化物も用いることができる。また、水酸化リチウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物と硫化水素からアルカリ金属硫化物を調整し、これを重合槽に移して用いることができる。
【0027】
本発明において、仕込みスルフィド化剤の量は、脱水操作などにより重合反応開始前にスルフィド化剤の一部損失が生じる場合には、実際の仕込み量から当該損失分を差し引いた残存量を意味するものとする。
【0028】
なお、スルフィド化剤と共に、アルカリ金属水酸化物および/またはアルカリ土類金属水酸化物を併用することも可能である。アルカリ金属水酸化物の具体例としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウムおよびこれら2種以上の混合物を好ましいものとして挙げることができ、アルカリ土類金属水酸化物の具体例としては、例えば水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウムなどが挙げられ、なかでも水酸化ナトリウムが好ましく用いられる。
【0029】
スルフィド化剤として、アルカリ金属水硫化物を用いる場合には、アルカリ金属水酸化物を同時に使用することが特に好ましいが、この使用量はアルカリ金属水硫化物1モルに対し0.95から1.20モル、好ましくは1.00から1.15モル、更に好ましくは1.005から1.100モルの範囲が例示できる。
【0030】
[重合溶媒]
本発明では重合溶媒として有機極性溶媒を用いる。具体例としては、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドンなどのN−アルキルピロリドン類、N−メチル−ε−カプロラクタムなどのカプロラクタム類、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルリン酸トリアミド、ジメチルスルホン、テトラメチレンスルホキシドなどに代表されるアプロチック有機溶媒、およびこれらの混合物などが挙げられ、これらはいずれも反応の安定性
が高いために好ましく使用される。これらのなかでも、特にN−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPと略記することもある)が好ましく用いられる。
【0031】
重合時の有機極性溶媒の使用量は、スルフィド化剤1モル当たり2.0モルから10モル、好ましくは2.25から6.0モル、より好ましくは2.5から5.5モルの範囲が選択される。
【0032】
[分子量調節剤]
本発明においては、生成するPPS樹脂の末端を形成させるか、あるいは重合反応や分子量を調節するなどのために、モノハロゲン化合物(必ずしも芳香族化合物でなくともよい)を、上記ポリハロゲン化芳香族化合物と併用することができる。
【0033】
[重合助剤]
本発明においては、顆粒状のPPS樹脂をより短時間で得るために重合助剤を用いることも好ましい態様の一つである。ここで重合助剤とは得られるポリフェニレンスルフィド樹脂の粘度を増大させる作用を有する物質を意味する。このような重合助剤の具体例としては、例えば有機カルボン酸塩、水、アルカリ金属塩化物、有機スルホン酸塩、硫酸アルカリ金属塩、アルカリ土類金属酸化物、アルカリ金属リン酸塩およびアルカリ土類金属リン酸塩などが挙げられる。これらは単独であっても、また2種以上を同時に用いることもできる。なかでも、有機カルボン酸塩および/または水、塩化リチウムが好ましく用いられる。
【0034】
上記アルカリ金属カルボン酸塩とは、一般式R(COOM)n(式中、Rは、炭素数1〜20を有するアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルキルアリール基またはアリールアルキル基である。Mは、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウムおよびセシウムから選ばれるアルカリ金属である。nは1〜3の整数である。)で表される化合物である。アルカリ金属カルボン酸塩は、水和物、無水物または水溶液としても用いることができる。アルカリ金属カルボン酸塩の具体例としては、例えば、酢酸リチウム、酢酸
ナトリウム、酢酸カリウム、プロピオン酸ナトリウム、吉草酸リチウム、安息香酸ナトリウム、フェニル酢酸ナトリウム、p−トルイル酸カリウム、およびそれらの混合物などを挙げることができる。
