説明

ポリプロピレン系樹脂シート及びポリプロピレン系樹脂容器

【課題】蓋体や容器本体が薄肉化された容器などを従来の熱成形によって製造することができ、しかも、製造された容器などの成形品に対して実用に耐えうる腰強度などの強度特性を優れた透明性とともに付与しうるポリプロピレン系樹脂シートと、薄肉化されつつも実用に耐えうる強度を有し、優れた透明性を有する容器の提供を課題としている。
【解決手段】樹脂成分にMFR値が1〜5g/10分のいずれかとなるポリプロピレン系樹脂の一種以上で構成された第一成分が所定量含有されており、前記樹脂成分には、前記第一成分のポリプロピレン系樹脂よりもMFRの値が小さく、且つメタロセン触媒によって重合されたランダム共重合ポリプロピレン系樹脂の一種以上で構成された第二成分がさらに所定量含有されており、押出し方向における曲げ弾性率とシート幅方向における曲げ弾性率とが、いずれも2000MPa以上で、ヘーズが15%以下であることを特徴とするポリプロピレン系樹脂シートなどを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリプロピレン系樹脂シート及びポリプロピレン系樹脂容器に関し、特に、機械強度、透明性、及び熱成形性に優れたポリプロピレン系樹脂シート及び、ポリプロピレン系樹脂シートを熱成形した容器に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリ塩化ビニル樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂等の熱可塑性樹脂は、各種包装材に用いられており、これら包装材の成形においては、熱可塑性樹脂を加熱してシート状に押し出す押出し成形を実施し、得られた樹脂シートを再加熱して、真空成形、真空圧空成形等の熱成形方法によって二次加工する方法が採用されており、この真空成形等の熱成形方法は、生産性が高く、多量の需要に応じられることから特に大量生産向きの成形方法として広く普及している。
【0003】
一方、ポリプロピレン系樹脂は、耐熱性、機械強度、耐衝撃性、ならびに、衛生面に優れており、包装容器等の包装材に適した材料であるが、ポリプロピレン系樹脂を熱成形して包装容器等を形成させると、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリスチレン系樹脂等の非晶性樹脂を熱成形した場合に比較して透明性に劣るという問題がある。
ポリプロピレン系樹脂の透明性を改良する方法としては、エチレン等のオレフィンと共重合する方法、あるいは、結晶造核剤を添加する方法が用いられているが、これらの方法は、ポリプロピレン系樹脂シートの透明性をある程度向上させることができる反面、強度が損なわれやすく、例えば、容器本体の底面部や蓋体の天面部の形状が矩形の容器をポリプロピレン系樹脂シートで製造した場合に、この底面部や天面部の対向する辺の中央部どうしを近接させる方向に圧縮した際の強度(以下「腰強度」ともいう)が弱く、容器の強度が弱くなるという問題を有している。
特に近年においては、環境面に配慮してできるだけ少ない原材料で強度と透明性とを兼ね備えた容器の開発が求められており上記問題の解決が強く求められている。
【0004】
このような問題に対しMFRが0.1〜20g/10分のポリプロピレン樹脂と、このポリプロピレン樹脂と同じMFRを有するプロピレン・α−オレフィン共重合体とを特定の割合で含むシート成形用ポリプロピレン系樹脂組成物が知られている(下記特許文献1参照)。
また、下記特許文献1には、強度と透明性とを兼ね備えたポリプロピレン系樹脂シートが得られることが記載されている。
【0005】
しかしながら、このようなポリプロピレン系樹脂シートを成形して得られる容器などの成形品は、成形によって厚みがより薄くなることなどから、薄肉化されたポリプロピレン系樹脂シートを成形して得られる成形品に十分な腰強度を付与することが困難である。
【0006】
