説明

ポリベンザゾール繊維

【課題】 従来のポリベンザゾール繊維に比べて、耐久性が飛躍的に向上したポリベンザゾール繊維を提供することを目的とする。
【解決手段】 ポリベンザゾールのベンザゾール骨格にハロゲン基、メチル基、エチル基などの側鎖を導入したポリベンザゾールポリマーからなるポリベンザゾール繊維に、300〜600℃での加熱により分子鎖間架橋処理が施されてなる耐久性に優れることを特徴とするポリベンザゾール繊維である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐久性に優れたポリベンザゾール繊維を製造する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
剛直高分子の溶液いわゆる液晶性高分子は流動方向に分子鎖が配向しやすく、一旦配向すると分子鎖がランダムな向きに変わるまでの時間が長くかかるといった性質から高度に配向した高強度・高弾性率成形体を製造することができる。さらに、剛直性ポリマーはガラス転移温度が高いために耐熱性成形体を得ることができる。
【特許文献1】特開平6−341015号公報
【0003】
このように、剛直性高分子であるポリベンザゾールポリマーから製造された繊維は、優れた強度・弾性率・耐熱性を示すため、利用分野は幅広い。しかしながら、近年、さらなる性能の向上が望まれている。特に、高温高湿度に対しても優れた耐久性を有する、すなわち、高温かつ高湿度下に長時間曝露された場合でも強度を十分に維持することができるポリベンザゾール繊維が強く望まれている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記事情に着目してなされたものであり、その目的は、高温かつ高湿度下に長時間曝露されることによる強度低下の小さいポリベンザゾール繊維を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、下記化学式1の分子構造からなるポリベンザゾール繊維が不活性ガス下の活性エネルギー線照射により分子鎖間架橋処理を施されてなり、50繰り返し単位当たり1箇所以上架橋されていることを特徴とするポリベンザゾール繊維である。
【化4】

但し、化学式1において、nは0以上1未満の実数である。XはS、O原子またはNH基を示す。アゾール環においてN原子とX原子/基はトランス位であってもシス位であっても良い。
また、化学式1におけるYは化学式2で表され、これらが単独、または1〜nの範囲内でこれら3つの繰り返し単位が任意の割合で共重合していてもよい。Rはハロゲン原子または炭素原子数1〜6のアルキル基を示す。
【化5】

またさらに、上記繰り返し単位とは、化学式3で示される単位を示す。
R'は水素原子、ハロゲン原子または炭素原子数1〜6のアルキル基を示す。
【化6】

【発明の効果】
【0006】
本発明によると、300〜600℃における加熱処理によってポリベンザゾール分子鎖間の架橋が容易であり、50繰り返し単位当たり1箇所以上を架橋させることによって、従来のポリベンザゾール繊維と比較して、高温かつ高湿度下に長時間曝露されることによる強度低下が非常に小さい、耐久性に優れたポリベンザゾール繊維を提供することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に係るポリベンザゾール(以下、PBZともいう)とは、ポリベンゾオキサゾール(以下、PBOともいう)、ポリベンゾチアゾール(以下、PBZTともいう)、ポリベンズイミダゾール(以下、PBIともいう)から選ばれるポリマーを言う。
本発明に係るポリベンザゾール繊維を形成するポリベンザゾールポリマーは、ベンザゾール骨格(アゾール環)にメチル基、エチル基、プロピル基、tert-ブチル基などの炭素原子数1〜6のアルキル基、ハロゲン基などの側鎖を有するポリベンザゾールポリマーであり、繊維を形成した後に300〜600℃における加熱処理が施されると、ラジカルが発生して、側鎖の作用によって分子鎖間架橋が形成されるものである。
好ましくは、分子鎖中に上記一般式(1)で表される繰り返し単位がランダム共重合したポリベンザゾールである。
本発明における好ましいホモポリマーおよび共重合ポリマーとしては下記のものが挙げられる。
【0008】
【化7】

