説明

ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物およびそれからなる成形品

【課題】精密部品を射出成形により連続生産した場合の成形ショットごとの部品寸法変動を解消し、優れた寸法精度を有する精密部品用ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を提供することを課題とする。
【解決手段】(A)〜(D)成分の合計量を100重量部として、(A)ナトリウム含有量1000ppm以下かつカルシウム含有量20ppm以下であるポリフェニレンスルフィド樹脂20〜75重量部、(B)ガラス転移温度が140℃以上の非晶性樹脂2〜50重量部、(C)繊維状充填材10〜70重量部、(D)非繊維状充填材5〜50重量部を配合してなるポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気電子部品、光学系部品、自動車部品、一般機器、水廻り部品などの分野において、射出成形により連続生産される熱可塑性樹脂製の精密部品に適するポリフェニレンスルフィド樹脂組成物およびそれからなる成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、電気電子部品、光学系部品、自動車部品、一般機器、水廻り部品などに代表される用途においては、複雑な形状でも射出成形により大量生産可能であり、生産コストも削減されるため熱可塑性樹脂が幅広く適用されている。熱可塑性樹脂の中でもポリフェニレンスルフィド樹脂(以下PPS樹脂と略す)は、耐熱性や寸法安定性、耐薬品性、難燃性、成形性に優れるため、耐熱性や寸法安定性への要求が厳しい高機能部品においては幅広く展開されており、特に耐熱性や寸法安定性への要求が厳しい用途については、繊維状、非繊維状の無機充填材を高濃度で充填したPPS樹脂が使用されている。また強度や剛性を要求される用途に関しては、繊維状無機充填材の充填による補強が必要不可欠となる。しかし、繊維状充填材を充填したPPS樹脂の場合、部品の形状や部位、成形条件などによっては、繊維状充填材の配向が変動し、部品の寸法に影響を与える。すなわち非常に高い寸法精度が要求される精密部品を射出成形により連続生産する場合には、成形温度、保圧力、および充填速度などの成形条件が微妙に変動した場合に、繊維状充填材の配向状態が変動するため、成形ショットごとの部品寸法が変動する問題点があった。
【0003】
また、非晶性樹脂を使用した場合は、結晶性樹脂を使用した場合に比べ、寸法精度には優れているものの、流動性が悪く成形性に劣るため、適用する精密部品の形状自由度が低い問題点があった。
【0004】
例えば特許文献1や特許文献2には、特定のポリアリーレンスルフィドにポリフェニレンエーテルなどの非結晶性樹脂および充填剤を特定割合で配合してなる樹脂組成物を超精密成形品に用いることが記載されている。しかしながら、これら単純に上記組成物では、非常に高い寸法精度が要求される精密部品を射出成形により連続生産する場合には、成形温度、保圧力、および充填速度などの成形条件が微妙に変動した場合の、成形ショットごとの部品寸法変化を抑制するのに不十分である。
【0005】
また、特許文献3には、ポリアリーレンスルフィドのナトリウム含有量を規定しているが、超精密成形品の成形ショットごとの部品寸法変化を抑制するのに、ナトリウム含有量のみのコントロールでは不十分である。
【特許文献1】特開平10−060277号公報
【特許文献2】特開平09−157525号公報
【特許文献3】特開平14−121383号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述した従来の繊維状充填材を充填したPPS樹脂の問題点、すなわち精密部品を射出成形により連続生産した場合の成形ショットごとの部品寸法変動を解消し、優れた寸法精度を有する精密部品用成形品に適するポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記問題点を解決するために鋭意検討を重ねた結果、本発明に到達した。
【0008】
すなわち本発明は、
(1)(A)〜(D)成分の合計量を100重量部として、(A)ナトリウム含有量1000ppm以下かつカルシウム含有量20ppm以下であるポリフェニレンスルフィド樹脂20〜75重量部、(B)ガラス転移温度が140℃以上の非晶性樹脂2〜50重量部、(C)繊維状充填材10〜70重量部、(D)非繊維状充填材5〜50重量部を配合してなるポリフェニレンスルフィド樹脂組成物、
(2)前記(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂が酸洗浄したものである(1)に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物、
(3)(B)ガラス転移温度が140℃以上の非晶性樹脂が、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリスルフォン樹脂およびポリエーテルサルフォン樹脂から選ばれる少なくとも1種である(1)または(2)に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物、
(4)前記(D)非繊維状充填材が、炭酸カルシウム、ガラスフレーク、ガラスビーズから選ばれる少なくとも1種である(1)〜(3)のいずれかに記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物、(5)(1)〜(4)のいずれか1項に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物からなる成形品、および
(6)成形品が精密部品である請求項5記載の成形品に関するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物は、電気・電子関連機器、精密機械関連機器、事務用機器、自動車・車両関連部品、建材、包装材、家具、日用雑貨などの各種用途において、繊維状充填材による補強が必要であり、かつ、射出成形による連続生産時の高い寸法精度が要求される精密部品に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を説明する。本発明において、「重量」とは「質量」を意味する。