【0035】
アルカリ金属カルボン酸塩は、有機酸と、水酸化アルカリ金属、炭酸アルカリ金属塩および重炭酸アルカリ金属塩よりなる群から選ばれる一種以上の化合物とを、ほぼ等化学当量ずつ添加して反応させることにより形成させてもよい。上記アルカリ金属カルボン酸塩の中で、リチウム塩は反応系への溶解性が高く助剤効果が大きいが高価であり、カリウム、ルビジウムおよびセシウム塩は反応系への溶解性が不十分であると思われるため、安価で、重合系への適度な溶解性を有する酢酸ナトリウムが最も好ましく用いられる。
【0036】
これらアルカリ金属カルボン酸塩を重合助剤として用いる場合の使用量は、仕込みアルカリ金属硫化物1モルに対し、通常0.01モル〜2モルの範囲であり、より高い重合度を得る意味においては0.1〜0.6モルの範囲が好ましく、0.2〜0.5モルの範囲がより好ましい。
【0037】
また水を重合助剤として用いる場合の添加量は、仕込みアルカリ金属硫化物1モルに対し、通常0.3モル〜15モルの範囲であり、より高い重合度を得る意味においては0.6〜10モルの範囲が好ましく、1〜5モルの範囲がより好ましい。
【0038】
これら重合助剤は2種以上を併用することももちろん可能であり、例えばアルカリ金属カルボン酸塩と水を併用すると、それぞれより少量で高分子量化が可能となる。
【0039】
これら重合助剤の添加時期には特に指定はなく、後述する前工程時、重合開始時、重合途中のいずれの時点で添加してもよく、また複数回に分けて添加してもよいが、重合助剤としてアルカリ金属カルボン酸塩を用いる場合は前工程開始時或いは重合開始時に同時に添加することが添加が容易である点からより好ましい。また水を重合助剤として用いる場合は、ポリハロゲン化芳香族化合物を仕込んだ後、重合反応途中で添加することが効果的である。
【0040】
[重合安定剤]
本発明においては、重合反応系を安定化し、副反応を防止するために、重合安定剤を用いることもできる。重合安定剤は、重合反応系の安定化に寄与し、望ましくない副反応を抑制する。副反応の一つの目安としては、チオフェノールの生成が挙げられ、重合安定剤の添加によりチオフェノールの生成を抑えることができる。重合安定剤の具体例としては、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ土類金属水酸化物、およびアルカリ土類金属炭酸塩などの化合物が挙げられる。そのなかでも、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、および水酸化リチウムなどのアルカリ金属水酸化物が好ましい。上述のアルカリ金属カルボン酸塩も重合安定剤として作用するので、本発明で使用する重合安定剤の一つに入る。また、スルフィド化剤としてアルカリ金属水硫化物を用いる場合には、アルカリ金属水酸化物を同時に使用することが特に好ましいことを前述したが、ここでスルフィド化剤に対して過剰となるアルカリ金属水酸化物も重合安定剤となり得る。
【0041】
これら重合安定剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。重合安定剤は、仕込みアルカリ金属硫化物1モルに対して、通常0.02〜0.2モル、好ましくは0.03〜0.1モル、より好ましくは0.04〜0.09モルの割合で使用することが好ましい。この割合が少ないと安定化効果が不十分であり、逆に多すぎても経済的に不利益であったり、ポリマー収率が低下する傾向となる。
【0042】
重合安定剤の添加時期には特に指定はなく、後述する前工程時、重合開始時、重合途中のいずれの時点で添加してもよく、また複数回に分けて添加してもよいが、前工程開始時或いは重合開始時に同時に添加することが添加が容易である点からより好ましい。
【0043】
次に、本発明におけるPPS樹脂の製造方法について、前工程、重合反応工程、回収工程、および後処理工程と、順を追って具体的に説明する。
【0044】
[前工程]
本発明におけるPPS樹脂の製造方法において、スルフィド化剤は通常水和物の形で使用されるが、ポリハロゲン化芳香族化合物を添加する前に、有機極性溶媒とスルフィド化剤を含む混合物を昇温し、過剰量の水を系外に除去することが好ましい。
【0045】
