説明

ポリペプチド産生細胞

本発明は、5'から3'方向に、(a)インフレームの停止コドンを含まない、異種ポリペプチドをコードする第1の核酸、(b)5'スプライス供与部位で始まり、3'スプライス受容部位で終わる、インフレームの翻訳停止コドンおよびポリアデニル化シグナルを含む第2の核酸、ならびに(c)(i)膜貫通ドメインの少なくとも1つの断片または(ii)GPIアンカーに対するシグナルペプチドをコードする核酸を含む核酸を説明する。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリペプチド産生の分野に属する。本発明は、選択的にスプライシング可能な(spliceable)核酸を含む核酸、この核酸を含む細胞、異種ポリペプチドを発現する細胞を単離するための方法であって、異種ポリペプチドをコードする第1の核酸、選択的にスプライシング可能な核酸を含む第2の核酸、および膜貫通ドメインの少なくとも1つの断片またはGPIアンカーに対するシグナルペプチドをコードする第3の核酸を含む核酸を利用する方法、ならびにまた、異種ポリペプチドを産生させるための方法を説明する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
組換えポリペプチドを産生するための発現系は、現況技術において周知であり、例えば、Marino, M.H., Biopharm. 2 (1989) 18-33(非特許文献1)、Goeddel, D.V., et al., Methods Enzymol. 185 (1990) 3-7(非特許文献2)、Wurm, F.およびBernard, A.、Curr. Opin. Biotechnol. 10 (1999) 156-160(非特許文献3)によって説明されている。医薬用途において使用されるポリペプチドおよびタンパク質を産生する場合、好ましくは、CHO細胞、BHK細胞、NS0細胞、Sp2/0細胞、COS細胞、HEK細胞、およびPER.C6(登録商標)細胞などの哺乳動物宿主細胞が使用される。ポリペプチドをコードする核酸は、好ましくは、例えば発現ベクターのような核酸中に含まれ、宿主細胞中に導入される。発現ベクターの不可欠なエレメントは、例えば、大腸菌(Escherichia coli)の場合、複製起点および選択マーカー、真核生物選択マーカー、ならびに関心対象の構造遺伝子を発現させるための1つまたは複数の発現カセットを含む原核生物プラスミド増殖単位であり、これらはそれぞれ、プロモーター、構造遺伝子、およびポリアデニル化シグナルを含む転写ターミネーターを含む。哺乳動物細胞において一過性に発現させる場合、SV40 OriまたはEBV由来のOriPなど哺乳動物複製起点が含まれてよい。プロモーターとしては、構成的プロモーターまたは誘導性プロモーターが選択され得る。最適な転写のために、コザック配列が5'非翻訳領域に含まれてもよい。mRNAプロセッシング、特に転写終結およびプレ-mRNAスプライシングのために、構造遺伝子の構成(エクソン-イントロン-構成)に応じて、ポリアデニル化シグナルに加えてmRNAスプライシングシグナルも含まれてよい。
【0003】
遺伝子の発現は、一過性発現または恒久的発現のいずれかとして実施される。関心対象のポリペプチドは、細胞を通過して細胞外媒体中にポリペプチドを輸送/分泌するのに必要である、N末端伸長(シグナル配列としても公知)を含む分泌性ポリペプチドでよく、またはサイトゾルポリペプチドでよい。
【0004】
ポリペプチドを大量生産するには、産生能力の高い細胞株が樹立されなければならない。CHO細胞、NS0細胞、Sp2/0細胞、BHK細胞、COS細胞、PER.C6(登録商標)細胞、またはHEK細胞などの宿主細胞株のトランスフェクション後、例えば、一過性にトランスフェクトされるか、または安定に組み込まれたプラスミドから発現されるポリペプチドの広範な差異が原因で、特徴の異なる複数のクローンが一般に得られる。選択のために、細胞中に導入される核酸は、選択マーカー、例えば、それがなければ致死的な物質に対する耐性を与える遺伝子をさらに備える。
【0005】
トランスフェクション後、かつ適切な選択培地中での増殖によって、産生能力の高いクローンが単離されなければならない。これには時間がかかり、その結果として費用がかかる。この問題に対応するためにいくつかの方法が開発された。
【0006】
これらの方法の1つは遺伝子増幅である。この方法では、酵素ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)を欠損した細胞が、DHFRタンパク質を発現させるための第1の発現カセットおよび関心対象の異種ポリペプチドを発現させるための第2の発現カセットを含むベクター/プラスミドでトランスフェクトされる。グリシン、ヒポキサンチン、およびチミジンの欠乏した培地を用いることによって、選択的な増殖条件が確立される。増幅のために、DHFR阻害剤であるメトトレキサート(MTX)が添加される(Kaufman, R.J., et al., J Mol. Biol. 159(1982)601-621(非特許文献4); 米国特許第4,656,134号(特許文献1))。
【0007】
あるいは、クロラムフェニコール-アセチル-トランスフェラーゼ、ルシフェラーゼ、緑色蛍光タンパク質、またはβ-ガラクトシダーゼなどのレポーター分子が、その産生能力の高い細胞株が所望である異種ポリペプチドに融合され、かつ、間接的な選択マーカーとして使用され得る。選択は、添加された外来性の基質または補助因子の存在下で実施される。
【0008】
産生能力の高いクローンを同定するための別の方法は、配列内リボソーム進入部位(IRES)を介した、選択マーカー遺伝子と異種ポリペプチドをコードする構造遺伝子との連結された転写である。この設計により、異種ポリペプチドの発現は、選択マーカーの発現と相互に関連し得る。
【0009】
ヒト免疫グロブリンは、分化したリンパ球であるB細胞によって産生される。これらの細胞は、免疫グロブリンを分泌するだけでなく(sIg)、原形質膜結合型免疫グロブリン(mIg)として細胞膜外側にも免疫グロブリンを提示する。これらのmIgは免疫応答の開始において重要な役割を果たす。提示された原形質膜結合型免疫グロブリンは、対応する抗原に対する細胞受容体の機能を有する。
【0010】
1980年に最初に、分泌型免疫グロブリンおよび原形質膜結合型免疫グロブリンの由来を論じた論文が公開された。Earlyら(Early, P., et al., Cell 20(1980)313-319(非特許文献5))は、マウスにおいて、免疫グロブリンの重鎖をコードする2種のmRNAが、単一の免疫グロブリンμ遺伝子の同じ一次転写産物に由来することを報告した。分泌型(sIg)および原形質膜結合型(mIg)の形成は、重鎖プレ-mRNAの選択的スプライシングの結果として起こる。sIgアイソフォームの場合、免疫グロブリンのドメインをコードするすべてのエクソンおよびC末端ドメインをコードするエクソンに続くイントロンがmRNA中で保持されており、イントロン中の停止コドンの下流に位置するポリアデニル化シグナルが、一次転写産物の切断およびポリアデニル化のために使用される。mIgアイソフォームの場合、分泌型のC末端ドメイン(すなわち、それぞれCH3またはCH4)をコードするエクソンの後の選択的5'スプライス供与部位は、定常領域を、膜貫通ドメインをコードする下流のエクソンM1およびM2と結びつける。この場合、分泌型の末端アミノ酸をコードする配列および停止コドン、ならびにsIg型の隣接したイントロンのポリアデニル化シグナルが、イントロンと共にスプライシングされることによって除去される。
【0011】
例えば、分泌型免疫グロブリン重鎖型をコードするmRNAと原形質膜結合型免疫グロブリン重鎖型をコードするmRNAの比率は、10:1〜100:1である。この比率は、主にプレ-mRNAスプライシング中に確立される。翻訳中および翻訳後の制御メカニズムは、ごくわずかな部分にしか寄与しない(例えば、Xiang, S. D., et al., Immun. Cell Biol. 79(2001)472-481(非特許文献6)を参照されたい)。
【0012】
細胞の原形質膜に結合した免疫グロブリンは、分泌性の類似体と同じアミノ酸配列および二次構造を有する。異なる点は、膜貫通ドメインを含む、sIgの重鎖のC末端伸長部である。この膜貫通ドメインの長さは、一般にアミノ酸残基約40〜約75個の間である。マウス免疫グロブリンおよびヒト免疫グロブリンの場合、膜貫通ドメインは以下の3つの異なる構造領域にさらに分けることができる:アミノ酸残基13〜67個からなるN末端細胞外領域、アミノ酸残基25個からなる中央の保存された膜貫通ストレッチ、およびアミノ酸残基3〜28個からなるC末端細胞質領域(Major, J.G., et al., Mol. Immunol. 33(1996)179-187(非特許文献7))。
【0013】
転写および翻訳の連係を最適にする様式で、増幅可能な選択可能遺伝子、蛍光タンパク質遺伝子、および所望の産生物をコードする遺伝子を含む発現ベクターが、国際公開公報第01/04306号(特許文献2)において報告されている。国際公開公報第01/38557号(特許文献3)において、多数の形質転換/トランスフェクトされた細胞をスクリーニングして、関心対象の少なくとも2種のペプチドまたはタンパク質を発現する細胞を同定するための方法が報告されている。これら2種のペプチド/タンパク質は、IRES(配列内リボソーム進入部位)を介して蛍光マーカー遺伝子に連結されている。
【0014】
イメージングマーカー導入遺伝子を含むトランスジェニック動物および細胞が、米国特許出願公開第2003/0033616号(特許文献4)において報告されている。米国特許出願公開第2005/0032127号(特許文献5)では、蛍光顕微鏡による検出方法により、比産生能力を基準にして、細胞混合物または細胞培養物から単一の生細胞を穏やかな条件下で非侵襲的に選択するための方法を報告している。分泌性タンパク質を産生する細胞を同定および単離するための方法は、米国特許出願公開第2002/0168702号(特許文献6)において報告されている。
【0015】
ハムスターのプロモーターに機能的に連結されている、関心対象のタンパク質をコードしている遺伝子、蛍光タンパク質をコードする遺伝子、および好ましくは、増幅可能な選択マーカー遺伝子からなる発現ベクターが、米国特許出願公開第2004/0148647号(特許文献7)において報告されている。
【0016】
【特許文献1】米国特許第4,656,134号
【特許文献2】国際公開公報第01/04306号
【特許文献3】国際公開公報第01/38557号
【特許文献4】米国特許出願公開第2003/0033616号
【特許文献5】米国特許出願公開第2005/0032127号
【特許文献6】米国特許出願公開第2002/0168702号
【特許文献7】米国特許出願公開第2004/0148647号
【非特許文献1】Marino, M.H., Biopharm. 2 (1989) 18-33
【非特許文献2】Goeddel, D.V., et al., Methods Enzymol. 185 (1990) 3-7
【非特許文献3】Wurm, F.およびBernard, A.、Curr. Opin. Biotechnol. 10 (1999) 156-160
【非特許文献4】Kaufman, R.J., et al., J Mol. Biol. 159(1982)601-621
【非特許文献5】Early, P., et al., Cell 20(1980)313-319
【非特許文献6】Xiang, S. D., et al., Immun. Cell Biol. 79(2001)472-481
【非特許文献7】Major, J.G., et al., Mol. Immunol. 33(1996)179-187
【発明の開示】
【0017】
発明の概要
本発明は、5'から3'方向に以下を含む核酸を含む:
(a)インフレームの翻訳停止コドンを含まない、異種ポリペプチドをコードする第1の核酸、
(b)5'スプライス供与部位で始まり、3'スプライス受容部位で終わる、インフレームの翻訳停止コドンおよびポリアデニル化シグナルを含む第2の核酸、ならびに
(c)以下をコードする第3の核酸:
(i)膜貫通ドメインの少なくとも1つの断片、または
(ii)GPIアンカーに対するシグナルペプチド。
【0018】
本発明の別の局面は、本発明の核酸を含む、真核細胞に適したベクター、および本発明による少なくとも1つの核酸を含む真核細胞である。
【0019】
本発明はまた、以下の段階を含む、異種ポリペプチドを発現する真核細胞を選択するための方法も含む:
(a)5'から3'方向に以下を含む核酸で真核細胞をトランスフェクトする段階:
(i)インフレームの翻訳停止コドンを含まない、異種ポリペプチドをコードする第1の核酸、
(ii)スプライス供与部位で始まり、スプライス受容部位で終わる、インフレームの翻訳停止コドンおよびポリアデニル化シグナルを含む、第2の核酸、
(iii)以下をコードする第3の核酸:
(iiia)膜貫通ドメインの少なくとも1つの断片、または
(iiib)GPIアンカーに対するシグナルペプチド、
(b)前記核酸に由来するプレ-mRNAの産生、該プレ-mRNAのプロセッシング、および該プロセッシングされたmRNAのポリペプチドへの翻訳に適した条件下で、前記トランスフェクトされた細胞を培養する段階であって、前記トランスフェクトされた細胞が、前記プレ-mRNAの選択的スプライシングにより、可溶性異種ポリペプチドおよび原形質膜結合型異種ポリペプチドを産生する段階、ならびに
(c)異種ポリペプチドを発現する細胞であるように、原形質膜結合型異種ポリペプチドを有する細胞を選択する段階。
【0020】
1つの態様において、本発明の方法は、免疫グロブリンを発現する真核細胞を選択するためのものであり、この方法は、以下の段階を含む:
(a)5'から3'方向に以下を含む核酸で真核細胞をトランスフェクトする段階:
(i)インフレームの翻訳停止コドンを含まない、免疫グロブリン重鎖の少なくとも1つの断片をコードする第1の核酸、
(ii)スプライス供与部位で始まり、スプライス受容部位で終わる、インフレームの翻訳停止コドンおよびポリアデニル化シグナルを含む、第2の核酸、
(iii)以下をコードする第3の核酸:
(iiia)膜貫通ドメインの少なくとも1つの断片、または
(iiib)GPIアンカーに対するシグナルペプチド、
(b)前記核酸に由来するプレ-mRNAの産生、該プレ-mRNAのプロセッシング、および該プロセッシングされたmRNAの免疫グロブリン重鎖への翻訳に適した条件下で、前記トランスフェクトされた細胞を培養する段階であって、前記トランスフェクトされた細胞が、前記プレ-mRNAの選択的スプライシングにより、可溶性免疫グロブリン重鎖および原形質膜結合型免疫グロブリン重鎖を産生する段階、ならびに
(c)異種ポリペプチドを発現する細胞であるように、原形質膜結合型異種ポリペプチドを有する細胞を選択する段階。
【0021】
本発明はさらに、以下の段階によって、本発明による核酸にコードされるポリペプチドを産生するための方法も含む:
(a)真核細胞を提供する段階、
(b)本発明による核酸で該真核細胞をトランスフェクトする段階、
(c)該核酸の発現に適した条件下で該トランスフェクトされた細胞を培養する段階、
(d)該細胞の培養液または細胞質から該ポリペプチドを回収する段階。
【0022】
本発明はさらに、5'から3'方向に以下を含む核酸も含む:
(a)第1のマルチクローニング部位、
(b)5'スプライス供与部位で始まり、3'スプライス受容部位で終わる核酸であって、
(i)翻訳停止コドンおよびポリアデニル化シグナルを含み、かつ
(ii)プレ-mRNAのプロセッシング中に構成的に除去されない核酸、
(c)第2のマルチクローニング部位。
【0023】
本発明はさらに、本発明による構成的に除去されない核酸を含むベクターも含む。
【0024】
発明の詳細な説明
本発明は、以下の段階を含む、異種ポリペプチドまたはタンパク質を発現する真核細胞を選択するための方法を含む:
(a)5'から3'方向に以下を含む核酸で真核細胞をトランスフェクトする段階:
(i)翻訳停止コドンを含まない、異種ポリペプチドまたはタンパク質をコードする第1の核酸、
(ii)5'スプライス供与部位で始まり、3'スプライス受容部位で終わる、インフレームの翻訳停止コドンおよびポリアデニル化シグナルを含む第2の核酸、
(iii)以下をコードする第3の核酸:
(iiia)膜貫通ドメインの少なくとも1つの断片、または
(iiib)GPIアンカーに対するシグナルペプチド、
(b)前記核酸に由来するプレ-mRNAの産生、該プレ-mRNAのプロセッシング、および該プロセッシングされたmRNAのポリペプチドまたはタンパク質への翻訳に適した条件下で、前記トランスフェクトされた細胞を培養する段階であって、前記トランスフェクトされた細胞が、前記プレ-mRNAの選択的スプライシングにより、可溶性の異種ポリペプチドまたはタンパク質および原形質膜結合型異種ポリペプチドまたはタンパク質を産生する段階、
(c) 異種ポリペプチドまたはタンパク質を発現する細胞であるように、原形質膜結合型異種ポリペプチドまたはタンパク質を有する細胞を選択する段階。
【0025】
本発明を実施するために有用な方法および技術は、例えば、Ausubel, F.M.(編)、Current Protocols in Molecular Biology、第I巻〜III巻(1997); Glover, N.D.およびHames, B.D.編、DNA Cloning: A Practical Approach、第I巻およびII巻(1985)、Oxford University Press; Freshney, R.I.(編)、Animal Cell Culture -a practical approach、IRL Press Limited(1986); Watson, J.D., et al., Recombinant DNA、第2版、CHSL Press(1992); Winnacker, E.L.,From Genes to Clones; N.Y., VCH Publishers(1987); Celis, J.編、Cell Biology、第2版、Academic Press(1998); Freshney, R.I., Culture of Animal Cells: A Manual of Basic Technique、第2版、Alan R. Liss, Inc., N.Y.(1987)に記載されている。
【0026】
組換えDNA技術を使用することにより、ポリペプチドの多数の誘導体を産生することが可能になる。このような誘導体は、例えば、置換、改変、交換、欠失、または挿入によって、単一またはいくつかのアミノ酸位置において改変されていてよい。改変または誘導体化は、例えば、部位特異的変異誘発を用いて実施され得る。このような改変は、当業者によって容易に実施され得る(例えば、Sambrook, J., et al., Molecular Cloning: A laboratory manual(1999)Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York, USA; Hames, B. D.およびHiggins, S.G.、Nucleic acid hybridization -a practical approach(1985)IRL Press, Oxford, Englandを参照されたい)。
【0027】
本発明の範囲内で、使用される用語の一部は以下のように定義される。
【0028】
本明細書において使用される「核酸」とは、ポリヌクレオチド分子、例えば、DNAおよび/またはRNAのタイプを意味する。このポリヌクレオチド分子は、天然ポリヌクレオチド分子もしくは合成ポリヌクレオチド分子、または1つもしくは複数の天然ポリヌクレオチド分子もしくはその断片と1つもしくは複数の合成ポリヌクレオチド分子の組合せでよい。また、1つまたは複数のヌクレオチドが、例えば変異誘発によって変更されているか、欠失しているか、または付加されている天然ポリヌクレオチド分子も、この定義に包含される。核酸は、単離されているか、または、別の核酸中、例えば発現ベクターもしくは真核宿主細胞の染色体中に組み込まれていてよい。核酸は同様に、個々のヌクレオチドからなる核酸配列によって特徴付けられる。対応するコード核酸からアミノ酸配列を推定すること、および同様に、コードされたアミノ酸配列から対応する核酸を推定することは、当技術分野において公知である。したがって、アミノ酸配列も同様に、その核酸によって特徴付けられる。同様に、核酸も、対応するアミノ酸配列によって与えられる。
【0029】
本出願において同義的に使用される「プラスミド」または「ベクター」という表現は、例えば、シャトルプラスミドおよび発現プラスミド、ならびにトランスフェクションプラスミドを含む。典型的には、プラスミドは、細菌においてプラスミドをそれぞれ複製および選択するための複製起点(例えば、複製起点ColE1およびoriP)および選択マーカー(例えば、アンピシリンまたはテトラサイクリン耐性遺伝子)も含む。
【0030】
「発現カセット」とは、細胞中に含まれる構造遺伝子を少なくとも発現するために必要な調節エレメントを含む構築物を意味する。任意で、発現されたポリペプチドまたはタンパク質の分泌を可能にする付加的なエレメントが含まれる。
【0031】
「遺伝子」は、例えば染色体またはプラスミド上のセグメントを示し、ポリペプチドまたはタンパク質の発現のために必要である。遺伝子は、プロモーター、1つまたは複数のイントロンおよび/またはエクソン、ならびに1つまたは複数のターミネーターを含む他の機能的エレメントをコード領域のそばに含む。
【0032】
本出願において使用される「構造遺伝子」という用語は、遺伝子のコード領域、すなわち、エクソンを示し、シグナル配列を含まないが介在するイントロンを含む。
【0033】
「選択マーカー」は、その遺伝子を有する細胞が、対応する選択物質の存在下または不在下で特異的にポジティブまたはネガティブに選択されることを可能にする遺伝子を示す。有用なポジティブ選択マーカーは、抗生物質耐性遺伝子である。この選択マーカーにより、その遺伝子で形質転換された宿主細胞が、対応する抗生物質の存在下でポジティブに選択されることが可能になる。形質転換されていない宿主細胞は、選択培地において、選択培養条件下、すなわち選択物質の存在下で増殖することも生存することもできないと考えられる。選択マーカーは、ポジティブ、ネガティブ、または二機能性でよい。ポジティブ選択マーカーにより、マーカーを有する細胞の選択が可能になるのに対し、ネガティブ選択マーカーにより、マーカーを有する細胞を選択的に排除することが可能になる。典型的には、選択マーカーは、宿主細胞において薬物に対する耐性を与えるか、または代謝もしくは異化の欠陥を補う。真核細胞に対して有用な選択マーカーには、例えば、ヒグロマイシンホスホトランスフェラーゼ(hyg)、ネオマイシンAPH、およびG418 APHなどのアミノグリコシド系ホスホトランスフェラーゼ(APH)、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)、チミジンキナーゼ(tk)、グルタミン合成酵素(GS)、アスパラギン合成酵素、トリプトファン合成酵素(選択物質インドール)、ヒスチジノールデヒドロゲナーゼ(選択物質ヒスチジノールD)の遺伝子、ならびにピューロマイシン、ブレオマイシン、フレオマイシン、クロラムフェニコール、ゼオシン(Zeocin)、およびミコフェノール酸に対する耐性をコードする遺伝子が含まれる。さらなるマーカー遺伝子は、国際公開公報第92/08796号および国際公開公報第94/28143号に記載されている。
