説明

ポリプロピレン系ブロック共重合体、その用途、及びそれからなるポリプロピレン系樹脂組成物

【課題】大型成形部品の成形品外観を備えるために少量配合することで、それらを制御できる樹脂用成形品外観改質剤、それを用いて自動車外装部品等に良好な外観を発現し、成形加工性に優れたポリプロピレン系樹脂組成物の提供。
【解決手段】結晶性プロピレン重合体部分とプロピレン・エチレンランダム共重合体部分とからなり、結晶性プロピレン重合体部分の固有粘度[η]homoが1.2dl/g以下、プロピレン・エチレンランダム共重合体部分は、そのエチレン含量が30〜70重量%、その固有粘度[η]copolyが2.5〜7.0dl/g、かつ全体に占める割合が40〜80重量%、プロピレン系ブロック共重合体の全体のMFRが0.1〜10g/10分、[η]copoly/[η]homoが2.5〜10であるプロピレン系ブロック共重合体、それを成形品外観改質剤として用いたポリプロピレン系樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高流動性の結晶性プロピレン重合体部分と高分子量かつ含量の多いプロピレン・エチレンランダム共重合体部分とからなり、広分子量分布を有するプロピレン系ブロック共重合体、及び該プロピレン系ブロック共重合体を含むポリプロピレン系樹脂用成形品外観改質剤、並びに該ポリプロピレン系樹脂用成形品外観改質剤を所定量配合した成形品外観に優れるポリプロピレン系樹脂組成物であって、成形加工性が良好で、成形時のフローマーク特性に優れ、自動車外装部品等の射出成形品に好適なポリプロピレン系樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレン系樹脂は、軽量でリサイクル性にも優れることから、自動車用部品への需要が高まっている。具体的には、結晶性ポリプロピレン樹脂に、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・ブテン共重合体等のエチレン系熱可塑性エラストマー成分と、タルク等の無機充填剤を配合したポリプロピレン樹脂組成物が挙げられる。そして、ポリプロピレン樹脂や各種エラストマー成分、無機充填剤を目的に応じて、適宜選択することによって、成形性、機械物性、外観などを向上させることが提案されている。
特に、結晶性ポリプロピレン樹脂中へのエチレン系熱可塑性エラストマー成分(特にエチレン・プロピレン共重合体)の分散性を高めるためには、いわゆる「重合ブレンド」が有効であることがわかっており、重合の第一工程で結晶性プロピレン樹脂(以下、結晶成分と称する場合がある。)を製造し、第二工程でエチレン・プロピレンランダム共重合体(以下、ゴム成分と称する場合がある。)を続けて製造することによって得られる、プロピレン・エチレンブロック共重合体(以下、ICPと称する場合がある。)を使用することが効果的であることは、当業者のよく知るところである。
【0003】
最近では、より薄肉な成形品を、より短い成形時間で成形が可能なポリプロピレン系樹脂組成物が要望されている。この課題を解決する手段の一つとして、ICPのメルトフローレート(MFR)を大きくした、いわゆる「高流動材料」を使用する技術が挙げられる。かかる高流動材料は成形性が改良され、薄肉成形品も得られるようになったが、フローマークが生じやすいという問題があった。フローマークとは、成形品の表面外観に現れる虎縞(トラシマ)状の模様のことであり、フローマークが生じた成形品は、商品としての意匠性を損ない、製品価値が著しく低くなる。
フローマークの改良技術は、例えば、特許文献1、特許文献2あるいは特許文献3に開示されている。
【0004】
特許文献1では、成形性と、剛性、衝撃強度などの物性バランスに優れたプロピレン系樹脂組成物の提供が課題とされている。この解決手段の中で、全体のMFRが10〜130g/10分で、ゴム成分の重量平均分子量が20万〜100万であるICP(成分a)が開示されている。また、このICPとは異なる全体のMFRが0.1〜8g/10分で、ゴム成分の重量平均分子量が30万〜90万であるICP(成分b)も開示されている。さらに、これら成分a、成分bに加えて、無機充填材(成分c)、ポリエチレン(成分d)、および脂肪酸アミド又はその誘導体(成分e)を特定割合で配合する技術も開示されている。しかしながら、特許文献1では、結晶性プロピレン重合体部分の流動性、結晶性プロピレン重合体部分とエチレン・プロピレンランダム共重合体部分の粘度比とフローマーク特性に代表される成形品外観との関係については開示も示唆もない。
【0005】
特許文献2では、成形体にした場合、フローマークの発生が起こりにくく、ブツの発生の少ない、外観に優れるポリプロピレン系樹脂組成物の提供が課題とされている。この解決手段として、極限粘度[η]が1.3dl/g以下であるプロピレン単独重合体部分と極限粘度[η]EPが3.0dl/g以下であるプロピレン・エチレンランダム共重合体部分を有するポリプロピレン系樹脂(A)が開示されている。また、この樹脂Aと、樹脂Aとは物性の異なるICP(樹脂B)とを特定の割合で配合したポリプロピレン系樹脂組成物が開示されている。しかし特許文献2においては、フローマークが満足行くレベルまで改良されたとは言いがたく、機械物性や成形性をも犠牲にするものであった。
【0006】
特許文献3では、良好な外観を発現し、成形加工に優れたポリプロピレン系樹脂組成物の提供が課題とされている。この解決手段として、特定の物性を有するICPからなる成形性改質剤を使用することが開示されている。具体的には、プロピレン単独重合体部分(結晶成分)のMFRが500g/10分以上であり、ICP全体のMFRが100g/10分以上で、ダイスウェル比が1.2〜2.5であるICPが開示されている。しかし、特許文献3では、フローマークが満足行くレベルまで改良されたとは言いがたく、機械物性(特に低温衝撃強度)や成形性をも犠牲にするものであった。
【特許文献1】特開2001−288331号公報
【特許文献2】特開2002−12734号公報
【特許文献3】特開2004−18647号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記公知技術およびその問題点に鑑みてなされたものであり、その目的はバンパー等の大型成形部品を高品質で効率よく製造するために、フローマークの発生を起こしにくいプロピレン系ブロック共重合体、及び汎用的な樹脂成分に、少量配合することで、成形品外観を改良することができるポリプロピレン系樹脂用成形品外観改質剤を提供することにある。
さらに、該成形品外観改質剤を用いて、バンパー、ロッカーモール、サイドモール、オーバーフェンダーをはじめとする自動車外装部品に好適な、良好な外観を発現し、成形加工性に優れた、ポリプロピレン系樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、高流動性の結晶性プロピレン重合体部分と、エチレン含有量が高く、高分子量、かつ含量の多いプロピレン・エチレンランダム共重合体部分を有する分子量分布の広いプロピレン系ブロック共重合体が、汎用的な樹脂成分に少量配合することで上記課題を解決できる成形品外観の改質剤として用いることができることを見出し本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、結晶性プロピレン重合体部分とプロピレン・エチレンランダム共重合体部分とからなり、下記(a)〜(d)の要件を満たすことを特徴とするプロピレン系ブロック共重合体が提供される。
(a)結晶性プロピレン重合体部分の135℃でデカリンを溶媒として測定した固有粘度[η]homoは、1.2dl/g以下であること
(b)プロピレン・エチレンランダム共重合体部分は、そのエチレン含量が30〜70重量%であり、その固有粘度[η]copolyが2.5〜7.0dl/gであり、かつプロピレン系ブロック共重合体全体に占める当該部分の割合が40〜80重量%であること
(c)プロピレン系ブロック共重合体の全体のメルトフローレートは、0.1〜10g/10分の範囲にあること
(d)結晶性プロピレン重合体部分の固有粘度[η]homoに対するプロピレン・エチレンランダム共重合体部分の固有粘度[η]copolyの比([η]copoly/[η]homo)は、2.5〜10の範囲にあること
【0010】
