説明

ポリマーの配列を決定するための制御されたトンネルギャップデバイス

本発明は、ポリマーおよび/またはポリマー単位を分析するための組成物、デバイス、および方法を含む。ポリマーは、DNA、RNA、多糖類またはペプチドのようなホモポリマーまたはヘテロポリマーであってもよい。デバイスは、ポリマーが通過することができるトンネルギャップを形成する電極を備えている。電極は、電極に結合した試薬で官能基化されており、この試薬は、ポリマー単位と一時的な結合を生成することが可能である。試薬と上述の単位との間に一時的な結合が生成すると、検出可能な信号が作り出され、この信号を使用し、ポリマーを分析する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への参照
本出願は、2010年2月2日に出願された米国仮特許出願第61/300,678号および2010年8月31日に出願された米国仮特許出願第61/378,838号に対する優先権を主張する。両仮特許出願は、本明細書においてその全体が参照として援用される。
【0002】
政府の権利
本発明は、the National Institute of Healthにより授与された助成金番号HG004378およびR21 HG004770、the Sequencing Technology Program of the National Human Genome Research Instituteにより授与された助成金番号HG004378、ならびにthe National Cancer Instituteにより授与された助成金番号U54CA 143682による、政府の援助によりなされた。政府は本発明における一定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
費用を低減し、個別のゲノミクスの利用可能性を高めるために、DNAシークエンシングのための新しいアプローチが必要である(M.Zwolak、M.Di Ventra、Reviews of Modern Physics 80、141(2008))。それに加えて、長く連続的な読み取りは、広範囲にわたるゲノム構造を解明するのに役立つだろう(E.Pennish、Science 318、1842(2007);A.J.Sharpら、Annu.Rev.Genomic Hum.Genet.ARI、407(2006)。Sangerシークエンシングおよび次世代の方法とは対照的に、ナノ細孔シークエンシング(D.Brantonら、Nature Biotechnology 26、1146(2008))は、酵素を用いない技術であり、この技術では、DNA分子は、電気泳動を用いて小さな開口部を通過させられ、その結果、配列読み取りの機構は、分子全体の長さにわたって忠実度を維持することができた。細孔を通過するイオンの流れは、ナノ細孔の配列に感受性である(M.Akesonら、Biophys J.77、3227(1999);A.Mellerら、Proc.Natl.Acad.Sci.(USA)97、1079(2000);N.Ashkenasyら、Angew.Chem.Int.Ed.44、1401(2005))が、ナノ細孔の経路内にある全ての塩基が、電流を遮断する一因となり(A.Mellerら、Phys.Rev.Lett.86、3435(2001))、また、細孔よりも高電界領域にある塩基も同じである(A.Aksimentievら、Biophysical Journal 87、2086(2004年9月);M.Muthukumarら、Proc.Natl.Acad.Sci.(USA)103、5273(2006))。その結果、イオンの流れを読み出しても、一塩基解像度はまだ得られていない。LeeおよびThundatは、DNA分子全体の電子トンネル現象が、単一のヌクレオチドを感知し、特定するのに十分なほど局在化し得るという説を出し(J.W.LeeおよびT.Thundat.米国特許第6,905,586号(2005))、ZwolakおよびDi Ventraの計算によって、推測が裏付けされた(M.Zwolak、M.Di Ventra、Nano Lett.5、421(2005))。さらなる計算から、ギャップ内の分子の熱運動によってトンネル電流の分布が広がってしまうことが示されており(J.Lagerqvistら、Biophys J.93、2384(2007);R.Zikicら、Phys.Rev.E 74、011919 1(2006))、選択性が実質的に低下する。トンネルギャップ内の分子配向の範囲は、読み出し電極に連結するための化学結合を用いることによって大きく狭めることができる(X.D.Cuiら、Science 294、571(2001))が、強い結合を用いることは、電極に対する接触が1個のヌクレオチドから次のヌクレオチドに迅速に移動しなければならないようなDNAシークエンシングにとっては選択肢とならない。OhsiroおよびUmezawaは、走査型トンネル顕微鏡画像で化学的なコントラストを得るために水素結合を使用することができることを示し(T.Ohshiro、Y.Umezawa、Proc.Nat.Acad.Sci.103、10(2006))、これらの弱い結合を、単一の分子に対し「滑っていく接点」として役立たせることができることを示唆している。
【0004】
特許文献1(「Sequencing by Recognition」)、61/037647号(Nanotube Nanopore for DNA Sequencing」)、61/083,001号(「Tandem Reader for DNA Sequencing」)、61/083,993号(「Carbon Nanotube Based Device for Sequencing Polymers」)、61/103,019号(「A Trans−base tunnel Reader for Sequencing」)明細書には、全て参考として組み込まれるが、具体的には、1個の塩基または別の塩基に対して水素結合するように設計された試薬で官能基化された電極と、DNA中の目的塩基とをトンネルギャップ内で接触させるスキームが記述されている。その結果、それぞれのDNA塩基について異なる読み取り部が必要であり、そのため、配列は、4個の別個の読み取り部の出力を合わせることによってまとめられなければならない。さらに、特定の部位を標的とするように設計された試薬に依存すると、2個の異なる部位を標的とする(それぞれの電極に対して1個)場合、電極は、独立して官能基化されなければならないことを意味しており、これをナノスケールのギャップで達成することは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2008/124706号
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ポリマーおよび/またはポリマー単位を分析するための組成物、デバイス、方法を提供する。ポリマーは、DNA、RNA、多糖類またはペプチドのようなホモポリマーまたはヘテロポリマーであってもよい。デバイスは、ポリマーが通過することができるトンネルギャップを形成する電極を備えている。電極は、電極に結合した試薬で官能基化されており、この試薬は、ポリマー単位と一時的な結合を生成することが可能である。上述の試薬と上述の単位との間に一時的な結合が生成されるとき、検出可能な信号が作られ、これを使用してポリマーを分析する。トンネルギャップの幅は、電極がポリマーの単位に対し一時的な結合を形成したときに作られる信号の選択性を最適化するように構成されるか、または調節される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】図1は、T(図1A)、G(図1B)、C(図1C)、A(図1D)と、4−メルカプトベンズアミドで官能基化された電極との水素結合を示す。
【図2】図2は、バイアスが0.5Vの場合に、TCB中の例示的なバックグラウンドトンネル信号を与えている。図2Aは、電流が10pAのときであり、図2Bは、電流が2pAのときである。
【図3】図3は、電極の官能基化が、プリンの電流スパイクの分布に及ぼす例示的な影響を示す。未官能基化電極(図3A−dAおよび図3C−dG)は、広い分布を与える(ギャップコンダクタンス20pS、TCB中、0.7μM dA、2.9μM dG)。電流のlog値をGaussianに当てはめる(図18〜20を参照)。片方の電極を4−メルカプトベンゼンで官能基化すると、分布が10倍狭くなる(図3B−dA、図3D−dG)(ギャップコンダクタンス12pS、Ibl=6pA、V=0.5V)。iにピークをもち(「1」)、2iに第2のピークをもつ(「2」)電流のlog値を2種類のGaussianに当てはめる(式IIIを参照)。dAの場合i=5.9pA、dGの場合5.6pA。両方の電極が官能基化されている場合(図3E−dA、3G−dG)、ピーク電流は、明らかに異なる(dGの場合i=9.4pA、dAの場合i=16.5pA)。図3Fは、dAおよびdGの混合物の分布を示す。dAの高い方のピークの帰属は、dAの濃度を下げて測定した分布によって確認される(図3H)。図3Fおよび3Hの高電流側のテーリングは、少量の2分子(dA+dG)の読み取りと一致している。スパイクの幅の分布を図29に示す。
【図4】図4は、V=0.5V、バックグラウンド電流=6pAの場合、アデノシンをギャップに拡散させたときの時間トレース対電流の例示的なプロットを与えている。図内挿入図は、結合信号の拡大図を示す。4種類すべてのヌクレオシドで同様の種類の信号を観察している。図15を参照。
【図5】図5は、ピリミジンを読み取るための電極官能基化の例示的な効果を示す。未官能基化電極を用いて読み取るために(図5Aおよび5Bの広い分布)、Gblを40pSまで上げて計測速度を上げた。5Aおよび5Bの狭い分布は、両方とも官能基化された電極を用いて取得したものであり、dTの場合i=6.7pA、dCの場合13.3pAが得られる(Gbl=12pS、Ibl=6pA、V=0.5V)。混合溶液の場合(図5C)、dTのピークは8pAに存在し、dCのピークは13.4pAに存在し、帰属は、dTの濃度を半分にした混合物を測定することによって確認した(図21)。
【図6】図6は、両方の電極が官能基化されている場合に、電流スパイクの例示的な分布を示す(dG、V=0.5V、電流=6pA)。主要ピークのピーク電流の2倍の位置にある小さな割合の読み取りは、トンネルギャップ内に2個の分子が同時に捕捉されていることを信号で示している。
【図7】図7は、例示的な読み取りの概要を与えている。図7Aは、dAのピーク電流(塗りつぶされた四角)およびdTのピーク電流(塗りつぶされた丸)をベースラインコンダクタンスの関数として示す(V=0.5Vの場合)。白色の四角(dA)および白色の丸(dT)は、トンネルギャップを小さくするにつれて、2分子の読み取り割合がどのように増えていくかを示している。図7Aは、測定した分子のコンダクタンスが、Gblとともに線形的に上昇していくことを示す(dTは黒色の丸、dAは黒色の四角、エラーバーは±HWHH)。2分子読み取りの数(dTは白色の丸、dAは白色の丸)は、Gbl=20pSのときに増加し、Gbl=4pSのとき、2分子読み取り速度は実質的に下がる。図7Bは、4種類のヌクレオシドについて、3回の独立した試行で測定したピーク電流を与えている(斜線付きのバー)。図7Bは、両方とも官能基化された電極の場合、それぞれのヌクレオシドに特徴的な電流で狭い分布をもつ電流ピークが観察されることを示す。斜線付の四角棒(3回繰り返したデータセット)は、ベースライン電流6pA、V=0.5Vの場合に測定したそれぞれのヌクレオシドのピーク電流を示す。それぞれの四角棒のエラーバーは、測定した電流分布の全値幅をあらわす。陰影付の四角棒は、2個の電極の片方だけを官能基化したときに測定された電流を示す。官能基化された表面および未官能基化Pt(淡い陰影のバー)および未官能基化Au(濃い陰影のバー)プローブの読み取りは、2個とも官能基化されたプローブを用いて決定した分子抵抗に対し、接合点の抵抗をプロットした図7Cに定量的に示されているように、ヌクレオシドの属性に対して感受性が相対的に低い。
【図8】図8は、例示的なトンネルギャップを大きくする(すなわち、トンネル電流のベースラインGblを小さくする)につれて、読み取りの頻度が落ちることを示す。
【図9】図9は、本発明の例示的な実施形態を図示したものである。
【図10】図10Aおよび10Bは、金または窒化チタンのプローブと、金または窒化チタンでコーティングされたナノ細孔とを利用する例示的なトンネルギャップおよびナノ細孔配列の詳細を与える。図10Bの電子顕微鏡写真のスケールバー(110)は、2nmである。図10Cおよび図10Dは、カーボンナノチューブプローブとグラフェンナノ細孔とを利用する例示的なトンネルギャップおよびナノ細孔配列の詳細を与える。図10Dの電子顕微鏡写真のスケールバー(210)は、10nmである。図10E(断面図)および10F(上から見た図)は、金属プローブと、カーボンナノチューブのナノ細孔配列とを利用する例示的なトンネルギャップおよびナノ細孔配列の詳細を与える。
【図11】図11は、本発明の一実施形態のためのギャップの化学物質を示す。
【図12】図12は、電極対を作成するために、カーボンナノチューブ内のギャップを利用する例示的な実施形態を示す。
【図13】図13は、種々のアミノ酸に対する例示的な水素結合部位を示す。
【図14】図14は、TBDMSで修飾されたヌクレオシドの例示的な化学構造を与えている。
【図15】図15は、両電極が4−メルカプト安息香酸で官能基化されたTCBについて、Gbl=12pSである場合、4.3μM dT(図15A)、2.9μM dG(図15B)および0.8μM dC(図15C)の例示的な電流−時間トレースを与えている。図15Aおよび15Bの電流のスケールは同じである。
【図16】図16は、スパイクデータを得るために用いられるゲイン設定を用いて、開ループ(図16A)、サーボ制御下(図16B)での例示的なノイズスペクトルを与えている。点線は、1/fスペクトルに当てはめたものである。
【図17】図17は、固定された(5pA)カットオフ値(丸)、可変1.5σカットオフ値(四角)、可変2σカットオフ値(三角)を用いて分析した例示的なデータセットのlog値を2種類のGaussianに当てはめた結果を示す。当てはめられたピークは、6.6〜7.1pAまでシフトし、このシフトは、異なるヌクレオシドのピークを分離するのに無視できる変化である。
【図18】図18は、dA(図18A)、dC(図18B)、dG(図18C)、dT(図18D)のための未官能基化電極について、Gbl=20pS(V=0.5V)で得た例示的な電流分布を示す。表1に列挙したヌクレオシド濃度で、合計計測数を180秒間記録し、それぞれの図に列挙している。実施例1.4を参照。
【図19】図19は、dA(図19A)、dC(図19B)、dG(図19C)、dT(図19D)のための未官能基化電極について、Gbl=40pS(V=0.5V)で得た例示的な電流分布を示す。分布の幅のため、dAはある程度曖昧な読み取りであることを注記しておく。Gbl=20pSで得たデータと比較して、プリンとピリミジンとで読み取り速度はほとんど変わらない。図18を参照。180秒間の計測数をそれぞれの図に列挙している。
【図20】図20は、図19Aのデータをlog−logでプロットし、例示的な双曲線への当てはめ(実線)を示す。
【図21】図21は、図5Cで用いたものに対し、dTの濃度を半分にしたdTおよびdCの混合物の例示的な分布を与える。この分布を3種類のGaussian log関数に当てはめる(実線)。dTピークは6.6pAにあり、dCピークは12.3pAにある。高濃度側のテーリングは、少ない割合のdG+dCの読み取りに適合する(6.6+12.3pAが中心)。
【図22】図22Aおよび22Bは、大きなギャップを生じるIbl=6pA、バイアス0.75V(Gbl=8pS)を用いて測定した例示的な電流分布を与える。分子コンダクタンスは、予想される値よりも小さい(G(dA)=14.4pS、G(dC)=15.6pS)。dAの低下は、図7Aで示される当てはめ結果で予測されるよりも大きい。このことは、ギャップサイズに指数関数的に依存することに加え、バイアスに依存していることを示す。ギャップの大きさを固定した状態でバイアスの関数として採取したデータ(図23を参照)は、この傾向を裏付ける傾向がある。
【図23】図23は、ギャップコンダクタンスを一定にした状態で、dAの例示的なピーク電流をバイアスの関数として与える(12pS;0.75V、9pA、0.5V、6pA、0.25V、3pA)。丸は、未官能基化金電極を1つ用いて採取したデータであり、バイアスにほとんど依存していないことを示す。官能基化された2個の電極を用いて採取したデータ(四角)は、バイアスが小さくなるにつれてピーク電流が上がることを示している。バイアスの符号を変えても、大きな変化は生じない(−0.5Vでのデータ)。
【図24】図24は、dA(丸)およびdT(四角)について、ベースライントンネル電流の関数として180秒間かけて得られたデータを平均することによって得られた、官能化されたプローブを用いた1秒あたりの例示的な読み取りを示す。これらのデータは、プローブの形状にある程度依存しており、影響は、2種類の異なるプローブを用いて採取したデータを比較することによって得られたエラーバーに反映されている。
【図25】図25は、2分子の読み取り、さらに3分子の読み取りの証拠を示す、Gbl=20pSで得られたdAの例示的な電流分布(官能基化されたプローブ)を示す。
【図26】図26は、Ibl=6pA、V=0.5Vの場合に、dT(丸)、dG(四角)、dC(三角)、dA(ひし形)の実験データ群(2分子の読み取りピークを含む)に対し、例示的な当てはめられた分布を示す(ピークは、左から右に、dT、dG、dC、dA)。示されている値での識別レベルの設定(8pS、11.7pSおよび14.8pS)によって、i<8pAならばdTの確率72%、dGの確率64%(8pA<i<11.7pA)、dCは61%(11.7<i<14.8pA)、Aは60%(i>14.8pA)の確率を得る。
【図27】図27は、例示的な分析の全ての記録されたスパイクを保持することによって得られた例示的な電流分布(図27A)および1(20μs)および2(40μs)のサンプル点持続時間のスパイクのみを除外することによって得られた例示的な電流分布(図27B)を示す。データは、2.9μM、Gbl=12pSでのdGのデータである。実線の曲線は、Aの独立したピークを用いて、log値を2種類のGaussianに当てはめ、Bでは、iおよび2iで固定されたピークを用いて、log値を2種類のGaussianに当てはめている。Aのデータは、7.3pAの特徴が重要であり、官能基化されていないプローブを用いて記録した電流と等しい。Bのピークは9.7pAまで移動した。この分布は、STMの電流−電圧変換器の有限の周波数応答を反映しており、速いピークについて測定される振幅を減らすだろう(図29を参照)。dCについても同様の結果が得られた(全てのデータについてピーク=7.3pA、フィルタリングしたデータのピーク=13pA)。dTのデータはフィルタリングによって影響を受けなかった(全てのデータについてピーク=7.3pA、フィルタリングしたデータのピーク=6.8pA)。
【図28】図28は、例示的な分析の全ての記録されたスパイクを保持することによって得られたdAの例示的な電流分布(図28A−全データ、図28B−最も速い2つの点を除外した)を与える。この場合、「1つの官能基化された電極」の6.5pAでのピークの残りは、1または2点のスパイクが除外された場合に残り、そのため、データを、2種類の独立したピーク値(i、iおよび2i)を用い、3種類のGaussian log関数に当てはめた。最も短いスパイクを除外すると、分布の最大値は、6.5pAから15.6pAに移動した。分布の形状は、使用するプローブに依存し、2種類のGaussianは、他のデータセットにもよく当てはまり(例えば、図2)、「官能基化されていない」ピークは、最も速いスパイクを除外することによって、ほぼ完全になくなった。
【図29】図29は、dA(図29A)、dC(図29B)、dG(図29C)、dT(図29D)のスパイクの寿命の例示的な分布を示す。丸のついた線は、未官能基化電極の場合であり、三角のついた線は、1つが官能基化された電極の場合であり、四角のついた線は、2個ともが官能基化された電極の場合である。鋭敏な特徴は、データのビニングを反映している。全てのデータは、表1に示される作業濃度で、0.5Vで採取される。未官能基化プローブの場合、Gbl=20pSであり、官能基化されたプローブの場合、12pSである。矢印は、40または20μsの持続時間をもつスパイクを指し示しており、選択性を高めるために電流分布から除外した。dTは例外であり、2個とも官能基化されたプローブを用いると、寿命が少しだけ長くなる。しかし、未官能基化プローブまたは1個が官能基化されたプローブの寿命は、本質的に同じである。したがって、トンネル現象によって分布が狭くなることは、官能基化された金属表面と未官能基化金属表面との間の可能な範囲の結合形状の差を反映しなければならず、結合状態の寿命の差を反映してはならない。電流−電圧変換器の約3dB周波数は、約7kHzであり(143μs)、速い特徴は、ここに示したデータで弱められる。
【図30】図30は、50mM フェリシアン化カリウム中、例示的な未官能基化金ワイヤのサイクリックボルタンメトリーを示す(電位 対 Agワイヤ)。
【図31】図31は、例示的なHDPEでコーティングされたSTM先端のサイクリックボルタンメトリーを示す。半球状に露出した先端形状であると推定し、式Imax=2πRnFCDを用いると、コーティングされた走査プローブの露出表面積は、10−2μm程度である。
【図32】図32は、4−メルカプトベンズアミド単層の例示的なFTIRスペクトル(下側の線)および粉末の例示的なFTIRスペクトル(上側の線)を示す。
【図33】図33は、Au表面上にメルカプトベンズアミドの島があることを示すSTM画像である。金先端、0.5Vの先端バイアス、10pAの設定点での1mM PBバッファ中の画像。
【図34】図34は、例示的な電極の光学顕微鏡画像および透過型電子顕微鏡(TEM)画像を示す。図34Aは、未官能基化電極の光学画像である。図34Bおよび34Cは、未官能基化電極のTEM画像である。図34Dは、コーティングされた電極の光学画像である。図34Eおよび34Fは、コーティングされた電極のTEM画像である。34Cの点線の円弧は、半径が16nmである。34Eおよび34Fの矢印は、露出した金の位置を示している。
【図35】図35は、未官能基化電極プローブと官能基化された電極表面を用いる、水中のテレグラフノイズを示す。プローブおよび表面の両方が官能基化されていない場合、また、PB中で、表面および/またはプローブのいずれかが官能基化されていない場合にも、同様の信号がみられた。
【図36】図36は、未官能基化金電極(図36A)、官能基化された電極(図36B)、一方が未官能基化電極であり、他方が官能基化された電極(図36C)について、純粋なHO中トンネル電流の減衰曲線を示す(それぞれの場合に、複数の曲線がプロットされている)。
【図37】図37は、βの例示的なヒストグラムを示し、対数であらわされた減衰曲線の傾きは負であり、すなわち、
【0008】
【化1】