【0034】
本明細書において使用される「調節エレメント」とは、シスまたは/およびトランスに存在する、関心対象の構造遺伝子を含む遺伝子の転写および/または翻訳に必要なヌクレオチド配列を意味する。転写調節エレメントは、通常、発現されるべき遺伝子配列の上流のプロモーター、転写開始部位および終結部位、ならびにポリアデニル化シグナル配列を含む。「転写開始部位」という用語は、一次転写産物、すなわちプレ-mRNA中に組み込まれるべき第1の核酸に対応する遺伝子中のヌクレオチドを意味する。転写開始部位はプロモーター配列と重なってもよい。「転写終結部位」という用語は、転写される関心対象の遺伝子の3'末端に通常存在し、RNAポリメラーゼに転写を終結させるヌクレオチド配列を意味する。ポリアデニル化シグナル配列またはポリA付加シグナルは、真核生物mRNAの3'末端の特定の部位で切断し、かつ、核中の切断された3'末端に約100〜200個のアデニンヌクレオチドの配列(ポリAテール)を転写後付加するためのシグナルを提供する。ポリアデニル化シグナル配列は、切断部位から約10〜30ヌクレオチド上流に位置するコンセンサス配列AATAAAを含んでよい。
【0035】
翻訳調節エレメントには、翻訳開始コドン(AUG)および停止コドン(TAA、TAG、またはTGA)が含まれる。一部の構築物では、配列内リボソーム進入部位(IRES)が含まれてよい。
【0036】
「プロモーター」とは、機能的に連結されている遺伝子または核酸配列の転写を制御するポリヌクレオチド配列を意味する。プロモーターは、RNAポリメラーゼ結合および転写開始のためのシグナルを含む。使用されるプロモーターは、選択された/機能的に連結された配列の発現が企図される宿主細胞の細胞型において機能的であると考えられる。様々な異なる供給源に由来する構成的プロモーター、誘導性プロモーター、および抑制性プロモーターを含む多数のプロモーターが当技術分野において周知であり(かつ、GenBankのようなデータベースにおいて特定され)、(例えば、ATCCのような寄託機関ならびに他の商業的供給業者または個人的供給源から得た)クローン化ポリヌクレオチドとして、またはクローン化ポリヌクレオチド内で利用可能である。「プロモーター」は、構造遺伝子の転写を指示するヌクレオチド配列を含む。典型的には、プロモーターは、構造遺伝子の転写開始部位の近位の、遺伝子の5'非コードまたは非翻訳領域に位置する。転写開始において機能するプロモーター内の配列エレメントは、しばしば、コンセンサスヌクレオチド配列を特徴とする。これらのプロモーターエレメントには、RNAポリメラーゼ結合部位、TATA配列、CAAT配列、分化特異的エレメント(DSE; McGehee, R.E. Jr., et al., Mol. Endocrinol. 7(1993)551-60)、環状AMP応答エレメント(CRE)、血清応答エレメント(SRE;Treisman, R., Seminars in Cancer Biol. 1(1990)47-58)、糖質コルチコイド応答エレメント(GRE)、ならびに、CRE/ATF(O'Reilly, M.A., et al., J. Biol. Chem. 267(1992)19938-43)、AP2(Ye, J., et al., J. Biol. Chem. 269(1994)25728-34)、SP1、cAMP応答エレメント結合タンパク質(CREB; Loeken, M.R., Gene Expr. 3(1993)253-64)およびオクタマー因子などの他の転写因子に対する結合部位が含まれる(一般に、Watson et al.編、Molecular Biology of the Gene、第4版、The Benjamin/Cummings Publishing Company, Inc.(1987)、ならびにLemaigre,F.P.およびRousseau, G.G.、Biochem. J. 303(1994)1-14を参照されたい)。プロモーターが誘導性プロモーターである場合には、転写速度は誘導物質に応じて上昇する。一方、プロモーターが構成的プロモーターである場合には、転写速度は誘導物質によって調節されない。抑制性プロモーターもまた、公知である。例えば、c-fosプロモーターは、増殖ホルモンが細胞表面の受容体に結合すると特異的に活性化される。テトラサイクリン(Tet)によって調節される発現は、例えばCMVプロモーターとそれに続く2つのTetオペレーター部位からなる人工のハイブリッドプロモーターによって実現され得る。Tetリプレッサーは、2つのTetオペレーター部位に結合し、転写を阻止する。誘導物質テトラサイクリンを添加すると、TetリプレッサーがTetオペレーター部位から遊離され、転写が進行する(Gossen, M.およびBujard, H.、PNAS 89(1992)5547-5551)。メタロチオネインプロモーターおよび熱ショックプロモーターを含む他の誘導性プロモーターについては、例えば、Sambrook et al.(前記)およびGossen et al., Curr. Opin. Biotech. 5(1994)516-520を参照されたい。高レベルの発現のための強力なプロモーターとして同定されている真核生物プロモーターとしては、SV40初期プロモーター、アデノウイルス主要後期プロモーター、マウスメタロチオネイン-Iプロモーター、ラウス肉腫ウイルス末端反復配列、チャイニーズハムスター伸長因子1α(CHEF-1、例えば米国特許第5,888,809号を参照されたい)、ヒトEF-1α、ユビキチン、およびヒトサイトメガロウイルス最初期プロモーター(CMV IE)が挙げられる。
【0037】
「プロモーター」は構成的または誘導性でよい。エンハンサー(すなわち、プロモーターに作用して転写を増大させるシス作動性DNAエレメント)は、プロモーター単独の場合に得られる発現レベルを増大させるために、プロモーターと協同して機能する必要がある場合があり、転写調節エレメントとして含まれてよい。しばしば、プロモーターを含むポリヌクレオチドセグメントは、同様にエンハンサー配列(例えば、CMVまたはSV40)も含む。
【0038】
「機能的に連結される」とは、2つまたはそれ以上の構成要素の並置を指し、そのように記述される構成要素は、意図される様式で機能することを可能にする関係にある。例えば、プロモーターおよび/またはエンハンサーは、シスに作動して連結されたコード配列の転写を制御または調節する場合には、コード配列に機能的に連結されている。必ずしもそうではないが、一般に、「機能的に連結され」ているDNA配列は連続しており、分泌リーダーおよびポリペプチド、またはポリペプチドおよび膜貫通ドメイン、またはポリペプチドおよびGPIアンカーに対するシグナルペプチド、またはポリペプチドおよび翻訳停止コドンなど、2つのタンパク質をコードする領域を連結することが必要である場合、連続的かつリーディングフレーム中に存在する。しかしながら、機能的に連結されたプロモーターは一般にコード配列の上流に位置しているが、必ずしもコード配列と連続していない。エンハンサーは、連続的である必要はない。エンハンサーがコード配列の転写を増大させる場合には、エンハンサーはコード配列に機能的に連結されている。機能的に連結されたエンハンサーは、コード配列の上流、内部、または下流、かつプロモーターからかなり離れて位置してよい。ポリアデニル化部位は、コード配列の下流末端にそれが位置し、その結果、転写がコード配列を通ってポリアデニル化配列へと進行する場合、コード配列に機能的に連結されている。連結は、当技術分野において公知の組換え法によって、例えば、PCR方法論を用いて、および/または好都合な制限部位でのライゲーションによって、遂行される。好都合な制限部位が存在しない場合には、合成オリゴヌクレオチドアダプターまたはリンカーが従来の手法に従って使用される。
【0039】
本明細書において使用される「プレ-mRNAの産生」という用語は、DNAをその相補的なプレ-mRNAに転写するプロセスを示す。真核生物DNAは、エクソン(コード性)およびイントロン(非コード性)と呼ばれる、コード領域および非コード領域から構成されている。DNAをその相補的なプレ-mRNAに転写するプロセスにおいて、エクソンおよびイントロンのゲノム構成は維持される。
【0040】
本明細書において使用される「プレ-mRNAのプロセッシング」という用語は、翻訳後の改変プロセスを示す。この段階において、プレ-mRNAのイントロンはスプライスアウトされ、すなわちプレ-mRNAから除去され、プロセッシングされたmRNAの5'末端はキャップされ、かつ3'ポリアデニル化が実施される。最終の核mRNA、すなわち成熟mRNAが、この段階において得られる。
【0041】
本出願内で使用される「膜貫通ドメイン」という用語は、少なくとも1つのエクソンによってDNAレベルでコードされ、かつ、細胞外領域、膜貫通領域、および細胞内領域を含むポリペプチドまたはタンパク質を示す。膜貫通ドメインは、一般に、次の3つの異なる構造領域を含む:N末端細胞外領域、中央の保存された膜貫通ストレッチ、およびC末端細胞質領域。1つの態様において、膜貫通ドメインは、N末端からC末端の方向に、細胞外領域および膜貫通領域を含む。膜貫通ドメインは、細胞内領域または細胞質領域をさらに含んでもよい。
【0042】
本出願内で使用される「膜貫通ドメインの断片」という用語は、細胞膜をまたがる、すなわち細胞膜内に位置する膜貫通ドメインの一部分、すなわち膜貫通ストレッチを示す。
【0043】
「選択的にスプライシング可能な核酸」という用語は、5'スプライス供与部位で始まり、3'スプライス受容部位で終わる核酸を示す。この核酸は、翻訳停止コドンおよびポリアデニル化シグナルを含む。この選択的にスプライシング可能な核酸は、例えば、免疫グロブリン重鎖CH3ドメインまたはCH4ドメインをコードするエクソンの後のイントロンのような、対応するプレ-mRNAから構成的にスプライスアウトされない非コード領域を含む。選択的にスプライシング可能な核酸の5'スプライス供与部位で起こる「選択的スプライシング事象」は、選択的にスプライシング可能な核酸がプレ-mRNAからスプライスアウトされるかどうか、またはそれが少なくとも部分的に維持され、成熟した(プロセッシングされた)mRNAに含まれるかどうかを決定する事象である。
【0044】
本明細書において使用される「選択的スプライシング」という用語およびその文法的同義語は、1つまたは複数のイントロンの異なるプロセッシングによって、単一のプレ-mRNAから異なる成熟mRNAが獲得され得、したがって、ポリペプチドの異なるアイソフォームが発現され得る、真核細胞におけるプロセスを意味する。本発明の1つの態様において、産生されたプレ-mRNAの単一、すなわち唯一のイントロンが選択的にスプライシングされ得る。別の態様において、第2の核酸が選択的にスプライシングされ得る。さらなる態様において、第2の核酸は、選択的にスプライシング可能なイントロンを含む。異なるプロセッシングは、「イエス/ノー」決定である。すなわち、選択的スプライシングプロセスにおいて、プロセッシングされるイントロン、すなわち「選択的にスプライシング可能な核酸 」は、少なくとも部分的に保持されるか、またはスプライスアウトされるかのいずれかである。これは、後に続く異なるエクソンをもたらす分岐点メカニズムとして理解される必要はない。実際には、これは、選択的にスプライシング可能な核酸がスプライスアウトされるか、または成熟mRNAにおいて少なくとも部分的に維持されるメカニズムである。このメカニズムにより、選択的にスプライシング可能な核酸、およびしたがって、その中に含まれるインフレームの翻訳停止コドンが保持または除去される。
【0045】
選択的スプライシングは、真核細胞における重要な調節メカニズムである。選択的スプライシングにより、成熟mRNA中のエクソンの様々な組合せが同じプレ-mRNAから獲得されて、同じDNAによってコードされる複数の異なるタンパク質を生じることができる。
【0046】
本明細書において使用される「発現」という用語は、細胞内で起こる転写プロセスおよび/または翻訳プロセスを意味する。細胞における所望の産生物の転写レベルは、細胞中に存在する対応するmRNAの量に基づいて決定され得る。例えば、選択された配列から転写されたmRNAは、PCRによって、またはノーザンハイブリダイゼーションによって定量することができる(Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989)を参照されたい)。ポリペプチドは、様々な方法、例えばELISAによって、ポリペプチドの生物活性を分析することによって、またはウェスタンブロット法、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動、NMR、またはラジオイムノアッセイ法などそのような活性に依存しないアッセイ法を実施することによって、例えば、ポリペプチドを認識および結合する抗体を用いることによって定量することができる(前記Sambrook et al., 1989を参照されたい)。
【0047】
「宿主細胞」とは、あるポリペプチドまたはタンパク質をコードする異種核酸が導入される細胞を意味する。宿主細胞には、プラスミドの増殖のために使用される原核細胞および異種核酸の発現のために使用される真核細胞の両方が含まれる。好ましくは、真核細胞は哺乳動物細胞である。好ましくは、哺乳動物細胞は、CHO細胞、BHK細胞、NS0細胞、Sp2/0細胞、COS細胞、HEK細胞、PER.C6(登録商標)細胞である。
【0048】
「ポリペプチド」は、ペプチド結合によって連結されたアミノ酸からなるポリマーであり、天然に産生されるか、または合成的に産生されるかを問わない。約20個未満のアミノ酸残基からなるポリペプチドは、「ペプチド」と呼ばれ得るのに対し、100個より多いアミノ酸残基からなるか、または2つもしくはそれ以上のポリペプチド鎖からなるポリペプチドは、「タンパク質」と呼ばれ得る。
【0049】
「タンパク質」は、長さが100アミノ酸もしくはそれ以上である少なくとも1つのポリペプチド鎖を含むか、または2つもしくはそれ以上のポリペプチド鎖を含む、高分子である。
【0050】
ポリペプチドおよびタンパク質はまた、炭水化物基、金属イオン、脂質、カルボン酸エステル、またはそれらの組合せなどの非ペプチド性構成要素も含んでよい。ポリペプチドまたはタンパク質が産生される細胞によって、非ペプチド性置換基が付加されてもよく、これらは細胞のタイプによって様々でよい。ポリペプチドおよびタンパク質は、そのアミノ酸主鎖構造の観点から本明細書において定義される。炭水化物基のような付加は一般に指定されないが、それでもなお存在してよい。
【0051】
「異種DNA」または「異種核酸」とは、所与の宿主細胞内に天然には存在しないDNA分子もしくは核酸、またはDNA分子集団もしくは核酸集団を意味する。特定の宿主細胞に対して異種のDNA分子は、宿主DNAが非宿主DNA(すなわち外因性DNA)と組み合わされている限りにおいて、宿主細胞種に由来するDNA(すなわち内因性DNA)を含んでよい。例えば、プロモーターを含む宿主DNAセグメントに機能的に連結された、あるポリペプチドをコードする非宿主DNAセグメントを含むDNA分子は、異種DNA分子であるとみなされる。逆に、異種DNAは、外因性プロモーターに機能的に連結された内因性の構造遺伝子を含んでもよい。
【0052】
非宿主、すなわち異種の核酸によってコードされたペプチドまたはポリペプチドは、「異種」ペプチドまたはポリペプチドである。
【0053】
本明細書において使用される「生物学的に活性なポリペプチド」という用語は、細胞株およびウイルスを用いたバイオアッセイ法のような人工の生物学的系において、もしくはそれに投与された場合、または限定されるわけではないが鳥およびヒトを含む哺乳動物を含む動物にインビボで投与された場合に生物学的作用を引き起こす有機分子、例えば、ペプチド、タンパク質、糖タンパク質、核タンパク質、ムコタンパク質、リポタンパク質、合成のポリペプチドまたはタンパク質などの生物学的高分子を意味する。この生物学的作用は、限定されるわけではないが、酵素の阻害もしくは活性化、結合部位もしくは周囲の受容体もしくはリガンドへの結合、シグナル誘発、またはシグナル調節であり得る。1つの態様において、前記生物学的に活性なポリペプチドは、免疫グロブリン、免疫グロブリン断片、免疫グロブリン結合体、および抗融合性(anti-fusogenic)ペプチドを含むポリペプチド群より選択される。
【0054】
生物学的に活性な分子は、非限定的に、例えば、ホルモン、サイトカイン、インターロイキン、免疫グロブリン、抗融合性ペプチド、増殖因子、受容体リガンド、アゴニストまたはアンタゴニスト、細胞障害性物質、抗ウイルス性物質、画像形成物質(imaging agent)、酵素阻害因子、酵素活性化因子またはアロステリック物質のような酵素活性調節因子、およびこれらの結合体である。
【0055】
本出願内で使用される「アミノ酸」という用語は、直接、または前駆体として核酸によってコードされ得る、カルボキシα-アミノ酸の群を示し、アラニン(3文字記号:Ala、1文字記号:A)、アルギニン(Arg、R)、アスパラギン(Asn、N)、アスパラギン酸(Asp、D)、システイン(Cys、C)、グルタミン(Gln、Q)、グルタミン酸(Glu、E)、グリシン(Gly、G)、ヒスチジン(His、H)、イソロイシン(Ile、I)、ロイシン(Leu、L)、リシン(Lys、K)、メチオニン(Met、M)、フェニルアラニン(Phe、F)、プロリン(Pro、P)、セリン(Ser、S)、トレオニン(Thr、T)、トリプトファン(Trp、W)、チロシン(Tyr、Y)、およびバリン(Val、V)を含む。
【0056】
「クローニングベクター」は、宿主細胞中で自律的に複製する能力を有する、プラスミド、コスミド、ファージミド、または細菌人工染色体(BAC)などの核酸である。クローニングベクターは、典型的には、ベクターの本質的な生物学的機能を失わずに決定可能な様式で核酸を挿入することを可能にする1つまたは少数の制限エンドヌクレアーゼ認識部位、ならびにクローニングベクターで形質転換された細胞の同定および選択において使用するのに適している選択マーカーをコードするヌクレオチド配列を含む。選択マーカーには、典型的には、テトラサイクリン耐性、ネオマイシン耐性、G418耐性、またはアンピシリン耐性を与える遺伝子が含まれる。
【0057】
「発現ベクター」は、宿主細胞において発現させようとする異種ポリペプチドまたはタンパク質をコードする核酸である。典型的には、発現ベクターは、原核生物プラスミド増殖単位を含む。例えば、大腸菌(E.coli)の場合、原核生物の複製起点および原核生物選択マーカー、真核生物選択マーカー、ならびに、プロモーター、核酸、およびポリアデニル化シグナルを含む転写ターミネーターをそれぞれ含む、関心対象の核酸を発現させるための1つまたは複数の発現カセットを含む。遺伝子発現は、通常、プロモーターの制御下に置かれており、このような構造遺伝子は、プロモーターに「機能的に連結され」ていると言われる。同様に、調節エレメントおよびコアプロモーターは、調節エレメントがコアプロモーターの活性を調節する場合には、機能的に連結されている。
【0058】
「ポリシストロニック転写単位」は、複数の構造遺伝子が同じプロモーターの制御下にある転写単位である。
【0059】
「単離されたポリペプチド」または「単離されたタンパク質」とは、共有結合していない炭水化物、脂質、または他のタンパク質性不純物などの混入した細胞成分、ならびに天然に存在するポリペプチドまたはタンパク質に関連した非タンパク質性不純物を本質的に含まない、ポリペプチドまたはタンパク質である。典型的には、単離されたポリペプチド/タンパク質の調製物は、高度に精製された形態、すなわち少なくとも約80%の純度、少なくとも約90%の純度、少なくとも約95%の純度、95%を上回る純度、または99%を上回る純度のポリペプチド/タンパク質を含む。特定の調製物が単離されたポリペプチドまたはタンパク質を含むことを示すための1つの方法は、調製物のドデシル硫酸ナトリウム(SDS)-ポリアクリルアミドゲル電気泳動およびゲルのクーマシーブリリアントブルー染色後の単一のバンドの出現による。しかしながら、「単離された」という用語は、二量体あるいはグリコシル化型または誘導体化型など代替の物理的形態の同じポリペプチドまたはタンパク質の存在を除外しない。
【0060】
本明細書において使用される場合、「免疫グロブリン」という用語は、免疫グロブリン遺伝子によって実質的にコードされている1つまたは複数のポリペプチドからなるタンパク質を示す。この定義は、変異型、すなわち1つまたは複数のアミノ酸が置換、欠失、および挿入された形態、切断型、ならびに融合型などの変種を含む。認識されている免疫グロブリン遺伝子には、様々な定常領域遺伝子、ならびに種々の免疫グロブリン可変領域遺伝子が含まれる。免疫グロブリンは、例えばFv、Fab、およびF(ab)2、ならびに単鎖(scFv)を含む様々な形態で存在してよい(例えば、Huston, J.S., et al., PNAS USA 85(1988)5879-5883; Bird, R.E., et al., Science 242(1988)423-426;および一般に、Hood et al., Immunology, Benjamin N.Y.、第2版(1984)ならびにHunkapiller, T.およびHood, L.、Nature 323(1986)15-16)。
【0061】
免疫グロブリンの重鎖ポリペプチドおよび軽鎖ポリペプチドはそれぞれ、仮に存在する場合には、定常領域(一般にカルボキシル末端部分)を含んでよい。重鎖の定常領域は、(i)食細胞のようなFc受容体を有する細胞、または(ii)ブランベル(Brambell)受容体としても公知である新生児Fc受容体(FcRn)を有する細胞への抗体の結合を媒介する。これはまた、構成要素C1qのような古典的な補体系の因子を含むいくつかの因子への結合も媒介する。さらに、膜貫通ドメインは、免疫グロブリン重鎖のC末端定常ドメイン、すなわちCH3ドメインまたはCH4ドメインに続いてもよい。この膜貫通ドメインにより、原形質膜結合型の免疫グロブリンもしくは免疫グロブリン断片または免疫グロブリン融合ポリペプチドの形成が可能になる。
【0062】
免疫グロブリンの重鎖ポリペプチドおよび軽鎖ポリペプチドはそれぞれ、仮に存在する場合には、可変ドメイン(一般にアミノ末端部分)を含んでよい。免疫グロブリンの軽鎖または重鎖の可変ドメインは、様々なセグメント、すなわち4種のフレームワーク領域(FR)および3種の超可変領域(CDR)を含む。
【0063】