また、本発明の第2の発明によれば、結晶性プロピレン重合体部分とプロピレン・エチレンランダム共重合体部分とからなり、下記(a)〜(d)の要件を満たすことを特徴とするプロピレン系ブロック共重合体を有効成分とする成形品外観改質剤が提供される。
(a)結晶性プロピレン重合体部分の135℃でデカリンを溶媒として測定した固有粘度[η]homoは、1.2dl/g以下であること
(b)プロピレン・エチレンランダム共重合体部分は、そのエチレン含量が30〜70重量%であり、その固有粘度[η]copolyが2.5〜7.0dl/gであり、かつプロピレン系ブロック共重合体全体に占める当該部分の割合が40〜80重量%であること
(c)プロピレン系ブロック共重合体の全体のメルトフローレートは、0.1〜10g/10分の範囲にあること
(d)結晶性プロピレン重合体部分の固有粘度[η]homoに対するプロピレン・エチレンランダム共重合体部分の固有粘度[η]copolyの比([η]copoly/[η]homo)は、2.5〜10の範囲にあること
【0011】
また、本発明の第3の発明によれば、ポリプロピレン系樹脂被改質材料100重量部と、第2の発明の(A)成形品外観改質剤1〜25重量部とを含有することを特徴とするポリプロピレン系樹脂組成物が提供される。
【0012】
また、本発明の第4の発明によれば、第3の発明において、ポリプロピレン系樹脂被改質材料が、(B)プロピレン−エチレンブロック共重合体を含有することを特徴とするポリプロピレン系樹脂組成物が提供される。
【0013】
また、本発明の第5の発明によれば、第3の発明において、ポリプロピレン系樹脂被改質材料が、
(B)プロピレン−エチレンブロック共重合体65〜99重量%、及び
(C)無機充填剤1〜35重量%
を含有するポリプロピレン樹脂組成物であることを特徴とするポリプロピレン系樹脂組成物が提供される。
【0014】
また、本発明の第6の発明によれば、第3の発明において、ポリプロピレン系樹脂被改質材料が、
(B)プロピレン−エチレンブロック共重合体65〜99重量%、及び
(D)エチレン系エラストマー又はスチレン系エラストマー1〜35重量%
を含有するポリプロピレン樹脂組成物であることを特徴とするポリプロピレン系樹脂組成物が提供される。
【0015】
また、本発明の第7の発明によれば、第3の発明において、ポリプロピレン系樹脂被改質材料が、
(B)プロピレン−エチレンブロック共重合体45〜98重量%、
(C)無機充填剤1〜40重量%、及び
(D)エチレン系エラストマー又はスチレン系エラストマー1〜40重量%
を含有するポリプロピレン樹脂組成物であることを特徴とするポリプロピレン系樹脂組成物が提供される。
【発明の効果】
【0016】
本発明のプロピレン系ブロック共重合体は、少量の添加で、物性、成形性を損なうことなくポリプロピレン樹脂組成物の成形外観を改良することが出来る成形品外観改質剤として用いることができる。また、該ポリプロピレン系樹脂用成形品外観改質剤を配合したポリプロピレン系樹脂組成物は、成形加工性、フローマーク特性に優れ、特に、自動車外装用部品等の大型の射出成形品用材料として好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明は、結晶性プロピレン重合体部分とプロピレン・エチレンランダム共重合体部分とからなり、特定の物性値を有するプロピレン系ブロック共重合体、それを含む成形品外観改質剤、該成形品外観改質剤を含むポリプロピレン系樹脂組成物である。以下に詳細に説明する。
【0018】
[I]プロピレン系ブロック共重合体
1.プロピレン系ブロック共重合体の物性
本発明のプロピレン系ブロック共重合体は、結晶性プロピレン重合体部分(結晶成分)とプロピレン・エチレンランダム共重合体部分(ゴム成分)とからなり、それぞれの成分、および全体が下記の(a)〜(d)の要件を満たすことを特徴とする。
【0019】
(a)結晶性ポリプロピレン重合体部分の固有粘度[η]homo
本発明のプロピレン系ブロック共重合体を構成する結晶性ポリプロピレン重合体部分の固有粘度[η]homoは、1.2dl/g以下であり、好ましくは0.7〜1.2dl/gであり、より好ましくは0.9〜1.1dl/gである。[η]homoが1.2dl/gを超えると、プロピレン系ブロック共重合体を成形品外観改質剤としてプロピレン系樹脂等に添加した際のフローマーク改良効果が低いので好ましくない。一方、0.7dl/g未満であると、耐衝撃性が劣る傾向があるので好ましくない。
結晶性ポリプロピレン重合体部分の固有粘度[η]homoは、プロピレン単独重合体部分の重合(ただし、結晶性を失わない程度にごく少量、例えば0.5重量%以下のコモノマーを共重合させてもよい)を終えた時の固有粘度である。プロピレン単独重合体は、単段で重合されたものでもよく、多段で重合されたものでもよい。固有粘度[η]homoは、多段重合を行う場合には、最終の重合槽から取り出される結晶性ポリプロピレン重合体部分の固有粘度である。固有粘度を調整するためには、重合時に水素を添加し分子量を制御し調整することができる。
ここで、固有粘度[η]homoは、後述する方法にて測定する値である。
【0020】
(b)プロピレン・エチレンランダム共重合体部分(ゴム成分)
(b−1)プロピレン・エチレン共重合体部分中のエチレン含量
本発明のプロピレン系ブロック共重合体を構成するプロピレン・エチレン共重合体部分(ゴム成分)のエチレン含量は、30〜70重量%であり、好ましくは30〜60重量%であり、特に好ましくは40〜60重量%である。エチレン含量が30重量%未満であると成形品外観改質剤としての効果が低く(フローマーク外観が改良されず)、70重量%を超えると共重合体そのものを、あるいは成形品外観改質剤として添加したものを射出成形した際に改質剤成分が被改質材中に均一に分散しない傾向があるので好ましくない。
ここで、プロピレン・エチレンランダム共重合体部分中のエチレン含量は、後述する方法にて測定する値である。
【0021】
(b−2)プロピレン・エチレンランダム共重合体部分の固有粘度[η]copoly
プロピレン・エチレンランダム共重合体部分(ゴム成分)の固有粘度[η]copolyは、2.5〜7.0dl/gであり、好ましくは3.0〜7.0dl/gであり、特に好ましくは、4.5〜6.5dl/gである。[η]copolyが2.5dl/g未満であると改質剤として添加したものを射出成形した際のフローマーク外観が劣り、また7.0dl/gを超えると、プロピレン系ブロック共重合体全体のMFRの低下を伴い、射出成形した際に樹脂組成物の成形加工性が劣るという不都合が生じる。
ここで、プロピレン・エチレンランダム共重合体部分の固有粘度[η]copolyは、後述する方法にて測定する値である。
【0022】
(b−3)プロピレン・エチレンランダム共重合体部分の割合
プロピレン・エチレンランダム共重合体部分(ゴム成分)のプロピレン系ブロック共重合体全体に占める割合は、40〜80重量%であり、好ましくは45〜75重量%であり、より好ましくは45〜60重量%である。プロピレン・エチレンランダム共重合体部分が40重量%未満であるとフローマーク外観の改良が不十分となり、物性、成形性の低下が起きる。80重量%を超えると共重合体そのものを、あるいは改質剤として添加したものを射出成形した際に被改質材料中に均一に分散しなく外観を損ねるので好ましくない。
ここで、プロピレン・エチレンランダム共重合体部分(ゴム成分)の割合は、後述の方法によって測定する値である。
【0023】
(c)MFR
本発明のプロピレン系ブロック共重合体のMFRは、0.1〜10g/10分であり、好ましくは0.1〜9g/10分である。MFRが0.1g/10分未満では、射出成形の際に樹脂組成物としての成形加工性が劣り、また10g/10分を超えるとフローマーク外観の改良が不十分となる。
ここで、MFRは、JIS K7210に準拠して、温度230℃、荷重21.18Nで測定する値である。
【0024】
(d)固有粘度比
本発明のプロピレン系ブロック共重合体を構成する結晶性プロピレン重合体部分の固有粘度[η]homoに対するプロピレン・エチレンランダム共重合体部分(ゴム成分)の固有粘度[η]copolyの比([η]copoly/[η]homo)は、2.5〜10であり、好ましくは3〜9、特に好ましくは4〜8である。[η]copoly/[η]homoが2.5未満であると成形品外観改質剤としての効果が低く(フローマーク外観が改良されず)、10を超えると、ゴム成分の分散不良に起因するゲルが発生するので好ましくない。
