説明

ポリマービーズ及びその製造方法並びにポリマービーズ製造用液滴生成装置

【課題】 粒度分布の狭い(粒度分布のほぼ均一な)ポリマービーズを長期にわたって安定して高い生産性で製造することのできるポリマービーズの製造方法を提供する。
【解決手段】 この発明のポリマービーズの製造方法は、多数の微細な貫通孔5が設けられた金属板3の少なくとも一方の面に酸化チタンコート層4が形成されてなる多孔板2の前記一方の面側に分散媒41を配置せしめ、前記多孔板2の他方の面側にモノマー組成物42を配置し、該モノマー組成物42を前記多孔板2の貫通孔5を介して反対側の分散媒41中に噴出せしめることによって、該分散媒41中にモノマー組成物の液滴40を生成させる工程と、前記液滴40を含んだ分散媒41を加熱することによってモノマー組成物を重合させてポリマービーズを得る工程とを包含することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えばクロマトグラフィ担体用、医薬品精製用として用いられる粒度分布の狭いポリマービーズの製造方法と該ポリマービーズ製造用液滴生成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリマービーズは、例えばイオン交換樹脂、クロマトグラフィ担体、マイクロカプセル等として多く利用されている。
【0003】
例えばポリマービーズがクロマトグラフィ担体として用いられる場合、ポリマービーズはカラムに充填されて使用され、この充填されたポリマービーズ層を液体が通過する。この時、ポリマービーズの粒径が不均一であると、通過する液体の通過抵抗が大きくなり、液体の流れは不均一となり、カラムの分離効率は低下する。従って、ポリマービーズは、液の通過抵抗を最小にするため、粒径がほぼ均一であることが要求される。
【0004】
従来、ポリマービーズの製造については各種方法が提案されている。例えば、油相(分散相液体)を均一な孔径を有するミクロ多孔膜体を通して水相(連続相液体)中に圧入する方法が提案されている(特許文献1、2参照)。そして、特許文献1ではミクロ多孔膜体として多孔質ガラス膜を用いることが提案されている。また、特許文献2では、ミクロ多孔膜体として表面改質した多孔質ガラス膜を用いることが提案され、前記表面改質として、例えば多孔質ガラス膜の表面にスルホン基を導入することにより強い負の電荷を付与する表面改質、或いは多孔質ガラス膜の表面にアミノ基を導入することにより正の電荷を付与する表面改質等が例示されている。
【特許文献1】特開平2−95433号公報(特許請求の範囲、第3頁の右上欄)
【特許文献2】特開平5−220382号公報(請求項1、第4頁の右欄)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、多孔質ガラス膜体では、一般に均一な孔径が得られ難い上に、ガラスであるために割れやすく耐久性に劣るし、孔が詰まりやすいという問題があった。
【0006】
更に、多孔質ガラス膜体を長く使用していると、孔の詰まりや、孔周辺への汚れの付着等が原因となって、得られるポリマービーズの粒径が不均一になってくるという問題もあった。即ち、長期間にわたって粒径がほぼ均一のポリマービーズを安定して製造するのは困難であった。従って、定期的に孔の清掃等のメンテナンスを行わなければならないし、多孔質ガラス膜体を新たなものに交換する交換頻度も多いという問題があった。このように孔の清掃等のメンテナンスを行う時や多孔質ガラス膜体を交換する時には、製造装置の運転を停止しなければならないので、ポリマービーズの生産性が低下するという問題を抱えていた。
【0007】
この発明は、かかる技術的背景に鑑みてなされたものであって、粒度分布の狭い(粒度分布のほぼ均一な)ポリマービーズを長期にわたって安定して高い生産性で製造することのできる、ポリマービーズの製造方法と該ポリマービーズ製造用液滴生成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
【0009】