「少なくとも1つの断片」という用語は、完全な核酸または完全なポリペプチドの一部分、すなわち、完全な核酸、ポリペプチド、またはドメインの少なくとも20%、少なくとも40%、少なくとも60%、または少なくとも80%を示す。例えば、「免疫グロブリンのCH3ドメインまたはCH4ドメインの少なくとも1つの断片をコードする核酸」とは、完全な免疫グロブリンのCH3ドメインまたはCH4ドメインをコードする核酸の一部分、すなわち、完全な免疫グロブリンのCH3ドメインまたはCH4ドメインをコードする核酸の少なくとも20%、少なくとも40%、少なくとも60%、または少なくとも80%を示す。1つの態様において、免疫グロブリン重鎖の断片は、免疫グロブリン重鎖のC末端断片である。
【0064】
「インフレームの翻訳停止コドン」という用語は、先行する核酸コード領域に関するリーディングフレームのフレームシフトを伴わずに核酸のコード領域の後に続いている、すなわち、翻訳中にコード領域を終結させる、翻訳停止コドン(TAA、TAG、またはTGA)を示す。インフレームの翻訳停止コドンは、先行する核酸コード領域に機能的に連結されている。
【0065】
「インフレームの翻訳停止コドンを含まない」という用語は、指定の核酸中に翻訳停止コドン(TAA、TAG、またはTGA)が不在であること、および/または、核酸のコード領域内もしくはその末端に存在し得るが、1つもしくは2つの塩基対シフトが原因で、プロセッシングされたmRNAの翻訳進行中には認識されず(すなわち、フレーム外であり、機能的に連結されていない)、したがって、翻訳プロセスにおいてコード領域を終結させない翻訳停止コドンが存在することを示す。
【0066】
本出願内で示される「転写ターミネーター」とは、mRNA合成の終結のためのシグナルをRNAポリメラーゼに与える、50〜750塩基対長のDNA配列である。発現カセットの3'末端の非常に効率的な(強力な)ターミネーターが、強力なプロモーターを使用する場合に特に、RNAポリメラーゼが読み過ごすのを防ぐために勧められる。非効率的な転写ターミネーターは、望まれない、例えばプラスミドにコードされた遺伝子発現の理由となり得るオペロン様mRNAの形成を招く場合がある。
【0067】
本出願内で使用される「プレ-mRNAプロセッシング中に構成的に除去されない」および「(対応する)プレ-mRNAから構成的にスプライスアウトされない」という用語は、プレ-mRNAプロセッシング中に例外なく起こるとは限らない、すなわち、ある特定のイントロンの核酸が、一部の場合のみプレ-mRNAプロセッシング中に除去されるスプライシングプロセスを示す。結果として、2つの異なる成熟mRNAが得られ、1つはイントロンの少なくとも一部分を含み、1つはイントロンを含まない。
【0068】
本出願内で使用される「GPIアンカー」という用語は、ポリペプチドまたはタンパク質のC末端に結合される翻訳後修飾物を示す。「GPIアンカー」は、少なくとも1つのエタノールアミンリン酸残基、トリマンノシド(trimannoside)、グルコサミン残基、およびイノシトールリン脂質を含むコア構造を有する。このコア構造にも関わらず、GPIアンカーは通常、ある種の微小不均一性を有し、したがって、GPIアンカーを有するタンパク質は通常、異なる側鎖修飾物を有する同じコア構造の相同なGPIアンカーを有するタンパク質の混合物である。
【0069】
「GPIアンカーに対するシグナルペプチド」という用語は、GPIアンカーが結合される1つのアミノ酸、任意のスペーサーペプチド、および疎水性ペプチドからなる、ポリペプチドまたはタンパク質のC末端アミノ酸配列を示す。このシグナルペプチドのほぼすべて、すなわち、任意のスペーサーペプチドおよび疎水性ペプチドは、酵素GPI-トランスアミナーゼによって翻訳後に除去され、GPIアンカーのコアのエタノールアミンリン酸のアミノ基とGPIアンカーが結合されるアミノ酸との間の結合が形成される。
【0070】
異種核酸によるトランスフェクション後、その異種核酸にコードされる異種ポリペプチドを発現する細胞が選択されなければならない。選択のために、マーカーが使用される。マーカーは、成功裡に形質転換された集団中の細胞を示し、これらの細胞の選択および単離を容易にする。例えば選択マーカーまたは緑色蛍光タンパク質(GFP)のような検出可能な標識など、様々なマーカーが使用され得る。
【0071】
細胞の選択は、単一の工程または複数の工程で実施され得る。単一/複数の工程手順において、第1の選択は、例えば、検出可能な標識のような選択マーカーの閾値レベルに基づいて実施され得る。例えば、フローサイトメトリー(例えば、FACS、すなわちFluorescence Activated Cell Sorting(蛍光活性化細胞選別))による選択の場合、蛍光閾値レベルが設定され、この閾値レベルを上回る蛍光を有する細胞が選択される。あるいは、試料集団の蛍光強度の上位1%〜15%(すなわち、最も強い検出可能標識を有する細胞の15%)、または上位1%〜10%、または上位1%〜5%、または上位5%〜10%、または上位5%〜6%内の細胞を採取してもよい。細胞を選択するための代替方法は、例えば、プロテインAまたは特異的な免疫グロブリンでコーティングされた磁性ビーズに対する免疫学的結合である。選択された細胞パネルは、さらなる選択工程のための基本的な集団と考えることができる。さらなる選択工程は、例えば、単一細胞播種、培養、およびELISA解析(Enzyme-linked Immunosorbent Assay(酵素結合免疫吸着測定法))、または限界希釈クローニング、または選択培地における選択的培養条件下での数日間の培養による増殖およびさらなるFACS選択、またはより高い閾値レベルを用いたさらなるFACS選択(例えば、先に実施したFACS選択において検出された蛍光強度に基づいてよい)、または免疫沈降法(例えば、国際公開公報第2005/020924号も参照されたい)による。本発明による細胞選択は、フローサイトメトリー、ELISA、免疫沈降法、イムノアフィニティーカラムクロマトグラフィー、磁性ビーズイムノアフィニティー選別、顕微鏡観察に基づいた単離法、または免疫学的結合の群より選択される方法によって実施され得る。1つの態様において、本発明による細胞選択は、フローサイトメトリー、ELISA、免疫沈降法、イムノアフィニティーカラムクロマトグラフィー、磁性ビーズイムノアフィニティー選別、顕微鏡観察に基づいた単離法、または免疫学的結合の群より選択される方法と、それに続く、単一細胞播種および培養、限界希釈、または培養による増殖の群より選択される方法と、それに続く、FACS、免疫沈降法、イムノアフィニティーカラムクロマトグラフィー、磁性ビーズイムノアフィニティー選別、顕微鏡観察に基づいた単離法、またはELISAの群より選択される方法によって実施され得る。
【0072】
当技術分野において公知のトランスフェクション方法およびベクターの有効性は非常に高く、したがって、トランスフェクトされた複数の細胞が得られるため、トランスフェクトされた細胞の発現率とマーカーの検出される「強度」との相関付けも実現するマーカーが好ましい。したがって、関心対象の異種ポリペプチドの発現をマーカーの発現と関連付けることが有効である。
【0073】
本発明は、異種ポリペプチド、および同じ核酸に由来する、すなわち、例えばIRESが使用されていない同じ発現カセットに由来するマーカーを発現させるためにスプライシング方法論、すなわち選択的スプライシングを使用する。本発明のマーカーは、発現された異種ポリペプチドの原形質膜結合型である。本発明において、選択マーカーは、N末端部分として異種ポリペプチドを含み、C末端部分として膜貫通ドメインの少なくとも一部分またはGPIアンカーのいずれかを含む。したがって、産生される異種ポリペプチドおよび選択マーカーの細胞外部分、すなわち選択マーカーの検出される部分は、同一である。
【0074】
本発明は、以下の段階を含む、異種ポリペプチドを発現する真核細胞を選択するための方法を含む:
(a)5'から3'方向に以下を含む核酸で真核細胞をトランスフェクトする段階:
(i)インフレームの翻訳停止コドンを含まない、異種ポリペプチドをコードする第1の核酸、
(ii)スプライス供与部位で始まり、スプライス受容部位で終わる、インフレームの翻訳停止コドンおよびポリアデニル化シグナルを含む、第2の核酸、
(iii)以下をコードする第3の核酸:
(iiia)膜貫通ドメインの少なくとも1つの断片または
(iiib)GPIアンカーに対するシグナルペプチド、
(b)前記核酸に由来するプレ-mRNAの産生、該プレ-mRNAのプロセッシング、および該プロセッシングされたmRNAの異種ポリペプチドへの翻訳に適した条件下で、前記トランスフェクトされた細胞を培養する段階であって、前記トランスフェクトされた細胞が、前記プレ-mRNAの選択的スプライシングにより、可溶性異種ポリペプチドおよび原形質膜結合型異種ポリペプチドを産生する段階、ならびに
(c)異種ポリペプチドを発現する細胞であるように、原形質膜結合型異種ポリペプチドを有する細胞を選択する段階。
【0075】
DNAの転写中に、DNAのコピー、いわゆるプレ-メッセンジャーRNA(プレ-mRNA)が得られる。このプレ-mRNAは、鋳型DNAと同じ構成を有する。すなわち、これは、ゲノムのイントロン-エクソン構成を有する。エクソンのみが、コードされるポリペプチドのアミノ酸配列の情報を含む。
【0076】
したがって、イントロンは、翻訳に先立ってプレ-mRNAから除去されなければならない。このプロセスはRNAスプライシングと呼ばれる。
【0077】
「スプライシング可能な核酸」は、少なくとも1つの5'スプライス供与部位、1つの3'スプライス受容部位、および受容部位の20〜50塩基上流に通常位置しているいわゆる分岐部位を特徴とする。この構造により、RNAスプライシング中に、プレ-mRNAの5'スプライス供与部位から3'スプライス受容部位までの核酸の認識および切出しが引き起こされる。スプライシング工程を通じて、ポリペプチドまたはタンパク質が翻訳される元となる成熟mRNAが生成される。本発明の1つの態様において、少なくとも1つの核酸、好ましくは第2の核酸は、インフレームの停止コドンおよびポリアデニル化シグナルなど付加的な調節エレメントを含むスプライシング可能な核酸である。
【0078】
ただし、スプライシングプロセスは排他的ではない。例えば、イントロンは、プレ-mRNAプロセッシングの間にプレ-mRNAから除去されず、したがって、成熟mRNA中に少なくとも部分的に組み込まれることが可能である。インフレームの停止コドンがこの「任意で」含まれるイントロン中に存在する場合には、翻訳はこの停止コドンで停止し、コードされるポリペプチドの変種が産生される。
【0079】
イントロンの認識および切出しは、プレ-mRNA中の付加的なシス作動性エレメントによってしばしば調節される。その機能および位置が理由で、これらのエレメントは、それぞれエクソンスプライスエンハンサー(ESE)、エクソンスプライスサイレンサー(ESS)、イントロンスプライスエンハンサー(ISE)、またはイントロンスプライスサイレンサー(ISS)と呼ばれる(Black, D. L., Annu Rev Biochem 72(2003)291-336)。
【0080】
大半の真核生物遺伝子のゲノムDNAはイントロン-エクソン構成を有する。例えば、分泌型の免疫グロブリン重鎖のC末端ドメイン(すなわち、それぞれCH3またはCH4)をコードするエクソン内に、5'スプライス供与部位がある。
【0081】
このスプライス供与部位が重鎖プレ-mRNAのプロセッシングにおいて有効ではない場合には、停止コドンおよびポリアデニル化シグナルを含む、このエクソンに続くイントロンが、成熟mRNA中で少なくとも部分的に保持される。その場合、mRNAは、CH3またはCH4ドメインで終わり、可溶性免疫グロブリンに相当する免疫グロブリン重鎖に翻訳される。これは、免疫グロブリン分泌細胞における、免疫グロブリン重鎖遺伝子に対する主要なプロセッシング経路である。
【0082】
このスプライス供与部位が免疫グロブリン重鎖プレ-mRNAのプロセッシングにおいて有効である場合には、連続するイントロン、およびしたがって停止コドンが除去される。したがって、翻訳は、免疫グロブリン重鎖のC末端ドメインの後で停止しない。さらに、翻訳は、膜貫通ドメインをコードするエクソンまでスプライシングされた後続の部分を用いて継続される。免疫グロブリン重鎖遺伝子に対するこの少数派のプロセッシング経路により、免疫グロブリン産生細胞の細胞表面に提示される原形質膜結合型免疫グロブリン形態が生じる。
【0083】
このプロセスは「選択的スプライシング」と呼ばれ、このプロセスにおいて任意で除去される核酸(すなわちイントロン)は「選択的にスプライシング可能な核酸」と呼ばれる。
【0084】
異種ポリペプチドまたはタンパク質をコードしている核酸が、選択的にスプライシング可能な核酸によって/を介して、膜貫通ドメインの少なくとも1つの断片をコードしている核酸またはGPIアンカーに対するシグナルペプチドをコードしている核酸に連結されている場合、すなわち、選択的にスプライシング可能な核酸が、これら2種の核酸の間に位置しており、かつ、これら3種の核酸が機能的に連結されている場合には、次の異種ポリペプチドまたはタンパク質の2種の変種が発現される:可溶性変種、すなわち、ポリペプチドまたはタンパク質のみを含む変種、および原形質膜結合型変種、すなわち、ポリペプチドまたはタンパク質と膜貫通ドメインまたはGPIアンカーの両方を含む変種。
【0085】
1つの態様において、トランスフェクトされる核酸は、発現カセット中に含まれる。1つの態様において第1の核酸は、その3'末端にインフレームの翻訳停止コドンを含まない。別の態様において、第1の核酸、第2の核酸、および第3の核酸は機能的に連結されている。1つの態様において、第3の核酸は、膜貫通ドメインの少なくとも1つの断片をコードする。別の態様において、膜貫通ドメインの断片は膜貫通領域である。1つの態様において、第3の核酸は、GPIアンカーに対するシグナルペプチドをコードする。本発明の1つの態様において、第1の核酸にコードされるポリペプチドは、免疫グロブリン重鎖、免疫グロブリン軽鎖、生物学的に活性なポリペプチド、それらの断片、およびそれらの融合ポリペプチドを含む群より選択される。本発明の1つの態様において、第1の核酸にコードされるポリペプチドは、免疫グロブリン重鎖、免疫グロブリン軽鎖、それらの断片、およびそれらの融合物を含む群より選択される。1つの態様において、第3の核酸は、免疫グロブリン膜貫通ドメインの少なくとも1つの断片をコードする。
【0086】
より詳細には、本発明は、以下の段階を含む、免疫グロブリン重鎖を発現する真核細胞を選択するための方法を含む:
(a)5'から3'方向に以下を含む核酸で真核細胞をトランスフェクトする段階:
(i)インフレームの翻訳停止コドンを含まない、免疫グロブリン重鎖をコードする第1の核酸、
(ii)スプライス供与部位で始まり、スプライス受容部位で終わる、インフレームの翻訳停止コドンおよびポリアデニル化シグナルを含む、第2の核酸、
(iii)以下をコードする第3の核酸:
(iiia)膜貫通ドメインの少なくとも1つの断片、または
(iiib)GPIアンカーに対するシグナルペプチド、
(b)前記核酸に由来するプレ-mRNAの産生、該プレ-mRNAのプロセッシング、および該プロセッシングされたmRNAの免疫グロブリン重鎖への翻訳に適した条件下で、前記トランスフェクトされた細胞を培養する段階であって、前記トランスフェクトされた細胞が、前記プレ-mRNAの選択的スプライシングにより、可溶性免疫グロブリン重鎖および原形質膜結合型免疫グロブリン重鎖を産生する段階、ならびに
(c) 免疫グロブリン重鎖を発現する細胞であるように、原形質膜結合型免疫グロブリン重鎖を有する細胞を選択する段階。
【0087】
1つの態様において、本発明は、以下の段階を含む、免疫グロブリンを発現する真核細胞を選択するための方法を含む:
(a)免疫グロブリン軽鎖のための第1の発現カセット、および5'から3'方向に以下を含む第2の発現カセットを含む核酸で真核細胞をトランスフェクトする段階:
(i)インフレームの翻訳停止コドンを含まない、免疫グロブリン重鎖をコードする第1の核酸、
(ii)スプライス供与部位で始まり、スプライス受容部位で終わる、インフレームの翻訳停止コドンおよびポリアデニル化シグナルを含む、第2の核酸、
(iii)以下をコードする第3の核酸:
(iiia)膜貫通ドメインの少なくとも1つの断片、または
(iiib)GPIアンカーに対するシグナルペプチド、
(b)前記核酸に由来するプレ-mRNAの産生、該プレ-mRNAのプロセッシング、および該プロセッシングされたmRNAの免疫グロブリン重鎖への翻訳に適した条件下で、前記トランスフェクトされた細胞を培養する段階であって、前記トランスフェクトされた細胞が、前記プレ-mRNAの選択的スプライシングにより、可溶性免疫グロブリンおよび原形質膜結合型免疫グロブリンを産生する段階、ならびに
(c) 免疫グロブリンを発現する細胞であるように、原形質膜結合型免疫グロブリンを有する細胞を選択する段階。
【0088】
1つの態様において、本発明は、以下の段階を含む、免疫グロブリンを発現する真核細胞を選択するための方法を含む:
(a)同時または逐次的に2種の核酸で真核細胞をトランスフェクトする段階であって、一方の核酸は免疫グロブリン軽鎖のための発現カセットを含み、他方の核酸は5'から3'方向に以下を含む発現カセットを含む段階:
(i)インフレームの翻訳停止コドンを含まない、免疫グロブリン重鎖をコードする第1の核酸、
(ii)スプライス供与部位で始まり、スプライス受容部位で終わる、インフレームの翻訳停止コドンおよびポリアデニル化シグナルを含む、第2の核酸、
(iii)以下をコードする第3の核酸:
(iiia)膜貫通ドメインの少なくとも1つの断片、または
(iiib)GPIアンカーに対するシグナルペプチド、
(b)前記核酸に由来するプレ-mRNAの産生、該プレ-mRNAのプロセッシング、および該プロセッシングされたmRNAの免疫グロブリン重鎖への翻訳に適した条件下で、前記トランスフェクトされた細胞を培養する段階であって、前記トランスフェクトされた細胞が、前記プレ-mRNAの選択的スプライシングにより、可溶性免疫グロブリンおよび原形質膜結合型免疫グロブリンを産生する段階、ならびに
(c) 免疫グロブリンを発現する細胞であるように、原形質膜結合型免疫グロブリンを有する細胞を選択する段階。
【0089】
1つの態様において、第3の核酸にコードされる膜貫通ドメインは、免疫グロブリン膜貫通ドメインである。本発明の1つの態様において、第2の核酸は、ただ1つの5'スプライス供与部位およびただ1つの3'スプライス受容部位を含む。本発明の別の態様において、第2の核酸は、免疫グロブリン重鎖CH3ドメインまたはCH4ドメインをコードするエクソンに続いている天然の免疫グロブリン重鎖イントロンであり、このイントロンにおいて少なくとも50個の連続したヌクレオチドが除去される。
【0090】
例えば、真核細胞において免疫グロブリン重鎖を組換え発現させる場合、ゲノムのイントロン-エクソン構成を有する核酸またはコード領域のみを含む核酸、すなわちcDNAのいずれかが使用される。どちらの場合においても、核酸は、免疫グロブリン重鎖のC末端ドメインをコードするエクソンの後の停止コドンで終了する。その後、ゲノム構成において、選択的にスプライシング可能な核酸および膜貫通ドメインを含む、後続のイントロンおよびエクソンが取り除かれる。したがって、このような核酸を用いて、可溶性免疫グロブリン重鎖のみが得られる。
【0091】
免疫グロブリンまたはその断片の組換え発現のために、免疫グロブリン重鎖遺伝子のゲノム構成が少なくとも部分的に保持されている場合、すなわち、C末端ドメインをコードするエクソンの後のイントロン(すなわち、選択的にスプライシング可能な核酸)および膜貫通ドメインをコードする後続のエクソンが保持されている場合には、選択的スプライシングが可能である。選択的スプライシング事象において、CH3ドメインまたはCH4ドメインをコードするエクソンの3'末端コドンおよび停止コドンはそれぞれ、イントロン配列として/と共に除去され、異なる成熟mRNAが代わりに生成され、この成熟mRNA中のコード領域、すなわちリーディングフレームの3'末端は、付加的に維持されたエクソンによって伸長される。このmRNAは、付加的な3'エクソンによってコードされた付加的な膜貫通ドメインまたはその断片を含む、C末端が伸長した免疫グロブリン重鎖に翻訳される。この延伸された免疫グロブリン重鎖は、免疫グロブリンの組立の間に組み入れられて、原形質膜結合型免疫グロブリンを結果として生じる。驚くべきことに、本発明によるこのような核酸を用いて、異種ポリペプチドを産生するトランスフェクトされた細胞を選択できることが現在見出されている。この方法論は一般に応用可能であり、免疫グロブリンに制限されない。この方法論を実施するためには、インフレームの停止コドンを含まない、異種ポリペプチドを組換え発現するための核酸が、インフレームの翻訳停止コドンおよびポリアデニル化部位を含む免疫グロブリンに由来する選択的にスプライシング可能な核酸に機能的に連結され、かつそれとインフレームでなければならない。後続の第3の核酸も同様に多様であり、膜貫通ドメインまたはその断片をコードする任意の核酸、ならびにGPIアンカーに対するシグナルペプチドをコードする任意の核酸から選択され得る。これらのエレメント、すなわち、ポリペプチドをコードする核酸、選択的にスプライシング可能な核酸、および膜貫通ドメインまたはGPIアンカーに対するシグナルペプチドをコードする核酸は、様々な遺伝子ならびに様々な生物から選択し、かつ組み合わせることができる。唯一の前提条件は、選択的にスプライシング可能な核酸中の翻訳停止コドンがポリペプチドをコードする核酸のリーディングフレームとインフレームであるような様式で、すなわち、それがリボソームによって認識されることができ、かつ翻訳が終結されるような様式で、これら3種の核酸が組み合わされていることである。
【0092】
一般的に言って、選択的スプライシングによって、可溶型異種ポリペプチドのC末端の一部分が、イントロンの一部分としてプレ-mRNAから任意に除去される/され得る。この部分は、分泌型の3'末端コドン、3'非翻訳領域、停止コドン、およびポリアデニル化シグナルを任意で含む。したがって、5'スプライス供与部位で始まり、任意で除去される3'スプライス受容部位で終わる核酸は、選択的にプロセッシングされない変種のC末端と重複する/重複してよい。
【0093】
それゆえ、免疫グロブリン重鎖遺伝子の少なくとも部分的に保持されたゲノム構成を有する本発明による核酸を用いることによって、異種ポリペプチドの2種の変種、すなわち短鎖の可溶性変種および長鎖の原形質膜結合型変種を得ることができる。
【0094】
第1の核酸が免疫グロブリン重鎖をコードする1つの態様において、第1の核酸は、ゲノムとして組織化された免疫グロブリン重鎖遺伝子のすべてのエクソンおよび1つ以外のすべてのイントロンを含む。1つの態様において、第3の核酸は、膜貫通ドメインの断片またはGPIアンカーに対するシグナルペプチドのいずれかをコードし、その際、膜貫通ドメインの断片は単一のエクソンによってコードされている。別の態様において、膜貫通ドメインは、M1-M2-エクソン融合物によって、すなわち、ゲノムに介在するイントロンを含まない単一のエクソンによってコードされている免疫グロブリン膜貫通ドメインである。1つの態様において、免疫グロブリン膜貫通ドメインは、cDNAによってコードされる。