【0009】
【化8】

【0010】
【化9】

【0011】
【化10】

【0012】
【化11】

【0013】
【化12】

【0014】
【化13】

【0015】
【化14】

等が挙げられるが、もちろん本発明技術内容はこれらに限定されるものではない。
【0016】
高耐久性繊維が得られることから、架橋数は50繰り返し単位当たり1〜50個であり、好ましくは1〜35個、より好ましくは繊維にフレキシビリティを持たせるために1〜25個である。この範囲を外れると、望むような高耐久性繊維が得られない。さらに側鎖を有する架橋性分子の共重合比は2〜100%であり、好ましくは5〜70%、より好ましくは確実に架橋させるために10〜50%である。この範囲を外れると、望むような架橋数が得られにくく、高耐久性繊維が得られない。
【0017】
ポリベンザゾール繊維は、ポリベンザゾールポリマーを含有するドープより製造されるが、当該ドープを調製するための好適な溶媒としては、クレゾールやそのポリマーを溶解しうる非酸化性の酸が挙げられる。好適な非酸化性の酸の例としては、ポリリン酸、メタンスルホン酸および高濃度の硫酸あるいはそれらの混合物が挙げられる。中でもポリリン酸及びメタンスルホン酸、特にポリリン酸が好適である。
【0018】
ドープ中のポリマー濃度は好ましくは少なくとも約7質量%であり、より好ましくは少なくとも10質量%である。最大濃度は、例えばポリマーの溶解性やドープ粘度といった実際上の取り扱い性により限定される。それらの限界要因のために、ポリマー濃度は通常では20質量%を越えることはない。
【0019】
本発明において、好適なポリマーまたはコポリマーとドープは公知の方法で合成される。例えばWolfeらの米国特許第4,533,693号明細書、Sybertらの米国特許第4,772,678号明細書、Harrisの米国特許第4,847,350号明細書またはGregoryらの米国特許第5,089,591号明細書に記載されている。要約すると、好適なモノマーは非酸化性で脱水性の酸溶液中、非酸化性雰囲気で高速撹拌及び高剪断条件のもと約60℃から230℃までの段階的または一定昇温速度で温度を上げることで反応させられる。
【0020】
このようにして得られるドープを紡糸口金から押し出し、空間で引き伸ばしてフィラメントに形成される。好適な製造法は米国特許第5,034,250号明細書に記載されている。紡糸口金を出たドープは紡糸口金と洗浄バス間の空間に入る。この空間は一般にエアギャップと呼ばれているが、空気である必要はない。この空間は、溶媒を除去すること無く、かつ、ドープと反応しない溶媒で満たされている必要があり、例えば空気、窒素、アルゴン、ヘリウム、二酸化炭素等が挙げられる。
【0021】
紡糸後のフィラメントは、過度の延伸を避けるために洗浄され溶媒の一部が除去される。そして、更に洗浄され、適宜水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化カリウム等の無機塩基で中和され、ほとんどの溶媒は除去される。ここでいう洗浄とは、ポリベンザゾールポリマーを溶解している鉱酸に対し相溶性であり、ポリベンザゾールポリマーに対して溶媒とならない液体に繊維またはフィラメントを接触させ、ドープから酸溶媒を除去することである。好適な洗浄液体としては、水や水と酸溶媒との混合物がある。フィラメントは、好ましくは残留鉱酸金属原子濃度が重量で8000ppm以下、更に好ましくは5000ppm以下に洗浄される。その後、フィラメントは、乾燥、熱処理、巻き取り等が必要に応じて行われる。
【0022】
このようにして得られるフィラメントを不活性ガス下で処理することにより、架橋させる。ここでいう処理とは、300〜600℃における加熱である。不活性ガスとしては一般的には窒素、アルゴン等が用いられる。
【0023】
架橋密度の均一性を保つためには、繊維径は好ましくは200μm以下であり、より好ましくは0.3〜100μmである。繊維径が0.3μmより小さくなると、均一な繊維の紡糸が困難となる。
【0024】
本発明における分子間架橋とは、前記一般式(1)におけるR、すなわち、ベンザゾール骨格におけるメチル基、エチル基などのアルキル基やハロゲン基などの側鎖が関与するものであり、加熱によってラジカルが発生し、分子鎖間で架橋する。
例えば、Rがメチル基の場合、以下のような架橋構造となる。
【化15】

