説明

ポリフッ化ビニリデン系樹脂モノフィラメントおよびその製造方法

【課題】
本発明は、高引張強度、高結節強度かつ耐摩耗性に優れたPVdFモノフィラメントおよびその工業的製造に好適な製造方法を提供することを課題とするものである。
【解決手段】
本発明のPVdFモノフィラメントは、JIS L1013(1999)8.5.1の方法に従って測定される引張強度が5.0〜6.5cN/dtexであり、JIS L1013(1999)8.6.1の方法に従って測定される結節強度が3.6〜4.5cN/dtexで、かつ本文で定義する擦過試験法で測定した引張強力保持率が70%以上であることを特徴とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリフッ化ビニリデン系樹脂(以下「PVdF樹脂」と略記)モノフィラメントおよびその製造方法に関するものである。さらに詳しくは、高引張強度、高結節強度を有するとともに優れた耐擦過性を有し、特に釣り糸や漁網用として好適なPVdFモノフィラメントおよび、その効率的な製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
PVdF樹脂モノフィラメントは、強靱性、耐衝撃性、透明性及び耐光性などに優れ、しかも高比重で水中に沈み易い。さらに屈折率が水に近いので水中における光の表面反射が極めて少ないという特性を有するので、特に釣り糸や漁網用の素材として好適である。
【0003】
これらの用途においては、品質斑がなく、高強度であることが要求される。
【0004】
特にPVdF樹脂モノフィラメントを釣り糸として用いる場合は、上記特性以外に、結び目における強度、すなわち結節強度ならびに、海中の岩や鋭利な貝殻などと擦過に対する耐摩耗性に優れることが要求される。
【0005】
PVdF樹脂モノフィラメントは、PVdF樹脂自体の結晶性および弾性率の高さから、他の合成繊維であるポリアミド系樹脂モノフィラメントなどに比べれば表面に傷がつきにくく、また傷がついても切れにくいという利点があるものの、耐摩耗性の面では必ずしも満足できるものではなかった。
【0006】
PVdF樹脂モノフィラメントの耐摩耗性改善技術に関して、特許文献1では120℃〜175℃の範囲の温度で4倍未満の1次延伸(E1)を行い、次いで140℃〜175℃の範囲の温度で0.85〜1.0倍の範囲での中間弛緩熱処理(E2)を行った後、更に130℃〜175℃の範囲の温度で2次延伸(E3)を行うことによって、全延伸倍率(E1×E2×E3)が5.5倍以上のモノフィラメントを得る方法が開示されている。すなわち2段延伸における2次延伸を高温・高倍率で行うことにより繊維の配向結晶化を促進させる技術である。
【0007】
この方法では耐摩耗性は改善されるものの、インヘレント粘度が1.2dl/gと低いPVdF樹脂を使用しており、引張強度4.6cN/dtex未満、結節強度3.6cN/dtex未満の低強度なものしか得られない。すなわち耐摩耗性が改善されても、元々が低強度であるため、実用に適さない。
【0008】
PVdF樹脂モノフィラメントの引張強度、結節強度を高めるためには、原料として高分子量のPVdF樹脂を使用し、またモノフィラメント製造時の延伸倍率を大きくして高配向化することが有効である。しかしながら、高分子量のPVdF樹脂は溶融紡糸時に繊維長さ方向の直径斑やメルトフラクチャーと呼ばれる繊維表面での短周期の凹凸が発生しやすく、安定した溶融紡糸が困難である。
【0009】
ところで、PVdF樹脂の分子量、インヘレント粘度、溶融粘度には相関があり、高分子量であるほどインヘレント粘度、溶融粘度ともに高くなる。
【0010】
高インヘレント粘度PVdF樹脂の紡糸安定性を改善し、高インヘレント粘度PVdF樹脂を使用することによる高結節強度化に関する技術としては以下の方法が提案されている。
【0011】
例えば特許文献2には、芯のインヘレント粘度が1.1dl/g以上であり、鞘部の見掛け粘度が芯部の見掛け粘度より低い、芯鞘2層構造のPVdF樹脂モノフィラメントが開示されている。この発明により得られるモノフィラメントは結節強度は十分であるものの、鞘部にインヘレント粘度が1.1dl/g未満の低粘度ポリマを使用しており、耐摩耗性が不十分であった。
【0012】
また、特許文献3には、インヘレント粘度が相対的に高い芯部と、インヘレント粘度が相対的に低い鞘部からなり、芯部、鞘部それぞれを構成する樹脂のインヘレント粘度の加重平均で算出される混合インヘレント粘度が1.4dl/g以上であることを特徴とするPVdF樹脂モノフィラメントが開示されている。この混合インヘレント粘度1.4dl/g以上を達成するにあたり、鞘部にインヘレント粘度が1.2dl/g未満のようなPVdF樹脂を使用すると、耐摩耗性が不十分となる。一方、鞘部にインヘレント粘度が1.2dl/gより高いPVdF樹脂を使用すると、線径斑やメルトフラクチャーが発生しやすくなり、それを回避するためには、紡糸温度を290℃以上としなければ溶融紡糸が困難となる。このような高温紡糸ではPVdF樹脂が熱分解しやすく、製糸安定性が低下するという問題があった。
【0013】
一方、高粘度PVdF樹脂自体の流動性を改質する方法として、特許文献4には、インヘレント粘度が1.3dl/g以上の高粘度PVdF樹脂とインヘレント粘度が1.2dl/g以下の低粘度PVdF樹脂をブレンドする方法が提案されている。本発明者らが特許文献4で開示されている方法に従い確認試験を実施したところ、高結節強度化は達成できたが、耐摩耗性が不十分であった。この特許文献4に開示されている延伸方法においては、総延伸倍率6倍以上の高倍率で2段延伸しているが、2次延伸倍率は1.2倍程度と低倍率延伸であるため、配向結晶化が進行しにくく、結晶化度の低い繊維しか得られず耐摩耗性が不十分となったのである。