【0025】
2.プロピレン系ブロック共重合体の物性の分析法
本発明のプロピレン系ブロック共重合体中のプロピレン・エチレンランダム共重合体部分(ゴム成分)の比率(Wc)、及びゴム成分中のエチレン含量、固有粘度の測定は、下記の装置、条件を用い、下記の手順で測定する。
【0026】
(1)使用する分析装置
(i)クロス分別装置
ダイヤインスツルメンツ社製CFC T−100(CFCと略す)
(ii)フーリエ変換型赤外線吸収スペクトル分析
FT−IR、パーキンエルマー社製 1760X
CFCの検出器として取り付けられていた波長固定型の赤外分光光度計を取り外して代わりにFT−IRを接続し、このFT−IRを検出器として使用する。CFCから溶出した溶液の出口からFT−IRまでの間のトランスファーラインは1mの長さとし、測定の間を通じて140℃に温度保持する。FT−IRに取り付けたフローセルは光路長1mm、光路幅5mmφのものを用い、測定の間を通じて140℃に温度保持する。
(iii)ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)
CFC後段部分のGPCカラムは、昭和電工社製AD806MSを3本直列に接続して使用する。
【0027】
(2)CFCの測定条件
(i)溶媒:オルトジクロルベンゼン(ODCB)
(ii)サンプル濃度:4mg/mL
(iii)注入量:0.4mL
(iv)結晶化:140℃から40℃まで約40分かけて降温する。
(v)分別方法:
昇温溶出分別時の分別温度は40、100、140℃とし、全部で3つのフラクションに分別する。なお、40℃以下で溶出する成分(フラクション1)、40〜100℃で溶出する成分(フラクション2)、100〜140℃で溶出する成分(フラクション3)の溶出割合(単位 重量%)を各々W40、W100、W140と定義する。W40+W100+W140=100である。また、分別した各フラクションは、そのままFT−IR分析装置へ自動輸送される。
(vi)溶出時溶媒流速:1mL/分
【0028】
(3)FT−IRの測定条件
CFC後段のGPCから試料溶液の溶出が開始した後、以下の条件でFT−IR測定を行い、上述した各フラクション1〜3について、GPC−IRデータを採取する。
(i)検出器:MCT
(ii)分解能:8cm−1
(iii)測定間隔:0.2分(12秒)
(iv)一測定当たりの積算回数:15回
【0029】
(4)測定結果の後処理と解析
各温度で溶出した成分の溶出量と分子量分布は、FT−IRによって得られる2945cm−1の吸光度をクロマトグラムとして使用して求める。溶出量は各溶出成分の溶出量の合計が100%となるように規格化する。保持容量から分子量への換算は、予め作成しておいた標準ポリスチレンによる検量線を用いて行う。
使用する標準ポリスチレンは何れも東ソー(株)製の以下の銘柄である。
F380、F288、F128、F80、F40、F20、F10、F4、F1、A5000、A2500、A1000。
各々が0.5mg/mLとなるようにODCB(0.5mg/mLのBHTを含む)に溶解した溶液を0.4mL注入して較正曲線を作成する。較正曲線は最小二乗法で近似して得られる三次式を用いる。分子量への換算は森定雄著「サイズ排除クロマトグラフィー」(共立出版)を参考に汎用較正曲線を用いる。その際使用する粘度式([η]=K×Mα)には以下の数値を用いる。
(i)標準ポリスチレンを使用する較正曲線作成時
K=0.000138、α=0.70
(ii)プロピレン系ブロック共重合体のサンプル測定時
K=0.000103、α=0.78
各溶出成分のエチレン含有量分布(分子量軸に沿ったエチレン含有量の分布)は、FT−IRによって得られる2956cm−1の吸光度と2927cm−1の吸光度との比を用い、ポリエチレンやポリプロピレンや13C−NMR測定等によりエチレン含有量が既知となっているエチレン−プロピレンラバー(EPR)及びそれらの混合物を使用して予め作成しておいた検量線により、エチレン含有量(重量%)に換算して求める。
【0030】
(5)プロピレン・エチレンランダム共重合体部分の比率(Wc)
本発明におけるプロピレン系ブロック共重合体中のプロピレン・エチレンランダム共重合体部分の比率(Wc)は、下記式(I)で理論上は定義され、以下のような手順で求められる。
Wc(重量%)=W40×A40/B40+W100×A100/B100 …(I)
式(I)中、W40、W100は、上述した各フラクションでの溶出割合(単位:重量%)であり、A40、A100は、W40、W100に対応する各フラククションにおける実測定の平均エチレン含有量(単位:重量%)であり、B40、B100は、各フラクションに含まれるプロピレン・エチレンランダム共重合体部分のエチレン含有量(単位:重量%)である。A40、A100、B40、B100の求め方は後述する。
【0031】
(I)式の意味は以下の通りである。すなわち、(I)式右辺の第一項はフラクション1(40℃に可溶な部分)に含まれるプロピレン・エチレンランダム共重合体部分の量を算出する項である。フラクション1がプロピレン・エチレンランダム共重合体のみを含み、プロピレン単独重合体を含まない場合には、W40がそのまま全体の中に占めるフラクション1由来のプロピレン・エチレンランダム共重合体部分含有量に寄与するが、フラクション1にはプロピレン・エチレンランダム共重合体由来の成分のほかに少量のプロピレン単独重合体由来の成分(極端に分子量の低い成分及びアタクチックポリプロピレン)も含まれるため、その部分を補正する必要がある。そこでW40にA40/B40を乗ずることにより、フラクション1のうち、プロピレン・エチレンランダム共重合体成分由来の量を算出する。例えば、フラクション1の平均エチレン含有量(A40)が30重量%であり、フラクション1に含まれるプロピレン・エチレンランダム共重合体のエチレン含有量(B40)が40重量%である場合、フラクション1の30/40=3/4(即ち75重量%)はプロピレン・エチレンランダム共重合体由来、1/4はプロピレン単独重合体由来ということになる。このように右辺第一項でA40/B40を乗ずる操作は、フラクション1の重量%(W40)からプロピレン・エチレンランダム共重合体の寄与を算出することを意味する。右辺第二項も同様であり、各々のフラクションについて、プロピレン・エチレンランダム共重合体の寄与を算出して加え合わせたものがプロピレン・エチレンランダム共重合体部分含有量となる。
【0032】
(i)上述したように、CFC測定により得られるフラクション1〜2に対応する平均エチレン含有量をそれぞれA40、A100とする(単位はいずれも重量%である)。平均エチレン含有量の求め方は後述する。
【0033】
(ii)フラクション1の微分分子量分布曲線におけるピーク位置に相当するエチレン含有量をB40とする(単位は重量%である)。フラクション2については、ゴム部分が40℃ですべて溶出してしまうと考えられ、同様の定義で規定することができないので、本発明では実質的にB100=100と定義する。B40、B100は各フラクションに含まれるプロピレン・エチレンランダム共重合体部分のエチレン含有量であるが、この値を分析的に求めることは実質的には不可能である。その理由はフラクションに混在するプロピレン単独重合体とプロピレン・エチレンランダム共重合体を完全に分離・分取する手段がないからである。種々のモデル試料を使用して検討を行った結果、B40はフラクション1の微分分子量分布曲線のピーク位置に相当するエチレン含有量を使用すると、材料物性の改良効果をうまく説明することができることがわかった。また、B100はエチレン連鎖由来の結晶性を持つこと、および、これらのフラクションに含まれるプロピレン・エチレンランダム共重合体の量がフラクション1に含まれるプロピレン・エチレンランダム共重合体の量に比べて相対的に少ないことの2点の理由により、100と近似する方が、実態にも近く、計算上も殆ど誤差を生じない。そこでB100=100として解析を行うこととしている。
【0034】
(iii)上記の理由からプロピレン・エチレンランダム共重合体部分の比率(Wc)を以下の式に従い、求める。
Wc(重量%)=W40×A40/B40+W100×A100/100 …(II)