【0025】
このような架橋は、処理前のフィラメントと処理後のフィラメントの13C固体NMRを測定することによって確認することができる。メチル基を有する場合は、メチル基に基づくシグナルが減少し、新たにメチレン基に基づくシグナルが観測できる。また、エチル基を有する場合は、エチル基に基づくシグナルが減少し、エチル基のメチレン基とは異なるメチレン基のシグナルが観測できる。さらに、ハロゲン基を有する場合は、ハロゲン基が結合している炭素シグナルの高磁場シフトが観測される。
【0026】
分子間架橋の効果は明確ではないが、以下のように推測している。紡糸後水洗中和工程を経てでき上がったフィラメント中には、数千ppm程度の残留リン酸が存在する。高温、高湿度下ではこの残留リン酸がフィラメント内で解離してプロトンを放出する。この遊離されたプロトンおよび水分子がポリベンザゾール分子を攻撃するために、糸の強度低下が起こると推測される。しかし分子間で架橋されていると、ポリベンザゾール分子が攻撃を受けても分子間の結合は切断されないため、強度低下の影響を受けにくくなると考えられる。本発明はこの考察に拘束されるものではない。
【実施例】
【0027】
以下に実例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はもとより下記の実施例によって制限を受けるものではなく、前後記の主旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術範囲に含まれる。
【0028】
(極限粘度)
メタンスルホン酸を溶媒として、0.5g/lの濃度に調製したポリマー溶液の粘度をオストワルド粘度計を用いて25℃恒温槽中で測定し、算出した。
【0029】
(繊維径の調整および測定方法)
繊維径は、紡速を一定にし、巻き取り速度を変化させることで調整した。さらに繊維径は、走査電子顕微鏡(日立製、S−3500N)により測定した。
【0030】
(架橋の確認および架橋数の評価方法)
処理前のフィラメントと処理後のフィラメントについて、試料約300mgを7mmφプローブに入れ、室温、積算回数16〜32回、パルス間隔時間1万秒の条件でDD/MAS法により13C固体NMRを測定した。架橋数は、側鎖にメチル基を有するポリマーの場合、メチル基の減少から算出した。
【0031】
(高温かつ高湿度下における耐久性の評価方法)
高温かつ高湿度下における耐久性の評価は、高温かつ高湿度保管処理前の引張強度に対する処理後の引張強度の保持率で評価を行った。
直径10cmのステンレスボビンに糸サンプルを巻きつけた状態で恒温恒湿器中、高温かつ高湿度保管処理し、所定時間経過後サンプルを取り出し、室温下で引張試験を実施した。なお、高温高湿度下での保管処理にはヤマト科学製Humidic Chamber 1G43Mを使用し、恒温恒湿器中に光が入らないように完全に遮光して、80℃、相対湿度80%の条件下にて700時間処理を実施した。引張強度の測定は、JIS-L1013に準じて引張試験機(島津製作所製、型式AG-50KNG)にて測定した。
【0032】
(実施例1)
116%のポリリン酸27.9gに窒素気流下、4,6−ジアミノレゾルシン二塩酸塩5.7g、2−メチル−4,6−ジアミノレゾルシン二塩酸塩0.1g、テレフタル酸4.6gおよび五酸化リン8.3gを加え、反応器内、70℃で15分撹拌混合した。さらに120℃まで昇温させ、3.5時間撹拌混合し脱塩酸を行い、135℃まで昇温させ19時間撹拌しオリゴマー化した。その後、200℃に昇温して重合し、PBOポリマードープを得た。ポリマードープの色は黄色であり、固有粘度は28dl/gであった。
こうして重合したドープを、紡糸温度175℃で孔径200μmの単孔ノズルから押し出し、フィラメントを水浴中で凝固した後、糸管に巻き取った。なお、巻取速度は100m/分とした。巻き取った糸を18時間水洗した後、1%NaOH水溶液で30分間中和し、さらに1〜24時間水洗を行った。乾燥は80℃で4時間行った。