【特許文献1】特開2001−321045号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開昭59−144614号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】特開2005−105483号公報(特許請求の範囲)
【特許文献4】特公昭58−39922号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、高引張強度、高結節強度かつ耐摩耗性に優れたPVdFモノフィラメントおよびその工業的製造に好適な製造方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、かかる課題を解決するために、次のような手段を採用するものである。すなわち、本発明のPVdFモノフィラメントは、JIS L1013(1999)8.5.1の方法に従って測定される引張強度が5.0〜6.5cN/dtexであり、JIS L1013(1999)8.6.1の方法に従って測定される結節強度が3.6〜4.5cN/dtexで、かつ本文で定義する擦過試験法で測定した引張強力保持率が70%以上であることを特徴とするものである。
【0016】
本発明のPVdFモノフィラメント好ましい態様は、
(1)本文で定義する測定方法で測定したインヘレント粘度が1.3〜1.5dl/gであるフッ化ビニリデン系樹脂70〜99重量%とインヘレント粘度が0.7〜1.0dl/gであるフッ化ビニリデン系樹脂1〜30重量%を混合することで、インヘレント粘度を1.27〜1.3dl/gとしたフッ化ビニリデン系樹脂を少なくとも一部に含有すること、
(2)該モノフィラメントが芯鞘複合構造であって、インヘレント粘度が1.3〜1.5dl/gであるフッ化ビニリデン系樹脂組成物70〜99重量%とインヘレント粘度が0.7〜1.0dl/gであるフッ化ビニリデン系樹脂組成物1〜30重量%を混合することでインヘレント粘度を1.27〜1.3dl/gとしたフッ化ビニリデン系樹脂組成物を鞘成分に含有し、この鞘成分を構成する該樹脂のインヘレント粘度が、該芯成分を構成する該樹脂のインヘレント粘度よりも低いこと、
(3)該モノフィラメントの繊維軸垂直断面における芯部と鞘部の面積比率が95/5〜60/40であることである。
【0017】
また、本発明のフッ化ビニリデン系樹脂モノフィラメントの製造方法は、インヘレント粘度が1.3〜1.5dl/gであるフッ化ビニリデン系樹脂70〜99重量%とインヘレント粘度が0.7〜1.0dl/gであるフッ化ビニリデン系樹脂1〜30重量%を混合することによって、インヘレント粘度を1.27〜1.3dl/gに調整してなるフッ化ビニリデン系樹脂を少なくとも一部に含有するフッ化ビニリデン系樹脂を溶融紡糸、冷却し、引き続いて延伸工程を通してフッ化ビニリデン系樹脂モノフィラメントを製造する方法であって、前記延伸工程において、140℃〜175℃の範囲の温度で2.5〜4倍延伸を行う1次延伸(E1)を行った後、次いで140℃〜175℃の温度で0.85〜1.0倍の範囲での中間弛緩熱処理(E2)を行い、さらに140℃〜200℃の範囲の温度で2次延伸(E3)を行うことによって、全延伸倍率(E1×E2×E3)を5.5倍以上とすることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、引張強度、結節強度、耐摩耗性に優れたPVdFモノフィラメントが安定的に得られる。これら特徴を活かし、本発明のPVdFモノフィラメントは釣り糸や漁網などの水産資材用繊維として好ましく使用することができる。さらに水産資材用以外の用途として、たとえばゴムベルトの補強、スリング、ロープなどの運搬用資材、フェンスや、落石防止などの土木用資材にも有効に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明は、前記課題、つまり高引張強度、高結節強度かつ耐摩耗性に優れたPVdFモノフィラメントについて、鋭意検討し、特定な高粘度PVdF樹脂を用いて、特定な引張強度、結節強度および引張強力保持率を有するPVdFモノフィラメントを作ってみたところ、かかる課題を一挙に解決することを究明したものである。
【0020】
本発明のPVdFモノフィラメントは、JIS L1013(1999)8.5.1の方法に従って測定される引張強度が5.0〜6.5cN/dtexであり、JIS L1013(1999)8.6.1の方法に従って測定される結節強度が3.6〜4.5cN/dtexで、かつ下記擦過試験法で測定した引張強力保持率が70%以上であることが重要である。
【0021】
ここで、擦過試験法について以下に説明する。
【0022】
すなわち、一辺が10mm角の四角断面ステンレス棒(角のRが0.1〜0.3mm、各面の鏡面仕上げが#400)からなる擦過棒6本を、直径130mm、長さ240mmの回転枠の外周に、平行かつ等間隔で取付けた装置を用い、長さ400mmのモノフィラメントの一端に釣糸の単位断面積(mm )当り3kgの重りを取り付け、その他端をスライドシャフトに接続したサンプルを、上記6本の擦過棒の角部に接触するようにして、上記回転枠に懸下する。次に、モノフィラメントに水をシャワリングしつつ、上記スライドシャフトをトラバースすることにより、モノフィラメントに対し幅20mm、片道60秒の速度の往復移動を与えながら、上記回転枠を250rpmの回転速度で重り方向に回転させる。上記回転枠を60秒間回転させた後のモノフィラメントを採取して、その引張強力をJIS L1013の規定に従って測定し、初期の引張強力に対する強力保持率(%)を算出して求めたものである。なお、本発明で規定する擦過試験法は、実用時にモノフィラメントが岩や海底で受ける擦過を忠実に再現しており、実用時における耐摩耗性のモデル評価法として有効であることを確認している。
