説明

ポリマーセメント硬化材の補修方法

【課題】ポリマーセメント硬化材の補修を、簡単かつ能率的に行えるとともに、補修個所にヒビや割れ、剥がれなどが発生し難く、強度や耐久性の低下を少なくする。
【解決手段】セメントとビニル系単量体とを含むW/O型エマルジョンからなるポリマーセメント材料を成形し硬化させてなるポリマーセメント硬化材の欠損個所を補修する方法であって、前記ポリマーセメント硬化材の欠損個所に、ビニル系弾性重合体水性液と水硬性材料とが混練された補修材を埋めて盛り上げる工程(a)と、前記補修材を硬化させたあと、補修材硬化物を削って整形する工程(b)とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマーセメント硬化材の補修方法に関し、詳しくは、建築物の外装仕上げ材などに利用されるポリマーセメント硬化材が、生産時や輸送保管時に部分的に欠損したときに、この欠損個所を補修する方法を対象にしている。
【背景技術】
【0002】
ポリマーセメント硬化材は、水硬性無機材料であるセメントに加えて、ポリマー成分が含まれていることで、通常のセメント硬化板よりも強靭で耐候性にも優れているなど、種々の利点を有している。
例えば、特許文献1には、ビニルモノマー、セメント、水、逆乳化剤、補強繊維などからなるセメント含有W/O型エマルジョンであるポリマーセメント材料を、板状に押出成形し、さらにプレス成形したあと、養生硬化させて、ポリマーセメント硬化材を製造する技術が示されている。
【特許文献1】特開平5−246747号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
前記のようなポリマーセメント硬化材の製造において、プレス成形によって、ポリマーセメント成形材に凹凸模様などの凹凸形状を成形したあと、養生硬化が完了するまでの取り扱い中に、成形された凹凸形状の一部が、作業工具や製造機器などに当たって、欠けてしまうことがある。養生硬化した後でも、様々な加工や取り扱いの際に、一部が欠けることがある。建築物などに施工して使用中に、予期せぬ外力で壊れることもある。
このようなポリマーセメント硬化材に発生する欠損個所を補修するのが難しい。
通常のセメント硬化材であれば、セメント混練物で欠損個所を塞ぎ、セメント混練物が水和硬化するのを待てばよい。セメント混練物の硬化物は、本体であるセメント硬化材に対して、ほぼ完全に一体化してしまう。また、セメント混練物で欠損個所を塞ぐ際に、コテやヘラなどの工具でセメント混練物の表面をなで付けたり掻き落としたりすることで、本来の表面形状と同じ凹凸になるように整形しておくこともできる。
【0004】
ところが、ポリマーセメント硬化材の場合、通常のセメント混練物で欠損個所を塞いでも、セメント混練物の硬化物が、ポリマーセメント硬化材と十分に一体化せず、剥がれたり隙間があいたりしてしまう。その理由の一つとして、ポリマーセメント硬化材の表面は疎水性が強いため、水性材料であるセメント混練物が表面になじまないことがある。セメント混練物が硬化する際の収縮変形で、ポリマーセメント硬化材との間に隙間が生じたりヒビが入ったりする。セメント混練物の硬化物とポリマーセメント硬化材との膨張収縮特性の違いによって、補修したあとに経時的にヒビが入ったり剥がれが生じたりすることも起こる。
【0005】
そこで、ポリマーセメント硬化材のポリマーセメント材料そのものを補修材料に使用することも考えられた。しかし、ポリマーセメント材料を欠損個所に埋め込んでも、放置しているだけでは十分に硬化しない。オートクレーブ養生などを行って、補修個所のポリマーセメント材料を硬化させるのは、大変に面倒な作業であり、コストも高くつく。
