説明

ポリフッ化ビニリデン樹脂組成物、着色樹脂フィルム、及び太陽電池モジュール用バックシート

【課題】ポリフッ化ビニリデン(PVDF)樹脂の耐熱性を向上し、かつ、該PVDF樹脂に多量の着色剤を含有させた場合であっても、熱分解と熱変色が抑制されたPVDF樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】PVDF樹脂100重量部に対して、熱安定剤としてタルク0.5〜70重量部、より好ましくは、着色剤2〜60重量部及びタルク2〜60重量部(かつ着色剤:タルク=20:1〜1:20)を含有するPVDF樹脂組成物、並びに、該PVDF樹脂組成物から形成される着色樹脂フィルム、並びに、該着色樹脂フィルムからなる層を含む太陽電池モジュール用バックシート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱安定剤としてのタルク、及び、好ましくはさらに着色剤を含有するポリフッ化ビニリデン樹脂組成物、該樹脂組成物から形成された着色樹脂フィルム、及び該着色樹脂フィルムからなる層を含む太陽電池モジュール用バックシートに関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池は、太陽光を直接電気エネルギーに変換する発電装置である。太陽電池には、シリコン半導体を材料にするものと、化合物半導体を材料にするものとに大別される。シリコン半導体太陽電池には、単結晶シリコン太陽電池、多結晶シリコン太陽電池、及びアモルファスシリコン太陽電池がある。
【0003】
化合物半導体は、複数の元素が結合してできた半導体である。化合物半導体電池には、Al、Ga、InなどのIII族元素とAs、SbなどのV族元素との組み合わせからなるIII−V族化合物半導体(例えば、GaAs)を使用した太陽電池、Zn、CdなどのII族元素とS、Se、TeなどのVI族元素との組み合わせからなるII−VI族化合物半導体(例えば、CdS、CdTe)を使用した太陽電池などがある。この他、銅インジウムセレナイド太陽電池、色素増感型太陽電池、有機薄膜型太陽電池などの開発も進められている。
【0004】
太陽電池の代表的なモジュールは、表面保護材、封止材、太陽電池セル、裏面保護材(以下、「バックシート」ということがある。)、及びフレームから構成されている。図1に示すように、太陽電池モジュール71の主要な構成要素は、表面保護材72、封止材73、太陽電池セル74、及び裏面保護材76からなる。複数の太陽電池セル74を配線75により直列に接続し、太陽電池モジュールを構成する。太陽電池モジュールの端部または周縁部には、フレーム(図示せず)が配置されている。
【0005】
表面保護材72としては、例えば、強化ガラス板、透明プラスチック板、透明プラスチックフィルムが用いられている。封止材73としては、エチレン−酢酸ビニル共重合体が汎用されている。裏面保護材76としては、例えば、単層または多層のプラスチックフィルム、プラスチック板、強化ガラス板、金属板(アルミニウム板、塗装鋼板など)が用いられている。フレームとしては、例えば、軽量で耐環境性に優れるアルミニウムが汎用されている。
【0006】
太陽電池セル74の構造は、太陽電池の種類によって異なる。例えば、シリコン半導体太陽電池セルは、n型シリコンとp型シリコンとを接合し、それぞれに電極を配置した構造のものが代表的なものである。他の太陽電池セルとして、例えば、「集電電極/透明導電層/半導体光活性層/反射層/導電性基体」の層構成を有するものがある。半導体光活性層は、例えば、アモルファスシリコン半導体である。複数の太陽電池セルを配列して接続し、表面保護材、封止材、及び裏面保護材を用いてパッケージにしたものを太陽電池モジュールという。複数の太陽電池モジュールを連結したものを太陽電池アレイという。
【0007】
太陽電池モジュール(アレイを含む)は、一般に屋外に設置され、その後、長期間にわたって稼動状態が維持される。太陽電池モジュールが屋外で長期間にわたって満足に稼動するには、苛酷な環境下で優れた耐久性を有する必要がある。このため、太陽電池モジュールの表面保護材、封止材、及び裏面保護材には、該太陽電池モジュールを取り巻く苛酷な自然環境下で長期間にわたって太陽電池セルを保護する機能を有することが求められている。
【0008】
太陽電池モジュール用バックシートは、太陽電池セルと反対側の表面(最外面)が屋外に直接暴露される一方、太陽電池セル側の表面(封止材との隣接面)が各太陽電池セルの間隙や各太陽電池モジュールの間隙で太陽光に曝される。このため、太陽電池用バックシートには、耐光性、耐候性、耐熱性、耐湿性、水蒸気バリア性、電気絶縁性、耐電圧性、機械的特性、耐薬品性、耐塩性、防汚性、封止材との接着性などの諸特性に優れることが求められている。
【0009】
太陽電池モジュール用バックシートとして、一般に、単層または多層のプラスチックフィルム、プラスチック板、強化ガラス板、金属板、プラスチックフィルムと金属板との複合体、プラスチックフィルムと金属箔との複合体などが用いられている。金属板としては、その表面に合成樹脂塗膜を形成したものも用いられている。
【0010】
プラスチックフィルムとしては、太陽電池モジュール用バックシートに求められる耐光性、耐候性、耐熱性、防汚性などの諸特性を満足させる観点からは、フッ素樹脂フィルム、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、及びこれらの複合フィルムが好ましく使用される。
【0011】
フッ素樹脂フィルムを使用する例として、特開2008−181929号公報(特許文献1)には、外面樹脂層として、エチレン・テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)樹脂、テトラフルオロエチレン(TFE)・ヘキサフルオロプロピレン(HFP)・ビニリデンフロライド(VDF)の三元共重合体樹脂、ポリフッ化ビニル(PVF)樹脂、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)樹脂、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)樹脂、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体樹脂などを備える太陽電池用裏面保護シートが開示されている。また、特開2008−211034号公報(特許文献2)には、最外層に、ポリフッ化ビニリデンとポリメチルメタクリレートを含有するフィルムを備えた太陽電池用裏面保護シートが開示されている。
【0012】
太陽電池モジュール用バックシートには、上記諸特性に優れることに加えて、その太陽電池セル側の表面の外観が美麗であること、さらには、該バックシートに入射した太陽光を効率的に反射する機能を有することが求められている。各太陽電池セルの間隙を透過した入射光をバックシートにより効率的に反射することができれば、反射光により太陽電池セルの電力変換効率が向上する。