【0023】
本発明のPVdFモノフィラメントの引張強度が5.0cN/dtex未満では、直線部の強度が要求される釣り糸などの水産資材用繊維としての使用に適さない。また、引張強度が6.5cN/dtexより高い場合、繊維表層部も高配向化するため結節強度が低下する。
【0024】
また、該モノフィラメントの結節強度が3.6cN/dtex未満では、結節部での強度が要求される釣り糸などの水産資材用繊維としての使用に適さない。また、結節強度を4.5cN/dtexより高くすることは現時点での技術水準では困難である。
【0025】
また、該モノフィラメントの擦過試験後の強力保持率が70%未満では、耐摩耗性が低く、岩や海底で擦過を受ける釣り糸としての使用に適さない。
【0026】
本発明のPVdFモノフィラメントは、下記測定方法で測定されるインヘレント粘度が1.3〜1.5dl/gであるPVdF樹脂70〜99重量%と、インヘレント粘度が0.7〜1.0dl/gであるPVdF樹脂1〜30重量%を混合することで、インヘレント粘度を1.27〜1.3dl/gとしたPVdF樹脂を少なくとも一部に含有するモノフィラメントである。
【0027】
ここで、インヘレント粘度の測定方法について説明する。すなわち、試料を、N、N−ジメチルホルムアミドに0.4g/dlの濃度で溶解させて、その溶液の30℃に於ける粘度を、ウベローデ型粘度計を用いて測定し、この溶液粘度と同温度での溶媒粘度の比である相対粘度ηrの自然対数lnηrに濃度の逆数(1/0.4)g/dlをかけて、インヘレント粘度ηinhを求めたものである。端的にいえば、このインヘレント粘度は、樹脂4gを1リットルのN、N−ジメチルホルムアミドに溶解させた溶液の30℃における対数粘度である。
【0028】
このインヘレント粘度が1.25を超えるような高粘度PVdF樹脂は、適切な高配向化を施すことにより、高い結節強度を有するモノフィラメントを形成可能である。しかしながら高粘度PVdF樹脂を使用すると、溶融紡糸時に繊維長さ方向の直径斑やメルトフラクチャーと呼ばれる繊維表面への短周期の凹凸が発生しやすく、安定した溶融紡糸が困難となる。
【0029】
本発明者らは、かかるインヘレント粘度が1.3〜1.5dl/gの高粘度PVdF樹脂に、インヘレント粘度が0.7〜1.0dl/gの低粘度PVdF樹脂をブレンドし、加重平均で算出される混合インヘレント粘度を1.27〜1.3dl/gとすることで、同一のインヘレント粘度を示す単独のPVdF樹脂よりも溶融粘度が低下し、紡糸温度を280℃以下としても繊維長さ方向の直径斑やメルトフラクチャーの発生を抑制できることを見出したものである。
【0030】
混合インヘレント粘度が、1.27未満では耐摩耗性が低下し、逆に1.3を超える場合は樹脂組成物の流動性が低く、280℃より高い温度で紡糸する必要が生じ、結果として紡糸パック内で熱分解が発生しやすくなり、製糸安定性が低下する。
【0031】
また、本発明のPVdFモノフィラメントの好ましい繊維構造として、インヘレント粘度が相対的に高いPVdF樹脂を含有する芯部と、インヘレント粘度が相対的に低いPVdF樹脂を含有する鞘部からなる芯鞘複合構造が挙げられ、鞘部にはインヘレント粘度が1.3〜1.5dl/gであるPVdF樹脂70〜99重量%と、インヘレント粘度が0.7〜1.0dl/gであるPVdF樹脂1〜30重量%を混合し、混合インヘレント粘度を1.27〜1.3dl/gとしたPVdF樹脂を使用することが特に好ましい。
【0032】
このように、芯部よりも相対的にηinhが低いPVdF樹脂を鞘部に用いることで、単独では溶融紡糸が困難なインヘレント粘度が1.3dl/gを超えるような高粘度PVdF樹脂を安定的に溶融紡糸することが可能となる。さらに低粘度と高粘度を混合したPVdF樹脂を単独で溶融紡糸する場合よりもフィラメント全体のインヘレント粘度を高くすることができ、更なる高強度化が可能となる。
【0033】
本発明のPVdFモノフィラメントを芯鞘複合構造として実施する際、モノフィラメントの繊維軸垂直断面における芯部と鞘部の面積比率は60/40〜95/5であることが好ましい。
【0034】
すなわち、芯部の面積比率が60%未満では、高粘度PVdF樹脂を芯部に用いることによるモノフィラメント全体の高粘度化効果、すなわち高結節強度化が不十分となるものである。一方、芯部の面積比率が95%を超える場合、鞘部が薄くなり、均一な芯鞘複合構造を安定的に溶融紡糸することが困難となる。
【0035】
次ぎに、本発明のPVdFモノフィラメントの製造方法について説明する。
【0036】
すなわち、インヘレント粘度が1.3〜1.5dl/gであるフッ化ビニリデン系樹脂70〜99重量%とインヘレント粘度が0.7〜1.0dl/gであるフッ化ビニリデン系樹脂1〜30重量%を混合することによって、インヘレント粘度を1.27〜1.3dl/gに調整してなるフッ化ビニリデン系樹脂を少なくとも一部に含有するフッ化ビニリデン系樹脂を溶融紡糸、冷却し、引き続いて延伸工程を通してフッ化ビニリデン系樹脂モノフィラメントを製造する方法であって、前記延伸工程において、140℃〜175℃の範囲の温度で2.5〜4倍延伸を行う1次延伸(E1)を行った後、次いで140℃〜175℃の温度で0.85〜1.0倍の範囲での中間弛緩熱処理(E2)を行い、さらに140℃〜200℃の範囲の温度で2次延伸(E3)を行うことによって、全延伸倍率(E1×E2×E3)を5.5倍以上とすることが重要である。
【0037】