【0009】
である。未官能基化金電極(図37A)、メルカプトベンズアミドで官能基化された電極(図37B)、一方が未官能基化電極であり、他方がメルカプトベンズアミドで官能基化された電極(図37C)について、純水中で値を得る。Gaussian(Gausian)による割り当て(平均±SD)から、以下の値が得られる。37A→6.11±0.68nm−1、37B→14.16±3.20nm−1、37C→6.84±0.92nm−1
【図38】図38は、4−メルカプトベンズアミド読み取り分子を用いて採取した、d(CCACC)について例示的な10秒間のトレースを示す。A信号が優勢であることを注記しておく。電流スパイクの分布(図内挿入図)は、ほとんど完全に「A」信号が優勢であり、この当てはめでのC要素(黒色の線)は、7%以下である。このことは、プローブが、少量のA塩基に結合した状態で多くの時間存在していることを示す。
【図39】図39は、例示的なバーストデータを示す、dAMP(図39A)、dCMP(図39B)、dGMP(図39C)、dmCMP(図39D)について、時間経過に伴う例示的な電流スパイクのトレースを示す。これらの例は、それぞれ、電流がスパイクしない領域で囲まれている。
【図40】図40は、トリクロロベンゼン溶媒中、安息香酸読み取り部を用い、シチジンについて測定した例示的な電流分布(灰色)および5meシチジンについて測定した例示的な電流分布を示す。
【図41】図41は、dGMP、dCMP、dAMP、dCMPのモノマーについて、「オン時間」の例示的な分布を示し、実線は、指数関数的に当てはめられている。
【図42】図42は、d(C)、d(A)、d(C)のポリマーについて、「オン時間」の例示的な分布を示し、実線は、指数関数的に当てはめられている。
【図43】図43は、dGMP、dCMP、dAMP、dCMPのモノマーについて、「オフ時間」の例示的な分布を示し、実線は、指数関数的に当てはめられている。
【図44】図44は、d(C)、d(A)、d(C)のポリマーについて、「オフ時間」の例示的な分布を示し、実線は、指数関数的に当てはめられている。
【図45】図45は、d(A)について、0.1nA未満のスパイクの計測数の例示的な分布を示す。これらは、合計の約20%であり、dNTPまたはd(C)では観察されない。
【図46】図46は、d(C)について、0.1nA未満のスパイクの計測数の例示的な分布を示す。これらは、合計の約20%であり、dNTPまたはd(C)では観察されない。
【図47】図47は、ベンズアミド表面(R:2−デオキシリボース 5−ホスフェートナトリウム塩、DNA塩基を含まない)と相互作用するヌクレオシド−5’−モノホスフェート(A、C、G、T、R)の例示的なSPRセンサーグラムを示す。この線は、1:1の結合事象を記述するようにモデリングされた、割り当てられた曲線である。
【図48】図48は、dAMPを捕捉する4−メルカプトベンズアミド(4−mercaptbenzamide)読み取り分子の対について、原子間力顕微鏡を用いて記録されるような、接着事象のヒストグラムを示す。図48Aは、dAMPが存在しない状態で得られたコントロールを示し、ベンズアミド分子の間でほとんど接着事象が示されず、これはおそらく、水によって遮断されているからであろう。図48Bは、1回目の洗浄の後のdAMPの接着を示す。図48Cは、2回目の洗浄の後のdAMPの接着を示す。図48Dは、3回目の洗浄の後のdAMPの接着を示す。図48Eは、4回目の洗浄の後のdAMPの接着を示す。dAMPを加えると、多くの接着事象が起こり、過剰量のdAMPが系から洗い流されるにつれて、増大していき(図48B、C)、すすぎを続けるにつれて低下していく(図48D、E)。
【図49】図49は、相関関係Cの値が0.9である時間−工程に対する、例示的なシミュレーションされた移動(上側のパターン−黒色)と電流(下側のパターン−灰色)を示す。
【図50】図50は、相関関係Cの値が0.98である時間−工程に対する、例示的なシミュレーションされた移動(上側のパターン−黒色)と電流(下側のパターン−灰色)を示す。
【図51】図51は、相関関係Cの値が0.99である時間−工程に対する、例示的なシミュレーションされた移動(上側のパターン−黒色)と電流(下側のパターン−灰色)を示す。
【図52】図52は、ホモポリマーから得られた信号の例示的な正規化された分布を示す。図52Aは、正規化された電流分布に対する当てはめを示す。図52Bは、信号のバーストにおいて、多項式に当てはめられ、正規化されたスパイクの頻度を示す。分布に対する当てはめを利用し、特定のノイズのバースト(burse)がAまたはCに由来する確率を割り当てる(平均的な電流および頻度が、クロスオーバー点よりも上または下にある場合、「IAC」および「fAC」と書かれている)。CおよびCの電流分布を分離した(クロスオーバー点=「ImC」)が、頻度の分布は重なっている。
【図53】図53は、アデニン、チミン、シトシン、グアニンに対する4−メルカプトベンズアミドの例示的な水素結合態様を示す。
【図54】図54は、ヘテロポリマー内にある1個の塩基を読み取って得られる例示的なデータを示す。54Bは、トンネルノイズの例示的なバーストを示し、頻度が低く、振幅の大きなスパイクはCで示し、一方、頻度が大きく、振幅が小さいスパイクはAで示している。「」が書かれているスパイクは、非特異的である。図54Cは、スパイクの振幅の移動平均を示す(0.25sのウインドウ、0.125sのステップ)。C塩基は、0.015nAより小さい無視できる数のスパイクを作成する(直線)。図54Dは、スパイク周波数の移動平均を示す。図54Eは、信号がA(明るい灰色の線で示されている)またはC(濃い線で示されている)に由来する確率を示す。
【図55】図55は、検体を含まず、ギャップが20pS(i=10pA、V=+0.5V)で、リン酸緩衝化食塩水中の官能基化されたトンネルギャップのトンネル信号を示す。この例は、ある程度のACが、矢印によって指し示されているカップリングした線状のノイズを有する以外は、特徴のない信号を与えた。
【図56】図56は、官能基化されたトンネルギャップのトンネル信号を示す。図56C〜Fは、ヌクレオチドdAMP(図56C)、dCMP(図56D)、dCMP(図56E)、dGMP(図56F)が導入されたときに作られる特徴的な電流スパイクを示す(dTMPは、この例では信号を与えなかった)。図56G〜Jは、dAMP(図56G)、dCMP(図56H)、dCMP(図56I)、dGMP(図56J)について、パルス高さの対応する分布を示す。図56G〜Jの曲線は、電流の対数値の2種類のGaussian分布に非常によく当てはまっている。
【図57】図57は、トンネル信号を特性決定するのに用いられるパラメータを示す。スパイクは、局所的なノイズバックグラウンドの標準偏差の1.5倍の閾値を超えるスパイクの場合に計測される。信号は、バーストによって生じ(持続期間T、周波数f)、それぞれ、周波数fに電流スパイクを含んでいる。スパイクは、tonの時期には高いままであり、toffの時期には低い。合計計測速度(図56G〜Jを参照)は、時間測定によって分けられた全てのバーストのスパイク数である。
【図58】図58は、構成要素であるヌクレオチドのトンネル信号分布と、オリゴマーからのトンネル信号分布がどの程度似ているかを示す。図58A、C、Eは、d(A)、d(C)、d(C)について、代表的な電流トレースを示し、図58B、D、Fには、対応する分布が示されている。図58B、D、Fの曲線は、構成要素であるヌクレオチドおよびオリゴマーヌクレオチドの両方への当てはまりを示す。この曲線は、互いに密に対応している。図58GおよびIは、混合オリゴマーd(ACACA)(図58G)およびd(CCCCC)(図58I)からの電流トレースを示し、対応する電流分布を含んでいる(図58HおよびJ)。図58HおよびJの実線の曲線は、ホモポリマーに合うようにスケール化されている。図58Hでは、上側の点線の曲線は、Aに帰属することを示し、下側の点線の曲線は、Cに帰属することを示す。図58Jでは、上側の曲線は、Cに帰属することを示し、下側の曲線(電流(nA)軸の0.02から始まる)は、Cに帰属することを示す。ホモポリマーパラメータによってデータが十分に記述されるが、ある種の中程度の信号(「1」と書かれている)および新しい高電流の特徴(「2」と書かれている)により、その配列関係が読み取りにわずかに影響を与えることが示される。図58Gの上側のバーは、Cのような信号であることを示しており、一方、下側のバーは、Aのような信号であることを示している。図58Iの上側のバーは、Cのような信号であることを示しており、下側のバーは、Cのような信号であることを示している。
【図59】図59は、読み取り複合体の寿命に関するデータを示す(寿命は、力がゼロの状態で数秒程度の桁数である)。図59Aは、AFMギャップの官能基化を示し、S字型の線は、34nmのPEGリンカーをあらわす。図59Bは、(i)所定の時間に1個より多い分子が引っ張られ、力のベースラインは、それぞれの破壊後に復元せず、z方向の伸長(先端の位置の補正)は約34nmであり、(ii)例示的なソフトウェア(A.Fuhrmann、PhD Thesis in Physics、Arizona State University、2010に記載されるような)によって許容される種類の1分子曲線を示す、代表的な力曲線を示す。結合が破壊された後に力はベースラインに戻り、補正された伸長度は約34nmである。図59Cは、示されている引っ張り速度での結合破壊力のヒストグラムを示す。この曲線は、異種結合モデルに対し、例示的な最大限のあり得そうな当てはめを示す。図59Dは、結合モデルパラメータに対してプロットされた結合存続確率を示し(実線)、上から下まで5000nm/s、2000nm/s、500nm/s、200nm/sである。これらの当てはめによって、力がゼロの状態でのオフ速度0.28s−1が得られ、集合体は、ナノギャップの中で数秒間の単位で生き残り、溶液中よりも寿命がかなり長い(溶液結合測定の詳細は、図47を参照)。
【図60】図60は、本発明の一実施形態に係るチップを示す。このチップでは、導体の原子層(例えば、チップに開けられたナノ細孔を含む薄い(例えば、2nmの)誘電層によって分離されたTiN)を堆積させることによって読み取り電極の対が作られている。認識分子(試薬)は、金属電極に共有結合によって連結し、電気誘導によって分子がギャップを進むにつれて、それぞれの塩基(または残基)の上に自己集積型の接点を生成し、非共有結合性相互作用を生成する。
【図61】図61は、アデニン、チミン、シトシン、グアニンに対するイミダゾール−2−カルボキシアミドの例示的な水素結合の態様を示す。
【図62】図62Aおよび62Bは、イミダゾール−2−カルボキシアミドで官能基化された電極で構成される固定されたギャップ内で、デオキシヌクレオチドを用いて測定された例示的な電流分布を示す。
【図63】図63は、イミダゾール−2−カルボキシアミドで官能基化された電極と、ギャップが一定の状態で、表面を移動してもよいプローブとを備える例示的なデバイスを示す。
【図64】図64は、DNAの読み取りが、dCのヌクレオチド電流分布(図64A)およびdAのヌクレオチド電流分布(図64B)と合うことを示す。
【図65】図65は、固定されたギャップのためのAAAAAオリゴマーの例示的な電流の読み取りを示す。
【図66】図66は、固定されたギャップのためのCCCCCオリゴマーの例示的な電流の読み取りを示す。
【図67】図67は、固定されたギャップのためのd(C)オリゴマーの例示的な電流の読み取りを示す。
【図68】図68は、トンネル電流をサーボ制御することによって可変性ギャップをほぼ一定の値に維持するためのd(CCCCC)オリゴマーの例示的な電流の読み取りを示す。
【図69】図69は、dA(上の傾き)およびdC(下の傾き)について、信号バースト時間 対 往復走査速度の例示的なプロットを示し、傾きは約0.3nmである。
【図70】図70は、固定されたギャップのためのACACAオリゴマーの例示的な電流の読み取りを示す。
【図71】図71は、固定されたギャップのためのCCACCオリゴマーの例示的な電流の読み取りを示す。
【図72】図72は、固定されたギャップのためのCCCCCオリゴマーの例示的な電流の読み取りを示す。
【図73】図73は、トンネル電流をサーボ制御することによって可変性ギャップをほぼ一定の値に維持するためのACACAオリゴマーの例示的な電流の読み取りを示す。
【図74】図74は、トンネル電流をサーボ制御することによって可変性ギャップをほぼ一定の値に維持するためのCCCCCオリゴマーの例示的な電流の読み取りを示す。
【図75】図75は、トンネル電流をサーボ制御することによって可変性ギャップをほぼ一定の値に維持するためのGTCGTCGTCオリゴマーの例示的な電流の読み取りを示す。
【図76】図76は、アミノ酸およびペプチド骨格のための例示的な認識分子(試薬)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
発明の詳細な説明
本発明は、ポリマー単位および/またはポリマーを分析するための組成物、要素、デバイス、方法を提供する。分析することが可能な例示的なポリマー単位およびポリマーとしては、ヘテロポリマーおよび関連する単位が挙げられる。例えば、分析することが可能なポリマーとしては、DNA、RNA、多糖類、ペプチドが挙げられ、ポリマー単位としては、ポリマーのモノマー、ヌクレオチド、ヌクレオシド、アミノ酸、多糖類のモノマーが挙げられる。ある種の実施形態では、エピジェネティックマーク(例えば、メチル化されたDNAおよび/またはRNA)を分析し、例えば、メチル化されていないDNA/RNA単位と区別してもよい。
【0011】
デバイスは、1つ以上の読み取り分子(試薬とも呼ばれる)で官能基化された2個以上の電極と、ポリマー単位および/またはポリマーが通過してもよいトンネルギャップとを備えている。電極上にある試薬は、ポリマーの単位と一時的な結合を生成することが可能である。一時的な化学結合または物理的な結合は、その単位がギャップの中にあるときに生成し、第1の電極と第2の電極との間の回路を完成させる。次いで、この生成した一時的な結合が検出可能な信号を導き出し、この信号を使用してポリマーを分析してもよい。
【0012】
電極
上述の2個以上の電極は、任意の適切な材料から作られていてもよく、標的ポリマー単位と結合することが可能な試薬で官能基化されていてもよい。例えば、電極は、任意の導電性材料、例えば、金属、金属アロイ、金、白金、金アロイ、白金アロイ、炭素、カーボンナノチューブ、グラフェンまたは窒化チタンから作られてもよい。ある種の実施形態では、電極は、プローブと基材とを含む。電極は、当該技術分野で周知であるように、任意の適切な無機または有機の絶縁性材料、例えば、Si−1x、窒化ケイ素、金属酸化物を含む無機材料、またはポリエチレン、ポリスチレン、ポリメタクリル酸メチルなどのようなポリマーを含む有機材料などの間の表面または内部に作られるか、またはこれらの絶縁性材料で部分的に絶縁されていてもよい。絶縁性材料は、電流が流れるときに電極からバックグラウンドノイズが生じるのを防ぐような構成になっていてもよい。例えば、電極は、小さな先端または頂部以外はHDPEで完全に覆われていてもよい。別の実施形態では、電極は、絶縁層の間に埋め込まれており、ナノ細孔と接触する領域のみが露出していてもよい(図60)。バイアスが0.5ボルト以下の場合、1平方ミクロン程度の大きさの部分を、無視できるほどのリーク電流で、1モル濃度までの塩溶液に露出させることができる。
【0013】
読み取り試薬は、電極の「鋭敏化」に重要な役割を果たす。典型的な金電極は、10nm以上のファセットが露出しているナノ結晶性組成物をもつ。したがって、1個の塩基のみと接触させることは不可能であると思われる。しかし、電極を官能基化すれば、容易に1塩基の解像度にすることができる。というのは、特定の分子の接触がここでトンネル電極として役立ち、金属表面上で鋭敏な十分に規定された表面粗さを作り出すからである。
【0014】
試薬
電極は、1つ以上の試薬によって官能基化されている。電極は、同じ試薬で官能基化されていてもよく、試薬の組み合わせによって官能基化されていてもよく、または、別個の試薬で個々に官能基化されていてもよい。電極に結合し、標的ポリマー単位と一時的に結合することが可能な任意の適切な試薬を用いてもよい。
【0015】
電極に対する標的ポリマー単位の結合を促進するために、望ましい電極の物質に依存して、標的ポリマー単位に結合することが可能な読み取り分子に種々の官能基を連結してもよい。適切な官能基としては、例えば、−SH、−NH、−N、−NHNH、−ONH、−COOH、−CHO、アセチレン、ジチオカルバメート、ジチオカルボキシレートを挙げることができる。金属に対するジチオカルバメート結合は、金属のフェルミ準位とより近いレベルで分子レベルで整列させることによって、トンネル電流を大きく増大させる(Florian von Wrochem、Deqing Gao、Frank Scholz、Heinz−Georg Nothofer、Gabriele NellesおよびJurina M.Wessels、“Efficient electronic coupling and improved stability with dithiocarbamate−based molecular junctions”、Nature Nanotechnology、2010年6月20日を参照)。ある種の実施形態では、電極は、官能基に連結し、その後読み取り分子に結合することが可能となる。例えば、金属を用いる場合、電極が金ならば、試薬と電極とが共有結合しやすくなるように、チオール官能基をもつ試薬を使用してもよい。ジチオカルバメートを用いて、金、Pt、TiNに結合させてもよい。これらの基によって、金属と試薬との電気的なカップリングを高めることができる。グラフェンの縁は、カルボキシレート、カルボニル、エポキシドを有することが多いため、アミン化学を利用し、グラフェンの孔およびカーボンナノチューブの末端を官能基化してもよい。
【0016】
試薬は、標的ポリマー単位と一時的な結合を生成することが可能であり(J.Heら、Nanotechnology 20、075102(2009))、ヌクレオシドと一時的な結合を生成することが可能である(S.Changら、Nature Nanotechnology 4、297(2009))。一時的な結合は、その結合によって、検出可能な電子信号を電極を介して検出することができるものであれば、物理的な結合、化学結合またはイオン結合であってもよい(S.Changら、Nanotechnology 20、075102(2009);M.H.Lee、O.F.Sankey、Phys.Rev.E 79、051911 1(2009))。好ましい一時的な結合としては、水素結合が挙げられる。この場合、例示的な試薬は、水素供与基または水素受容基を含んでいてもよい。別の実施形態は、水または水系電解液中で一緒に押される芳香族環同士のπスタッキング相互作用である。
【0017】
DNAおよび/またはRNAに結合する例示的な試薬としては、メルカプト安息香酸、4−メルカプトベンズアミド、イミダゾール−2−カルボキシド、ジチオカルバメートイミダゾール−2−カルボキシド(4−カルバモイルフェニルジチオカルバメート(4−carbamonylphenyldithiocarbamate)とも呼ばれる)が挙げられる。4−メルカプトベンズアミドには、2個の水素結合供与部位(窒素の上)と、1個の水素結合受容部位(カルボニル)が存在する。例えば、4種類のヌクレオチド塩基に対する同様の結合態様を図53に示す。4種類のヌクレオチド塩基に対するイミダゾール−2−カルボキシアミドの同様の結合態様を図61に示す。読み取り部中の芳香族環とDNA塩基中の芳香族環との間のπスタッキングを含むさらなる結合態様もあると考えられる。試薬は、種々の溶媒(例えば、有機溶媒、水または電解水溶液)中に存在する場合、1個以上の水素結合供与部および/または1個以上の水素結合受容部が存在するように配合されていてもよい。例えば、メルカプト安息香酸は、例えば、トリクロロベンゼンのような有機溶媒中で働き、一方、4−メルカプトベンズアミド(4−mercatobenzamide)、イミダゾール−2−カルボキシド、ジチオカルバメートイミダゾール−2−カルボキシドは、水系電解液中および水中で働く。これらの設計原理を具体化する多くの分子が読み取り部として機能するであろうことを注記すべきである。例えば、金電極またはTiN電極に連結するためにチオールで官能基化されたグアニンは、認識信号を作り出すだろう。
【0018】
ある種の実施形態では、試薬は、電極と試薬の水素結合部分との間に架橋を生成する可とう性部分を含むような構成であってもよい。この架橋は、置換または非置換のアルキル鎖であってもよく、例えば、−(CH−であり、yは1〜5の整数である。例えば、電極に対して官能基化する場合、イミダゾール−2−カルボキシアミドは、電極に対してアミド部分を接続する−CHCH−架橋をもつ。この架橋によって、アミド部分は回転することができ、それによって、アデニン、シトシン、グアニン、チミンと異なる検出可能な様式で相互作用する。図61を参照。
【0019】
また、試薬は、ペプチドを分析するために、アミノ酸と一時的な結合を生成するような構成であってもよい。図13は、アミノ酸の水素結合供与部位と水素結合受容部位の例を示す。アスパラギン、グルタミン酸、グルタミン、ヒスチジン(histadine)およびアルギニンにある2個以上の隣接する部位(「D」と書かれている供与部または「A」と書かれている受容部)が利用可能である。リジン、セリン、トレオニン、チロシン、トリプトファンにある単一の部位を、ペプチド骨格に対しても水素結合を生成する試薬を用い、組み合わせて読み取ることができる。芳香族試薬は、πスタッキングによって、芳香族環をもつアミノ酸(ヒスチジン(histadine)、チロシン、プロリンおよびトリプトファン)を認識することができる。したがって、ペプチドを、本明細書に記載のデバイスおよび方法にしたがって分析してもよい。図76は、ペプチド骨格を認識するための例示的な試薬、およびアミノ酸の側鎖を認識するための例示的な試薬を示す。
【0020】
トンネルギャップ
ポリマー単位(例えば、DNAのヌクレオシドまたはタンパク質のアミノ酸)は、トンネルギャップを通って拡散しつつ検出されるか、または、電気泳動によってトンネルギャップを通って移動する。ギャップの幅は、固定されていてもよく、動的に調節可能であってもよい。ギャップは、好ましくは固定されている。ギャップは、2個の電極の間の空間を含む。ギャップは、それぞれの標的単位がギャップに適合するような大きさに調節される。ギャップは、幅が約0.5〜約6nm、例えば、約1〜約4nm、約1.5〜約3.5nm、約2〜約3nm、または約2〜約2.5nmであってもよい。ギャップの幅は、使用する試薬、分析される標的ポリマー単位によって変わってもよい。4−メルカプトベンズアミドで官能基化された2個の電極の場合、ギャップは、約2〜約2.5nm、例えば、約2.1〜約2.2nm、または約2.16nmであってもよい(ギャップコンダクタンスが20pSである場合、典型的には、DNAの読み取りに用いられる)。イミダゾール−2−カルボキシアミドで官能基化された2個の電極の場合、ギャップは、約2.2〜約2.6nm、例えば、約2.3〜約2.5nm、約2.35〜約2.4nm、または約2.37nmであってもよい(ギャップコンダクタンスが20pSである場合、典型的には、DNAの読み取りに用いられる)。ギャップの距離は、以下に記載するように決定されてもよい。図1は、1つの固定されたトンネルギャップ中で、4種類のDNAヌクレオシドそれぞれと作られる独特の水素結合を示す。4−メルカプトベンゼンは、4種類のヌクレオシドそれぞれと水素結合を生成する。水素結合は円で囲まれており、「S」は、デオキシリボース糖部分をあらわす。これらの構造は、コンピュータシミュレーションによって作成され、4−メルカプトベンズアミドを有機溶媒中で用いたため、おそらく、実際の構造を非常によくあらわしている。水中で働く読み取り分子の場合、構造をモデル化する試みは、水分子との水素結合や、水が介在し、一緒に押し出してπスタッキング相互作用を生成する芳香族環の相互作用と競争するため複雑化する。
【0021】
信頼性の高い読み取りを得るとき、ギャップの正確な大きさが重要となることがある。大部分の時間(または作られる信号の大部分)が、ギャップ内にポリマーの1個の単位のみが存在することによって生じるような大きさであるべきである。適切なギャップの幅は、ギャップを動的に調節することが可能なデバイスを用いることによって決定されてもよい。ある種の実施形態では、動的に調節可能なデバイスを用い、標的単位を分析してもよい。いずれの場合でも、ギャップの幅は、以下のように決定されるか、または設定されてもよい。電極は、特定のバイアスで、選択されたトンネル電流が得られるまで、共に近づけられる。例えば、0.5Vのバイアスで6pAの電流は、1,2,4−トリクロロベンゼン中でトンネル現象を起こさせる場合、ギャップ2.5nmに対応する。ギャップは、走査型トンネル顕微鏡法の分野で周知であるように、有効なサーボ制御を適用することによって維持される。ある特定の実施形態では、サーボ制御は、周波数の応答を100Hz以下に制限する。
【0022】
ただし、ギャップが十分に大きい状態に維持されると、バックグラウンドトンネル信号は、図2に示されるように、特徴がない。分子がギャップ内で結合する場合、トンネルギャップ内で一時的な電流スパイクが観察される(図4)。両方の電極を官能基化すると、それぞれのヌクレオシドに特徴的な電流で、電流ピークの狭い分布が観察される(図7B)。しかし、電流信号から特定のヌクレオシドを特定することは、その分布の高電流部分がテーリングしていることによって複雑化しており、このテーリングは、1個よりも多い標的分子がギャップ内で同時に結合していることによるものである。主要ピークの電流の2倍にあたる電流分布に第2のピークが生じることがある(図6)。ギャップを小さくするにつれて(ベースラインコンダクタンスまたは電流が増加するにつれて)、多くの箇所で電極に接触することが可能となり、複数分子が読み取られる相対的な頻度が大きくなる。この2分子読み取り頻度の増加を図7Aに示す(この図は、ギャップが小さくなるにつれて、どのようにピーク電流が上がっていくかも示している)。したがって、ギャップを大きくすると、2つの悪い影響がある。第1に、ピーク電流が下がり(図7Aに示されているように)、第2に、所与の濃度の標的に対する読み取り速度が下がる(図8)。
【0023】
したがって、ある種の実施形態では、重要な要素は、(a)読み取りシステムに対し、所定の時間に1個の要素(すなわち、所定の時間に、DNAポリマーの1個の塩基)が存在するように標的ポリマーの位置を変えることができるようなナノ細孔を有する、可変性で制御可能なトンネルギャップを組み込むことと;(b)ある様式または別の様式ですべての標的に結合する試薬を使用することとを含み、ギャップは、標的のための独特の結合形状がほんの数個しか存在しないような大きさに調節され、それによって、特徴的な信号が作られる。
【0024】
ナノ細孔
ある種の実施形態では、デバイスには、1つ以上のナノ細孔が備わっていてもよく、このナノ細孔を通って、ポリマーは、分析のためにトンネルギャップに向けられてもよい。ナノ細孔は、所定の時間に、ポリマーの1個の単位がトンネルギャップに流れることができるような構成であってもよい。したがって、DNAを分析するためのナノ細孔は、ペプチドを分析するためのナノ細孔より小さくてもよい。
【0025】
可変性のギャップを有するトンネル接合部について、このような実施形態を図9に示す。ギャップ自体の詳細は、図10A〜Fに示される。固定されたギャップデバイスの詳細は、図60に示される。シークエンシング用ポリマー(例えば、DNA)は、流体容器1(断面で示されている)の中に存在する。ポリマーを含有する流体は、ナノ細孔3の配列を通って流れるか、または、場合により、第1の容器1と第2の流体容器2との間に、基準電極4を用いて印加した電気泳動のバイアスVによってナノ細孔を流される。両方の容器を電解液(例えば、1M KCl)で満たし、それに加え、標的DNAが一本鎖形態に維持されるように、容器1のpHを大きな値(pH=11または12)に調節してもよい。電気信号からの変換の独立した照合が必要ではない場合、収集容器2中の電解溶液は、好ましくは、電気化学的な漏れが最低限になるように、小さくする(mM)。ある特定の実施形態では、ナノ細孔は導電性であり、ナノ細孔配列の上部にめっきされている電極5に接続している。この配列は、走査式トランスデューサ7(例えば、走査型プローブ顕微鏡の分野で周知のx、y、z走査要素)によって所定の位置に保持されている1個以上の第2の電極6によってプローブされてもよい。読み取り装置は、堅枠8を介してナノ細孔の配列に接続していてもよい。
【0026】
トンネル接合部の例示的な図を図10に示す。図10Aは、DNAが電気泳動によってナノ細孔101を移動し、DNA分子がプローブ104とナノ細孔101の上部にある金電極またはTiN電極103の間を通るときに、金プローブが読み取る配置を示す。ナノ細孔101は断面で示されており、ケイ素、窒化ケイ素または二酸化ケイ素の基材102に開けられている。読み取り試薬105および106は、プローブ104および金属電極103に接続している。図10Bの電子顕微鏡写真は、窒化ケイ素基材中のナノ細孔107が、金108の薄い(20nm)層でコーティングされていることを示している。細孔を開けるという操作によって、金は細孔の周囲で再結晶化し、その結果、原子が規則的に並んだ鋭い棚状の金の突起109がナノ細孔の縁に突き出て、ポリマーの読み取り電極の1つを形成している。
【0027】
図10Cは、カーボンナノチューブ電極204を伴うプローブが、窒化ケイ素基材203に担持されているグラフェン基材202中のナノ細孔201の上に保持されている実施形態を示す。読み取り試薬205および206は、CNT204およびグラフェンナノ細孔201の縁に接続している。図10Dの電子顕微鏡写真は、ナノ細孔207がグラフェン多層208に開けられていることを示す。
【0028】
図10Eおよび10Fは、絶縁体12から突出している金属プローブ13が、薄い金属電極5でコーティングされている誘電性基材11を貫通して突き出ているカーボンナノチューブナノ細孔の配列(1個のナノ細孔に10が書かれている)、この配列によってカーボンナノチューブが突き出ている、の上に保持されている実施形態を示す。このような配列は、Holtら、Fast Mass Transport Through Sub−2−Nanometer Carbon Nanotubes.Science、2006.312、p.1034−1037(参考として組み込まれる)に記載されているように、ケイ素表面からナノチューブをCVD成長させ、次いで窒化ケイ素を充填し、その下にある担持部をエッチングして取り去ることによって加工されてもよい。例えば、プラズマエッチングによって残ったカーボンナノチューブ突出部を除去する前に、膜の上側には、接合部として作用する蒸発させたAuの層があってもよい(厚み10〜100nm)。DNAを電気泳動によってカーボンナノチューブの中を移動させることは、近年、Liuら、Translocation of single−stranded DNA through single−walled carbon nanotubes.Science、2010、327、p64−67によって示されており、これも参考として組み込まれる。プローブ6は、Nagaharaら、Preparation and Characterization of STM Tips for Electrochemical Studies.Rev.Sci.Instrum.、1989.60、p.3128−3130に記載されるように、頂部に少しだけ(数平方ミクロン)13が露出した状態で、絶縁体12の層で覆われていてもよい。これにより、電解溶液内で電気化学的なリーク電流が生じるのが最低限になる。
【0029】
ある種の実施形態では、上述の要素は、例えば、図60に示されているように、マイクロアレイまたはチップの構造であってもよい。ここで、担持材料302(ケイ素、酸化ケイ素または窒化ケイ素)は、薄い金属電極303(例えば、原子層堆積法によって堆積したTiN)でコーティングされ、次いで、使用する読み取り試薬に最適になるように選ばれた厚み308の誘電体層304で覆われている。本明細書に記載するほとんどの試薬の場合、この厚みは、1.5〜3nmである。第2の電極305が堆積しており、最終的な誘電層309で覆われている。ナノ細孔301は、デバイス全体を貫通するように開けられており(当該技術分野で周知の電子ビームを用いることによって)、露出した金属電極表面は、読み取り試薬306および307で官能基化されている。
【0030】
金属電極は、任意の従来からある方法によってナノ細孔の周りに形成されてもよい。例えば、集束イオンビームによる化学蒸着法によって、窒化ケイ素膜に形成されたナノ細孔にPtを堆積させてもよい。金属(例えば、TiN)も、原子層蒸着法または化学気相成長法によって堆積させ、その後に孔をエッチングするか、孔を作成してもよい。また、まず、膜(例えば、SiN、SiまたはSiO)を金属でコーティングし、その後に孔を開けてもよい。
【0031】
また、本質的に導電性の物質であるグラフェンを、ナノ細孔を有する電極として用いてもよい。グラフェンの場合、グラフェンに細孔を開けてもよい。例えば、48kbpまでの長いオリゴマーの場合、グラフェンの細孔の移動を使用してもよい。グラフェンを用いる場合、細孔の縁のみを官能基化することが可能である。
【0032】
ナノ細孔のためにカーボンナノチューブを使用する例示的なトンネルギャップを図11に示す。プローブを基材から取り外してもよく、そのため、基材およびプローブを異なる試薬で官能基化することが可能である。ある特定の実施形態では、プローブ(金または白金、または白金アロイ)は、水溶液中で水素結合供与部と水素結合受容部とが存在する試薬である4−メルカプトベンズカルバミド21で官能基化されている。カーボンナノチューブ10の末端は、好ましくは、当該技術分野で周知のように、アミド結合(示されていない)を用いてカルバミド部分22で官能基化されていてもよい。Feldman,A.K.、M.L.Steigerwald、X.GuoおよびC.Nuckolls、Molecular Electronic Devices Based on Single−Walled Carbon Nanotube Electrodes.Acc.Chem.Res.、2008.41:p.1731−1741を参照。
【0033】
移動速度の制御
読み取り試薬で官能基化された読み取りギャップを使用することのさらなる利点は、実施例13に記載されるように、ギャップ内に塩基が結合している時間が本質的に長いことである。ナノ細孔がかかえる主な問題は、熱揺らぎに打ち勝つほど十分に大きいバイアスを細孔にかけると、DNAが高速で移動してしまうことである。DNAは、数百万塩基/秒の速度で移動し、この速度は、実用的な(proactical)読み出しスキームにとって速すぎる。この問題は、Brantonら、Nature Biotechnology volume 28、pp1146−1153、2008に記載されている。DNA塩基と結合する分子で電極が官能基化されている場合、1個の塩基を、数秒間までの間捕捉されたままにすることができる。図59に示されている原子間力顕微鏡データの詳細な分析(Huangら、Nature Nanotechnology、vol 5、pp868−873、2010)は、読み取り試薬で官能基化されたナノ細孔を通るDNAの速度を上げるには、わずかな力を加えるだけでよいことを示している。例えば、図59のデータを使用し、ナノ細孔に80mVのバイアスをかけると、DNAが、10塩基/秒の速度で移動することが示され、この速度は、120mVでは100塩基/秒を超える値まで増える。
【0034】
ポリマーの分析
本発明の化合物、要素、デバイス、方法を用いて、ポリマーを分析してもよい。ある特定の操作方法では、図9の電源Vを用いることによって、例えば、約0.1〜1V、例えば、約0.3〜0.7V、または約0.5V(V)のバイアスを電極に印加してもよい。プローブとナノ細孔の間のギャップは、望ましい設定電流に達するまで、トランスデューサ(図9の7)によって調節される。望ましい設定電流は、約1〜10pA、例えば、約3〜6pAであってもよい。例えば、移動バイアス(V)を印加し、カーボンナノチューブを通るDNAの移動を作り出してもよい。Vの好ましい値は、0.1〜1Vである。
【0035】
ある種の実施形態では、トランスデューサ7の横方向の走査動作を用いて、片方の電極(例えば、プローブ)を、表面の上を移動させ、DNAを首尾良く移動させるナノ細孔の位置決めをし、トンネル信号の識別が最大限になるようにギャップを調節してもよい。好ましい初期値(例えば、0.5Vで6pAの電流)になるようにギャップを設定し、4種類のヌクレオシドからの信号の分離が最適になるようにバックグラウンドトンネル電流を少し調節してもよい。
【0036】
ポリマーを分析するときに好ましいさらなる要素は、(a)速いデータのスパイクを除くこと(持続時間40μs未満);(b)データの0.3秒ブロックでノイズレベルより1〜2上の標準偏差に閾値を設定し、自動的にピークを検出;(c)周波数応答が35Hzより速くならないように、バックグラウンド電流信号を維持するサーボゲインの調節;(d)データを獲得しているときはサーボをオフにする手段である。ギャップの平均的な大きさを制御するサーボをデータ獲得中に残しておくと、望ましい配列決定信号に応答して、サーボがギャップを調節してしまうので、データがゆがめられてしまう。例えば、サーボをオンにした状態で図68、73、74のトレースを得た(すぐ上に記載した通り、応答時間をゆっくりにした状態)。ギャップを固定して(サーボ制御を行わず)図70、71および72のトレースを得た。信号はかなり解釈しやすくなる。ギャップを変えることが可能な装置では、最適な配置は、DNAが存在しない状態でバックグラウンド信号によってサンプルを整列させ、サーボを用いてギャップを安定化させ、次いで、サーボをオフにしてデータを獲得することであり、ギャップを再設定すると、DNA信号が止まる。
【0037】
ある特定の実施形態では、電流信号は、信号の持続時間に基づいて選択され、バックグラウンドの上にあるピークを認識するためのベースラインを確立するために、0.5秒以下の間隔でバックグラウンド電流の数値を合わせる。
【0038】
本発明のさらなる利点は、必要な場合、標的群からの信号を最適化するためにギャップを調節し、小さな距離(10個分の炭素−炭素結合までの距離)離れた、水素結合供与部および/または水素結合受容部(および/または、πスタッキングが可能な芳香族環)が存在する任意の標的をこのスキームで読み取ることができることであると理解されるだろう。
【0039】
両電極を作成するカーボンナノチューブ
他の実施形態では、カーボンナノチューブを用い、図12に示されるような両電極を作成してもよい。ポリマーの配列を決定するための電極としてのカーボンナノチューブは、第61/083,993号(「Carbon Nanotube Based Device for Sequencing Polymers」)に記載されており、本明細書に参考として組み込まれる。Liuら、Translocation of single−stranded DNA through single−walled carbon nanotubes.Science、2010、327、p64−67、さらに、第61/083,993号(「Carbon Nanotube Based Device for Sequencing Polymers」)に記載されているように、DNAは、ケイ素ウエハの表面に構築されたデバイスを用いて、カーボンナノチューブ30の中の小さなギャップを通って移動する(図12を参照)。酸素プラズマエッチングに対するレジストバリア35の開口部分を短時間露出させた後、トランスデューサ36を用いて、ギャップの上にある固定された点37に対して薄膜34を押し上げてデバイスを曲げることによって、CNTに非常に小さな切れ目を作成し、その片側に移動させてもよい。切れ目のついたカーボンナノチューブを曲げると、それが破壊され、管が存在する基材がさらに曲がっていくと、ギャップの程度は大きくなる。開口したギャップの大きさは、片方の電極(31a)から別の電極(31b)まで流れるトンネル電流を用いることによって測定される。望ましいギャップの大きさ(2〜2.5nm)が得られたら、CNTの末端を上述の様なカルバミド基32で官能基化する。
【0040】
ある特定の方法では、DNAがギャップ30を移動し、トランスデューサ36は、塩基からのトンネル電流信号の分離を最適化するように調節され、電極31aおよび31bにカルバミド基を結合することによってギャップが広がる。
【実施例】
【0041】
実施例1.材料の合成および特性決定
1.1 材料および方法
プロトンNMR(H)スペクトルをVarian 500MHz分光計で記録した。クロロホルム中のH化学シフトは、溶媒ピーク(δ=7.26ppm)をリファレンスとした。高解像度質量スペクトル(HRMS)を、大気圧化学イオン化(APCI)技術を用いて記録した。UV吸収を、Varian Cary 300 UV分光光度計で記録した。フラッシュクロマトグラフィーを、自動化フラッシュクロマトグラフィー(Teledyne Isco,Inc.CombiFlash Rf)を用いて実施した。全ての化学試薬は、商業的な供給業者から購入し、他の記述がされていない場合には、受領したままの状態で使用した。2’−デオキシアデノシンおよび2’−デオキシグアノシンは、TCI Americaから購入し、チミジンはAlfa Aesarから、2’−デオキシシチジンはSigma−Aldrichから購入した。Sure/SealTM瓶に入った無水N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)は、Sigma−Aldrichから購入した。1,2,4−トリクロロベンゼン(TCB、99%、Aldrich)は、窒素下、モレキュラーシーブ(4Å)で乾燥させ、次いで、濾過した後に減圧状態で蒸留した。それ以外の全ての溶媒は、受領したままの状態で使用した。
【0042】
1.2 ヌクレオシドのビス(tert−ブチルジメチルシリル)(TBDMS)誘導体(図14を参照)を調製する一般的な手順
(D.A.Barawkar、R.K.Kumar、K.N.Ganesh、Tetrahedron Letters 48、8505(1992);W.Zhang、R.Rieger、C.Iden、F.Johnson、Chem.Res.Toxicol.8、148(1996);P.Potier、A.Abdennaji、J.P.Behr、Chem.Eur.J.6、4188(2000)を参照。
【0043】
乾燥ヌクレオシド(1.0mmol)、ジメチルアミノピリジン(dimethyl aminopridine)(DMAP、0.15mmol)およびイミダゾール(6mmol)の無水DMF(10mL)溶液に、tert−ブチルジメチルシリルクロリド(TBDMSCl、2.5mmol)を加えた。反応混合物を窒素下、室温で一晩撹拌した後、飽和NaHCO水溶液でクエンチし、ジクロロメタンで抽出した。有機層を合わせて濃縮し、CHCl−CHOHの勾配が100:0〜100:5の溶出液を用いて、シリカゲルフラッシュクロマトグラフィーで残渣を精製した。
【0044】
3’,5’−ビス−O−(tert−ブチルジメチルシリル)−デオキシアデノシン(1):収率80%。
H NMR (500 MHz, CDCl): δ 8.29 (s, 1 H, 2−H), 8.09 (s, 1 H, 8−H), 6.65 (br s, 2 H, NH), 6.41 (t, 1 H, 1’−H), 4.56 (dd, 1 H, 3’−H), 3.96 (d, 1H, 4’−H), 3.82 (dd, 1 H, 5’−H), 3.72 (dd, 1 H, 5’’−H), 2.59 (m, 1 H, 2’−H), 2.39 (m, 1 H, 2’’−H), 0.86 (s, 18 H, (CHCSi ), 0.05 (s, 6 H, CHSiO) , 0.03 (s, 6 H, CHSiO).
HRMS(APCI):C2241Si+Hとして計算値480.2826;実測値480.2818。
【0045】
3’,5’−ビス−O−(tert−ブチルジメチルシリル)−デオキシシチジン(2):収率17%。
H NMR (500 MHz, CDCl) δ 8.07 (d, 1 H, 6−H), 7.14 (br s, 2H, NH), 6.24 (t, 1 H, 1’−H), 5.84 (d, 1 H, 5−H), 4.38 (m, 1 H, 3’−H), 3.92 (m, 2 H, 5’−H), 3.77 (m, 1 H, 4’−H), 2.42 (m, 1 H, 2’−H), 2.08 (m, 1 H, 2’’−H), 0.92 (s, 9 H, (CHCSi), 0.88 (s, 9 H, (CHCSi) ), 0.11 (s, 3 H, CHSiO) 0.10 (s, 3 H, CHSiO), 0.07 (s, 3 H, CHSiO) 0.06 (s, 3 H, CHSiO).
HRMS(APCI):C2141Si+Hとして計算値456.2714;実測値456.2722。
【0046】
3’,5’−ビス−O−(tert−ブチルジメチルシリル)−デオキシグアノシン(3):クロマトグラフィーから得た粗生成物をエタノール(95%)中で再結晶させることによってさらに精製した。収率21%。
H NMR (500 MHz, CDCl) δ 13.10 (br s, 1 H, NH), 7.89 (s, 1 H, 8−H), 7.11 (br s, 2 H, NH), 6.26 (t, 1 H, 1’−H), 4.57 (t, 1 H, 3’−H), 3.97 (t, 1 H, 4’−H), 3.81 (m, 1 H, 5’−H), 3.77 (m, 1 H, 5’’−H), 2.51 (m, 1 H, 2’−H), 2.37 (m, 1 H, 2’’−H), 0.91 (s, 9 H, (CHCSi), 0.90 (s, 9 H, (CHCSi) ), 0.10 (s, 6 H, CHSiO) 0.07 (s, 6 H, CHSiO).
HRMS:(APCI)C2241Si+Hとして計算値496.2775;実測値496.2767。
【0047】
3’,5’−ビス−O−(tert−ブチルジメチルシリル)−チミジン(4):収率83%。
H NMR (500 MHz, CDCl) δ 9.78 (br s, 1 H, NH), 7.40 (s, 1 H, 6−H), 6.27 (t, 1 H, 1’−H), 4.33 (t, 1 H, 3’−H), 3.85 (t, 1 H, 4’−H), 3.80 (dd, 1 H, 5’−H), 3.69 (dd, 1 H, 5’’−H), 2.18 (m, 1 H, 2’−H), 1.93 (m, 1 H, 2’’−H), 1.84 (s, 3 H, 5−CH), 0.85 (s, 9 H, (CHCSi), 0.82 (s, 9 H, (CHCSi)), 0.04 (s, 6H, CHSiO) 0.00 (s, 6H, CHSiO).
HRMS:(APCI)C2242Si+Hとして計算値471.2711;実測値471.2712。
【0048】
1.3 ストック溶液の調製
tert−ブチルジメチルシリル(tert−butyldimethylsiyl)基によって保護されたヒドロキシル基をもつヌクレオシド(dA、dG、dT、dC)の飽和溶液(1.0mg)を、新しく蒸留した1,2,4−トリクロロベンゼン(20ml)に加え、超音波浴で10分間超音波処理した。この溶液を濾紙(1番、Whatman)で濾過し、グローブボックス(水分は0.5ppm未満、酸素は0.5ppm未満)内で保存した。このストック溶液をTCBで希釈することによって作業用溶液を調製した。
【0049】
1.4 ストック溶液の濃度
TCBのUV吸収はヌクレオシドのUV吸収と重なってしまうため、溶媒を交換することによってストック溶液の濃度を決定した。一定分量のストック溶液(1ml)から、80℃、真空下でTCBを除去し、残渣を同じ容積のクロロホルムに再び溶解し、UV吸収を測定して濃度を決定した。
【0050】
クロロホルム中での全ヌクレオシド誘導体のUV吸光係数は、それぞれ一連のdA、dG、dT、dC希釈物を用いて、最大吸収波長で決定した。希釈ファクターは、3.5から200までさまざまであった。曲線の当てはめは、Origin 8で行った。得られたストック溶液の濃度を以下の表に列挙している。
【0051】
表1.TCBストック溶液中のヌクレオシド飽和濃度。最終行には、トンネル現象の測定で使用した最終濃度を列挙している(各ヌクレオシドについて、ほぼ等しい読み取り速度が得られる濃度)
【0052】
【表1】