【0095】
免疫グロブリン重鎖遺伝子の少なくとも部分的に保持された全体的なゲノム構成を有する核酸を宿主細胞中に導入することによって、一方で可溶性異種ポリペプチドを発現し、他方では原形質膜結合型異種ポリペプチドを発現する細胞が得られる。例えば、2種の免疫グロブリン変種を得るために、すなわち、選択的スプライシングを可能にするために、免疫グロブリン重鎖遺伝子の完全なゲノム構成、すなわちイントロンおよびエクソンのすべてを維持する必要はない。選択的スプライス部位を機能可能な形態で維持することのみが必要とされる。「機能可能なスプライス部位」とは、5'スプライス供与部位および3'スプライス受容部位を含み、その結果、介在する核酸配列をプレ-mRNAから切り出すことが可能である核酸配列である。イントロンの認識および切出しは、プレ-mRNA上の付加的なシス作動性エレメントによってしばしば調節される。その機能および位置が理由で、これらのエレメントは、それぞれエクソンスプライスエンハンサー(ESE)、エクソンスプライスサイレンサー(ESS)、イントロンスプライスエンハンサー(ISE)、またはイントロンスプライスサイレンサー(ISS)と呼ばれる(参照により本明細書に組み入れられる、Black, D. L., Annu Rev Biochem 72(2003)291-336)。
【0096】
異種ポリペプチドを発現するトランスフェクトされた細胞を選択するために、様々な方法を使用することができ、例えば、非限定的に、分光学的方法、例えば、蛍光、ELISA、およびその変形、生物活性の分析によるもの、または、そのような活性に依存しないアッセイ法、例えば、ウェスタンブロット法、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動、もしくは、異種ポリペプチドを認識し、結合する抗体を用いたラジオイムノアッセイ法などのアッセイ法の使用によるものがある。原形質膜結合型異種ポリペプチドは、C末端を除いて可溶性異種ポリペプチドと同じアミノ酸配列および2次構造を有しているため、例えば、可溶性変種と同じ抗体を用いて決定することができる。
【0097】
あるポリペプチドの原形質膜結合型変種は、それを発現する細胞に堅く結合されている。したがって、原形質膜結合型変種は、異種ポリペプチドまたはタンパク質、例えば、免疫グロブリンを発現させるための核酸で成功裡にトランスフェクトされた細胞を単離するためのマーカーとして使用され得る。1つの態様において、ポリペプチドは免疫グロブリンである。1つの態様において、免疫グロブリンは、IgG、IgE、およびIgAの群より選択される。
【0098】
異種ポリペプチドの可溶型変種と異種ポリペプチドの原形質膜結合型変種の分子比率は、50:50を超える比率〜100:0未満の比率、好ましくは、75:25を超える比率〜100:0未満の比率である。例えば、真核細胞が、免疫グロブリンをコードする本発明による核酸でトランスフェクトされる場合、成功裡にトランスフェクトされた細胞は、原形質膜結合型免疫グロブリンの出現によって選択することができる。
【0099】
本発明による核酸は、異種ポリペプチドのコード領域、選択的にスプライシング可能な核酸、および膜貫通ドメインもしくはその断片のコード領域、またはGPIアンカーに対するシグナルペプチドのコード領域を5'から3'方向に含む核酸である。より詳細には、本発明は、以下を含む核酸を含む:
(a)インフレームの翻訳停止コドンを含まない、異種ポリペプチドをコードする第1の核酸、
(b)5'スプライス供与部位で始まり、3'スプライス受容部位で終わる、インフレームの翻訳停止コドンおよびポリアデニル化シグナルを含む、第2の核酸、ならびに
(c)以下をコードする第3の核酸:
(i)膜貫通ドメインの少なくとも1つの断片、または
(ii)GPIアンカーに対するシグナルペプチド。
【0100】
他の態様において、(i)選択的にスプライシングされたイントロンの5'スプライス部位は、異種ポリペプチドをコードする核酸の正常な停止コドンに対して5'側に位置し、(ii)第2の核酸は選択的にスプライシング可能な核酸であり、かつ、(iii)5'スプライス部位は一部の場合のみかつ非構成的に使用され、その結果、正常にプロセッシングされた異種ポリペプチド、すなわち可溶性ポリペプチドと、選択的にプロセッシングされた異種ポリペプチド、すなわち原形質膜結合型ポリペプチドとの分子比率は、50:50を超える比率〜100:0未満の比率となる。1つの態様において、第1の核酸および第2の核酸は機能的に連結されている、すなわち、第2の核酸の翻訳停止コドンは、ポリペプチドまたはその断片をコードする第1の核酸のリーディングフレームに対してインフレームである。
【0101】
選択的スプライシングによって除去され得る核酸は、ポリペプチドの少なくとも1つの断片をコードする核酸の後にあり、かつ、膜貫通ドメインの少なくとも1つの断片をコードする核酸またはGPIアンカーに対するシグナルペプチドをコードする核酸の前にある。1つの態様において、異種ポリペプチドは、N末端に関心対象のポリペプチド、およびC末端に免疫グロブリン重鎖CH3ドメインもしくはCH4ドメインまたはその変種の少なくとも1つの断片を含む融合ポリペプチドである。1つの態様において、核酸は、第1の核酸と第2の核酸および/または第2の核酸と第3の核酸の間に第4の核酸を含む。すなわち、第4の核酸は、例えば、第2の核酸の後(すなわち、3'スプライス受容部位の後)かつ第3の核酸の5'末端の前に位置する。
【0102】
異種ポリペプチドをコードする核酸と膜貫通ドメインをコードする核酸またはGPIアンカーに対するシグナルペプチドをコードする核酸との間に位置する選択的にスプライシング可能な核酸を用いて、異種ポリペプチドの2種の変種を発現させることができる。すなわち、膜貫通ドメインもGPIアンカーも含まない異種ポリペプチド、および膜貫通ドメインまたはGPIアンカーを含む異種ポリペプチドである。異種ポリペプチドは、限定されるわけではないが、例えば、ホルモン、サイトカイン、増殖因子、受容体リガンド、アゴニストもしくはアンタゴニスト、細胞障害性物質、抗ウイルス性物質、画像形成物質、酵素阻害因子、酵素活性化因子もしくはアロステリック物質のような酵素活性調節因子、免疫グロブリン、またはそれらの融合物もしくは断片より選択され得る。1つの態様において、ポリペプチドは、免疫グロブリン、免疫グロブリン重鎖ポリペプチド、または免疫グロブリン融合物である。
【0103】
本発明は、選択的にスプライシング可能な核酸が組み込まれている限りにおいて、任意のポリペプチド、任意の膜貫通ドメイン、およびGPIアンカーに対する任意のシグナルペプチドを用いて実施することができる。より詳細には、5'スプライス供与部位で始まり、3'スプライス受容部位で終わる核酸断片が適切に選択されなければならない。先行するポリペプチドおよび後続の膜貫通ドメインまたはGPIアンカーは、自由に選択され得る。
【0104】
本発明は、以下を含む核酸もさらに含む:
(a)第1のマルチクローニング部位、
(b)5'スプライス供与部位で始まり、3'スプライス受容部位で終わるスプライシング可能な核酸であって、
(i)停止コドンおよびポリアデニル化シグナルを含み、かつ
(ii)プレ-mRNAのプロセッシング中に構成的に除去されない、
スプライシング可能な核酸、
(c)第2のマルチクローニング部位。
【0105】
本発明は、例えば、非限定的に、C3b/C4b受容体(1型補体受容体)(Hourcade, D., et al., J. Exp. Med. 168(1988)1255-1270)、ヒトEGFR、ニワトリEGFR、およびラットEGFR(Callaghan, T., et al., Oncogene 8(1993)2939-2948; Reiter, J.L.およびMaihle, N.J.、Nuc. Acids Res. 24(1996)4050-4056; Petch, L., et al., Mol. Cell Biol. 10(1990)2973-2982)、免疫グロブリン(Ig)α、ε、γ、μ重鎖(Zhang, K., et al., J. Exp. Med. 176(1992)233-243; Rogers, J.E., et al., Cell 20(1980)303-312;Milcarek, C.およびHall, B.、Mol. Cell Biol. 5(1985)2514-2520; Kobrin, B.J., et al., Mol. Cell Biol. 6(1986)1687-1697; Cushley, W., et al., Nature 298(1982)77; Alt, F.W., et al., Cell 20(1980)293-301; Peterson, M.L., Gene Exp. 2(1992)319-327)、ヒトPLA2受容体(Ancian, P., et al., J. Biol. Chem. 270(1995)8963-8970)、ニワトリCek5(Connor, R.J.およびPasquale, E.B.、Oncogene 11(1995)2429-2438)、ヒトFGFR(Johnson, D.E., et al., Mol. Cell Biol. 11(1991)4627-4634)をコードする核酸の群に由来する第2の核酸、すなわち選択的にスプライシング可能な核酸を用いて実施することができる。
【0106】
1つの態様において、第2の核酸は、CH3/CH4ドメインをコードするエクソンと膜貫通ドメインの少なくとも1つの断片をコードするエクソンの間に位置する、免疫グロブリンのイントロンである。1つの態様において、第2の核酸は、ヒト(hu)免疫グロブリン(Ig)α(アルファ)重鎖、hu Ig δ(デルタ)重鎖、hu Ig ε(イプシロン)重鎖、hu Ig γ1、γ2、γ3、およびγ4(ガンマ)重鎖、hu Ig μ(ミュー)重鎖、マウスIg重鎖α(アルファ)型、マウスIg重鎖δ(デルタ)型、マウスIg重鎖ε(イプシロン)型、マウスIg重鎖γ1(ガンマ1)型、マウスIg重鎖γ2A(ガンマ2A)型、マウスIg重鎖γ2B(ガンマ2B)型、マウスIg重鎖γ3(ガンマ3)型、ならびにマウスIg重鎖μ(ミュー)型をコードする核酸の群に由来する。
【0107】
1つの態様において、第2の核酸は、ヒト免疫グロブリンγ1重鎖、ヒト免疫グロブリンγ2重鎖、ヒト免疫グロブリンγ3重鎖、ヒト免疫グロブリンγ4重鎖、ヒト免疫グロブリンε重鎖(1)、およびヒト免疫グロブリンε重鎖(2)をコードする核酸の群より選択される。1つの態様において、第2の核酸は、ヒト免疫グロブリンδ重鎖、ヒト免疫グロブリンγ1重鎖、ヒト免疫グロブリンγ2重鎖、ヒト免疫グロブリンμ重鎖、マウス重鎖α型、マウス重鎖γ1型、マウス重鎖γ2B型、マウス重鎖γ3型、およびマウス重鎖μ型をコードする核酸の群に由来する/より選択される。
【0108】
本発明は、例えば、非限定的に、膜貫通ドメインの少なくとも1つの断片をコードする核酸の場合には、C3b/C4b受容体(1型補体受容体)(Hourcade, D., et al., J. Exp. Med. 168(1988)1255-1270)、ヒトEGFR、ニワトリEGFR、およびラットEGFR(Callaghan, T., et al., Oncogene 8(1993)2939-2948; Reiter, J.L.およびMaihle, N.J.、Nuc. Acids Res. 24(1996)4050-4056; Petch, L., et al., Mol. Cell Biol. 10(1990)2973-2982)、Ig α、ε、γ、μ重鎖(Zhang, K., et al., J. Exp. Med. 176(1992)233-243; Rogers, J.E., et al., Cell 20(1980)303-312;Milcarek, C.およびHall, B.、Mol. Cell Biol. 5(1985)2514-2520; Kobrin, B.J., et al., Mol. Cell Biol. 6(1986)1687-1697; Cushley, W., et al., Nature 298(1982)77; Alt, F.W., et al., Cell 20(1980)293-301; Peterson, M.L., Gene Exp. 2(1992)319-327)、ヒトPLA2受容体(Ancian, P., et al., J. Biol. Chem. 270(1995)8963-8970)、ニワトリCek5(Connor, R.J.およびPasquale, E.B.、Oncogene 11(1995)2429-2438)、ヒトFGFR(Johnson, D.E., et al., Mol. Cell Biol. 11(1991)4627-4634)をコードする核酸の群より選択される第3の核酸を用いて実施することができる。1つの態様において、第3の核酸は、ヒト(hu)免疫グロブリン(Ig)α(アルファ)重鎖、hu Ig δ(デルタ)重鎖、hu Ig ε(イプシロン)重鎖、hu Ig γ1、γ2、γ3、およびγ4(ガンマ)重鎖、hu Ig μ(ミュー)重鎖、マウスIg重鎖α(アルファ)型、マウスIg重鎖δ(デルタ)型、マウスIg重鎖ε(イプシロン)型、マウスIg重鎖γ1(ガンマ1)型、マウスIg重鎖γ2A(ガンマ2A)型、マウスIg重鎖γ2B(ガンマ2B)型、マウスIg重鎖γ3(ガンマ3)型、ならびにマウスIg重鎖μ(ミュー)型をコードする核酸の群より選択される。1つの態様において、第3の核酸は、ヒト免疫グロブリンγ1重鎖、ヒト免疫グロブリンγ2重鎖、ヒト免疫グロブリンγ3重鎖、ヒト免疫グロブリンγ4重鎖、ヒト免疫グロブリンε重鎖(1)、およびヒト免疫グロブリンε重鎖(2)をコードする核酸の群より選択される。1つの態様において、第3の核酸は、ヒト免疫グロブリンδ重鎖、ヒト免疫グロブリンγ1重鎖、ヒト免疫グロブリンγ2重鎖、ヒト免疫グロブリンμ重鎖、マウス重鎖α型、マウス重鎖γ1型、マウス重鎖γ2B型、マウス重鎖γ3型、およびマウス重鎖μ型をコードする核酸の群より選択される。
【0109】
膜貫通ドメインの少なくとも1つの断片をコードする核酸の群に加えて、第3の核酸は、GPIアンカーに対するシグナルペプチドをコードする核酸の群より選択することもできる。GPIアンカーに対するシグナルペプチドをコードする核酸の群は、ヒトアルカリジエステラーゼ、アセチルコリンエステラーゼ、アルカリホスファターゼ(腸、肝臓、および胎盤)、CAMPATH-1抗原、癌胎児性抗原、CD55、CD59、CD90、コンタクチン-1、E48抗原、葉酸受容体AおよびB、GPIアンカー型タンパク質p137、リンパ球機能関連抗原-3、mDIA相互作用タンパク質、5'-ヌクレオチダーゼ、ウロキナーゼ型プラスミノーゲン活性化因子に由来する;マウスLY-6C抗原、LY-6抗原、5'-ヌクレオチダーゼ、OX45抗原、幹細胞抗原-2、血管細胞接着分子-1、Qaリンパ球抗原2(Qa2)に由来する;ウサギトレハラーゼに由来する;ラットブレビカンタンパク質、CD90、グリピカンタンパク質、ヘパリン硫酸プロテオグリカン、MRC OX-45抗原、5'-ヌクレオチダーゼ、膵臓分泌顆粒膜主要糖タンパク質、T細胞表面タンパク質RT6.2に由来する;酵母DNA修復タンパク質PHR1、糖リン脂質アンカー型表面タンパク質1に由来する;ブタアミロイド前駆タンパク質ジペプチダーゼに由来する;トリパノソーマ・ブルセイ(Trypanosoma brucei)の種々の変種表面タンパク質、多環式(polycyclic)酸性反復タンパク質に由来する;コンゴ・トリパノソーマ(Trypanosoma congolense)変種表面タンパク質YNat1.1に由来する;ニワトリメラノトランスフェリン、中性(neutral)細胞接着分子に由来する;トルペド・マルモラタ(Torpedo marmorata)アセチルコリンエステラーゼに由来する;ハムスタープリオンタンパク質に由来する;ウシ5'-ヌクレオチダーゼに由来する;粘菌膜タンパク質Gp64、予定胞子特異的抗原に由来する;およびイカSgp1、Sgp2に由来する、GPIアンカーに対するシグナルペプチドをコードする核酸の群を含む。
【0110】
表1において、本発明による第2の核酸の核酸配列の例を示す。表2において、本発明による第3の核酸の核酸配列および本発明による第3の核酸配列に対応するアミノ酸配列の例を示す。表3において、任意の第4の核酸の核酸配列および本発明による第4の任意の核酸に対応するアミノ酸配列の例を示す。
【0111】
表1では、5'スプライス供与部位、第2の(選択的にスプライシング可能な)核酸、および3'スプライス受容部位を列挙している。第2の核酸の配列は一般に1kbを上回るため、表1に列挙された配列は短縮されており、第2の核酸の最初および最後の約100ヌクレオチド(完全な第2の核酸の全体サイズを指す数字によって隔てられている)を示している。第2の核酸の完全な配列は、配列リストの所与のSEQ ID NOに含まれる。停止コドンには下線を引いている。
【0112】
スプライス供与部位は、縦線によって隔てられた、スプライス供与部位の先行するコンセンサス配列および第2の核酸の最初のヌクレオチド6つを含む形式で示されている(例えば、Zhang, M.Q., Human Mol. Gen. 7(1998)919-932も参照されたい)。同様に、スプライス受容部位は、縦線によって隔てられた、第2の核酸の最後のヌクレオチド6つおよび後続のスプライス受容部位コンセンサス配列を記載することによって示されている。縦線の直後のヌクレオチド(5'スプライス供与部位)および直前のヌクレオチド(3'スプライス受容部位)は、第2の(スプライシング可能な)核酸の最初のヌクレオチドおよび最後のヌクレオチドである。表1において、第2の核酸中の停止コドンには下線を引いている。
【0113】
第2の核酸は、異種ポリペプチドをコードする核酸、すなわち第1の核酸に直接連結されるか、または任意の小さな(9塩基〜21塩基の)介在核酸配列と共に連結されてよい。1つの態様において、任意の介在する(第5の)核酸は、第2の核酸が得られるゲノム中の第2の核酸に先行する核酸に由来する。
【0114】
表2において、膜貫通ドメインの断片をコードする第3の核酸配列およびGPIアンカーに対するシグナルペプチドのアミノ酸配列の例を示す。この配列は、直接、または任意の介在配列、すなわち第4の核酸と共に、3'スプライス受容部位に続いてよい。表3において、第4の核酸配列および第4の核酸に対応するアミノ酸配列の例を示す。
【0115】
1つの態様において、本発明による核酸は、前記第2の核酸と前記第3の核酸の間に第4の核酸を含む。1つの態様において、本発明による核酸は、前記第1の核酸と前記第2の核酸の間に第5の核酸を含む。本発明の1つの態様は、前記第3の核酸が、前記第2の核酸と(i)同じまたは(ii)異なる遺伝子または生物から得られること、すなわち、前記第3の核酸はゲノムにおいて前記第2の核酸と必ずしも組織化されていないことである。
【0116】
これらの配列は、公的に利用可能なゲノムまたはデータベース(例えば、ヒトゲノム計画、http://www.gdb.org/;マウスゲノムデータベース、http://www.informatics.jax.org/;SwissProt(http://www.expasy.org/sprot/)に由来する。どのアノテーションもアクセス可能ではない場合、これらの配列は、ソフトウェアALOMによって予測または完成された(例えば、Klein, P., et al., Biochim. Biophys. Acta 787(1984)221-226を参照されたい)。膜貫通ドメインの完成の場合、括弧中の配列は、所与のSwissProt配列に加えて、ALOMによって予測される。
【0117】
1つの態様において、第2の核酸は、SEQ ID NO:001、SEQ ID NO:002、SEQ ID NO:003、SEQ ID NO:004、SEQ ID NO:005、SEQ ID NO:006、SEQ ID NO:007、SEQ ID NO:008、SEQ ID NO:009、SEQ ID NO:151、SEQ ID NO:152、SEQ ID NO:153、SEQ ID NO:154、SEQ ID NO:155、SEQ ID NO:156、SEQ ID NO:157、SEQ ID NO:158、SEQ ID NO:159、SEQ ID NO:169、SEQ ID NO:170、SEQ ID NO:171、SEQ ID NO:172、SEQ ID NO:173を含む核酸の群より選択される。1つの態様において、本発明による核酸の第2の核酸は、SEQ ID NO:001〜SEQ ID NO:009の核酸配列の群より選択される。1つの態様において、第2の核酸は、SEQ ID NO:002、SEQ ID NO:003、SEQ ID NO:156、SEQ ID NO:157、SEQ ID NO:170、およびSEQ ID NO:171を含む核酸の群より選択される。1つの態様において、本発明による核酸の第3の核酸は、SEQ ID NO:010〜SEQ ID NO:018の核酸配列およびSEQ ID NO:019〜SEQ ID NO:069のアミノ酸配列をコードする核酸配列の群より選択されるか、またはこの群より選択される核酸の断片である。1つの態様において、本発明による核酸の第3の核酸は、SEQ ID NO:010、SEQ ID NO:011、SEQ ID NO:012、SEQ ID NO:013、SEQ ID NO:014、SEQ ID NO:015、SEQ ID NO:016、SEQ ID NO:017、SEQ ID NO:018、SEQ ID NO:160、SEQ ID NO:161、SEQ ID NO:163、SEQ ID NO:164、SEQ ID NO:165、SEQ ID NO:166、SEQ ID NO:167、SEQ ID NO:168、SEQ ID NO:174、SEQ ID NO:175、SEQ ID NO:176の核酸配列ならびにSEQ ID NO:019〜SEQ ID NO:069およびSEQ ID NO:162のアミノ酸配列をコードする核酸配列の群より選択されるか、またはこの群より選択される核酸の断片である。1つの態様において、本発明による核酸の第3の核酸は、SEQ ID NO:011、SEQ ID NO:012、SEQ ID NO:165、SEQ ID NO:166、SEQ ID NO:175の核酸配列およびSEQ ID NO:019〜SEQ ID NO:036のアミノ酸配列をコードする核酸配列の群より選択されるか、またはこの群より選択される核酸の断片である。別の態様において、本発明による核酸の第3の核酸は、SEQ ID NO:011、SEQ ID NO:012、SEQ ID NO:165、SEQ ID NO:166、およびSEQ ID NO:175の核酸配列の群より選択されるか、またはこの群より選択される核酸の断片である。1つの態様において、本発明による核酸の第4の核酸は、SEQ ID NO:070〜SEQ ID NO:078の核酸配列およびSEQ ID NO:079〜SEQ ID NO:129のアミノ酸配列をコードする核酸配列の群より選択されるか、またはこの群より選択される核酸を含む。
【0118】
(表1)第2の核酸の例