インヘレント粘度が0.7〜1.0dl/gのPVdF樹脂含有率が1重量%未満では溶融粘度低下効果が不十分であり、紡糸温度280℃以下での溶融紡糸が困難である。一方、混合インヘレント粘度が1.27〜1.3の範囲であっても、インヘレント粘度が0.7〜1.0dl/gのPVdF樹脂含有率が30重量%を超えると、モノフィラメント表面に損傷を受けやすくなり、耐摩耗性が不十分となる傾向が出てくる。
【0038】
本発明の方法に用いるPVdF樹脂は、PVdFホモポリマに限定されず、分子鎖の繰り返し構造単位の90モル%以上がフッ化ビニリデン単位からなる共重合ポリマであってもよい。かかる共重合成分としては、例えばテトラフロロエチレン、トリフロロモノクロロエチレンおよびヘキサフロロプロピレンなどが挙げられる。なお、フッ化ビニリデン単位が90モル%未満の場合は、結晶性が低下し耐摩耗性が低下する傾向が出てくる。
【0039】
また、本発明で用いるPVdF樹脂には、その性質を損なわない範囲で各種有機顔料、ポリエステル系可塑剤、フタル酸エステル系可塑剤、フラバントロンで代表される核剤、或いは、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、ポリエステル、アクリル酸メチル−イソブチレン共重合体等のフッ化ビニリデン樹脂との相溶性が良好な樹脂が含まれていてもよく、さらに無機顔料、染料、耐光剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、結晶化抑制剤および可塑剤などの添加剤を、本発明の効果を阻害しない範囲で含有した樹脂組成物としてもよい。
【0040】
本発明のPVdFモノフィラメントを単成分構造とする場合は、PVdF樹脂組成物の混合物をエクストルーダー型押出機を有する紡糸装置に供給し、紡糸することにより得られる。一方、本発明のPVdFモノフィラメントを芯鞘複合構造とする場合は、エクストルーダー型押出機を有する複合紡糸装置で芯鞘複合構造口金を用いて紡糸することにより得られる。
【0041】
かかる樹脂組成物の混合物は、インヘレント粘度が異なる粉末状のPVdF樹脂組成物を所定の重量比率で混合したのち、2軸混練押出機やドウミキサーなど供給し、加熱下で混練したものを樹脂ペレット化する方法、インヘレント粘度が異なるペレット状のPVdF樹脂組成物をドライブレンドする方法などにより得られる。混合性、分散性の観点から粉末状のPVdF樹脂組成物を混合し、ペレット化する方法が好ましい。一方、インヘレント粘度が異なるペレット状のPVdF樹脂組成物をドライブレンドして紡糸機に供給する場合は、紡糸機のポリマ配管に静置型混練器を設置することにより混練性を向上させることができる。
【0042】
かかる溶融紡糸時の温度は、好ましくは220〜285℃、より好ましくは240〜280℃である。220℃未満の温度では、PVdF樹脂の安定的な紡出が困難で線径斑となり易く、285℃を越える温度では、紡出時に樹脂の分解が起こり易い。
【0043】
また、押出圧力は1〜50MPa、口金孔径は0.1〜5mm、紡糸速度は0.3〜100m/分などの範囲を適宜選択することができる。
【0044】
この紡出モノフィラメントは、紡糸口金の直下に設けられた温度300℃のような高温に加熱された窒素ガス、または、加熱水蒸気等の不活性ガスで充満された雰囲気長150mm程度の高温気体中を通過させ、その後直ちに温度30℃以下のような液体中を通過させて急冷固化させ、未延伸モノフィラメントとする。その低温液体としては、水、グリセリンおよびポリエチレングリコールなどのPVdF樹脂と不活性な液体を用いればよい。
冷却された未延伸モノフィラメントは、温水または水からなる洗浄浴を通過させてモノフィラメントの表面に付着した冷却媒体を除去させた後、20℃以下のような低温の窒素または空気等の不活性気体でモノフィラメントの表面の水滴を除去させ、連続的に延伸ゾーンに送られる。
【0045】
上記延伸工程では、先ず140℃〜175℃、好ましくは150〜170℃の範囲の温度で2.5〜4倍、好ましくは2.8〜3.5倍の1次延伸(E1)を行い、更に140℃〜175℃の温度で0.85〜1.0倍、好ましくは0.9〜0.98倍の範囲での中間弛緩熱処理(E2)を行い、さらに140℃〜200℃の範囲の温度で2次延伸(E3)を行うことによって、全延伸倍率(E1×E2×E3)を5.5倍以上、好ましくは6.0倍以上とするものである。
【0046】
かかる延伸温度が上記範囲より低い場合は、延伸斑が発生しやすく高強度なモノフィラメントが得られない。一方、延伸温度が上記範囲より高い場合、フィラメントの軟化による延伸張力低下や溶断が発生しやすくなり、製糸安定性が低下する。
【0047】
かかる延伸工程の1次延伸を4倍以上の延伸倍率で行うと、引き続き行われる2次延伸時に起こるモノフィラメントの配向結晶化が不十分となり、耐摩耗性が低下し、擦過試験後の引張強力保持率70%を達成できなくなる。一方、1次延伸が2.5倍未満ではネッキングポイントが固定できず、強度バラツキが大きくなる。また、2次延伸時に延伸糸切れが発生しやすくなる。
【0048】
さらに、引き続いて2次延伸に移るが、その2次延伸前に中間弛緩熱処理を施すことが重要である。この中間弛緩熱処理を行わない場合には、引き続き行う2次延伸時に延伸糸切れが発生しやすくなり、生産性が著しく低下する。
【0049】
次に、2次延伸は、全延伸倍率が5.5倍以上となるように延伸することが必要であり、それを下回ると、得られるモノフィラメントの引張強度、結節強度がいずれも不十分な値となる。
【0050】
このようにして延伸した後、必要に応じて延伸歪みを除去することなどを目的として、適度な定長、弛緩熱処理を行い、紙管やボビン等に巻き取る方法やカセ取りワインダーでカセ状に巻き取る方法でモノフィラメントを得ることができる。
【0051】
ところで延伸時の雰囲気(浴)としては、例えば、ポリエチレングリコール、グリセリン、シリコーンオイル等の液体熱媒浴、乾熱気体浴、および過熱あるいは加圧水蒸気浴等が用いられる。