本発明の課題は、前記したようなポリマーセメント硬化材の補修を、簡単かつ能率的に行えるとともに、補修個所にヒビや割れ、剥がれなどが発生し難く、強度や耐久性の低下も少なくできるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明にかかるポリマーセメント硬化材の補修方法は、セメントとビニル系単量体とを含むW/O型エマルジョンからなるポリマーセメント材料を成形し硬化させてなるポリマーセメント硬化材の欠損個所の補修する方法であって、前記ポリマーセメント硬化材の欠損個所に、ビニル系弾性重合体水性液と水硬性材料とが混練された補修材を埋めて盛り上げる工程(a)と、前記補修材を硬化させたあと、補修材を削って整形する工程(b)と
を含む。
〔ポリマーセメント硬化材〕
セメントとビニル系単量体とを含むW/O型エマルジョンからなるポリマーセメント材料を成形し硬化させてなるものである。
【0007】
基本的には、通常のポリマーセメント硬化材と共通する技術が適用される。前記した特許文献1に記載の技術や、特開2003−252670号公報、さらには本件特許出願人他が先に特許出願している特願2004−117158号明細書、特願2005−082022号明細書などに記載の技術が適用できる。
<ポリマーセメント材料>
重合性のあるビニル系単量体と水とのW/Oエマルジョンおよびセメントを含む。
セメントは、ポリマーセメント硬化材の基本的な機械的強度などの特性を決める主体となる材料である。通常のセメント材料が使用できる。例えば、ポルトランドセメント、フライアッシュセメント、高炉セメント、アルミナセメントなどが挙げられる。複数種類のセメントを併用することもできる。通常、水とその他の固形分などを全て含めたポリマーセメント材料の全量に対して、10〜40体積%が配合される。
【0008】
ビニル系単量体は、養生硬化工程において重合反応により重合し、水和硬化するセメントとともにポリマーセメント硬化材の骨格構造を構築し、ポリマーセメント硬化材の特性を向上させる。ビニル系単量体は疎水性の液状物質であり、水とW/Oエマルジョンを形成し易い。ビニル系単量体の具体例として、スチレン、ジビニルベンゼン、メチルメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、不飽和ポリエステル樹脂等が有用である。ビニル系単量体は、通常、ポリマーセメント材料の全量に対して、4〜10体積%を配合しておくことができる。好ましくは、5〜7体積%である。ビニル系単量体の重合反応を促進させるために、有機過酸化物や過硫酸塩等からなる重合開始剤を併用することができる。
【0009】
W/Oエマルジョンは、油中水滴型エマルジョンとも呼ばれ、ビニル系単量体の連続相に微細な水粒子が分散している状態である。水とビニル系単量体を配合し、撹拌混合すれば、目的のW/Oエマルジョンが得られる。ビニル系単量体に加えて、別の油性物質を配合しておくことができる。水に加えて、他の液体あるいは固体粒子を配合しておくこともできる。セメントは、微細な固体粒子として、W/Oエマルジョン中に分散させておく。W/Oエマルジョンを調製したあと、セメントなどの他の材料を混合することもできるし、水およびビニル系単量体に加えて他の材料も混合した状態で、エマルジョン化処理を行うこともできる。
【0010】
W/Oエマルジョンの形成を促進させるために、乳化剤を配合しておくことが有効である。通常のエマルジョン技術において使用されている乳化剤が使用できる。具体例として、ソルビタンセスキオレート、グリセロールモノステアレート、ソルビタンモノオレート、ジエチレングリコールモノステアレート、ソルビタンモノステアレート、ジグリセロールモノオレート等の非イオン性界面活性剤、各種アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤等が挙げられる。乳化剤の使用量は、通常、ポリマーセメント材料の全量に対して1〜3体積%の範囲に設定できる。
セメントに骨材を組み合わせて用いることができる。骨材としては、通常のセメント系硬化材と同様の材料が使用できる。例えば、シリカ発泡体、アルミノシリカバルーン、フライアッシュバルーン、ガラス発泡体、その他の多孔質状骨材や軽量骨材を使用すれば、セメント系硬化材が取り扱い易く、建築外装材などに好適である。砂利、パーライト、シラスバルーン、ガラス粉、アルミナシリケートなどもある。骨材は、ポリマーセメント材料の全量に対して1〜50体積%を配合しておくことができる。好ましくは10〜50体積%である。