【0119】
(表2)第3の核酸および第3の核酸に対応するアミノ酸の例







【0120】
(表3)第4の核酸および第4の核酸に対応するアミノ酸の例



【0121】
1つの態様において、ポリペプチドは免疫グロブリン重鎖であり、膜貫通ドメインは免疫グロブリン重鎖のものである。免疫グロブリンを発現させる場合、本発明の核酸は、免疫グロブリン軽鎖をコードする核酸と共に真核宿主細胞中に導入される。これらの核酸は、同じ核酸または異なる核酸上に配置されてよい。
【0122】
本発明は、本発明の核酸を含むベクターならびに本発明のベクターを含む真核細胞を包含する。
【0123】
本発明による核酸にコードされる異種ポリペプチドの可溶性変種は、本発明の核酸で真核細胞をトランスフェクトし、前記核酸にコードされるポリペプチドの発現に適した条件下で細胞を培養し、かつ、細胞の細胞質または培地からポリペプチドを回収することによって産生することができる。
【0124】
本発明による真核細胞を製造するために、キットが提供される。キットは、少なくとも2つのマルチクローニング部位、ならびに5'スプライス供与部位で始まり、3'スプライス受容部位で終わる、(i)翻訳停止コドンおよびポリアデニル化シグナルを含み、かつ(ii)プレ-mRNAのプロセッシングの中に構成的に除去されない、スプライシング可能な核酸を含むベクターを含む。
【0125】
1つの態様において、本発明の真核細胞は哺乳動物細胞である。1つの態様において、哺乳動物細胞は、CHO細胞、NS0細胞、Sp2/0細胞、COS細胞、K652細胞、BHK細胞、PER.C6(登録商標)細胞、およびHEK細胞を含む群より選択される細胞である。
【0126】
以下の実施例、配列リスト、および図面は、本発明の理解を助けるために提供され、本発明の真の範囲は、添付の特許請求の範囲において説明される。本発明の精神から逸脱することなく、説明する手順において修正を実施できることが理解されよう。
【0127】
表の説明
表1 第2の核酸の例。
表2 第3の核酸および第3の核酸に対応するアミノ酸の例。
表3 第4の核酸および第4の核酸に対応するアミノ酸の例。
表4 sIgG/mIgG発現ベクター「pmIgG-A」の構築におけるクローニングおよび変異誘発のためのオリゴヌクレオチドプライマー。
表5 指数増殖期の間のいくつかの時点に算出された4つの異なるSPRに基づいて選択クローンすべてに関して決定された平均SPR。
表6 表4は、96ウェルプレート中への単一細胞沈着後3週目の様々なIgG濃度レベルに対するクローンの分布、ならびにmIgGで選別したクローン515個および対照クローン550個の細胞培養上清のELISAによる解析を示す。
表7 表5は、第2の選択における様々なIgG濃度レベルに対するクローンの分布を示す。
表8 CASY(登録商標)TT細胞カウンター(Scharfe Systems)を用いて決定された、全クローンの振とう培養物の0日、1日、2日、3日、4日、および7日目の細胞計数値。
表9 ELISAによる10日目の振とう培養物の産生力測定。
【0128】
配列の説明
SEQ ID NO:001 ヒト免疫グロブリンδ重鎖に由来する第2の核酸
SEQ ID NO:002 ヒト免疫グロブリンγ1重鎖に由来する第2の核酸
SEQ ID NO:003 ヒト免疫グロブリンγ2重鎖に由来する第2の核酸
SEQ ID NO:004 ヒト免疫グロブリンμ重鎖に由来する第2の核酸
SEQ ID NO:005 マウス免疫グロブリン重鎖α型に由来する第2の核酸
SEQ ID NO:006 マウス免疫グロブリン重鎖γ1型に由来する第2の核酸
SEQ ID NO:007 マウス免疫グロブリン重鎖γ2B型に由来する第2の核酸
SEQ ID NO:008 マウス免疫グロブリン重鎖γ3型に由来する第2の核酸
SEQ ID NO:009 マウス免疫グロブリン重鎖μ型に由来する第2の核酸
SEQ ID NO:010 ヒト免疫グロブリンδ重鎖に由来する第3の核酸
SEQ ID NO:011 ヒト免疫グロブリンγ1重鎖に由来する第3の核酸
SEQ ID NO:012 ヒト免疫グロブリンγ2重鎖に由来する第3の核酸
SEQ ID NO:013 ヒト免疫グロブリンμ重鎖に由来する第3の核酸
SEQ ID NO:014 マウス免疫グロブリン重鎖α型に由来する第3の核酸
SEQ ID NO:015 マウス免疫グロブリン重鎖γ1型に由来する第3の核酸
SEQ ID NO:016 マウス免疫グロブリン重鎖γ2B型に由来する第3の核酸
SEQ ID NO:017 マウス免疫グロブリン重鎖γ3型に由来する第3の核酸
SEQ ID NO:018 マウス免疫グロブリン重鎖μ型に由来する第3の核酸
SEQ ID NO:019 ヒトAChEに由来する第3の核酸
SEQ ID NO:020 ヒト腸アルカリホスファターゼに由来する第3の核酸
SEQ ID NO:021 ヒト肝臓アルカリホスファターゼに由来する第3の核酸
SEQ ID NO:022 ヒト胎盤アルカリホスファターゼに由来する第3の核酸
SEQ ID NO:023 ヒトCAMPATH-1抗原に由来する第3の核酸
SEQ ID NO:024 ヒト癌胎児性抗原に由来する第3の核酸
SEQ ID NO:025 ヒトCD55に由来する第3の核酸
SEQ ID NO:026 ヒトCD59に由来する第3の核酸
SEQ ID NO:027 ヒトCD90に由来する第3の核酸
SEQ ID NO:028 ヒトコンタクチン-1に由来する第3の核酸
SEQ ID NO:029 ヒトE48抗原に由来する第3の核酸
SEQ ID NO:030 ヒト葉酸受容体Aに由来する第3の核酸
SEQ ID NO:031 ヒト葉酸受容体Bに由来する第3の核酸
SEQ ID NO:032 ヒトGPIアンカー型タンパク質p137に由来する第3の核酸
SEQ ID NO:033 ヒトリンパ球機能関連抗原-3に由来する第3の核酸
SEQ ID NO:034 ヒトmDIA相互作用タンパク質に由来する第3の核酸
SEQ ID NO:035 ヒト5'-ヌクレオチダーゼに由来する第3の核酸
SEQ ID NO:036 ヒトウロキナーゼ型プラスミノーゲン活性化因子に由来する第3の核酸
SEQ ID NO:037 マウス細胞表面タンパク質LY-6C抗原に由来する第3の核酸
SEQ ID NO:038 マウス Ly-6抗原ThBに由来する第3の核酸
SEQ ID NO:039 マウス5'-ヌクレオチダーゼに由来する第3の核酸
SEQ ID NO:040 マウスOX45抗原に由来する第3の核酸
SEQ ID NO:041 マウス幹細胞抗原2に由来する第3の核酸
SEQ ID NO:042 マウス血管細胞接着分子1に由来する第3の核酸
SEQ ID NO:043 ラットブレビカンに由来する第3の核酸
SEQ ID NO:044 ラットCD90抗原に由来する第3の核酸
SEQ ID NO:045 ラットグリピカンに由来する第3の核酸
SEQ ID NO:046 ラットMRC OX45抗原に由来する第3の核酸
SEQ ID NO:047 ラット5'-ヌクレオチダーゼに由来する第3の核酸
SEQ ID NO:048 ラット膵臓分泌顆粒膜主要糖タンパク質GP2に由来する第3の核酸
SEQ ID NO:049 ラットT細胞表面タンパク質RT6.2に由来する第3の核酸
SEQ ID NO:050 酵母DNA修復タンパク質PHR1に由来する第3の核酸
SEQ ID NO:051 酵母糖リン脂質アンカー型表面タンパク質-1に由来する第3の核酸
SEQ ID NO:052 ブタアミロイド前駆タンパク質に由来する第3の核酸
SEQ ID NO:053 ブタジペプチダーゼに由来する第3の核酸
SEQ ID NO:054 トリパノソーマ・ブルセイ変種表面タンパク質IL Tat 1.1に由来する第3の核酸
SEQ ID NO:055 トリパノソーマ・ブルセイ変種表面タンパク質MIT 117aに由来する第3の核酸
SEQ ID NO:056 トリパノソーマ・ブルセイ変種表面タンパク質MIT 118aに由来する第3の核酸
SEQ ID NO:057 トリパノソーマ・ブルセイ変種表面タンパク質MIT 221に由来する第3の核酸
SEQ ID NO:058 トリパノソーマ・ブルセイ変種表面タンパク質MITat 1.1000 BCに由来する第3の核酸
SEQ ID NO:059 トリパノソーマ・ブルセイ変種表面タンパク質MITat 1.5bに由来する第3の核酸
SEQ ID NO:060 トリパノソーマ・ブルセイプロサイクリック型(procyclic)酸性反復タンパク質に由来する第3の核酸
SEQ ID NO:061 トリパノソーマ・ブルセイ変種表面タンパク質TxTat 1に由来する第3の核酸
SEQ ID NO:062 コンゴ・トリパノソーマ変種表面タンパク質YNat 1.1に由来する第3の核酸
SEQ ID NO:063 ニワトリメラノトランスフェリンに由来する第3の核酸
SEQ ID NO:064 ニワトリ神経細胞接着分子に由来する第3の核酸
SEQ ID NO:065 トルペド・マルモラタAChEに由来する第3の核酸
SEQ ID NO:066 ハムスタープリオンタンパク質に由来する第3の核酸
SEQ ID NO:067 ウシ5'-ヌクレオチダーゼに由来する第3の核酸
SEQ ID NO:068 粘菌膜タンパク質Gp64に由来する第3の核酸
SEQ ID NO:069 粘菌予定胞子特異的抗原に由来する第3の核酸
SEQ ID NO:070 ヒト免疫グロブリンδ重鎖に由来する第4の核酸
SEQ ID NO:071 ヒト免疫グロブリンγ1重鎖に由来する第4の核酸
SEQ ID NO:072 ヒト免疫グロブリンγ2重鎖に由来する第4の核酸
SEQ ID NO:073 ヒト免疫グロブリンμ重鎖に由来する第4の核酸
SEQ ID NO:074 マウス免疫グロブリン重鎖α型に由来する第4の核酸
SEQ ID NO:075 マウス免疫グロブリン重鎖γ1型に由来する第4の核酸
SEQ ID NO:076 マウス免疫グロブリン重鎖γ2B型に由来する第4の核酸
SEQ ID NO:077 マウス免疫グロブリン重鎖γ3型に由来する第4の核酸
SEQ ID NO:078 マウス免疫グロブリン重鎖μ型に由来する第4の核酸
SEQ ID NO:079 ヒトAChEに由来する第4の核酸
SEQ ID NO:080 ヒト腸アルカリホスファターゼに由来する第4の核酸
SEQ ID NO:081 ヒト肝臓アルカリホスファターゼに由来する第4の核酸
SEQ ID NO:082 ヒト胎盤アルカリホスファターゼに由来する第4の核酸
SEQ ID NO:083 ヒトCAMPATH-1抗原に由来する第4の核酸
SEQ ID NO:084 ヒト癌胎児性抗原に由来する第4の核酸
SEQ ID NO:085 ヒトCD55に由来する第4の核酸
SEQ ID NO:086 ヒトCD59に由来する第4の核酸
SEQ ID NO:087 ヒトCD90に由来する第4の核酸
SEQ ID NO:088 ヒトコンタクチン-1に由来する第4の核酸
SEQ ID NO:089 ヒトE48抗原に由来する第4の核酸
SEQ ID NO:090 ヒト葉酸受容体Aに由来する第4の核酸
SEQ ID NO:091 ヒト葉酸受容体Bに由来する第4の核酸
SEQ ID NO:092 ヒトGPIアンカー型タンパク質p137に由来する第4の核酸
SEQ ID NO:093 ヒトリンパ球機能関連抗原-3に由来する第4の核酸
SEQ ID NO:094 ヒトmDIA相互作用タンパク質に由来する第4の核酸
SEQ ID NO:095 ヒト5'-ヌクレオチダーゼに由来する第4の核酸
SEQ ID NO:096 ヒトウロキナーゼ型プラスミノーゲン活性化因子に由来する第4の核酸
SEQ ID NO:097 マウス細胞表面タンパク質LY-6C抗原に由来する第4の核酸
SEQ ID NO:098 マウスLy-6抗原ThBに由来する第4の核酸
SEQ ID NO:099 マウス5'-ヌクレオチダーゼに由来する第4の核酸
SEQ ID NO:100 マウスOX45抗原に由来する第4の核酸
SEQ ID NO:101 マウス幹細胞抗原2に由来する第4の核酸
SEQ ID NO:102 マウス血管細胞接着分子1に由来する第4の核酸
SEQ ID NO:103 ラットブレビカンに由来する第4の核酸
SEQ ID NO:104 ラットCD90抗原に由来する第4の核酸
SEQ ID NO:105 ラットグリピカンに由来する第4の核酸
SEQ ID NO:106 ラットMRC OX45抗原に由来する第4の核酸
SEQ ID NO:107 ラット5'-ヌクレオチダーゼに由来する第4の核酸
SEQ ID NO:108 ラット膵臓分泌顆粒膜主要糖タンパク質GP2に由来する第4の核酸
SEQ ID NO:109 ラットT細胞表面タンパク質RT6.2に由来する第4の核酸
SEQ ID NO:110 酵母DNA修復タンパク質PHR1に由来する第4の核酸
SEQ ID NO:111 酵母糖リン脂質アンカー型表面タンパク質-1に由来する第4の核酸
SEQ ID NO:112 ブタアミロイド前駆タンパク質に由来する第4の核酸
SEQ ID NO:113 ブタジペプチダーゼに由来する第4の核酸
SEQ ID NO:114 トリパノソーマ・ブルセイ変種表面タンパク質IL Tat 1.1に由来する第4の核酸
SEQ ID NO:115 トリパノソーマ・ブルセイ変種表面タンパク質MIT 117aに由来する第4の核酸
SEQ ID NO:116 トリパノソーマ・ブルセイ変種表面タンパク質MIT 118aに由来する第4の核酸
SEQ ID NO:117 トリパノソーマ・ブルセイ変種表面タンパク質MIT 221に由来する第4の核酸
SEQ ID NO:118 トリパノソーマ・ブルセイ変種表面タンパク質MITat 1.1000 BCに由来する第4の核酸
SEQ ID NO:119 トリパノソーマ・ブルセイ変種表面タンパク質MITat 1.5bに由来する第4の核酸
SEQ ID NO:120 トリパノソーマ・ブルセイプロサイクリック型酸性反復タンパク質に由来する第4の核酸
SEQ ID NO:121 トリパノソーマ・ブルセイ変種表面タンパク質TxTat 1に由来する第4の核酸
SEQ ID NO:122 コンゴ・トリパノソーマ変種表面タンパク質YNat 1.1に由来する第4の核酸
SEQ ID NO:123 ニワトリメラノトランスフェリンに由来する第4の核酸
SEQ ID NO:124 ニワトリ神経細胞接着分子に由来する第4の核酸
SEQ ID NO:125 トルペド・マルモラタAChEに由来する第4の核酸
SEQ ID NO:126 ハムスタープリオンタンパク質に由来する第4の核酸
SEQ ID NO:127 ウシ5'-ヌクレオチダーゼに由来する第4の核酸
SEQ ID NO:128 粘菌膜タンパク質Gp64に由来する第4の核酸
SEQ ID NO:129 粘菌予定胞子特異的抗原に由来する第4の核酸
SEQ ID NO:130 介在するイントロンすべてを伴うCH1〜CH3のエクソンおよび隣接した3'非翻訳領域を含む、ヒト免疫グロブリン重鎖定常領域γ1(IGHG1)遺伝子
SEQ ID NO:131 プラスミドpIgG-Aにコードされるγ鎖定常領域のアミノ酸配列
SEQ ID NO:132 オリゴヌクレオチドプライマーTM-fw1
SEQ ID NO:133 オリゴヌクレオチドプライマーTM-rv1
SEQ ID NO:134 オリゴヌクレオチドプライマーM1-rv
SEQ ID NO:135 オリゴヌクレオチドプライマーM2-fw
SEQ ID NO:136 オリゴヌクレオチドプライマーTM-fw2
SEQ ID NO:137 オリゴヌクレオチドプライマーTM-rv2
SEQ ID NO:138 オリゴヌクレオチドプライマーmutSphI-1
SEQ ID NO:139 オリゴヌクレオチドプライマーmutSphI-2
SEQ ID NO:140 介在するイントロンすべてを伴うCH1〜M2のエクソン、イントロン6中の分泌型IgG1に対するポリアデニル化部位、および膜結合型IgG1に対するポリアデニル化部位を含む3'UTRを含む、ヒト免疫グロブリン重鎖定常領域γ1(IGHG1)遺伝子
SEQ ID NO:141 プラスミドpmIgG-Aにコードされた短型(sIgG)アイソフォームのアミノ酸配列
SEQ ID NO:142 プラスミドpmIgG-Aにコードされた長型(mIgG)アイソフォームのγ鎖定常領域のアミノ酸配列
SEQ ID NO:143 介在するイントロンすべてを伴うCH1〜CH3のエクソン、および分泌型免疫グロブリンに対するポリアデニル化部位を含むイントロン6の隣接した5'部分を含む、ヒトIGHG1遺伝子
SEQ ID NO:144 プラスミドpmIgGΔ-Aにコードされた短型(sIgG)アイソフォームのγ鎖定常領域のアミノ酸配列
SEQ ID NO:145 プラスミドpmIgGΔ-Aにコードされた長型(mIgG)アイソフォームのγ鎖定常領域のアミノ酸配列
SEQ ID NO:146 プラスミドpmIgGΔ-Bから除去されるコード配列
SEQ ID NO:147 プラスミドpIgG-GPI-Bの作製のために挿入されるコード配列(ヒト胎盤アルカリホスファターゼのカルボキシ末端シグナルペプチドのアミノ酸配列(NCBIアクセッション番号:M13077; ヌクレオチド:1542-1643))
SEQ ID NO:148 発現プラスミドpIgG-GPI-BのCH1〜3'UTRのγ鎖発現カセット定常領域のDNA配列
SEQ ID NO:149 プラスミドpIgG-GPI-BにコードされたsIgGアイソフォームのγ鎖定常領域のアミノ酸配列
SEQ ID NO:150 プラスミドpIgG-GPI-Bにコードされたヒト胎盤アルカリホスファターゼのカルボキシ末端シグナルペプチドを含む、長型アイソフォームのγ鎖定常領域のアミノ酸配列
SEQ ID NO:151 ヒト線維芽細胞増殖因子受容体1に由来する第2の核酸
SEQ ID NO:152 マウス上皮増殖因子受容体に由来する第2の核酸
SEQ ID NO:153 ヒト補体受容体1(C3b/C4b)に由来する第2の核酸
SEQ ID NO:154 マウスインターロイキン4受容体に由来する第2の核酸
SEQ ID NO:155 ヒト免疫グロブリンα重鎖に由来する第2の核酸
SEQ ID NO:156 ヒト免疫グロブリンε重鎖(1)に由来する第2の核酸
SEQ ID NO:157 ヒト免疫グロブリンγ3重鎖に由来する第2の核酸
SEQ ID NO:158 マウスIg重鎖ε型に由来する第2の核酸
SEQ ID NO:159 マウスIg重鎖γ2A型に由来する第2の核酸
SEQ ID NO:160 ヒト線維芽細胞増殖因子受容体1に由来する第3の核酸
SEQ ID NO:161 マウス上皮増殖因子受容体に由来する第3の核酸
SEQ ID NO:162 ヒト補体受容体1(C3b/C4b)に由来する第3の核酸
SEQ ID NO:163 マウスインターロイキン4受容体に由来する第3の核酸
SEQ ID NO:164 ヒト免疫グロブリンα重鎖に由来する第3の核酸
SEQ ID NO:165 ヒト免疫グロブリンε重鎖に由来する第3の核酸
SEQ ID NO:166 ヒト免疫グロブリンγ3重鎖に由来する第3の核酸
SEQ ID NO:167 マウスIg重鎖ε型に由来する第3の核酸
SEQ ID NO:168 マウスIg重鎖γ2A型に由来する第3の核酸
SEQ ID NO:169 ヒトインターロイキン4受容体に由来する第2の核酸
SEQ ID NO:170 ヒト免疫グロブリンε重鎖(2)に由来する第2の核酸
SEQ ID NO:171 ヒト免疫グロブリンγ4重鎖に由来する第2の核酸
SEQ ID NO:172 マウス免疫グロブリンδ重鎖に由来する第2の核酸
SEQ ID NO:173 ヒト免疫グロブリンε重鎖(2)に由来する第2の核酸
SEQ ID NO:174 ヒトインターロイキン4受容体に由来する第3の核酸
SEQ ID NO:175 ヒト免疫グロブリンγ4重鎖に由来する第3の核酸
SEQ ID NO:176 マウスIg重鎖δ型に由来する第3の核酸
【0129】
実施例
実施例1
ゲノム断片のクローニングおよび真核生物sIgG/mIgG発現ベクターの構築
(a)sIgG発現ベクター「pIgG-A」の構築
プロテイン「A」に対する特異性を有する免疫グロブリンを発現させるために、ベクター「pIgG-A」を構築した。これは、分泌型の免疫グロブリンsIgGをコードし、以下のエレメントを含む(図1Cを参照されたい):
1. 以下から構成される、ヒトガンマ(γ)1重鎖の転写単位。
-ヒトサイトメガロウイルス(hCMV)由来の最初期エンハンサーおよびプロモーター、
-コザックコンセンサス配列(Kozak, M., Nucleic Acids Res. 15(1987)8125-48)を含む合成の5'非翻訳領域、
-シグナル配列イントロンを含むマウス免疫グロブリン重鎖シグナル配列、
-プロテイン「A」に対する特異性を有する抗体の可変重鎖cDNA、
-介在するイントロンすべてを伴うCH1〜CH3のエクソンおよび分泌型IgG1の重鎖に対するポリアデニル化部位を含む隣接した3'非翻訳領域を含むヒト免疫グロブリン重鎖定常領域γ1(IGHG1)遺伝子と結合されたマウスIgμエンハンサー(JH3-JH4スイッチ領域)を含む、マウス/ヒト重鎖ハイブリッドイントロン2。
重鎖定常領域のヌクレオチド配列はSEQ ID NO:130において報告する。プラスミドpIgG-Aにコードされるγ鎖定常領域のアミノ酸配列は、SEQ ID NO:131において報告する。
2. 以下から構成されるヒトカッパ(κ)軽鎖の転写単位。
-ヒトサイトメガロウイルス(hCMV)由来の最初期エンハンサーおよびプロモーター、
-コザックコンセンサス配列を含む合成の5'非翻訳領域、
-シグナル配列イントロンを含むマウス免疫グロブリン重鎖シグナル配列、
-プロテイン「A」に対する特異性を有する抗体の可変κ鎖cDNA、
-ヒト免疫グロブリンκ定常領域(IGKC)遺伝子と結合されたマウスイントロン2Igκエンハンサー、および
-ポリアデニル化部位を含む、ヒトIGKC遺伝子3'非翻訳領域。
3. 哺乳動物細胞の選択マーカーとしてのネオマイシンホスホトランスフェラーゼ転写単位。
4. 大腸菌(E. coli)におけるプラスミド複製用のベクターpUC18に由来する複製起点。
5. 大腸菌においてアンピシリン耐性を与えるβ-ラクタマーゼ遺伝子。
【0130】
(b)sIgG/mIgG発現ベクター「pmIgG-A」の構築
膜結合型のγ1鎖に対するポリアデニル化シグナルを含む、エクソンCH3の下流のイントロン(イントロン6)の大部分、エクソンM1、エクソンM1の下流のイントロン(イントロン7)、エクソンM2、および隣接した3'非翻訳領域(3'UTR)を含むヒト免疫グロブリン重鎖定常領域γ1(IGHG1)座位の5.2kbゲノム断片を、Expand Long Template PCR System(Roche Diagnostics GmbH, Germany)および表4に指定するオリゴヌクレオチドプライマーを用いたPCRによってヒトゲノムDNA(Roche Diagnostics GmbH, Mannheim, Germany)から増幅した。
【0131】
(表4)クローニングおよび変異誘発のためのオリゴヌクレオチドプライマー