【0052】
なお、1次延伸ではネッキングポイントを固定するため、高温かつ熱伝達率が大きい熱媒、すなわち液体熱媒浴や過熱あるいは加圧水蒸気浴等を用いることが好ましい。
【0053】
また、2次延伸では配向結晶化を促進させるため、モノフィラメントの加熱時間を1次延伸時よりも長くすることが好ましい。加熱時間を長くするにあたり、熱伝達率が大きい熱媒を使用するとモノフィラメントの延伸張力低下や溶断が発生しやすくなり、製糸安定性が低下する恐れがある。ゆえに2次延伸では熱伝達率が小さい乾熱気体を熱媒として用いることが好ましい。
【0054】
このようにして得られた本発明のPVdFモノフィラメントは、引張強度5.0cN/dtex以上、結節強度3.6cN/dtex以上で、かつ擦過試験後の引張強力保持率が70%以上であるものとなることから、各種水産資材用途や産業資材用途に極めて有用であり、またこのモノフィラメントからなる釣糸は、極めて優れた耐摩耗性を発揮する。
【実施例】
【0055】
以下に、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。なお、以下の例において得られた繊維の評価は以下の方法に従って行った。
【0056】
(1)インヘレント粘度(ηinh):試料を、N、N−ジメチルホルムアミドに0.4g/dlの濃度で溶解させて、その溶液の30℃に於ける粘度を、ウベローデ型粘度計を用いて測定した。この溶液粘度と同温度での溶媒粘度の比である相対粘度ηrの自然対数lnηrに濃度の逆数(1/0.4)g/dlをかけて、インヘレント粘度ηinhを求めた。
【0057】
(2)繊度:JIS L1013(1999)8.3.1 B法に従って2.0Nの初期荷重をかけた状態で長さ90cmに試料20本を切断し、絶乾質量を測定し、次式(I)によって算出した。2回測定した平均値を繊度とした。
F0=1000×m/L ・・・(I)
ただし、F0:正量繊度(tex)、L:試料の長さ(m)、m:絶乾質量(g)
【0058】
(3)引張強度:JIS L1013(1999)8.5.1の方法に従って定速伸張形で引張試験を実施した。試長:25cm、引張速度:30cm/分、初期荷重:2.0Nの条件でオリエンテック製引張試験機(UTM−4−100型)により切断時の強力(N)を30回測定し、その平均を上記(2)で求めた繊度で除して強度とした。
【0059】
(4)結節強度:JIS L1013(1999)8.6.1の方法に従って定速伸張形で引張試験を実施した。試長:25cm、引張速度:30cm/分、初期荷重:2.0Nの条件でオリエンテック製引張試験機(UTM−4−100型)によりチャックの中央に結び目を作った状態で切断時の強力(N)を30回測定し、その平均を上記(2)で求めた繊度で除して強度とした。
【0060】
(5)耐擦過性:一辺が10mm角の四角断面ステンレス棒からなる擦過棒8本を、直径130mm、長さ240mmの回転枠の外周に、平行かつ等間隔で取付けた装置を用いた。一方、長さ400mmのモノフィラメントの一端に、モノフィラメントの単位断面積(mm)当り3kgの重りを取付け、その他端をスライドシャフトに接続し、これを上記6本の擦過棒の角部に接触するようにして、上記回転枠に懸架した。
【0061】
次に、モノフィラメントに水を散布しながら、上記スライドシャフトをトラバースすることにより、モノフィラメントに対し幅20mm、片道60秒の速度の往復移動を与えながら、上記回転枠を250rpmの回転速度で時計方向に回転させた。
【0062】
上記回転枠を60秒間回転させた後のモノフィラメントを採取し、その引張強力を上記引張強度測定法と同じくJIS L1013(1999)8.5.1の方法に従った定速伸張形での引張試験により引張強力(N)を測定した。
【0063】
擦過処理後の引張強力を10回測定し、その平均を擦過前の引張強力で除することで、初期の引張強力に対する強力保持率(%)を算出し、これを耐擦過性の判断基準とした。強力保持率の数値が大きいほど、耐擦過性が良好であることを意味する。
【0064】
(6)線径斑:ボビンに巻き取ったモノフィラメントを速度30m/分で解舒撚りが入らないように引き出し、アンリツ製レーザー外径測定器(KL−151A型)によりモノフィラメント300mの線径を測定した。測定データはキーエンス製データ収集器(NR−1000型)にサンプリング周期0.1秒で取り込み、取り込んだデータから平均線径Dmean、最大線径Dmax、最小線径Dminを算出し、下記式(I)により線径斑Rを算出した。
=(Dmax−Dmin)/Dmean×100 ・・・(I)
【0065】
<原料樹脂>
インヘレント粘度の異なるPVdFホモポリマを原料樹脂として用いた。
樹脂A:ηinh=0.85dl/g(商品名「Solef1008」、SOLVAY製)
樹脂B:ηinh=0.96dl/g(商品名「Solef1010」、SOLVAY製)
樹脂C:ηinh=1.22dl/g(商品名「VP835」、ダイキン製)
樹脂D:ηinh=1.3dl/g(商品名「KF#1300」、呉羽化学工業製)
樹脂E:ηinh=1.32dl/g(商品名「VP840」、ダイキン製)
樹脂F:ηinh=1.5dl/g(商品名「KF#1500」、呉羽化学工業製)
樹脂G:ηinh=1.7dl/g(商品名「KF#1700」、呉羽化学工業製)
【0066】
原料樹脂は何れも粉末状であり、押出温度240℃、スクリュー回転数を100rpmで回転させた2軸スクリュー押出機(池貝工業社製PCM−30)に原料樹脂粉末を供給し、ダイから吐出後のガットをすぐに氷水中に急冷し、構造を固定した後にガットを切断してペレット化した。また、インヘレント粘度の異なる樹脂を混合した樹脂を得る場合は、粉末樹脂を所定の重量比率で混合し、同様の方法でペレット化した。