【0053】
実施例2:プローブおよび表面の調製および特性決定
金(S.Changら、Nanotechnology 20、075102(2009))(Alfa Aesar、直径0.25mm、純度99.999%)およびPt(Ir 20%)(L.A.Nagahara、T.Thundat、S.M.Lindsay、Rev.Sci.Instrum.60、3128(1989))のプローブをエッチングし、表面を調製し(J.A.DeRose、T.Thundat、L.A.Nagahara、S.M.Lindsay、Surf.Sci.256 102(1991))、水素炎でアニーリングした。
【0054】
安息香酸0.3mgを、アルゴンで脱気したN,N−ジメチルホルムアミド(Sigma−Aldrich、純度>99.99%)2mLに溶解した。基材をこの溶液に2時間浸した後、すぐに水素炎でアニーリングし、次いで、N,N−ジメチルホルムアミド、アセトン、1,2,4−トリクロロベンゼン(1,2,4−trichlrobenzene)ですすぎ、使用前にNを流して乾燥させた。
【0055】
修飾する前に、プローブをpiranha(HSO/30% H(3:1)−熱および酸素を発するので、注意深く処理せよ)で洗浄した。次いで、プローブを1mM安息香酸溶液に一晩浸し、N,N−ジメチルホルムアミド、アセトン、1,2,4−トリクロロベンゼン(1,2,4−trichlrobenzene)で洗浄し、使用前に風をあてて乾燥させた。全ての測定は、新しく調製した純粋な溶媒中またはヌクレオシド溶液中で行った。
【0056】
偏光解析法STM(A.H.Schaefer、C.Seidel、L.Chi、H.Fuchs、Adv.Mat.10、839(1998))およびFTIR(S.E.Creager、C.M.Steiger、Langmuir 11、1852(1995))によって表面の特性を決定した。FTIRスペクトルは、明らかに、安息香酸部分が露出しており、中性形態であることを示している。バックグラウンドトンネル信号を測定し、図2に示した。
【0057】
2.1 分極電流および電気化学的な漏れ
ピーク電流の絶対値は、以下のように、電気化学的な漏れによって影響を受ける。表面から遠く離れたプローブを用いて測定したバックグラウンドリーク電流を引いた後に、トンネル電流を設定する。この値がかなりの値(数十pA〜数百pA)である場合、プローブが絶縁されていなくても(その結果、表面全体で漏れが発生する)、プローブを表面に近づけたとき、プローブの頂部周囲で拡散速度が変わるため、漏れがさらに変化することがあり得る(pAレベルで)。したがって、表面から遠く離れたプローブを用いた漏れを適用して補正すると、表面に近いプローブを用いた漏れを過剰に補正してしまうことがあり得る。その結果、見かけのトンネル電流は過大評価されてしまい、あるヌクレオシド溶液と、別のヌクレオシド溶液とで漏れが異なる場合、ヌクレオシドごとの実際の設定点が変わってしまう。この影響は、飽和濃度でのdCおよびdGのピークの見かけの桁数を変えてしまう程大きい(表1)。表1に示される作業濃度まで希釈すると、バイアス0.5Vでのリーク電流は、1.0〜2pA(dA)、0.0〜1.0pA(dT)、0.3〜1pA(dG)であった。dC(0.8μM)の場合、初期は15pAの電流が観察されたが、上の溶液に1時間さらした後、電流は数pAまで下がった。これらのバックグラウンドを、本明細書で報告するベースライントンネル電流から引いた。単一のヌクレオシドのデータと、混合物のデータとの間の類似性によって明らかなように、顕著な誤差は生じないと思われる。dT、dG、dCの生データの例は、図15に見い出すことができる。
【0058】
2.2 STMサーボゲイン
サーボの周波数応答は、サーボを適用していない場合(図16A)と、適用している場合(図16B)の1/fノイズプロットを比較することによって決定された。
【0059】
電流のトレースをフーリエ変換し、以下にしたがってスペクトル密度として示した
【0060】
【化2】