【特許文献1】特開2006−193606号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、蓋体や容器本体が薄肉化された容器などを従来の熱成形によって製造することができ、しかも、製造された容器などの成形品に対して実用に耐えうる腰強度などの強度特性を優れた透明性とともに付与しうるポリプロピレン系樹脂シートと、薄肉化されつつも実用に耐えうる強度を有し、優れた透明性を有する容器の提供を課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の目的を達成するため鋭意検討した結果、MFRが1〜5g/10分のポリプロピレン系樹脂に、前記ポリプロピレン系樹脂よりも小さいMFR値を有するメタロセン触媒が使用されて得られたランダム共重合ポリプロピレン系樹脂を特定の割合で含有する樹脂成分に対して結晶造核剤を所定の割合で含んだ樹脂組成物を用いることによって、成形性に優れ、且つ強度と透明性とを兼ね備えた薄肉のシートを得ることができ、この薄肉化されたシートを使用して成形された容器が実用に耐えうる強度を有し、且つ透明性にも優れることを見出し本発明の完成に至った。
【0009】
即ち、本発明は、ポリプロピレン系樹脂を含む樹脂成分100重量部に対し、結晶増核剤が0.01〜1重量部含有されている樹脂組成物が押出しシート成形されてなるポリプロピレン系樹脂シートであって、前記樹脂成分には、MFR値が1〜5g/10分のいずれかとなるポリプロピレン系樹脂の一種以上で構成された第一成分が60重量%を超え且つ95重量%以下含有されており、さらに、前記樹脂成分には、前記第一成分のポリプロピレン系樹脂よりもMFRの値が小さく、且つメタロセン触媒によって重合されたランダム共重合ポリプロピレン系樹脂の一種以上で構成された第二成分が5重量%以上40重量%未満含有されており、しかも、前記押出しシート成形の押出し方向における曲げ弾性率と、前記押出し方向に対して直交するシート幅方向における曲げ弾性率とが、いずれも2000MPa以上で、ヘーズが15%以下であることを特徴とするポリプロピレン系樹脂シートと、このようなポリプロピレン系樹脂シートが用いられてなるポリプロピレン系樹脂容器とを提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明のポリプロピレン系樹脂シートは、蓋体や容器本体が薄肉化された容器などを従来の熱成形によって製造することができ、しかも、製造された容器などの成形品に対して実用に耐えうる腰強度などの強度特性を、優れた透明性とともに付与させうる。
また、本発明のポリプロピレン系樹脂容器は、薄肉化されつつも強度と透明性とを兼ね備えた状態に形成されうる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の実施形態として、まず、ポリプロピレン系樹脂シートについて説明する。
本実施形態のポリプロピレン系樹脂シートは、その原材料となる樹脂組成物にポリプロピレン系樹脂を含む樹脂成分と、結晶造核剤とが含有されている。
前記樹脂成分と前記結晶造核剤とは、樹脂成分100重量部に対して結晶造核剤が0.01〜1重量部のいずれかの割合となるように前記樹脂組成物に含有されている。
【0012】
前記樹脂成分には、MFR値が1〜5g/10分のいずれかとなるポリプロピレン系樹脂の一種以上で構成された第一成分と、該第一成分のポリプロピレン系樹脂よりもMFRの値が小さく、且つメタロセン触媒によって重合されたランダム共重合ポリプロピレン系樹脂の一種以上で構成された第二成分とが含有されており、前記第一成分は、前記樹脂成分中に60重量%を超え95重量%以下の割合で含有され、前記第二成分は、前記樹脂成分中に5重量%以上40重量%未満の割合で含有されている。
【0013】
なお、第一成分のポリプロピレン系樹脂と第二成分のポリプロピレン系樹脂のMFRの値は、いずれも、JIS K7210に準拠して、温度230℃、荷重2.16kgの条件(JIS K7210における“条件M”)で測定される値である。
【0014】
前記第一成分のポリプロピレン系樹脂のMFRが1〜5g/10分の範囲の内のいずれかの値とされているのは、MFRが上記範囲を超えて大きな値となると溶融張力が不足して、押出しシート成形することが困難となり、逆に上記範囲よりも小さな値となると押出しシート成形の際に流動不良が発生してポリプロピレン系樹脂シートに厚み変動を発生させるおそれを有するためである。
この押出しシート成形における作業性の観点からは、本実施形態における第一成分のポリプロピレン系樹脂には、MFR1.5〜4g/10分の範囲の内のいずれかのポリプロピレン系樹脂を採用することが好ましい。
【0015】
前記第一成分は、MFRの値が上記範囲内となるものであれば、同じMFR値か、または、異なるMFR値を有する複数種のポリプロピレン系樹脂によって構成させることも可能である。