【0011】
骨材に加えて別の補強材を配合しておくこともできる。具体的には、いわゆるセメント用の補強繊維として知られている材料がある。補強繊維として、ポリプロピレン繊維、アクリル繊維、ビニロン繊維、アラミド繊維等の合成繊維や、炭素繊維、ガラス繊維、パルプなどがある。補強材は、セメント系材料の全量に対して0.5〜10体積%程度で配合できる。
その他にも、通常のセメント系硬化材の製造に利用される添加材料を組み合わせることができる。例えば、着色剤などが挙げられる。
<ポリマーセメント材料の調製>
前記した各材料と水を均一に撹拌混合すればよい。各材料を同時に撹拌混合してもよいし、一部の材料を撹拌混合した後、残りの材料を加えてさらに撹拌混合することもできる。攪拌装置として、ディゾルバー、スクリューラインミキサー、超音波ホモジナイザー、コロイドミル、プラネタリーミキサー、スタティックミキサー、ナウターミキサー、リボンブレンダー、タンブルミキサー、パドル式ミキサー等が使用できる。
【0012】
W/Oエマルジョンにセメントや補強材が配合されたりして粘性が増大した材料は、混練装置で混練することが有効である。連続混練装置として、連続ニーダー、二軸押出機等が使用できる。
<ポリマーセメント材料の成形および硬化>
通常の建材製造における成形技術および硬化技術が適用される。
成形方法として、注型成形、押出成形、プレス成形、射出成形などが挙げられる。押出成形で板状の成形品を得たあと、プレス成形で表面に凹凸形状を成形するなど、複数の成形技術を組み合わせることもできる。
【0013】
ポリマーセメント成形体の形状は、ポリマーセメント硬化材を使用する用途や要求される機能などに合わせて設定できる。一般的な建材では、平坦な板状のものや棒状、柱状をなすものなどがある。屈曲板状や湾曲板状のものもある。表面に凹凸模様があるもの、貫通孔や凹溝などの機能構造を有するものなどもある。
ポリマーセメント成形体を養生硬化させることで、ポリマーセメント硬化材が得られる。基本的には、通常のセメント系硬化体の製造技術における養生硬化装置、養生硬化条件が適用される。例えば、蒸気養生、オートクレーブ養生などが採用される。ビニル系単量体の重合による骨格構造の形成が良好に行えるように処理条件を設定する。
【0014】
〔ポリマーセメント硬化材の形状、用途〕
ポリマーセメント硬化材は、使用する用途や要求される機能によって、その形状や構造が違ってくる。
ポリマーセメント硬化材の用途としては、通常のセメント系硬化材と同様の用途がある。例えば、建築用の外装材および外装材がある。屋根材や床材にも利用できる。各種の土木構造における構造材や表面仕上げ材に利用できる。
ポリマーセメント硬化材の一般的な形状は、矩形などの平坦な板状である。また、屈曲板状や湾曲板状のものもある。矩形以外の多角形や曲線形状を有するものもある。
【0015】
ポリマーセメント硬化材には、装飾用の凹凸形状や、他の部材と連結するための連結構造や、使用状態で各種の機能を果たすための細部形状などを設けておくことができる。例えば、建築用外装材の場合、表面全体に凹凸模様が設けられることが多い。
〔欠損個所〕
製造されたポリマーセメント硬化材には、欠損個所が存在することがある。
欠損個所が生じる理由としては、ポリマーセメント材料を成形する際に、ポリマーセメント成形体の一部が欠けることがある。ポリマーセメント成形体を養生硬化工程へと移送する間に、工具や取扱機器などと衝突して一部が欠けることがある。養生硬化および冷却の過程で、熱変形などで欠損が生じることがある。製造されたポリマーセメント硬化材に、仕上げ加工を施したり、輸送保管などの取り扱いを行ったりしている間に、外力が加わって欠損が生じることがある。建築物などに施工したあとで壊れることもある。
【0016】
これらの欠損個所のうち、使用状態で表面に露出しない個所であったり、強度的に問題がない個所であったりすれば、そのままにしておくこともできる。しかし、外観的に目立つところや意匠性を必要とされるところ、強度的に重要であったり機能的に必要とされたりするところについては、欠損個所を補修する必要がある。