【0061】
式中、nは、周波数チャネル番号である(Δt=20μs、N=50000)。図16Aの実線は、1/fに当てはめたものである。閉じたサーボループを用いると(図16B)、ノイズデータは、28msの応答時間に対応し、35Hz未満に抑えられる。この時間は、全てのパルスをゆがめるには十分ではないが、最も長いパルスをゆがめるのには十分に長い(図15の図内挿入図の長いパルスは、測定したサーボ応答と一致して、ピーク電流のレベルを少し減らしていることが示されている)。
【0062】
2.3 自動的なピーク検出
高速化し、操作者による偏りをなくすために、データの分析を自動化した。ある操作者がこのプロセスに入力するのは、極端にノイズの多いバックグラウンド(コンタミネーションの特徴)がみられた場合、プローブを基材のもっと静かな領域に移動させることであった。
【0063】
この原理の課題は、サーボによって完全には補正されなかったバックグラウンド電流で、低い周波数での不安定さである。ピークを許容するための閾値を小さい値に固定して使用すると、この閾値よりも上の非常に小さいベースライン変動でさえ、大量の偽の計測数を生じてしまった。この問題を以下のように克服した。
【0064】
電流−時間データ(50kHzで得た)を0.3sのブロックに分けた。ブロック内の振幅をビニングし、データの下側半分をGaussianに当てはめ、Gaussianの平均値が望ましいベースライン電流と等しいことをプログラムで確認した。GaussianのHWHHを用いて、ベースラインノイズのSD、σを決定した。閾値をデータ操作0.3s以内のノイズの2σ上に設定することによって、ここに示したデータを分析した。ノイズレベルは操作継続時間によって変わるため、この可変性閾値は、結果として可変性のカットオフ値となり、データを集めたときに、最も低い電流の読み取りでは分布の形状が変わってしまうことがある(すなわち、dTの場合で、片方の電極が官能基化されていないものを用いて得たデータ)。操作時間30s(すなわち、100個の0.3sセグメント)でのデータのカットオフ値(dT、4.3μM、Gbl=12pS V=0.5V)の3つの選択の影響を図17に示す。
【0065】
非常に短いパルス(装置の解像限界にある)は、データを支配することがあるが、ヌクレオシドの属性には感受性ではないようである。したがって、たった1個のスパイク(20μs)または2個のデータ点の継続(40μs)の全てのスパイクを除外した。スパイクの持続期間の分布は、図27〜図29に与えられている。
【0066】
2.4 未官能基化電極を用いて得られたデータ
未官能基化電極を用いて得られたデータを図18および19に示す。図18および19は、分布が非対称であることを示す。本願発明者らは、分子形状がランダムに分布しており、トンネル電流は、所定の位置での変化に対し、指数関数的に感受性であると想定している。したがって、本願発明者らは、電流の対数値にGaussian分布を使用した。
【0067】
【化3】