また、第一成分に用いるポリプロピレン系樹脂は、そのモノマー種等にも特に限定がなされるものではなく、例えば、プロピレンが単独重合されたポリプロピレン樹脂や、プロピレンとα−オレフィンとのランダム共重合体(ランダム共重合ポリプロピレン系樹脂)などを採用しうる。
したがって、例えば、MFRが1〜5g/10分の範囲の内のいずれかの値を有するポリプロピレン樹脂と、MFRが1〜5g/10分の範囲の内のいずれかの値を有するランダム共重合ポリプロピレン系樹脂とによって第一成分を構成することも可能である。
【0016】
なお、本明細書中においては“α−オレフィン”との用語をエチレンも含めた意味で用いており、前記ランダム共重合ポリプロピレン系樹脂を構成するα−オレフィンとしては、エチレン、ブテン−1、ペンテン−1、ヘキセン−1、4−メチル−ペンテン−1等が挙げられる。
【0017】
前記第一成分に用いられるポリプロピレン系樹脂としてはポリプロピレン樹脂か、あるいは、プロピレンとエチレンとがランダム共重合され、且つプロピレンを99.0重量%以上含有するランダム共重合ポリプロピレン系樹脂かのいずれかであることが好ましく、ポリプロピレン樹脂が特に好ましい。
【0018】
前記第一成分に用いられるポリプロピレン系樹脂は、高立体規則性重合触媒を用いることによって得ることができ、この第一成分のポリプロピレン系樹脂の重合に用いられる高立体規則性重合触媒としては、塩化チタン、アルコキシチタン等を出発材料として調製されたチタン化合物を用いた、いわゆるチーグラー・ナッタ触媒が挙げられる。
【0019】
ポリプロピレン系樹脂の重合様式は、触媒成分とモノマーが効率よく接触するならば、あらゆる様式の方法を採用することができる。具体的には、不活性溶媒を用いるスラリー法、不活性溶媒を実質的に用いずプロピレンを溶媒として用いるバルク法、溶液重合法あるいは実質的に液体溶媒を用いず各モノマーを実質的にガス状に保つ気相法を採用することができる。
【0020】
また、連続重合、回分式重合も適用されうる。スラリー重合の場合には、重合溶媒としてヘキサン、ヘプタン、ペンタン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン等の飽和脂肪族または芳香族炭化水素の単独あるいは混合物を用いることができる。
【0021】
これらの重合におけるMFRの調整は、通常、水素の導入によって行われるが、その場合、水素の導入量は重合開始から終了まで一定としてもよく、連続的に或いは段階的に変化させてもよい。
【0022】
このような第一成分に対して、前記第二成分のポリプロピレン系樹脂には、メタロセン触媒によって重合されたランダム共重合ポリプロピレン系樹脂を用いる。
前記ランダム共重合ポリプロピレン系樹脂は、プロピレンとα−オレフィンとをランダム共重合することによって容易に得ることができる。
この第二成分は、第一成分よりも低いMFRを有するものであれば、同じMFR値か、または、異なるMFR値を有する複数種のランダム共重合ポリプロピレン系樹脂によって構成させることができる。
前記第二成分のランダム共重合ポリプロピレン系樹脂を構成するα−オレフィンとしては、エチレン、ブテン−1、ペンテン−1、ヘキセン−1、オクテン−1、4−メチル−ペンテン−1等を用いることができ、中でもエチレンとのランダム共重合体が好適である。
α−オレフィンの添加量は、ランダム共重合ポリプロピレン系樹脂中のα−オレフィン含量として、通常、0.3〜2.0重量%、好ましくは0.6〜1.8重量%の範囲から選択される。
【0023】
重合に用いる前記メタロセン触媒としては、下記成分(a)および(b)とからなる触媒、又は、必要に応じて(a)、(b)に加えて、更に成分(c)を組み合わせて得られるものを例示することができる。
成分(a):下記構造式(I)で表される遷移金属錯体化合物
成分(b):助触媒、即ち、成分(a)と反応させることにより、該成分(a)を活性化することのできる化合物
成分(c):有機アルミニウム化合物
【0024】
【化1】

【0025】
(ただし、構造式(I)中、AおよびA’は共役五員環を含む配位子である。Qは架橋基であり、好ましくはアルキレン基、ジアルキルシリレン基、ジアルキルゲルミレン基、シラフルオレン基である。Mは周期表4〜6族、好ましくは4族の遷移金属原子、さらに好ましくは、ジルコニウム、ハフニウムである。XおよびYは、ハロゲン原子もしくは炭化水素基などのシグマ(σ)性配位子である。Aおよび/またはA’は共役五員環以外の副環を有していてもよく、好ましくはアズレニル基である。)
【0026】