[1]多数の微細な貫通孔が設けられた金属板の少なくとも一方の面に酸化チタンコート層が形成されてなる多孔板の前記一方の面側に分散媒を配置せしめ、前記多孔板の他方の面側にモノマー組成物を配置し、該モノマー組成物を前記多孔板の貫通孔を介して反対側の分散媒中に噴出せしめることによって、該分散媒中にモノマー組成物の液滴を生成させる工程と、
前記液滴を含んだ分散媒に熱を加える又は光を照射することによってモノマー組成物を重合させてポリマービーズを得る工程とを包含することを特徴とするポリマービーズの製造方法。
【0010】
[2]前記モノマー組成物を前記多孔板の貫通孔を介して反対側の分散媒中に噴出せしめる操作中に、前記多孔板の酸化チタンコート層が形成された前記一方の面に対して紫外光を照射する前項1に記載のポリマービーズの製造方法。
【0011】
[3]前記モノマー組成物を前記多孔板の貫通孔を介して反対側の分散媒中に噴出せしめる操作中に、前記多孔板に振動を付与する前項1または2に記載のポリマービーズの製造方法。
【0012】
[4]前記金属板として、ステンレス板、ニッケル板またはモリブデン板を用いる前項1〜3のいずれか1項に記載のポリマービーズの製造方法。
【0013】
[5]前記貫通孔の直径が1〜500μmである前項1〜4のいずれか1項に記載のポリマービーズの製造方法。
【0014】
[6]前項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法で製造されたポリマービーズ。
【0015】
[7]多数の微細な貫通孔が設けられた金属板の少なくとも一方の面に酸化チタンコート層が形成されてなる多孔板によって隔てられた2つの槽を有する混合槽を備えたことを特徴とするポリマービーズ製造用液滴生成装置。
【0016】
[8]前記多孔板の酸化チタンコート層が形成された前記一方の面に対して紫外光を照射する紫外線照射装置を備えることを特徴とする前項7に記載のポリマービーズ製造用液滴生成装置。
【0017】
[9]前記多孔板に振動を付与するためのバイブレーターを備えることを特徴とする前項7または8に記載のポリマービーズ製造用液滴生成装置。
【0018】
[10]前記金属板として、ステンレス板、ニッケル板またはモリブデン板が用いられている前項7〜9のいずれか1項に記載のポリマービーズ製造用液滴生成装置。
【発明の効果】
【0019】
[1]の発明では、モノマー組成物を多孔板の貫通孔を介して反対側の分散媒中に噴出せしめるので、貫通孔から出てきたモノマー組成物はある程度の大きさになると貫通孔から引き離されて表面張力の影響により液滴になって下流側に移動するのであるが、この時多孔板における分散媒が存在する側の表面に酸化チタンコート層が形成されていて優れた親水性が付与されているので、前記液滴が貫通孔近傍の表面等にまとわり付くことなく多孔板から円滑に離脱して下流側に移動するので、分散媒中に均一径の液滴を生成させることができる。しかる後、液滴を含んだ分散媒に熱を加える又は光を照射することによってモノマー組成物を重合させることで、粒度分布の狭い(粒度分布のほぼ均一な)ポリマービーズを得ることができる。また、本製造方法では、酸化チタンコート層が形成されていて高い親水性が付与されているので、孔の詰まりや、多孔板における孔周辺への汚れの付着が生じ難く、孔の清掃メンテナンスを行う回数を格段に低減できるし、場合によっては清掃メンテナンスを行う必要が殆どなくなり、従って粒度分布の狭い(粒度分布のほぼ均一な)ポリマービーズを長期にわたって安定して且つ高い生産性で製造することができる。また、この製造方法では、多孔板のベースとして金属板を用いているから、強度が強くて割れることもなく耐久性に優れると共に、加工しやすく均一径の貫通孔を形成させることができる利点もある。
【0020】
[2]の発明では、モノマー組成物を多孔板の貫通孔を介して反対側の分散媒中に噴出せしめる操作中に前記多孔板の酸化チタンコート層が形成された前記一方の面(分散媒側の面)に対して紫外光を照射するものである。前記操作中には、多孔板の表面が汚れてその親水性が低下することもあるが、酸化チタンコート層に紫外光を照射することで酸化チタンの光触媒作用によりこのような表面の汚れを分解除去することができるので、多孔板の分散媒側の表面の親水性の低下を十分に防止することができ(高い親水性を維持することができ)、これにより粒度分布の狭い(粒度分布のほぼ均一な)ポリマービーズをより長期間にわたって安定して製造することができる。