つまり、(II)式右辺の第一項であるW40×A40/B40は結晶性を持たないプロピレン・エチレンランダム共重合体含有量(重量%)を示し、第二項であるW100×A100/100は結晶性を持つプロピレン・エチレンランダム共重合体部分含有量(重量%)を示す。
ここで、B40およびCFC測定により得られる各フラクション1および2の平均エチレン含有量A40、A100は、次のようにして求める。
微分分子量分布曲線のピーク位置に対応するエチレン含有量がB40となる。また、測定時にデータポイントとして取り込まれる、各データポイント毎の重量割合と各データポイント毎のエチレン含有量の積の総和がフラクション1の平均エチレン含有量A40となる。フラクション2の平均エチレン含有量A100も同様に求める。
【0035】
なお、上記3種類の分別温度を設定した意義は次の通りである。本発明のCFC分析においては、40℃とは結晶性を持たないポリマー(例えば、プロピレン・エチレンランダム共重合体の大部分、もしくはプロピレン単独重合体部分の中でも極端に分子量の低い成分およびアタクチックな成分)のみを分別するのに必要十分な温度条件である意義を有する。100℃とは、40℃では不溶であるが100℃では可溶となる成分(例えばプロピレン・エチレンランダム共重合体中、エチレン及び/またはプロピレンの連鎖に起因して結晶性を有する成分、および結晶性の低いプロピレン単独重合体)のみを溶出させるのに必要十分な温度である。140℃とは、100℃では不溶であるが140℃では可溶となる成分(例えばプロピレン単独重合体中特に結晶性の高い成分、およびプロピレン・エチレンランダム共重合体中の極端に分子量が高くかつ極めて高いエチレン結晶性を有する成分)のみを溶出させ、かつ分析に使用するプロピレン系ブロック共重合体の全量を回収するのに必要十分な温度である。なお、W140にはプロピレン・エチレンランダム共重合体成分は全く含まれないか、存在しても極めて少量であり実質的には無視できることからプロピレン・エチレンランダム共重合体の比率やプロピレン・エチレンランダム共重合体のエチレン含有量の計算からは排除する。
【0036】
(6)プロピレン・エチレンランダム共重合体部分のエチレン含有量
本発明におけるプロピレン系ブロック共重合体におけるプロピレン・エチレンランダム共重合体部分のエチレン含有量は、上述で説明した値を用い、次式から求められる。
プロピレン・エチレンランダム共重合体部分のエチレン含有量(重量%)=(W40×A40+W100×A100)/Wc
但し、Wcは先に求めたプロピレン・エチレンランダム共重合体部分の比率(重量%)である。
【0037】
(7)固有粘度の測定
本発明におけるプロピレン系ブロック共重合体における結晶性プロピレン重合体部分とプロピレン・エチレンランダム共重合体部分の固有粘度[η]homo、[η]copolyは、ウベローデ型粘度計を用いてデカリンを溶媒として温度135℃で測定する。
まず、結晶性プロピレン重合体部分の重合終了後、一部を重合槽よりサンプリングし、固有粘度[η]homoを測定する。次に、結晶性プロピレン重合体部分を重合した後、プロピレン・エチレンランダム共重合体を重合して得られた最終重合物(F)の固有粘度[η]を測定する。[η]copolyは、以下の関係から求める。
[η]=(100−Wc)/100×[η]homo+Wc/100×[η]copoly
【0038】
3.プロピレン系ブロック共重合体の製造方法
本発明のプロピレン系ブロック共重合体は、結晶性プロピレン重合体部分とプロピレン・エチレンランダム共重合体部分との反応混合物である。これは、結晶性プロピレン重合体部分であるプロピレン単独重合部分の重合(前段)と、この後に続く、プロピレン・エチレンランダム共重合部分の重合(後段)の製造工程により得られる。結晶性プロピレン重合体は、1段又は2段以上(各段の反応条件は同一又は異なる)の重合工程で製造され、プロピレン・エチレンランダム共重合体部分も1段又は2段以上(各段の反応条件は同一又は異なる)の重合工程で製造される。従って、本発明のプロピレン系ブロック共重合体の全製造工程は、少なくとも2段の逐次の多段重合工程となる。
【0039】
上記重合に用いられる触媒としては、特に限定されるものではなく、有機アルミニウム化合物成分と、チタン原子、マグネシウム原子、ハロゲン原子及び電子供与性化合物を必須とする固体成分とを組合わせた、いわゆるチーグラー・ナッタ触媒、メタロセン触媒等公知の触媒をいずれも使用できる。ゴム成分の固有粘度が高い方が改質剤として添加した際成形外観改良効果が高いため、一般的に重合時連鎖移動の少ないチーグラー・ナッタ触媒の方がより好ましい。
【0040】
上記少なくとも2段の逐次の多段重合工程においては、前段重合工程で、プロピレン、連鎖移動剤として水素を供給して、前記触媒の存在下に温度50〜150℃、好ましくは50〜70℃、プロピレンの分圧0.5〜4.5MPa、好ましくは1.0〜3.0MPaの条件で、プロピレン単独重合を行い、結晶性プロピレン重合体部分を製造する。
この際、本発明のプロピレン系ブロック共重合体における結晶性プロピレン重合体部分の固有粘度[η]homoを1.2dl/g以下にする必要があるため、プロセス、触媒の種類にもよるが、連鎖移動剤の水素を比較的高い濃度に調整し[η]homoをコントロールする必要がある。
また、本発明のプロピレン系ブロック共重合体においては、プロピレン・エチレンランダム共重合体部分(ゴム成分)の割合が高いことを特徴とする。そのため、後段のゴム成分の重合では、触媒活性を高く維持出来るようにするため、前段の重合においては、重合温度、プロピレン分圧が低く、重合時間が短い、触媒の活性を抑制する条件が好まれる。
結晶性プロピレン重合体部分には本発明の効果を損なわない範囲でプロピレン以外のα−オレフィンが共重合されていても構わない。
【0041】
引き続いて、後段重合工程で、プロピレン、エチレンと水素を供給して、前記触媒(前記第1段目重合工程で使用した当該触媒)の存在下に温度50〜150℃、好ましくは50〜90℃、プロピレン及びエチレンの分圧各0.3〜4.5MPa、好ましくは0.5〜3.5MPaの条件で、プロピレンとエチレンのランダム共重合を行い、プロピレン・エチレンランダム共重合体部分を製造し、最終的な生成物として、プロピレン系ブロック共重合体を得る。
プロピレン・エチレンランダム共重合体部分には本発明の効果を損なわない範囲でプロピレン、エチレン以外のα−オレフィンが共重合されていても構わない。
【0042】
この際、本発明のプロピレン系ブロック共重合体におけるプロピレン・エチレンランダム共重合体部分の固有粘度[η]copolyを2.5〜7.0dl/g、固有粘度の比[η]copoly/[η]homoを2.5〜10にする必要があるため、プロセス、触媒の種類にもよるが、連鎖移動剤の水素を比較的低い濃度に調整し[η]copolyをコントロールする必要がある。
また、本発明のプロピレン系ブロック共重合体におけるプロピレン・エチレンランダム共重合体部分(ゴム成分)中のエチレン含量を特定の範囲内に維持することを特徴とする。そのため、後段のプロピレン濃度に対するエチレン濃度を調整し、ゴム中のエチレン含量をコントロールする必要がある。
さらに、本発明のプロピレン系ブロック共重合体におけるプロピレン・エチレンランダム共重合体部分(ゴム成分)含量を高くする必要があるため、後段のゴム重合においては、触媒の活性が高くなる条件(重合温度、プロピレン、エチレン分圧が高く、重合時間が長い条件)が好まれる。しかしながら、重合温度に関しては高くしすぎると粉体粒子の流動性が悪化するため、粉体粒子の流動性を良く維持するためには比較的低い温度が好まれる。
【0043】
なお、重合は、回分式、連続式、半回分式のいずれによってもよく、第1段目重合工程の重合は、気相又は液相中、また、第2段目重合工程以降の重合も気相又は液相中、特には気相中で実施するのが好ましく、各段階の滞留時間は、各々0.5〜10時間、好ましくは1〜5時間が好ましい。
【0044】
さらに、上記少なくとも2段の逐次の多段重合工程により製造される組成物の粉体粒子に流動性を付与する目的で、また本共重合体を射出成形した際ゴムの分散不良であるゲル発生を防止する目的で、前段重合工程での重合後、後段重合工程での重合開始前又は重合途中に、活性水素含有化合物を、触媒の固体成分中の中心金属原子(チーグラー・ナッタ触媒の場合はチタン原子)に対して100〜1000倍モルで、かつ、触媒の有機アルミニウム化合物に対して2〜5倍モルの範囲で添加することが好ましい。
【0045】