【0013】
このため、該バックシートに着色剤を配合してなる、太陽電池モジュール用の着色バックシートが知られている。
【0014】
着色剤としては、太陽光の反射率を高めて太陽電池の発電効率を高めるために、熱可塑性樹脂に無機白色顔料を配合した白色樹脂フィルムが知られており、特開2002−100788号公報(特許文献3)や特開2007−208179号公報(特許文献4)には、酸化チタンが、無機白色顔料の中でも色調と隠蔽力(光散乱性)が特に優れており、白色樹脂フィルムの色調と反射特性の向上に寄与することが開示されている。
【0015】
他方、太陽電池を、家屋の屋根等に配置する場合には、外観性の観点から、黒色等の暗色系の色に着色されることが好まれており、そのために、暗色系の色に着色された太陽電池用バックシートが求められている。
【0016】
暗色系の色に着色された太陽電池用バックシートとしては、黒色顔料であるカーボンブラックを用いてなるシートが一般的であるが、カーボンブラックが太陽光を吸収して温度が上昇し、太陽電池の発電効率が低下するだけでなく、耐久性が低下するおそれがあった。そこで、暗色系の色に着色された太陽電池用バックシートとして、特開2007−103813号公報(特許文献5)や特開2007−197570号公報(特許文献6)に、赤外線反射特性を有する無機顔料や赤外線反射黒色顔料を配合することが、開示されている。
【0017】
ポリフッ化ビニリデン(以下、「PVDF」ということがある。)樹脂に着色剤を含有させたPVDF樹脂組成物からなる着色樹脂フィルムを太陽電池モジュール用バックシートとして用いれば、外観を美麗にすることができる上、太陽電池セルの電力変換効率の向上に寄与することが期待される。
【0018】
ところが、本発明者らの研究結果によれば、PVDF樹脂にこれらの着色剤を含有させると、PVDF樹脂の熱分解温度が大幅に低下する場合があることが判明した。PVDF樹脂は、融点が177℃で、熱分解開始温度が350℃であり、350℃以上の温度に加熱すると、フッ化水素(HF)ガスを発生して分解する。これらの融点及び熱分解開始温度は、いずれもPVDF樹脂の代表値である。融点から熱分解開始温度までの領域が広いことは、PVDF樹脂の加工温度領域が広いことを示している。
【0019】
PVDF樹脂から着色樹脂フィルムを形成するには、PVDF樹脂に比較的多量の着色剤をブレンドする必要がある。PVDF樹脂に比較的多量の着色剤を含有させたPVDF樹脂組成物を用いて着色樹脂フィルム(シートを含む)を押出成形すると、得られた着色樹脂フィルムが変色したり、PVDF樹脂が熱分解しやすくなることがある。
【0020】
例えば、無機白色顔料の中でも色調と隠蔽力(光散乱性)が特に優れている酸化チタンをPVDF樹脂に含有させたPVDF樹脂組成物は、酸化チタンを、太陽電池モジュール用バックシートに適した隠蔽性を備えるに足る量比で含有させた場合、熱重量分析法(TGA)による熱重量測定を行うと、PVDF樹脂単独の場合に比べて、10%熱重量減少温度が約40℃から約55℃も低下することがある。PVDF樹脂単独の10%熱重量減少温度は、典型的には約380℃から約385℃の範囲内である。これに対して、例えば、該PVDF樹脂100重量部に白色顔料である酸化チタン10重量部を含有させたPVDF樹脂組成物の10%熱重量減少温度は、約330℃にまで低下する。
【0021】
それに加えて、PVDF樹脂と酸化チタンとを含有するPVDF樹脂組成物から形成されたフィルムは、230〜270℃の温度に加熱したギアオーブン中で耐熱試験を行うと、数時間後には茶褐色に変色してしまい、分解ガスが発生した痕跡と推定される発泡が認められることもある。PVDF樹脂と酸化チタンとを含有する樹脂組成物に、PVDF樹脂と相溶性のあるポリメチルメタクリレートを含有させても、酸化チタンに起因する耐熱性の低下と熱変色を改善することはできない。このような欠点は、PVDF樹脂組成物を塗工液として用いて、塗工膜を形成する方法を採用しても解消することができない。
【0022】
また、暗色系の色に着色された太陽電池用バックシートとして、PVDF樹脂と黒色顔料であるカーボンブラックとを含有するPVDF樹脂組成物から形成されたフィルムにおいては、カーボンブラックが太陽光を吸収して温度が上昇し、太陽電池の発電効率が低下するだけでなく、耐久性が低下するおそれがあった。
【0023】
このように、PVDF樹脂組成物から形成されたフィルムは、太陽電池モジュール用バックシートに適した優れた諸特性を有するものの、着色剤を含有させた場合には、耐熱性や外観の低下が著しく、耐久性に劣ったものとなることがある。このため、PVDF樹脂の耐熱性をさらに向上させて太陽電池モジュール用バックシートにより適合したPVDF樹脂組成物を得ると同時に、PVDF樹脂に着色剤を含有させたPVDF樹脂組成物から形成したフィルムにおいても、耐熱性や外観の著しい低下が抑制され、その結果、太陽電池モジュールの外観を美麗にするとともに、太陽電池セルの電力変換効率を高めることができ、かつ、耐久性に優れた着色樹脂フィルムを得ることが強く望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0024】
【特許文献1】特開2008−181929号公報
【特許文献2】特開2008−211034号公報
【特許文献3】特開2002−100788号公報
【特許文献4】特開2007−208179号公報
【特許文献5】特開2007−103813号公報
【特許文献6】特開2007−197570号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
本発明の課題は、PVDF樹脂の耐熱性を向上し、かつ、該PVDF樹脂に多量の着色剤を含有させた場合であっても、熱分解と熱変色が抑制されたPVDF樹脂組成物を提供することにある。
【0026】
本発明の他の課題は、PVDF樹脂に多量の着色剤を含有させた樹脂組成物を用いて、成形加工時の熱分解と熱変色を抑制することができ、経時による熱分解と熱変色が顕著に抑制され、かつ、外観、隠蔽力(光散乱性)、及び耐久性に優れた着色樹脂フィルムを提供することにある。
【0027】
本発明の更なる他の課題は、PVDF樹脂と着色剤を含有するPVDF樹脂組成物を用いて、太陽電池モジュール用バックシートに適した諸特性を有する、耐久性に優れた該バックシートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0028】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究した結果、PVDF樹脂に、従来充填剤として知られているタルクを添加すると、意外にも、該化合物が熱安定剤として作用し、その結果、PVDF樹脂の耐熱性が向上することを見いだし、また、PVDF樹脂に多量の着色剤を含有させた場合であっても、成形加工時や経時による熱分解と熱変色を十分に抑制できるPVDF樹脂組成物が得られることを見いだした。