*Sph I部位の変異誘発のために改変されたヌクレオチドは、小文字によって示している。
【0132】
増幅された断片は、「ホモサピエンス第14染色体ゲノムコンティグ」(NCBIアクセッション番号:NT_026437、逆相補鎖)のヌクレオチド87203513-87208691に対応する。サブクローニングしたPCR産物の配列決定により、対応する第14染色体配列と比べて98パーセントの同一性が明らかになり、差異はすべてイントロンまたは3'非翻訳領域(3'UTR)中に存在した。エクソンM2停止コドンの219bp下流のSphI制限部位を、表2に指定するオリゴヌクレオチドプライマーを使用する、PCRに基づいた部位特異的変異誘発によって破壊した。次いで、SphI制限部位を介して免疫グロブリンγ1鎖発現ベクターpIgG-A中にクローニングすることによって、この断片をイントロン6の5'隣接部分と結合させ、それによって、ゲノムが組織化された完全なγ1鎖転写単位を生じさせた。サブクローニングすることによって、プロテイン「A」に対する特異性を有する抗体の分泌型(sIgG)および膜結合型(mIgG)をコードする真核細胞用発現ベクター「pmIgG-A」を構築した。プラスミドは、以下のエレメントを含む(図1Aも参照されたい):
1. 以下から構成される、ヒトγ1重鎖の前述の転写単位。
-ヒトサイトメガロウイルス(hCMV)由来の最初期エンハンサーおよびプロモーター、
-コザックコンセンサス配列を含む合成の5'非翻訳領域、
-シグナル配列イントロンを含むマウス免疫グロブリン重鎖シグナル配列、
-プロテイン「A」に対する特異性を有する抗体の可変重鎖cDNA、
-介在するイントロンすべてを伴うCH1〜M2のエクソン、イントロン6中の分泌型IgG1に対するポリアデニル化部位、および膜結合型IgG1に対するポリアデニル化部位を含む3'UTRを含むヒト免疫グロブリン重鎖定常領域γ1(IGHG1)遺伝子と結合されたJH3-JH4スイッチ領域(Banerji, J., et al., Cell 33(1983)729-740; Gillies, S.D., et al., Cell, 33(1983)717-728)由来のマウスIgミュー(μ)エンハンサーを含む、マウス/ヒト重鎖ハイブリッドイントロン2。
重鎖定常領域のゲノム構成は図2Aにおいて示し、そのヌクレオチド配列はSEQ ID NO:140において報告する。プラスミドpmIgG-Aにコードされるγ鎖定常領域の短型(sIgG)アイソフォームまたは長型(mIgG)アイソフォームのアミノ酸配列は、それぞれ SEQ ID NO:141またはSEQ ID NO:142において報告する。
2. 以下から構成されるヒトカッパ(κ)軽鎖の転写単位。
-ヒトサイトメガロウイルス(hCMV)由来の最初期エンハンサーおよびプロモーター、
-コザックコンセンサス配列を含む合成の5'非翻訳領域、
-シグナル配列イントロンを含むマウス免疫グロブリン重鎖シグナル配列、
-プロテイン「A」に対する特異性を有する抗体の可変κ鎖cDNA、
ヒト免疫グロブリンκ定常領域(IGKC)遺伝子と結合された、マウスイントロン2 Igκエンハンサー(Emorine, L., et al., Nature 304(1983)447-449; Picard, D.およびSchaffner, W.、Nature(1984)307, 80-82)、および
-ポリアデニル化部位を含む、ヒトIGKC遺伝子3'UTR。
3. 哺乳動物細胞の選択マーカーとしてのネオマイシンホスホトランスフェラーゼ転写単位。
4. 大腸菌におけるプラスミド複製用のベクターpUC18に由来する複製起点。
5. 大腸菌においてアンピシリン耐性を与えるベータ(β)-ラクタマーゼ遺伝子。
【0133】
(c)sIgG/mIgG発現ベクター「pmIgGΔ-A」および「pmIgGΔ-B」の構築
実施例1(b)で説明したのと同様にして、エクソンCH3の下流のイントロン(イントロン6)の大部分およびエクソンM1を含む、ヒト免疫グロブリン重鎖定常領域γ3(IGHG3)座位の1.1kbゲノム断片をPCRによって増幅した(オリゴヌクレオチドについては、表2を参照されたい)。この断片は、「ホモサピエンス第14染色体ゲノムコンティグ」(NCBIアクセッション番号:NT_026437、逆相補鎖)のヌクレオチド87235195〜87236300に対応し、配列同一性は98パーセントである。差異はすべて、エクソンM1内での1つの単一ヌクレオチド交換を除いてイントロン内に存在し、このヌクレオチド交換はサイレントであり、したがって、コードされるアミノ酸配列は変化しない。同様に、エクソンM2および膜結合型のγ4鎖に対するポリアデニル化シグナルを含む隣接した3'非翻訳領域を含む、ヒト免疫グロブリン重鎖定常領域γ4(IGHG4)座位の1.6kbゲノム断片をPCRによって増幅した(オリゴヌクレオチドについては、表2を参照されたい)。この断片は、「ホモサピエンス第14染色体ゲノムコンティグ」(NCBIアクセッション番号:NT_026437、逆相補鎖)のヌクレオチド87087786〜87089377に対応し、配列同一性は98パーセントであり、差異はすべて3'UTR中に存在する。PCRに基づいた部位特異的変異誘発によって、エクソンM2停止コドンの212bp下流のSphI部位を破壊した。両方の断片をM1とM2の間で連結し、PCR(オリゴヌクレオチドについては、表2を参照されたい)によって増幅し、次いで、イントロン6中のSphI部位を介してγ1鎖発現ベクター中にクローニングし、それによって、M1とM2の間のイントロン(イントロン7)を欠くゲノム構成を有するγ1-γ3-γ4ハイブリッド鎖発現カセットを得た。サブクローニングすることによって、プロテイン「A」に対する特異性を有する抗体の分泌型sIgGおよび膜結合型mIgGをコードする真核細胞用発現ベクター「pmIgGΔ-A」を構築した。プラスミドは、以下のエレメントを含む(図1Bも参照されたい):
1. 以下から構成される、γ1-γ3-γ4ハイブリッド重鎖の前述の転写単位。
-ヒトサイトメガロウイルス(hCMV)由来の最初期エンハンサーおよびプロモーター、
-コザックコンセンサス配列を含む合成の5'非翻訳領域、
-シグナル配列イントロンを含むマウス免疫グロブリン重鎖シグナル配列、
-プロテイン「A」に対する特異性を有する抗体の可変重鎖cDNA、
-介在するイントロンすべてを伴うCH1〜CH3のエクソンおよび分泌型免疫グロブリン対するポリアデニル化部位を含むイントロン6の隣接した5'部分を含むヒトIGHG1遺伝子と結合されたマウスIgμエンハンサー(JH3-JH4スイッチ領域)を含む、マウス/ヒト重鎖ハイブリッドイントロン2、
-ヒトIGHG3遺伝子に由来するイントロン6の3'部分およびエクソンM1、ならびに
-エクソンM2およびヒトIGHG4遺伝子に由来する膜結合型免疫グロブリンに対するポリアデニル化部位を含む3'非翻訳領域。
重鎖定常領域のゲノム構成は図2Bにおいて示し、そのヌクレオチド配列はSEQ ID NO:143において報告する。プラスミドpmIgGΔ-Aにコードされるγ鎖定常領域の短型(sIgG)アイソフォームまたは長型(mIgG)アイソフォームのアミノ酸配列は、それぞれSEQ ID NO:144またはSEQ ID NO:145において報告する。
2. 以下から構成されるヒトκ軽鎖の転写単位。
-ヒトサイトメガロウイルス(hCMV)由来の最初期エンハンサーおよびプロモーター、
-コザックコンセンサス配列を含む合成の5'UTR、
-シグナル配列イントロンを含むマウス免疫グロブリン重鎖シグナル配列、
-プロテイン「A」に対する特異性を有する抗体の可変κ鎖cDNA、
-ヒト免疫グロブリンκ定常領域(IGKC)遺伝子と結合されたマウスイントロン2Igκエンハンサー、および
-ポリアデニル化部位を含む、ヒトIGKC遺伝子3'非翻訳領域。
3.哺乳動物細胞の選択マーカーとしてのネオマイシンホスホトランスフェラーゼ転写単位。
4.大腸菌におけるプラスミド複製用のベクターpUC18に由来する複製起点。
5.大腸菌においてアンピシリン耐性を与えるβ-ラクタマーゼ遺伝子。
【0134】
γ鎖およびκ鎖の可変領域をコードするcDNA配列を交換することによって、sIgG/mIgG発現ベクター「pmIgGΔ-B」を構築した。これは、上記のpmIgGΔ-Aに関して説明したのと同じ構成を有するが、代わりにプロテイン「B」に対する特異性を有する免疫グロブリンをコードする。
【0135】
実施例2
Sp2/0-Ag14細胞のトランスフェクションおよび解析
(a)Sp2/0-Ag14細胞の培養およびエレクトロポレーション
Sp2/0-Ag14ハイブリドーマ細胞(ATCC番号CRL-1581、Shulman, M., et al., Nature 276(1978)269-270)を、10 %超低IgGウシ胎児血清(FCS)(Invitrogen Corp., US)および2mMグルタミン(Invitrogen Corp., US)を添加したRPMI培地(Invitrogen Corp., US)中、37℃、5%CO2、および湿度95%で培養する。トランスフェクションのために、137mM NaCl、5mM KCl、0.7mM Na2HPO4、および6mMグルコースを含む20mM HEPES緩衝液(N-(2-ヒドロキシエチル)-ピペラジン-N'-2-エタンスルホン酸)(pH7.0)中、4℃で、細胞106個当たりプラスミドDNA10μgを用いて細胞をエレクトロポレーションする。エレクトロポレーションは、Genepulserエレクトロポレーション装置(Bio-Rad Laboratories Inc.,US)を用いて220Vおよび960μFで実施する。トランスフェクション後、ウェル当たり培地100μl中に細胞5000個となるように96ウェルプレートに細胞を播く。トランスフェクトされた細胞を選択するために、500μg/mlのG418(Roche Diagnostics GmbH, Germany)をエレクトロポレーション後1日目に培地に添加する。培地を2日毎〜3日毎に交換して、選択圧を維持する。トランスフェクション後約2週間目に、トランスフェクトーマクローンを96ウェルプレートから単離し、適切な培養管中でさらに増殖させる。貯蔵のために、クローンの細胞約106個を、低IgG FCS(Invitrogen Corp., US)に溶かした10%ジメチルスルホキシド(Sigma-Aldrich Co., Germany)中で凍結し、かつ液体窒素中で保存する。
【0136】
プラスミドpmIgG-A、pmIgGΔ-A、およびpIgG-Aを用いて細胞各106個をトランスフェクションして、それぞれ15個、19個、および12個の独立したクローンを得た。各トランスフェクションから6クローンをランダムに選択して、さらに解析した。
【0137】
(b)フローサイトメトリーによるIgG定量および解析
実施例2(a)の各クローンの細胞105個を、6ウェルプレート中の(前述したような)G418を含む培地2ml中に播種し、48時間培養した。その後、上清を回収し、かつ、製造業者のプロトコルに従って「ヒトFc検出キット」(CIS bio international)を用いて、ホモジニアス時間分解蛍光法(Homogeneous Time-Resolved Fluorescence(HTRF))によって、分泌されたIgGの量を定量した。原形質膜結合型抗体をフローサイトメトリーによって解析するために、各クローンの細胞105個を4℃にてPBS(リン酸緩衝化生理食塩水)で2回洗浄し、次いで、FITCを結合させたF(ab')2断片マウス抗ヒトIgG(Dianova, Germany)50μl中に再懸濁し、1%BSA(Roche Diagnostics GmbH, Germany)を含むPBS中に1:50で希釈し、かつ、暗所、4℃で1時間インキュベートした。PBSで2回洗浄した後、これらの細胞をPBS中に再懸濁し、かつ、BD FACSCaliburフローサイトメーター(BD Biosciences, US)で解析した。細胞表面に結合されたIgGの量の指標として、各クローンの蛍光強度中央値を決定した。
【0138】
図3において、各クローンの細胞培養上清中のIgG濃度と共に、フローサイトメトリーでの蛍光強度中央値を提示する。pmIgG-AまたはpmIgGΔ-A(すなわち、sIgG型およびmIgG型の両方をコードするプラスミド)でトランスフェクトされたクローンの場合、分泌されたIgGの量の増加は、細胞表面シグナルの増大と一致することが観察された。このような相関は、pIgG-A(すなわち、分泌型抗体であるsIgGのみをコードするプラスミド)でトランスフェクトされたクローンの場合は観察されなかった。
【0139】
実施例3
フローサイトメトリーによる安定にトランスフェクトされた細胞の選別
IgGを安定に発現するクローンを作製するために、前述したように、エレクトロポレーションによってSp2/0-Ag14細胞3×106個をプラスミドpmIgGΔ-Bでトランスフェクトした。トランスフェクション後1日目に、細胞を500μg/ml G418選択培地に移し、かつ、プールとして約2週間培養した。選択後、トランスフェクトされた細胞の表面に結合したIgGを標識し、かつ、最もシグナルの強い細胞をフローサイトメトリーによって選別した。したがって、プールから得た細胞4×106個を4℃にて培地で2回洗浄し、次いで、培地中で1:50に希釈した、フルオレセイン(FITC)を結合させたF(ab')2断片マウス抗ヒトIgG(Dianova, Germany)と共に、氷上で20分間インキュベーションした。培地による2回の洗浄工程の後、これらの細胞を培地に再懸濁し、BD FACSVantageフローサイトメーター(BD Biosciences, US)に移した。試料集団の上位5〜6%の蛍光強度を有する細胞を含むようにゲートを設定し(図4)、かつ、このゲートによって選別された細胞を採取した。選択培地中で数日間培養することによって、採取した細胞を増殖させた。これらの細胞を用いて、第2の選別サイクル、および連続して第3の選別サイクルを前述したように実施した。選別された細胞をプールとして採取する代わりに、第4の選別工程および最終の選別工程を用いて、96ウェルプレート中に単一細胞沈着物を沈殿させた。この沈着により、141個の独立したクローンが得られ、このうち21個を、実施例2(b)で説明したようなHTRFイムノアッセイ法によるIgG発現解析のために選択した。これらのうち、最も速いIgG分泌速度およびそれに対応して最も強い細胞表面シグナルを示した2つのクローン、すなわち5B11および9B3を、それらの産生力をさらに評価するために、スピナー培養での無血清増殖に適応させた。
【0140】
実施例4
クローンの比産生力の決定
比産生力を決定するために、クローン5B11および9B3を、100mlスピナーフラスコ(Belco, US.)において、1×コレステロール/脂質濃縮物(Invitrogen Corp., US)、4mMグルタミン(Invitrogen Corp., US)、および250μg/ml G418(Roche Diagnostics GmbH,Germany)を添加したProCHO 6k培地(Cambrex Corp., US)中、所定の条件下で培養した。細胞が増殖静止期に到達するまで、37℃、5%CO2、および湿度95%でこれらの細胞を増殖させた。指数増殖期の間のいくつかの時点に、CASY細胞カウンター(Scharfe Systems, Germany)を用いて、全クローンの細胞計数値を決定し、かつ、プロテインAアフィニティクロマトグラフィー(下記を参照されたい)によって、上清中のIgG濃度を決定した。参照用に、クローンJ5-H3を培養し、同等の条件下で解析した。このクローンもまた、Sp2/0-Ag14細胞のトランスフェクションに由来した。これは、分泌型のみではあるが、クローン5B11および9B3と同一の抗体を安定に発現する。クローンJ5-H3は、数回の限界希釈およびサブクローニング工程によって慣例的に作製し、かつ、産業的な製造プロセスのための産生力要件を満たすように、1000個超のクローンから選択した。
【0141】
Akta(商標)エクスプローラークロマトグラフィー装置(GE Healthcare、以前のAmersham Biosciences, Sweden)を用いて、分析用アフィニティクロマトグラフィーによって細胞培養上清中のIgG濃度を決定した。IgGがアフィニティマトリックスに結合するのを容易にするプロテインAセファロースカラムに所定の体積量の細胞培養上清を添加した。100mMクエン酸(pH5.0)でこのカラムを洗浄し、次いで、結合した抗体を100mMクエン酸(pH3.0)で溶出させた。溶出は、280nmでの溶出液のUV吸収を連続的に記録することによってモニターした。所定の抗体濃度を含む標準試料を用いて系をキャリブレーションした後に、取り込まれたUV吸収から試料の抗体濃度を算出した。
【0142】