また、上述したように、スルフィド化剤として、アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物から、反応系においてin situで、あるいは重合槽とは別の槽で調製されるスルフィド化剤も用いることができる。この方法には特に制限はないが、望ましくは不活性ガス雰囲気下、常温〜150℃、好ましくは常温から100℃の温度範囲で、有機極性溶媒にアルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物を加え、常圧または減圧下、少なくとも150℃以上、好ましくは180〜260℃まで昇温し、水分を留去させる方法が
挙げられる。この段階で重合助剤を加えてもよい。また、水分の留去を促進するために、トルエンなどを加えて反応を行ってもよい。
【0046】
重合反応における、重合系内の水分量は、仕込みスルフィド化剤1モル当たり0.3〜10.0モルであることが好ましい。ここで重合系内の水分量とは重合系に仕込まれた水分量から重合系外に除去された水分量を差し引いた量である。また、仕込まれる水は、水、水溶液、結晶水などのいずれの形態であってもよい。
【0047】
[重合反応工程]
本発明においては、有機極性溶媒中でスルフィド化剤とポリハロゲン化芳香族化合物とを200℃以上290℃未満の温度範囲内で反応させることによりPPS樹脂を製造する。
【0048】
重合反応工程を開始するに際しては、望ましくは不活性ガス雰囲気下、常温〜240℃、好ましくは100〜230℃の温度範囲で、有機極性溶媒とスルフィド化剤とポリハロゲン化芳香族化合物を混合する。この段階で重合助剤を加えてもよい。これらの原料の仕込み順序は、順不同であってもよく、同時であってもさしつかえない。
【0049】
かかる混合物を通常200℃〜290℃の範囲に昇温する。昇温速度に特に制限はないが、通常0.01〜5℃/分の速度が選択され、0.1〜3℃/分の範囲がより好ましい。
【0050】
一般に、最終的には250〜290℃の温度まで昇温し、その温度で通常0.25〜50時間、好ましくは0.5〜20時間反応させる。
【0051】
最終温度に到達させる前の段階で、例えば200℃〜260℃で一定時間反応させた後、270〜290℃に昇温する方法は、より高い重合度を得る上で有効である。この際、200℃〜260℃での反応時間としては、通常0.25時間から20時間の範囲が選択され、好ましくは0.25〜10時間の範囲が選択される。
【0052】
なお、より高重合度のポリマーを得るためには、複数段階で重合を行うことが有効である場合がある。複数段階で重合を行う際は、245℃における系内のポリハロゲン化芳香族化合物の転化率が、40モル%以上、好ましくは60モル%に達した時点であることが有効である。
【0053】
なお、ポリハロゲン化芳香族化合物(ここではPHAと略記)の転化率は、以下の式で算出した値である。PHA残存量は、通常、ガスクロマトグラフ法によって求めることができる。
(a)ポリハロゲン化芳香族化合物をアルカリ金属硫化物に対しモル比で過剰に添加した場合
転化率=〔PHA仕込み量(モル)−PHA残存量(モル)〕/〔PHA仕込み量(モル)−PHA過剰量(モル)〕
(b)上記(a)以外の場合
転化率=〔PHA仕込み量(モル)−PHA残存量(モル)〕/〔PHA仕込み量(モル)〕
【0054】
[ポリマー回収工程]
本発明におけるPPS樹脂の製造方法においては、重合終了後に、重合体、溶媒などを含む重合反応物から固形物を回収する。本発明で用いるPPS樹脂は、公知の如何なる回収方法を採用しても良いが、顆粒状のPPS樹脂を得る意味で、重合反応終了後、徐冷して粒子状のポリマーを回収する方法が好ましい。この際の徐冷速度には特に制限は無いが、通常0.1℃/分〜3℃/分程度である。徐冷工程の全行程において同一速度で徐冷する必要もなく、ポリマー粒子が結晶化析出するまでは0.1〜1℃/分、その後1℃/分以上の速度で徐冷する方法などを採用しても良い。最終的には220℃以下まで冷却する。なお、ポリマー粒子晶析後、重合槽にベントをかけ、重合槽内の水分の一部或いは全部を予め除去しておく方法は、その後の溶媒回収工程を簡略化できる意味で好ましい方法である。
【0055】
[熱酸化処理前のPPSオリゴマーの回収方法]
本発明において、熱酸化処理前のPPSオリゴマーを得る方法として、重合反応工程で得られるスラリー、すなわち少なくとも顆粒状のPPS樹脂、PPSオリゴマー、有機極性溶媒、水、ハロゲン化アルカリ金属塩を含むスラリー(A)から、少なくとも顆粒状のPPS樹脂、有機極性溶媒、水、ハロゲン化アルカリ金属塩を除去する方法が、好ましい方法として挙げられる。