【0029】
本発明のPVDF樹脂組成物から形成された樹脂フィルム、特に、着色剤を含有させた着色樹脂フィルム(シートを含む)は、熱分解や熱変色が顕著に抑制され、外観、隠蔽力(光散乱性)、耐熱性、及び耐久性に優れており、太陽電池モジュール用バックシートに適した諸特性を有している。本発明は、これらの知見に基づいて完成するに至ったものである。
【0030】
本発明によれば、PVDF樹脂100重量部に対して、熱安定剤としてタルク0.5〜70重量部を含有するPVDF樹脂組成物が提供される。その実施の態様として、該タルク0.8〜50重量部を含有する前記のPVDF樹脂組成物が提供される。
【0031】
また、本発明によれば、特に好ましい態様として、さらに着色剤を含有する前記のPVDF樹脂組成物、すなわち、PVDF樹脂、着色剤、及び熱安定剤としてタルクを含有するPVDF樹脂組成物であって、
(a)該着色剤の含有割合が、該PVDF樹脂100重量部に対して、2〜60重量部であり、
(b)タルクの含有割合が、該PVDF樹脂100重量部に対して、2〜60重量部であり、かつ、
(c)該着色剤とタルクとの重量比が20:1〜1:20である
前記のPVDF樹脂組成物が提供される。
【0032】
さらにこれらの実施の態様として、以下(1)〜(7)のPVDF樹脂組成物が提供される。
(1)前記PVDF樹脂が、フッ化ビニリデン単独重合体及びフッ化ビニリデン共重合体からなる群より選ばれる少なくとも一種である前記のPVDF樹脂組成物。
(2)該フッ化ビニリデン共重合体が、フッ化ビニリデン単位との共重合比率が15モル%以下である、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−クロロトリフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−トリフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン三元共重合体、及びフッ化ビニリデン−クロロトリフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン三元共重合体からなる群より選ばれる少なくとも一種のフッ化ビニリデン共重合体である前記のPVDF樹脂組成物。
(3)該タルクが、平均粒子径(D50)が0.5〜20μm、かつ、見掛け密度が0.05〜0.5g/cmである前記のPVDF樹脂組成物。
(4)他の熱可塑性樹脂を、PVDF樹脂100重量部に対して、30重量部以下の割合でさらに含有する前記のPVDF樹脂組成物。
(5)他の熱可塑性樹脂が、ポリメチルメタクリレートである前記のPVDF樹脂組成物。
(6)該着色剤が、酸化チタン及びカーボンブラックからなる群より選ばれる少なくとも一種である前記のPVDF樹脂組成物。
(7)顔料分散剤、紫外線吸収剤、光安定剤、つや消し剤、滑剤、色味調整剤、結晶核剤、及びエラストマーからなる群より選ばれる少なくとも一種である他の添加剤を、PVDF樹脂100重量部に対して、各々独立して10重量部以下の割合でさらに含有する前記のPVDF樹脂組成物。
【0033】
さらにまた、本発明によれば、前記の着色剤を含有するPVDF樹脂組成物から形成された着色樹脂フィルム、すなわち、PVDF樹脂、着色剤、及び熱安定剤としてタルクを含有するPVDF樹脂組成物から形成された着色樹脂フィルムであって、
(a)該着色剤の含有割合が、該PVDF樹脂100重量部に対して、2〜60重量部であり、
(b)タルクの含有割合が、該PVDF樹脂100重量部に対して、2〜60重量部であり、かつ、
(c)該着色剤とタルクとの重量比が20:1〜1:20である
PVDF樹脂組成物から形成された着色樹脂フィルムが提供される。
【0034】
そしてまた、本発明によれば、該着色樹脂フィルムからなる層を含む太陽電池モジュール用バックシートが提供される。
【発明の効果】
【0035】
本発明は、PVDF樹脂の耐熱性を向上させることができ、さらに、PVDF樹脂に多量の着色剤を含有させたPVDF樹脂組成物が、成形加工時の熱分解と熱変色を抑制することができるという効果を奏する。また、本発明による、PVDF樹脂に多量の着色剤を含有させたPVDF樹脂組成物からなる着色樹脂フィルムが、成形加工時の熱分解と熱変色が抑制され、しかも経時による熱分解と熱変色が顕著に抑制され、外観、隠蔽力(光散乱性)、耐熱性、及び耐久性に優れるという効果を奏する。さらに、本発明は、前記の着色樹脂フィルムからなる層を含む太陽電池モジュール用バックシートが、経時による熱分解と熱変色が顕著に抑制され、外観、隠蔽力(光散乱性)、耐熱性、及び耐久性に優れているという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】図1は、太陽電池モジュールの一例の断面略図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
1.ポリフッ化ビニリデン樹脂
本発明で使用するポリフッ化ビニリデン樹脂(PVDF樹脂)とは、フッ化ビニリデンの単独重合体、及びフッ化ビニリデンを主成分とするフッ化ビニリデン共重合体を意味する。本発明で使用するPVDF樹脂は、α型、β型、γ型、α型などの様々な結晶構造を示す結晶性樹脂である。本発明で使用するPVDF樹脂は、結晶性を喪失したエラストマー(フッ素ゴム)ではない。
【0038】
フッ化ビニリデン共重合体としては、例えば、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−クロロトリフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−トリフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン三元共重合体、フッ化ビニリデン−クロロトリフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン三元共重合体、及びこれらの2種以上の混合物が挙げられる。
【0039】
これらのフッ化ビニリデン共重合体は、フッ化ビニリデン単位との共重合比率、すなわち、コモノマーの共重合比率が、通常15モル%以下であり、好ましくは10モル%以下、より好ましくは5モル%以下である。コモノマーの共重合比率が15モル%以下であることにより、フッ化ビニリデン共重合体は、結晶性を有する熱可塑性樹脂となる。コモノマーの共重合比率の下限値は、好ましくは1モル%である。コモノマーの共重合比率が高くなりすぎると、フッ化ビニリデン共重合体は、結晶性を喪失してエラストマーとなる。