【0021】
[3]の発明では、モノマー組成物を多孔板の貫通孔を介して反対側の分散媒中に噴出せしめる操作中に、多孔板に振動を付与することで、貫通孔から出てきたモノマー組成物は一定の大きさになると直ちに貫通孔から離脱して液滴を形成するものとなるので、粒度分布のより狭い(よりシャープな粒度分布を有した)ポリマービーズを製造することができる。
【0022】
[4]の発明では、金属板として、ステンレス板、ニッケル板またはモリブデン板を用いるので、より均一な粒径を実現するための多孔板の薄肉化を図ることが可能となり、これによりさらに粒径の均一化を図ることができる。
【0023】
[5]の発明では、貫通孔の直径が1〜500μmであるから、クロマトグラフィ担体用ポリマービーズとして特に好適な大きさのものを製造できる。
【0024】
[6]の発明では、粒度分布の狭い(粒度分布のほぼ均一な)ポリマービーズが提供される。
【0025】
[7]の発明の液滴生成装置は、多数の微細な貫通孔が設けられた金属板の少なくとも一方の面に酸化チタンコート層が形成されてなる多孔板によって隔てられた2つの槽を有する混合槽を備えているから、多孔板の前記一方の面側(酸化チタンコート層が形成された側)に分散媒を配置し、多孔板の他方の面側にモノマー組成物を配置して、多孔板の貫通孔を介してモノマー組成物を反対側の分散媒中に噴出せしめると、貫通孔から出てきたモノマー組成物はある程度の大きさになると貫通孔から引き離されて表面張力の影響により液滴になって下流側に移動するのであるが、この時多孔板における分散媒が存在する側の表面に酸化チタンコート層が形成されていて優れた親水性が付与されているので、前記液滴が貫通孔近傍の表面等にまとわり付くことなく多孔板から円滑に離脱して下流側に移動するので、分散媒中に均一径の液滴(モノマー組成物)を生成させることができる。しかる後、液滴を含んだ分散媒に熱を加える又は光を照射することによってモノマー組成物を重合させると、粒度分布の狭い(粒度分布のほぼ均一な)ポリマービーズが得られる。本液滴生成装置では、酸化チタンコート層が形成されていて高い親水性が付与されているので、孔の詰まりや、孔周辺への汚れの付着が生じ難い。従って、孔の清掃メンテナンスを行う回数を格段に低減できるし、場合によっては清掃メンテナンスを行う必要が殆どなくなる。
【0026】
[8]の発明では、多孔板の酸化チタンコート層が形成された前記一方の面に対して紫外光を照射する紫外線照射装置を備えている。多孔板の貫通孔を介してモノマー組成物を反対側の分散媒中に噴出せしめる操作中には、多孔板の表面が汚れてその親水性が低下することもあるが、酸化チタンコート層に紫外線照射装置からの紫外光を照射することで酸化チタンの光触媒作用によりこのような表面の汚れを分解除去することができるので、多孔板の表面の親水性の低下を十分に防止することができ(高い親水性を維持することができ)、これにより粒度分布の狭い(粒度分布のほぼ均一な)ポリマービーズを長期にわたって安定して製造することができる。
【0027】
[9]の発明では、多孔板に振動を付与するためのバイブレーターを備えている。多孔板の貫通孔を介してモノマー組成物を反対側の分散媒中に噴出せしめる操作中に、バイブレーターにより多孔板に振動を付与することで、貫通孔から出てきたモノマー組成物は一定の大きさになると直ちに貫通孔から離脱して液滴を形成するものとなるので、粒度分布のより狭い(よりシャープな粒度分布の)ポリマービーズを製造することができる。
【0028】
[10]の発明では、金属板として、ステンレス板、ニッケル板またはモリブデン板が用いられているから、より均一な粒径を実現するための多孔板の薄肉化が十分に可能となり、これによりさらに粒径の均一化が図られたポリマービーズを製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