(1)各成分について
(A)PPS樹脂
本発明で使用する(A)PPS樹脂とは、下記構造式で示される繰り返し単位を有する重合体であり、
【0011】
【化1】

上記構造式で示される繰り返し単位を70モル%以上、特に90モル%以上含む重合体であることが耐熱性の点で好ましい。また(A)PPS樹脂は、その繰り返し単位の30モル%未満を、下記の構造を有する繰り返し単位等で構成されることが可能であり、ランダム共重合体、ブロック共重合体であってもよく、それらの混合物であってもよい。
【0012】
【化2】

ポリフェニレンスルフィド樹脂は、通常公知の方法、つまり特公昭45−3368号公報に記載される、比較的分子量の小さな重合体を得る方法あるいは特公昭52−12240号公報や特開昭61−7332号公報に記載される比較的分子量の大きな重合体を得る方法などによって製造することができる。
【0013】
本発明で使用するPPS樹脂は、ナトリウム含有量が1000ppm以下かつカルシウム含有量が20ppm以下であることが必要である。ここで、ナトリウム含有量およびカルシウム含有量は、PPS樹脂5gを白金皿上に乗せ538℃で灰化処理し、塩酸処理したものを島津製作所製の原子吸光度計AA−670を使用し、原子吸光分析によって測定した値である。
【0014】
本発明においては、上記のようにして得られたポリフェニレンスルフィド樹脂のカルシウム含有量およびナトリウム含有量を上記の範囲とするために、空気中加熱による架橋/高分子量化、窒素などの不活性ガス雰囲気下あるいは減圧下での熱処理、有機溶媒、熱水、酸水溶液などによる洗浄、酸無水物、アミン、イソシアネート、官能基含有ジスルフィド化合物などの官能基含有化合物による活性化などの種々の処理を施した上で使用することも可能であるが、本発明においては洗浄に酸水溶液を使用することが好ましい。酸洗浄は、有機溶媒などによる洗浄と併用しても良い。酸洗浄をすることで、PPS樹脂のナトリウム含有量およびカルシウム含有量を減らすことができ、PPS樹脂自体の温度変化に伴う体積変化を小さくすることができるため、PPS樹脂を連続成形する際の寸法精度を向上させる効果がある。
【0015】
ポリフェニレンスルフィド樹脂を加熱により架橋/高分子量化する場合の具体的方法としては、空気、酸素などの酸化性ガス雰囲気下あるいは前記酸化性ガスと窒素、アルゴンなどの不活性ガスとの混合ガス雰囲気下で、加熱容器中で所定の温度において希望する溶融粘度が得られるまで加熱を行う方法を例示することができる。この場合の加熱処理温度としては、好ましくは150〜280℃、より好ましくは200〜270℃の範囲が選択して使用されるものであり、処理時間としては、好ましくは0.5〜100時間、より好ましくは2〜50時間の範囲が選択されるが、この両者をコントロールすることによって、目標とする粘度レベルを得ることができる。かかる加熱処理の装置は、通常の熱風乾燥機でもまた回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置であってもよいが、効率よく、しかもより均一に処理する場合は、回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置を用いるのがより好ましい。
【0016】
ポリフェニレンスルフィド樹脂を窒素などの不活性ガス雰囲気下あるいは減圧下で熱処理する場合の具体的方法としては、窒素などの不活性ガス雰囲気下あるいは減圧(好ましくは7,000Nm-2以下)下で、加熱処理温度150〜280℃、好ましくは200〜270℃、加熱時間0.5〜100時間、好ましくは2〜50時間の条件で加熱処理する方法を例示することができる。かかる加熱処理の装置は、通常の熱風乾燥機でもまた回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置であってもよいが、効率よくしかもより均一に処理する場合は、回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置を用いるのがより好ましい。
【0017】
ポリフェニレンスルフィド樹脂を有機溶媒で洗浄する場合の具体的方法としては、たとえば、洗浄に用いる有機溶媒としては、ポリフェニレンスルフィド樹脂を分解する作用などを有しないものであれば特に制限はなく使用することができる。例えばN−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどの含窒素極性溶媒、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホンなどのスルホキシド・スルホン系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、アセトフェノンなどのケトン系溶媒、ジメチルエーテル、ジプロピルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒、クロロホルム、塩化メチレン、トリクロロエチレン、2塩化エチレン、ジクロルエタン、テトラクロルエタン、クロルベンゼンなどのハロゲン系溶媒、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、フェノール、クレゾール、ポリエチレングリコールなどのアルコール・フェノール系溶媒、およびベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒などが使用される。これらの有機溶媒のなかでも、特にN−メチルピロリドン、アセトン、ジメチルホルムアミドおよびクロロホルムなどが好ましく使用される。また、これらの有機溶媒は、1種類または2種類以上の混合で使用される。かかる有機溶媒による洗浄の方法としては、有機溶媒中にポリフェニレンスルフィド樹脂を浸漬せしめるなどの方法があり、必要により適宜撹拌または加熱することも可能である。有機溶媒でポリアリーレンサルファイド樹脂を洗浄する際の洗浄温度については特に制限はなく、常温〜300℃程度の任意の温度が選択できる。洗浄温度が高くなるほど洗浄効率が高くなる傾向があるが、通常は常温〜150℃の洗浄温度で十分な効果が得られる。なお、有機溶媒洗浄を施されたポリフェニレンスルフィド樹脂は、残留している有機溶媒を除去するため、水または温水(好ましくは60〜80℃)で数回洗浄することが好ましい。