ここで、活性水素含有化合物としては、例えば、水、アルコール類、フェノール類、アルデヒド類、カルボン酸類、酸アミド類、アンモニア、アミン類等が挙げられる。
【0046】
[II]ポリプロピレン系樹脂組成物
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物は、上記のプロピレン系ブロック共重合体を成形品外観改質剤として、汎用的なポリプロピレン系樹脂被改質材料に第3成分として配合することにより得られる成形品外観に優れるポリプロピレン系樹脂組成物であって、主にフローマーク特性に代表される成形品外観等が改良されたポリプロピレン系樹脂組成物である。
具体的には、(A)上記のプロピレン系ブロック共重合体を有効成分とする成形品外観改質剤とポリプロピレン系樹脂被改質材料とのポリプロピレン樹脂組成物として表すことができ、ポリプロピレン系樹脂被改質材料としては、(B)プロピレン−エチレンブロック共重合体を挙げることができ、さらに必要に応じて、(C)無機充填剤、及び/又は(D)エチレン系エラストマー又はスチレン系エラストマーを含有するポリプロピレン樹脂組成物を挙げることができる。以下、各成分を詳細に説明する。
【0047】
1.ポリプロピレン系樹脂組成物の各成分
(A)成分:成形品外観改質剤
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物に用いる(A)成形品外観改質剤は、上記のプロピレン系ブロック共重合体を有効成分として含む。
(A)成形品外観改質剤の、上記のプロピレン系ブロック共重合体の含有量は、(A)成形品外観改質剤の全重量に対して、20〜100重量%が好ましく、より好ましくは50〜100重量%、更に好ましくは70〜100重量%であり、特に好ましくは100重量%である。
(A)成形品外観改質剤は、上記のプロピレン系ブロック共重合体以外に他の成分を含んでいてもよい。そのような他の成分としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、変性ポリエチレン、変性ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂や、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリエステル等のポリオレフィン以外の熱可塑性樹脂等が挙げられる。
【0048】
(B)成分:プロピレン−エチレンブロック共重合体
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物に用いるプロピレン−エチレンブロック共重合体(B)としては、結晶性ポリプロピレン重合体部(A単位部)とエチレン・プロピレンランダム共重合体部(B単位部)とを含有するブロック共重合体が好ましい。上記A単位部は、通常プロピレンの単独重合、場合によってはプロピレンに少量の他のα−オレフィンを共重合することによって得られる結晶性の重合体であり、その密度は高いことが好ましい。A単位部の結晶性は、アイソタクチック指数(沸騰n−ヘプタン抽出による不溶分)として、通常90%以上、好ましくは95〜100%である。結晶性が小さいとポリプロピレン系樹脂(B)の機械的強度、特に曲げ弾性率に劣るものとなる。
一方、上記B単位部はプロピレンとエチレンとのランダム共重合によって得られるゴム状成分である。
【0049】
A単位部は、通常全重合量の50〜95重量%、好ましくは60〜90重量%であり、B単位部は、通常全重合量の5〜50重量%、好ましくは10〜40重量%となるように調整される。A単位部は、オルトジクロルベンゼンによる抽出において、100℃以下で溶出しないが、B単位部は容易に溶出する。従って、製造後の重合体に対しては、上記したオルトジクロルベンゼンによる抽出分析によりプロピレン−エチレンブロック共重合体(B)の組成を判定することができる。
【0050】
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物で用いるプロピレン−エチレンブロック共重合体(B)のMFRは、10〜200g/10分が好ましく、より好ましくは、15〜150g/10分である。MFRが10g/10分未満であると、成形性が劣り、200g/10分を超えると耐衝撃性が低下するので好ましくない。
また、(B)成分のダイスウエル比は、0.98〜1.2が好ましく、より好ましくは、1.0〜1.2である。ダイスウエル比が0.9未満であると、成形加工性が悪化する傾向があり、1.2を超えると汎用的な製造プロセスにおいて安価に製造することが困難となる傾向がある。
さらに、(B)成分のQ値は、3〜7が好ましく、より好ましくは、3.5〜6.5である。Q値が3未満であると、成形加工性や衝撃特性が低下する傾向があり、7を超えると汎用的な製造プロセスにおいて安価に製造することが困難となる傾向がある。
なお、(B)成分におけるMFRは、前記プロピレン系ブロック共重合体と同様にして測定した値であり、Q値は、GPCを用いて測定する重量平均分子量、数平均分子量から求める値であり、ダイスウエル比は、下記の方法で求める値である。
メルトインデクサーのシリンダー内温度を190℃に設定する。オリフィスは長さ8.00mm、径1.00mmφ、L/D=8を用いる。また、オリフィス直下にエチルアルコールを入れたメスシリンダーを置く(オリフィスとエチルアルコール液面との距離は、20±2mmにする。)。この状態でサンプルをシリンダー内に投入し、1分間の押出量が0.10±0.03gになるように荷重を調節する。6分後から7分後の押出物をエタノール中に落とし、固化してから採取する。採取した押出物のストランド状サンプルの直径を上端から1cm部分と、下端から1cm部分、及び中央部分の3箇所で最大値、最小値を測定し、計6箇所測定した直径の平均値をもってダイスウェル比とする。
【0051】
上記(B)成分の製造は、高立体規則性触媒を用いて重合する方法が好ましく用いられる。重合方法としては従来公知の方法がいずれも採用できる。プロピレン・エチレンランダム共重合体部(B単位部)の多い(B)成分の製造においては、特に気相流動床法が好ましい。また、後段反応において新たに電子供与体化合物を添加することにより、粘着、閉塞のトラブルを回避し、重合の操作性を改良することができる。
【0052】
(C)成分:無機充填剤
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物においては、必要に応じて、無機充填剤(C)を配合することができる。(C)成分は、ポリプロピレン系樹脂組成物の曲げ弾性率を向上させ、線膨張係数を低下させるために使用する。
本発明において、無機充填剤(C)としては、組成、形状等は特に限定されない。ポリマー用充填剤として市販されているものはいずれも使用できる。
具体的には、タルク、マイカ、モンモリロナイト等の板状無機充填剤、短繊維ガラス繊維、長繊維ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、アルミナ繊維、ボロン繊維、ゾノライト等の繊維状無機充填剤、チタン酸カリウム、マグネシウムオキシサルフェート、窒化珪素ホウ酸アルミニウム、塩基性硫酸マグネシウム、酸化亜鉛、ワラストナイト、炭酸カルシウム等の針状(ウィスカー)無機充填剤、沈降性炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の粒状無機充填剤、ガラスバルーンのようなバルン状無機充填剤が例示される。その中でも、物性・コスト面のバランスより、タルクが特に好ましい。
【0053】
タルクは、重合体との接着性或いは分散性を向上させる目的で、各種の有機チタネート系カップリング剤、有機シランカップリング剤、不飽和カルボン酸、又はその無水物をグラフトした変性ポリオレフィン、脂肪酸、脂肪酸金属塩、脂肪酸エステル等によって表面処理したものを用いてもよい。
【0054】
(D)成分:エチレン系エラストマー又はスチレン系エラストマー