その後、得られたフィラメントを窒素気流下、500℃で1時間加熱処理を行った。前述の方法で架橋数を評価した結果、高温かつ高湿度下における耐久性の評価を実施した結果を表1に示す。
【0033】
(実施例2)
116%のポリリン酸28.7gに窒素気流下、4,6−ジアミノレゾルシン二塩酸塩5.6g、2−メチル−4,6−ジアミノレゾルシン二塩酸塩0.3g、テレフタル酸4.7gおよび五酸化リン8.6gを加え、反応器内、70℃で15分撹拌混合した。さらに120℃まで昇温させ、3.5時間撹拌混合し脱塩酸を行い、135℃まで昇温させ19時間撹拌しオリゴマー化した。その後、200℃に昇温して重合し、PBOポリマードープを得た。ポリマードープの色は黄色であり、固有粘度は29dl/gであった。
こうして重合したドープを、紡糸温度175℃で孔径200μmの単孔ノズルから押し出し、フィラメントを水浴中で凝固した後、糸管に巻き取った。なお、巻取速度は100m/分とした。巻き取った糸を18時間水洗した後、1%NaOH水溶液で30分間中和し、さらに1〜24時間水洗を行った。乾燥は80℃で4時間行った。
その後、得られたフィラメントを窒素気流下、500℃で1時間加熱処理を行った。前述の方法で架橋数を評価した結果、高温かつ高湿度下における耐久性の評価を実施した結果を表1に示す。
【0034】
(実施例3)
116%のポリリン酸28.1gに窒素気流下、4,6−ジアミノレゾルシン二塩酸塩5.2g、2−メチル−4,6−ジアミノレゾルシン二塩酸塩0.6g、テレフタル酸4.6gおよび五酸化リン8.4gを加え、反応器内、70℃で15分撹拌混合した。さらに120℃まで昇温させ、3.5時間撹拌混合し脱塩酸を行い、135℃まで昇温させ19時間撹拌しオリゴマー化した。その後、200℃に昇温して重合し、PBOポリマードープを得た。ポリマードープの色は黄色であり、固有粘度は29dl/gであった。
こうして重合したドープを、紡糸温度175℃で孔径200μmの単孔ノズルから押し出し、フィラメントを水浴中で凝固した後、糸管に巻き取った。なお、巻取速度は100m/分とした。巻き取った糸を18時間水洗した後、1%NaOH水溶液で30分間中和し、さらに1〜24時間水洗を行った。乾燥は80℃で4時間行った。
その後、得られたフィラメントを窒素気流下、500℃で1時間加熱処理を行った。前述の方法で架橋数を評価した結果、高温かつ高湿度下における耐久性の評価を実施した結果を表1に示す。
【0035】
(実施例4)
116%のポリリン酸28.2gに窒素気流下、4,6−ジアミノレゾルシン二塩酸塩3.9g、2−メチル−4,6−ジアミノレゾルシン二塩酸塩1.8g、テレフタル酸4.3gおよび五酸化リン8.3gを加え、反応器内、70℃で15分撹拌混合した。さらに120℃まで昇温させ、3.5時間撹拌混合し脱塩酸を行い、135℃まで昇温させ19時間撹拌しオリゴマー化した。その後、200℃に昇温して重合し、PBOポリマードープを得た。ポリマードープの色は黄色であり、固有粘度は27dl/gであった。
こうして重合したドープを、紡糸温度175℃で孔径200μmの単孔ノズルから押し出し、フィラメントを水浴中で凝固した後、糸管に巻き取った。なお、巻取速度は100m/分とした。巻き取った糸を18時間水洗した後、1%NaOH水溶液で30分間中和し、さらに1〜24時間水洗を行った。乾燥は80℃で4時間行った。
その後、得られたフィラメントを窒素気流下、500℃で1時間加熱処理を行った。前述の方法で架橋数を評価した結果、高温かつ高湿度下における耐久性の評価を実施した結果を表1に示す。
【0036】
(実施例5)