【0018】
ポリフェニレンスルフィド樹脂を加圧下で熱水(好ましくは100℃〜220℃、特に好ましくは170〜210℃)で処理する場合の具体的方法としては、以下の方法を例示することができる。すなわち、熱水洗浄によるポリフェニレンスルフィド樹脂の好ましい化学的変性の効果を発現するために、使用する水は蒸留水あるいは脱イオン水であることが好ましい。熱水処理の操作は、通常、所定量の水に所定量のポリフェニレンスルフィド樹脂を投入し、常圧であるいは圧力容器内で加熱、撹拌することにより行われる。ポリフェニレンスルフィド樹脂と水との割合は、水の多い方がよく、好ましくは水1リットルに対し、ポリフェニレンスルフィド樹脂200g以下の浴比で使用される。
【0019】
ポリフェニレンスルフィド樹脂を酸洗浄する場合の具体的方法としては、以下の方法を例示することができる。すなわち、酸または酸の水溶液にポリフェニレンスルフィド樹脂を浸漬せしめ、必要により適宜撹拌または加熱することも可能である。酸洗浄を行う場合の、PPS樹脂と酸洗浄液の比率は、酸洗浄液の濃度などによっても異なるが、酸洗浄液の重量/PPS樹脂の重量が5〜15が好ましく、さらに好ましくは10である。また酸洗浄時に加熱を行う場合は、60〜200℃が好ましい。
【0020】
酸洗浄に用いられる酸洗浄液は、ポリフェニレンスルフィド樹脂を分解する作用を有しないものであれば特に制限はなく、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸などの脂肪族飽和モノカルボン酸、クロロ酢酸、ジクロロ酢酸などのハロ置換脂肪族飽和カルボン酸、アクリル酸、クロトン酸などの脂肪族不飽和モノカルボン酸、安息香酸、サリチル酸などの芳香族カルボン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、フタル酸、フマル酸などのジカルボン酸、および硫酸、リン酸、塩酸、炭酸、珪酸などの無機酸性化合物などの水溶液が用いられる。これらの酸洗浄液のなかでも、特に酢酸、塩酸がより好ましく用いられる。酸洗浄液のpHが4.0〜5.7の範囲で酸洗浄を行うのが好ましい。
【0021】
酸洗浄を施されたポリフェニレンスルフィド樹脂は、残留している酸または塩などを除去するため、水または温水(好ましくは60〜80℃)で数回洗浄することが好ましい。また、洗浄に用いる水は、酸洗浄によるポリフェニレンスルフィド樹脂の好ましい化学的変性の効果を損なわない意味で、蒸留水または脱イオン水であることが好ましい。
【0022】
本発明で用いられるポリフェニレンスルフィド樹脂の溶融粘度は、310℃、剪断速度1000/秒の条件下で80Pa・s以下であることが好ましく、50Pa・s以下がより好ましく、20Pa・s以下であることが更に好ましい。下限については特に制限はないが、成形時のバリ発生を抑制する観点から5Pa・s以上であることが好ましい。また溶融粘度の異なる2種以上のポリフェニレンスルフィド樹脂を併用して用いても良い。溶融粘度は、キャピログラフ(東洋精機(株)社製)装置を用い、ダイス長10mm、ダイス孔直径0.5〜1.0mmの条件により測定することができる。
【0023】
本発明で用いられるポリフェニレンスルフィド樹脂の配合量は(A)〜(D)成分の合計に対して20〜75重量部であり、好ましくは25〜60重量部、更に好ましくは30〜55重量部である。ポリフェニレンスルフィド樹脂の配合量が少なすぎると溶融成形時の流動性が低下する。また、多すぎると成形時にバリが出易い上に強度や剛性が低下する。
【0024】
(B)ガラス転移温度が140℃以上の非晶性樹脂
本発明で用いられる(B)ガラス転移温度が140℃以上の非晶性樹脂としては、この条件を満たすものであればよく、例えばポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリスルフォン樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂などが使用できるが、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリスルフォン樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂が好ましく用いられる。
【0025】
ここで、ガラス転移温度は、JIS K7121に従い、DSCにより、20℃/分で測定した値である。
【0026】
本発明で用いられる(B)ガラス転移温度が140℃以上の非晶性樹脂の配合量は(A)〜(D)成分の合計に対して2〜50重量部であり、好ましくは5〜40重量部、更に好ましくは10〜35重量部である。(B)ガラス転移温度が140℃以上の非晶性樹脂の配合量が少なすぎると精密寸法性に効果が得られず、また、多すぎると流動性と耐薬品性が低下し実用的でない。
【0027】
(C)繊維状充填材
本発明で用いられる(C)繊維状充填材としては、具体的には、ガラス繊維、炭素繊維、チタン酸カリウムウィスカ、酸化亜鉛ウィスカ、炭酸カルシウムウィスカー、ワラステナイトウィスカー、硼酸アルミニウムウィスカ、アラミド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維、石コウ繊維、金属繊維などが用いられ、これらは2種類以上併用することも可能である。また、これら繊維状充填材をイソシアネート系化合物、有機シラン系化合物、有機チタネート系化合物、有機ボラン系化合物およびエポキシ化合物などのカップリング剤で予備処
理して使用することは、より優れた機械的強度を得る意味において好ましい。中でもガラス繊維、炭素繊維がより好適に用いられる。
【0028】