【0040】
したがって、PVDF樹脂として、フッ化ビニリデン単独重合体、及びコモノマーの共重合比率が15モル%以下のフッ化ビニリデン共重合体からなる群より選ばれる少なくとも一種を用いることができる。PVDF樹脂の中でも、フッ化ビニリデン単独重合体、及び、ヘキサフルオロプロピレン単位の共重合比率が15モル%以下であるフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体が、耐熱性、溶融成形性、機械的特性、防汚性、耐溶剤性、二次加工性などの観点から、特に好ましい。
【0041】
PVDF樹脂は、一般に、懸濁重合法または乳化重合法により製造することができる。乳化重合法では、化学的に安定なフッ素系乳化剤を使用して、フッ化ビニリデン単独またはフッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンなどのコモノマーとを水系媒体中に乳化させる。次いで、重合開始剤として、無機過酸化物、有機過酸化物、有機パーカーボネート化合物などを使用して、重合を行う。乳化重合後、サブミクロン単位の微小なラテックスを凝集剤により析出し、凝集させると、PVDF樹脂を適当な大きさの粒子として回収することができる。
【0042】
懸濁重合法では、メチルセルロースなどの懸濁剤を用いて、フッ化ビニリデンまたは該フッ化ビニリデンとコモノマーとを水系媒体中に懸濁させる。例えば、重合開始剤として、低温で活性を示す有機パーカーボネート(例えば、ジn−プロピルパーオキシジカーボネート)を用いて、フッ化ビニリデンの臨界温度30.1℃以下の温度、好ましくは10〜30℃、より好ましくは20〜28℃で重合を開始して一次重合体粒子を生成させ、必要に応じて、温度を30〜90℃、好ましくは40〜80℃に上昇させて、重合反応を継続し、二次重合体粒子を生成させる。
【0043】
PVDF樹脂の固有粘度は、好ましくは0.7〜1.5dl/g、より好ましくは0.8〜1.3dl/gの範囲内である。PVDF樹脂の固有粘度は、PVDF樹脂4gを1リットルのN,N−ジメチルホルムアミドに溶解させた溶液について、ウベローデ粘度計を用いて測定した30℃における対数粘度である。
【0044】
PVDF樹脂の融点は、通常130〜185℃、多くの場合150〜180℃の範囲内である。PVDF樹脂の融点は、示差走査熱量計(DSC)により測定される値である。PVDF樹脂は、350℃以上の温度に加熱すると、HFガスを発生して分解を開始する。PVDF樹脂は、融点と分解点までの加工可能な温度領域が広い。PVDF樹脂の溶融加工温度は、通常、200〜250℃の範囲内である。PVDF樹脂の耐熱性は、後に詳述する10%熱重量減少温度によって評価することができる。なお、PVDF樹脂がフッ化ビニリデン単独重合体であるときの10%熱重量減少温度は、通常約380℃程度である。
【0045】
2.熱安定剤であるタルク
本発明で熱安定剤として使用するタルクは、粘土鉱物の一種である滑石を粉砕してなる粉末状のものであり、化学組成は、水酸化マグネシウムと珪酸塩からなる組成式MgSi10(OH)で表される含水珪酸マグネシウムである。
【0046】
タルクとしては各種のものが知られており、平均粒子径で区分すれば、10〜20μm程度である汎用タルク、1〜10μm程度である微粒子タルク、1μm程度以下である超微粒子タルク、20μm程度以上である高嵩密度タルクなどがある。本発明において熱安定剤として使用するタルクは、粒子径が小さすぎると凝集による分散不良を生じ、流動性が低下するおそれがあり、粒子径が大きすぎると機械物性の低下や外観不良を引き起こすおそれがあることから、平均粒子径は0.5〜20μmの範囲が好ましく、より好ましくは1〜18μm、特に好ましくは2〜16μmの範囲である。平均粒子径は、レーザー回折法により測定した一次粒子の粒径の50%の積算値として算出した数平均粒子径(D50)を意味し、例えば、株式会社島津製作所製の粒径測定器SALD−3000Jを使用して測定することができる。タルクの粒子径分布はシャープなものほど好ましく、20μmを超える粒子径のものが極力除去されているタルクを使用することが、特に好ましい。
【0047】
本発明で使用するタルクのJIS K5101により測定した見掛け密度は、好ましくは0.05〜0.5g/cm、より好ましくは0.08〜0.45g/cm、特に好ましくは0.1〜0.4g/cmの範囲である。本発明で使用するタルクのBET法による比表面積は、好ましくは3〜25m/g、より好ましくは3.5〜20m/g、特に好ましくは4〜16m/gの範囲である。また、本発明で使用するタルクのJIS K5101により測定した吸油量は、好ましくは15〜60ml/100g、より好ましくは18〜55ml/100g、特に好ましくは20〜50ml/100gの範囲である。本発明で使用するタルクは、酸化鉄、酸化アルミニウム等の不純物が極力少ないものが好ましく、焼成タルクや、塩酸や硫酸等の酸で洗浄して不純物を除いたタルク等も好ましく使用することができる。さらに、シランカップリング剤やチタネートカップリング剤等で表面疎水性処理を行ったタルクも使用することができる。本発明で使用するタルクは、アミノシラン処理を施しても施さなくてもよいが、機械的特性と耐熱性のバランスを取るためには、アミノシラン処理は施さない方が好ましい。
【0048】
PVDF樹脂の着色と熱分解を抑制する効果に優れ、かつ、PVDF樹脂への分散性がよいという観点から、熱安定剤であるタルクとしては、平均粒子径2.5μmであるSG−95(日本タルク株式会社製)、平均粒子径14μmであるMS(日本タルク株式会社製)などが好ましく使用される。熱安定剤であるタルクは、1種類単独で、または2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0049】
タルクを原石から粉砕する際の製法は特に制限を受けないが、タルクを脱気して圧縮したもの、またはモンモリロナイト等の微量の粘土状物質をバインダーとして造粒して、タルクの見掛け密度を高くしたものが、組成物を製造する際の生産性、分散性に優れるので好ましい。
【0050】
3.着色剤
本発明で使用する着色剤としては、PVDF樹脂の色調と隠蔽力(光散乱性)を損ねることがないものであれば、特に制限はないが、色調と隠蔽力(光散乱性)が特に優れていることから、酸化チタン等の無機白色顔料や、反射特性を有する無機顔料やカーボンブラック等の黒色顔料などを好ましく用いることができる。
【0051】
(1)無機白色顔料
無機白色顔料としては、ZnO、TiO、Al・nHO、[ZnS+BaSO]、CaSO・2HO、BaSO、CaCO、2PbCO・Pb(OH)等が挙げられる。無機白色顔料の中でも色調と隠蔽力(光散乱性)が特に優れており、白色樹脂フィルムの色調と反射特性の向上に寄与することができることから、酸化チタン(TiO)が好ましい。