この発明に係るポリマービーズの製造方法について図面を参照しつつ説明する。本製造方法で用いる液滴生成装置(1)の一実施形態を図1に示す。前記液滴生成装置(1)は、混合槽(10)、紫外線照射装置(21)、バイブレーター(22)、分散媒貯留槽(31)、モノマー組成物貯留槽(32)及び生成エマルジョン貯留槽(33)を備えている。
【0030】
前記混合槽(10)は、図2に示すように、多孔板(貫通型マイクロリアクター)(2)によって隔てられた分散媒流動槽(11)とモノマー組成物流動槽(12)から構成されている。前記多孔板(貫通型マイクロリアクター)(2)は、多数の微細な貫通孔(5)…が設けられた金属板(3)の表裏両面に酸化チタンコート層(酸化チタン被覆層)(4)が形成されたものからなる。前記貫通孔(5)の内周面にも酸化チタンコート層(4)が被覆形成されている(図2参照)。前記貫通孔(5)…は、図3に示すように、前記多孔板(2)のほぼ全面にわたって略均等間隔で配置されている。なお、前記貫通孔(5)…の配置態様は、略均等間隔であっても良いし、或いは均等でない間隔であっても良く、特に限定されない。
【0031】
前記混合槽(10)の分散媒流動槽(11)を構成する上壁はガラス板(13)で構成されている。また、このガラス板(13)の上方に離間して紫外線照射装置(21)が配置されている。しかして、この紫外線照射装置(21)からの紫外光は、前記ガラス板(13)を通して前記多孔板(2)の上面の酸化チタンコート層(4)に照射できるものとなされている。
【0032】
また、前記混合槽(10)のモノマー組成物流動槽(12)を構成する下壁に当接してバイブレーター(22)が配置されている。このバイブレーター(22)を駆動させることによって前記多孔板(2)に振動を付与することができる。
【0033】
また、前記モノマー組成物流動槽(12)の左側開口部に供給管(35)の一端が連通接続され、該供給管(35)の他端はモノマー組成物貯留槽(32)に接続されている。前記供給管(35)の途中位置にポンプ(38)が配置されている。また、前記分散媒流動槽(11)の左側開口部に供給管(34)の一端が連通接続され、該供給管(34)の他端は分散媒貯留槽(31)に接続されている。前記供給管(34)の途中位置にもポンプ(37)が配置されている。また、分散媒流動槽(11)の右側開口部に送流管(36)の一端が連通接続され、該送流管(36)の他端は生成エマルジョン貯留槽(33)に接続されている(図1参照)。
【0034】
しかして、前記分散媒貯留槽(31)に分散媒(41)を貯留し、前記モノマー組成物貯留槽(32)にモノマー組成物(42)を貯留して、前記ポンプ(37)(38)を駆動させると、前記分散媒貯留槽(31)から前記供給管(34)を介して前記分散媒流動槽(11)内に分散媒(41)が供給される一方、前記モノマー組成物貯留槽(32)から前記供給管(35)を介して前記モノマー組成物流動槽(12)内にモノマー組成物(42)が供給される。即ち、図2に示すように、前記多孔板(2)の一方の面側に分散媒(41)が配置され、前記多孔板(2)の他方の面側にモノマー組成物(42)が配置され、該モノマー組成物(42)が前記多孔板(2)の貫通孔(5)…に圧入されて反対側の分散媒(41)中に噴出せしめられることによって、この分散媒(41)中にモノマー組成物の液滴(40)が生成する。図2に示すように、前記貫通孔(5)から出てきたモノマー組成物(42)はある程度の大きさになると貫通孔(5)から引き離されて表面張力の影響により液滴(40)になって下流側(図面右側)に移動するのであるが、この時多孔板(2)における分散媒(41)が存在する側の表面に酸化チタンコート層(4)が形成されていて優れた親水性が付与されているので、前記液滴(40)…が貫通孔(5)近傍の表面等にまとわり付くことなく多孔板(2)から円滑に離脱して下流側に移動するので、前記分散媒(41)中に均一径の液滴(40)…を生成させることができる。こうして得られた前記液滴(40)を含有した分散媒(41)は、前記生成エマルジョン貯留槽(33)に順次貯留されていく。
【0035】