〔補修材〕
ビニル系弾性重合体水性液と水硬性材料とが混練された補修材である。
基本的には、通常のセメント硬化材における補修材料と共通する材料や製造技術が適用される。
【0017】
ビニル系弾性重合体は、前記ポリマーセメント材料で用いられるビニル系単量体と同様のビニル系単量体を重合させたものであるとともに、弾性に優れたものである。弾性を付与する成分としてゴム成分が配合されたり共重合されたりする。従来、建築材料などに利用されている弾性樹脂材料が利用できる。ビニル系弾性重合体を構成するビニル系単量体が、ポリマーセメント材料に配合されたビニル系単量体と同じ単量体であるか重合性あるいは化学的結合性のある単量体であれば、補修材硬化物とポリマーセメント硬化材との一体結合性が向上する。例えば、ポリマーセメント材料にスチレンが配合されている場合、ビニル系弾性重合体にポリスチレン系弾性重合体を用いることができる。
【0018】
具体的には、SBR系ラテックス水性液と、セメントおよび骨材を含む水硬性材料とを、1:3〜1:4の比率で混練した補修材が使用できる。水性液とは、水溶液であってもよいし、水分散液であってもよいし、エマルジョンであってもよい。
SBR系ラテックスは、スチレン−ブタジエン・ゴム(Styrene-Butadiene Rubber)系のラテックスであり、水性エマルジョン液の形態をとることができる。このSBR系ラテックス水性液に、水硬性を有するセメントおよび骨材を含む水硬性材料を配合し混練することで、粘性が高い練物状の補修材となる。水硬性材料には、前記したポリマーセメント材料と同様の各種セメントや補強繊維などを適宜に配合しておくことができる。
【0019】
補修材は、放置しておくと常温で乾燥硬化する。水硬性材料の水和硬化とともにSBR系ラテックスの反応硬化が起こる。
〔補修材の供給〕
前記したポリマーセメント硬化材の欠損個所に補修材を埋めて盛り上げる。
基本的には、通常のセメント混練物からなる補修材と同様の作業工具や作業手順が適用できる。具体的には、補修材が欠損個所の表面に密着して覆い、欠損個所の全体を埋め、欠損がない状態での表面位置よりも外側に張り出すように補修材を盛り上げる。欠損個所が凹形状であれば、穴を埋めて、穴の表面位置を少し超えるまで盛り上げる。欠損個所が凸形状を含んでいれば、凸形状の外形輪郭よりも張り出すように盛り上げる。
【0020】
作業工具として、左官用のコテやヘラなどが使用できる。パテ材の注入ガンや吐出具が使用できる。
〔補修材硬化物の整形〕
補修材を硬化させたあと、補修材硬化物を削って整形する。
補修材は、含有されている水分が乾燥除去されるとともに、水硬性材料の水和硬化とSBR系ラテックスの反応硬化とが進行する。完全に硬化するには、長い時間がかかる場合があるが、外力が加わっても容易には変形したり崩壊したりしない程度に硬化している段階で、整形作業を開始することができる。硬化があまり進行しない段階のほうが、整形作業が容易である。通常は、簡単な工具や刃物を用いて手作業で整形できる程度の硬化状態で整形作業を行うことが望ましい。通常、欠損個所に補修材を供給したあと、1時間までの間に、整形作業を開始し完了することが望ましい。
【0021】
整形作業に用いる工具として、彫刻刀やナイフ、マイナスドライバーの先端、ヤスリなど、手作業で細かい操作が行い易い工具が用いられる。グラインダーやサンダー、回転研削工具などの機械工具を用いることもできる。整形個所に、水などの研磨剤を供給しながら整形することもできる。
整形形状は、補修材硬化物のうち、ポリマーセメント硬化材の本来の表面形状よりも盛り上がっている部分を削り落し、外観的に、欠損個所が周囲の表面と一体化して目立たなくなるようにする。欠損個所の外周縁で、ポリマーセメント硬化材の表面までにわたって削ることで、境界部分を目立たないようにすることもできる。ポリマーセメント硬化材の本来の表面形状が平坦ではなく凹凸を有する場合は、補修材硬化物の表面にも対応する凹凸を形成することができる。