【0052】
酸化チタンは、アナターゼ型とルチル型の2種類の結晶形のものが広く利用されている。本発明では、これら2種類の結晶形のものを用いることができるが、これらの中でも、高温でのPVDF樹脂への分散性に優れ、揮発性が極めて小さいことから、ルチル型の結晶形を有する酸化チタンが好ましい。
【0053】
酸化チタンとしては、顔料用グレードのものを好ましく用いることができる。透過型電子顕微鏡撮影画像の画像解析による酸化チタンの平均粒子径(平均一次粒子径)は、通常150〜1000nm、好ましくは200〜700nm、より好ましくは200〜400nmの範囲内である。酸化チタンの平均粒子径が小さすぎると、隠蔽力が低下する。酸化チタンは、その平均粒子径が前記範囲内にあることによって、屈折率が大きく光散乱性が強いため、白色顔料としての隠蔽力が高くなる。酸化チタンは、一般に、一次粒子が凝集した二次粒子の形態で存在している。酸化チタンのBET法による比表面積は、通常1〜15m/g、多くの場合5〜15m/gの範囲内である。
【0054】
酸化チタンは、表面処理剤で表面処理することにより、分散性、隠蔽性、耐候性などの特性を向上させることができる。表面処理剤としては、アルミニウム、ケイ素、ジルコニウム、錫、セリウム、ビスマスなどの金属酸化物;酸化亜鉛などの水和金属酸化物;有機アルミニウム化合物、有機チタニウム化合物、有機ジルコニウム化合物などの有機金属化合物;シランカップリング剤やポリシロキサンなどの有機ケイ素化合物;リン酸アルミニウム、有機リン酸エステルなどのリン化合物;アミン化合物;などが挙げられる。
【0055】
(2)黒色顔料
黒色顔料としては、赤外線反射特性を有する無機顔料を使用することができる。該顔料は、外見的には黒色または有彩色などに着色されていても特定波長の赤外線を反射して蓄熱を防止する性質を有し、かつ、熱変形が小さく耐熱性に優れ、さらには、屋外で長期間使用しても加水分解を起しにくく耐候性にも優れるので、太陽電池用バックシートに用いる着色樹脂フィルムを形成する樹脂組成物に含有させると、太陽電池の発電効率が低下したり、耐久性が低下したり、また、成形時に熱分解や変色したりすることを防止できる。赤外線反射特性を有する無機顔料としては、先の特許文献5または6に開示される、Fe、Cr及びMnから選ばれる少なくとも二種の元素を含む酸化物、例えば、Fe(Fe,Cr)、(Co,Fe)(Fe,Cr)、Cu(Cr,Mn)、(Cu,Fe,Mn)(Fe,Cr,Mn)、(Fe,Zn)(Fe,Cr)、Cr:Feや、Co元素及びNi元素を含む酸化物、具体的には、(Ni,Co,Fe)(Fe,Cr)等や、FeとCoとAlを含有し、さらに、Mg、Ca、Sr、Ba、Ti、Zn、Sn、Zr、Si、及びCuから選ばれる一種以上の金属を含有する複合酸化物などがある。
【0056】
また、黒色顔料としては、カーボンブラックが好ましい。通常、太陽電池バックシート等に使用されるカーボンブラックであれば、特に限定されず、ファーネスブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラック、サーマルブラックなどを使用することができ、カルボキシル基等によって表面が変性されたカーボンブラックも使用することもできる。透過型電子顕微鏡撮影画像の画像解析によるカーボンブラックの平均粒子径(平均一次粒子径)は、通常10〜150nm、好ましくは13〜100nm、より好ましくは15〜40nmの範囲内である。カーボンブラックの平均粒子径が小さすぎると、凝集しやすく取扱いが困難となることがある。平均粒子径が大きすぎると、分散不良や外観不良を招くおそれがある。カーボンブラックのBET法による比表面積は、通常20〜250m/g、好ましくは50〜200m/g、より好ましくは80〜200m/gの範囲内である。
【0057】
4.PVDF樹脂組成物
本発明のPVDF樹脂組成物は、熱安定剤であるタルクの含有割合が、PVDF樹脂100重量部に対して、0.5〜70重量部の範囲内である。熱安定剤であるタルクの含有割合は、好ましくは0.6〜65重量部、より好ましくは0.7〜60重量部、特に好ましくは0.8〜55重量部の範囲内である。着色剤を併用しない場合の熱安定剤であるタルクの含有割合は、好ましくは0.7〜55重量部の範囲内であり、より好ましくは0.8〜50重量部、特に好ましくは0.9〜45重量部の範囲内である。着色剤を併用する場合の熱安定剤であるタルクの含有割合は、好ましくは2〜60重量部の範囲内であり、より好ましくは5〜55重量部、さらに好ましくは6〜50重量部、特に好ましくは7〜45重量部の範囲内である。熱安定剤の含有割合が小さすぎると、熱安定化効果が小さくなり、PVDF樹脂組成物中のPVDF樹脂成分の熱分解温度の低下を十分に抑制することが困難になる。熱安定剤の含有割合が大きすぎると、樹脂フィルムの隠蔽力や色調、機械的特性などに悪影響を及ぼすおそれがある。
【0058】
本発明のPVDF樹脂組成物における着色剤の含有割合は、PVDF樹脂100重量部に対して、通常2〜60重量部の範囲内であり、好ましくは4〜55重量部、より好ましくは6〜50重量部、特に好ましくは8〜45重量部の範囲内である。着色剤の含有割合が小さすぎると、太陽電池モジュール用バックシートとして利用可能な色調と隠蔽力を有する着色樹脂フィルムを得ることが困難になる。着色剤の含有割合が大きすぎると、押出加工による着色樹脂フィルムの製造が困難になる上、着色樹脂フィルムの機械的強度が低下する。
【0059】
熱安定剤であるタルクによる熱安定化効果を効率的に高めるために、PVDF樹脂組成物中の着色剤の含有割合に応じて、熱安定剤であるタルクの含有割合を調整することが好ましい。熱安定剤であるタルクの含有割合は、着色剤の含有割合よりも大きくても小さくてもよい。着色剤と熱安定剤との重量比は、好ましくは20:1〜1:20の範囲内であり、より好ましくは15:1〜1:15、さらに好ましくは12:1〜1:12、特に好ましくは10:1〜1:10、最も好ましくは5:1〜1:5の範囲内である。
【0060】
本発明のPVDF樹脂組成物には、PVDF樹脂と相溶性のあるポリメチルメタクリレートなどの他の熱可塑性樹脂を含有させることができる。他の熱可塑性樹脂は、PVDF樹脂100重量部に対して、好ましくは30重量部以下、より好ましくは25重量部以下の割合で用いられる。他の熱可塑性樹脂を用いる場合、その下限値は、通常0.01重量部、好ましくは0.1重量部、より好ましくは1重量部である。他の熱可塑性樹脂の中でも、ポリメチルメタクリレート(PMMA)は、PVDF樹脂と相溶性に優れるだけでなく、PVDF樹脂組成物から形成された着色樹脂フィルムの他の部材に対する接着性を向上させるため、特に好ましい。
【0061】