また、ガラス繊維あるいは炭素繊維の種類は、一般に樹脂の強化用に用いるものなら特に限定はなく、例えば長繊維タイプや短繊維タイプのチョップドストランド、ミルドファイバーなどから選択して用いることができる。
【0029】
本発明に用いられる(C)繊維状充填材の配合量としては(A)〜(D)成分の合計に対して10〜70重量部であり、好ましくは15〜60重量部、更に好ましくは20〜55重量部である。(C)繊維状充填材の配合量が少なすぎると耐熱性や精密寸法性が低下し、また、多すぎると流動性と機械特性が低下し実用的でない。
【0030】
(D)非繊維状充填材
本発明で用いられる(D)非繊維状充填材としては、前記(C)繊維状充填材ではない充填材であり、板状、粒状などのものが使用できる。具体的には、タルク、ゼオライト、セリサイト、マイカ、カオリン、クレー、パイロフィライト、ベントナイト、アルミナシリケートなどの珪酸塩、酸化珪素、酸化マグネシウム、アルミナ、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化鉄などの金属化合物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイトなどの炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウムなどの硫酸塩、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムなどの水酸化物、ガラスビーズ、ガラスフレーク、ガラス粉、セラミックビーズ、窒化ホウ素、炭化珪素、カーボンブラックおよびシリカ、黒鉛などが用いられ、これらは中空であってもよく、さらにはこれら非繊維状充填剤を2種類以上併用することも可能である。また、これら非繊維状充填材をイソシアネート系化合物、有機シラン系化合物、有機チタネート系化合物、有機ボラン系化合物およびエポキシ化合物などのカップリング剤で予備処理して使用してもよい。中でも炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイトなどの炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウムなどの硫酸塩、カオリン、クレー、タルクなどの珪酸塩、ガラスフレーク、ガラスビーズ、アルミナ、黒鉛が特に好ましく、低反り性が必要な精密部品用の組成物には、ガラスフレークやガラスビーズを用いるとさらに好ましい。
【0031】
本発明に用いられる(D)非繊維状充填材の配合量としては(A)〜(D)成分の合計に対して5〜50重量部であり、好ましくは10〜45量部、更に好ましくは15〜40重量部である。(D)非繊維状充填材の配合量が少なすぎると精密寸法性が低下し、また、多すぎると流動性と機械特性が低下し実用的でない。
【0032】
(E)その他添加剤
本発明の樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲において、耐衝撃性、および耐冷熱性を改良するために、さらに他の樹脂を添加して用いてもよい。かかるブレンド可能な樹脂には特に制限はないが、その具体例としては、環状オレフィンコポリマーやナイロン6,ナイロン66,ナイロン610、ナイロン11、ナイロン12、芳香族系ナイロンなどのポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリシクロヘキシルジメチレンテレフタレート、ポリナフタレンテレフタレートなどのポリエステル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、カルボキシル基やカルボン酸エステル基や酸無水物無水物基やエポキシ基などの官能基を有するオレフィン系コポリマー、オレフィン系エラストマー、変性オレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマー、ポリエーテルエステルエラストマー、ポリエーテルアミドエラストマー、ポリアミドイミド、ポリアセタールおよびポリイミドなどが挙げられる。
【0033】
オレフィン系エラストマーとしては、エチレン、プロピレン、ブテン−1、ペンテン−1、4−メチルペンテン−1、イソブチレンなどのα−オレフィン単独または2種以上を重合して得られる(共)重合体、α−オレフィンとアクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、などのα,β−不飽和酸およびそのアルキルエステルとの共重合体などが挙げられる。オレフィン系エラストマーの具体例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン/プロピレン共重合体(“/”は共重合を表す、以下同じ)、エチレン/ブテン−1共重合体、エチレン/アクリル酸メチル共重合体、エチレン/アクリル酸エチル共重合体、エチレン/アクリル酸ブチル共重合体、エチレン/メタクリル酸メチル共重合体、エチレン/メタクリル酸エチル共重合体、エチレン/メタクリル酸ブチル共重合体などが挙げられる。
【0034】
精密部品用ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物の耐衝撃性、および耐冷熱性を改良するために変性オレフィン系エラストマーを添加することが可能である。変性オレフィン系エラストマーは、上記したオレフィン系エラストマーにエポキシ基、酸無水物基、アイオノマーなどの官能基を有する単量体成分(官能基含有成分)を導入することにより得られるが、その官能基含有成分の例としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、エンドビシクロ[2.2.1]5−ヘプテン−2,3−ジカルボン酸、エンドビシクロ−[2.2.1]5−ヘプテン−2,3−ジカルボン酸無水物などの酸無水物基を含有する単量体、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、エタクリル酸グリシジル、イタコン酸グリシジル、シトラコン酸グリシジルなどのエポキシ基を含有する単量体、カルボン酸金属錯体などのアイオノマーを含有する単量体が挙げられる。