【0022】
〔補修後の処理〕
補修材硬化物の整形が終わり、ポリマーセメント硬化材の欠損個所が補修されれば、通常のポリマーセメント硬化材と同様の仕上げ加工を行ったり、各種の用途に使用したりすることができる。
ポリマーセメント硬化材の表面に、補修個所とその周囲を含めて塗装仕上げを施せば、補修個所が外観的に全く目立たないようにできる。表面質感などの違いも解消できる。
補修材硬化物は、基本的にはポリマーセメント硬化材と同様に、切削や穿孔などの機械加工ができる。補修個所を含めたポリマーセメント硬化材に各種の機械加工を施すこともできる。
【発明の効果】
【0023】
本発明にかかるポリマーセメント硬化材の補修方法は、ポリマーセメント硬化材の欠損個所に、ビニル系弾性重合体水溶液と水硬性材料とが混練された補修材を埋めて盛り上げたあと、補修材を硬化させた補修材硬化物を削って整形する。
その結果、欠損個所の補修部分は、周囲のポリマーセメント硬化材との間で、外観的な違いが目立たず、経時的にヒビや剥がれが生じることもなく、機械的強度や耐久性の点でも実用的に十分な性能が発揮できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
図1〜2に示す実施形態は、建築物の外壁に外装仕上げ板として使用される平板状のポリマーセメント硬化材に適用した場合である。
〔ポリマーセメント硬化材〕
図1に示すように、ポリマーセメント硬化材10は、建築物の外壁全体を構成したり、複数枚を並べて外壁全体を構成したりできるように、矩形などの平板状をなしている。例えば、縦300cm×横90cmの矩形で、全体の厚みが3.5cmである。
ポリマーセメント硬化材10は、外壁を構成できるだけの十分な厚みがあるとともに、施工状態で外面に配置される表面に、凹凸模様12、14が形成されている。具体的には、平面四角形で根元から上端へとテーパ状に傾斜した台形状をなす凸模様部12が、前後左右に一定の間隔をあけて配置されている。各凸模様部12の間は、前後左右に連続する格子溝状の凹模様部14となっている。さらに、図示を省略しているが、凸模様部12の四角形をなす先端表面は、平坦面ではなく、岩石の表面のような不定形の凹凸が成形されている。しかも、複数の凸模様部12がそれぞれ、異なる凹凸パターンの岩石状を呈するものを組み合わせている。その結果、ポリマーセメント硬化材10を施工した外壁の全体外観が、自然の岩石を切り出したような複雑な凹凸パターンを前後左右にランダムに並べたような、極めて意匠性の高い外観を呈することになる。
【0025】
このようなポリマーセメント硬化材10の製造は、通常のポリマーセメント硬化材と同様の技術が適用される。ポリマーセメント材料を、一定の厚みがある平板状に押出成形したあと、成形された板状物の表面にプレス成形によって凹凸模様12、14を成形し、オートクレーブ養生などによって養生硬化させる。
〔補修部分〕
図1において、一部の凸模様部12には、製造過程や取り扱い中に生じた欠損部18を有する。欠損部18の形状や位置は一定でない。
それぞれの欠損部18には、補修材硬化物22が埋め込まれて一体接合している。図では、説明を判り易くするために、欠損部18および補修材硬化物22の外形輪郭を明瞭に表示しているが、補修を行い、ポリマーセメント硬化材10の建築物への施工が終わった状態では、欠損部18および補修材硬化物22の外形は、ほとんど目立たなくなる。
【0026】
〔補修作業〕
上記構造のポリマーセメント硬化材10を得るための補修作業について説明する。
図2(a)〜(c)へと補修作業を進める。
図2(a)に示すように、ポリマーセメント硬化材10に成形されている凹凸模様のうち台形状の凸模様部12が大きく欠損して欠損部18になっている。
図2(b)に示すように、欠損部18に補修材20を塗り付けたり押し込んだりして、欠損部18の全体を完全に補修材20で埋める。材補修材20の一部は、欠損部18がないときの凸模様部12の外形線よりも外側まで盛り上がった状態になっている。補修材20の表面は、滑らかな状態である必要はなく、凹凸があっても構わない。