【0056】
ここでいうスラリー(A)の好ましい例としては粒子径が0.04〜4mm、好ましくは0.1mmから2mmの顆粒状のPPS樹脂、微粉状のPPSオリゴマー、有機極性溶媒、水、ハロゲン化アルカリ金属塩、さらに場合により重合助剤、重合時の副生物を少なくとも含んでいるものが挙げられる。
【0057】
また以下に、好ましいPPSオリゴマーの回収方法(a)〜(d)を示す。
【0058】
(a)本発明では、まず上記スラリー(A)を有機溶媒で希釈して希釈スラリー(B)を形成する。希釈することにより、スラリー(A)の粘性が下がり、下記(b)工程での濾過などによるPPS樹脂の回収効率が上昇する。この際、希釈に用いる有機極性溶媒量は、重合に用いるスルフィド化剤1molに対し、0.5〜10mol範囲であり、好ましくは、0.7〜5molの範囲である。希釈に用いる有機極性溶媒種としては、前記重合溶媒と同じものが好ましい。その他、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホン、スルホランなどのスルホキシド・スルホン系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、アセトフェノンなどのケトン系溶媒、ジメチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒、クロロホルム、塩化メチレン、トリクロロエチレン、2塩化エチレン、パークロルエチレン、モノクロルエタン、ジクロルエタン、テトラクロルエタン、パークロルエタン、クロルベンゼンなどのハロゲン系溶媒、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、フェノール、クレゾール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのアルコール・フェノール系溶媒などでも良いが、水などの重合溶媒以外の溶媒で希釈すると、重合溶媒との分離が必要になり、また水のような重合溶媒との親和性の高い溶媒を用いると、両者の分離に多大なエネルギーを要するため経済的に不利となる。
【0059】
(b)次に上記希釈スラリー(B)からPPS樹脂を回収する。このとき、希釈スラリー(B)中で、PPS樹脂は固体状態で存在し、PPSオリゴマー、水、ハロゲン化アルカリ金属塩は有機溶媒中に分散しているので、公知の固液分離によりPPS樹脂を回収することができる。このとき、希釈スラリー(B)中には、場合によりスラリー(A)に含まれる重合助剤、重合時の副生物などを含有していてもよい。PPS樹脂の回収は、濾過による方法が好ましい。顆粒状のPPS樹脂を濾別し、少なくともPPSオリゴマー、有機極性溶媒、水、ハロゲン化アルカリ金属塩及び場合により重合助剤、副生物などを含む回収スラリー(C)を得る。濾過の際のスラリー(B)の温度は特に制限は無いが、通常50〜200℃の範囲が選択され、60〜150℃の範囲がより好ましい。この際に用いる濾材は、顆粒状のPPS樹脂を分離でき、PPSオリゴマー、有機極性溶媒、水、副生物、ハロゲン化アルカリ金属塩含むスラリーは通過するものを選ぶ必要がある。通常は10メッシュ(目開き1.651mm)〜200メッシュ(目開き0.074mm)、好ましくは48メッシュ(目開き0.295mm)〜100メッシュ(目開き0.147mm)程度のものが好ましい。濾過器としては、遠心濾過器、振動スクリーンなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0060】
(c)上記(b)で得た、回収スラリー(C)から有機極性溶媒を除去する。有機極性溶媒の除去は加熱し、常圧または減圧下に処理する方法が好ましい。有機極性溶媒の除去は、少なくとも50重量%以上、好ましくは70重量%以上、更に好ましくは90重量%以上の有機極性溶媒を揮散除去する。その際の温度としては通常120℃〜300℃の範囲が選択され、140℃〜250℃がより好ましい。このときに回収スラリー(C)に含有する水も同時に揮散除去される。有機極性溶媒を除去する際に、減圧にする方法も採用できる。
【0061】