116%のポリリン酸28.6gに窒素気流下、4,6−ジアミノレゾルシン二塩酸塩3.9g、2−クロロ−4,6−ジアミノレゾルシン二塩酸塩1.8g、テレフタル酸4.3gおよび五酸化リン8.1gを加え、反応器内、70℃で15分撹拌混合した。さらに120℃まで昇温させ、3.5時間撹拌混合し脱塩酸を行い、135℃まで昇温させ19時間撹拌しオリゴマー化した。その後、200℃に昇温して重合し、PBOポリマードープを得た。ポリマードープの色は黄色であり、固有粘度は26dl/gであった。
こうして重合したドープを、紡糸温度175℃で孔径200μmの単孔ノズルから押し出し、フィラメントを水浴中で凝固した後、糸管に巻き取った。なお、巻取速度は100m/分とした。巻き取った糸を18時間水洗した後、1%NaOH水溶液で30分間中和し、さらに1〜24時間水洗を行った。乾燥は80℃で4時間行った。
その後、得られたフィラメントを窒素気流下、500℃で1時間加熱処理を行った。前述の方法で架橋数を評価した結果、高温かつ高湿度下における耐久性の評価を実施した結果を表1に示す。
【0037】
(実施例6)
116%のポリリン酸28.0gに窒素気流下、4,6−ジアミノレゾルシン二塩酸塩2.9g、2−メチル−4,6−ジアミノレゾルシン二塩酸塩3.0g、テレフタル酸4.3gおよび五酸化リン8.1gを加え、反応器内、70℃で15分撹拌混合した。さらに120℃まで昇温させ、3.5時間撹拌混合し脱塩酸を行い、135℃まで昇温させ19時間撹拌しオリゴマー化した。その後、200℃に昇温して重合し、PBOポリマードープを得た。ポリマードープの色は黄色であり、固有粘度は25dl/gであった。
こうして重合したドープを、紡糸温度175℃で孔径200μmの単孔ノズルから押し出し、フィラメントを水浴中で凝固した後、糸管に巻き取った。なお、巻取速度は100m/分とした。巻き取った糸を18時間水洗した後、1%NaOH水溶液で30分間中和し、さらに1〜24時間水洗を行った。乾燥は80℃で4時間行った。
その後、得られたフィラメントを窒素気流下、500℃で1時間加熱処理を行った。前述の方法で架橋数を評価した結果、高温かつ高湿度下における耐久性の評価を実施した結果を表1に示す。
【0038】
(実施例7)
116%のポリリン酸28.1gに窒素気流下、1,3−ジメルカプト−4,6−ジアミノベンゼン二塩酸塩2.7g、1,3−ジメルカプト−2−メチル−4,6−ジアミノベンゼン二塩酸塩2.7g、テレフタル酸3.7gおよび五酸化リン6.6gを加え、反応器内、70℃で15分撹拌混合した。さらに120℃まで昇温させ、3.5時間撹拌混合し脱塩酸を行い、135℃まで昇温させ19時間撹拌しオリゴマー化した。その後、200℃に昇温して重合し、PBOポリマードープを得た。ポリマードープの色は黄色であり、固有粘度は27dl/gであった。
こうして重合したドープを、紡糸温度175℃で孔径200μmの単孔ノズルから押し出し、フィラメントを水浴中で凝固した後、糸管に巻き取った。なお、巻取速度は100m/分とした。巻き取った糸を18時間水洗した後、1%NaOH水溶液で30分間中和し、さらに1〜24時間水洗を行った。乾燥は80℃で4時間行った。
その後、得られたフィラメントを窒素気流下、500℃で1時間加熱処理を行った。前述の方法で架橋数を評価した結果、高温かつ高湿度下における耐久性の評価を実施した結果を表1に示す。
【0039】
(実施例8)
116%のポリリン酸28.5gに窒素気流下、4,6−ジアミノレゾルシン二塩酸塩1.7g、2−メチル−4,6−ジアミノレゾルシン二塩酸塩4.0g、テレフタル酸4.3gおよび五酸化リン8.2gを加え、反応器内、70℃で15分撹拌混合した。さらに120℃まで昇温させ、3.5時間撹拌混合し脱塩酸を行い、135℃まで昇温させ19時間撹拌しオリゴマー化した。その後、200℃に昇温して重合し、PBOポリマードープを得た。ポリマードープの色は黄色であり、固有粘度は27dl/gであった。