前記モノマー組成物(42)を多孔板(2)の貫通孔(5)…を介して反対側の分散媒(41)中に噴出せしめる操作中に、同時に前記紫外線照射装置(21)を駆動せしめて前記分散媒流動槽(11)内に紫外光を照射する。これにより、前記多孔板(2)の上面の酸化チタンコート層(4)、即ち分散媒(41)と接触する側の酸化チタンコート層(4)に紫外光を照射することができる。このように酸化チタンコート層(4)に紫外光を照射することで酸化チタンの光触媒作用により、酸化チタンコート層(4)の表面の汚れを分解除去することができるので、多孔板(2)の分散媒側の表面の親水性の低下を十分に防止することができる、即ち高い親水性を長期にわたって維持できる。これにより、前記貫通孔(5)から出てきた液滴(40)が貫通孔近傍の表面にまとわり付くことを十分に防止することができて前記分散媒(41)中に均一径の液滴(40)を生成させることができ、ひいては粒度分布の狭い(粒度分布のほぼ均一な)ポリマービーズをより長期間にわたって安定して製造することができる。
【0036】
前記紫外光の照射に関しては、前記モノマー組成物(42)を多孔板(2)の貫通孔(5)…を介して反対側の分散媒(41)中に噴出せしめる操作中に、連続して紫外光照射するものとしても良いし、或いは前記噴出操作の開始前にある程度の時間紫外光を照射しているのであればその効果(光触媒作用)が薄れない範囲で前記噴出操作中に断続的に紫外光照射するものとしても良い。
【0037】
また、前記モノマー組成物(42)を多孔板(2)の貫通孔(5)…を介して反対側の分散媒(41)中に噴出せしめる操作中に、同時に前記バイブレーター(22)を駆動せしめることによって前記多孔板(2)に振動を付与する。このような振動を付与することにより、前記貫通孔(5)から出てきたモノマー組成物(42)は一定の大きさになると直ちに貫通孔(5)から離脱して液滴(40)を形成するものとなるので、粒度分布のより狭い(よりシャープな粒度分布を有した)ポリマービーズを製造することができる利点がある。
【0038】
次に、前記生成エマルジョン貯留槽(33)内に貯留された、前記液滴(40)を含有した分散媒(41)に熱を加える又は光を照射することによって、前記モノマー組成物(42)を、分散された液滴(40)状態のままで重合させて、粒度分布の狭い(粒度分布のほぼ均一な)ポリマービーズを得る。
【0039】
この発明において、前記分散媒流動槽(11)内に生じる分散媒(41)の流れは層流であるようにするのが好ましい。これにより、生成する液滴(40)の粒径をより均一にすることができ、ひいては得られるポリマービーズの粒度分布をさらに狭小化することができる。前記分散媒流動槽(11)内に生じる分散媒(41)の流れが乱流であると、得られるポリマービーズの粒度分布が広くなるので、好ましくない。
【0040】
なお、前記貫通孔(5)の径と、得られるポリマービーズの粒径との関係は、モノマー組成物の組成による物性(粘度)、噴出条件等の影響を受けるので一義的には決定できないが、一般的にはおおよそ次のような関係になる。
【0041】
即ち、例えば、前記貫通孔(5)の直径が50μmである場合にはポリマービーズの平均粒径は150〜180μm、前記貫通孔(5)の直径が20μmである場合にはポリマービーズの平均粒径は50〜70μm、前記貫通孔(5)の直径が10μmである場合にはポリマービーズの平均粒径は30〜40μm、前記貫通孔(5)の直径が3μmである場合にはポリマービーズの平均粒径は9〜12μmになるのが一般的であるが、特にこれに限定されるものではない。
【0042】
この発明において使用するモノマー組成物としては、目的とするポリマービーズの性質等を考慮して決められるが、一般的には、一官能性のビニル系化合物、これの架橋剤としての多官能ビニル化合物(ポリビニル系化合物)、希釈剤(沈殿剤)および重合開始剤等の混合物である。
【0043】
特に限定されるものではないが、具体的には、前記一官能性のビニル系化合物としては、分散媒に不溶性のスチレン、アクリル酸メチル、アクリロニトリル、グリシジルメタクリレート等が挙げられ、前記多官能ビニル化合物としては、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート等が挙げられ、前記希釈剤としては、トルエン、クロロパラフィン、ジクロルベンゼン、トリクロルベンゼン、アルコール類、エステル類等が挙げられ、前記重合開始剤としては、一般に前記ビニル系化合物の重合反応に用いられ、重合モノマーに溶解性の過酸化ベンゾイル、ブチルパーオキサイド、アゾビスイソブチロニトリル等が挙げられる。