【0035】
これら官能基含有成分を導入する方法は特に制限なく、前記オレフィン系エラストマとして用いられるのと同様のオレフィン系(共)重合体を(共)重合する際に共重合せしめたり、オレフィン系(共)重合体にラジカル開始剤を用いてグラフト導入するなどの方法を用いることができる。官能基含有成分の導入量は変性オレフィン系(共)重合体を構成する全単量体に対して0.001〜40モル%、好ましくは0.01〜35モル%の範囲内であるのが適当である。
【0036】
特に有用なオレフィン重合体にエポキシ基、酸無水物基、アイオノマーなどの官能基を有する単量体成分を導入して得られるオレフィン(共)重合体の具体例としては、エチレン/プロピレン−g−メタクリル酸グリシジル共重合体(”g”はグラフトを表す、以下同じ)、エチレン/ブテン−1−g−メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン/アクリル酸グリシジル共重合体、エチレン/メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン/アクリル酸メチル/メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン/メタクリル酸メチル/メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン/プロピレン−g−無水マレイン酸共重合体、エチレン/ブテン−1−g−無水マレイン酸共重合体、エチレン/アクリル酸メチル−g−無水マレイン酸共重合体、エチレン/アクリル酸エチル−g−無水マレイン酸共重合体、エチレン/メタクリル酸メチル−g−無水マレイン酸共重合体、エチレン/メタクリル酸エチル−g−無水マレイン酸共重合体、エチレン/メタクリル酸共重合体の亜鉛錯体、エチレン/メタクリル酸共重合体のマグネシウム錯体、エチレン/メタクリル酸共重合体のナトリウム錯体などを挙げることができる。
【0037】
好ましいものとしては、エチレン/メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン/アクリル酸メチル/メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン/メタクリル酸メチル/メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン/ブテン−1−g−無水マレイン酸共重合体、エチレン/アクリル酸エチル−g−無水マレイン酸共重合体などが挙げられる。
【0038】
とりわけ好ましいものとしては、エチレン/メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン/アクリル酸メチル/メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン/メタクリル酸メチル/メタクリル酸グリシジル共重合体などが挙げられる。
【0039】
一方、スチレン系エラストマーの具体例としては、スチレン/ブタジエン共重合体、スチレン/エチレン/ブタジエン共重合体、スチレン/エチレン/プロピレン共重合体、スチレン/イソプレンン共重合体などが挙げられるが、なかでもスチレン/ブタジエン共重合体が好ましい。さらに好ましくは、スチレン/ブタジエン共重合体のエポキシ化物が挙げられる。
【0040】
また、上記エラストマーは耐衝撃性、耐冷熱性、および寸法精度のバランスを得るために2種以上を併用して使用することもできる。
【0041】
さらに、本発明の樹脂成形品に用いられる添加剤としてs、有機リン化合物、ポリエーテルエーテルケトンなどの結晶核剤、次亜リン酸カルシウム、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、テトラキス(メチレン−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)メタン、トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジン)イソシアヌレート等のフェノール系化合物、ジラウリル−3,3’−チオジプロピオネート、ジミリスチル−3,3’−チオジプロピオネート等のイオウ化合物、トリスノニルフェニルホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト等のリン系化合物などの着色防止剤、ヒンダードフェノール、ヒンダードアミンなどの酸化防止剤、ヒンダードフェノール系、ヒドロキノン系、ホスファイト系およびこれらの置換体などの熱安定剤、p−オキシ安息香酸オクチル、N−ブチルベンゼンスルホンアミドなどの可塑剤、レゾルシノール系、サリシレート系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、ヒンダードアミン系などの耐候剤、硫化カドミウム、フタロシアニン、着色用カーボンブラック、ニグロシンなどの着色剤、アルキルサルフェート型アニオン系帯電防止剤、4級アンモニウム塩型カチオン系帯電防止剤、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレートのような非イオン系帯電防止剤、ベタイン系両性帯電防止剤等帯電防止剤、ポリエチレンワックス、脂肪酸エステル、ポリプロピレンワックス、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸アルミニウム、エチレンジアミン/ステアリン酸/セバシン酸重縮合物、エチレンビスステアロアミドなどの離型剤および滑剤、赤燐、燐酸エステル、メラミンシアヌレート、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の水酸化物、ポリリン酸アンモニウム、臭素化ポリスチレン、臭素化ポリフェニレンエーテル、臭素化ポリカーボネート、臭素化エポキシ樹脂あるいはこれらの臭素系難燃剤と三酸化アンチモンとの組み合わせなどの難燃剤など、他の重合体を添加することができる。
【0042】