本発明のPVDF樹脂組成物には、所望により、顔料分散剤、紫外線吸収剤、光安定剤、つや消し剤、滑剤、色味調整剤、結晶核剤、機械物性改良剤(例えば、アクリルエラストマーなどのエラストマー)などから選ばれる他の添加剤を含有させることができる。これらの添加剤は、所望により、それぞれに適した割合で用いられ、PVDF樹脂100重量部に対して、各々独立して、好ましくは10重量部以下、より好ましくは5重量部以下、特に好ましくは3重量部以下の割合で用いられる。これらの添加剤を用いる場合、その含有割合の下限は、PVDF樹脂100重量部に対して、各々独立して、通常0.001重量部、多くの場合0.01重量部である。
【0062】
PVDF樹脂組成物は、PVDF樹脂、熱安定剤であるタルク、及び、必要に応じて着色剤をドライブレンドする方法により調製することができる。PVDF樹脂の粉末またはペレットを、熱安定剤であるタルク、及び、必要に応じて着色剤とともに、押出機に供給して溶融混練し、ストランド状に溶融押出し、カットしてペレット化することができる。他の添加剤及び/または他の熱可塑性樹脂を用いる場合には、前記のブレンド工程やペレット工程で含有させる。
【0063】
PVDF樹脂組成物を粉体塗料として使用する場合には、PVDF樹脂粉末、熱安定剤であるタルク、及び、必要に応じて着色剤をドライブレンドする方法によりPVDF樹脂組成物を調製する。他の添加剤及び/または他の熱可塑性樹脂を用いる場合には、該ブレンド工程で含有させる。このようなドライブレンド物は、粉体塗料として使用できるだけではなく、押出成形機に供給して、フィルム(シートを含む)として溶融押出成形することができる。
【0064】
PVDF樹脂組成物は、所望により、オルガノゾル塗料の形態とすることができる。オルガノゾル塗料は、常法により、PVDF樹脂粉末、熱安定剤であるタルク、及び、必要に応じて着色剤、並びに、アクリル樹脂(製膜助剤)及び有機溶媒、さらに所望により他の添加剤及び/または他の熱可塑性樹脂を、ロールミル、サンドグラインダーなどを用いて分散する方法により調製することができる。PVDF樹脂組成物は、常法によりディスパージョン塗料の形態とすることもできる。
【0065】
本発明のPVDF樹脂組成物は、熱重量分析法(TGA)により熱重量測定を行ったときに、10%熱重量減少温度が、通常340℃以上、好ましくは360℃以上、より好ましくは370℃以上、特に好ましくは380℃以上を示すものとすることができる。なかでも、本発明のPVDF樹脂組成物が、着色剤を含有しないものである場合は、好ましくは390℃以上、より好ましくは400℃以上、さらに好ましくは410℃以上、特に好ましくは425℃以上、最も好ましくは440℃以上を示すものとすることができる。
【0066】
本発明のPVDF樹脂組成物の10%熱重量減少温度は、着色剤を含有するPVDF樹脂組成物である場合、着色剤の種類によって変動することがあるが、熱安定剤を含有しないPVDF樹脂組成物に比べて、10%熱重量減少温度の上昇の程度が、通常5℃以上、好ましくは10℃以上、より好ましくは15℃以上、さらに好ましくは25℃以上、特に好ましくは40℃以上、最も好ましくは60℃以上を示す。この結果、本発明の着色剤を含有するPVDF樹脂組成物は、PVDF樹脂単独の場合とほぼ同様に取り扱うことができる程度の耐熱性が期待できる。また、本発明のPVDF樹脂組成物の10%熱重量減少温度は、着色剤を含有しないPVDF樹脂組成物である場合、PVDF樹脂単独に比べて、10%熱重量減少温度の上昇の程度が、通常10℃以上、好ましくは20℃以上、より好ましくは30℃以上、さらに好ましくは40℃以上、特に好ましくは50℃以上を示すこともある。
【0067】
本発明のPVDF樹脂組成物は、耐熱性に優れているので、例えば、フィルムまたはシートに成形して加熱試験を行った場合、熱変色したり、表面性状が悪化したり、機械的強度が低下したりすることがない。
【0068】
5.着色樹脂フィルム
着色剤を含有するPVDF樹脂組成物は、押出成形機に供給し、押出成形機の先端に配置したTダイからフィルム状に溶融押出することにより、着色樹脂フィルムに成形することができる。本発明において、樹脂フィルムとは、厚みが250μm未満のフィルムだけではなく、厚みが250μm〜3mmのシート(板を含む)まで含むものとする。
【0069】
着色樹脂フィルムの厚みの下限値は、通常5μm、好ましくは10μm、より好ましくは20μm、特に好ましくは30μmである。着色樹脂フィルムの厚みの上限値は、好ましくは500μm、より好ましくは300μm、さらに好ましくは200μm、特に好ましくは150μmである。着色樹脂フィルムの厚みが薄すぎると、十分な色調や隠蔽力を得ることが困難になり、機械的特性も低下する。着色樹脂フィルムの厚みが厚すぎると、柔軟性が損なわれたり、軽量化が困難になったりする。着色樹脂フィルムの厚みは、特に40〜120μmの範囲内で良好な特性を発揮することができる。
【0070】
本発明のPVDF樹脂組成物を粉体塗料、オルガノゾル塗料またはディスパージョン塗料の形態で用いる場合には、金属板やガラス板、耐熱性樹脂フィルムなどの耐熱性基材の上に塗工し、加熱する方法により製膜することができる。
【0071】
6.太陽電池モジュール及び太陽電池モジュール用バックシート
本発明の太陽電池モジュール用バックシートを配置することができる太陽電池モジュールとしては、例えば、図1に示す断面構造のものを例示することができる。図1に示すように、太陽電池モジュールは、表面保護材72、封止材73、太陽電池セル74、及び裏面保護材76から構成される。複数の太陽電池セル74を配線75により直列に接続し、太陽電池モジュールを構成する。太陽電池モジュールの端部または周縁部には、フレーム(図示せず)が配置されている。
【0072】
表面保護材72としては、例えば、強化ガラス板、透明プラスチック板、単層若しくは多層の透明プラスチックフィルム、これらを複合化した複合材料などが用いられるが、これらに限定されない。封止材73としては、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、ブチラール樹脂、シリコン樹脂、エポキシ樹脂、フッ素化ポリイミド樹脂などの透明な樹脂が用いられるが、これらに限定されない。これらの封止材の中でも、EVAが好ましい。太陽電池セル74の構造は、太陽電池の種類によって異なるが、各種太陽電池セルを用いることができる。
【0073】
本発明において、裏面保護材(バックシート)76としては、本発明のPVDF樹脂組成物からなる単層の着色樹脂フィルム、該着色樹脂フィルムと他の樹脂フィルム(例えば、PETフィルム)とを複合化した多層フィルム、該着色樹脂フィルムと防湿フィルムとを複合化した多層フィルム、該着色樹脂フィルムと強化ガラス板とを複合化した複合材料、該着色樹脂フィルムと金属板とを複合化した複合材料、該着色樹脂フィルムと他の樹脂フィルム、防湿フィルム、強化ガラス板などの2種以上とを複合化した複合材料などが用いられる。多層フィルムや複合材料は、各層間に接着剤層を配置することができる。防湿フィルムとしては、基材フィルムの片面に、酸化ケイ素や酸化アルミニウムなどの無機酸化物の蒸着膜を形成した複合フィルムなどが挙げられる。市販の防湿フィルムとしては、例えば、株式会社クレハ製セレール(CELLEL)(登録商標)T030が挙げられる。