【0044】
この発明において使用する分散媒としては、特に限定されるものではないが、例えば水に、CMC(カルボキシメチルセルロース)、PVA(ポリビニルアルコール)、ポリアクリル酸ソーダ、ゼラチン等、保護コロイドとして公知の化合物を0.2〜10質量%溶解したもの等が挙げられる。
【0045】
前記多孔板(2)を構成する金属板(3)としては、特に限定されるものではないが、ステンレス板、ニッケル板またはモリブデン板を用いるのが好ましく、この場合には、より均一な粒径を実現するための多孔板の薄肉化が可能になる。
【0046】
また、前記金属板(3)に貫通孔を開ける方法としては、特に限定されるものではないが、例えば電鋳法、レーザービーム法、放電加工法、メッキ法、エッチング法等が挙げられる。
【0047】
前記金属板(3)の厚さは、特に限定されるものではないが、50〜500μmに設定されるのが好ましく、特に好ましいのは100〜300μmである。
【0048】
前記酸化チタンコート層(4)の厚さは、特に限定されるものではないが、0.1〜10μmであるのが好ましい。このような厚さ範囲であれば、多孔板(2)表面の親水性を十分に高めることができるし、光触媒作用も十分に発揮させることができる。中でも、前記酸化チタンコート層(4)の厚さは0.3〜5μmであるのがより好ましい。
【0049】
前記多孔板(2)における貫通孔(5)の間隔は、特に限定されるものではないが、50〜500μmに設定されるのが好ましく、特に好ましい間隔は100〜400μmである。
【0050】
前記バイブレーター(22)により前記多孔板(2)に振動を付与する際の振動の周波数は5〜100Hzに設定するのが好ましく、特に好ましいのは20〜50Hzである。また、振動幅は1mm以下とするのが好ましく、特に好ましいのは0.5mm以下である。振動幅を1mm以下に設定することで、生成した液滴(40)が振動の影響により破砕されるのを防止することができる。
【0051】
また、前記バイブレーター(22)により前記多孔板(2)に振動を付与する際の振動の方向は、特に限定されるものではなく、例えば前記多孔板(2)の表面に対して平行な方向であっても良いし、或いは法線方向であっても良い。
【0052】
前記多孔板(2)の貫通孔(5)を介しての分散媒(41)中へのモノマー組成物(42)の噴出速度は、一般に、0.1〜50g/分であるのが好ましい。このような範囲に設定することにより、粒度分布のより狭いポリマービーズを得ることができる。中でも、前記噴出速度は1〜5g/分に設定されるのがより好ましい。なお、前記噴出速度の好適範囲は、貫通孔の形成数との関係で設定されるものであるから、貫通孔の形成数に応じて適宜範囲に設定するのが良い。
【0053】
なお、上記実施形態では、酸化チタンコート層(4)は、前記金属板(3)の表裏両面及び貫通孔(5)…の内周面に被覆形成されているが、特にこのような構成に限定されるものではなく、前記酸化チタンコート層(4)は、前記金属板(3)における分散媒(41)が存在する側の面に(分散媒流動槽側の片面に)少なくとも被覆形成されていれば良い。
【実施例】
【0054】
次に、この発明の具体的実施例について説明するが、この発明はこれら実施例のものに特に限定されるものではない。
【0055】
<実施例1>
厚さ150μmのステンレス(SUS)板にマイクロ放電加工により平均径20μmの貫通孔(5)を120個穿設した。このステンレス板を超音波洗浄した後、1質量%の酸化チタンコーティング液(酸化チタンゾル液、ジルコニウム化合物を硬化剤として含有)に浸漬し、次いで引き上げて常温乾燥した後、120℃で15分間焼成を行うことによって図2、3に示すような多孔板(貫通型マイクロリアクター)(2)を得た。この多孔板(2)を用いて図1に示すような液滴生成装置(1)を構成した。なお、多孔板(2)とガラス板(13)の間隔は0.3mmとした。