【0067】
[実施例1]
樹脂Eを芯成分用エクストルーダー型押出機に、一方、樹脂Eと樹脂Aを92:8の割合で混合したインヘレント粘度が1.28dl/gのPVdF樹脂を鞘成分用エクストルーダー型押出機に、それぞれ供給し、275℃の紡糸温度で溶融し、芯鞘比率が芯:80/鞘:20となるように計量ポンプで計量し、直径3mmの口金を通して芯鞘複合型ポリフッ化ビニリデンモノフィラメントを紡出した。紡出したモノフィラメントを口金直下に設けた温度300℃に加熱された雰囲気長150mmの空間を通過させた後、直ちに温度20℃のポリエチレングリコール液中で急冷固化させた。
【0068】
冷却した未延伸モノフィラメントを2.5m/分で引き取った。なお、引取装置ならびに延伸装置は多筒式の冷ロール群からなり、延伸は送出し側と引取側のロール群の速度差により行なった。
【0069】
引き取られた未延伸モノフィラメントを連続して165℃のポリエチレングリコール液中で3.5倍に1次延伸(E1)し、60℃の温水でポリエチレングリコールを洗浄後、圧空でモノフィラメント表面の水滴を除去し、引き続き155℃のポリエチレングリコール液中で0.95倍の中間熱処理(E2)を行い、60℃の温水でポリエチレングリコールを洗浄後、圧空でモノフィラメント表面の水滴を除去した。連続して180℃の乾熱浴中で2次延伸(E3)を行い、全延伸倍率(E1×E2×E3)が6.2倍となるように延伸し、更に155℃の乾熱浴中で0.90倍の乾熱処理を施し、仕上げ油剤を付与して巻き取り、PVdFモノフィラメントを得た。
【0070】
[実施例2]
芯成分に用いる樹脂を樹脂Fに変更した以外は実施例1と同様の方法でPVdFモノフィラメントを得た。
【0071】
[実施例3]
芯鞘比率を芯:90/鞘:10となるように計量ポンプで計量し、紡出した以外は実施例1と同様の方法でPVdFモノフィラメントを得た。
【0072】
[実施例4]
芯鞘比率を芯:70/鞘:30となるように計量ポンプで計量し、紡出した以外は実施例1と同様の方法でPVdFモノフィラメントを得た。
【0073】
[実施例5]
樹脂Eと樹脂Aを92:8の割合で混合したインヘレント粘度が1.28dl/gのPVdF樹脂をエクストルーダー型押出機に供給し、275℃の紡糸温度で溶融し、直径3mmの口金を通して紡出した。紡出したモノフィラメントを口金直下に設けた温度300℃に加熱された雰囲気長150mmの空間を通過させた後、直ちに温度20℃のポリエチレングリコール液中で急冷固化させた。
【0074】
冷却した未延伸モノフィラメントを2.5m/分で引き取った。なお、引取装置ならびに延伸装置は多筒式の冷ロール群からなり、延伸は送出し側と引取側のロール群の速度差により行なった。
【0075】
引き取られた未延伸モノフィラメントを連続して165℃のポリエチレングリコール液中で3.5倍に1次延伸(E1)し、60℃の温水でポリエチレングリコールを洗浄後、圧空でモノフィラメント表面の水滴を除去し、引き続き155℃のポリエチレングリコール液中で0.95倍の中間熱処理(E2)を行い、60℃の温水でポリエチレングリコールを洗浄後、圧空でモノフィラメント表面の水滴を除去した。連続して180℃の乾熱浴中で2次延伸(E3)を行い、全延伸倍率(E1×E2×E3)が6.4倍となるように延伸し、更に155℃の乾熱浴中で0.90倍の乾熱処理を施し、仕上げ油剤を付与して巻き取り、PVdFモノフィラメントを得た。
【0076】
[実施例6]
実施例1と同様の方法で紡出・冷却し、2.5m/分で芯鞘複合型ポリフッ化ビニリデンモノフィラメントを引き取った。引き取られた未延伸モノフィラメントを連続して165℃のポリエチレングリコール液中で3.8倍に1次延伸(E1)し、60℃の温水でポリエチレングリコールを洗浄後、圧空でモノフィラメント表面の水滴を除去し、引き続き155℃のポリエチレングリコール液中で0.95倍の中間熱処理(E2)を行い、60℃の温水でポリエチレングリコールを洗浄後、圧空でモノフィラメント表面の水滴を除去した。連続して180℃の乾熱浴中で2次延伸(E3)を行い、全延伸倍率(E1×E2×E3)が6.0倍となるように延伸し、更に155℃の乾熱浴中で0.90倍の乾熱処理を施し、仕上げ油剤を付与して巻き取り、PVdFモノフィラメントを得た。
【0077】
[実施例7]
実施例1と同様の方法で紡出・冷却し、2.5m/分で芯鞘複合型PVdF樹脂モノフィラメントを引き取った。引き取られた未延伸モノフィラメントを連続して165℃のポリエチレングリコール液中で3.5倍に1次延伸(E1)し、60℃の温水でポリエチレングリコールを洗浄後、圧空でモノフィラメント表面の水滴を除去し、引き続き155℃のポリエチレングリコール液中で0.95倍の中間熱処理(E2)を行い、60℃の温水でポリエチレングリコールを洗浄後、圧空でモノフィラメント表面の水滴を除去した。連続して180℃の乾熱浴中で2次延伸(E3)を行い、全延伸倍率(E1×E2×E3)が5.8倍となるように延伸し、更に155℃の乾熱浴中で0.90倍の乾熱処理を施し、仕上げ油剤を付与して巻き取り、PVdFモノフィラメントを得た。
【0078】
[実施例8]
実施例1と同様の方法で紡出・冷却し、2.5m/分で芯鞘複合型PVdF樹脂モノフィラメントを引き取った。引き取られた未延伸モノフィラメントを連続して165℃のポリエチレングリコール液中で3.5倍に1次延伸(E1)し、60℃の温水でポリエチレングリコールを洗浄後、圧空でモノフィラメント表面の水滴を除去し、引き続き155℃のポリエチレングリコール液中で0.88倍の中間熱処理(E2)を行い、60℃の温水でポリエチレングリコールを洗浄後、圧空でモノフィラメント表面の水滴を除去した。連続して180℃の乾熱浴中で2次延伸(E3)を行い、全延伸倍率(E1×E2×E3)が6.4倍となるように延伸し、更に155℃の乾熱浴中で0.90倍の乾熱処理を施し、仕上げ油剤を付与して巻き取り、PVdFモノフィラメントを得た。