【0074】
封止材としてEVAを用いる場合、EVAは、通常シートとして供給される。太陽電池セルを2枚のEVAシートで挟んで、加熱加圧することにより、太陽電池セルをEVAで封止することができる。EVAシートは、PVDF樹脂組成物からなる着色樹脂フィルムと複合化して供給することができる。
【0075】
本発明の太陽電池モジュール用バックシートの好ましい層構成としては、例えば、以下のようなものを例示することができるが、これらに限定されない。複数層の層構成を有するバックシートは、太陽電池モジュールに当接する側の面を右端として示す。
【0076】
1)着色樹脂フィルム
2)着色樹脂フィルム/接着剤/EVA
3)他の樹脂フィルム/着色樹脂フィルム
4)他の樹脂フィルム/接着剤/着色樹脂フィルム
5)他の樹脂フィルム/着色樹脂フィルム/接着剤/EVA
6)他の樹脂フィルム/接着剤/着色樹脂フィルム/接着剤/EVA
7)ガラス板/接着剤/着色樹脂フィルム
8)ガラス板/接着剤/着色樹脂フィルム/接着剤/EVA
9)金属板/接着剤/着色樹脂フィルム
10)金属板/接着剤/着色樹脂フィルム/接着剤/EVA
11)上記層構成に防湿フィルムを付加した層構成
【0077】
本発明の太陽電池モジュール用バックシートが着色樹脂フィルムを含む多層シートの場合、着色樹脂フィルムを封止材(例えば、EVA)層に直接または接着剤層を介して隣接させる。
【実施例】
【0078】
以下、本発明について、実施例及び比較例を挙げてより具体的に説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。また、10%熱重量減少温度の測定方法は、次のとおりである。
【0079】
(10%熱重量減少温度の測定)
10%熱重量減少温度は、メトラー・トレド株式会社製の熱重量分析装置TGA SDTA851を用い、30℃で6時間以上真空乾燥したペレット状のサンプル20mgを白金パンに入れ、乾燥窒素10ml/分の雰囲気下で50℃から490℃まで10℃/分の昇温速度で昇温して、その間の重量減少率を測定した。測定開始時のサンプル重量から10重量%減少したときの温度を10%熱重量減少温度とした。
【0080】
[参考例]
PVDF樹脂〔株式会社クレハ製KF(登録商標)#850;懸濁重合品〕の10%熱重量減少温度を測定したところ、382℃であった。結果を表1に示す。
【0081】
[実施例1]
参考例のPVDF樹脂100重量部に対して、酸化チタン〔デュポン社製TI−PURE(登録商標)R101;ルチル型酸化チタン、平均粒子径0.29μm、アミン化合物による表面処理品〕10重量部と、タルク〔日本タルク株式会社製SG−95、平均粒子径2.5μm、見掛け密度0.11g/cm、比表面積15m/g、吸油量47ml/100g〕30重量部とを単軸押出機に供給し、シリンダー温度220℃で溶融混練し、ダイからストランド状に溶融押出し、冷水中でカットしてペレットを作製した。このペレットを用いて、10%熱重量減少温度を測定したところ、345℃であった。また、このペレットを1軸スクリュー押出成形機(株式会社プラ技研製)に供給し、リップクリアランス1mmのTダイから樹脂温度240℃で溶融押出し、90℃の冷却ロールで冷却して、厚み100μmの樹脂フィルムを作製した。ペレットの10%熱重量減少温度の測定結果を表1に示す。
【0082】
[比較例1]
前記タルクを使用しなかったことを除いて、実施例1と同じ操作を行った。ペレットの10%熱重量減少温度の測定結果を表1に示す。
【0083】
[実施例2]
酸化チタン10重量部を、カーボンブラック(三菱化学株式会社製、カーボンブラック#45)10重量部に変え、前記タルクの配合量を、30重量部から10重量部に変えたことを除いて、実施例1と同じ操作を行った。ペレットの10%熱重量減少温度の測定結果を表1に示す。
【0084】
[実施例3]
参考例のPVDF樹脂100重量部を、該PVDF樹脂80重量部とポリメチルメタクリレート(三菱レイヨン株式会社製、HBS001)20重量部との混合物に変えたことを除いて、実施例2と同じ操作を行った。ペレットの10%熱重量減少温度の測定結果を表1に示す。
【0085】
[比較例2]
前記のタルクを使用しなかったことを除いて、実施例2と同じ操作を行った。ペレットの10%熱重量減少温度の測定結果を表1に示す。
【0086】
[比較例3]
前記のタルクを使用しなかったことを除いて、実施例3と同じ操作を行った。ペレットの10%熱重量減少温度の測定結果を表1に示す。
【0087】
[実施例4]
前記の酸化チタン10重量部と前記のタルク30重量部とに代えて、前記のタルク1重量部を単軸押出機に供給したことを除いて、実施例1と同じ操作を行った。ペレットの10%熱重量減少温度の測定結果を表1に示す。
【0088】
[実施例5〜7]
前記のタルク1重量部を、それぞれ、前記のタルク3、5または40重量部に変えたことを除いて、実施例4と同じ操作を行った。ペレットの10%熱重量減少温度の測定結果を表1に示す。
【0089】
[実施例8〜10]
前記の平均粒子径2.5μmのタルク1重量部を、それぞれ、平均粒子径14μmのタルク〔日本タルク株式会社製MS、見掛け密度0.35g/cm、比表面積4.5m/g、吸油量26ml/100g〕を1、3または5重量部に変えたことを除いて、実施例4と同じ操作を行った。ペレットの10%熱重量減少温度の測定結果を表1に示す。
【0090】
[比較例4]
前記の平均粒子径2.5μmのタルク1重量部を、平均粒子径23μmのタルク〔日本タルク株式会社製MS−KY、見掛け密度0.55g/cm、比表面積2.5m/g、吸油量21ml/100g〕を5重量部に変えたことを除いて、実施例4と同じ操作を行った。ペレットの10%熱重量減少温度の測定結果を表1に示す。
【0091】
【表1】

【0092】
表1の結果から、PVDF樹脂100重量部に対し、酸化チタン10重量部を配合した樹脂組成物(比較例1)は、PVDF樹脂単独の場合(参考例1)に比べて、10%熱重量減少温度が52℃と顕著に低下しており、耐熱性に劣ることが分かった。これに対して、PVDF樹脂100重量部に対して、着色剤である酸化チタン10重量部とともに、熱安定剤であるタルク30重量部(着色剤:安定剤=1:3)を加えた実施例1の樹脂組成物は、10%熱重量減少温度が比較例1に比べて15℃上昇して、340℃を超える10%熱重量減少温度にまで耐熱性が改善された結果、実用上支障がない耐熱性があることが分かった。
【0093】