成分(b)の助触媒は、遷移金属錯体化合物を活性化する成分で、遷移金属錯体化合物の補助配位子と反応して当該錯体を、オレフィン重合能を有する活性種に変換させうる化合物であり、具体的には下記(b−1)〜(b−4)が挙げられる。
(b−1)アルミニウムオキシ化合物
(b−2)遷移金属錯体化合物(a)と反応して遷移金属錯体化合物(a)をカチオンに変換することが可能なイオン性化合物またはルイス酸
(b−3)固体酸
(b−4)イオン交換性層状珪酸塩
【0027】
(b−1)アルミニウムオキシ化合物の具体的例示としては、公知のアルモキサン化合物を例示することができる。より具体的には、メチルアルモキサン、エチルアルモキサン、プロピルアルモキサン、ブチルアルモキサン、イソブチルアルモキサン、メチルエチルアルモキサン、メチルブチルアルモキサン、メチルイソブチルアルモキサン等が例示される。
【0028】
(b−2)の化合物としては、公知のホウ素化合物が例示でき、より具体的には、トリアルキルアルミニウムとアルキルボロン酸との反応物、例えば、トリメチルアルミニウムとメチルボロン酸の2:1の反応物、トリイソブチルアルミニウムとメチルボロン酸の2:1反応物、トリメチルアルミニウムとトリイソブチルアルミニウムとメチルボロン酸の1:1:1反応物、トリエチルアルミニウムとブチルボロン酸の2:1反応物等が例示される。(b−2)の他の例示としてはイオン性化合物が例示でき、より具体的には、カルボニウムカチオン、アンモニウムカチオンなどの陽イオンと、トリフェニルホウ素、トリス(3,5−ジフルオロフェニル)ホウ素、トリス(ペンタフルオロフェニル)ホウ素等の有機ホウ素化合物との錯化物等が挙げられる。
【0029】
(b−3)の固体酸としては、アルミナ、シリカ−アルミナ、シリカ−マグネシア等が挙げられる。
【0030】
(b−4)のイオン交換性層状珪酸塩としては、モンモリロナイト、ザウコナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、スチーブンサイト、ベントナイト、テニオライト等のスメクタイト族、バーミキュライト族、雲母族などの珪酸塩化合物が用いられる。
これらの珪酸塩化合物は化学処理を施したものであることが好ましい。
ここで化学処理とは、表面に付着している不純物を除去する表面処理と層状珪酸塩化合物の結晶構造、化学組成に影響を与える処理のいずれをも用いることができる。
【0031】
具体的には、(イ)酸処理、(ロ)アルカリ処理、(ハ)塩類処理、(ニ)有機物処理等が挙げられる。
これらの処理は、表面の不純物を取り除く、層間の陽イオンを交換する、結晶構造中のAl、Fe、Mg等の陽イオンを溶出させるなどの作用によってイオン複合体、分子複合体、有機誘導体等を形成させて、層状珪酸塩化合物の表面積や層間距離、固体酸性度等を変えることができる。
これらの処理は単独で行ってもよいし、2つ以上の処理を組み合わせてもよい。
【0032】
成分(c)は、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、ジエチルアルミニウムクロリド等の有機アルミニウム化合物が例示される。
【0033】
これらの(a)〜(c)の組合せからなるメタロセン触媒の詳細な製造方法や各成分の具体的な例示は、例えば、特開平10−226712号公報、特開平11−240909号公報、特開2000−95791号公報、特開2002−12596号公報、特開2003−292518号公報に開示がある。
【0034】
メタロセン触媒の調整法としては、成分(a)、成分(b)ならびに必要に応じて用いられる成分(c)からなるメタロセン触媒を、重合槽内であるいは重合槽外で、重合させるべきモノマーの存在下あるいは不存在下に接触させることにより行うことができる。
また、上記触媒は、オレフィンの存在下で予備重合を行ったものであっても良い。
予備重合に用いられるオレフィンとしては、プロピレン、エチレン、1−ブテン、3−メチルブテン−1、スチレン、ジビニルベンゼン等が挙げられる。
【0035】
前記メタロセン触媒を使用するランダム共重合ポリプロピレンの重合法としては、メタロセン触媒と所要のモノマーとを混合接触させることにより行われる。
反応系中の各モノマーの量比は経時的に一定である必要はなく、各モノマーを一定の混合比で供給することも便利であるし、供給するモノマーの混合比を経時的に変化させることも可能である。
また、共重合反応比を考慮してモノマーのいずれかを分割添加することもできる。