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物においては、必要に応じて、エチレン系エラストマー又はスチレン系エラストマー(D)を配合することができる。エチレン系エラストマー又はスチレン系エラストマー(D)の具体例としては、例えば、エチレン・プロピレン共重合エラストマー(EPR)、エチレン・ブテン共重合エラストマー(EBR)、エチレン・ヘキセン共重合エラストマー(EHR)、エチレン・オクテン共重合エラストマー(EOR)等のエチレン・α−オレフィン共重合体エラストマー;エチレン・プロピレン・エチリデンノルボルネン共重合体エラストマー、エチレン・プロピレン・ブタジエン共重合体エラストマー、エチレン・プロピレン・イソプレン共重合体エラストマー等のエチレン・α−オレフィン・ジエン三元共重合体エラストマー(EPDM);スチレン・ブタジエン・スチレントリブロック体(SBS)、スチレン・イソプレン・スチレントリブロック体(SIS)、スチレン・ブタジエン・スチレントリブロック体の水素添加物(SEBS)、スチレン・イソプレン・スチレントリブロック体の水素添加物(SEPS)等のスチレン系エラストマー等が使用できる。
なお、上記したスチレン・ブタジエン・スチレントリブロック体の水素添加物は、ポリマー主鎖をモノマー単位で見ると、スチレン−エチレン−ブテン−スチレンとなるので、通常、SEBSと略称されるものである。
また、これらのエチレン系エラストマー又はスチレン系エラストマー(D)は、2種類以上を混合して使用することができる。
【0055】
上記エチレン・α−オレフィン共重合体エラストマーは、各モノマーを触媒の存在下重合することにより製造される。触媒としては、ハロゲン化チタンのようなチタン化合物、アルキルアルミニウム−マグネシウム錯体、のような有機アルミニウム−マグネシウム錯体、アルキルアルミニウム、又はアルキルアルミニウムクロリド等のいわゆるチーグラー型触媒、WO−91/04257号公報等に記載のメタロセン化合物触媒を使用することができる。重合法としては、気相流動床、溶液法、スラリー法等の製造プロセスを適用して重合することができる。市販品を例示すれば、ジェイエスアール社製EDシリーズ、三井化学社製タフマーPシリーズ及びタフマーAシリーズ、デュポンダウ社製エンゲージEGシリーズ、旭化成社製タフテックHシリーズなどを挙げることができ、これらはいずれも本発明において使用することができる。
【0056】
ここで、上記スチレン系エラストマーにおけるトリブロック共重合体の水素添加物(SEBS、SEPS)の製造法の概要を述べる。これらのトリブロック共重合体は、一般的なアニオンリビング重合法で製造することができ、逐次的にスチレン、ブタジエン、スチレンを重合しトリブロック体を製造した後に、水添する方法(SEBSの製造法)と、スチレン−ブタジエンのジブロック共重合体をはじめに製造した後、カップリング剤を用いてトリブロック体に、水添する方法がある。また、ブタジエンの代わりにイソプレンを用いることによってスチレン−イソプレン−スチレントリブロック体の水素添加物(SEPS)も同様に製造することができる。
【0057】
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物で用いるエチレン系エラストマー又はスチレン系エラストマー(D)のMFR(230℃、2.16kg荷重で測定)は、0.5〜150g/10分が好ましく、より好ましくは0.7〜150g/10分、特に好ましくは0.7〜80g/10分である。本発明の成形外観に優れたポリプロピレン系樹脂組成物の主要用途である自動車外装材を考慮した場合、MFRが上記の範囲であるものが特に好ましい。
【0058】
(E)付加的成分(任意成分)
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物中には、上記(A)〜(D)成分以外に、さらに、本発明の効果を著しく損なわない範囲で、他の付加的成分(任意成分)を添加することができる。この様な付加的成分(任意成分)としては、フェノール系及びリン系の酸化防止剤、ヒンダードアミン系、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系の耐候劣化防止剤、有機アルミ化合物、有機リン化合物等の核剤、ステアリン酸の金属塩に代表される分散剤、キナクリドン、ペリレン、フタロシアニン、酸化チタン、カーボンブラック等の着色物質、を例示できる。
【0059】
2.ポリプロピレン系樹脂組成物の成分組成
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物は、上記各(A)〜(D)成分を組み合わせて得られる。代表的には、成分(A)と(B)の組成物、成分(A)、(B)及び(C)の組成物、成分(A)、(B)及び(D)の組成物、成分(A)、(B)、(C)及び(D)の組成物などであり、更に必要に応じて成分(E)が配合される。
【0060】
(1)成分(A)と(B)からなるポリプロピレン系樹脂組成物
成分(A)と(B)からなるポリプロピレン系樹脂組成物にあっては、(A)成形品外観改質剤は、(B)エチレン・プロピレンブロック共重合体100重量部に対して、1〜25重量部であり、好ましくは2〜20重量部であり、より好ましくは2〜15重量部であり、特に好ましくは2〜9重量部であり、最も好ましくは3〜7重量部である。(A)成形品外観改質剤が1重量部未満であると成形外観効果が劣り、逆に25重量部を超えると流動性が低下する。
【0061】
(2)成分(A)、(B)及び(C)からなるポリプロピレン系樹脂組成物
成分(A)、(B)及び(C)からなるポリプロピレン系樹脂組成物にあっては、(A)成形品外観改質剤は、成分(B)及び(C)の合計100重量部に対して、1〜25重量部であり、好ましくは2〜20重量部であり、より好ましくは2〜15重量部であり、特に好ましくは2〜9重量部であり、最も好ましくは3〜7重量部である。ポリプロピレン系樹脂被改質材料全体に対しての成分(B)と成分(C)の割合は、成分(B)は、65〜99重量%、好ましくは70〜98重量%、より好ましくは75〜98重量%、特に好ましくは80〜97重量%であり、成分(C)は、1〜35重量%、好ましくは2〜30重量%、より好ましくは2〜25重量%、特に好ましくは3〜20重量%である。成分(C)が1重量%未満であると添加効果が充分発揮されず曲げ弾性率が不足し、逆に35重量%を超えると脆化温度が悪化し、成形性も低下する。
【0062】
(3)成分(A)、(B)及び(D)からなるポリプロピレン系樹脂組成物
成分(A)、(B)及び(D)からなるポリプロピレン系樹脂組成物にあっては、(A)成形品外観改質剤は、成分(B)及び(D)の合計100重量部に対して、1〜25重量部であり、好ましくは2〜20重量部であり、より好ましくは2〜15重量部であり、特に好ましくは2〜9重量部であり、最も好ましくは3〜7重量部である。ポリプロピレン系樹脂被改質材料全体に対しての成分(B)と成分(D)の割合は、成分(B)は、65〜99重量%、好ましくは70〜98重量%、より好ましくは75〜98重量%、特に好ましくは83〜97重量%であり、成分(D)は、1〜35重量%、好ましくは2〜30重量%、より好ましくは2〜25重量%、特に好ましくは3〜17重量%である。成分(D)が1重量%未満であると添加効果が充分発揮されず、逆に35重量%を超えると剛性低下が懸念され、またコスト的にも問題がある。しかし目的、用途によっては各種の配合があり、エラストマーの種類により、上記に限定されるものではなく、用途や目的に応じて選択することも重要である
【0063】
(4)成分(A)、(B)、(C)及び(D)からなるポリプロピレン系樹脂組成物
成分(A)、(B)、(C)及び(D)からなるポリプロピレン系樹脂組成物にあっては、(A)成形品外観改質剤は、成分(B)、(C)及び(D)の合計100重量部に対して、1〜25重量部であり、好ましくは2〜20重量部であり、より好ましくは2〜15重量部であり、特に好ましくは2〜9重量部であり、最も好ましくは3〜7重量部である。ポリプロピレン系樹脂被改質材料全体に対しての成分(B)と成分(C)と成分(D)の割合は、成分(B)は、45〜98重量%、好ましくは47〜96重量%、より好ましくは50〜92重量%であり、成分(C)は、1〜40重量%、好ましくは2〜35重量%、より好ましくは4〜32重量%であり、成分(D)は、1〜40重量%、好ましくは2〜35重量%、より好ましくは4〜32重量%である。
【0064】
3.ポリプロピレン系樹脂組成物の製造