(d)次に(c)工程で得られた残留物(D)に水を添加し、残留物(D)を水スラリー化した後、濾過等の方法で、少なくとも残存有機極性溶媒、ハロゲン化アルカリ金属塩、場合により一部の副生物及び重合助剤を除去し、PPSオリゴマーを得る。この際の添加をする水の量は、回収スラリー(C)1gに対し0.5〜5gの範囲が好ましく選択され、0.7〜2.5gの範囲が好ましい。水量が少なすぎると濾過に時間がかかりすぎ、多すぎると廃液量が多くなるので好ましくない。濾過の際の水スラリーの温度は特に制限は無いが、通常50〜200℃の範囲が選択され、60〜100℃の範囲がより好ましい。濾過の際に用いる濾材は、PPSオリゴマーを濾過回収できる程度の目開きのものが選択され、これは通常、1μm〜100μm、好ましくは2μm〜50μm程度である。濾過器としては、吸引濾過器、加圧濾過器などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0062】
上記(a)〜(d)の方法において、スラリー(A)または希釈スラリー(B)に220℃以下の温度で、乾燥PPS樹脂1kg当たり1kg以上の水を添加しないことは、好ましい態様の一つである。この理由は上述した様に、重合溶媒と多量の水が混合すると、両者の分離に多大なエネルギーを要し、経済的に不利なためである。
【0063】
工程(b)で回収して得た顆粒状のPPS樹脂を1回以上有機極性溶媒にて再スラリー化して、濾別し、濾液を最初の濾液と混合して、上記(b)〜(d)工程を行うことは、より高純度なPPS樹脂を得る上で有効な手段である。この際、例えば2回スラリー化する場合、2回目のスラリー化液を濾過後、その濾液を1回目のスラリー化に使い回す方法は、有機極性溶媒の使用量を減らす意味で有効な方法である。
【0064】
工程(d)で得られたPPSオリゴマーを更に1回以上水スラリー化し、濾過することは、より純度の高いPPSオリゴマーを得る上で有効な方法である。この際、例えば2回スラリー化する場合、2回目のスラリー化液を濾過後、その濾液を1回目のスラリー化に使い回す方法は、水の使用量を減らす意味で有効な方法である。
【0065】
[PPSオリゴマーの熱酸化処理]
このようにして得られたPPSオリゴマーは多量の揮発分を含んでいる。ここでいう揮発分とは、熱重量示差熱分析装置を用い、乾燥サンプル量約10mg、室温から20℃/分で昇温し、300℃における重量減少量であり、揮発分を多量に含むPPSオリゴマーを工業的に再利用することは非常に困難である。本発明ではかかるPPSオリゴマーを気相酸化性雰囲気下、熱酸化処理することにより、揮発分を大幅に低減できることを見出した。ここでいう気相酸化性雰囲気下とは、酸素を含む気体雰囲気下であることを意味し、具体的には酸素濃度は5体積%以上、更には8体積%以上とすることが望ましい。酸素濃度の上限には特に制限はないが、50体積%程度が限界である。熱酸化処理の温度は150〜260℃の範囲であり、170〜250℃の範囲がより好ましい。また、処理時間は、0.5〜100時間が好ましく、1〜50時間がより好ましく、2〜25時間がさらに好ましい。加熱処理の装置は通常の熱風乾燥機でもまた回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置であってもよいが、効率よくしかもより均一に処理する場合は、回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置を用いるのがより好ましい。このようにして得られたPPS樹脂は熱重量示差熱分析装置を用いてPPS樹脂の重量減少量を測定することで、PPS樹脂中の揮発分が低減したかどうかを確認することができる。熱重量示差熱分析装置としては、セイコー・インスツルメント社製熱重量示差熱分析装置TG/DTA200が好ましい例として挙げられる。本発明においては、PPS樹脂の室温から20℃/分で昇温した際の、300℃における重量減少量が0.8重量%以下、好ましくは0.5重量%以下であることが好ましい。
【0066】
PPSオリゴマーを上記の通り気相酸化性雰囲気下で熱処理して得られたPPS樹脂は、揮発分の発生が抑制されたものであり、射出成形、押出成形により成形することにより各種成形物が得られる他、より高分子量のPPS樹脂の流動性改良剤、あるいは塗装用途など各種用途に適用が可能となる。また、本PPS樹脂を、PPS樹脂を製造する際の原料として再利用することも可能である。
【実施例】
【0067】