【0036】
重合様式は、触媒成分と各モノマーが効率よく接触する様式であれば、あらゆる様式の方法を採用することができる。
具体的には、不活性溶媒を用いるスラリー法、不活性溶媒を実質的に用いずプロピレンを溶媒として用いるバルク法、溶液重合法あるいは実質的に液体溶媒を用いず各モノマーを実質的にガス状に保つ気相法を採用することができる。
また、連続重合、回分式重合にも適用される。
スラリー重合の場合には、重合溶媒としてヘキサン、ヘプタン、ペンタン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン等の飽和脂肪族または芳香族炭化水素の単独あるいは混合物を用いることができる。
【0037】
重合条件としては、重合温度が−78〜160℃、好ましくは0〜150℃であり、そのときの分子量調節剤として補助的に水素を用いることができる。また、重合圧力は0〜9MPaG、好ましくは0〜6MPaG、特に好ましくは1〜5MPaGが適当である。
【0038】
前記結晶造核剤は、ポリプロピレン系樹脂シートの透明性、機械強度を向上させるために添加されるものであり、樹脂成分100重量部に対するして、0.01〜1重量部のいずれかの割合となるように前記樹脂組成物に含有されている。
この樹脂組成物における結晶造核剤の配合割合が上記のような範囲とされているのは、上記範囲よりも少ない配合量ではポリプロピレン系樹脂シートの透明性の確保が困難となるためであり、逆に上記範囲を超える量で樹脂組成物に含有させても、ポリプロピレン系樹脂シートの透明性のさらなる向上が望めないためである。
このポリプロピレン系樹脂シートに対する優れた透明性付与の観点からは、結晶造核剤の配合量は、樹脂成分100重量部に対して0.03〜0.8重量部の範囲の内のいずれかとすることが好ましく、0.05〜0.6重量部の範囲の内のいずれかとすることがさらに好ましい。
【0039】
前記結晶造核剤としては芳香族カルボン酸金属塩、芳香族リン酸金属塩、アルジトール系誘導体、ロジンの金属塩等が用いられる。
これらは、単独、または、複数組み合わせて用いることができる。
前記芳香族カルボン酸金属塩としては、p−t−ブチル安息香酸アルミニウムが好適である。
前記芳香族リン酸金属塩としては、リン酸2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)ナトリウム、リン酸2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)アルミニウムが好適である。
前記アルジトール系誘導体としては、ヘキシトール系誘導体、ノニトール系誘導体が好ましい。
例えば、p−メチル−ベンジリデンソルビトール、p−エチル−ベンジリデンソルビトールが好適である。
これらの中でも、樹脂成分に対して溶解するアルジトール系誘導体が好ましい。
前記ロジンの金属塩としては、ロジンのナトリウム塩等が好適である。
【0040】
本実施形態のポリプロピレン系樹脂シートの形成に用いられる樹脂組成物には、前記樹脂成分および前記結晶造核剤からなる必須成分に加えて、他の付加的成分を本発明の効果を著しく損なわない範囲で配合することができる。
この任意に加えられる付加的成分としては、通常のポリオレフィン用に使用される酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、滑剤、帯電防止剤、防曇剤、中和剤、金属不活性剤、着色剤、分散剤、過酸化物、充填剤、蛍光増白剤等が挙げられる。
【0041】
また、要すれば、付加的成分として第一成分と第二成分以外の樹脂成分を少量配合することができる。
例えば、石油樹脂、エラストマー、高密度ポリエチレン樹脂、線状低密度ポリエチレン樹脂、高圧法低密度ポリエチレン樹脂などを0〜5重量%未満の範囲で適宜使用することができる。
【0042】
本実施形態のポリプロピレン系樹脂シートの製造方法としては、通常に使用されるT型ダイスを装着した押出成形機を利用することができる。具体的な例をT型ダイス成形機で説明すると、押出機に樹脂を供給し、190〜260℃の温度で加熱溶融混練後、T型ダイスのダイリップよりシート状に押し出す押出しシート成形を実施し、キャスティングドラムで冷却、引取機で引き取りシートを作製する方法が挙げられる。
冷却に関しては、前記キャスティングドラム法の他に、ポリシングロール法、スイングロール法、ベルトキャスト法等を使用することができ、エアーナイフ法、静電密着法、水冷法等の冷却装置等と組み合わせて用いることもできる。