又、同様に本発明の効果を損なわない範囲において、機械的強度、靱性などの向上を目的に、エポキシ基、メルカプト基、ウレイド基、イソシアネート基、アミノ基、および水酸基の中から選ばれた少なくとも1種の官能基を有するアルコキシシランを添加してもよい。かかる化合物の具体例としては、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランなどのエポキシ基含有アルコキシシラン化合物、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシランなどのメルカプト基含有アルコキシシラン化合物、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリメトキシシシラン、γ−(2−ウレイドエチル)アミノプロピルトリメトキシシランなどのウレイド基含有アルコキシシラン化合物、γ−イソシアナトプロピルトリエトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルトリメトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルメチルジメトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルメチルジエトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルエチルジメトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルエチルジエトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルトリクロロシランなどのイソシアナト基含有アルコキシシラン化合物、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシランなどのアミノ基含有アルコキシシラン化合物、およびγ−ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−ヒドロキシプロピルトリエトキシシランなどの水酸基含有アルコキシシラン化合物などが挙げられる。かかるシラン化合物の好適な添加量は、ポリアリーレンスルフィド樹脂100重量部に対し、0.05〜5重量部の範囲が選択される。
【0043】
(2)製造方法
本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物の製造方法は、通常公知の方法で製造される。例えば、前記(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂、(B)ガラス転移温度が140℃以上の非晶性樹脂、(C)繊維状充填材、(D)非繊維状充填材、その他必要な添加剤を予備混合して、またはせずに押出機などに供給して十分溶融混練することにより調製される。なお、(C)繊維状充填材を添加する際、繊維の折損を抑制するために好ましくは、(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂、(B)ガラス転移温度が140℃以上の非晶性樹脂、(D)非繊維状充填材、その他の必要な添加剤を押出機の元から投入し、(C)繊維状充填材はサイドフィーダーを用いて、押出機へ供給することにより調製される。またサイドフィーダーの位置としては、押出機の元から吐出口までの全体を1とした場合に、押出機の元から1/5〜4/5の位置に設置することが好ましい。
【0044】
精密部品用ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を製造するに際し、例えば“ユニメルト”(R)タイプのスクリューを備えた単軸押出機、二軸、三軸押出機およびニーダタイプの混練機などを用いて180〜350℃で溶融混練して組成物とすることができる。
【0045】
(3)ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物の成形・用途
本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物は、射出成形、押出成形、圧縮成形、吹込成形、射出圧縮成形、トランスファー成形、真空成形など一般的に熱可塑性樹脂の公知の成形方法により成形されるが、なかでも連続生産性に優れる射出成形が好ましい。
【0046】
かくして得られる成形体は、繊維状充填材を充填したPPS樹脂の問題点である、精密部品の射出成形による連続生産の場合における、成形ショットごとの部品寸法変動による精密部品の信頼性を低下させる問題点を解消し、優れた寸法精度を有する成形体を与えることができる。例えば、電気・電子関連機器、精密機械関連機器、事務用機器、自動車・車両関連部品、建材、包装材、家具、日用雑貨などの各種用途において、繊維状充填材による補強が必要であり、かつ、射出成形による連続生産時の高い寸法精度が要求される精密部品に有用である。具体的には、パソコン、液晶プロジェクター、モバイル機器、携帯電話等の電子部品およびスイッチ類、リモコン内部部品、電装部品、エンジンルーム内の部品、インテークマニホールド、スロットルボディ、アンダーフード部品、ラジエター部品、インパネなどに用いるコックピットモジュール部品、あるいは筐体、その他情報通信分野においける設置アンテナなどの部品、あるいは建築部材で高寸法精度を必要とする用途、特に軽量化等で金属代替が熱望されている自動車部品用途、電気・電子部品用途等の高寸法精度を必要とする精密部品として使用される成形体に有用である。
【実施例】
【0047】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例により限定されるものではない。
【0048】
本実施例と比較例で用いた各成分は以下の通りである。
【0049】
(A)PPS樹脂:
(PPS−1の製造方法)