全クローンに関して、以下の式を用いて細胞計数値および細胞培養上清中のIgG濃度から比産生速度(SPR)を算出した。

式中:
-「Δc(IgG)」は、時間間隔の最初と最後の上清中IgG濃度の差であり(単位[pg/ml])、

は、時間間隔の最初と最後の細胞計数値の算術平均であり(単位[細胞/ml])、かつ
-「Δt」は、時間間隔の長さである(単位[日])。
【0143】
平均SPRは、指数増殖期の間のいくつかの時点に算出された4つの異なるSPRに基づいて全クローンに関して決定した(図5および表5)。
【0144】
(表5)比産生速度(SPR)の決定

【0145】
膜結合型mIgGによって選別された両方のクローン、すなわち5B11および9B3は、15〜20pg・細胞-1・d-1の間の平均SPRを示した。これは、産業規模でクローンを製造するのに適した範囲である。これらのクローンのSPRは、労力を要する従来の戦略によって同じ細胞株において得られ、かつ同じ抗体を発現するクローン(クローンJ5-H3)を用いて達成され得るSPRに匹敵している。
【0146】
実施例5
免疫蛍光の顕微鏡観察によるsIgGおよびmIgGの検出
免疫蛍光の顕微鏡観察によって、細胞内抗体および細胞表面に結合した抗体を検出した。細胞内染色のために、ポリ-L-リシンでコーティングした顕微鏡観察用スライドに結合した細胞をPBS中2%(v/v)ホルムアルデヒドで10分間固定し、PBS中0.2%(v/v)TritonX-100で10分間透過処理し、かつ、PBSで2回洗浄した。PBS中3%(w/v)BSA(ウシ血清アルブミン)で30分間、非特異的な結合部位をブロックした。これらの細胞を洗浄緩衝液(WB:PBS中0.2%(w/v)BSA、0.1%(v/v)Tween)で2回洗浄し、次いで、WB中で1:50に希釈した、R-フィコエリトリンを結合させたF(ab')2断片ヤギ抗ヒトIgG(Dianova, Germany)と共に1時間インキュベートした。WBで4回、および二重脱イオン水で2回洗浄した後、これらの細胞をカバーガラスの下に載せ、顕微鏡観察するまで暗所にて4℃で保存した。細胞表面結合型抗体を染色するために、細胞105個をPBS中1%(w/v)冷BSAで洗浄し、次いで、PBS中1%BSAで30分間、氷上で非特異的な結合部位をブロックした。IgG標識のために、PBS中1%(w/v)BSA中で1:50に希釈した、R-フィコエリトリンを結合させたF(ab')2断片ヤギ抗ヒトIgG(Dianova, Germany)と共に氷上で1時間、これらの細胞をインキュベートした。冷PBSで3回洗浄した後、ポリ-L-リシンでコーティングした顕微鏡観察用スライドに細胞を付着させ、かつ、PBS中2%(v/v)ホルムアルデヒドで、室温にて10分間固定した。PBSで2回洗浄した後、これらの細胞をカバーガラスの下に載せ、顕微鏡観察するまで暗所にて4℃で保存した。細胞内および表面を標識した細胞を、Plan-APOCHROMAT 40x/1.0対物レンズ(Carl Zeiss, Germany)を用いてAxiophot蛍光顕微鏡によって解析した。
【0147】
クローン5B11において、抗体は、細胞表面において検出することができ(図6、画像1)、これは主にmIgG型であり、同様に、細胞内でも検出することができ(画像4)、これらは、発現/分泌経路における両方のIgG型である。一方、クローンJ5-H3では、このクローンはmIgGを発現しないため、細胞内抗体のみを検出することができる(図6、画像2および5)。トランスフェクトされていない細胞株Sp2/0-Ag14においてはどちらの方法でも染色は観察されず(図6、画像3および6)、これは、これらの細胞がIgGをまったく発現しないためである。
【0148】
実施例6
ノーザンブロット法によるγ鎖mRNAアイソフォームの検出
一次転写産物の選択的スプライシング/ポリアデニル化によって生じる2種の重鎖アイソフォームの比率を定めるために、安定にトランスフェクトされたクローンのRNAをノーザンブロットによって解析した。したがって、RNeasy技術(Qiagen, Germany)によって、細胞から全RNAを単離した。次いで、それぞれの場合において、変性アガロースゲル電気泳動によって全RNA 10μgを分画し、かつ、NorthernMax System(Ambion Inc., US)を用いてナイロン膜に移した。ブロット膜のハイブリダイゼーションのために、DECAprime IIキット(Ambion Inc. US)を用いて、ランダムプライミング法により、2種の異なるDNAプローブに[α-32P]で印をつけた。図7Bで示すように、プローブ「A」は、エクソンCH1およびCH3の間の重鎖mRNAに相補的であり、したがって、両方のアイソフォームにハイブリダイズする。一方、プローブ「B」は長型mIgG重鎖mRNAの3'UTRにのみ結合する。ハイブリダイゼーションおよび膜のストリンジェントな洗浄後に、オートラジオグラフィーによってブロットを解析した。
【0149】
図7Aは、クローン5B11、クローンJ5-H3、および細胞株Sp2/0-Ag14に由来する全RNAとのノーザンブロットのオートラジオグラフィーを表す。プローブ「A」とのハイブリダイゼーションは、両方の抗体を発現するクローンにおいて優勢な1.8kbシグナルを示し(レーン1およびレーン2)、これは、sIgGの重鎖をコードする短鎖mRNAアイソフォームの予想されるサイズに対応する。示される長時間の曝露において、2kb〜4kbの間のいくつかの弱いシグナルも検出される。クローン5B11(レーン1)においてのみ認められる3.3kbのバンドは、mIgGの重鎖をコードする長鎖mRNAアイソフォームを表す。なぜならば、ブロットがプローブ「B」とハイブリダイズされる場合、同じ移動パターンを有するバンドが単一のシグナルとして検出される(レーン4)ためである。レーン1中の1.8kbバンドおよび3.3kbバンドの相対的なシグナル強度の比較から、抗体重鎖導入遺伝子の一次転写産物が、主に小型mRNAアイソフォームに加工されて、抗体の分泌型sIgGを生じることが示唆される。ごく少量(5%未満)が、長鎖mRNAアイソフォームに完全にスプライスされ、したがって、原形質膜結合型mIgGを生じるに過ぎない。
【0150】
実施例7
アルカリ炭酸塩抽出およびイムノブロッティングによる、IgG重鎖アイソフォームの精製および検出
mIgG重鎖を検出するために、Fujikiによって開発されたアルカリ炭酸塩抽出法(Fujiki, Y., et al., J. Cell Biol. 93(1982)97-102)を用いて、安定にトランスフェクトされた細胞から膜タンパク質を抽出した。それぞれの場合において、細胞107個をPBSで2回、次いで、氷上、0.1M NaClで1回洗浄した。冷0.1M Na2CO3(pH11.5)1ml中に再懸濁した後、20秒間の可聴化(sonification)によってこれらの細胞を破壊し、氷上で30分間インキュベートし、次いで、200,000×g、4℃で60分間遠心分離した。この工程によって、内在性膜タンパク質を依然として含む細胞膜を可溶性内容物から分離する。上清を回収し、これに、Triton X-100を最終濃度1%(w/v)になるまで、N-オクチル-β-D-グルコピラノシドを最終濃度60mMになるまで、TRIS-HCl(pH7.4)を最終濃度50mMになるまで、およびNaClを最終濃度300mMになるまで添加した(「SN画分」)。したがって、膜沈殿物を0.1M Na2CO3(pH11.5)、1%(w/v)Triton X-100、60mM N-オクチル-β-D-グルコピラノシド、50mM TRIS-HCl(pH7.4)、および300mM NaCl 1.1ml中で分解した。15,000×gで10分間の遠心分離により、この工程後の不溶性成分を除去し、上清を「膜画分」として回収した。プロテインAプルダウンアッセイ法を実施して、膜画分またはSN画分から抗体アイソフォームを精製した。したがって、各画分を30μlカラム床容量のプロテインAセファロース(GE Healthcare、以前はAmersham Biosciences, Sweden)と共に4℃で60分間インキュベートし、次いで、0.02%(v/v)Igepal CA360を含むPBSで4回洗浄した。プロテインAマトリックスに結合したタンパク質を、70℃で還元用タンパク質ゲル試料緩衝液を用いて溶出させ、かつ、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動(NuPAGE(登録商標)システム、Invitrogen Corp., US)によって分離した。分離後、半乾燥イムノブロッティング法(Ausubel, F.A., et al.(編)Current Protocols in Molecular Biology、第2巻、John Wiley and Sons, Inc., New York(1995))に従って、これらのタンパク質をPVDF(ポリビニリデンフルオリド)膜に移した。膜上に固定化されたIgG重鎖を、西洋ワサビペルオキシダーゼに結合させたポリクローナルウサギ抗ヒトIgG抗体(DakoCytomation, DAKO A/S, Denmark)で標識し、LUMI-Imager F1(Roche Diagnostics GmbH)を用いて化学発光反応に基づいて(LUMI-Light PLUS Western Blotting Kit, Roche Diagnostics GmbH)検出した。
【0151】
抗体を発現する両方のクローンの膜画分およびSN画分において、sIgGの重鎖による強いシグナルを検出することができた(クローン5B11およびJ5-H3、図8、レーン1、2、4、および5を参照されたい)。クローン5B11の場合、sIgG重鎖の上に移動する他のタンパク質が検出される(図8、レーン1)。このバンドは、内在性膜タンパク質が豊富であるこのクローンの膜画分に主に存在する。これは、sIgG重鎖より大きな算出分子量8kDaを有する、より大型のmIgG重鎖アイソフォームに相当する。一貫して、クローンJ5-H3(図8、レーン2)には対応するシグナルがない。これは、このクローンが分泌型抗体を専ら発現するためである。
【0152】
実施例8
CHO-K1細胞の培養およびトランスフェクション
懸濁培養において無血清増殖に予め順応させたCHO-K1細胞(ATCC番号CCL-61; Puck, T.T., et al., J. Exp. Med. 108(1958), 945-956)を、37℃、5%CO2、および湿度95%にて、懸濁フラスコ中の8mM L-アラニル-L-グルタミン(Invitrogen Corp., US)および1×HT補助成分(Invitrogen Corp., US)を添加したProCHO4-CDM培地(Cambrex Corp., US)中で培養した。3日〜4日毎に、これらの細胞を2×105細胞/mlの濃度で新しい培地中に分割した。トランスフェクションのために、室温で、総体積200μlのPBS中、細胞7.5×106個当たりプラスミドDNA 20μgをこれらの細胞にエレクトロポレーションする。エレクトロポレーションは、Gene Pulser XCellエレクトロポレーション装置(Bio-Rad Laboratories, US)を用いて、ギャップ2mmのキュベット中、単一パルス160V、パルス幅15msの方形波プロトコルを用いて実施する。IgGを安定に発現するクローンを作製するために、前述のプラスミドpmIgGΔ-Bを細胞6×107個にエレクトロポレーションした。その後、上記に指定した培地中でプールとしてこれらの細胞を約2週間培養した。その際、安定にトランスフェクトされた細胞を選択するために、トランスフェクション後1日目にこの培養物に700μg/mlのG418(Roche Diagnostics GmbH, Germany)を添加した。
【0153】
実施例9
フローサイトメトリーによる安定にトランスフェクトされたCHO-K1細胞の選別
選択後、トランスフェクトされた細胞の表面に結合したIgGを標識し、かつ、最もシグナルの強い細胞をフローサイトメトリーによって選別した。したがって、プールから得た細胞4×107個に40μMのナイロンメッシュを最初に通過させて大型の細胞集合体を除去し、次いで、37℃で15分間、Accumax(PAA)と共にインキュベートして、より小さな残存する集合体を分離した。氷上で20分間、培地(実施例8を参照されたい)に溶かした1%(w/v)BSA中でこれらの細胞をインキュベートし、次いで、暗所、氷上で30分間、1%(w/v)BSAを含む総体積8mlの培地中、10ng/mlのProtein A Alexa Fluor 488(Molecular Probes Inc., Invitrogen Corp., US)で染色した。培地中1%(w/v)BSAによる2回の洗浄工程の後、これらの細胞を培地に再懸濁し、BD FACSAria細胞選別機(BD Biosciences, US)に移した。前方散乱/側方散乱(FSC/SSC)ドットプロットによって、単一生細胞の集団にゲートをかけた。ゲートをかけられた生細胞の上位5%の蛍光強度を有する細胞を含む部分集団を定め、この部分集団に由来する細胞約45,000個を採取した(mIgGで選別した細胞プール)。対照として、蛍光に関わらずに、FSC/SSCでゲートをかけた生細胞集団からランダムに細胞約40,000個を採取した(対照細胞プール)。選択培地(実施例8を参照されたい)中で2週間培養することによって、採取した細胞プールを増殖させた。次いで、第2の選別サイクルを実施した。mIgGで選別した細胞プールに由来する細胞の細胞表面IgGを前述したように染色した。BD FACSAria細胞選別機(BD Biosciences, US)を用いて、(FSC/SSCドットプロットによってゲートをかけた)単一生細胞の集団から、上位4%の蛍光強度を有する細胞を選別した。選別した細胞を単一細胞として96ウェルプレート中に採取した。対照細胞プールからは、FSC/SSCによってゲートをかけた染色されていない生細胞集団からランダムに単一細胞を採取した。選択培地(実施例8を参照されたい)中で3週間培養することによって、単一細胞クローンを増殖させた。
【0154】
実施例10
ELISAによるIgG濃度の決定
捕捉反応物としてのビオチン化抗ヒトIgG F(ab')2断片および検出用のペルオキシダーゼを結合させた抗ヒトIgG F(ab')2抗体断片を使用するサンドイッチELISAによって、細胞培養上清中の免疫グロブリン濃度を決定した。
【0155】
ストレプトアビジンでコーティングした96ウェルプレート(Pierce Reacti-Bind(商標)Streptavidin Coated Polystyrene Strip Plates、コード番号15121)を、室温(RT)で1時間、振盪しながらインキュベーションすることによって、希釈緩衝液(希釈緩衝液:0.5%(重量/体積(w/v))ウシ血清アルブミンを含むPBS緩衝液)に溶かした0.5μg/mlのビオチン化ヤギポリクローナル抗ヒトIgG F(ab')2 抗体断片(F(ab')2<h-Fcγ>Bi; Dianova, Germany、コード番号109-066-098)捕捉抗体(0.1 ml/ウェル)でコーティングした。その後、0.3mlより多い洗浄緩衝液(洗浄緩衝液:1%(w/v)Tween 20を含むPBS)でプレートを3回洗浄した。IgGを含む細胞培養上清(試料)を濃度0.5〜20ng/mlまで希釈緩衝液中で順次希釈(2倍)し、ウェルに添加し、振盪しながら室温で1時間インキュベートした。希釈緩衝液に溶かした精製標準抗体(0.5〜20ng/ml)を、IgGタンパク質の検量線を作成するために使用した。0.3ml/ウェルの洗浄緩衝液でプレートを3回洗浄した後、ヤギポリクローナル抗ヒトF(ab')2特異的IgG(F(ab')2<h-Fcγ>POD; Dianova, Germany、コード番号109-036-098)のペルオキシダーゼを結合させたF(ab')2断片を用いて、抗ヒトFcγに結合した複合体を検出した。0.3ml/ウェルの洗浄緩衝液でプレートを3回洗浄した後、ABTS(登録商標)(2,2'-アジノ-ビス(3-エチルベンズチアゾリン-6-スルホン酸(2,2'-azino-bis(3-ethylbenzthiazoline-6-sulfonic acid))ペルオキシダーゼ基質溶液(Roche Diagnostics GmbH, Germany、コード番号1684302)を用いてプレートを発色させた。10〜30分後、Tecan Spectrafluorplusプレートリーダー(Tecan Deutschland GmbH, Germany)で、試薬ブランク(インキュベーション緩衝液+ABTS溶液)と比較して、405nmおよび490nmで吸光度を測定した。バックグラウンド補正のために、以下の式に従って、490nmでの吸光度を405nmでの吸光度から差し引いた。