こうして重合したドープを、紡糸温度175℃で孔径200μmの単孔ノズルから押し出し、フィラメントを水浴中で凝固した後、糸管に巻き取った。なお、巻取速度は100m/分とした。巻き取った糸を18時間水洗した後、1%NaOH水溶液で30分間中和し、さらに1〜24時間水洗を行った。乾燥は80℃で4時間行った。
その後、得られたフィラメントを窒素気流下、500℃で1時間加熱処理を行った。前述の方法で架橋数を評価した結果、高温かつ高湿度下における耐久性の評価を実施した結果を表1に示す。
【0040】
(実施例9)
116%のポリリン酸27.8gに窒素気流下、2−メチル−4,6−ジアミノレゾルシン二塩酸塩5.6g、テレフタル酸4.0gおよび五酸化リン7.7gを加え、反応器内、70℃で15分撹拌混合した。さらに120℃まで昇温させ、3.5時間撹拌混合し脱塩酸を行い、135℃まで昇温させ19時間撹拌しオリゴマー化した。その後、200℃に昇温して重合し、PBOポリマードープを得た。ポリマードープの色は黄色であり、固有粘度は28dl/gであった。
こうして重合したドープを、紡糸温度175℃で孔径200μmの単孔ノズルから押し出し、フィラメントを水浴中で凝固した後、糸管に巻き取った。なお、巻取速度は100m/分とした。巻き取った糸を18時間水洗した後、1%NaOH水溶液で30分間中和し、さらに1〜24時間水洗を行った。乾燥は80℃で4時間行った。
その後、得られたフィラメントを窒素気流下、500℃で1時間加熱処理を行った。前述の方法で架橋数を評価した結果、高温かつ高湿度下における耐久性の評価を実施した結果を表1に示す。
【0041】
(比較例1)
116%のポリリン酸28.4gに窒素気流下、4,6−ジアミノレゾルシン5.8g、テレフタル酸4.4gおよび五酸化リン8.6gを加え、反応器内、70℃で15分撹拌混合した。さらに120℃まで昇温させ、3.5時間撹拌混合し脱塩酸を行い、135℃まで昇温させ19時間撹拌しオリゴマー化した。その後、200℃に昇温して重合し、PBOポリマードープを得た。ポリマードープの色は黄色であり、固有粘度は30dl/gであった。
こうして重合したドープを、紡糸温度175℃で孔径200μmの単孔ノズルから押し出し、フィラメントを水浴中で凝固した後、糸管に巻き取った。なお、巻取速度は100m/分とした。巻き取った糸を18時間水洗した後、1%NaOH水溶液で30分間中和し、さらに1〜24時間水洗を行った。乾燥は80℃で4時間行った。
その後、得られたフィラメントを窒素気流下、500℃で1時間加熱処理を行った。前述の方法で架橋数を評価した結果、高温かつ高湿度下における耐久性の評価を実施した結果を表1に示す。
【0042】
(比較例2)
116%のポリリン酸28.8gに窒素気流下、4,6−ジアミノレゾルシン二塩酸塩5.8g、2−メチル−4,6−ジアミノレゾルシン二塩酸塩0.1g、テレフタル酸4.7gおよび五酸化リン8.6gを加え、反応器内、70℃で15分撹拌混合した。さらに120℃まで昇温させ、3.5時間撹拌混合し脱塩酸を行い、135℃まで昇温させ19時間撹拌しオリゴマー化した。その後、200℃に昇温して重合し、PBOポリマードープを得た。ポリマードープの色は黄色であり、固有粘度は31dl/gであった。
こうして重合したドープを、紡糸温度175℃で孔径200μmの単孔ノズルから押し出し、フィラメントを水浴中で凝固した後、糸管に巻き取った。なお、巻取速度は100m/分とした。巻き取った糸を18時間水洗した後、1%NaOH水溶液で30分間中和し、さらに1〜24時間水洗を行った。乾燥は80℃で4時間行った。
その後、得られたフィラメントを窒素気流下、500℃で1時間加熱処理を行った。前述の方法で架橋数を評価した結果、高温かつ高湿度下における耐久性の評価を実施した結果を表1に示す。
【0043】
【表1】