【0043】
本実施形態のポリプロピレン系樹脂シートを製造する製造方法においては、前記第一成分と前記第二成分とを含む樹脂成分と、前記結晶造核剤とを含む樹脂組成物とが含有されてなる樹脂組成物を上述した押出成形機で押出し、押出された溶融シートを上記のような冷却装置で冷却することにより押出しシート成形における押出し方向の曲げ弾性率と、前記押出し方向に対して直交するシート幅方向における曲げ弾性率とが、いずれも2000MPa以上で、透明性の高いポリプロピレン系樹脂シートを得ることができる。
そして、容器などの製造に適した0.1〜2.0mmの厚みにおいて、容器などに求められる優れた透明性となるようポリプロピレン系樹脂シートを製造することができる。
後述する容器の製造においては、ポリプロピレン系樹脂シートに熱成形が加えられることから、厚みや結晶化度が変化してヘーズなどの透明性を示す値が変化するおそれを有する。
したがって、少なくとも容器に求められる透明性がポリプロピレン系樹脂シートに備えられている必要があり、通常、ポリプロピレン系樹脂シートは、ヘーズが15%以下となるように形成される必要がある。
【0044】
前記ポリプロピレン系樹脂シートは、該ポリプロピレン系樹脂シートによって形成される容器などの製品に対して優れた透明性と実用に耐える強度とを付与し得る点において、その厚みが0.1〜2.0mmの範囲であることが好ましく、0.1〜1.5mmであることがより好ましい。特に好ましくは0.1〜1.0mmである。
なお、上記範囲が好適であるのは、ポリプロピレン系樹脂シートの厚みがこの範囲を上回ると透明性が低下しやすく、上記範囲を下回ると熱成形されて形成される製品の機械強度が不足するおそれを有するためである。
【0045】
本発明においては、ポリプロピレン系樹脂シートは、単層の押出成形機の他に2種以上の樹脂を同時に押出して成形することができる多層押出成形機を使用して形成させることができる。
この場合、前記樹脂組成物によって形成された層以外の層(他層)を本発明の効果を損なわない範囲で追加することもできる。この他層としては前記樹脂組成物以外のオレフィン系樹脂、再生樹脂、ガスバリアー性樹脂、接着性樹脂等を挙げることができる。
【0046】
また、本実施形態のポリプロピレン系樹脂シートは、シート表面に帯電防止剤、防曇剤、滑剤などを塗布することによって物性の改良を行なった後に、容器などの製品の形成に用いることもできる。
ここで、防曇剤としては、ショ糖脂肪酸エステルやポリグリセリン脂肪酸エステル、滑剤としてはシリコンオイルやアミド系滑剤などが使用され得る。
【0047】
このポリプロピレン系樹脂シートは、真空成形法や真空圧空成形法などによって容器などの製品に二次加工することができる。
被収容物を収容するための収容凹部が形成された容器本体と、蓋体とを有する容器(蓋付容器)などにおいては、容器の天地強度や腰強度に対して影響を与える容器本体の底面部または蓋体の天面部に特に優れた強度が求められ、被収容物の展示に影響を与える蓋体の天面部に特に優れた透明性が求められている。
したがって、少なくとも前記底面部と前記天面部のいずれかが本実施形態のポリプロピレン系樹脂シートによって形成され、ポリプロピレン系樹脂シートの押出しシート成形における押出し方向の曲げ弾性率と、前記押出し方向に対して直交するシート幅方向の曲げ弾性率とが、いずれも2000MPa以上で、ヘーズが15%以下となるように形成されることで実用に耐える強度を有しつつ被収容物の展示性能に優れた容器とすることができる。
【実施例】
【0048】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0049】
[実施例1、3〜5、比較例1〜4]
表1に記載した配合の樹脂組成物をスクリュー径32mmの押出機から230℃に加熱した450mm幅のT型ダイスによりシート状に押し出し、キャスティングドラム(内部に50℃の冷却水を通水)で挟み冷却固化させて引き取り、ポリプロピレン系樹脂シートを得た。
なお、このとき得られるシートの厚みが、0.3mmとなるよう調整しつつポリプロピレン系樹脂シートを作製した。
【0050】
[実施例2]
キャスティングドラムで挟んで冷却する方法に代えて、図1に示すような、冷却用のロール1と無端ベルト2を組み合わせた冷却装置によってT型ダイス3から押出された樹脂組成物をロール1と無端ベルト2で挟んで冷却してポリプロピレン系樹脂シート4を作製した以外は、実施例1と同様にポリプロピレン系樹脂シートを作製した。