【0056】
分散媒貯留槽(31)に、5質量%PVA(ポリビニルアルコール、重合度500)水溶液(水相)を1L貯留した。また、モノマー組成物貯留槽(32)に、ジビニルベンゼン(エチルスチレンを45質量%含有)40gとトルエン60gとAIBN(アゾビスイソブチロニトリル)1.33gを混合してなる油相を貯留した。
【0057】
また、運転開始前に予め6時間紫外線照射装置(21)からの紫外光を多孔板(2)の上面の酸化チタンコート層(4)に照射することによって該酸化チタンコート層(4)表面の汚れ等の付着を分解除去した。
【0058】
しかして、液滴生成装置(1)のポンプ(37)(38)及び紫外線照射装置(21)を駆動せしめて(バイブレーターは停止状態とした)、モノマー組成物流動槽(12)のモノマー組成物(42)を前記多孔板(2)の貫通孔(5)…に圧入して反対側の分散媒流動槽(11)の分散媒(41)中に噴出せしめることによって、この分散媒(41)中にモノマー組成物の液滴(40)を生成させた。この時、分散媒(水相)の流量を24g/分に設定し、モノマー組成物(油相)の流量を2g/分に設定した。
【0059】
なお、貫通孔(5)から出てくる液滴(40)をガラス板(13)を介して観察したところ、貫通孔(5)から出てきた液滴(40)は、貫通孔近傍の表面等にまとわり付くことなく多孔板(2)から円滑に離脱して下流側に移動していることがわかった。
【0060】
生成エマルジョン貯留槽(33)に貯留された、前記液滴(40)を含有した分散媒(41)を回収し、これを70℃で6時間攪拌しながら加熱重合することによって、ポリマービーズを得た。
【0061】
得られたポリマービーズの粒径分布を調べたところ、
50μm未満 1%
50μm以上70μm未満 48%
70μm以上120μm未満 43%
120μm以上150μm未満 8%
150μm以上 0%
であり、粒径70μmを中心としたシャープな粒径分布が得られた。
【0062】
<比較例1>
ステンレス板に酸化チタンコーティングを行わないものとした以外は、実施例1と同様にしてポリマービーズを得た。なお、ステンレス板としてはアセトンで良く洗浄して十分に脱脂処理したものを用いた。
【0063】
貫通孔から出てくる液滴を観察したところ、貫通孔から出てきた液滴は、ステンレス板の上をある程度まとわりつくように走ってからステンレス板から離脱したり、或いはこれらステンレス板の上を走っている液滴の帯がいくつか寄り集まって合体して1つの大きな帯になってから離脱しているのが認められた。
【0064】
得られたポリマービーズの粒径分布を調べたところ、
50μm未満 2%
50μm以上70μm未満 30%
70μm以上120μm未満 32%
120μm以上150μm未満 23%
150μm以上 13%
であり、実施例1と比較すると粒径分布は広がっており、特に大きな粒子が増大していることがわかる。
【0065】
<実施例2>
ポンプ(37)(38)及び紫外線照射装置(21)に加えて、バイブレーター(22)も駆動せしめるものとした以外は、実施例1と同様にしてポリマービーズを得た。バイブレーター(22)の駆動により多孔板に周波数100Hz、振動幅50μmの振動を付与した。
【0066】
貫通孔から出てくる液滴を観察したところ、貫通孔から出てきたモノマー組成物は一定の大きさになると直ちに(実施例1よりも速やかに)貫通孔から離脱して液滴を形成していた。これは振動の付与により、モノマー組成物は一定の大きさになると強制的に離脱せしめられるためと考えられる。
【0067】
得られたポリマービーズの粒径分布を調べたところ、
50μm未満 1%
50μm以上70μm未満 45%
70μm以上120μm未満 53%
120μm以上150μm未満 2%
150μm以上 0%
であり、実施例1と比べて粒径分布はよりシャープになっていた。
【0068】
<比較例2>
ステンレス板に酸化チタンコーティングを行わないものとした以外は、実施例2と同様にしてポリマービーズを得た。なお、ステンレス板としてはアセトンで良く洗浄して十分に脱脂処理したものを用いた。
【0069】