撹拌機および底栓弁付きの70リットルオートクレーブに、47.5%水硫化ナトリウム8.27kg(70.00モル)、96%水酸化ナトリウム2.91kg(69.80モル)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)11.45kg(115.50モル)、及びイオン交換水10.5kgを仕込み、常圧で窒素を通じながら245℃まで約3時間かけて徐々に加熱し、水14.78kgおよびNMP0.28kgを留出した後、反応容器を200℃に冷却した。仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たりの系内残存水分量は、NMPの加水分解に消費された水分を含めて1.06モルであった。また、硫化水素の飛散量は、仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たり0.02モルであった。
【0050】
その後200℃まで冷却し、p−ジクロロベンゼン10.48kg(71.27モル)、NMP9.37kg(94.50モル)を加え、反応容器を窒素ガス下に密封し、240rpmで撹拌しながら0.6℃/分の速度で200℃から270℃まで昇温した。270℃で100分反応した後、オートクレーブの底栓弁を開放し、窒素で加圧しながら内容物を攪拌機付き容器に15分かけてフラッシュし、250℃でしばらく撹拌して大半のNMPを除去した。
【0051】
得られた固形物およびイオン交換水76リットルを撹拌機付きオートクレーブに入れ、70℃で30分洗浄した後、ガラスフィルターで吸引濾過した。次いで70℃に加熱した76リットルのイオン交換水をガラスフィルターに注ぎ込み、吸引濾過してケークを得た。
【0052】
得られたケークおよびイオン交換水90リットルを撹拌機付きオートクレーブに仕込み、pHが7になるよう酢酸を添加した。オートクレーブ内部を窒素で置換した後、192℃まで昇温し、30分保持した。その後オートクレーブを冷却して内容物を取り出した。
【0053】
内容物をガラスフィルターで吸引濾過した後、これに70℃のイオン交換水76リットルを注ぎ込み吸引濾過してケークを得た。得られたケークを窒素気流下、120℃で乾燥することにより、乾燥PPSを得た。
【0054】
これをMFRが300g/10分となるまで酸素気流下200℃で熱処理し、PPS−1を得た。得られたPPS−1はナトリウム含有量700ppm、カルシウム含有量10ppm以下であった。
【0055】
(PPS−2の製造方法)
撹拌機および底栓弁付きの70リットルオートクレーブに、47.5%水硫化ナトリウム8.27kg(70.00モル)、96%水酸化ナトリウム2.91kg(69.80モル)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)11.45kg(115.50モル)、及びイオン交換水10.5kgを仕込み、常圧で窒素を通じながら245℃まで約3時間かけて徐々に加熱し、水14.78kgおよびNMP0.28kgを留出した後、反応容器を200℃に冷却した。仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たりの系内残存水分量は、NMPの加水分解に消費された水分を含めて1.06モルであった。また、硫化水素の飛散量は、仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たり0.02モルであった。
【0056】
その後200℃まで冷却し、p−ジクロロベンゼン10.48kg(71.27モル)、NMP9.37kg(94.50モル)を加え、反応容器を窒素ガス下に密封し、240rpmで撹拌しながら0.6℃/分の速度で200℃から270℃まで昇温した。270℃で100分反応した後、オートクレーブの底栓弁を開放し、窒素で加圧しながら内容物を攪拌機付き容器に15分かけてフラッシュし、250℃でしばらく撹拌して大半のNMPを除去した。
得られた固形物およびイオン交換水76リットルを撹拌機付きオートクレーブに入れ、70℃で30分洗浄した後、ガラスフィルターで吸引濾過した。次いで70℃に加熱した76リットルのイオン交換水をガラスフィルターに注ぎ込み、吸引濾過してケークを得た。
【0057】
得られたケークおよびイオン交換水90リットルを撹拌機付きオートクレーブに仕込み、オートクレーブ内部を窒素で置換した後、192℃まで昇温し、30分保持した。その後オートクレーブを冷却して内容物を取り出した。
【0058】
内容物をガラスフィルターで吸引濾過した後、これに70℃のイオン交換水76リットルを注ぎ込み吸引濾過してケークを得た。得られたケークを窒素気流下、120℃で乾燥することにより、乾燥PPSを得た。
【0059】
得られたPPSを、MFRが130g/10分となるまで酸素気流下200℃で熱処理し、PPS−2を得た。得られたPPS−2はナトリウム含有量1500ppm、カルシウム含有量150ppmであった。
【0060】
(B)非晶性樹脂:
PPE樹脂:旭化成(株)製ザイロンS202A、ガラス転移温度145℃
PES樹脂:ソルベイアドバンストポリマーズ(株)製 A300NT、ガラス転移温度225℃
PSU樹脂:ソルベイアドバンストポリマーズ(株)製 P1700NT、ガラス転移温度190℃
PS樹脂:日本ポリスチレン(株)製 G690N、ガラス転移温度105℃
AS樹脂:東レ(株)製AS−3G、ガラス転移温度110℃
PMMA樹脂:(株)クラレ製 パラペットG1000P、ガラス転移温度120℃
なお、ガラス転移温度は、JIS K7121に従って測定した。具体的には、示差走査型熱量計(DSC)セイコー電子製RDC220により、資料10mg、窒素雰囲気下、昇温速度20℃/分で測定した。
【0061】
(C)繊維状充填材:
ガラス繊維:旭ファイバーグラス(株)製 CS03MAFT523(平均径:13μm)
【0062】
(D)非繊維状充填材:
炭酸カルシウム:金平鉱業(株)製 KSS−1000(平均径:2μm)
ガラスフレーク:日本板硝子(株)製 マイクログラスフレカ REFG112
ガラスビーズ:ポッターズ・バロティーニ(株)製 EGB731B2
【0063】
実施例1〜11、比較例1〜8