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物の製造は、上記の各構成成分を、上記の割合で、混合又は、一軸押出機、二軸押出機等の押出機、バンバリーミキサー、ロール、ブラベンダープラストグラフ、ニーダー等通常の混練機を用いて、設定温度180℃〜250℃にて混練することにより製造できる。これらの混練機の中でも、押出機、特に二軸押出機を用いて製造することが好ましい。
【0065】
4.ポリプロピレン系樹脂組成物の成形加工
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物は、所望の成型品に加工される。成形加工法は、特に限定されるものではなく、目的に応じて各種の成形方法で成形できる。例えば、射出成形法、押出成形法など適用できるが、大型射出成形法に適用した場合、成形加工性、フローマーク特性、ウエルド外観などに優れ、効果が大きい。従って、バンパー、ロッカーモール、サイドモール、オーバーフェンダーをはじめとする自動車外装部品の用途に好適である。
【実施例】
【0066】
本発明を実施例により、更に詳細に説明するが、本発明はその旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
なお、実施例で用いた物性測定法及び用いた樹脂の製造例は以下の通りである。
【0067】
1.物性測定法
(1)メルトフローレート(MFR):ASTM−D1238に準拠し、2.16kg荷重にて230℃の温度で測定した。
(2)Izod衝撃強度:JIS−K7110に準拠して、−30℃の温度下にてノッチ付で測定し、下記基準で判定した。
○:被改質材料と同等
×:被改質材料より1割以上低下
(3)成形品外観:型締め圧170トンの射出成形機で、短辺に幅2mmのフィルムゲートをもつ金型を用いて、350mm×100mm×2mmtなる成形シートを成形温度を220℃として射出成形した。フローマークの発生を目視で観察し、ゲートからフローマークが発生した部分までの距離を測定し、下記の基準で判定した。
○:発生距離が200mmを超える
×:発生距離が200mm以下
【0068】
2.プロピレン系ブロック共重合体(A)
下記の製造例1〜製造例9で製造されたプロピレン系ブロック共重合体を(改質剤−1)〜(改質剤−9)として用いた。各重合工程の反応条件、得られた結晶性プロピレン重合体並びにエチレン・プロピレンランダム共重合体の諸物性を表1に示した。
【0069】
(製造例1)
(i)固体触媒成分(a)の製造 窒素置換した内容積50リットルの撹拌機付槽に脱水及び脱酸素したn−ヘプタン20リットルを導入し、次いで、塩化マグネシウム10モルとテトラブトキシチタン20モルとを導入して95℃で2時間反応させた後、温度を40℃に下げ、メチルヒドロポリシロキサン(粘度20センチストークス)12リットルを導入して更に3時間反応させた後、反応液を取り出し、生成した固体成分をn−ヘプタンで洗浄した。
引き続いて、前記撹拌機付槽を用いて該槽に脱水及び脱酸素したn−ヘプタン5リットルを導入し、次いで、上記で合成した固体成分をマグネシウム原子換算で3モル導入した。ついで、n−ヘプタン2.5リットルに、四塩化珪素5モルを混合して30℃、30分間かけて導入して、温度を70℃に上げ、3時間反応させた後、反応液を取り出し、生成した固体成分をn−ヘプタンで洗浄した。
【0070】
さらに、引き続いて、前記撹拌機付槽を用いて該槽に脱水及び脱酸素したn−ヘプタン2.5リットルを導入し、フタル酸クロライド0.3モルを混合して90℃、30分間で導入し、95℃で1時間反応させた。反応終了後、n−ヘプタンで洗浄した。次いで、室温下四塩化チタン2リットルを追加し、100℃に昇温した後2時間反応した。反応終了後、n−ヘプタンで洗浄した。さらに、四塩化珪素0.6リットル、n−ヘプタン8リットルを導入し90℃で1時間反応し、n−ヘプタンで十分洗浄し、固体成分を得た。この固体成分中にはチタンが1.30重量%含まれていた。
【0071】
次に、窒素置換した前記撹拌機付槽にn−ヘプタン8リットル、上記で得た固体成分を400gと、t−ブチル−メチル−ジメトキシシラン0.27モル、ビニルトリメチルシラン0.27モルを導入し、30℃で1時間接触させた。次いで15℃に冷却し、n−ヘプタンに希釈したトリエチルアルミニウム1.5モルを15℃条件下30分かけて導入、導入後30℃に昇温し2時間反応させ、反応液を取り出し、n−ヘプタンで洗浄して固体触媒成分(a)390gを得た。
得られた固体触媒成分(a)中には、チタンが1.22重量%含まれていた。
更に、n−ヘプタンを6リットル、n−ヘプタンに希釈したトリイソブチルアルミニウム1モルを15℃条件下30分かけて導入し、次いでプロピレンを20℃を越えないように制御しつつ約0.4kg/時間で1時間導入して予備重合した。その結果、固体1g当たり0.9gのプロピレンが重合したポリプロピレン含有の固体触媒成分(a)が得られた。
【0072】
(ii)プロピレン・エチレンブロック共重合体の製造
内容積230リットルの流動床式反応器を2個連結してなる連続反応装置を用いて重合を行った。まず第1反応器で、重合温度55℃、プロピレン分圧18kg/cm(絶対圧)、分子量制御剤としての水素を、水素/プロピレンのモル比で0.056となるように連続的に供給するとともに、トリエチルアルミニウムを5.25g/hrで、固体触媒成分(a)として、上記記載の触媒をポリマー重合速度が14kg/hrになるように供給した。第1反応器で重合したパウダー(結晶性プロピレン重合体)は、反応器内のパウダー保有量を40kgとなるように連続的に抜き出し、第2反応器に連続的に移送した(前段重合工程)。
【0073】
重合温度80℃で、圧力2.0MPaになるように、プロピレンとエチレンをエチレン/プロピレンのモル比で0.50となるように連続的に供給し、更に、分子量制御剤としての水素を、水素/プロピレンのモル比で0.0013となるように連続的に供給すると共に、活性水素化合物としてエチルアルコールを、トリエチルアルミニウムに対して2.1倍モルになるように供給した。第2反応器で重合したパウダーは、反応器内のパウダー保有量を50kgとなるように連続的にベッセルに抜き出し、水分を含んだ窒素ガスを供給して反応を停止させ、プロピレン・エチレンブロック共重合体を得た(後段重合工程)。得られたプロピレン・エチレンブロック共重合体を(改質剤−1)とした。
【0074】
(製造例2〜4、6〜9)
製造例1で使用した触媒並び重合方法を用い、上記前段重合工程におけるプロピレンと及び水素量、後段重合工程におけるプロピレンとエチレンの供給量及び水素量、各段階の重合時間、重合温度を表1のように変更し、プロピレン・エチレンブロック共重合体(改質剤−2〜4、6〜9)を製造した。
【0075】
(製造例5)
内容積200リットルのステンレス製オートクレーブをプロピレンガスで十分置換した後、n−ヘプタン60リットル、製造例1で使用した触媒5g及びトリエチルアルミニウム15gを加え、75℃に昇温し、プロピレンを10Kg/Hrの速度で3.4Hr供給した。なお、この間、水素も連続的にMFRが160g/10minになるように供給した。この時点で反応器内の圧力は0.55MPaであったが、プロピレン、水素の供給を停止し30分かけて反応器内圧力が0.20MPaまで下げ前段重合工程を終了した。
次いで、反応器内のガスを反応器内圧力が0.02MPaになるまでパージし水素を取り除き、温度を65℃に変更し、前段重合部の存在下、プロピレンを1.65Kg/Hr、エチレンを1.20Kg/Hrの速度で1.3Hr供給した。この時点で反応器内の圧力は0.03MPaであり、プロピレン、エチレンの供給を停止し反応器内圧力が0.02MPaになった時点で反応を終了した(後段重合工程)。
得られたブロック共重合体にブタノールを1.8リットル添加し、70℃にて3時間かけて触媒を分解した後、水洗により触媒を除去した。更に、遠心分離と乾燥工程を経て、プロピレン・エチレンブロック共重合体(改質剤−5)を得た。
【0076】
【表1】

【0077】
3.成分(B)〜(D)
成分(B)プロピレン−エチレンブロック共重合体として、表2に示す(PP−1)と(PP−2)、成分(C)無機充填剤として表3に示す(タルク−1)と(タルク−2)、成分(D)エチレン系エラストマー又はスチレン系エラストマーとして、表4に示す(エラストマー−1)〜(エラストマー−4)を用いた。