【0156】
試料のIgG含有量は、検量線から算出した。
【0157】
実施例11
mIgGを発現するCHOクローンのスクリーニングおよび選択
96ウェルプレート中への単一細胞沈着後3週目に、mIgGで選別したクローン515個および対照クローン550個の細胞培養上清をELISAによって解析した(実施例10を参照されたい)。表6は、様々なIgG濃度レベルに対するクローンの分布を示す。
【0158】
(表6)ELISAによる、96ウェルプレートに沈着したクローンのスクリーニング

【0159】
対照アプローチにおいて、全クローンの90パーセントが1μg/ml以下のIgG濃度を示すことが観察された。一方、mIgGで選別したクローンはどれもこのグループに分類されなかった。さらに、このアプローチにおいて、6個のクローンが22μg/mlを超えるIgG濃度に達したのに対し、対照アプローチにおいて測定された最高IgG濃度は12.3μg/mlであった。次いで、mIgGで選別したクローンのうち10μg/mlを超えるものすべておよび3μg/mlを超える対照クローンすべてを、第2のスクリーニングのために24ウェルプレートに移した。選択培地(実施例8を参照されたい)中で20日間培養することによって、これらのクローンを増殖させ、次いで、細胞培養上清中のIgG濃度をELISAによって決定した。表7は、様々なIgG濃度レベルに対するクローンの分布を示す。
【0160】
(表7)ELISAによる、24ウェルに沈着したクローンのスクリーニング

【0161】
対照クローンは、最高16.8μg/mlの発現レベルを示し、平均IgG濃度は6.1μg/mlであった。一方、mIgGで選別したクローンの平均発現は31.4μg/mlであり、このグループの1つのクローンで観察されたIgG最高濃度は58.9μg/mlであった。次いで、mIgGで選別したクローンのうち45μg/mlを超えるもの6つおよび10μg/mlを超える対照クローン2つを、さらに評価するために125ml振盪フラスコに移した。
【0162】
実施例12
選択したCHOクローンの産生力評価
振盪に順応させるために、実施例11で選択したクローンを125ml振盪フラスコに移し、標準条件下(実施例8を参照されたい)、150rpmで旋回振盪機を用いて、選択培地(実施例8を参照されたい)25ml中で1週間培養した。その後、8mM L-アラニル-L-グルタミン(Invitrogen Corp., US)、1×HT補助成分(Invitrogen Corp., US)、および400μg/ml G418(Roche Diagnostics GmbH, Germany)を添加したProCHO5-CDM培地(Cambrex Corp., US)25mlに1×106細胞/mlの濃度で各クローンを播種し、かつ、前述したように125ml振盪フラスコ中で培養した。0日目、1日目、2日目、3日目、4日目、および7日目に、CASY(登録商標)TT細胞カウンター(Scharfe Systems, Germany)を用いて全クローンの細胞計数値を決定して、試験した全クローンの比較可能な増殖を示した(表8を参照されたい)。
【0163】
(表8)振盪培養物の細胞計数値

【0164】
10日目に細胞培養上清を採取し、IgG濃度をELISAによって決定した(表9を参照されたい)。
【0165】
(表9)ELISAによる10日目の振とう培養物の産生力決定

【0166】
mIgGで選別したクローン6つのうち3つ(すなわち、クローン1A1、1B6、および1D6)が、2つの対照クローンに匹敵する範囲の発現レベルを示すことが観察された。mIgGで選別した他の3つのクローン(すなわち、クローン1C5、1D1、および2D6)は、対照クローンで観察されたレベルより最大3.3倍高い、著しく上昇したIgG発現を示した。
【0167】
実施例13
選択されたCHOクローンのノーザンブロット解析
振盪フラスコでの増殖に順応させた(実施例12を参照されたい)mIgGで選別したクローン6つおよび対照クローン2つををノーザンブロットによって解析して、一次転写産物の選択的スプライシングによって生じる2種の重鎖アイソフォームの比率を定めた。比較のために、クローン「27」を同時に解析した。このクローンは、同一の抗体の分泌型のみに対してゲノムが組織化された発現ベクターを用いてCHO-K1細胞を安定にトランスフェクションすることによって得られた。実施例6において詳細に説明したようにノーザンブロットを実施した。これを図9において示す。
【0168】
実施例14
sIgG/IgG-GPI発現ベクター「pIgG-GPI-B」の構築
免疫グロブリンを原形質膜に固定するために、エクソンM1の3'部分にコードされるネイティブな膜貫通ドメインおよびエクソンM2にコードされる細胞内領域を、グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)による固定を媒介するヒト胎盤アルカリホスファターゼのカルボキシ末端シグナルペプチドで置換する。すなわち、以下のアミノ酸53個

をコードする、プラスミドpmIgGΔ-B中のDNA配列(実施例1cを参照されたい)を、
ヒト胎盤アルカリホスファターゼのカルボキシ末端シグナルペプチドの以下のアミノ酸配列

をコードするDNA配列(NCBIアクセッション番号: M13077; ヌクレオチド:1542-1643)で置換する。
【0169】
発現プラスミドpIgG-GPI-BのCH1から3'UTRまでのγ鎖発現カセット定常領域の核酸配列は、SEQ ID NO:148に示す。
【0170】
プラスミドpIgG-GPI-BにコードされるsIgGアイソフォームのγ鎖定常領域の対応するアミノ酸配列は、SEQ ID NO:149に示す。
【0171】
プラスミドpIgG-GPI-Bにコードされるヒト胎盤アルカリホスファターゼのカルボキシ末端シグナルペプチドを含む、長型アイソフォームのγ鎖定常領域の対応するアミノ酸配列は、SEQ ID NO:150に示す。
【0172】
このプラスミドにより、重鎖プレ-mRNAの選択的スプライシングによる、抗体の分泌型(sIgG)およびGPIアンカー型の発現が可能になる(図10を参照されたい)。
【図面の簡単な説明】
【0173】
【図1】sIgG/mIgG発現ベクターpmIgG-A(A)、sIgG/mIgG発現ベクターpmIgGΔ-A(B)、およびsIgG発現ベクターpIgG-A(C)のプラスミドの図。示されるベクターエレメントは、本文中で詳細に説明される。
【図2】γ鎖発現カセットのエクソンイントロン構造の概略図。A:発現ベクターpmIgG-A中のγ1鎖定常領域の構造。約7.2kbのDNA断片が黒色の線として表示されている。エクソンは白い四角によって表され、それらの呼称が上に表示されている。IgGの分泌型[p(A)s]および膜結合型[p(A)M]のポリアデニル化部位の位置は黒い棒によって示される。イントロンの番号付けおよび3'UTRは図の下に表示される。イントロン6中のSph I制限部位および3'UTR中の変異Sph I部位(括弧内)の相対位置が示される。B:Aに示される発現ベクターpmIgGΔ-A中のγ1-γ3-γ4鎖定常領域の約4.8kbのハイブリッドの構造。さらに、図は、3つの免疫グロブリン重鎖定常γ遺伝子座位に由来する領域も示す(IGHG1、IGHG3、およびIGHG4)。
【図3】mIgGを発現するクローンにおけるIgG分泌および細胞表面シグナルの相関。プラスミドpmIgG-A(左)、pmIgGΔ-A(中央)、または対照としてのpIgG-A(右)でトランスフェクトされたSp2/0-Ag14細胞の6つの独立したクローンを規定の条件下で48時間培養する。原形質膜に結合したIgGの量の指標としてのフローサイトメトリーにおける蛍光強度中央値が、灰色の棒によって表されている。対応する細胞培養上清中の分泌IgGの濃度が、黒色の菱形によって表されている。
【図4】FACS Vantageフローサイトメーター(BD)において細胞を選別するために使用される典型的なFL1/FSCドットプロット。ゲートR1は、先にFSC/SSCドットプロットによってゲートをかけられた、示された生細胞集団の5.7%を含む。R1に入る細胞を選別プロセスを通じて回収した。
【図5】比産生速度の決定。クローン5B11、9B3、およびJ5-H3をスピナーフラスコ中で92時間培養した。A:細胞増殖。スピナー培養開始後の指定した時点に、CASY細胞カウンターを用いて各クローンの細胞計数値を測定した。B:IgG産生。(Aと同じように)指定した時点に、細胞培養上清中のIgG濃度をプロテインAアフィニティクロマトグラフィーによって決定した。C:比産生速度。棒グラフは、細胞計数値およびIgG測定値から算出した、最初の69時間内における各クローンの平均比産生速度を示す(表2を参照されたい。かつ、さらに詳細には本文を参照されたい)。標準偏差は誤差棒によって示されている。
【図6】免疫蛍光顕微鏡観察。分泌型sIgGおよび膜結合型mIgGを発現するクローン5B11(画像1、4)、分泌型sIgGのみを発現するクローンJ5-H3(画像2、5)、またはトランスフェクトされていないSp2/0-Ag14細胞(画像3、6)を、細胞表面のIgG(画像1〜3)、または細胞内IgG(画像4〜6)に関して標識し、かつAxiophot蛍光顕微鏡で画像を記録した。
【図7】ノーザンブロットによるmRNAの解析。A:[α-32P]で標識したプローブA(レーン1〜3)またはプローブB(レーン4〜6)とハイブリダイズさせたノーザンブロットのオートラジオグラフィー。各レーンにおいて、クローン5B11(レーン1、4)、クローンJ5-H3(レーン2、5)、またはトランスフェクトされていないSp2/0-Ag14細胞(レーン3、6)から単離した全RNA 10μgを変性アガロースゲル電気泳動によって分離し、かつナイロン膜に移した。B:膜結合型mIgGまたは分泌型sIgGの重鎖をコードする2種のmRNAアイソフォームの概略図。エクソンは四角によって表されている。プローブAおよびBに相補的な領域は、黒い棒で印をつけている。
【図8】IgG重鎖アイソフォームの免疫ブロット解析。アルカリ炭酸塩抽出法に従って(本文を参照されたい)、クローン5B11(レーン1、4)、クローンJ5-H3(レーン2、5)、またはトランスフェクトされていないSp2/0-Ag14細胞(レーン3、6)を抽出した。内在性膜タンパク質を含む膜画分に由来する免疫グロブリン(レーン1〜3)、または細胞の可溶性内容物を主に含むSN画分に由来する免疫グロブリン(レーン4〜6)を、プロテインAプルダウンアッセイ法によって精製し、かつ変性SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動によって分離した。西洋ワサビペルオキシダーゼと結合させた二次抗体でブロッティングおよび標識した後、化学発光反応によって重鎖を可視化した。分泌型sIgG重鎖(sIgG HC)および膜結合型mIgG重鎖(mIgG HC)が示されている。下のパネルは、上のパネルにおけるブロットの一部分を短時間曝露したものを示す。
【図9】ノーザンブロットによるmRNAの解析。図7Bで示したように、[α-32P]で標識したプローブA(左のパネル)またはプローブB(右のパネル)とハイブリダイズさせたノーザンブロットのオートラジオグラフィー。各レーンにおいて、クローン1A1、1B6、1C5、または1D1(レーン1〜4)、およびクローン1D6、2D6、KO2、またはKO6(レーン6〜9)から単離した全RNA 10μgを変性アガロースゲル電気泳動によって分離し、かつナイロン膜に移した。クローン「27」は、sIgGのみを発現し、対照として加えられた(レーン5、10)。mIgGおよびsIgGアイソフォームの重鎖mRNAが示されている。
【図10】sIgG/IgG-GPI発現ベクターpIgG-GPI-Bのプラスミドの図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
5'から3'方向に以下を含む核酸:
(a)インフレームの停止コドンを含まない、異種ポリペプチドをコードする第1の核酸、
(b)5'スプライス供与部位で始まり、3'スプライス受容部位で終わる、インフレームの翻訳停止コドンおよびポリアデニル化シグナルを含む、第2の核酸、
(c)以下をコードする第3の核酸:
(i)膜貫通ドメインの少なくとも1つの断片、または
(ii)GPIアンカーに対するシグナルペプチド。
【請求項2】
請求項1記載の核酸を含む真核細胞。
【請求項3】
CHO細胞、NS0細胞、Sp2/0細胞、COS細胞、K562細胞、BHK細胞、PER.C6(登録商標)細胞、およびHEK細胞からなる群より選択されることを特徴とする、請求項2記載の真核細胞。
【請求項4】
5'から3'方向に以下を含むベクター:
(a)第1のマルチクローニング部位、
(b)5'スプライス供与部位で始まり、3'スプライス受容部位で終わる核酸であって、
(i)停止コドンおよびポリアデニル化シグナルを含み、かつ
(ii)プレ-mRNAのプロセッシング中に構成的に除去されない核酸、
(c)第2のマルチクローニング部位。
【請求項5】
以下の段階を含む、異種ポリペプチドを発現する真核細胞を選択するための方法:
(a)5'から3'方向に以下を含む核酸で真核細胞をトランスフェクトする段階:
(i)インフレームの翻訳停止コドンを含まない、異種ポリペプチドをコードする第1の核酸、
(ii)スプライス供与部位で始まり、スプライス受容部位で終わる、インフレームの翻訳停止コドンおよびポリアデニル化シグナルを含む、第2の核酸、
(iii)以下をコードする第3の核酸:
(iiia)膜貫通ドメインの少なくとも1つの断片、または
(iiib)GPIアンカーに対するシグナルペプチド、
(b)前記核酸に由来するプレ-mRNAの産生、該プレ-mRNAのプロセッシング、および該プロセッシングされたmRNAのポリペプチドへの翻訳に適した条件下で、前記トランスフェクトされた細胞を培養する段階であって、前記トランスフェクトされた細胞が、前記プレ-mRNAの選択的スプライシングにより、可溶性異種ポリペプチドおよび原形質膜結合型異種ポリペプチドを産生する段階、ならびに
(c) 異種ポリペプチドを発現する細胞であるように、原形質膜結合型異種ポリペプチドを有する細胞を選択する段階。
【請求項6】
異種ポリペプチドが、ホルモン、サイトカイン、インターロイキン、免疫グロブリン、抗融合性(anti-fusogenic)ペプチド、増殖因子、受容体リガンド、アゴニストまたはアンタゴニスト、細胞障害性物質、抗ウイルス性物質、画像形成物質(imaging agent)、酵素阻害因子、酵素活性化因子またはアロステリック物質のような酵素活性調節因子、ならびにそれらの断片および融合物を含むポリペプチドの群より選択されることを特徴とする、請求項5記載の方法。
【請求項7】
以下を特徴とする、請求項5または6のいずれか一項記載の方法:
(i)第1の核酸が、免疫グロブリン重鎖CH3ドメインまたはCH4ドメインの少なくとも1つの断片をコードすること、
(ii)第2の核酸が、免疫グロブリン重鎖CH3ドメインまたはCH4ドメインのエクソンの5'スプライス供与部位で始まり、かつ後続の免疫グロブリン重鎖膜貫通ドメインのエクソンM1の3'スプライス受容部位で終わること、
(iii)第3の核酸が、免疫グロブリン膜貫通ドメインの少なくとも1つの断片であること。
【請求項8】
第2の核酸が、C3b/C4b受容体;ヒトEGFR、ニワトリEGFR、およびラットEGFR;FGFR;ヒトおよびマウスの免疫グロブリンα、ε、γ、μ重鎖;ヒトPLA2受容体;ニワトリCek5;ならびにマウス白血病抑制因子受容体α鎖を含む群より選択されるポリペプチドまたはタンパク質をコードする核酸から得られることを特徴とする、請求項5または6のいずれか一項記載の方法。
【請求項9】
以下の段階を含む、請求項1記載の核酸にコードされる異種ポリペプチドまたはタンパク質を産生するための方法:
(a)真核細胞を提供する段階、
(b)請求項1記載の核酸で該真核細胞をトランスフェクトする段階、
(c)該核酸の発現に適した条件下で該トランスフェクトされた細胞を培養する段階、
(d) 該細胞の培地または該細胞の細胞質から該ポリペプチドまたはタンパク質を回収する段階。
【請求項10】
請求項4記載のベクターを含む、請求項2記載の細胞を製造するためのキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2009−537124(P2009−537124A)
【公表日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−510343(P2009−510343)
【出願日】平成19年5月15日(2007.5.15)
【国際出願番号】PCT/EP2007/004313
【国際公開番号】WO2007/131774
【国際公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【出願人】(591003013)エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー (1,754)
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
【Fターム(参考)】