【0027】
この状態で、所定の時間を放置すると、補修材20に含まれる水分が蒸発するとともに、セメントなどが水和硬化する。また、補修材20に含まれる重合体が、ポリマーセメント硬化材10を構成するポリマー部分との間に化学的な結合が生じて一体化する。補修材20は欠損部18の内部表面と強力に接合一体化される。補修材20は硬化して補修材硬化物22となる。
図2(c)に示すように、補修材硬化物22を整形する。具体的には、補修材20を施工したあと、1時間以内に整形作業を行う。補修材硬化物22は、容易に変形したり脱落したりすることはない程度に硬化しているが、完全な硬化強度は発現していない程度でよい。
【0028】
彫刻刀や、先の尖ったマイナスドライバーなどの工具を使って、補修材硬化物22の表面を少しずつ削り落す。それほど大きな力を加えなくても、補修材硬化物22を削り落すことができる。本来の凸模様部12と同じ形状になるように、補修材硬化物22を整形する。図では、凸模様部12は幾何学的な台形状をなし表面は平坦に表現されているが、実際には、自然な岩石に似せた細かな凹凸を有しているので、補修材硬化物22の整形も、周囲の凸模様部12に合わせて、細かな凹凸が表現されるようにする。
補修材硬化物22の整形作業が完了すれば、図1に示すようなポリマーセメント硬化材10が得られる。ポリマーセメント硬化材10は、次の加工処理作業に送り出される。補修材硬化物22がさらに十分に硬化するまで、時間を置いたり、送風や加熱によって硬化を進行させたりしてから、次の作業を行うこともできる。
【0029】
補修材硬化物22の個所を含むポリマーセメント硬化材10の表面全体に、塗装を施せば、補修材硬化物22が目立たなくなる。また、表面質感などの特性の違いも無くせる。
【実施例】
【0030】
本発明にかかるポリマーセメント硬化材の補修方法を具体的に実施し、その性能を評価した。
〔ポリマーセメント硬化材〕
ポルトランドセメントを20体積部、水を55体積部、ビニルモノマーソリューション〔VMS;ビニルモノマー(スチレン)と乳化剤(ソルビタンモノオレート)とを、前者対後者の体積比率が5:2となるように混合した混合物〕を7体積部、補強繊維(ポリプロピレン繊維)を2体積部、軽量骨材(アルミナシリケートバルーン)を20体積部で配合し、比重1.1のポリマーセメント材料を調製した。
【0031】
ポリマーセメント材料を押出成形して、縦2000mm×横900mm×厚さ35mmの矩形板状をなすポリマーセメント成形体を調製した。ポリマーセメント成形体をプレス成形して、図1に示す凹凸模様12、14を成形したあと、蒸気養生で硬化させ、ポリマーセメント硬化材を得た。養生条件は、60℃で約10時間保持した後、90℃まで昇温させ、90℃で約9時間保持したあと、放冷した。
〔補修材の調製〕
スチレン・ブタジエン共重合体ラテックスを約20〜30重量%と、水を約70〜80重量%とを含む水性液を準備した。これとは別に、普通ポルトランドセメントおよび速硬セメント、珪砂、酢酸ビニル・エチレン共重合体、クエン酸からなる水硬性材料を準備した。前記水性液:水硬性材料=1:3の割合で混練して、練物状の補修材を調製した。この補修材は、比重1.1で、常温で硬化するまでの可使時間は約40分である。
【0032】
〔特性評価〕
ポリマーセメント硬化材と、ポリマーセメント硬化材と補修材硬化物との接合材とについて、各種の強度特性を測定した。
<接合材の作製>
ポリマーセメント硬化材を150×70mmの矩形に切り取って試験体とした。
試験体の表面を強制的に切り欠いて欠損部を形成した。欠損部の表面における埃、毛羽立ちなどを十分に除去したあと、ヘラなどを使って補修材を擦り付け馴染ませた。その上に、さらに補修材を盛り付けた。内部に空気を含んだり隙間ができたりしないように作業を行った。補修材を十分に硬化させたあと、評価試験に供した。
【0033】
<特性試験>
常態平面引張強度:常法にしたがって、平面引張強度を測定した。
耐凍結融解性能:凍結サイクル100回のあと、平面引張強度を測定した。