【0068】
式IIに示される式は、図18および19に曲線で示されるように、データとよく一致している。データの適合の質は、図20に示されるように、図19Aから得たデータのlog−logプロットを用いて示される。曲線は放物線である。
【0069】
【表2】

【0070】
表2:ピーク電流(I)、分布の高電流側の幅(I0.5)、未官能基化金電極を通る4種類のヌクレオシドの読み取り速度(RR)を、コンダクタンス20pSおよび40pS(バイアス=0.5V)で設定する。
【0071】
Gaussianへの当てはめと、Gaussian logへの当てはめの差は、官能基化されたプローブを用いて測定した狭い分布ではそれほど顕著ではなかったが、Gaussian log関数に当てはめた方が、Gaussianに当てはめるよりも明らかに良かった。ほとんどのデータを2種類のGaussianの合計に当てはめ、第2のピークを、第1の電流ピークの2倍の位置を中心とした。
【0072】
【化4】

【0073】
より分布が狭い場合、HWHHは、
【0074】
【化5】

【0075】
によって概算値が与えられる。
【0076】
2.5 ヌクレオシド混合溶液のデータ
ヌクレオシド混合溶液のデータを図21に与えている。混合した膜を用いた読み取りはある程度不均一であり、このことは、表面が相分離していることを示していた。6箇所の異なる点で表面をサンプリングし、データを加えることによって、図3Fおよび図3H、図5Cおよび図21に示されている分布を得た。dA:dGのバルク濃度比が0.24である場合(表1)、測定したピーク面積の比率は0.6であり、dAがdGよりも高い親和性で表面に結合していることを示唆している。バルク濃度比をdA/dG=0.12に変えると、ピーク面積の比率はたった0.4まで下がり、この混合物の吸着等温線が複雑であることを示している。
【0077】
dT:dCのバルク濃度比が0.19である場合(表1)、それぞれのピークの面積比は、表面濃度比が1.1であることを示しており、dCは、この表面にきわめて大きな親和性を有することを示唆している。濃度比を0.09:1に変えると(図21)、積分ピーク面積は、表面濃度比がdT/dC=0.2に変わったことを示している。
【0078】
したがって、dC/dT混合層の場合、dA/dG混合物の場合よりもバルク濃度を所定量変化させて生じる相対表面濃度の変化がかなり大きくなり、これはおそらく、異なる溶媒親和性、異なる表面親和性、表面上にあるヌクレオシド間の相互作用と競争する結果であろう。それでも、減らした要素に関連するピークは、同じように下がっており、純粋なヌクレオシド溶液に対する現行の測定法に基づく本願発明者らのピーク割り当ては有効である。
【0079】
2.6 水素結合した複合体のコンダクタンスの計算
印加したバイアスに起因する電流の評価は、弾道輸送理論を用いて決定される。金の電子状態は、分子から飛び出し、トンネル電流を生じる。透過中に電子が非弾性散乱することは考慮しない。電子の流れは、金属のフェルミ準位にある電子が分子を通過する透過関数によって決定される。非常に小さなバイアスのみを考慮する(+/−0.1V)。この領域で、I−V特性は全て線形であり、そのため、結果は、単純に導電性によって特徴づけられる。導電性は、コンダクタンスの量と、フェルミ準位での透過関数の積となる。
【0080】
透過関数の計算は、散乱理論から得られる標準的な結果によって与えられ(J.K.Tomfohr、O.F.Sankey、J.Chem.Phys.120、1542(2004))、
【0081】
【化6】

【0082】
式中、Eは、エネルギー(金の接点のフェルミ準位)であり、
【0083】
【化7】

【0084】
は、左側および右側の金属の接点の状態のスペクトル密度であり、Gは、グリーン関数の分子伝搬関数である。
【0085】
【化8】

【0086】
関数は、金属状態の全ての情報を含有し、分子にいかにカップリングするかの情報を含み、Gは、分子内の電子状態に関するあらゆる情報を含む。グリーン関数の伝搬関数は、金属同士の接点の経路に沿った距離で、ほぼ指数関数的に減衰していくだろう。
【0087】
状態のスペクトル密度およびグリーン関数を計算するために、電子状態のモデルおよび半無限の金属線をモデリングする方法が必要である。本願発明者らは、先端および基材、半無限的に平坦な金平面(111)の表面の両方をモデリングした。
【0088】
Au中空部位の上で、分子の末端に硫黄原子が接続している。スーパーセルスラブ形状を使用する。このことは、系は間に特定の構造で分子が挟まれたAuスラブの周期的な配列(初期は薄い)であることを意味する。連続的なスーパーセル構造は、ブロッホの定理を使用して、系全体の電子状態を決定することができる構造である。スーパーセル全体の電子構造は、密度汎関数理論の範囲内で自己無撞着に決定される。スラブがAuの5〜7層であるという事実を補正するために、塊状の金をあらわす中心の層を選択することによって帰納法によりスラブが無限に拡張する。
【0089】
電子構造は、ファイアボール模型の局所的な原子軌道を用いて決定される(O.F.Sankey、D.J.Niklewski、Phys.Rev.B40、3979(1989))。この局所的な軌道は、有限の半径をもち、したがって、基底状態から非常にわずかに励起されている。SIESTAコード(P.Ordejon、E.Artacho、J.M.Soler、Phys.Rev.B53、10441(1996))を密度汎関数理論の範囲内で使用する。全てのコア状態を除去する疑似ポテンシャルを用いて、全ての原子を記述する。使用するバイアスの設定は、全原子についてdouble zeta plus polarization(DZP)であるが、但し、Auは、single zeta plus polarization(SZP)を使用する。
【0090】
2個の読み取り部と標的塩基との間の結合の多くの異なる形状を調べた。全ての場合で、読み取り部および塩基の緩和DFT形状を使用した。制限された一連の計算を分子系全体に緩和した。表3に報告した結果を緩和した個々の分子の形状に使用し、次いで、個々の分子を、図1A〜1Dの組み立てられた構造に厳密に翻訳する。重要な変数は、水素結合の長さ(例えば、実験およびDFT(M.H.Lee、O.F.Sankey、Phys.Rev.E79、051911 1(2009)から、このような水素結合した分子について予想される値に設定された)、および金属線間の距離であった。概算される金属線の距離は、トンネル現象の減衰定数および溶媒を通る(though)バックグラウンドトンネル電流から概算した値に設定された。
【0091】
理論と実験の量的な不一致(表3)は、特にdTの場合に大きいようである。しかし、溶媒が介在するトンネル現象を無視すると、おそらく、1個だけが官能基化され、上部の接触が溶媒を介している電極を用いて検出されるものと同等の重要なさらなる電流を無視することになる。この電流は、ここで計算される結合を介する値にバックグラウンドとして加えるべき、かなりの量の電流である。第2の誤差の原因は、おそらく、トンネルギャップに対する本願発明者らの概算によるものである。少し過剰に概算したことで(2.5のうち0.1nm)、伸長した水素結合の電子減衰定数が非常に大きいため、計算されるトンネル電流が顕著に低くなるだろう。M.H.Lee,O.F.Sankey、Phys.Rev.E79、051911 1(2009)。
【0092】
実施例3:トンネル現象の測定
本願発明者らは、デジタルオシロスコープを取り付けたPicoSPM走査型プローブ顕微鏡(Agilent、Chandler)でトンネル現象の測定を行った。プローブおよび金(111)基材の両方を4−メルカプト安息香酸で官能基化すると、TCB中のトンネルバックグラウンド信号は、バイアス0.5VでIblが10pAまで、コンダクタンス20pSの設定点電流で比較的ノイズがなかった(図2)。ヌクレオシド溶液を液体セルに入れ、その後、分極電流は、小さな値まで低下した。本願発明者らは、以前ノイズが少ないバックグラウンド信号を与えたトンネル電流レベルでプローブを再びつないだ。トンネル信号の中で、電流スパイクは、すぐに明らかであった(図15)。ヌクレオシドの表面濃度も、ギャップ内の分子捕捉効率もあらかじめわかっていなかったため、本願発明者らは、トンネルギャップ内でほぼ等しい「スパイク比率」を得るように、ヌクレオシド溶液の濃度を調節した(表3)。
【0093】
【表3】

【0094】
表3:Ibl=6pA、V=0.5Vで、官能基化されたトンネル接合部で測定されたコンダクタンスおよび計算されたコンダクタンス。測定された値は、3回の独立した試行の平均である(誤差は±lsd)。計算されたコンダクタンスは、図1A〜1Dで示される構造に関する。読み取り速度は、0.8〜4.3μMのヌクレオシド濃度で180秒間に得られた計測数に基づく。理論値と実験値の範囲の不一致は、ある電極に結合した分子内での溶媒が介在するトンネル現象によるバックグラウンドへの寄与を無視したことを反映していると思われる。絶対値は、ギャップの大きさの概算値が不正確であることによって影響を受けているだろう。
【0095】
「スパイク」の多くは、1個の分子がギャップ内に結合している場合および結合していない場合の2種類のレベルの「テレグラフノイズ」の特徴を示していた(S.Changら、Nanotechnology 20、075102(2009))(図内挿入図、図15)。STMサーボゲインは、最も長い持続時間をもつスパイクのみが、電流制御サーボの作用によって影響を受けるように設定された(図16)。
【0096】
本願発明者らは、スパイクの高さを分析するためのカスタムプログラムを用いて、ピーク電流の分布を作成した。このプログラムは、ベースラインのノイズよりも上にある2種類の標準偏差の信号を捕捉し、さらに、所定時間内で1点または2点だけのデータを除外した(すなわち、持続時間が40μsまで)。測定した分布のフィルタリングパラメータを選択する効果を図17および図27〜28に示す。図3は、これらの測定した分布が、電極の官能基化によってどのように影響を受けるかを示す。未官能基化電極を用いて記録した分布を図3Aおよび図3Cに示す。未官能基化電極を用いた信号を記録するために、本願発明者らは、20pSのコンダクタンスで操作することによって、トンネルギャップを少し減らさなければならなかった。この小さなギャップでさえ、未官能基化電極を用いたピリミジンヌクレオシドの読み取りは、プリンヌクレオシドの読み取りよりもかなり少なかった(図18、表2)。測定された電流分布は、図18〜20に示されるように、電流の対数値のGaussian分布に非常によく当てはまった(実線)。当てはめられたピーク電流は、これら2種類のヌクレオシドで異なっていた(dAの場合、15.9±0.4PA、dGの場合、18.7±0.2PA)が、その差(2.8pA)は、高電流側での分布幅(約15pA)よりも小さい。官能基化された基材および未官能基化金プローブを用いて、ギャップを大きくして(12pSに対応)測定を繰り返すと、測定した電流の分布は、1桁狭くなる(図3B−dA)(図3D−dG)が、ピーク電流に有意な差はない。スパイクの継続時間の分布は、未官能基化電極と、片方が官能基化された電極とでよく似ている(図29)。したがって、未官能基化電極を用いて観察されたスパイクは、ヌクレオシドが一時的に結合した状態にも対応しているようである。この場合、官能基化された電極を用いて観察される分布が狭いことは、トンネルギャップ内で結合状態をもつ種類の数が減った結果に相違ない。プローブおよび基材の両方が官能基化されている場合(図3E−dA、図3G−dG)、dAのピーク電流は、明らかにdGのピーク電流よりも大きい。このような明確に区別される信号は、両電極が官能基化されているときに作られ得るが、この信号は単一のヌクレオシドに由来するものであろうか?「テレグラフノイズ」信号は、1個の分子の読み取りに特徴的であり、小さなピークは、2分子の読み取りに割り当てられ(図3B、図3D、図3E、図3Gの「2」)、所定の時間に1個よりも多い分子の読み取りが頻繁ではないことを示唆している。しかし、電気化学的なリーク電流によって、ヌクレオシドに依存する電流誤差が入り込んでしまい、そのため、測定される電流は、1個の分子の電流のみから作られるものではない場合があり得る。トンネル現象の読み取りの忠実度のよりよい試験は、電気化学的バックグラウンドに起因する任意の誤差が両信号群に存在するような2種類のヌクレオシド混合物を用いて行うことができる。図3Fは、dAおよびdGの混合物を用いて得られる電流分布を示す。高い方の電流ピークが、本質的にdA単独のときに記録される電流と同じであるため、この混合物のdA分子を計測しているはずである。この割り当ては、溶液中のdAの濃度を半分にすることによって確認される(図3H)。表面濃度は、あらかじめわかっておらず、表面結合部位に対するヌクレオシド間の競争、溶液中に戻る異なる解離速度に依存しているため、絶対的な信号の比率は、定量的な濃度の観点で解釈することはできない。このパネルのデータのほとんどは、読み取りの5%のみを用いた1分子の読み取りが、ギャップ内のdAおよびdGを同時に読み取った場合と一致すると想定するとよく当てはまる(「dA+dG」、図3F)。
【0097】
dCおよびdTの場合にも、同じ種類の特徴が観察される(図5および図29)が、未官能基化ギャップおよび未官能基化基材のデータは、(小さな)ピリミジンヌクレオシドについて有意な数の読み取り数を得るためには、もっと大きなトンネル電流(20pA、40pSに対応する)で集めなければならなかった(図19)。また、dCとdTは、官能基化されたプローブを用いて読み取る場合、混合サンプル中で明確に分離される(図5Cおよび図21)。
【0098】
所与のバイアスで、ピーク電流の絶対値は、ギャップのベースラインコンダクタンスに正比例し(図7A)、すなわち、大きなトンネルギャップの中にある他の水素結合した系で報告されているのと同様に、ギャップが小さくなるにつれて、指数関数的に増加する(S.Changら、Nanotechnology 20、075102(2009))。本願発明者らは、ピーク電流が、ギャップの大きさが固定された状態で、バイアス(すなわち、ギャップコンダクタンス)に依存するという興味深い証拠を発見し(図22)、このことは、電流−電圧が、両電極に結合した分子に非線形に依存する可能性を示している。また、ギャップが狭くなるにつれて読み取りの頻度も増えた(図24)。一方、多分子の読み取りの割合は、ギャップを小さくするとすばやく増加し(図7Aおよび図25)、そのため、0.5Vのバイアスでベースラインコンダクタンスは12pSが最適値であると思われる。
【0099】
bl=6pA、V=0.5Vで測定したピーク電流の値を図7Bの斜線付のバーによってまとめている。これらは、4種類それぞれのヌクレオシドについて、3回の異なる試行の結果である(ひとつは、サンプル調製からデータ分析まで異なるチームによって行った)。それぞれのヌクレオシドのピークを、分布幅に匹敵する量によって分離し、2箇所の「良好な」接点を用いての1分子の読み取りである割合から、p≧0.6で塩基を特定することができる(図26)。
【0100】
また、本願発明者らは、官能基化された基材と、未官能基化Auを用いたプローブのデータ(濃い陰影のバー)、または未官能基化Ptを用いたプローブのデータ(淡い陰影のバー)を記録した。ピーク電流は、ヌクレオシドごとにほとんど変わらず、未官能基化接点に関連する抵抗Rについて予想された結果であった(X.D.Cuiら、Science 294、571(2001))が、選択性がないことは、接点の抵抗だけでは説明することができない。本願発明者らは、2個の官能基化されたプローブを用いた読み取りが、1個の分子に関する抵抗Rを決定づけると推定する場合、片方が未官能基化電極である接合部の抵抗は、R=R+Rによって与えられるはずである。図7Bは、片方に未官能基化金電極を用いた信号は、分子の抵抗に対し感受性がないことを示しており、一方、未官能基化Pt電極は、単純な「直列抵抗」モデルで予想される感受性の約半分であり、おそらく、電極に対する結合様式が、分子状態の位置に影響を及ぼしていることを反映している(V.Meunier、P.S.Krstic、J.Chem.Phys.128、041103(2008)。
【0101】
12pSのコンダクタンスで、本願発明者らは、G=Gexp(−βx)(式中、Gは、コンダクタンスの量であり(77μS)、β=6.4nm−1である)を用いて、ギャップが約2.5nmであると概算する(J.He、L.Lin、P.Zhang、S.M.Lindsay、Nano Letters 7、3854(2007))。図1A〜Dは、両電極が官能基化されているギャップ内で4種類のヌクレオシドについてもっとも可能性が高い水素結合であると考える構造(エネルギーが一番低いもの)を示している。本願発明者らは、これら4種類の分子の接合部のコンダクダンスおよび予想されるコンダクタンスの密度機能関数計算を行い、以下の表3に、測定値を列挙している。コンダクタンスの予想される桁数は、実験値と一致しているが、絶対値はかなり小さく、これはもしかすると、トンネルギャップの大きさを大きく概算してしまっているためかもしれない。dTの持続時間のデータ(図29)は、両電極が官能基化されている場合でもほとんど変化を示さず、そのため、dTのスパイクは、ある電極での溶媒が介在するトンネル現象を表しているだろう。溶媒分子はシミュレーションには含まれていないため、このさらなるトンネル現象への寄与は、予想には存在しない。したがって、それぞれの予想された電流に、一定のバックグラウンドを加えるべきであり、予想された電流と測定された電流の範囲の食い違いが減るだろう。
【0102】
実施例4:4−メルカプトベンズアミドの合成
以下のスキームにしたがって、4−メルカプトベンズアミドの合成をおこなった。
【0103】
【化9】