また、カーボンブラック10重量部を配合した樹脂組成物(比較例2)は、PVDF樹脂単独の場合(参考例1)に比べて、10%熱重量減少温度がやや低下し、太陽電池用バックシートに用いた場合、太陽光を吸収して温度が上昇することから、太陽電池の発電効率が低下し、また耐久性に劣ることが分かった。樹脂成分として、ポリメチルメタクリレート(PMMA)を含有させても(比較例3)、耐熱性の改善はみられなかった。これに対して、PVDF樹脂100重量部に対して、着色剤であるカーボンブラック10重量部と、熱安定剤であるタルク10重量部(着色剤:安定剤=1:1)を加えた実施例2の樹脂組成物においては、10%熱重量減少温度が、比較例2に比べて80℃と顕著に上昇し、耐熱性が大幅に改善しており、参考例のPVDF樹脂単独の場合と比較しても78℃の上昇で、極めて優れた耐熱性や耐久性があることが分かった。同様に、樹脂成分をPVDF樹脂80重量部とPMMA20重量部とした、実施例3と比較例3とを対比すると、熱安定剤であるタルク10重量部(着色剤:安定剤=1:1)を加えることにより、10%熱重量減少温度が、81℃と顕著に上昇し、耐熱性が大幅に改善したことが分かった。
【0094】
さらに、PVDF樹脂100重量部に対して、着色剤を加えずに、熱安定剤であるタルク1重量部(実施例4)、3重量部(実施例5)、5重量部(実施例6)、または40重量部(実施例7)を加えることにより、参考例1のPVDF樹脂単独の場合と比較して、10%熱重量減少温度が20℃以上上昇するという予期できない耐熱性改善の効果が奏されたことが分かった。特に、実施例7では、PVDF樹脂単独の10%熱重量減少温度より79℃上昇したことから顕著な熱安定効果が奏されたことが分かった。なお、平均粒子径23μm、見掛け密度0.55g/cmであるタルク5重量部を配合した比較例4の樹脂組成物においては、10%熱重量減少温度は391℃であったものの、ペレット中のタルク粒子が肉眼で観察され、透明性に劣ることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明のPVDF樹脂組成物は、熱安定剤としてタルクを含有することによって、10%熱重量減少温度をPVDF樹脂単独の場合より上昇させることができ、また、特に、PVDF樹脂に対して、着色剤を加えたことによる耐熱性の低下を大幅に改善して、PVDF樹脂単独とほぼ同等以上の耐熱性を実現することができるので、PVDF樹脂をより高度の耐熱性が求められる産業分野に利用することができる。
【0096】
また、本発明のPVDF樹脂組成物は、成形加工時の熱分解と熱変色を抑制することができ、しかも経時による熱分解と熱変色が顕著に抑制され、外観、隠蔽力(光散乱性)、耐熱性、及び耐久性に優れるという効果を奏するので、着色樹脂フィルムの原料として有用に利用することができる。さらに、本発明の着色樹脂フィルムは、耐久性や発電効率に優れた太陽電池モジュール用バックシートとして利用することができる。
【符号の説明】
【0097】
71:太陽電池モジュール
72:表面保護材
73:封止材
74:太陽電池セル
75:配線
76:裏面保護材(バックシート)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリフッ化ビニリデン樹脂100重量部に対して、熱安定剤としてタルク0.5〜70重量部を含有することを特徴とするポリフッ化ビニリデン樹脂組成物。
【請求項2】
該タルク0.8〜50重量部を含有する請求項1に記載のポリフッ化ビニリデン樹脂組成物。
【請求項3】
さらに着色剤を含有する請求項1に記載のポリフッ化ビニリデン樹脂組成物であって、
(a)該着色剤の含有割合が、ポリフッ化ビニリデン樹脂100重量部に対して、2〜60重量部であり、
(b)タルクの含有割合が、ポリフッ化ビニリデン樹脂100重量部に対して、2〜60重量部であり、かつ、
(c)該着色剤とタルクとの重量比が20:1〜1:20である
該ポリフッ化ビニリデン樹脂組成物。
【請求項4】
前記ポリフッ化ビニリデン樹脂が、フッ化ビニリデン単独重合体及びフッ化ビニリデン共重合体からなる群より選ばれる少なくとも一種である請求項1乃至3のいずれか1項に記載のポリフッ化ビニリデン樹脂組成物。
【請求項5】
該フッ化ビニリデン共重合体が、フッ化ビニリデン単位との共重合比率が15モル%以下である、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−クロロトリフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−トリフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン三元共重合体、及びフッ化ビニリデン−クロロトリフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン三元共重合体からなる群より選ばれる少なくとも一種のフッ化ビニリデン共重合体である請求項4記載のポリフッ化ビニリデン樹脂組成物。
【請求項6】
該タルクが、平均粒子径(D50)が0.5〜20μm、かつ、見掛け密度が0.05〜0.5g/cmである請求項1乃至5のいずれか1項に記載のポリフッ化ビニリデン樹脂組成物。
【請求項7】
他の熱可塑性樹脂を、ポリフッ化ビニリデン樹脂100重量部に対して、30重量部以下の割合でさらに含有する請求項1乃至6のいずれか1項に記載のポリフッ化ビニリデン樹脂組成物。
【請求項8】
他の熱可塑性樹脂が、ポリメチルメタクリレートである請求項7に記載のポリフッ化ビニリデン樹脂組成物。
【請求項9】
該着色剤が、酸化チタン及びカーボンブラックからなる群より選ばれる少なくとも一種である請求項3乃至8のいずれか1項に記載のポリフッ化ビニリデン樹脂組成物。
【請求項10】
顔料分散剤、紫外線吸収剤、光安定剤、つや消し剤、滑剤、色味調整剤、結晶核剤、及びエラストマーからなる群より選ばれる少なくとも一種である他の添加剤を、ポリフッ化ビニリデン樹脂100重量部に対して、各々独立して10重量部以下の割合でさらに含有する請求項3乃至9のいずれか1項に記載のポリフッ化ビニリデン樹脂組成物。
【請求項11】
請求項3に記載のポリフッ化ビニリデン樹脂組成物から形成された着色樹脂フィルム。
【請求項12】
請求項11に記載の着色樹脂フィルムからなる層を含む太陽電池モジュール用バックシート。

【図1】
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【公開番号】特開2012−149152(P2012−149152A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−8273(P2011−8273)
【出願日】平成23年1月18日(2011.1.18)
【出願人】(000001100)株式会社クレハ (477)
【Fターム(参考)】