得られたポリマービーズの粒径分布を調べたところ、
50μm未満 1%
50μm以上70μm未満 30%
70μm以上120μm未満 39%
120μm以上150μm未満 20%
150μm以上 10%
であり、実施例2と比べると粒径分布は広がっていた。
【産業上の利用可能性】
【0070】
この発明の製造方法で製造されたポリマービーズは、例えばイオン交換樹脂、クロマトグラフィ担体、マイクロカプセル等として用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】この発明に係るポリマービーズ製造用液滴生成装置の全体概略図である。
【図2】液滴生成装置の混合槽を示す概略図である。
【図3】多孔板の平面図である。
【符号の説明】
【0072】
1…液滴生成装置
2…多孔板
3…金属板
4…酸化チタンコート層
5…貫通孔
10…混合槽
11…分散媒流動槽
12…モノマー組成物流動槽
13…ガラス板
21…紫外線照射装置
22…バイブレーター(振動付与装置)
40…液滴
41…分散媒(水相)
42…モノマー組成物(油相)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数の微細な貫通孔が設けられた金属板の少なくとも一方の面に酸化チタンコート層が形成されてなる多孔板の前記一方の面側に分散媒を配置せしめ、前記多孔板の他方の面側にモノマー組成物を配置し、該モノマー組成物を前記多孔板の貫通孔を介して反対側の分散媒中に噴出せしめることによって、該分散媒中にモノマー組成物の液滴を生成させる工程と、
前記液滴を含んだ分散媒に熱を加える又は光を照射することによってモノマー組成物を重合させてポリマービーズを得る工程とを包含することを特徴とするポリマービーズの製造方法。
【請求項2】
前記モノマー組成物を前記多孔板の貫通孔を介して反対側の分散媒中に噴出せしめる操作中に、前記多孔板の酸化チタンコート層が形成された前記一方の面に対して紫外光を照射する請求項1に記載のポリマービーズの製造方法。
【請求項3】
前記モノマー組成物を前記多孔板の貫通孔を介して反対側の分散媒中に噴出せしめる操作中に、前記多孔板に振動を付与する請求項1または2に記載のポリマービーズの製造方法。
【請求項4】
前記金属板として、ステンレス板、ニッケル板またはモリブデン板を用いる請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリマービーズの製造方法。
【請求項5】
前記貫通孔の直径が1〜500μmである請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリマービーズの製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法で製造されたポリマービーズ。
【請求項7】
多数の微細な貫通孔が設けられた金属板の少なくとも一方の面に酸化チタンコート層が形成されてなる多孔板によって隔てられた2つの槽を有する混合槽を備えたことを特徴とするポリマービーズ製造用液滴生成装置。
【請求項8】
前記多孔板の酸化チタンコート層が形成された前記一方の面に対して紫外光を照射する紫外線照射装置を備えることを特徴とする請求項7に記載のポリマービーズ製造用液滴生成装置。
【請求項9】
前記多孔板に振動を付与するためのバイブレーターを備えることを特徴とする請求項7または8に記載のポリマービーズ製造用液滴生成装置。
【請求項10】
前記金属板として、ステンレス板、ニッケル板またはモリブデン板が用いられている請求項7〜9のいずれか1項に記載のポリマービーズ製造用液滴生成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−23141(P2007−23141A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−206686(P2005−206686)
【出願日】平成17年7月15日(2005.7.15)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】