【0051】
(ポリプロピレン系樹脂シートの評価)
(透明性)
実施例、比較例のポリプロピレン系樹脂シートについての透明性は、JIS K7105に準拠してヘーズを測定した。透明性の評価はヘーズ15%以下のものを透明性良好とした。
この透明性良好のものを“○”、そうでないものを“×”として評価結果を表1に示す。
【0052】
(強度)
ポリプロピレン系樹脂シートから、長さ50±0.2mm、幅25±0.2mmの短冊状試験片を切り出して評価用試験片を作製し曲げ強度を測定した。
なお、ポリプロピレン系樹脂シートの押出し方向が評価試料の長手方向となるように切り出した試験片(試験片1)と押出し方向と直交するシート幅方向が評価試料の長手方向となるように切り出した試験片(試験片2)の2通りの試験片を用いて曲げ応力の測定を実施した。
測定は、温度20℃の条件下、20mmの距離を設けて隔てられた2つの支持台上に、該支持台間の間隙部が試験片の長手方向略中央部に位置するように試験片を載置して、この試験片における前記間隙部の中央部に相当する位置に上面側から圧子を当接させて試験片を撓ませて実施した。
より具体的には、JIS K7171に記載の計算方法に基づいて、下端部の曲率半径が5mmの圧子を、前記下端部を試験片の上面に当接させて100mm/minの速度で下方に向けて移動させた際に試験片に負荷される荷重から曲げ応力を求め、その値から曲げ弾性率を算出した。
シートの強度として、曲げ弾性率が2000MPa以上のものを「良好」として判定した。
この強度良好のものを“○”、そうでないものを“×”として評価結果を表1に示す。
【0053】
(容器の評価)
(成形性)
各実施例、比較例のポリプロピレン系樹脂シートを、間接加熱式真空圧空成形機(近畿機会社製)を使用して、250℃に設定されたヒーターで上下より加熱し、真空度700torr(mmHg)、圧空圧力3.0kg/cm2の条件で、図2に示す蓋型成形品(容器の蓋体)を真空圧空成形法にて成形した。
得られた蓋型成形品を目視にて観察し、金型形状が再現性良好と判定された場合を“○”、一部に金型形状が再現されていない箇所が見られる場合を“×”として判定した。
結果を表1に示す。
【0054】
(透明性、強度)
成形品の透明性と強度については、ポリプロピレン系樹脂シートの評価と同様に実施した。
すなわち、透明性は、JIS K7105によってヘーズを測定し、ヘーズが15%以下のものを“○”、そうでないものを“×”として判定した。結果を表1に示す。
また、強度は、蓋型成形品から、図3に示すような形で2種類の試験片(長手方向が押出し方向となる試験片1、長手方向がシート幅方向となる試験片2)を採取し、曲げ弾性率が2000MPa以上のものを“○”、そうでないものを“×”として判定した。結果を表1に示す。
【0055】
(腰強度)
温度20℃の条件下、蓋型成形品の長辺側の側縁(169mm長さの側の側縁)の中央部どうしを近接させる方向に力を加え、腰強度を測定した。
より具体的には、図4に示すように、蓋型成形品に対する当接幅がそれぞれ15mmとなる上部可動突子と下部固定突子とを有する治具を島津製作所製の「精密万能試験機オートグラフAG−I」に装着し、蓋型成形品の長辺が上下に平行となるように立たせた状態で蓋型成形品を前記治具にセットして、しかも、169mm長さの辺の中央部にそれぞれと上部可動突子と下部固定突子とが当接されるようにセットして、上部可動突子を100mm/minの速度で下方(図4中の矢印方向)に向けて移動させて蓋型成形品を10mm圧縮し、その際の応力を腰強度(N)として測定した。
なお、容器には、実用性の観点から、図2に示すような蓋型成形品においては、2N以上の腰強度が求められている。
【0056】
(天地強度)
温度20℃の条件下、天面部を押圧して蓋型成形品を圧縮する方向に力を加え、天地強度を測定した。
より具体的には、図5に示すように、蓋型成形品を伏せた状態で載置することによって囲まれる空間の空気を蓋型成形品の圧縮時に逃がし得るように貫通孔が形成された下部平板を上部平板とともに島津製作所製の「精密万能試験機オートグラフAG−I」に装着し前記下部平板上に蓋型成形品を載置し、前記上部平板を下方(図5中の矢印方向)に向けて100mm/minの速度で移動させて蓋型成形品を10mm圧縮し、その際の応力を天地強度(N)として測定した。
なお、容器には、実用性の観点から、図2に示すような蓋型成形品においては、40N以上の天地強度が求められている。
【0057】