なお、表2〜4に示す成分(B)〜(D)からなる組成物を、予め表5に示す割合で配合し、更に、酸化防止剤として、テトラキス[メチレン−3−(3’5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン(チバガイギー社製、商品名:イルガノックス1010)0.1重量部、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト(チバガイギー社製、商品名:イルガホス168)0.05重量部を配合して、ヘンシェルミキサーで5分間混合した後、二軸混練機(神戸製鋼社製:2FCM)にて210℃の設定温度で混練造粒して被改質材料(ベース材−1〜ベース材−8)とした。
【0078】
【表2】

【0079】
【表3】

【0080】
【表4】

【0081】
【表5】

【0082】
(実施例1)
ベース材−1(100重量部)と改質剤−1(5重量部)との混合物100重量部に対して、酸化防止剤として、テトラキス[メチレン−3−(3’5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン(チバガイギー社製、商品名:イルガノックス1010)0.1重量部、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト(チバガイギー社製、商品名:イルガホス168)0.05重量部を配合して、ヘンシェルミキサーで5分間混合した後、二軸混練機(神戸製鋼社製:2FCM)にて210℃の設定温度で混練造粒することによりポリプロピレン系樹脂組成物を得た。得られたポリプロピレン系樹脂組成物について物性評価(MFR、フローマーク発生距離、−30℃下におけるIzod衝撃強度)を行った。評価結果を表6に示す。
【0083】
(実施例2〜10、比較例1〜14)
表1に示した改質剤と表5に示したベース材を表6に示す組成の割合で配合し、実施例1と同様にして、酸化防止剤を配合して、混練造粒することによりポリプロピレン系樹脂組成物を得た。得られたポリプロピレン系樹脂組成物について物性評価(MFR、フローマーク発生距離、−30℃下におけるIzod衝撃強度)を行った。評価結果を表6に示す。
【0084】
【表6】

【0085】
表6より明らかなように、本発明の改質剤を用いたポリプロピレン系樹脂組成物(実施例1〜3、実施例4、5、6、7、8、9、10)は、対応するベース材(比較例4、5、6、7、8、9、10、11、12、14)と比べてフローマーク発生距離が伸び、200mm以上であり、成形品外観が改良され、物性への影響も少ない(実施例1〜10)。また、比較例13では、フローマーク発生距離が伸びるものの、ゲルが成形品表面に見られた。[η]homoが大きいとフローマーク発生距離がほとんど伸びなかった(比較例1)。プロピレン・エチレン含有量が少なく、MFRが高い場合には、フローマーク発生距離はやや伸びたが充分ではなく、物性も低下した(比較例2)。[η]copolyが小さく、[η]copoly/[η]homoが小さく、MFRが高い場合には、フローマーク発生距離がほとんど伸びなかった(比較例3)。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明のプロピレン系ブロック共重合体は、汎用のポリプロピレン系樹脂に配合するだけで、ポリプロピレン系樹脂組成物の射出成形時の成形加工性、成形時のフローマーク特性をコントロールすることができる成形品外観改質剤とすることができ、該ポリプロピレン系樹脂用成形品外観改質剤を配合したポリプロピレン系樹脂組成物は、成形加工性、フローマーク特性に優れ、特に、バンパー、ロッカーモール、サイドモール、オーバーフェンダーをはじめとする自動車外装用部品等の大型射出成形に好適である。したがって、現在すでに使われている自動車外装部品等の射出成形品においても、成形外観が問題になるケースに添加することで改良効果が期待できる。特に、経済活動のグローバル化が進む中で、世界のどこでも入手可能である汎用的な樹脂をベース(主成分)とする樹脂組成物において、前述の問題を解決する樹脂材料が強く求められているが、世界のどこでも入手可能な汎用的な成形品外観改質用樹脂は添加量が多く、物性への影響が大きいことが現状であり、本発明は、これを克服する必要不可欠な革新的な技術となるものである。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶性プロピレン重合体部分とプロピレン・エチレンランダム共重合体部分とからなり、下記(a)〜(d)の要件を満たすことを特徴とするプロピレン系ブロック共重合体。
(a)結晶性プロピレン重合体部分の135℃でデカリンを溶媒として測定した固有粘度[η]homoは、1.2dl/g以下であること
(b)プロピレン・エチレンランダム共重合体部分は、そのエチレン含量が30〜70重量%であり、その固有粘度[η]copolyが2.5〜7.0dl/gであり、かつプロピレン系ブロック共重合体全体に占める当該部分の割合が40〜80重量%であること
(c)プロピレン系ブロック共重合体の全体のメルトフローレートは、0.1〜10g/10分の範囲にあること
(d)結晶性プロピレン重合体部分の固有粘度[η]homoに対するプロピレン・エチレンランダム共重合体部分の固有粘度[η]copolyの比([η]copoly/[η]homo)は、2.5〜10の範囲にあること
【請求項2】
結晶性プロピレン重合体部分とプロピレン・エチレンランダム共重合体部分とからなり、下記(a)〜(d)の要件を満たすことを特徴とするプロピレン系ブロック共重合体を有効成分とする成形品外観改質剤。
(a)結晶性プロピレン重合体部分の135℃でデカリンを溶媒として測定した固有粘度[η]homoは、1.2dl/g以下であること
(b)プロピレン・エチレンランダム共重合体部分は、そのエチレン含量が30〜70重量%であり、その固有粘度[η]copolyが2.5〜7.0dl/gであり、かつプロピレン系ブロック共重合体全体に占める当該部分の割合が40〜80重量%であること
(c)プロピレン系ブロック共重合体の全体のメルトフローレートは、0.1〜10g/10分の範囲にあること
(d)結晶性プロピレン重合体部分の固有粘度[η]homoに対するプロピレン・エチレンランダム共重合体部分の固有粘度[η]copolyの比([η]copoly/[η]homo)は、2.5〜10の範囲にあること
【請求項3】
ポリプロピレン系樹脂被改質材料100重量部と、請求項2に記載の(A)成形品外観改質剤1〜25重量部とを含有することを特徴とするポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項4】
ポリプロピレン系樹脂被改質材料が、(B)プロピレン−エチレンブロック共重合体を含有することを特徴とする請求項3に記載のポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項5】
ポリプロピレン系樹脂被改質材料が、
(B)プロピレン−エチレンブロック共重合体65〜99重量%、及び
(C)無機充填剤1〜35重量%
を含有するポリプロピレン樹脂組成物であることを特徴とする請求項3に記載のポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項6】
ポリプロピレン系樹脂被改質材料が、
(B)プロピレン−エチレンブロック共重合体65〜99重量%、及び
(D)エチレン系エラストマー又はスチレン系エラストマー1〜35重量%
を含有するポリプロピレン樹脂組成物であることを特徴とする請求項3に記載のポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項7】
ポリプロピレン系樹脂被改質材料が、
(B)プロピレン−エチレンブロック共重合体45〜98重量%、
(C)無機充填剤1〜40重量%、及び
(D)エチレン系エラストマー又はスチレン系エラストマー1〜40重量%
を含有するポリプロピレン樹脂組成物であることを特徴とする請求項3に記載のポリプロピレン系樹脂組成物。

【公開番号】特開2006−219667(P2006−219667A)
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−4754(P2006−4754)
【出願日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【出願人】(596133485)日本ポリプロ株式会社 (577)
【Fターム(参考)】