【0079】
[実施例9]
実施例1と同様の方法で紡出・冷却し、2.5m/分で芯鞘複合型PVdF樹脂モノフィラメントを引き取った。引き取られた未延伸モノフィラメントを連続して165℃のポリエチレングリコール液中で3.5倍に1次延伸(E1)し、60℃の温水でポリエチレングリコールを洗浄後、圧空でモノフィラメント表面の水滴を除去し、引き続き155℃のポリエチレングリコール液中で1.0倍の中間熱処理(E2)を行い、60℃の温水でポリエチレングリコールを洗浄後、圧空でモノフィラメント表面の水滴を除去した。連続して180℃の乾熱浴中で2次延伸(E3)を行い、全延伸倍率(E1×E2×E3)が6.4倍となるように延伸し、更に155℃の乾熱浴中で0.90倍の乾熱処理を施し、仕上げ油剤を付与して巻き取り、PVdFモノフィラメントを得た。
【0080】
[比較例1]
樹脂Eを芯成分用エクストルーダー型押出機に、樹脂Dを鞘成分用エクストルーダー型押出機に供給した以外は実施例1と同様の方法でPVdF樹脂モノフィラメントを得た。
【0081】
[比較例2]
樹脂Eを芯成分用エクストルーダー型押出機に、一方、樹脂Gと樹脂Bを45:55の割合で混合したインヘレント粘度が1.29dl/gのPVdF樹脂を鞘成分用エクストルーダー型押出機に供給した以外は実施例1と同様の方法でPVdFモノフィラメントを得た。
【0082】
[比較例3]
樹脂Fを芯成分用エクストルーダー型押出機に、一方、樹脂Fと樹脂Aを80:20の割合で混合したインヘレント粘度が1.37dl/gのPVdF樹脂を鞘成分用エクストルーダー型押出機に供給した以外は実施例1と同様の方法でPVdFモノフィラメントを得た。
【0083】
[比較例4]
樹脂Eを芯成分用エクストルーダー型押出機に、一方、樹脂Cを鞘成分用エクストルーダー型押出機に供給した以外は実施例1と同様の方法でPVdF樹脂モノフィラメントを得た。
【0084】
[比較例5]
芯鞘比率を芯:50/鞘:50とした以外は実施例1と同様の方法でPVdF樹脂モノフィラメントを得た。
【0085】
[比較例6]
樹脂Eと樹脂Aを92:8の割合で混合したインヘレント粘度が1.28dl/gのPVdF樹脂をエクストルーダー型押出機に供給し、275℃の紡糸温度で溶融し、直径3mmの口金を通して紡出した。紡出したモノフィラメントを口金直下に設けた温度300℃に加熱された雰囲気長150mmの空間を通過させた後、直ちに温度20℃のポリエチレングリコール液中で急冷固化させ、2.5m/分で未延伸モノフィラメントを引き取った。引き取られた未延伸モノフィラメントを連続して165℃のポリエチレングリコール液中で5.4倍に1次延伸(E1)し、60℃の温水でポリエチレングリコールを洗浄後、圧空でモノフィラメント表面の水滴を除去し、引き続き166℃のポリエチレングリコール液中で2次延伸(E2)を行い、全延伸倍率(E1×E2)が6.4倍となるように延伸し、60℃の温水でポリエチレングリコールを洗浄後、圧空でモノフィラメント表面の水滴を除去した。連続して155℃の乾熱浴中で0.90倍の乾熱処理を施し、仕上げ油剤を付与して巻き取り、PVdFモノフィラメントを得た。
【0086】
[実施例7]
実施例1と同様の方法で紡出・冷却し、2.5m/分で芯鞘複合型ポリフッ化ビニリデンモノフィラメントを引き取った。引き取られた未延伸モノフィラメントを連続して170℃のポリエチレングリコール液中で4.2倍に1次延伸(E1)し、60℃の温水でポリエチレングリコールを洗浄後、圧空でモノフィラメント表面の水滴を除去し、引き続き155℃のポリエチレングリコール液中で0.95倍の中間熱処理(E2)を行い、60℃の温水でポリエチレングリコールを洗浄後、圧空でモノフィラメント表面の水滴を除去した。連続して180℃の乾熱浴中で2次延伸(E3)を行い、全延伸倍率(E1×E2×E3)が6.2倍となるように延伸し、更に155℃の乾熱浴中で0.90倍の乾熱処理を施し、仕上げ油剤を付与して巻き取り、PVdFモノフィラメントを得た。
【0087】
[実施例8]
実施例1と同様の方法で紡出・冷却し、2.5m/分で芯鞘複合型PVdF樹脂モノフィラメントを引き取った。引き取られた未延伸モノフィラメントを連続して160℃のポリエチレングリコール液中で3.2倍に1次延伸(E1)し、60℃の温水でポリエチレングリコールを洗浄後、圧空でモノフィラメント表面の水滴を除去し、引き続き155℃のポリエチレングリコール液中で0.95倍の中間熱処理(E2)を行い、60℃の温水でポリエチレングリコールを洗浄後、圧空でモノフィラメント表面の水滴を除去した。連続して180℃の乾熱浴中で2次延伸(E3)を行い、全延伸倍率(E1×E2×E3)が5.3倍となるように延伸し、更に155℃の乾熱浴中で0.90倍の乾熱処理を施し、仕上げ油剤を付与して巻き取り、PVdFモノフィラメントを得た。
【0088】
[実施例9]
実施例1と同様の方法で紡出・冷却し、2.5m/分で芯鞘複合型PVdF樹脂モノフィラメントを引き取った。引き取られた未延伸モノフィラメントを連続して165℃のポリエチレングリコール液中で4.2倍に1次延伸(E1)し、60℃の温水でポリエチレングリコールを洗浄後、圧空でモノフィラメント表面の水滴を除去し、引き続き155℃のポリエチレングリコール液中で0.95倍の中間熱処理(E2)を行い、60℃の温水でポリエチレングリコールを洗浄後、圧空でモノフィラメント表面の水滴を除去した。連続して120℃の乾熱浴中で2次延伸(E3)を行い、全延伸倍率(E1×E2×E3)が6.4倍となるように延伸し、更に155℃の乾熱浴中で0.90倍の乾熱処理を施し、仕上げ油剤を付与して巻き取り、PVdFモノフィラメントを得た。