(結晶化度)
蓋型成形品から示差走査熱量(DSC)測定用試料を採取し、昇温速度10℃/minで融解熱(ΔH、単位:J/g)を測定し、下記式により結晶化度を求めた。
結晶化度(%)=ΔH/ΔHOPP×100(%)
(ここで、ΔHOPPは、結晶化度100%のポリプロピレン樹脂の融解熱として、「J.Brandup and E.M.Innergut:Polymer Handbook.Interscience New York(1965)」に報告されている209J/gの値である。)
【0058】
【表1】

【0059】
以上の結果から、本発明のポリプロピレン系樹脂シートは、成形性に優れ、且つ強度と透明性とを兼ね備えたシートであり、求められる実用に耐えうる腰強度などの優れた成形品強度と透明性とを兼ね備えた容器を一般的な熱成形により形成しうるものであることがわかる。
そして、本発明の容器は、実用に耐えうる成形品強度を発揮し得るとともにヘーズ15%以下という優れた透明性も発揮されている。
これに対し、用いられるポリプロピレン系樹脂の比率やMFR等が本発明のポリプロピレン系樹脂シートと異なる場合には、強度、透明性、成形性の内の少なくとも一つの性能が悪化し、結果として強度と透明性とを共に満足する容器を形成することが困難であることが以上の結果からわかる。
例えば、比較例4では、ランダム共重合ポリプロピレン系樹脂の比率が多いことから、0.3mmの薄肉シートでは曲げ弾性率が低く、このポリプロピレン系樹脂シートを成形した蓋型成形品においても曲げ弾性率が低く、結果、実用に供することのできる腰強度を有していない。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】ポリプロピレン系樹脂シートの製造方法を示す側面図。
【図2】評価に用いた蓋型成形品の構造を示す三面図。
【図3】蓋型成形品からの試験片採取方法を示す平面図。
【図4】腰強度の測定方法を示す側面図(イ)および正面図(ロ)。
【図5】天地強度の測定方法を示す平面図(イ)および正面図(ロ)。
【符号の説明】
【0061】
4:ポリプロピレン系樹脂シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリプロピレン系樹脂を含む樹脂成分100重量部に対し、結晶増核剤が0.01〜1重量部含有されている樹脂組成物が押出しシート成形されてなるポリプロピレン系樹脂シートであって、
前記樹脂成分には、MFR値が1〜5g/10分のいずれかとなるポリプロピレン系樹脂の一種以上で構成された第一成分が60重量%を超え且つ95重量%以下含有されており、
さらに、前記樹脂成分には、前記第一成分のポリプロピレン系樹脂よりもMFRの値が小さく、且つメタロセン触媒によって重合されたランダム共重合ポリプロピレン系樹脂の一種以上で構成された第二成分が5重量%以上40重量%未満含有されており、
しかも、前記押出しシート成形の押出し方向における曲げ弾性率と、前記押出し方向に対して直交するシート幅方向における曲げ弾性率とが、いずれも2000MPa以上で、ヘーズが15%以下であることを特徴とするポリプロピレン系樹脂シート。
【請求項2】
前記第一成分に用いられているポリプロピレン系樹脂がポリプロピレン樹脂である請求項1記載のポリプロピレン系樹脂シート。
【請求項3】
ポリプロピレン系樹脂シートが真空成形または真空圧空成形され、少なくとも容器本体の底面部または蓋体の天面部が前記ポリプロピレン系樹脂シートで形成されているポリプロピレン系樹脂容器であって、
前記底面部または前記天面部は、請求項1または請求項2に記載のポリプロピレン系樹脂シートが用いられて形成されており、しかも、前記ポリプロピレン系樹脂シートの押出しシート成形における押出し方向の曲げ弾性率と、前記押出し方向に対して直交するシート幅方向の曲げ弾性率とが、いずれも2000MPa以上で、ヘーズが15%以下となるように形成されていることを特徴とするポリプロピレン系樹脂容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−242672(P2009−242672A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−92579(P2008−92579)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000239138)株式会社エフピコ (98)
【Fターム(参考)】