上記(A)PPS樹脂、(B)非晶性樹脂、(D)非繊維状充填材及び添加剤(ポリエチレンワックス離型剤0.3部)をリボンブレンダーで表1に示す量でブレンド、押出機の元から投入し、(C)繊維状充填材はサイドフィーダーを用いて押出機へ供給した。なおサイドフィーダーの位置としては、押出機の元から吐出口までの全体を1とした場合に、押出機の元から3/5の位置に設置した。押出機は3ホールストランドダイヘッド付きPCM30(2軸押出機;池貝鉄鋼社製)を用い、320℃の樹脂温度で溶融混練を行い、ペレットを得た。ついで130℃の熱風オーブンで4時間乾燥した後、射出成形機を用いて320℃の樹脂温度、130℃の金型温度で、試験片を作成した。結果を表1に示す。
【0064】
実施例と比較例において、成形性、引張強度、寸法精度の評価は、以下の方法で行った。
【0065】
(1)成形性
射出成形機(日精60E9ASE)を使用して、成形条件(シリンダ温度320℃、金型温度130℃)における引張試験片(ASTM1号タイプ、厚み3.2mm)成形の際に、流動性が悪く充填不可能なものや、あるいは充填した後の成形品突き出し時に試験片が変形したり、突き出し箇所が大きく挫屈するようなものを成形性不良として表1中「×」で示した。「×」表示のものは、その他の特性評価を実施するための試験片作成が困難であったため、その後の評価ができなかった。これらについては表1中の特性の項で「−」と示した。
【0066】
(2)引張強度
ASTM D638に準拠する方法で評価を行った。試験片はASTM1号タイプ(厚み3.2mm)を用い、その成形条件はシリンダ温度320℃、金型温度130℃である。引張強度は、繊維状充填材による補強効果が非常に小さく、繊維状充填材添加があまり意味を成さない強度のものを「×」、繊維状充填材による補強効果が認められるものを「○」とした。
【0067】
(3)寸法精度
射出成形機(住友SE30D)を使用して、図1に示す平板成形品を
成形し、充填末端部の幅方向の長さWを寸法測定箇所とした。尚、平板成形品は標準成形(シリンダ温度320℃、金型温度130℃、充填時間1秒、充填末端部金型内圧力20MPa、その他条件は一般的な成形条件)で20ショット成形し、上記標準条件の充填時間のみを2秒に延ばした成形条件で20ショット成形、さらに上記標準条件の充填末端部金型内圧力を15MPaに低下させた成形条件で20ショット成形、合計60ショットの成形品をサンプリングした。
【0068】
寸法測定はミツトヨ製3次元寸法測定機を使用し、上記60ショット全てについて充填末端部の幅方向の長さWを測定、60ショット内の当該部寸法最大値と最小値の差を「寸法精度」とし表1中に記載した。充填時間と充填末端部金型内圧力を変動させた目的は、連続射出成形時の成形条件変動を意図的に発現させ、その成形条件変動による寸法変動を寸法精度の指標にするためである。すなわち、上記60ショット内の充填末端部幅方向の長さの最大値と最小値の差が小さいほど、成形条件変動に対する寸法変動が小さく、射出成形による連続生産品の寸法精度が優れるといえる。表1中には、寸法変動として、一般的に大きいと言える70μm以上のものを「×」、寸法変動が70μm未満のものを「○」と記載した。
【0069】
(4)反り特性
射出成形機(住友SE30D)を使用して、35mm×35mm×25mm、肉厚1.5mmの箱型形状の成形品を成形し、ミツトヨ製3次元寸法測定機を使用し、箱側面の内反り量を測定した。数値が小さいほど、反り特性が優れるといえる。表1中には、反り特性として、大きいと言える0.5mm以上のものを「×」、0.5mm未満のものを「○」と記載した。
【0070】
【表1】

【0071】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】(a)は実施例、比較例で用いた寸法精度評価用試験片の平面図であり、(b)は同試験片の側面図である。
【符号の説明】
【0073】
1.スプル
2.ランナー
3.ゲート
4.寸法精度評価用試験片
5.金型内圧力センサー部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)〜(D)成分の合計量を100重量部として、(A)ナトリウム含有量1000ppm以下かつカルシウム含有量20ppm以下であるポリフェニレンスルフィド樹脂20〜75重量部、(B)ガラス転移温度が140℃以上の非晶性樹脂2〜50重量部、(C)繊維状充填材10〜70重量部、(D)非繊維状充填材5〜50重量部を配合してなるポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項2】
前記(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂が酸洗浄したものである請求項1に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項3】
(B)ガラス転移温度が140℃以上の非晶性樹脂が、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリスルフォン樹脂およびポリエーテルサルフォン樹脂から選ばれる少なくとも1種である請求項1または2に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項4】
前記(D)非繊維状充填材が、炭酸カルシウム、ガラスフレーク、ガラスビーズから選ばれる少なくとも1種である請求項1〜3のいずれかに記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物からなる成形品。
【請求項6】
成形品が精密部品である請求項5記載の成形品。

【図1】
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【公開番号】特開2008−7758(P2008−7758A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−141191(P2007−141191)
【出願日】平成19年5月29日(2007.5.29)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】