以下に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。
【0068】
[分子量測定]溶離液調製
1−クロロナフタレン(以下1−CNと略す)に活性アルミナ(1−CNに対して1/20重量)を加え、6時間攪拌した後、G4グラスフィルターで濾過した。これを超音波洗浄機にかけながらアスピレーターを用いて脱気した。
サンプル調製
(1)PPSサンプル約5mg、1−CN 約5gをサンプル瓶に計り取った。
(2)210℃に設定した高温濾過装置(センシュー科学製SSC−9300)に入れ、5分間(1分間予備加熱、4分間攪拌)加熱した。
(3)高温濾過装置から取り出し、室温になるまで放置した。
GPC測定条件
装置 : センシュー科学 SSC−7100
カラム名 : センシュー科学 GPC3506×1
溶離液 : 1−クロロナフタレン(1−CN)
検出器 : 示差屈折率検出器
検出器感度 : Range 8
検出器極性 : +
カラム温度 : 210℃
プレ恒温槽温度 : 250℃
ポンプ恒温槽温度 : 50℃
検出器温度 : 210℃
サンプル側流量 : 1.0mL/min
リファレンス側流量 : 1.0mL/min
試料注入量 : 300μL
検量線作成試料 : ポリスチレン
【0069】
[揮発分の測定]
装置としてセイコー・インスツルメント社製熱重量示差熱分析装置TG/DTA200を用い、乾燥サンプル量約10mg、室温から20℃/分で昇温し、300℃における重量減少量を測定した。
【0070】
[参考例]
PPSの重合(PPS−1)
撹拌機付きの70リットルオートクレーブに、47.5%水硫化ナトリウム8267.37g(70.00モル)、96%水酸化ナトリウム2957.21g(70.97モル)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)11434.50g(115.50モル)、酢酸ナトリウム2583.00g(31.50モル)、及びイオン交換水10500gを仕込み、常圧で窒素を通じながら245℃まで約3時間かけて徐々に加熱し、水14780.1gおよびNMP280gを留出した後、反応容器を160℃に冷却した。仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たりの系内残存水分量は、NMPの加水分解に消費された水分を含めて1.06モルであった。また、硫化水素の飛散量は、仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たり0.02モルであった。
【0071】
次に、p−ジクロロベンゼン10235.46g(69.63モル)、NMP9009.00g(91.00モル)を加え、反応容器を窒素ガス下に密封し、240rpmで撹拌しながら、0.6℃/分の速度で238℃まで昇温した。238℃で95分反応を行った後、0.8℃/分の速度で270℃まで昇温した。270℃で100分反応を行った後、1260g(70モル)の水を15分かけて圧入しながら250℃まで1.3℃/分の速度で冷却した。その後200℃まで1.0℃/分の速度で冷却してから、室温近傍まで急冷し、顆粒状のPPS樹脂、PPSオリゴマー、有機極性溶媒、水、ハロゲン化アルカリ金属塩、重合助剤、副生物を含むスラリー(A)を得た。
【0072】
スラリー(A)を26300gのNMPで希釈し希釈スラリー(B)を得た。70℃に加熱したスラリー(B)200gをふるい(80mesh、目開き0.175mm)で濾別し、PPS樹脂と回収スラリー(C)150gを得た。濾過時間は9分であった。回収スラリー(C)をロータリーエバポレーターに仕込み、減圧下160℃で1時間処理した後、真空乾燥機で160℃、1時間処理した。得られた固形物中のNMP量は、3重量%であった。
【0073】
この固形物にイオン交換水180g(回収スラリー(C)の1.2倍量)注ぎ70℃で30分撹拌し、再スラリー化した。このスラリーを濾過面積9.6cm(目開き10〜16μm)のガラスフィルターで吸引濾過し、重量平均分子量13,600のPPSオリゴマーを得た。
【0074】
[比較例1]
参考例1で得たPPSオリゴマーの揮発分を測定したところ、重量減少率は1.7重量%であった。
【0075】
[実施例1]
参考例1で得たPPSオリゴマーを熱風乾燥機を用い、220℃で5時間熱酸化処理を行った、得られたサンプルの揮発分を測定したところ、重量減少率は0.35重量%であった。