【0044】
以上より、ベンザゾール骨格(複素環を構成するベンゼン環)上に、メチル基、エチル基などのアルキル基やハロゲン基などを導入した構造単位を有するポリベンザゾール繊維を不活性ガス下、300〜600℃において加熱し架橋処理することにより、高温かつ高湿度下において耐久性に優れた繊維が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明によると、高温かつ高湿度下に長時間曝露された場合であっても強度を十分に維持することができるポリベンザゾール繊維を提供できるため、産業用資材として実用性を高め利用分野を拡大する効果が絶大である。
即ち、ケーブル、電線や光ファイバー等のテンションメンバー、ロープ、等の緊張材、ロケットインシュレーション、ロケットケイシング、圧力容器、宇宙服の紐、惑星探査気球、等の航空、宇宙資材、耐弾材等の耐衝撃用部材、手袋等の耐切創用部材、消防服、耐熱フェルト、プラント用ガスケット、耐熱織物、各種シーリング、耐熱クッション、フィルター、等の耐熱耐炎部材、ベルト、タイヤ、靴底、ロープ、ホース、等のゴム補強剤、シリコンチップを実装するための高密度高性能回路基板等の電子材料用部材、釣り糸、釣竿、テニスラケット、卓球ラケット、バトミントンラケット、ゴルフシャフト、クラブヘッド、ガット、弦、セイルクロス、ランニングシューズ、マラソンシューズ、スパイクシューズ、スケートシューズ、バスケットボールシューズ、バレーボールシューズ、等の運動靴、競技(走)用自転車及びその車輪、ロードレーサー、ピストレーサー、マウンテンバイク、コンポジットホイール、ディスクホイール、テンションディスク、スポーク、ブレーキワイヤー、変速機ワイヤー、競技(走)用車椅子及びその車輪、プロテクター、レーシングスーツ、スキー、ストック、ヘルメット、落下傘等のスポーツ関係資材、アバンスベルト、クラッチファーシング等の耐摩擦材、各種建築材料用補強剤及びその他ライダースーツ、スピーカーコーン、軽量乳母車、軽量車椅子、軽量介護用ベッド、救命ボート、ライフジャケット、等広範にわたる用途に使用出来る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式1の分子構造からなるポリベンザゾール繊維が、300〜600℃の加熱処理により分子鎖間架橋処理を施されてなり、50繰り返し単位当たり1箇所以上架橋されていることを特徴とするポリベンザゾール繊維。
【化1】

但し、化学式1において、nは0以上1未満の実数である。XはS、O原子またはNH基を示す。アゾール環においてN原子とX原子/基はトランス位であってもシス位であっても良い。
また、化学式1におけるYは、化学式2で表され、これらが単独、または1〜nの範囲内でこれら3つの繰り返し単位が任意の割合で共重合していてもよい。Rはハロゲン原子または炭素原子数1〜6のアルキル基を示す。
【化2】

またさらに、該繰り返し単位とは、化学式3で示される単位を示す。
【化3】

R'は水素原子、ハロゲン原子または炭素原子数1〜6のアルキル基を示す。
【請求項2】
温度80℃相対湿度80%雰囲気下で700時間曝露した後の引張強度保持率が85%以上あることを特徴とする請求項1記載のポリベンザゾール繊維。

【公開番号】特開2007−211362(P2007−211362A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−31026(P2006−31026)
【出願日】平成18年2月8日(2006.2.8)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】