【0089】
[実施例10]
実施例1と同様の方法で紡出・冷却し、2.5m/分で芯鞘複合型PVdF樹脂モノフィラメントを引き取った。
【0090】
引き取られた未延伸モノフィラメントを連続して165℃のポリエチレングリコール液中で5.4倍に1次延伸(E1)し、60℃の温水でポリエチレングリコールを洗浄後、圧空でモノフィラメント表面の水滴を除去し、引き続き166℃のポリエチレングリコール液中で2次延伸(E2)を行い、全延伸倍率(E1×E2)が6.2倍となるように延伸し、60℃の温水でポリエチレングリコールを洗浄後、圧空でモノフィラメント表面の水滴を除去した。連続して155℃の乾熱浴中で0.90倍の乾熱処理を施し、仕上げ油剤を付与して巻き取り、PVdFモノフィラメントを得た。
【0091】
上記実施例1〜9および比較例1〜10で得られたPVdF樹脂モノフィラメントの特性を評価した結果を表1に示す。
【0092】
【表1】

【0093】
表1の結果から明らかなように、本発明のPVdFモノフィラメント(実施例1〜9)は、いずれも耐摩耗性が極めて優れており、さらに引張強度5cN/dtex以上、結節強度3.6cN/dtex以上と高強度である。
【0094】
一方、比較例で挙げたPVdFモノフィラメントは何れも耐摩耗性が劣るものであった。理由は以下のとおりである。
【0095】
比較例1、比較例3は鞘成分の流動性が劣るため線径斑が大きく、それに起因して細線径部での擦過時の損傷が激しくなり、耐摩耗性が劣るものであった。
【0096】
比較例2は鞘成分での低粘度樹脂比率が高く、耐摩耗性が劣るものであった。
【0097】
比較例4は鞘成分が低粘度樹脂のみからなるため、耐摩耗性が劣るものであった。
【0098】
比較例5は鞘成分比率が高く、擦過時の損傷がモノフィラメント内部まで進行するため、耐摩耗性が劣るものであった。
【0099】
比較例6、比較例10は1次延伸倍率が高く、かつ中間熱処理がないため耐摩耗性が劣るものであった。
【0100】
比較例7は1次延伸倍率が高いため耐摩耗性が劣るものであった。
【0101】
比較例8は全延伸倍率が低く、耐摩耗性が劣るものであった。
【0102】
比較例9は2次延伸温度が低く、耐摩耗性が劣るものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
JIS L1013(1999)8.5.1の方法に従って測定される引張強度が5.0〜6.5cN/dtexであり、JIS L1013(1999)8.6.1の方法に従って測定される結節強度が3.6〜4.5cN/dtexで、かつ本文で定義する擦過試験法で測定した引張強力保持率が70%以上であることを特徴とするフッ化ビニリデン系樹脂モノフィラメント。
【請求項2】
請求項1において、本文で定義する測定方法で測定したインヘレント粘度が1.3〜1.5dl/gであるフッ化ビニリデン系樹脂70〜99重量%とインヘレント粘度が0.7〜1.0dl/gであるフッ化ビニリデン系樹脂1〜30重量%を混合することで、インヘレント粘度を1.27〜1.3dl/gとしたフッ化ビニリデン系樹脂を少なくとも一部に含有することを特徴とするフッ化ビニリデン系樹脂モノフィラメント。
【請求項3】
該モノフィラメントが芯鞘複合構造であって、インヘレント粘度が1.3〜1.5dl/gであるフッ化ビニリデン系樹脂組成物70〜99重量%とインヘレント粘度が0.7〜1.0dl/gであるフッ化ビニリデン系樹脂組成物1〜30重量%を混合することでインヘレント粘度を1.27〜1.3dl/gとしたフッ化ビニリデン系樹脂組成物を鞘成分に含有し、この鞘成分を構成する該樹脂のインヘレント粘度が、該芯成分を構成する該樹脂のインヘレント粘度よりも低いことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のフッ化ビニリデン系樹脂モノフィラメント。
【請求項4】
該モノフィラメントの繊維軸垂直断面における芯部と鞘部の面積比率が95/5〜60/40であることを特徴とする請求項3に記載のフッ化ビニリデン系樹脂モノフィラメント。
【請求項5】
インヘレント粘度が1.3〜1.5dl/gであるフッ化ビニリデン系樹脂70〜99重量%とインヘレント粘度が0.7〜1.0dl/gであるフッ化ビニリデン系樹脂1〜30重量%を混合することによって、インヘレント粘度を1.27〜1.3dl/gに調整してなるフッ化ビニリデン系樹脂を少なくとも一部に含有するフッ化ビニリデン系樹脂を溶融紡糸、冷却し、引き続いて延伸工程を通してフッ化ビニリデン系樹脂モノフィラメントを製造する方法であって、前記延伸工程において、140℃〜175℃の範囲の温度で2.5〜4倍延伸を行う1次延伸(E1)を行った後、次いで140℃〜175℃の温度で0.85〜1.0倍の範囲での中間弛緩熱処理(E2)を行い、さらに140℃〜200℃の範囲の温度で2次延伸(E3)を行うことによって、全延伸倍率(E1×E2×E3)を5.5倍以上とすることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のフッ化ビニリデン系樹脂モノフィラメントの製造方法。

【公開番号】特開2009−62635(P2009−62635A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−229806(P2007−229806)
【出願日】平成19年9月5日(2007.9.5)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【出願人】(000219288)東レ・モノフィラメント株式会社 (239)
【Fターム(参考)】