耐水性能:常温で水中に21日間(3W)、保持したあと、平面引張強度を測定した。
耐熱性能:80℃で21日間(3W)、保持したあと、平面引張強度を測定した。
耐温水性能:50℃の温水に21日間(3W)、保持したあと、平面引張強度を測定した。
【0034】
【表1】

試験結果によると、ポリマーセメント硬化材に比べて、ポリマーセメント硬化材と補修材硬化物との接合材は、少し強度が低下しているが、建築用外装材に要求される程度の強度は十分に維持していることが確認できた。
<収縮率>
補修材を、31×42×70mmのブロック形状に成形して硬化させた。硬化後の寸法を測定して、硬化収縮率を測定したところ、硬化収縮率3.2%以下であった。
【0035】
〔補修作業〕
300×300mmの矩形状をなすポリマーセメント硬化材を用意し、表面の凹凸模様を強制的に切り欠いて欠損部を形成した。前記した配合の補修材を準備した。
欠損部の表面における埃、毛羽立ちなどを十分に除去したあと、ヘラなどを使って補修材を擦り付け馴染ませた。その上に、さらに補修材を盛り付けた。内部に空気を含んだり隙間ができたりしないように作業を行った。凹凸模様の形状に合わせて、凸模様部よりも少し大きくなるように盛り付けた。
約18時間放置したあと、整形作業を行った。工具として、金ノコギリ、マイナスドライバー、金ヤスリ、カッター、彫刻刀を用いた。ポリマーセメント硬化材の凹凸模様に合わせて、少しずつ補修材硬化物を削り、周囲の凹凸模様との違いが目立たなくなるまで整形した。整形作業には、彫刻刀(平ノミ)およびマイナスドライバーが適していた。
【0036】
その後、ポリマーセメント硬化材に塗装仕上げを行ったところ、外観的には補修個所と周囲との違いは認められなかった。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明にかかるポリマーセメント硬化材の補修方法は、例えば、建築物の外装板材に使用され、表面に凹凸模様が形成されたポリマーセメント硬化材の補修に有用である。外観的に補修個所が目立たないとともに、経時的に割れたり剥がれたりせず、長期間にわたって良好な外観を維持でき、しかも、機械的特性などが補修個所で大きく低下することもなく、実用的に十分な性能を発揮できる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の実施形態を表すポリマーセメント硬化材の斜視断面図
【図2】補修作業を段階的に示す要部拡大断面図
【符号の説明】
【0039】
10 ポリマーセメント硬化材
12 凸模様部
14 凹模様部
18 欠損部
20 補修材
22 補修材硬化物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントとビニル系単量体とを含むW/O型エマルジョンからなるポリマーセメント材料を成形し硬化させてなるポリマーセメント硬化材の欠損個所を補修する方法であって、
前記ポリマーセメント硬化材の欠損個所に、ビニル系弾性重合体水性液と水硬性材料とが混練された補修材を埋めて盛り上げる工程(a)と、
前記補修材を硬化させたあと、補修材硬化物を削って整形する工程(b)と
を含むポリマーセメント硬化材の補修方法。
【請求項2】
前記ポリマーセメント材料が、前記ビニル系単量体としてスチレンを用いており、
前記工程(a)において、ビニル系弾性重合体であるSBR系ラテックスの水性液と、セメントおよび骨材を含む水硬性材料とを、1:3〜1:4の比率で混練してなる補修材を用いる
請求項1に記載のポリマーセメント硬化材の補修方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−119301(P2007−119301A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−313825(P2005−313825)
【出願日】平成17年10月28日(2005.10.28)
【出願人】(000004673)パナホーム株式会社 (319)
【Fターム(参考)】