【0076】
[実施例2]
参考例1で得たPPSオリゴマーを熱風乾燥機を用い、240℃で7時間熱酸化処理を行った、得られたサンプルの揮発分を測定したところ、重量減少率は0.30重量%であった。
【0077】
[比較例2]
参考例1で得たPPSオリゴマーを窒素気流下(酸素濃度1%以下)で、220℃で5時間処理を行った、得られたサンプルの揮発分を測定したところ、重量減少率は1.0重量%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量平均分子量が800〜20,000のポリフェニレンスルフィドオリゴマーを、気相酸化性雰囲気下、150℃〜260℃で熱酸化処理するポリフェニレンスルフィド樹脂の製造方法。
【請求項2】
少なくともポリハロゲン化芳香族化合物、スルフィド化剤および有機極性溶媒を含有する混合物を加熱してポリフェニレンスルフィド樹脂を重合し220℃以下に冷却して得られた、少なくとも顆粒状のポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリフェニレンスルフィドオリゴマー、有機極性溶媒、水、およびハロゲン化アルカリ金属塩を含むスラリー(A)から、少なくとも顆粒状のポリフェニレンスルフィド樹脂、有機極性溶媒、水、およびハロゲン化アルカリ金属塩を除去することにより得られた、重量平均分子量が800〜20,000のポリフェニレンスルフィドオリゴマーを、気相酸化性雰囲気下、150℃〜260℃で熱酸化処理するポリフェニレンスルフィド樹脂の製造方法。
【請求項3】
スラリー(A)からポリフェニレンスルフィドオリゴマーを分離回収する方法が、
(a)スラリー(A)に、重合で使用したスルフィド化剤1モルに対し、有機極性溶媒0.5〜10モルを添加し、希釈スラリー(B)を形成し、
(b)希釈スラリー(B)から、顆粒状のポリフェニレンスルフィド樹脂を回収し、少なくともポリフェニレンスルフィドオリゴマー、有機極性溶媒、水、およびハロゲン化アルカリ金属塩を含有する回収スラリー(C)を得、
(c)回収スラリー(C)から、少なくとも50重量%以上の有機極性溶媒を除去し、残留物(D)を得、
(d)残留物(D)に水を添加した後、少なくとも残存有機極性溶媒およびハロゲン化アルカリ金属塩を除去する、
方法である請求項2記載のポリフェニレンスルフィド樹脂の製造方法。
【請求項4】
(b)工程で濾過により顆粒状ポリフェニレンスルフィド樹脂を回収する請求項3記載のポリフェニレンスルフィド樹脂の製造方法。
【請求項5】
(c)工程で加熱により有機極性溶媒を除去する請求項3または4記載のポリフェニレンスルフィド樹脂の製造方法。
【請求項6】
(d)工程で濾過により残存有機極性溶媒およびハロゲン化アルカリ金属塩を除去する請求項3から5のいずれか1項に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂の製造方法。
【請求項7】
ポリフェニレンスルフィド樹脂を重合する際に、重合助剤を使用する請求項2から6のいずれか1項記載のポリフェニレンスルフィド樹脂の製造方法。
【請求項8】
(a)工程、(b)工程のいずれでもポリフェニレンスルフィド樹脂1kgあたり1kg以上の水を添加しない請求項3から7のいずれか1項記載のポリフェニレンスルフィド樹脂の製造方法。
【請求項9】
有機極性溶媒が、N−メチル−2−ピロリドンである請求項2から8のいずれか記載のポリフェニレンスルフィド樹脂の製造方法。
【請求項10】
重量平均分子量が800〜20,000のポリフェニレンスルフィドオリゴマーを、気相酸化性雰囲気下、150℃〜260℃で熱酸化処理して得られるポリフェニレンスルフィド樹脂。
【請求項11】
熱重量示差熱分析装置を用い、室温から20℃/分で昇温した際の、300℃における重量減少量が0.8重量%以下である請求項10記載のポリフェニレンスルフィド樹脂。

【公開番号】特開2007−16142(P2007−16142A)
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−199600(P2005−199600)
【出願日】平成17年7月8日(2005.7.8)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】