【0104】
4.1 材料および方法
プロトンNMR(1H)スペクトルをVarian 400MHz分光計で400MHzで記録するか、またはVarian 500MHz分光計で500MHzで記録し、炭素NMR(13C)スペクトルを、Varian 400MHz分光計で100MHzで記録するか、または、Varian 500MHz分光計で125MHzで記録した。HRMSスペクトルを、大気圧化学イオン化(APCI)技術を用いて得た。フラッシュクロマトグラフィーは、CombiFlash Rf(Teledyne Isco,Inc.)で実施した。全ての試薬は、他の記述がされていない場合には、Aldrichから購入した。
【0105】
4.2 工程1:4−トリチルメルカプト安息香酸
4−メルカプト安息香酸(1.54g、10mmol)および塩化トリチル(2.79g、10mmol)をDMF(25mL)に溶解し、周囲温度で36時間撹拌した。減圧下で溶媒を除去した。残渣をクロロホルム(50mL)に溶解し、水で洗浄した(25mL×3回)。有機層をMgSO4で乾燥し、濾過し、濃縮した。化合物1を白色固体として得た(3.20g、81%)。
1H NMR (500 MHz, CDCl3): 7.67 (d, 2H), 7.21‐7.39 (m, 15 H), 6.99 (d, 2H).
4.3 工程2:4−トリチルメルカプトベンズアミド
化合物1(198mg、0.5mmol)、1−ヒドロキシ−ベンゾトリアゾール(HOBt)(68mg、0.5mmol)、1,3−ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)(103mg、0.5mmol)のTHF(5mL)溶液に、0℃でアンモニア(ジオキサン中0.5M、1mmol)を滴加した。得られた混合物を室温まで加温し、24時間撹拌した。濾過した後、濾液を飽和NaHCO3水溶液で洗浄した。有機層をMgSO4で乾燥し、濾過し、濃縮した。残渣をフラッシュクロマトグラフィー(シリカゲル、ジクロロメタン:メタノールの勾配が100:0から100:3)で精製し、化合物2を白色固体として得た(154mg、78%)。
1H NMR (400 MHz, CDCl3): 6.98‐7.43 (m, 19 H), 5.95 (brs, 1H), 5.75 (br s, 1H);
HRMS(APCI+):実測値396.1442;C26H22NOS+Hとして計算値396.1422。
【0106】
4.4 工程3:4−メルカプトベンズアミド
化合物2(60mg、0.15mmol)を、トリフルオロ酢酸(TFA)(2mL)とトリエチルシラン(TES)(2mL)の混合物に溶解し、室温で2時間撹拌した。この溶液を減圧下、ロータリーエバポレーターで乾燥するまで蒸発させた。残渣をヘキサンとジクロロメタンの混合物(v:v=1:1)から結晶化させ、化合物3を白色固体として得た(12mg、52%)。
1H NMR (500 MHz, CDCl3): 7.68 (d, 2H), 7.31 (d, 2H), 6.50 (br s, 1H), 6.29 (br s, 1H), 3.61 (s, 1H); 13C NMR (125 MHz, CDCl3): 169.9, 138.0, 129.4, 128.5, 128.2.
4 HRMS(APCI+):実測値154.0326;C7H7NOS+Hとして計算値154.0326。
【0107】
実施例5:電極の製造、官能基化、特性決定
5.1 電極の製造
HClおよびエタノールの混合物(体積比1:1)を用い、金のワイヤ(Aesar 純度99.999%)から電気化学的に金の先端をエッチングした。絶縁プロセスのために、鋭い先端のみを選択した(倍率300倍の光学顕微鏡で判断)。高密度ポリエチレン(HDPE)を絶縁体として用いた。絶縁の前に、金の先端をpiranha(過酸化酸素と硫酸の混合物、体積比が1対3−注意−この物質は、有機物質と反応して爆発することがある)で1分間洗浄し、有機汚染物質を除去し、2回蒸留した蒸留水、エタノールですすぎ、圧縮窒素ガスを吹きかけて乾燥させた。絶縁の間、自家製の先端コーティング装置で、HDPEを250℃で溶融させた。溶融したHDPEを通って浸透し、絶縁性材料を含む先端のほとんどの領域を覆い、頂部のみを絶縁しないままにしておいた。絶縁した先端の露出した表面領域を、フェリシアン化カリウム中、サイクリックボルタンメトリーで特性決定した。絶縁した先端および絶縁していない先端をサイクリックボルタンメトリーで試験した。絶縁した先端は、整合性が高く、規則的な電極を与えた。図30および図31は、これらの結果を示す。図30は、50mMのフェリシアン化カリウム中、未官能基化金のワイヤのサイクリックボルタンメトリーを示す(電位 対 Agワイヤ)。図31は、HDPEでコーティングされたSTM先端のサイクリックボルタンメトリーを示す。半球状に露出した先端形状であると推定し、式Imax=2πRnFCDを用いると、コーティングされた走査プローブの典型的な露出表面積は、10〜2μm程度である。
【0108】
5.2 官能基化
金の基材を水素炎でアニーリングし、汚染物質を除去し、十分に規則的なAu表面を作成した。実施例4にしたがって調製した4−メルカプトベンズアミドをメタノールに溶解し(1mM)、チオールの酸化を防ぐためにアルゴンを用いて脱気した。絶縁された先端が処理された基材をこの溶液に2時間より長い時間浸した。その結果、表面にベンズアミドの単層が生成された。官能基化の時間を長くすると、プローブの上の絶縁体が分解するので、プローブの処理は2時間までに制限した。金基材の官能基化は、20時間までにわたって行った。
【0109】
堆積させた後の分子SAMの厚みを、偏光解析法(Gaertner、Skokie、IL)を用い、波長632.8nmで、入射角を70°にして測定した。新しく水素炎で熱した未官能基化金基材(マイカの上に厚み200nm)の光学定数は、分子を堆積させる前に測定し、n=0.2およびk=−3.53を得た。SAMの光学定数をnf=1.45およびkf=0に設定した。4−メルカプトベンズアミド単層の厚みは、0.70±0.17nmであると測定された。
【0110】
Thermo Nicolet 6700 FTIR(Thermo Fisher Scientific,MA)にSmart Apertured Grazing Angle部品を取り付け、SAMの赤外線吸収スペクトルを記録した。粉末サンプルのスペクトルを、Smart Orbit(diamond single−bounce ATR部品)を用いて得た。図32は、4−メルカプトベンズアミド単層のFTIRスペクトル(下側の線)および粉末のFTIRスペクトル(上側の線)を示す。単層のIRで、3487cm−1、1610cm−1、1404cm−1の吸収ピークは、それぞれ、解離性のNH2(水素結合していない)のN−H伸縮振動、アミドバンドI、アミドバンドIIであると帰属される。
【0111】
偏光解析データは、ほとんど完全に単層で覆われていることを示唆しているが、STM画像(図33)は、途切れ途切れに覆われていることを示していた。この紙で記録される読み取り速度は、官能基化されている断片の上に位置しているプローブを用いて行われる読み取りである。図33で、STM画像は、Au(111)表面の上にメルカプトベンズアミドの島があることを示している(1mM PBバッファ中、金の先端を含む画像、10pAの設定点で先端に0.5ボルトのバイアス)。
【0112】
5.3 電極の撮像
光学顕微鏡画像および透過型電子顕微鏡(TEM)画像によって電極の特性を決定した。図34a〜cは、未官能基化電極を示しており、図34d〜fは、ポリエチレンでコーティングされた先端を示す。図34aは、典型的な「良好な」先端の光学顕微鏡画像を示す。この先端を、図34b〜cに示されるように、透過型電子顕微鏡(TEM)でさらに特性決定した。この場合、先端の半径は約16nmである(図34c)。TEM撮像中に、炭素層(金の先端を覆う白色の層)を堆積させた。点線の円弧は、半径が16nmである。測定された半径は、典型的には、5〜20nmの範囲にわたっていた。先端の表面は、通常は滑らかであるが、時には、隆起(高さが1〜2nm)が観察される。一見したところでは、このような「丸い」プローブから1分子解像度を得ることができることは驚くべきことであるが、表面への分子の吸着によって、1分子解像度を可能にする局所的に高い点が作られる(AFMプローブで官能基化された分子内構造の解像度によって示されるよりも良好である)。
【0113】
典型的な絶縁された先端の光学顕微鏡画像を図34dに示す。この先端は、リーク電流を示さず(約1pAの測定限界未満)、実験では約8pA(ピーク/ピーク値、すなわち、ベースラインから4pA上)の120Hzノイズを示した。同じ先端のTEM画像を図34d〜fに示す。図34e〜fの矢印は、露出した金を示している(コーティングが帯電するため、高解像度の撮像は可能ではない)。
【0114】
実施例6:トンネルギャップの特性決定
6.1 水およびバッファ
実施例5に記載したような電極を含むトンネルギャップを、2回蒸留した水および0.1mMリン酸バッファ(PB−pH=7.4)を用いて特性決定した。未官能基化電極を用い、バッファ単独で小さな信号を観察したが、両電極が官能基化されており、トンネルギャップのコンダクタンスを20pS以下に設定した場合には、小さな信号はかなり少なくなった。図55を参照。トンネル現象の減衰は、官能基化された両電極を用いると、水単独の場合(減衰定数βは約6.1±0.7nm−1)よりもきわめて速かった(β=14.2±3.2nm−1)。以下の実施例6.2を参照。i=10pAおよびV=+0.5Vでのトンネルギャップは、2個のベンズアミド分子の長さよりも少し長いと概算される。(すなわち、2nmよりも少し大きい)。
【0115】
6.2 水のバックグラウンド信号
0.5Vでギャップの大きさを20pSにし、2回蒸留した水の中で、官能基化された基材の上に未官能基化電極を備えるコントロール実験を行い、小さな振幅のバックグラウンドテレグラフノイズ信号を得る(バイアス0.5Vでほぼ6pA−図35)。しかし、官能基化された基材の上に官能基化された先端を備えている場合、一般的にこのような信号は観察されない(偶発的な信号の観察は、先端または基材の表面が4−メルカプトベンズアミドで完全に覆われていないことに由来するだろう)。これらのバックグラウンド信号は、大きさが小さく、DNA信号よりも頻度が少ないため、データ分析中に閾値によって除外することができる。
【0116】
6.3 トンネル現象の減衰曲線
2回蒸留した水の中で、官能基化された電極および官能基化されていない電極を組み合わせ、減衰曲線を測定した。Ln(I)対距離のプロット(図36)を線形に割り当てた傾きから減衰定数(β)を算出した。図36は、純粋なH2O中トンネル電流の減衰曲線を示す(それぞれの場合に、複数の曲線がプロットされている)。図36aは、未官能基化金電極を示す。図36bは、両方ともが官能基化された電極を示す。図36cは、一方が未官能基化電極であり、他方が官能基化された電極を示す。官能基化された電極について、大きな距離でβの有意な増加が検出され、このことは、ギャップ組成の変化を示しており、本願発明者らは、ベンズアミドが相互作用する領域から、ベンズアミドが相互作用しない領域への遷移であると考える。βの測定値の分布を図37に示す。図37は、(a)未官能基化金電極;(b)両方ともがメルカプトベンズアミドで官能基化された電極;(c)片方の電極が官能基化されており、他方が官能基化されていない電極について、純水中のβのヒストグラムを示す。Gaussianへの当てはめ(平均±SD)によって、(a)6.11±0.68nm−1、(b)14.16±3.20nm−1、(c)6.84±0.92nm−1が得られた。
【0117】
実施例7:トンネルギャップ内のDNAヌクレオチドを分析
DNAヌクレオチド(PB中、10μM)を、水系電解溶液中、実施例5に記載した電極を用いて作成したトンネルギャップに入れた。これらのヌクレオチドからは、図56c〜fに示すように特徴的なノイズのスパイクがみられた。信号計測率(図57に定義されている)は、25計測数/s(5−メチル−デオキシシチジン 5’−モノホスフェート、dmCMP)から、1c/s未満(デオキシシチジン 5’−モノホスフェート、dCMP)までかなり変動していた。チミジン 5’−モノホスフェート(dTMP)を用いた場合は、信号は全く記録されず、その信号は、コントロールと非常によく似ていた(図55)。STM画像は、このヌクレオチドが表面(多分プローブ)に非常に強く結合しており、1個の分子が接合部に広がり、相互作用を遮断していることを示唆している。
【0118】
電流はいきなりスパイクし(もっと長い信号はその後に示され)、スパイクの高さの分布は、図56g〜jに示されるように、対数値の2種類のGaussian分布に非常によく当てはまった(当てはめパラメータは、以下の実施例8に記載されている)。これらのヒストグラムは、局所的なノイズバックグラウンドのSDの1.5倍を超えるパルスのみ(すなわち、典型的には、6pAより大きいパルス)を計測することによって作成された(この分析手順の完全な記載は、Changらによって与えられている)。
【0119】
dCMPは、最も高い信号を発生し、最も計測率が低く、一方、デオキシアデノシン 5’−モノホスフェート(dAMP)およびdmCMPは、最も小さな信号を生成し、計測率が最も高かった。以下の実施例9に記載されているように、有機溶剤中のシチジンと5−メチルシチジンには、ほとんど違いがなかった。パルスの高さ分布が狭い3種類の塩基(dAMP、dmCMP、GMP)は、2つのレベル間を変動する供給源の特徴である「テレグラフノイズ」の急激な発生を示すことが多い(特に、dAMPの場合に顕著)。このような2レベルの分布は、トンネル信号が、トンネル接合部に捕捉された1個の分子によって作られていることを強く示す。ヌクレオチドから生じるトンネル現象のノイズの特徴を表4にまとめている。
【0120】
表4:ヌクレオチドトンネル現象のノイズの特徴。パラメータは図57に定義されている。
【0121】
【表4−1】

【0122】
*指数関数的な分布に合わせたときの誤差。§標準誤差
スパイクの振幅およびその信号の時間分布において、dAMP信号は、dCMP信号とよく分離しており、dmCMP信号は、dCMP信号とよく分離している(表4および以下に記載)。この理由のために、A、CおよびmC塩基で構成されるDNAオリゴマーを以下の実施例11でさらに観察した。
【0123】
実施例8:電流分布に対するGaussianの当てはめ
実施例7のデータから作成したピークを、トンネル電流の対数値でGaussian分布に当てはめ、トンネル形状のランダムな分布を推定するモデルを対数的にサンプリングする。水中のこのデータについて、2つのピークが必要であり、これは2つの結合形状を暗示している。
【0124】
【化10】

【0125】
式S1
当てはめパラメータを表S1に列挙している。
【0126】

表S1.強度分布の当てはめパラメータ
【0127】
【表4−2】

【0128】
実施例9:有機溶媒中のシチジンおよび5メチルシチジンの電流分布
実施例4〜5にしたがい、電極と4−メルカプトベンズアミド読み取り部を用い、有機溶媒中で測定したmCのデータが本実施例に含まれており、2種類の塩基からの信号が有機溶媒中で大きく重なっていることが示され、これは、この作業で、CおよびmeCから異なる信号を作るときに水分子が所定の役割を果たすことを示す。図40は、トリクロロベンゼン溶媒中、安息香酸読み取り部を用い、シチジンについて測定した電流分布(黒色)および5meシチジンについて測定した電流分布(斜線)を示す。
【0129】
実施例10:ヘテロポリマー内の1個の塩基を分析
10.1 ヘテロポリマー内の1個の塩基を読み取る
2個の電極、プローブ、上の実施例4〜5に記載されているような4−メルカプトベンズアミドで両方ともが官能基化されている基材を用い、d(CCACC)オリゴマーを分析した。電流の特徴的なバーストが観察され、その例を図54bに示す(「」が書かれているスパイクは、非特異的であり、分析から外されている)。バックグラウンドトンネル電流は10pAであり、バイアスは+0.5Vである。以下に示されるように、頻度が低く、振幅の大きなパルスはCで示し、一方、頻度が高く、振幅が小さいパルスはAで示している。図54cは、スパイクの振幅の移動平均を示す(0.25sのウインドウ、0.125sのステップ)。直線より下にある値は、明らかにA塩基を特定している。図54dは、パルス周波数の移動平均を示し(スパイクの隣接するそれぞれの対に対して定義されるような)、それぞれの末端の周波数が低い領域は、これらの領域をC塩基に帰属することができるという信頼性を高めている。C塩基は、0.015nAより小さい無視できる数のスパイクを作成する(赤色の線)。AまたはCに帰属する確率を図54eに示す。これらの確率の計算は、本明細書に記載されているようなヌクレオチド、ホモポリマー、ヘテロポリマーの研究に基づく。この実施例は、明らかに、無傷のDNA分子中でC塩基によってフランキングされた場合、1個のA塩基を高い信頼性で特定することができることを示す。
【0130】
10.2 ヌクレオチドについてバーストを示す電流トレース、およびd(CCACC)について長時間のトレース
図38は、d(CCACC)で覆われた表面をプローブが動くにつれて、10秒間に生成したトンネルノイズのサンプルを示す。図39は、それぞれのヌクレオチドからの信号の典型的な「バースト」を示す。図38で、d(CCACC)について典型的な10秒間の時間トレースを示す。A信号が優勢であることを注記しておく。電流スパイクの分布(図内挿入図)は、ほとんど完全に「A」信号が優勢であり、この当てはめでのC要素(小さな箱の曲線を参照)は、7%以下である。このことは、プローブは、少量のA塩基に結合した状態で多くの時間を過ごしていることを示す。図39には、データの典型的なバーストを示すヌクレオチドの長時間トレースが存在する。これらの例は、それぞれ、電流がスパイクしない領域で囲まれている。
【0131】
実施例11:4−メルカプトベンズアミドで官能基化された電極を用いたDNAオリゴマーの分析
図58a、c、eは、d(A)5、d(C)5、d(mC)5について、代表的なトンネルノイズトレースを示し、図58b、dおよびfには、対応する電流ピーク分布が示されている。図58b(d(A)5)と図56g(dAMP)、図58d(d(C)5)と図56h(dCMP)、図58f(d(mC)5)と図56i(dmCMP)を比較し、驚くべきことに、トンネル接合部でのほとんどのポリマー結合事象は、単一のヌクレオチドによって作られた信号に似た信号を作ることが示されている。この知見から、(1)単一の塩基が読み取られており、(2)ポリマー骨格に起因する立体障害は、塩基結合事象が信号を抑えることを抑制しないことが示される。
【0132】
ヌクレオチドの信号とオリゴマーの信号にはある程度の(小さな)違いがあり、違いは以下である。(1)ピークの位置、幅、相対強度がある程度変化する。(2)ヌクレオチドによって作られるほぼ全ての信号は、0.5Vのバイアスで0.1nA未満である(表4)。対照的に、d(A)5およびd(mC)5によって作られる合計信号の20%は、このバイアスで0.1nAより大きい(表5(以下に記載される)、このことは、0.1nAまでしか分布がプロットされていない図56G〜Jからは明らかではない)。d(A)5およびd(C)5のこれらの高電流(>0.1nA)の特徴が連続的に分布しており、そのため、所定の時間に1個よりも多い塩基が並行して読み込まれていることをあらわさない(電流は、1個の分子の値の多くの値に分布しているだろう)。むしろ、この特徴は、トンネルギャップ内にポリマー構造が存在することと関連する新しい特徴である。このような非特異的で振幅の大きなスパイクは、図54bではアステリスクで示されている。
【0133】
I>0.1nAでの特徴は、混合配列のオリゴマーではあまり頻繁に起こらないようであり、このことは、ホモポリマーの塩基のスタッキングに関連するものであることを示唆している。図58hは、d(ACACA)の電流分布を示し、事象の95%が0.1nA未満である。図58jは、d(CmCCmCC)の電流分布を示し、事象の99%が0.1nA未満である。赤い実線は、スケールは別として、たった1個の当てはめパラメータをもつ構成要素に対応するホモポリマーを測定した分布の合計である。このパラメータは、比率rfitであり、A/Cの比率(rfit=0.48)またはmC/Cの比率(rfit=0.66)が寄与している。これらの値は、既知の組成物の比率とは異なっているが(ACACAの場合0.6、CmCCmCCの場合0.4)、驚くべきことに、dCMP単独の場合のスパイクの比率は非常に小さく、Cは、混合配列のオリゴマーデータで非常に十分にあらわされていると考えられる。このことは、Aに囲まれているCは、頻繁に読み取られることを示唆しており、ひょっとすると、これはCを含有するオリゴマーが、単離されたdCMPよりも基材に良好に結合するからであろう。
【0134】
重要なことに、混合したオリゴマーは、個々の塩基信号の合計として記載されているよりも大きい信号を作り出す(ある中間電流の読み取りには、図58hおよび58jで「1」と書かれており、さらなる少数の電流が高い特徴は「2」と書かれており、配列の内容が果たす役割は小さいことを示している)。
【0135】
これらの実験では、プローブはサンプルの上をランダムに動き回るため、配列は、決定論的に「読み取られる」のではない。それにもかかわらず、信号が「Aのような」信号と「Cのような」信号とが交互にあらわれるトレース(図58g)と、「mCのような」信号と「Cのような」信号とが交互にあらわれるトレース(図58i)は簡単に発見されるだろう。これらの信号の「バースト」の持続時間(実施例11の図57を参照)は、長い(ACACAで0.14±0.02s、CmCCmCCで0.15±0.02s)。同様のバーストがホモポリマー(表5)およびヌクレオチド(表4)でもみられる。
【0136】
表5:オリゴマーのトンネルノイズの特徴。パラメータは図57に定義される。
【0137】
【表5】

【0138】
*指数関数的な分布に合わせたときの誤差。§標準誤差
これにより、別の予想外の知見が導かれる。つまり、トンネルギャップ内で結合した複合体の寿命は、ノイズスパイク(ms)間の間隔または溶液中の結合状態の寿命(非常に短い)と比較して、非常に長い(第2のフラクション)ことである。
【0139】
実施例12:実施例11のtonおよびtoffの分布
継続時間が0.1ms未満の電流スパイクは、電流−電圧変換器のゆっくりとした(10kHz)応答によってゆがみ、一方、継続期間が数msよりも長いパルスは、トンネルギャップを維持するために用いられたフィードバックによって影響を受ける。tonの分布は、モノマーについて図41に示し、オリゴマーについて図42に示す。toffの分布は、モノマーについて図43に示し、オリゴマーについて図44に示す。実線は、指数関数的な減衰に当てはまり、
【0140】
【化11】

【0141】
τonおよびτoffの値は、表4および表5に列挙されている。
【0142】
図41は、dGMP、dCMP、dAMP、dmCMPについて、オン時間の分布を示す。実線は、指数関数的に当てはめられている(上側から、1番目の線はGMPであり、2番目の線はCMPであり、3番目の線はAMPであり、4番目の線は5meCである)。図42は、d(C)5、d(A)5、d(mC)5について、オン時間の分布を示す。実線は、指数関数的に当てはめられている(上側から、1番目の線はCCCCであり、2番目の線はAAAであり、3番目の線は5mCCCである)。モノマーと比べ、分布はあまりよく分離されない。図43は、dGMP、dCMP、dAMP、dmCMPについて、オフ時間の分布を示す。実線は、指数関数的に当てはめられている(上側から、1番目の線はCMPであり、2番目の線はGMPであり、3番目の線は5meCであり、4番目の線はAMPである)。図44は、d(C)、d(A)、d(mCMP)について、オフ時間の分布を示す。実線は、指数関数的に当てはめられている(上側から、1番目の線はAAAAAであり、2番目の線は5mCCCCであり、3番目の線はCCCである)。この場合も、モノマーと比べ、分布はあまりよく分離されない。
【0143】
実施例13:複合体の長い寿命を試験
実施例4〜5にしたがって調製されたナノスケールのギャップに限定された4−メルカプトベンズアミド−塩基(base)−4−メルカプトベンズアミド複合体の予想外の長い寿命について、動的分子間力分光法を独立した試験として用いた。これらの測定では(図59a)、認識分子のひとつが、34nmの長いポリエチレングリコール(PEG)リンカーを介してAFMプローブに結合し、一方、もう片方の認識分子は、Au(111)基材の上に単層を作成した。dAMPを標的検体として用い、ギャップを架橋した。dAMPが存在しない状態で、プローブと基材との接着はきわめて小さく、これはおそらく、ベンズアミド認識分子の上にある水素結合部位に、水分子が安定に結合しているからであった。少量のdAMPが存在する状態で接着特性を観察し、dAMPの濃度が上がるにつれて接着特性は低下した(プローブおよび基材の両方のdAMPが結合した)。PEG連結部が延びると、特徴的な信号が作られ、複数の結合事象(図59b(i))を1分子の事象(図59b(ii))と分離することができ、その結果、1分子の結合破壊事象のみを分析した。引張速度の関数として1分子の結合破壊力を図59cにまとめており(実線は、異種結合モデルに対し、最大限あり得そうな当てはめであり)、結合破壊力の関数として、結合が生き残る確率を図59dに示す。実線は、同じ異種結合モデルに対する当てはめである。これにより、力がゼロの状態でのオフ速度が得られる。
【0144】
【化12】

【0145】
したがって、この複合体の本来の(力がゼロの)寿命は、数秒程度の桁数であり、数ミリ秒程度の桁数ではない。この分析によって、解離させるための遷移状態に対する距離α=0.78nm(およびその変数分散であるσ=0.19nm)も得られる。kHzの速度でトンネル信号を作り出しつつ、かなりの第2のフラクションのためのトンネル接合部にそれぞれの塩基が存在すると結論づけられた。したがって、1回のバースト(バーストの継続時間は表4および表5に列挙されている)で生じる信号の完全な集合体を用い、塩基を特性決定してもよい。
【0146】
電子署名において迅速に変動することに伴う長時間の結合状態の寿命は、STM画像で以前に報告されており、カーボンナノチューブ中の移動に対する1分子反応の影響が報告されている。このノイズの由来はよくわかっておらず、非常に温度感受性が高いと思われる場合を除き、ノイズを生じる運動に対する小さなエネルギー障壁の指標である。「オン」時間および「オフ」時間の分布を分析した(図57を参照)。限定された時間範囲で、片方の末端で増幅器の応答によって決定され、他端でサーボ応答時間によって決定され、これらの分布は、指数関数的であり(ポアソンの由来について予想されるとおり)、l/e時間(τonおよびτoff)を表4および表5に列挙している。これらはそれほど異なってはおらず、オン状態とオフ状態の間のエネルギー差ΔGを算出し、
【0147】
【化13】

【0148】
表4および表5に列挙される値を得る(熱エネルギーの単位では、300KでkT)。これらの値はすべてkTの一部である。したがって、「スイッチング」は、かなりの量の障壁を超える熱による活性化をあらわすことができない(2つのレベルのノイズの通常の供給源)。ある可能な説明は、指数関数的に感受性であるマトリックス要素によってサンプリングされた結合状態におけるブラウン運動である。
【0149】
「オン」および「オフ」の時間は、非常に広範囲に分布するため、塩基信号を特定するのにそれほど有用ではない。しかし、バーストに入る頻度(表4および表5のf)は、かなり単純なパラメータである。図49および図50は、3種類のホモポリマーの電流分布および周波数分布を示し、それぞれの曲線の下にある領域がひとまとまりになるように正規化する。d(mC)5の周波数分布は二峰性であり、mCMP単独の場合、「C」の周波数範囲に多くの読み取りが存在し、非常に速い速度での数(約1300Hz)が観察された(図でf(mCMP)と書かれている)。このことは、mCの結合態様が、ポリマーの状況において顕著に変わることを示唆しており(ヌクレオチド信号と比較した場合、ポリマー信号が大きくシフトすることと一致する、図58f)、そのため、本願発明者らは、AおよびC、特に、以前分析されたd(CCACC)配列を含むオリゴマーを分析することを選択した。
【0150】
バーストのときに平均電流
【0151】
【化14】

【0152】
および周波数
【0153】
【化15】

【0154】
が与えられると、図52a〜bに示される分布
【0155】
【化16】

【0156】
は、塩基がAまたはCである確率を独立して決める。
【0157】
【化17】

【0158】
d(CCACC)の電流分布(図38の図内挿入図)は、ほぼ完全にAのスパイクの方が優位である(この当てはめのC分布の要素は、7%以下である)。これは驚くべき結果であるが、配列中のCが多いほど、Cスパイクの数が少なくなる。しかし、塩基がAによって切断されるとき、Cの読み取り頻度は高くなるという本願発明者らの仮説と一致している(例えば、dCMP 対 dAMPの計測速度と比較して、d(ACACA)でのCの読み取りが増加)。バースト信号に対する本願発明者らの分析を用い、混合信号の定量的な帰属を行ってもよい(これは、図58gおよび58iでは「目で」行った)。d(C)5は、0.015nAより小さな信号を作らず、そのため、このレベルより低い(しかし、ノイズよりも高い)電流のバーストは、明らかにAに帰属することができる。もっと振幅の大きな信号の場合、周波数および振幅のデータを両方とも使用した。結果は、図54eに示される曲線の対である。このアプローチを用いてDNAの配列を決定するには、いくつかのさらなる開発が必要である。第1に、ポリマーは、特に、読み取られるべきホモポリマーを移動させる場合、速度を制御した状態でトンネルの接合部を通って引っ張られなければならない。DNAは、官能基化されていないナノ細孔を非常に素早く通るので読み取ることができないため、官能基化されたトンネル接合部に塩基が長い時間滞留することが有用である。現時点で、ある部位から別の部位への移動は、制御されていない機械的な流れによって行われ、読み取り複合体に対し、未知の力が生じる。本願発明者らの力分光法データを用い、所与の読み取り速度を得るのに必要であろう「引っ張る」力を粗く概算することができる(全塩基の代表例であるdAMPの測定されたオフ速度を推定する)。Bell式は、力Fでのオフ速度を与え、
【0159】
【化18】

【0160】
式中、
【0161】
【化19】

【0162】
=0.28s−1であり、α=0.78nm、19pNであり、1秒あたり10塩基が通過するだろう。10塩基s−1の速度は、「C」の読み取りについて、合理的な信頼レベルで帰属を行うのに十分な、(平均で)約30のデータスパイクを与える。19pNの力は、ナノ細孔17にちょうど80mVのバイアスをかけることによって作りだすことができ、そのため、トンネル接合部あたり、1秒あたり10塩基の読み取り速度は実行可能であるようだ。
【0163】
実施例14:電流分布の高電流側のテーリング
図45は、d(A)について、4−メルカプトベンズアミドで官能基化された電極の0.1nA未満のスパイクの計測数の分布を示す。これらは、合計の約20%であり、dNTPまたはd(C5)では観察されない。図46は、d(mC)5について、0.1nA未満のスパイクの計測数の分布を示す。これらは、合計の約20%であり、dNTPまたはd(C5)では観察されない。
実施例15:金基材の上でのヌクレオシドモノホスフェートと4−メルカプトベンズアミドの相互作用および溶液中の結合状態の寿命のSPR概算
BI−2000 SPRシステム(Biosensing Instrument、Tempe、AZ)に、ポリアリールエーテルエーテルケトン(PEEK)セルブロックとポリジメチルシロキサン(PDMS)ガスケットとからなる2チャンネルフローセルを取り付け、表面プラズモン共鳴(SPR)センサーグラムを記録した。入射光の波長は635nmである。それぞれの実験の前に、エタノールと2回蒸留した水でフローセルを洗浄した。
【0164】
厚みが2nmのクロム膜と、厚みが47nmの金膜でBK7ガラスカバースライド(VWR#48366067)をスパッターコーター(Quorum Emitech Corporation、K675XD型)で連続してコーティングすることによって、SPRセンサーチップを製造した。金基材を脱イオン水、無水エタノールで洗浄し、窒素を吹き、次いで、使用前に水素炎でアニーリングした。1−メルカプトベンズアミドのエタノール溶液を、SPR装置の上に置かれた金の小片にシリアルチャネルモードを用いてオンライン注入することによってベンズアミドの単層を作成した。金表面に分子が結合すると、SPRの信号が増大し、最終的には、定常応答に達し、このことは、単層で最大限覆われたことを示す。4種類の天然に存在するヌクレオシド−5’−モノホスフェートと、ベンズアミド表面との相互作用は、SPR装置のシングルチャネルモードを用いて測定した。注入バルブを介して注入されたサンプル溶液は、ある経路を経由して流れ、PBSバッファ(pH7.4、10mM ホスフェート、150mM NaCl)は他の経路を経由して流れた。流速60μL min−1、PBSバッファ中、ヌクレオシドモノホスフェートの濃度が1mMの状態で測定を行った。
【0165】
業者から提供されるソフトウェアでデータ分析を行った。全てのデータセットを単純な1:1相互作用モデルに合わせた。
【0166】
このデータからはKoffが決まらないが、Kの値が非常に大きいこと(数mM)は、オフ速度が速いことを暗示している。例えば、Kon=10−1−1の(小さい)値であると推定すると、結合状態の寿命は、1mMのKから、Koff=Kon=103またはmsのタイムスケールが得られる。
【0167】
図47は、ベンズアミド表面(R:2−デオキシリボース 5−ホスフェートナトリウム塩、DNA塩基を含まない)と相互作用するヌクレオシド−5’−モノホスフェート(A、C、G、T、R)のSPRセンサーグラムを示す。赤い線は、1:1の結合事象を記述するようにモデリングされ、割り当てられた曲線である。表6は、1:1結合速度論分析から誘導される速度定数および解離定数を示す。
表6
【0168】
【表6】

【0169】
実施例16:力分光法で結合破壊を読み取る頻度
バッファが単独で存在する状態での相互作用を試験した後(図48a−1024回の引っ張りのうち、検出された接着事象のみを示す)、1μM dAMPを、4−メルカプトベンズアミドで官能基化された電極とともに構成される液体セルに加え、次いで、基材および先端を0.1mM PBで洗浄した数の関数として力曲線をひいた。データは、過剰なdAMPが除去されるにつれて最初は増加し、その後、すすぎを続けるにつれて減少していく(図48b〜e)。特定的には、図48は、(a)dAMPが存在しない状態でひいたコントロール曲線は、ベンズアミド分子との間に接着事象がほとんど示されず、これはおそらく、水によって遮断されているからであろう。dAMPを加えると、多くの接着事象が起こり、過剰量のdAMPが系から洗い流されるにつれて、増大していき(b,c)、すすぎを続けるにつれて、低下していく(d,e)ことを示している。
【0170】
実施例17:ノイズモデル
この実施例の目的は、塩基を特定するために用いられる信号の可能な起源について概略を説明することである。実施例13に示されるように、トンネル接合部の中で結合した複合体の元々の寿命は長く、数秒間程度である。そのため、電極またはプローブが、1秒あたり数塩基を読み取るように翻訳される場合、塩基は、一般的に、官能基化されている電極に隣接するすべての時間、結合している。msタイムスケールで繰り返される電流スパイクは何に由来するのか。実施例12で与えられる「オン」時間と「オフ」時間の分布を用い、「オン」状態と「オフ」状態のエネルギーの差を計算してもよい。この値を表5にΔGとして列挙している。これは、300Kで熱エネルギーの一部である(単位は300KでkTである)。したがって、スパイクは、分子が、別個の熱的に安定な一連の状態の間を飛び跳ねる結果であるはずはない。ここで、本願発明者らは、指数関数的な様式でサンプリングした場合、連続的なブラウン運動が「急激」であり得る可能性(すなわち、指数関数的に距離に感受性である、トンネル現象によって)を観察する。このモデルは、電流の対数値の指数関数的な分布の選択が基礎となっていることを注記しておく(実施例8の式S1)。ブラウン運動は、Gaussianの(すなわち、熱的な)ノイズによって動く1次元のランダムな動きでシュミレーションした。ある位置でのトンネル電流の読み出しの効果シュミレーションするために、この移動を累積した。以下のMatLabプログラムを使用した。
【0171】
【表7】

【0172】
可変性の「相関関係」は、ある工程の所定位置のどれだけ多くが次の工程に保持されるかを記述する。図49〜51で、種々の値のパラメータ「相関関係」のプロットを示す。観察されるノイズに似たノイズスパイクを得るために、1に近い値が必要であった。強度分布は、電流の対数値でGaussianと十分に当てはまり(すなわち、式S1)、スパイクの間の時間間隔は、指数関数的に割り振られた。図49〜51は、相関関係、Cの3つの値について、時間−工程に対し、シュミレーションした移動(上側の読み取り)、電流(下側の読み取り)を示している。
【0173】
実施例18:確率の計算
図52は、4−メルカプトベンズアミドで官能基化された電極を含むデバイス中、ホモポリマーから得られる信号の正規化された分布を示す。図52Aは、正規化された電流分布に当てはまる(左から右へ、1番目のピーク=mC、2番目のピーク=A、3番目のピーク=C)。図52Bは、信号のバーストにおいて、測定され、多項式に当てはめられ、正規化されたスパイクの頻度(fS−図57を参照)を示す(線は、約0.2=Aで始まっており、線は約0.65=Cで始まっており、線は約0.4=mCで始まる)。分布に対する当てはめを利用し、特定のノイズのバーストがAまたはCに由来する確率を割り当てた(平均的な電流および頻度が、交差点よりも上または下にある場合、「IAC」および「fAC」と書かれている)。CおよびmCの電流分布を分離した(クロスオーバー=「ImC」)が、頻度の分布は重なっている。
【0174】
【化20】

【0175】
の値を図52aから得た。0.015nA未満では、Cの場合、電流スパイクは本質的に存在しないため、0.015nAよりも小さな平均強度のバーストは、Aの読み取りであると帰属することができる。強度が0.015nAより大きいバーストの場合、本願発明者らは、図52bの正規化された分布から得た
【0176】
【化21】

【0177】
の値を使用し、以下の式
【0178】
【化22】

【0179】
からAの読み取りの確率を算出し、以下の式
【0180】
【化23】

【0181】
から、Cの読み取りの確率を算出する。
【0182】
実施例19:イミダゾール−2−カルボキサミドの合成
イミダゾール−2−カルボキサミドを電極に結合させるるのに、ω官能基化された短いアルキルが必要である。種々の4(5)−アルキル化イミダゾールが文献で報告されているか、または市販されているため、イミダゾール環上でアミド化することによってイミダゾール−2−カルボキサミドを合成する一般的な方法が開発された。以下のスキームに描かれているように、4(5)−(2−(ベンジルチオ)エチル)イミダゾール(1a)およびN−[2−(4−イミダゾリル)エチル]フタルイミド(1b)をそれぞれアミド化することによって、4(5)−(2−チオエチル)イミダゾール−2−カルボキサミド(5a)および4(5)−(2−アミノエチル)イミダゾール−2−カルボキサミド(5b)を合成した。チオールおよびアミンは、この分子を金属および/または炭素電極に結合させるための固定基として機能する。同じ様式で、4(5)−(tert−ブチルジメチルシリルオキシメチル)イミダゾール−2−カルボキサミド(5c)を4(5)−(tert−ブチルジメチルシリルオキシメチル)イミダゾール(1c)から合成し、有機溶媒中のNMR研究に用いた(以下参照)。
【0183】
【化24】

【0184】
これらのイミダゾール−2−カルボキサミドを合成する2種類の経路が探求された。イミダゾールの2位をギ酸エステル15またはシアノ基16で置換してもよく、これらは両方とも簡単にアミドに変換することができる。シアノ経路が本願発明者らに最もよい結果を与えることがわかった。第1に、化合物1a、1c、1bを、臭化ベンジルと反応させることによって、1H窒素保護された生成物(2a、2b、2c)に良好な収率で変換した。NMRによって、生成物はそれぞれ2種類の異性体の混合物であることを確認する。2a、2b、2cを1−シアノ−4−(ジメチルアミノ)ピリジニウムブロミド(CAP)で処理することによって、2a、2b、2cのイミダゾール環の2位にシアノ基を導入した。CPAは、ジメチルホルムアミド(DMF)中、0℃で等量の臭化シアンと4−(ジメチルアミノ)ピリジンとを混合することによって、系中で作成した。2.5倍のCAPを用いると最も良い収率が得られた。硫酸(20体積%)およびトリフルオロ酢酸(18体積%)中、加水分解することによって、3a、3b、3cのシアノ基をアミド(4a、4b、4c)にかなりの収率で変換した。本願発明者らは、過酸化水素存在下、塩基性条件で試験したが、望ましい生成物を得ることはできなかった。液体アンモニア中、ナトリウムを用いて保護基をはずすことによって、最終生成物である5a、5b、5cを得た。tert−ブチルジメチルシリルオキシメチル基が脱保護条件で安定であったことは、特に意味はない。望ましい化合物5cを良好な収率で分離した。
【0185】
実施例20:イミダゾール−2−カルボキシアミドで官能基化された電極を用いてDNAを分析
電極を調製し、イミダゾール−2−カルボキシアミドで官能基化した。トンネルギャップを固定した構成にし、6pA、0.5Vのベースライントンネル条件でデオキシ−ヌクレオチドを分析した。コントロール群には、ほぼ信号がみられなかった。図62Aおよび62Bは、C、A、T、C、Gの電流分布を示す。明らかなように、それぞれのヌクレオチドの電流の特徴は独特であり、したがって、イミダゾール−2−カルボキシアミドの試薬としての有効性を示している。
【0186】
実施例21:イミダゾール−2−カルボキシアミドで官能基化された電極を用いてDNAオリゴマーを分析
実施例20の電極を用い、いくつかのホモオリゴマーおよびヘテロオリゴマーを分析した。片方の電極は、図63に示されるようなギャップが一定の状態で電極表面の上で翻訳するような構成であった。典型的な翻訳速度は、約8.6nm/sであり、DNAが例えばナノ細孔を通って引っ張り出されるようにシュミレーションした。
【0187】
図64は、d(CCCCC)(図64A)およびd(AAAAA)(図64B)の例示的な電流分布を示す。ホモポリマーの連続した読み取り結果を図65〜68にまとめており(AAAAA−図65;CCCCC−図66;d(C)−図67;d(CCCCC)(図68))、時間(s)によって電流(nA)をプロットする。この読み取りは、ホモポリマーについて一貫した信号を示す。
【0188】
ヘテロポリマーの連続した読み取り結果を図70〜75にまとめており(ACACA−図70;CCACC−図71;CCCCC−図72;d(ACACA)−図73;d(CCCCC)−図74);d(GTCGTCGTC)−図75)、時間(s)によって電流(nA)をプロットする。この読み取りは、ヘテロポリマーについて一貫した信号を示す。
【0189】
したがって、上の試験は、イミダゾール−2−カルボキシアミドが、オリゴマーを分析するのに有効な試薬であることを確認する。
【0190】
実施例22:4−カルバモイルフェニルジチオカルバメートの合成
4−アミノベンズアミド(2mmol、272mg)のDMF(1mL)溶液に、NaH(鉱物油中60%、1.2eq、9.6mg)およびCS(1.5eq、181.3uL)を以下に示すように0℃で連続して加えた。
【0191】
【化25】

【0192】
0℃で30分間後、反応混合物を室温まで加温し、84時間撹拌し、次いで、60℃まで加熱し、4時間撹拌した。室温まで冷却した後、反応混合物をエーテル(20mL)で希釈し、濾過し、エーテルで洗浄し、黄色がかった粉末183mgを得た(収率39%)。
【0193】
種々の上に開示した特徴および機能または代替物、および他の特徴および機能または代替物は、多くの他の異なるシステムまたは用途に望ましく組み込まれてもよいことが理解されるだろう。さらに、種々の現時点でわかっていないか、または予想されていない代替物、改変、変形または改良は、当業者によって後でなされてもよく、これらも以下の特許請求の範囲に包含されることが意図されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマーを分析するためのデバイスであって、該デバイスは、
(a)前記ポリマーが通過することができるトンネルギャップを形成する第1の電極および第2の電極と;
(b)前記第1の電極に結合した第1の試薬および前記第2の電極に結合した第2の試薬を含み、前記第1の試薬および前記第2の試薬は、それぞれ、前記ポリマーのある単位と一時的な結合を生成することが可能であり、
前記一時的な結合が生成すると、検出可能な信号が作られる、デバイス。
【請求項2】
前記試薬、および前記トンネルギャップの幅は、前記第1の試薬および前記第2の試薬が、前記ポリマーの単位と一時的な結合を生成するとき、前記ポリマーのそれぞれのモノマーについて特定の検出可能な信号を作りだすような構成である、請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
前記第1の電極および/または前記第2の電極が、金、炭素、白金、グラフェンまたは窒化チタンを含む、請求項1に記載のデバイス。
【請求項4】
作られる前記検出可能な信号が、前記トンネルギャップ中で、前記ポリマーの1個の単位のみの結合によって生じる、請求項1に記載のデバイス。
【請求項5】
前記トンネルギャップは、幅が約1〜約4nmである、請求項1に記載のデバイス。
【請求項6】
前記第1の試薬と前記第2の試薬が同じである、請求項1に記載のデバイス。
【請求項7】
前記一時的な結合が水素結合である、請求項1に記載のデバイス。
【請求項8】
前記第1の試薬および前記第2の試薬が、水溶液中で少なくとも1個の水素結合供与部および少なくとも1個の水素結合受容部を含む、請求項1に記載のデバイス。
【請求項9】
前記第1の試薬および前記第2の試薬が、独立して、メルカプト安息香酸、4−メルカプトベンズカルバミド、イミダゾール−2−カルボキシド、および4−カルバモイルフェニルジチオカルバメートからなる群から選択される、請求項1に記載のデバイス。
【請求項10】
前記ポリマーがDNAまたはRNAであり、そして前記単位がヌクレオチドである、請求項1に記載のデバイス。
【請求項11】
前記単位が、A、C、T、GおよびCからなる群から選択される、請求項1に記載のデバイス。
【請求項12】
前記ポリマーがタンパク質であり、そして前記単位がアミノ酸である、請求項1に記載のデバイス。
【請求項13】
c)少なくとも1個のナノ細孔で分離されている、第1の流体容器および第2の流体容器をさらに含み、該ナノ細孔を通って前記ポリマーが流れてもよい、請求項1に記載のデバイス。
【請求項14】
前記第1の流体容器と前記第2の流体容器との間に電気泳動バイアスをかけるための、第1の駆動電極と第2の駆動電極とをさらに含む、請求項13に記載のデバイス。
【請求項15】
前記ナノ細孔の上部に配置された上部接触電極をさらに含み、前記ナノ細孔が導電性である、請求項13に記載のデバイス。
【請求項16】
前記第1の電極および前記第2の電極がカーボンナノチューブである、請求項1に記載のデバイス。
【請求項17】
ポリマーまたはポリマー単位を分析する方法であって、該方法は、
a)前記ポリマーのある単位と、第1の試薬で官能基化された第1の電極との間に一時的な結合を生成し、前記ポリマーの該単位と、第2の試薬で官能基化された第2の電極との間に一時的な結合を生成する工程;および
b)前記一時的な結合が生成したとき、検出可能な信号を検出する工程を含む、方法。
【請求項18】
前記第1の試薬と前記第2の試薬が同じであり、ならびにメルカプト安息香酸、4−メルカプトベンズカルバミド、イミダゾール−2−カルボキシド、および4−カルバモイルフェニルジチオカルバメートからなる群から選択される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記ポリマーがDNAまたはRNAであり、そして前記ポリマー単位がヌクレオチドである、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
ポリマーの配列を決定する方法であって、該方法は、
a)第1の試薬で官能基化された第1の電極と第2の試薬で官能基化された第2の電極との間に形成されたトンネルギャップに、前記ポリマーのある単位を流す工程;
b)前記ポリマーのある単位と、前記第1の試薬および前記第2の試薬との間に一時的な結合を生成する工程;
c)前記一時的な結合が生成したとき、検出可能な信号を検出する工程;ならびに
d)前記ポリマーのそれぞれの連続した単位について、工程a)〜c)を繰り返す工程を含む、方法。
【請求項21】
前記一時的な結合が、読み取り分子中の芳香族基と、検体中の芳香族基との間のπスタッキングである、請求項1に記載のデバイス。
【請求項22】
ナノ細孔の内側に化学結合しており、および前記ナノ細孔をポリマーが通過するにつれて、ポリマーの単位と一時的な結合を形成する分子からなるナノ細孔を、電気泳動によって動かされるポリマーが通過する速度を遅らせるためのデバイス。

【図1】
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【図9】
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【図10(A)】
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【図10(B)】
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【図10(C)】
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【図10(D)】
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【図10(E)】
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【図10(F)】
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【図11】
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【図12】
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【図14】
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【図33】
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【図34】
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【図49】
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【図50】
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【図51】
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【図53】
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【図60】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図13】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【図40】
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【図41】
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【図42】
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【図43】
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【図44】
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【図45】
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【図46】
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【図47】
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【図48】
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【図52】
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【図54】
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【図55】
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【図56】
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【図57】
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【図58】
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【図59】
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【図61】
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【図62】
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【図63】
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【図64】
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【図65】
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【図66】
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【図67】
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【図68】
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【図69】
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【図70】
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【図71】
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【図72】
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【図73】
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【図74】
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【図75】
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【図76】
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【公表番号】特表2013−519074(P2013−519074A)
【公表日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−551372(P2012−551372)
【出願日】平成23年1月31日(2011.1.31)
【国際出願番号】PCT/US2011/023185
【国際公開番号】WO2011/097171
【国際公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【出願人】(504318142)
【Fターム(参考)】